以下、図面に基づいてこの発明のいくつかの実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の各実施形態にかかる内燃機関の燃焼状態推定装置及びその周辺の構造を説明するための図である。内燃機関10には吸気通路12および排気通路14が連通している。吸気通路12は、上流側の端部にエアフィルタ16を備えている。エアフィルタ16には、吸気温THA(すなわち外気温)を検出する吸気温センサ18が組みつけられている。また、排気通路14には排気浄化触媒32が配置されている。
エアフィルタ16の下流には、エアフロメータ20が配置されている。エアフロメータ20の下流には、スロットルバルブ22が設けられている。スロットルバルブ22の近傍には、スロットル開度TAを検出するスロットルセンサ24と、スロットルバルブ22が全閉となることでオンとなるアイドルスイッチ26とが配置されている。
スロットルバルブ22の下流には、サージタンク28が設けられている。また、サージタンク28の更に下流には、内燃機関10の吸気ポートに燃料を噴射するための燃料噴射弁30が配置されている。
内燃機関10の各気筒はピストン34を備えている。ピストン34には、その往復運動によって回転駆動されるクランク軸36が連結されている。車両駆動系と補機類(エアコンのコンプレッサ、オルタネータ、トルクコンバータ、パワーステアリングのポンプ等)は、このクランク軸36の回転トルクによって駆動される。クランク軸36の近傍には、クランク軸36の回転角を検出するためのクランク角センサ38が取り付けられている。また、エンジン10のシリンダブロックには、冷却水温を検出する水温センサ42が取り付けられている。
図1に示すように、本実施形態の燃焼状態推定装置はECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40には、上述した各種センサおよび燃料噴射弁30に加えて、車速SPDを検出する車速センサ44などが接続されている。
次に、図1のシステムにより内燃機関10の燃焼状態を推定する方法を具体的に説明する。最初に、燃焼状態の推定に用いる数式について説明する。本実施形態では、以下の(1)式、(2)式を用いて燃焼状態の推定を行う。
(1)式、(2)式において、図示トルクTiは、エンジンの燃焼によってクランク軸36に発生するトルクである。ここで、(2)式の右辺は図示トルクTiを発生させるトルクを示しており、(1)式の右辺は図示トルクTiを消費するトルクを示している。
(1)式の右辺において、Jは混合気の燃焼等によって駆動される駆動部材の慣性モーメント、dω/dtはクランク軸36の角加速度、Tfは駆動部のフリクショントルク、Tlは走行時に路面から受ける負荷トルク、を示している。ここで、J×(dω/dt)はクランク軸36の角加速度に起因する動的な損失トルク(=Tac)である。フリクショントルクTfは、ピストン34とシリンダ内壁の摩擦など各嵌合部の機械的な摩擦によるトルクであって、補機類の機械的な摩擦によるトルクを含むものである。負荷トルクTlは、走行時の路面状態などの外乱によるトルクである。本実施形態では、シフトギヤをニュートラルの状態にして燃焼状態を推定するため、以下の説明ではTl=0とする。
また、(2)式の右辺において、Tgasはシリンダの筒内ガス圧によるトルク、Tinertiaはピストン34などの往復慣性質量による慣性トルクを示している。筒内ガス圧によるトルクTgasは、シリンダ内の混合気の燃焼によって発生するトルクである。燃焼状態を正確に推定するためには、筒内ガス圧によるトルクTgasを求める必要がある。
(1)式に示されるように、図示トルクTiは、角加速度に起因する動的な損失トルクJ×(dω/dt)、フリクショントルクTf、及び負荷トルクTlの和として求めることができる。しかし、(2)式に示されるように、図示トルクTiと筒内ガス圧によるトルクTgasは一致しないため、図示トルクTiから燃焼状態を正確に推定することはできない。
図2は、(2)式の各トルクとクランク角との関係を示す特性図である。図2において、縦軸は各トルクの大きさを、横軸はクランク角を示しており、図2中の一点鎖線は図示トルクTiを、実線は筒内ガス圧によるトルクTgasを、破線は往復慣性質量による慣性トルクTinertiaをそれぞれ示している。ここで、図2は4気筒の場合の特性を示したものであり、図2中のTDC、BDCは、4気筒のうちの1気筒のピストン34が上死点(TDC)、または下死点(BDC)の位置にある場合のクランク角(0°,180°)を示している。内燃機関10が4気筒の場合、クランク軸36が180°回転する度に1気筒づつ爆発行程が行われ、1回の爆発毎に図2中のTDCからBDCまでのトルク特性が繰り返し現れる。
図2中の実線に示すように、筒内ガス圧によるトルクTgasは、TDCからBDCの間で急激に増加し、減少する。ここで、Tgasの急激な増加は、爆発工程で燃焼室内の混合気が爆発するためである。爆発後、Tgasは減少し、他の圧縮行程あるいは排気行程にある気筒の影響により、負の値を取る。そのクランク角がBDCに達するとシリンダの容積変化が0となり、これによってTgasは0の値を取る。
一方、往復慣性質量による慣性トルクTinertiaは、筒内ガス圧によるトルクTgasとはほとんどあるいは無視できるほど無関係に、ピストン34など往復運動する部材の慣性質量によって発生する慣性トルクである。往復運動する部材は加減速を繰り返しており、Tinertiaはクランクが回転していれば角速度一定の場合であっても常に発生する。図2中の破線に示すように、クランク角がTDCの位置では往復運動する部材は停止しており、Tinertia=0である。クランク角がTDCからBDCに向かって進むと、往復運動する部材が停止状態から運動し始める。この際、これらの部材の慣性によってTinertiaは負の方向に増加する。クランク角が90°近傍に達した時点では、往復運動する部材が所定の速度で運動しているため、これらの部材の慣性によってクランク軸36が回転する。従って、TinertiaはTDCとBDCの間で負の値から正の値へ変わる。その後、クランク角がBDCまで到達すると往復運動する部材は停止し、Tinertia=0となる。
(2)式に示されるように、図示トルクTiは筒内ガス圧によるトルクTgasと往復慣性質量による慣性トルクTinertiaの和である。このため、図2の一点鎖線に示されるように、TDCとBDCの間では、図示トルクTiは混合気の爆発によるTgasの増加によって増加し、一旦減少した後、Tinertiaによって再び増加するという複雑な挙動を示している。
しかし、TDCからBDCまでのクランク角180°の区間に着目すると、この区間での往復慣性質量による慣性トルクTinertiaの平均値は0となる。これは、往復慣性質量を有する部材が、クランク角0°〜90°近傍とクランク角90°近傍〜180°で反対の動きをするためである。従って、(1)式および(2)式の各トルクをTDCからBDCまでの平均値として算出すると、往復慣性質量による慣性トルクTinertia=0として計算することができる。これにより、往復慣性質量による慣性トルクTinertiaが図示トルクTiに与える影響を排除することができ、正確な燃焼状態を簡単に推定することが可能となる。
そして、TDCからBDCまでの区間において各トルクの平均値を求めると、Tinertiaの平均値が0となるため、(2)式から、図示トルクTiの平均値と筒内ガス圧によるトルクTgasの平均値とが等しくなる。このため、図示トルクTiに基づいて正確に燃焼状態を推定することができる。
更に、TDCからBDCまでの区間でクランク軸36の角加速度の平均値を求めると、この区間でのTinertiaの平均値は0であるため、往復慣性質量が角加速度に与える影響を排除して角加速度を求めることができる。従って、燃焼状態のみに起因する角加速度を算出することができ、角加速度に基づいて正確に燃焼状態を推定することが可能となる。
次に、(1)式の右辺の各トルクを算出する方法を説明する。最初に、角加速度に起因する動的な損失トルクTac=J×(dω/dt)の算出方法を説明する。図3は、クランク軸36の角加速度を求める方法を示す模式図である。図3に示すように、本実施形態では、クランク軸36の回転の10°毎にクランク角センサ38からクランク角信号が検出される。
本実施形態の燃焼状態推定装置は、角加速度に起因する動的な損失トルクTacをTDCからBDCまでの平均値として算出する。このために、本実施形態の装置は、TDCとBDCの2ヶ所のクランク角位置で角速度ω0(k),ω0(k+1)をそれぞれ求め、同時にクランク軸36がTDCからBDCまで回転する時間Δt(k)を求める。
角速度ω0(k)を求める際には、例えば図3に示すように、クランク角がTDCの位置から前後10°ずつ回転している間の時間Δt0(k),Δt10(k)をクランク角センサ38から検出する。そして、時間Δt0(k)+Δt10(k)の間にクランク軸36が20°回転しているため、ω0(k)=(20/(Δt0(k)+Δt10(k)))×(π/180)を演算することによってω0(k)[rad/s]を算出できる。同様に、ω0(k+1)を算出する際は、クランク角がBDCの位置から前後10°ずつ回転している間の時間Δt0(k+1),Δt10(k+1)を検出する。そして、ω0(k+1)=(20/(Δt0(k+1)+Δt10(k+1)))×(π/180)を演算することによってω0(k+1)[rad/s]を算出できる。
角速度ω0(k),ω0(k+1)を求めた後は、(ω0(k+1)−ω0(k))/Δt(k)を演算し、TDCからBDCまでクランク軸36が回転する間の角加速度の平均値を算出する。
そして、角加速度の平均値を求めた後は、(1)式の右辺に従って、角加速度の平均値と慣性モーメントJを乗算する。これにより、クランク軸36がTDCからBDCまで回転する間の動的な損失トルクJ×(dω/dt)の平均値を算出できる。なお、駆動部の慣性モーメントJは、駆動部品の慣性質量から予め求めておく。
次にフリクショントルクTfの算出方法を説明する。図4はフリクショントルクTfと内燃機関10の機関回転数(Ne)、冷却水温(thw)との関係を表したマップである。図4において、フリクショントルクTf、機関回転数(Ne)、冷却水温(thw)は、TDCからBDCまでクランク軸36が回転した場合の平均値である。また、冷却水温は、thw1→thw2→thw3の順に高温になる。図4に示すように、フリクショントルクTfは機関回転数(Ne)が増えると増加し、また冷却水温(thw)が低くなると増加する傾向にある。図4のマップは、機関回転数(Ne)、冷却水温(thw)をパラメータとして可変し、TDCからBDCまでクランク軸36を回転させた際に発生するフリクショントルクTfを測定し、その平均値を算出することで予め作成しておく。そして、燃焼状態を推定する際には、TDCからBDCまでの区間における冷却水温の平均値、機関回転数の平均値を図4のマップに当てはめて、フリクショントルクTfの平均値を求める。この際、冷却水温は水温センサ42から、機関回転数はクランク角センサ38からそれぞれ検出する。
クランク角の変動に伴うフリクショントルクTfの挙動は非常に複雑であり、バラツキも大きい。しかし、フリクショントルクTfの挙動は主としてピストン34の速度に依存しているため、往復慣性質量による慣性トルクTinertiaの平均値が0となる区間毎のフリクショントルクTfの平均値はほぼ一定している。従って、往復慣性質量による慣性トルクTinertiaの平均値が0となる区間(TDC→BDC)毎にフリクショントルクTfの平均値を求めることで、複雑な瞬時挙動を示すフリクショントルクTfを精度良く求めることができる。また、フリクショントルクTfをこの区間毎の平均値とすることで、図4に示すマップを正確に作成することができる。
また、上述したようにフリクショントルクTfには補機類の摩擦によるトルクが含まれる。ここで、補機類の摩擦によるトルクは、補機類が動作しているか否かによって値が異なる。例えば、補機の1つであるエアコンのコンプレッサには、エンジンの回転がベルト等によって伝達されており、エアコンが実際に動作していない状態であっても摩擦によるトルクが発生している。
一方、補機類を動作させた場合、例えばエアコンのスイッチをオン(ON)した場合は、エアコンを動作させていない状態に比べてコンプレッサで消費されるトルクは大きくなる。このため、補機類の摩擦によるトルクが大きくなり、フリクショントルクTfの値も増大する。従って、フリクショントルクTfを正確に求めるためには、補機類の動作状態を検出し、補機類のスイッチがオン(ON)している場合には、図4のマップから求めたフリクショントルクTfの値を補正することが望ましい。
なお、極冷間始動時などにおいては、実際にフリクショントルクTfが発生している部位の温度と冷却水温との差を考慮して、フリクショントルクTfを補正することがより好適である。この場合、冷間始動後の機関始動時間、筒内流入燃料量等を考慮して補正を行うことが望ましい。
本実施形態では、以下に詳細に説明するように、上述の手法で算出した角加速度を用いて、統計的手法により燃料の性状(燃焼状態)を判定する。なお、以下の説明では、角加速度を用いて燃料性状を推定する手法を説明するが、図示トルクTiを用いた場合であっても、角加速度を用いた場合と同様に燃料性状を判定することができる。
燃料の性状を判定する前提として、判定指標(確率密度分布差異)を予め取得しておく。この判定指標は、角加速度の分布の統計情報である。図5は、判定指標を取得する方法を模式的に示す図である。先ず、図5(A)に示すように、所定の燃料性状の燃料(一例として、ここでは重質燃料とする)を用いて、内燃機関10を複数回始動させ、機関始動時の最初の爆発行程における角加速度を複数回取得する。そして、図5(B)に示すように、取得した複数の角加速度を用いてヒストグラムを作成する。その後、図5(B)のヒストグラムを標準化し、図5(C)に示すように、判定指標となる検出値GF統計情報(統計値N(μ,σ2))を作成する。ここで、μは複数回取得された角加速度の平均値である。また、σ2は複数取得された角加速度の分散である。
図5(C)に示す判定指標によれば、重質燃料を用いた場合において、機関始動時の最初の爆発行程における角加速度のレベルが統計的に明らかになる。従って、機関始動時の最初の爆発行程での角加速度を求めることで、図5(C)の判定指標に基づいて燃料性状が重質であるか否かを判定することが可能となる。例えば、角加速度に基づいて図5(C)の判定情報から得られた検出値GFの値が図5(C)に示す判定値Tよりも大きい場合は、取得した角加速度が重質燃料の分布に属していると判断できるため、燃料の性状が重質であると判定することができる。同様にして、軽質燃料についても判定指標を取得しておくことで、機関始動時の最初の爆発行程での角加速度に基づいて、燃料の性状が軽質であるか否かを判定することが可能となる。
以上のような手法によれば、機関始動時の最初の爆発行程における角加速度に基づいて燃料性状を判定することができ、燃料性状に応じた燃料噴射量の増減を機関始動直後の早期に実施することができる。燃料噴射量を制御する際には、燃料性状が重質になるほど、吸気通路12又は筒内壁面への燃料付着量が多くなり、燃料の霧化の度合いが低下するため、燃料性状が重質の場合ほど燃料噴射量を増量する制御を行う。これにより、燃料の性状に基づいて燃料噴射弁30からの燃料噴射量を最適に制御することが可能となる。
また、判定の精度を向上するため、機関始動直後の複数回の爆発行程における角加速度を用いて燃料性状を判定しても良い。この場合は、機関始動時の2回目、3回目以降の爆発行程についても、図5の方法で判定指標を予め取得しておく。同様に、軽質燃料の判定指標についても、2回目、3回目以降の爆発行程の判定指標を予め取得しておく。図6は、燃料性状(重質、軽質)毎、および始動からの爆発回数毎に角加速度の分布を求めた判定指標を示す特性図である。燃料性状が軽質の場合は、重質の場合に比べて、吸気管の内壁面、筒内壁面への燃料の付着量が低減され、燃料の霧化が促進される。従って、図6において、燃料性状が軽質の場合の角加速度は、重質の場合の角加速度よりも大きな値となる。
図6の判定指標を用いて機関始動時に燃料性状を判定する際には、機関始動時の1回目、2回目、3回目・・・の爆発行程における角加速度を取得し、それぞれを図6の統計情報に当てはめる。そして、取得した角加速度が図6の軽質燃料、重質燃料の分布のいずれに属しているかを判定することで、燃料の性状を判別することができる。この場合、機関始動直後の複数回の爆発行程における角加速度を用いて燃料の性状が判定されるため、判定の精度を高めることができる。また、機関始動直後は回転数が上昇する過程の過渡運転状態であり、燃料の性状の影響が角加速度に現れ易いため、機関始動直後の角加速度に基づいて判定を行うことで、燃料性状を精度良く判定することが可能となる。
また、図6の判定指標では、軽質燃料と重質燃料の2種類の燃料性状の分布を作成しているが、燃料性状を更に細分化し、より多くの燃料性状についての分布を作成しておいても良い。これにより、様々な性状の燃料に対応した判定が可能となり、連続的に変化する燃料の性状のレベルをより精度良く求めることができる。例えば、軽質燃料と重質燃料の間の燃料性状を有する中間燃料についても分布を作成しておくことで、燃料の性状が重質燃料、軽質燃料、中間燃料のいずれであるかを判定することができる。
なお、図5(C)では、角加速度の分布をガウス分布に標準化しているが、統計情報を有効活用でき、燃焼形態を検出できる形であれば、図7に示すように、他の分布の形状に標準化しても良い。ここで、図7(A)は、角加速度の分布の中心値の頻度が高くなるように図5(C)の分布を変形した例を示している。
また、図7(B)、図7(C)は、分布を階段状に模式化した例を示している。例えば、重質燃料の分布を図7(B)に示す形状に設定した場合、角加速度がuF1〜uF2の場合にのみ燃料性状が重質と判定され、それ以外の場合に重質判定が行われることを回避できる。従って、何らかの要因により角加速度のデータの精度が低下した場合などにおいても、重質判定を精度良く行うことができる。また、図7(B)、図7(C)に示すように分布を階段状の形状に設定することで、燃料性状判定のマップを簡素に構成することが可能となる。
機関始動時は、温度などの環境条件によって、筒内へ供給される燃料量、吸入空気量などにバラツキが生じやすくなるが、本実施形態の手法によれば、バラツキを統計的、確率的に解析し、統計情報に基づいて判定処理を行うため、バラツキを考慮した上で燃料の性状、燃焼状態を正確に推定することが可能である。
次に、図8のフローチャートに基づいて、本実施形態のシステムにおける処理の手順について説明する。先ず、ステップS1では、始動直後にクランク軸36の角加速度を算出する。ここでは、上述した方法により、TDCからBDCまでの角加速度の平均値を算出する。
次のステップS2では、ステップS1で算出した角加速度を図6の判定指標に当てはめ、検出値GFを算出する。次のステップS3では、検出値GFに基づいて燃料の性状を判定する。次のステップS4では、燃料の性状に基づいて燃料噴射量を制御する。ステップS4の後は処理を終了する(RETURN)。
以上説明したように実施の形態1によれば、機関始動時に算出した角加速度に基づいて、統計的手法により燃料性状(燃焼状態)を正確に推定することができる。従って、燃料性状に基づいて内燃機関を最適に制御することが可能となり、排気エミッション、ドライバビリティを向上することが可能となる。
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2は、機関始動時に取得された角加速度に基づいて重み付き加算平均検出処理を施し、燃料性状の判定とともに、判定の確からしさを判定するものである。
図9は、燃料性状の確からしさを表す重み付きマップを示す特性図である。図9のマップは、実施の形態1で説明した標準化された図5(C)の判定指標において、平均値μ=0、分散σ2=1として検出値GFを積分して検出値gFを算出したものである。図5(A)の角加速度のデータが重質燃料のデータである場合、図5(C)の判定指標から得られた図9のマップは重質燃料に対応したマップとなる。
図9において、横軸は角加速度uFを表しており、縦軸は角加速度uFの値に対応した検出値gFを表している。図9では、平均値μ=0、分散σ2=1としているため、検出値gFは0から1までの値となる。そして、図9のマップが重質燃料に対応したマップである場合、重質燃料を燃焼させた際に最も頻度の高い角加速度uFに対応する検出値gFは0.5となる。
従って、機関始動時に角加速度uFを求め、重質燃料に対応する図9のマップに当てはめた場合に、角加速度uFに対応する検出値gFが0.5に近い場合は、燃料が重質であると判断できる。そして、検出値が0.5に近い場合ほど、燃料が重質であることの確からしさが高いと判定することができる。
同様にして、軽質燃料についても、図5の手法を用いて判定指標となる統計情報を作成し、図9と同様のマップを作成しておく。これにより、機関始動時に角加速度uFを求め、軽質燃料のマップに当てはめた場合に、角加速度uFに対応する検出値gFが0.5に近い場合は燃料が軽質であると判断でき、検出値gFが0.5に近い場合ほど、燃料が軽質であることの確からしさが高いと判定することができる。
従って、図9のマップを重質燃料、軽質燃料の双方について作成しておくことで、機関始動時の角加速度に基づいて燃料の性状を判定できるとともに、燃料性状判定の確からしさを判定することが可能となる。従って、燃料性状の判定を高精度に行うことが可能となる。
なお、始動時に取得された角加速度の値は、原則として重質燃料または軽質燃料の分布の一方に属するため、軽質燃料のマップから算出された検出値gFと重質燃料のマップから算出された検出値gFの双方が0.5に非常に近い値となることはなく、一方の検出値gFが0.5近傍の値である場合は、他方の検出値gFは0.5から外れた値となる。従って、軽質燃料についての検出値gFと重質燃料についての検出値gFのうち、どちらの検出値gFが0.5により近い値であるかを判定することで燃料の性状を判定することができ、また、その確からしさを判定することができる。
図5(C)の統計情報が機関始動時の最初の爆発行程における角加速度の分布を表すものである場合、これに対応する図9のマップによれば、最初の爆発行程で取得された角加速度に基づいて検出値gFを算出することができ、検出値gFに基づいて燃料性状及びその確からしさを判定することができる。同様にして、機関始動時の2回目以降の爆発行程における角加速度についても、軽質燃料、重質燃料のそれぞれについて、爆発回数に応じて図9のマップをそれぞれ作成しておくことで、2回目以降の爆発行程で取得された角加速度に基づいて燃料性状を判定することができ、また、燃料性状の確からしさを判定することができる。
この場合、機関始動時の1回目、2回目、3回目・・・n回目の爆発行程で取得された角加速度uFのそれぞれに基づいて、軽質燃料、重質燃料のそれぞれについて爆発回数に応じて作成された各マップから検出値gFを求め、軽質燃料、重質燃料のそれぞれについて、以下の(3)式からn個の検出値gFの重み付け平均値gF(n)を求める。
この場合、平均値gF(n)の値が0.5に近づくほど、平均値gF(n)によって表される燃料性状の確からしさの精度が高くなる。例えば、重質燃料のマップから求めた検出値gFの平均値gF(n)の値が0.5に近い場合は、燃料が重質であり、その確からしさも非常に高いと判定することができる。従って、複数の角加速度に基づいて燃料性状の判定を行うことで、少数の特異な角加速度挙動を吸収して誤検出を抑えることができ、燃料性状およびその確からしさを高精度に判定することが可能となる。
次に、図10のフローチャートに基づいて、実施の形態2における処理の手順について説明する。先ず、ステップS11では、始動直後のn回の爆発行程のそれぞれにおいて、角加速度を取得する。次のステップS12では、図9のマップを用いて、重み付き加算平均検出値処理を行う。具体的には、ステップS11で取得した複数の角加速度を用いて、爆発回数に応じて作成された図9の軽質燃料、重質燃料の各マップから検出値gFを求め、その平均値gF(n)を算出する。
次のステップS13では、ステップS12で算出した平均値gF(n)に基づいて、燃料性状、及びその確からしさを判定する。この際、平均値gF(n)が0.5に近いほど、燃料性状の確からしさが高いと判定される。次のステップS14では、ステップS13で求めた燃料性状に基づいて、燃料噴射量を制御する。ステップS14の後は処理を終了する(RETURN)。
以上説明したように実施の形態2によれば、機関始動時に取得された角加速度に基づいて燃料性状を求めることができ、更に、求めた燃料性状の確からしさを判定することができる。従って、燃料性状の判定の信頼性を更に向上することができ、燃料性状に基づいて内燃機関を最適に制御することが可能となる。
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態3は、燃料性状に基づいて燃料噴射量を決定する手法に関するものである。図11は、実施の形態3において、検出値gFに基づいて決定される判定値と、燃料噴射量との関係を規定したマップを示す特性図である。図11に示すように、判定値が増加すると燃料噴射量が減少するようにマップが規定されている。
実施の形態3では、実施の形態2と同様の方法で、検出値gFの重み付け平均値gF(n)を求め、燃料の性状を判定する。そして、図11に示すように、重み付け平均値gF(n)に対応する判定値が決定される。
図11に示すように、重質燃料に対応する図9のマップから算出された平均値gF(n)が0.2〜0.8の場合は、平均値gF(n)が0.5の近傍の値であるため、燃料が重質と判定される。同様に、軽質燃料に対応する図9のマップから算出された平均値gF(n)が0.2〜0.8の場合は、平均値gF(n)が0.5の近傍の値であるため、燃料が軽質と判定される。
そして、重質燃料、軽質燃料のマップから算出された平均値gF(n)の値に応じて判定値の値が設定される。図11の例では、重質燃料に対応する図9のマップから算出された平均値gF(n)が0.2〜0.8の場合は、判定値が1〜5に設定され、燃料噴射量は一定値TAU1に設定される。また、軽質燃料に対応する図9のマップから算出された平均値gF(n)が0.2〜0.8の場合は、判定値が7〜11に設定され、燃料噴射量は一定値TAU2に設定される。また、判定値が5〜6の範囲であり、燃料性状が重質と軽質の中間であると判定される場合は、燃料噴射量がTAU1とTAU2の間で線形に変化するように設定される。
このように、平均値gF(n)に所定範囲の幅をもたせ、その範囲内では、エミッションなどに影響が出ない範囲で燃料噴射量を一定値TAU1,TAU2に制御することで、燃料噴射量の制御を簡素に行うことが可能となり、燃料性状に応じた燃料噴射量の制御性を向上することができる。
図12は、図11のマップの他の例を示す模式図である。図11のマップは、市場に流通している燃料の性状の割合等を考慮し、種々のタイプに変更することができる。ここで、図12(A)、図12(B)のマップは、重質燃料と軽質燃料の中間において、燃料噴射量を非線形に変化させることで、特に中間燃料における燃料噴射量をより緻密に制御するものである。
また、図12(C)のマップは、燃料性状が重質と軽質の中間である中間燃料についてのみ図9のマップを設定した例を示している。すなわち、図12(C)の例では、中間燃料に対応する図9のマップから算出された平均値gF(n)が0.2〜0.8の場合は、燃料性状が重質と軽質の中間であると判定され、判定値が4〜7に設定される。そして、この場合、燃料噴射量は一定値TAU3に設定される。そして、平均値gF(n)が0.2未満の場合は、判定値が4未満に設定され、判定値に対して線形に変化するように燃料噴射量の値が規定される。また、平均値gF(n)が0.8を超える場合は、判定値が7よりも大きな値に設定され、判定値に対して線形に変化するように燃料噴射量の値が規定される。図12(C)のマップによれば、重み付け加算平均処理を行う図9のマップを中間燃料についてのみ作成することで、平均値gF(n)及び判定値に基づいて燃料噴射量を制御することができる。
次に、図13のフローチャートに基づいて、本実施形態のシステムによる処理の手順について説明する。先ず、ステップS21では、機関始動直後に角加速度を取得し、重み付け平均値gF(n)を算出する。次のステップS22では、重み付け平均値gF(n)に基づいて、燃料性状の判定値を算出する。次のステップS23では、燃料性状の判定値に基づいて、図11のマップから燃料噴射量を算出する。次のステップS24では、ステップS23で算出された燃料噴射量に基づいて、燃料噴射量を制御する。ステップS24の後は処理を終了する(RETURN)。
以上説明したように実施の形態3によれば、各燃料性状のマップ毎に算出された重み付け平均値gF(n)から燃料性状を決定するための判定値を算出するため、判定値と燃料噴射量との関係を規定したマップに基づいて、燃料噴射量を最適に制御することが可能となる。
なお、上述した各実施形態では、機関始動時に取得した角加速度、図示トルクに基づいて燃料の性状を判定しているが、筒内圧、イオン電流など燃焼状態を表す特性値を用いて、上述の統計的処理を施すことにより、燃料の性状(燃焼状態)を推定しても良い。