次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
<実施例1> コロナ放電処理による局所的親水化−その1−
自動分析装置用反応セル(以下、“セル”と呼称する。)として、ポリシクロオレフィンを素材として射出成形によって製作した。ちなみにセル素材としては、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂から選択される1種であればかまわない。低吸水率、低透湿度、高い全光線透過率、低屈折率、低成型収縮率の観点からポリシクロオレフィンを選択することが望ましい。
本実施例では4個の単セルを一体成形したセルブロックとして形成したものを用いた。図1に、セルブロックの斜視外観図を示す。成型したセルブロック50は、4個の単セル51からなる。セルブロック50の長辺101は60mm、短辺102は10mm、高さ103は40mmである。単セル51を自動分析装置に搭載した際には、サンプルと試薬の反応経過及び反応結果を分光スペクトルにより計測する。個々の単セルには、計測用の光が透過する2つの面(測光面)と計測用の光が透過しない非測光面がある。図2に、単セルを非測光面の長軸で2つに分割した断面図示す。単セル51は、非測光面外壁部111、非測光面内壁部112、測光面外壁部113、測光面内壁部114、底面115からなる。この詳細を、図3に単セル断面斜視外観図として示す。単セルの内壁部の寸法は、非測光面の半分の長さ116が3mm、測光面の長さ117が4mm、高さ118が30mm、単セル肉厚150が1mmであり、閉口部130、開口部140を備えている。
全ての単セル51内にエタノール600μlを注入して24時間放置し、エタノールを除去した後、真空デシケーターに入れ乾燥することで単セル内壁表面を清浄化した。次にコロナ放電局所処理を施した。図4に、コロナ放電局所処理の模式図を示す。洗浄・乾燥したセルブロック50の4個の単セル51の測光面を陰極板218で挟み込んだ。陰極板は、配線216を介してアース217につながれている。陰極板の大きさを調整することで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定することができる。本実施例では各単セルの底面から14mmまでの内壁が処理されるような挿入深さを決めた。その後、各単セル51内部にコロナ放電陽極ロッド電極214をそれぞれの単セルの底面中心に向かって底面から1mmの高さまで入れた。コロナ放電陽極電極214の径は2mm、長さは50mmであり、陽極213と配線212を介してコロナ放電源211につながれている。コロナ放電電源としては、ナビタス社製ポリダインを使用した。ついで、大気中において電圧8.5kV印加によって、陰極板と接している高さに相当する単セルの内壁部の高さまでにコロナ放電処理した。
この時、反応セルの底部外壁や非測光面の外壁に陰極板を設けておけば、反応セルの底面や非測光面にもコロナ放電処理できる。すなわち、陰極板を設置する位置により、コロナ放電処理位置を限定できる。図13に示すように、従来のセルの測光面41の面積をS5とし,小型化したセルの測光面42の面積をS6とした場合、S6はS5よりも小さくなる。セルの測光面の面積は測光領域40の面積S4まで小さくすることが可能である。従って、セルの小型化に伴い面積S6がS4とほぼ等しくなる場合、測光面のみならず非測光面や底面を親水化しておくことで、測光領域40を光が透過し溶液を検出する際に、光が透過する領域に一切気泡が付着せず、安定な測定を実施できる。
図14に、測光面、非測光面、底面をコロナ放電処理し親水化した単セルの一例の断面斜視外観図を示す。セルの測光面内壁部114のうち底面115から境界線161まで、及び非測光面内壁部112のうち底面115から境界線162まで、及び底面115を合わせた領域160にコロナ放電処理した。この時、境界線161、162を境目として閉口部130側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。この時、図に示された測光面の対向面の内壁部及び非測光面の対向面の内壁部にも同様にコロナ放電局所処理した。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。陰極板の位置を変えることでコロナ放電処理を施す部分を限定できる。また、コロナ放電処理を施したくない部分を反応セルと同素材であらかじめ覆った後、コロナ放電処理をすることで部分限定的に処理することも可能である。
図5に、コロナ放電局所処理後の単セルの他の例の断面斜視外観図を示す。セル51の測光面内壁部114のうち底面115から境界線119までの部分120にコロナ放電処理した。この時、境界線119を境目として閉口部130側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。この時、図に示された測光面の対向面の内壁部にも同様にコロナ放電局所処理した。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。この際、陰極板を測光面のみならず非測光面や底面に設置することで、非測光面や底面にもコロナ放電処理を施すことができる。実施例1〜7では、測光面のみをコロナ放電処理したセルを準備した例を示す。なお、測光面のうち、分光スペクトルを測定する際に光が透過する領域(測光部)に気泡が付着していなければ、検出障害を無くすことができる。
1秒間のコロナ放電処理を施す前後でセルの測光面の水との接触角を測定したところ、コロナ放電処理していないときの接触角は90度、1秒間のコロナ放電処理を施した後の接触角は51度であった。
接触角の測定には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。処理を施したセル表面にシリンジを利用して純水1μlを滴下し、着滴0.5秒後の静的接触角をθ/2法で測定した。測定には、処理を施したサンプルを2つ用意し、処理表面上の異なる6点において測定を行い、その平均値を求めた。その結果、コロナ放電処理前のセル表面(処理時間0秒)の水との接触角は90度であるのに対し、コロナ放電処理をすることにより水との接触角は51度へと低下した。また、コロナ放電処理しなかった部分の接触角は90度であり、コロナ放電未処理のセル表面と同様であった。このように、コロナ放電処理を選択的に施せることを確認した。すなわち、コロナ放電処理によりセル表面に領域を限定して親水性を付与することができる。
次に、1秒間のコロナ放電処理を施したセルを室温放置した後の水に対する接触角の推移と、セル内に水を150μl注入した際の気泡付着の有無を調べた。図6に、時間経過に対するセル表面の水との接触角を示す。横軸に経過日数(日)、縦軸に接触角(度)を示す。コロナ放電処理1秒を施したセルの接触角が、日数を経過するごとに増加したことから、親水性が時間経過と共に低下する。表1に、時間経過に対する気泡付着の有無を示す。
経過日数0日、7日でセル内に水を150μl注入した際には、気泡付着が無かった。しかし、14日間経過後、21日経過後、28日経過後においてそれぞれセル内に水を150μl注入した際に、気泡付着が発生した。したがって、1秒間のコロナ放電処理による親水化では、7日経過程度の短期間の親水性保持には有効である。
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図15に示すように、セル61の複数で測光面62を共用するセルブロック60では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。
<実施例2> コロナ放電処理による局所的親水化−その2−
実施例1と同様のポリシクロオレフィンからなる生化学自動分析装置用反応セルを準備した。ここでは、実施例1と同様の条件で処理時間を10秒に伸ばしてコロナ放電局所処理を行い、セルの測光面内壁部の底面から所望の高さまでの部分を局所的親水化した。
その結果、実施例1と同様、コロナ放電処理しないセル表面(処理時間0分)の水との接触角は90度であるのに対し、10秒間のコロナ放電処理を施したセル表面の水との接触角は41度であった。このように、コロナ放電によって処理することにより水との接触角が低下した。つまり、コロナ放電処理によりセル表面に親水性を付与することができる。コロナ放電処理時間1秒では、水との接触角が約51度であり、コロナ放電処理時間10秒では水との接触角が約41度であったことから、コロナ放電処理時間を1秒から10秒へと長くすることで、より親水性を増加させることができる。また、コロナ放電処理時間を20秒まで延ばすとセル表面が変形・変色を起こし、自動分析装置へ使用することが難しくなったので、ここではコロナ放電処理時間の上限を10秒間とすることとした。
次に、コロナ放電処理表面の元素分析をXPS(X線光電子分光)によって実施した結果を表2にまとめた。ここではコロナ放電処理時間に対する炭素、酸素、窒素相対存在比率を示す。測定には、SHIMADZU−CRATOS製X線光電子分光(XPS)装置を使用し、炭素と酸素と窒素の相対存在比率を比較するために、1400eV〜−20eVの範囲で、Pass Energyを20eVとしてワイドスキャンをおこなった。
表2に示すように、コロナ放電処理時間0秒、すなわち未処理のセル表面では、酸素の相対存在率は検出下限以下であった。一方、コロナ放電処理を時間1秒間施したセル表面の酸素相対存在率は7.9%であった。コロナ放電処理によって酸素が導入され、ポリシクロオレフィンが酸化され、親水化されている。そして、コロナ放電処理時間10秒を施したセル表面の酸素相対存在率は15.9%であり、コロナ放電処理時間1秒を施したセルよりも酸素が多く導入され、より強く酸化され親水化されている。接触角の低減の観点からも、XPSの酸素相対存在率の観点からも、コロナ放電処理時間は1秒よりも10秒の方が、セル表面の親水性向上の点で有利である。
次に、実施例1と同様、コロナ放電処理を施したセルに純水150μlを注水した際の気泡付着の有無を調べた。親水性の変化を加速的に評価するために各処理を施したセルを75℃に保たれた恒温槽で240時間熱処理した。
その結果、コロナ放電処理時間1秒を施したセルは、その直後の状態(経過時間、0時間)ではセル表面の水との接触角が51度であり、気泡の付着はなかったが、75℃に保たれた恒温槽で240時間熱処理後では、セル表面の水との接触角は73度へ上昇するとともに気泡付着が起こった。一方、コロナ放電処理時間10秒を施したセルは、その直後の状態(経過時間、0時間)ではセル表面の接触角は41度で気泡の付着がなかったが、75℃の恒温槽に保管して240時間経過後、セル表面の水との接触角は68度へ上昇した。しかしこのセルでは、気泡付着は起こらなかった。したがって、セル内壁部の一部にコロナ放電処理を10秒間施すことで、安定な親水化処理可能であることを確認できた。また、コロナ放電処理しなかった部分の接触角は90度のままであり、コロナ放電未処理のセル表面と同様であった。すなわち、反応セル内壁にコロナ放電処理を選択的に施すことができ、安定な親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する反応セルを作製できた。
また、各処理時間によってコロナ放電を施したセル表面のXPS測定を行い、セル表面を詳細に分析した。炭素の結合状態を比較するために、271eV〜311eVの範囲で、Pass Energyを2eVとしてC1sのナロースキャンをおこなった。
図7にコロナ放電を1秒間処理したセル表面のC1sのナロースキャン結果を示す。得られたナロースキャンピークを各結合状態に分離・解析(デコンボリューション)した。矢印310で区切られた範囲は、C−C、C−Hの結合ピークが検出される範囲である。同様に、矢印311の範囲はC−O(エーテル、アルコール)結合、矢印312の範囲は、C=O(カルボニル)結合、矢印313の範囲はO=C−O(カルボキシル)結合、矢印314の範囲はO=C−O−O(過酸化物)が検出される範囲である。この図7で示されるように、コロナ放電を1秒処理したセル表面には、上記酸化物の全て(C−O、C=O、O=C−O、O=C−O−O)が生成している。
図8に、コロナ放電を10秒間処理したセル表面のC1sのナロースキャン結果を示す。矢印320で区切られた範囲は、C−C、C−Hの結合ピークが検出される範囲である。同様に、矢印321の範囲はC−O(エーテル、アルコール)結合、矢印322の範囲は、C=O(カルボニル)結合、矢印323の範囲はO=C−O(カルボキシル)結合、矢印324の範囲はO=C−O−O(過酸化物)が検出される範囲である。この図8で示されるように、コロナ放電を10秒処理したセル表面には、上記酸化物の全て(C−O、C=O、O=C−O、O=C−O−O)が生成している。しかし、個々の結合の存在比はコロナ放電処理時間によって異なる。
各コロナ放電処理時間(0秒、1秒、10秒)を施したセル表面の炭素結合状態の割合は、次の通りであった。コロナ放電処理0秒間、すなわち未処理のセル表面には、C−C結合、C−H結合のみ100%存在した。一方、コロナ放電処理1秒のセル表面には、C−C結合とC−H結合が68.6%存在し、C−O結合が6.4%、C=O結合が10.7%、O=C−O結合が11.5%、O=C−O−O結合が2.8%存在していた。また、コロナ放電処理10秒のセル表面には、C−C結合とC−H結合が69.4%存在し、C−O結合が11.2%、C=O結合が7.1%、O=C−O結合が5.3%、O=C−O−O結合が7.0%存在していた。コロナ放電処理10秒のセル表面には、特に、親水性が高いアルコール基を含むC−O結合の割合が11.2%と高く、コロナ放電処理1秒セル表面のC−O結合の割合6.4%より高かった。このことはコロナ放電処理時間を1秒から10秒へと長くすることで、75℃で240時間の加熱後においても、親水性が保たれ、気泡付着が起こらなかったことの理由としてあげられる。
また、一旦、75℃で240時間経過させたセル内に純水を600μl入れ、室温で浸漬(この操作を“水浸漬”と名付ける)した後、セル表面の接触角を測定した。未処理のセル表面の接触角は90度であり、コロナ放電を10秒処理したセル表面の接触角は41度、75℃で240時間経過後68度、水浸漬後56度であった。いったん、高温加熱によって親水性が低減したセル表面の親水性が、水浸漬することで回復した。加熱処理後もコロナ放電処理後と同程度の親水性を示した。ついで、コロナ放電を10秒処理したセル表面の75℃で240時間の加熱前後の安定性についてXPS測定によって分析した。コロナ放電を10秒処理したセル作製後の表面の酸素含有率は、表2で述べたとおり15.9%であった。コロナ放電を10秒処理したセルを75℃で240時間加熱後の表面の酸素含有率は7.8%であった。加熱によって4割程度の酸素の減少があるものの十分な親水性を保持していることがわかった。
コロナ放電を10秒処理したセルが、熱処理後も熱処理前と同程度の親水性を示したことから、放電時間の延長が親水性の安定化に有効であることがわかった。そこで、セル表面の安定な親水化とコロナ放電処理の効率化を狙って、放電時間を7秒、4秒と短縮する実験を実施した。実施例1と同様にポリシクロオレフィンからなる生化学自動分析装置用反応セルを準備した。ここでは、実施例1と同様の放電条件で処理時間を7秒、4秒としてコロナ放電局所処理を行い、セルの測光面内壁部の底面から所望の高さまでの部分を局所的親水化した。表3に、処理時間に対する水との接触角の変化を放電時間0秒、1秒、10秒の結果と共に示す。
未処理のセル表面の接触角は90度であるのに対し、コロナ放電処理により接触角が低下した。つまり、コロナ放電処理によりセル表面に親水性を付与することができる。コロナ放電処理時間1秒で約51度であった接触角が、処理時間4秒で約41度、処理時間7秒で約39度であったことから、コロナ放電処理時間を長くすることで、より親水性を増加させることができる。
次に、コロナ放電処理表面の元素分析をXPS(X線光電子分光)によって実施した結果を表4にまとめた。ここではコロナ放電処理時間に対する酸素相対存在比率を示す。測定には、SHIMADZU−CRATOS製X線光電子分光(XPS)装置を使用し、酸素相対存在比率を比較するために、1400eV〜−20eVの範囲で、Pass Energyを20eVとしてワイドスキャンをおこなった。
表4に示すように、コロナ放電処理時間0秒、すなわち未処理のセル表面では、酸素の相対存在率は検出下限以下であった。一方、コロナ放電処理を1秒間施したセル表面の酸素相対存在率は7.9%であった。コロナ放電処理によって酸素が導入され、ポリシクロオレフィンが酸化され、親水化されている。そして、処理時間4秒のセル表面の酸素相対存在率は11.3%であり、処理時間7秒のセル表面の酸素相対存在率は11.5%であり、コロナ放電処理時間1秒を施したセルよりも酸素が多く導入され、より酸化され親水化されている。表3に示した接触角の低減の観点からも、表4に示したXPSの酸素相対存在率の観点からも、コロナ放電処理時間を1秒より延ばすことでセル表面の親水性が向上し有利である。
次にコロナ放電処理を施したセルに純水150μlを注水した際の気泡付着の有無を調べた。親水性の変化を加速的に評価するために各時間コロナ放電処理を施したセルを75℃の恒温槽で240時間熱処理した。コロナ放電4秒間処理を施したセル表面の接触角は、熱処理前(処理時間0)で41度であった。このセルを75℃の恒温槽で240時間熱処理後では、その接触角は62度へ上昇したが気泡付着は無かった。また、コロナ放電処理を7秒間施したセル表面の水との接触角は、熱処理前(処理時間0)で39度であり、75℃、240時間の熱処理後、57度へ上昇したが気泡付着は起こらなかった。したがって、セル内壁部の一部にコロナ放電処理を4秒間、または7秒間施すことで、安定な親水化処理可能であることを確認できた。また、コロナ放電処理しなかった部分の接触角は90度のままであり、コロナ放電未処理のセル表面と同様であった。すなわち、反応セル内壁にコロナ放電処理を選択的に施すことができ、安定な親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する反応セルを作製できた。
表5に、各処理時間でコロナ放電を施したセル表面の水との接触角及び気泡付着の有無を時間経過に対してまとめて示す。
表5の結果より、熱処理後のコロナ放電処理したセルの接触角は、放電時間7秒の時に最も低下し、次いで4秒、10秒、1秒の順で低下できた。また、各時間によってコロナ放電処理を施したセル表面のXPS測定を行い、セル表面を詳細に分析した。炭素の結合状態を比較するために、271eV〜311eVの範囲で、Pass Energyを2eVとしてC1sのナロースキャンをおこなった。セル表面のC1sのナロースキャン結果からナロースキャンピークを各結合状態に分離・解析(デコンボリューション)した。
コロナ放電処理4秒のセル表面には、C−C結合とC−H結合が65.4%存在し、C−O結合が21.1%、C=O結合が4.9%、O=C−O結合が4.1%、O=C−O−O結合が4.5%存在していた。また、コロナ放電処理7秒のセル表面には、C−C結合とC−H結合が57.1%存在し、C−O結合が29.9%、C=O結合が4.3%、O=C−O結合が2.9%、O=C−O−O結合が5.8%存在していた。
表6に、各コロナ放電処理時間を施したセル表面の炭素結合状態の存在割合をまとめて示す。
コロナ放電処理4秒のセル表面には、特に、親水性が高いアルコール基を含むC−O結合の割合が21.1%存在し、上述したコロナ放電処理1秒セル表面のC−O結合の割合6.4%より15%程度高かった。またコロナ放電処理7秒のセル表面には、特に、親水性が高いアルコール基を含むC−O結合の割合が29.9%と高く、コロナ放電処理1秒セル表面のC−O結合の割合6.4%より23%程度高かった。このことがコロナ放電処理時間を1秒から4秒、7秒へと長くすることで、75℃で240時間の熱処理後においても、親水性が保たれ、気泡付着が起こらなかったことの理由である。
上述した表2、表4及び表6で述べたXPSの測定結果を得るための実験条件は、XPSの検出器の検出角度を90度固定にしておこなった。樹脂表面のXPS分析を行う際に、検出角度を90度に固定した場合、得られる樹脂表面の情報は最表面から6nm程度の深さである。そこで、放電時間の長短及び熱処理による親水性の違いを詳細に調べるために、XPS検出角度を60度、30度に変化させることで、それぞれ最表面から約5nmまで、約3nmまでの表面組成分析をおこなった。コロナ放電処理したセルのうち、熱処理後に最も接触角が高くなった放電時間1秒のセルと、熱処理後に最も接触角が低かった放電時間7秒のセルとで比較する。
表7に、XPS測定のC1sのナロースキャン結果より求まった、高親水性のアルコール基を含むC−O結合の表面への導入率(%)を検出角度ごとに示す。ここでの表面へのC−O結合導入率(%)とは、C1sのナロースキャン結果より求まった、C−O結合割合(%)/[C−O結合割合(%)+C=O結合割合(%)+O=C−O結合割合(%)+O=C−O−O結合割合(%)]と酸素相対存在率の積である。
その結果、コロナ放電処理1秒のセルでは検出角度30度の時に、熱処理前は5.7%であったC−O結合導入率が、熱処理後1.1%まで減少していた。同セルでは検出角度60度の時に、熱処理前は4.4%であったC−O結合導入率が、熱処理後3.2%まで減少していた。一方、検出角度90度の時に、熱処理前は1.6%であったC−O結合導入率が、熱処理後3.6%に増加していた。このことから、熱処理前は検出角度30度すなわち最表面から3nm程度範囲で最もC−O結合導入率が高かったが、熱処理後は検出角度90度すなわち最表面から6nm程度範囲で最もC−O結合導入率が高かった。従って、コロナ放電1秒のセルでは、熱処理前では最表面から3nm範囲に多く存在した親水性の高いC−O結合が、最表面から6nm範囲の深い方向に移動したことがわかった。このことが熱処理に伴う親水性の低下や気泡付着の発生の原因であることがわかった。
一方、コロナ放電処理7秒のセルでは検出角度30度の時に、熱処理前は5.0%であったC−O結合導入率が、熱処理後5.6%であり減少しなかった。同セルでは検出角度60度の時に、熱処理前は6.7%であったC−O結合導入率が、熱処理後6.2%でありほとんど変化していなかった。また、検出角度90度の時に、熱処理前は6.4%であったC−O結合導入率が、熱処理後5.7%でありほとんど変化していなかった。このことから、コロナ放電処理7秒のセルでは熱処理に伴うC−O結合導入率の変化がほとんどないことがわかった。このことがコロナ放電処理7秒のセルが親水性を長期に保持できる理由である。
上述したようにコロナ放電時間はセル表面への酸素相対存在率、C−O結合導入率及び気泡付着に関連性が高い。そこで、上記の結果をまとめて図12に示す。図12の横軸はコロナ放電時間(秒)であり、酸素相対存在率(%)511とC−O結合導入率(%)512は第1軸の導入率(%)により示される。また、図中の気泡付着率(%)513は第2軸の気泡付着率(%)により示される。気泡付着率とは、熱処理後のセル評価数100個に対して気泡付着が発生したセルの割合である。放電時間の増加に伴い、酸素相対存在率は単調に増加する。酸素相対存在率の増加に伴い気泡付着率は低減し、放電時間1秒で70%、放電時間4秒、7秒、10秒で0%であった。一方、C−O結合導入率は、放電時間1秒の時に2.0%、4秒の時に4.2%、7秒の時に6.4%で極大となった後、10秒で4.5%であった。C−O結合が放電時間7秒付近でセル表面に十分に導入され、より長い時間放電処理されることで酸化度の高いC=O結合系(C=O結合、O=C−O結合、O=C−O−O結合)へ変換されたためである。C=O結合系は、340nm付近に光吸収を持つ。自動分析装置用反応セルに求められるのは300nm〜800nmの範囲での高い光透過率である。従って、C=O結合を含む結合の生成は抑制することが望ましい。この結果、コロナ放電時間7秒の処理によって形成された反応セルが光透過率と親水性長期保持の両観点から好ましい。
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例3> アクリルアミドのグラフト重合処理による局所的親水化
ここでは、アクリルアミドのグラフト重合処理によるセル表面の局所的親水化の実施例を示す。実施例1と同じポリシクロオレフィンからなる自動分析装置用反応セルを準備した。ここでは、実施例1と同様の条件で部分的なコロナ放電処理を行い、セルの測光面内壁部の底面から所望の高さまでの部分を局所的親水化した。セル表面にO=C−O−Oをはじめとする過酸化物が多く存在するので、これを開始剤として用い、別に重合開始剤を添加することなくグラフト重合を行わせることができると考えた。実施例2の表6で示したように、コロナ放電処理10秒を施したセル表面の過酸化物(O=C−O−O)の割合は7.0%であり、コロナ放電処理1秒を施したセル表面の過酸化物(O=C−O−O)の割合2.8%よりも多く存在することから、グラフト重合にはコロナ放電処理10秒を施したセルを使用するのが好ましい。
以下に、親水性ビニルモノマーのグラフト重合処理によるセル内壁部の局所的親水化法の詳細を述べる。図9は、反応セルの内壁部に親水性グラフトポリマーを形成するプロセスをフローチャートによって示したものである。
工程1.セル内壁部の洗浄。
具体的には、実施例1と同様、セルの内壁部にエタノール600μlを入れ、24時間放置し、エタノール除去後、真空デシケーターによる乾燥によってセル内壁部を清浄化する。
工程2.大気中でのセル局所部分コロナ放電処理。
具体的には、実施例2で述べた方法と同様に、大気中でセルの測光面内壁部2面の底面から所望の高さまでの部分にコロナ放電処理を10秒間行う。
工程3.親水性ビニルモノマー溶液の酸素除去。
具体的には、親水性ビニルモノマー溶液をフラスコに入れ、窒素ガスを送り込みバブリングすることで親水性ビニルモノマー溶液中の酸素を除去する。
工程4.セルへの親水性ビニルモノマー溶液の注入。
工程3によって酸素濃度を低減した親水性ビニルモノマー溶液を2のセルに600μl注入する。この際、該親水性ビニルモノマーとして、アクリルアミド、ビニルスルホン酸ナトリウム、メタクリル酸ヒドロキシルエチルエステル、メタクリル酸ポリエチレングリコール、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル、酢酸ビニル、メタクリル酸グリシジル、などを初めとする親水性ビニルモノマーの少なくとも1つを用いることができる。
工程5.セルの窒素雰囲気下への閉じ込め。
具体的には、工程4の親水性ビニルモノマーを注入したセルを2口フラスコに入れ、フタをしたところへ窒素ガスを送り込み、フラスコ内を窒素雰囲気とする。
工程6.凍結真空脱気。
具体的には、液体窒素と10Pa程度の真空度を達成できるロータリーポンプを利用した、Freeze-Pump-Thawサイクルを4回繰り返すことによって、2口フラスコ内を凍結真空脱気し、窒素雰囲気とした。
工程7.加熱によるグラフト重合。
具体的には、50℃に保ったウォーターバス内に、工程6の2口フラスコを入れて加熱し、グラフト重合を行う。
工程8.セルの洗浄。
具体的には、工程7でグラフト重合を施した反応セルの内壁部を純水により洗浄した後、真空デシケーターによってセルを乾燥させる。
この方法によって、セル内壁部に局所的にグラフト重合処理による親水化を施すことができる。なお、工程1を実施せず、工程2から工程8までを実施しても差し支えない。図10は、グラフト重合処理により部分親水化された測光面内壁部の断面模式図である。セル410の測光面内壁部表面411上に疎水性部分412と親水性部分413が存在し、親水性部分413に親水性グラフトポリマー414が存在する。親水性グラフトポリマーは、親水性置換基415が導入されている。親水性置換基415は、用いる親水性モノマーによって代わる。例えば、親水性モノマーがアクリルアミドの場合、置換基415はCONH2である。親水性モノマーがビニルスルホン酸ナトリウムの場合、置換基415はSO3Naである。親水性モノマーが酢酸ビニルの場合、置換基415はOCOCH3である。また、この時、親水性部分413は、セル内壁部のコロナ放電処理された部分に相当し、ここにはグラフトポリマー414のみならず、親水基416も存在する。親水基416は親水性置換基417を備え、親水性置換基417は例えば、水酸基、エーテル基、カルボキシル基、カルボニル基などの親水性の高い置換基である。
本実施例では、図9に示したフローチャートの工程3で使用する親水性ビニルモノマー溶液として、アクリルアミドの10%水溶液を使用し、フローチャートの工程7の加熱時間を3時間とした。親水性ビニルモノマー溶液を使用するのであれば、その溶液濃度や加熱時間は、実施例3〜7の方法に限定されない。
アクリルアミドをグラフト重合処理したセル表面の炭素と酸素と窒素の相対存在比率を比較するために、実施例2と同様の方法でXPS測定を行った。測定は、1400eV〜−20eVの範囲で、Pass Energyを20eVとしてワイドスキャンを行った。表8に、X線光電子分光(XPS)によって求まったアクリルアミドをグラフト重合処理したセル表面の炭素、酸素、窒素相対存在比率を示す。
アクリルアミドをグラフト重合処理したセル表面には、窒素が相対存在率1.1%で存在しており、酸素相対存在率は7.9%であった。実施例2の表2で示したように、コロナ放電処理(1秒、10秒)を施したセル表面で検出されなかった窒素が、アクリルアミドをグラフト重合処理したセル表面に存在したことから、アクリルアミドがセル表面にたしかにグラフト化していることがわかった。
実施例1と同様の方法で、アクリルアミドをグラフト重合処理したセルの気泡付着の有無を調べた。親水性の劣化を加速的に評価するためにアクリルアミドをグラフト重合処理したセルを75℃に保たれた恒温槽で240時間熱処理した結果と共に示す。表9に、アクリルアミドをグラフト重合処理したセルの接触角と気泡付着の有無を示す。
表9に示すように、グラフト重合処理直後(経過時間0時間)の接触角は、55度であったが、75℃で240時間加熱後の接触角は78度であった。グラフト重合処理直後、240時間経過後ともに気泡の付着は起こらなかった。
また、一旦、75℃で240時間経過させたセル内に純水を600μl入れ室温で水浸漬した後、セル表面の接触角を測定した。未処理のセル表面の接触角は90度であり、アクリルアミドをグラフト重合処理したセル表面の接触角は55度である。アクリルアミドをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間経過させた後の表面の接触角は78度である。アクリルアミドをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間経過させた後、水浸漬した後のセル表面の接触角は55度である。加熱処理後もグラフト重合処理後と同程度の親水性を示した。いったん、75℃の高温加熱によって親水性が低下したセル表面が、水浸漬することで親水性を取り戻した。なお、アクリルアミドをグラフト重合処理したセル内において、もともとコロナ放電処理を施していない面の接触角は90度であり、コロナ放電未処理のセル表面と同様であった。したがって、グラフト重合処理は、セル内のコロナ放電処理を施した部分に対してのみ選択的に施せる。
ついで、アクリルアミドをグラフト重合処理したセル表面の元素分析を75℃、240時間加熱処理前後で行った。分析にはXPSを用いた。アクリルアミドをグラフト重合処理したセルの作製後の表面の酸素含有率は、表8で述べたとおり7.9%であった。このセルを75℃で240時間加熱した後の表面の酸素含有率は6.8%であった。加熱による酸素濃度の低下は1割程度であり、実施例2のコロナ放電を10秒処理したセルよりも酸素減少の割合が少なく、熱に対する安定性が高い。
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例4> 酢酸ビニルのグラフト重合処理による局所的親水化
実施例3と同様に、酢酸ビニルのグラフト重合処理によるセル表面の局所的親水化を行った。本実施例では、実施例3の図9に示したフローチャートの工程3で使用する親水性ビニルモノマー溶液として、酢酸ビニルの100%を使用し、フローチャートの工程7の加熱時間を2時間とした。
酢酸ビニルをグラフト重合処理したセル表面の炭素と酸素と窒素の相対存在比率を比較するために、実施例2と同様の方法でXPS測定を行った。測定は、1400eV〜−20eVの範囲で、Pass Energyを20eVとしてワイドスキャンをおこなった。表10に、XPSによって評価したセル表面の炭素、酸素、窒素相対存在比率を示す。酢酸ビニルをグラフト重合処理したセル表面の酸素相対存在率は5.7%であった。
実施例1と同様、酢酸ビニルをグラフト重合処理したセルの気泡付着の有無を調べた。親水性の劣化を加速評価するために酢酸ビニルをグラフト重合処理したセルを75℃に保たれた恒温槽に240時間保管した。表11に、酢酸ビニルをグラフト重合処理したセルの接触角と気泡付着挙動の熱処理による変化を示す。
その結果、75℃加熱0時間の接触角は、79度であったが、75℃で240時間熱処理後の接触角は85度であった。また、0時間、240時間経過後とともに気泡の付着は起こらなかった。加熱による接触角の変化が6度と小さく、比較的安定な表面を保持している。なお、酢酸ビニルをグラフト化したセル内の表面において、コロナ放電の処理されていない領域の接触角は90度であり、未処理のセル表面と同様であった。ここでも、グラフト重合処理は、セル内のコロナ放電処理を施した部分にのみ選択的に施せた。
ついで、酢酸ビニルをグラフト重合処理したセル表面の元素分析を、75℃で240時間熱処理前後でのXPS測定によって実行した。酢酸ビニルをグラフト重合処理したセル表面の酸素含有率は、5.7%であった。酢酸ビニルをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間加熱後の表面の酸素含有率は5.6%であった。加熱による酸素の減少はわずかに0.1%であり、ほとんど無視できる。実施例2のコロナ放電を10秒間処理したセルよりも酸素減少の割合が少なく、熱に対する安定性が非常に高い。
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例5> 酢酸ビニルのグラフト重合処理後加水分解処理による局所的親水化
実施例4と同様の方法で、酢酸ビニルをグラフト重合処理したセルを作製した。その後、セル内に1M(mol/l)の水酸化ナトリウム水溶液を600μl注入し、セル全体を50℃で1時間加熱することでエステル基の加水分解を行い、親水性を向上させた。この際、加水分解に用いる溶液は、水酸化ナトリウム水溶液に限定されず、一般的なアルカリ溶液を用いればよい。また、その際の溶液濃度や加熱時間は、上記反応条件に限定されない。
酢酸ビニルをグラフト化したセル表面の炭素と酸素と窒素の含有率を比較するために、実施例2と同様の方法でXPS測定を行った。測定は、1400eV〜−20eVの範囲で、Pass Energyを20eVとしてワイドスキャンを行った。表12に、XPSによって評価した酢酸ビニルのグラフト重合処理後加水分解処理したセル表面の炭素、酸素、窒素相対存在比率を示す。酢酸ビニルのグラフト重合処理後加水分解処理したセル表面の酸素相対存在率は5.8%であった。
実施例1と同様、酢酸ビニルのグラフト重合処理後加水分解処理したセルの気泡付着の有無を調べた。親水性の劣化を加速評価するために酢酸ビニルのグラフト重合処理後加水分解処理したセルを75℃に保たれた恒温槽で240時間熱処理した結果と共に示す。表13に酢酸ビニルのグラフト重合処理後加水分解処理したセルの接触角と気泡付着の有無を示す。
75℃加熱0時間の接触角は、71度であったが、75℃で240時間経過後の接触角は76度であった。0時間、240時間経過後においても気泡の付着は起こらなかった。加熱による接触角の変化が5度と小さく、セル表面の親水性は安定である。また、実施例4の酢酸ビニルをグラフト重合処理したセル表面の接触角よりも、その後加水分解処理したセル表面の接触角の方が低い(表11、表13)。すなわち加水分解処理により親水性を高めることができる。
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例6> ビニルスルホン酸ナトリウムのグラフト重合処理による局所的親水化
実施例3と同様に、ビニルスルホン酸ナトリウムのグラフト重合処理によるセル表面の局所的親水化を行った。本実施例6では、実施例3の図9に示したフローチャートの工程3で使用する親水性ビニルモノマー溶液として、ビニルスルホン酸ナトリウムの25%水溶液を使用し、フローチャートの工程7の加熱時間を3時間として実施した。
ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト化したセル表面の蛍光X線分析を行った。装置には、リガク社製蛍光X線分析装置System3272を使用した。その結果、未処理のセルで検出されなかったS(硫黄)が検出された。このことから、ビニルスルホン酸ナトリウムがセル表面に結合していることが確認できた。
実施例1と同様、ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト重合処理したセルの気泡付着の有無を調べた。また、親水性(接触角)の劣化を加速評価するためにビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト重合処理したセルを75℃の恒温槽に240時間保管した。表14に、ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト重合処理したセルの接触角と気泡付着挙動の熱処理による変化を示す。その結果、グラフト重合後の接触角は、69度であったが、これを75℃で240時間加熱後の接触角は74度であった。加熱の有無に関わらず気泡の付着は起こらなかった。
また、実施例3と同様に、ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間加熱させた後、該セル内に純水を600μl入れ室温で24時間放置(水浸漬)した後、セル表面の接触角を測定した。未処理のセル表面の接触角は90度であり、ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト重合処理したセル表面の接触角は69度である。ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間加熱した後の表面の接触角は74度である。このように本実施例のセル表面は75℃の加熱によっても接触角が5度しか増加せず安定な親水性表面である。ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間加熱した後、水浸漬した表面の接触角は64度である。いったん、75℃の高温加熱によって親水性が低下したセル表面が、水浸漬することで親水性を回復し、グラフト重合処理後よりも親水性が高まった。加熱処理後もグラフト重合処理後と同程度の親水性を示した。なお、ビニルスルホン酸ナトリウムをグラフト化したセル内において、コロナ放電処理を施していない部分の接触角は90度であり、コロナ放電処理前のセル表面と同様であった。したがって、ここでもグラフト重合処理は、セル内のコロナ放電処理を施した領域のみを選択的に親水化している。
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例7> メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルの重合処理による局所的親水化
実施例3と同様に、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルのグラフト重合処理によるセル表面の局所的親水化を行った。本実施例7では、実施例3の図9に示したフローチャートの工程3で使用する親水性ビニルモノマー溶液として、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルの10%水溶液を使用し、フローチャートの工程7の加熱時間を3時間とした。
実施例1と同様の方法で、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルをグラフト重合処理したセルの気泡付着の有無を調べた。また、親水性の変化を加速評価するためにメタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルでグラフト重合処理したセルを75℃の恒温槽に240時間保管した。表15に、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルをグラフト重合処理したセルの接触角の変化と気泡付着挙動の熱処理による変化を示す。グラフト重合直後(75℃加熱0時間)の接触角は、67度であったが、75℃で240時間加熱後の接触角は72度であった。グラフト重合処理したセルは熱処理の有無に関わらず気泡の付着は起こらなかった。
また、実施例3と同様に、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間加熱した後、該セル内に純水を600μl入れ室温で24時間放置した後、セル表面の接触角を測定した。未処理のセル表面の接触角は90度であり、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルをグラフト重合処理したセル表面の接触角は67度である。メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルをグラフト重合処理したセルを75℃で240時間加熱した後の表面の接触角は72度である。メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルをグラフト重合処理したセルを75℃加熱をしても、接触角が5度しか変化せず親水性がほとんど変化しない安定な親水性表面である。
メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルでグラフト重合処理したセルを75℃で240時間経過させた後、水浸漬した表面の接触角は61度である。いったん、75℃の加熱によって親水性が低下したセル表面が、水浸漬することで親水性を取り戻し、グラフト重合直後よりも親水性が増加した。なお、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテルをグラフト化したセル内において、もともとコロナ放電処理を施していない面や部分の接触角は90度のままであり、コロナ放電未処理のセル表面と同様であった。したがって、グラフト重合処理は、セル内のコロナ放電処理を施した部分のみに選択的に施せる。
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例8> 自動分析装置における実施例
図11は、本発明による自動分析装置の構成例を示す図であり、次にその基本動作を述べる。1はサンプル収納部であり、この機構1には、一つ以上のサンプル容器25が配置されている。ここでは、ディスク状の機構部に搭載されたサンプル収納部機構であるサンプルディスク機構の例で説明するが、サンプル収納部機構の他の形態としては自動分析装置で一般的に用いられているサンプルラックまたはサンプルホルダー状の形態であってもよい。またここで言うサンプルとは、反応容器で反応させるために使用する被検査溶液のことを指し、採集検体原液でもよく、またそれを希釈や前処理等の加工処理をした溶液であってもよい。サンプル容器25内のサンプルは、サンプル供給用分注機構2のサンプルノズル27によって抽出され、所定の反応容器に注入される。5は試薬ディスク機構であり、この機構5は、多数の試薬容器6を備えている。また、機構5には、試薬供給用分注機構7が配置されており、試薬は、この機構7の試薬ノズル28によって、吸引され所定の反応セルに注入される。10は分光光度計、26は集光フィルタつき光源であり、分光光度計10と集光フィルタつき光源26の間に、測定対象を収容する反応ディスク3が配置される。この反応ディスク3の外周上には、例えば、親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する120個の反応セル4が設置されている。なお、この親水性部分は反応セルの閉口部側に限定されているが、測光領域を十分に包含する面積を有している。一方、疎水性部分は反応セルの開口部側にあり、溶液の毛管現象による濡れ上がりを防止している。また、反応ディスク3の全体は、恒温槽9によって、所定の温度に保持されている。11は反応セル洗浄機構であり、洗浄剤容器13から洗浄剤は供給される。19はコンピュータ、23はインターフェース、18はLog変換器及びA/D変換器、17は試薬用ピペッタ、16は洗浄水ポンプ、15はサンプルピペッタである。また、20はプリンタ、21はCRT、22は記憶装置としてのフロッピーディスクやハードディスク、24は操作パネルである。サンプルディスク機構は駆動部200により、試薬ディスク機構は駆動部201により、反応ディスクは駆動部202により、それぞれインターフェースを介して制御並びに駆動されている。また自動分析装置の各部はインターフェースを介してコンピュータにより制御される。
上述の構成において、操作者は、操作パネル24を用いて分析依頼情報の入力を行う。操作者が入力した分析依頼情報は、マイクロコンピュータ19内のメモリに記憶される。サンプル容器25に入れられ、サンプルディスク機構1の所定の位置にセットされた測定対象サンプルはマイクロコンピュータ19のメモリに記憶された分析依頼情報に従って、サンプルピペッタ15及びサンプル供給用分注機構2のサンプルノズル27によって、反応セルに所定量分注される。サンプルノズル27は水洗浄される。当該反応セルに試薬供給用分注機構7の試薬ノズル28によって、所定量の試薬が分注される。試薬ノズル28は水洗浄された後、次の反応セルのための試薬を分注する。サンプルと試薬の混合液は、撹拌機構8の攪拌棒29や超音波素子によって撹拌される。撹拌機構8は順次、次の反応セルの混合液を撹拌する。親水性部分と疎水性部分から成る反応セルを用いれば、攪拌によって巻きこまれた気泡がセル内壁表面の測光領域に吸着することがないので分析データに影響を与えることがない。
反応セル4は恒温槽9により一定温度に保持されており、反応と測光容器の両方を兼ねる。反応の過程は集光フィルタつき光源26から光を供給し、一定時間ごとに反応セルの親水性部分が分光光度計10によって測光され、設定された1つまたは1つ以上の波長を用いて混合液の吸光度は測定される。測定の際、集光フィルタつき光源を用いることで、反応セルの親水性部分のみを選択的に光透過させることができる。
図16は、自動分析装置の分光光度計周辺図である。集光フィルタとして集光レンズを使用した例を示す。光源32から出た光は矢印38の進路方向に進み、集光レンズ34により集光され、反応セルの測光領域36を透過し、分光光度計10により分光される。この時、光源から出た光の広がり幅33がL1であったものが、集光レンズで集光され光の広がり幅L2に変換され、L2<L1となる。これによって、測光領域36の大きさS1を親水性領域37の大きさS2よりも小さくすることができる。集光レンズを使用し、S1<S2とすることで、気泡付着が起こらずに測光することができる。
また、集光フィルタとして、上記集光レンズ34の代わりにスリット45を使用した例を図17に示す。スリット窓46の大きさをS3とし、先述の親水性領域の大きさS2と比較し、S3<S2とすることで気泡付着が起こらずに測光することができる。
反応セルの親水性部分は気泡付着が起こらないため、吸光測定のばらつきが少なく精度が高い。同様に反応セルの内壁部に親水性部分があるため、反応セルの測光面や底面に検出障害となる気泡が吸着しないので、反応セルに光を透過させる領域を底面近くに設定できる。したがって、反応セルに入れるサンプルや試薬の量を大幅に減らすことができ、ユーザのランニングコスト低減の観点から有用である。本発明の反応セルを使用することで、試薬とサンプル溶液を合わせた反応溶液量を従来の1/2またはそれ以下に低減して自動分析を実施できた。
測定された吸光度は、Log変換器及びA/D変換器18、インターフェース23を介してコンピュータ19に取り込まれる。取り込まれた吸光度は濃度値に換算され、濃度値はフロッピーディスクやハードディスク22に保存したり、プリンタ20に出力される。また、CRT21に検査データを表示させることもできる。測定が終了した反応セル4は反応容器洗浄機構(ノズルアーム)11により水洗浄される。洗浄の終了した反応セルは吸引ノズル12により水を吸引された後、次の分析に順次使用される。
このように、親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する反応セル4を搭載して自動分析を行った結果、毛管現象で検査液が反応セルの開口部まで登る現象は無かった。すなわち、隣接する反応セルの試薬と混ざり合う相互汚染やクロスコンタミネーションがおこらなかった。また、気泡吸着がないため、測定誤差が低減した。一方、反応セルの内壁を底から開口部まで親水化すると相互汚染やクロスコンタミネーションが起こった。
なお、本実施例では、測光面内壁部の底面から所望の高さまでの部分を局所的に親水化した反応セルを用いて、反応溶液量を極小化した場合に自動分析を行った例を示したが、本発明は上記の親水化する領域の大きさや反応溶液量に限定されるものではない。また、測光領域の内壁部の親水性が高い反応セルであれば、気泡付着がなく、かつ相互汚染やクロスコンタミネーションが起こらずに安定な自動分析を実施できる。
さらに、実施例2〜7と同様に反応セル内に注水すると、セルの親水部分の親水性をより高めることができ、一層安定な分析が実施できる。なお、ここで注水に用いる水は純水でもよいが、純水に限らず親水性をさらに高める効果をもった添加剤を添加した溶液でもよい。また、同効果を得るためには、液状に限らず微粉末や霧状や気体状のものを用いてもよい。したがって、反応セルを水浸漬させた後、自動分析装置を使用するのが望ましい。