最近、画像や音楽などのデータをパソコンとの間で交換するなど、小型の情報機器間でデータを移動する際、AV(Audio Visual)ケーブルやUSB(Universal Serial Bus)ケーブルなどの汎用ケーブルで相互接続したデータ通信やメモリカードなどのメディアを媒介にする方法に代わって、無線インターフェースを利用することが増えてきている。後者によれば、データ伝送の度にコネクタの付け替え作業をしてケーブルを引き回す必要がなく、ユーザの利便性が高い。各種のケーブルレス通信機能を搭載した情報機器も多く出現している。小型機器間でケーブルレスによりデータ伝送を行なう方法として、IEEE802.11に代表される無線LAN(Local Area Network)やBluetooth(登録商標)通信を始めとして、アンテナを用いて無線信号の送受信を行なう電波通信方式が開発されている。
また、近年注目されている「ウルトラワイドバンド(UWB)」と呼ばれる通信方式は、3.1GHz〜10.6GHzという非常に広い周波数帯域を使用し、近距離ながら100Mbps程度の大容量の無線データ伝送を実現する無線通信技術であることから、例えば動画像やCD1枚分の音楽データといった大容量のデータを高速且つ短時間で転送することができる。
UWB通信は、送信電力の関係から通信距離が10m程度であり、PAN(Personal Area Network)などの近距離向けの無線通信方式が想定される。例えば、IEEE802.15.3などにおいて、UWB通信のアクセス制御方式として、プリアンブルを含んだパケット構造のデータ伝送方式が考案されている。また、米インテル社は、UWBのアプリケーションとして、パソコン向けの汎用インターフェースとして普及しているUSB(Universal Serial Bus)の無線版を検討している。
また、UWB通信は、3.1GHz〜10.6GHzという伝送帯域を占有しなくても100Mbpsを超えるデータ伝送が可能であることやRF回路の作り易さを考慮して、3.1〜4.9GHzのUWBローバンドを使った伝送システムも開発が盛んである。
ここで、日本国内の電波法の下では、無線設備から3メートルの距離での電界強度(電波の強さ)が所定レベル以下、すなわち近隣に存在する他の無線システムにとってノイズ・レベル程度となる微弱無線であれば、無線局の免許を受ける必要はなく、無線システムの開発・製造コストを削減することができる。上述したUWB通信は、送信電力の関係から、比較的低い電界レベルで近距離向けの無線通信システムを構成することができる。しかしながら、アンテナを用いて無線信号の送受信を行なう電波通信方式によりUWB通信システムを構成した場合、発生電界をかかる微弱レベルに抑えることは困難である。
従来の無線通信システムの多くは電波通信方式を採用したものであり、空中線(アンテナ)に電流を流した際に発生する放射電界を利用して信号を伝搬させるものである。この場合、送信機側からは通信相手がいるかどうかに拘わらず電波を放出するので、近隣の通信システムに対する妨害電波の発生源になってしまうという問題がある。また、受信機側のアンテナは、送信機からの所望波だけでなく、遠方から到来した電波も受信するので、周囲の妨害電波の影響を受け易く、受信感度低下の原因になる。また、通信相手が複数存在する場合には、その中から所望の通信相手を選択するために複雑な設定を行なう必要がある。例えば、狭い範囲で複数の組の無線機が無線通信を行なう場合は、互いの干渉を回避するために、周波数選択などの分割多重を行なって通信を行なう必要がある。また、電波は偏波の向きが直交すると通信することができないため、送受信機間では互いのアンテナの偏波方向が揃っている必要がある。
例えば、数ミリ〜数センチメートルといった至近距離での非接触データ通信システムを考えた場合、近距離では送受信機が強く結合する一方、他のシステムへの干渉を回避するために遠距離まで信号が到来しないことが好ましい。また、データ通信する機器同士を至近距離に接近させた際の互いの姿勢(向き)に依存せず、結合すること、すなわち指向性がないことが望ましい。また、大容量データ通信を行なうには、広帯域通信が可能であることが望ましい。
無線通信には、上記の放射電界を利用した電波通信以外にも、静電界や誘導電界などを利用した通信方式が挙げられる。例えば、主にRFID(Radio Frequency IDentification)に利用されている既存の非接触通信システムでは、電界結合方式や電磁誘導方式が適用されている。静電界や誘導電界は発生源からの距離に対し、それぞれ距離の3乗並びに2乗に反比例することから、無線設備から3メートルの距離での電界強度(電波の強さ)が所定レベル以下となる微弱無線が可能であり、無線局の免許を受ける必要はない。また、この種の非接触通信システムは、伝送信号は距離に応じて急峻に減衰するので、通信相手が近くに存在しないときには結合関係が生じないので、他の通信システムを妨害することはない。また、遠方から電波が到来してきても、結合器(カプラ)が電波を受信しないので、他の通信システムからの干渉を受けなくて済む。すなわち、誘導電界や静電界を利用した電界結合による非接触・超近距離通信は微弱無線の実現に適していると言える。
非接触による超近距離通信システムは、通常の無線通信システムに対し、幾つかの利点がある。例えば、比較的距離の離れた機器同士で無線信号のやり取りを行なう場合、周辺の反射物の存在や通信距離の拡大に応じて無線区間の信号の質が低下してしまうが、近距離通信によれば周辺環境の依存はなく、高い伝送レートを用いて誤り率の少ない高品質の伝送が可能である。また、超近距離通信システムでは、伝送データを傍受する不正な機器が介在する余地はなく、伝送路上でハッキングの防止や秘匿性の確保を考慮する必要がない。
また、電波通信では、アンテナは使用波長λの2分の1又は4分の1程度の大きさを持つ必要があることから、装置は必然的に大型化してしまう。これに対し、誘導電界や静電界を利用した超近距離通信システムでは、このような制約はない。
例えば、複数の通信補助体間にRFIDタグが位置するように配置した通信補助体組を形成し、通信補助体間に挟むように複数の商品に付けられたRFIDタグを配置することにより、RFIDタグが重なり合った状態であっても、情報の安定した読み取り・書き込みが可能となるRFIDタグ・システムについて提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
また、装置本体とこの装置本体を身体に装着するための装着手段とを備えるとともに、アンテナ・コイルとこのアンテナ・コイルを介して外部の通信装置と非接触でデータ通信を行うデータ通信手段を備え、装置本体の上部に設けられたアウターケースにアンテナ・コイルとデータ通信手段とを配置して、誘導磁界を用いたデータ通信装置について提案がなされている(例えば、特許文献2を参照のこと)。
また、携帯情報機器に挿入されるメモリカードに外部機器とデータ通信を行なうためのアンテナ・コイルを搭載し、携帯情報機器のメモリカード挿入口の外側にRFIDのアンテナ・コイルが配置される構造として、携帯性を損なうことなく通信距離を確保したRFIDを有する携帯電話機について提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。
静電界や誘導電界を利用した従来のRFIDシステムは、低周波数信号を用いているため通信速度が遅く、大量のデータ伝送には不向きであった。また、アンテナ・コイルによる誘導磁界を用いて通信する方式の場合には、コイルの背面に金属板があると通信を行なうことができず、コイルを配置する平面上に大きな面積が必要となるなど、実装上の問題もある。また、伝送路における損失が大きく、信号の伝送効率がよくない。
これに対し、本発明者らは、高周波信号を電界結合で伝送すること、すなわち、静電界若しくは誘導電界による電界結合、あるいは誘導磁界による磁界結合を利用して上記のUWB通信信号を伝送する超近距離通信システムにより、無線局として免許取得が不要な微弱電界により、秘匿性を考慮した高速データ伝送を実現することができる、と考えている。静電界若しくは誘導電界を利用したUWB通信システムでは、例えば動画像やCD1枚分の音楽データといった大容量のデータを高速且つ短時間で転送することができる、と本発明者らは考えている。
特開2006−60283号公報
特開2004−214879号公報
特開2005−18671号公報
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
本発明は、静電界や誘導電界の電界結合を利用して情報機器間でデータ伝送を行なう通信システムに関する。静電界若しくは誘導電界に基づく通信方式によれば、通信相手が近くに存在しないときには結合関係がなく電波を放射しないので、他の通信システムを妨害することはない。また、遠方から電波が到来してきても、結合器が電波を受信しないので、他の通信システムからの干渉を受けなくて済む。
また、アンテナを用いた従来の電波通信では放射電界の電界強度が距離に反比例するのに対し、誘導電界では電界強度が距離の2乗に、静電界では電界強度が距離の3乗に反比例して減衰することから、電界結合に基づく通信方式によれば、近隣に存在する他の無線システムにとってノイズ・レベル程度となる微弱無線を構成することができ、無線局の免許を受ける必要はなくなる。
なお、時間的に変動する静電界のことを「準静電界」と呼ぶこともあるが、本明細書ではこれを含めて「静電界」に統一して称することにする。
従来の静電界若しくは誘導電界を利用した通信では、低周波信号を用いるため大量のデータ伝送には不向きである。これに対し、本発明に係る通信システムでは、高周波信号を電界結合で伝送することによって、大容量伝送が可能である。具体的には、UWB通信のように高周波、広帯域を使用する通信方式を電界結合に適用することで、微弱無線であるとともに、大容量データ通信を実現することができる。
UWB通信は、3.1GHz〜10.6GHzという非常に広い周波数帯域を使用し、近距離ながら100Mbps程度の大容量の無線データ伝送を実現することができる。また、UWB通信は、3.1GHz〜10.6GHzという伝送帯域を占有しなくても100Mbpsを超えるデータ伝送が可能であることやRF回路の作り易さを考慮して、3.1〜4.9GHzのUWBローバンドを使った伝送システムも開発が盛んである。
本発明者らは、UWBローバンドを利用したデータ伝送システムを、モバイル機器に搭載する有効な無線通信技術の1つと考えている。例えば、ストレージ・デバイスを含む超高速な近距離用のDAN(Device Area Network)など、近距離エリアにおける高速データ伝送を実現することが可能である。静電界や誘導電界などの電界結合を利用したUWB通信システムによれば、微弱電界によるデータ通信が可能であるとともに、例えば動画像やCD1枚分の音楽データといった大容量のデータを高速且つ短時間で転送することができる、と考えている。
図1には、静電界若しくは誘導電界による電界結合を利用した非接触通信システムの構成例を示している。図示の通信システムは、データ送信を行なう送信機10と、データ受信を行なう受信機20で構成される。同図に示すように送受信機それぞれの高周波結合器を向かい合わせて配置すると、2つの電極が1つのコンデンサとして動作し、全体としてバンドパス・フィルタのように動作することから、2つの高周波結合器の間で効率よく高周波信号を伝達することができる。図示の通信システムにおいて、電界結合による伝送路を好適に形成するには、送受信機の高周波結合器間において、十分なインピーダンス整合がとられていることと、高周波数帯で且つ広帯域において有効に動作することが必要である。
送信機10及び受信機20がそれぞれ持つ送受信用の電極14及び24は、例えば3cm程度離間して対向して配置され、電界結合が可能である。送信機側の送信回路部11は、上位アプリケーションから送信要求が生じると、送信データに基づいてUWB信号などの高周波送信信号を生成し、送信用電極14から受信用電極24へ信号が伝搬する。そして受信機20側の受信回路部21は、受信した高周波信号を復調及び復号処理して、再現したデータを上位アプリケーションへ渡す。
UWB通信のように高周波、広帯域を使用する通信方式によれば、近距離において100Mbps程度の超高速データ伝送を実現することができる。また、電波通信ではなく電界結合によりUWB通信を行なう場合、その電界強度は距離の3乗若しくは2乗に反比例することから、無線設備から3メートルの距離での電界強度(電波の強さ)が所定レベル以下に抑制することで無線局の免許が不要となる微弱無線とすることが可能であり、安価に通信システムを構成することができる。また、電界結合方式により超近距離でデータ通信を行なう場合、周辺に存在する反射物により信号の質が低下することはない、伝送路上でハッキングの防止や秘匿性の確保を考慮する必要がない、といった利点がある。
一方、波長に対する伝搬距離の大きさに応じて伝搬損が大きくなることから、電界結合により高周波信号を伝搬する際には、伝搬損を十分低く抑える必要がある。UWB信号のように高周波数の広帯域信号を電界結合で伝送する通信方式では、3cm程度の超近距離通信であっても、使用周波数帯4GHzにとっては約2分の1波長に相当するため、無視することはできない長さである。とりわけ、高周波回路では、低周波回路に比べると特性インピーダンスの問題はより深刻であり、送受信機の電極間の結合点においてインピーダンス不整合による影響は顕在化する。
kHzあるいはMHz帯の周波数を使った通信では、空間での伝搬損が小さいため、図2に示すように送信機及び受信機が電極のみからなる結合器を備え、結合部分が単純に平行平板コンデンサとして動作する場合であっても、所望のデータ伝送を行なうことができる。しかしながら、GHz帯の高周波を使った通信では、空間での伝搬損が大きいため、信号の反射を抑え、伝送効率を向上させる必要がある。図3に示すように、送信機及び受信器のそれぞれにおいて高周波信号伝送路が所定の特性インピーダンスZ0に調整されているとしても、平行平板コンデンサで結合しただけでは、結合部においてインピーダンス・マッチングをとることはできない。このため、結合部におけるインピーダンス不整合部分において、信号が反射することにより伝搬損が生じてしまい、効率が低下する。例えば、送信回路部11と送信用電極14を結ぶ高周波信号伝送路は50Ωのインピーダンス整合がとられた同軸線路であったとしても、送信用電極14と受信用電極24間の結合部におけるインピーダンスが不整合であると、信号は反射して伝搬損を生じる。
そこで、送信機10及び受信機20のそれぞれに配置される高周波結合器を、図4に示すように、平板状の電極14、24と、直列インダクタ12、22、並列インダクタ13、23を高周波信号伝送路に接続して構成している。このような高周波結合器を、図5に示すように向かい合わせて配置すると、2つの電極が1つのコンデンサとして動作し、全体としてバンドパス・フィルタのように動作するため、2つの高周波結合器の間で効率よく高周波信号を伝達することができる。ここで言う高周波信号伝送路とは、同軸ケーブル、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路などを示す。
ここで、送信機10と受信機20の電極間すなわち結合部分において、単にインピーダンス・マッチングを取り、反射波を抑えることだけを目的とするのであれば、図6Aに示すように、各結合器を平板状の電極14、24と、直列インダクタ12、22、並列インダクタ13、23を高周波信号伝送路に接続して構成する必要はなく、図6Bに示すように各結合器を平板状の電極14、24と直列インダクタを高周波信号伝送路に接続するという簡素な構造であってもよい。すなわち、高周波信号伝送路上に直列インダクタを挿入するだけでも、送信機側の結合器に対向して超近距離で受信機側の結合器が存在する場合において、結合部分におけるインピーダンスが連続的となるように設計することは可能である。
但し、図6Bに示す構成例では、結合部分の前後における特性インピーダンスに変化はないので電流の大きさも変わらない。これに対し、図6Aに示したように、高周波信号伝送路末端の電極の手前において並列インダクタンスを介してグランドに接続した場合、結合器単体としては、結合器の手前側の特性インピーダンスZ0に対し、結合器の先の特性インピーダンスZ1は低下する(すなわちZ0>Z1)というインピーダンス変換回路としての機能を備えることになり、結合器への入力電流I0に対し結合器の出力電流I1を増幅する(すなわちI0<I1)ことができる。
図7A及び図7Bには、並列インダクタンスを設けた場合と設けない場合の結合器のそれぞれにおいて、電極間の電界結合によって電界が誘起される様子を示している。同図からも結合器は直列インダクタに加えて並列インダクタを設けることによって、より大きな電界を誘起して、電極間で強く結合させることを理解できよう。また、図7Aに示すようにして電界近傍に大きな電界を誘起したとき、発生した電界は進行方向に振動する縦波として電極面の正面方向に伝搬する。この電界の波により、電極間の距離が比較的大きな場合であっても電極間で信号を伝搬することが可能になる。
したがって、UWB信号などの高周波信号を電界結合により伝送する通信システムでは、高周波結合器として必須の条件は以下の通りとなる。
(1)電界で結合するための電極があること。
(2)より強い電界で結合させるための並列インダクタがあること。
(3)通信に使用する周波数帯において、結合器を向かい合わせに置いたときにインピーダンス・マッチングが取れるように、インダクタ、及び電極によるコンデンサの定数が設定されていること。
図5に示したように電極が対向する1組の高周波結合器からなるバンドパス・フィルタは、直列インダクタと並列インダクタのインダクタンス、電極によって構成されるコンデンサのキャパシタンスによって、その通過周波数f0を決定することができる。図8には、1組の高周波結合器からなるバンドパス・フィルタの等価回路を示している。特性インピーダンスR[Ω]、中心周波数f0[Hz]、入力信号と通過信号の位相差をα[ラジアン](π<α<2π)、電極によって構成されるコンデンサのキャパシタンスをC/2とすると、バンドパス・フィルタを構成する並列及び直列インダクタンスの各定数L1、L2は、使用周波数f0に応じて下式で求めることができる。
また、結合器単体としてインピーダンス変換回路として機能する場合、その等価回路は図9に示す通りとなる。図示の回路図において、下式を満たすように、使用周波数f0に応じて並列インダクタンスL1及び直列インダクタンスL2をそれぞれ選ぶことにより、特性インピーダンスをR1からR2へ変換するインピーダンス変換回路を構成することができる。
このように、図1に示した非接触通信システムでは、UWB通信を行なう通信機は、従来の電波通信方式の無線通信機においてアンテナを使用する代わりに、図4に示した高周波結合器を用いることで、従来にない特徴を持った超近距離データ伝送を実現することができる。
図5に示したように、超近距離を隔てて互いの電極が対向する2つの高周波結合器は、所望の周波数帯の信号を通過するバンドパス・フィルタとして動作するとともに、単体の高周波結合器としては電流を増幅するインピーダンス変換回路として作用する。他方、高周波結合器が自由空間に単独で置かれるとき、高周波結合器の入力インピーダンスは高周波信号伝送路の特性インピーダンスと一致しないので、高周波信号伝送路から入った信号は高周波結合器内で反射され、外部に放射されない。
したがって、図1に示した非接触通信システムでは、送信機側では、通信を行なうべき相手がいないときには、アンテナのように電波を垂れ流すことはなく、通信を行なうべき相手が近づいてそれぞれの電極がコンデンサを構成したときのみ、図5に示したようにインピーダンス整合がとれることによって、高周波信号の伝達が行なわれる。
ここで、送信機側の結合用電極において発生する電磁界について考察してみる。図10には、微小ダイポールによる電磁界を表している。図示のように電磁界は、伝搬方向と垂直な方向に振動する電界成分(横波成分)Eθと、伝搬方向と平行な向きに振動する電界成分(縦波成分)ERに大別される。また、微小ダイポール回りには磁界Hφが発生する。下式は微小ダイポールによる電磁界を表しているが、任意の電流分布はこのような微小ダイポールの連続的な集まりとして考えられるので、それによって誘導される電磁界にも同様の性質がある(例えば、虫明康人著「アンテナ・電波伝搬」(コロナ社、16頁〜18頁)を参照のこと)。
上式から分るように、電界の横波成分は、距離に反比例する成分(放射電界)と、距離の2乗に反比例する成分(誘導電界)と、距離の3乗に反比例する成分(静電界)で構成される。また、電界の縦波成分は、距離の2乗に反比例する成分(誘導電界)と、距離の3乗に反比例する成分(静電界)のみで構成され、放射電磁界の成分を含まない。また、電界ERは、|cosθ|=1となる方向、すなわち図10中の矢印方向で最大となる。
無線通信において広く利用されている電波通信では、アンテナから放射される電波はその進行方向と直交方向に振動する横波Eθであり、電波は偏波の向きが直交すると通信することができない。これに対し、静電界や誘導電界を利用した通信方式において結合電極から放射される電磁波は、横波Eθの他に、進行方向に振動する縦波ERを含む。縦波ERは「表面波」とも呼ばれる。ちなみに、表面波は、導体や、誘電体、磁性体などの媒体の内部を通じて伝搬することもできる。
電磁界を利用した伝送波のうち位相速度vが光速cより小さいものを遅波、大きいものを速波という。表面波は前者の遅波に相当する。
非接触通信システムでは、放射電界、静電界、誘導電界のいずれの成分を媒介として信号を伝達することもできる。しかしながら、距離に反比例する放射電界は比較的遠くにある他のシステムへの妨害波になるおそれがある。このため、放射電界の成分を抑制すること、言い換えれば、放射電界の成分を含む横波Eθを抑制しながら、放射電界の成分を含まない縦波ERを利用した非接触通信が好ましい。
上述した観点から、本実施形態に係る高周波結合器では、以下のような工夫をしている。まず、電磁界を示した上記の3式より、θ=0゜という関係を有する場合に、Eθ=0となり、且つ、ER成分が極大値をとることが分かる。すなわち、Eθは電流の流れる向きに対して垂直な方向で最大になり、ERは電流の流れる向きと平行な方向で最大になる。したがって、電極面に対して垂直な正面方向のERを最大にするには、電極に対して垂直な方向の電流成分を大きくすることが望ましい。一方、電極の中心から給電点をオフセットさせた場合には、このオフセットに起因して、電極に対して平行な方向に対する電流成分が増加する。そして、この電流成分に応じて電極の正面方向のEθ成分が増加してしまう。このため、本実施形態に係る高周波結合器では、電極の中心位置からのオフセットなしに給電点を設け、ER成分が最大となるようにしているのである。
勿論、旧来のアンテナでも放射電界だけでなく、静電界や誘導電界が発生し、送受信アンテナを近接させれば電界結合が起きるが、エネルギの多くは放射電界として放出され、非接触通信としては効率的でなく、また不要な電波が周辺の電子機器に及ぼす悪影響が懸念される。これに対し、図4に示した高周波結合器は、所定の周波数においてより強い電界ERを作り伝送効率を高めるように、結合用電極及び共振部が構成されている。また、後述するように、結合用電極の近傍に磁性損失材からなる電波吸収体を用いることで、近距離における送受信機間の電界結合を安定化させたまま、不要な電波の放射や外来の妨害電波の影響を抑える。
図4に示した高周波結合器を送信機側で単独で使用した場合、結合用電極の表面には縦波の電界成分ERが発生するが、放射電界を含む横波成分EθはERに比べ小さいことから、電波はほとんど放射されない。すなわち、近隣の他システムへの妨害波を発生しない。また、高周波結合器に入力された信号のほとんどが電極で反射して入力端に戻る。
これに対し、1組の高周波結合器を使用した場合、すなわち送受信機間で高周波結合器を近距離に配置されたときには、結合用電極同士が主に準静電界成分によって結合して1つのコンデンサのように働いて、バンドパス・フィルタのように動作し、インピーダンス・マッチングが取れた状態になっている。したがって、通過周波数帯では信号・電力の大部分は相手方に伝送され、入力端への反射は少ない。ここで言う「近距離」は波長λによって定義され、結合用電極間の距離dがd≪λ/2πであることに相当する。例えば、使用周波数f0が4GHzであれば電極間距離が10mm以下のときである。
また、送受信機間で高周波結合器を中距離に配置したときには、送信機側の結合用電極の周囲には、静電界は減衰し、主に誘導電界からなる電界ERの縦波が発生する。電界ERの縦波は、受信機側の結合用電極で受け取られ、信号が伝送される。但し、両結合器を近距離に配置した場合と比較すると、送信機側の高周波結合器では、入力された信号が電極で反射して入力端に戻る割合が高くなる。ここで言う「中距離」は波長λによって定義され、結合用電極間の距離dがλ/2πの1〜数倍程度であり、使用周波数f0が4GHzであれば電極間距離が10〜40mmのときである。
既に述べたように、図4に示した高周波結合器では、インピーダンス整合部は並列インダクタ及び直列インダクタの定数L1、L2により動作周波数f0が決定される。これら直列インダクタ12、22、並列インダクタ13、23を集中定数回路とみなされる回路素子で構成することが一般的な回路製作方法である。ところが、高周波回路では集中定数回路は分布定数回路よりも帯域が狭いことが知られており、また周波数が高いときインダクタの定数は小さくなるので、定数のばらつきによって共振周波数がずれるという問題がある。
そこで、本発明では、インピーダンス整合部や共振部を集中定数回路から分布定数回路に代えて高周波結合器を構成することで、広帯域化を実現するようにした。図11には、インピーダンス整合部や共振部に分布定数回路を用いた高周波結合器の構成例を示している。
図示の例では、下面にグランド導体102が形成されるとともに、上面に印刷パターンが形成されたプリント基板上101に、高周波結合器が配設されている。高周波結合器のインピーダンス整合部並びに共振部として、並列インダクタと直列インダクタの代わりに、分布定数回路として作用するマイクロストリップライン又はコプレーナ導波路すなわちスタブ103が形成され、信号線パターン104を介して送受信回路モジュール105と結線している。スタブ103は、先端においてプリント基板101を貫挿するスルーホール106を介して下面のグランド102に接続してショートされ、また、スタブ103の中央付近において金属線107を介して結合用電極108に接続される。
なお、電子工学の技術分野で言う「スタブ(stub)」は、一端を接続、他端を未接続又はグランド接続した電線の総称であり、調整、測定、インピーダンス整合、フィルタなどの用途で回路の途中に設けられる。
スタブ103の長さは高周波信号の2分の1波長程度とし、信号線104とスタブ103はプリント基板101上のマイクロストリップ線路、コプレーナ線路などで形成される。スタブ103の長さが2分の1波長で先端がショートしているとき、スタブ103内に発生する定在波の電圧振幅はスタブの先端で0となり、スタブの中央、すなわちスタブ103の先端から4分の1波長のところで最大となる(図12を参照のこと)。電圧振幅が最大となるスタブ103の中央に結合用電極108を金属線107で接続することで、伝搬効率の良い高周波結合器を作ることができる。
インピーダンス整合部をスタブ103すなわちプリント基板101上のマイクロストリップライン又はコプレーナ導波路からなる分布定数回路で構成することにより、広い帯域にわたって均一な特性を得ることができることから、図1に示した通信システムに対してDSSS(Direct Sequence Spread Spectrum:直列系列スペクトル拡散)やOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)といった広帯域信号に周波数拡散する変調方式を適用することが可能になる。スタブ103は、プリント基板101上のマイクロストリップライン又はコプレーナ導波路であり、その直流抵抗が小さいことから、高周波信号でも損失が少なく、高周波結合器間の伝搬損を小さくすることができる。
分布定数回路を構成するスタブ103のサイズは高周波信号の2分の1波長程度と大きいことから、製造時の公差による寸法の誤差は全体の長さに比較すると微量であり、特性のバラツキが生じにくい。
図13には、インピーダンス整合部を集中定数回路及び分布定数回路でそれぞれ構成した場合の高周波結合器の周波数特性の比較を示している。但し、集中定数回路でインピーダンス整合部を構成した高周波結合器は、図14に示すように、プリント基板上の信号線パターンの先端に金属線を介して結合用電極を配設するとともに、信号線パターンの先端に並列インダクタ部品を実装し、並列インダクタの他端をプリント基板内のスルーホールを介してグランド導体に接続したものを想定している。また、分布定数回路でインピーダンス整合部を構成した高周波結合器は、図15に示すように、プリント基板上に形成された2分の1波長の長さからなるスタブの中央に金属線を介して結合用電極を配設し、スタブをその先端においてプリント基板内のスルーホールを介してグランド導体に接続したものを想定している。いずれの高周波結合器もそれぞれ動作周波数が3.8GHz付近になるように調整されているものとする。また、図14、図15のいずれにおいても、マイクロストリップ線路によりポート1からポート2に向かって高周波信号が伝達され、マイクロストリップ線路の途中にそれぞれの高周波結合器が配設されている。そして、周波数特性は、ポート1からポート2への伝達特性として測定し、その結果が図13に示されている。
高周波結合器は、他の高周波結合器と結合関係にないときは開放端とみなせるので、ポート1から入力された高周波信号は高周波結合器には供給されず、そのままポート2へと伝送される。したがって、高周波結合器の動作周波数である3.8GHz付近ではどちらの高周波結合器の場合もポート1からポート2へ伝送される信号強度を表す伝搬損S21が大きな値となっている。しかし、図14に示す高周波結合器の場合、動作周波数から前後に外れた周波数ではS21の値が大きく落ち込んでいる。これに対し、図15に示した高周波結合器では動作周波数を中心とした広い周波数帯域に渡ってS21の値が大きい良好な特性を保っていることが分かる。すなわち、インピーダンス整合部を分布定数回路で構成することで、高周波結合器が広帯域において有効に動作すると言うことができよう。
スタブ103の中央付近において金属線107を介して結合用電極108が接続されるが、この金属線は結合用電極108のほぼ中央で接続することが好ましい。何故ならば、結合用電極の中心に高周波伝送線路を接続することにより、電極内に均等に電流が流れて電極正面に電極面とほぼ垂直な向きに不要な電波を放射しないが(図16Aを参照のこと)、結合用電極の中心からオフセットのある位置に高周波伝送線路を接続すると、結語用電極内に不均等な電流が流れてマイクロストリップ・アンテナのように動作して不要な電波を放射してしまうからである(図16Bを参照のこと)。
また、電波通信の分野では、図17に示すようにアンテナ素子の先端に金属を取り付けて静電容量を持たせ、アンテナの高さを短縮させる「容量装荷型」のアンテナが広く知られており、一見して図4に示した結合器と構造が類似する。ここで、本実施形態で送受信機において用いられる結合器と容量装荷型アンテナとの相違について説明しておく。
図17に示した容量装荷型アンテナは、アンテナの放射エレメントの周囲B1及びB2方向に電波を放射するが、A方向は電波を放射しないヌル点となる。アンテナの周りに発生する電界を詳細に検討すると、アンテナからの距離に反比例して減衰する放射電界と、アンテナからの距離の2乗に反比例して減衰する誘導電界と、アンテナからの距離の3乗に反比例して減衰する静電界が発生する。そして、誘導電界と静電界は放射電界に比べ距離に応じて急激に減衰するため、通常の無線システムでは放射電界についてのみ議論され、誘導電界と静電界は無視されることが多い。したがって、図17に示す容量装荷型アンテナであっても、Aの方向に誘導電界と静電界を発生させているが、空気中で速やかに減衰するため、電波通信では積極的には利用されていない。
ここまで、通信距離を近距離に限定し静電界や誘導電界によって結合する電界結合型の非接触通信システムにおいて、送受信機で用いられる高周波結合器の構成について説明してきた。結合用の電極が理想的に設計をされていれば、不要な電波の発生を抑え、外来電波の受信を行なわないようにすることができる。このことは、結合用のコイル間の誘導磁界によって結合する磁界結合型の非接触通信システムについても当てはまる。
しかしながら、実際には放射電界を完全に抑制するように高周波回路を設計することは難しく、本来は電界結合型に設計された通信装置であっても、回路内の些細な不整合やグランド内を流れる電流などによって不要な電波を発振し、又は受信してしまうという問題がある。
例えば、図11に示した高周波結合器では、グランド導体102と結合用電極108との電界結合を回避して受信機側の高周波結合器との電界結合作用を確保するためには、プリント基板101の回路実装面上のスタブ103から金属線107を介して接続される結合用電極108まで十分な高さをとらなければならない。しかし、回路実装面から結合用電極108までの高さが大き過ぎると、プリント基板101と結合用電極108間を接続する金属線107がアンテナとして作用してしまい、その内部を流れる電流により不要な電波を放出してしまう。
例えば、結合器への入力電力を100とおくと、10の割合の電力を電波として放射するという状況も考えられる。上述したように放射電界による電波は静電界や誘導電界に比べ遠方まで伝搬することから、外部の電子機器に与える影響や外部の電子機器から受ける影響が大きい。
そこで、本発明に係る通信システムでは、高周波結合器のインピーダンス整合部や共振部を分布定数回路で構成して広帯域化を図ることに加えて、高周波結合器に電波吸収体を配設して不要な電波のやり取りを抑える仕組みを導入して、無線機から出る電磁波を抑制し、他の電子機器に及ぼす悪影響や外来の妨害電波による誤作動を防ぐようにしている。
遠方まで伝搬し電子機器間で影響の大きい放射電界を抑えるには電波吸収体を用いることが有効である。高周波において電波吸収体を分布定数回路として考えると、分布直列抵抗R(Ω/m)と分布並列コンダクタンスG(S/m)がエネルギを吸収する役割を果たす。ここで、分布直列抵抗Rは複素透磁率の虚部を表すμ″に相当し、分布並列コンダクタンスGは複素誘電率の虚部を表すε″と導電率σを角周波数ωで割ったものの和、すなわちε″+σ/ωに相当する。電波吸収体は、その損失を担う材料定数により複素誘電率μ″による磁性損失材と、複素誘電率ε″による誘電損失材と、導電率σによる導電損失材の3つに分類することができる。
ここで言う磁性損μ″は、磁性体中の磁化を担うスピンが高周波磁界の変化に遅れるために生じる。このような磁性損を生じさせる磁性体材料には、例えばフェライトなどの透磁率の高い素材が挙げられる。また、誘電損ε″は、誘電性をもたらすダイポールが高周波電界の変化に遅れるために生じる。また、導体損失σは、電界と同相の電流が流れ電磁波のエネルギが熱に変換されることで生じる。因みに、高周波領域では、電波の誘電損失による吸収と導体損失による吸収を区別せず、それらを併せて誘電損失と定義することがある。誘電損失材としては、例えば、ウレタンフォームやスチロールなどの樹脂にカーボンを含浸したものが挙げられる。
ここで、電波は、「電界の波」と「磁界の波」が空中を順次伝わっていく波動であり、電界の波と磁界の波は鎖のように相互に作用し、直交関係を保ちながら波の進行方向に進む(図27並びに図28を参照のこと)。すなわち、電波は電界の波と磁界の波の両方を伴うことから、いずれか一方の波を抑制するだけで、他方の波も著しく減衰してしまうので、その伝搬を抑制することができる。
磁性損失材は、磁界の波を損失させて電界の波との相互作用を崩壊させることによって、電波を吸収することができるが、静電界や誘導電界などの電界には影響を与えないと考えられる。そこで、本実施形態では、電波吸収体として、主に磁界を吸収し減衰させる磁性損失材を高周波結合器の結合用電極近傍に配設するようにした。例えば、フェライトなどの磁性体を電波吸収体として適用することができる。
結合用電極の近傍に配置された磁性損失材により、電磁波のうち磁界成分が損失を被る結果として、結合用電極で発生する不要な電波や外部から到来する妨害電波が吸収される。また、誘導磁界も損失を被るが、通信相手側の高周波結合器との静電界や誘導電界による電界結合には影響がない。よって、図1に示したような電界結合型の非接触通信システムにおいては、不要な電波の放射や外来の妨害電波の影響を抑えると同時に、近距離での静電界の電界結合によって安定したデータ伝送を行なうことができる。
また、上記の変形例として、送受信機が誘導磁界で結合するコイルを備え、磁気的な結合により近距離で非接触通信を行なう磁界結合型の非接触通信システムにおいては、結合用コイルを誘電損失材の内部又は表面に配設することが考えられる。
既に述べたように、電波は、「電界の波」と「磁界の波」が空中を順次伝わっていく波動であるが、誘電損失材は、電界の波を損失させて磁界の波との相互作用を崩壊させることによって、電波を吸収することができるが、誘導磁界などの磁界には影響を与えないと考えられる。そこで、電波吸収体として、主に電界を吸収し減衰させる誘電損失材を高周波結合器の結合用コイルの近傍に配設する。例えば、ウレタンフォームやスチロールなどの樹脂にカーボンを含浸したものを電波吸収体として適用することができる。
結合用コイルの近傍に配置された誘電損失材により、電磁波のうち電界成分が損失を被る結果として、結合用コイルで発生する不要な電波や外部から到来する妨害電波が吸収される。また、静電界や誘導電界などの電界も損失を被るが、通信相手側の高周波結合器との誘導磁界による磁界結合には影響がない。よって、磁界結合型の非接触通信システムにおいては、不要な電波の放射や外来の妨害電波の影響を抑えると同時に、近距離での誘導磁界の磁界結合によって安定したデータ伝送を行なうことができる。
以下では、電界結合型の非接触通信を行なうための高周波結合器の結合用電極に磁性損失材を適用した場合を具体例にとって説明する。
図18には、図11に示した高周波結合器の結合用電極の近傍に磁性損失材を配置した構成例を示している。図示のように、結合用電極、金属線、共振部を磁性損失材で被覆することによって、不要な電波の放射や外来のノイズの影響を抑えることができる。
ここで、結合用電極に流れる電流を詳細に検討してみる。結合用の電極の中心が金属線を介してスタブからなる共振部に接続されるとき、図19に示すように、結合用電極の中心から外周方向に、互いに逆向きとなる電流Aと電流Bが流れる。電流Aと電流Bによって発生する電波も互いに逆向きとなり、打ち消し合うので、電波を放射しない。他方、結合用電極と共振部を接続する金属線には、結合用電極に向かって電流Cが流れる。この電流Cと逆向きになる電流はどこにも流れない。すなわち、金属線を流れる電流Cは打ち消されず、不要な電波の発生原因となる。
これに対し、本実施形態では、図18に示したように、金属線を覆うように磁性損失材が配設されており、金損線を電流が通過することにともなって発生する磁界の波の伝搬が抑制され、この結果として電波の発生を抑えることができる。
また、図18に示した高周波結合器の変形例として、図20に示すように、結合用電極の表面から磁性損失材を取り除くようにしてもよい。図19を参照しながら説明したように、結合用電極の中心で金属線と接合する場合には、結合用電極を流れる電流同士で打ち消し合い、電波を発生しないので(図16Aを参照のこと)、磁性損失材で被覆する必要は特にない。また、このような構成によれば、通信する2つの結合用電極間の距離をより狭めることができ、電界強度が増すことにより通信品質を高めることができる。
図21には、結合用電極の近傍に磁性損失材を配置した高周波結合器の他の構成例を示している。同図では、共振部としてのλ/2長のスタブが印刷パターンとしてプリント基板上に形成され、そのほぼ中央部に金属線としての導体ピンが突設されている。他方、磁性損失材でできた箱体は、深さが上記ピンの高さとほぼ等しく、その底面には鍍金などによって結合用電極が形成されている。この箱体を、開口部の端縁でプリント基板と接合する(若しくは、ピンを箱体内部に収容する)ように取り付け、そのさいピンの先端が結合用電極のほぼ中央で当接するように取り付け位置を決定する。箱型の磁性損失材は、例えばリフロー半田などの工程により、プリント基板上に実装される。
また、図22及び図23には、結合用電極の近傍に磁性損失材を配置した高周波結合器のさらに他の構成例を示している。
図22に示すように、例えば四角柱状で適切な高さを持つ磁性損失材は、貫挿するスルーホールが穿設されている。この磁性損失材の上面並びにスルーホールの内周には、蒸着などのプロセスなどにより導電材が形成されている。上面の導電パターンは結合用電極をなし、スルーホール内周に付着した導電部分は電流供給用の金属線に相当し、また、スルーホールの下端の導電部分はスタブからなる共振部との接続端子となる。上述と同様、共振部としてのλ/2長のスタブが印刷パターンとしてプリント基板上に形成され、そのほぼ中央部に接続端子が当接するように磁性損失材の位置を決めて取り付ける。磁性損失材は、例えばリフロー半田などの工程により、プリント基板上に実装される。また、図23に示すように、磁性損失材は中空形状で構成することもできる。
以上、電界結合型の非接触通信システムについて述べたが、電界結合を行なう電極に対して磁性損失材がもたらす効果は、磁界結合型の非接触通信システムにおいて磁界結合を行なう結合用コイルに対して誘電損失材がもたらす効果と同様である。したがって、図24に示すように、結合用コイルを誘電損失材で被覆することによっても、無線機から発生する電磁波が他の電子機器に悪影響を及ぼすことを防ぐとともに、外来の妨害電波による誤作動を防ぐことができる。
これまでは、図1に示した電界結合方式の非接触通信システムにおいて、1組の高周波結合器間で信号を伝送する仕組みについて説明してきた。ここで、2つの機器間で信号を伝送する際には必然的にエネルギの移動を伴うことから、この種の通信システムを電力伝送に応用することも可能である。上述したように、送信機側の高周波結合器で発生した電界ERは表面波として空中を伝搬し、受信機側では高周波結合器で受け取った信号を整流・安定化して電力を取り出すことができる。
図25には、高周波結合器を利用した通信システムを電力伝送に応用したときの構成例を示している。
図示のシステムでは、AC電源に接続された充電器と無線通信機を近づけることにより、それらに内蔵する高周波結合器を介して非接触で無線通信機への送電、及び充電を行なう。但し、高周波結合器は電力伝送の用途のみで使用される。
受電する高周波結合器が送電する高周波結合器の近くにないとき、送電用の高周波結合器に入力された電力の大部分は反射してDC/ACインバータ側に戻るため、外部に不要な電波を放射することを抑えることができる。また、結合用の電極の中心に接続された金属線から漏れ出すわずかの電波の放射も、その周辺に設けられた磁性損失材によって吸収されるため、外部への漏洩電波を一段と抑制することが可能になる。非接触電力伝送を行なう場合、一般に送信出力は通信目的の出力電力に比べて大きいので、漏洩電波の抑制は特に厳しく要求される。
また、同図では無線通信機への充電を行なう例を挙げたが、充電される側は無線機に限らず例えば音楽プレイヤやデジタルカメラへの非接触電力伝送を行なうようにしてもよい。
また、図26には、高周波結合器を利用した通信システムを電力伝送に応用した他の構成例を示している。図示のシステムは、高周波結合器と表面波伝送線路を電力伝送と通信に兼用して使用するように構成されている。
通信及び送電を行なうタイミングの切り替えは送信回路部から送られる通信・送(受)電切り替え信号によって行なう。例えば、通信と送電はあらかじめ決められた周期で切り替えを行なうようにしてもよい。このとき、充電の状態を通信信号に加えて充電器側にフィードバックすることで送電出力を最適に保つことができる。例えば、充電が完了したらその情報を充電器側に送り、送電の出力を0にするようにしてもよい。
同図に示したシステムでは、充電器をAC電源に接続するようにして構成されているが、他にも例えば、電池の少なくなった携帯電話に他の携帯電話から電力を分け与えるような用途に用いてもよい。