以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態における車両の姿勢変化を示す概略図、図2は本発明の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図1において、(a)は加速走行中、(b)は加速終了後の静止状態を示す。
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例において、車両10は右方向に前進し、左方向に後退することができる。
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には、能動重量部として機能する搭乗部14が、車両10の前後方向に本体部11に対して相対的に並進可能となるように、換言すると、車体回転円の接線方向に相対的に移動可能となるように、取り付けられている。
ここで、能動重量部は、ある程度の質量を備え、本体部11に対して並進する、すなわち、前後に移動させることによって、車両10の重心位置を能動的に補正するものである。そして、能動重量部は、必ずしも搭乗部14である必要はなく、例えば、バッテリ等の重量のある周辺機器を並進可能に本体部11に対して取り付けた装置であってもよいし、ウェイト、錘(おもり)、バランサ等の専用の重量部材を並進可能に本体部11に対して取り付けた装置であってもよい。また、搭乗部14、重量のある周辺機器、専用の重量部材等を併用するものであってもよい。
本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗する搭乗部14が能動重量部として機能する例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、足置き部、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備え、図示されない移動機構を介して本体部11に取り付けられている。
また、前記移動機構は、リニアガイド装置等の低抵抗の直線移動機構、及び、能動重量部アクチュエータとしての能動重量部モータ62を備え、該能動重量部モータ62によって搭乗部14を駆動し、本体部11に対して進行方向に前後させるようになっている。なお、能動重量部アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、リニアモータ等を使用することもできるが、ここでは、回転式の電気モータである能動重量部モータ62を使用するものとして説明する。
リニアガイド装置は、例えば、本体部11に取り付けられている案内レールと、搭乗部14に取り付けられ、案内レールに沿ってスライドするキャリッジと、案内レールとキャリッジとの間に介在するボール、コロ等の転動体とを備える。そして、案内レールには、その左右側面部に2本の軌道溝が長手方向に沿って直線状に形成されている。また、キャリッジの断面はコ字状に形成され、その対向する2つの側面部内側には、2本の軌道溝が、案内レールの軌道溝と各々対向するように形成されている。転動体は、軌道溝の間に組み込まれており、案内レールとキャリッジとの相対的直線運動に伴って軌道溝内を転動するようになっている。なお、キャリッジには、軌道溝の両端をつなぐ戻し通路が形成されており、転動体は軌道溝及び戻し通路を循環するようになっている。
また、リニアガイド装置は、該リニアガイド装置の動きを締結するブレーキ装置としての能動重量部ブレーキ63を備える。該能動重量部ブレーキ63は、電力供給時に開放されるもの、例えば、無励磁作動型の電磁ブレーキであることが望ましい。車両10が停車しているときのように搭乗部14の動作が不要であるときには、能動重量部ブレーキ63によって案内レールにキャリッジを固定することで、本体部11と搭乗部14との相対的位置関係を保持する。そして、動作が必要であるときには、能動重量部ブレーキ63を解除し、本体部11側の基準位置と搭乗部14側の基準位置との距離が所定値となるように制御される。
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
なお、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック31に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。
また、車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置20を有し、該車両制御装置20は主制御ECU(Electronic Control Unit)21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23を備える。前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
また、主制御ECU21は、能動重量部制御ECU23、能動重量部センサ61、能動重量部モータ62及び能動重量部ブレーキ63とともに、能動重量部である搭乗部14の動作を制御する能動重量部制御システム60の一部として機能する。前記能動重量部センサ61は、エンコーダ等から成り、能動重量部移動状態計測装置として機能し、搭乗部14の移動状態を示す能動重量部位置及び/又は移動速度を検出し、主制御ECU21に送信する。すると、該主制御ECU21は、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信し、該能動重量部制御ECU23は、受信した能動重量部推力指令値に相当する入力電圧を能動重量部モータ62に供給する。また、主制御ECU21は、作動電圧を能動重量部ブレーキ63に供給する。そして、前記能動重量部モータ62は、入力電圧に従って搭乗部14を並進移動させる推力を搭乗部14に付与し、これにより、能動重量部アクチュエータとして機能する。また、前記能動重量部ブレーキ63は、作動電圧に従って搭乗部14を本体部11に対して移動不能に保持するブレーキ装置として機能する。
なお、本実施の形態においては、主制御ECU21から能動重量部ブレーキ63に作動電圧を直接入力しているが、主制御ECU21が能動重量部制御ECU23にブレーキ動作信号を送信し、能動重量部制御ECU23が能動重量部ブレーキ63に作動電圧を与えるようにしてもよい。
さらに、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、能動重量部制御ECU23、車体傾斜センサ41、駆動モータ52、能動重量部モータ62及び能動重量部ブレーキ63とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信する。
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
また、車両制御装置20は、機能の観点から、車両加速度及び車両減速度を制限する車両加速度制限手段と、車両加速度及び車両減速度の制限値を補正する加速度制限値補正手段とを備える。
前記車両制御装置20によって姿勢制御が行われることで、車両10は、加速走行時には、図1(a)に示されるように、搭乗部14を前方に移動した状態で加速する。そして、加速走行中に能動重量部モータ62に異常が発生すると、すなわち、アクチュエータ異常が発生すると、能動重量部ブレーキ63を作動させる。すると、加速終了後、車体の倒立姿勢を保つために、図1(b)に示されるように、車体を後方に傾ける。
このように、搭乗部14を能動重量部ブレーキ63で固定した場合、車体重心の可動量が低下するため、加速性能と減速性能が共に低下する。また、車体傾斜角が所定値で制限される場合、前方への重心可動量に比べて、後方への重心可動量が大幅に低下する結果、加速性能に比べて、減速性能が大幅に低下する。
そこで、本実施の形態においては、搭乗部14を固定した場合に車両加速度及び車両減速度の制限値を減少させるようになっている。
次に、前記構成の車両10の動作について詳細に説明する。まず、車両制御処理の概要について説明する。
図3は本発明の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
車両制御処理において、車両制御装置20は、まず、モータ正常判定を行い、モータが正常であるか否かを判定する(ステップS1)。この場合、能動重量部モータ62が推力を発生可能であるか否かを判定する。具体的には、能動重量部制御ECU23がモータ診断手段を備え、能動重量部モータ62が推力を発生不能、すなわち、異常と診断した場合に所定の信号を主制御ECU21に送信する。すると、該主制御ECU21は、その信号を受信した場合に、モータが正常ではないと判定する。
そして、モータが正常であると判定すると、車両制御装置20は、ブレーキ解除を行う(ステップS2)。この場合、能動重量部ブレーキ63を解除して、能動重量部としての搭乗部14を移動可能とする。具体的には、主制御ECU21は、能動重量部ブレーキ63に作動電圧を入力する。
続いて、車両制御装置20は、通常走行・姿勢制御処理を実行し(ステップS3)、搭乗部14を適切に移動させながら、車体の姿勢を保持しつつ、乗員15からの走行指令を実現して車両制御処理を終了する。なお、該車両制御処理は、所定の時間間隔(例えば、100〔μs〕毎)で繰り返し実行される。
一方、モータが正常であるか否かを判定して異常である場合、車両制御装置20は、ブレーキ作動を行う(ステップS4)。この場合、能動重量部ブレーキ63を作動して、能動重量部としての搭乗部14を車体に固定する。具体的には、主制御ECU21は、能動重量部ブレーキ63への作動電圧の入力を停止する。
続いて、車両制御装置20は、非常走行・姿勢制御処理を実行し(ステップS5)、搭乗部14が固定された状態で、車体の姿勢を保持しつつ、乗員15からの走行指令を実現して車両制御処理を終了する。
次に、通常走行・姿勢制御処理について説明する。
図4は本発明の実施の形態における通常走行・姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。
θ
W :駆動輪回転角〔rad〕
θ
1 :車体傾斜角(鉛直軸基準)〔rad〕
λ
S :搭乗部位置(能動重量部位置)〔m〕
g:重力加速度〔m/s
2 〕
R
W :駆動輪接地半径〔m〕
m
S :搭乗部質量(能動重量部質量:搭載物を含む)〔kg〕
続いて、主制御ECU21は、乗員15の操縦操作量を取得する(ステップS3−3)。この場合、乗員15が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、車両加速度の目標値を決定する(ステップS3−4)。例えば、ジョイスティック31の前後方向への操作量に比例した値を前後車両加速度の目標値とする。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値を補正する(ステップS3−5)。具体的には、下記の式によって補正する。
また、αMax,A は車両加速度制限値、αMax,D は車両減速度制限値であり、各々、
αMax,A =αMax,A,0
αMax,D =αMax,D,0
である。さらに、αMax,A,0 は標準車両加速度制限値、αMax,D,0 は標準車両減速度制限値であり、各々、下記のように表される。
また、θ1,Max,f は前方への最大傾斜角、λS,Max,f は搭乗部14の基準位置から可動域前縁までの距離、θ1,Max,r は後方への最大傾斜角、λS,Max,r は搭乗部14の基準位置から可動域後縁までの距離である。
このように、車両加速度制限値及び車両減速度制限値によって、車両加速度の目標値を補正する。具体的には、車両加速度の目標値が車両加速度制限値以下、かつ、車両減速度制限値以上であるように補正する。そして、車両加速度の目標値が車両加速度制限値以上である場合には、車両加速度の目標値を車両加速度制限値とする。また、車両加速度の目標値が車両減速度制限値以下である場合には、車両加速度の目標値を車両減速度制限値とする。
さらに、車両加速度制限値及び車両減速度制限値は、車両10の力学的パラメータで決定される所定値とする。そして、車体の重心移動によって倒立状態を保持できる限界、すなわち、姿勢制御の限界を各制限値として与える。これにより、車体の倒立姿勢を保持できる範囲内で、車両加速度の目標値が設定される。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS3−6)。例えば、車両加速度の目標値を時間積分し、所定の駆動輪接地半径で除した値を駆動輪回転角速度の目標値とする。
続いて、主制御ECU21は、駆動輪回転角速度の目標値を補正する(ステップS3−7)。具体的には、下記の式によって補正する。
このように、駆動輪回転角速度制限値によって、駆動輪回転角速度の目標値を補正する。具体的には、駆動輪回転角速度目標値が駆動輪回転角速度制限値以下であるように補正する。そして、駆動輪回転角速度目標値が駆動輪回転角速度制限値以上である場合には、駆動輪回転角速度目標値を駆動輪回転角速度制限値とする。また、駆動輪回転角速度制限値は所定値とする。
なお、駆動輪回転角速度が補正された場合、すなわち、上記式の第1行又は第3行の条件に該当する場合、車両加速度目標値との整合性を満たすために、車両加速度目標値を零に補正する。
また、説明の簡略化のため、本実施の形態においては、車両10が停止及び前進する場合のみについて説明するが、車両10が後進する場合についても、同様の制御を導入することにより、同様の効果を得ることができる。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角と搭乗部位置の目標値を決定する(ステップS3−8)。具体的には、車両加速度の目標値と車両速度の目標値から、下記の式によって搭乗部位置の目標値を決定する。
また、車両加速度の目標値と車両速度の目標値から、下記の式によって車体傾斜角の目標値を決定する。
このように、車両加速度に伴って車体に作用する慣性力と駆動モータ反トルクを考慮して、車体傾斜角と搭乗部位置の目標値を決定する。そして、これらの車体傾斜トルクを、重力の作用によって打ち消すように、車体の重心を動かす。具体的には、車両10が加速するときには、搭乗部14を前方へ動かす及び/又は車体を前方に傾ける。一方、車両10が減速するときには、搭乗部14を後方へ動かす及び/又は車体を後方に傾ける。また、搭乗部移動が限界に達したら、車体を傾け始める。
これにより、細かい加減速に対する前後の車体傾斜がなくなり、乗員15にとって乗り心地が向上する。また、ある程度の高速走行時でも直立状態を保つため、乗員15にとって視界の変化が小さくなる。
なお、本実施の形態においては、低加速度時及び/又は低速走行時に、搭乗部移動のみで対応させているが、その車体傾斜トルクの一部又は全部を車体傾斜で対応させてもよい。車体を傾けることによって、乗員15に作用する前後方向の力を軽減させることができる。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS3−9)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することによって、駆動輪回転角、車体傾斜角速度及び搭乗部移動速度の目標値をそれぞれ算出する。
続いて、主制御ECU21は、各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS3−10)。具体的には、下記の式によって駆動モータ52のフィードフォワード出力を決定する。
このように、力学モデルによって推定された慣性力を打ち消すように駆動トルクを付加することで、制御の精度を高めることができる。
また、下記の式によって能動重量部モータ62のフィードフォワード出力を決定する。
このように、力学モデルによって推定された重力や慣性力を打ち消すように推力を付加することで、制御の精度を高めることができる。
なお、本実施の形態においては、理論的にフィードフォワード出力を与えることによって、より高精度な制御を実現しているが、上記のフィードフォワード出力は与えなくてもよい。その場合には、フィードバック制御によって、定常偏差を伴いつつ、フィードフォワード出力に近い値が間接的に与えられる。また、その定常偏差は、積分ゲインを適用することで、低減させることもできる。
続いて、主制御ECU21は、各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS3−11)。具体的には、下記の式によって駆動モータ52のフィードバック出力を決定する。
また、下記の式によって能動重量部モータ62のフィードバック出力を決定する。
なお、各フィードバックゲインK**の値は、例えば、最適レギュレータの値を予め設定しておく。また、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入してもよい。さらに、より簡単な制御として、KW2、KW3及びKS5を除くゲインのいくつかを零にしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与える(ステップS3−12)。この場合、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23に、フィードフォワード出力とフィードバック出力との和を指令値として送信する。
次に、非常走行・姿勢制御処理について説明する。
図5は本発明の実施の形態における非常走行・姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
なお、本実施の形態においては、能動重量部ブレーキ63の作動後は、搭乗部位置計測値を再取得・更新せず、能動重量部ブレーキ63の作動直前の搭乗部位置に基づいて制御を実行しているが、能動重量部ブレーキ63の作動後も作動前と同様に搭乗部位置を取得してもよい。これにより、能動重量部ブレーキ63の故障等によって搭乗部14が移動した場合にも、適切に制御を実行できる。
続いて、主制御ECU21は、乗員15の操縦操作量を取得する(ステップS5−3)。この場合、乗員15が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、車両加速度の目標値を決定する(ステップS5−4)。例えば、ジョイスティック31の前後方向への操作量に比例した値を前後車両加速度の目標値とする。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値を補正する(ステップS5−5)。具体的には、1次補正を行った後に、その結果を用いて2次補正を行う。まず、車両加速度の目標値の1次補正を下記の式によって行う。
また、αMax,A は車両加速度制限値、αMax,D は車両減速度制限値であり、各々、下記のように表される。
さらに、αMax,A,0 は標準車両加速度制限値、αMax,D,0 は標準車両減速度制限値、ΔαMax は車両加速度制限値最大減少量であり、各々、下記のように表される。
また、θ1,Max,f は前方への最大傾斜角、λS,Max,f は搭乗部14の基準位置から可動域前縁までの距離、θ1,Max,r は後方への最大傾斜角、λS,Max,r は搭乗部14の基準位置から可動域後縁までの距離である。さらに、λS,Max,L は搭乗部可動域全長であり、
λS,Max,L =λS,Max,f +λS,Max,r
である。
このように、能動重量部ブレーキ63の作動時に、車両加速度及び車両減速度の制限値を減少させる。まず、搭乗部14の固定位置に応じて、車両加速度制限値と車両減速度制限値の減少量を決定する。
具体的には、搭乗部14の可動域前縁から固定位置までの距離に比例した量だけ、車両加速度制限値を減少させる。なお、搭乗部14が可動域前縁で固定された場合には、車両加速度制限値は変更しない。また、搭乗部14が可動域後縁で固定された場合には、車両減速度制限値を最大減少量だけ減少させる。
また、搭乗部14の可動域後縁から固定位置までの距離に比例した量だけ、車両減速度制限値を減少させる。なお、搭乗部14が可動域前縁で固定された場合には、車両減速度制限値を最大減少量だけ減少させる。また、搭乗部14が可動域後縁で固定された場合には、車両減速度制限値は変更しない。
このように、搭乗部14の固定位置に基づいて制限値を補正することで、現状の車両10が有する実際の加減速性能の限界に応じた制限値の補正が可能となり、能動重量部モータ62の故障時においても、安全な範囲内で車両10の性能を最大限に発揮することができる。
また、力学モデルに基づいて、制限値の減少率又は減少量を決定する。具体的には、車両10の加減速に伴って車体に作用する慣性力と駆動モータ反トルクを重力の作用によって打ち消すことができる限界、すなわち、現状の車体重心の移動限界を考慮して、制限値の減少量を決定する。
このように、車体姿勢制御における加減速の限界をより正確に考慮することで、更に高い安全性と走行性能を実現できる。
なお、本実施の形態においては、線形の関数によって制限値を決定しているが、より厳密な非線形関数によって決定してもよい。その際、非線形関数をマップとして具備し、それを用いて決定してもよい。
また、本実施の形態においては、標準的な乗員15や搭載物の搭載時における車体や搭乗部14の重量や重心位置に基づいて、制限値を補正しているが、乗員15や搭載物の重量や重心位置に応じて、制限値を補正してもよい。例えば、搭載重量センサを備え、その計測値に基づいて、車体や搭乗部14の重量や重心位置の値、及び、制限値の補正量を決定してもよい。
次に、主制御ECU21は、車両加速度の目標値の2次補正を下記の式によって行う。
このように、車両減速度制限値に応じて、車両加速度制限値を更に減少させる。つまり、車両加速度制限値が車両減速度制限値よりも小さくなるように、車両減速度制限値を補正する。具体的には、搭乗部固定時における車両加速度制限値と車両減速度制限値の比が、搭乗部解放時における車両加速度制限値と車両減速度制限値の比よりも小さくなるように、搭乗部固定時の車両加速度制限値の値を補正する。このように、車両10の最大加速度と最大減速度を適切な比率に補正することで、例えば、加速後に制動できなくなるような状態に陥ることを確実に防止し、過剰に運動性能を制限することなく、安全性と操縦性を保障できる。
なお、本実施の形態においては、加速性能と減速性能が所定の比率となるように制限値を補正しているが、最低限の減速性能を保障するようにしてもよい。例えば、車両減速度制限値が所定の閾(しきい)値以下である場合には、車両加速度制限値を零とすることで加速を禁止し、一度車両10を停止させた後は再び走行できないようにしてもよい。これにより、更に安全性を高めることができる。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS5−6)。例えば、車両加速度の目標値を時間積分し、所定の駆動輪接地半径で除した値を駆動輪回転角速度の目標値とする。
続いて、主制御ECU21は、駆動輪回転角速度の目標値を補正する(ステップS5−7)。具体的には、下記の式によって補正する。
このように、車両減速度制限値に応じて、駆動輪回転角速度制限値を減少させる。つまり、最高速度からの最小制動距離が所定の制限値以下になるように、駆動輪回転角速度制限値を補正する。具体的には、搭乗部固定時における最高速度からの最小制動距離が、搭乗部解放時における最高速度からの最小制動距離以下になるように、駆動輪回転角速度制限値の値を補正する。このように、車両10の最高速度を現状の制動性能に応じた速度に補正することで、例えば、加速後に制動できなくなるような状態に陥ることを確実に防止し、過剰に運動性能を制限することなく、安全性と操縦性を保障できる。
なお、本実施の形態においては、制動距離が所定の範囲内となるように制限値を補正しているが、最低限の減速性能を保障するようにしてもよい。例えば、車両減速度制限値が所定の閾値以下である場合には、駆動輪回転角速度制限値を零とすることで走行を禁止し、車両10を停止させるようにしてもよい。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS5−8)。具体的には、車両加速度の目標値と車両速度の目標値から、下記の式によって車体傾斜角の目標値を決定する。
このように、車両加速度の目標値と搭乗部14の固定位置に応じて、車体傾斜角の目標値を決定する。まず、車両加速度目標値に応じて、車体傾斜角目標値を決定する。具体的には、車両加速度目標値に対応するために必要な車体重心移動量に対して、搭乗部可動時に搭乗部14の移動が担っていた重心移動量の分を搭乗部固定時には車体傾斜による重心移動によって補うように、車体傾斜角目標値を補正する。
また、搭乗部14の固定位置に応じて、車体傾斜角目標値を補正する。具体的には、搭乗部14の基準位置からのずれに伴う重力トルクを打ち消すために、搭乗部14のずれ方向と逆側に車体を余分に傾けるように、車体傾斜角目標値を補正する。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS5−9)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することによって、駆動輪回転角及び車体傾斜角速度の目標値をそれぞれ算出する。
続いて、主制御ECU21は、各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS5−10)。具体的には、通常走行・姿勢制御処理の場合と同様に、図4におけるステップS3−10で使用した式によって駆動モータ52のフィードフォワード出力を決定する。
続いて、主制御ECU21は、各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS5−11)。具体的には、下記の式によって駆動モータ52のフィードバック出力を決定する。
なお、各フィードバックゲインK**の値は、搭乗部14が固定された場合の力学モデルに基づいて決定された値、例えば、最適レギュレータの値を予め設定しておく。
また、本実施の形態においては、搭乗部14の可動時と固定時で異なるフィードバックゲインの値を用いているが、両条件で同じ値を用いてもよい。これにより、搭乗部14が固定される瞬間における制御の切り替わりに伴う違和感が軽減されると共に、制御プログラムを簡素化することができる。
最後に、主制御ECU21は、要素制御システムに指令値を与える(ステップS5−12)。この場合、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22にフィードフォワード出力とフィードバック出力との和を指令値として送信する。
このように、本実施の形態においては、搭乗部14を固定した場合に車両加速度及び車両減速度の制限値を減少させる。具体的には、車両加速度及び車両減速度の目標値に対する制限値を減少させる。すなわち、ジョイスティック31の操作量に応じて決定される車両加速度及び車両減速度の目標値を制限する。また、搭乗部14の固定位置に応じて、各制限値の減少量を決定する。この場合、搭乗部14の可動域前縁から固定位置までの距離に比例係数を乗じた値を車両加速度の制限値の減少量とする。また、搭乗部14の可動域後縁から固定位置までの距離に比例係数を乗じた値を車両減速度の制限値の減少量とする。
さらに、車両減速度の制限値に応じて、車両加速度の制限値を更に減少させる。すなわち、車両加速度の制限値が車両減速度の制限値よりも小さくなるように補正する。具体的には、搭乗部固定時の車両加速度の制限値と車両減速度の制限値との比が搭乗部可動時の車両加速度の制限値と車両減速度の制限値との比よりも小さくなるように、搭乗部固定時の車両加速度の制限値の値を補正する。さらに、車両減速度の制限値に応じて、駆動輪回転角速度の制限値を減少させる。すなわち、搭乗部固定時の最高速度からの制動距離が搭乗部可動時の最高速度からの制動距離以下になるように、搭乗部固定時の駆動輪回転角速度の制限値の値を補正する。また、搭乗部14の固定位置に応じて、目標車体傾斜角を補正する。この場合、搭乗部14の固定位置の座標値に負の係数を乗じた値を目標車体傾斜角の補正量とする。
これにより、能動重量部モータ62の異常に伴い、搭乗部14が中立位置から大きく外れた位置で停止して固定された場合であっても、可能な限りの運動性能と十分な安全性を保障することができ、安全で快適な倒立型の車両10を提供することができる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。