JP5113320B2 - 糖尿病治療剤 - Google Patents
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Description
糖尿病には2つのタイプがある。1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病(IDDM))は小児や若い人に多く、ウイルスの感染などによりインスリンを作り分泌する膵臓のランゲルハンス島が破壊され、インスリンを全く分泌することができなくなり糖尿病になる病気である。一方、中高年に多い2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病(NIDDM))は日本人の糖尿病のほとんど(約95%)をしめ、インスリンの分泌量が低下しやすく糖尿病になりやすい体質を持っている人に、食べ過ぎ、運動不足、肥満、ストレス、加齢などのインスリンの作用を妨害するような引き金が加わって発症する。
糖尿病は肥満と深く関わっており、調査によると、インスリン非依存型糖尿病患者の約2/3が現在肥満であるかあるいは過去に肥満を経験している。実際、肥満者ではインスリンの血糖低下作用が弱まっていることがわかっている。
肥満は世界中で、特に先進社会において益々一般化しつつある重要な健康問題である。合衆国においては、成人の半数以上が体重過剰である。Allisonらの報告では、1991年の合衆国の死亡数の約280000が肥満に帰せられるという(Allison DB et al.,JAMA,282:1530−1538,1991)。肥満の病態生理は消費を超える過剰の栄養摂取の継続として知られている。脂肪含有量の高い「西洋式の食事」が肥満に対する危険性の増加と関連していることが示されている。
体重調節は摂食量とエネルギー消費のバランスが鍵を握り、両者のバランスが肥満、やせを引き起こす。1994年に発見されたレプチンがadiposity(体脂肪量蓄積)シグナルとして体重調節の根幹に関わることが明らかにされて以来、レプチンの下流に位置する、多くの新しい食欲調節に関与するペプチドが見いだされた。特に、それまで個々独立した機能としてしか捉えられていなかった視床下部由来の神経ペプチド群が、レプチンの下流でそれぞれが機能し、さらにこれらの神経ペプチド群相互間でも密に情報交換が行われていることがわかってきた。
これらの神経ペプチドのうち、食欲を亢進する物質としては、ニューロペプチドY(NPY)、オレキシン類(orexins)、モチリン(motilin)、メラニン濃縮ホルモン(melanin−concentrating hormone:MCH)やアグウチ関連タンパク質(agouti−related protein:AGRP)が知られている。また、食欲を抑制する物質としては、α−メラノサイト刺激ホルモン(α−melanocyte−stimulating hormone:α−MSH)、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(corticotropin−releasing factor:CRF)、コカイン−及びアンフェタミン−制御転写物(cocain−and amphetamine−regulated transcript:CART)やコレシストキニン(cholesystokinin:CCK)などが知られている。これらのペプチドは食欲を制御する生理学的メカニズムに関与しており、エネルギー恒常性に影響すると考えられている。
一方、成長ホルモン(GH)は、下垂体前葉から分泌されるホルモンであり、その分泌は巧妙に制御されており、視床下部の成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)によって刺激を受け、ソマトスタチンによって抑制される。近年、GHRHやソマトスタチンとは別の経路によるGH分泌調節機構が明らかになってきた。この別経路のGH分泌調節機構は、GHの分泌促進活性をもつ合成化合物である成長ホルモン放出促進因子(growth hormone secretagogue:GHS)の研究により展開されてきた。GHSはGHRHとは異なる経路で作用する。すなわち、GHRHはGHRH受容体を活性化して、細胞内cAMP濃度を上昇させるのに対して、GHSはGHRH受容体とは異なる受容体を活性化して、細胞内IP3系を介して細胞内Ca++イオン濃度を上昇させる。このGHSが作用する受容体であるGHS−Rは、1996年に発現クローニング法により構造が解明された(Howard A.D.et al,Science,273:974−977,1996)。GHS−Rは細胞膜を7回貫通する典型的なGタンパク質共役型受容体であり、主として視床下部、下垂体に存在する。
さらに、生体内に存在しない合成化合物であるGHSを結合する受容体が存在することから、このGHS−Rに結合して、活性化する内因性のリガンドが探索された。その結果、GHS−Rに特異的なリガンドとして、グレリン(Ghrelin)がラットの胃から精製、同定された(Kojima M.et al.,Nature,402:656−660,1999)。
グレリンは、アミノ酸28残基からなるペプチドで、3番目のセリン残基がn−オクタノイル化されている。また、ヒトのグレリンはラットグレリンとアミノ酸2残基が異なる。以下にラット及びヒトのグレリンの構造式を示す。
化学合成したグレリンはナノモルオーダーで、GHS−Rを発現させたCHO細胞の細胞内Ca++上昇活性や、初代培養下垂体細胞で成長ホルモンの放出活性をもつ。さらに、in vivoでもラットにおいて血中成長ホルモンを上昇させる。グレリンのmRNAは胃で顕著に発現しており、またグレリンは血中にも存在する。さらに、GHS−Rは視床下部、心臓、肺、膵臓、小腸や脂肪組織にも存在している(前記Kojimaら)。また、グレリンには摂食促進作用のあることが報告されている(Wren et al.,Endocrinology,141(11):4325−4328,2000)。本発明者らはグレリンがNPYとY1受容体を介して顕著な食欲促進作用を示すことを発見し、グレリンが低栄養症状を示す疾患の治療剤として有用であることを提案した(PCT/JP02/00765)。
本発明者らは、成長ホルモン放出促進因子受容体(GHS−R)アンタゴニストが血糖値を有意に低下させること、及び食欲を顕著に抑制することを発見して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、成長ホルモン放出促進因子受容体(GHS−R)アンタゴニストを有効成分として含有する糖尿病の予防剤又は治療剤を提供する。
本発明はさらに、GHS−Rアンタゴニストを投与することを特徴とする血糖値低下方法を提供する。
本発明はさらに、GHS−Rアンタゴニストを有効成分として含有する肥満予防剤又は治療剤を提供する。
本発明はさらに、GHS−Rアンタゴニストを有効成分として含有する食欲抑制剤を提供する。
本発明はさらに、有効量のGHS−Rアンタゴニストを投与することを含む糖尿病予防法又は治療法を提供する。
本発明はさらに、有効量のGHS−Rアンタゴニストを投与することを含む肥満予防法又は治療法を提供する。
本発明はさらに、有効量のGHS−Rアンタゴニストを投与することを含む食欲抑制法を提供する。
図2は、グレリンIP投与の高脂肪食餌下における体重に及ぼす効果を示す。
図3は、グレリンIP投与の高脂肪食餌下における脂肪体塊に及ぼす効果を示す。
図4は、グレリンIP投与後のWATにおけるレプチン、アジポネクチン及びレジスチンmRNAの発現(ノーザンブロットにて評価)を示す。
図5は、高脂肪食餌下でのグレリンmRNAの発現(ノーザンブロットにて評価)を示す。
図6は、[D−Lys−3]−GHRP−6をIP投与したときの餌摂取量に及ぼす効果を示す。
図7は、[D−Lys−3]−GHRP−6をICV投与したときの餌摂取量に及ぼす効果を示す。
図8は、IP投与されたグレリンとICV投与された[D−Lys−3]−GHRP−6の同時投与の餌摂取に及ぼす効果を示す。
図9は、[D−Lys−3]−GHRP−6をIP投与したときの胃排出速度に及ぼす効果を示す。
図10は、[D−Arg−1,D−Phe−5,D−Trp−7,9,Leu−11]substance PをIP投与したときの餌摂取量に及ぼす効果を示す。
図11は、[D−Lys−3]−GHRP−6をIP投与したときの餌摂取量に及ぼす効果を示す。
図12は、[D−Lys−3]−GHRP−6をIP投与したときのob/obマウスにおける餌摂取に及ぼす効果を示す。
図13は、[D−Lys−3]−GHRP−6の繰り返し投与がob/obマウスにおける体重増加に及ぼす効果を示す。
図14は、[D−Lys−3]−GHRP−6のIP投与がob/obマウスにおける遊離脂肪酸に及ぼす効果を示す。
グレリン又はグレリン類似体のアンタゴニストは、例えば以下に記載のスクリーニング方法によって同定することができる(PCT/JP02/00765参照)。
すなわち、グレリン又はグレリン類似体の存在下又は非存在下に、候補物質を動物に投与し、摂食量、NPY mRNA発現量、NPYとNPYのY1受容体との結合量、酸素消費量、胃内容排出速度、又は迷走神経の活性を測定することにより、グレリン又はグレリン類似体のアンタゴニストをスクリーニングすることができるが、これに限定されない。
上記スクリーニング方法で得られたグレリン又はグレリン類似体のアンタゴニストを本発明の糖尿病予防剤又は治療剤、肥満予防剤又は治療剤、及び食欲抑制剤の有効成分として用いることができる。
本発明では、グレリン又はグレリン類似体のアンタゴニストとしてモチリンもしくはモチリン類似体のアンタゴニストを用いることもできる。
モチリンは十二指腸、空腸上部の内分泌細胞から分泌される22アミノ酸残基のペプチドであり(Itoh,Z.,Peptides,18:593−608,1997)、消化管の空腹期(interdigestive)運動、胆嚢収縮及び胃や膵臓からの酵素分泌に関与する。モチリンはGH分泌を促進することが報告されており、非ペプチド性のモチリンアゴニストを用いて胃の運動を促進することが報告されている(前出、Itoh)。図1のAに示すように、ヒトグレリンとヒトモチリンは互いに36%のアミノ酸同一性を示す(アクセス番号A59316及びP12872)。さらに、図1のBに示すように、ヒトグレリン受容体はヒトモチリン受容体と全体として50%のアミノ酸同一性を示す(アクセス番号Q92847、Q92848及びQ43193)。また、最近になって、Tomasettoたちもマウス胃から新規なペプチドを単離したが、これはグレリンと同一であり、モチリン関連ペプチドと命名した(Tomasetto C.et al.,Gastroenterology,119:395−405,2000)。グレリンとモチリンとの配列相同性及びグレリン受容体とモチリン受容体との配列相同性に鑑み、グレリン又はグレリン類似体のアンタゴニストとしてモチリンもしくはモチリン類似体のアンタゴニストを用いることができる。
なお、グレリンは、式1で表されるラットグレリン又はヒトグレリン又はグレリン類似体である。
本発明にいうグレリン類似体には、食欲促進作用を有する限り、28個のアミノ酸の1個以上のアミノ酸が欠損、置換または付加されているものも包含され、さらに、これらの各種誘導体〔例えば、ペプチド構成アミノ酸が置換された誘導体(アミノ酸間に基、例えば、アルキレンが挿入されたものも包含する)及びエステル誘導体〕も包含される。
グレリン又はグレリン類似体はいかなる方法で製造したものでもよく、例えば、ヒト、ラットの細胞より分離、精製したもの、合成品、半合成品、遺伝子工学により得られたものなどを含み、特に制限はない。
28個のアミノ酸の1個以上のアミノ酸が欠損、置換または付加されているもの例としては、グレリンの14番目のGln残基が欠除した、des−Gln14−グレリンなどが代表的である。ラットdes−Gln14−グレリンはグレリン遺伝子のスプライシングの違いにより生じるものであり、ラット胃においてはグレリンの4分の1程度存在し、成長ホルモン放出活性の強さは同じである。
さらに、グレリン類似体には、J.Med.Chem.2000,43,4370−4376に記載された
さらに、グレリン類似体には、J.Med.Chem.2000,43,4370−4376に記載された下記のようなものも包含される。例えば、グレリン28個のアミノ酸のうち、N末端から3及び4番目のアミノ酸(好ましくは、N末端4個のアミノ酸)を有し、かつN末端から3番目のアミノ酸(Ser)の側鎖が置換されているペプチド及びその誘導体であって、成長ホルモン遊離促進作用を有するものがあげられる。
N末端から3番目のアミノ酸の側鎖の例としてはグレリンの側鎖であるオクタノイル以外のアシル基及びアルキル基(これらの炭素数は6〜18が好ましい)があげられる。具体的な側鎖としては、下記のものがあげられる:
−CH2(CH2)9CH3、−CO−(CH2)6CH3、−CO−CH=CH−CH=CH−CH=CH−CH3、−CO−CH(CH2CH2CH3)2、−CO−(CH2)9CH3、−CO−(CH2)14CH3、−CO−(CH2)6CH2Br、−CO−CH(CH2)2CONH(CH2)2CH3、−COPh、
下記式:
N末端から3及び4番目のアミノ酸を有し、かつN末端から3番目のアミノ酸(Ser)の側鎖が置換されているグレリン類似体の具体的な例としては、第37回ペプチド討論会(2000年10月18日〜20日)で報告された化合物:NH2−(CH2)4−CO−Ser(オクチル)−Phe−Leu−NH−(CH2)2−NH2があげられる。
本発明では、GHS−Rアンタゴニストとして、[D−Lys−3]−GHRP−6(Veeraragavan K.et al.,Life Sci.50:1149−55,1992)及び[D−Arg−1,D−Phe−5,D−Trp−7,9,Leu−11]substance P(Cheng,K et al.,Journal of Endocrinology,152:155−158,1997)を用いて本発明の効果を確認した。
本発明の予防剤又は治療剤、及び抑制剤は中枢投与(例えば脳室内投与、脊髄腔注)とすることも、末梢投与とすることも可能である。好ましくは、末梢投与で使用する。食欲調節ペプチドの多くは末梢投与では中枢投与のような作用を示さないが、本発明の予防剤又は治療剤、及び抑制剤は末梢投与でも血糖濃度を有意に低下させた。従って、本発明の予防剤又は治療剤、及び抑制剤は投与に伴う患者の苦痛が少なく、かつ簡便に服用することができ、従来の食欲調節性ペプチドに比べてはるかに利点が大きい。
GHS−Rアンタゴニストは、公知の製剤技術により、単独であるいは薬理学的に受容しうる担体、添加剤などとともに、通常の経口投与用製剤及び非経口投与用製剤とすることができる。例えば、溶液製剤(動脈注、静脈注又は皮下注などの注射剤、点鼻剤、シロップ剤等)、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、座剤などに製剤化することができる。また、ドラッグデリバリーシステム(除放剤など)で使用することも可能である。
本発明の予防剤又は治療剤、及び抑制剤の投与量は、患者の年齢、体重、症状、投与経路などに応じて異なり、医師の判断によって決定される。通常、静脈内投与のためには、GHS−Rアンタゴニストとして、体重1kgあたり約0.1μg〜1000mg、好ましくは約0.01mg〜100mg、より好ましくは0.1mg〜10mgである。但し、投与量はこれに限定されるものではない。
本発明の糖尿病予防剤又は治療剤は、糖尿病の予防又は治療に用いることができ、特に2型糖尿病(NIDDM:インスリン非依存型糖尿病)の予防剤又は治療剤として有用である。本発明の肥満治療剤は、肥満に由来する虚血性心疾患、変形性関節症、腰椎症、脂質代謝異常、睡眠時無呼吸症候群、月経異常などの病態に有効である。本発明の食欲抑制剤は、過食症、ストレス過食、糖尿病性過食などの病態に有効である。
本発明者らは、後述する実施例に記載するように、体重、脂肪質量、グルコース、インシュリン、及び白色脂肪組織におけるレプチン(leptin)、アジポネクチン(adiponectin)、レジスチン(resistin)遺伝子発現を、高脂肪食餌下でのグレリンの繰り返し投与の後に測定した。また、胃のグレリン遺伝子発現をノーザンブロット分析により測定した。さらに、エネルギー摂取及び胃排出(gastric emptying)はGHS−Rアンタゴニスト投与の後に測定した。GHS−Rアンタゴニストの繰り返し投与をob/ob肥満マウスで6日間継続して行い、その効果を試験した。
その結果、グレリンは高脂肪食餌下で明らかな脂肪蓄積(adiposity)を引き起こし血糖制御を悪化させた。グレリンはレプチンmRNA発現を上昇させ、かつレジスチンmRNA発現を減少させた。胃グレリンmRNA発現は高脂肪食餌により増加した。
GHS−Rアンタゴニストは痩マウス(lean mice)において、食餌誘導性(diet−induced)肥満のマウスにおいて、そしてob/ob肥満マウスにおいてエネルギー摂取を減少させたが、その作用の機構は胃排出の減少に関連している。GHS−Rアンタゴニストの繰り返し投与はob/obマウスにおいて体重増加を減少させ血糖制御を向上させた。
従って、グレリンは特に高脂肪食餌下における過剰な体重増加、脂肪蓄積及びインシュリン抵抗性に密接に関連していることが確認された。さらに、GHS−Rアンタゴニストは、肥満及び2型糖尿病のための有望な予防又は治療剤となることが期待できる。
GHS−Rアンタゴニストの摂食に対する作用についての考察
GHR−Rアンタゴニストがエネルギーの負平衡(negative energy balance)状態を誘導するであろうという予測に基づいて、GHS−Rアンタゴニストの摂食に対する作用を検討した。GHS−Rの投与により痩マウス及び高脂肪食によって肥満となったマウスにおいて摂食が減少した。過去の報告によれば、GHS−Rは視床下部、心臓、肺、すい臓、小腸及び脂肪組織に存在している。視床下部ではGHS−Rは弓状核(ARC)に位置しており、ここでは2つの食欲増進ペプチド、ニューロペプチドY(NRY)及びアゴウチ関連タンパク(AGRP)、がニューロンで合成されている。さらに、非ペプチドGH分泌促進物質が視床下部に作用してARCニューロンの電気的活性を変化させ、c−fosの発現を活性化するように作用している(例えば、Lawrence et al.,Endocrinology,143:155−162,2002)。今までに、その作用メカニズムがARC内(ここでは血液脳関門障壁の作用が弱い)の視床下部NPY及びAGRPニューロンの直接的活性化に関与するような摂食行動をグレリンが刺激することが報告されている(例えば、Inui,Nat Rev Neurosci,2:551−560,2001)。しかしながら、胃からのグレリンシグナルの別の経路は、迷走神経と脳幹核(brainstem nuclei)を通り最後に視床下部に到達する上行神経ネットワークを介する。本発明において、中枢に投与されたGHS−Rアンタゴニストは末梢投与されたグレリンにより誘導された摂食に対する刺激作用を停止した。これらの結果によりグレリンが脳内でGHS−Rを通じて作用しているらしいことが示唆された。さらに、末梢で投与されたGHS−Rアンタゴニストが胃排出速度を減少させることを明らかにしたが、このことはその食欲不振誘発作用(食欲抑制作用)に寄与する。かなりの証拠が蓄積して、胃の拡張が満腹シグナルとして作用して食物摂取を阻害し、速やかな胃排出が過食と肥満に関連し、遅滞した胃排出が食欲不振と悪液質に関連することが示されている(Inui,Mol Psychiatry,6:620−624,2001)。過去の研究によりグレリンが迷走神経性経路を介して胃排出速度及び運動性を増加することが示されている(Inui,Nat Rev Neurosci,2:551−560,2001)。
本発明により、摂食行動の制御においてGHS−Rがある役割を持ち、GHS−Rの拮抗作用が肥満の治療のための有望なアプローチとなりうることが示された。
さらに、本発明により、末梢に投与されたGHS−Rアンタゴニストがob/obマウス(インシュリン抵抗性及び速やかな胃排出で肥満及び糖尿病の遺伝モデルとして知られる)において食欲不振作用を生起し、体重減少と血糖濃度を低下させることを明らかにした。この中程度の血清インシュリンレベルの減少を伴ったグルコースレベルの著しい減少により、インシュリン抵抗性の改善におけるGHS−Rアンタゴニストの役割が示された。他方、フォスファチジルイノシトール3キナーゼ活性の減少に関与する作用メカニズムのグルコース輸送活性の阻害を通じて、血清FFAの上昇によりインシュリン抵抗性が誘導されることが示された。最近、循環性FFA濃度の上昇が中年男性の突然死の独立危険因子となることが、長期間のコホート調査において報告された(Jouven et al.,Circulation,104:756−761,2001)。以下に示す実施例では、GHS−Rアンタゴニストはob/ob肥満マウスのFFAレベルの顕著な減少を起こした。
結論として、末梢で投与されたGHS−Rアンタゴニスト、[D−Lys−3]−GHRP−6及び[D−Arg−1,D−Phe−5,D−Trp−7,9,Leu−11]substance Pにより、痩マウス、食餌誘導性肥満マウスおよびob/ob肥満マウスにおける食料摂取が減少することを見出した。また、[D−Lys−3]−GHRP−6の繰り返し投与により、マウスにおいて体重増加が減少し、血糖制御が向上することを示した。
本出願は特願2002−197582に基づく優先権を主張するものであり、前記出願の内容の全てを参照として本出願に包含する。
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
(1)動物実験
ddy系のオスのマウス(34−37g、JAPAN SLC,Shizuoka,Japan)及びobese(ob/ob)C57BL/6Jマウス(68−74g、Shionogi Co.,Ltd.,Shiga,Japan)を使用した。マウスは1匹ずつ制御された環境中で収容された(22±2℃、55±10%湿度、12:12時間の明:暗サイクルで午前7:00にライトをつけた)。マウスは全エネルギーの12%を脂肪として含む標準食餌又は全エネルギーの45%を脂肪として含む高脂肪食餌(CLEA Japan,INC.,Tokyo,Japan)を与えられた。他に記載しない限り餌と水は自由に摂取できた。全実験は我々の大学の動物ケア委員会により承認された。
(2)試験薬剤
[D−Lys−3]−GHRP−6、[D−Arg−1,D−Phe−5,D−Trp−7,9,Leu−11]substance P及びラットグレリンはBACHEM CALIFORNIA INC.(Torrance,California)、NEOSYSTEM(Strasbourg,France)及びPeptide Institute(Osaka,Japan)からそれぞれ購入した。投与の直前に、各薬剤は第三脳質内(ICV)投与のために4μlの人工脳脊髄液(ACSF)中あるいは腹膜内(IP)投与のために100μl生理食塩水中に希釈された。結果は平均値±s.e.mで表した。分散分析(ANOVA)に続くBonferroni’s t testを用いてグループ間の差を評価した。P<0.05で統計的に有意とされた。
(3)ICVによる薬剤投与
ICV投与のために、マウスをペントバルビタールナトリウム(80−85mg/kg IP)で麻酔し、実験前の7日間、定位固定装置(SR−6,Narishige,Tokyo,Japan)内においた。各頭蓋骨に、針を使って中央縫合の側方0.9mmで前頂の0.9mm後方に穴をあけた。一端を長さ3mmにわたって傾斜させた24ゲージのカニューレ(Safelet−Cas,Nipro,Osaka,Japan)を第三脳室に埋め込みICV投与用とした。カニューレを歯科用セメントで頭蓋骨に固定し、シリコンでふたをした。27ゲージの注入用インサートをPE−20チュービングでミクロシリンジに取り付けた。
(4)摂食試験
摂食試験の前に、マウスは水は自由に飲めたが16時間絶食(food deprived)した。ただし、[D−Lys−3]−GHRP−6及びグレリンの共投与の餌摂取に対する影響の実験においてはマウスは餌と水を自由に摂取した。餌摂取は投与後20分間、1,2及び4時間で、初めに前もって測定しておいた餌から食べられていない餌を減算することにより測定した。
(5)RNA分離及びノーザンブロット分析
RNAは胃及び精巣上体脂肪からRNeasy Mini Kit(Qiagen,Tokyo,Japan)を用いて分離した。全RNAをホルムアルデヒドで変性し、1%アガロースゲルで電気泳動し、Hybond N+メンブレン上にブロットした。メンブレンをフルオレセイン標識cDNAプローブでハイブリダイズした。ハイブリダイゼーションシグナルのトータルの積分密度(total integrated densities)はデンシトメトリー(Amersham Pharmacia Biotech AB,Uppsala,Sweden)により求めた。データはグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(G3PDH)mRNA存在度(abundance)に標準化されて対照に対するパーセンテージとして示した。
(6)グレリン遺伝子の発現
痩マウスは全エネルギーの12%を脂肪として含む標準食餌あるいは全エネルギーの45%を脂肪として含む高脂肪食餌を2週間摂取した。マウスは8時間絶食してから頸部脱臼により殺された。その直後に胃を取り除き、ドライアイス上で凍結し−80℃でノーザンブロットの調製まで保存した。
(7)胃排出
胃排出における実験の前に、マウスは水分は自由に摂取しながら16時間絶食した。絶食したマウスは予め秤量したペレットを1時間自由に摂取してから[D−Lys−3]−GHRP−6を投与された。マウスには注入の後、再び1又は2時間餌を与えなかった。餌の摂取は食べられなかったペレットを秤量することにより測定した。マウスは実験開始から2又は3時間後に頸椎脱臼により殺された。直後に、開腹により胃が露出され、幽門と噴門の両方で素早く結紮され、それから取り除かれ、そして乾燥内容物の重量を測定した。胃排出は以下の式により算出した:
胃排出(%)={1−(胃から取り出された餌の乾燥重量/摂取した餌の重量)}X100
(8)繰り返し投与
痩マウスにおいて高脂肪食餌又は標準食餌下で5日間、及びob/ob肥満マウスにおいて標準食餌下で6日間、繰り返しIP投与をそれぞれ継続した。マウスは午前7:00と午後19:00に投与を受けた。餌の摂取と体重を毎日測定した。実験の終わりに(餌の除去及び最終IP投与後8時間)、エーテル麻酔下で眼窩洞(orbital sinus)から得られた血液から血清を分離した。マウスは頸椎脱臼により殺された。直後に、白色脂肪組織(WAT)として査定された精巣上体脂肪体(fat pad)塊(mass)、及び腓腹筋を取り除き、重量を測定した。血中グルコースをグルコースオキシダーゼ法により測定した。血清インシュリンと遊離脂肪酸(FFA)をそれぞれ酵素免疫法及び酵素法(EIKEN CHEMICAL CO.,LTD.,Tokyo,Japan)により測定した。血清トリグリセリドと全コレステロールを酵素法(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Tokyo,Japan)により測定した。
実施例1:高脂肪食餌下における体重増加及び血糖制御に対するグレリン繰り返し投与の作用
一日2回5日間のグレリンのIP投与(1回投与量:3nmol/マウス)により、一日のエネルギー摂取の増加に伴い体重が有意に増加した(図2、図3、表1)。脂肪体塊は、標準食餌及び高脂肪食餌を与えられた生理食塩水処理のマウスと比較してそれぞれ49%及び125%有意に増加した。骨格筋は重量の増加を示さなかった。血清コレステロール及びインシュリンレベルも増加し、血中グルコース濃度の中程度の増加を伴った。次にWATにおけるレプチン、アジポネクチン及びレジスチンのmRNAレベルを測定した。グレリンの繰り返し投与によりWATにおいてレプチンmRNAの発現が増加するとともにレジスチンmRNAのATにおいてレプチンmRNAの発現が増加するとともにレジスチンmRNAの発現が減少した(図4)。
次に、全エネルギーの45%を脂肪として含む高脂肪食餌下でのグレリンmRNAの発現を測定した。2週間の高脂肪食餌により、餌剥奪マウスの胃におけるグレリン遺伝子の発現は、標準食餌と比較して有意に増加した(図5)。
実施例2:GHS−Rアンタゴニストがエネルギーバランスに及ぼす影響
GHS−Rアンタゴニスト、[D−Lys−3]−GHRP−6を餌剥奪マウスにIP投与した。図6に示すように、[D−Lys−3]−GHRP−6により有意に用量依存的に餌摂取が減少した。
次いで、中枢投与の[D−Lys−3]−GHRP−6が同様の効果を持つかどうかについても検討した。ICV並びにIP投与された[D−Lys−3]−GHRP−6により、摂食行動の強力な減少が起こった(図7)。
グレリンが脳内のGHS−Rを介して作用する可能性を評価するために、グレリンと[D−Lys−3]−GHRP−6の同時投与の餌摂取に対する効果を調べた。ICV投与された[D−Lys−3]−GHRP−6はグレリンのIP投与により誘導された摂食に対する刺激効果を阻害した(図8)。
次に胃排出速度に対する[D−Lys−3]−GHRP−6のIP投与の効果を調べた。末梢投与された[D−Lys−3]−GHRP−6により、胃排出速度の有意な減少が、投与の1時間後に起こった(図9)。
別のGHS−Rアンタゴニスト、[D−Arg−1,D−Phe−5,D−Trp−7,9,Leu−11]substance P(L−756,867)の摂食に対する効果についても餌剥奪マウスで調べた。末梢投与された[D−Arg−1,D−Phe−5,D−Trp−7,9,Leu−11]substance Pは[D−Lys−3]−GHRP−6と同様に用量依存的に餌摂取を有意に減少させた(図10)。
高脂肪食餌によって引き起こされた体重増加が賦形剤の繰り返し投与により大幅に損なわれたため(図2)、食餌により肥満となったマウスにおける[D−Lys−3]−GHRP−6の急性作用を検討した。[D−Lys−3]−GHRP−6のIP投与により餌の摂取は大きく減少し、体重増加が減少した(図11)。
治療効果についてさらに見通しを得るために、IP投与された[D−Lys−3]−GHRP−6がob/obマウスにおいて食欲不振誘発性作用を産生するかどうか検討した。投与された[D−Lys−3]−GHRP−6は、ob/obマウス並びに痩マウスにおいて餌摂取を有意に減少させた(図12)。
最後に、[D−Lys−3]−GHRP−6の繰り返し投与がob/obマウスにおける体重増加と血糖制御に与える影響を検討した。[D−Lys−3]−GHRP−6の繰り返し注射により、筋肉重量を減少することなく体重増加と血糖濃度が有意に低下した(図13、表2)。さらに、[D−Lys−3]−GHRP−6処理によりob/obマウスのFFAレベルは生理食塩水処理ob/obマウスに比較して24%有意に減少した(図14)。
Claims (8)
- [D-Arg-1, D-Phe-5, D-Trp-7, 9, Leu-11] substance Pまたは[D-Lys-3]-GHRP-6を有効成分として含有する血糖値低下剤。
- 請求項1記載の血糖値低下剤を有効成分として含有する肥満予防剤又は治療剤。
- 請求項1記載の血糖値低下剤を有効成分として含有する食欲抑制剤。
- 請求項1記載の血糖値低下剤を有効成分として含有する糖尿病予防剤又は治療剤。
- 末梢投与用である請求項1記載の血糖値低下剤。
- 末梢投与用である請求項2記載の予防剤又は治療剤。
- 末梢投与用である請求項3記載の食欲抑制剤。
- 末梢投与用である請求項4記載の予防剤又は治療剤。
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