JP5114410B2 - 融合タンパク質の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、複数のポリペプチドドメインがポリペプチドリンカー部分により連結されている構造を有する融合タンパク質を遺伝子工学手法によって生産させる際に、mRNA中のポリペプチドリンカー部分に対応する領域の翻訳速度を低下させるようにポリペプチドリンカー部分を設計することを特徴とする融合タンパク質の製造方法を提供する。
数多くの有用物質、特にタンパク質、ポリペプチド等の生物由来の物質の生産が、遺伝子工学手法の確立により可能となってきている。従来、こうした生物由来の物質は目的とする当該物質を含む天然の材料を初発物質として、抽出、精製等の手法に基づいて単離されていたが、一般的に初発物質中では目的とする当該物質の含有濃度は低く、その収量には限界があった。これに対して、遺伝子工学手法を用いれば、タンパク質、ポリペプチド等をコードする遺伝子を当該遺伝子を発現することが可能な遺伝子エレメントに連結して作製した組換えベクターを好適な宿主中に導入することにより、目的とするタンパク質、ポリペプチド等を大量に発現することができる。大量発現により得られる、目的とするタンパク質、ポリペプチドを高濃度で含む調製物から抽出又は精製を行うことにより、目的とするタンパク質、ポリペプチドを高収率で取得することが可能となった。
遺伝子工学とは遺伝子を操作することにより、生物が本来持っている機能とは異なる機能を付与するか、生物機能を改変する技術の総称であり、変異誘発、細胞融合の他、近年では組換えDNA技術がその中心技術となっている。遺伝子工学の産業上の利用分野は、医療、分析・診断、農畜水産分野、食品及び化学分野と広範にわたり、具体的には医薬、診断薬、分析試薬、組換え動物、組換え植物、酵素等数多くの製品が実用化されている。遺伝子工学は上記のように、生物が本来持っている機能とは異なる機能を付与する、即ち、宿主生物が生来遺伝的には持っていない分子を当該宿主中で発現させる手法であるため、時として導入する遺伝子の由来する生物種(ドナー)と、当該遺伝子を発現させる宿主の生物種(レシピエント)が相互に相違する異種遺伝子発現の場合に、目的としていた物質が目的とする態様で発現する事ができないという現象が観察されてきた。
例えば、真核生物由来の糖鎖タンパク質を、大腸菌、枯草菌等の遺伝子組換えの宿主として古くから用いられてきたような原核生物中において発現させた場合には、原核細胞では糖鎖付加機構を有していないため、生産される組換えタンパク質は糖鎖を有しない。このため、糖鎖の存在がタンパク質の活性に対して必須であるときは、当該組換えタンパク質は非活性型のタンパク質として生産されることになる。
同様の例として、遺伝子の転写、翻訳における効率を決定する要因であるコドンの使用頻度について、生物種による相違に起因する障害が指摘されてきた。真核生物ミトコンドリアとカンジダ属酵母を除き、アミノ酸のコドンは全生物にほぼ共通であるが、真核生物の遺伝子のコドン利用頻度と宿主となる原核生物のコドン利用頻度とに差があり(非特許文献1:コドン利用頻度のデータベースhttp://www.kazusa.or.jp/codon/)、コドン利用頻度に関して以下のような観察がなされている。
1)コドン選択パターンはタンパク質生産量と関係する一つの重要な因子である。例えば、大腸菌に導入した真核生物由来の遺伝子が、大腸菌において使用頻度の少ないコドンであるIle(AUA)、Arg(AGA)、Leu(CUA)、Arg(AGG)、Pro(CCC)、Gly(GGA)を使用している場合、当該遺伝子によりコードされたタンパク質が発現しない、又は、発現の途中で停止し分解を受けることがある。例え発現した場合でも、外来蛋白質のみを多量に含む顆粒(沈殿)(以下、封入体(インクルージョンボディ)と指称する。)を形成する。当該封入体は、タンパク質が分子内のジスルフィド結合等を通じて本来保持する立体構造を有していないため、そのままでは目的とする活性が得られない。
2)コドン選択パターンはタンパク質生産量のみでなく、翻訳過程の正確度とも関係し、Arg(AGA)の代わりにLys(AAA)を取り込んで異なるアミノ酸配列を有するタンパク質が生産されることがある(非特許文献2:J.Mol.Biol., 262, 407-412, 1996)。
3)生物のコドンの使用頻度と当該生物中のtRNA濃度の偏りとは完全には一致していないことが知られている。従って、当該生物におけるレアコドンを定義するためには、生物におけるコドンの使用頻度の他にも当該生物中のtRNA濃度の偏りを参酌することが必要である。
上記の観察から、真核生物由来の遺伝子コドンとして、宿主原核生物細胞で多用される同義コドンを用いることが好ましいと予想されてきた。このため、遺伝子を化学合成する際に、宿主菌のコドン使用の特徴に基づいて適したコドンを有する遺伝子を合成すること(非特許文献3:細胞工学, 5, 212-221, 1986)が行われている。更に、大腸菌のレアコドンに対応するtRNAを発現する組換えプラスミドを導入した宿主(例えば大腸菌を宿主とした場合のCodonPlusTM(Stratagene社)等)の開発などがなされている。同様の技術を利用して、レアコドンに対応するtRNAを導入した大腸菌でscFvを産生させ、生産量を上昇させた報告もされている(非特許文献4:J.Biosci.Bioeng., 91(1), 53-7, 2001)。
真核生物由来のタンパク質であって、医薬・診断薬等の用途に頻用されるタンパク質としては、酵素、又は、抗体若しくはその断片が挙げられる。酵素は食品、医薬、診断薬、化学等の広範な分野で使用されている。抗体は認識する抗原物質との親和性の高さから診断薬や医薬分野で使用されている。抗体は、とりわけ血清中での安定性が高く、抗原性が少ないことから医薬品として近年頻用されている。
抗体の全長分子は、重鎖と軽鎖の二種類のポリペプチド分子が二分子ずつ会合した分子であり、その活性化には糖鎖構造が重要であるため、抗体分子を活性型で生産するためには、ドナーの真核細胞と同様の糖鎖付加活性を有するレシピエント中で発現させることが必要である。これに対して全長抗体の断片を利用する抗体断片は、抗体が抗原を十分に認識するのに必要な最小結合単位である、抗体の重鎖可変領域(H鎖V領域)と軽鎖可変領域(L鎖V領域)が会合したヘテロ二量体分子であるFv分子、またはH鎖V領域ポリペプチドとL鎖V領域ポリペプチドとが任意のアミノ酸配列を有するポリペプチドリンカーで結合されている分子である。当該抗体断片は、全長抗体と比較し血中半減期が短く、投与により人為的にその血中濃度の制御が可能であり、その分子量が全長抗体の分子量よりも小さいために組織移行性に優れていることから、全長抗体とは異なる医薬品としての優れた性質を有している。更に、全長抗体を抗体断片化することにより、全長IgG抗体では観察できない受容体に対するアゴニスト活性を付与することが可能であるという報告がなされ(非特許文献5:Blood, 105(2), 562-6, 2005)、その機能的優位性の観点からも医薬品としての可能性が高まってきている。
抗体断片は活性型分子として機能するために糖鎖の付加が必要でないことから、ドナーの真核細胞と同様の糖鎖付加活性を有するレシピエント中で発現させることを必要としない。このため、抗体断片は、生育速度が速く、生産量も大きいことから製造における単位時間当たりの生産性、簡便性などの観点で優れている大腸菌、枯草菌その他の微生物(酵母などの真核生物も含む)を宿主にした遺伝子工学手法を用いて生産することが可能である。
しかしながら、大腸菌を始めとする原核生物を宿主として抗体断片を発現させた場合には、多くの真核生物由来のタンパク質がそうであるのと同様に、抗体断片分子同士が凝集して封入体を形成するか、又は、封入体を形成しない場合でも適切な立体構造を取らないために、抗体断片が抗原に対する結合活性を有しない等の現象がしばしば認められている。こうした封入体を塩酸グアニジンやβ―メルカプトエタノールを用いて還元状態下で変性し透析により徐々に変性剤を除去することにより巻き戻しを促し、可溶型構造を形成し始める段階にジスルフィド結合の形成を促す酸化型グルタチオンと凝集抑制剤であるアルギニンを添加する方法が報告されている(非特許文献6:J.Immunol.Method, 219, 119-29, 1998)。しかし、作業が煩雑な上時間も要することから、抗体断片をその結合活性等を保持したまま可溶型で生産することができる製造方法の開発が望まれていた。
本明細書において引用される参考文献は以下のとおりである。これらの文献に記載される内容はすべて本明細書の一部としてここに引用する。これらの文献のいずれかが、本明細書に対する先行技術であると認めるものではない。
コドン利用頻度のデータベースhttp://www.kazusa.or.jp/codon/ J.Mol.Biol., 262, 407-412, 1996 細胞工学, 5, 212-221, 1986 J.Biosci.Bioeng., 91(1), 53-7, 2001 Blood, 105(2), 562-6, 2005 J.Immunol.Method, 219, 119-29, 1998
本発明の課題は、抗体断片を可溶型で生産することができる製造方法を提供することにある。また、本発明の課題は、抗体断片を効率的に生産することができる製造方法を提供することにある。更に、本発明の課題は、抗体断片を大量に生産することができる製造方法を提供することにある。
本発明者らは、抗体断片の機能ドメイン同士の結合に使用するリンカー配列をコードするヌクレオチド配列を選択することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、2以上のポリペプチドドメインと、これらを連結するポリペプチドリンカーからなる融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、前記ポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドの配列は、前記ポリヌクレオチドが導入された宿主細胞において前記ポリヌクレオチドから転写されたmRNAが翻訳される際に、ポリペプチドリンカーをコードするmRNAの領域の翻訳速度がそのすぐ上流側のポリペプチドドメインをコードするmRNAの領域の翻訳速度より遅くなるよう選択されることを特徴とするポリヌクレオチドを提供する。すなわち、ポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドの配列は、ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するように選択される。
好ましくは、ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドは、1またはそれ以上のレアコドンを含む。より好ましくは、レアコドンは、GCC,CGG,AGG,CAA,CAC,CAT,CTA,CCC,CCA,TCCのいずれかから選択される。またより好ましくは、レアコドンは、CGG,AGG,AGA,CTA,CCC,GGA,ATAのいずれかから選択される。
また好ましくは、ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドは、当該ヌクレオチドから転写されるmRNAの二次構造が、立体高次構造を取ることができる配列であることを特徴とする。さらに好ましくは、立体高次構造はステム−ループ構造である。また好ましくは、ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドがコードするアミノ酸の使用頻度は、当該ポリペプチドが導入された宿主細胞において低いことを特徴とする。また好ましくは、融合タンパク質は抗体断片である。さらに好ましくは、抗体断片はscFvまたはsc(Fv)2である。
特に好ましくは、ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドは、配列番号6、8、10、12又は24に規定される配列を有する。
別の態様においては、本発明は、上述の本発明のポリヌクレオチドが前記宿主細胞において発現可能なように挿入されたベクターならびにこのベクターにより形質転換された宿主細胞を提供する。好ましくは宿主細胞は原核生物の細胞であり、また好ましくは、原核生物は大腸菌である。
さらに別の態様においては、本発明は、上述の本発明の宿主細胞を培養し、産生された融合タンパク質を回収することを特徴とする融合タンパク質の製造方法を提供する。
本発明の1つの態様においては、抗体断片の分子内の機能ドメインを結合するために使用されるリンカー配列をコードするヌクレオチド配列について、その翻訳速度が低下するような配列に改変又は設計された抗体断片遺伝子を作製し、当該遺伝子により形質転換された宿主を培養することを特徴とする可溶型抗体断片の製造方法が提供される。
また、別の態様においては、翻訳速度が低下するように、レアコドンを含む配列に改変又は設計された抗体断片遺伝子を作製し、当該遺伝子により形質転換された宿主を培養することを特徴とする可溶型抗体断片の製造方法が提供される。
本発明の更に別の態様においては、翻訳速度が低下するように、mRNAの二次構造が立体高次構造を取ることができる配列に改変又は設計された抗体断片遺伝子を作製し、当該遺伝子により形質転換された宿主を培養することを特徴とする可溶型抗体断片の製造方法が提供される。
本発明のさらに別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質転換された宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合するために使用されるリンカー配列であって、当該リンカー配列の翻訳速度が低下するように改変又は設計されたリンカーのヌクレオチド配列が提供される。
また、本発明の別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質転換された宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合するために使用されるリンカー配列であって、当該リンカー配列の翻訳速度が低下するように、レアコドンを含む配列に改変又は設計されたリンカーのヌクレオチド配列が提供される。
本発明の更に別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質転換された宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合するために使用されるリンカー配列であって、当該リンカー配列の翻訳速度が低下するように、mRNAの二次構造が立体高次構造を取ることができる配列に改変又は設計されたリンカーのヌクレオチド配列が提供される。
本発明の別の態様においては、抗体断片をコードする遺伝子によって形質転換された宿主細胞における発現に際し、当該抗体断片の機能ドメインを結合するために使用されるリンカー配列であって、当該リンカー配列の翻訳速度が低下するように、当該リンカー配列中のアミノ酸が宿主細胞において使用される頻度が低いアミノ酸であることを特徴とするリンカーのヌクレオチド配列が提供される。
また、本発明の別の態様においては、上記のリンカーのヌクレオチド配列を含む抗体断片をコードする遺伝子、この遺伝子を有するベクター、ならびにこのベクターによって形質転換された宿主細胞が提供される。
更に別の態様においては、上記のリンカーのヌクレオチド配列を含む抗体断片をコードする遺伝子を有するベクターによって形質転換された宿主細胞を培養し、その培養液を精製することからなる抗体断片の製造方法が提供される。
本発明の融合タンパク質のリンカーをコードするヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いて融合タンパク質を生産させた場合に、当該抗体断片を可溶型で発現させることができる。また、本発明の抗体断片のリンカーをコードするヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いて抗体断片を生産させた場合に、当該抗体断片を可溶型で発現させることができる。特に大腸菌で発現させた場合に当該抗体断片を可溶型で発現させることができる。また、本発明の抗体断片のリンカーをコードするヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いて抗体断片を生産させた場合に、当該抗体断片の発現量を増加させることができる。特に大腸菌で発現させた場合に当該抗体断片の発現量を増加させることができる。更に、本発明の抗体断片のリンカーをコードするヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いてscFv(single-chain Fv antibody fragment)及びsc(Fv)2を生産させた場合に、当該scFv及びsc(Fv)2を可溶型で発現させることができる。特に大腸菌で発現させた場合に当該scFv及びsc(Fv)2を可溶型で発現させることができる。また、本発明の抗体断片のリンカーをコードするヌクレオチド配列を用いれば、ドナーとは異なる生物種を宿主に用いてscFv及びsc(Fv)2を生産させた場合に、当該scFv及びsc(Fv)2の発現量を増加させることができる。特に大腸菌で発現させた場合に当該scFv及びsc(Fv)2の発現量を増加させることができる。
図1は、パンニング用ベクターを示す図である。 図2は、scFv発現用ベクターを示す図である。 図3は、IPTG誘導後の菌体増殖を示す図である。 図4は、ゲルクロマトグラフィによる立体構造の解析を示す図である。 図5は、SDS-PAGEによる立体構造の解析を示す図である。 図6は、抗原結合カラムに対するscFvの結合を示す図である。 図7は、ビオチン化scFvの抗原認識を示す図である。 図8は、scFvの可溶性分子の生産性を示す図である。 図9は、scFvの可溶化率を示す図である。 図10は、scFvを産生する宿主細胞の増殖を示す図である。 図11は、sc(Fv)2を発現する菌体の増殖曲線を示す図である。 図12は、sc(Fv)2のSDS-PAGEによる解析結果を示す図である。 図13は、sc(Fv)2のウエスタンブロットによる解析結果を示す図である。 図14は、sc(Fv)2を発現する菌体の菌体内不溶性画分の経時変化を示す図である。 図15は、sc(Fv)2を発現する菌体の菌体内可溶性画分の経時変化を示す図である。 図16は、sc(Fv)2を発現する菌体の培養上清の経時変化を示す図である。 図17は、sc(Fv)2を発現する菌体の培養上清のBiacore解析によるセンサーグラムを示す図である。 図18は、図17の拡大図である。
融合タンパク質
本発明において、「融合タンパク質」とは、二若しくはそれ以上のタンパク質又はポリペプチドを、主に遺伝子工学に基づく手法により融合させることにより作製される人工のタンパク質又はポリペプチドをいう。なお、本明細書においては、用語「タンパク質」と「ポリペプチド」とは互換的に用いられる。融合タンパク質の作製方法は、遺伝子工学に基づく手法(以下、「遺伝子工学的手法」と指称する。)が用いられることが多いが、それに限定されるものではない。融合タンパク質を構成する各タンパク質は、天然に存在する全長タンパク質であってもよいし、各タンパク質中に存在する当該全長タンパク質の全部又は一部の機能を発揮するために必要な領域であるポリペプチドドメインであってもよい。こうしたポリペプチドドメインの例としてはカルモジュリン分子中のカルシウム結合ドメインなどが挙げられる。ポリペプチドドメイン自身は自己安定化機能を有することから、遺伝子工学的手法によって、あるタンパク質中のポリペプチドドメインを別のタンパク質のポリペプチドドメインと交換して新たな機能を有する融合タンパク質であるキメラタンパク質を作製することができる(Science, 198(4321), 1056-63, 1977)。キメラタンパク質は融合タンパク質の一類型であって、融合した各タンパク質のポリペプチドドメインが異なる種のタンパク質に由来するものを指称する。
また、各ポリペプチドドメインは同一分子から由来するものであってもよい。即ち、ある天然の全長タンパク質がポリペプチドドメインA+ポリペプチドドメインB+ポリペプチドドメインCの各機能ドメインから構成されている場合に、各機能ドメイン間を結合した分子、例えば、ポリペプチドドメインA+ポリペプチドドメインBから構成されるポリペプチド分子、ポリペプチドドメインA+ポリペプチドドメインCから構成されるポリペプチド分子、及びポリペプチドドメインA+ポリペプチドドメインB+ポリペプチドドメインCから構成されるポリペプチド分子も、これらの各ポリペプチドドメイン間が後述するポリペプチドリンカー分子により融合されていれば、本明細書中では融合タンパクの定義に包含されるものとする。
また本発明において「ポリペプチド」とは広義のポリペプチド、即ち、鎖長が50アミノ酸長より短いペプチドも包含する概念として用いられる。本定義によればペプチド結合によってポリペプチドを構成するアミノ酸残基の数に特に制限はなく、1から3000アミノ酸までのアミノ酸からなるポリペプチドを含むものとする。好ましくは1から1500アミノ酸であり、より好ましくは1から1000アミノ酸、更に好ましくは1から500アミノ酸、特に好ましくは1から300アミノ酸からなるポリペプチドである。
「融合タンパク質」を作製するための遺伝子工学的手法を以下に簡潔に例示する。あるタンパク質のポリペプチドドメインをコードするポリヌクレオチド配列を別のタンパク質のポリペプチドドメインをコードするポリヌクレオチド配列とインフレームで融合して、更に、そのように作製されたポリヌクレオチドの5'末端に、開始コドンであるATG、及び3'末端に終始コドンであるTAA、TGA又はTAGをインフレームで有しているようなヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを人工的に作製する。このことにより一つの読取り枠によって目的とする融合タンパク質がコードされる組換えDNAが構築できる。こうした遺伝子工学的手法は、当業者であればMolecular Cloning(A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, Vol. 1, 2, 3 (1989))などに記載された手法に基づいて利用でき、通常の創作能力を発揮することにより融合タンパク質を作製することができる。
こうした遺伝子工学的手法に基づき作製された、真核生物由来の融合タンパク質をコードする遺伝子を大腸菌等の原核細胞中で発現させた場合に直面する問題点として、タンパク質が発現しない、又は発現した場合であっても封入体の形成に起因する活性型タンパク質が得られないといった現象が知られている。この問題点を解決するために、本発明は、封入体の形成を抑制して、当該融合タンパク質をより可溶型で産生することができる製造方法を提供する。
本発明において「可溶型」とは、レシピエント細胞の細胞質中における不溶性の封入体を形成せずに、レシピエント細胞の細胞質、ペリプラズム、培養液の上清へ分泌される分子型のことを意味するものである。可溶型及び不溶型融合タンパク質分子の存在の確認は、後に実施例において記載するが、Knappikらの方法(Protein Eng., 8(1), 81-9, 1995)により行うことができる。本発明の効果を検証するための可溶型及び不溶型の融合タンパク質分子の含有量についての分析方法は、実施例中で具体的に記述する方法等を好適に使用することができる。
上記の他に、融合タンパク質を作製する際に、互いに相違するタンパク質を由来とするポリペプチドドメインを融合させるために、リンカー(又はスペーサーともいう)配列を好適に使用することができる。当該リンカーを構成するアミノ酸配列に特に限定は無く、融合タンパク質中の各ポリペプチドドメインの機能が保持されるように好適に設計される。例えば、融合タンパク質の例として、抗体断片を作製する場合には、当該リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号13)(以下、(G4S)3と指称する。)が一般的に用いられるが、融合タンパク質中の各ポリペプチドドメインの機能が保持されれば、上記の配列に限定されるものではない。本発明のリンカーのアミノ酸長は限定されずいかなるアミノ酸長を有するリンカーでも良いが、通常は5から50アミノ酸、好ましくは13から30アミノ酸、更に好ましくは15から30アミノ酸である。本明細書中で詳細に記載するが、本発明は融合タンパク質の作製に有用なポリペプチドリンカーと当該リンカーをコードするポリヌクレオチドを提供する。
また、本発明は融合タンパク質以外の天然のタンパク質にも適用することができる。例えば、天然の全長タンパク質が、ポリペプチドドメインA+ポリペプチドドメインB+ポリペプチドドメインCの各機能ドメインから構成されている場合に、各機能ドメイン間を結合するスペーサーとして機能しているポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を「ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するような配列」に改変することによっても本発明の効果を得ることができる。翻訳速度が遅延するとは、ポリペプチドリンカーをコードするmRNAの領域の翻訳速度がそのすぐ上流側のポリペプチドドメインをコードするmRNAの領域の翻訳速度より遅いことを意味する。
即ち、下記の段階
(1)天然のタンパク質の分子中に存在するポリペプチドドメインを決定し、
(2)各ポリペプチドドメイン間に存在するポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチド配列を決定し、
(3)ポリヌクレオチド配列の翻訳速度が低下するような配列へ改変又は設計されたポリヌクレオチドを作製し、
(4)当該ポリヌクレオチドが発現可能なように挿入されたベクターにより形質転換された宿主を培養することを特徴とする天然タンパク質の製造方法を提供するものである。
天然のタンパク質の分子中に存在するポリペプチドドメインは、例えば、PROSITE、PROFILE、ProDom、Pfamなどの公共データベースに登録されており、例えば、Pfam(http://pfam.wustl.edu/hmmsearch.shtml)などの公共モチーフ検索プログラムを用いて所望のタンパク質の配列中にどの様なポリペプチドドメインが存在しているか、そして、当該ポリペプチドドメインが所望のタンパク質のポリペプチド中のどのアミノ酸配列からなる断片に対応するかを決定することができる。
更に、本発明は、天然のタンパク質分子中のポリペプチド機能ドメイン中のコドンを「ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するような配列」に改変することによるタンパク質の製造方法を提供する。この場合、当該改変に係るコドンがコードするアミノ酸残基が改変前のアミノ酸残基と実質的に同一のものが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。「実質的に同一」とは、アミノ酸残基の側鎖の性質が保存されているアミノ酸相互の関係をいう。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。上記の各グループ内に属するアミノ酸相互の関係を「実質的に同一」という。
抗体断片
本発明により提供される融合タンパク質であって、特に好適に利用されるものとしては、抗体断片分子を挙げることができる。
抗体断片分子の基礎となる全長抗体分子は、その分子構造上の特徴から、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMの大きく5種類のクラスに類別されている。基本構造は各クラス共通で、分子量50,000から70,000のポリペプチド鎖からなる重鎖(H鎖)と分子量20,000から30,000のポリペプチド鎖からなる軽鎖(L鎖)とから構成され、それぞれ相同な二分子のH鎖と二分子のL鎖がジスルフィド結合及び非共有結合により結合している。H鎖及びL鎖のアミノ末端側のポリペプチドドメインは同種の同一クラスの抗体でもアミノ酸配列が相互に一定せず可変領域(V領域)と呼ばれている。重鎖の可変領域は重鎖可変領域(H鎖V領域)、軽鎖の可変領域は軽鎖可変領域(L鎖V領域)とそれぞれ呼ばれる。可変領域以外のポリペプチドドメインの構造及びアミノ酸配列はクラス毎(サブクラスがある場合は、サブクラス)に一定で、定常領域(C領域)と呼ばれる。(重鎖の定常領域は重鎖定常領域(H鎖C領域)、軽鎖の定常領域は軽鎖定常領域(L鎖C領域)とそれぞれ呼ばれる。)抗体の抗原に対する結合部位はH鎖V領域及びL鎖V領域によって構成され、抗原に対する結合の特異性は可変領域のアミノ酸配列により決定されている。H鎖V領域及びL鎖V領域の内抗原に対する特異性、親和性は基本的にはH鎖V領域が大きく寄与しているが(Nature, 341, 544-6, 1989)、L鎖V領域との界面に存在する疎水性残基等に由来する可溶性の低さや、H鎖V領域単独での抗原に対する親和性の低さから、抗原に対する十分な結合活性を保持した分子として利用するには、H鎖V領域ポリペプチドのみでは十分でないことが示された。
SkerraらはH鎖V領域ポリペプチドとL鎖V領域ポリペプチドをコードする遺伝子をシグナルペプチドドメインの下流に配して大腸菌中で発現することにより、H鎖V領域ポリペプチドとL鎖V領域ポリペプチドとが会合したヘテロ二量体分子であるFv分子が大腸菌のペリプラズムに分泌されることを見出した(Science, 240(4855), 1038-41, 1988)。しかしながら、H鎖V領域とL鎖V領域とが一対一で会合するヘテロ二量体であるFv分子を構成する構成分子であるH鎖V領域ポリペプチドとL鎖V領域ポリペプチドとはその分子間相互作用が弱く、解離定数が10-5〜10-8M程度であることから、Fv分子はヘテロ二量体としての分子構造が不安定であるという欠点を有していた。これに対し、H鎖V領域ポリペプチドとL鎖V領域ポリペプチドとをポリペプチドリンカーで繋いだ一本鎖抗体であるscFv(single-chain antibody fragment)が、遺伝子工学的に設計、作製され(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 85(16), 5879-83, 1988)、ヘテロ二量体としての分子構造の不安定性の課題は解決した。
しかしながら、大腸菌等の原核細胞を宿主細胞としてscFvなどを発現させた場合、scFv同士が凝集して封入体が形成されることや、適切なポリペプチド鎖の折り畳みがされない等の問題点をなお包含しており、scFvを効率的に製造することが望まれていた。一方、scFvは二量体(Diabody)化することにより、二重特異性抗体等の新たな機能を付与できることが知られている。そして、scFvの二量体であるディアボディーを効率的に製造する方法も求められている。本発明はこうしたscFv分子及びその二量体であるディアボディーを、封入体を形成することなく可溶型で産生する製造方法を提供する。
さらに、本発明のscFvには、scFvを含むタンパク質も含有する。scFvを含むタンパク質の例としては、例えば、scFvに他のタンパク質のドメインポリペプチドを融合した融合タンパク質(以下、scFv融合タンパク質と指称する。)や、2つのscFvが連結されたsc(Fv)2などが含まれる。当該他のタンパク質のドメインポリペプチドとしては例えば抗体Fc領域ポリペプチド等が挙げられる。即ち、本発明における抗体断片とは、scFvの他、scFv融合タンパク質、及びsc(Fv)2等の抗体断片である。本発明は更に、当該抗体断片をコードするポリヌクレオチドも提供する。
本発明の抗体断片は、可変領域が本発明のポリペプチドリンカーで連結されている融合タンパク質である。可変領域は、全長可変領域、可変領域の部分ポリペプチド、可変領域に他のポリペプチドが付加したポリペプチド等のいずれでもよい。但し、抗原への結合活性を維持することが好ましい。本発明の抗体断片が認識する抗原は特に限定されず、如何なる抗原であってもよい。
更に、本発明の抗体断片の一態様であるscFvは、ダイマーなどを形成した際に2つの異なる抗原を認識する二重特異性抗体(bispecific antibody)となるように設計されたディアボディーであってもよい。ディアボディーは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、通常、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中でL鎖V領域ポリペプチド及びH鎖V領域ポリペプチドが、互いに結合できない位に短い、例えば、5アミノ酸残基程度のポリペプチドリンカーにより結合されている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 6444-8, 1993)。同一ポリペプチド鎖上にコードされるL鎖V領域ポリペプチドとH鎖V領域ポリペプチドとは、その間のリンカーが短いため単鎖可変領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ディアボディーは2つの抗原結合部位を有することとなる。二重特異性抗体は、異なる抗原を認識する二重特異性抗体であってもよいし、同一抗原上の異なるエピトープを認識する二重特異性抗体であってもよい。さらに、一方の抗原結合部位がタンパク質などを認識し、他方の抗原結合部位が化学療法剤、細胞由来トキシン等の細胞傷害性物質を認識する二重特異性抗体であってもよい。また、単量体であって二重特異性抗体(bispecific antibody)となるように設計されたsc(Fv)2であってもよい。
通常、sc(Fv)2は2つのL鎖V領域ペプチド(VL)と2つのH鎖V領域ペプチド(VH)の4つの可変領域をリンカーで結合して一本鎖にした抗体である(Hudson et al., J.Immunol.Methods., 231, 177-189, 1999)。sc(Fv)2はscFvと同様の方法で作製することができるが、2つのVHと2つのVLの順序は特に限定されず、以下の様な複数の態様で構築することが可能である。
(N末端)[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL](C末端)
(N末端)[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL](C末端)
(N末端)[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH](C末端)
(N末端)[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL](C末端)
(N末端)[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH](C末端)
(N末端)[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH](C末端)
上記のsc(Fv)2分子中の各機能ポリペプチドドメインを結合するリンカーとして本発明のポリヌクレオチドでコードされるリンカーをいずれかの位置で、又複数の箇所で使用することができる。
また、単量体であって二重特異性抗体(bispecific antibody)となるように設計されたsc(Fv)2の場合は、互いに会合することによって抗原結合部位を形成するVLとVHの分子中の位置関係についてシングルチェイン・ディアボディー型とビバレントscFv型との構造異性体が存在する。本発明においてシングルチェイン・ディアボディー型とは、上記のsc(Fv)2分子中の各機能ポリペプチドドメインの配置がN末端から順に以下の順列
[V領域1]リンカー[V領域2]リンカー[V領域3]リンカー[V領域4]リンカーで配置されている場合において、V領域1とV領域4、及び、V領域2とV領域3とが互いに会合することによって各々一つの抗原結合部位を形成する構造を有するsc(Fv)2分子のことを指称する。また、ビバレントscFv型とは、上記のsc(Fv)2分子中の各機能ポリペプチドドメインの配置がN末端から順に以下の順列
[V領域1]リンカー[V領域2]リンカー[V領域3]リンカー[V領域4]リンカーで配置されている場合において、V領域1とV領域2、及び、V領域3とV領域4とが互いに会合することによって各々一つの抗原結合部位を形成する構造を有するsc(Fv)2分子のことを指称する。
上記sc(Fv)2分子の構造異性体のうち、いずれの構造を有する場合であっても、sc(Fv)2分子中の各機能ポリペプチドドメインを結合するリンカーとして、本発明のポリヌクレオチドでコードされるリンカーをいずれかの位置で、または複数の箇所で使用することができる。
本発明は、上記のように作製された抗体断片をコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドを使用することにより、当該ポリヌクレオチドを大腸菌等の原核細胞中で発現させた場合に、その発現が翻訳の段階で翻訳速度が制御されることにより、封入体の形成・蓄積を抑制し可溶型で発現することができる。
scFv等の分子の作製に使用されるポリペプチドリンカー
前述のように、Fv分子についてのヘテロ二量体としての分子構造が不安定であるという欠点が、scFv作製技術の確立により解決した。一般的に広く用いられているポリペプチドリンカーのアミノ酸配列としては、二次構造が強制されないようにグリシン残基を多く含み、親水性を確保するためにセリン残基を導入したGGGGSGGGGSGGGGS配列(配列番号13)を有する(G4S)3であり、このようなポリペプチドリンカーは一般にフレキシブルリンカーと称されている。しかしながら、当該ポリペプチド配列を使用した場合においても封入体の形成を阻止することができないため、上記以外のアミノ酸配列を有し、封入体形成を回避できるポリペプチドリンカーを設計する複数の試みがこれまでにもなされている(J.Immunol.Methods, 205(1), 43-54, 1997、及びProt.Eng.,11(5), 405-410, 1998等)。
本発明は、上記のリンカー配列を介して融合されるタンパク質又はポリペプチドの各ドメインの読取り枠が変化しないように、融合タンパク質及び当該融合タンパク質をインフレームで接続するために使用される、ポリペプチドリンカー、及び当該ポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを提供する。特に、本発明において提供する融合タンパク質は、scFvの他、scFv融合タンパク質、及びsc(Fv)2等の抗体断片である。
本発明のリンカーのアミノ酸配列の具体例としては後述の実施例において詳細に記載するが、下記のアミノ酸配列を有するリンカーが好適に用いられる。
WVWSSRGQRSFRPSGRTVPL(配列番号5)(以下、リンカーNo.10と指称する。)
KVVLWTTRVRDRGHTSTMWS(配列番号7)(以下、リンカーNo.12と指称する。)
ADGHCHLKNFPLKPPPYFSV(配列番号9)(以下、リンカーNo.14と指称する。)
LLKKLLKKLLKKLLKK(配列番号11)(以下、(LLKK)4と指称する。)
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号13)
scFv等の分子の作製に使用されるポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチド
本発明のポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、当該ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するように設計されている。本発明のリンカーによって融合されるタンパク質又はポリペプチドの各ドメインの読取り枠が変化しないようにインフレームで接続することができれば、いずれのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも好適に使用できる。具体例として、後述の実施例において詳細に記載する下記のヌクレオチド配列を有するリンカーを好適に用いることができる。
TGGGTTTGGAGTTCGCGGGGGCAGAGGTCTTTTCGGCCTTCGGGGCGGACGGTGCCGCTT(配列番号6)
AAGGUUGUUCUUUGGACUACGCGUGUUAGGGAUAGGGGUCAUACGUCGACGAUGUGGAGU(配列番号8)
GCGGATGGGCATTGTCATCTGAAGAATTTTCCTTTGAAGCCTCCGCCTTATTTTTCGGTT(配列番号10)
CTACTAAAAAAACTACTAAAAAAACTACTAAAAAAACTACTAAAAAAA(配列番号12)
GGTGGAGGCGGTTCCGGCGGAGGTGGCTCCGGCGGTGGCGGATCC(配列番号14)
本発明は、抗体断片のポリペプチドリンカー部分の遺伝子配列を改変して、抗体断片の翻訳速度をリンカー部分において局所的に遅延させることにより、目的とする抗体断片を大腸菌において高発現および可溶型発現させることを可能とするものである。ポリペプチドリンカー部分で翻訳を遅延させることは、翻訳後のアミノ末端及びカルボキシル末端の両末端ドメイン(scFvであればV鎖H領域及びV鎖L領域ポリペプチドドメイン)のフォールディングに大きく影響すると考えられる。上記のようにリンカー部分における翻訳を遅延させることは、アミノ末端側ポリペプチドドメインの折り畳みがカルボキシル末端側ポリペプチドドメインの翻訳および折り畳みに先立って行われることを意味する。リンカー部分で翻訳を遅延させることによって、すでに翻訳されたアミノ末端ドメインは折り畳み時に翻訳途中の折り畳まれていないカルボキシル末端ポリペプチドドメインの干渉を受けることが少ないと考えられる。同時に、アミノ末端ポリペプチドドメインがある程度折り畳まれた状態でのカルボキシル末端ポリペプチドドメインの折り畳みは、両ポリペプチドドメインが折り畳まれていない状態で折り畳まれるよりも効率的に行われると考えられる。したがって、抗体断片のポリペプチドリンカー部分のヌクレオチド配列を変更し、翻訳速度がポリペプチドリンカー部分で一過的に遅くなるように設計できれば、抗体断片の可溶化および高生産が期待できる。本発明の抗体断片の製造方法において、抗体断片の構成ポリペプチドドメインであるH鎖V領域及びL鎖V領域は、ポリペプチド鎖として発現した状態で互いに会合できるような分子間距離で存在できればよく、ポリペプチドリンカーに対してアミノ末端側にもカルボキシル末端側にもいずれの側の末端にも配置させることができる。
本発明における、「ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するような配列」とは、レシピエント細胞中での翻訳速度が遅延するような配列であればいかなる特徴・構造を有する配列であってもよい。翻訳速度を定量化する方法は当業者に公知であり、当該速度を測定可能である市販キット(例えば、Promega社製のE.coli S30 Extract System等)に添付の教示書を参照することにより測定することが可能である。上記のような試験管内で測定する方法以外に、生体内での翻訳速度を測定する方法としては、Mol.Immunol.40, 717-22, 2004に記載の方法を挙げることができる。
「ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するような配列」とは例えば、レアコドンを含む配列である。レアコドンとは、レシピエント細胞中での使用頻度の低いコドンを一般的に意味するものである。しかしながら、生物のコドンの使用頻度と当該生物中のtRNA濃度の偏りとは完全には一致していないことが知られている。レアコドンとは、あるコドンに対するtRNAの割合が全体の1.2%以下のものと定義する。翻訳速度はmRNAの各コドンに対応するトリプレットと相補的なtRNAとリボソームの濃度依存的に変化することが知られてはいるが、コドンの使用頻度はtRNA濃度の偏りと完全には一致していない (Microbiol.Rev., 54(2), 198-210, 1990) 。大腸菌内において低濃度のtRNAが認識するコドンをレアコドンと呼ぶ場合には、レアコドンは、GCC(Ala, 0.95%)、CGG(Arg, 0.99%)、AGG(Arg, 0.65%)、CAA(Gln, 1.18%)、CAC(His, 0.99%)、CAT(His, 0.99%)、CTA(Leu, 1.03%)、CCC(Pro, 1.11%)、CCA(Pro, 0.90%)、TCC(Ser, 1.18%)のことを意味する(括弧内は各コドンに対応するアミノ酸とtRNA濃度を参酌した頻度を示す)。
従って、本明細書中においてレアコドンとは通常の意味で用いられるレアコドンの他、レシピエント細胞中において低濃度のtRNAが認識するコドンも含むものである。大腸菌の場合は、通常の意味で用いられるレアコドンとはゲノム上に認められるコドンの出現頻度から算出したものであって、幾つかの公知文献で認められる。(例としては、http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=Escherichia+coli+%5Bgbbct%5D等を挙げる事ができる。)そのようなコドンの例としてはAGG(Arg, 0.26%)、AGA(Arg, 0.46%)、ATA(Ile, 0.85%)、CTA(Leu, 0.46%)、CCC(Pro, 0.56%)、GGA(Gly, 1.08%)、CGG(Arg, 0.66%)が挙げられる(括弧内は各コドンに対応するアミノ酸とゲノム上のコドン出現頻度を示す)。本発明においては、両者の定義のいずれかに該当するものであれば使用できるものとする。
本発明においては、ポリペプチドリンカー配列の設計において導入するレアコドンの数は特に限定されるものではなく、任意の数のレアコドンを使用することができる。例えば、ポリペプチドリンカーが20アミノ酸長からなる場合、導入するレアコドンの数は1から20までが使用でき、好ましくは1から15、更に好ましくは1から10である。より好ましくは2から10であり、特に好ましくは2から5である。
また、ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列が既にレアコドンを含む場合であっても、当該ヌクレオチド配列に対して付加的にレアコドンの数を増大させることにより、抗体断片の可溶型発現量をさらに増大させることもできる。
本発明のポリペプチドリンカーとしては、いずれのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも好適に使用でき、例えばレアコドンを含むような「ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度がレシピエント細胞中での翻訳速度が遅延するような配列」を、新たに設計することができる。また、本明細書の実施例で示すように、公知のポリペプチドリンカー中の特定のコドンを、「その翻訳速度がレシピエント細胞中での翻訳速度が遅延するような配列」に改変することもできる。
上記のレアコドンを含む配列以外の「ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するような配列」として、mRNAの二次構造が立体高次構造を取ることができるような配列を挙げることができる。即ち、mRNAからポリペプチドが翻訳される際にmRNAに沿ったリボゾームの進行を一時的に阻害するのに十分安定した二次構造が形成される配列を意味する。当該二次構造の更に好ましい例としては、局所的に熱力学的に安定なmRNAの局在性二重鎖いわゆるステムループ構造を形成する配列を挙げることができる。
好適な例に基づけば、転写されたmRNA中のポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチド配列中において複数のヌクレオチドが水素結合(A-U、G-C又はG-U)を生じるような安定な局所二次構造をとる配列を挙げることができる。当該配列において一連の連続した水素結合対を形成し、熱力学的に安定な、いわゆる「ステム−ループ」二次構造が形成される。
こうしたステム−ループ二次構造は、例えば、RNAfold等(http://rna.tbi.univie.ac.at/cgi-bin/RNAfold.cgi)やhttp://www.nanobiophys-sakura.net/HyFol/HyFol1.html等の遺伝子解析プログラムにより、その構造が有する自由エネルギー値と共に予測することができる。
更に、上記の「ヌクレオチド配列から転写され生成したmRNAが翻訳される際に、その翻訳速度が遅延するような配列」として、ポリペプチドを導入すべき宿主細胞において使用頻度が低いアミノ酸をコードする配列を挙げることができる。使用頻度が低いアミノ酸とは、アミノ酸を特定の宿主細胞における使用頻度順に並べたときに、頻度の最も低い10アミノ酸、好ましくは8アミノ酸、より好ましくは5アミノ酸、さらに好ましくは1アミノ酸を意味する。
好適な例に基づけば、融合タンパク質を導入すべき宿主細胞において使用頻度の低いアミノ酸は、当該宿主細胞のゲノム情報をもとに、当該宿主細胞中で機能することが想定されるポリペプチド配列を構成するアミノ酸を解析してその使用頻度を算出することにより特定することができる。宿主細胞がバクテリアである場合には、公共のデータベース(例えば、TIGR等http://cmr.tigr.org/tigr-scripts/CMR/shared/Genomes.cgi?bacteria_only=1)等に予想読み取り枠のアミノ酸配列が登録されており、こうした配列上におけるアミノ酸の出願頻度は、遺伝子配列解析プログラム(例えば、Genetyx(日本Genetyx社製)等)により解析することにより算出することができる。ゲノム情報を基礎にして算出した解析結果の例としてProtein Science 14, 617-25, 2005を挙げることができる。
また、ゲノム情報が明らかにされていない宿主細胞であっても、当該宿主細胞由来であってその配列がデータベース上に登録されているポリペプチドを複数用意した後に、上記の遺伝子解析プログラムにより解析することができる。
こうしたアミノ酸の例としては、例えば宿主細胞が大腸菌である場合はトリプトファン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、チロシン、グルタミン、フェニルアラニン等が挙げられる。
本発明のポリペプチドリンカー配列の設計において導入すべき、宿主細胞において使用頻度が低いアミノ酸の残基数は特に限定されるものではなく、任意の数の残基数を使用することができる。例えば、ポリペプチドリンカーが20アミノ酸長からなる場合、導入する当該アミノ酸の残基数は1から20までが使用でき、好ましくは1から15、更に好ましくは1から10である。より好ましくは2から10であり、特に好ましくは2から5である。
本発明のリンカーをコードするポリヌクレオチドは当業者に公知の方法によって作製することができる。即ち、特定配列を有する合成DNAとして半自動化された機械(例えば、PE Applied Biosytems社製Models 392/394など。)を用いて固相合成法により作成することができる。ポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドは、上記の方法によって相補鎖も併せて化学合成法により合成した後に、熱変性(例えば95℃で10分等)の後アニーリングさせて二重鎖としてベクターへクローニングしてもよいし、PCR法により増幅することもできる。好適にはPCR法が用いられる。特に、当該リンカーによって連結されるポリペプチドドメインをコードするポリヌクレオチドとの融合DNAを作成する際に、PCR法を応用したフュージョンPCR法が好適に用いられる(Biotechniques, 12(6), 864-9, 1992)。
上記記載の様に、ポリペプチドリンカー部分にレシピエント細胞中におけるレアコドン、ステムループを形成する様なヌクレオチド配列、宿主細胞中の使用頻度が少ないアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を導入する方法としては、上記のように合成法によりレアコドンを有するヌクレオチド配列、ステムループを形成する様なヌクレオチド配列、宿主細胞中の使用頻度が少ないアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を合成しても良いし、実施例で示すように既存のヌクレオチド配列に変異を導入する方法によっても作製できる。当業者によく知られた変異導入方法としては、例えば、部位特異的変異誘発法(Gene, 152, 271-5, 1995、MethodsInEnzymol., 100, 468-500, 1983、NucleicAcidsRes., 12, 9441-56, 1984、MethodsInEnzymol. 154, 350-67, 1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 82, 488-492, 1985、MethodsInEnzymol. 85, 2763-6, 1988)を用いて、本発明のポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドに適宜変異を導入することができる。
さらに、ポリペプチドリンカーは、ポリペプチドドメインをインフレームで連結する他、それ自体が何らかの機能を持つものであってもよい。例えば、リンカー中にプロテアーゼ切断ドメインを有するように設計した場合には、一度、融合タンパク質を産生させた後に、当該融合タンパク質を当該プロテアーゼによって消化することにより、融合タンパク質を構成するポリペプチドドメインを別々に取得することが可能となる。また、リンカー中に抗原エピトープ配列を有するように設計した場合には、一度、融合タンパク質を産生させた後に、当該エピトープを認識する抗体を使用して融合タンパク質を精製することが可能となる(Biochem. Biophys. Res. Commun. 192(2), 720-7, 1993)。また、当該エピトープを認識する抗体を利用して当該融合タンパク質を検出することもできる。こうしたリンカー中に挿入できる機能ドメインの数は一つに限らず、二以上の種類のドメインを挿入することもできる。
scFvをコードするDNA、及び、当該DNAを保持するベクター
scFvをコードするDNAは、重鎖可変領域ポリペプチドをコードするDNA、および軽鎖可変領域ポリペプチドをコードするDNAの配列の全部又は一部を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、ポリペプチドリンカー部分をコードするDNAの両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるよう設計されたプライマー対を組み合せてさらに増幅することにより取得することができる。また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
本発明のscFv中の重鎖可変領域ポリペプチド及び軽鎖可変領域ポリペプチドは、既に公知の配列を用いてもよいし、当業者に公知の方法に従って新たに取得してもよい。本発明にはさらに、本発明のポリペプチドリンカー又は本発明のscFvポリペプチドをコードするDNAを含む。上記のように作製されたDNA配列を適切な宿主中、例えば真核細胞中で発現可能となるプロモーター配列又は/及びエンハンサー配列のような転写エレメントの下流であって、かつポリAシグナル配列の上流に配するようにベクター上で配置することにより、当該ベクターで形質転換された細胞中で上記DNA配列がコードする抗体断片を発現することができる。また、上記転写エレメントと開始コドン間に真核細胞のリボゾーム結合配列であるコザック配列(例えば、CCACC等)を挿入すれば翻訳の効率を上昇させることが可能となり、目的とする抗体断片の発現量を増加させることもできる。上記の抗体断片を培地中に発現させたい場合には、開始コドンの下流にタンパク質分泌のドメインとして作用するシグナル配列を挿入させるように設計すればよい。
例えば、本発明の融合タンパク質を製造するために用いられるベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS(Nuc.Acids.Res., 18(17), 5322, 1990)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovirus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8(Clontech社製)、植物由来の発現ベクター(例えば、pSB1、pSB2(共に、J.Gen.Microbiol., 130(10), 2527-34, 1984))、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 84(5), 1177-81, 1987)、pMV-7(DNA, 7(3), 219-25, 1988)、pAdex1 cw(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 93(3), 1320-4, 1996))、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZipNeo(Cell, 37, 1053-1062, 1984))、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11(Nature 357, 700-702, 1992)、pESP-3(Stratagene社製))などを好適に用いることができる。
また、ベクターにより形質転換された細胞を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。即ち、通常形質転換に使用する宿主細胞が生存することができない濃度の上記薬剤を含有する培地中で形質転換に供した一群の細胞を培養した場合において、薬剤耐性遺伝子を含むベクターで形質転換された細胞のみが、当該ベクター上に存在する薬剤耐性遺伝子が発現することにより、上記の薬剤を含有する培地中でも生育する能力を獲得できるようになる。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2(以上、Clontech社製)、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13(以上、Stratagene社製)などが挙げられる。
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合に好適に使用できるプロモーターとしては、例えばSV40プロモーター(Nature, 277, 108, 1979)、MMLV-LTRプロモーター(Oncogene, 7(10), 2081-3, 1992)、EF1αプロモーター(Nuc.Acids.Res., 18, 5322, 1990)、CMVプロモーター(US patent 5168062号)を使用することができる。
宿主として大腸菌を使用する場合は、エンハンサー配列やポリAシグナル配列を用いることなくプロモーター配列の下流にリボゾーム結合配列(RBS)を配し、更にRBSの下流に上記のように作製されたDNA配列をベクター上で配置することによって、当該ベクターで形質転換された大腸菌中で上記DNA配列がコードする融合タンパク質を発現することができる。上記の融合タンパク質をペリプラズム中に発現させたい場合には、開始コドンの下流にタンパク質分泌のドメインとして作用するシグナル配列を挿入させるように設計すればよい。
本発明のベクターを導入する宿主細胞として大腸菌を使用する場合には、ベクターは、一般的に、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101(以上、Toyobo社製)、XL1Blue(Stratagene社製))などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための複製起点である「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有する。ベクターの例としては、M13、pUC19、pBR322(以上Takara Shuzo社製)、pBluescript、pCR-Script(以上、Stratagene社製)などが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T(Promega社製)、pDIRECT(Clontech社製)、pT7(Novagen社製)などが挙げられる。本発明のscFvを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1Blueなどの大腸菌とした場合においては通常、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Nature, 341, 544-6, 1989、及び、FASEB J., 6, 2422-7, 1992)、araBプロモーター(Science, 240, 1041-3, 1988)、またはT7プロモーター(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 72(3), 784-8, 1975)などを有する。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Amersham Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)、pEGFP(Clontech社製)、またはpET(Novagen社製。この場合、宿主はT7 RNA polymeraseを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。蛋白質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(J.Bacteriol., 169, 4379, 1987)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
scFvをコードするDNAを保持するベクターによる形質転換株
本発明はさらに、本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば真核細胞や原核細胞などいかなる細胞を用いることも可能であるが、本発明において好適に用いられる宿主細胞は原核細胞であり、特に好適に用いられる宿主は大腸菌である。
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J.Exp.Med., 108, 945, 1995)、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Vero、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Nature, 291(5813), 338-340, 1981)等の両生類細胞、、あるいはSf9、Sf21(共に、Clontech社製)、Tn5(Invitrogen社製)等の昆虫細胞、が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr-CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 77, 4216-20, 1980)やCHO K-1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 60, 1275, 1968)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合にはCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリポソームDOTAP(ロシュディアグノスティクス社製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクション、Biolistic法などの方法で行うことが可能である。
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が蛋白質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌Marburg168株、BD170株、Bacillus licheniformisが知られている。
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をインビトロで培養することにより、本発明の融合タンパク質又は抗体断片を製造することが可能である。
前記のように発現、産生された融合タンパク質、又は抗体断片は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法を単独で使用することによって又は適宜組み合わせることによって精製できる。例えば、アフィニティーカラム、イオンクロマトグラフィーカラム、疎水性クロマトグラフィーカラム、ゲルクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体断片を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
医薬組成物
別の観点においては、本発明は、融合タンパク質、又は抗体断片を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
本発明の医薬組成物の投与方法は、経口、非経口投与のいずれかによって実施できる。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の医薬組成物が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2006-224657号の明細書および図面に記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔実施例1〕抗ビスフェノールA抗体scFv
<ランダムポリペプチドリンカーを有するscFvライブラリの構築>
ポリペプチドリンカーの配列がscFvの生産性に及ぼす影響を検討するために、ビスフェノールAを抗原とし、20アミノ酸長のランダムなアミノ酸配列からなるポリペプチドリンカーを有するscFvのファージライブラリを調製し、パンニング操作を行なった。即ち、フレキシブルリンカーを有するscFvの遺伝子からPCRによってVH遺伝子およびVL遺伝子を増幅した。PCRの鋳型にはAB097940記載の配列を有する抗体遺伝子(K. Nishi, M. Takai, K. Morimune and H. Ohkawa Molecular and Immunochemical Characteristics of Monoclonal and Recombinant Antibodies Specific to Bisphenol A Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, 67(6), 1358-1367 (2003))を使用した。VH遺伝子の3'末端側17残基、ランダムリンカー遺伝子(NNK)20、およびVL遺伝子の5'末端側17残基を有するオリゴヌクレオチド(5'−CAGTCACCGTCTCCTCA(NNK)20GACATTGTGCTGACACA−3’、配列番号19に示す。)を合成した。VH,VL遺伝子およびこのオリゴヌクレオチドを用いてOverlapping PCRを行い、ランダムポリペプチドリンカー遺伝子をVH遺伝子とVL遺伝子の間に挿入した。パンニング用ベクターとしては、図1に示すものを用いた。
NcoI-cc-VH sense (Tm…68℃) (配列番号20)
5'-CTCCCATGGCCGATGTACAGCTTCAGGAGTCAGGACCTGCC-3'
BIS A VH antisense (Tm…61℃) (配列番号22)
5'-TGAGGAGACGGTGACTGAGGTTCCTTGACC-3'
BIS A VL sense (Tm…59℃) (配列番号23)
5'-GACATTGTGCTGACACAGTCTCCTGCTTCC-3'
VL+NotI antisense (Tm…64℃) (配列番号21)
5'-ATATATGCGGCCGCCCGTTTGATTTCCAGCTTGGTGC-3'
上記のプライマーを合成した。フレキシブルリンカー(G4S)3を有する抗ビスフェノールA scFvの遺伝子を鋳型としてNcoI-cc-VH sense (配列番号20) およびBIS A VH antisense(配列番号22)を用いてVH遺伝子断片を、また、BIS A VL sense (配列番号23)およびVL+NotI antisense (配列番号21) を用いてVL断片をPCR法により増幅した。PCRの条件は、変性94℃(15秒)→アニーリング(30秒)→伸長68℃(30秒)を25サイクル繰り返した。アニーリング温度はVH遺伝子断片増幅の場合は56℃、VL遺伝子断片増幅の場合は54℃に設定した。増幅した遺伝子断片をアガロースゲル電気泳動によって分離、精製し下記の要領でOverlapping PCRをおこなった。PCRのポリメラーゼとしてはKOD-plus-(TOYOBO社製)を用いた。
Figure 0005114410
Figure 0005114410
反応溶液(i)を調製し、PCR 条件(i)で10 サイクル反応させた後、反応溶液(ii)を加え、PCR 条件(ii)で25 サイクル反応させた。
パンニングの4ラウンド後に回収したプラスミドをXL1-Blueへ感染させて得られた7 x 106クローンの中から20クローンを選択し、プラスミド中のポリペプチドリンカーをコードする遺伝子のヌクレオチド配列をDNAシーケンサーにより同定した。図2に、scFv発現用ベクターを示す。
得られた20クローン中、12クローンは遺伝子欠損が認められた。表3に、回収されたscFvのポリペプチドリンカーのアミノ酸配列とヌクレオチド配列を示す。アンバー終止コドン(TAG)を含むポリペプチドリンカーを有するscFvは大腸菌BL21(DE3)pLysSでの発現が不可能なため、グルタミン(CAA)に置換した。
Figure 0005114410
<ポリペプチドリンカーのヌクレオチド配列の違いによるIPTG誘導後の菌体増殖の変化>
バイオパンニングによって選択されたscFvのIPTG誘導後の菌体増殖を測定した。結果を図3に示す。なお、No.2は遺伝子の欠損により13アミノ酸のポリペプチドリンカーを有するscFvである。図3より、リンカーNo.10,12,14はOD600が0.7から1.0の範囲でIPTGで発現誘導をした後も増殖を続け、最終菌体濃度はOD600が5.5から5.7の範囲となった。一方、リンカーNo.4,6はフレキシブルリンカー(G4S)4を有するscFvと同様に誘導後増殖がほぼ停止し、最終菌体濃度はOD600が1から2となった。表4に示すように、増殖を続けたサンプルのリンカーをコードするヌクレオチド配列には大腸菌におけるレアコドンが、1から数個存在する傾向がみられた。
Figure 0005114410
すなわち、ポリペプチドリンカー部分における1から数個のレアコドンの局所的な存在によってscFvの翻訳速度がポリペプチドリンカー部分で一過的に遅くなっていることが推測された。以上のことから、融合タンパク質のリンカー部分において翻訳速度を一過的に遅延するようなDNA配列を設計すれば目的とする融合タンパク質の高生産が期待できた。よって、この一例としてそのヌクレオチド配列が5'-CTACTAAAAAAACTACTAAAAAAACTACTAAAAAAACTACTAAAAAAA-3'(配列番号38)(下線表示はレアコドンを示す)のリンカー(LLKK)4を有するscFvの発現ベクターを構築し、誘導後の菌体増殖を測定した。その結果、非常に高い増殖速度を示した(図3に併せて示す)。
<リンカーポリヌクレオチド配列の違いによる生産性の影響>
IPTGによる誘導後も増殖を維持した形質転換体(リンカーNo.2,10,12,14)が可溶性画分および不溶性画分に生産するscFvの生産性を比較した。発現したscFvの精製は以下の方法で行い、各画分についてその含有量を測定することにより、不溶性scFv及び可溶性scFvの生産量とした。
(1)得られた培養液を10000gで5分間遠心処理し、培養上清および菌体ペレットに分離した。
(2)菌体ペレットに5 mlのLysisバッファー(1% Triton X-100,20 mM Tris-HCl(pH 8.0),2 g/ml DNase,0.2 mg/ml リゾチウム)を加えて懸濁し、プローブ型超音波照射機を用いて氷冷下、15分間超音波照射を行った。
(3)100000g、30 min、4℃にて超遠心分離を行い、上清を菌体内可溶性画分として回収した。
(4)ペレットはLysisバッファーにて懸濁し、23000g、10 minで2回遠心分離することで洗浄した。
(5)洗浄後のペレットを蒸留水で懸濁し、同条件にて遠心分離を2回行うことによりLysisバッファーを除去した。
(6)得られたペレットを菌体内不溶性画分とし、蒸留水1 mlに懸濁した後、真空乾燥機をもちいてペレットを乾燥した。
(7)ペレットの重量を測定し、不溶性scFvの重量とした。
(8)菌体内可溶性画分は、Ni−固定化カラムに負荷し10 mM酢酸バッファー(0.3M NaClを含む、pH6.0)続いて0.2 mM リン酸バッファー(1M NaClを含む、pH7.2)で洗浄後、0.5 Mイミダゾール(pH8.0)で溶出した。
(9)イミダゾール溶出画分中のscFvの発現はSDS−PAGEによって解析した。(10)scFvの会合状態は5-Diol-300-II(nacalai tesque)を用いたゲルクロマトグラフィによって解析した。
(11)イミダゾール溶出画分をビスフェノール固定化カラムに負荷し、10 mM酢酸バッファー(0.3M NaClを含む、pH6.0)を用いて洗浄後、0.01N NaOH (pH 12)を用いて溶出した。
(12)培養上清をビスフェノール固定化カラムに負荷し、10 mM酢酸バッファー(0.3M NaClを含む、pH6.0)を用いて洗浄後、0.01N NaOH (pH 12)を用いて溶出した。
(13)イミダゾール溶出画分および培養上清から精製した溶出液は10 mM酢酸バッファー(0.3M NaClを含む、pH6.0)で一晩透析し、両溶出液中のscFv濃度をDC-プロテインアッセイによって定量した。標準物質としてウシ血清アルブミン(BSA)を用いた。
(14)両溶出液中のscFv濃度から、菌体内および培養上清中に発現したscFv量を逆算し、その和を可溶性scFv発現量とした。
Figure 0005114410
表5に示すように、従来のフレキシブルリンカーを有するscFvの生産量と比較して可溶性画分は約3倍から6倍高い生産量が得られた。単位菌体当りの可溶性scFvの発現量はリンカーの種類に関係なくほぼ同じ値を示したが、バイオパンニングによって選択されたscFvの菌体当りの不溶性画分(封入体)の発現量は大きく抑制された。したがって、封入体形成の抑制が誘導後の増殖特性に影響し、従来のフレキシブルリンカー(G4S)4より5倍から8倍高い最終菌体濃度および発現量が得られたと考えられる。
<選択されたscFvの会合状態の検討>
選択されたscFvの可溶性画分をNiキレートカラムで精製し、ゲルクロマトグラフィによる分子量の測定を行った。scFvのモノマーは分子量28 kDa、ダイマーは分子量56 kDaであり、各保持時間はそれぞれ23分、21分である。図4に示すように、得られたscFvはほとんどダイマーを形成していた。これらのダイマー形成が分子間相互作用によるものかジスルフィド結合によるものかを検討するために、還元および非還元SDS-PAGEを行った。図5に示すように、SDSによってscFvを変性させた場合、還元状態でも非還元状態でもモノマーとして存在しているため、これらのscFvのダイマー形成は分子間相互作用によるものであるということが確認できた。
<選択されたscFvの抗原認識特性>
Niキレートカラムで精製したscFvを抗原結合カラムに負荷し、洗浄後、吸着したscFvを0.1N 塩酸で溶出した。Niキレートカラム精製画分、ならびに抗原結合カラム素通り画分、抗原結合カラム溶出画分を用いてSDSPAGEを行い、scFvの活性確認を行った。図6に示すように、抗原結合カラム素通り画分にのみscFvのバンドが見られないことから、抗原結合カラムに負荷したscFvはほぼ全てカラムに吸着し、溶出されたことが分かった。したがって、発現したscFvのほとんどが抗ビスフェノールA抗体としての抗原結合活性を有していることが明らかとなった。
<ビオチン化ELISAによる結合活性の測定>
次に、これらのscFvをビオチン化し、アビジンHRPによってマイクロタイターウェルにコーティングしたビスフェノールAへの結合を検出した。図7に示すように、各scFvにおいて希釈率に応じて高いシグナルが得られた。したがって、ELISAにおいてもscFvの結合活性が示された。
〔実施例2〕抗ビスフェノールA抗体断片(scFv)をコードするヌクレオチド配列におけるレアコドンの置換による改変の影響
<レアコドンを含むポリヌクレオチド配列を含むscFvの作製>
上記実施例1において記載した方法によって調製したVHおよびVL遺伝子断片と、(G4S)3をコードしレアコドンを有するminor (G4S)3(配列番号24)リンカーDNAを用いて、当該実施例中に示す方法によってOverlapping PCRを行い、minor(G4S)3をリンカーとして有するscFv遺伝子を調製した。リンカーNo.10と同じアミノ酸配列をコードするがレアコドンを有さないポリペプチドリンカーであるmajor No.10(配列番号25)を有するscFv遺伝子も同様の方法で調製した。得られたscFv遺伝子は脱リン酸化処理したpUC118/HincIIに挿入後、XL1-Blueを用いて青/白スクリーニングを行った。更にDNAシーケンシングによってscFv遺伝子の配列確認を行った。配列確認したscFvを含むpUC118ベクターをNcoI およびNotIによって処理し、scFv遺伝子を切り出した。アガロース電気泳動によって目的とするscFv遺伝子を精製後、あらかじめNcoIおよびNotIで処理したpET22ベクター中に挿入した。大腸菌XL1BlueをscFv遺伝子を挿入したpETベクター(pET-scFv)で形質転換し、挿入遺伝子の確認を行った。XL1-Blueから回収したpET-scFvベクターを用いて大腸菌BL21pLysSを形質転換した。
<ポリペプチドリンカーのヌクレオチド配列の違いによる産生scFvの可溶性分子の生産性の変化>
リンカー配列 (G4S)3 、minor (G4S)3、No.10、major No.10、(LLKK)4、No.4又はNo.14を有するscFvを含み、かつpET22をベクターバックボーンとして作製したベクターにより形質転換された大腸菌BL21(DE3)pLysS株を培養し、OD600が0.6から1.0の範囲に増殖した時点で0.1 mM IPTGによる誘導を行った。pET22により形質転換された大腸菌BL21(DE3)pLysS株を対照として用いた。誘導後の増殖を経時的に測定すると共に、不溶性scFv及び可溶性scFvの産生量を測定した。不溶性scFv量は、下記の計算式に基づき算出した。
不溶性scFv量=総不溶性タンパク質 - (64x最高菌体濃度 / 8.68)
この場合において、64は対照であるpET22により形質転換された大腸菌を培養したときの不溶性タンパク質量を表し、8.68はpET22を形質転換した大腸菌の最高菌体濃度を表したものである。結果を図8に示す。
レアコドンを有するリンカーであるMinor (G4S)3とレアコドンを有さない(G4S)3との比較において、Minor (G4S)3を有するscFvはその可溶性scFvの生産性が88.0 mg/Lであるのに対し、 (G4S)3を有するscFvはその可溶性scFvの生産性が57.4 mg/Lであった。同様に、レアコドンを有するリンカーであるNo.10とレアコドンを有さないmajor No.10との比較において、No.10を有するscFvはその可溶性scFvの生産性が116.0 mg/Lであるのに対し、major No.10を有するscFvはその可溶性scFvの生産性が66.1 mg/Lであった。リンカー部分にレアコドンを挿入することによりその可溶性scFvの生産性が有意に上昇することが明らかとなった。
ポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチド配列内にレアコドンを1個含むNo.4はその可溶性scFvの生産性が63.7 mg/Lであるのに対して、レアコドンを2個含むNo.14はその可溶性scFvの生産性が87.7 mg/Lであり、レアコドンを8個含む(LLKK)4はその可溶性scFvの生産性が94.8 mg/Lであった。レアコドンの挿入は可溶性scFvの生産性に対して正の効果を付与することが明らかとなった。
一方で、レアコドンを有するリンカーであるMinor (G4S)3とレアコドンを有さない(G4S)3との比較において、Minor (G4S)3を有するscFvはその不溶性scFvの生産性が163 mg/Lであるのに対し、(G4S)3を有するscFvはその不溶性scFvの生産性が185 mg/Lであった。同様に、レアコドンを有するリンカーであるNo.10とレアコドンを有さないmajor No.10との比較において、No.10を有するscFvはその不溶性scFvの生産性が43 mg/Lであるのに対し、major No.10を有するscFvはその不溶性scFvの生産性が71 mg/Lであった。即ち、不溶性scFvの生産性は上記の可溶性scFvの生産性とは逆相関の関係にあることが示され、レアコドンを有するリンカーを有する可溶性scFvの高生産性はscFv分子の総生産量の増加によるものではなく、可溶性scFvの割合が上昇したものであることが示された。
<ポリペプチドリンカーのヌクレオチド配列の違いによる産生scFvの可溶化率の変化>
上記の検証をより具体化するために、産生scFvの可溶化率が下記の計算式に基づき算出された。
可溶化率=100x可溶性scFv生産量 / (可溶性scFv生産量 + 不溶性scFv生産量)
結果を図9に示す。
レアコドンを有するリンカーであるMinor (G4S)3とレアコドンを有さない(G4S)3との比較において、Minor (G4S)3を有するscFvはその可溶化率が35.1 %であるのに対し、 (G4S)3を有するscFvはその可溶化率が23.7 %であった。同様に、レアコドンを有するリンカーであるNo.10とレアコドンを有さないmajor No.10との比較において、No.10を有するscFvはその可溶化率が62.2 %であるのに対し、major No.10を有するscFvはその可溶化率が56.8 %であった。即ち、レアコドンを有するリンカーを使用して発現した可溶性scFvの高生産性はscFv分子の総生産量の増加によるものではなく、可溶性scFvの割合が上昇したものであることが示された。
<ポリペプチドリンカーのヌクレオチド配列の違いによる宿主細胞の増殖に対する影響>
0.1 mM IPTGによる誘導後の増殖を経時的に測定した結果を解析したものを図10に示す。
レアコドンを有するリンカーであるMinor (G4S)3とレアコドンを有さない(G4S)3との比較において、Minor (G4S)3を有するscFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度が5.07であるのに対し、(G4S)3を有するscFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度が2.58であった。同様に、レアコドンを有するリンカーであるNo.10とレアコドンを有さないmajor No.10との比較において、No.10を有するscFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度が8.33であるのに対し、major No.10を有するscFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度が3.44であった。リンカー部分にレアコドンを挿入することによりその形質転換体の増殖を有意に上昇させることが明らかとなった。
ポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチド配列内にレアコドンを1個含むNo.4を有するscFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度が3.84であるのに対して、レアコドンを2個含むNo.14を有するscFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度は8.66であり、レアコドンを8個含む(LLKK)4を有するscFvを発現させた形質転換細胞の菌体濃度は8.38であった。レアコドンの挿入により形質転換細胞の増殖に対して正の効果を付与することが明らかとなった。
〔実施例3〕抗CD47抗体断片、MABLscFvの構築
pCHOM2(国際公開番号WO2001066737の国際公開公報に記載されている)を鋳型としたPCRにより、VH-sense(配列番号26)およびVH-antisense(配列番号27)プライマーを用いてVH遺伝子断片が増幅された後に、アガロースゲル電気泳動により精製された。
また、同鋳型とVL-sense(配列番号28)およびVL-antisense(配列番号29)プライマーを用いてVL遺伝子断片が増幅された後に、アガロースゲル電気泳動により精製された。
次に、VH遺伝子断片、およびVL遺伝子断片とVH-(G4S)3-VL(配列番号30)、VH-sense(配列番号26)およびVL-antisense(配列番号29)を用いてOverlapping PCRが実施され、フレキシブルリンカー遺伝子中にレアコドンを含まないMABL scFv(G4S)3遺伝子が増幅された。
また、同様にVH遺伝子断片、およびVL遺伝子断片とVH-minor(G4S)3-VL(配列番号31)、VH-sense(配列番号26)およびVL-antisenseプライマー(配列番号29)を用いてOverlapping PCRが実施され、フレキシブルリンカー遺伝子中にレアコドンを含むMABL scFv-minor(G4S)3遺伝子が増幅された。
前記のように増幅された後にアガロースゲル電気泳動によって精製されたMABL scFv(G4S)3scFv遺伝子およびMABL scFv-minor(G4S)3遺伝子を鋳型として、5’端がリン酸化されているNco VH-sense(配列番号32)および同様にリン酸化されたNot VL-antisense(配列番号33)を用いて、両末端に制限酵素サイトを有する遺伝子がPCR法によって増幅された。
次に、増幅されたscFv(G4S)3scFv遺伝子およびMABL scFv-minor(G4S)3遺伝子がアガロースゲル電気泳動によって精製された後に、HincIIにより消化されたpUC118/HincII (宝酒造)とライゲートされ、大腸菌が形質転換された。青白スクリーニングによってMABL scFv(G4S)3scFv遺伝子またはMABL scFv-minor(G4S)3遺伝子が挿入されたpUC118ベクターが選択され、DNAシーケンシングによってMABL scFv(G4S)3遺伝子またはMABL scFv-minor(G4S)3遺伝子が挿入されていることが確認された。
最後に、pUC118ベクターをNcoIおよびNotIで消化し、MABL scFv(G4S)3遺伝子またはMABL scFv-minor(G4S)3遺伝子がアガロースゲル電気泳動によって精製された後に、NcoIおよびNotIによって消化されたpET22b(+)ベクターに挿入され、pET-MABL scFvおよびpET-minor MABL scFvベクターが構築された。
〔実施例4〕MABL sc(Fv)2およびminor MABL sc(Fv)2発現ベクターの構築
pET-MABL scFvベクターを鋳型として、Nco-VH sense(配列番号32)ならびにVL antisense (配列番号29)を用いて、NcoIサイトを5’末端に有するNco-MABL scFv遺伝子がPCR法によって増幅され、アガロースゲル電気泳動によって精製された。同様にpET-MABL scFvベクターを鋳型として、VH sense(配列番号26)およびVL-FLAG-Stop antisense(配列番号34)を用いて、MABL scFv-FLAG-Stop遺伝子がPCR法によって増幅され、アガロースゲル電気泳動によって精製された。
前記と同様な方法で、pET-minor MABL scFvベクターを鋳型として、Nco-MABL minor scFv遺伝子ならびにMABL minor scFv-FLAG-Stop遺伝子がPCR法によって増幅され、アガロースゲル電気泳動によって精製された。
Nco-MABL scFv遺伝子、MABL scFv-FLAG-Stop遺伝子、VL-(G4S)3-VH(配列番号35)、Nco-VH sense(配列番号32)およびFlag-Stop-Not antisense(配列番号36)をもちいてOverlapping PCRを行い、MABL sc(Fv)2 遺伝子が増幅された。尚、MABL sc(Fv)2 遺伝子の5’末端側にはNcoIサイトが、また、3’末端側にはFLAGペプチド遺伝子、Stopコドン、NotIサイトが導入されている。
前記と同様な方法で、Nco-MABL minor scFv遺伝子、MABL minor scFv-FLAG-Stop遺伝子、VL-(minorG4S)3-VH(配列番号37)、Nco-VH sense(配列番号32)およびFlag-Stop-Not antisense(配列番号36)をもちいてOverlapping PCRを行い、MABL minor sc(Fv)2 遺伝子が増幅された。尚、MABL minor sc(Fv)2遺伝子の5’末端側にはNcoIサイトが、また、3’末端側にはFLAGペプチド遺伝子、Stopコドン、NotIサイトが導入されている。
MABL sc(Fv)2 遺伝子およびMABL minor sc(Fv)2遺伝子がアガロースゲル電気泳動によって精製され、HincIIで消化されたpUC118にクローニングされた。青白スクリーニングでMABL sc(Fv)2 遺伝子またはMABL minor sc(Fv)2遺伝子が挿入されたクローンが選択され、DNAシーケンシングによってMABL sc(Fv)2 遺伝子およびMABL minor sc(Fv)2遺伝子が挿入されていることが確認された。
次に、挿入が確認されたクローンをNcoIおよびNotIによって消化し、MABL sc(Fv)2 遺伝子およびMABL minor sc(Fv)2遺伝子がアガロースゲル電気泳動により精製され、その後にNcoIおよびNotIで消化されたpET22b(+)に挿入された。このようにして構築されたpET-MABL sc(Fv)2ベクターおよびpET-MABL minor sc(Fv)2ベクターによって大腸菌BL21(DE3) pLysSが形質転換された。
〔実施例5〕MABL sc(Fv)2およびminor MABL sc(Fv)2形質転換大腸菌によるMABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2の生産
<形質転換された大腸菌の培養>
アンピシリンおよびクロラムフェニコールを含む2xYT培地4 ml に前記形質転換された大腸菌のシングルコロニーが植菌され、37℃、160 rpm にて一晩培養された。500 ml容のバッフル付フラスコ中の50 ml の2xYT培地に前培養した形質転換体がOD600=0.1 となるよう植菌され、200 rpm、37℃にてOD600 が約0.6〜1.0 になるまで培養された。
IPTG が終濃度1 mM となるよう添加された後、160 rpm、30℃にて7 時間培養が継続された。誘導直前および誘導後1、3、5、7時間における培養液が1mlずつ採取された。OD600 から菌体数への換算は以下の式に従い算出された。
菌体数[cells/L]= OD600×1.6×1011
図11に、MABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2発現株の誘導後の菌体増殖曲線を示す。四角は対照を表し、丸はMABL sc(Fv)2および三角はMABL minor sc(Fv)2をそれぞれ発現する菌体の増殖曲線を示す。図11に示すように、フレキシブルリンカーのDNA配列中にレアコドンを有するMABL minor sc(Fv)2を発現している大腸菌は、IPTG添加後も増殖が阻害されなかった。一方、レアコドンを含まないフレキシブルリンカーを有するMABL sc(Fv)2を発現している大腸菌は、誘導後約3時間目に菌体増殖が停止した。その結果、MABL minor sc(Fv)2発現株の方がMABL sc(Fv)2発現株よりも2.5倍高い菌体量が得られた。
<培養上清、菌体内可溶性画分・菌体内不溶性画分の分離>
(1)7時間目に採取した培養液が10000 gで10 分間、4℃にて遠心処理され、培養上清と菌体ペレットに分離された。
(2)菌体ペレットに5 mlの溶解液(1% Triton X-100、20 mM Tris-HCl (pH8.0)、2μg/ml DNase、0.2 mg/ml リゾチウム)が加えられ、37℃で20分間振とうされた。
(3)Ultrasonic Disruptor UD-201 がOUTPUT 4、DUTY 60 にセットされ、15分間超音波破砕が行われた。
(4)600000g、30分、4℃にて超遠心分離され、上清が菌体内可溶性画分として回収された。
(5)得られたペレットが溶解液1 ml に再懸濁され、23500g、5分間、4℃にて遠心処理された。
(6)上清が500μl 除かれ、ペレットに溶解液500μlが添加された。
(7)(5)および(6)が再度行われ、23500g、5分、4℃にて遠心処理された。
(8)上清が500μl 除かれ、ペレットに蒸留水500μlが添加された。
(9)23500g、5分、4℃にて遠心処理された。
(10)(8)および(9)が再度行われ、上清500μlが除かれた後、ペレットに蒸留水500μl が添加された。
(11)重量を測定したファルコンチューブに(10)を移して一晩凍結乾燥させた後、再度重量が測定された。
(12)凍結乾燥された標品が、8M 尿素、10 mM メルカプトエタノール 0.5 mlで可溶化され、SDS-PAGEおよびウエスタンブロット解析に用いられた。
pET22で形質転換された大腸菌BL21(DE3)pLysSから得られた単位菌体当たりの不溶性発現量である基準値1.3×10-10 mgに基づいて、不溶性sc(Fv)2の発現量が以下の式に従い算出された。
不溶性sc(Fv)2 発現量[mg]
= (測定したペレットのみの重量[mg]) −(1.3×10-10[mg/cell]×最終菌体数)
Figure 0005114410
表6に示すように、不溶性MABL minor sc(Fv)2の生産量は、MABL sc(Fv)2のそれの約半分であった。さらに、不溶性MABL minor sc(Fv)2の菌体当たりの生産量は、MABL sc(Fv)2のそれの4分の1以下であった。したがって、レアコドンを有するフレキシブルリンカーをscFvおよびsc(Fv)2に導入することで、インクルージョンボディの形成を抑制できることが示唆された。
<誘導前および誘導後1、3、5時間における培養液の分画>
誘導前および誘導後1、3、5時間における培養液1mlが15000g、10分、4℃にて遠心分離された後、菌体ペレットが、BugBuster (Novagen)を1.0 OD当たり100μlを加えることにより処理された。処理された検体は、16000g, 20分, 4℃にて遠心分離され、上清が菌体内可溶性画分として回収された。ペレットは、不溶性画分として同量の8M 尿素で可溶化された。
<ウエスタンブロット解析>
(1)培養上清、菌体内可溶性画分、不溶性画分がサンプルバッファによって2倍に希釈された後に、94℃にて5分加熱された。
(2)それぞれのサンプル10μlずつが、プレキャストゲルSuperSep 10-20%(WAKO)にアプライされ、200Vにて1.5 時間電気泳動に供された。
(3)電気泳動後、プレキャストゲル内に分離されたタンパク質が、タンク型トランスブロッター(Bio-rad)を用いて100Vにて1時間通電することによって、PVDF膜上(ミリポア)に転写された。
(4)5% Blocking One(ナカライテスク)溶液中で室温にて1時間インキュベートすることによって、転写されたPVDF膜がブロックされた。
(5)TBSで洗浄後、TBS-Tで1000倍に希釈したビオチン化抗FLAG抗体溶液に膜が浸され、室温にて1時間インキュベートされた。
(6)TBS-Tで5分、3回洗浄後、TBS-Tで2000倍に希釈したアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン溶液に膜が浸され、室温にて1時間インキュベートされた。
(7)TBS-Tで5分、3回洗浄後、BCIP/NBT溶液が加えられて発色反応が観察された。
<SDS-PAGEによる発現したMABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2の評価>
培養終了時におけるMABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2の発現状況を解析するために、SDS-PAGEおよびウエスタンブロットをおこなった。
図12に、発現の誘導後7時間のMABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2 のSDS-PAGEによる解析結果を示す。分子量マーカーは順に、97、66、45、31、21、14kDaである。レーン1から3、4から6、および7から9はそれぞれ、菌体内可溶性画分、培養上清、および菌体内不溶性画分を表す。レーン1、4および7はMABL sc(Fv)2を表す。レーン2、5および8はMABL minor sc(Fv)2を表す。レーン3、6および9は対照を表す。図12に示すように、不溶性画分において、コントロールにはないタンパク質のバンドが検出された。したがって、MABL minor sc(Fv)2およびMABL sc(Fv)2とも、発現後かなりの部分が不溶化していることが示された。MABL minor sc(Fv)2を発現させた場合には、予想される分子量位置にバンドが確認されたが、MABL sc(Fv)2を発現させた場合には、予想される分子量の約半分(約27kDa)の分子量に相当するバンドが確認された。
<ウエスタンブロット解析による発現したMABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2の評価>
図13に、発現の誘導後7時間のMABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2のウエスタンブロットによる解析結果を示す。分子量マーカーは順に97、66、45、31、21、14kDaである。レーン1から3、4から6、およびレーン8から10はそれぞれ、菌体内可溶性画分、培養上清、および菌体内不溶性画分を表す。レーン7はブランクである。レーン1、4および8はMABL sc(Fv)2を表す。レーン2、5および9はMABL minor sc(Fv)2を表す。レーン3、6および10は対照を表す。図13に示すように、ウエスタンブロット解析では、MABL sc(Fv)2は、不溶性画分において55 kDa、27kDaの双方にバンドが見られたため、発現後にMABL sc(Fv)2はプロテアーゼの分解を受けていることが示唆された。これに対して、MABL minor sc(Fv)2は分子量相当の位置にバンドが確認された。
IPTG添加前、さらに添加後1、3、5、7時間の各画分におけるsc(Fv)2の発現状況をウエスタンブロット解析により追跡された。図14に菌体内不溶性画分の経時変化を示す。
分子量マーカーは順に、97、66、45、31、21、14kDaである。レーン1から3、4から6、7から9、10から12、および13から15はそれぞれ、誘導前、誘導後1時間、誘導後3時間、誘導後5時間、および誘導後7時間である。レーン1、4、7、9、および13はMABL sc(Fv)2を表す。レーン2、5、8、10、および14はMABL minor sc(Fv)2を表す。レーン3、6、9、12、および15は対照を表す。図14に示すように、MABL sc(Fv)2およびその分解物は、誘導後1時間後には封入体として検出され、菌体増殖がストップしているにもかかわらず、単位菌体あたりの不溶性MABL sc(Fv)2生産量は、培養時間が長くなるにしたがって増加した。MABL minor sc(Fv)2は3時間後に封入体が検出され、単位菌体当たりの不溶性MABL minor sc(Fv)2の生産量は誘導3時間後以降ほぼ一定であることが示唆された。
図15に、菌体内可溶性画分の経時変化を示す。分子量マーカーは順に、97、66、45、31、21、14kDaである。レーン1から3、4から6、7から9、10から12、および13から15はそれぞれ、誘導前、誘導後1時間、誘導後3時間、誘導後5時間、および誘導後7時間である。レーン1、4、7、9、および13はMABL sc(Fv)2を表す。レーン2、5、8、10、および14はMABL minor sc(Fv)2を表す。レーン3、6、9、12、および15は対照を表す。図15において記載された可溶性画分のウエスタンブロット解析の結果が示すように、MABL sc(Fv)2は誘導後3、5、7時間に分解物として25kDa付近にバンドが検出されているのに対して、MABL minor sc(Fv)2は誘導後1、3時間に分子量相当位置にバンドが確認された。
図16に、培養上清の経時変化を示す。分子量マーカーは順に、97、66、45、31、21、14kDaである。レーン1から3、4から6、7から9、10から12、および13から15はそれぞれ、誘導前、誘導後1時間、誘導後3時間、誘導後5時間、および誘導後7時間である。レーン1、4、7、9、および13はMABL sc(Fv)2を表す。レーン2、5、8、10、および14はMABL minor sc(Fv)2を表す。レーン3、6、9、12、および15は対照を表す。図16に示すように、上清中には誘導後3、5、7時間においてMABL sc(Fv)2の分解物が検出された。
<上清中に分泌されたMABL minor sc(Fv)2およびMABL sc(Fv)2のBiacore解析>
可溶性ヒトCD47(soluble human CD47, 以下shCD47と指称される。)は、CD47の細胞膜外領域(1 - 124アミノ酸)のC末端側にFLAGタグを付加してCHO細胞で発現させた。発現させたshCD47は、抗FLAG M2 アガロース(SIGMA)を使用してマニュアルに準拠して精製された。
MABL minor sc(Fv)2およびMABL sc(Fv)2の抗原への結合活性の測定には、Biacore 3000(Biacore)が使用され、HBS-EP バッファ(Biacore)がランニングバッファとして用いられた。精製されたshCD47の糖鎖部分にアルデヒド基が導入された後、アルデヒド基を介したアルデヒドカップリング法により、センサーチップCM5(Biacore)に固定化された。固定化操作は、BIAapplications Handbookのマニュアルに準拠した。非特異的な結合の影響を除くために、何の固定化操作もしていないセルをリファレンスとし、shCD47を固定化したセルのセンサーグラムから、リファレンスセルのそれが差し引かれた。測定時の流速は5μL/minで、サンプルが5μL 注入され、結合後は10 mM HClを 5μL 注入することによりチップが再生された。以上の測定方法については、Kikuchi らの方法(J.Biosci.Bioeng (2005), 100, 311-317)が参照された。
解離相の傾きから、BIA evaluation ver. 3.1(Biacore)により、解離速度定数(kd)が計算された。また、結合量からサンプル中のMABL sc(Fv)2が定量された。この際、CHO細胞で発現させた既知濃度のMABL scFv ダイマー(diabody)が標準として用いられた。図17に、発現の誘導後7時間のMABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2の培養上清のBiacore解析によるセンサーグラムを示し、図18にその拡大図を示す。実線のみはCHO由来のMABL sc(Fv)2を表す。三角および四角はそれぞれ、MABL sc(Fv)2およびMABL minor sc(Fv)2を表す。Xは対照を表す。図17に示すように、培養上清を用いたBiacoreによる測定の結果、MABL minor sc(Fv)2およびMABL sc(Fv)2とも、抗原であるCD47に結合する分子として発現していることが確認された。
MABL minor sc(Fv)2およびMABL sc(Fv)2の結合活性はそれぞれ、kd = 3.9×10-4 s-1および、kd = 2.2×10-3 s-1であった。MABL minor sc(Fv)2の方が、解離相の解離速度が遅く、およそ10倍の差が見られた。なおCHO由来MABL sc(Fv)2は、kd = 6.8×10-5 s-1であった。Kikuchiらによれば、一価抗体であるMABL scFvと二価抗体であるMABL scFv ダイマー(diabody)のCD47に対する解離速度定数は、kd = 3.9×10-3 s-1とkd = 7.1×10-5 s-1と大きな違いがあり(Biochem. Biophys. Res. Com. (2004)315, 912-918)、ディアボディーでは二価の結合によるアビディティーの効果で、解離速度が非常に遅くなっているためであると考えられた。
ウエスタンブロット解析からも、MABL minor sc(Fv)2を発現させた場合には完全長のバンドが認められており、主に二価での結合能を有した分子が発現されていると考えられた。このために解離速度が非常に遅くなっており、コントロールとして用いられたMABL scFv ダイマー(diabody)と比較しても、見かけ上は解離相の傾きに大きな違いは見られなかった。
一方、MABL sc(Fv)2は切断を受け、これらがscFv様の一価抗体として働いているため、一価抗体のscFvとほぼ同じ解離速度定数を示していると考えられた。
また、結合量から定量したMABL minor sc(Fv)2の発現濃度は、培養上清には約0.15 mg/L、菌体内可溶性画分には、約0.17 mg/Lであった。

Claims (15)

  1. 2以上のポリペプチドドメインと、これらを連結するポリペプチドリンカーからなる抗体断片をコードするポリヌクレオチドであって、前記ポリペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドの配列は、前記ポリヌクレオチドが導入された宿主細胞において前記ポリヌクレオチドから転写されたmRNAが翻訳される際に、ポリペプチドリンカーをコードするmRNAの領域の翻訳速度がそのすぐ上流側のポリペプチドドメインをコードするmRNAの領域の翻訳速度より遅くなるよう選択されることを特徴とするポリヌクレオチド。
  2. ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドが、1またはそれ以上のレアコドンを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
  3. レアコドンが、GCCCGGAGGCAACACCATCTACCCCCATCCのいずれかから選択される請求項2に記載のポリヌクレオチド。
  4. レアコドンが、CGGAGGAGACTACCCGGAATAのいずれかから選択される請求項2に記載のポリヌクレオチド。
  5. ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドから転写されるmRNAの二次構造が、立体高次構造を取ることができる配列であることを特徴とする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
  6. 立体高次構造がステム−ループ構造である請求項5に記載のポリヌクレオチド。
  7. ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドがコードするアミノ酸の使用頻度が、当該ポリペプチドが導入された宿主細胞において低いことを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
  8. 抗体断片がscFvである請求項1−7のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
  9. 抗体断片がsc(Fv)2である請求項1−7のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
  10. ポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドが、配列番号6、8、10、12又は24に規定される配列を有する、請求項1−9のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
  11. 請求項1−10のいずれかに記載のポリヌクレオチドが前記宿主細胞において発現可能なように挿入されたベクター。
  12. 請求項11に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
  13. 宿主細胞が原核生物の細胞であることを特徴とする請求項12に記載の宿主細胞。
  14. 原核生物が大腸菌であることを特徴とする請求項13に記載の宿主細胞。
  15. 請求項12に記載の宿主細胞を培養し、産生された抗体断片を回収することを特徴とする抗体断片の製造方法。
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