本発明は、抗血栓性の共重合体に抗菌性物質を含有させた医療用具表面処理用の抗血栓性抗菌性組成物に関する。
近年、各種の高分子材料を利用した医用材料の検討が進められており、血液フィルター、人工腎臓用膜、血漿分離用膜、カテーテル、人工肺用膜、人工血管、癒着防止膜、人工皮膚等への利用が期待されている。この場合、生体にとって異物である合成材料を生体内組織や血液と接触させて使用することとなるため、医用材料が生体適合性を有していることが要求される。
医用材料を血液と接する材料として使用する際には、(a)血液凝固系の抑制、(b)血小板の粘着・活性化の抑制、および(c)補体系の活性化の抑制の3要素が、生体適合性として重要な項目となる。中でも、体外循環用医用材料(例えば、人工腎臓、血漿分離膜)のように、血液と接する時間が比較的短い材料として使用する場合においては、一般に、ヘパリン、クエン酸ナトリウム等の抗凝固剤を同時に使用するため、特に、前記(b)および(c)の血小板や補体系の活性化の抑制が重要な課題となる。
(b)血小板の粘着・活性化の抑制については、ミクロ相分離した表面や、親水性表面、特に、水溶性高分子を表面に結合させたゲル化表面が優れており、ポリプロピレン等の疎水性表面は劣っているといわれている。(非特許文献1、2参照)。しかし、ミクロ相分離構造を有する表面は、適度な相分離状態にコントロールすることにより良好な血液適合性を発現することが可能となるが、そのような相分離を作製できる条件は限られており、用途に制限があった。また、水溶性高分子を表面に結合させたゲル化表面では、血小板の粘着は抑制されるが、材料表面で活性化された血小板や微小血栓が体内に返還され、しばしば異常な血球成分(血小板)の変動が観察され、問題となることがあった。
トランスアクションズ オブ アメリカンソサエティ オブ アーティフィカル インターナショナル オルガンズ(Trans.Am.Soc.Artif.Intern.Organs)、vol.XXXIII、p.75〜84(1987)
高分子と医療、三田出版会、p.73(1989)
一方、(c)補体系の活性化については、セルロース、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のヒドロキシ基を有する表面が高い活性を示し、ポリプロピレン等の疎水性表面では活性が軽微であることが知られている。(非特許文献3参照)。したがって、セルロース系やビニルアルコール系の材料を、例えば、人工臓器用膜に使用すると補体系の活性化の問題が生じるが、逆に、ポリエチレン等の疎水性の表面を使用すると血小板の粘着・活性化の問題が生じてしまう。
人工臓器16(2)、p.1045〜1050(1987)
また、例えば、人工血管のように、血液と接する時間が比較的長い材料として使用する場合には、上記3項目のほかに、新生内膜形式や生体内組織の新生と再生が良好に行われるために、生体内組織(細胞)との親和性がある材料である必要がある。この人工血管の材料としては、例えば、超極細ポリエステル繊維よりなる人工血管が挙げられる。(非特許文献4参照)。この超極細ポリエステル繊維は、生体の異物認識、生体防御による創傷治癒、自己組織再生を利用した医用材料の1つであり、今日、人工血管として主に使用されている。しかし、この人工血管を微小血管に長期間適用すると、人工血管が閉塞してしまうという問題が生じる。
人工臓器19(3)、p.1287〜1291
更に、血液以外にも生体内組織や体液と接する医用材料、例えば、生体内に長期間埋入して使用される癒着防止膜、インプラント材、または創傷部(皮膚が剥がれて損傷し、生体内組織が露出した部位)に接して使用される創傷被覆材では、生体からの異物認識が少なく、生体からはく離しやすい表面(非癒着性表面)が必要とされる。しかしながら、従来上記材料として使用されているシリコーン、ポリウレタンおよびポリテトラフルオロエチレンでは、材料表面に生体内組織が癒着するため、生体の異物認識が強すぎて、満足する性能が得られていなかった。
その他の医療用材料としては、ポリエチレングリコール(PEG)がある。PEGは非常に優れた血液適合性を有しており、医療分野への応用研究も多くなされている。しかし、PEGは水溶性であるため、医療用材料として使用する場合は、他のポリマーとのブロック共重合体やグラフト共重合体にして材料表面に固定化する必要があった。
また、生体適合性材料であるポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を血液接触面にコーティングすることで抗血栓性を発現する技術が知られている。(特許文献1参照)。この材料はコーティングの溶媒としてメタノールに溶解するが、残存溶媒の毒性を考慮するならば、エタノールに可溶な材料の方がより望ましいと言える。
特開2002−105136号公報
さらに、ポリエチレングリコールアクリレートとアクリルアクリレートとの水溶性共重合体が知られている。(特許文献2参照)。この技術は免疫測定の際に固相の表面の保護を実施することができる。しかし、この共重合体は水溶性のため長期間の生体適合性の持続は困難であった。
特開平11−287802号公報
また別に、ホスホリルコリン類似基含有重合体が知られている。(特許文献3参照)。この技術は生体適合性の高いホスホリルコリン基を含有する親水性(メタ)アクリレートモノマーと疎水性の高いアルキル(メタ)アクリレートモノマーとを共重合させることにより、良好な生体適合性を保ちつつ水不溶とするものである。しかし、免疫の観点においての生体適合性については特化しているものではなかった。ホスホリルコリン基のもつアンモニウムイオン(N+)が生体の免疫系を活性化するものと考えられる。(図1参照)。
特開平11−35605号公報
水不溶性の血液適合性高分子として、アルコキシアルキルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体が知られているが、これは特殊な共重合体を使用するものである。(特許文献4、5参照)。
特開2004−161954号公報
特開2003−111836号公報
一方、抗菌性材料に関しても種々の技術が報告されている。抗菌性物質として、アンモニウム塩を含有する抗菌性材料については、例えば、特許文献6、特許文献7に、ビグアニドを含有する抗菌材料については、例えば、特許文献8、特許文献9などによって開示されている。さらに、特許文献10ではプロテイン銀を抗菌有効成分として含有する抗菌性材料について開示されている。
特公平4−25301号公報
特公平3−64143号公報
特公平5−80225号公報
特公平2−61261号公報
特公平6−55892号公報
しかし、これらの技術では優れた抗菌性を発揮するための検討は行われているものの、抗血栓性に対する配慮がなされていないため、高栄養輸液カテーテルなどの長期体内に留置する必要のある長期留置用医用デバイス等に用いた場合では、血液と材料の接触によって生成した血栓に細菌が繁殖し、これが体内に入り込んで感染を引き起こしてしまう。このように長期留置用デバイス等では抗血栓と抗菌性を長期的かつ同時に発現することが必要となる。
そこで、抗血栓性と抗菌性を長期的かつ同時に発現させるものとして、抗菌性物質を練りこんだカテーテル表面に、抗血栓材料を被覆した抗血栓性抗菌性カテーテル(特許文献11参照)や抗血栓性薬剤を固定化させた抗血栓性抗菌性カテーテル(特許文献12参照)が挙げられる。しかし、カテーテルの樹脂に抗菌性物質を練り混ぜる必要があることから、抗菌性の必要とされる医用デバイス表面のみならず、材料全体に抗菌性物質が含まれ、抗菌性物質が余剰に使われることとなる。また、抗菌性物質を練りこんだ樹脂を医用デバイス表面付近のみに存在させようとすると、押出機を段階的に操作する必要があるため、製造工程が複雑になる。よって、抗菌性と抗血栓性を同時に発現し、なおかつ医用デバイスの成形に関わらずに表面処理剤として用いることができる抗血栓性抗菌性材料が強く望まれていた。
特開2005−334216号公報
特開平10−211272号公報
本発明は、従来の医療用材料に比べて、抗血栓性、ひいては生体適合性に優れ、かつ、親水性の高い表面処理剤であり、さらに、抗菌性物質を含有させることによって長期的な抗菌性を付与した抗血栓性抗菌性組成物である。
本発明者らは親水性のポリエチレングリコール(PEG)骨格を持つ(メタ)アクリレートと疎水性の長鎖アルキル(メタ)アクリレートとを共重合することにより得られる共重合体がPEGの生体適合性、ひいては血液適合性を維持しつつ水に不溶となることを知見し、それを塗布することで医療用具に血液適合性を付与できることを見出した。さらに、得られる共重合体はイオン性基のような極性の高い官能基を有していないため、血液と接触した際の免疫系の活性化を抑制できることを見出した。また、このアクリレート重合体に抗菌性物質を含有させることにより、長期的な抗菌性を付与できることを見出した。すなわち、本発明は以下のような構成を有する。
(1)下記一般式1で示されるアルキル(メタ)アクリレートおよび下記一般式2で示されるメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを含む水不溶性で粘性を有する(メタ)アクリレート共重合体と抗生物質、クロルヘキシジン等のビグアニド化合物、ベンザルコニウム、およびそれらの塩化合物、スルファジアジン銀等の金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の抗菌性物質とからなる抗血栓性抗菌性組成物。
(式中、R1は炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、R2は水素原子またはメチル基を示す。)
(式中、R3は水素原子またはメチル基、nは2〜5の整数を示す。)
(2)前記抗菌性物質が、塩化ベンザルコニウム、ペニシリンGカリウム、硫酸ストレプトマイシン、スルファジアジン銀、クロルヘキシジンからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の抗血栓性抗菌性組成物。
(3)アルキル(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとが30〜90/70〜10のモル比でなる(メタ)アクリレート共重合体を含む(1)または(2)に記載の抗血栓性抗菌性組成物。
(4)(メタ)アクリレート共重合体が炭素数1〜6のアルコールのいずれかに可溶である(1)〜(3)いずれか記載の抗血栓性抗菌性組成物。
(5)(メタ)アクリレート共重合体のガラス転移温度が−100〜20℃である(メタ)アクリレート共重合体を含む(1)〜(4)いずれか記載の抗血栓性抗菌性組成物。
(6)(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量が2,000〜200,000である(1)〜(5)いずれか記載の抗血栓性抗菌性組成物。
(7)抗菌性物質が抗血栓性抗菌性組成物に対して0.1重量%〜50.0重量%含まれることを特徴とする(1)〜(6)いずれか記載の抗血栓性抗菌性組成物。
(8)JIS Z 2801のフィルム密着法に基づいて評価された抗菌活性値が1.3以上であることを特徴とする(1)〜(7)いずれか記載の抗血栓性抗菌性組成物。
(9)(1)〜(8)いずれか記載の抗血栓性抗菌性組成物が血液接触部の少なくとも一部に担持されたことを特徴とする医療用具。
本発明の共重合体は、生体適合性に優れ、かつ、親水性の高い材料として用いることができる。また材料としての物性が水に不溶な粘性物質であるため医用機材の物性を損なうことなく血液回路全体にコーティングでき、さらには抗菌性物質を含有させることにより長期的な抗菌性を有する材料を提供する。
本発明において、アルキル(メタ)アクリレートおよびメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリレート共重合体は実質的に水不溶性であることが好ましい。ここで、実質的に水不溶性であるとは、(メタ)アクリレート共重合体を該共重合体1重量%に対して99重量%の37℃生理食塩水中に30日間静置した際、該共重合体の重量減少率が1重量%以下であることを指す。実質的に水不溶性であることにより、生体組織や血液等と接触した場合にも、該共重合体の血液などへの溶出を防ぐ点で好ましい。
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体を構成する、下記一般式1で示されるアルキル(メタ)アクリレートとしては、R1の炭素数が2〜30のものを使用するのが好ましく、より好ましくは4〜24であり、さらに好ましくは6〜18である。このようなアルキル(メタ)アクリレートの具体例として、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等があるが、コストや性能の観点から炭素数が8〜12のものがより好ましく、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどあるが、コストと性能の観点から炭素数8〜12のものがより好ましく、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどが好ましい。
(式中、R1は炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、R2は水素原子またはメチル基を示す。)
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体を構成する、下記一般式2で示されるメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキサイド単位が1〜1,000であるものを使用するのが好ましい。より好ましくは1〜500、さらに好ましくは1〜100、よりさらに好ましくは2〜10、特に好ましくは2〜5である。具体的には、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシペンタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘプタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシオクタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシノナエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシデカエチレングリコール(メタ)アクリレートなどがある。繰り返し単位が大きく親水性が増大しすぎると共重体の血液への溶解性が高いため、医療材料から容易に溶出する可能性がある。すなわち、医療用具に長期の抗血栓性をもたらすことが出来ない可能性がある。したがって、繰り返しエチレンオキサイド単位が4のメトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、3のメトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。共重合体の親−疎水バランスに優れる、エチレンオキサイド単位が3のメトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましい。
(式中、R3は水素原子またはメチル基、nは1〜1,000の整数を示す。)
本発明において、水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体に属する代表的なものを具体的に挙げると、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、シクロヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシペンタエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−オクチル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−オクチル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ラウリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−デシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ステアリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ステアリル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ラウリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ミリスチル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体のような、これに限定されるものではないが、一般式1のアルキル(メタ)アクリレートと、一般式2のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの単量体を30〜90/70〜10のモル比で任意に組み合わせて慣用の重合法に従って共重合させたものである。共重合体の重合条件および医用材料としての特性を考慮すれば、好ましくは50〜80/50〜20のモル比で、数平均分子量が2,000〜200,000になるように共重合させたものが最適である。
医用材料という用途を考慮すれば、未反応のモノマーを、再沈殿方法により、5mol%以下になるように精製したものが適している。
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は2,000以上であることが重合体の再沈殿による精製の容易さの点で好ましい。数平均分子量が小さすぎると、血液中に容易に溶出する恐れがあるばかりでなく、塗膜の強度、安定性などが失われる可能性がある。また、分子量が大きいほどコーティング溶液を調製した際の粘度が上昇するため、コーティング基材との粘着性が向上するという副次効果もある。すなわち、医療用具に長期の抗血栓性をもたらすことに繋がる。したがって、(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は5,000以上がより好ましく、8,000以上がさらに好ましい。また、該(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は200,000以下とすることが、(メタ)アクリレート共重合体を医療用具等にコーティングする際のコーティング溶液の粘度を下げる意味で好ましい。より好ましくは150,000以下、さらに好ましくは100,000以下、さらにより好ましくは50,000以下、特に好ましくは25,000以下である。ここで、数平均分子量とは全分子の分子量の和を分子数で割ったものであり、高分子の特性の一つである。
数平均分子量を測定する方法としては、末端基定量法、浸透圧法、蒸気圧オスモメトリー、蒸気圧降下法、氷点降下法、沸点上昇法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法などがあるが、本発明においては操作の容易さの点でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を採用するのが好ましい。
この(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量を、2、000〜200,000とすることは、該共重合体の精製、処理液の取り扱い、医用材料への適応性、塗膜の安定性などに関する特定の技術課題を達成する為には、非常に重要な技術要件でもある。
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体を構成する、アルキル(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとが30〜90/10〜70のモル比で共重合されていることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートが少なすぎると共重合体が血液など水に溶解しやすくなり、多すぎるとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの血液適合性が十分に発揮されない可能性がある。したがって、モル比は40〜90/10〜60であることがより好ましく、45〜85/15〜55がさらに好ましく、50〜80/20〜50がさらにより好ましい。
この(メタ)アクリレート共重合体は、一般式[1]のモノマーと一般式[2]のモノマーが交互に配列した共重合体であることも有り得るが、トータル量から解析すれば、疎水性モノマーからなるセグメント又はブロックと、親水性モノマーからなるセグメント又はブロックからなる共重合体であることも有り得る。疎水性モノマーからなるセグメント又はブロックが、親水性モノマーからなるセグメント又ブロックを固定する機能を果たす、いわゆるミクロ相分離構造、モザイク模様のような構造というような複雑な構造を採ることも有り得ることが一応想定できる。いずれにせよ、共重合体の分子量の大小および親水性モノマーの種類、特性なども多少影響するだろうが、疎水性モノマーの量を若干多くすれば、該共重合体の親水性モノマーからなるセグメント又はブロックの溶出を抑えることができる。また、この疎水性セグメントをやや多くするということは、疎水性医用材料との親和性を上げる機能も果たすものと思われ、被膜として医用材料との固着に有利な役割を果たすことも想定できるが、セグメントの有無およびその親和性の状態に関する挙動に関して、現状では技術的根拠に基づいて正確に検証することができないが、該共重合体は生体にやさしい親和性をもった高分子材料である。
「アクリル樹脂 合成・設計と新用途開発 中部経営開発センター 昭和60年発行」、「アクリル酸エステルとそのポリマー[II] 株式会社昭晃堂 昭和50年発行」によると、アルキル(メタ)アクリレートの炭素数が増大するにつれ、そのポリマーのガラス転移点は低下し、ある極小値をむかえた後増大する傾向にある。その極小値はn-アルキルアクリレートでは炭素数が8、n-アルキルメタクリレートでは炭素数が12である。つまり、炭素数8のアルキルアクリレートを共重合で組み込むことで共重合体のガラス転移温度を低下させることができることを示している。
また、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単独重合体は親水性が高いため血液適合性には優れているが、水溶性であるので血液等に長期間接触させた場合、徐々に溶出する問題があった。本発明者らは血液適合性に優れるだけでなく、長期使用に耐える材料について鋭意検討した結果、血液等への溶出を防止するための適度な疎水性と、コーティング被膜の物理的な脱落(脱離)を防止するための柔軟性とを抗血栓性物質に付与することによって、該課題を解決できることを見出した。すなわち、上記説明したような特定のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートと特定の炭素数のアルキル(メタ)アクリレートとを共重合することにより前記課題を解決できることを見出し本発明を完成した。
このように、該共重合体は、血液に対処する例えば抗血栓性、溶出防止のような機能を有する親水性モノマー、セグメント、又はブロックからなるものと、医用材料に対処する、例えば親和性、固着性のような機能を有する疎水性モノマー、セグメント又はブロックから構成されているという、いわゆる異なる二面の界面機能を果たす二種類のモノマー成分から実質的に構成されているが、一方で、該共重合体を構成する、モノマー、セグメント、又はブロック同志がお互いに分子構造内で補完しあって、溶出、分散などに対して安定な結合又は構造を形成しているようにも見える。
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体は炭素数1〜6のアルコールのいずれかに可溶であることが好ましい。炭素数1〜3のアルコールに可溶であることがコーティング後の乾燥が容易になるためより好ましい。ここで、可溶であるとは前記アルコール10mlに(メタ)アクリレート共重合体1gを25℃で浸漬した際、室温下16時間以内に少なくとも90重量%の(メタ)アクリレート共重合体が溶解することを言う。
「高分子基礎科学 株式会社昭晃堂 1991年発行」によると、高分子を溶融状態から冷却してゆくと、結晶化せずに過冷却状態を経てついにはガラス状態となり固化してしまうことがある。この溶融状態からのガラス状態への転移をガラス転移といい、この温度をガラス転移温度という。ガラス転移温度以下では高分子は流動性を失ってガラス状であるのに対し、ガラス転移温度以上では流動性を持ち、いわば液体の状態にある。つまり、本発明の共重合体に柔軟性を持たせるためには室温(25℃)よりも低いガラス転移温度をもつ必要がある。
本発明の(メタ)アクリレート共重合体のガラス転移温度は−100〜20℃であることが好ましい。−80〜5℃がより好ましく、−60〜−10℃がさらに好ましく、−60〜−25℃がさらにより好ましい。ガラス転移温度が高すぎると、医療用具に担持された抗血栓性物質(共重合体)が物理的に剥離してしまう可能性がある。ガラス転移温度が低すぎると共重合体の流動性が増大し、コーティングの作業性が低下する可能性がある。
本発明において、抗菌性物質は、特に限定されるものではなく、いずれかの抗菌性物質を用いてよい。例えば、アンピシリン、ナフシリン、アモキシシリン、オキサシリン、アズロシリン、ペニシリンG、カルベニシリン、ペニシリンV、ジクロキサシリン、フェネチシリン、フロキサシリン、ピペラシリン、メシリナム、スルベニシリン、メチシリン、チカルシリン、メズロシリン、セファクロール、セファロチン、セファドロキシル、セファピリン、セファマンドール、セフラジン、セファトリジン、セフスロジン、セファゾリン、セフタジジム、セフォラニド、セフトリアキソン、セフォキシチン、セフロキシム、セファセトリル、ラタモキセフ、セファレキシン、アミカシン、ネオマイシン、ジベカシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、ネチルマイシン、カナマイシン、トブラマイシン、アンホテリシンB、ノボビオシン、バシトラシン、ニスタチン、クリンダマイシン、ポリミキシン、コリスチン、ロヴァマイシン、エリトロマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、リンコマイシン、バンコマイシン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、ロリテトラサイクリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、ミノサイクリン等の抗生物質、アンホテリシンB、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ミコナゾール、エコナゾール、ナタマイシン、フルシトシン、ニスタチン、グリセオフルビン等の抗真菌剤、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル等のパラオキシ安息香酸エステル、クロルヘキシジン等のビグアニド化合物、ベンゼトニウム、ベンザルコニウム、ラウリル硫酸、アルキルポリアミノエチルグリシン、脂肪酸、臭化ドミフェンなど表面活性を有する化合物、チモール、フェノール、ヘキサクロロフェン、レゾルシン等のフェノール誘導体、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸化合物、ヨウ素、ヨードホルム、ポビドンヨード等のヨウ素化合物、金、銀、銅、水銀などの金属、チメロサール、メチロブロミン、スルファジアジン銀等の金属化合物、アクリノール、メチルロザリニン等の抗菌色素化合物、酢酸マフェニド、スルファジアジン、スルフィソミジン、スルファメトキサゾール等のサルファ剤等が挙げられる。これらの抗菌性物質は、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、硫酸塩、グルコン酸塩等の塩化合物であってもよく、また、2種類以上の抗菌性物質を併用してもよい。
上記抗菌性物質は水溶性と難水溶性に大別でき、水溶性の抗菌性物質として代表的なものは塩化ベンザルコニウム、ポビドンヨード、ペニシリンGカリウム、硫酸ストレプトマイシンなどが挙げられる。また、難水溶性の抗菌性物質として代表的なものはスルファジアジン銀、クロルヘキシジンなどが挙げられる。
本発明において、医療用具等に抗血栓性物質(共重合体)と難水溶性の抗菌性物質とをコーティングした場合、共重合体が水不溶性であるためか、共重合体の水不溶性と抗菌性物質の難水溶性とが相補的に機能するためか不明だが、抗菌性物質の溶出が極微量かつ持続的となり、長期的な抗菌性を維持することができる。一方、共重合体と水溶性の抗菌性物質とをコーティングした場合には、共重合体は水不溶性であるが、抗菌性物質が水溶性であるため、その溶出量は難水溶性の抗菌性物質を用いた場合に比べて多くなり、瞬間的な強い抗菌性を発現することはできるが、長期的な抗菌性を維持することはできない。例えば、血管内留置カテーテル、輸液チューブ、人工肺などは1〜数日連続して使用される医療用具であり、このような用途には長期的な抗菌性の持続が必要である。また、共重合体に水溶性と難水溶性の抗菌性物質を併用することによって、初期は水溶性の抗菌性物質による強い殺菌力を発揮し、その後は難水溶性の抗菌性物質によって長期的な抗菌性を発揮するといった多段階的な抗菌性を付与することも可能である。この多段階的抗菌性を血管内留置カテーテルに応用すれば、水溶性の抗菌性物質が早期に溶出し、強い抗菌性を発現させることによって、カテーテル挿入時に血管内へ持ち込んでしまう皮膚常在菌を殺菌し、挿入時の感染のリスクを低減させる。そして、カテーテル留置中には、難水溶性の抗菌性物質の長期的な抗菌性により、細菌のカテーテルへの定着や挿入部位から浸入してきた細菌の増殖を阻止することができ、留置時における感染のリスクを低減させることができる。
本発明において、抗菌性物質は抗血栓性抗菌性組成物の重量に対して0.01〜70重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜60重量%、さらに好ましくは0.1〜50重量%である。抗菌性物質の含有量が低すぎる場合は、抗菌性物質の抗菌性が十分に発揮できない可能性がある。また、抗菌性物質の含有量が高すぎる場合は、コーティング等の表面処理後の医療用具に外観不良が発生したり、体内への抗菌性物質の溶出が増加し、溶出した抗菌性物質による局所的な炎症を起こすことがある。したがって、抗菌性物質は医療用具表面全体に存在させてもよいが、皮膚を挿通している刺入部近傍にのみ存在させるのが局所的な炎症を抑制する点で好ましい。
本発明の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、本発明の共重合体を製造するための共重合反応自体には特別の制限はなく、ラジカル重合、イオン重合、光重合、マクロマーを利用した重合等の公知の方法を用いることができる。
本発明の(メタ)アクリレート共重合体を製造するための一例としてラジカル重合による製造方法を以下に示す。
即ち、還流塔を装着した攪拌可能な反応装置にモノマーと重合溶媒、開始剤を加え、窒素置換の後加熱することで重合を開始し、一定時間その温度を保つことで重合を進行させる。重合中に窒素をバブリングすることがより好ましい。この重合の際に連鎖移動剤を併用し、分子量をコントロールすることも可能である。重合終了後の溶液より溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得る。引き続き、得られた粗(メタ)アクリレート共重合体を良溶媒に溶解し、攪拌下の貧溶媒中に滴下して精製処理(以下、再沈殿処理ということがある)を行う。精製処理を1〜数回繰り返し(メタ)アクリレート共重合体の純度を上げる。このようにして得られた共重合体を乾燥する。
共重合の際に用いる重合溶剤としては、メタノールやエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、トルエン、ベンゼン、メチルエチルケトン等の有機溶剤、あるいは水を用いることができるが、本発明においてはモノマーおよび得られる共重合体の溶解性や入手の容易さの面から酢酸エチル、メタノール、エタノール等を用いるのが好ましい。また、前記溶剤の複数種を混合して用いることもできる。これら重合溶媒とモノマーとの仕込み重量比は20〜90/80〜10が好ましく、30〜90/70〜10がより好ましく、35〜85/65〜15がさらに好ましい。仕込み比が前記範囲にあれば、重合反応率を最大限に高めることができる。
重合開始剤としては、一般的にラジカル重合で用いられる過酸化物系、アゾ系のラジカル開始剤が用いられる。過酸化物系ラジカル開始剤としては例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機系過酸化物、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンパーオキサイド等の有機系過酸化物が、アゾ系ラジカル開始剤としては例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、ジメチル2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が用いられる。また、過酸化物系の開始剤に還元剤を組み合わせたレドックス開始剤も使用できる。これらの重合開始剤等は重合溶液中のモノマーに対して0.01〜1重量%添加するのが好ましい。より好ましい添加量は0.05〜0.5重量%、0.05〜0.3重量%がさらに好ましい。重合開始剤等の添加量を前記範囲にすることにより、良好なモノマー反応率で適正な数平均分子量を有する共重合体を得ることができる。
重合する際の温度は、溶剤の種類、開始剤の種類によって異なるが、開始剤の10時間半減期温度付近を使用するのが好ましい。具体的には、前記開始剤を使用する場合20〜90℃が好ましい。30〜90℃がより好ましく、40〜90℃がさらに好ましい。重合の際に分子量を制御するため用いられる連鎖移動剤としては、ドデシルメルカプタン、チオリンゴ酸、チオグリコール酸等の高沸点のチオール化合物、イソプロピルアルコール、亜リン酸、次亜リン酸等を用いることができる。
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体は親水性と疎水性のモノマーを共重合させたものであるため、親水性と疎水性の両方の性質を有する。したがって、共重合後の溶液中には、未反応モノマーである親水性モノマー(メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート)と疎水性モノマー(アルキル(メタ)アクリレート)、および(メタ)アクリレート共重合体からなる成分が混在している。これらの混合物の中から水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を単離するためには、例えば親水性モノマーを溶解する再沈殿液に該共重合体溶液を滴下して精製を行い、続いて疎水性モノマーを溶解する再沈殿液を用いて共重合体を精製することができる。しかし、このような精製方法の組合せでは、精製作業が煩雑であるばかりか、精製コストの高騰および共重合体の損失が大きくなるなどの問題がある。本発明者らは精製作業が簡便で、かつ低コスト、高回収率で(メタ)アクリレート共重合体を得る精製方法について鋭意検討した結果、アルコールと水とを特定の割合で混合した再沈殿貧溶媒を用いることにより効率よく(メタ)アクリレート共重合体を回収できることを見出した。
本発明において、該共重合体を再沈澱処理により精製するために用いる溶媒としては、該共重合体を溶解せず、親水性・疎水性モノマーの両方を溶解する溶媒を用いるのが好ましい。アルコールのみを用いた場合は(メタ)アクリレート共重合体を沈殿させるためには、アルコールよりも親水性を向上させるか、低下させる必要がでてくる。このようなアルコールの親水性を制御する方法として、アルコールに親水性の高い溶媒を混合して用いる方法が挙げられる。そのような溶媒の具体例として、水、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどがあるが、作業の安全性、容易性、揮発しやすさとコストの面から水を用いるのが好ましい。アルコールと水を一定の混合比で混合して貧溶媒として用いることにより、(メタ)アクリレート共重合体を簡便、低コストで、かつ高回収率で得ることができる。
本発明において、再沈殿処理に用いるアルコールとしては、炭素数1〜10のアルコールを用いるのが好ましく、より好ましくは炭素数1〜7のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルコールである。このようなアルコールの具体例として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メトキシ−1−プロパノール、ターシャリーブタノールなどがあるが、低温、短時間乾燥ができることからメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが特に好ましい。
本発明における再沈殿処理溶媒としては、炭素数1〜10のアルコールと水とを40〜99/60〜1の重量比で混合して用いることが好ましく、より好ましくは50〜99/50〜1であり、さらに好ましくは60〜95/40〜5である。アルコール比が大きくなりすぎると(メタ)アクリレート共重合体が析出しにくくなり、水比が大きくなりすぎると析出した(メタ)アクリレート共重合体に不純物として未反応のモノマーが混入する恐れがあるため、70〜95/30〜5が特に好ましい。
本発明において、炭素数1〜10のアルコールと水との混合液を再沈殿の貧溶媒として用いる態様を詳細に説明する。良溶媒としては、(メタ)アクリレート共重合体が溶解され、貧溶媒と混和し得るものであれば何でもよい。具体的には、例えば、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどがあるが、容易に乾燥できる点で沸点の低いテトラヒドロフラン、アセトンが特に好ましい。これらを良溶媒として用いて上記貧溶媒に添加する再沈殿処理を複数回繰り返すことにより精製するのが好ましい。
前記説明したような再沈殿操作を必要により2〜8回行うことにより、未反応モノマー含有量が5mol%未満である水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を50重量%以上という高回収率で回収することが可能となる。該共重合体中に含まれる未反応モノマー、オリゴマー、重合残渣の含有量が多い場合には、それが血液中に溶出して、患者のショック症状などの原因物質となることが考えられる。それらの原因物質は再沈殿精製法で大部分は除去できるが、その原因物質を反応モノマー換算で、患者の安全を考慮すれば、その含有量を5mol%以下にする必要がある。しかし、精製工程に配慮すれば、3mol%以下、好ましくは1mol%以下にすることが好ましい。本発明においては、医用材料という特殊な用途を考慮して細心の注意をした結果、再沈殿精製における該共重合体の若干の損失又は放棄などを伴う精製工程を採用した結果、未反応モノマー残留量が理想の0.1mol%以下をはるかに超えた、0.06mol%程度を達成した共重合体を提供することができた。これは、別の慣用の指標である純度で表示すれば、精製共重合体の前重量(W1)に含まれる、共重合体だけの重量(W2)として、両者の比でW2/W1×100により算定をするなら、共重合体の純度に換算すれば、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に99重量%以上と言い得るが、本発明では、99.9重量%以上のものを提供することができる。
本発明において、再沈殿後の(メタ)アクリレート共重合体の回収率が90重量%を超えると回収物中に未反応モノマー含有の恐れが生じ、50重量%を下回ると生産効率が低下するため、回収率は50〜90重量%であることが好ましい。この回収率を50〜90重量%にとどめるということは、共重合体の回収を若干損失又は放棄することにもなるが、未反応モノマーの混入をできるだけ防ぐということからすれば仕方がないことである。というのも、医用材料に適用する親水性、疎水性の性質を兼ね備えた共重合体であるという特有の事情からすれば、それぐらいの配慮は当然にしなければならないことである。
精製された共重合体は乾燥による溶媒の除去が必要となる。乾燥方法としては、例えば、60℃で1Torr以下の減圧下において2〜10日間継続して実施し、十分な乾燥が得られないときは引き続き減圧乾燥を行えば良い。このようにして得られた(メタ)アクリレート共重合体は純度が95mol%以上であることが好ましい。共重合体純度が95mol%以上であれば、例えば後述するような医療用具のコーティング材料として用いた場合に血液中にモノマー、オリゴマー等が溶出しないなど医療用として安全性の高い材料を提供することができる。
また、上述した本発明の共重合体は、水不溶性であり、医療用具等に抗血栓性を付与する表面処理剤として好ましく用いることができる。具体的な態様として、得られた共重合体を有機溶媒に溶解することにより得られる溶液を医療用具等の基材表面に塗布あるいは該溶液に医療用具等を一旦浸漬した後、溶媒を除去することによって得ることができる。本発明の共重合体を基材表面に担持させる方法としては、コーティング法や放射線、電子線、紫外線によるグラフト重合を利用する方法、基材の官能基との化学反応を利用する方法等の公知の方法が挙げられる。中でも、コーティング法は、製造工程が容易であるため、実用上好ましい。もちろん、医療用具材料と共重合体を予め混合したものを各種医療用具に成型加工しても良い。コーティング法は、特に限定されず、塗布法、スプレー法、ディップ法等を用いることができる。例えば、塗布法は、例えば、アルコール、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等の適当な有機溶媒に本発明の(メタ)アクリレート共重合体を溶解したコーティング液に、基材を浸せきした後、余分な溶液を除き、ついで風乾させるなどの簡単な操作で実施できる。また、コーティング後の基材に熱を加え乾燥させることも好ましい。これにより、基材と本発明の共重合体との接着性をより高め、より強固に固定することができる。なお、医療用具への本発明の抗血栓性抗菌性組成物のコーティングは、前記処理を1回行えばよいが、目的、用途により複数回繰り返すことも本発明の範囲内である。
本発明において、医療用具への抗菌性物質のコーティング方法は、特に限定されるものでなく、前記抗血栓性物質(共重合体)を医療用具にコーティングした後に、別途抗菌性物質を医療用具にコーティングしても良いし、抗血栓性物質と抗菌性物質とを有機溶媒等に予め混合溶解または分散したものを医療用具にコーティングしても良い。コーティング溶液中の抗血栓性抗菌性組成物は0.005〜2.5重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜2.0重量%である。抗血栓性抗菌性組成物の含有量が低すぎる場合は、十分な抗菌性が発揮されず、また長期的な抗菌性が発揮できないことがある。抗血栓性抗菌性組成物の含有量が高すぎる場合は、コーティング液の粘度が高くなり、コーティングの作業性が低下することがある。また、コーティング層が厚くなり、カテーテル挿入時の摩擦抵抗が大きくなる可能性がある。摩擦抵抗が大きいとカテーテルを挿入しづらくなり、無理に挿入した場合、挿入部の皮膚が炎症を起こすこともある。
本発明において、後述する抗菌性試験による評価を行ったときに、7日後の抗菌活性が1.3以上であることが好ましい。7日後の抗菌活性が1.3以上あれば、長期使用型の医療用具においても十分な抗菌活性が維持されていると判断することができる。抗菌活性値が大きいほど抗菌性に優れることを示すので、1.6以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。
本発明の抗血栓性抗菌性組成物のコーティング溶液を調製する際の溶媒としては、基材である医療用具にできる限り損傷を与えないものが選択される。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、アセトン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が使用されるが、この中でも沸点が低く、コーティング後の乾燥が容易なメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールがより好ましい。また、抗菌性物質をより均一に分散させるために、これらの有機溶媒に水やアンモニア水を混合したものを抗血栓性抗菌性組成物の溶媒として用いるのがより好ましい。
本発明のアルキル(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとを共重合することにより得られる(メタ)アクリレート共重合体は、親水性と疎水性が適度にバランスされているので、血液適合性や抗血栓性に優れており、医療用具や人工臓器用膜の表面処理剤として好適に使用することができる。また、本発明の(メタ)アクリレート共重合体は、水に不溶な粘性物質であるため、医療用具や人工臓器用膜の表面にコーティングするだけでも、容易に血液中に溶出しにくく、長期の血液適合性(抗血栓性)効果を持続できる。そして、抗血栓性物質の前記した特性により、抗菌物質の徐放が適度に制御され、比較的長期の抗血栓性および抗菌性を維持することが可能となっているものと考えている。このような特性を有する(メタ)アクリレート共重合体は従来技術にはなく、本願発明において初めて見出したものである。
なお、本発明の(メタ)アクリレート共重合体は、いずれかを単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
本(メタ)アクリレート共重合体を用いて処理を行った医療用具が血液と接触した際、親水性の高いメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが表面に張り出して抗血栓性を発揮し、またアルキル(メタ)アクリレートは基材近傍に留まることによって血液と医療用具が直接接触することを防いでいるものと考えられる。
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の水不溶性を確認する方法としてエージング処理が挙げられる。エージング処理に用いる抽出溶媒としては、簡便性とその後に実施する血液適合性評価の信頼性を向上させる点で、生理食塩水を用いることが好ましい。37℃恒温下にて行うのがさらに好ましい。(メタ)アクリレート共重合体が水不溶性であると、エージング処理後も高い血液適合性が維持される。
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の免疫活性化度を評価する方法として補体価の比較が挙げられる。CH50を測定するMayer法は簡便で速やかな測定が可能であり、しかも測定キットの入手が容易で安価なため好ましい。(非特許文献5参照)。ヒツジ感作赤血球と血清中の補体とが反応することにより、感作赤血球が溶血する。補体系が活性化されるほど溶血度が低下することから、評価方法として有意に利用することができる。
人工臓器23(3)、654−659(1994)
本発明の別の態様は、本発明の抗菌性を付与した(メタ)アクリレート共重合体が少なくとも血液接触部の一部に担持された医療用具である。本発明の医療用具は、表面の少なくとも一部、好ましくは表面の血液等と接触する部分の全部が本発明の(メタ)アクリレート共重合体で処理されているのが好ましい。本発明の医療用具は、優れた抗血栓性と抗菌性を要求されるものであるのが好ましい態様の一つである。そのような医療用具としては、例えば、血液フィルター、血液保存容器、血液回路、留置針、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、人工肺装置、透析装置、癒着防止材、創傷被覆材、生体組織の粘着材、生体組織再生用の補修材が挙げられる。特に、長期的に留置する必要があって感染症を引き起こす可能性の高い医療用具に有効である。
ここで医療用具の基材としては通常使用される全ての材料が含まれる。すなわち、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、熱可塑性ポリエーテルポリウレタン、熱硬化性ポリウレタン、架橋部を有するポリジメチルシロキサン等のシリコーンゴム、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、4フッ化ポリエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアセタール、ポリスチレン、ABS樹脂およびこれらの樹脂の混合物、ステンレス、チタニウム、アルミニウム等の金属などが挙げられる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(数平均分子量の測定)
試料15 mgに3 mLのGPC測定用の移動相を加えて溶解し、0.45μmの親水性PTFE(Millex-LH、日本ミリポア社)でろ過を行った。GPC測定は510高圧ポンプ、717plus自動注入装置(日本ウォーターズ社)、RI-101(昭和電工社)の測定装置を用い、カラムPLgel 5μMIXED-D(600x7.5 mm)((Polymer Laboratories社)、カラム温度は常温で行い、移動相は0.03重量%のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を添加したテトラヒドロフラン(THF)を用いた。RIにて検出を行い、50 μL注入した。分子量構成は単分散PMMA(Easi Cal: Polymer Laboratories)で行った。
(共重合組成比の測定)
NMR用試験管(規格;N-5、日本精密化学社)中にサンプル50 mgをパスツールピペットにて加えた後、重クロロホルム(和光純薬社)0.7 mLを加え十分に混和し、試料用キャップ(規格NC-5、日本精密化学社)で蓋をした。共重合組成比は、VARIAN社のGEMINI-200を用いて室温下1H NMR測定を実施し、算出した。
(未反応モノマー残存量測定)
NMR用試験管(規格 N-5、日本精密化学社)中にサンプル50 mgをパスツールピペットにて加えた後、重クロロホルム(和光純薬社)0.7 mLを加え十分に混和し、試料用キャップ(規格NC-5、日本精密化学社)で蓋をした。共重合組成比は、VARIAN社のGEMINI-200を用いて室温下1H NMR測定を実施し、算出した。(メタ)アクリレート共重合体に含まれる未反応モノマーを測定により得られた積分比より算出した。
(収率の計算)
仕込みモノマーの総重量に対する、再沈殿及び乾燥後の共重合体重量比を収率として算出した。収率が50〜90重量%の範囲内に入れば、良好と評価した。
(アルコール可溶性テスト)
50 mLバイアル中にサンプル 500mgを加えた後、炭素数1〜6いずれかのアルコール 2mLを加え、十分混和させた。その後、目視により溶解を確認した。
(ガラス転移温度の測定)
示差走査熱量計(島津DSC-50)を用いた。試料10 mgをセル(Alセル、6mmφ、島津製作所)につめ、蓋をして、シーラ・クリンパ(島津製作所社)でクリンプおよびシールした後、測定機器にセットして測定を行った。測定は液体窒素による冷却の後、N2ガス気流下、昇温速度5℃/minにて−150℃から60℃まで実施した。
(エージング処理)
抗血栓性抗菌性組成物をエタノールに溶解し表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に25x25x1mmの塩ビシートを浸漬した後、シートを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で30日間エージングを行い、血液適合性試験用エージングサンプルとした。30日間エージング後のサンプルについて重量減少率が20重量%以下のものを○、20重量%より大きいものを×とした。重量減少が20重量%を超える場合は測定の誤差を考慮しても有意に生理食塩水に溶解したと判断できる。
(血液適合性試験)
ウサギより脱血したクエン酸加新鮮血60 mLを50 mL遠沈管二本に等分し、それを1000 rpmにて10分間遠心分離した。その上澄みを10 mL遠沈管四本に等分した。それをさらに1500 rpmで10分間遠心分離した後、上澄みを除去し、沈殿である血小板ペレットを分離した。その中にHBSS(ハンクス平衡塩溶液)を添加して希釈することで、血小板濃度 3.0x108/mLの血小板溶液を得た。血小板濃度は血球カウンター(KX-21 シスメックス社)で確認した。この濃度の血小板溶液を試験液とした。得られた試験液を0.2 mLとり、60x15 mmのシャーレ(コーニング社、 ポリスチレン製)内の血液適合性試験用エージングサンプル上面に滴下した後、蓋をして37℃で1時間インキュベートした。その後、2.5重量%のグルタルアルデヒド水溶液5 mLを加え、室温で24 時間静置した。水でシャーレ内の溶液を置換する操作を3回行った後、水を除去した。水で洗浄した塩ビシートを−5℃で24 h凍結させた後、0.1 Torrにて24 h乾燥させた。血小板が付着した部分から10x10 mm切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)用サンプル台に両面テープではりつけ、測定サンプルとした。イオン蒸着を行ったサンプルを用いてSEMにて粘着血小板の様子を撮影した。撮影したSEM写真(x3000倍)を目視により比較観察し、付着血小板数が50以下の場合を良好と評価した。
(補体価評価−サンプル調製)
共重合体と抗菌性物質をエタノールに溶解または分散させて得られた溶液を表面処理剤とした。得られた表面処理剤に直径1mmのガラス球1gを浸漬した後、ガラス球を取り出し、60℃にて24時間乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で30日間エージングを行い、補体価評価用サンプルとした。
(補体価評価−測定)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)内に分取したヒト新鮮血10mLを室温にて静置することで凝固させ、3000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)させることにより血清を3.5mL得た。前記の方法で表面処理を行った1mmφガラス球1gに希釈液0.1mLを添加した後1時間37℃にてインキュベートし、得られた血清0.2mL添加し同様に1時間37℃にてインキュベートを行った。希釈液2.6mL、接触した血清12.5μL及び感作ヒツジ赤血球0.4mLを十分混合した後37℃にて1時間インキュベートを行い、0℃にて10分冷却した後、2000rpmにて遠心し、上澄み2mLの吸光度を541nmにて測定した(U-2000 Spectrometer、HITACHI社を使用)。同時に希釈液2.6mLおよび感作ヒツジ赤血球0.4mLを添加したものを溶血なしのものとしてデータを差し引いた。測定にはオートCH50−L「生研」(統一商品番号400437・希釈液52mL、感作ヒツジ赤血球6mL)を用いた。表面処理を行わないガラス球の吸光度値を1としての相対的な吸光度を算出し、1.2以上を良好とし、1.2未満を不良とした。1.2未満の場合は測定誤差を考慮しても有意に補体が活性化したと判断できる。
(抗菌性試験)
共重合体と抗菌性物質を混合し、エタノールで溶解または分散させてエタノール混合溶液を調製して表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、抗菌性試験用エージングサンプルとした。抗菌性の評価はJIS Z 2801のフィルム密着法に基づいて行った。この抗菌性試験では生菌数により抗菌活性値が算出でき、その抗菌活性値が2以上の場合、抗菌効果が得られていることとなる。(図2参照)。
(実施例1)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(MTEGA)(新中村化学工業社)15.1 gおよび2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)(東京化成工業社)29.7 gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0447 gを加え、酢酸エチル(東京化成工業社)178.9 g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をメタノールに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、メタノールに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、共重合体1を得た。得られた共重合体を用いて種々の評価を行った。結果を表1に纏めた。
得られた抗血栓性物質(共重合体1)1.998gおよび抗菌性物質としてスルファジアジン銀0.002gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として1重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の緑膿菌に対する抗菌性を調べた。結果を表1に纏めた。
(実施例2)
実施例1で得られた共重合体1.998gおよび抗菌物質としてクロルヘキシジン0.002gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として1重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の緑膿菌に対する抗菌性を調べた。結果を表1に纏めた。
(実施例3)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(MTEGA)(新中村化学工業社)22.2 gおよびEHA(東京化成工業社)44.2 gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0543 gを加え、酢酸エチル(東京化成工業社)178.9 g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をメタノールに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、メタノールに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、共重合体2を得た。得られた共重合体を用いて種々の評価を行った。結果を表1に纏めた。
得られた共重合体1.98gおよび抗菌性物質としてスルファジアジン銀0.02gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として0.1重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の緑膿菌に対する抗菌性を調べた。結果を表1に纏めた。
(実施例4)
実施例3で得られた共重合体1.98gおよび抗菌性物質としてスルファジアジン銀0.01gと塩化ベンザルコニウム0.01gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として0.1重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の緑膿菌に対する抗菌性を調べた。結果を表1に纏めた。
(実施例5)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(MTEGA)(新中村化学工業社)33.4 gおよびラウリルアクリレート(LA)(東京化成工業社)38.9 gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0747 gを加え、酢酸エチル(東京化成工業社)178.9 g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をメタノールに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、メタノールに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、共重合体3を得た。得られた共重合体を用いて種々の評価を行った。結果を表1に纏めた。
得られた共重合体1.8gおよび抗菌性物質としてスルファジアジン銀0.2gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として2.0重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の緑膿菌に対する抗菌性を調べた。結果を表1に纏めた。
(実施例6)
実施例5で得られた共重合体1.8gおよび抗菌性物質としてペニシリンGカリウム0.2gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として2.0重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を調べた。結果を表1に纏めた。
(実施例7)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(MTEGA)(新中村化学工業社)22.2 gおよびラウリルアクリレート(LA)(新中村化学工業社)44.2 gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0655 gを加え、酢酸エチル(東京化成工業社)178.9 g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をメタノールに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、メタノールに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、共重合体4を得た。得られた共重合体を用いて種々の評価を行った。結果を表2に纏めた。
得られた共重合体1.0gおよび抗菌性物質として塩化ベンザルコニウム1.0gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として0.01重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の大腸菌に対する抗菌性を調べた。結果を表2に纏めた。
(実施例8)
実施例7で得られた共重合体1.0gおよび抗菌性物質として硫酸ストレプトマイシン1.0gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として0.01重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の大腸菌に対する抗菌性を調べた。結果を表2に纏めた。
(比較例1)
メトキシポリエチレングリコールアクリレート(MPEGA)(新中村化学工業社)95.2 gおよびエチルアクリレート(EA)(東京化成工業社)5.1 gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.125 gを加え、イソプロピルアルコール(東京化成工業社)250 g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。なお、メトキシポリエチレングリコールアクリレートにおいてエチレンオキシドの重合度が9のポリエチレングリコールを用いた。重合反応終了後、反応液をn-ヘキサンに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をイソプロピルアルコールに溶解し、n-ヘキサンに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、共重合体5を得た。得られた共重合体を用いて種々の評価を行った。結果を表2に纏めた。
得られた共重合体0.2gおよび抗菌性物質としてクロルヘキシジン0.8gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として0.001重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の緑膿菌に対する抗菌性を調べた。結果を表2に纏めた。
(比較例2)
スルファジアジン銀1.0gを1.0重量%になるようにエタノールに溶解または分散することで1.0重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の緑膿菌に対する抗菌性を調べた。結果を表2に纏めた。
(比較例3)
2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)(東京化成工業社)22.3 gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0467 gを加え、酢酸エチル(東京化成工業社)100 g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をメタノールに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をn-ヘキサンに溶解し、メタノールに滴下する操作を二回行い、精製した。これを一昼夜60℃にて減圧乾燥し、共重合体6を得た。得られた共重合体を用いて種々の評価を行った。結果を表2に纏めた。
得られた共重合体100gおよび抗菌性物質としてクロルヘキシジン0.001gをエタノールに溶解または分散することで抗血栓性抗菌性組成物濃度として3.0重量%エタノール混合液を調製し、表面処理剤を得た。得られた表面処理剤に50x50x0.3mmのポリエチレンフィルムを5秒間浸漬した後、フィルムを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で7日間エージングを行い、エージング前と1週間エージング後の黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を調べた。結果を表2に纏めた。
血液適合性試験の結果、表1、表2に示すように比較例1、3では多数の血小板が積み重なるように粘着していたが、一方、実施例においては表面の血小板粘着数が低く良好な血液適合性を示すことがわかった。また、免疫系評価の結果、良好な補体活性抑制作用があることがわかった。
本発明において、30日間のエージング後も良好な血液適合性を示すことがわかった。これにより、長期間の性能維持が予測される。
抗菌性試験の結果では、実施例1〜8において、7日間のエージング後も良好な抗菌活性値を示すことがわかった。これにより、本発明の抗血栓性抗菌性組成物をコーティングした医療用具は長期間の抗菌性が維持することができると思われる。
比較例2では抗菌性が7日間のエージング後に失われているが、これは抗血栓性物質が共存していないことで、抗菌性物質の保持力が低下したためと考える。したがって、本発明の共重合体と抗菌性物質が共存することによって初めて、長期的な抗菌性が維持できるものと推測する。
本発明の抗血栓性抗菌性組成物(抗菌性物質を含有させた共重合体)は、血液適合性と抗菌性に優れ、かつ、親水性の高い材料として用いることができる。また材料としての物性が水に不溶な粘性物質であるため医用機材の物性を損なうことなく血液回路全体にコーティングできる材料を提供できる。したがって、産業の発展に寄与することが大である。
本願発明と従来技術との相違点を示す概念図。
JIS2801のフィルム密着法に基づく抗菌性試験結果の一例を示す写真。
実施例1の血液適合性評価の結果を表すSEM画像。
実施例3の血液適合性評価の結果を表すSEM画像。
実施例5の血液適合性評価の結果を表すSEM画像。
実施例7の血液適合性評価の結果を表すSEM画像。
比較例1の血液適合性評価の結果を表すSEM画像。
比較例3の血液適合性評価の結果を表すSEM画像。