JP5124825B2 - ε酸化鉄系の磁性材料 - Google Patents

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Description

本発明はε−Fe23結晶を磁性相にもつ粒子の充填構造からなる磁性材料に関する。
ε−Fe23は酸化鉄の中でも極めて稀な相であるが、最近、ナノオーダーの粒子サイズで室温において20kOe(1.59×106A/m)という巨大なHcを示すε−Fe23の存在が確認されている。Fe23の組成を有しながら結晶構造が異なる多形には最も普遍的なものとしてα−Fe23およびγ−Fe23があるが、ε−Fe23もその一つである。ε−Fe23の結晶構造と磁気的性質が明らかにされたのは、非特許文献1〜3に見られるように、ε−Fe23結晶をほぼ単相の状態で合成できるようになったごく最近のことである。
このε−Fe23は巨大なHcを示すことから、高記録密度の磁気記録媒体その他の磁性用途、あるいは電波吸収用途への適用が期待されている。
Jian Jin,Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48-51 Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF MATERIALS CHIMISTRY 2005,15,p.1067-1071 Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN,Vol.74,No.7,July,2005、p.1946-1949
磁性粒子の充填構造によって構築される磁気記録媒体をはじめとする磁性材料では、一般に特定方向の磁場に対する磁気特性を特に顕著に向上させる目的で、磁性粒子の磁化容易軸が一方向に揃うように、製造過程において配向処理が施されることが多い。代表的な配向処理として磁場配向が挙げられる。これは、磁性粉体の粒子を樹脂等のバインダーとともに混練して、所定形状の充填構造を形成させ、バインダーがまだ流動性を有しているあいだにその充填構造に対して一方向の磁場を印加し、粒子の磁化容易軸を印加磁場の方向に揃える処理である。この配向処理を終えた後、バインダーを硬化させると、充填構造を構成する粒子は磁化容易軸が一定方向に揃った状態で固着される。
ところが、ε−Fe23結晶については、まだ再現性のある合成方法が明らかにされた段階であり、ε−Fe23結晶を用いた磁性材料について、磁場配向を実現した例は報告されていない。現時点で開発されているε−Fe23粉体の製法は、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせたプロセスをとるものであり(非特許文献1〜3)、この場合、ε−Fe23結晶のナノ粒子はゾル−ゲル法で形成されるシリカ等の非磁性物質中に取り囲まれた状態で合成される。このシリカはアルカリによって溶解できるが、個々の粒子を独立して分散させた状態に維持することは非常に難しく、一般的な磁性粉と同様の手法で容易に磁場配向を実現できるものではない。上記の20kOe(1.59×106A/m)という巨大な保磁力Hcが観測されたε−Fe23結晶の試料は、配向処理を行っていない粉体からなるものであり、磁気特性に関しては、更なる改善の余地が残されている。
本発明は、ε−Fe23結晶に特有な優れた磁気特性がより一層効果的に発揮される磁性材料を提供することを目的とする。
発明者らは詳細な検討の結果、分散性の良いε−Fe23粉体の合成に成功し、それを用いて磁場配向させることにより上記目的が達成できることを見出した。
すなわち本発明では、ε−Fe23結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を磁性相にもつ鉄酸化物粒子の充填構造を有し、その充填構造を構成する粒子の磁化容易軸が一方向に沿って配向している磁性材料が提供される。
ここでいう「ε−Fe23結晶」には、特に断らない限り、Feサイトが他の元素で置換されていない純粋なε−Fe23結晶の他、Feサイトの一部が3価の金属元素Mで置換されており、前記純粋なε−Fe23結晶と空間群が同じである(すなわち空間群がPna21である)結晶が含まれる。Mは、例えばAl、Ga、Inの1種以上からなる。
ただし、上記鉄酸化物におけるMとFeのモル比をM:Fe=x:(2−x)と表すとき、0≦x<1である。
ここでいう「鉄酸化物」には、ε−Fe23結晶の他に、(i)α−Fe23と空間群が同じである結晶、(ii)γ−Fe23と空間群が同じである結晶、(iii)Fe34と空間群が同じである結晶、(iv)FeOと空間群が同じである結晶のうち、1種以上が含まれていて構わない。ただし、磁性相(磁性を担う結晶)のうち、50モル%以上がε−Fe23結晶で占められていることが望ましい。各結晶のモル比は、X線回折に基づくリードベルト法による解析で見積もることができる。
「粒子の磁化容易軸が一方向に沿って配向している」とは、その一方向に垂直な結晶面からの反射が検出されるようにX線源、試料、および検出器の位置関係が保たれるX線回折試験装置によって測定されたX線回折パターンにおいて、空間群がPna21である斜方晶の(200)面に対応する回折ピークの相対強度が、同(122)面、(201)面、(312)面、(330)面のいずれの面に対応する回折ピークの相対強度よりも強い場合をいう。
前記の「充填構造」は、粒子同士が接しているかまたは近接している状態で、各粒子が立体構造を構成しているものを意味し、最密充填を意味する用語ではない。磁性材料(例えば磁気記録媒体や電波吸収体)として実用に供するためには充填構造を維持させる必要がある。その手法として、非磁性物質をバインダーとして、個々の粒子を固着させることによって充填構造を形成させる手法が採用できる。
この充填構造を構成する粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)写真により測定される平均粒子径が例えば5〜200nmの範囲にある。TEM写真からの平均粒子径の計測は、60万倍に拡大したTEM写真画像から各粒子の最も大きな径(ロッド状のものでは長軸径)を測定することにより求めることができる。独立した粒子300個について求めた粒子径の平均値を、その粉末の平均粒子径とする。以下、これを「TEM平均粒子径」ということがある。充填構造を構成する粒子は単磁区構造を有していることが望ましい。
特に、粒子が球状であるものは、配向処理に際して粒子が向きを変えやすい点で、ロッド状の粒子より有利となる場合がある。そのような形態として、例えば、充填構造を構成する粒子のうち、個数割合で90%以上の粒子が、アスペクト比3以下の球状粒子であるものが好適な対象となる。粒子のアスペクト比は、TEM写真において観測される被測定粒子の最も大きい径(長径)をDL、それに直角方向の径をDSとするとき、DL/DSで表される。
保磁力Hcに関しては、後述のように置換元素Mの種類およびその配合量によって、広範囲にコントロール可能であるが、本発明では極めて高い保磁力を有する磁性材料として、上記と同様の磁気ヒステリシスループにおいて、20kOe(1.59×106A/m)を超える保磁力Hcが観測されるものが提供される。
(1)この磁性材料は常温付近で非常に高い保磁力Hcが得られるので、磁気記録媒体の信頼性向上に寄与できる。また、その保磁力は添加元素Mの含有量によってコントロールできるので、保磁力が高すぎるためにε−Fe23が使えなかった磁性用途においても、使用可能な範囲において、できるだけ高い保磁力を有する磁性材料の提供が可能となる。
(2)この磁性材料は、鉄が3価まで酸化された鉄酸化物の粒子からなるので、従来のメタル系磁性粉末と比べ、大気環境での耐食性が極めて良好である。
(3)この磁性材料は、ε−Fe23結晶の磁化容易軸が一方向に沿って配向しているので、SFDの低減、角形比SQの向上など、ε−Fe23結晶における総合的な磁気特性の改善が達成される。また、これまで引き出すことのできなかったε−Fe23結晶に特有の高保磁力特性や電波吸収特性の顕著な発揮が期待される。
(4)特に、保磁力Hcに関しては、24kOe(1.91×106A/m)レベルという、これまでの金属酸化物では考えられない極めて高い保磁力を呈する磁性材料が実現できる。現在、このような高保磁力材料に対して磁気記録を可能にするような手段は開発されていないが、強い磁場を発生する装置近傍で使用される磁性用途、その他において、この高保磁力特性の利用が期待される。
非特許文献1〜3に記載されるように、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた工程と、熱処理(焼成)工程により、ε−Fe23ナノ微粒子を合成することができ、本発明でもこの合成プロセスを利用することができる。逆ミセル法は、界面活性剤を含んだ2種類のミセル溶液、すなわちミセル溶液I(原料ミセル)とミセル溶液II(中和剤ミセル)を混合することによって、ミセル内で水酸化鉄の沈殿反応を進行させることを要旨とする。ゾル−ゲル法は、ミセル内で生成した水酸化鉄微粒子の表面にシリカコーティングを施すことを要旨とする。表面がシリカで覆われた水酸化鉄微粒子は、液から分離されたあと、所定の温度(700〜1300℃の範囲内)で大気雰囲気下での熱処理に供される。この熱処理によりε−Fe23結晶が合成される。この結晶を主相とする鉄酸化物の粉末に対して、例えば分級操作を施す手法を利用して粒度分布を調整することによって、本発明の磁性粉末を得ることができる。
より具体的には、例えば以下のようにする。
n−オクタンを油相とするミセル溶液Iの水相には、鉄源としての硝酸鉄(III)、鉄の一部を金属元素Mで置換させる場合はM源としてのM硝酸塩(例えばAlの場合、硝酸アルミニウム(III)9水和物、Gaの場合、硝酸ガリウム(III)n水和物、Inの場合、硝酸インジウム(III)3水和物)、および界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)を溶かし、同じくn−オクタンを油相とするミセル溶液IIの水相にはアンモニア水溶液を用いる。その際、ミセル溶液Iの水相に適量のアルカリ土類金属(Ba、Sr、Caなど)の硝酸塩を溶解させておくことができる。これらアルカリ土類金属の硝酸塩は形状制御剤として機能する。すなわち、アルカリ土類金属が液中に存在すると最終的にロッド形状のε−Fe23結晶を得ることができる。形状制御剤がない場合は、球状のε−Fe23結晶を得ることができる。
両ミセル溶液IとIIを合体させたあと、ゾル−ゲル法を併用する。すなわち、シラン(例えばテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン)を合体液に滴下しながら攪拌を続け、ミセル内で水酸化鉄の生成反応を進行させる。これにより、ミセル内で生成する微細な水酸化鉄沈殿の粒子表面にはシランの加水分解によって生成したシリカがコーティングされる。
シリカコートの量は、原料中に含まれるSi含有量がSi/(Fe+M)×100で表されるモル比で50〜1000モル%の範囲とすることができる。平均粒子径を小さくする場合ほどシリカコートの量を多くすることが望ましい。シリカコートの量が上記のモル比で50モル%未満の量だと、粒子の焼結による粗大化が顕著になり、またα−Fe23結晶が生成しやすくなるので好ましくない。例えば、粒子径が100nm以下の焼結の少ない磁性粉末を得るためには上記Si含有量が100モル%以上のシリカコートを施すことが好ましい。一方、1000モル%を超えて過剰にシリカコートを施しても、粒子径は顕著には変化しないため、経済的に好ましくない。
次いで、シリカコーティングされた水酸化鉄粒子を液から分離・洗浄・乾燥して得た粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700〜1300℃、好ましくは900〜1200℃、さらに好ましくは950〜1150℃の温度範囲で熱処理(焼成)する。この熱処理によりシリカコート内で酸化反応が進行して、微細な水酸化鉄粒子は微細なε−Fe23粒子に変化する。この酸化反応の際に、シリカコートの存在がα−Fe23やγ−Fe23の結晶ではなく、ε−Fe23結晶の生成に寄与すると共に、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。
このようにして合成されるε−Fe23結晶は、シリカの中にε−Fe23結晶の粒子が取り囲まれたような形態で存在する。このままでは磁性粉体としての利用が難しい。したがって、上記のプロセスを利用して本発明の磁性材料を得るためには、熱処理(焼成)によりε−Fe23が合成された後に、シリカコートを除去することが重要となる。シリカコートの除去は、NaOHやKOHなどの強アルカリを溶解させた水溶液中に、熱処理後の磁性粉末を入れて、撹拌することにより実施できる。溶解速度を上げる場合は、アルカリ溶液を加温するとよい。代表的には、NaOHなどのアルカリをシリカ分に対して、3モル倍以上添加し、水溶液温度が60〜70℃の状態で、磁性粉末を入れ撹拌すると、シリカを良好に溶解することができる。アルカリとしては、NaOHに限らず、NH3や、場合によってはN(CH34OHのような有機アルカリの水溶液を用いても構わない。
このようにしてシリカコートの大部分が除去されたε−Fe23結晶の粉末は、まだ粒子の表面にSi酸化物がかなり存在している。しかし、液中や、充填構造のバインダーとなる非磁性物質中での分散性は大幅に改善されており、強力な磁場(例えば磁束密度2T)を印加することにより磁場配向が可能な状況となる。
もし、一般的な磁場配向装置で実現できる磁場(例えば磁束密度0.5T前後)においても磁場配向が可能なε−Fe23結晶の磁性粉体を得たいのであれば、さらに粒子の分散性を向上させる工夫が望まれる。発明者らは詳細な検討の結果、ε−Fe23結晶を磁性相にもつ鉄酸化物粒子の表面にSi酸化物が存在しており、その存在量が、Si/(Fe+M)×100で表されるSi量で0.1〜30モル%になるように調整されているとき、その粉体は極めて良好な分散性を示すことを見出した。すなわち、シリカコートを完全に除去してしまうのではなく、上式によるSi量が0.1〜30モル%、好ましくは0.5〜10モル%になるようにSi酸化物を残す。このように粒子表面のSi酸化物の量をコントロールするためには、例えば、後述比較例2に示す〔手順6−2〕のようにして、再溶解処理を実施することが極めて有効である。
さらに、ε−Fe23結晶の磁性粉体に含まれる極微細粒子をできるだけ除去するような粒度調整処理を行うことが、磁気特性の改善に有効である。すなわち、TEM写真による粒子径が10nm未満の粒子の個数割合が10%以下好ましくは8%以下にまで低減できると、超常磁性を示す極微細粒子による悪影響が顕著に低減され、よりSFDが低く、より角形比SQの大きい磁気ヒステリシスループが観測されるようになる。また、この粒度調整処理は充填性の向上および磁場配向性の改善にも効果的であると考えられる。粒度調整処理の具体的手法として、後述比較例2の〔手順7−1〕〜〔手順7−4〕のような分級操作が有効である。このような分級操作に供するためには、まず、〔手順6−2〕のようにして極めて優れた分散性を実現させておくことが必要となる
磁性粒子の表面コーティング物質は、シリカに限らず、化学的に安定で、融点の高い物質であり、かつ磁性粒子を溶解させずに除去可能な物質であれば、ゾル−ゲル工程を利用して種々のものが使用できると考えられる。例えば、低温で合成されるアルミナは、シリカと同様にアルカリにより容易に除去できるため、好ましい。また、カルシアやマグネシアも、弱酸で容易に溶解できるため、磁性粒子の溶解を最小限にとどめ溶解させることが可能であり、使用できると考えられる。
本発明の磁性材料を構成する粒子の粒子径は、例えば上記工程において熱処理(焼成)前の段階におけるシリカコートの量、焼成温度、焼成時間を調整することによりコントロール可能である。また、前述の分級操作を加えることでより厳密な粒度調整が可能である。磁性粉体のTEM平均粒子径は5〜200nmの範囲であることが望ましく、5〜100nmの範囲であることがより好ましく、10〜100nmの範囲が一層好ましい。あまり粒径が大きいと高密度磁気記録には適さない。また、単磁区構造の粒子が得られにくくなる。多磁区構造をとる粒子が存在してしまうと、ε−Fe23結晶粒子のもつ本来のポテンシャルが十分に発揮されない恐れがある。
粒子径が5nmより小さい粒子は、硬磁性体的振る舞いは示さず、軟磁性体的に振る舞うため、5nmより小さい粒子が多く含まれると、その超常磁性の影響により粉体の磁気特性が著しく低下する。また、5〜10nmの範囲の粒径も、すでに単磁区構造をとる臨界半径より小さいことが予想され、磁気特性の低下が観察される。したがって、粒子径5nm未満の粒子、好ましくは10nm未満の粒子はできるだけ除去されていることが好ましい。このような粒度調整は前述の分級操作などによって実施できる。
発明者らの研究によれば、ε−Fe23結晶の室温における磁化容易軸は、空間群がPna21である斜方晶のa軸であると考えられる。磁場配向の処理により、各粒子の磁化容易軸が印加磁場の方向に沿って(すなわちほぼ平行になるように)配向する。このとき、各粒子は充填構造中で回転し、向きを変える。ε−Fe23結晶は、メタル粉のように針状の形状に起因した磁気異方性ではなく、結晶構造に起因した結晶磁気異方性を利用して配向が可能である。このため、効率的に磁場配向を行うためには、ロッド状の粒子より、回転が起きやすい球状の粒子の方が有利である場合がある。そのような球状粒子からなる粉体として、個数割合で90%以上の粒子が、アスペクト比3以下の粒子である粉体が好適な対象となる。また、個数割合で90%以上の粒子が、アスペクト比2.5以下の粒子である粉体、あるいは個数割合で90%以上の粒子が、アスペクト比2以下の粒子である粉体が一層好適な対象となる。
ε−Fe23結晶を磁性相にもつ鉄酸化物の粉体(以下「ε−Fe23結晶粉体」ということがある)の磁場配向を行うためには、粉末粒子をバインダーとなる非磁性物質中に分散させ、粒子の回転が拘束されないような充填構造を形成する。その後、この充填構造に対して、ある一方向に磁場を印加する。磁束密度2T程度の強力な磁場を印加することによりε−Fe23結晶粉体の磁場配向が可能である。上述のように極めて分散性の良い状態に処理されたε−Fe23結晶粉体であれば磁束密度0.5T前後の磁場でも配向が可能である。磁場配向を終えた後、このバインダーが粒子の回転を拘束する程度に硬化すれば、ε−Fe23結晶の磁場配向体からなる磁性材料が構築される。バインダーとしては、樹脂等の高分子物質の他、シリカを主体とする物質を使用することができる。
ところで、上記のようなε−Fe23結晶の合成においては、ε−Fe23結晶と空間群を異にする鉄酸化物結晶(不純物結晶)が混在する場合がある。そのような不純物結晶として、α−Fe23、γ−Fe23、FeO、Fe34が挙げられる。金属元素Mが添加されている場合は、これらの不純物結晶のFeの一部もMで置換されている可能性がある。不純物結晶の混在は、ε−Fe23結晶の特性をできるだけ多く引き出す上で好ましいとは言えないが、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。
例えば、鉄酸化物中に占めるε−Fe23結晶の割合が75モル%以上である場合は、従来の磁性材料では実現が難しかった優れた磁気特性を呈し、種々の磁性用途で有用である。鉄酸化物中に占めるε−Fe23結晶の割合が50〜75モル%未満であっても、飽和磁化σsが2emu/g(2A・m2/kg)以上を満たすような磁性材料であれば、高感度の読み取り磁気ヘッドであるGMR(巨大磁気抵抗効果)ヘッドやさらに高感度であるトンネル効果を利用したTMRヘッドを利用すると、書き込んだ信号を高い強度で読み取ることが可能であり、用途をなす。
置換元素Mについては、発明者らの詳細な検討によれば、置換量に応じてε−Fe23結晶の保磁力Hcをコントロールしやすい元素Mとして、AlおよびGaを挙げることができる。実例を挙げると、置換後の結晶をε−MxFe2-x3と表記するとき、MがAlの場合、x=0(Al無添加の粒状粒子粉体)のときHc=17.6kOe(1.40×106A/m)、x=0.4のときHc=11.8kOe(0.94×106A/m)、x=0.5のときHc=11.1kOe(0.88×106A/m)、x=0.6のときHc=9.7kOe(0.77×106A/m)、x=0.7のときHc=7.6kOe(0.61×106A/m)といった保磁力Hcの変化挙動が見られた。またMがGaの場合、x=0(Ga無添加、形状制御剤Ba添加有りのロッド状粒子粉体)のときHc=19.0kOe(1.512×106A/m)、x=0.22のときHc=15.3kOe(1.22×106A/m)、x=0.43のときHc=10.7kOe(0.851×106A/m)、x=0.62のときHc=6.5kOe(0.52×106A/m)、x=0.80のときHc=1.3kOe(0.10×106A/m)といった挙動が見られた。
また、ロッド形状のε−Fe23結晶を得る場合に添加されるアルカリ土類金属(Ba、Sr、Caなど)は、通常、生成する結晶の表層部などに存在する。これらのアルカリ土類金属元素をAと表示するとき、その存在量(含有量)は、多くてもA/(Fe+M)×100で表される配合比が20質量%以下の範囲であり、20質量%を超えるアルカリ土類金属の含有は、形状制御剤としての機能を果たす上では一般に不必要である。10質量%以下であることがより好ましい。
なお、前述のとおり本発明のε−Fe23結晶の合成については、その前駆体となる水酸化鉄と水酸化アルミニウムの超微粒子を逆ミセル法で作製する例を挙げたが、数百nm以下の同様の前駆体が作製できれば、その前駆体作製は特に逆ミセル法に限られるものではない。
以下の手順に従って、置換元素Mを添加していないε−Fe23結晶を合成し、それを用いた充填構造(無配向体および配向体)について磁気特性を調べた。ここで「無配向体」は磁場による配向を実施していないε−Fe23結晶粉体の充填構造を意味し、「配向体」は磁場により結晶の磁化容易軸を一方向に沿って配向させたε−Fe23結晶粉体の充填構造を意味する(実施例2においても同じ)。
〔手順1〕
ミセル溶液Iとミセル溶液IIの2種類のミセル溶液を調整する。
・ミセル溶液Iの作製
テフロン(登録商標)製のフラスコに、純水9mL、n−オクタン27.4mLおよび1−ブタノール5.4mLを入れる。そこに、硝酸鉄(III)9水和物を0.0060モル添加し、室温で良く撹拌しながら溶解させる。さらに、界面活性剤としての臭化セチルトリメチルアンモニウムを、純水/界面活性剤のモル比が35となるような量で添加し、撹拌により溶解させ、ミセル溶液Iを得る。
・ミセル溶液IIの作製
25%アンモニア水4mLを純水2mLに混ぜて撹拌し、その液に、さらにn―オクタン18.3mLと1−ブタノール3.6mLを加えてよく撹拌する。その溶液に、界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウムを、(純水+アンモニア中の水分)/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、溶解させ、ミセル溶液IIを得る。
〔手順2〕
ミセル溶液Iをよく撹拌しながら、ミセルI溶液に対してミセル溶液IIを滴下する。滴下終了後、混合液を30分間撹拌し続ける。
〔手順3〕
手順2で得られた混合液を撹拌しながら、当該混合液にテトラエトキシシラン6.0mLを加える。約1日そのまま、撹拌し続ける。
〔手順4〕
手順3で得られた溶液を遠心分離機にセットして遠心分離処理する。この処理で得られた沈殿物を回収する。回収された沈殿物をクロロホルムとメタノールの混合溶液を用いて複数回洗浄する。
〔手順5〕
手順4で得られた沈殿物を乾燥した後、大気雰囲気の炉内で1150℃で4時間の熱処理を施す。
〔手順6〕
手順5で得られた熱処理粉を、メノウ製乳鉢により丁寧に解粒を実施したのち、水酸化テトラメチルアンモニウム(N(CH34OH、以下「TMAOH」という) 水溶液1モル/Lにより72時間、70℃で撹拌して粒子表面に存在するであろうシリカの除去処理を行う。その後溶液を、遠心分離器(日立工機製CR21GII)を用いて8000rpmで遠心分離して、ε−Fe23結晶粉体からなる沈殿物を得る。この段階で、上澄みは濁っていたが、上澄み中の粒子が粒子径が小さく、超常磁性粒子を多く含有しているため、廃棄する。
上記手順6により得られたε−Fe23結晶粉体を「試料粉体」と呼ぶ。
試料粉体のTEM写真を図1に示す。アスペクト比3以下の球状粒子の個数割合が90%以上を占める粉体であることがわかる。TEM平均粒子径は27.6nm、粒子径の標準偏差は13.0nm、[粒子径の標準偏差]/[TEM平均粒子径]×100により算出される変動係数は47.0%であった。また、粒子径が10nm未満の粒子の個数割合は1%であった。また、試料粉体を蛍光X線分析(日本電子製JSX―3220)に供したところ、Si/Fe×100で表されるSi含有量は9.4モル%であった。
上記試料粉体の一部を無配向体に使うために採取した後、以下のようにして配向体を作成した。
〔手順7〕配向体の作成
上記試料粉体(沈殿物)に純水を添加し、超音波洗浄器に3時間かけ分散させることにより、ε−Fe23結晶粉体の粒子が分散したコロイド溶液を得る。このとき、コロイド溶液中のε−Fe23結晶粉体の濃度は、15g/Lとする。配向体は、上記コロイド溶液にテトラメトキシシラン(Si(CH3O)4、以下「TMOS」という)を加え、2T(20kOe)の磁場中で、水との加水分解反応によりSiO2ゲルを生成させる手法により作成する。まず上記コロイド水溶液0.3mLと純水0.6mLをよく混ぜておく。この液にTMOSを0.09mL加えて、すばやく撹拌して容器(ガラス製シャーレ)に流し込む。超伝導磁石を使った2Tの磁場中に容器をセットし、24時間待つ。その間に、磁場を受けながらコロイドがゲル化し、配向体が得られる。
上記の試料粉体からなる「無配向体」と、手順7で得られた「配向体」を、それぞれ粉末X線回折(XRD:リガク製RINT2000、線源CuKα線、電圧40kV、電流30mA)に供した。配向体の測定では、配向方向(磁場の印加方向に対応)に垂直な結晶格子面からの反射が検出されるように、X線源、配向体、検出器の位置関係が保たれるようにして測定した。図2にこれらのX線回折パターンを示す。図2中にはε−Fe23結晶の指数付けをした。
無配向体の回折パターンより、この試料粉体はε−Fe23の結晶構造(斜方晶、空間群Pna21)に対応するピークを有していることが確認された。その他には、不純物結晶としてα−Fe23の結晶構造(六方晶、空間群R−3c)に対応する比較的弱いピークも観察された。
配向体の回折パターンを見ると、ε−Fe23結晶(200)面のピーク強度が、無配向体に比べ顕著に強くなっており、配向体作成時に印加した磁場の方向に沿ってε−Fe23結晶のa軸が配向したと言うことができる。ただし、(200)面に対して15°傾いている(201)面や30°傾いている(330)面に対応する回折ピークも観察される。その原因として、粒子同士がシリカ分により架橋されている部分が残っていて、それらの粒子の磁化容易軸が磁場印加方向に沿うように回転できなかったこと、あるいは、ゲル化した試料が乾燥するときの収縮によるマトリックスの変形が配向状態を乱したことが考えられる。なお、配向体の回折パターンには、2θが30°付近より底角側で相対強度の盛り上がりが観測されるが、これは、配向体を作成するために使用したTMOSに由来するアモルファス状のシリカ分に起因するものと考えられる。
また、上記の試料粉体からなる「無配向体」と、手順7で得られた「配向体」について、常温(300K)における磁気ヒステリシスループを測定した。配向体に関しては、磁化容易軸方向とそれに垂直な方向(以下「磁化困難軸方向」という)の2通りについて測定した。磁気ヒステリシスループの測定は、カンタムデザイン社製のMPMS7の超伝導量子干渉計(SQUID)を用いて、印加磁界70kOe(5.57×106A/m)の条件で行ったものである。測定された磁気モーメントの値は酸化鉄の質量で規格化してある。その際、試料中のSi、Fe、各元素は全てSiO2、Fe23で存在しているものと仮定し、各元素の含有割合については蛍光X線分析で求めた。得られた磁気ヒステリシスループ結果を図3(a)および図3(b)に示す。配向体の磁化容易軸方向についての磁気ヒステリシスループは図3(a)、図3(b)の両方に記載し、図3(a)には無配向体の磁気ヒステリシスループを、また図3(b)には配向体の磁化困難軸方向についての磁気ヒステリシスループを併記してある。
図3(a)から、磁場配向により、磁気ヒステリシスループが角形化し、特定方向についての磁気特性が顕著に改善されることが確認された。また図3(b)からは、上記の磁気特性の改善が磁化容易軸の配向に起因するものであることが肯定される。
なお、これらの磁気特性値は以下のとおりである。
〔無配向体〕
保磁力Hc:20.18kOe(1.607×106A/m)、飽和磁化σs:13.6emu/g(A・m2/kg)、残留磁化:7.1A・m2/kg、角形比SQ(=σr/σs):0.52
〔配向体の磁化容易軸方向〕
保磁力Hc:23.67kOe(1.884×106A/m)、飽和磁化σs:14.3emu/g(A・m2/kg)、残留磁化:11.5A・m2/kg、角形比SQ(=σr/σs):0.80
〔配向体の磁化困難軸方向〕
保磁力Hc:13.71kOe(1.091×106A/m)、飽和磁化σs:12.8emu/g(A・m2/kg)、残留磁化:3.2A・m2/kg、角形比SQ(=σr/σs):0.25
ε−Fe23結晶を以下の手順に従って合成し、それを用いた充填構造(無配向体および磁気テープとした配向体)について磁気特性を調べた。ここでは置換元素MとしてGaを添加した。
〔手順1〕
ミセル溶液Iとミセル溶液IIの2種類のミセル溶液を調整する。
・ミセル溶液Iの作製
テフロン(登録商標)製のフラスコに、純水6mL、n−オクタン18.3mLおよび1−ブタノール3.7mLを入れる。そこに、硝酸鉄(III)9水和物を0.00240モル、硝酸ガリウム(III)n水和物(和光純薬工業株式会社製の純度99.9%でn=7〜9のものを使用し、使用に当たっては事前に定量分析を行ってnを特定してから仕込み量を計算した)を0.00060モル添加し、室温で良く撹拌しながら溶解させる。さらに、界面活性剤としての臭化セチルトリメチルアンモニウムを、純水/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、撹拌により溶解させ、ミセル溶液Iを得る。
このときの仕込み組成は、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すときx=0.40である。
・ミセル溶液IIの作製
25%アンモニア水2mLを純水4mLに混ぜて撹拌し、その液に、さらにn―オクタン18.3mLと1−ブタノール3.7mLを加えてよく撹拌する。その溶液に、界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウムを、(純水+アンモニア中の水分)/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、溶解させ、ミセル溶液IIを得る。
〔手順2〕
ミセル溶液Iをよく撹拌しながら、ミセルI溶液に対してミセル溶液IIを滴下する。滴下終了後、混合液を30分間撹拌し続ける。
〔手順3〕
手順2で得られた混合液を撹拌しながら、当該混合液にテトラエトキシシラン6.1mLを加える。約1日そのまま、撹拌し続ける。
〔手順4〕
手順3で得られた溶液を遠心分離機にセットして遠心分離処理する。この処理で得られた沈殿物を回収する。回収された沈殿物をクロロホルムとメタノールの混合溶液を用いて複数回洗浄する。
〔手順5〕
手順4で得られた沈殿物を乾燥した後、大気雰囲気の炉内で1100℃で4時間の熱処理を施す。
〔手順6−1〕
手順5で得られた熱処理粉を、メノウ製乳鉢により丁寧に解粒を実施したのち、10モル/LのNaOH水溶液1L(リットル)中に入れ、液温70℃で24時間撹拌し、粒子表面に存在するであろうシリカの除去処理を行う。次いで、ろ過し、十分に水洗する。
〔手順6−2〕
水洗された粉末を純水1L中に入れて分散させ、室温で撹拌しながらpHをモニターして希硝酸を少量ずつ添加していき、pH2.5〜3.0に調整する。撹拌を続けているとpHは変動するので、常にpH2.5〜3.0に調整する。pH調整しながら、撹拌を1時間実施する。アルカリで熱処理粉を処理するとシリカ分は溶解するが、同時にFeもわずかながら溶解し、アルカリ溶液中で溶解し難い無定形なFeケイ酸塩が液中で合成することが確認されている。このFeケイ酸塩は、酸に対する溶解度が高いため、上記操作により除去を行う(再溶解処理)。
また、金属元素Mについても手順6−1で溶解が生じ、シリカ分と反応してM元素のケイ酸塩を合成する場合があることが確認されている。また、手順3や手順4のときにSiと金属元素Mが化合物を形成する場合があることも確認されている。特に、MがAlの場合、Siと化合物を形成しやすい傾向にある。このようにシリカがM元素とのケイ酸塩を形成するときは、手順6−1のアルカリ処理だけでは、目的とするSi含有量までSiを除去できないことが起こりうる。このような場合にも、手順6−2は有効である。すなわち、後述の分級工程を実施するために必要となる分散性を備えた粉末を得るためには、目的とするSi含有量になるまで、手順6−1と手順6−2を繰り返すことが、極めて効果的である。
次に、手順6−2を終えて得られた粉末を以下の分級工程に供した。
〔手順7−1〕
[1]超純水1L当たりに、乾燥重量5gに相当するウエット状態の粉末入れる。
[2]強撹拌を1時間実施し、粉末粒子を十分に分散させる。
[3]この分散液を遠心分離器(日立工機製CR21GII)を用いて20000rpmで遠心分離する。
[4]固液分離したのちに、上澄み液の導電率を測定する。測定後、上澄み液を廃棄する。
〔手順7−2〕
上記[4]で、上澄み液の導電率が1mS/m(ミリジーメンス)より高い場合は、上記[1]〜[4]を繰り返す。
〔手順7−3〕
上澄み液の導電率が下がるにつれて、粒子が分散系になってくることが観察でき、上澄み液の導電率が1mS/m以下になったものは、純水を入れ、強撹拌を行い、強力な超音波洗浄機にて1時間かける。さらに、少量のNaOHを添加してpH11に調整することにより、極めて良好な分散状態を得ることができる。pH11に合わせるのは、ε−Fe23のゼータ電位を測定したところpH7付近に等電点が存在したためである(実際に、分散時のpHを変化すると、pH7付近は凝集系であった)。
〔手順7−4〕
手順7−3で得られた分散液を構成する粉末(まだ分級されていない段階の粉末)を、ここでは「元粉」と呼ぶ。観察用および特性調査用の元粉試料を採取した後、元粉の分散液を遠心分離器にかけ、18000rpmで遠心分離を行う。これによって、沈殿物と、上澄み液が得られる。上澄みは濁っており、粒子が存在していることが目視で確認できる。すなわちこの遠心分離操作により、元粉が、粒度分布の異なる2種類の粉体に分級される。この沈殿物を構成する粉末を「沈殿粉」と呼び、上澄み中に存在する粉末を「上澄み粉」と呼ぶ。上澄み粉については、上澄み液に硝酸を少量ずつ添加し、等電点付近のpH7に調整後、遠心分離器で18000rpmで遠心分離を行って固液分離することにより回収することができる。
ここでは、上記の沈殿粉を「試料粉体」として採用する。
この試料粉体のTEM写真を図4に示す。アスペクト比3以下の球状粒子の個数割合が90%以上を占める粉体であることがわかる。TEM平均粒子径は21.8nm、粒子径の標準偏差は7.9nmであった。[粒子径の標準偏差]/[TEM平均粒子径]×100により算出される変動係数は36.5%であった。また、粒子径10nm未満の粒子の個数割合は4.0%であった。
試料粉体の充填構造からなる無配向体を粉末X線回折(XRD:リガク製RINT2000、線源CoKα線、電圧40kV、電流30mA)に供したところ、図5に示す回折パターンが得られた。「沈殿粉」と記載したものが当該無配向体のパターンである。ε−Fe23の結晶構造(斜方晶、空間群Pna21)に対応するパターンが得られた。また、2θが30°より低角側には、アモルファス状のSiO2に起因するブロードなピークが、わずかながら観察された。これは、手順6−1、6−2でシリカコートの大部分を除去したことに伴い、粒子表面に少量のSi酸化物が存在していることを示すものである。
試料粉体を蛍光X線分析(日本電子製JSX―3220)に供したところ、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すときのxの値は、仕込み組成;x=0.40であったのに対し、分級後の沈殿粉(当該試料粉体);x=0.39であり、組成の顕著なずれは観測されなかった。また、試料粉体の、Si/(Fe+Ga)×100によるSi含有量は2.2モル%であった。手順6−1、6−2で、粒子表面に存在するSi酸化物の量を適正範囲にコントロールしたことにより液中分散性が向上し、上記のような分級操作が可能になったと言える。
この試料粉体約20mgをアクリル製の円筒セル(内径6mm×深さ3mm)に詰め、バインダーとして東亞合成株式会社製の接着剤アロンアルファをアセトンで稀釈した液を1滴垂らすことによりε−Fe23結晶粉体の充填構造を形成した。バインダー中の接着剤成分が硬化するため、充填構造中において粒子は動かないように拘束されている。この充填構造からなる無配向体について、常温(300K)における磁気ヒステリシスループを測定した。その結果を図6に示す。磁気ヒステリシスループの測定は、Digtal Measurement Systems社の振動試料型磁力計(VSM)のMODEL880を用いて、印加磁場13kOe(1.035×106A/m)の条件で行った。保磁力Hcは7644Oe(6.08×105A/m)、飽和磁化σsは16.9emu/g(A・m2/kg)、残留磁化σrは10.1emu/g(A・m2/kg)、角形比SQ(=σr/σs)は0.60、SFDは0.401であった。
次に、上記の試料粉体(沈殿粉)を用いて、以下のように、磁性塗料を作り、これをテープに塗布し、磁場配向された磁気テープを作成した。
〔磁性塗料の調製〕
試料粉末(上記の沈殿粉)0.500gを秤量し、これをポット(内径45mm、深さ13mm)に入れる。蓋を開けた状態で10分間放置する。次にビヒクル〔塩ビ系樹脂MR−110(22質量%)、シクロヘキサノン(38.7質量%)、アセチルアセトン(0.3質量%)、ステアリン酸nブチル(0.3質量%)、メチルエチルケトン(MEK;38.7質量%)の混合液〕をマイクロピペットで0.700mL採取し、これを前記のポットに添加する。その後直ちにスチールボール(2mm径)30g、ナイロンボール(8mm径)10個をポットに加え、蓋を閉じ10分間静置する。その後、このポットを遠心式ボールミル(FRITSCH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げ、600rpmに合わせ、60分間分散処理を行う。遠心式ボールミルが停止した後、ポットを取り出し、マイクロピペットを使用し、あらかじめ、MEKとトルエンを1:1で混合しておいた調整液を1.800mL添加する。再度遠心式ボールミルにこのポットをセットし、600rpmで5分間分散処理することにより、塗料を調製する。
〔磁気テープの作成〕
前記の分散を終了した後に、ポットの蓋を開け、ナイロンボールを取り除き、調製された塗料をスチールボールごとアプリケーター(隙間55μm)に入れ、支持フィルム(東レ株式会社製ポリエチレンフィルム:商品名15C−B500:膜厚15μm)対して塗布を行う。塗布後素早く、磁束密度0.55Tの配向器のコイルの中心に置き、磁場配向させ、その後乾燥させる。
以上のようにして作成した磁気テープは、塗膜が配向体を形成している。この磁気テープについて、磁場配向時に印加した磁場の方向に対して平行方向の磁気ヒステリシスループを、上記の試料粉体からなる無配向体の場合と同様条件で測定した。その結果を図7に示す。図6の無配向体と比べると、図7の配向体ではループが大きくなり、磁化容易軸の配向が起きたことによる効果が確認できる。すなわち、磁場による配向が実現できた結果、テープの上に形成した配向体の磁気特性は、無配向体と比べ、保磁力Hcが7644Oe(6.08×105A/m)から8613Oe(6.85×105A/m)に、角形比SQ(=σr/σs)が0.60から0.82に、SFDが0.401から0.388にそれぞれ改善され、磁気特性の大幅な改善がもたらされた。
実施例1で得られた試料粉体のTEM写真。 実施例1で作成した無配向体および配向体のX線回折パターン。 実施例1で作成した配向体の磁化容易軸方向および無配向体についての磁気ヒステリシスループ。 実施例1で作成した配向体の磁化容易軸方向およびその磁化困難軸方向についての磁気ヒステリシスループ。 実施例2で得られた試料粉体のTEM写真。 実施例2で作成した無配向体(沈殿粉と記載)のX線回折パターン。 実施例2で作成した無配向体についての磁気ヒステリシスループ。 実施例2で作成した配向体についての磁気ヒステリシスループ。

Claims (5)

  1. ε−Fe23結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を磁性相にもつ鉄酸化物粒子の充填構造を有し、当該充填構造を構成する粒子のうち、個数割合で90%以上の粒子がアスペクト比3以下の球状粒子であり、その充填構造を構成する粒子の磁化容易軸が一方向に沿って配向している磁性材料。
    ただし、上記鉄酸化物におけるMとFeのモル比をM:Fe=x:(2−x)と表すとき、0≦x<1である。
  2. TEM写真により測定される平均粒子径が5〜200nmである請求項1に記載の磁性材料。
  3. 前記充填構造が単磁区構造をもつ粒子で構成されている請求項1または2に記載の磁性材料。
  4. 磁化容易軸の配向方向に対して平行方向の磁場を印加することにより測定される磁気ヒステリシスループにおいて、20kOe(1.59×106A/m)を超える保磁力Hcが観測される請求項1〜のいずれかに記載の磁性材料。
  5. 前記鉄酸化物粒子が非磁性物質をバインダーとして固着されることにより充填構造を形成している請求項1〜のいずれかに記載の磁性材料。
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