高膨張比内燃機関において吸気弁の閉弁時期を遅角させると、気筒内に吸入された吸気の一部がピストンによって押し出され、吸気ポートに吹き戻される場合がある。そうすると、インジェクタから吸気ポートに噴射供給された燃料の一部は吸気ポートに吹き戻されて燃焼に関与しない。そして、このようにして吸気ポートに吹き戻される燃料が、次回以降のサイクルで新規にインジェクタから噴射供給される燃料とともに、気筒内に吸入される場合もある。
このような場合、吸気ポートへの燃料の吹き戻し及び過去のサイクルで吸気ポートに吹き戻された燃料の再吸入によって、インジェクタから吸気ポートに噴射供給される燃料量と実際に燃焼に関与する燃料量とがずれて、空燃比制御の精度が低下する。そうすると、出力性能や排気性能が悪化する虞がある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、可変圧縮比機構を備えた高膨張比内燃機関において、空燃比制御の精度が低下することを抑制する技術を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明に係る高膨張比内燃機関の制御装置は、
内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記内燃機関の機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、
前記内燃機関の吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変動弁機構と、
前記内燃機関の吸気通路に設けられた吸気絞り弁と、
前記内燃機関の所定負荷領域において、他の負荷領域と比較して前記吸気弁の閉弁時期を遅角させ、機械圧縮比を高くする高膨張比制御を行うとともに、前記内燃機関の吸入空気量の制御を前記吸気絞り弁の開度制御によって行う制御手段と、
前記所定負荷領域において、前記吸気弁の閉弁時期と、機械圧縮比と、前記吸気絞り弁の開度と、に基づいて前記燃料噴射装置から噴射される燃料量のうち前記吸気ポートに吹き戻される燃料量の比率を取得し、当該比率に基づいて、実際に燃焼に関与する燃料量が所定の目標値に一致するように、前記燃料噴射装置による燃料噴射量を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする。
高膨張比制御において吸気弁の閉弁時期を遅角させると、気筒内に一旦吸入された吸気の一部が吸気ポートに吹き戻されるので、燃料噴射装置から吸気ポートに噴射供給された燃料の一部も吸気ポートに吹き戻される。この吹き戻される燃料量は実際の燃焼には関与しないので、実際の燃焼に関与する燃料量が目標値からずれることになる。従って、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値に一致させるためには、この吹き戻しを考慮して燃料噴射装置による燃料噴射量を補正する必要がある。
ここで、燃料噴射装置から吸気ポートに噴射供給された燃料量に対する吸気ポートに吹き戻される燃料量の比率は、主に吸気弁が閉弁される時の気筒内容積と気筒内圧力とによって決まる。吸気弁が閉弁される時の気筒内容積は、主に吸気弁の閉弁時期と機械圧縮比とによって決まる。また、気筒内圧力は、主に吸気絞り弁の開度によって決まる。従って、吸入空気量の制御を吸気絞り弁の開度制御によって行う場合には、吸気ポートに吹き戻される燃料量の比率が、吸気絞り弁の開度変化に応じて変化する点を考慮する必要がある。
本発明の補正手段によれば、吸気絞り弁の開度制御によって吸入空気量の制御が行われる所定負荷領域における高膨張比制御に際して、吸気弁の閉弁時期及び機械圧縮比に加えて吸気絞り弁の開度にも基づいて燃料噴射装置による燃料噴射量の補正を行うことができるので、吸気ポートに吹き戻される燃料量の比率をより正確に反映させた燃料噴射量の補正を行うことができる。
これにより、実際に燃焼に関与する燃料量を精度良く目標値に一致させることができるようになる。その結果、所定負荷領域における空燃比制御の精度低下を抑制することができ、出力性能や排気性能の悪化を好適に抑制することが可能となる。
なお、所定負荷領域とは、吸気弁の閉弁時期を遅角させて膨張比を高くするとともに可変圧縮比機構により機械圧縮比を高くすることにより燃費性能や出力性能の向上が可能な負荷領域であり、燃費性能や出力性能の要求に応じて実験的・理論的に予め定められる領域である。好適にはアイドル運転領域を含む比較的低負荷の負荷領域とすることができる。また、所定負荷領域とは、高膨張比制御が行われ且つ吸入空気量制御が吸気絞り弁開度制御によって行われる負荷領域であって、高膨張比制御が行われ且つ吸入空気量制御が吸気弁閉時期制御によって行われる負荷領域が存在しても良い。そのような領域において、吸気絞り弁開度が例えば全開等の一定値に制御される場合には、本発明の補正手段のように、吹き戻される燃料量の比率の吸気絞り弁開度変化に対する依存性について考慮する必要はない。
ここで、あるサイクルにおいて吸気ポートに吹き戻されて燃焼に関与しなかった燃料の一部は、次回のサイクルにおいて、燃料噴射装置から吸気ポートに新たに噴射供給される燃料とともに再び気筒内に吸入される。そして、その一部は再び吸気ポートに吹き戻されて、燃焼に関与せずに吸気ポートに残留する場合もある。
よって、あるサイクルにおいて実際に燃焼に関与することになる燃料量と、当該サイクルにおいて燃料噴射装置から吸気ポートに噴射供給される燃料量とのずれは、過去のサイクルにおいて吸気ポートに残留する燃料量にも依存している。
そこで、本発明において、前記補正手段は、過去のサイクルにおいて前記燃料噴射装置から噴射された燃料のうち前記吸気ポートに吹き戻された燃料の量に基づいて、前記燃料噴射装置による燃料噴射量を補正するようにしても良い。
これにより、実際に燃焼に関与する燃料量をより精度良く目標値に一致させることができるようになり、空燃比制御の精度低下をより確実に抑制することが可能となる。特に、吸気ポートに吹き戻される燃料量がサイクル毎に変化していく過渡運転状態において、燃料噴射制御の履歴に基づいて燃料噴射量を補正することができるので、高精度の空燃比制御を実現することができる。
このように、過去の燃料挙動の履歴をも考慮して燃料噴射量を補正することにより、実際に燃焼に関与する燃料量と燃料噴射装置による燃料噴射量とのずれが内燃機関の運転条件に応じて変動する過渡状態においても、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値に一致させるために必要な燃料噴射量の補正量をサイクル毎に取得することができ、過渡状態における高精度の空燃比制御が可能となる。
ここで、燃料噴射精度や補正量の演算負荷等を鑑みると、上記の構成において、過渡状態での内燃機関の運転条件の変動に伴う燃料噴射量の補正量の変動は小さい方が好ましい。
そこで、本発明において、前記制御手段は、前記補正手段による燃料噴射量の補正量の変化が所定の範囲内に収まるように、前記所定負荷領域における前記高膨張比制御の前記吸気弁の閉弁時期、機械圧縮比及び前記吸気絞り弁の開度の制御を行うようにしても良い。
ここで、所定の範囲内とは、過去のサイクルにおいて補正手段によって行われた燃料噴射量の補正を今回のサイクルにおける燃料噴射量の補正に適用した場合に、実際に燃焼に関与する燃料量と目標値とのずれが所定の許容範囲内に収まるような、補正量の変動幅の範囲である。
こうすることで、過渡状態における燃料噴射量の補正量の変動を抑制することができる。
なお、このように補正手段による燃料噴射量の補正量の変動が所定の範囲内に収まるように高膨張比制御における吸気弁の閉弁時期、機械圧縮比及び吸気絞り弁の開度の制御を行う制御モードと、通常の高膨張比制御を行う制御モードと、を内燃機関の運転条件等に応じて切り換えるようにしても良い。通常の高膨張比制御とは、補正手段による燃料噴射量の補正量の変動以外の所定の要請(例えば、応答性、燃費性能など)に基づいて定められた基本的な高膨張比制御である。
例えば、補正手段による燃料噴射量の補正量が変動するのは、過渡運転状態であるから、一定時間以上略一定の運転状態が継続する定常運転状態では通常の高膨張比制御を行う制御モードとし、それ以外の過渡運転状態では補正手段による燃料噴射量の補正量の変動を抑える制御モードに切り換えるようにしても良い。
補正手段による燃料噴射量の補正量の変動を抑えるためには、例えば、高膨張比制御における吸気弁の閉弁時期、機械圧縮比及び吸気絞り弁の開度の制御において、特に吸気弁の閉弁時期の変更量を少なくすると良い。これは、吸気ポートに吹き戻される燃料量の比率は、吸気弁の閉弁時期に最も大きな影響を受けるからである。従って、内燃機関の運転
条件の変化に伴う吸気弁の閉弁時期の変更量を通常の制御モードの場合よりも少なくすることにより、内燃機関の運転条件の変化に伴う、吸気ポートに吹き戻される燃料量の比率の変動を抑えることができる。補正手段による燃料噴射量の補正量の算出においては、吸気ポートに吹き戻される燃料量の比率が重要な量となっているので、この比率の変動が抑えられることにより、補正量の変動も抑えることが可能となる。
なお、内燃機関の運転条件の変化に応じた吸気弁の閉弁時期の変更量を通常より少なくすることに対応して、それ以外の制御パラメータである機械圧縮比や吸気絞り弁の開度の変更量も通常の制御モードに対して補正するようにしても良い。
本発明によれば、可変圧縮比機構を備えた高膨張比内燃機関において、空燃比制御の精度が低下することを抑制することができる。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
図1は本実施例に係るエンジンの概略構成を示す図である。エンジン1はシリンダブロック2に4つのシリンダ5が直列に形成された直列4気筒ポート噴射火花点火式内燃機関である。図1は、全てのシリンダ5の中心軸線を含む平面に垂直で一のシリンダ5の中心軸線を含む平面によるエンジン1の断面図である。シリンダ5にはピストン6が摺動自在に挿入されており、ピストン6はコンロッド8によってクランクシャフト7に連結されている。エンジン1には、クランクシャフト7の回転角度を検出するクランク角度センサ23が備えられている。クランク角度センサ23による測定データは後述するECU22に入力される。クランクシャフト7はクランクケース3内に収納されている。
シリンダブロック2の上部にはシリンダヘッド4が備えられている。シリンダヘッド4には吸気ポート11、排気ポート12が形成されている。吸気ポート11には吸気ポート11内に燃料を噴射するインジェクタ20が備えられている。吸気ポート11は吸気通路25に接続している。排気ポート12は排気通路13に接続している。吸気通路25には、吸気の流路面積を変更可能なスロットルバルブ27が設けられている。スロットルバルブ27は本発明における吸気絞り弁に相当する。スロットルバルブ27の開度制御はECU22によって行われる。スロットルバルブ27の開度を調整することにより、吸入空気量を調節することができる。
ピストン6の頂面とシリンダ5の内壁側面と、シリンダヘッド4とにより筒内空間が形成される。インジェクタ20により吸気ポート11内に噴射供給された燃料及び吸気通路
25から供給される空気の混合気が吸気ポート11を介してシリンダ5内に吸入され、ピストン6により圧縮される。圧縮された混合気が点火プラグ21により点火されると、混合気は燃焼及び膨張し、ピストン6を押し下げてクランクシャフト7を回転させる。燃焼後の既燃ガスは排気ポート12から排気通路13に排出される。排気通路13に排出された既燃ガスは排気浄化装置14において含有するNOx、HC、CO、PM等の有害物質が浄化された後、大気中に放出される。インジェクタ20による燃料噴射制御及び点火プラグ21による点火制御はECU22によって行われる。
吸気ポート11を開閉する吸気バルブ15及び排気ポート12を開閉する排気バルブ16が備えられている。吸気バルブ15は、クランクシャフト7に連動して回転する吸気カムシャフト(図示省略)に取り付けられた吸気カム17によって開閉される。また、排気バルブ16は排気カムシャフト(図示省略)に取り付けられた排気カム18によって開閉される。エンジン1には、吸気カムシャフトとクランクシャフト7との回転位相を変更することにより吸気バルブ15の開閉時期を変更可能な可変動弁機構19が備えられている。可変動弁機構19は油圧による駆動力で吸気カムシャフトとクランクシャフト7との回転位相を変化させる。可変動弁機構19の油圧制御はECU22によって行われる。
シリンダブロック2はクランクケース3に対してシリンダ5の軸線方向(図1紙面上で上下方向)に相対移動可能に取り付けられている。シリンダブロック2とクランクケース3との接続部には、シリンダブロック2をクランクケース3に対して離間又は近接させる駆動力をシリンダブロック2に対して伝達する変位機構9が備えられている。変位機構9には不図示のモータからギア機構等を介して動力が入力される。変位機構9への動力制御はECU22によって行われる。
シリンダブロック2がクランクケース3から離間する方向に移動することにより燃焼室10の容積が拡大する。また、シリンダブロック2がクランクケース3に近接する方向に移動することにより燃焼室10の容積が縮小する。ここで、ピストン6が上死点に位置する時にシリンダ5内に形成される空間が燃焼室10である。ピストン6が下死点から上死点まで上昇する際に押しのける容積が行程容積である。燃焼室容積と行程容積の和を燃焼室容積で除した比を機械圧縮比と言う。シリンダブロック2がクランクケース3から離間して燃焼室容積が拡大することにより、機械圧縮比が減少する。シリンダブロック2がクランクケース3に近接して燃焼室容積が縮小することにより、機械圧縮比が増大する。変位機構9が本発明に係る可変圧縮比機構に相当する。
ECU22は、エンジン1の運転状態を制御するコンピュータユニットである。ECU22には上述したクランク角度センサ23の他、アクセルペダル26の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ24の測定データが入力される。ECU22は、クランク角度センサ23、アクセル開度センサ24、その他の種々のセンサから入力される測定データに基づいて、エンジン1の運転状態やドライバーの要求を取得し、それに基づいて可変動弁機構19、インジェクタ20、点火プラグ21、変位機構9、その他の各種機器の動作を制御する信号を出力する。
ECU22は、エンジン1の運転状態がアイドル運転状態を含む所定の低負荷領域にある時は、機械圧縮比が高くなるように変位機構9を制御するとともに、有効圧縮比がノッキングを回避し得る範囲に保たれ且つ膨張比が高くなるように可変動弁機構19を制御する。すなわち、シリンダブロック2とクランクケース3とが近接するように変位機構9を制御するとともに、吸気バルブ15の閉弁時期を圧縮行程半ばまで遅角させるように可変動弁機構19を制御する。これらの変位機構9及び可変動弁機構19の制御を高膨張比制御と称する。この制御は本発明における高膨張比制御に相当する。
ECU22は、エンジン1の運転状態が中〜高負荷領域にある時は、機械圧縮比が低くなるように変位機構9を制御するとともに、有効圧縮比が機械圧縮比と略同等となるように可変動弁機構19を制御する。すなわち、シリンダブロック2とクランクケース3とが離間するように変位機構9を制御するとともに、吸気バルブ15の閉弁時期を吸気下死点付近となるように可変動弁機構19を制御する。これらの変位機構9及び可変動弁機構19の制御を通常制御と称する。エンジン1の運転状態が属する負荷領域に応じて高膨張比制御及び通常制御を切り換えるECU22が、本発明の制御手段に相当する。
ECU22は、上記低負荷運転領域において、吸入空気量の制御をスロットルバルブ27の開度制御によって行う。高膨張比制御においては、上記のように膨張比を高めるために吸気バルブ15の閉弁時期を遅角させる制御が行われるため、吸気バルブ15の開閉時期の調整による吸入空気量の制御には限界があるためである。吸気バルブ15の閉弁時期が下死点付近に設定される通常制御においては、ECU22はスロットルバルブ27の開度を全開に制御するとともに、吸気バルブ15の閉弁時期を調整することによって吸入空気量の制御を行う。
上記のように、高膨張比制御においては、吸気バルブ15の閉弁時期が圧縮行程半ばまで遅角されるので、吸気ポート11からシリンダ5内に吸入された吸気(吸気通路25から流入する空気とインジェクタ20から噴射供給される燃料との混合気)の一部は上昇するピストン6によってシリンダ5内から押し出され、吸気ポート11に吹き戻される。そのため、実際に燃焼に関与する燃料量と、インジェクタ20から吸気ポート11に噴射供給された燃料量と、の間にずれが生じる場合がある。その場合、実際に燃焼に関与する燃料量が目標値からずれることになるので、空燃比が目標空燃比からずれて出力性能や排気性能の悪化を招く虞がある。
従って、高膨張比制御においては、吸気ポート11に吹き戻される燃料量を考慮して、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値に一致させることができるように、インジェクタ20による燃料噴射量を補正する必要がある。
ここで、吸気ポート11に供給される燃料量に対する吸気ポート11に吹き戻される燃料量の比率(以下、「吹き戻し率」という)は、主に、吸気バルブ15の閉弁時の気筒内容積と、吸気バルブ15の閉弁時のシリンダ5内の圧力と、によって決まる。吸気バルブ15の閉弁時の気筒内容積は、主に機械圧縮比と吸気バルブ15の閉弁時期(以下、「吸気弁閉時期」という)とによって決まる。また、吸気バルブ15の閉弁時のシリンダ5内の圧力は、主にスロットルバルブ27の開度(以下、「スロットル開度」という)によって決まる。
図2は、吸気弁閉時期と吹き戻し率との関係を、種々の機械圧縮比について示した図である。図2において、縦軸は吹き戻し率、横軸は吸気弁閉時期を表す。また、3本の曲線は、機械圧縮比が異なる3つの条件における吸気弁閉時期と吹き戻し率との関係を例示したものである。図2に示すように、吸気弁閉時期が遅くなるほど吹き戻し率は高くなる傾向があり、その高くなり方は機械圧縮比が高くなるほど大きくなる傾向がある。
図3は、スロットル開度と吹き戻し率との関係を、種々の機械圧縮比について示した図である。図3において、縦軸は吹き戻し率、横軸はスロットル開度を表す。また、3本の曲線は、機械圧縮比が異なる3つの条件におけるスロットル開度と吹き戻し率との関係を例示したものである。図3に示すように、スロットル開度が大きくなるほど吹き戻し率は高くなる傾向があり、その高くなり方は機械圧縮比が高くなるほど大きくなる傾向がある。
このように、吹き戻し率はスロットル開度にも依存している。通常制御のようにスロットル開度が全開で一定に制御される場合には、機械圧縮比と吸気弁閉時期とに基づいて燃料噴射量の補正を行うことができるが、高膨張比制御では吸入空気量の制御がスロットル開度制御によって行われるので、スロットル開度がエンジン1の運転条件に応じて変化する。従って、高膨張比制御における燃料噴射量の補正は、スロットル開度の変化に応じた吹き戻し率の変化を考慮して行う必要がある。
そこで、本実施例では、スロットル開度、機械圧縮比及び吸気弁閉時期の3つのパラメータと、吹き戻し率と、の関係を実験やシミュレーション等により予め求めてマップ化したものをECU22に記憶させておき、エンジン1の運転条件に応じて決定されるこれら3つのパラメータの値に基づいて、当該運転条件における吹き戻し率を取得し、取得した吹き戻し率に基づいて、実際に燃焼に関与する燃料量が目標値に一致するように、インジェクタ20による燃料噴射量を補正するようにした。
このような補正を行うことにより、高膨張比制御が行われる低負荷運転領域において、実際に燃焼に関与する燃料量を精度良く目標値に一致させることが可能となる。従って、空燃比制御の精度低下を抑制でき、出力性能や排気性能の悪化を好適に抑制することができる。
図4は、上述した本実施例における燃料噴射制御のフローチャートである。このフローチャートで表される処理は、ECU22によって所定間隔で繰り返し実行される。
まずステップS101において、ECU22は、エンジン1の運転条件を取得する。本実施例では、アクセル開度センサ24による測定データに基づいて機関負荷を取得するとともに、クランク角度センサ23による測定データに基づいて機関回転数を取得する。
ステップS102において、ECU22は、ステップS101で取得したエンジン1の運転条件が高膨張比制御を行うべき運転条件であるか否かを判定する。ステップS101で取得した運転条件が上述した低負荷領域に属する運転条件である場合、高膨張比制御を行うべきであると判定してステップS103以降の高膨張比制御及び燃料噴射量補正の処理を実行する。ステップS101で取得した運転条件が上述した中〜高負荷領域に属する運転条件である場合、ステップS109の処理に進み通常制御を実行する。
ステップS103において、ECU22は、ステップS101で取得したエンジン1の運転条件に応じて、高膨張比制御に係る機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度の目標値を取得する。
ステップS104において、ECU22は、ステップS101で取得したエンジン1の運転条件に応じて、基本燃料噴射量を取得する。基本燃料噴射量は、機関負荷に応じて定められた、燃焼すべき燃料量の目標値である。吹き戻しが無い条件では、基本燃料噴射量をそのままインジェクタ20により吸気ポート11に噴射供給すれば、機関負荷に応じた出力が得られるが、上述したように吹き戻しが有る条件では、インジェクタ20により吸気ポート11に基本燃料噴射量の燃料噴射を行っても、実際に燃焼に関与する燃料量は基本燃料噴射量からずれる。従って、以下の補正処理によって、実際に燃焼に関与する燃料量を基本燃料噴射量に一致させることができるような燃料噴射量を算出する。
ステップS105において、ECU22は、ステップS103で取得した機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度に応じて、吹き戻し率を取得する。
ステップS106において、ECU22は、ステップS105で取得した吹き戻し率に
基づいて、燃料噴射量の補正量を算出する。具体的には、吹き戻し率と基本燃料噴射量とから吸気ポート11に吹き戻される燃料量を算出する。
ステップS107において、ECU22は、ステップS106で算出した補正量を基本燃料噴射量に加算して最終的な燃料噴射量を算出する。
ステップS108において、ECU22は、ステップS107で算出した最終的な燃料噴射量の燃料噴射をインジェクタ20に実行させる。
以上のフローチャートを実行することによって、高膨張比制御においてスロットル開度制御により吸入空気量制御が行われる場合においても、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値(基本燃料噴射量)に精度良く一致させることができる。従って、空燃比制御の精度低下を好適に抑制することができ、出力性能や排気性能の悪化を抑制することが可能となる。
本実施例においては、上記フローチャートのステップS103〜ステップS106の処理を実行するECU22が、本発明における補正手段に相当する。
次に本発明の実施例2について説明する。本実施例は燃料噴射量の補正処理内容が実施例1と異なる。その他エンジン1の構成等については実施例1と同一である。実施例1と同一の構成要素には実施例1と同一の名称及び符号を用い、詳細な説明を割愛する。
高膨張比制御において吸気ポート11に吹き戻された燃料は、次回のサイクルにおいて、インジェクタ20から吸気ポート11に新たに噴射供給される燃料とともにシリンダ5内に吸入される。そして、高膨張比制御においては、前回のサイクルにおいて吸気ポート11に吹き戻された燃料も、今回のサイクルにおいて新たに噴射供給された燃料も、同様にその一部が吸気ポート11に吹き戻される。このように、実際に燃焼に関与する燃料量には、今回のサイクルにおける吹き戻し率に加えて、過去のサイクルにおいて吹き戻された燃料量も影響している。
そこで、本実施例では、過去のサイクルにおいて吸気ポート11に吹き戻された燃料量をも考慮して、実際に燃焼に関与する燃料量を基本燃料噴射量に一致させるために必要なインジェクタ20による燃料噴射量を算出するようにした。
具体的には、今回のサイクル(k回目のサイクルとする)で吹き戻される燃料量Fm(k)、前回のサイクル(k−1回目のサイクル)で吹き戻された燃料量Fm(k−1)、今回のサイクルにおける吹き戻し率α(k)、今回のサイクルでインジェクタ20により吸気ポート11に噴射供給される燃料量Fi(k)とすると、次式が成り立つ。
(数1)
Fm(k)=α(k)×{Fm(k−1)+Fi(k)} ・・・(式1)
すなわち、吹き戻し率α(k)は、吸気ポート11に供給される燃料量に対する吹き戻される燃料量の比率であるから、前回のサイクルで吸気ポート11に吹き戻されて残留している燃料量Fm(k−1)と、今回のサイクルでインジェクタ20により新たに噴射供給される燃料量Fi(k)と、の和に係る係数となる。
式1より、今回のサイクルで実際に燃焼に関与することになる燃料量Fc(k)は、次式で求められる。
(数2)
Fc(k)=(1−α(k))×{Fm(k−1)+Fi(k)} ・・・(式2)
この実際に燃焼に関与する燃料量Fc(k)が、エンジン1の運転条件から取得される基本燃料噴射量Fr(k)に等しくなれば良いので、Fc(k)をFr(k)に置換して式2を今回のサイクルの燃料噴射量Fi(k)について解くと、次式のようになる。
(数3)
Fi(k)=Fr(k)/(1−α(k))−Fm(k−1) ・・・(式3)
式3で求められる燃料噴射量をインジェクタ20により吸気ポート11に噴射することによって、今回のサイクルで実際に燃焼に関与する燃料量を目標値(基本燃料噴射量)に一致させることができる。なお、今回のサイクルの基本燃料噴射量Fr(k)及び吹き戻し率α(k)は、今回のサイクルにおけるエンジン1の運転条件に応じてマップから取得することができる。また、前回のサイクルにおいて吹き戻された燃料量Fm(k−1)は、前回のサイクルの処理において式1に基づいて算出してECU22に記憶しておいた値を読み出して用いる。高膨張比制御に切り換えられて最初のサイクルでは、前回のサイクルにおいて吹き戻された燃料量Fm(0)を適当な定数、例えばゼロとする。従って、式3のFm(k−1)は、高膨張比制御開始後の過去のサイクルにおける燃料挙動の影響を全て含む。
このように、本実施例によれば、過去のサイクルにおいて吸気ポート11に吹き戻された燃料による影響を考慮して、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値(基本燃料噴射量)に一致させるためのインジェクタ20による燃料噴射量を算出するので、高膨張比制御における空燃比制御の精度をより一層向上させることができる。
特に、エンジン1の運転条件が時間的に変化する過渡状態においては、サイクル毎に吹き戻し率や吹き戻される燃料量が変化するので、実際に燃焼に関与する燃料量とインジェクタ20による燃料噴射量とのずれを正確に取得するには、過去のサイクルにおける燃料挙動を考慮することが特に重要である。
図5は、上述した本実施例における燃料噴射制御のフローチャートである。このフローチャートで表される処理は、ECU22によって所定間隔で繰り返し実行される。
ステップS201において、ECU22は、エンジン1の運転条件を取得する。本実施例では、アクセル開度センサ24による測定データに基づいて機関負荷を取得するとともに、クランク角度センサ23による測定データに基づいて機関回転数を取得する。
ステップS202において、ECU22は、ステップS201で取得したエンジン1の運転条件が高膨張比制御を行うべき運転条件であるか否かを判定する。ステップS201で取得した運転条件が上述した低負荷領域に属する運転条件である場合、高膨張比制御を行うべきであると判定してステップS203以降の高膨張比制御及び燃料噴射量補正の処理を実行する。ステップS201で取得した運転条件が上述した中〜高負荷領域に属する運転条件である場合、ステップS210の処理に進み通常制御を実行する。
ステップS203において、ECU22は、ステップS201で取得したエンジン1の運転条件に応じて、高膨張比制御に係る機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度の目標値を取得する。
ステップS204において、ECU22は、ステップS201で取得したエンジン1の運転条件に応じて、今回のサイクルの基本燃料噴射量Fr(k)を取得する。ここで、kは今回のサイクル番号を表す。基本燃料噴射量Fr(k)は、負荷及び回転数に応じて基
本燃料噴射量を定めたマップから読み込む。
ステップS205において、ECU22は、ステップS203で取得した機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度に応じて、今回のサイクルの吹き戻し率α(k)を取得する。吹き戻し率α(k)は、機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度に応じて吹き戻し率を定めたマップから読み込む。
ステップS206において、ECU22は、前回のサイクルにおいて吹き戻された燃料量Fm(k−1)を取得する。これは本フローチャートの前回のサイクルにおける処理時に算出した値をECU22に記憶しておき、これを読み出すことにより取得する。
ステップS207において、ECU22は、ステップS204〜ステップS206で取得した今回のサイクルの基本燃料噴射量Fr(k)及び吹き戻し率α(k)、前回のサイクルにおいて吹き戻された燃料量Fm(k−1)に基づいて、今回のサイクルでインジェクタ20により吸気ポート11に噴射供給すべき最終的な燃料噴射量Fi(k)を上述した式3により算出する。
ステップS208において、ECU22は、ステップS207で算出した最終的な燃料噴射量の燃料噴射をインジェクタ20に実行させる。
ステップS209において、ECU22は、今回のサイクルで吸気ポート11に吹き戻された燃料量Fm(k)を上述した式1により算出し、ECU22に記憶させる。この記憶させた値を、次回のサイクルにおいて本フローチャートの処理を行う場合のステップS206で読み出す。
以上のフローチャートを実行することによって、高膨張比制御において、過去のサイクルで吸気ポート11に吹き戻された燃料による影響も考慮して、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値(基本燃料噴射量)に一致させるためにインジェクタ20から吸気ポート11に噴射供給すべき燃料量を算出することができる。従って、実際に燃焼に関与する燃料量をより一層精度良く目標値に一致させることができる。特に、エンジン1の運転条件が変動し、従って吹き戻し率や前回のサイクルにおいて吹き戻された燃料量がサイクル毎に変動する過渡状態においても、過去の燃料挙動を考慮した燃料噴射量の補正により、高精度の空燃比制御を実現することが可能となる。従って、出力性能や排気性能の悪化を好適に抑制することが可能となる。
本実施例においては、上記フローチャートのステップS203〜ステップS207の処理を実行するECU22が、本発明における補正手段に相当する。
次に本発明の実施例3について説明する。本実施例についても、実施例1と同一の構成要素については同一の名称及び符号を用いることとし、詳細な説明は割愛する。
上述した実施例2のシステムによれば、過去のサイクルにおける燃料挙動の履歴をも考慮して燃料噴射量を補正することにより、吹き戻し率や吹き戻し量がサイクル毎に異なる過渡状態においても、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値に一致させるために必要な燃料噴射量の補正量をサイクル毎に取得することができ、過渡状態における高精度の空燃比制御が可能となる。
ここで、燃料噴射精度や補正量の演算負荷等を鑑みると、上述した実施例2のシステムにおいて、過渡状態でのエンジンの運転条件の変動に伴う燃料噴射量の補正量の変動は小
さい方が好ましい。そこで、本実施例では、実施例2のシステムによってサイクル毎に算出される燃料噴射量の補正量の変動幅が所定の範囲内に収まるように、高膨張比制御の制御態様の方を補正するようにした。
高膨張比制御では、既述のように、エンジン1の運転条件に応じて機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度が決定されるが、燃料噴射量の補正量の算出において重要な量である吹き戻し率は、主に機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度によって決まっている。このうち、特に吸気弁閉時期の変動が吹き戻し率の変動幅に大きく影響する。そこで、本実施例では、エンジン1の運転条件の変動に応じて機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度を変化させる場合に、吸気弁閉時期の変化量に制限を課するようにした。これにより、エンジン1の運転条件の変動に伴う吹き戻し率の変動の幅が大きくならないようにすることができる。これにより、エンジン1の運転条件が変動する過渡状態においても、燃料噴射量の補正量の変動幅が所定の範囲内に収まるようにすることができる。
ここで、「所定の範囲」とは、前回のサイクルにおいて算出された燃料噴射量の補正量を今回のサイクルにおける燃料噴射量の補正に適用した場合に、今回のサイクルにおいて実際に燃焼に関与する燃料量と目標値とのずれが許容範囲に収まるような、補正量の変動幅の範囲である。
このように燃料噴射量の補正量の変動幅が所定の範囲内に収まるように機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度の制御を補正するモードと、通常のマップに従って機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度を制御するモードと、をエンジン1の運転条件に応じて切り換えるようにしても良い。例えば、運転状態が所定時間以上略一定の定常運転状態では通常の制御モードとし、それ以外の過渡運転状態では燃料噴射量の補正量の変動幅を抑制する制御モードに切り換えるようにしても良い。
図6は、上述した本実施例における燃料噴射制御のフローチャートである。このフローチャートで表される処理は、ECU22によって所定間隔で繰り返し実行される。
図6のフローチャートのステップS201、S202、S210については、図5のフローチャートと同一である。本実施例では、図5のフローチャートでステップS202において肯定判定された場合、すなわちエンジン1の運転条件が高膨張比制御を実施すべき運転領域に属していると判定された場合、ステップS303の処理に進む。
ステップS303では、ECU22は、現在のエンジン1の運転状態が定常運転状態であるか否かを判定する。例えば運転条件の変動幅が所定範囲内であるような時間が所定時間以上継続している場合に定常運転状態であると判定できる。
ステップS303で定常運転状態であると判定された場合(Yes)、ECU22はステップS304の処理に進み、通常モードの高膨張比制御を実行する。この場合、続くステップS305では、予め定められた高膨張比制御の基本マップに従って、ステップS201で取得したエンジン1の運転条件に応じた機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度の目標値が取得される。ステップS305の処理を実行後、ECU22は図5のスローチャートのステップS204以降の処理を実行する。すなわち、ステップS305又はステップS307で取得した機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度に基づいて基本燃料噴射量Fr(k)、吹き戻し率α(k)を取得し、前回のサイクルの吹き戻し燃料量Fm(k−1)を読み出し、これらの量に基づいて今回のサイクルの燃料噴射量Fi(k)を算出してインジェクタ20による燃料噴射を実行する。
一方、ステップS303で定常運転状態ではないと判定された場合(No)、ECU2
2はステップS306の処理に進み、燃料噴射量の補正量の変動を抑制するモードの高膨張比制御を実行する。この場合、続くステップS307では、ステップS305で用いられる高膨張比制御の基本マップに対して、エンジン1の運転条件の変動に対する吸気弁閉時期の変動が小さく抑えられた補正マップに従って、ステップS201で取得したエンジン1の運転条件に応じた機械圧縮比、吸気弁閉時期及びスロットル開度の目標値が取得される。
次に、ステップS308において、今回のサイクルの基本燃料噴射量Fr(k)を取得する。これはステップS201で取得したエンジン1の運転条件に応じて、既定のマップから取得する。
ステップS309では、ECU22は、前回の吹き戻し量Fm(k−1)を取得する。これは、前回のサイクルにおいて本フローチャートを実行した時に算出してECU22に記憶させておいた値を読み出すことで取得する。
ステップS310では、ECU22は、ステップS308で取得した今回のサイクルの基本燃料噴射量Fr(k)と、ステップS309で取得した前回の吹き戻し量Fm(k−1)との和として、今回のサイクルの最終的な燃料噴射量Fi(k)を算出する。
ステップS311において、ECU22は、ステップS310で算出した最終的な燃料噴射量Fi(k)でインジェクタ20により燃料噴射を実行する。
以上のフローチャートを実行することによって、過渡運転状態において、実際に燃焼に関与する燃料量を目標値(基本燃料噴射量)に一致させるために必要な燃料噴射量の補正量が大きく変動することを抑制することが可能になるとともに、燃料噴射量の補正処理を簡略化することも可能となる。