JP5471003B2 - 細胞内導入物質の細胞内導入方法 - Google Patents

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本発明は、細胞内導入物質の細胞内導入方法およびそのための装置に関するもので、特に、細胞と細胞内導入物質を接触させた後、細胞に細胞内導入物質を含まない液滴を衝突させることによって細胞内導入物質を細胞内に導入する方法に関する。DNA、RNAおよびタンパク質を無傷な形で効率よく細胞内に導入できる方法は、医療、農業等に関連した研究、応用分野で大変有用な技術的手段となる。
遺伝子のような物質の細胞内への導入の代表的な方法としてウイルスを使用する方法や試薬を使用する方法が提案されているが、ウイルスはバイオハザードや使用場所に制限があり、試薬では細胞毒性やそれ自身の細胞への影響が大きいため、機能解析の際には異なる方法が求められている。
そういった影響のない方法としてエレクトロポレーションがあるが、操作の煩雑さや細胞障害が大きすぎる欠点がある。同様にパーティクルガン法は導入したい物質を微粒子にまぶし、高速で撃ち込む方法で大きな細胞障害や操作の煩雑性がある。この方法を発展させ、ガス圧を使用し、高速で液体をスプレーする方法(特許文献1)やエレクトロスプレー現象を利用し、キャピラリーの先端を通過させる際にパーティクルを含む懸濁液に高電圧を印加し、細胞にスプレーする方法がある(例えば、特許文献2参照)。これらの方法は細胞に導入する物質をエアロゾルにするため、使用者への誤射や吸入の危険がある。
また、パーティクルガンと異なり、導入したい物質を直接撃ち込む形式ではなく、細胞と細胞内導入遺伝子を接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まない液体を細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーすることによって、多種類の細胞内導入遺伝子を連続的かつ簡便に細胞内に導入する方法および装置も開発されている(例えば、特許文献3、4参照)。
このように、エレクトロスプレーを利用した遺伝子の細胞内導入方法は、スプレー液に高電圧を印加しスプレーするという物理的手段で遺伝子を細胞内に導入できるという簡便性において大変優れた特徴を有するが、スプレーのノズルと細胞の間に電位差を形成させるためにアースを設けなければならない、また、帯電液滴が電界によって飛ぶため、スプレー対象の形状により影響を受けやすい欠点がある。また、高電圧電源は価格が高く、これを必要としない方法が求められている。
特開2004−236657号公報 米国特許第6093557号明細書 国際公開第2007/132891号パンフレット 特開2008−220298号公報
本発明の課題は、DNA、RNAおよびタンパク質のような細胞内導入物質を安全かつ簡便に細胞内に導入できる方法を提供することにある。
本発明者は、高い導入率で細胞内導入物質を細胞内に導入できる方法について検討したところ、細胞内導入物質を含まない特定の大きさの液滴を、エレクトロスプレーを用いずに特定の速度で細胞に衝突させることにより、細胞内導入物質を容易に細胞内へ導入できることを見出し、以下の(1)〜(3)に示す本発明を完成させるに至った。
(1)細胞内導入物質が細胞の近傍に存在する状態で、球相当直径が0.001から10mmであり細胞内導入物質を含まない液滴を、エレクトロスプレーを用いずに、速度0.5から50m/sで細胞に衝突させることを特徴とする細胞内導入物質の細胞内導入方法。
(2)使用する細胞が動物細胞である、(1)に記載の細胞内導入物質の細胞内導入方法。
(3)細胞内導入物質がDNA、RNAおよびタンパク質から選ばれる一種以上の物質である、(1)記載の細胞内導入物質の細胞内導入方法。
本発明の方法を使用することで、簡便で安価な装置および手順で細胞内導入物質を細胞に導入することが可能となる。液滴を衝突させる際に電界を用いないため、エレクトロスプレーを用いる方法よりも細胞内導入物質を導入する細胞の集合体等の形状の影響を受けにくく、より均一な導入を行うことができる。さらに、液滴として細胞に衝突させる液(以下衝突液と呼ぶ)には、水などの遺伝子等の細胞内導入物質を含まず安全な物質を用いることができることから、導入する遺伝子等を含んだエアロゾルが形成され難く、実験者がミストに曝される危険性も無くなる。そのため、細胞内導入物質を、安全かつ迅速に、高い導入率で細胞内に導入することが可能となる。さらに、本発明の方法を用いた場合、水のような安全な物質を使用し、かつ遺伝子等の細胞内導入物質を含まない液滴を用いることができることから、導入する遺伝子等を含んだエアロゾルが形成され難く、実験者がミストに曝される危険性も無くなる。このように、本発明の方法を用いることにより、細胞内導入物質を、安全かつ迅速に、高い導入率で細胞内に導入することが可能となる。
細胞内導入物質の細胞内導入方法の模式図 実施例の装置(手動式の霧吹き) 実施例1の蛍光顕微鏡写真(NIKON製顕微鏡 TE−2000Sを使用し、光源を高圧水銀ランプに蛍光フィルターNIKON製GFPブロックを使用して対物レンズ10倍で撮影した蛍光を発している細胞の写真) 実施例の装置(重力落下により液滴を衝突させる)
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は、細胞内導入物質、例えば遺伝子を細胞内に入れるための方法に関する。すなわち、細胞の近傍に細胞内物質が存在する状態とし、細胞内導入物質を含まない液滴を細胞に衝突させることによって、細胞内導入物質を細胞内に導入することができる(図1)。
本発明における細胞内導入物質としては、DNAやRNAまたはそれらの類似化合物や誘導体等の核酸塩基類が挙げられる。これらはプラスミド、ファージ、ウイルス、ウイロイド、オリゴDNA、オリゴRNA、またはマイクロRNA等の形態で提供される。塩基配列の大きさは特に制限がない。塩基は二本鎖、一本鎖どちらでもかまわない。また、主鎖の異なる核酸類似物や人工塩基をつけた核酸でも構わない。また、遺伝子以外の酵素、アミロイド、プリオンといったタンパク質や、ペプチドを細胞内に導入する際にも使用できる。なお、糖、脂質、農薬、抗菌剤、金属イオン、蛍光標識試薬、または同位体標識試薬等の比較的低分子の物質を細胞内に導入する際にも当然ながら使用できる。このように細胞内に導入する物質はそれだけの溶液や固体として使用できるが、これと併用として一般的に細胞内への遺伝子等導入試薬として使用されるリポソーム、カチオン性ポリマー、カルシウム塩を共存させて使用することは特に問題でない。
本発明において細胞内物質を導入する細胞は、単離されたもの、組織の表面に存在するもの、生体の表面に存在するもの等液滴を衝突させることができれば特に制限はなく、また、動物、植物、微生物等細胞の由来に特に制限はない。特に有効に細胞内物質を導入できる細胞種は動物細胞で、付着性細胞、浮遊性細胞のいずれであってもよい。
本発明では細胞に衝突させる液滴の大きさに関して、その球相当直径は0.001mm以上であることが必要で、好ましくは0.01mm以上である。また、球相当直径は通常10mm以下とするが、好ましくは5mm以下である。さらに、液滴の球相当直径は細胞の長径より大きいことが望ましい。液滴が大きすぎると細胞の死につながる場合があり、0.001mm未満では導入の効率が低下する。なお、手動式の霧吹き装置等のスプレー装置を用いて液滴を衝突させる場合、液滴サイズは分布を有していることが多く、本発明では上記の直径の液滴が5%以上体積として含まれることが好ましい。液滴の球相当直径は、液滴をシリコンオイルに入れ、球状となった液滴の直径を測定することで求めることができる。
液滴の速度は0.5m/s以上であることが必要で、好ましくは2m/s以上である。速度が小さいと導入の効率が著しく低下する。また、液滴の速度は、通常50m/s以下とし、好ましくは20m/sとする。速度が速すぎると細胞が死んでしまう場合があり好ましくない。速度も分布を有するが直径と同様に5%以上体積として含まれれば、有効に働くと考えられる。
衝突液は、細胞内導入物質を含まないものである。さらに、細胞に対して使用することから毒性を示さないことが必要である。そのため、水、もしくは水溶液であることが好ましい。水溶液の場合、使用できる成分は通常は培地として使用される成分で塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムのような無機塩、酢酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等の有機酸塩、ショ糖、ソルビトール、トレハロース、グルコース、フルクトース等の糖類やポリエチレングリコールのような水溶性高分子、牛胎児血清やアミノ酸のような栄養成分が使用できる。
衝突液のpHに関しては特に制限はないが、細胞の生存や増殖に対する阻害作用が軽微な範囲で止まると考えられるpH4〜pH11が好ましく、pH5〜pH9がより好ましい。
液滴を衝突させるには、前記条件を満たす種々の方法や装置を利用することができる。たとえば、スプレー装置を利用することができる。スプレー装置として最も単純な構造の装置は手動式の霧吹きである。ノズル出口に液体を手動の圧縮で押し出すタイプの霧吹きが、スプレーする液体の量が小さく本発明に適する。特に好ましいのは1回のスプレー量が0.1から200μLの霧吹きである。加圧式の霧吹きも当然使用できる。また、装置が単純な構造を有する他の方法としては重力落下を利用する方法が使用可能であり、高さによって速度をコントロールすることが可能である。さらに、プリンターでよく使用されるピエゾ素子、ヒーター加熱式の液滴形成技術も当然使用できる。ミストの形成技術としてガス流を利用して液滴を形成させる技術も使用可能であるが、ガス流は細胞を乾燥させる、吹き飛ばす危険性が高いため、あまり好ましくはない。
本発明で使用する装置において、衝突液が接触する部分は微生物等のコンタミネーションを防止するために殺菌処理できる材質を使用することが好ましい。殺菌処理としてはオートクレーブ、加熱殺菌、殺菌剤、放射線処理があるが、オートクレーブや殺菌剤を使用するのが簡便で使用しやすい。
液滴として細胞に衝突させる液量は細胞の量や目的にあわせて変えればよく、特に制限がない。代表的な例として3.5cmシャーレ中の付着性動物細胞に対し、全体に均一に細胞内導入物質を入れたい場合、10μlから2mlスプレーすることが好ましく、30から200μlスプレーするのがさらに好ましい。スプレーする量が少ないと均一にならず、また、多すぎる場合、細胞への障害、細胞の飛散が生じる危険がある。
次に、代表的な方法として細胞内導入物質が遺伝子である場合について操作手順に従って説明する。細胞は培地を除き、細胞を露出する。そこに細胞内に導入する遺伝子を含んだ水溶液を入れ細胞と細胞内に導入する遺伝子とを接触させる。次いで、細胞内に導入する遺伝子を含まない衝突液を液滴として細胞に衝突させる。これで細胞内に導入する遺伝子の細胞内への導入作業が終了する。終了後、培地を加え遺伝子の導入処理を行った細胞の培養を行う。
本発明の方法が有効である理由について以下のように予想している。本発明方法において使用する液滴の大きさは好ましくは細胞の大きさ以上であり、これまで考えられてきた、パーティクルガンのような細胞より小さな粒子等が膜を打ち抜く機構ではなく、大きな液滴が細胞に当たることで細胞が圧縮され、それが解放されることで物質透過性を上げる一過性の穴を形成していると考えられる。本発明で規定している速度は細胞を死に至らしめることなく、物質透過性を細胞に付与すると考えている。
本発明の方法を用いた場合、水のような安全な物質のみからなり、かつ遺伝子等の細胞内導入物質を含まない衝突液を用いることができることから、導入する遺伝子等を含んだエアロゾルが形成され難く、実験者がミストに曝される危険性も無くなる。このように、本発明の方法を用いることにより、細胞内導入物質を、安全かつ迅速に、高い導入率で細胞内に導入することが可能となる。
以下、実施例および比較例を以て本発明の内容をさらに詳しく示すが、これらの例のみに本発明は限定されない。
液滴の球相当径の測定方法
液滴の球相当直径の測定は、シャーレにシリコンオイルを入れ、該シリコンオイル表面に、細胞に液滴を衝突させる場合と同じ条件で液滴を衝突させ、シリコンオイル中で球状となった液滴を、上から肉眼または顕微鏡にてスケールと比較することにより行った。
液滴の速度の測定方法
液滴の速度は、細胞に液滴を衝突させる装置により発生する液滴を高速度カメラ(カシオ計算機製High−speed EXILIM FH−20)で撮影した画像(1000枚/秒)から求めた。
導入効率の測定方法
導入効率、すなわち緑色蛍光蛋白質をコードする遺伝子が導入される効率は、ニコン製顕微鏡TE−2000Sを使用し、光源を高圧水銀ランプに蛍光フィルターニコン製GFPブロックを使用して対物レンズ10倍で細胞を撮影し、撮影された全細胞数および蛍光を発している細胞の数を計測し、全細胞数に対する蛍光を発している細胞の割合を導入効率とした。
実施例1
実験装置
実験に使用したスプレー装置の構造を図2に示す。
衝突液1は3ml容量のタンク2に入っていてプラスチック製チューブ3により吸い上げられる。液滴が放出されるヘッド部は手押し式の霧吹き構造4になっており、ヘッド部を手で押すとノズル5から液滴が放出される。ヘッド部を一回押すごとに液滴として放出される液量は50−60μlであった。この液滴の直径は平均0.11mmで最小値0.006mm、最大値1.025mmであった。なお、このスプレー装置では高さ2cmから12cmまで液滴の速度は5−10m/sであった。
細胞内導入物質を導入する細胞としては、付着性細胞であるチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)を使用した。細胞の大きさは長径0.01−0.03mmであった。
培地はα−MEM+10%牛胎児血清を使用した。CHO細胞を20×10cell/mL濃度で100μLをポリ−L−リジンコートされた3.5cmポリスチレンシャーレに培地2mLと共に加えた。4日後、培地を抜き、緑色蛍光蛋白質の遺伝子をコードした4.7kbpの大きさのプラスミドDNA(10μg)を水100μLに溶かしたものを加えた。
5分後、高さ2cmから前記の装置を使用して2回、細胞に液滴を衝突させた。衝突液の組成はKHPO 1.05g/L, NaCl 45g/L, NaHPO・7HO 3.63g/Lの混合液である。
液滴を衝突させた後、すぐに培地を加え、培養した。1日後、導入効率を測定したところ12%であった。蛍光顕微鏡写真を図3に示す。
実施例2−4
実施例1と同様の操作を行った。このとき変えたのは高さとスプレーを押す回数、衝突液の組成である。その結果を表1に示す。
実施例5−10
実施例1のスプレー装置にかえて、図2に示す構造であるがタンク容量30mlで一回に放出される液の量が130−150μlである装置を使用した。液滴の直径は平均0.09mmで最小値0.01mm、最大値0.86mmであった。なお、この装置では高さ2cmから12cmまで液滴の速度は5−30m/sである。
その結果を表2に示す。
実施例11
実験は図4の装置を用いた。ステンレス製28Gシリンジ針6はテフロン(登録商標)チューブ7で10mlシリンジ8につながっている。このシリンジはシリンジポンプ9により12ml/hの供給速度でシリンジ針に液を供給する。針は台10によって、細胞と細胞内導入物質の入ったシャーレ11から高さ1.5mの位置にある。
使用培地はα−MEM+10%牛胎児血清を使用した。CHO細胞(長径0.01−0.03mm)を100×10cell/mL濃度で100μLをポリ−L−リジンコートされた3.5cmポリスチレンシャーレに培地2mLと共に加えた。2日後、培地を抜き、緑色蛍光蛋白質の遺伝子をコードした4.7kbpの大きさのプラスミドDNA(10μg)を水100μLに溶かしたものを加えた。
5分後、上記装置を用い、滴下する液滴がシャーレ全体に均一にかかるように動かしながら、30秒間細胞に液滴を衝突させた。衝突液の組成はKHPO 0.63g/L, NaCl 27g/L, NaHPO・7HO 2.385g/Lの混合液とした。液滴の大きさは5mmで速度は3.8m/sであった。液滴を衝突させた後実施例1と同様に培養を行ったところ、導入効率は10%であった。
比較例1
実施例1で細胞に衝突液をスプレー装置を用いて細胞に衝突させる代わりに、ピペット(ギルソン社製ピペットマンP−200)で高さ1〜2cmから100μL滴下する操作に変えた以外は実施例1と同様にして実験を行った。導入効率は0%であった。
比較例2
プラスミドDNAを加えなかった以外は、実施例1と同様に行った。その結果、導入効率は0%であった。
比較例3
針のシャーレからの高さを2cmにかえた他は実施例11と同様の操作を行った。この時の液滴のサイズは5mmで、速度は0.44m/sであった。その結果、導入効率は0%であった。
1は衝突液、2はタンク、3はチューブ、4はヘッド部、5はノズル、6はシリンジ針、7はテフロン(登録商標)チューブ、8はシリンジ、9はシリンジポンプ、10は台、11はシャーレ。

Claims (2)

  1. DNA、RNAおよびタンパク質から選ばれる一種以上の物質である細胞内導入物質が単離した動物細胞に接触した状態で、球相当直径が0.001から10mm
    であり細胞内導入物質を含まない液滴を、エレクトロスプレーを用いずに、速度0.5から50m/sで前記単離した動物細胞に衝突させることを特徴とする細胞内導入物質の単離した細胞内への導入方法。
  2. 前記水溶液のpHが4〜11である、請求項1記載の単離した細胞内への導入方法。
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