JP5618112B2 - 硫黄変性ポリアクリロニトリルおよびその評価方法ならびに硫黄変性ポリアクリロニトリルを用いた正極、非水電解質二次電池、および車両 - Google Patents

硫黄変性ポリアクリロニトリルおよびその評価方法ならびに硫黄変性ポリアクリロニトリルを用いた正極、非水電解質二次電池、および車両 Download PDF

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Description

本発明は、非水電解質二次電池用の正極活物質として好適に用いられる硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびその評価方法に関する。
非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池は、充放電容量の大きな電池であり、主として携帯電子機器用の電池として用いられている。また、リチウムイオン二次電池は、電気自動車用の電池としても期待されている。
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、コバルトやニッケル等のレアメタルを含有するものが一般的である。しかし、これらの金属は流通量が少なく高価であるため、近年では、これらのレアメタルにかわる物質を用いた正極活物質が求められている。
リチウムイオン二次電池の正極活物質として、硫黄を用いる技術が知られている。硫黄を正極活物質として用いることで、リチウムイオン二次電池の充放電容量を大きくできる。例えば、硫黄を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量は、一般的な正極材料であるコバルト酸リチウム正極材料を用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量の約6倍である。
しかし、正極活物質として単体硫黄を用いたリチウムイオン二次電池においては、放電時に硫黄とリチウムとの化合物が生成する。この硫黄とリチウムとの化合物は、リチウムイオン二次電池の非水系電解液(例えば、エチレンカーボネートやジメチルカーボネート等)に可溶である。このため、正極活物質として硫黄を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返すと、硫黄の電解液への溶出により次第に劣化し、電池容量が低下する問題がある。以下、充放電の繰り返しに伴って充放電容量が低下するリチウムイオン二次電池の特性を「サイクル特性」と呼ぶ。この充放電容量低下の小さいリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池であり、この充放電容量低下の大きなリチウムイオン二次電池はサイクル特性に劣るリチウムイオン二次電池である。
サイクル特性を向上させるため、硫黄を含む正極活物質(以下、硫黄系正極活物質と呼ぶ)に炭素材料を配合する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、炭素と硫黄を主な構成要素とするポリ硫化カーボンを正極活物質として用いる技術が紹介されている。このポリ硫化カーボンは、直鎖状不飽和ポリマーに硫黄が付加されたものである。この技術によると、硫黄の電解液への溶出を炭素材料によって抑制できる。このため、このポリ硫化カーボンを正極活物質とするリチウムイオン二次電池のサイクル特性は向上すると考えられる。しかし正極活物質としてポリ硫化カーボンを用いたリチウムイオン二次電池によっても、サイクル特性の顕著な向上はみられなかった。正極活物質としてポリ硫化カーボンを用いる場合(正極活物質用の炭素材料として直鎖状不飽和ポリマーを用いる場合)には、放電時に硫黄とリチウムとが結合すると考えられる。このため、ポリ硫化カーボンに含まれる−CS−CS−結合や−S−S−結合が切断されて、ポリマーが切断されるためだと考えられる。よって、リチウムイオン二次電池のサイクル特性をさらに向上させ得る硫黄系正極活物質が求められていた。
本発明の発明者等は、ポリアクリロニトリルと硫黄との混合物を熱処理して得られる正極活物質を発明した(特許文献2参照)。この正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量は大きく、かつ、この正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れる。
しかしその一方で、硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、ポリアクリロニトリルの製造元や製品ロット毎に異なる充放電容量を示す場合があった。したがって、リチウムイオン二次電池の品質のむらを低減する為には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として適した硫黄変性ポリアクリロニトリルを選別し使用する必要があった。
特開2002−154815号公報 国際公開第2010/044437号
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池の充放電容量を向上させ得る硫黄変性ポリアクリロニトリル、および、このような硫黄変性ポリアクリロニトリルを選別する為の評価方法、ならびに当該硫黄変性ポリアクリロニトリルを用いた正極、非水電解質二次電池、当該非水電解質二次電池を搭載した車両を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、
硫黄およびポリアクリロニトリルを材料とする硫黄変性ポリアクリロニトリルであって、
粒子全体のなかで粒子径1μm以下の粒子および/または該粒子の集合体の占める領域が、撮像面積比で80%以上であり、
該ポリアクリロニトリルのフーリエ変換型赤外分光による1230cm −1 における吸光度D 1230 と、1250cm −1 における吸光度D 1250 と、の吸光度比D 1230 /D 1250 が0.75以下であることを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の他の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、硫黄およびポリアクリロニトリルを材料とする硫黄変性ポリアクリロニトリルであって、
該ポリアクリロニトリルが乳化重合以外の方法で製造されたものであることを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の非水電解質二次電池用正極は、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として含むことを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の非水電解質二次電池は、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として正極に含むことを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の車両は、本発明の非水電解質二次電池を搭載していることを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法は、
非水電解質二次電池用の正極活物質として用いられる硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法であって、
粒子全体のなかで粒子径1μm以下の粒子および/または該粒子の集合体の占める領域が、撮像面積比で80%以上であるものを適合品と判断し、それ以外のものを非適合品と評価することを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法を含むことを特徴とする。
本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルを用いた非水電解質二次電池は、充放電容量が大きい。また、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法によると、非水電解質二次電池の充放電容量を向上させ得る硫黄変性ポリアクリロニトリルを選別できる。このため、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法を用いれば、充放電容量の大きな非水電解質二次電池に使用可能な硫黄変性ポリアクリロニトリルを製造できる。また、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法を用いれば、充放電容量の大きな非水電解質二次電池を製造できる。更には、本発明の車両は、上述した本発明の非水電解質二次電池を搭載しているため、電力を必要とする各種特性に優れる。
硫黄変性ポリアクリロニトリルをX線回折した結果を表すグラフである。 硫黄変性ポリアクリロニトリルをラマンスペクトル分析した結果を表すグラフである。 実施例の硫黄変性ポリアクリロニトリルの製造方法で用いた反応装置を模式的に表す説明図である。 試料1の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料2の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料3の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料4の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料5の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料6の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料7の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料8の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料9の硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像である。 試料1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を表すグラフである。 試料1のリチウムイオン二次電池のサイクル特性を表すグラフである。 試料8のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を表すグラフである。 試料1の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料2の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料3の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料4の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料5の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料6の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料7の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料8の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料9の硫黄変性ポリアクリロニトリルをFT−IRで分析した結果を表すグラフである。 試料1〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルのFT−IRによる吸光度比(D1230/D1250)と2回目の放電容量との関係を表すグラフである。 試料1の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料2の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料3の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料4の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料5の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料6の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料7の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料8の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。 試料9の硫黄変性ポリアクリロニトリルを熱質量−示差熱分析した結果を表すグラフである。
本発明の非水電解質二次電池用正極(以下、本発明の正極と呼ぶ)は、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として正極に含有する。本発明の非水電解質二次電池は、本発明の正極を用いた電池であり、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として正極に含有する。
〈硫黄変性ポリアクリロニトリル〉
本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、上記の特許文献2に開示されたものと同様のものである。詳しくは、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、硫黄とポリアクリロニトリルとを材料とし、炭素元素(C)および硫黄元素(S)を含有する。以下、必要に応じて、ポリアクリロニトリルをPANと略記する。
硫黄変性ポリアクリロニトリル用の材料としてのポリアクリロニトリルは、粉末状であるのが好ましく、質量平均分子量が10〜3×10程度であるのが好ましい。また、ポリアクリロニトリルの粒径は、電子顕微鏡によって観察した際に、0.5〜50μm程度であるのが好ましく、1〜10μm程度であるのがさらに好ましい。ポリアクリロニトリルの分子量および粒径がこれらの範囲内であれば、ポリアクリロニトリルと硫黄との接触面積を大きくでき、ポリアクリロニトリルと硫黄とを信頼性高く反応させ得る。このため、電解液への硫黄の溶出をより信頼性高く抑制できる。
リチウムイオン二次電池の正極活物質として硫黄変性ポリアクリロニトリルを用いることで、硫黄が本来有する高容量を維持でき、かつ、硫黄の電解液への溶出が抑制されるため、サイクル特性が大きく向上する。これは、硫黄変性ポリアクリロニトリル中で硫黄が単体として存在するのでなく、ポリアクリロニトリルと結合した安定な状態で存在するためだと考えられる。特許文献2に開示されている硫黄系正極活物質の製造方法において、硫黄はポリアクリロニトリルとともに加熱処理されている。ポリアクリロニトリルを加熱すると、ポリアクリロニトリルが3次元的に架橋して縮合環(主として6員環)を形成しつつ閉環すると考えられる。このため硫黄は、閉環の進行したポリアクリロニトリルと結合した状態で硫黄変性ポリアクリロニトリル中に存在していると考えられる。このため、硫黄変性ポリアクリロニトリルはポリアクリロニトリルに由来する炭素骨格を持つ。ポリアクリロニトリルと硫黄とが結合することで、硫黄の電解液への溶出を抑制でき、サイクル特性を向上させ得る。
ところで、ポリアクリロニトリルの製造方法は、アクリロニトリルモノマー(以下、単にモノマーと略する)を重合させる工程を含む。一般的な重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等の方法が挙げられる。
塊状重合とは、溶媒を用いず、モノマーだけ、または、モノマーに少量の重合開始剤を加えて重合を行う方法である。生成物はポリマーと未反応モノマーが主体であり、重合開始剤由来の不純物を含むが、他の重合法と比較して純粋である。その反面、モノマーが液体状である場合、重合の進行とともに反応系の粘度が高くなり、撹拌や流動(反応器からの取り出し)、反応熱の除去が困難になる。
懸濁重合とは、モノマーと溶媒(水)とを機械的に攪拌し懸濁させて重合を行う重合方法である。この方法では、重合開始剤として、モノマーに可溶なラジカル発生剤を用いるのが一般的である。また、反応系において、重合開示剤は溶媒中に分散したモノマー滴中に存在する。このため重合反応は、それぞれのモノマー滴中で塊状重合が起こっているのに近い状態で進行する。反応がモノマー滴中で起こる為、分子量の小さな(すなわち粒径の小さな)不純物の少ないポリマーを得ることができる利点がある。
溶液重合は、溶媒中で重合反応を行う方法である。溶液重合用の溶媒としては、モノマーとも触媒(重合開始剤)とも反応し難いものが用いられる。この方法によると、溶媒が熱を吸収するため重合の反応熱は調整し易いが、反応速度は遅い。溶媒の管理が難しいため工業的にはあまり使われる方法ではない。なお、溶液重合品から均一粒子径のものを作るのは、技術的に困難とされている。
乳化重合は、ラジカル重合の一種で、水等の媒体と、媒体に難溶なモノマーと乳化剤(界面活性剤)とを混合し、そこに媒体に溶解可能な重合開始剤(通常はラジカル発生剤)を加えて重合させる方法である。乳化重合は、粒子形状をサブミクロンレベルで均一に作るには適しており、製造効率的にも最適である。その一方で、乳化重合では高分子量化(すなわち粒径の増大)は不可避である。また、乳化重合品には多少の乳化剤(界面活性剤)が残留するため、乳化重合法で得られたポリアクリロニトリルは不純物としての乳化剤を含む。また、アクリロニトリル(CH=CHCN)の加水分解により生じたアクリルアミドを不純物として含む可能性もある。
これらの重合方法のうち乳化重合は、工業的に有利であるとされている。しかし本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、乳化重合で得られたポリアクリロニトリルは、正極活物質用の硫黄変性ポリアクリロニトリルの材料として好ましくないことを見出した。すなわち、乳化重合で得られたポリアクリロニトリルを原料とする硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として用いた場合には、その他の方法で得られたポリアクリロニトリルを原料とする硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として用いた場合に比べて、非水電解質二次電池の容量が小さくなる。その理由は定かではないが、上述した乳化剤やアクリルアミド等の不純物が一因であると予想される。したがって、ポリアクリロニトリルとしては、乳化重合以外の方法(塊状重合、懸濁重合、溶液重合等)で製造されたものを用いるのが好ましい。
乳化重合で製造されたポリアクリロニトリル(以下、非適合PANと呼ぶ)と、それ以外の方法で製造されたポリアクリロニトリル(以下、適合PANと呼ぶ)とは、粒径、不純物の有無、立体規則度等によって識別できると考えられる。
例えば、適合PANの粒径は非適合PANの粒径に比べて非常に小さい。これは、乳化重合において、乳化剤の存在下で形成されるミセル内部で、重合反応が進行するためだと考えられる。なお、乳化重合で製造された非適合PANの粒径は、乳化重合の反応系に形成されるミセルの大きさに対応した大きさとなる。詳しくは、適合PANの粒径はおよそ1μm以下と非常に小径であるのに対し、非適合PANの粒径は5μmを超える大径である。硫黄変性ポリアクリロニトリルの粒径は、実施例の欄で後述する測定方法によって測定できる。
不純物の有無は、C=Oピークの有無によって確認できる。すなわち、非適合PANには、カルボン酸系界面活性剤が残留しているか、または、重合時に合成されたアクリルアミドが含まれる。したがって、硫黄変性ポリアクリロニトリルをIR分析(例えば、フーリエ変換型赤外分光、FT−IR)すると、カルボン酸系界面活性剤および/またはアクリルアミドのC=Oに由来するピークが確認される。このピークの有無によって、適合PANと非適合PANとを識別できる。
物質の立体規則性は、その合成法によって異なることが知られている。また、ポリアクリロニトリルの立体規則度が高いほど、FT−IRにより測定される1230cm−1の吸光度(D1230)と1250cm−1の吸光度(D1250)との吸光度比(D1230/D1250)が大きくなるとされている。さらに、溶液重合法で合成したポリアクリロニトリル(適合PAN)はアタクチック(不斉炭素原子の絶対配置が全くランダムになった構造)になることが知られている。
本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、FT−IRによる吸光度比(D1230/D1250)は適合PANでは小さく、非適合PANでは大きいことを見出した。具体的には、適合PANでは0.75以下であり、非適合PANでは0.75を超える。このため、FT−IRによる吸光度比(D1230/D1250)によっても、適合PANと非適合PANとを識別できる。立体規則性として、立体配置(configuration)の規則性と、立体構造(conformation)の規則性とが挙げられる。このうち立体配置の規則性が低ければ、アタクチックとなる。立体構造の規則性が低ければ、直鎖ではなく入り組んだ構造となる。何れの場合にも、規則性が低い方が複雑な構造になる。
なお、立体規則性を測定する方法として、FT−IR以外にも13CNMR等を用いても良い。
硫黄変性ポリアクリロニトリルに用いられる硫黄は、ポリアクリロニトリルと同様に、粉末状であるのが好ましい。硫黄の粒径については特に限定しないが、篩いを用いて分級した際に、篩目開き40μmの篩を通過せず、かつ、150μmの篩を通過する大きさの範囲内にあるものが好ましい。篩目開き40μmの篩を通過せず、かつ、100μmの篩を通過する大きさの範囲内にあるものがより好ましい。
硫黄変性ポリアクリロニトリルに用いるポリアクリロニトリル粉末と硫黄粉末との配合比については特に限定しないが、質量比で、1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:0.5〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのがさらに好ましい。
硫黄変性ポリアクリロニトリルは、元素分析の結果、炭素、窒素、及び硫黄を含み、更に、少量の酸素及び水素を含む場合もある。また、図1に示すように、硫黄変性ポリアクリロニトリルをCuKα線によりX線回折した結果、回折角(2θ)20〜30°の範囲では、25°付近にピーク位置を有するブロードなピークのみが確認された。参考までに、X線回折は、粉末X線回折装置(MAC Science社製、型番:M06XCE)により、CuKα線を用いてX線回折測定を行なった。測定条件は、電圧:40kV、電流:100mA、スキャン速度:4°/分、サンプリング:0.02°、積算回数:1回、測定範囲:回折角(2θ)10°〜60°であった。
さらに硫黄変性ポリアクリロニトリルを、室温から900℃まで20℃/分の昇温速度で加熱した際の熱重量分析による質量減は400℃時点で10%以下である。これに対して、硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末の混合物を同様の条件で加熱すると120℃付近から質量減少が認められ、200℃以上になると急激に硫黄の消失に基づく大きな質量減が認められる。
すなわち、硫黄変性ポリアクリロニトリルにおいて、硫黄は単体としては存在せず、閉環の進行したポリアクリロニトリルと結合した状態で存在していると考えられる。
硫黄変性ポリアクリロニトリルのラマンスペクトルの一例を図2に示す。図2に示すラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトの1331cm−1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm−1〜1800cm−1の範囲で1548cm−1、939cm−1、479cm−1、381cm−1、317cm−1付近にピークが存在する。上記したラマンシフトのピークは、ポリアクリロニトリルに対する単体硫黄の比率を変更した場合にも同様の位置に観測される。このためこれらのピークは硫黄変性ポリアクリロニトリルを特徴づけるものである。上記した各ピークは、上記したピーク位置を中心としては、ほぼ±8cm−1の範囲内に存在する。なお、本明細書において、「主ピーク」とは、ラマンスペクトルで現れた全てのピークのなかでピーク高さが最大となるピークを指す。
参考までに、上記したラマンシフトは、日本分光社製 RMP−320(励起波長λ=532nm、グレーチング:1800gr/mm、分解能:3cm−1)で測定したものである。なお、ラマンスペクトルのピークは、入射光の波長や分解能の違いなどにより、数が変化したり、ピークトップの位置がずれたりすることがある。したがって正極活物質として硫黄変性ポリアクリロニトリルを用いた本発明の正極のラマンスペクトルを測定すると、上記のピークと同じピーク、または、上記のピークとは数やピークトップの位置が僅かに異なるピークが確認される。
(非水電解質二次電池用正極)
本発明の正極は正極活物質として本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルを含有する。
正極は、正極活物質以外は、一般的な非水電解質二次電池用正極(例えばリチウムイオン二次電池用正極)と同様の構造にできる。例えば、本発明の正極は、硫黄変性ポリアクリロニトリル、導電助剤、バインダ、および溶媒を混合した正極材料を、集電体に塗布することによって製作できる。或いは、硫黄粉末およびポリアクリロニトリル粉末を混合した混合原料を、正極用集電体に充填した後に加熱する(熱処理工程を施す)こともできる。この方法によれば、ポリアクリロニトリルと硫黄とを反応させ硫黄変性ポリアクリロニトリルを得ると同時に、バインダを用いることなく、硫黄変性ポリアクリロニトリルと集電体とを一体化させることができる。バインダを用いなければ、正極質量あたり正極活物質の量を増大させることができ、正極質量当たりの容量を向上させることができる。
導電助剤としては、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、炭素粉末、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、アルミニウムやチタンなどの正極電位において安定な金属の微粉末等が例示される。
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が例示される。
溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアルデヒド、アルコール、水等が例示される。これら導電助剤、バインダおよび溶媒は、それぞれ複数種を混合して用いても良い。これらの材料の配合量は特に問わないが、例えば、硫黄変性ポリアクリロニトリル100質量部に対して、導電助剤20〜100質量部程度、バインダ10〜20質量部程度を配合するのが好ましい。また、その他の方法として、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルと上述した導電助剤およびバインダとの混合物を乳鉢やプレス機などで混練しかつフィルム状にし、フィルム状の混合物をプレス機等で集電体に圧着することで、本発明の非水電解質二次電池用正極を製造することもできる。
集電体としては、非水電解質二次電池用正極に一般に用いられるものを使用すれば良い。例えば集電体としては、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボン不織布、カーボン織布等が例示される。このうち黒鉛化度の高いカーボンから成るカーボン不織布/織布集電体は、水素を含まず、硫黄との反応性が低いために、硫黄変性ポリアクリロニトリル用の集電体として好適である。黒鉛化度の高い炭素繊維の原料としては、カーボン繊維の材料となる各種のピッチ(すなわち、石油、石炭、コールタールなどの副生成物)やポリアクリロニトリル繊維等を用いることができる。
本発明の非水電解質二次電池は、正極に伝導材を含むのが好ましい。伝導材とは、自身が高い電気伝導性を示すか、あるいは、正極のリチウムイオン伝導性を大きく向上させ得る材料を指す。正極に伝導材を含むことで、正極全体の電気伝導度および/またはリチウムイオン等の電荷担体の伝導性を向上させることができ、非水電解質二次電池の放電レート特性を向上させ得る。伝導材の材料(伝導材材料)としては、硫化物の状態で上記の機能を示すものを用いるのが好ましい。硫黄変性ポリアクリロニトリルの原料たる硫黄によって硫化されても、伝導材の機能を損なわないためである。
伝導材材料としては、第4周期金属、第5周期金属、第6周期金属および希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属、またはその硫化物を用いることができる。なお、本明細書でいう第4周期金属、第5周期金属および第6周期金属とは、周期律表によるものである。例えば第4周期金属とは、周期律表における第4周期元素に含まれる金属を指す。伝導材材料としては、硫化物の状態で自身が高い電気伝導性を示すか、あるいは、正極のリチウムイオン伝導性を大きく向上させ得るものが好ましく、例えば、Ti、Fe、La、Ce、Pr、Nd、Sm、V、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ta、W、Pbからなる群から選ばれる少なくとも一種、またはその硫化物であるのが好ましい。なお伝導材は、正極中においては、上記金属とその硫化物との両方からなるか、或いは、上記金属の硫化物のみからなる。これらの伝導材材料は硫化物を多く含むのが好ましく、硫化物のみからなるのがより好ましい。上記金属を硫化物の状態で正極に配合することで、伝導材と硫黄変性ポリアクリロニトリルとがなじみ易くなり、伝導材と正極活物質とが略均一に分散するためである。また、伝導材材料として硫化物を用いることで、伝導材における上記金属と硫黄との比率を所望する範囲に容易に制御できる利点もある。
(非水電解質二次電池)
以下、本発明の正極を用いた非水電解質二次電池の構成について説明する。以下、本発明の正極を用いた非水電解質二次電池を単に非水電解質二次電池と略する。また、本発明の正極を用いたリチウムイオン二次電池単にリチウムイオン二次電池と略する。なお、正極に関しては、上述したとおりである。
〔負極〕
負極活物質としては、公知の金属リチウム、黒鉛などの炭素系材料、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化可能な元素および/または当該元素を含む化合物を用いることができる。この場合、電荷担体はリチウムであり、本発明の非水電解質二次電池はリチウム二次電池、またはリチウムイオン二次電池、またはリチウムポリマー二次電池である。その他の負極活物質として、金属ナトリウム、ナトリウムイオンを吸蔵・放出可能であってナトリウムと合金化可能な元素および/または当該元素を含む化合物を用いることもできる。この場合、電荷担体はナトリウムであり、本発明の非水電解質二次電池はナトリウム二次電池、またはナトリウムイオン二次電池、またはナトリウムポリマー二次電池である。
上述したリチウムと合金化反応可能な元素は、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。このうち、ケイ素(Si)またはスズ(Sn)であるのが特に好ましい。上述したリチウムと合金化反応可能な元素を有する元素化合物は、ケイ素化合物またはスズ化合物であるのが好ましい。ケイ素化合物は、SiO(0.5≦x≦1.5)であるのが好ましい。ケイ素は、理論容量が大きい一方で、充放電時の体積変化が大きいため、化合物の状態(つまりSiO)で、用いることで体積変化を少なくすることができる。
スズ化合物は、例えば、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などが好ましく用いられる。その他、シリコン薄膜などのシリコン系材料、銅−スズやコバルト−スズなどの合金系材料も好ましく使用できる。電荷担体がナトリウムである場合、負極活物質としてはハードカーボンまたはソフトカーボンまたはスズ化合物を用いるのが好ましい。
負極活物質として、リチウムを含まない材料、例えば、上記した負極活物質のなかで炭素系材料、シリコン系材料、合金系材料等を用いる場合には、デンドライドの発生による正負極間の短絡を生じ難い点で有利である。ただし、これらの負極活物質を用いた負極を本発明の正極と組み合わせて用いる場合には、Li、Na等の、イオン化して正極と負極との間を移動することで充放電に関与する物質(所謂電荷担体)が、正極および負極の何れにも含まれない。このため、負極および正極の何れか一方、または両方にあらかじめ電荷担体を挿入するプリドープ処理が必要となる。電荷担体のプリドープ法としては公知の方法に従えば良い。例えば電荷担体の一種であるリチウムを負極にドープする場合には、対極に金属リチウムを用いて半電池を組み、電気化学的に負極にリチウムをドープする電解ドープ法を用いることができる。或いは、電極に金属リチウム箔を貼り付けたものを電解液の中に放置し、リチウムの拡散を利用して負極にリチウムをドープする貼り付けプリドープ法を用いることもできる。また、正極にリチウムをプリドープする場合にも、上記した電解ドープ法を利用することができる。ナトリウムに関しても同様である。
リチウムを含まない負極材料としては、特に、高容量の負極材料であるシリコン系材料が好ましく、その中でも電極厚さが薄くて体積当りの容量で有利となる薄膜シリコンがより好ましい。
〔電解質〕
非水電解質二次電池に用いる電解質としては、有機溶媒に支持電解質(支持塩)であるアルカリ金属塩を溶解させたものを用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル等の非水系溶媒から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。電荷担体がリチウムである場合、支持電解質としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiI、LiClO等を用いることができる。電解質の濃度は、0.5mol/l〜1.7mol/l程度であれば良い。電解質は液状に限定されない。例えば、非水電解質二次電池がリチウムポリマー二次電池である場合、電解質は固体状(例えば高分子ゲル状)をなす。また、電荷担体がNaである場合には、NaPF、NaBF、NaAsF、NaCFSO、NaI、NaClO等のナトリウム塩を電解質に用いることができる。
〔その他〕
非水電解質二次電池は、上述した負極、正極、電解質以外にも、セパレータ等の部材を備えても良い。セパレータは、正極と負極との間に介在し、正極と負極との間のイオンの移動を許容するとともに、正極と負極との内部短絡を防止する。非水電解質二次電池が密閉型であれば、セパレータには電解液を保持する機能も求められる。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリイミド、セルロース、ガラス等を材料とする薄肉かつ微多孔性または不織布状の膜を用いるのが好ましい。非水電解質二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状にできる。
(非水電解質二次電池用正極の製造方法)
本発明の製造方法は、上述した硫黄変性ポリアクリロニトリルの材料(すなわちポリアクリロニトリル粉末および硫黄粉末)を混合した混合材料を加熱する工程(熱処理工程)を含む。混合材料は、乳鉢やボールミル等の一般的な混合装置で混合すれば良い。混合原料としては、硫黄と炭素材料とを単に混合したものを用いても良いが、例えば、混合原料をペレット状に成形して用いても良い。伝導材を含有する正極を製造する場合には、ポリアクリロニトリル粉末、硫黄粉末および伝導材材料の混合物を混合材料として用いれば良い。
熱処理工程において混合原料を加熱することで、混合原料に含まれる硫黄と炭素材料とが結合する。熱処理工程は、密閉系でおこなっても良いし開放系でおこなっても良いが、硫黄蒸気の散逸を抑制するためには、密閉系で行うのが好ましい。また、熱処理工程を如何なる雰囲気で行うかについては特に問わないが、炭素材料と硫黄との結合を妨げない雰囲気(例えば、水素を含有しない雰囲気、非酸化性雰囲気)下で行うのが好ましい。例えば、雰囲気中に水素が存在すると、反応系中の硫黄が水素と反応して硫化水素となるため、反応系中の硫黄が失われる場合がある。また、特に炭素材料としてポリアクリロニトリルを用いる場合には、非酸化性雰囲気下で熱処理することで、ポリアクリロニトリルの閉環反応と同時に、蒸気状態の硫黄がポリアクリロニトリルと反応して、硫黄によって変性されたポリアクリロニトリルが得られると考えられる。ここでいう非酸化性雰囲気とは、酸化反応が進行しない程度の低酸素濃度とした減圧状態、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気、硫黄ガス雰囲気等を含む。
密閉状態の非酸化性雰囲気とするための具体的な方法については特に限定はなく、例えば、硫黄蒸気が散逸しない程度の密閉性が保たれる容器中に混合原料を入れて、容器内を減圧または不活性ガス雰囲気にして加熱すれば良い。その他、混合原料を硫黄蒸気と反応し難い材料(例えばアルミニウムラミネートフィルム等)で真空包装した状態で加熱しても良い。この場合、発生した硫黄蒸気によって包装材料が破損しないように、例えば、水を入れたオートクレーブ等の耐圧容器中に、包装された原料を入れて加熱し、発生した水蒸気で包装材の外部から加圧することが好ましい。この方法によれば、包装材料の外部から水蒸気によって加圧されるので、硫黄蒸気によって包装材料が膨れて破損することが防止される。
熱処理工程における混合原料の加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すれば良く、特に限定しない。上述した好ましい加熱温度は、硫黄と炭素材料との結合が進行するような温度であれば良い。具体的には、加熱温度は、250℃以上500℃以下とすることが好ましく、250℃以上400℃以下とすることがより好ましく、300℃以上400℃以下とすることがさらに好ましい。
熱処理工程においては、硫黄を還流するのが好ましい。この場合、混合原料の一部が気体となり、一部が液体となるように混合原料を加熱すれば良い。換言すると、混合原料の温度は、硫黄が気化する温度以上の温度であれば良い。ここで言う気化とは、硫黄が液体または固体から気体に相変化することを指し、沸騰、蒸発、昇華の何れによっても良い。参考までに、α硫黄(斜方硫黄、常温付近で最も安定な構造である)の融点は112.8℃、β硫黄(単斜硫黄)の融点は119.6℃、γ硫黄(単斜硫黄)の融点は106.8℃である。硫黄の沸点は444.7℃である。ところで、硫黄の蒸気圧は高いため、混合原料の温度が150℃以上になると、硫黄の蒸気の発生が目視でも確認できる。したがって、混合原料の温度が150℃以上であれば硫黄の還流は可能である。なお、熱処理工程において硫黄を還流する場合には、既知構造の還流装置を用いて硫黄を還流すれば良い。
なお、混合材料中の硫黄の配合量が過大である場合にも、熱処理工程において炭素材料に充分な量の硫黄を取り込むことができる。このため、炭素材料に対して硫黄を過大に配合する場合には、熱処理工程後の被処理体(硫黄変性ポリアクリロニトリル)から単体硫黄を除去することで、上述した単体硫黄による悪影響を抑制できる。詳しくは、混合原料中の炭素材料と硫黄との配合比を、質量比で1:2〜1:10とする場合、熱処理工程後の被処理体を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱することで、炭素材料に充分な量の硫黄を取り込みつつ、残存する単体硫黄による悪影響を抑制できる。単体硫黄を除去する工程を省く場合には、被処理体をそのまま硫黄変性ポリアクリロニトリルとして用いれば良い。また、熱処理工程後の被処理体から単体硫黄を除去する場合には、単体硫黄除去後の被処理体を硫黄変性ポリアクリロニトリルとして用いれば良い。
以下、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリル、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、および硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法を具体的に説明する。
〈硫黄変性ポリアクリロニトリル〉
〔1〕混合原料
硫黄粉末として、篩いを用いて分級した際に粒径50μm以下となるものを準備した。ポリアクリロニトリル粉末として、電子顕微鏡で確認した場合に粒径が0.2μm〜2μmの範囲にあるものを準備した。硫黄粉末5gとポリアクリロニトリル粉末1gとを乳鉢で混合・粉砕して、混合原料を得た。
〔2〕装置
図3に示すように、反応装置1は、反応容器2、蓋3、熱電対4、アルミナ保護管40、2つのアルミナ管(ガス導入管5、ガス排出管6)、アルゴンガス配管50、アルゴンガスを収容したガスタンク51、トラップ配管60、水酸化ナトリウム水溶液61を収容したトラップ槽62、電気炉7、電気炉に接続されている温度コントローラ70を持つ。
反応容器2としては、有底筒状をなすガラス管(石英ガラス製)を用いた。後述する熱処理工程において、反応容器2には混合原料9を収容した。反応容器2の開口部は、3つの貫通孔を持つガラス製の蓋3で閉じた。貫通孔の1つには、熱電対4を収容したアルミナ保護管40(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の他の1つには、ガス導入管5(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の残りの1つには、ガス排出管6(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。なお、反応容器2は、外径60mm、内径50mm、長さ300mmであった。アルミナ保護管40は、外径4mm、内径2mm、長さ250mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6は、外径6mm、内径4mm、長さ150mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、蓋3の外部(反応容器2内)に露出した。この露出した部分の長さは3mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、後述する熱処理工程においてほぼ100℃以下となる。このため、熱処理工程において生じる硫黄蒸気は、ガス導入管5およびガス排出管6から流出せず、反応容器2に戻される(還流する)。
アルミナ保護管40に入れた熱電対4の先端は、間接的に反応容器2中の混合原料9の温度を測定した。熱電対4で測定した温度は、電気炉7の温度コントローラ70にフィードバックした。
ガス導入管5にはアルゴンガス配管50を接続した。アルゴンガス配管50はアルゴンガスを収容したガスタンク51に接続した。ガス排出管6にはトラップ配管60の一端を接続した。トラップ配管60の他端は、トラップ槽62中の水酸化ナトリウム水溶液61に挿入した。なお、トラップ配管60およびトラップ槽62は、後述する熱処理工程で生じる硫化水素ガスのトラップである。
〔3〕熱処理工程
混合原料9を収容した反応容器2を、電気炉7(ルツボ炉、開口幅φ80mm、加熱高さ100mm)に収容した。このとき、ガス導入管5を介して反応容器2の内部にアルゴンを導入した。このときのアルゴンガスの流速は100ml/分であった。アルゴンガスの導入開始10分後に、アルゴンガスの導入を継続しつつ反応容器2中の混合原料9の加熱を開始した。このときの昇温速度は5℃/分であった。混合原料9が100℃になった時点で、混合原料9の加熱を継続しつつアルゴンガスの導入を停止した。混合原料9が約200℃になるとガスが発生した。混合原料9が360℃になった時点で加熱を停止した。加熱停止後、混合原料9の温度は400℃にまで上昇し、その後低下した。したがって、この熱処理工程において、混合原料9は400℃にまで加熱された。その後、混合原料9を自然冷却し、混合原料9が室温(約25℃)にまで冷却された時点で反応容器2から生成物(すなわち、熱処理工程後の被処理体)を取り出した。なお、このときの加熱時間は400℃で約10分であり、硫黄は還流された。
〔4〕単体硫黄除去工程
熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄(遊離の硫黄)を除去するために、以下の工程をおこなった。
熱処理工程後の被処理体を乳鉢で粉砕した。粉砕物2gをガラスチューブオーブンに入れ、真空吸引しつつ200℃で3時間加熱した。このときの昇温温度は10℃/分であった。この工程により、熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄が蒸発・除去され、単体硫黄を含まない(または、ほぼ含まない)実施例1の硫黄変性ポリアクリロニトリルを得た。
〈リチウムイオン二次電池の製作〉
〔1〕正極
実施例1の硫黄変性ポリアクリロニトリル3mgとアセチレンブラック(AB)2.1mgとTAB0.9mgとを混合した。TABとは、ABとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とをAB:PTFE=2:1(質量比)で混合した混合物である。この混合物を、ヘキサンを適量加えつつ、メノウ製乳鉢でフィルム状になるまで混練し、フィルム状の正極材料を得た。この正極材料全量を、直径14mmの円形に打ち抜いたアルミニウムメッシュにプレス機で圧着し、100℃で3時間乾燥した。この工程で、実施例1のリチウムイオン二次電池用正極を得た。
〔2〕負極
負極としては、厚さ500μmの金属リチウム箔を直径14mmに打ち抜いたものを用いた。
〔3〕電解液
電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に、LiPFを溶解した非水電解質を用いた。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとは質量比1:1で混合した。電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/lであった。
〔4〕電池
〔1〕、〔2〕で得られた正極および負極を用いて、コイン電池を製作した。詳しくは、ドライルーム内で、厚さ25μmのポリプロピレン微孔質膜からなるセパレータ(Celgard2400)と、厚さ500μmのガラス不織布フィルタと、を正極と負極との間に挟装して、電極体電池とした。この電極体電池を、ステンレス容器からなる電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースには〔3〕で得られた電解液を注入した。電池ケースをカシメ機で密閉して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
〈硫黄変性ポリアクリロニトリルの粒径測定〉
ポリアクリロニトリルとして製造元および/または製造ロットの異なるもの7種類を準備した。内訳は、懸濁重合法で製造されたものが3種類(試料1〜3)、塊状重合法で製造されたもの(試料4)、溶液重合法で製造されたもの(試料5)、および、乳化重合で製造されたものが2種類(試料7、8)であった。また、試料8と同じポリアクリロニトリルを乾式ミリング処理(ボールミルを用いてミリング処理)したもの(試料6)、湿式ミリング処理(エタノールにポリアクリロニトリルを分散させボールミルを用いてミリング処理)したもの(試料9)を準備した。
試料1〜9の各硫黄変性ポリアクリロニトリルを、走査式電子顕微鏡(SEM)により5000倍で撮像した。このときの加速電圧5〜10kVであり、コーティングには白金を用いた。各硫黄変性ポリアクリロニトリル表面のSEM像を図4〜12に示す。
図4〜12に示すように試料1〜5の硫黄変性ポリアクリロニトリルの外観と試料6〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルの外観とは大きく異なる。
図4〜8に示すように、試料1〜5の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、SEM像において、粒径1μm以下の微細な粒子の集合体として観察された。多数の粒子の集合体であるため、集合体全体としては不定形の二次粒子状にみえた。硫黄変性ポリアクリロニトリルが撮像された領域全体を100面積%とすると、粒子径1μm以下の粒子および/またはこの粒子の集合体の占める領域は、80面積%以上であった。好ましくは90面積%以上である。SEM像上では、粒径5μmを超える粒状体は確認されなかった。
図9〜12に示すように、試料6〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、SEM像において、粒径5μmを超える粒状体として観察された。表面にクラックが認められたが、粒状体全体が不定形状でなく、略粒状をなしていた。粒子径1μm以下の粒子および/またはこの粒子の集合体は、殆ど(または全く)確認されなかった。
SEM像を基に、試料1〜5の硫黄変性ポリアクリロニトリルが適合PANであり、試料6〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルが非適合PANであると評価した。
なお、この評価試験においては、各硫黄変性ポリアクリロニトリルを5000倍で撮像したSEM像においてポリアクリロニトリルが撮像された領域全体を母数すなわち「粒子全体」とした。そして、このなかで粒子径1μm以下の粒子および/またはその集合体が撮像された領域の占める領域を算出した。しかし、本発明の硫黄変性ポリアクリロニトリルおよびその評価方法における母数は、これに限定されない。例えば、「3000〜7000倍で撮像したSEM像においてポリアクリロニトリルが撮像された領域全体」を母数としても良い。
〈充放電特性の評価〉
試料1〜9の各硫黄変性ポリアクリロニトリルを用い、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法により、試料1〜9のリチウムイオン二次電池を製造した。
試料1〜9の各リチウムイオン二次電池について、30℃で繰り返し充放電をおこなった。詳しくは、まず0.1Cで1.0VまでCC放電(低電流放電)を行った。それ以降のサイクルは、0.1Cで3.0VまでCC充電を行った後に0.1Cで1.0VまでCC放電を行う充放電を繰り返した。そして、各リチウムイオン二次電池の2回目の放電容量を比較した。各リチウムイオン二次電池の2回目の放電容量は、試料1では764.7mAh/g、試料2では747.5mAh/g、試料3では732.2mAh/g、試料4では594.3mAh/g、試料5では384.3mAh/g、試料6では339.0mAh/g、試料7では316.8mAh/g、試料8では286.1mAh/g、試料9では129.6mAh/gであった。参考までに、試料1のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を図13、14に示す。試料8のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を図15に示す。また、各リチウムイオン二次電池の2回目の放電容量を表1に示す。
Figure 0005618112
試料1〜5のリチウムイオン二次電池の2回目の放電容量は、試料6〜9のリチウムイオン二次電池の2回目の放電容量に比べて大きかった。この結果から、試料1〜5の硫黄変性ポリアクリロニトリルが適合PANであり、試料6〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルが非適合PANであることが裏づけられた。
〈FT−IRによる硫黄変性ポリアクリロニトリルの分析〉
試料1〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルについて、FT−IRにより、不純物の有無、および立体規則性を測定した。装置としてはAffinity−1(島津製作所製)を用い、拡散反射法による測定を行った。分解能は8cm−1であり、積算回数は50回であった。FT−IRで得られたチャートを図16〜24に示す。FT−IRによる吸光度比(D1230/D1250)と2回目の放電容量との関係を表すグラフを図25に示す。
図16〜24に示すように、試料1〜5の硫黄変性ポリアクリロニトリルにはC=Oピークは認められなかったのに対し、試料6〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルにはC=Oピークが認められた。また、試料1〜5の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、指紋領域までほぼ一致していた。さらに、FT−IRによる吸光度比(D1230/D1250)は試料1では0.73、試料2では0.75、試料3では0.71、試料4では0.73、試料5では0.75、試料6では1.04、試料8では1.09、試料9では1.04であった。なお、試料7ではD1230のピークとD1250のピークとが分離しなかったため、D1230/D1250は算出できなかった。
適合PANである試料1〜5にC=Oピークが認められず、非適合PANである試料6〜9にC=Oピークが認められたことから、C=Oピークの有無によっても適合PANと非適合PANとを識別できることがわかる。
また、適合PANである試料1〜5のD1230/D1250は0.75以下と非常に小さい値であるのに対し、非適合PANである試料6、8、9のD1230/D1250は1.00を超える大きい値であったことから、D1230/D1250によっても適合PANと非適合PANとを識別できることがわかる。
なお、図25に示すように、FT−IRによる吸光度比(D1230/D1250)と2回目の放電容量との間には強い相関がある。具体的には、両者の相関係数は−0.83であり、両者には負の相関がある。
〈熱質量分析による硫黄系正極活物質の分析〉
試料1〜9の硫黄変性ポリアクリロニトリルの熱質量変化(TG)を測定した。測定装置としてはリガク製熱分析装置(Thermo Plus TG8120)を用いた。詳しくは、高純度窒素ガスを100ml/分の流量で供給しつつ、各試料を室温から550℃まで10℃/分の昇温速度で加熱し、温度と質量変化との関係を測定することによって、熱質量−示差熱分析を行った。分析結果を図26〜34に示す。
図26〜34に示すように、試料6〜9には100℃以下の低温域での質量変化および温度変化がみられたが、試料1〜5にはそのような質量変化や温度変化はみられなかった。この低温域での質量変化および温度変化は水の存在を示すため、試料6〜9には水が含まれていることがわかる。また、試料4、7には240付近、および、320℃〜370℃以上の高温域での温度変化がみられた。この温度変化は不純物の存在を示すため、試料4、7に不純物が含まれることがわかる。これらの結果から、水および/または不純物によっても適合PANと非適合PANとを識別できることがわかる。
1:反応装置 2:反応容器 3:蓋 4:熱電対

Claims (10)

  1. 硫黄およびポリアクリロニトリルを材料とする硫黄変性ポリアクリロニトリルであって、
    粒子全体のなかで粒子径1μm以下の粒子および/または該粒子の集合体の占める領域が、撮像面積比で80%以上であり、
    該ポリアクリロニトリルのフーリエ変換型赤外分光による1230cm −1 における吸光度D 1230 と、1250cm −1 における吸光度D 1250 と、の吸光度比D 1230 /D 1250 が0.75以下であることを特徴とする硫黄変性ポリアクリロニトリル。
  2. 硫黄およびポリアクリロニトリルを材料とする硫黄変性ポリアクリロニトリルであって、
    粒子全体のなかで粒子径1μm以下の粒子および/または該粒子の集合体の占める領域が、撮像面積比で80%以上であり、
    前記ポリアクリロニトリルは、フーリエ変換型赤外分光によるC=O由来のピークが確認されないことを特徴とする硫黄変性ポリアクリロニトリル。
  3. ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトの1331cm−1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm−1〜1800cm−1の範囲内で1548cm−1、939cm−1、479cm−1、381cm−1、317cm−1付近にそれぞれピークが存在する請求項1または請求項2に記載の硫黄変性ポリアクリロニトリル。
  4. 前記D1230/D1250が0.73以下である請求項1または請求項3に記載の硫黄変性ポリアクリロニトリル。
  5. 請求項1〜請求項の何れか一つに記載の硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として含むことを特徴とする非水電解質二次電池用正極。
  6. 請求項1〜請求項の何れか一つに記載の硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質として正極に含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
  7. 請求項に記載の非水電解質二次電池を搭載していることを特徴とする車両。
  8. 非水電解質二次電池の正極活物質として用いられる硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法であって、
    粒子全体のなかで粒子径1μm以下の粒子および/または該粒子の集合体の占める領域が、撮像面積比で80%以上であるものを適合品と判断し、それ以外のものを非適合品と評価することを特徴とする硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法。
  9. 請求項に記載の硫黄変性ポリアクリロニトリルの評価方法を含むことを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
  10. 硫黄およびポリアクリロニトリルを材料とする硫黄変性ポリアクリロニトリルであって、
    該ポリアクリロニトリルが塊状重合、懸濁重合または溶液重合で製造されたものであることを特徴とする硫黄変性ポリアクリロニトリル。
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