JP5889800B2 - 大腸菌形質転換体、それを用いたフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法、および、変異型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ - Google Patents
大腸菌形質転換体、それを用いたフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法、および、変異型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ Download PDFInfo
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Description
ある遺伝子を何らかの宿主に導入して発現させる際には、実際にどのような遺伝子を、どのような異種宿主にどのように導入するかによって、効果の度合いは一律ではない。特に、異種宿主への導入、中でも、真核生物由来の遺伝子を大腸菌へと導入しようとする場合には、公知の方法を用い、同種の酵素に関する知見を参考にした場合であっても、導入自体うまくいかないか、宿主での発現がうまくいかないことが多くある。大腸菌は翻訳後修飾系を持たないため、例えばカビ等の真核生物由来の酵素であって、その酵素活性にとって翻訳後修飾が必要である場合等に、この酵素を大腸菌で活性を発現させることは一般に非常に困難を伴うことが多い。例えば、カビ由来の酵素を大腸菌で発現させた場合、発現できた場合でも不溶性の封入体となってしまう場合がほとんどである。
そのような背景の下、カビ等の真核生物由来の酵素を大腸菌において活性型として発現させ、さらに効率的に生産させることのできる遺伝子、宿主、導入方法等の組み合わせを個々に見出すことは、産業上非常に有用であり、優れた性質を有するFAD−GDHが求められていることと併せて、そのような優れた性質を有する酵素を工業生産に有利な大腸菌において効率的に生産できる技術の確立も、強く求められている。
本発明者等は、このGDHを精製し諸性質を決定した結果、この酵素が新規なフラビン結合型GDHであることを確認し、実際にマルトース、D−ガラクトース、D−キシロース存在下でのD−グルコース測定を実施するとともに、その新規なGDHのアミノ酸配列とそれをコードする遺伝子配列情報を取得した。さらに、本来の由来微生物の培養物からでは十分な量の酵素を取得することが困難であるという課題を解決するために、同種および異種の各種微生物にこの遺伝子を導入することを着想し、検討を重ねた。その一環として、例えば、発明者等は、同じカビ類に属するAspergillus属の微生物(Aspergillus sojae)を宿主とする形質転換体の作製を試みた。しかしながら、この方法によって得られるGDHのほとんどは本来の由来微生物で生産する場合と同様、菌体内で生産され、酵素の抽出工程等に同様の時間と手間を要すること、また、同じカビ類であるために、本来の由来微生物を培養する場合と比較して培養時間の短縮という観点からも大幅な改良効果が得られないことが判明した。
そこで発明者等は、培養時間の短縮や菌体破砕の容易性等の点でより有利な宿主候補である大腸菌を宿主の候補とし、ケカビ由来フラビン結合型GDHをコードする遺伝子を大腸菌へと導入して形質転換体を得て、この大腸菌形質転換体を培養し、この培養物よりフラビン結合型GDHを取得することを試みた。しかしながら、本発明者等が見出した新規なGDHは、その全長遺伝子を導入した際には、大腸菌での発現量が非常に低いことが確認された。
そこで、この問題を解決するために発明者等はさらに検討を重ねた結果、このGDHのN末端領域に存在するMKITAAIITVATAFASFASAに相当するアミノ酸配列を欠失させた変異型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を作製して適当なベクター等に導入し、これを用いて大腸菌を形質転換して大腸菌形質転換体を得た。そして、この大腸菌形質転換体を培養し、該培養物よりN末端欠失型の変異型フラビン結合型GDHを採取することにより、より多くのフラビン結合型GDHを効率的に取得できることを見出し、本発明を完成した。
(1)ケカビ亜門、好ましくは、ケカビ綱、より好ましくは、ケカビ目、さらに好ましくはケカビ科に分類される微生物に由来する野生型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMKITAAIITVATAFASFASAに相当するアミノ酸配列を含むN末端領域を欠失させた変異型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を大腸菌に導入して得られる大腸菌形質転換体。
(2)配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と85%以上同一なアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMKITAAIITVATAFASFASAに相当するアミノ酸配列を含むN末端領域を欠失させた変異型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を大腸菌に導入して得られる大腸菌形質転換体。
(3)上記(1)〜(2)記載の大腸菌形質転換体を培養し、該培養物よりフラビン結合型GDHを採取することを特徴とする、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
(4)配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と85%以上同一なアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるフラビン結合型GDHのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMKITAAIITVATAFASFASAに相当するアミノ酸配列を含むN末端領域を欠失させたフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ。
本発明に用いるフラビン結合型GDHは、ケカビ亜門、好ましくは、ケカビ綱、より好ましくは、ケカビ目、さらに好ましくは、ケカビ科に分類される微生物から得ることができる。ケカビ亜門、好ましくは、ケカビ綱、より好ましくは、ケカビ目、さらに好ましくは、ケカビ科に分類される微生物としては、例えば、ムコール(Mucor)属、アブシジア(Absidia)属、アクチノムコール(Actinomucor)属等が挙げられる。Mucor属に分類される微生物であって、本発明に用いるフラビン結合型GDHを生産する具体的な好ましい微生物の例としては、ムコール・プライニ(Mucor prainii)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)もしくはムコール・シルシネロイデス・f・シルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)が挙げられる。より具体的には、Mucor prainii NISL0103、Mucor javanicus NISL0111もしくはMucor circinelloides f. circinelloides NISL0117が挙げられる。Absidia属に分類される微生物であって、本発明に用いるフラビン結合型GDHを生産する具体的な好ましい微生物の例としては、アブシジア・シリンドロスポラ(Absidia cylindrospora)、アブシジア・ヒアロスポラ(Absidia hyalospora)を挙げることができる。より具体的には、Absidia cylindrospora NISL0211、Absidia hyalospora NISL0218を挙げることができる。Actinomucor属に分類される微生物であって、本発明に用いるフラビン結合型GDHを生産する具体的な好ましい微生物の例としては、アクチノムコール・エレガンス(Actinomucor elegans)を挙げることができる。より具体的には、Actinomucor elegans NISL9082を挙げることができる。なお、上記の菌株はNISL(財団法人 野田産業科学研究所)の保管菌株であり、所定の手続きを経ることにより、分譲を受けることができる。
本発明に用いるフラビン結合型GDHは、本発明者等が見出したもので、基質特異性に優れ、D−グルコースに対する選択性が極めて高いことを特徴とする。具体的には、本発明に用いるフラビン結合型GDHは、マルトース、D−ガラクトース、D−キシロースに対する反応性が極めて低い。具体的には、D−グルコースに対する反応性を100%とした場合に、マルトース、D−ガラクトースおよびD−キシロースに対する反応性がいずれも2%以下であることを特徴とする。本発明に用いるフラビン結合型GDHは、このような高い基質特異性を有するため、マルトースを含む輸液の投与を受けている患者や、ガラクトース負荷試験およびキシロース吸収試験を実施中の患者の試料についても、測定試料に含まれるマルトース、D−ガラクトース、D−キシロース等の糖化合物の影響を受けることなく、正確にD−グルコース量を測定することが可能となる。
本発明に用いるフラビン結合型GDHとして好ましい酵素の例としては、以下の酵素化学的特徴を有するものが挙げられる。
(1)作用:電子受容体存在下でGDH活性を示す
(2)分子量:タンパク質のポリペプチド鎖部分の分子量が約80kDaである
(3)基質特異性:D-グルコースに対する反応性と比較して、マルトース、D−ガラクトース、D−キシロースに対する反応性が低い
(4)至適pH:pH6.5〜7.0
(5)至適温度:37〜40℃
(6)安定pH範囲:pH3.5〜7.0
(7)熱安定性:40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有する
(8)フラビン化合物を補酵素とする
(9)Km値:D−グルコースに対するKm値が26〜33mMである
上記のような酵素化学的特徴を有するGDHであれば、測定試料に含まれるマルトース、D−ガラクトース、D−キシロース等の糖化合物の影響を受けることなく、正確にD−グルコース量を測定することが可能となる。また、血糖値の測定等の臨床診断に応用するために好適なpH範囲、温度範囲で良好に作用するので、診断用測定試薬等の用途に好適に使用することができる。
なお、上記の諸性質パラメータは典型的な例であるが、所定の測定条件においてD−グルコースの測定を行う際に本発明の効果を達成可能である範囲で、上記パラメータのうちには、許容可能な変動の幅を有するものがある。例えば、安定pH範囲や至適pH範囲、至適温度範囲等のパラメータは、所定の測定条件を含む範囲で、上記の典型的な範囲よりやや広くてもよいし、逆に、上記の典型的な範囲よりやや狭い場合でも、測定条件において十分な活性および/または安定性が確保されていればよい。Km値は一般的には小さくなるほど基質特異性が良いとされるが、本発明の酵素としては、所定の測定条件において実質的に十分な基質の選択が実現される範囲の値を有していればよい。
精製酵素とは、当該酵素以外の成分、特に当該酵素以外のタンパク質(夾雑タンパク質)を実質的に含まない状態に分離された酵素をいう。具体的には、例えば、夾雑タンパク質の含有量が重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。なお、本明細書中に後述する「MpGDH」、「MjGDH」および「McGDH」は、特に断りの無い限り、精製酵素をいう。
本発明に用いるフラビン結合型GDHとして好ましい酵素の例としては、D−グルコースに対するKm値が26〜33mMであるフラビン結合型GDHが挙げられる。
本発明に用いるフラビン結合型GDHは、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。
したがって、この原理を利用して、例えば、電子受容体としてフェナジンメトサルフェート(PMS)および2,6−ジクロロインドフェノール(DCIP)を用いた以下の測定系により、本発明に用いるフラビン結合型GDHの活性を測定することができる。
(反応1) D−グルコ−ス + PMS(酸化型)
→ D−グルコノ−δ−ラクトン + PMS(還元型)
(反応2) PMS(還元型) + DCIP(酸化型)
→ PMS + DCIP(還元型)
具体的には、フラビン結合型GDHの活性は、以下の手順に従って測定する。100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 1.79mL、1.25M D−グルコース溶液 0.08mLおよび20mM DCIP溶液 0.01mLを混合し、37℃で5分間保温する。次いで、20mM PMS溶液 0.02mLおよび酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、反応を開始する。反応開始時、および、経時的な吸光度を測定し、酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)を求め、次式に従いフラビン結合型GDH活性を算出する。この際、フラビン結合型GDH活性は、37℃において濃度50mMのD−グルコース存在下で1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量を1Uと定義する。
本発明に用いるフラビン結合型GDHは、配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と85%以上相同なアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有することを特徴とする。配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHは、上述の各種の性質を有する。また、配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列と85%以上の相同性、好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHと同様な諸性質を有するGDHも、本発明のフラビン結合型GDHに含まれる。
本発明に用いるフラビン結合型GDHをコードする遺伝子とは、配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と85%以上相同なアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHをコードするDNAをいう。または、本発明に用いるフラビン結合型GDHをコードする遺伝子とは、配列番号2又は配列番号4で示される塩基配列からなるDNAをいう。あるいは、本発明に用いるフラビン結合型GDHをコードする遺伝子とは、配列番号2又は配列番号4で示される塩基配列と85%以上の相同性、好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を有し、且つフラビン結合型GDH酵素活性をもつタンパク質をコードするDNAをいう。
本発明に用いるフラビン結合型GDHをコードする遺伝子は、適当な公知の各種ベクター中に挿入することができる。さらに、このベクターを適当な公知の各宿主に導入して、フラビン結合型GDH遺伝子を含む組換え体DNAが導入されている形質転換体を作製することができる。これらの遺伝子の取得方法や、遺伝子配列、アミノ酸配列情報の取得方法、各種ベクターの製造方法や形質転換体の作製方法は、当業者にとって公知であり、一例を後述する。
上記の組換えベクターで宿主微生物を形質転換することにより、本発明の形質転換体が得られる。本発明の形質転換体における宿主の例としては、大腸菌(エシェリヒア・コリー、Escherichia coli)に属する微生物が挙げられる。エシェリヒア・コリーに分類される具体的な好ましい微生物としては、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーBL21(DE3)、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどの細菌が挙げられ、これらの菌株は各種市販されている。
大腸菌の形質転換は、宿主により公知の方法で行うことができる。宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、また、エレクトロポレーションによる方法(Methods Enzymol., 194, 182−187(1990))等を用いることができる。さらには、市販のコンピテントセル(例えば、ECOS BL21(DE3);ニッポンジーン社製)を用いても良いが、これらに限定されず、任意の手法で形質転換を行えば良い。
本発明の大腸菌形質転換体およびそれを用いたFAD−GDHの製造方法は、FAD−GDHの組換え発現において、そのN末端領域に存在する一定の長さのペプチド配列を欠失させた変異型GDH遺伝子を大腸菌に導入することを特徴とする。このことにより、ペプチド配列を欠失させない野生型GDH遺伝子を大腸菌に導入させた場合と比較して、および/または、本来の由来微生物を培養してGDHを生産させた場合と比較して、酵素の生産性を顕著に増加させることができる。
本発明に使用するケカビ由来FAD−GDHは実用性に優れた新規酵素であり、そのアミノ酸配列および遺伝子配列もこれまで知られていなかった。したがって、組換え生産はもとより、異種宿主での発現を想定して効率的な生産を行うための着想についても当然ながら全く知られていなかった。実際、本発明者等がケカビ由来FAD−GDHを見出した後に解明したアミノ酸配列および遺伝子配列も、従来知られていたいくつかのFAD−GDHとの相同性が極めて低いものである。すなわち、本発明に使用するFAD−GDHの組換え生産性の効率化に関しては、由来や構造が大幅に異なる他のFAD−GDHの知見をそのまま参照し適用することは困難であることが強く示唆され、個別的な試行錯誤が必要とされた。
本発明に使用するFAD−GDHの組換え生産性の効率化に寄与するN末端の削除領域を検討するにあたり、シグナルペプチドの予測は有効な手段のひとつである。シグナルペプチドは、成熟型タンパク質のN末端に残基数15〜30個に及ぶ延長ペプチドとして存在する。シグナルペプチド配列中には疎水性アミノ酸領域が存在して新生ポリペプチド鎖の小胞体膜への付着および膜通過を先導し、膜通過後にはシグナルペプチドは切断される。すなわち、シグナルペプチドは細胞内の輸送に利用されるものであり、輸送後には切断されてしまう性質のものであるため、GDHのシグナルペプチド領域はGDHの活性自体には関与しないものである。したがって、シグナルペプチドであるとわかっている領域内での削除によって、酵素活性そのものが損なわれる恐れは低いと考えられる。
さらに、本発明に使用するケカビ由来FAD−GDHを大腸菌宿主において異種発現させる場合には、シグナルペプチドは、原株において認められる輸送の機能をもたないばかりか、大腸菌内では疎水性の高いペプチド鎖が付加されたままで存在することとなり、GDHの安定性を下げるなど、むしろ発現量を下げる要因になってしまう可能性があることが示唆される。
上記のような理由から、適当なツールを用いて、シグナルペプチドの長さを予測し、その近傍の位置でN末端を欠失させた変異型GDH遺伝子を作製し、これらを大腸菌に導入して酵素発現の状態を比較することは、好適な長さのN末端欠失領域の決定にとって有効な手段である。こうしたシグナルペプチド予測用のツールとしては、例えば、WEB上のシグナルペプチド予想プログラム(SignalP、「www.cbs.dtu.dk/services/SignalP−2.0/」)等が知られている。
本発明の大腸菌形質転換体およびそれを用いたFAD−GDHの製造方法では、ケカビ由来GDHのN末端領域に存在するシグナルペプチドに相当する領域を含むN末端領域を欠失させることにより、大腸菌で発現させた際の発現量を向上させることができる。具体的には、例えば、配列番号1または配列番号3に記載されたアミノ酸配列を有するGDHにおいては、そのN末端に存在するMKITAAIITVATAFASFASAのアミノ酸配列を含むN末端領域をコードするDNAを削除して発現させることにより、シグナルペプチドを欠失させることができる。この領域を削除することにより、本発明の大腸菌形質転換体によって生産されるGDHの発現量および/または生産量を顕著に増加させることができる。
なお、本発明における「そのN末端に存在するMKITAAIITVATAFASFASAに相当するアミノ酸配列」とは、配列番号1、または配列番号3に記載されたアミノ酸配列を有するGDHと一定の相同性(例えば、85%以上、好ましくは90%、より好ましくは95%以上の同一性)を有するGDHにおいて相当するアミノ酸配列をいう。これらの一定以上のアミノ酸配列同一性を有するGDH間における、「相当する位置・配列」の対応関係は、既製のアミノ酸の相同性解析用ソフト、例えば、GENETYX−Mac(Software Development社製)等を用いて、各種GDHのアミノ酸配列と配列番号1、または配列番号3のGDHのアミノ酸配列とを比較することにより、容易に知ることができる。
本発明者等が見出したケカビ由来のGDHと相同性が高いGDHは、現状では他に報告されてはいない。しかし、一般に、互いに相同性が高い酵素タンパク質においては、相同性の高い領域でのタンパク質構造が類似している可能性が高いことから、一定以上のアミノ酸配列同一性を有する複数の酵素の相同性解析によりそれらのアミノ酸配列の対応関係を解析し、一方における特定のアミノ酸の位置またはアミノ酸配列領域に相当する他方のアミノ酸の位置またはアミノ酸配列領域に同様の変異や削除等を導入することによって、酵素の性質に関して同様の効果を与えることができる例も多く知られている。従って、GDHに関しても、配列番号1または3で例示された本発明におけるGDHのN末端ペプチドの削除領域に関する本発明の知見を利用し、これらのGDHに関しても同様の効果を得るための方策として、その他のGDHにおいて相当する領域のアミノ酸配列を同様に削除する試みを容易に行うことができる。
N末端ペプチドの削除方法は限定されないが、公知の手段を用い、例えば、シグナルペプチド切断によりN末端となるアミノ酸を開始コドンであるメチオニンに変えて発現させる方法が挙げられる。または、シグナルペプチド切断によりN末端となるアミノ酸に開始コドンであるメチオニンを付加することで、シグナルペプチド欠失型のGDHを大腸菌で発現させることも可能である。あるいは、上述の通り、シグナルペプチドを含み若干の隣接領域を含むペプチドを削除することを想定し、想定される領域での切断を行った場合にN末端となるアミノ酸を開始コドンであるメチオニンに変えて発現させる方法や、切断によりN末端となるアミノ酸に開始コドンであるメチオニンを付加する方法も考えられる。
一定のN末端領域を切断する際に、新たにできるN末端をメチオニンに置換するか、あるいは置換せずにメチオニンを付加するかによって、得られるGDHのアミノ酸配列は1残基違ってくるが、これはシグナルペプチドの削除によって新たにできるN末端がメチオニンでなくなった場合に開始コドンを付与して遺伝子からのタンパク質発現を正常に行わせるために行う操作であって、本発明の必須要件ではない。
上記の形質転換により得られる大腸菌形質転換体を用いて、フラビン結合型GDHを製造する。具体的には、上記の形質転換により得られる大腸菌形質転換体を培養し、該培養物よりフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを取得することができる。
ある有用なタンパク質をコードする遺伝子を異種の宿主に導入することによって生産させる技術は、理論的には公知である。しかしながら、実際には、どのような遺伝子を、どのような異種宿主にどのように導入するかによって、その効果の度合いは一律ではなく、異種宿主へ導入しようとしても導入自体うまくいかないか、異種宿主での発現がうまくいかないことは多くある。すなわち、個々の物質生産において、具体的にどのような遺伝子を、どのような宿主にどのように導入した場合に効率的な製造が可能となるかを見出すことは容易とはいいがたく、効率的な製造を実現し得る遺伝子、宿主、導入方法等の組み合わせを見出すことは、産業上非常に有用である。
本発明の大腸菌形質転換体を培養することにより、本発明に用いるフラビン結合型GDHの由来微生物(すなわち、ケカビ)そのものを培養して製造を行う場合と比較して、格段に効率の良い酵素の製造を実現できる。具体的には、より多くの酵素を製造できるようになる。本発明に使用する各種ケカビ由来のフラビン結合型GDHは、本来の由来微生物を培養した場合には、フラビン結合型GDHの生産量は十分とはいいがたく、より大スケールでの菌体培養が必要となる。また、培養にも3〜5日を要するとともに、培養後の菌体を遠心分離で菌体を取得し菌体破砕(酵素抽出)を行う工程、さらに、再度遠心分離して粗酵素液を調製するという工程を必要とする。本発明の形質転換体(すなわち、大腸菌)を用いれば、培養日数および、菌体破砕(酵素抽出)工程を大幅に短縮することができ、効率的な製造が可能となる。
本発明の大腸菌形質転換体の培養は、通常の固体培養法で培養してもよいが、可能なかぎり液体培養法を採用して培養するのが好ましい。培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機物、その他の栄養素を適宜含有するものであればよく、また、合成培地、天然培地の何れでもよく、目的の酵素を効率よく製造することのできる培地であれば、如何なる培地でもよい。
培地に使用する炭素源としては、同化可能な炭素化合物であればよく、例えばグルコース、デンプン加水分解物、グリセリン、フラクトース、糖蜜などが挙げられる。窒素源としては、利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー、大豆粉、マルツエキス、アミノ酸、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどが挙げられる。無機物としては、例えば、食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、硫酸第1鉄、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウムなどの種々の塩が挙げられる。その他、必要に応じてビタミン類、消泡剤などを添加してもよい。
その他にも、添加することにより本発明に用いるフラビン結合型GDHの製造量を向上させることができる栄養源や成分があれば、単独で、あるいは組み合わせて用いてもよい。
1.GDH生産菌のスクリーニング
自然界から分離した菌株および微生物保存機関((財)野田産業科学研究所)から分与された保存菌約500株から、GDH生産菌のスクリーニングを行った。マルツエキス培地(マルツエキス2.0%、D−グルコース2.0%、ポリペプトン0.1%、pH6.0)3mlに供試菌株をそれぞれ接種し、3〜5日、30℃で振とう培養した。この培養液を800×g、10分間遠心分離して菌体を沈殿として得た。その後、この菌体を10mM 酢酸緩衝液(pH5.0)中に懸濁し、ビーズショッカー(安井器械(株)製)により菌体を破砕(2,000rpm、60秒、16回)し、4℃、20,000×g、10分間の遠心によって回収された上清を粗酵素液とした。
以下の手順に従って各溶液を混合し、吸光度を測定して、粗酵素液中のGDH活性を調べた。100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 1.79mL、1.25M D−グルコース溶液 0.08mLおよび20mM DCIP溶液 0.01mLを混合し、37℃で5分間保温後、20mM PMS溶液 0.02mLおよび酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、反応を開始した。反応開始時から酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)を測定し、次式に従いGDH活性を算出した。この際、GDH活性は、37℃において濃度50mMのD−グルコ−ス存在下で1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量を1Uと定義した。
前培養用培地(イーストエキス 2.0 %、グルコース 4%、pH6.0)0.1Lを0.5L容坂口フラスコに入れ、予めプレート培地上で培養したMucor prainii NISL0103、Mucor javanicus NISL0111、Mucor circinelloides f. circinelloides NISL0117を、約1cm2分それぞれ接種し、30℃、130rpmで2日間回転振とう培養した。これを種培養として、30L容ジャーファメンターに入れた上記培地20Lに0.2Lずつ接種し(ジャーファメンター2基)、30℃、200rpm、0.5vvmで3日間培養した。培養終了後、培養液40Lをろ布でろ過し、菌体を回収した。次いで、得られた菌体を10mM 酢酸緩衝液(pH5.0)に懸濁した。
この上清を、緩衝液A(10mM 酢酸緩衝液、2M 硫酸アンモニウム、pH5.0)にて予め平衡化したブチルトヨパール650C(東ソー社製)カラム(26φ×28.5cm)にかけ、緩衝液Aから緩衝液B(10mM 酢酸緩衝液、pH5.0)のリニアグラジエントによって溶出させた。溶出された活性画分をセントリコンプラス−70(ミリポア社製)で濃縮後、緩衝液C(10mM 酢酸緩衝液、pH4.5)で透析し、予め緩衝液Cで平衡化したSPセファロースFastFlow(GEヘルスケア社製)カラム(26φ×28.5cm)にかけ、緩衝液Cから緩衝液D(10mM 酢酸緩衝液、200mM 塩化カリウム、pH4.5)のリニアグラジエントで溶出させた。溶出された活性画分を濃縮し、精製酵素を得た。
以降、各精製酵素について、Mucor prainii NISL0103由来のGDHをMpGDH、Mucor javanicus NISL0111由来のGDHをMjGDH、Mucor circinelloides f. circinelloides NISL0117由来のGDHをMcGDHと表記する。
実施例2により得られた各精製GDHの諸性質を調べた。
(a)吸収スペクトルの測定
MpGDH、MjGDHおよびMcGDHを10mM 酢酸緩衝液(pH5.0)で透析し、250−800nmにおける吸収スペクトルを分光光度計U−3010(日立ハイテクノロジーズ社製)により測定した。測定結果を図1に示す(図1(A)はMpGDHの吸収スペクトル、図1(B)はMjGDHの吸収スペクトル、図1(C)はMcGDHの吸収スペクトルを示す)。いずれのGDHについても、波長340〜350nm付近および波長420〜430nm付近に極大を示す2つのピークが確認され、このような吸収スペクトルの形状がフラビン酵素に特有の形状であることから、本発明のGDHがフラビン結合型タンパク質であることが強く示唆された。
実施例2により得られたMpGDH、MjGDHおよびMcGDHと、Aspergillus niger由来の市販のグルコースオキシダーゼ(GOD、biozyme laboratories社製)を用いて、GDH活性およびGOD活性を測定した。結果を表2に示す。
GDH活性は、実施例1の方法に準じ、GOD活性は、4−アミノアンチピリン(4−AA)、およびN−エチルーN−(2−ヒドロキシー3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)を使用した以下の方法で測定した。100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 30.0mL、833mM D−グルコース溶液 6.0mL、25mM 4−AA溶液 0.3mL、40mM TOOS溶液 0.3mLおよび500U/mL POD溶液 0.3mLを混合後、3.0mLを試験管に移し、37℃で5分間保温後、酵素サンプル溶液0.1mLを添加して反応を開始した。酵素反応の進行に伴う555nmにおける吸光度の1分間あたりの増加量(ΔA555)を測定し、次式に従ってGOD活性を算出した。この際、GOD活性は、37℃において濃度131mMのD−グルコース存在下で1分間に1μmolのH2O2を生成する酵素量を1Uと定義した。
上記のフラビン結合型GDHにおける至適pHを調べた。結果を図2に示す(図2(A)はMpGDH、(B)はMjGDH、(C)はMcGDHの結果を示す)。具体的には、100mM 酢酸カリウム緩衝液(pH5.0−5.5、図中△印でプロット)、100mM MES−NaOH緩衝液(pH5.5−6.5、図中斜め四角印でプロット)、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0−8.0、図中丸印でプロット)、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5−9.0、図中×印でプロット)を用い、それぞれのpHにおいて、温度37℃にて酵素反応を行い、相対活性を比較した。
その結果、上記のフラビン結合型GDHはいずれも、pH6.5もしくはpH7.0において最も高い活性を示し、pH7.0付近に至適pHを有していた。個別にみると、MpGDHおよびMcGDHの相対活性が最も高かったのはpH7.0においてであり、その周辺域として、pH6.5−7.5の範囲で最大相対活性値の80%以上を示したことから、この範囲で好適に使用できると考えられた。また、MjGDHの相対活性が最も高かったのはpH6.5においてであり、その周辺域として、pH6.0−7.0の範囲で最大相対活性値の80%以上を示したことから、この範囲で好適に使用できると考えられた。
実施例1記載の活性測定法に準じ、種々の温度にて本酵素の活性測定を行った。具体的には、100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 1.79mL、1.25M D−グルコース溶液 0.08mLおよび20mM DCIP溶液 0.01mLを混合し、37℃で保温する代わりに各温度で5分間保温後、20mM PMS溶液 0.02mLおよび酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、各温度にて反応を開始した。反応開始時、および、2分後の吸光度を測定し、酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量を求めた。結果を図3に示す(図3(A)はMpGDH、(B)はMjGDH、(C)はMcGDHの結果を示す)。いずれも37℃付近で最大の活性を示し、最大活性に対して80%以上の活性を示す温度範囲は30〜40℃であった。以上より、本発明のフラビン結合型GDHの至適温度範囲は、30〜40℃、最も好ましい温度は37℃であると考えられた。
前記活性測定法において、基質であるD−グルコース濃度を変化させて活性測定を行い、ラインウェーバー・バークプロットから、ミカエリス定数(Km)を求めた。この結果、D−グルコースに対するKm値は、MpGDHで31.1mM、MjGDHで26.4mM、McGDHで33.2mMであった。
100mM 酢酸カリウム緩衝液(pH5.0)を用いて、本発明のフラビン結合型GDHを各温度で15分間処理した時の熱安定性の結果を図4に示す(図4(A)はMpGDH、(B)はMjGDH、(C)はMcGDHの結果を示す)。本発明のフラビン結合型GDHは、40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有しており、約40℃まで安定であることがわかった。
次いでこれらのフラビン結合型GDHにおける安定pHを調べた。結果を図5に示す(図5(A)はMpGDH、(B)はMjGDH、(C)はMcGDHの結果を示す)。具体的には、100mM グリシン−HCl緩衝液(pH2.5−3.5、図中四角印でプロット)、100mM 酢酸カリウム緩衝液(pH3.5−5.5、図中△印でプロット)、100mM MES−NaOH緩衝液(pH5.5−6.5、図中斜め四角印でプロット)、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0−8.0、図中丸印でプロット)、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5−9.0、図中×印でプロット)を用い、それぞれのpHにおいて25℃で16時間処理した後、フラビン結合型GDHの残存活性をそれぞれ測定した。その結果、いずれも、最大の残存活性を示したpH5.0付近での活性に対し80%以上の活性を示すpH範囲はpH3.5−7.0であった。以上から、これらのフラビン結合型GDHの安定pH範囲はpH3.5−7.0であることが判った。
スーパーセップエース 10−20%(和光純薬工業社製)を用いたSDS−ポリアクリルアミド電気泳動によりMpGDH、MjGDHおよびMcGDHの分子量を求めた。また、脱糖鎖キット(Enzymatic Deglycosylation Kit、PZM製)を用いて、各フラビン結合型GDHを脱糖鎖処理し、同様に電気泳動に供した。結果を図6に示す。泳動サンプルは以下の通りである。
レーン1:分子量マーカー(New England Biolabs社製、Protein Ladder(10−250kDa),上から250kDa、150kDa、100kDa、80kDa、60kDa、50kDa、40kDa、30kDa、25kDa、20kDa、15kDa)
レーン2:MpGDH
レーン3:脱糖鎖処理後のMpGDH
レーン4:MjGDH
レーン5:脱糖鎖処理後のMjGDH
レーン6:McGDH
レーン7:脱糖鎖処理後のMcGDH
レーン8:脱糖鎖反応に使用した酵素
実施例1の酵素活性測定方法に準じ、基質としてはD−グルコース、マルトース、D−ガラクトース、D−キシロース、マンノース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオースをそれぞれ用いて、各基質に対するフラビン結合型GDHの活性を測定した。基質濃度は50mMとした。結果を表3に示す。
これらのフラビン結合型GDHの活性に対する1,10−フェナントロリンの阻害効果を、以下の方法で調べた。実施例1の酵素活性の測定方法に準じ、ただし、終濃度が1mM、5mM、10mM、25mMおよび50mMとなるように1,10−フェナントロリンを添加した場合の酵素活性を求め、1,10−フェナントロリン無添加の阻害率を0%として、その阻害率を計算した。結果を表4に示す。
上述のフラビン結合型GDHを用いて、グルコースの測定を行った。具体的には、100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 1.79mL、D−グルコース溶液(250、750、1,250、1,750、2,500、3,250、4,000、5,000mg/dL) 0.08mLおよび20mM DCIP溶液 0.01mLを混合し、37℃で5分間保温後、20mM PMS溶液 0.02mLおよび0.8U/mL GDH溶液0.1mLを添加し、反応を開始した。酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)とグルコースの終濃度の関係を図7に示す(図7(A)はMpGDHを用いた測定結果、(B)はMjGDHを用いた測定結果、(C)はMcGDHを用いた測定結果を示す)。
100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 1.77mL、D−グルコース溶液(10,000、16,000mg/dL) 0.02mLおよび20mM DCIP溶液 0.01mLを混合した。続いて、マルトース溶液(3,000、6,000、9,000、12,000、15,000mg/dL)もしくはD−ガラクトース溶液(1,500、3,000、4,500、6,000、7,500mg/dL)もしくはD−キシロース溶液(1,000、2,000、3,000、4,000、5,000mg/dL) 0.08mLを添加して37℃で5分間保温した後、20mM PMS溶液 0.02mLおよび2.0U/mL GDH溶液0.1mLを添加し、反応を開始した。酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)、およびグルコースの終濃度の関係を表5〜7に示す。
100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 1.61mL、D−グルコース溶液(10,000、16,000mg/dL) 0.02mLおよび20mM DCIP溶液 0.01mLを混合した。続いて、マルトース溶液(3,000、6,000、9,000、12,000、15,000mg/dL)、D−ガラクトース溶液(1,500、3,000、4,500、6,000、7,500mg/dL)およびD−キシロース溶液(1,000、2,000、3,000、4,000、5,000mg/dL) をそれぞれ0.08mL添加して37℃で5分間保温した後、20mM PMS溶液 0.02mLおよび2.0U/mL のフラビン結合型GDH溶液0.1mLを添加し、反応を開始した。酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)とグルコースの終濃度の関係を表8〜9に示した。
(1)mRNAの調製
Mucor prainii NISL0103をマルツエキス培地(マルツエキス 2.0%、グルコース 4.0%、ポリペプトン 0.1%、pH6.0)3mLに接種し、2日、30℃で振とう培養した。この培養液を濾紙濾過し、菌糸体を回収した。得られた菌糸を液体窒素中で凍結させ、乳鉢を用いて菌糸を粉砕した。次いで、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いて、本キットのプロトコールに従って、粉砕した菌体からmRNAを得た。
実施例2より得られたMpGDHをスーパーセップエース 10−20%(和光純薬工業社製)に供し、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルをQuick−CBB(和光純薬工業社製)を用いて染色し、当該酵素の分子量に相当するバンド部分を切り出した。切り出したゲル断片を外部機関に委託し、その中に含まれるタンパク質の内部アミノ酸配列情報を取得した。その結果、得られたアミノ酸配列は、LVENFTPPTPAQIE(配列番号5)およびIRNSTDEWANYY(配列番号6)であった。
上記の部分アミノ酸配列情報に基づき、ミックス塩基を含有するディジェネレートプライマー(プライマーの一例を配列番号7(フォワードプライマー)、配列番号8(リバースプライマー)に示す)を作製した。なお、配列番号7および8に記載の1文字表記において、混合塩基はそれぞれ、h=a+c+t、r=a+g、y=c+t、d=a+g+tを表す。上記(1)にて調製したMucor prainii NISL0103のmRNAをテンプレートとし、PrimeScript RT−PCR Kit(タカラバイオ社製)を用いて、本キットのプロトコールに従ってRT−PCRを行った。逆転写反応には本キット付属のオリゴdTプライマーを、PCRによるcDNA増幅には配列番号7、8に示すディジェネレートプライマーを用いた。反応液をアガロースゲル電気泳動に供したところ、800bp程度の長さに相当するシングルバンドが確認された。このバンドに含まれる増幅DNA断片を精製し、Ligation Convenient Kit(ニッポンジーン社製)を用いて、pT7Blue(ノバジェン社製)に前記増幅DNA断片をライゲーションすることにより、組換えプラスミドpTMGD−1を構築した。
N末領域のプライマー(配列番号15)およびC末領域のプライマー(配列番号16)を作製し、これらのプライマーおよび上記(1)にて調製したMucor prainii NISL0103のmRNAを用いて、RT−PCRを行った。
反応液をアガロースゲル電気泳動に供したところ、約2kbp程度の長さに相当するシングルバンドが確認された。このバンドに含まれる増幅DNA断片を精製し、制限酵素SmaIで消化したプラスミドpUC19(タカラバイオ社製)とライゲーションを行って、組換えプラスミドpuc−MGDを構築した。
この培養液を氷上で冷却下、超音波破砕器(Ultrasonicgenerator、Nissei社製)を用いて20秒間、4回処理し、破砕した。破砕液をエッペンドルフチューブに入れ、微量遠心機を用い、12,000rpmで10分間遠心分離後、上清画分を別のエッペンドルフチューブに移しかえ、粗酵素液とした。前述の酵素活性測定法によりこの粗酵素液中のGDH活性を測定したところ、本発明のフラビン結合型GDH活性が確認された。
大腸菌による組換え発現に適したMucor属由来GDHをコードするDNAを取得するため、コドン使用頻度を大腸菌にあわせた遺伝子配列を設計し、該遺伝子を全合成した。この全合成したDNA配列を配列番号17に示す。この合成DNAを鋳型とし、N末領域のプライマー(配列番号18)およびC末領域のプライマー(配列番号21)を作製し、In−Fusion法(Clontech社製)により、pET−22b(+)ベクター(Novagen社製)のNdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミド(pET−22b−MpFull)を構築した。
この組換えプラスミドを、公知のヒートショック法により大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(ニッポンジーン社製)に導入した。常法に従いプラスミドを抽出し、全長Mucor属由来GDH遺伝子の塩基配列の確認を行った結果、配列番号17と一致し、cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は641アミノ酸(配列番号3)であった。
次いで、同様に、NS2に関し、配列番号20のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号21のプライマーとの組み合わせによるPCRを行い、NS2をコードするDNA配列をもつ組換えプラスミド(pET−22b−MpNS2)を構築し、大腸菌形質転換体を取得した。なお、それぞれの改変フラビン結合型GDHのDNA配列を持つプラスミドは、DNAシーケンシングにて配列に誤りがないことを確認した。配列番号22は、上記で決定したシグナルペプチド欠失変異体NS1をコードするDNA配列を示す。配列番号23はその対応するアミノ酸配列を示す。配列番号24は、上記で決定したシグナルペプチド欠失変異体NS2をコードするDNA配列を示す。配列番号25はその対応するアミノ酸配列を示す。
この培養液を、氷冷下にて、超音波破砕器(Ultrasonicgenerator、Nissei社製)を用いて10秒間、1回処理して破砕した。破砕液をエッペンドルフチューブに入れ、微量遠心機を用い、12,000rpmで10分間遠心分離後、上清画分を別のエッペンドルフチューブに移しかえて粗酵素液とした。前述の酵素活性測定法により、得られた粗酵素液中のGDH活性を測定し、1ml培養液あたりのGDH活性量を比較した結果、野生型の全長GDH遺伝子を導入した大腸菌形質転換体BL21(DE3)/pET−22b−MpFullでは、0.0815U/mlに留まっていた。一方、N末端のMKITAAIITVATAFASFASAを欠失させMを付加した改変型GDHの遺伝子を導入した大腸菌形質転換体BL21(DE3)/pET−22b−MpNS1では4.10U/ml、N末端のMKITAAIITVATAFASFASAを欠失させ21番目のQをMに置換した改変型GDHの遺伝子を導入した大腸菌形質転換体BL21(DE3)/pET−22b−MpNS2では3.43U/mlの活性が見られた。すなわち、N末端を特定の長さで欠失した本発明の大腸菌形質転換体(BL21(DE3)/pET−22b−MpNS1およびBL21(DE3)/pET−22b−MpNS2)では、シグナルペプチドと予想されるアミノ酸配列を欠失させることにより、そのGDH生産性が約42〜50倍増大することがわかった。
すなわち、本発明の大腸菌形質転換体を用いることによって、実用性に優れた性質を有する本発明のGDHを、より小さい設備で効率よく製造できるようになる。さらに、これら本来のGDH由来微生物(すなわち、ケカビ)の培養工程には、3〜5日という長期間培養工程と、遠心分離で菌体を取得し菌体破砕(酵素抽出)を行う工程、そして、その後に再度遠心分離して粗酵素液を調製するという工程が含まれていたが、本発明の大腸菌形質転換体を用いることによって、培養日数が大幅に短縮できるとともに、宿主が大腸菌となることによって菌体破砕(酵素抽出)工程の負荷も軽減される結果、効率的なGDHの製造が可能となる。
配列番号29は、上記で決定したシグナルペプチド欠失変異体NS3をコードするDNA配列を示す。配列番号30はその対応するアミノ酸配列を示す。配列番号31は、上記で決定したシグナルペプチド欠失変異体NS4をコードするDNA配列を示す。配列番号32はその対応するアミノ酸配列を示す。
この培養液を、氷冷下にて、超音波破砕器(Ultrasonicgenerator、Nissei社製)を用いて10秒間、1回処理して破砕した。破砕液をエッペンドルフチューブに入れ、微量遠心機を用い、12,000rpmで10分間遠心分離後、上清画分を別のエッペンドルフチューブに移しかえて粗酵素液とした。前述の酵素活性測定法により、得られた粗酵素液中のGDH活性を測定し、1ml培養液あたりのGDH活性量を比較した結果、野生型の全長GDH遺伝子を導入した大腸菌形質転換体BL21(DE3)/pET−22b−MpFullでは、0.0196U/mlに留まっていた。一方、N末端のMKITAAIITVATAFASFASAQQDTNSSを欠失させMを付加した改変型GDHの遺伝子を導入した大腸菌形質転換体BL21(DE3)/pET−22b−MpNS3では0.0644U/ml、N末端のMKITAAIITVATAFASFASAQQDTNSSを欠失させ28番目のSをMに置換した改変型GDHの遺伝子を導入した大腸菌形質転換体BL21(DE3)/pET−22b−MpNS4では0.0681U/mlの活性が見られた。すなわち、N末端を特定の長さで欠失した本発明の大腸菌形質転換体(BL21(DE3)/pET−22b−MpNS3およびBL21(DE3)/pET−22b−MpNS4)では、シグナルペプチドと予想されるアミノ酸配列を欠失させることにより、そのGDH生産性が約3.3〜3.5倍増大することがわかった。
なお、本発明の大腸菌形質転換体により生産される本発明GDH(NS1,NS2,NS3,NS4)の基質特異性を実施例3,5に準じて調べた結果、それらは実施例2で得られた精製GDHと概ね同等であることが確認された。
Claims (3)
- 配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一なアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMKITAAIITVATAFASFASAに相当するアミノ酸配列を含むN末端領域を欠失させた変異型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を大腸菌に導入して得られる大腸菌形質転換体。
- 請求項1記載の大腸菌形質転換体を培養し、該培養物よりフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを採取することを特徴とする、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
- 配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一なアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMKITAAIITVATAFASFASAに相当するアミノ酸配列を含むN末端領域を欠失させたフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ。
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