JP6065983B2 - クロマトグラフ質量分析用データ処理装置 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ等のクロマトグラフと三連四重極型質量分析装置(タンデム四重極型質量分析装置とも呼ばれる)とを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置で収集されたデータを処理するクロマトグラフ質量分析用データ処理装置に関し、さらに詳しくは、試料に含まれる化合物の同定や構造推定を行うためのデータ処理装置に関する。
分子量が大きな化合物の同定やその構造解析、或いは定量などを行うために、質量分析の一つの手法としてMS/MS分析(タンデムMS分析)と呼ばれる手法が広く用いられている。MS/MS分析を行うための質量分析装置としては種々の構成のものがあるが、装置構造が比較的簡単で操作や扱いも容易であるのが三連四重極型質量分析装置である。
一般的な三連四重極型質量分析装置では、イオン源で生成された試料成分由来のイオンが前段四重極マスフィルタ(しばしば慣用的にQ1と表記される)に導入され、該前段四重極マスフィルタにおいて特定の質量電荷比を有するイオンがプリカーサイオンとして選別される。このプリカーサイオンが、四重極型又はそれ以上の多重極型のイオンガイド(しばしば慣用的にq2と表記される)が内装されたコリジョンセルに導入される。コリジョンセル内にはアルゴン等の衝突誘起解離ガスが供給され、プリカーサイオンはコリジョンセル内で衝突誘起解離ガスに衝突して開裂を生じ、各種のプロダクトイオンが生成される。この各種プロダクトイオンが後段四重極マスフィルタ(しばしば慣用的にQ3と表記される)に導入され、該後段四重極マスフィルタにおいて特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンが選別される。そして、選別されたプロダクトイオンが検出器に到達して検出される。
こうした三連四重極型質量分析装置は単独で使用されることもあるが、しばしばガスクロマトグラフ(GC)や液体クロマトグラフ(LC)等のクロマトグラフと組み合わせて使用される。特に近年、食品中の残留農薬の検査、環境中の汚染物質の検査、医薬品の血中濃度検査、或いは、薬毒物のスクリーニングといった、多数の化合物が含まれる試料や雑多な夾雑物が混入している試料などを対象とする微量分析の分野においては、ガスクロマトグラフ三連四重極型質量分析装置(以下、慣用に従って「GC-MS/MS」という)や液体クロマトグラフ三連四重極型質量分析装置(以下、慣用に従って「LC-MS/MS」という)が必要不可欠なものとなっている。
一般に、クロマトグラフ三連四重極型質量分析装置におけるMS/MS分析には、MRM(Multiple Reaction Monitoring:多重反応モニタリング)測定モード、プリカーサイオンスキャン測定モード、プロダクトイオンスキャン測定モード、ニュートラルロススキャン測定モード、といった測定モードがある(例えば特許文献1など参照)。
MRM測定モードでは、前段四重極マスフィルタと後段四重極マスフィルタとを通過し得るイオンの質量電荷比をそれぞれ固定し、特定のプリカーサイオンの開裂により生じた特定のプロダクトイオンの強度(量)を測定する。
プリカーサイオンスキャン測定モードでは、後段四重極マスフィルタを通過し得るイオン(プロダクトイオン)の質量電荷比を固定し、前段四重極マスフィルタを通過し得るイオン(プリカーサイオン)の質量電荷比を所定の質量電荷比範囲で走査する。これにより、コリジョンセル内における開裂によって特定のプロダクトイオンを生成する様々なプリカーサイオンのマススペクトルを得ることができる。
プロダクトイオンスキャン測定モードでは、前段四重極マスフィルタを通過し得るイオン(プリカーサイオン)の質量電荷比を固定し、後段四重極マスフィルタを通過し得るイオン(プロダクトサイオン)の質量電荷比を所定の質量電荷比範囲で走査する。これにより、特定のプリカーサイオンがコリジョンセル内で開裂することで生成された各種プロダクトイオンのマススペクトルを得ることができる。
またニュートラルロススキャン測定モードでは、前段四重極マスフィルタを通過し得るイオンの質量電荷比と後段四重極マスフィルタを通過し得るイオンの質量電荷比との差(つまりニュートラルロス)を一定に保ちつつ、前段及び後段四重極マスフィルタを通過し得るイオンの質量電荷比を連動して走査する。これにより、コリジョンセル内での開裂によって特定のニュートラルロスを生じるようなプリカーサイオンとプロダクトイオンとの組み合わせを調べることができる。
上述した各測定モードは、分析の目的や試料の種類、測定対象である化合物の種類などによって使い分けられる。例えばプリカーサイオンスキャン測定モードでは、開裂により元の化合物から生じた特定の部分構造を有するプリカーサイオンを網羅的に検出することができるから、或る特定の部分構造を有する様々な化合物を特異的に調べたい場合に有用である。また、特にイオン化の際に開裂(いわゆるインソース分解)を生じ易い電子イオン化法によるイオン源を搭載した三連四重極型質量分析装置において、プロダクトイオンスキャン測定モードでは、イオン源で開裂により生じた特定の部分構造を有するイオンをプリカーサイオンとして選択し、該プリカーサイオンをさらにコリジョンセル内で開裂させて生成されたプロダクトイオンのマススペクトルが得られる。こうしたマススペクトルのパターンを調べることで、分子量が同一で化学構造のみが相違する構造異性体や位置異性体などを識別することが可能である。
上述したようにプリカーサイオンスキャン測定やプロダクトイオンスキャン測定は化合物の化学構造の推定に有用であるため、GC-MS/MSやLC-MS/MSを用いて複雑な化学構造を有する未知の化合物を同定したり構造推定を行ったりする際には、該化合物由来の特徴的な複数のイオン種についてのプリカーサイオンスキャン測定やプロダクトイオンスキャン測定が実施され、それら測定の結果得られた複数のマススペクトルのスペクトルパターンをデータベースに収録されているマススペクトルのスペクトルパターンと照合し一致性を判断することで化合物を同定する方法が広く利用されている。
こうした従来の化合物同定の処理手順を図6に示す。この例では、同定対象である化合物が属する化合物種を特徴付ける3種のイオン(m/z 155、m/z 158、m/z 284)がプリカーサイオンに設定されプロダクトイオンスキャン測定が実施される。各プロダクトイオンスキャン測定で得られたプロダクトイオンの信号強度をそれぞれ加算して得られたクロマトグラム(トータルイオンクロマトグラム)を作成すると、図6(a)に示すように同定対象の化合物の保持時間の位置にピークが現れる。換言すれば、各クロマトグラム上で検出されるピークの保持時間が一致していれば、それらピークは同一化合物由来のイオンによるピークであると推定できる。そこで、それらピークの出現位置、典型的にはピークトップの位置におけるマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)が図6(b)に示すようにそれぞれ抽出され、それぞれ個別に既知化合物のマススペクトルが収録されているデータベースと照合される。その結果、図6(c)に示すように、3つのデータベース検索結果が得られるから、分析者はこれら複数の検索結果を確認し、例えば共通にヒットしている化合物候補を見つけて最終的に化合物を同定する。
特開2012−159336号公報
しかしながら、上述したように複数のデータベース検索結果を分析者自身が確認・判断して化合物を同定するのは、分析者にとって大きな負担であった。特に医薬品や違法薬物などの場合、化学構造の基本骨格が同一で置換基などが僅かに相違する化合物が多数存在しているため、1つのマススペクトルを用いたデータベース検索によって多数の化合物が候補としてヒットする。そのため、複数のデータベース検索結果を突き合わせて最も一致度が高い化合物を見いだす作業は、慣れた分析者にとってもかなり面倒な作業であり、ミスも生じ易かった。また、そうした作業はスクリーニングなどの際のスループット低下の一因となっていた。
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、同一化合物由来の複数のプロダクトイオンスキャン測定結果やプリカーサイオンスキャン測定結果に基づいたデータベース検索によって該化合物を同定したり構造推定を行ったりする際に、その作業における分析者の負担を軽減しスループットを向上させることができるクロマトグラフ質量分析用データ処理装置を提供することにある。
上記課題を解決するために成された本発明は、クロマトグラフで分離された1つの化合物由来のそれぞれ異なる複数種のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定が実施されることで得られたクロマトグラフ質量分析データを処理し、該化合物を同定するクロマトグラフ質量分析用データ処理装置において、
a)目的化合物由来の1種類のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたマススペクトルをデータベースと照合することにより化合物の候補を抽出する1次抽出処理部と、
b)前記1次抽出処理部により抽出された化合物候補に限定し、前記目的化合物由来の他の1種類のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたマススペクトルをデータベースと照合することにより化合物の候補を絞り込む、という処理を、前記目的化合物を対象として設定された、他の各イオンについてのプリカーサイオンスキャン測定又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたデータに対して実施する2次抽出処理部と、
c)前記2次抽出処理部による化合物候補の絞り込みにより残った候補がある場合に、その結果を出力する結果出力部と、
を備えることを特徴としている。
ここでいうクロマトグラフはガスクロマトグラフ又は液体クロマトグラフである。
本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置において、1次抽出処理部は、同定対象である目的化合物由来の1種類のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたマススペクトルを作成する。そして、このマススペクトルの例えばスペクトルパターンをデータベースに収録されているマススペクトルと照合し、類似したマススペクトルを有する化合物を探索することで化合物の候補を抽出する。
次いで、2次抽出処理部は、上記1次抽出処理部により抽出された化合物候補に探索の範囲を限定したうえで、目的化合物由来の他の1種類のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたマススペクトルに基づいたデータベース検索を実行して、化合物の候補を絞り込む。また、目的化合物を対象として設定されたイオン種が3以上である場合には、同様に探索範囲を絞ったデータベース検索を行うことで、化合物の候補をさらに絞り込む。そして、結果出力部は、上記2次抽出処理部による1乃至複数回の化合物候補の絞り込みの結果、残った候補がある場合に、その結果を例えば表示モニタの画面上に出力する。
このようにして、本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置では、1つの化合物に対し設定された複数種のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定によりそれぞれ得られるマススペクトルに基づくデータベース検索の結果を総合的に反映させた同定結果を出力することができる。
また本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置の一態様として、好ましくは、目的化合物由来の各種イオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたデータに基づいてそれぞれクロマトグラムを作成し、その複数のクロマトグラム上で保持時間が同一であるとともに、ピークの高さ又は面積が所定の閾値以上であるピークを検出し、その検出したピークに対応するマススペクトルのみを上記1次抽出処理部及び上記2次抽出処理部におけるデータベース検索に供する対象マススペクトル選択部、をさらに備える構成とするとよい。
ここで、ピークの高さ又は面積を判定するための所定の閾値については、分析者が適宜設定できるようにしておくとよい。
この構成によれば、例えば、プロダクトイオンスキャン測定のターゲットである複数のプリカーサイオンの1つがイオン源において十分に生成されず、そのために該プリカーサイオン由来のプロダクトイオンも十分に生成されないような場合に、そのときのマススペクトルは1次抽出処理部又は2次抽出処理部におけるデータベース検索には供されない。そのため、そのほかのイオンに対するデータベース検索結果のみを利用して最終的な同定結果を出力することができる。
これにより、例えば目的化合物由来の一部のイオン種が十分な感度で検出されなかったような場合でも、同定不能との結果を出力するのではなく、目的化合物である可能性のある候補を分析者に提示することができる。また、予め設定された複数種のイオンのうちの少なくとも1つについて十分な感度で検出されるような化合物に対し可能性のある化合物の候補を分析者に提示することができるので、例えば様々な化合物に対する特徴的なイオン種をそれぞれ1つずつ設定しておくことで、多成分一斉分析を行うこともできる。
また本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置の別の態様として、上記1次抽出処理部及び上記2次抽出処理部は、データベース検索の際にマススペクトルの類似度を算出し、該類似度が所定の閾値以上であることを条件に化合物の候補を選択するとともに、該類似度が所定の閾値以上である候補がない場合には、そのマススペクトルに基づく絞り込みを実施しないようにする構成とすることが好ましい。
この構成によれば、或る1又は複数種のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定により得られるマススペクトルに基づくデータベース検索でマススペクトルが類似している化合物が見つからなかった場合に、その検索結果を採用せずに、そのほかのイオンに対するデータベース検索結果のみを利用して最終的な同定結果を出力することができる。これにより、例えば目的化合物由来の一部のイオン種について適切なマススペクトルが得られなかったような場合でも、同定不能との結果を出力するのではなく、目的化合物である可能性のある候補を分析者に提示することができる。
本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置によれば、1つの化合物由来の複数のプロダクトイオンスキャン測定結果やプリカーサイオンスキャン測定結果を利用して該化合物の同定や構造推定を行う際に、複数のマススペクトルに基づくデータベース検索が自動的に連携して行われるので、分析者自らが複数のデータベース検索結果を確認したり比較したりする面倒な手間が不要になり、同定作業のための分析者の負担が大幅に軽減できる。また、化学構造が複雑であったり類似の構造を有する化合物が多数存在したりする場合であっても、そうした化合物の同定作業のスループットを向上させることができる。
本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置を備えたGC-MS/MSの一実施例の概略構成図。 本実施例のGC-MS/MSにおける化合物同定処理のフローチャート。 本実施例のGC-MS/MSにおける化合物同定処理の一例を示す図。 本実施例のGC-MS/MSにおける化合物同定処理の他の例を示す図。 本実施例のGC-MS/MSにおける化合物同定処理の他の例を示す図。 従来の化合物同定の処理手順の説明図。
以下、本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置を備えたGC-MS/MSシステムの一実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、このGC-MS/MSシステムは、GC部1と、MS/MS部2とを含む。GC部1は、微量の液体試料を気化させる試料気化室10と、試料成分を時間方向に分離するカラム12と、カラム12を温調するカラムオーブン11とを備える。一方、MS/MS部2は、図示しない真空ポンプにより真空排気される分析室20の内部に、測定対象である試料を電子イオン化(EI)法によりイオン化するイオン源21と、それぞれ4本のロッド電極から成る前段四重極マスフィルタ22及び後段四重極マスフィルタ25と、内部に多重極型イオンガイド24が配設されたコリジョンセル23と、イオンを検出してイオン量に応じた検出信号を出力する検出器26と、を備える。
分析制御部40は中央制御部41の指示の下に、GC部1及びMS/MS部2の動作をそれぞれ制御する機能を有する。入力部42及び表示部43が接続された中央制御部41は、これらを通したユーザインタフェイスのほか、システム全体の統括的な制御を担う。データ処理部30は、測定により収集されたデータを格納するデータ格納部31と、データベース検索部33を含み化合物データベース34を利用して目的化合物を同定する化合物同定処理部32と、を機能ブロックとして備える。化合物データベース34には、本システムで同定対象とする様々な化合物についてそれぞれ、複数の特徴的なイオン種をプリカーサイオンとしたプロダクトイオンスキャン測定によって得られるマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)や、複数の特徴的なイオン種をプロダクトイオンとするプリカーサイオンスキャン測定によって得られるマススペクトル(プリカーサイオンスペクトル)が予め収録される。
なお、中央制御部41やデータ処理部30はパーソナルコンピュータをハードウエアとして、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより具現化されるものとすることができる。この場合、入力部42はキーボードやポインティングデバイス(マウス等)であり、表示部43はディスプレイモニタである。
本実施例のGC-MS/MSシステムにおける基本的なMS/MS分析動作を概略的に説明する。
試料気化室10内に少量の試料液が滴下されると、試料液は短時間で気化し、該試料中の化合物はヘリウム等のキャリアガスに乗ってカラム12中に送り込まれる。カラム12を通過する間に、試料中の各化合物はそれぞれ異なる時間だけ遅れてカラム12出口に達する。カラムオーブン11は予め決められた温度プロファイルに従って加熱される。イオン源21は、カラム12出口から供給されるガス中の化合物を順次イオン化する。なお、イオン源21はEIイオン源であるため、イオン化の際に化合物の結合の一部が切断され(つまりは開裂が生じ)、1つの化合物由来の様々な断片のイオンが生成される。
分析制御部40により、前段四重極マスフィルタ22及び後段四重極マスフィルタ25の各ロッド電極にはそれぞれ、特定の質量電荷比を有するイオンを通過させるような電圧が印加される。これにより、化合物由来の各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンが前段四重極マスフィルタ22を通り抜けてコリジョンセル23に導入される。コリジョンセル23内には衝突誘起解離ガスが導入されており、コリジョンセル23内に導入されたイオンはこのガスに接触して開裂する。
この開裂により生じた各種プロダクトイオンはイオンガイド24により収束されつつ後段四重極マスフィルタ25に導入され、特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンが後段四重極マスフィルタ25を通り抜けて検出器26に到達する。検出器26による検出信号はデータ処理部30に入力され、データ処理部30ではマススペクトルやマスクロマトグラム等が作成されるとともに、後述するような化合物同定などが実施される。
このGC-MS/MSシステムでは、一般的なGC-MS/MSと同様に、MS/MS分析のモードとして、MRM測定、プロダクトイオンスキャン測定、プリカーサイオンスキャン測定、及びニュートラルロススキャン測定が用意されている。
次に、本実施例のシステムにおいて実施される特徴的な化合物同定処理について説明する。以下に説明する例では、化合物同定のためのデータを収集するために、目的化合物が含まれる試料がGC部1に導入され、GC部1において分離された各種化合物を含む試料ガスに対してMS/MS部2において、目的化合物に特徴的である2種類のイオンをプリカーサイオンとしたプロダクトイオンスキャン測定が繰り返し実行される。ここでいう目的化合物に特徴的であるイオンとは、イオン源21で目的化合物がイオン化される際にインソース分解による開裂によって生成されるイオンである。時間が経過するに伴いプロダクトイオンスキャン測定によって得られる所定の質量電荷比範囲に亘る信号強度データはデータ格納部31にまとめて格納される。
図2は化合物同定処理部32において実施される化合物同定処理の手順を示すフローチャートである。また、図3〜図5はいずれも化合物同定処理の一例を示す図であり、(a)はクロマトグラム波形、(b)はデータベース検索結果を示している。
同定処理が開始されると、化合物同定処理部32はデータ格納部31から目的化合物由来の第1の特徴的なイオンに対するプロダクトイオンスキャン測定により得られたデータを時系列順に読み出し、測定時点毎に所定質量電荷比範囲に亘るプロダクトイオンの信号強度の加算値を求め、これを発生時間の順にプロットすることでトータルイオンクロマトグラムを作成する。なお、複数(この例では2種)の特徴的なイオンのうちのいずれを第1の特徴的なイオンとしても構わないが、例えば設定したプリカーサイオンの質量電荷比の大きいもの、又は、プロダクトイオンスキャン測定で得られるトータルイオンクロマトグラムのピークの高さが高い、つまりはイオン量が多いもの、などを第1の特徴的なイオンとするとよい。
そして、こうして作成したクロマトグラム上でピークを検出する(ステップS1)。いま、このときに検出されるピークをピークAとする。なお、クロマトグラム上でピークの高さ又は面積が予め設定された所定の閾値以上であるピークが存在しない場合には、後述のステップS2〜S4の処理をスキップしてステップS5へと進むとよい。
次に、ステップS1において検出されたピークAのピークトップ付近で得られるマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)を抽出する(ステップS2)。そして、データベース検索部33がこのマススペクトルのスペクトルパターンを化合物データベース34に収録されているマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)と照合することで、類似性の高いスペクトルパターンを有する化合物を検索する(ステップS3)。この検索に際しては、所定のアルゴリズムに従ってスペクトルパターンの類似度を計算し、計算された類似度が所定の閾値以上であるような化合物をヒットしたとみなして化合物データベース34から抽出する。そして、抽出された化合物を化合物候補として、計算された類似度と化合物名又はCAS番号とを対応付けてリスト化し、そのリストを内部メモリに一時記憶する(ステップS4)。
例えば図3(a)に示すように、クロマトグラム上でピークAが検出され、ピークAに対応するマススペクトルに基づくデータベース検索の結果、図3(b)中の1次検索結果に示すように、化合物a、b、c、d、eの5つが候補としてリストアップされたものとする。なお、ここでは類似度が50%以上である化合物を候補としてリストアップしており、類似度が50%未満である化合物はリストに登録されない。
次に、化合物同定処理部32は、目的化合物由来の他の特徴的なイオンに対するプロダクトイオンスキャン測定により得られたデータを時系列順に読み出し、ステップS1と同様に、トータルイオンクロマトグラムを作成する。そして、そのクロマトグラムにおいてピークの高さ又は面積が所定の閾値以上であることを条件としてピーク検出を行い、先のピークAと同じ保持時間にピーク(このピークをピークBとする)が存在するか否かを確認する(ステップS5)。ピーク高さ或いは面積が閾値未満であるピーク、及び、保持時間がピークAと一致しない(実際にはピークAとの保持時間のずれが一定以内に収まらない)ピークについては、ピーク無しと判断する。
ピークBが存在しない(ステップS6でNoである)と判定されると、ステップS14へと進み、その時点で内部メモリに一時記憶されているデータベース検索結果、つまりは化合物候補のリストを最終的な検索結果として、中央制御部41を通して表示部43の画面上に出力する。図5はこのような場合の例である。即ち、図5(a)に示すように、ピークAの保持時間の位置に、ピークBが存在しない。その場合、ピークBに基づくデータベース検索、つまりは2次検索は実施されず、内部メモリに記憶されている1次検索の結果が最終検索結果として表示部43の画面上に表示される。このときには、化合物候補の絞り込みは行われないので、化合物a、b、c、d、eの5つが候補としてリストアップされたままであるが、少なくともピークAに基づくデータベース検索を分析者に提示することができる。
ステップS6においてピークBが存在すると判定されると、化合物同定処理部32は検出されたピークBのピークトップ付近で得られるマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)を抽出する(ステップS7)。そして、データベース検索部33は、このマススペクトルのスペクトルパターンを化合物データベース34に収録されているマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)と照合することで、類似性の高いスペクトルパターンを有する化合物を検索する(ステップS8)。ただし、このときには、ステップS3におけるデータベース検索とは異なり、化合物データベース34に収録されている化合物全てを検索対象とするのではなく、内部メモリに記憶されているピークAに基づいて抽出された候補リストに載っている化合物のみ、つまりここでは化合物a、b、c、d、eの5つのみを検索対象とする。したがって、検索対象の化合物数は化合物データベース34に収録されている化合物全体に比べて格段に少なく、データベース検索に要する時間は大幅に短くて済む。
また上記ステップS8におけるデータベース検索では、ステップS3と同様に、所定のアルゴリズムに従ってスペクトルパターンの類似度を計算し、その類似度が予め定めた最小類似度以上である化合物のみを選択する。そして、化合物同定処理部32は、2次検索結果として最小類似度以上の化合物があるか否かを判定し(ステップS9)、化合物がある場合には、抽出された化合物を再び化合物候補として、計算された類似度と化合物名又はCAS番号とを対応付けてリスト化し、そのリストを内部メモリに一時記憶する(ステップS10)。図3の例では、例えば計算された類似度が最小類似度である50%以上である化合物が化合物aのみであるため、1次検索で挙げられた化合物b、c、d、eは選択されず、化合物aのみに絞り込まれた2次検索結果がリスト化されている。
一方、図4の例は、2次検索によって計算された類似度が最小類似度である50%以上となる化合物が存在しない場合の例である。この場合には、ステップS9において該当する化合物がないと判定され、上述したステップS14へと進む。このとき内部メモリには1次検索結果であるリストが記憶されているから、1次検索結果が最終的な検索結果として、中央制御部41を通して表示部43の画面上に出力される。即ち、ピークBに基づくデータベース検索で適当な化合物がヒットしない場合でも、ピークAに基づくデータベース検索でヒットした化合物を分析者に提示することができる。
ステップS10の処理が終了したあと、化合物同定処理部32は、ステップS5と同様に、目的化合物由来のさらに別の特徴的なイオンについてのプロダクトイオンスキャン測定により得られたデータを読み出し該データに基づくクロマトグラムを作成し、そのクロマトグラムにおいてピーク検出を行う(ステップS11)。先のピークA、ピークBと同じ保持時間にピークが存在すればステップS12からS7へと戻り、上述したステップS7以降の処理を再び実行する。一方、ピークが存在しない場合、或いは図3の例のように目的化合物由来のさらに別の特徴的なイオン自体が存在しない場合には、ステップS12からS13へと進み、その時点で内部メモリに格納されている、類似度が最小類似度以上である化合物をリストアップした検索結果を最終検索結果として表示部43の画面上に表示する。図3(b)の例では、2次検索結果が最終検索結果、つまりは同定結果として表示部43の画面上に表示される。
以上のようにして、本実施例GC-MS/MSシステムでは、目的化合物由来の複数種のイオンをプリカーサイオンとして得られたマススペクトルに基づく複数のデータベース検索結果を連携させた結果を最終的に分析者に提示することができる。したがって、複数のデータベース検索によって化合物の候補の絞り込みが可能である場合には、その絞り込んだ結果を分析者に提示することができる。一方、複数のデータベース検索によって化合物の候補の適切な絞り込みができない場合にも、有意なデータベース検索のみを利用した検索の結果を分析者に提示することができる。
なお、上記説明では、複数のプロダクトイオンスキャン測定によって得られたマススペクトルに基づくデータベース検索により化合物同定を実施していたが、複数のプリカーサイオンスキャン測定によって得られたマススペクトルに基づくデータベース検索により化合物同定を実施してもよいし、プリカーサイオンスキャン測定によって得られたマススペクトルに基づくデータベース検索とプロダクトイオンスキャン測定によって得られたマススペクトルに基づくデータベース検索との組み合わせより化合物同定を実施してもよい。
また、上記実施例において、マススペクトルの類似度を判定する最小類似度やクロマトグラム上のピークを検出する際にピークの高さや面積を判定する閾値は、予め定めた値を用いてもよいが、それら値を分析者が入力部42より設定できるようにしてもよい。
また、上記実施例は本発明に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置をGC-MS/MSに適用したものであるが、本発明がGC-MS/MSで得られたデータだけでなくLC-MS/MSで得られたデータにも適用可能であることは明らかである。
また、それ以外の点についても、本発明の趣旨の範囲で適宜変更、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
1…GC部
10…試料気化室
11…カラムオーブン
12…カラム
2…MS/MS部
20…分析室
21…イオン源
22…前段四重極マスフィルタ
23…コリジョンセル
24…イオンガイド
25…後段四重極マスフィルタ
26…検出器
30…データ処理部
31…データ格納部
32…化合物同定処理部
33…データベース検索部
34…化合物データベース
40…分析制御部
41…中央制御部
42…入力部
43…表示部

Claims (3)

  1. クロマトグラフで分離された1つの化合物由来のそれぞれ異なる複数種のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定が実施されることで得られたクロマトグラフ質量分析データを処理し、該化合物を同定するクロマトグラフ質量分析用データ処理装置において、
    a)目的化合物由来の1種類のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたマススペクトルをデータベースと照合することにより化合物の候補を抽出する1次抽出処理部と、
    b)前記1次抽出処理部により抽出された化合物候補に限定し、前記目的化合物由来の他の1種類のイオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたマススペクトルをデータベースと照合することにより化合物の候補を絞り込む、という処理を、前記目的化合物を対象として設定された、他の各イオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたデータに対して実施する2次抽出処理部と、
    c)前記2次抽出処理部による化合物候補の絞り込みにより残った候補がある場合に、その結果を出力する結果出力部と、
    を備えることを特徴とするクロマトグラフ質量分析用データ処理装置。
  2. 請求項1に記載のクロマトグラフ質量分析用データ処理装置であって、
    目的化合物由来の各種イオンについてのプリカーサイオンスキャン測定及び/又はプロダクトイオンスキャン測定により得られたデータに基づいてそれぞれクロマトグラムを作成し、その複数のクロマトグラム上で保持時間が同一であるとともに、ピークの高さ又は面積が所定の閾値以上であるピークを検出し、その検出したピークに対応するマススペクトルのみを前記1次抽出処理部及び前記2次抽出処理部におけるデータベース検索に供する対象マススペクトル選択部、をさらに備えることを特徴とするクロマトグラフ質量分析用データ処理装置。
  3. 請求項1又は2に記載のクロマトグラフ質量分析用データ処理装置であって、
    前記1次抽出処理部及び前記2次抽出処理部は、データベース検索の際にマススペクトルの類似度を算出し、該類似度が所定の閾値以上であることを条件に化合物の候補を選択するとともに、該類似度が所定の閾値以上である候補がない場合には、そのマススペクトルに基づく絞り込みを実施しないようにすることを特徴とするクロマトグラフ質量分析用データ処理装置。
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