鉛蓄電池は、安価で信頼性が高いという特徴を有するため、自動車始動用の動力源やゴルフカート等の電動車両の動力源の電源として、更には無停電電源装置等の産業機器の電源として広く使用されている。
近年、自動車においては、大気汚染防止、地球温暖化防止のため、様々な燃費向上対策が検討されている。燃費向上対策を施した自動車としては、エンジンにかかる負荷を極力軽減するようにオルターネータ(alternator)の発電を抑制して、エンジンの回転を効率良く自動車の動力に使用する発電制御車や走行停止時にエンジンを停止して無駄なアイドリング運転を行なわせないことにより、エンジンの動作時間を少なくするアイドリングストップシステム(Idling Stop System)車(以下、ISS車)の普及が期待されている。ISS車はマイクロハイブリッドシステム(micro−hybrid system)車とも総称されている。
ISS車では、停止、停車中にエンジンが停止し、発車時にエンジンを始動するため、エンジンの始動回数が多くなり、その都度、鉛蓄電池の大電流放電が繰り返される。
また、アイドリングストップ時に、オルターネータが発電しないため、車載機器への電力供給は鉛蓄電池からのみとなる。このため、鉛蓄電池の容量は次のエンジンスタート等に必要な容量を確保しながら部分充電された状態、すなわちPSOC(Partial State Of Charge)の状態で使用される。
このため、ISS車に搭載される鉛蓄電池は従来の鉛蓄電池と基本的に使用方法が異なる。従来の鉛蓄電池は始動時のみ大電流を流し、その後はオルターネータの充電により満充電状態で使用されてきた。
ISS車に必要とされる鉛蓄電池は以下の特性を有している必要がある。1)鉛蓄電池が消費した電力を直ちに充電し、所定のPSOC状態を維持できる高速充電性能、及びブレーキ回生エネルギーを電池に蓄えるために必要な高速充電性能を有すること。これはオルターネータからの出力電流を十分受け入れきれる充電速度を有する。2)PSOCで十分な寿命(service life)を有する高耐久性鉛蓄電池であること。
上記1)において、ISS車のオルターネータ出力電流は、従来の鉛蓄電池の充電受け入れ性能の1.5倍を十分に超える性能を有する。例えば、従来の日本工業規格(JIS)規定の80D23形鉛蓄電池は52Ahの容量を持つ。80D23形鉛蓄電池を14V定電圧において充電すると、時間とともに充電電流は時間軸に対して減衰して行く曲線を描いてゆく。この挙動は電気化学反応の反応過電圧の特性から説明できる現象である。この時、充電時間1秒目、5秒目の初期充電電流は25℃においてそれぞれ、約40アンペア(A)、約30Aである。一方、80D23形鉛蓄電池を搭載するISS車のオルターネータ出力電流は60Aを超えている。このため、従来の80D23形鉛蓄電池では電池の容量が低下した後、オルターネータの出力電流に見合う、充電性能がない。低下した電池容量が回復できない場合、エンジンの再スタートに支障が出るため、アイドリングストップができない状態が増えてくる。このため、燃費向上が期待できない。低下した鉛蓄電池の容量をオルターネータにより急速に回復できなければ、ISS車に搭載された鉛蓄電池の、ISSにおける放電、充電のサイクルは充電不足が原因となって停止せざるを得ない。このようにISS車には、少なくとも使った鉛蓄電池の電力を急速に回復させるための高速充電性能を有する鉛蓄電池が必要になる。したがって、ISS車に搭載される鉛蓄電池の充電受け入れ性能は、オルターネータの出力電流を十分電池に受け入れきれる特性を有するのが理想的である。この点において、ISS車に搭載される80D23形鉛蓄電池の場合、25℃、14V定電圧充電、1秒目においては60Aを超えるレベルの充電受け入れ性能が求められる。この値は、従来の鉛蓄電池の少なくとも1.5倍レベルの充電性能の向上に相当する。
上記2)において、鉛蓄電池は、PSOC下で使われると、完全充電状態で使用される場合よりも、寿命が短くなる傾向がある。PSOC下で使われると寿命が短くなる理由は、充電が不足している状態で充放電を繰り返すと、放電の際に負極板に生成される硫酸鉛が粗大化していき、硫酸鉛が充電生成物である金属鉛に戻り難くなるためと考えられている。従って、PSOC下で使用される鉛蓄電池においては、その寿命を延ばすためにも、充電受け入れ性を向上させて(短時間でできるだけ多くの充電行うことを可能にして)、充電が過度に不足している状態で充放電が繰り返されるのを防ぎ、充放電の繰り返しにより硫酸鉛が粗大化するのを抑制する必要がある。
このように、ISS車、すなわちマイクロハイブリッドシステム車に搭載される鉛蓄電池の最重要課題は充電受け入れ性能である。ISS車のアイドリングストップシステムを十分に働かせ、燃費向上を達成するためには、優れた充電受け入れ性能を有する鉛蓄電池が必要である。ISS車用の鉛蓄電池の充電受け入れ性能は、従来の鉛蓄電池の充電受け入れ性能の1.5倍以上必要であると考えられる。
ISS車用の鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池と制御弁式鉛蓄電池(Valve Regulated Lead−Acid Battery 以下、「VRLA」と称す)に分けられ、それぞれ長所、短所がある。液式鉛蓄電池は、電解液(希硫酸)が豊富にあるため高温環境下でも強い。一方、VRLAは密閉形で有り、熱が逃げにくく、電解液量も制限されているため、液式鉛蓄電池に比べて耐熱性に劣る。VRLAは電解液(希硫酸)を含ませたリテーナをセパレータとして多量に用いるため、液式に比べて高価である。リテーナ、いわゆるAGM(Absorptive Glass Mat)を用いたVRLAは、一般的には電解液中の水の電気分解により正極で発生した酸素ガスが負極板上で吸収される構造を有しているため、密閉化が図られメンテナンスフリーの鉛蓄電池と言われている。ISS車用の鉛蓄電池としてみた場合、VRLAの最大の特長は、サイクル耐久性が優れていることである。もともとVRLAは電解液が溢れないようにリテーナに電解液を含ませた構造であり、正極板と負極板とにリテーナが加圧された状態で接している。ISS車ではブレーキ時に、エネルギーを回生するため、鉛蓄電池には急速な充電性能が求められている。VRLAは上記のようなセパレータ構造を有するため、ISS車のブレーキ時における急速回生充電により極板から急に湧き出してくる硫酸イオンが、近接するリテーナによって保持される。このため、液式鉛蓄電池のように電槽(Container)上下方向に、硫酸濃度分布が見られる、いわゆる硫酸の成層化(stratification)現象が起こりにくい。VRLAは成層化しにくいため、サイクル耐久性が優れているのである。液式鉛蓄電池の場合は、極板とセパレータ間に電解液の液空間が存在し、セパレータは薄いポリエチレン製であるので、リテーナのように硫酸イオンを蓄える機能と厚みはない。このため、充電時に湧き出してきた硫酸イオンはそのまま電解液中を沈降しやすい構造である。硫酸イオンが沈降すると電槽下部の電解液比重が上がり、上部の比重は低下する。このような成層化が生じると、硫酸イオンの濃度分布に伴って、放電反応の速度が変化し、極板の部位によって反応効率に差が生じる。すると、反応し易いところに電池反応が集中し、反応部の電流密度が上がり、結果的に反応し易い部分で劣化が早まり、早く寿命を迎えるのである。
VRLAはメンテナンスフリー構造、成層化に強い構造ではあるが、電解液の絶対量が液式鉛蓄電池に比べて少ない。VRLAの電池容量は、リテーナの中に含まれる電解液中の硫酸量で決まる。このため、所定の電池容量を確保するためには、VRLAの電解液の硫酸濃度は、液式鉛蓄電池に比べて高く設定する必要がある。
しかし、鉛蓄電池の充電反応の速度は、以下に示すように、硫酸濃度が上がると低下する。原因は鉛蓄電池の充電反応の速度が硫酸鉛の溶解または解離によって生じる鉛2価イオン(Pb2+)の濃度によって大きく影響を受けるためである。すなわち、電解液中の硫酸濃度が高くなると、鉛2価イオン(Pb2+)の濃度が低下するため(Hans Bode「Lead−Acid Batteries」p.27、(1977)、John Wiley & Sons、 Inc.)、充電反応速度が低下するのである。
鉛蓄電池においては、もともと正極活物質の充電受け入れ性は高いが、負極活物質の充電受け入れ性が劣ると言われてきた。このため、鉛蓄電池の充電受け入れ性を向上させるためには、一般に負極活物質の充電受け入れ性を向上させることが必須であった。そのため、従来は、負極活物質の充電受け入れ性を向上させるための努力がされてきた。特許文献1や特許文献2には、負極活物質に添加する炭素質導電材を増量することにより充電受け入れ性を向上させ、PSOC下での寿命を向上させるVRLAが提案されている。
液式鉛蓄電池においても、負極活物質に添加する炭素質導電材を増量することが考えられるが、液式鉛蓄電池において負極活物質に添加する炭素質導電材の量をむやみに増加させると、負極活物質中の炭素質導電材が電解液に流出して電解液に濁りを生じさせ、最悪の場合、内部短絡を引き起こしてしまう。従って、液式鉛蓄電池では、負極活物質に添加する炭素質導電材の量を制限せざるを得ず、負極活物質に炭素質導電材を添加することにより鉛蓄電池全体としての充電受け入性を向上させることには限界がある。
一方、鉛蓄電池においては、負極活物質にリグニン(lignin)が昔から添加されている。リグニンは少量の添加で、優れた界面活性効果(surface−active effect)を示す。これにより電解液が活物質の細孔内に浸透し、電池反応の有効反応面積が増大する。添加されたリグニンは硫酸鉛等の電池反応生成物の粗大化を抑制する効果もあると言われている。これにより、放電反応はリグニン添加により増大する。その反面、リグニンは、充電反応を阻害する副次作用(side−effect)を有する。充電反応を阻害する原因は、リグニンが充電反応の出発物質である、鉛イオンに吸着して鉛イオンの反応性を低下させると考えられる。ここで、充電反応の出発物質である鉛イオンは硫酸鉛の解離平衡(dissociation equilibrium)によって供給される。従って、負極活物質へのリグニン添加は、放電反応を改善する重要な添加剤である。しかし、同時に負極活物質へのリグニン添加は充電反応を阻害するため、受入性の向上を妨げるという問題を有していた。
このような観点から、リグニンに代えて、リグニンの基本構造であるフェニルプロパン構造の側鎖のα位にスルホン基を導入したリグニンスルホン酸ナトリウムや、ビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物などを負極活物質に添加することが提案されている。
例えば、特許文献3及び特許文献4には、負極活物質にビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物と炭素質導電材とを添加することが開示されている。特に、特許文献4には、充放電に伴う硫酸鉛の粗大化を抑制する有機化合物として、ビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物を選択して、硫酸鉛の粗大化を抑制する効果を持続させることと、充電受け入れ性を向上させるために炭素質導電材を添加することとが開示されている。また、特許文献5には、負極活物質に導電性カーボンと活性炭を添加して、PSOC下での放電特性を改善することが開示されている。
更に、特許文献6(特開平10−40907号公報)には、正極活物質の比表面積を大きくして、放電容量を大きくすることが開示されている。これは、リグニンを電池化成時の電解液中に添加することにより、正極活物質を微細化し、比表面積を大きくするものである。特許文献6に開示されているのは正極に着眼し、電池の放電容量を大きくするための発明であり、ISS車の鉛蓄電池としてみた場合に必要な充電受け入れ性やPSOC下でのサイクル特性の向上においては、期待される効果は得られない。
従来の発明には、より高い充電受け入れ性能を達成するにあたり、電池反応の原理に基づく本質的な必要条件(inherent conditions)が示されていない。このため、これまで負極の特性、正極の特性といった個々の構成因子で電池特性を改良してきた。
しかし、従来の鉛蓄電池の1.5倍以上の電池を得るために、電池反応の原理に基づく基本的な必要条件を明らかにすることは、電池を改良する場合、重要である。
すなわち、個別構成因子で、電池の改良をする場合、一つの構成因子では目標特性の達成が困難な場合がある。このような場合、電池反応の原理に基づく本質的な必要条件が整理され、必要条件を満たすため、その他複数の構成因子の検討が必要となる。つまり、一つの構成因子の改良では必要条件が満たされず、目標特性を達成できない場合があるが、別の電池構成因子の検討により、必要条件が満たされ、目標特性を達成できる可能性が高くなる。すなわち、充電受け入れ性能向上に関する目標特性を達成するため、電池反応の原理に基づく本質的な必要条件の検討は、最も効率的、効果的な電池の基本構成を導き出すことを可能にすることができると考えられる。
従来の文献には、ISS車の鉛蓄電池の重要命題である、より高い充電受け入れ性能に関し、電池反応の原理に基づく本質的な必要条件、及び示された必要条件に基づく電池構成条件が明らかにされていない。したがって、従来の鉛蓄電池の1.5倍以上の電池を得るための構成内容も、基本的な必要条件も開示されていない。
充電受け入れ性能と過電圧との関係を、電気化学反応速度論に基づき明らかにする。これにより、過電圧が電池反応の反応速度論における基本パラメータであることを示し、電池反応の原理に基づく必要条件として、過電圧に着眼する意義を明らかにする。
電池反応は、負極と正極における電気化学反応によって説明される。負極及び正極の充電及び放電反応は、それぞれ固有の単純電気化学反応系(simple electrochemical reaction system)を有している。固有の単純電気化学反応系とは、複数の電気化学反応が混じった物では無く、ただ1種類の電気化学反応であることを意味する(玉虫玲太、「電気化学(第2版)」p.199、(1991)、東京化学同人 または Allen J.Bard and Larry R.Faulkner 、「ELECTROCHEMICAL METHODS」p.7、(2001)、John Wiley & Sons、 Inc.)。電池反応の負極、正極の反応は、それぞれ独立した1種類の電気化学反応で構成されている。充電受け入れ性能は充電反応に関する性能である。充電反応の反応速度は電気化学反応速度論(theorem of electrochemical kinetics)において、負極及び正極の単純電気化学反応系の電位と関係づけられる(玉虫玲太、「電気化学(第2版)」pp.235−236、(1991)、東京化学同人、または、Allen J.Bard and Larry R.Faulkner、「ELECTROCHEMICAL METHODS」、p.99−107、(2001)、John Wiley & Sons Inc.)。電気化学反応において、反応速度は電流そのものである。すなわち、充電反応速度及び放電反応速度は、それぞれ充電電流及び放電電流と等価である。負極、正極の単純電気化学反応系の電位がそれぞれの反応系の平衡電位(equilibrium potential)である場合、それぞれの平衡電位の絶対値の和が電池の開回路電圧に相当する。平衡電位は、国際的に標準水素電極(standard hydrogen electrode)基準で表示され、通常SHEと略される。鉛蓄電池においては、負極、正極の単純電気化学反応系が電気化学で定義される標準状態(standard conditions)の場合、負極の電位は−0.36V vs. SHEであり、正極の電位は+1.69V vs. SHEである。したがって、もしも鉛蓄電池が電気化学で定義される標準状態(25℃、イオン活量1など)の場合、開回路電圧は2.05Vである。
負極、正極の電位が平衡電位から外れた場合、平衡電位から外れた電位分が“過電圧”と定義される。すなわち過電圧は負極、正極のある電位と平衡電位との差分である。単純電気化学反応系の反応速度と過電圧の関係は、電気化学反応速度式で関係づけられる(玉虫玲太、「電気化学(第2版)」p.236、(1991)、東京化学同人、または、Allen J.Bard and Larry R.Faulkner 、「ELECTROCHEMICAL METHODS」p.99、(2001)、John Wiley & Sons Inc.)。本発明において、過電圧を通常のギリシャ文字、“η“で表記することとする。一般的な単純電気化学反応速度式における過電圧と反応速度の関係式とは異なり、鉛蓄電池を含めた一般的な電池の電気化学反応速度式は複雑である。これは、電気化学反応系は、一般に化学反応やいくつかの電子移動反応ステップが混在したいくつかの素反応に分解され、反応速度を決める律速段階がどの素反応ステップに位置するかによって、電気化学反応速度式は影響を受けるためである。しかし、いずれの電気化学反応速度式においても、過電圧は反応速度に影響を与える決定的なパラメータである。電気化学反応速度式にはこの他のパラメータとして、反応物質の濃度、反応面積、反応速度定数(rate constant)または交換電流密度(exchange current density)、反応物質の拡散係数(diffusion coefficient)、気体定数(Gas constant、ファラデー定数(Faraday constant)、遷移係数(transient coefficient)、絶対温度(absolute temperature)など多くのパラメータが含まれる。電気化学反応速度式の中で、過電圧項は定数eを底とする、指数関数(exponential function)に含まれる。このため過電圧の変化は、電気化学反応速度に決定的な影響を与える。
充電反応が進行する場合は、正極の単純電気化学反応系の電位は、正極の平衡電位に対してよりプラス電位方向に移る。逆に負極の単純電気化学反応系の電位は、負極の平衡電位に対してよりマイナス電位方向に移る。したがって、充電反応の場合、正極の過電圧は平衡電位よりもプラス方向の電位分であり、負極の過電圧は平衡電位よりもマイナス電位方向の電位分である。充電反応の場合、負極、正極間の電位の差、すなわち電圧は開回路電圧よりも過電圧分高くなる。
充電及び充電反応は原理的に上記内容である。すなわち、鉛蓄電池の負極の過電圧は、平衡電位よりもマイナス方向の電位分としてオルターネータ等から電位が印加され、正極の過電圧は平衡電位よりもプラス方向に電位が印加される。オルターネータの充電電圧は車種等によって異なる。このため、本発明ではISS車用の鉛蓄電池のサイクル試験の一つとして用いられる社団法人電池工業会(BATTERY ASSOCIATION OF JAPAN)規格 SBA S0101のサイクルパターンの充電電圧としても用いられる14Vを充電電圧として、充電受け入れ性能と過電圧との関係が数学的にどのように表されるかについて以下に示す。
オルターネータから印加された14Vの電圧に対して、負極及び正極にかかる過電圧をそれぞれ、η(−)、η(+)と表記する。それぞれの過電圧に対して負極及び正極で流れる充電電流をそれぞれi(−)、i(+)と表記する。負極、正極に流れる充電電流は反応速度式からηを関数とした式1、式2で表されるものとする。ここでは、式の詳細内容は必要では無く、負極及び正極の電気化学反応速度式が異なることが定義されていれば良い。
i(−)=f(η(−))・・・・・・・・・・・式1
i(+)=g(η(+))・・・・・・・・・・・式2
ここに、f(η(−))、g(η(+))はそれぞれ電気化学反応速度論にもとづく関数を示すものである。本発明の場合、純粋に高精度の理論電流電位曲線を求める必要はない。本発明における速度式は、実際に使われている反応活物質で観測される充電電流と電位曲線または充電電流と過電圧曲線で代用することが出来る。電流が反応速度に対応するため、これらの電流電位曲線(current−potential curve)は電気化学反応速度論に基づく現実の速度と電位(過電圧)の関係を示す基本データである。
ここで、開回路電圧を12Vと仮定すると、η(−)、η(+)と充電電圧14Vとの間に以下の関係式が成立する。過電圧は絶対値表示とする。過電圧は充電反応の場合負極はよりマイナスの電位方向にシフトし、正極はよりプラスの電位方向にシフトするため、絶対値表示が本発明の内容を理解するのに適している。
|η(−)|+|η(+)|+12=14・・・・・・・・・・式3
式1、式2で示される、負極、正極に流れる充電電流の絶対値は等しい。したがって、以下の関係式が得られる。電流は向きを有し、負極の充電電流をプラスとすると、正極での充電電流はマイナスの符号となるため、絶対値表示が本発明の内容を理解するのに適している。
|i(−)|=|i(+)|・・・・・・・・・・・式4
または、
|f(η(−))|=|g(η(+))| ・・・・・・式5
式3より、|η(−)|と|η(+)|の合計は2Vとなる。2Vが|η(−)|と|η(+)|にどれくらいの割合で分配されているかは、η(−)とη(+)それぞれを未知数とする式3と式5の連立方程式を解くことにより求めることができる。
ここで、従来の鉛蓄電池の1.5倍以上の充電受け入れ性能を有する電池が得られる条件は以下のとおりとなる。式1から式5に示される過電圧および電気化学反応速度式を従来電池に対応するものとすれば、過電圧および電気化学反応速度式は区別しなければならない。なぜなら、活物質等の構成が変化し、より充電反応速度が速くなる場合、速度式に変化があると考えねばならない。負極、正極において分配される合計2Vの過電圧分配も変わると考えるのが一般的である。従来の鉛蓄電池の1.5倍以上の充電受け入れ性能を有する電池に関し、負極及び正極にかかる過電圧をそれぞれ、η1.5(−)、η1.5(+)、負極および正極に流れる充電電流をそれぞれi1.5(−)、i1.5(+)、負極および正極の充電反応に関する電気化学反応速度式をそれぞれ、h(η1.5(−))、j(η1.5(+))とすれば、以下の関係式が成立する。
|η1.5(−)|+|η1.5(+)|+12=14・・・・・・式6
|i1.5(−)|≧1.5|i(−)|・・・・・・・・・・・・式7
|i1.5(−)|=|i1.5(+)|・・・・・・・・・・・・式8
|h(η1.5(−))|=|j(η1.5(+))|・・・・・・式9
式6より、|η1.5(−)|と|η1.5(+)|の合計は|η(−)|と|η(+)|の合計と同じく2Vである。2Vが|η1.5(−)|と|η1.5(+)|にどのように分配されているかは、同様に、η1.5(−)とη1.5(+)を未知数とする式6と式9の連立方程式を解くことにより求めることができる。
すなわち、充電電圧がある値に設定されると、負極および正極の充電反応の過電圧の合計は充電反応の速度にかかわらず一定である。従来の電池の1.5倍の充電反応速度であっても、14V充電電圧が共通の場合、負極及び正極の過電圧の絶対値の合計は約2Vである。この値は、単セルが6個直列の場合(通常自動車用電池は12V)であり、単セル1個当たりで見ると、過電圧の合計は0.333V/単セルである。すなわち、充電電流が1.5倍になる場合、式5、式7、式9より
1.5|f(η(−))|=|h(η1.5(−))|・・・・・・・式10
である。負極の改善により、充電反応速度式が、f(η(−))からh(η1.5(−))に変化することを意味する。ここで、1.5倍の充電電流を得るため、負極の活物質を改良し、正極は従来のままであったと仮定する。この場合、改良された負極充電反応の過電圧、|η1.5(−)|は改良前の|η(−)|よりも必ず小さくなる。理由は以下である。式5より、従来の正極活物質には1.5倍の反応速度、1.5|g(η(+))|が必要となり、過電圧がη(+)のままでは1.5倍の電流は流せない。そこで、従来活物質である正極の充電反応の過電圧は、1.5倍の電流を流すのに必要な過電圧まで速度式にしたがい上昇する。この時の負極及び正極の過電圧に関する拘束条件が、式3及び式6である。
このため、正極充電反応の過電圧が大きくなると、改良された負極充電反応の過電圧が小さくなる。そして、負極活物質の改良の効果が大きければ大きいほど、負極の過電圧はより小さくなり、正極の過電圧はより一層大きくなる。目標とする充電受け入れ電流を満足するために必要な負極の過電圧は、式6から式10を用いて原理的に求められる。
一方、負極の活物質は従来のままとし、正極の活物質を改良し、充電受け入れ性能を従来比1.5倍にする場合も同様である。この場合は、上記、負極を改良した場合とは逆となる。すなわち、改良された正極の充電反応の過電圧が小さくなり、改良されていない負極の過電圧は大きくなる。
負極、正極両方が改良される場合、負極のみ、正極のみ改良される場合に比べ、もっとも高い改善効果が得られることが、上記の原理検討から明らかである。この場合、負極及び正極それぞれの充電反応過電圧の大小変化は複雑である。すなわち、負極を改良した場合、式3及び式6にしたがい、負極の充電反応過電圧の絶対値は低下し、正極は上昇する。ここで改良した負極を用いて、さらに、正極の充電受け入れ性能を改良すると、式3及び式6にしたがい、正極の過電圧は低下し、負極の過電圧の絶対値は上昇する。
一方、平衡電位周りの過電圧と電流の関係は、一般に下記、式11の直線関係で与えられる(玉虫玲太、「電気化学(第2版)」p.243、(1991)、東京化学同人 または Allen J.Bard and Larry R.Faulkner、「ELECTROCHEMICAL METHODS」p.106、(2001)、John Wiley & Sons Inc.)。
|η|/|i|=(RT/nF)((1/I0)+(1/|Ia|)+1/|Ic|)・・・・・・式11
ここに、|i|は平衡電位近傍における電流密度の絶対値、Rは気体定数、Tは絶対温度、nは反応電子数、Fはファラデー定数、I0は交換電流密度、|Ia|はアノード反応における限界電流密度の絶対値、|Ic|はカソード反応における限界電流密度の絶対値である。式11の右辺は、それぞれの電気化学系に固有な定数項である。本発明において、過電圧と電流の関係で得られる低過電圧領域に現れる直線関係を用いて、過電圧と電流の勾配を示し、直線勾配の大小で充電電流1.5倍を超える条件を示す。電流密度ではなく、全電流で見た場合も同様である。全電流と過電圧の電流電位曲線の関係においても、式11の直線関係は変わらない。このように純粋な理論面で、|η|/|i|は直線関係を与える条件を有する。本発明においては、電流電位曲線の初期充電電流と過電圧の関係から、同様に直線近似できる領域を設定し、|η|/|i|に対応する勾配を求める。これにより、過電圧と電流に関する充電電流の1.5倍化、及び1.5倍化を超える条件に関して定義することが可能となる。このようにして得られた直線勾配は、式11に示される条件が下限値となる。本実験で得られる|η|/|i|の値は式11で示される値より小さくならない。
図1は電流電位曲線の模式図である。すなわち、過電圧と充電電流の上記数式の関係を図で見える化したものである。電流電位曲線が得られた場合、図1は充電電流を求める場合の原理も包含している。図1は、12V電池に関する内容を示してあり、開回路電圧は12Vである。図において、N11は従来の鉛蓄電池の負極の電流電位曲線を示し、P11は従来の鉛蓄電池の正極の電流電位曲線を示す。ここでは同じ面積の極板を使っているとし、縦軸は電流を示す。N22は充電受け入れ性能が改善された負極の電流電位曲線を示し、P22は充電受け入れ性能が改善された正極の電流電位曲線を示す。したがって、N22は同じ過電圧(電位)に対してN11よりも充電電流が大きい。同様にP22は同じ過電圧(電位)に対してP11よりも充電電流が大きい。充電電圧14Vを図1に示す電位幅で表すと、従来電池の充電電流はI11である。図には、両端矢印線で、4本の14Vに相当する幅の線を示した。式3及び式6より、4本の線の長さはすべて同じである。
ここで、電池構成として、負極は従来の電流電位曲線N11の特性を有する極板を使い、正極は充電受け入れ性能の改善された電流電位曲線P22の極板を使うとする。すると図から明らかな様に、充電電流は式3及び式6に示されるように充電電圧14Vをキープしたまま、I12まで上昇する。この時、これまで原理面から数学的に議論してきたように、正極の過電圧は低下し、負極の過電圧の絶対値は大きくなる。次に、電池構成として、正極は従来の電流電位曲線P11の特性を有する極板を使い、負極は充電受け入れ性能の改善された電流電位曲線N22の極板を使うとする。すると図から明らかな様に、充電電流は充電電圧14Vをキープしたまま、I21まで上昇する。この時、これまで議論してきたように、正極の過電圧は大きくなり、負極の過電圧の絶対値は小さくなる。
一方、電池構成として、負極および正極がともに改善された場合を考える。すなわち電流電位曲線N22とP22を有する極板の電池を発明した場合、充電電流は式3及び式6に示されるように充電電圧14Vをキープしたまま、I22まで上昇する。原理面での議論で示されたように、I22はこれらの検討例の中で最大の充電電流が得られることを示している。
電気化学反応の基本特性面で示した、式11に示す直線関係は、図1に示す、負極及び正極の平衡電位近傍から伸びる直線の勾配として取り扱う。
以上、式1から式11で示される内容は液式鉛蓄電池であっても、VRLAであっても共通である。
以上、数学的及び図式に基づく議論の中で、一般的な電圧計測では見落とされる本質的な情報がある。それは、本発明の本質である過電圧である。図1から明らかなように、14V定電圧充電において、負極と正極の間の相対的な電位差を計測する限り、負極及び正極それぞれの過電圧変化は見えない。理由は式3及び式6から明らかであるが、図1はこの事実を明確に示している。電圧測定では一定の14Vであるにもかかわらず、極板の構成を変化させると過電圧がめまぐるしく変化し、それに伴い充電電流が変化している。
したがって、本発明においては、過電圧を分離できる計測設備が必要である。それは電気化学計測装置で有り、電気化学計測装置を用いたデータを基に発明を構築する必要がある。以下、過電圧条件及び充電電流の関係を基にした本発明の具体的な構成は、以下の手順で明らかにされる。
まず、従来の鉛蓄電池の負極及び正極それぞれの充電電流と過電圧の関係を実測する。電流電位曲線の実測は、ポテンショスタット(Potentiostat)機能及び、ガルバノスタット(Galvanostat)機能の両方を兼ね備えている電気化学計測設備で実測するのが正確である。ポテンショスタット、ガルバノスタットは、過電圧が分離できる電気化学計測装置である。ポテンショスタットは基準電極に対する評価電極の電位を制御し、制御電位において観測される電流を計測することができる。ガルバノスタットは評価電極に流れる電流を制御することができ、一定電流制御下における、評価電極の電位変化を基準電極に対して計測できる。電気化学計測上、計測は単セルに相当する、正極または負極1枚に関して計測するのが評価上簡便であり、十分である。
充電電圧を一定とした場合の電気化学計測は、基準電極の電位に対して電位を制御することに等しい。すなわち、負極の場合は負極の平衡電位からより電位がマイナス側になるように過電圧を印加するのである。電位を一定に制御した場合、鉛蓄電池の充電電流は電気二重層充電過程の極短時間領域を除き、時間とともに充電電流が減衰してゆく。したがって、電位制御の基で、充電電流を定義する場合、何秒目の電流値であるかを定義しなければならない。電流を制御して過電圧の時間変化をモニターする場合は、過電圧の絶対値は測定経過時間とともに上昇してゆく。これらの現象は電気化学反応速度理論により、古くから知られていることである。電位を制御して電流を定義する場合も、電流を制御して過電圧(電位)を定義する場合も、得られた電流電位曲線が何秒目の電流または何秒目の過電圧データに基づいて得られたものであるかを定義しておかねばならない。本発明においては、これらの時間窓(time window)は、充電開始5秒目の電流または過電圧として定義する。温度は25℃とする。
電池の状態に関しても定義が必要である。サイクル劣化に関して、電池特性を定義する場合は、どのようなサイクルパターンで何サイクル目等の条件が必要である。本発明においては、従来電池の1.5倍の充電受け入れ条件に関し、電池の初期状態に関する過電圧と電流および電流密度の関係について必要条件を定義する。
電解液比重は断りが無い限り、液式鉛蓄電池及びVRLAともに初期比重で代表することとする。
本発明において、従来電池の負極、及び正極の電流電位曲線に関するそれぞれの活物質条件は、明確に定義される必要がある。なぜならば、電流電位曲線、すなわち過電圧と電流密度に関する必要条件は、すべて、これら本発明において定義された従来電池の負極、正極のそれらを基準として示されているからである。従来電池の負極及び正極条件の詳細は実施例に示す。
図1に見られるように、測定された従来の鉛蓄電池の1枚の負極及び1枚の正極に関する電流電位曲線は、横軸に電位vs.基準電極(通常SHE)、縦軸に電流の絶対値で表記する。単セル当たり充電受け入れ性能は、得られた電流電位曲線に関する図面を用いて、あるいは計算で求めることが出来る。図を用いる場合は、図1で議論した内容に他ならない。
計算で求める場合は、例えば従来電池の場合、図1に示されるN11、P11の電流電位曲線を表す近似式を予め求めておく。求められた近似式が式5に相当する。2V単セルに対応する式3は、下記式12で示される。式12は0.333V/単セルである。
(|η(−)|+|η(+)|)/6=(14−12)/6・・・・・・式12
式5と式12より、図1のN11、P11に関するそれぞれの過電圧は、連立方程式を解くことにより求めることが出来る。負極、正極にかかる過電圧が求まれば、式5より充電受け入れ電流または電流密度が求まる。
次に充電受け入れ性能を改良した、負極の活物質に関して、同様に電流電位曲線を実測する。図1では、電流電位曲線N22である。さらに改良された正極の活物質の電流電位曲線を実測する。図1ではP22に相当する。
これらのデータを基にして、ISS車に搭載された鉛蓄電池の充電受け入れ性能が、従来の鉛蓄電池に対して1.5倍以上になる条件を発明の構成とする。すなわち、図1を参考にすれば、まず、I11とI12を比較し、I11に対してI12が1.5倍を超えているかを確認する。同様にI11に対して、I21及びI22の情報を確認する。
本発明の原理面において明らかにされた事実の1つは、従来負極を用いる限り、正極をどのように改良しても、充電電流の1.5倍化の過電圧条件が存在しない。すなわち、正極のみの改良では充電電流の1.5倍化は不可能であるとの事実である。この事実は、これまで負極の改良が充電受け入れ性能向上において鍵を握るとされた従来の考え方を、過電圧面から明確に支持する結果である。したがって、充電電流の1.5倍化の過電圧必要条件の基本は負極の過電圧条件に有り、改良された負極と改良された正極の組み合わせに最大の充電受け入れ条件がある。
本発明に係るVRLAでは、負極板の性能を改善するために、負極活物質に少なくとも、炭素質導電材と、充放電に伴う負極活物質の粗大化抑制及び反応表面積を維持する有機化合物とを添加する。
炭素質導電材は、好ましくは、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維及びカーボンナノチューブからなる材料群の中から選択される。これらの内、好ましいのは黒鉛であり、さらに鱗片状黒鉛を選択するのが好ましい。鱗片状黒鉛を用いる場合、その平均一次粒子径は、100μm以上とするのが好ましい。炭素質導電材の添加量は、満充電状態の負極活物質(多孔質の金属鉛、海綿状金属鉛ともいう)100質量部に対し0.1〜3質量部の範囲とするのが好ましい。上記鱗片状黒鉛は、JIS M 8601(2005)記載のものを指す。
また、充放電に伴う負極活物質の粗大化を抑制する有機化合物を負極活物質に添加し、添加量を最適化することで、充放電の反応性が長期間損なわれることがなく、充電受け入れ性が高い状態を長期間維持することができる負極板を得ることができる。
上記のように、炭素質導電材と負極活物質の粗大化を抑制する有機化合物とを負極活物質に添加して負極板の性能を改善するだけでも、電池全体としての充電受け入れ性を向上させることが可能であるが、この負極板を前述した正極板と組み合せることにより、電池全体としての充電受け入れ性を更に向上させることができる。
負極活物質の粗大化を抑制する有機化合物としては、ビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物を用いることが好ましい。上記ビスフェノール類は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等である。上記縮合物のうち、特に好ましいのは、以下に、[化1]の化学構造式で示すビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物である。
前述のように、負極活物質の充電反応は、放電生成物である硫酸鉛から溶解する鉛イオンの濃度に依存し、鉛イオンが多いほど充電受け入れ性が高くなる。充放電に伴う負極活物質の粗大化を抑制するために負極活物質に添加する有機化合物として、リグニンが広く用いられている。リグニンは、鉛イオンに吸着して鉛イオンの反応性を低下させてしまうため、負極活物質の充電反応を阻害し、充電受け入れ性の向上を抑制するという副作用がある。これに対し、上記[化1]の化学構造式を有するビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物は、鉛イオンへの吸着力が弱く、吸着量も少ないことから、リグニンに代えて上記の縮合物を用いると、充電受け入れ性を妨げることが少なくなり、炭素質導電材の添加による充電受け入れ性を維持することができる。
本発明は、充放電に伴う負極活物質の粗大化を抑制する有機化合物として、以下に、[化2]の化学構造式(部分構造)で示すリグニンスルホン酸ナトリウム等を選択することを妨げない。リグニンスルホン酸ナトリウムは、負極活物質の粗大化を抑制する有機化合物として多用されているが、鉛イオンへの吸着力が強く、充電反応を抑制する副作用が強いという難点がある。これに対し、ビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物は、鉛イオンへの吸着力が弱く、鉛イオンに吸着される量が少ないため、充電反応を阻害することがほとんどなく、充電受け入れ性を阻害することがない。
本発明はまず、液式鉛蓄電池の条件下において、充電受け入れ性能1.5倍以上とする条件を明らかにする。これに基づき、VRLAの充電受け入れ性能1.5倍以上とする条件を明らかにする。液式鉛蓄電池とVRLAの正極と負極の活物質条件、集電体条件を共通にした場合、VRLAの電解液濃度が液式鉛蓄電池に比べて高い。液式鉛蓄電池の充電受け入れ性能1.5倍以上とする条件とVRLAの充電受け入れ性能1.5倍以上とする条件の関係は、この電解液の硫酸濃度の違いが充電受け入れ速度に及ぼす影響を定量化することで示される。充電受け入れ性能1.5倍以上とする条件に関する、液式鉛蓄電池の条件とVRLAの条件の関係を明らかにするため、まず、負極の充電反応速度と電解液の硫酸濃度または比重との関係を、理論的な充電反応に関するパラメータを用いて定量化する。
鉛蓄電池の負極の充電反応は、以下に示す2つの反応から構成されると考えるのが基本である。
PbSO4 → Pb2+ +SO4 2− 速度 k1・・・・・・・・式13
Pb2+ + 2e → Pb 速度 k2・・・・・・・・式14
式13は硫酸鉛からPb2+イオンの溶解反応であり、式14はPb2+イオンの還元反応、いわゆる充電反応を示す。一般には式13と式14を合計した、全反応式15が負極反応を代表し、負極の電位決定反応は式15である。しかし、充電反応速度は式13、式14の関係を定量化して決定しなければならない。
全反応: PbSO4 + 2e →Pb + SO4 2−・・・・・・式15
ここに、k1はPb2+イオンの湧き出し(Flux)であり、次元はmol/cm2sである。電気化学反応速度理論(Theorem of Electrochemical Kinetics)より、
k2=k0exp[−(2αF/RT)(E−E0)](cm/s)である。
ここに、k0:標準速度定数(cm/s)(Standard Rate Constant)、α:遷移係数(Transient Coefficient)、F:ファラデー定数 (C/mol)(Faraday Constant)、R:気体定数 (J/Kmol)(Gas Constant)、T:絶対温度(K)(Absolute Temperature)、E:電位vs.標準水素電極電位(NHE)(Normal Hydrogen Electrode)、E0:式14の標準電極電位(−0.126V)vs. NHEである。
式13,式14より、充電反応種に関する物質移動、初期条件、境界条件に関する以下の一般的な関係式が成立する。式18より定常状態の条件下で解析する。
∂CA/∂t=DA(∂2CA/∂x2)・・・・・・・式16
DA(∂CA/∂x)x=0=k2CAS − k1・・式17
∂CA/∂t=0・・・・・・・・・・・・・・・・・・式18
x=0 → CA=CAS・・・・・・・・・・・・・・式19
x=δ → CA=CA0・・・・・・・・・・・・・・式20
t=0 → CA=CA0・・・・・・・・・・・・・・式21
ここに、CA:Pb2+イオン濃度(mol/cm3)、DA:Pb2+イオンの拡散係数(cm2/s)、CAS:Pb2+イオンの充電反応界面濃度(mol/cm3)、CA0:Pb2+イオンの充電前初期濃度(mol/cm3)、δ:Pb2+イオンの拡散層厚(cm)(Diffusion Layer)である。充電電流i(A)は、以下式22となる。
i(A)=2SFk2CAS・・・・・・・・式22
ここに、Sは負極の充電反応に有効な反応全面積である。
以上により、負極充電反応に関する理論電流電位曲線は、式16から式21により、CASを求め、式22に代入することにより得られる。求める理論充電電流の式22は、以下の式23となる。
i(A)=2SFk0exp[−(2αF/RT)(E−E0)][(k1+(DA/δ)CA0)/(k0exp[−(2αF/RT)(E−E0)]+(DA/δ))]・・・・・・・・式23
式23で示される充電電流i(A)は基本的に電位の関数であるが、各電位において、Pb2+イオンの充電前初期濃度であるCA0によって影響を受ける。すなわち、Pb2+イオンの充電前初期濃度が仮に2倍になれば、充電速度は2倍になる。k1は定数であり小さい値である。k1の正確な値は現在不明であるが、この値が小さいことに間違いはない。なぜならば、鉛蓄電池は充電速度が小さいからである。このk1の値が大きければ、鉛蓄電池は高い入力性能を持つ電池であり、本発明のニーズは不明瞭となる。したがって、ISS車の高速充電条件下における充電速度i(A)はPb2+イオンの充電前初期濃度、CA0の大小によって決まると考えられる。
したがって、硫酸電解液比重と上記Pb2+イオンの充電前初期濃度の関係が得られれば、以上により、液式鉛蓄電池の充電受け入れ性能1.5倍以上とする条件と、VRLAの充電受け入れ性能1.5倍以上とする条件の関係は明らかになる。Pb2+イオンは式13に示すように、硫酸鉛の溶解、解離によって生じる。したがって、各硫酸比重下におけるPb2+イオン濃度の関係がわかれば液式鉛蓄電池の電流電位曲線を用いて、VRALの充電受け入れ性能1.5倍以上の関係を見いだすことができる。
図2は25℃におけるPb2+イオンの濃度と硫酸電解液比重との関係を示す(Hans Bode「Lead−Acid Batteries」p.27、(1977)、John Wiley & Sons Inc.)。鉛蓄電池は基本的に硫酸鉛が存在しないと、式13から明らかなように、充電反応に必要なPb2+イオンがない。本発明では、実施例1に示す様に充電状態(SOC)90%、すなわち容量の10%分を放電した条件で、充電受け入れ性能が評価される。図2より、満充電状態で電解液比重1.320のVRLAの容量を10%放電し、充電状態90%になると、電解液比重は1.292まで低下する。一方満充電状態で電解液比重1.280の液式鉛蓄電池は、S充電状態90%になると電解液比重は1.267まで低下する。図2により、電解液比重1.292および1.267に対するPb2+イオンの濃度を求めることができる。Pb2+イオンの濃度は、電解液比重1.292において1.08(mg/リットル)、電解液比重1.267において、1.28(mg/リットル)である。したがって、充電状態が90%において、式23におけるCA0、すなわちPb2+イオンの濃度は、液式鉛蓄電池の方がVRALのそれに対して1.19倍である。したがって、液式鉛蓄電池の充電速度はこの条件において、VRALの1.19倍であると考えられる。
充電状態が80%まで低下した場合も同様である。VRALの初期比重1.320は1.270まで、液式鉛蓄電池の初期比重1.280は1.254まで低下する。図2より同様に、電解液比重1.270および1.254におけるPb2+イオンの濃度を求めると、それぞれ1.25、1.40(mg/リットル)となる。したがって、充電状態が80%において、23式におけるCA0、すなわちPb2+イオンの濃度は、液式鉛蓄電池の方が1.12倍である。したがって、液式鉛蓄電池の充電速度はこの条件において、VRALの1.12倍であると考えられる。
なお、液式鉛蓄電池においても、VRALにおいても電解液比重は放電状態によって上記のように変化するため、鉛蓄電池の電解液比重は通常充電状態100%の比重で代表する。
本発明においては、式11で示したように、電流電位曲線の初期充電電流と過電圧の関係に関して、直線近似できる領域を設定し|η|/|i|に対応する勾配を求める。これにより、まず液式鉛蓄電池に関して、過電圧と電流に関する充電電流1.5倍化、及び1.5倍化を超える条件に関して定義する。これらを基に、VRALに関する条件を明らかにする。具体的には一般式、式7と式8に基づいて、従来活物質を用いた負極及び正極の電流電位曲線に対して、式7を満たす電流電位曲線を与える活物質開発により達成することになる。式7を満たす電流電位曲線の直線近似できる領域から|η|/|i|を決定する。
図2および式23より、|i(−)|Floodと|i(−)|VRLAの関係から式24を得ることができる。|i(−)|Floodは液式鉛蓄電池の負極の充電電流の絶対値を、|i(−)|VRLAはVRLAの負極の充電電流の絶対値を、それぞれ示す。
|i(−)|Flood=β|i(−)|VRLA・・・・・・・・式24
ここに、βは無次元の係数である。上記検討結果より、充電状態90%においてβ=1.19である。同じ活物質ペースト、同じ格子体の仕様で液式鉛蓄電池の充電速度に対してVRLAのそれは0.84倍(1/1.19)であることを意味する。
ここで、23式は初期のPb2+濃度に関して、その濃度が時間に関わらず一定であるとした18式に基づく定常状態を仮定している。この仮定の妥当性は特に充電初期においては原理的に成立する。なぜならば、充電初期においてはPb2+の消費量はまだ少なく、図2で示される初期濃度に近い値を維持しているためである。充電反応によって、Pb2+は時間とともに消費され、濃度が低下してゆく。濃度の低下はPb2+の初期濃度が高いほど、低下度合いが理論的に大きくなる。このことは、上記で示した、充電状態が90%におけるβは1.19であるが、時間とともにPb2+イオンの濃度差が縮まり、βは1.19を下回ると予想できる。
23式は、Pb2+イオンに関する線形拡散条件で導かれた充電反応速度式である。しかし、現実の鉛蓄電池の活物質内での反応場は多くの細孔を有し、複雑な反応場を形成している。このため、時間依存性を考慮した充電速度式は、線形拡散のみですべての時間領域をカバーするのは困難である。23式は、このような複雑な反応場においても、充電反応開始後の短時間領域においては原理的に成立する。
したがって、充電開始後、何秒目まで23式の取り扱いが妥当であるかは、実際の測定データを基に確認する必要がある。少なくとも充電開始後の短い時間領域においては、上記充電状態90%におけるβ=1.19とした値は、原理的に成り立つはずである。
実施例1における表2が示すように、充電状態90%におけるβは、充電開始後1秒目の実測値がβ=1.195である。また、充電開始後5秒目の値がβ=1.111である。1秒目は理論式およびPb2+イオンの濃度から計算された値と一致する。5秒目では予想通りβは低下している。本発明では、実施例1で示すように|η|/|i|評価は充電開始後、5秒目の電流電位曲線の情報に基づき検討する。5秒という時間条件は、ISS車の実際の運転環境とブレーキ回生時間が関係する現実的な時間領域である。つまり、ブレーキが踏まれ続ける間、鉛蓄電池は充電され続けるのである。本発明では、以上で示された原理的な背景を基に、充電開始後、5秒目の実験値β=1.11を使用する。
式24より、液式鉛蓄電池の|i(−)|Floodが決まると|i(−)|VRLAが決定される。これらの関係から、過電圧と電流に関する充電電流1.5倍化に関する以下の関係が得られる。すなわち、液式鉛蓄電池に関する式25、|η(−)|/|i(−)|Floodが決まると、VRLAに関する式26、|η(−)|/|i(−)|VRLAが決まる。ここに、|η(−)|は負極それぞれの充電電流に対応する過電圧の絶対値を示す。
|η(−)|/|i(−)|Flood・・・・・・・・式25
|η(−)|/|i(−)|VRLA=β|η(−)|/|i(−)|Flood・・・・・・・・式26
正極の充電反応においても同様である。正極の充電反応も負極の充電反応と同様に、式13で示される硫酸鉛の溶解反応が、式27に示される電気化学反応の先行化学反応として存在する。
PbSO4 → Pb2+ +SO4 2−・・・・・・・・式13
Pb2+ +2H2O → PbO2+4H++2e・・ 式27
正極の充電反応速度も式16から式21に示される同様な条件で、基本的に式23と同様な正極の充電反応速度式を得ることになる。負極に関する関係式、式24、式25、式26に対応する正極の関係式は、以下、式28、式29、式30で定義される。
|i(+)|Flood=β|i(+)|VRLA・・・・式28
|η(+)|/|i(+)|Flood・・・・・・・・・式29
|η(+)|/|i(+)|VRLA=β|η(+)|/|i(+)|Flood・・・・・・・・式30
ここに、|i(+)|Floodは、液式の正極の充電電流の絶対値、|i(+)|VRLAはVRALの正極の充電電流の絶対値を示す。|η(+)|は正極それぞれの充電電流に対応する過電圧の絶対値を示す。式24および式28の係数βは負極及び正極の充電反応メカニズム上同じである。充電開始後、5秒目のβは負極と同様、β=1.11である。
このような負極および正極の充電反応速度に関する定量的な取り扱いは、液式鉛蓄電池、VRALともに負極活物質、正極活物質、集電体構造の条件を共通にし、電解液比重のみを変えた場合の条件において基本的に成立している。これは実施例1、表2に示される結果からも明らかである。
まず、液式鉛蓄電池における|η(−)|/|i(−)|Flood、|η(+)|/|i(+)|Floodを明らかにする。これらの値および式26、式30より、VRALの充電電流1.5倍化、及び1.5倍化を超える条件を明らかにする。
本発明における電池の充電受け入れ試験すなわち充電電流評価試験条件は、断りが無い限り以下に示す通りである。すなわち、充電受け入れ試験における実施温度は温度25℃、充電電流の制限電流は200A、14V定電圧、充電状態SOC(State of Charge)が90%において、定電圧充電開始後の5秒目充電電流の値で評価する。電解液比重(SOC調整される前の満充電状態における比重)は液式鉛蓄電池で1.28である。
従来の液式鉛蓄電池として、JIS規定の80D23形鉛蓄電池の電池特性を示す。すなわち、80D23形鉛蓄電池の初期充電受け入れ性能は、14V定電圧充電開始5秒目充電電流として、33±2Aレベルである。この電池の本質的な特性は、以下に示す電気化学計測により明らかにされる。すなわち、電池の最小構成単位である2V単セルの特性を電気化学計測で明らかにしてゆく。計測温度(電解液)は、断りが無い限り25℃である。
充電受け入れ試験における活物質の状態は、初期状態であるとする。すなわち、負極、正極の活物質を集電体に塗布し、熟成、化成等を経て、所定のSOC等に調整された活物質の充電受け入れ特性である。サイクル試験の途中とか、電池の劣化状態での充電受け入れ特性では無い。サイクル評価試験を除き、本発明における1.5倍化条件等の充電受け入れ試験評価は、すべてこのような劣化が顕在化していない状態の特性である。
本発明における電流電位曲線の測定条件は以下の通りである。電流電位曲線は単板、すなわち負極及び正極それぞれの評価極板を1枚用いて計測する。いわゆる、単セル2V系、評価極板1枚の電気化学計測である。単セルとは、6直列12V電池の1直列分に相当する鉛蓄電池の最小単位である。電気化学計測はポテンショスタット、ガルバノスタット機能を有する物で実施する必要がある。電気化学計測は評価極板(working electrode)1枚、対極1枚の間にルギンキャピラリー(Luggin capillary)を設けた通常の3電極系で構成される電気化学計測セルを用いる。ルギンキャピラリーの中には取り扱いが容易な硫酸第一水銀参照電極を入れ、電気化学計測の基準電極とした。硫酸第一水銀電極の標準電極電位は、標準水素電極電位(SHE)に対して+0.615Vvs.SHEである。したがって、硫酸第一水銀電極で計測された電流電位の関係は容易にSHEに換算できる。
単セルでの電気化学計測の場合、14V充電電圧に相当する電圧は2.333Vである。
前記電気化学計測セルのSOCを90%(25℃、0.2Cで容量10%分放電させる)に調整後、評価極板の平衡電位が参照電極に対して安定するのを確認後、電流電位曲線を測定した。平衡電位が安定する目安として、電位変動が±0.5mV以内に収まることとした。平衡電位計測前に電解液中の溶存酸素を窒素で脱気し、電気化学計測は電解液を無撹拌状態の窒素雰囲気で実施した。電流電位曲線は、電位制御の場合は5秒目電流、電流制御の場合は5秒目電位に基づき測定されたものである。対象とする評価極板の電流電位曲線の測定が終了した後、ルギンキャピラリーと評価極板間のオーミック損(IRドロップ)を計測し、得られた電流電位曲線から、IR損を差し引いた真の電位と電流の関係を得、最終の電流電位曲線とした。オーミック損計測条件は、周波数1kHz、平衡電位からの電位変動幅はPeak to Peakで10mVとした。これらは通常の電気化学計測において、正確な電流電位曲線を求める場合に通常実施される計測内容である。
図4は、電流電位曲線計測用の極板の集電体の詳細を示す。負極、正極ともに図4に示すエキスパンド集電体に活物質を塗布し電流電位曲線を計測した。電気化学計測では、JIS規定のD形鉛蓄電池の極板よりも小さいB形鉛蓄電池の極板の方が、電気化学計測上及び電気化学計測設備の計測能力上も好ましい。図4に示す活物質塗布部分の投影面積は108cm2である。両面合わせた面積は216cm2である。
電気化学計測において、電流電位曲線の表示は電流密度表示が良く用いられる。しかし、実電池の評価をする場合、困難な面がある。それは投影面積にせよ、多くの細孔を有する反応活物質が実質投影面積よりも大きい実反応面積を有すること、実電池において、負極及び正極極板の枚数の構成が同じでない場合が多いこと等により、多孔質電池活物質を有する実用電池の評価において、電流密度の定義が困難となるのである。本発明における電気化学計測のセル構成は、ルギンキャピラリーを極板の一方向のみに設置し、評価極板の反対面は絶縁シールも何も施していない通常の極板のままである。このような状態の場合、対極と反対面にある評価極板からの電流の回り込みは溶液抵抗の関係から小さくなる。しかし、評価極板の裏面からの電流の流れ込みが存在するのは明らかである。この場合、電流密度の意味するところが曖昧になる。実電池においても正極6枚、負極7枚構成の並列構成の場合、両端の極板面には相対する極板が存在しない状態である。この場合も反応面積をどのように評価するかは単純ではない。
本発明における電気化学計測は、このような視点から、観測される電流値を全電流値として評価に用いることとする。電気化学反応速度論の点から、過電圧と電流の関係はオーミック損を補正している場合、電流密度と過電圧の関係を示している(玉虫玲太、「電気化学(第2版)」p.236、(1991)、東京化学同人)。理論的には、電流電位曲線において、同じ電流密度は同じ過電圧であるため、極板の面積の大小関係で変化する全電流で評価しても過電圧は変わらないと考えることができる。例えば、本実施例で示される電気化学計測では、1枚の評価極板に1枚の対極を正対させて測定している。仮に、2枚の対極を評価極板の両サイドに設置し、電気化学計測を実施したとすると、観測される電流は増加する。これは反応面積が実質増加し、評価極板の表裏両方に対極を有するため、観測される電流が増加するのである。しかし、結果として、反応面積が増加することで増加した電流は、反応面積で全電流を除した電流密度表示の場合は同じとなる。したがって、電流電位曲線を得るための電気化学計測条件は、同じ条件で実施しなくてはならない。
図3は、電気化学計測の結果を整理した実測電流電位曲線(N1、N3、P1、P3)及び1.5倍以上の充電電流を与える閾値に関する電流電位曲線(N2、P2)を示す。評価極板1枚、対極1枚で得られた電流電位曲線である。図3の電流電位曲線を評価極板1枚に対して、その両面に対極2枚を用いた場合は、図3に示す電流の値が大きくなる。しかし、上述のように結果的に過電圧は電流密度と理論的には関係づけられているため、図3に示す電流値が変化した場合においても、本発明の本質パラメータである過電圧条件は理論的には等価とみるのである。これは重要なポイントで、極板の面積を変えても、同じ活物質であれば、極板のサイズに寄らず、過電圧条件が原理的に開示できている点である。したがって、本発明で示すオーミック損を補正した、同じ電気化学計測用のセル構成(評価極板1枚に対極1枚)であれば、等価な過電圧条件が原理的に示されている。
電池を構成した場合においても充電電流の取り扱いは同じである。80D23形鉛蓄電池(単セルが正極6枚、負極7枚による極板群構成)の電池で、14V定電圧充電時の5秒目の充電電流は約33Aである。極板群の枚数構成を仮に正極9枚、負極10枚、または、正極4枚、負極5枚等と増減すると、充電電流はそれに伴い33Aから増減する。または、80D23形鉛蓄電池の極板の活物質でB形鉛蓄電池を構成しても、80D23形鉛蓄電池よりも大きい電池を構成しても、充電電流は33Aより小さくなったり、大きくなったりする。しかし、図3に示される過電圧の関係、すなわち充電電圧単セル2.333Vに対する過電圧分配条件は基本的に動かない。
図3に示す、N1、N3は負極に関する、P1、P3は正極に関する実測電流電位曲線である。N2及びP2が従来電池に対して1.5倍以上の充電電流を与える閾値に関する推定電流電位曲線を示す。N1とP1はそれぞれ従来負極及び従来正極に関する電流電位曲線である。N3は改良負極、P3は改良正極に関する本発明の実施例である。
図3に示される従来極板(N1/P1)の組み合わせで、充電電流5.40Aが観測されている。
本発明においては、従来の活物質を用いた過電圧の定義は以下の通りである。図3に見られる様に、負極の電流電位曲線N1は従来負極としての大きな特徴を有する。それは電流電位曲線が低い充電電流域で大きく変曲(図中のX2点)していることである。7Aレベルの充電電流を境に、過電圧が大きく上昇し、水素ガス発生へとシフトしている。すなわち、十分な充電反応速度が無いため、過電圧が急に上昇する挙動である。従来の負極はこのように従来正極P1、改良負極N3と明確に異なることが確認できる。すなわち、従来の充電受け入れ性能は負極支配である。これより、正極の従来活物質は、従来の負極活物質の定義に追随できる。
本発明における従来活物質は、上述のように活物質塗布投影面積108cm2の極板を評価極板とし、電気化学計測条件として、評価極板1枚の片面に正対するかたちで対極を1枚設け、その間に電位基準となる参照電極を設置した電気化学測定系で、単セル充電電圧2.333V(=14V/6)に対する充電電流と、過電圧に関する電流電位曲線の計測結果に基づき定義される。
すなわち、単セル充電電圧2.333Vに対する充電過電圧の絶対値がゼロから増加に転じる点X1(過電圧ゼロ、充電電流約1A)を原点とし、当該原点から負極N1電流電位曲線の変曲点X2(point of inflection)、すなわち、約7A領域の電流値を用い、式11に関係する過電圧(η(mV))と充電電流(A)の勾配(mV/A)を直線近似で示すと、従来の活物質のそれぞれの勾配は、以下のとおりとなる。すなわち、従来の負極の活物質は、電流電位曲線を与えるN1の勾配25.6(mV/A)である。従来の正極の活物質は、電流電位曲線を与えるP1の勾配は17.7(mV/A)である。式11に示す、本発明における過電圧と電流プロットの勾配は、本発明の電流電位曲線の計測条件において、充電電流7A以下の電流領域で観測される電流電位曲線の過電圧と電流に関する勾配とする。図3は全電流表示である。
以下、実施結果及び従来電池に対して1.5倍の充電電流を得るための条件を具体的に明らかにする。
図3は、種々の電流電位曲線N1、N2、N3、P1、P2、P3を示すと同時に、充電電流1.5倍以上を与えるための条件、種々の過電圧に関する内容を示してある。電流電位曲線N2及びP2は、それぞれ従来電池の充電電流1.5倍及び1.75倍を与えるのに必要な推定電流電位曲線である。N3、P3は、本発明において示される実際の充電電流2倍、および2倍を超える条件を満足する負極及び正極の実測電流電位曲線である。
表1に、充電電流1.5倍化条件を実際に満足する負極及び正極の実測電流電位曲線N3およびP3に基づく改良負極活物質と改良正極活物質を用いて、JIS規定の80D23形鉛蓄電池を作製し、充電受け入れ性能を実測したデータを示す。従来電池と並べて比較した。図3の電流電位曲線から考えられる特性結果を反映できていると考えられる。改良電池1は、負極を改良した電流電位曲線N3と従来正極P1極板を組み合わせた(N3/P1)電池である。改良電池2は、改良負極電流電位曲線N3と改良正極電流電位曲線P3の極板の組み合わせ(N3/P3)に相当する。表1に示す電池の極板群構成は、従来品、改良電池1、改良電池2いずれもJIS規定の80D23形鉛蓄電池の正極6枚、負極7枚の構成である。電流のサンプリング時間は1、2、3、5、10秒であり、充電電流表示は電池容量52Ahに対して電流を52Aで割って表示してある。したがって、充電電流がある電流サンプリング時に52Aとした場合、電流表示は1.00である。5秒目の電流で見ると、改良電池1、すなわち図3のN3とP1の組み合わせ(N3/P1)は、従来電池の充電電流に対して、1.81倍の充電電流を得ていることがわかる。この値は、図3のN3とP1の組み合わせから推定される値に近い。図3の電流電位曲線はオーミック損を補正したものであるが、実電池で観測される充電電圧には種々のオーミック損がそのまま含まれる。このため、図3のN3とP1の組み合わせから推定される倍率は2倍に近いことを考慮すると、実電池で示された1.81倍は、電流電位曲線の関係と十分整合していると考えられる。改良電池2、すなわち図3のN3とP3の組み合わせ(N3/P3)は、従来電池の充電電流に対して、5秒目において2.34倍の充電電流を得ていることがわかる。この値も、図3に示されるN3とP3の関係から推定される充電受け入れ性能と十分整合していると考えられる。(N3/P3)電池は、図3及びこれまでの原理検討面から示される様に、最大の充電電流の向上が期待できる組み合わせである。
表2は、改良電池2(N3/P3)において、通常の液式鉛蓄電池の電解液比重1.28の条件と、VRLAの電解液比重1.32の条件で充電電流を計測した結果である。充電開始後1秒目、5秒目の充電電流を示す。表1と同様に、充電電流値は電池容量52Aで割っている。24式で定義されるβの値が、実験結果に基づき示されている。短い時間領域におけるβは23式から理論的にβ=1.19になると推定されるが、表2の1秒目の値は推定値と一致している。さらに、時間とともにβが低下することが5秒目の値として示されている。5秒目のβは、表2に示されるβ=1.11を用い、|η(−)|/|i(−)|VRLA、および|η(+)|/|i(+)|VRLAを明らかにする。
図3に示されるN1(VRLA)、P1(VRLA)は、β=1.11及び24式、28式を用いて得られた計算に基づく電流と電位の関係を示す。N1(VRLA)はX2屈曲点の領域までを示す。
以下、本発明の実施結果に基づく、液式鉛蓄電池に関する充電電流1.5倍化の原理的な条件、閾値条件、および前記原理的な条件を満たす図3の電流電位曲線N3及びP3等の詳細を示す。これらの液式鉛蓄電池結果を基に、式26、式30、およびSOC90%5秒目におけるβの値、β=1.11を用いて、VRLAに関する過電圧(mV)/充電電流条件を示す。
以下(a1)から(a6)は、従来の液式鉛蓄電池の単セル負極及び正極に関する平衡電位、開回路電圧、全過電圧、及び負極正極への過電圧分配、および、過電圧(mV)/充電電流(約7A以下、約1A(X1)以上の領域)を示す。Hg/Hg2SO4は硫酸第一水銀参照電極である。
(a1)従来電極の平衡電位
正極:1.170 V vs. Hg/Hg2SO4(基準電極)
負極:−0.965 V vs. Hg/Hg2SO4
(a2)開回路電圧
1.170+|−0.965|=2.135V
(a3)14.0V充電電圧で単セルに印加される電圧
14.0V/6=2.333V
(a4)単セルに印加される全過電圧
2.333−2.135=0.198V
(a5)負極及び正極への過電圧の絶対値分配(図3より)
負極η(−)=119 mV
正極η(+)=79 mV
(a6)過電圧(mV)/充電電流
N1電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=25.6
P1電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=17.7
したがって、負極活物質、正極活物質、格子体の仕様をすべて共通にし、電解液の初期比重を液式鉛蓄電池の条件1.28からVRLAの条件1.32にした場合、従来のN1,P1を与える電流電位曲線の勾配は式26、式30、及びβ=1.11より、以下のとおりになる。
(a7)VRLAの過電圧(mV)/充電電流
N1(VRLA)電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=28.4
P1(VRLA)電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=19.6
以下、まず液式鉛蓄電池の充電電流1.5倍以上を満足する条件を示し、液式鉛蓄電池の結果に基づき、式26、式30、及びβ=1.11より、VRLAの充電電流1.5倍以上を満足する要件を示す。以下詳細である。
(b1)負極改良:1.5倍化
負極のみを改良し、正極は従来の正極を用い、充電受け入れ性能が従来の電池の1.5倍以上になる組み合わせは図3に示す(N2/P1)の組み合わせとなる。すなわち、これらの電流電位曲線の組み合わせに関する過電圧と充電電流を直線近似した時の勾配(改良負極過電圧/充電電流)は以下のとおりである。なお、N2勾配の原点は、過電圧ゼロで充電電流ゼロのX0としている。
N2改良負極過電圧(mV)/充電電流≦9.4
P1従来正極過電圧(mV)/充電電流=17.7
改良負極、図3のN2の過電圧絶対値は74mV、一方、従来正極P1にかかる過電圧は124mVである。
従来負極に関しては、N1従来負極過電圧(mV/充電電流(約7A以下、約1A(X1)以上の領域)=25.6である。したがって、1.5倍を達成するには従来負極の電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)を25.6から9.4以下に低下させる必要がある。その他の電流電位曲線N2、P1、P2、P3に関する勾配も同様な意味を有する。
したがって、VRLAの過電圧(mV)/充電電流に関する条件は、以下のとおりである。
N2(VRLA)改良負極過電圧(mV)/充電電流≦10.4
P1(VRLA)従来正極過電圧(mV)/充電電流=19.6
図3より、従来正極はそのまま用い、負極のみの改良で充電電流2倍以上を満足する条件が理論上存在する。すなわち、負極が現実的に取り得る過電圧領域で、図3に示される2倍の充電電流を満たす大きく改良された負極と、従来正極の過電圧の関係が得られる。該当する負極の電流電位曲線は、図3に示す実測電流電位曲線N3に大変近い。充電電流2倍以上を満足する条件は(b1)の必要条件に示される負極及び正極過電圧条件に含まれるが、2倍を超える負極及び正極過電圧条件の有無を原理的に確認することは重要な意味がある。充電電流2倍以上を満足する改良負極を本発明では大改良負極と呼ぶこととする。
(b2)負極改良:2倍化
単セル2Vに対する充電電圧2.333Vの条件において、従来負極及び正極を用いた場合の2倍の電流を流す条件は以下のとおりである。図3に示す従来電池の充電電流の2倍の電流値が、P1と負極の電流電位曲線を横断する過電圧分配条件である。図3より正極にかかる過電圧は164mVで、全過電圧は198mVで一定であるため、2倍以上の電流を流すための負極条件は、(198−164)mV=34mVである。充電電流が2倍以上になる大改良負極の負極過電圧(mV)/充電電流(約7A以下、0A以上の領域)はN3電流電位の関係と重なり、以下になる。
大改良負極過電圧(mV)/充電電流≦2.8
P1従来正極過電圧(mV)/充電電流=17.7
大改良負極過電圧(mV)/充電電流(約7A以下、0A以上の領域)≦2.8は、実測のN3で示される負極の電流電位曲線負極と同じ勾配を与えられる。なお、N3勾配の原点は、過電圧ゼロで充電電流ゼロのX0としている。
したがって、VRLAの過電圧(mV)/充電電流に関する条件は、以下のとおりである。
大改良負極(VRLA)過電圧(mV)/充電電流≦3.1
P1(VRLA)従来正極過電圧(mV)/充電電流=19.6
(c1)正極のみ改良:1.5倍化
従来負極N1を用いる限り、正極のみの改良で1.5倍の正極条件は存在しない。これは図3より明らかである。正極のプラス過電圧が負極過電圧領域(マイナス)に入り込んでしまう、いわゆる転極が必要になり、そうなった場合に鉛蓄電池の機能が喪失した状態となる。
(d1)負極と正極両方の改良:1.75倍化
図3に示す1.75倍化の充電電流を与える組み合わせは(N2/P2)である。1.75倍を超えるN2改良負極に関する勾配(mV/アンペア(約7A以下、0A以上の領域))と、P2改良正極に関する勾配(mV/アンペア(約7A以下、約1A(X1)以上の領域))は以下の条件になる。なお、N2勾配の原点は、過電圧ゼロで充電電流ゼロのX0としている。
N2改良負極過電圧(mV)/充電電流≦9.4
P2改良正極過電圧(mV)/充電電流≦12.4
この事実は改良負極N2の過電圧をより低下させると同時に、改良正極P2の過電圧をより低下させることで、図3に示される充電電流2倍を超える条件があることを明確に示している。2倍を超える条件は、ISS車に搭載される鉛蓄電池の充電性能向上において飛躍的である。表1に示される、改良1の(N3/P1)電池及び改良2の(N3/P3)電池は、図3に示されるN3、P3の負極正極の組み合わせで作製されたJIS規定の80D23形鉛蓄電池である。得られた電池の性能は、上記の1.5倍化、1.75倍化、2倍超えの条件を電池で再現している。
したがって、本条件におけるYRLAの過電圧(mV)/充電電流に関する条件は、以下である。
N2(VRLA)改良負極過電圧(mV)/充電電流≦10.4
P2(VRLA)改良正極過電圧(mV)/充電電流≦13.7
N3及びP3の実測電流電位曲線の過電圧(mV)/充電電流(約7A以下、約1A(X1)以上の領域))の値はそれぞれ以下のとおりである。なお、N3勾配の原点は、過電圧ゼロで充電電流ゼロのX0としている。
N3電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=2.8
P3電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=8.9
図3から明らかであるが、N3の条件は(b1)の条件に、及びP3の条件は(d1)の条件に含まれる。本発明の過電圧と電流の関係に示された(b1)から(b2)及び(c1)および(d1)のそれぞれの条件が、ISS車に搭載される鉛蓄電池に必要な充電受け入れ性能を向上させる本質的な条件を開示していることが明らかである。
したがって、N3及びP3の電流電位曲線はVRLAにおいては、以下のとおりとなる。
N3(VRLA)電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=3.1
P3(VRLA)電流電位曲線の勾配(mV/アンペア)=9.9
<負極及び正極活物質条件>
図3に示されるN1、N3、P1、P3を与える負極及び正極の活物質の充電前(未化成)の極板作製内容及び電槽化成(Container Formation)条件を以下に示す。電解液を液式鉛蓄電池の比重1.28に調製する場合も、VRLAの電解液比重1.32に調製する場合も、これらの条件は同じである。VRLAの電解液比重1.32は、初期条件で作製した負極、正極で、電解液比重を1.28から1.32に最終調製したものである。表2のデータはこのようにして得られた。
先ず、未化成の負極板の作製内容を示す。酸化鉛と、カットファイバ(ポリエチレンテレフタレート短繊維、以下同じ)と、硫酸バリウムと、炭素質導電材と、負極活物質の粗大化を抑制する有機化合物との混合物に水を加えて混練し、続いて希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、負極用活物質ペーストを作製した。この活物質ペーストを、鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体(格子体)に充填し、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成(Curing)し、その後乾燥して未化成の負極板を作製した。電気化学測定用の極板の場合は、図4に示すエキスパンド式集電体(格子体)に充填した。
次に、未化成の正極板の作製内容を示す。酸化鉛と鉛丹とカットファイバとの混合物に水を加えて混練し、続いて希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、正極用活物質ペーストを製造した。この活物質ペーストを、鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体(格子体)に充填し、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、その後乾燥して未化成の正極板を作製した。電気化学測定用の極板の場合は、図4に示すエキスパンド式集電体(格子体)に充填した。
次に、前記未化成の正極板7枚と、前記未化成の負極板8枚を、1枚ずつリテーナを介して交互に積層し、極板群を作製する。この極板群を電槽に挿入して電槽化成を実施する。リテーナは、ガラス短繊維を主体とし、これを集積したマット状の電解液保持体である。このリテーナは、VRLAにおいて常用されているものである。
電槽化成では、比重1.24の希硫酸を電槽内に注入し、活物質量に基づく理論容量の200%の電気量を通電して鉛蓄電池を完成した。電気化学計測用の極板作製の場合も同等の条件である
本発明における従来負極N1は、カーボンブラック0.1質量%、リグニン([化2]の化学構造式で示すリグニンスルホン酸ナトリウム)0.3質量%、硫酸バリウム1質量%、カットファイバ0.1質量%を活物質の主原料である鉛粉(PbO)に混ぜ、化成前の硫酸鉛量15質量%の活物質としたものである。従来正極P1は、硫酸塩(Na2SO4)0.026質量%、カットファイバ0.25質量%を、活物質の主原料である鉛粉(PbO)に混ぜ、化成前の硫酸鉛量16質量%の活物質としたものである。N3とN1それぞれの電流電位曲線を与える活物質構成の違いは、N1を与える負極活物質は[化2]の化学構造式(部分構造)で示すリグニンスルホン酸ナトリウムを0.3質量%用いているが、N3は[化1]の化学構造式で示すビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物(分子量1.0万〜4.0万、化合物中のイオウ含有量は6〜11質量%)を0.2質量%用いていることである。P1とP3それぞれの電流電位曲線を与える活物質構成の違いは、P1を与える正極活物質のペースト状活物質密度が3.85g/cm3であるのに対して、P3を与える正極活物質のペースト状活物質密度が4.45g/cm3である点にある。この違いは、ペースト状活物質を作製するときに生成した硫酸鉛の含有量の違いに起因する。したがって、P3を与える活物質は、同じ体積の活物質量を塗布した場合においても、P1を与える従来の活物質より充填量が10%以上増加する。
図3に示すP3の過電圧の低下は、この活物質量の増加が基本的に最上位の要因であると考えられる。すなわちP3を与える高密度活物質ペーストにより、活物質中の導電ネットワークも密になると考えられる。SOCが低下して生成する硫酸鉛も高密度に微細分散しやすくなると考えられる。導電ネットワークが密になり硫酸鉛が細かく分散すると、硫酸鉛の解離平衡で生じる鉛2価イオンの絶対量が増え、導電ネットワークの効果により、充電電流が流れやすくなったためと考えられる。正極1枚あたりの活物質体積をJIS規定のB形鉛蓄電池の極板で見ると、15〜16cm3レベルである。15cm3の場合、P1を与える従来の活物質の充填量は57.7gである。一方、P3を与える従来の活物質の充填量は15cm3の場合、66.75gである。B形電池の正極板で、塗布体積を15cm3とすれば、66.0〜67.5gの充填重量はペースト状活物質密度4.40〜4.50g/cm3の正極活物質を用いることにより得ることができる。したがって、P3の電流電位曲線を得るためには、ペースト状活物質密度4.40〜4.50g/cm3、水分量11.5±1.0質量%、針入度135±40(10−1mm)の正極ペースト状活物質が必要であり、塗布体積を15cm3とすれば、66.0〜67.5gの充填重量となる。針入度は、JIS K2220規定の(グリース)ちょう度試験器で計測する。
1.75倍以上の充電受け入れ性能を満たす正極電流電位曲線の閾値を示すP2の正極活物質条件は、ペースト状活物質密度3.80〜4.40g/cm3、水分量11〜14質量%、針入度135±40(10−1mm)である。
図5は、電解液比重1.28の液式鉛蓄電池における充電電流の時間推移を示す。電池は同様にJIS規定の80D23形鉛蓄電池である。図5で充電電流が最も低いのは、図3に示すN1とP1構成(N1/P1)、すなわち従来電池である。中間の充電受け入れ電流を示すものがN3とP1構成(N3/P1)電池である。そして、最大充電電流を示すのは、N3とP3構成(N3/P3)電池である。電池での評価結果は、図3において解析された充電電流1.5倍化の条件と整合している。ただし、図3の電流電位曲線は、図5における5秒目のデータに相当する。
<分析>
[化1]に示すビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物が、図3に示す電流電位曲線N3及び改良N3の負極活物質中に存在していることを、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、以下NMR)分光法により確認した。日本電子株式会社製のNMR分光装置(型式:ECA−500FT−NMR)を用い、以下のとおり分析を実施した。
まず、化成終了後の本実施例の鉛蓄電池を解体し、負極板を取り出し、水洗して硫酸分を洗い流した。化成後の負極活物質は多孔質の金属鉛である。負極活物質の酸化を防ぐために、窒素などの不活性ガス中で負極板を乾燥した。乾燥させた負極板から負極活物質を分離して粉砕し、その粉砕物を10%水酸化ナトリウム溶液に投入して、生成する沈殿物(水酸化鉛)を除いた抽出液を、前記装置で分析・測定した。測定条件は表3のとおりである
図6はNMR分光法により測定したスペクトルを示す。横軸は化学シフト(ppm)を、縦軸はピーク強度を示している。
図6に二重丸を付して示したように、化学シフト6.7ppmと7.5ppmに、[化1]に示すビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物のp−アミノベンゼンスルホン酸基に由来するピークが認められた。さらに、図6に三角を付して示したように、化学シフト0.5ppmから2.5ppmの領域に、[化1]に示すビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物のビスフェノールA骨格に由来するピークが認められた。
上記の結果から、負極活物質中に[化1]に示すビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物が存在することを確認できた。