本発明はここに、抗生物質改変性の酵素産生微生物、特に(好ましい実施形態において)ESBLを産生する微生物の、迅速な診断のための方法を提供する。本発明は更に、微生物が潜在的に抗菌剤化合物に対して耐性を有するか否かを決定するための方法を提供する。そのような決定は、新しいタイプの耐性を早期に検出するのに役立ち得る。
第一の態様において、本発明は、微生物が潜在的に抗菌剤化合物に対して耐性を有するか否かを決定するための方法であって、
(a) 前記抗菌剤化合物、その酵素的改変生成物、またはその改変酵素の基質化合物の参照マススペクトルを提供する工程と、
(b) 微生物、その細胞溶解物、またはその培地上清を、水性液中の前記抗菌剤化合物または前記基質化合物に曝露させることにより、曝露済みサンプルを提供する工程と、
(c) 前記曝露済みサンプルのマススペクトルを取得する工程と、
(d) 工程(c)で取得した前記マススペクトルを、工程(a)の前記参照マススペクトルと比較する工程と、
(e) 前記曝露の後に、前記抗菌剤化合物、または前記基質化合物の改変が起こったか否かを、前記比較から決定し、かつ前記改変が観察されたときに前記微生物が前記抗菌剤化合物に対して潜在的に耐性を有することを確認する工程と、を含み、
前記微生物、前記その細胞溶解物、または前記その培地上清を、前記水性液中の前記抗菌剤化合物または前記基質化合物に曝露する工程は、質量分析用サンプル支持体上で行われ、前記サンプルは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI−MS)のためのマススペクトル用サンプルを生成するために前記サンプル支持体上で乾燥されることを特徴とする方法を提供する。
前記方法の好ましい一実施形態において、この改変には、前記抗菌剤化合物の酵素的不活性化または酵素的分解、および/またはその分子標的のメチル化または過剰生成が含まれる。より好ましくは、この酵素的分解は、ベータラクタマーゼによる分解によるものである。そのような場合において、抗菌剤化合物は、ベータラクタム抗生物質、または任意の他のベータラクタマーゼ基質であり得る。したがって、前記方法の別の好ましい一実施形態において、抗菌剤化合物は、抗菌剤化合物を改変する酵素の基質化合物によって置き換えることができる。別の好ましい実施形態において、抗菌剤化合物はベータラクタム抗生物質であり、好ましくは、ペニシリン、セファロスポリン、セファマイシン、およびカルバペネムからなる群から選択され、より好ましくは、セフタジジム、セフォタキシム、セフトリアキソン、セフポドキシム、およびアズトレオナムからなる群から選択される。
抗生物質耐性のメカニズムによっては、抗菌剤化合物の分子標的(例えば葉酸)も過剰生成されることがあり、これにより葉酸拮抗薬に対する耐性が生じることが明らかである。標的の過剰生成は、内部標準を使用し、標的/内部標準の比の増大を観察することによって、検出することができる。好適な内部標準は、DNAなどの核酸であり得る。
更に、これも抗生物質耐性のメカニズムによっては、抗菌剤化合物の分子標的(例えば核酸)のメチル化が検出可能であり得る。
本発明の方法の更に別の好ましい一実施形態において、この方法は、前記微生物を複数の抗菌剤化合物に同時に曝露させ、これによって複数の抗生物質化合物について前記微生物の抗生物質耐性を特徴付けることによって実施される。
本発明の方法の更に別の好ましい一実施形態において、前記抗菌剤化合物の酵素的不活性化または酵素的分解は、ベータラクタマーゼによって生じる。特に好ましい実施形態において、ベータラクタマーゼ酵素は、セファロスポリナーゼ(基質特異性拡張型セファロスポリナーゼを含む)、ペニシリナーゼ、カルベニシリナーゼ、クロキサシリナーゼ、およびカルバペネマーゼからなる群から選択され得る。
本発明の方法のまた更に好ましい一実施形態において、ベータラクタマーゼ酵素は基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)である。
前記方法のまた更に好ましい一実施形態において、微生物は、ESBL産生が疑われる微生物であり、好ましくはグラム陰性菌であり、より好ましくはクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)からなる群から選択されるグラム陰性菌である。
本発明の態様に使用されるサンプルは、微生物か、その溶解性生物を含む。微生物サンプルは、微生物の培養物のサンプルであり得る。そのような培養物は、純粋な培養物でなくともよい。別の方法として、培地の分画または直接的臨床材料も、サンプル源となり得る。
前記方法の更に別の好ましい一実施形態において、この方法は、微生物の抗生物質改変酵素の特徴付けのための方法の一部であり、好ましくは、前記抗生物質改変酵素は、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)酵素である。特に好ましい一実施形態において、本発明の方法は、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)酵素の特徴付けのための方法の一部である。
好ましくは、本発明による前記酵素の特徴付けのための方法には、特定の酵素阻害剤の存在下または不在下での、前記抗菌剤化合物または前記基質化合物の改変(好ましくは分解)速度、および/または、前記化合物または基質の酵素的改変生成物の生成速度、または、前記化合物の分子標的の過剰生成速度を決定することが含まれ、これらにより、前記酵素のミカエリス・メンテン(Km)定数と最大反応速度(Vmax)を決定する。
前記方法の更に別の好ましい一実施形態において、マススペクトルは、MALDIトリプル四重極質量分析を使用して取得される。
前記方法の更に別の好ましい一実施形態において、曝露済みサンプルは、前記微生物の曝露済み未精製細胞溶解物である。
前記方法の更に別の好ましい一実施形態において、この方法は更に、微生物を定量する工程を含む。好ましくは、微生物は前記サンプル中で、前記微生物に由来する1つ以上の構造的生体分子または代謝生成物を定量することによって定量される。好ましい実施形態において、構造的生体分子または代謝生成物は、核酸、好ましくは(遺伝)DNAからなる群から選択される。DNAは、細胞内に単一の分子として存在し、例えばPCRやDNAプローブ介在テクノロジーを使用して定量できる。
更に別の一態様において、本発明は、次のものを含む、微生物のベータラクタム抗生物質耐性を特徴付けるための部品キットを提供する:
a) 微生物を溶解させるための溶解緩衝液、
b) 少なくとも1つの抗菌剤化合物、または抗菌化合物改変酵素の基質、および
c) MALDIマトリックス材料、
前記部品キットは更に次のものを含む:
d) 前記の少なくとも1つの抗菌剤化合物または基質を担うキャリヤ、前記キャリヤは所望により、使い捨てのマススペクトル用サンプル支持体の形態である。
更に別の一態様において、本発明は、上述のように本発明の方法によって微生物のベータラクタム抗生物質耐性を特徴付けるために適合されたシステムを提供し、前記システムは下記のうち1つ以上を含む:
− 少なくとも1つの抗菌剤化合物、または抗菌化合物改変酵素の基質、
− 微生物、その細胞溶解物、またはその培地上清を、水性液中で少なくとも1つの抗菌剤化合物に曝露させるための容器であって、好ましくは、前記少なくとも1つの基質化合物が前記容器内に提供される、
− 前記微生物を溶解させるための溶解緩衝液、
− MALDIマトリックス材料、
− 質量分析装置、
− 抗菌剤化合物、その酵素的改変生成物、その分子標的、またはその改変酵素の基質化合物の参照マススペクトル、
− マススペクトル用サンプル支持体、
所望により更に次のものを含む:
− 液体取扱いのための自動化ピペッター、
− 前記プログラムがコンピュータ上で作動するときに、上述の本発明の方法の全工程を実施するためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム、例えば、結果解釈のためのアルゴリズムや、インタフェースソフトウェア、エキスパートシステムソフトウェアを含む。
本発明は別の一態様において、前記プログラムがコンピュータ上で作動するときに、上述の本発明の方法の全工程を実施するためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムを提供する。
本発明は別の態様において、前記プログラム製品がコンピュータ上で作動するときに、上述の本発明の方法を実施するため、コンピュータで読み取り可能な媒体に保存されているコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品を提供する。
定義
用語「抗生物質」および「抗生物質化合物」は本明細書において互換可能な語として使用され、本明細書において、細菌の生存可能性を低減させるか、あるいは細菌の成長または繁殖を阻害する、化合物または組成物を指す。「成長または繁殖を阻害する」とは、世代周期が少なくとも2倍に増加し、好ましくは少なくとも10倍に増加し、好ましくは少なくとも100倍に増加し、最も好ましくは無期限に全細胞死亡となることを意味する。本開示に使用されるとき、抗生物質はさらに、抗菌剤、細菌発育阻止剤、または殺菌剤を含むことが意図される。本発明の態様に有用な抗生物質の非制限的な例としては、ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、スルホンアミド、マクロライド、テトラサイクリン、リンコサミド、キノロン、クロラムフェニコール、グリコペプチド、メトロニダゾール、リファムピン、イソニアジド、スペクチノマイシン、葉酸阻害剤、スルファメトキサゾール等が挙げられる。
用語「ベータラクタム抗生物質」は、ベータラクタム官能基を含む抗生物質特性を備えた化合物を示すのに使用される。ベータラクタム環(β−ラクタム)は、ヘテロ原子環構造を含む環状アミドであり、3つの炭素原子と1つの窒素原子からなる。本発明の態様に有用なベータラクタム抗生物質の非制限的な例としては、ペニシリン、セファロスポリン、セファマイシン、ペネム、カルバペネム、モノバクタムが挙げられる。ベータラクタム抗生物質は、(耐性がない状態において)幅広い細菌感染に対して有効である。用語「ベータラクタム抗生物質」は、本明細書で使用されるとき、抗生物質耐性微生物による不活性化により何らかの質量変化または構造変化を受けたものを含むと見なされる。ここにおいて、そのような質量変化または構造変化は、マススペクトルで検出することが可能である。
用語「第三世代セファロスポリン」は、セフィキシム、セフタジジム、セフォタキシム、セフトリアキソン、セフカペン、セフダロキシム、セフジニル、セフジトレン、セフェタメト、セフメノキシム、セフォジジム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフピミゾール、セフピラミド、セフポドキシム、セフスロジン、セフテラム、セフチブテン、セフチオレン、セフチゾキシム、およびオキサセフェム等を含む化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
用語「ベータラクタマーゼ」は微生物、好ましくは細菌によって産生される、ベータラクタム抗生物質のベータラクタム環を加水分解する能力を有する酵素(EC 3.5.2.6)を意味する。このような酵素はしばしば、主にタンパク質の相同性に基づく、いわゆるAmbler分類スキームに従って大きく4つのクラス(クラスA、B、C、およびD)に分類される。ベータラクタマーゼの例としては、セファロスポリナーゼ、ペニシリナーゼ、カルベニシリナーゼ、クロキサシリナーゼ、カルバペネマーゼ、およびセフタジジマーゼが挙げられる。この用語の意味には、「ノーマルな」ベータラクタマーゼ、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)、ならびにAmpCベータラクタマーゼが含まれる。本発明の態様において好ましいベータラクタマーゼは、Ambler分類によるグループAおよびDのベータラクタマーゼ酵素であり、またBush分類によるグループ2に属するベータラクタム酵素である(Bush et al. 1995. Antimicrob Agents Chemother. 39: 1211−33)。AmblerクラスA抗生物質は古典的な活性部位セリンベータラクタマーゼであり、クラスDはセリンベータラクタマーゼの特定の群であって、クラスAベータラクタマーゼとは配列類似性がほとんどなく、OXA(オキサシリナーゼ)グループとしてよく知られている。また、メタロカルバペネマーゼも好ましいものとして挙げられる。
用語「基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ」(ESBLと略される)は、本明細書で使用されるとき、当初「拡張広域スペクトルベータラクタマーゼ」と呼ばれ、オキシイミノセファロスポリンを加水分解する能力を有するTEMおよびSHV酵素の誘導体として形成されたものである。これらはすべて、ベータラクタマーゼ機能グループ2beに属している。したがって、この用語は次のものを含むよう拡大されている:(i)TEMとSHVの突然変異体に類似のスペクトルを有するが、他のソース、例えばCTX−MタイプおよびVEBタイプに由来する酵素、(ii)境界的ESBL活性を備えたTEMおよびSHV突然変異体、例えばTEM−12、ならびに(iii)親タイプよりも幅広い耐性を付与するが、グループ2beの定義には合致しないさまざまなベータラクタマーゼ、例えばOXA誘導体、ならびにセフェピムに対する活性が増大した突然変異体AmpCタイプ。
用語「耐性の」および「耐性」は、本明細書で使用されるとき、微生物が、ヒトにおける通常の治療投与量レジメンで達成され得る抗菌剤濃度に曝露したときに、生体活性の低下や成長または増殖の阻害を呈さない現象を指す。これは、この微生物によって引き起こされた感染症が、この抗菌剤で成功裏に治療できないことを意味する。
用語「微生物」は、本明細書で使用されるとき、例えば細菌、酵母、真菌、細胞内または細胞外寄生虫などの、特に病原性微生物を指す。本発明の好ましい態様において、この用語は病原性または日和見性細菌を指す。これにはグラム陽性菌とグラム陰性菌の両方が含まれる。グラム陰性菌と称するとき、これは次の属の細菌から構成され得る:シュードモナス属(Pseudomonas)、エシェリキア属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、赤痢菌属(Shigella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、セラチア属(Serratia)、プロテウス属(Proteus)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、モルガネラ属(Morganella)、ビブリオ属(Vibrio)、エルシニア属(Yersinia)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、ブランハメラ属(Branhamella)、ナイセリア属(Neisseria)、バークホルデリア属(Burkholderia)、シトロバクター属(Citrobacter)、ハフニア属(Hafnia)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、アエロモナス属(Aeromonas)、モラクセラ属(Moraxella)、パスツレラ属(Pasteurella)、プロビデンシア属(Providencia)、アクチノバシルス属(Actinobacillus)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ボルデテラ属(Bordetella)、セデセア属(Cedecea)、エルウィニア属(Erwinia)、パンテア属(Pantoea)、ラルストニア属(Ralstonia)、ステノロフォモナス属(Stenotrophomonas)、キサントモナス属(Xanthomonas)およびレジオネラ属(Legionella)。グラム陽性菌と称するとき、これは次の属の細菌から構成され得る:エンテロコッカス属(Enterococcus)、レンサ球菌属(Streptococcus)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、バシラス属(Bacillus)、リステリア属(Listeria)、アクロストリジウム属(Clostridium)、ガルドネレラ属(Gardnerella)、コクリア属(Kocuria)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)、マイクロコッカス属(Micrococcus)、マイコバクテリウム属(Mycobacteria)およびコリネバクテリウム属(Corynebacteria)。酵母および真菌と称するとき、これは次の属の酵母から構成され得る:カンジダ属(Candida)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、サッカロミセス属(Saccharomyces)およびトリコスポロン属(Trichosporon)。
用語「マススペクトル」は、本明細書で使用されるとき、分子量を有するプロット、または独立変数としてのその関数(例えば質量電荷比(m/z)、イオン質量など)を指す。従属変数は典型的に定量的測定値であり、例えば存在量、相対存在量、強度、濃度、イオン数、分子数、原子数、カウント数/ミリボルト、カウント数などである。例えば、イオンの場合、マススペクトルは典型的に、独立変数として質量電荷比(m/z)を表わし、ここにおいてmはイオン種の質量、zはイオン種の電荷であり、従属変数は最も一般的には、各分子イオンやそのフラグメントイオンの存在量である。用語「イオン」は、1つ以上の電子を獲得または喪失、あるいは1つ以上のプロトンを獲得または喪失することによって、全体の電荷を得ている、原子または原子群を意味する。イオンはさまざまな方法で形成することができ、例えば、電流や、紫外線および特定のその他の光線、高温などの効果によって、気体分子を破壊することが挙げられる。
用語「参照マススペクトル」は、本明細書で使用されるとき、比較分析のための対照マススペクトルを指す。
用語「改変酵素の基質化合物」は、本明細書で使用されるとき、抗生物質改変酵素により加水分解され得る任意の化合物(抗生物質か否かを問わず)を指す。この基質の酵素的改変は、元の基質化合物とは異なる質量電荷比(またはマススペクトル)を備えた反応生成物をもたらす。この酵素的改変が分解である場合、この反応生成物は本明細書において「分解生成物」と称され得る。
用語「改変酵素」は、本明細書で使用されるとき、例えばベータラクタマーゼなどの抗菌性化合物改変酵素を幅広く指す。
「改変」とは、本明細書で使用されるとき、抗菌性化合物の抗菌活性に関して化合物を不活性にさせるような、化学的または物理的(好ましくは化学的)改変を指す。改変には分解が含まれ得、この分解とは、化合物分子から化学的部分を除去してより低い分子量を生じることを指し、所望により、改変された質量電荷比を伴う。あるいは、改変には、抗菌活性に関してこの化合物を不活性にさせるような、化合物分子への化学的部分の置換または追加が含まれ得、この改変形態により、改変された質量の分子が生じ、所望により、改変された質量電荷比を伴う。
用語「細胞溶解物」は、本明細書で使用されるとき、細胞の破壊または溶解によって得られた、細胞懸濁液またはその分画を指す。未精製の細胞溶解物には、タンパク質、糖タンパク質、多糖類、脂質、および核酸のすべてが含まれる。本発明の態様においてこの細胞溶解物は細胞全体を含み得るが、主に、溶解工程後に得られた細胞部分や任意の分画、またはその混合物からなる。しかしながら細胞溶解物溶液は、選択された分子を除去あるいは不活性にするよう処理された溶解細胞溶液を含み得、これに制限されない。この溶液は、最も精製された細胞構成物について、実質的に「未精製」のままである。例えば、細胞溶解物は、ポリメラーゼ阻害剤を不活性化または除去する薬剤で処理した溶解細胞溶液であり得る。加えて、細胞溶解物は、抗凝固剤で処理した溶解細胞溶液であり得る。細胞サンプル中の細胞を溶解させるには、任意の方法を使用することができる。例えば、細胞を溶解させるのに使用できる方法には、浸透圧衝撃、超音波照射、加熱、物理的破壊、マイクロ波処理、酵素、および/またはアルカリ溶解がある。
用語「培地」は、本明細書で使用されるとき、微生物の代謝表現および/または成長に必要なすべての要素を含む培地を指す。培地は固体、半固体、液体であり得る。培地には、例えばアミノ酸、ペプトン、炭水化物、ヌクレオチド、無機質、ビタミン、活性分子(抗生物質など)、酵素、界面活性剤、緩衝剤、リン酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、金属塩、酵素活性の検出を可能にする1つ以上の基質などの、1つ以上の要素の組み合わせが含まれ得る。
用語「上清」は、本明細書で使用されるとき、液体培地(例えば液体ブロス)中で成長した細胞を遠心分離、濾過、沈殿、その他当該技術分野において周知の方法によって除去したときに残る液体懸濁液を指し、溶解物と懸濁物を含む。
用語「マトリックス材料」および「MALDIマトリックス材料」は、本明細書で使用されるとき、互換可能な用語であり、MALDIマススペクトルに使用するためのマトリックスを形成するのに使用され得る、溶液または固体中の化合物を指す。MALDIでは、分析対象物は、レーザーが発する波長をよく吸収する分子が多量に過剰にある中に、分析対象物を埋め込む必要がある。このマトリックス分子は一般に、小さな有機化合物で、主に酸である。MALDIに使用される各タイプのレーザーについて適切なマトリックス材料は、当該技術分野において周知であり、用語「MALDIマトリックス材料」は当業者によって明確に理解される。本発明を制限することなく、一般的に使用されるマトリックス材料の例としては、シナピン酸(SA)、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(HCCA)、2.5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、7−ヒドロキシ−4−(トリフルオロメチル)クマリン(HFMC)、3−ヒドロキシピコリン酸(3−HPA)、5−(トリフルオロ−メチル)ウラシル、コーヒー酸、コハク酸、アントラニル酸、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリン(porfyrine)、およびフェルラ酸が挙げられる。マトリックスは、アセトニトリル/水/蟻酸(500:500:1、v/v/v)に好適に溶解させ、または使用マトリックスに応じて他の好適な比で溶解させる。
用語「サンプル」は、本明細書で使用されるとき、例えば特徴付けられる微生物またはベータラクタマーゼ、あるいはベータラクタマーゼ基質、あるいはベータラクタマーゼ分解生成物などの、分析対象物を含むか含むことが疑われる物質を指す。本発明の方法に有用なサンプルは、液体または固体であってよく、液体中に溶解または懸濁していてもよく、乳剤またはゲル中であってもよく、物質に結合または吸収されていてもよい。サンプルは生物学的サンプル、環境サンプル、実験サンプル、診断サンプル、またはその他のタイプの、関心対象の分析物を含むか含むことが疑われるサンプルであり得る。同様に、サンプルは、生物体、臓器、組織、細胞、体液、生検サンプル、またはこれらの分画であってよく、またはこれらを含み得る。本発明の方法に有用なサンプルは、ベータラクタマーゼおよびESBLの基質などの分析対象物を含むことが疑われる任意の物質であってよい。生物学的文脈では、サンプルには、生物学的液体、生物体全体、臓器、組織、細胞、微生物、培養上清、細胞小器官、タンパク質複合体、個々のタンパク質、組み換えタンパク質、融合タンパク質、ウイルス、ウイルス粒子、ペプチド、およびアミノ酸が含まれ得る。
用語「サンプル支持体」は、本明細書で使用されるとき、MALDI MS分析のサンプルを受け取るのに好適なあらゆる支持体を指す。一般的に使用されるのは10×10ステンレススチール製ターゲットプレート(Perseptive Biosystems(米国マサチューセッツ州フラミンガム))であり、適切な場合はこのターゲットプレートは疎水性コーティングされ得る。
用語「ミカエリス・メンテン定数」は、しばしば「Km」と称され、本明細書で使用されるとき、酵素反応速度が最大速度の半分のときの基質濃度を指す。用語「最大反応速度」はしばしば「Vmax」と称され、本明細書で使用されるとき、飽和基質濃度での酵素反応の最大速度を指す。ミカエリス・メンテン式は、酵素化学反応により生じる分子の生成速度を記述する。酵素反応の最大速度を決定するには、生成物産生が一定速度になるまで基質濃度を増加させる。これが、酵素の「最大速度」(Vmax)である。この状態で、酵素活性部位は基質で飽和されている。Vmaxでの基質濃度は正確には測定できないため、酵素は、反応速度が最大速度の半分のときの基質濃度によって特徴付けることができる。この基質濃度は、ミカエリス・メンテン定数(KM)と呼ばれる。単純なミカエリス・メンテン式を呈する酵素反応については、これは酵素−基質(ES)複合体の解離定数(基質の親和性)を表わす。値が低いほど、親和性が高いことを示す。
用語「MALDIトリプル四重極MS」は、本明細書で使用されるとき、マトリックス支援のレーザー脱離/イオン化技法を指し、ここにおいてマススペクトルは、流入イオンに平行に配置された3つの四重極を有する。最初の四重極は質量フィルターとして機能する。2番目の四重極は、衝突細胞として作用し、ここで選択されたイオンが破壊されてフラグメントとなる。結果として生じたフラグメントが第三の四重極によってスキャンされる。四重極質量分析器は振動電場を使用して、高周波(RF)四重極電場を通過するイオンの軌跡を選択的に安定化または不安定化させる。単一の質量電荷比のみがシステム内を随時通過するが、磁気レンズの電位変化により、連続的にも、また別個のホップの連続であっても、幅広いm/z値を迅速に掃引することが可能となる。四重極質量分析器は質量選択フィルターとして機能する。
用語「定量」とは、本明細書で使用されるとき、定量的測定値を得る任意の方法を指す。例えば、微生物の定量には、その存在量、相対存在量、強度、濃度、カウント数などを決定することが含まれ得る。
用語「構造的生体分子」は、本明細書で使用されるとき、任意のタンパク質、糖タンパク質、多糖類、脂質、核酸等を指し、この量は実質的に、微生物培養の個々の細胞間で一定であり、これを微生物の定量に使用することができる。例えばDNAを使用する場合、DNA増幅によって、または(MSで識別可能な)核酸プローブの使用によって定量を促進することができる。そのような定量方法は、例えば標準校正曲線を使用することができ、ここにおいてDNA含有量を、細胞数または別のバイオマスパラメーター(例えば培養物の光学的密度や総炭素質量など)に対してプロットする。
用語「代謝生成物」は、本明細書で使用されるとき、細胞または生物体の生化学的反応の機能の結果として生成される化合物を指し、この量は実質的に、微生物培養の個々の細胞間で一定であり、これを微生物の定量に使用することができる。
本発明の好ましい実施形態
本発明は、微生物の抗生物質耐性を特徴付けるための方法を提供する。この方法の第一工程は、耐性を特徴付ける抗生物質、またはその好適な擬似基質、または抗生物質化合物の分子標的の、1つ以上の参照マススペクトルを得ることである。参照スペクトルは、サンプルの分析に使用される任意のマススペクトル(MS)技法を用いて生成することができる。好ましいMS技法はMALDI−MSである。
好適なベータラクタマーゼ基質は、任意のベータラクタム抗生物質である。別の方法として、微生物のベータラクタマーゼの表現を誘発する、あるいはベータラクタマーゼの酵素活性によって加水分解されるような、ベータラクタム誘導体または擬似体を使用することができる。本発明の態様に使用される擬似基質はそれ自体、何らかの抗生物質活性を呈してもよいが、これは必ずしも必須ではない。
好ましくは、このベータラクタマーゼ基質は、ベータラクタマーゼ分解生成物がMSで容易に識別可能な化合物であり、好ましくはこの基質と分解生成物が異なる質量電荷比を有する。
微生物のベータラクタム抗生物質耐性を特徴付けるための好ましい方法における更なる工程には、微生物、その細胞溶解物、またはその培地上清を、水性液中の基質化合物に曝露させることにより、曝露済みサンプルを提供することが含まれる。
好適な曝露済みサンプルは、ベータラクタム抗生物質耐性の特徴付けを行う微生物を含んでいることが疑われる、被験者(すなわちヒトまたは動物被検体)の体液または体内組織サンプルであり得る。好適な体液サンプルは、血液、便、または尿サンプルであり得る。
微生物の基質化合物への曝露には、イン・ビボ(in vivo)曝露とイン・ビトロ(in vitro)曝露が含まれ得る。
特定の実施形態において、曝露にはインキュベーション工程が含まれ得、微生物は短時間、例えば1〜5分間および1〜3時間、関心対象の抗菌剤を含む溶液中でインキュベーションされる。加えて、微生物の溶解物と、微生物培養液の上清も、使用することができる。特定の酵素が存在する場合、抗菌剤またはその擬似基質が改変または不活性化され、活性薬剤形態に比べて異なる要素の組成が生じる。これにより、抗菌剤の質量が変化し、質量分析で検出することができる。
未精製の細胞溶解物も、曝露済みサンプルとして使用できることは、本発明の利点である。これにより、特徴付けを行う微生物はもはや生存可能である必要はなく、また、ベータラクタマーゼ活性を検出可能にするために曝露済みサンプルを精製する必要もない。
微生物がベータラクタマーゼ遺伝子を含むが、普通の生育条件下ではその酵素を生成しない場合、その微生物のベータラクタマーゼ生成は、ベータラクタム抗生物質またはベータラクタマーゼ誘発性化合物の存在下でその微生物を培養することによって誘発され得る。好ましくは、細菌細胞溶解を行う前に、ベータラクタマーゼ生成の誘発または活性化の所望による工程を行う。
一般に、曝露済みサンプルが抗生物質化合物を改変する能力は、抗生物質基質化合物(またはその擬似物)の減少か、改変酵素と基質化合物との間の加水分解反応の反応生成物の増加のいずれかを検出することによって検出され得る。よって、曝露済みサンプルのベータラクタマーゼ活性は、ベータラクタマーゼ基質化合物の減少か、ベータラクタマーゼと基質化合物との間の加水分解反応の反応生成物の増加のいずれかを検出することによって検出され得る。
別の方法として、曝露済みサンプルが抗生物質化合物を改変する能力は、抗生物質化合物の分子標的における改変を検出することによって検出され得る。例えば、エリスロマイシン、シプロフロキサシン、バンコマイシン、メチシリンおよびテトラサイクリンに対する耐性は、例えばRNAメチル化などの標的改変に基づいている。また、これらの標的改変は、本明細書に記述されている質量分析によっても検出することができる。よって、本発明は、ベータラクタマーゼを改変酵素として検出すること、すなわちベータラクタムに対する耐性の特徴付けに限定されない。また、薬剤改変に基づかない、抗生物質化合物に対する他の耐性も、本発明の態様を用いて特徴付けることができる。ベータラクタマーゼは通常、加水分解によって抗生物質薬を不活性化するが、本発明の方法を用いて、他のタイプの酵素的改変も検出および特徴付けが可能である。例えば、アミノグリコシドは、リン酸部分の追加によって改変される。改変酵素によるそのような基質改変も、本発明の方法によって検出できる。
反応または標的化合物の(定量的な量での)変化は、質量分析によって非常に正確に測定可能であることが、本発明の重要な発見である。よって、インキュベーション工程の後、有機溶媒によるタンパク質沈殿や、固相抽出(SPE)、液−液抽出(LLE)などの一般的な質量分析サンプル調製プロトコルを用いて、曝露済みサンプルが質量分析用に調製される。約1μLの調製溶液が、質量分光分析に使用される。本発明の好ましい実施形態において、MALDI MSが使用され、より好ましくはMALDI四重極MSが使用される。MALDI MSを使用することにより、曝露時間(インキュベーション時間)を非常に短くして、高い精度で反応化合物を測定することができる。約5分間のインキュベーション時間で、特徴付けが成功裏に達成されている。
Maldi MSには、曝露済みサンプルをマトリックス材料と合わせて質量分析サンプル支持体に塗布し、そのサンプル支持体上のサンプルを乾かして質量分析サンプルを作成することが含まれる。好適なマトリックス材料は本明細書で上述されており、マトリックス材料の性質は特に制限的ではない。曝露済みサンプルからの質量分析サンプルの調製は、質量分析における当業者に言わば周知の方法によって実施することができる。
サンプルをマススペクトルに搭載後、使用する装置のタイプとMS手法に応じた標準手順によって、そのサンプルのマススペクトルが取得される。
本発明の方法において、基質または標的改変(例えばベータラクタマーゼ基質の分解またはRNAメチル化)を検出する工程は、MSによって、好ましくはタンデム質量分析(MS−MS)によって、またはマトリックス支援レーザー解離/イオン化(MALDI)によって、実施される。質量分析は、タンパク質やペプチドを含む複雑な有機分子の構造を決定し同定するパワフルな手段を提供する。MSでは、サンプル化合物に高エネルギー電子が衝突し、特異的な形態でフラグメント化する。このフラグメントは、さまざまな重量と電荷を有しており、磁場を通過して、それぞれの質量電荷比に従って分離する。結果として得られる、サンプル化合物の特徴的なフラグメントの特異的パターン(マススペクトル)を使用して、その化合物の同定と定量が行われる。典型的なMS手順には、次の工程が含まれる:
1.サンプルをMS装置に搭載する。所望により(MALDIと呼ばれる特殊な形態のMSの場合)マトリックスと合わせたサンプルを、マススペクトルサンプル支持体に塗布し、溶媒を蒸発させてその支持体上のサンプルまたは混合物を乾燥させる。
2.さまざまな方法のうち1つ(例えば電子ビームを衝突させる方法)によってサンプルの組成物をイオン化し、これにより荷電粒子(イオン)が形成される。
3.電場により陽イオンを加速させる。
4.イオンが電磁場を通過する際のイオンの動きの詳細情報に基づいて粒子の質量電荷比(m/z)を計算する。
5.イオンを検出する。このイオンは、工程4で、m/zに従って分類されている。
MALDI MSでは、マトリックスは結晶化した分子からなり、この好適な例として3.5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸(シナピン酸)、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(アルファ−シアノまたはアルファ−マトリックス)、および2.5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)の3つが挙げられる。マトリックス溶液は、曝露済みサンプルと混合される。有機溶媒によって疎水性分子が溶液に溶解し、また水によって水溶性(親水性)分子が溶液に溶解する。この溶液をMALDIプレートまたは支持体(通常、この目的専用に設計された金属板)上にスポットとして載せる。溶媒が蒸発し、再結晶したマトリックスが残り、このマトリックス結晶全体に分散したサンプル分子が含まれている。
本発明の態様に使用できる好適なMSアプリケーションには、MALDI−TOF MS質量分析、MALDI−FT質量分析、MALDI−FT−ICR質量分析、MALDIトリプル四重極質量分析が挙げられる。MALDI−TOF質量分析を使用すると、スループットはサンプル当たり1分間と推算される。MALDIトリプル四重極質量分析を使用すると、感度や特異性を損なわずに、試験時間はサンプル当たり約5秒に短縮することができる。
マススペクトルを取得した後、サンプル由来のマススペクトルを、抗菌剤化合物やその酵素的改変生成物、分子標的、または改変酵素の基質化合物の参照マススペクトルと、定性的、準定量的、または定量的に比較する。そのような比較により、基質または標的の改変、あるいは改変生成物の生成の定性的、準定量的、または定量的存在が判定できる。
不活性化または改変された抗生物質(例えば分解生成物)と無傷の抗生物質基質(または擬似基質)の両方、ならびに分子標的が、質量分析で同時に測定でき、例えば、調べている基質を不活性化または改変する微生物の能力の指標として、生成物対基質の比を用いることができる。別の方法として、またはそれに加えて、サンプル中の基質のみのレベルの減少、またはサンプル中の生成物のみのレベルの増加を、微生物の抗生物質不活性化能力または抗生物質改変能力の指標として使用することができる。別の方法として、分子標的のレベルの増加、または改変(耐性)標的のレベルの増加を、微生物の耐性の指標として使用し得る。標的改変を耐性メカニズムとして含む、薬剤に対する抗生物質耐性の特徴付けの場合、微生物やその細胞溶解物、またはその培地上清を、水性液中の抗菌剤化合物に曝露させる工程は、その微生物やその細胞溶解物、またはその培地上清のサンプルを提供する工程と、その中の改変標的を検出する工程とに相当する。
よって、本発明の態様の一実施形態において、抗菌剤基質化合物の改変は、例えば微生物によるベータラクタマーゼの生成の証拠と見なされ、その微生物が、例えば分解により、または抗菌剤基質化合物または好適な擬似基質が適用された場合の特異的ベータラクタマーゼによって不活性化されたベータラクタム抗生物質化合物に対して、耐性をもつ可能性が高いことを示す。このようにして、例えばベータラクタム抗生物質に対する前記微生物の耐性を、特徴付けることができる。
別の方法として、本発明の態様の別の一実施形態において、微生物細胞における抗菌剤化合物の分子標的の改変(相対的な量または化学的組成)の存在は、その微生物が関心対象の抗生物質化合物に対して耐性をもつ可能性が高いことの指標として使用される。このようにして、例えばエリスロマイシン、シプロフロキサシン、バンコマイシン、メチシリンおよびテトラサイクリンに対する前記微生物の耐性を、特徴付けることができる。
前述の態様において、本発明は、特定の実施形態において、抗菌剤を不活性化または構造的に改変する酵素を生成する微生物を、迅速に診断するための方法を提供する。この方法は、ESBL活性の迅速な検出に使用することができる。第三世代セファロスポリンは、重篤な感染症患者の経験的治療に幅広く使用されていることから、特に病院環境において、本方法は非常に必要とされている。患者のサンプルでESBL活性を迅速に検出することは、その患者にもっとも適切な抗生物質治療をできる限り早期に開始するために、重要である。本発明の方法は、ESBL活性の迅速な検出に使用することができる。更に、本発明の方法は、微生物培養液の上清や、例えば尿サンプルの遠心分離後の患者サンプルから直接分離した微生物に適用することができる。このようにして、(培養された)細菌自体の検出よりも早期に、ESBL活性を検出することが可能になる。
質量分析は、基質強度の低下や生成物強度の増加をモニターすることによって、抗生物質の酵素的不活性化または化学的改変を検出するのに使用されてきたものではない。更に、質量分析は、溶解した微生物などのような複雑なサンプルにおける酵素活性を調べるのに使用されてきたものでもない。より具体的には、MSによるESBL酵素の特異的検出と特徴付けは、これまで全く報告されたことはなかった。
ESBL活性の迅速検出のための診断方法には、溶解試薬を用いてサンプルを溶解することによる、抗菌剤を阻害するベータラクタマーゼ酵素の微生物からの遊離が、好適に含まれる。これにより、この溶解物は、好ましくは自動ピペッターを使用して、例えば、ATB(登録商標)またはRapidec(登録商標)ストリップ等のマルチウェルストリップへと移され、このストリップのウェルには、さまざまな抗菌剤化合物に基づいてさまざまな検査反応を行うための試薬が入っている。ウェルには、例えば乾燥または不動化した(のり付けされた)形態の、1つまたは複数のベータラクタマーゼ基質が所定量含まれているものがある。また別のウェルには、定量を容易にするため、1つまたは複数の内部標準を含んでいるものもある。また別のウェルは、抗菌剤化合物の自己分解のため、基質なしの対照として使用することもできる。
ウェルに移し、本明細書に記述されているように短時間この中でインキュベーションした後、各ウェルの曝露済みサンプルは好適に、MALDIプレートまたはそのたのMS支持体の上に配置され得る。MALDIの場合、好適なマトリックス材料を支持体に加える。その後、マススペクトルを取得する。スペクトル分析は、専用の分析アルゴリズムを用いて好適に実施される。曝露済みサンプルから取得されたスペクトルは、コンピュータソフトウェアを用いて参照スペクトルと比較され、各ウェルについて基質の分解の存在が判定される。分解の場合、専用ソフトウェアは、検査結果をレポートとして提供することができ、このレポートには例えば以下が含まれ得る:(1)微生物の同定(種の名前)(この同定は、所望により同時または平行の検査ストリップで得られる、参照検査によって得ることができる)、(2)マルチウェル検査ストリップで提供された、検査された抗菌剤のリスト、(3)その微生物により阻害または分解された抗菌剤のリスト、(4)抗菌剤阻害の原因と見られる耐性メカニズム、(5)結果に関するそれぞれの解釈コメント。
また別の方法として、微生物やその細胞溶解物、その培地上清を、水性液中で前述の基質化合物に曝露させる(これにより曝露済みサンプルを提供する)工程は、質量分析のサンプル支持体上で行うことができる。ベータラクタマーゼ酵素の基質化合物を分解させるため、所望によりベータラクタム酵素をサンプル支持体上に配置する際、MALDIマトリックスもこの曝露済みサンプルに直接追加することができる。
本発明の方法は、未精製細胞溶解物または患者サンプルを含む複雑なサンプルを用いて実施することができる。この方法によって、抗菌剤のサイズ範囲(通常は200〜10000ダルトン)において分子を正確に評価することができ、例えば抗菌薬を基質として用いて、抗生物質不活性化酵素や抗生物質改変酵素の活性を判定するために好適に使用することができる。
本発明の方法は、ESBL確認検査として使用することもできる。大多数の臨床微生物検査において、細菌は最初にESBL表現型についてスクリーニングが行われ、次に別のESBL表現型確認検査を用いてESBL表現型が確認されている。本発明の態様を使用して、細菌のESBL表現型を確認することができる。現在の表現型検査に比べて、本明細書で提案されている本発明の方法には、細菌懸濁液だけでなく細菌の溶解液でも使用できるという潜在的利点がある。細菌溶解液の使用により、他のメカニズム、特に薬剤の流入の減少と流出の増加に基づく耐性による潜在的バイアスを中和することができる。細菌溶解液は、現行の表現型ESBL確認検査と併用はできない。現行の表現型確認検査は細菌の成長に依存しているからである。
本発明の方法はまた、製薬業界で新しいベータラクタマーゼ阻害剤のための高スループットのスクリーニング手法として使用することもできる。現在、ベータラクタマーゼ産生細菌の問題を克服するため、ベータラクタマーゼ阻害剤のクラブラン酸とタゾバクタムはそれぞれ、アモキシシリンおよびピペラシリンと組み合わせて用いられている。クラブラン酸またはタゾバクタムがベータラクタマーゼの活性を阻害する一方、アモキシシリンまたはピペラシリンが細菌を殺す。製薬業界は、ESBLの問題拡大を考慮し、ESBLを阻害する新しい化合物のためのスクリーニングツールを必要としている。本発明はこの目的に非常に適している。
我々は、ベンジルペニシリンを基質として用い、CTX−M−1およびCTX−M−9を産生する大腸菌(E. coli)の未精製溶解物と、SHV−2を産生するクレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumoniae)におけるベータラクタマーゼ活性を検出した。我々は、ベンジルペニシリンを基質として用い、純粋なペニシリナーゼ(バチルス・セレウス(B. cereus)から)の酵素動態をモニターすることができた。