JP6261817B2 - 分析デバイス及び分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、薄膜に設けられた細孔を用いた、測定対象物、特に生体ポリマの分析デバイス及び分析方法に関する。
厚み数Å〜数十nm程度の薄膜に設けられた直径0.9nm〜数nm程度の細孔(以下、ナノポアと呼ぶ)に電解質を含んだ溶液を接液し、この薄膜を挟む方向に電位差を発生させると帯電した測定対象物をナノポアに通過させることができる。この時、測定対象物がナノポアを通過すると、ナノポア周辺部の電気的特性、特に抵抗値が変化するため、その電気的特性の変化を検出することによって測定対象物を検出することが可能である。測定対象物が生体ポリマの場合、生体ポリマのモノマ配列パターンに応じて、ナノポア周辺部の電気的特性がパターン状に変化する。これを利用して、生体ポリマのモノマ配列解析を行う方法が近年盛んに研究されている。中でも、生体ポリマがナノポアを通過した時に観測されるイオン電流の変化量がモノマ種によって異なることを原理とした方式が有望視されている。この際、イオン電流の変化量は生体ポリマがナノポアを通過していない時の電流値を基準として決まるため、モノマ配列解析の測定精度を高めるためにはイオン電流値は安定して一定値を取ることが望ましい。この方式は従来とは異なり生体ポリマの断片化を伴う化学操作を必要とせずに、生体ポリマを直接読取することが可能である。生体ポリマがDNAの場合は次世代DNA塩基配列解析システムであり、生体ポリマがタンパク質の場合はアミノ酸配列解析システムであり、それぞれ従来よりも遥かに長い配列長を解読可能なシステムとして期待されている。
ナノポアデバイスとしては、脂質二重膜に埋め込まれた中心に細孔を有するタンパク質を用いたバイオポアと、半導体加工プロセスにて形成した絶縁薄膜に細孔を加工したソリッドポアの2種類が存在する。バイオポアでは脂質二重膜に埋め込まれた改変タンパク質(Mycobacterium smegmatis porin A(MspA)等)の細孔(直径1.2nm、厚さ0.6nm)を生体ポリマ検出部としてイオン電流の変化量を測定する。一方、ソリッドポアでは半導体材料である窒化シリコンの薄膜や、グラフェンや二硫化モリブデンのような単分子層からなる薄膜にナノポアを形成した構造体をデバイスとして用いる。
このような分析デバイスは、ナノポアデバイス、測定対象物及び電解質を含んだ溶液、ナノポアデバイスを挟んだ一対の電極、から構成されるデバイスが基本単位として用いられる。このような構成は非特許文献1に記載されている。電極には溶液中の電解質と電子授受を行うことができる材質、すなわち電気化学的に酸化還元反応を行うことができる材質が典型的に採用される。具体的には、その化学的安定性と信頼性の高さからしばしばAgCl電極が用いられる。
測定対象物がDNAやタンパク質などの場合は特に全配列解析への適用が期待されるが、単一のナノポアでは十分な解析能力が得られないため、測定装置の実用化においては複数のナノポアデバイスの並列化による解析能力向上が望ましい。ナノポアを用いたイオン電流計測では、ナノポアを挟んで対向する二つの電極が電解質溶液によって連結され、イオン電流が計測可能でなければならない。さらにそれらイオン電流計測の並列化を達成するためには、独立した電極によって個々のナノポアで発生したイオン電流を個別に計測可能な形態であることが必要である。合わせてそれら並列した電極間は絶縁されていることが必要である。このような構成は特許文献1に記載されている。
WO 2014/064443 A2
Venta, K., et al., Differentiation of Short, Single-Stranded DNA Homopolymers in Solid-State Nanopores, ACS Nano 7(5), pp. 4629-4636 (2013)
上記分析デバイスの性能は、分析デバイスの寿命内でどれだけ数多くの測定対象物を分析できるかに依存する。したがって、分析デバイスの連続稼働時間が重要な指標となっている。
イオン電流を流して測定対象物の分析を行うと、溶液と接液している電極材質が酸化還元反応により溶液中へ溶解していくため、経時的に電極が劣化していく現象が発生する。この劣化現象は電極面積に依存し、同一の電流値の電流を流した場合、面積が微小であるほど電極寿命は短くなる。並列化した分析デバイスの場合、分析デバイス面積を一定とした場合に、並列度を増加するほど各ナノポアデバイスに割り当てられた個々の電極面積は減少していくため、電極寿命がその分短くなってしまう。したがって、並列化したデバイスにおいては並列度の増加に伴って連続稼働時間が短くなり、その結果、分析スループットの低下を招いてしまうという問題がある。加えて、測定対象物として生体ポリマに着目した場合、電極が劣化していくに従ってイオン電流値が経時的に変化することによって生体ポリマ中のモノマ配列の測定精度が低下してしまうという問題も発生する。したがって、従来の構成では並列度の増加と分析スループット及び測定精度の維持はトレードオフの関係にあり、これらの特性を両立できないという課題が存在する。
本発明による分析デバイスは、電解質が含まれる溶液を収納できる第1の槽及び第2の槽と、ナノポアを有し、第1の槽と第2の槽の間を仕切る薄膜と、第1の槽に設置された第1の電極と、第2の槽に設置された第2の電極と、第1の電極と第2の電極とが接続されナノポアを通って流れるイオン電流を計測する測定システムとを備える。ここで、第1の電極と第2の電極のうち少なくとも一方の電極は、少なくとも前記溶液と接触する電極表面部が第1族元素と銀と第17族元素を含む材質とする。
電解質には、電極に含まれる第1族元素の陽イオンと電極に含まれる第17族元素の陰イオンが含まれることが好ましい。
本発明により、電極寿命が向上して分析デバイスの連続稼働時間が増加する。その結果、分析スループット及び測定精度を改善することが可能となる。
上記以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
本発明による分析デバイスの一例を示す断面模式図。 電極の構造を示す断面模式図。 測定対象物を分析する際の分析手順を示すフローチャート。 生体ポリマがナノポアを通過するとき生じるイオン電流の変化を示す模式図。 電極のエネルギー分散型X線分析スペクトルを示す図。 イオン電流連続計測の実験例を示す図。 本発明による分析デバイスの他の例を示す断面模式図。 本発明による分析デバイスの他の例を示す断面模式図。 本発明による分析デバイスの他の例を示す断面模式図。 測定対象物を分析する際の分析手順を示すフローチャート。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
図1は、本発明による分析デバイスの一例を示す断面模式図である。
本実施例の分析デバイスは、溶液101を収納することができる2つの槽102a,102bと、ナノポア104を有し2つの槽102a,102bの間を仕切る薄膜103と、2つの電極105,106を有する。2つの電極105,106は、ナノポア104が設けられた薄膜103を挟んで対向するように各槽102a,102bに1つずつ設置されている。2つの槽に収納された溶液101は電解質を含んでおり、少なくともどちらか一方の槽の溶液に測定対象物107が含まれていればよい。ナノポア104を通って流れるイオン電流は2つの電極105,106に接合された配線108を介して測定システム109にて計測される。
溶液は導入口110a,110bを介して2つの槽102a,102bに充填する。測定システム109は典型的には、イオン電流計測装置、アナログデジタル出力変換装置、データ処理装置、データ表示出力装置、入出力補助装置を有する。イオン電流計測装置には電流電圧変換型の高速増幅回路が搭載され、データ処理装置には演算装置、一時記憶装置、不揮発性記憶装置が搭載されている。外部ノイズを低減するため、分析デバイスはファラデーケージで覆われていることが好ましい。
測定対象物は、ナノポア通過時に電気的特性、特に抵抗値を変化させる対象物であれば良く、典型的には生体ポリマ、微粒子などが挙げられる。生体ポリマとしては、モノマとして核酸から構成された、一本鎖DNA、二本鎖DNA、RNA、オリゴヌクレオチドなどと、モノマとしてアミノ酸から構成されたポリペプチドなどが対象である。測定時には高次構造が解消された直鎖状高分子の形態をとっていることが好ましい。微粒子としては、生体由来の微小胞やウィルス、樹脂製ナノ粒子や無機物ナノ粒子などが対象である。測定対象物をナノポア通過させる手段としては、電気泳動による搬送が最も好ましいが、圧力ポテンシャル差などで発生させた溶媒流であっても構わない。
ナノポア104としては測定対象物107が通過できる最小サイズであれば良く、生体ポリマとして一本鎖DNAを挙げれば、一本鎖DNAが通過可能な直径0.9nmから10nm程度であればよく、薄膜の厚みは数Åから数十nm程度であればよい。また測定対象物として微粒子を挙げると、微粒子の直径より10%以上大きい直径かつ薄膜の厚みが微粒子直径と同程度であるナノポアが好ましい。ナノポアは、バイオポアでもソリッドポアであってもよい。バイオポアの場合、薄膜として脂質二重層を形成できる両親媒性分子層中に埋め込まれた中心に細孔を有するタンパク質が好ましい。ソリッドポアの場合、薄膜の材質は半導体微細加工技術で形成できる材質であればよく、典型的には窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化ハフニウム、二硫化モリブデン、グラフェンなどであればよい。この場合、薄膜中に細孔を形成する方法としては透過型電子顕微鏡などによる電子ビーム照射や電圧印加による絶縁破壊などが挙げられる。
電極の材質としては、第1族元素(アルカリ金属)と銀と第17族元素(ハロゲン)を含んだ材質(以下、ハロゲン化アルカリ金属銀と呼ぶ)であればよい。第1族元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムのうちの少なくとも1つを用いることができる。また、第17族元素としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のうちの少なくとも1つを用いることができる。
例えば単一の化合物から構成される材質としては、化学式MAgX2,M2AgX3で表される化合物などが挙げられる。ここでMは第1族元素であり、Xは第17族元素である。具体的には、LiAgF,Li2AgF3,LiAgCl2,Li2AgCl3,LiAgBr2,Li2AgBr3,LiAgI2,Li2AgI3,NaAgF2,Na2AgF3,NaAgCl2,Na2AgCl3,NaAgBr2,Na2AgBr3,NaAgI2,Na2AgI3,KAgF2,K2AgF3,KAgCl2,K2AgCl3,KAgBr2,K2AgBr3,KAgI2,K2AgI3,RbAgF2,Rb2AgF3,RbAgCl2,Rb2AgCl3,RbAgBr2,Rb2AgBr3,RbAgI2,Rb2AgI3,CsAgF2,Cs2AgF3,CsAgCl2,Cs2AgCl3,CsAgBr2,Cs2AgBr3,CsAgI2,Cs2AgI3などである。これらの化合物の作製方法は例えば文献「中原勝儼、無機化合物・錯体辞典、講談社サイエンティフィック、1997」などに記載されている。一例として、CsAgCl2は濃塩酸に溶かしたAgClに濃塩化セシウム水溶液を添加して加熱し、その後冷却することによって作製される。また、Cs2AgCl3はAgClを加熱した濃塩化セシウム水溶液に浸漬することによって作製される。
電極に用いる材質は、複数の化合物の混合体であっても構わない。例えばAgXとMXの混合体などが挙げられる。上記と同様にMは第1族元素であり、Xは第17族元素である。具体的にはAgCl−LiCl,AgCl−NaCl,AgCl−KCl,AgCl−RbCl,AgCl−CsCl,AgBr−LiBr,AgBr−NaBr,AgBr−KBr,AgBr−RbBr,AgBr−CsBr,AgI−LiI,AgI−NaI,AgI−KI,AgI−RbI,AgI−CsIなどである。これらの混合体の作製方法は例えば文献“A. Chandra, et al., Journal of Electroceramics, 3(1), 47-52, 1999”などに記載されている。上記ではハロゲン化銀に含まれるハロゲンとハロゲン化アルカリに含まれるハロゲンが同一である混合体を例として挙げたが、ハロゲン化銀に含まれるハロゲンとハロゲン化アルカリに含まれるハロゲンが異種ハロゲンであってもよい。
溶液の溶媒としては、測定対象物を安定に分散可能であり、かつ電極が溶媒に溶解せず、電極との電子授受を阻害しない溶媒であればよい。例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、酢酸、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。生体ポリマの場合、最も好ましくは水である。
溶媒に含まれる電解質としては、溶媒に溶解可能な電解質であればよい。好ましくは電極中に含まれる第1族元素の陽イオンと電極中に含まれる第17族元素の陰イオンが電解質として含まれているとよい。具体的にはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオン、フェリシアンイオン、フェロシアンイオンなどが挙げられる。
本分析デバイスの信号シグナル強度は電解質を溶解した溶媒の電気伝導度に正に依存する。溶媒として水を用いた場合、例えば1mol/kgの塩化アルカリ水溶液の電気伝導度は25℃において、LiCl:7.188Sm-1、NaCl:8.405Sm-1、KCl:10.84Sm-1、RbCl:11.04Sm-1、CsCl:10.86Sm-1であることから、電気伝導度が高いKCl,RbCl,CsClなどが好ましい。
図2は、電極の構造を示す断面模式図である。電極の構造としては、溶液と接する電極表面部がハロゲン化アルカリ銀を含んだ材質であればよい。そのため、図2(a)に示したように電極全てがハロゲン化アルカリ金属銀からなる材質119で構成されていてもよく、図2(b)に示したようにハロゲン化アルカリ金属銀と電子授受反応が可能な材質111の表面にハロゲン化アルカリ金属銀からなる材質119が被覆されていてもよい。ハロゲン化アルカリ金属銀が被覆される材質111としては接合性の面から銀が好ましく、例えば銅配線108に接続された銀電極の表面にハロゲン化アルカリ金属銀を被覆してもよい。電極105,106は配線108と接合されており、測定システム109へと電気信号が送られる。電極はどのような形状であってもよいが、溶液と接液する表面積が大きくなる形状が好ましい。この時、電極の抵抗値がナノポアの抵抗値に対して無視できないほど高いと、測定対象物がナノポアを通過した際のイオン電流変化量が小さくなってしまい信号ノイズ比が悪くなってしまう。そのため、ハロゲン化アルカリ銀の被覆厚はナノポアの抵抗値よりも十分小さくなるように決定するのがよい。具体的には、電極の抵抗値がナノポアの抵抗値の1/100以下となるようにハロゲン化アルカリ銀の被覆厚を決めるのが望ましい。
電極105,106の少なくともどちらか一方に電圧を印加して電位差を発生させることによってイオン電流を誘起して測定対象物の検出が行われる。そのため、2つの電極105,106のうち、どちらか一方が陽極(溶液側へと電子が流れ出す電極)、もう一方が陰極(溶液側より電子を受け取る電極)となる。この時、電気化学的反応により、電極材質が溶液側へと溶解する反応が発生する。典型的には陽極側で電極材質が溶解することが多いが、印加電圧値や電極・電解質の組み合わせによっては陰極側でも電極材質の溶解が発生し得る。
本実施例の電極は電子授受によって溶液中にイオンとして電離できる元素数が多い材質から構成されているため、従来のAgCl電極と比較して単位面積当たりで放出可能な総電荷量が増大し、その結果、電極寿命が増大する。電極寿命が増大すると分析デバイスの連続稼働時間が向上して分析スループットが増加する。加えて、イオン電流値が経時的に変化しにくくなるため、測定対象物の測定精度が向上する。
2つの電極105,106のうちのどちらか一方にハロゲン化アルカリ金属銀を含んだ電極を用いればよいが、もう一方の電極にもハロゲン化アルカリ金属銀を含んだ電極を用いることが好ましく、陽極と陰極は同一の材質であることが望ましい。異なる材質の電極を接続した場合、電極表面部における電極反応の標準電位が異なることから、両電極間には起電力が発生してしまう。すると電極間に外部電圧を印加していない状態でオフセットの電圧が印加されてしまい、イオン電流値が変化してしまう。その結果、測定対象物の測定精度が低下してしまうという問題が発生する。このような問題を回避するため、両方の電極を同一のハロゲン化アルカリ金属銀を含んだ電極とすることが好ましい。
また、本実施例の分析デバイスではナノポアに測定対象物が何らかの要因によりトラップされてしまうことがある。その際、2つの電極間に印加している電圧を反転することによって、測定対象物に逆向きに力を加えてトラップされている状態を解消することが可能となる。しかしながら、印加電圧を反転すると、劣化する電極も反転してしまうという課題が発生する。この観点からも両方の電極を同一のハロゲン化アルカリ金属銀を含んだ電極とすることが好ましい。
また、溶媒に含まれる電解質として、ハロゲン化アルカリ金属銀を含んだ電極中に含まれる第1族元素の陽イオンと第17族元素の陰イオンを使用することが好ましい。上述と同様の議論により、電極に含まれる元素と異なる電解質を用いると電極反応の標準電位が異なることから起電力が発生してしまい、測定精度の低下を引き起こしてしまう。したがって、ハロゲン化アルカリ金属銀を含んだ電極中に含まれる第1族元素の陽イオンと第17族元素の陰イオンを電解質として使用すれば、起電力は発生せず精度の高い電流計測を行うことが可能となる。
図3は、本実施例の分析デバイスを用いて測定対象物を分析する際の分析手順を示すフローチャートである。
分析を実施するにあたって、図1に示す構造を有する分析デバイスの一方の槽102bに電解質が含まれる溶液を入れ、他方の槽102aに電解質と測定対象物が含まれる溶液を入れる。なお、両方の槽102a,102bに電解質と測定対象物が含まれる溶液を入れても構わない。そして、ナノポア104を有する薄膜103に対して向かい合った電極105,106間に電圧を印加する(S11)。すると、電荷を帯びた測定対象物が電気泳動によってナノポア104まで接近し、ナノポア104を通過する現象が誘起される。この時、ナノポア104を流れるイオン電流値が測定対象物の存在によって減少する。このイオン電流変化量を測定システム109で計測する(S12)。その後、イオン電流変化量に応じて測定対象物の特性解析を実施する(S13)。
図4は、生体ポリマがナノポアを通過するときに生じるイオン電流の変化を示す模式図である。例えば、測定対象物がDNAなどの生体ポリマである場合、図4に示すように生体ポリマのモノマ配列パターンに依存してイオン電流値がパターン状に変化する。このため、このイオン電流値の変化パターンを用いてモノマ配列解析を行うことが可能である。このような方法は例えば文献“A. H. Laszlo, et al., Nat. Biotechnol., 32, 829-833, 2014”に開示されている。また、測定対象物が球状粒子である場合、球状粒子の体積及び形状によってイオン電流変化量が変わることが知られているため、球状粒子の粒径分布や形状特性を解析することが可能である。このような方法は例えば文献“P. Terejanszky, et al., Anal. Chem., 86, 4688-4697, 2014”に開示されている。この時、本実施例の電極構成を用いることにより、電極寿命が向上して分析デバイスの連続稼働時間が増加し、分析スループットと測定精度を改善することが可能となる。
図5は、本実施例で作製した電極を分析した結果を示すエネルギー分散型X線分析スペクトルの図である。第1族元素としてセシウム、第17族元素として塩素を選択し、銀にハロゲン化アルカリ銀を被覆して作製した電極表面部に対してエネルギー分散型X線分析を行った。その結果、セシウム(4.286keV)、銀(2.984keV)、塩素(2.621keV)に対応したピークを有するスペクトルが得られた。したがって、確かにセシウム、銀、塩素が含まれた電極を作製することができた。
図6は、本実施例の分析デバイスによるイオン電流連続計測の実験例を示す図である。図1に示した本実施例の分析デバイスにおいて、ナノポア径は2nm、薄膜の膜厚は5nmであり、2つの電極105,106には同一材質の電極を用いた。電極材質として図5で観察を行ったセシウムと銀と塩素が含まれる電極を採用し、比較のために分析デバイスに従来のAgCl電極を組み込んで同様の実験を行った。溶液としては、濃度1Mの塩化セシウム水溶液を用いた。図6には同じ電流値で計測を開始した場合における電流値の時間依存性の計測結果を示した。本実施例の構成では、従来構成と比較して同一時間経過した時の電流値低下が軽減されていることがわかった。したがって、本実施例の構成により分析デバイスの連続稼働時間が向上し、分析スループット及び測定精度が向上することを確認した。
[実施例2]
図7は、本発明による分析デバイスの他の例を示す断面模式図である。実施例1では単一のナノポアを有する分析デバイスについて説明したが、本実施例ではナノポアを並列化した分析デバイスについて説明する。
図7に示した本実施例の分析デバイスには、溶液101を収納できる複数の槽102a,102b,…,102gが用意されており、ナノポア104を有する薄膜103が複数個に並列化され、微小電極106b,106c,…,106gがナノポアの個数に一対一対応してその個数分並列化されている。ナノポアに対向する位置において複数の微小電極106b,106c,…,106gの反対側には共通電極105が配置されている。すなわち、第1の槽102aに隣接して第2の槽102b,…,102gが複数並列に配置され、複数の第2の槽102b,…,102gと第1の槽102aの間はそれぞれナノポア104を有する薄膜103によって区切られ、第2の槽102b,…,102gにはそれぞれ個別に電極106b,106c,…,106gが設置されている。各微小電極は独立配線によって測定システム109へと接続され、それぞれ独立にイオン電流が計測される。測定精度を高める目的で各ナノポア間での電流クロストークを抑制するために各ナノポアは隔壁112によってお互いに絶縁される。測定対象物107を含む溶液101は典型的には導入口110を介して共通電極105側の槽102aに充填される。
共通電極105及び微小電極106b,106c,…,106gの材質及び構造は実施例1と同様である。
本実施例では実施例1と同様の効果が得られる。ナノポアの並列数に対応して微小電極の面積が低減されて電極寿命が短くなるため、ナノポアを並列化した本実施例の分析デバイスにおいて電極寿命向上効果は特に有効である。
[実施例3]
図8は、本発明による分析デバイスの他の例を示す断面模式図である。
生体ポリマ計測用の薄膜は、薄膜両側の溶液間の電位差の影響を受けやすく、電位差により壊れてしまう可能性がある。特に、ノイズ電流を低減するために分析デバイスの静電容量を下げるようにした場合、薄膜が壊れやすくなってしまう。この薄膜破壊現象は、薄膜両側の溶液槽に個別に溶液を入れると必ず溶液間に初期電荷差ΔQが生じるため、ナノポアを有する薄膜の静電容量Cの低減に伴って薄膜にかかる電位差ΔV(=ΔQ/C)が増幅し、薄膜を絶縁破壊することによって生じる。そこで、この破壊現象を回避するために薄膜両側にイオン電流計測用の電極とは別に2つの電極を新たに一対配置することによって、上記電荷差を低減して薄膜破壊を防ぐことが可能になる。
図8には、図1に示した構成を基本として、それぞれの槽102a,102bに電荷差低減用の電極113a,113bを追加して配置した構成図を示した。イオン電流計測用の電極105,106は、実施例1と同様に少なくとも溶液と接触する電極表面部がハロゲン化アルカリ銀を含んでいる。電荷差低減用の電極113a,113bは開閉スイッチ114を介して外部回路、すなわち配線120によって電気的に接続されている。配線120に設けられたスイッチ114は、電荷差を低減する際には閉じて、電極113a,113bを介して2つの槽102a,102bを電気的に接続する。電荷差の低減工程が終了し、ナノポア104を有する薄膜103を用いて測定対象物を分析する際には、スイッチ114を開き、2つの槽102a,102bがナノポア104を介してのみ電極105,106と電気的に接続している状態にする必要がある。
イオン電流計測用の電極105,106はハロゲン化アルカリ銀を含んだ電極である必要があるが、スイッチ114を閉じたとき電荷差によって2つの電極113a,113bを流れる電荷量は微量であるため、電極113a,113bは必ずしもハロゲン化アルカリ銀を含んだ電極である必要はない。電極113a,113bの電極材質としては電解質を含んだ溶液と電子授受が可能な材質であればよい。代表的にはAgClやPt,Auなどの電極であってもよい。
本実施例においても実施例1と同様の効果が得られる。
[実施例4]
図9は、本発明による分析デバイスの他の例を示す断面模式図である。図9は、図1の構成を基本とし、槽102aの開口部115に挿入される可動基板116、基板116を駆動する駆動機構117、及び駆動機構117の制御システム118が追加された構成を示している。イオン電流計測用の電極105,106は実施例1と同様に、少なくとも溶液と接触する電極表面部がハロゲン化アルカリ銀を含む電極である。
測定対象物107は一端が基板116に固定化され、制御システム118を介して駆動機構117によってナノポア104に対する測定対象物107の相対位置を任意かつ精密に制御することができる。駆動機構117としてはピエゾ素子やモーターを用いることができる。あるいは原子間力顕微鏡のようにカンチレバーに測定対象物107を固定化して駆動してもよい。上記のような構成はたとえば文献“E. M. Nelson, et al., ACS Nano, 8(6), 5484, 2014”に記載されている。測定対象物が生体ポリマである場合、モノマ配列解析を行うためにはナノポア104を通った生体ポリマを1モノマごとに精密に動かすことが好ましい。本実施例の構成により精密な測定対象物の制御が可能となり、測定精度が向上する。
図10は、本実施例の構成を用いて測定対象物を分析する際の分析手順を示すフローチャートである。まず制御システム118を介して駆動機構117を動作させることにより、測定対象物107が固定された基板116を、ナノポア104を有する薄膜103へ接近させる(S21)。次に、ナノポア104を有する薄膜103に対して向かい合った電極105,106間に電圧を印加する(S22)。すると、電荷を帯びた測定対象物107が電気泳動によってナノポア104まで接近し、ナノポア104が測定対象物107によって封鎖される(S23)。この時、制御システム118を介して駆動機構117を動作させることにより、測定対象物107が固定された基板116とナノポア104を有する薄膜103との相対位置を精密に変化させる(S24)。すると測定対象物107が生体ポリマである場合、1モノマごとに精密に生体ポリマのナノポア104に対する位置が変位するため、その時のイオン電流変化量を計測することにより測定精度を向上することが可能となる(S25)。最後に、この測定精度を高めて計測したイオン電流変化量に応じて測定対象物の特性解析を実施する(S26)。
本実施例においても実施例1と同様に、電極寿命の向上によって分析デバイスのスループットと測定精度を改善することができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したものであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
101 電解質を含んだ溶液
102a,102b 槽
103 薄膜
104 ナノポア
105,106 イオン電流計測用の電極
107 測定対象物
108 配線
109 測定システム
112 隔壁
113a,113b 電荷差低減用の電極
114 スイッチ
115 開口部
116 基板
117 駆動機構
118 制御システム

Claims (12)

  1. 電解質が含まれる溶液を収納できる第1の槽及び第2の槽と、
    ナノポアを有し、前記第1の槽と第2の槽の間を仕切る薄膜と、
    前記第1の槽に設置された第1の電極と、
    前記第2の槽に設置された第2の電極と、
    前記第1の電極と第2の電極とが接続され前記ナノポアを通って流れるイオン電流を計測する測定システムとを備え、
    前記第1の電極と前記第2の電極のうち少なくとも一方の電極は、少なくとも前記溶液と接触する電極表面部が第1族元素と銀と第17族元素を含む材質である分析デバイス。
  2. 前記第1族元素は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の分析デバイス。
  3. 前記第17族元素は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の分析デバイス。
  4. 前記溶液には前記電極に含まれる第1族元素の陽イオンが含まれている、請求項1に記載の分析デバイス。
  5. 前記溶液には前記電極に含まれる第17族元素の陰イオンが含まれている、請求項1に記載の分析デバイス。
  6. 前記少なくとも一方の電極の前記少なくとも前記溶液と接触する電極表面部は化学式MAgX2又はM2AgX3(M:第1族元素、X:第17族元素)で表される材質である、請求項1に記載の分析デバイス。
  7. 前記少なくとも一方の電極の前記少なくとも前記溶液と接触する電極表面部は化学式AgXと化学式MX(M:第1族元素、X:第17族元素)で表される材質の混合体である、請求項1に記載の分析デバイス。
  8. 前記第1の槽に設置された第3の電極と、
    前記第2の槽に設置された第4の電極と、
    前記第3の電極と前記第4の電極をスイッチを介して電気的に接続した外部回路と、
    を有する請求項1に記載の分析デバイス。
  9. 前記第1の槽に挿入され、測定対象物が固定化された基板と、
    前記基板を前記薄膜に対して駆動する駆動機構と、
    前記駆動機構を制御する制御システムと、
    を有する請求項1に記載の分析デバイス。
  10. 前記第1の槽に隣接して前記第2の槽が複数並列に配置され、
    前記複数の前記第2の槽と前記第1の槽の間はそれぞれ前記ナノポアを有する薄膜によって区切られ、
    前記第2の槽にはそれぞれ個別に前記第2の電極が設置され、
    前記個別の第2の電極はそれぞれ前記測定システムに接続されている、
    請求項1に記載の分析デバイス。
  11. ナノポアを有する薄膜によって隔てられ、各々に第1の電極と第2の電極が設置された2つの槽の一方に電解質が含まれる溶液を入れ、他方に前記電解質と測定対象物が含まれる溶液を入れる工程と、
    前記ナノポアを通って前記第1の電極と前記第2の電極の間に流れるイオン電流の変化を検出する工程と、
    前記検出されたイオン電流の変化から測定対象物を測定する工程と、を含み、
    前記第1の電極と前記第2の電極の少なくとも一方は、少なくとも前記溶液と接触する電極表面部が第1族元素と銀と第17族元素を含む材質である、分析方法。
  12. 前記測定対象物は基板に固定化されており、前記薄膜に対して前記基板を駆動する工程を有する、請求項11に記載の分析方法。
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