JP6414409B2 - 弱毒化パルボウイルスおよび弱毒化パルボウイルスを用いたワクチン - Google Patents

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Description

本発明は、弱毒マーカーを有するパルボウイルスおよびその用途に関する。詳しくは、弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、該弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子から得られる感染性分子クローン、弱毒化パルボウイルス、ワクチンおよびその用途に関する。
イヌパルボウイルス(CPV)は主にイヌに感染する病原体である。パルボウイルス感染症は、イヌ、特に仔犬における急性の下痢、発熱および白血球減少症、ならびに心筋疾患を特徴とする。ワクチンを接種していない仔犬ではこの疾患による致死率が約80%ときわめて高い。CPVは、一本鎖DNAの約5,000塩基のDNAゲノムを有する自律性パルボウイルスである。CPVのゲノムは2個の構造遺伝子(VP−1およびVP−2)および2個の非構造遺伝子(NS−1およびNS−2)を特徴とする。そして、構造遺伝子VP−2は、イヌパルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2をコードするカプシド遺伝子であることがわかっている。
現在CPVに対するワクチンは、弱毒化されたCPVである生ワクチンを投与する方法が広く普及している。CPV弱毒生ワクチンのワクチン株はイヌに接種すると糞便中に一過性に排泄される。そのため、イヌがCPVの感染を疑う下痢等の症状を示し、そのイヌからCPVが検出された場合に、発症の原因を特定するために弱毒ワクチン株と強毒株を区別する必要があるが、技術的に困難な場合がある。従って、ワクチン株と強毒株を区別する弱毒化を証明するマーカー(すなわち弱毒化をもたらすことが明らかな突然変異箇所)を有するワクチン株の開発が望まれている。
これまでに強毒株とワクチン株の生物学的性状や遺伝子学的性状の違いが明らかにされ、それらの特徴がマーカーとされてきた。しかし、いずれの特徴も区別がつくというだけで、必ずしも弱毒化に直接関係する特徴ではなく、弱毒化を証明するマーカーではない。
例えば、特許文献1には、CPVのゲノムの3´末端および5´末端領域に位置する非翻訳領域に突然変異を有する弱毒のCPV突然変異体が記載されており、この突然変異箇所を含むCPV突然変異体が弱毒であることも記載されている。しかしながら、突然変異箇所の導入がCPVの引き起こす症状(下痢および白血球の減少)を弱毒させたことは証明されておらず、前記突然変異箇所を導入することで弱毒化したパルボウイルスが作製されることについての論証は不十分である。また、特許文献1に記載の突然変異箇所は、CPVのゲノムのヘアピンループ内にあり、PCRによる遺伝子の増幅が困難なため、遺伝子の塩基配列を決定することは容易ではなく、マーカーとしての利便性も低い。
また、特許文献2は、CPVのゲノムのカプシド(VP−2)領域に位置する突然変異を有する弱毒のCPV突然変異体を開示している。この突然変異箇所は、特許文献1の場合と比べるとPCRによりDNAを増幅しやすい位置である。そして、特許文献2でも、前記突然変異箇所を含むCPV突然変異体が弱毒であることは証明しているが、この突然変異箇所の導入がCPVの引き起こす症状(下痢および白血球の減少)を弱毒させたことは証明されておらず、前記突然変異箇所を導入することで弱毒化したパルボウイルスが作製されることについての論証は不十分である。
特許第3762435号公報 特表2013−535188号公報
前記のように、イヌパルボウイルスの弱毒化と関連させた遺伝子の突然変異箇所の報告はいくつかあるが、突然変異箇所の導入によりイヌパルボウイルスの引き起こす症状(下痢および白血球の減少)を弱毒させたことはいずれも証明されていない。
そこで、本発明の目的は、非ヒト動物に対するワクチンとして好適な弱毒マーカーを有するパルボウイルスを作製することができる弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、該弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子から得られる感染性分子クローン、弱毒化パルボウイルス、ワクチンおよび前記ワクチンを使用した非ヒト動物の予防または治療方法を提供することにある。
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、パルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2について、前記特許文献2に記載の箇所とは異なる領域の2箇所のアミノ酸(300位のグリシンまたはアラニンと、389位のトレオニン)に着目し、これらの2つの部位がウイルスの弱毒化において重要な役割を果たしていることを見出すとともに、前記2つの部位に変異を起こすことで強毒CPVが弱毒CPVに改変されることを初めて証明し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、
(a)パルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸がグリシンおよびアラニン以外のアミノ酸に置換され、および/または前記カプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸がトレオニン以外のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列(a)からなるタンパク質
(b)アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であり、かつパルボウイルスの弱毒化作用を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
〔2〕パルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸が分岐鎖アミノ酸、カプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸がアミド基含有アミノ酸である前記〔1〕に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、
〔3〕前記分岐鎖アミノ酸がバリンであり、前記アミド基含有アミノ酸がアスパラギンである前記〔2〕に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、
〔4〕前記パルボウイルスがイヌパルボウイルスまたはネコパルボウイルスである前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を有することを特徴とする感染性分子クローン、
〔6〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を有することを特徴とする弱毒化パルボウイルス、
〔7〕前記〔6〕に記載の弱毒化パルボウイルスを含む、パルボウイルスの感染に対して非ヒト動物を予防するためのワクチン、
〔8〕前記〔7〕に記載のワクチンを非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物におけるパルボウイルス関連疾患の予防または治療方法、
に関する。
本発明のパルボウイルスは、弱毒であることが保証されるので、このパルボウイルスを含むワクチンは、強毒株との区別が容易になり、かつ弱毒化が担保される安全性の高いワクチンとなる。
また、本発明で変異させているパルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2のアミノ酸配列におけるアミノ酸300位とアミノ酸389位とをコードする遺伝子の突然変異箇所は、弱毒を担保するマーカーとなり、そのようなマーカーを有するウイルスは安全なワクチンのための基礎を提供する。
図1は、実施例1で作製したプラスミドpABの構築の手順を示す概略図である。 図2は、実施例1で作製したプラスミドpABの線状化の手順を示す概略図である。 図3は、実施例1で作製した感染性分子クローンpKB9の構築の手順を示す概略図である。
1.弱毒化パルボウイルスのカプシド遺伝子
本発明の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子は、以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子である。
(a)パルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸がグリシンおよびアラニン以外のアミノ酸に置換され、および/または前記カプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸がトレオニン以外のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列(以下、アミノ酸配列(a)という)からなるタンパク質
(b)アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であり、かつパルボウイルスの弱毒化作用を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
なお、前記アミノ酸配列の順番は、N末端からの順番とする。
「パルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2」については、公知のデータベースでそのアミノ酸配列や該アミノ酸配列をコードする塩基配列を確認することができる。例えば、イヌパルボウイルスのカプシドタンパク質については、アミノ酸配列をGenBankアクセッションナンバーBAD05015、塩基配列をGenBankアクセッションナンバーAB128923などの公知のデータベースでそのアミノ酸配列や該アミノ酸配列をコードする塩基配列を確認することができる。
「パルボウイルス」としては、イヌパルボウイルスおよびネコパルボウイルスが含まれる。
例えば、イヌパルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2は、全長584個のアミノ酸配列から構成されるタンパク質であり、このカプシドタンパク質VP−2をコードするカプシド遺伝子VP−2は、全長1755個の塩基配列から構成される。
また、ネコパルボウイルスは、イヌパルボウイルスと比べて、カプシドタンパク質VP−2のアミノ酸配列の相同性が99%以上ある。
いずれのパルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2でも構成するアミノ酸300位はグリシンまたはアラニン、アミノ酸389位はトレオニンである。
本発明の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子としては、
1)前記カプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸が置換されている組み換えタンパク質をコードする弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、
2)前記カプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸が置換されている弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、
3)前記カプシドタンパク質VP−2の300位および389位のアミノ酸が置換されている弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子、
が含まれる。
例えば、前記カプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸が置換されている組み換えタンパク質をコードする弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子は、パルボウイルスカプシド遺伝子VP−2の5’末端から898位〜900位の3塩基配列GGTが所望のアミノ酸をコードするコドンに置換されている塩基配列からなる遺伝子である。
また、前記カプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸が置換されている弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子とは、パルボウイルスカプシド遺伝子VP−2の5’末端から1165位〜1167位の3塩基配列ACCが所望のアミノ酸をコードするコドンに置換されている塩基配列からなる遺伝子である。
また、パルボウイルスカプシド遺伝子VP−2の898位〜900位の3塩基配列GGTと、1165位〜1167位の3塩基配列ACCがともに所望のアミノ酸をコードするコドンに置換されている塩基配列からなる遺伝子も本発明の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子に含まれる。
本発明の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子において、前記カプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸をコードするコドンとしては、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸をコードするコドンが挙げられ、中でも、変異を導入することが容易でありかつワクチン作用が高い観点から、バリンをコードするコドンが好ましい。
また、前記カプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸をコードするコドンとしては、アスパラギン、グルタミンなどのアミド基含有アミノ酸をコードするコドンが挙げられ、中でも変異を導入することが容易でありかつワクチン作用が高い観点から、アスパラギンをコードするコドンが好ましい。
前記アミノ酸配列(a)のようにカプシドタンパク質VP−2の300位や389位のアミノ酸を所望のアミノ酸に置換する手法としては、前記カプシドタンパク質VP−2をコードするカプシド遺伝子VP−2を材料としてこれに遺伝子工学における公知の手法を用いればよい。例えば、後述の実施例に記載のように、塩基配列の所望の位置にPCRを利用して変異を導入できるサイトダイレクティドミュータジェネシス(site−directed mutagenesis)法を使用することができる。実際には、本技術を応用した市販のキットを用い添付のプロトコールに従って行えばよい。
また、他の手法としては、オリゴヌクレオチドダイレクティドミュータジェネシス(oligonucleotide−directed mutagenesis)などが挙げられる。
また、前記アミノ酸配列(a)において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列も本発明に含まれるが、このアミノ酸配列は、パルボウイルスの弱毒化作用を有するアミノ酸配列である必要がある。
前記欠失、置換もしくは付加などの変異を導入する配列の位置は、特に限定はないが、カプシド遺伝子から作製されたパルボウイルスが前記のような弱毒化作用を失わない位置であればよい。
本発明において「パルボウイルスの弱毒化作用」とは、野生型のパルボウイルスが有する毒性を弱毒化できる作用をいい、「パルボウイルスの弱毒化作用を有するアミノ酸配列からなるタンパク質」とは、具体的には、後述の実施例に記載のような手法により、目的のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするカプシド遺伝子を有する生ウイルスをイヌに経口投与して感染させた場合に、強毒のウイルスを感染させたイヌに比べて、イヌパルボウイルス感染で顕著に見られる下痢および白血球の減少が低減されている作用を発現できるタンパク質をいう。
したがって、前記アミノ酸配列(a)において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつパルボウイルスの弱毒化作用を有するアミノ酸配列も本発明の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子に含まれる。
2.感染性分子クローン
本発明の感染性分子クローンは、前記弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を有することを特徴とする。
本発明の感染性分子クローンは、前記弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を含むパルボウイルスの全ゲノムを組み込んだプラスミドであり、トランスフェクション法によりウイルス感受性細胞に導入すると、感染性ウイルスを人工的に産生させることができる。
したがって、本発明の感染性分子クローンが含むゲノムでは、前記弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子以外の部分のゲノムは、野生型のパルボウイルス遺伝子と同じ塩基配列になっている。
本発明の感染性分子クローンが有する遺伝子としては、例えば、後述の実施例で作製されている3種類の塩基配列が挙げられる。
1)pKB9−G300V:パルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の300番目のアミノ酸をバリンに置換させるために、3682番目の塩基がチミンに置換された塩基配列(配列番号1)
2)pKB9−T389N:パルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の389番目のアミノ酸をアスパラギンに置換させるために、3949番目の塩基がアデニンに置換された塩基配列(配列番号2)
3)pKB9−G300V/T389N:パルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の300番目のアミノ酸をバリンに置換させるために、3682番目の塩基がチミンに置換され、前記タンパク質の389番目のアミノ酸をアスパラギンに置換させるために、3949番目の塩基がアデニンに置換された塩基配列(配列番号3)
前記3種類の感染性分子クローンは、いずれも野生型のパルボウイルスの全ゲノムを組み込んだ感染性分子クローンpKB9において、パルボウイルスカプシドタンパク質VP−2をコードしている所定の位置の塩基を目的の塩基に置換することで作製される。
また、前記パルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の300番目のアミノ酸をロイシンまたはイソロイシンに置換されていてもよい。これらの場合、例えば、後述の実施例1で作製した感染性分子クローンpKB9において、5’末端から3681位〜3683位の3塩基配列GGTを、ロイシンにするためにはTTA、TTG、CTT、CTC、CTAまたはCTGに、イソロイシンにするためにはATT、ATCまたはATAにそれぞれ置換すればよい。
また、前記パルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の389番目のアミノ酸はグルタミンに置換されていてもよい。
この場合、例えば、後述の実施例1で作製した感染性分子クローンpKB9において、5’末端から3948位〜3950位の3塩基配列ACCを、グルタミンにするためにはGAAまたはGAGにそれぞれ置換すればよい。
感染性分子クローンの作製に使用されるプラスミドとしては、前記の導入する塩基配列の大きさに応じた市販のクローニング用ベクターを用いればよく、例えば、pBMH、pUC118、pBluescript、pGEMなどが挙げられる。
なお、各プラスミドにおける目的の遺伝子の組み込みには、それぞれ適当な制限酵素を用いて行えばよく、In−Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(クロンテック社製)を使用してもよい。
前記感染性分子クローンを導入するウイルス感受性細胞としては、ネコ腎由来株化細胞(CRFK細胞)、イヌ腫瘍由来株化細胞(A−72細胞)などが挙げられる。
3.弱毒化パルボウイルス
本発明の弱毒化パルボウイルスは、前記弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を有することを特徴とする。
具体的には、弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子をゲノムに有する組み換えパルボウイルスであり、前記パルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸がグリシンおよびアラニン以外のアミノ酸に置換され、および/または前記カプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸がトレオニン以外のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列(a)をコードする遺伝子を有する。
前記アミノ酸配列(a)において前記300位のアミノ酸としては、分岐鎖アミノ酸が挙げられる。分岐鎖アミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシンが挙げられ、中でも、変異を導入することが容易でありかつパルボウイルスの弱毒化作用が高い観点から、バリンが好ましい。
前記389位のアミノ酸としては、アミド基含有アミノ酸が挙げられる。アミド基含有アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミンが挙げられ、変異を導入することが容易でありかつパルボウイルスの弱毒化作用が高い観点から、アスパラギンが好ましい。
また、本発明の弱毒化パルボウイルスとしては、前記アミノ酸配列(a)において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつパルボウイルスの弱毒化作用を有するアミノ酸を含むパルボウイルスも含まれる。
本発明の弱毒化パルボウイルスは、野生型パルボウイルスに比べて、パルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の300位および/または389位のアミノ酸が置換されているが、これらのアミノ酸の置換が他の増殖特性をつかさどる遺伝子および免疫原をコードする遺伝子等を変異させることなく、ウイルス増殖能を保持し、かつイヌなどの非ヒト動物に対する弱毒化が安定的かつ充分に発揮される点で安全に利用できるという利点がある。
また、本発明の弱毒化パルボウイルスは、前記ワクチン株としての遺伝学的マーカーとなる前記弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を有することで、野外株と区別することができる。
本発明の弱毒化パルボウイルスは、例えば、前記感染性分子クローンを所定のウイルス感受性細胞に接種して培養し、細胞の培養上清を回収することで得ることができる。
前記ウイルス感受性細胞としては、ネコ腎由来株化細胞(CRFK細胞)、イヌ腫瘍由来株化細胞(A−72細胞)などが挙げられる。
ウイルス感受性細胞に接種する方法としては、市販のトランスフェクション試薬を用いてウイルス感受性細胞に前記弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子をトランスフェクションすること、エレクトロポレーション法でトランスフェクションすることなどが挙げられる。
トランスフェクション試薬としては、FuGENE(登録商標)6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス(株)製)、 Lipofectamine(登録商標)2000トランスフェクション試薬(ライフテクノロジーズ(株)製)などが挙げられる。
また、前記ウイルス感受性細胞の培養方法およびウイルスの回収方法については、ウイルス感受性細胞の種類に応じて、いずれも公知の手法であればよく特に限定はない。
4.ワクチン
本発明のワクチンは、パルボウイルスの感染に対して非ヒト動物を予防するためのワクチンであり、前記弱毒化パルボウイルスを含む。
また、前記弱毒化パルボウイルスは、生ワクチンとして使用してもよい。
本発明にいう生ワクチンでは、前記弱毒化パルボウイルスを水や緩衝液で懸濁したものが挙げられ、必要に応じて安定剤を添加することができる。安定剤としては、サッカロース、ポリビニルピロリドン、ラクトアルブミン、ラクトース一水和物、などが挙げられるが、特に限定はない。
本発明のワクチンにおける弱毒化パルボウイルスおよび安定剤等の含有量については、目的のワクチン作用が得られればよく、特に限定はない。
5.予防または治療方法
本発明の予防または治療方法は、前記ワクチンを非ヒト動物に投与することで、非ヒト動物におけるパルボウイルス関連疾患の予防または治療を行う方法である。
本発明のワクチンの非ヒト動物への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、動物の体重や年齢、投与方法、使用目的などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。例えば、予防方法として、一般にイヌやネコのワクチンは、生後4週以降に4週間隔で2回接種される。本発明のワクチンにおいても、生後4週以降に少なくとも1回、より好ましくは4週間隔で2回接種することにより、イヌ科またはネコ科動物におけるパルボウイルス関連疾患の予防を達成できる。
本発明が予防または治療の対象とする非ヒト動物としては、イヌ科、ネコ科等の哺乳動物が挙げられる。
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。
(実施例1)イヌパルボウイルス感染性分子クローンの作製
既知のイヌパルボウイルスDNA(GenbankアクセッションナンバーD26079)の1〜400番目(断片A)と4,607〜5,075番目(断片B)のDNAを連結させた869塩基のDNA(断片AB)を人工的に合成し、pBMHのマルチクローニングサイトに挿入したプラスミド(pAB)を作製した(Biomatic社に受託)(図1を参照。)。連結させた断片AとBの境界線を端とするようにPCR法でプラスミドを直鎖状にした(図2を参照。)。
一方、野外から分離した強毒イヌパルボウイルスKB9株から抽出したDNAを鋳型として、2本のオリゴDNAプライマー(5´−TGTGACAACGTCCAACTAAATGGAAAGGATGTTCGCTGGAA−3´(配列番号5)と5´−AAATACAAGTACAATATTTCTATGCTGTAATTTAATTAATCTTAAAAT−3´(配列番号6))を用いて翻訳領域のDNAをPCR法で増幅(断片C)し、In−Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(クロンテック社製)とDH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)で、前述の直鎖状プラスミド(pAB)にイヌパルボウイルスゲノムを構築させるようにクローニングし、完全長イヌパルボウイルスゲノムを構築したプラスミドすなわちイヌパルボウイルス感染性分子クローンを作製した(図3を参照。)。得られた感染性分子クローンをpKB9と命名した(配列番号4)。
前記pKB9(全長5116塩基)のうち、1〜400番目および4648〜5116番目の塩基配列はGenbankD26079由来の塩基配列であり、401〜4647番目の塩基配列は強毒イヌパルボウイルスKB9株由来の塩基配列であり、両者を合わせて完全長イヌパルボウイルスDNAである。また、イヌパルボウイルスカプシド遺伝子VP−2は2784〜4537番目に配置されている。
また、イヌパルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の300番目のアミノ酸をグリシンからバリンに置換させるために、pKB9の3,682番目の塩基グアニンをチミンにPCRによるsite−directed mutagenesis法により置換させた以外は、前記と同様にして感染性分子クローンを得て、pKB−G300V(配列番号1)と命名した。
なお、PCRによるsite−directed mutagenesis法には、PrimeSTAR(商標登録) Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ社製)を用い、添付のマニュアルに基づいて塩基の置換を行った。また、塩基の置換が正しく行われていることについては、プラスミド上に構築しているイヌパルボウイルスゲノムの全塩基配列を解析して確認した(なお、以下の感染性クローンも同様にした)。
イヌパルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の389番目のアミノ酸をトレオニンからアスパラギンに置換させるために、pKB9の3,949番目のシトシンをアデニンにPCRによるsite−directed mutagenesis法により置換させた以外は、前記と同様にして感染性分子クローンを得て、pKB9−T389N(配列番号2)と命名した。
前記イヌパルボウイルスカプシドタンパク質VP−2の300番目のアミノ酸をグリシンからバリン、389番目のアミノ酸をトレオニンからアスパラギンに置換させるために、pKB9の3,682番目の塩基グアニンをチミン、pKB9の3,949番目のシトシンをアデニンにPCRによるsite−directed mutagenesis法により置換させた以外は、前記と同様にして感染性クローンを得て、pKB9−G300V/T389N(配列番号3)と命名した。
(実施例2)イヌパルボウイルス感染性分子クローンを基にした組み換えイヌパルボウイルスの作製
pKB9、pKB9−G300V、pKB9−T389NおよびpKB9−G300V/T389Nをネコ腎由来株化細胞(CRFK細胞)にFuGENE(登録商標)6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス(株)製)でトランスフェクションし、7日後に細胞の培養上清を回収して、さらにCRFK細胞に接種して培養した。接種後7日目に細胞の培養上清を回収してそれぞれ組み換えイヌパルボウイルスvKB9、vKB9−G300V、vKB9−T389N、vKB9−G300V/T389Nを作製した。
次いで、組み換えイヌパルボウイルスvKB9、vKB9−G300V、vKB9−T389N、vKB9−G300V/T389Nについて、ウイルス感染価(TCID50/ml)をCRFK細胞で測って調べたところ、それぞれ106.750、107.375、106.750、107.750であった。
この結果から、本組み換えイヌパルボウイルスvKB9−G300V、vKB9−T389N、vKB9−G300V/T389は、いずれもvKB9と比べて、CRFK細胞に対する親和性が増加していることがわかる。
なお、前記ウイルス感染価は、CRFK細胞を用いたローラーチューブ法で測定した。
(実施例3)組み換えイヌパルボウイルスの犬への感染試験
実施例2で作製した組み換えイヌパルボウイルスvKB9、vKB9−G300V、vKB9−T389N、vKB9−G300V/T389Nを106.5TCID50/mlになるように調整し、イヌパルボウイルスに対する抗体を持たない35〜50日齢のビーグル犬の仔犬それぞれ4、4、3、7頭に5ml経口投与した。投与後2週間臨床症状の観察をし、1日おきに採血して白血球数を測定し、7日おきに採血して抗体価を測定した。臨床症状の異常と白血球の減少の結果を表1に、抗体価の結果を表2に示す。
表1、2の結果より、組み換えイヌパルボウイルスvKB9は、全頭の仔犬に下痢および白血球の減少を引き起こしており、イヌパルボウイルスによる典型的な重篤例を引き起こした。
これに対して、組み換えイヌパルボウイルスvKB9−G300Vは、仔犬4頭中2頭に下痢、1頭に白血球の減少を引き起こしたものの、vKB9よりも病原性の程度が弱まった。
また、組み換えイヌパルボウイルスvKB9−T389Nは、仔犬に下痢および白血球の減少を起こさず、発熱が認められただけであり、vKB9よりも病原性の程度が弱まった。
さらに組み換えイヌパルボウイルスvKB9−G300V/T389Nは、全頭の仔犬に臨床症状が認められず、vKB9−G300VおよびvKB9−T389Nよりもさらに病原性が弱まった。
また、抗体価はいずれの組み換えイヌパルボウイルスでも差は認められず、すべての組み換えイヌパルボウイルスで良好な免疫誘導能が確認された。
したがって、本発明のイヌパルボウイルスであるvKB9−G300V、vKB9−T389N、vKB9−G300V/T389Nはいずれも弱毒化されたイヌパルボウイルスであり、弱毒生ワクチンとして有用であることが確認された。
Figure 0006414409
Figure 0006414409
従来においては、前記特許文献1、2のように、イヌパルボウイルス感染症の典型的な症状(下痢および白血球の減少)を起こす強毒イヌパルボウイルスがそのアミノ酸置換により弱毒化することが詳細には報告されておらず、アミノ酸置換が弱毒化に関係するかどうか疑問が残っていた。
これに対して、本発明においては、アミノ酸を置換させる前の組み換えイヌパルボウイルスvKB9がイヌに対して下痢および白血球の減少を引き起こしたのに対し、VP−2遺伝子領域内の300位または389位のどちらか一方のアミノ酸を置換させた組み換えイヌパルボウイルスvKB9−G300V、vKB9−T389Nは、アミノ酸を置換させる前の組み換えイヌパルボウイルスよりも弱い病原性を示した。さらに300位と389位の両方のアミノ酸を置換させた組み換えイヌパルボウイルスvKB9−G300V/T389Nは、イヌに症状を全く引き起こさなかった。したがって、強毒イヌパルボウイルスが引き起こす典型的な症状(下痢および白血球の減少)は、VP−2遺伝子内の300位と389位のいずれかまたは両方のアミノ酸を置換させることにより、程度が弱くなるまたは起こさなくなることが明確に実証された。
以上のように、本発明のイヌパルボウイルスは、イヌパルボウイルス感染症の典型的な症状である下痢および白血球の減少を強毒ウイルスに比べて弱い程度または明らかに引き起こさないことが示されていることから、本発明はアミノ酸置換の明らかな弱毒化への関与を証明し、弱毒マーカーを有する弱毒イヌパルボウイルスを作製できるものである。
なお、前記実施例では、パルボウイルスとしてイヌパルボウイルスDNAを用いているが、ネコパルボウイルスDNAを公知のデータベースを参考に用いることで、感染性分子クローンおよび弱毒化パルボウイルスを作製することができる。

Claims (6)

  1. 以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子。
    (a)パルボウイルスであるイヌパルボウイルスまたはネコパルボウイルスのカプシドタンパク質VP−2の389位のアミノ酸がアスパラギンに置換されているアミノ酸配列(a)からなるタンパク質
    (b)アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であり、かつパルボウイルスの弱毒化作用を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
  2. さらに、前記カプシドタンパク質VP−2の300位のアミノ酸がバリンに置換されている請求項1に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子。
  3. 請求項1または2に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を有することを特徴とする感染性分子クローン。
  4. 請求項1または2に記載の弱毒化パルボウイルスカプシド遺伝子を有することを特徴とする弱毒化パルボウイルス。
  5. 請求項に記載の弱毒化パルボウイルスを含む、パルボウイルスの感染に対して非ヒト動物を予防するためのワクチン。
  6. 請求項に記載のワクチンを非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物におけるパルボウイルス関連疾患の予防または治療方法。
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