JP6432023B2 - 脊髄小脳失調症31型(sca31)治療剤 - Google Patents

脊髄小脳失調症31型(sca31)治療剤 Download PDF

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本発明は、脊髄小脳失調症31型(SCA31)の治療剤に関し、より具体的には、脊髄小脳失調症31型(SCA31)において異常凝集するRNAリピートと特異的に結合するタンパク質を含む上記治療剤に関する。
脊髄小脳変性症は現在治療法がない神経難病の一つであり、我が国には約3万人の罹患者がいると言われている。罹患すると、小脳とそれに関連する脳の機能が障害されるために運動失調症状が出現し、数年で進行して歩けなくなることが多い疾患である。
脊髄小脳変性症には遺伝性のものと非遺伝性(孤発性)のものがあることが知られている。遺伝性のものの中で、31型(SCA31)は本邦特有の、頻度の高い優性遺伝性脊髄小脳失調症の一つである。SCA31の原因遺伝子は、16番染色体長腕に位置するBEANおよびTK2遺伝子に共通するイントロン領域に存在する2.5〜3.8kbp程度のTGGAAの5塩基繰り返し配列を含むリピート配列である。ゲノム内の異常伸長したマイクロサテライトリピートの(TGGAA)nが転写され、細胞内に(UGGAA)nを含むリピートRNAが凝集蓄積することが本発明者等のグループにより報告されている(非特許文献1および2)。
一方、トランス活性化応答領域(transactivation responsive region(TAR)) DNA結合タンパク質43(TAR DNA-binding protein 43、TDP-43)およびfused in sarcoma / translated in liposarcoma(FUS/TLS)等のRNA結合タンパク質(RBP)は、ユビキチン化された細胞室内封入体として蓄積するだけでなく、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭葉認知症(FTD)の病態に関連していることが報告されている(非特許文献3)。TDP-43はTGおよびUGに富む配列のクラスターに対して高い結合親和性を有することが報告されている(非特許文献4および5)。
Sato, N. et al., The American Journal of Human Genetics 85, 544-557, November 13, 2009 Niimi, Y. et al., Neuropathology, 33, 600-611, 2013 Mackenzie, I.R. et al., The Lancet Neurology 9, 995-1007, 2010 Buratti, E. et al., The Journal of Biological Chemistry, 276, 36337-36343, 2001 Tollervey, J.R. et al., Nature Neuroscience 14, 452-458, 2011
現在のところ、脊髄小脳失調症31型(SCA31)の有効な治療法はなく、神経筋疾患の病態解明と治療法、予防法解明など、根本的治療法の開発が期待されている。本発明は、SCA31の病態を解明すると共に、その予防または治療に用い得る新規な治療剤の提供を目的とする。
本発明者等は、SCA31の病態解明と治療法開発を目的として、SCA31に関連するUGGAAのリピート配列を発現するSCA31ショウジョウバエモデルを作製した。以下、本明細書中において、本発明者等が作製した80-100回のUGGAAリピートを有するリピートRNAである(UGGAA)n(n=80-100)を(UGGAA)exp 、22回のリピートを有する(UGGAA)n(n=22)を(UGGAA)22と記載する。このin vivoモデルでは、(UGGAA)expの発現によってRNAの蓄積・凝集が誘導され、リピート長および用量依存的に神経変性が生じることが実証された。
この(UGGAA)expの発現によって誘導される毒性に影響する諸因子の影響等を検討を行う中で、本発明者等は、驚くべきことに、ALSの病態に関与するタンパク質であるTDP-43およびFUS/TLSが(UGGAA)exp RNAのミスフォールディング、およびリピートがコードするペンタペプチドリピートタンパク質の産生を阻害し、(UGGAA)exp誘導毒性を抑制することを見出した。
(UGGAA)expとTDP-43またはFUS/TLSを共発現させると、(UGGAA)exp発現ハエの複眼変性を劇的に抑制すること、またその抑制にはこれらのタンパク質のRNA結合領域(RRM:RNA recognition motif, RNA認識モチーフ)が必要であり、C末端等の他の領域を欠損させたタンパク質断片は全長タンパク質よりもRNA毒性を抑制する効果が高いことが確認された。この抑制効果は、これらのRNA結合タンパク質がRNAシャペロンとして機能して(UGGAA)expRNAの異常凝集を抑制することに基づくものであり、SCA31の発症原因と考えられるRNAの構造異常を抑制することで毒性を大幅に軽減し、それによって治療効果を発揮することができることを発見した。
異常伸長UGGAAリピートによるRNA毒性に対して上記のタンパク質がSCA31の治療効果を示すことから、これらのタンパク質もしくはそのRNA結合領域を含む断片、またはこれらのタンパク質もしくは断片をコードするポリヌクレオチドがSCA31に対する有用な遺伝子治療あるいはペプチド治療となる可能性がある。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]TDP-43(transactivation responsive region DNA-binding protein 43)もしくはFUS/TLS(fused in sarcoma / translated in liposarcoma)から選択されるRNA結合タンパク質、またはこれらのRNA結合領域を含む断片を含む、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤。
[2]TDP-43が
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるか、または、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性を有するものである、上記[1]記載の治療剤。
[3]FUS/TLSが
(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるか、または、
(b)配列番号3で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性を有するものである、上記[1]記載の治療剤。
[4]TDP-43のRNA結合領域を含む断片が、配列番号1の105〜169位のアミノ酸に相当するRRM1領域、および/または193〜257位のアミノ酸に相当するRRM2領域を必須に含む、上記[1]記載の治療剤。
[5]FUS/TLSのRNA結合領域を含む断片が、配列番号3の285〜371位のアミノ酸を必須に含む、上記[1]記載の治療剤。
本発明により、SCA31におけるTDP-43およびFUS/TLSのRNAシャペロンとしての保護的役割が明らかとなった。従って、これらのRNA結合タンパク質およびその機能性断片を患者に投与することにより、SCA31の治療および症状の軽減のために役立てることができる。
SCA31リピート(UGGAA)expおよび対照リピートの発現のための構築物の模式図を示す。Part 3のリピート単位の配列を配列番号14として配列表に示す。 A-D GMR-Gal4システムを用いて対照リピート(A)、(UGGAA)22(B)、(UGGAA)exp(W)(C)、(UGGAA)exp(S)(D)を発現させたショウジョウバエの複眼を光学顕微鏡(左)および走査型電子顕微鏡(中央および右)で観察した画像を示す。 E-H LNAプローブ(赤色)およびDAPI(青色)を用い、GMR-Gal4システムで対照リピート(E)、(UGGAA)22(F)、(UGGAA)exp(W)(G)、(UGGAA)exp(S)(H)を発現させたショウジョウバエ三齢幼虫の複眼原基のRNA FISH分析結果を示す。バーは50μmを示す。(G)および(H)において、(UGGAA)exp(W)および(UGGAA)exp(S)を発現させた幼虫でのRNAの凝集が観察された。 I ホモ接合性およびヘテロ接合性のトランスジェニック(UGGAA)expショウジョウバエにおける複眼変性を示す。 J RNaseAによる前処理をした場合の(UGGAA)exp(W)発現ショウジョウバエ三齢幼虫の複眼原基のRNA FISH分析結果を示す。 A ショウジョウバエでの導入遺伝子発現の定量的リアルタイムPCR分析結果を示す。平均±S.E.M, *p < 0.05, **p < 0.01, ***p < 0.001, one-way ANOVA, n = 80 / 遺伝子型。 B 幼虫でのRNA凝集体の定量結果を示す。(W): 2.1±0.92%, (S): 12.4±2.0%, 平均±S.D., **p < 0.01, Student t-検定, n = 10 / 遺伝子型。 elav-GeneSwitchを用いた寿命解析結果を示す。(UGGAA)exp(S)を発現するショウジョウバエ(4)は、EGFP(1)、対照リピート(2)、UGGAA22(3)を発現するショウジョウバエよりも寿命が短いことが示される(p < 0.001, log-rank検定, n = 100-120 匹/群)。 加齢による運動機能の変化を示す。(UGGAA)exp(S)を発現するショウジョウバエ(4)は、EGFP(1)、対照リピート(2)、およびUGGAA22(3)を発現するショウジョウバエと比較してより進行性の運動機能障害を示す(平均±S.D., n = 100-120, ***p < 0.001, two-way ANOVA)。 (UGGAA)expRNAに対するTDP-43の特異的結合を示す免疫ブロットの結果を示す。 RNA FISHと免疫染色を組合せてヒトSCA31患者のプルキンエ細胞におけるTDP-43(緑色)とRNA凝集体(赤色)が共局在することを示す。 TDP-43の野生型(TDP-43 WT)、N-およびC-末端欠損変異体(TDP-43 ΔNおよびTDP-43 ΔC)、およびRRM変異体の模式図を示す。 GMR-Gal4を用いてTDP-43またはその断片(N-およびC-末端欠損変異体)もしくは変異体を発現させたショウジョウバエ、並びに内在性dTDP43(TBPH)RNAiによりTDP-43をノックダウンしたショウジョウバエ(dTDP-43 KD)の複眼の光学顕微鏡像を示す。 GMR-Gal4を用いて(UGGAA)exp(W)および(UGGAA)exp(S)と共に、TDP-43またはその断片もしくは変異体を発現させたショウジョウバエ、並びに内在性dTDP43(TBPH)RNAiによりTDP-43をノックダウンしたショウジョウバエの複眼の光学顕微鏡像を示す。TDP-43、またはそのN-末端もしくはC-末端欠失断片(ΔNまたはΔC)の共発現により、(UGGAA)expを発現するショウジョウバエにおける複眼変性が劇的に軽減される。他方、RNA結合能を有さないRRM変異体は(UGGAA)exp誘導毒性を抑制することができなかった。dTDP-43によるノックダウン(KD)は複眼変性を悪化させた。 ショウジョウバエにおける(UGGAA)exp転写産物のレベルの定量結果を相対発現レベルで示す(平均±S.E.M, ns (有意差なし), Student t-検定, n = 80 / 遺伝子型)。 TDP-43野生型(WT)またはRRM変異体を共発現する(UGGAA)exp(S)系三齢幼虫の複眼原基のRNA FISH分析結果を示す。バーは50μm、10μm(高倍率)を示す。 TDP-43野生型(WT)、RRM変異体を共発現するか、TDP-43 RNAiによりTDP-43をノックダウンさせた(UGGAA)exp(W)系三齢幼虫の複眼原基のRNA FISH分析結果を示す。バーは50μm、10μm(高倍率)を示す。 各遺伝子型におけるRNA凝集体の定量結果を示す(平均±S.E.M, **p < 0.01, one-way ANOVA, n = 10 / 遺伝子型)。 (UGGAA)exp(W)とTDP-43とを発現する三齢幼虫の複眼原基におけるTDP-43の免疫染色の結果を示す。TDP-43は細胞核内で(UGGAA)expRNA転写産物と共局在する。 TDP-43のC末端欠損断片(ΔC)の存在下での(UGGAA)expの凝集の低下を示す、(UGGAA)expRNA溶液の原子間力顕微鏡(AFM)像および凝集体の大きさの分布を示す。バーは50nmを示す。**p < 0.01, 900 個以上の分子を計測した(平均±S.D.)。 TDP-43ΔCの非存在下(-)および存在下(+)での10分後の一本鎖RNA(ssRNA)、小さな凝集体(小)および大きな凝集体(大)の分布を示す。 (UGGAA)expリピートRNAがコードするペンタペプチドリピートタンパク質WNGME(配列番号12)の模式図を示す。W:Trp, N:Asn, G:Gly, M:Met, E: Glu。F1、F2、F3の配列および対応する塩基配列をそれぞれ配列番号15〜18として配列表に示す。 ヒト脳組織における抗-WNGME抗体(SGJ-1705およびSGJ-1706)によるPPRタンパク質の免疫染色結果を示す。PPRタンパク質はSCA31患者のプルキンエ細胞内の細胞体および樹状突起に顆粒として存在する(矢印)。 抗-WNGME抗体を用いた免疫染色により、GMR-Gal4システムを用いた対照リピートおよび(UGGAA)22を発現する三齢幼虫の複眼原基ではPPRタンパク質が観察されないことを示す。 TDP-43、RRM変異体およびdTDP-43 RNAiを共発現する(UGGAA)exp(W)または(S)系の三齢幼虫の複眼原基の免疫蛍光分析で示されるPPRタンパク質を示す。TDP-43の過剰発現により、(UGGAA)exp(W)および(S)系の双方でPPRタンパク質の産生が低下した。バーは50μm、10μm(高倍率)を示す。 各遺伝子型におけるPPRタンパク質の定量結果を示す(平均±S.E.M, **p < 0.01, one-way ANOVA, n = 10 / 遺伝子型)。 抗-WNGME抗体を用いた複眼原基の溶解液中のPPRタンパク質の免疫ブロットの結果を示す。 図7Fで得られた免疫ブロットからの定量結果を示す。4回の独立した実験の平均±S.E.M., *P < 0.05, ***p < 0.001 (Student t 検定)。 FUS/TLSの過剰発現によって(UGGAA)exp(S)を発現するショウジョウバエの複眼変性が軽減することを示す。FUS/TLSは三齢幼虫の複眼原基におけるRNA凝集およびPPRタンパク質の蓄積をいずれも低下させる。 導入遺伝子発現の定量的リアルタイムPCR分析の結果を示す(平均±S.E.M, ns(有意差なし), one-way ANOVA, n = 80 / 遺伝子型)。 RNA凝集体の定量結果を示す(平均±S.E.M, 有意差なし, one-way ANOVA, n = 10 / 遺伝子型)。 PPRタンパク質の定量結果を示す(平均±S.E.M, 有意差なし, one-way ANOVA, n = 10 / 遺伝子型)。 抗-WNGME抗体を用いた複眼原基由来の溶解液中のPPRタンパク質の免疫ブロットとその定量結果を示す(4回の独立した実験の平均±S.E.M, *P < 0.05, ***p < 0.001 one-way ANOVA)。
以下、本発明を詳細に説明する。
脊髄小脳失調症31型(SCA31)等の神経変性疾患は、若年期に発症することもあるが、主として中年以降に発症する。症状の進行も遅いことが多く、この病態を動物モデルで再現することは容易ではない。
近年、ショウジョウバエは、ヒトをはじめとする哺乳動物との遺伝的類似性が予想外に高く、一方でライフサイクルが短いため、ヒトの疾患モデルとして利用されるようになってきている。本発明者等は、SCA31の病態解明と治療法開発を目的として、SCA31に関連するUGGAAのリピート配列(UGGAA)expを発現するSCA31ショウジョウバエモデルを作製した。ショウジョウバエ系統は、インディアナ大学のVienna Drosophila RNAi Center (VDRC)およびBloomington Drosophila Stock Center(BDSC)から入手することができる。RNAiショウジョウバエも同様に入手することができる。
(UGGAA)expまたは(UGGAA)22を発現する形質転換ショウジョウバエ、およびTDP-43またはFUS/TLSを過剰発現するショウジョウバエは、これらを発現する遺伝子を組み込んだpUASTベクターを用い、常法により作成した。形質転換系統は、y,w系統(BestGeen Inc.)を用いて作出した。(UGGAA)expまたは(UGGAA)22、およびTDP-43もしくはFUS/TLSまたはこれらの断片を共発現するショウジョウバエは、一方を発現するショウジョウバエと他方を発現するショウジョウバエとの交配により得た。ショウジョウバエを用いた実験は25℃で行った。羽化後1〜2日のショウジョウバエの眼の表現型はSZX10型実体顕微鏡(Olympus)及び走査型電子顕微鏡(Miniscope TM1000、Hitachi)を用いて評価した。
一方、本発明者等は、PC12細胞またはマウス脳由来の細胞核抽出物と、in vitro転写により合成した(UGGAA)expリピートRNAと対照リピートRNA(それぞれビオチン標識したもの)を混合して、(UGGAA)expに特異的に結合するタンパク質をRNAプルダウン法により取得し、ゲル電気泳動によって結合が確認されたバンドを切り出し質量分析にかける方法及び、液体クロマトグラフィーを併用した質量分析(LC-MS)により同定した。
RNAプルダウンアッセイによる(UGGAA)exp結合タンパク質のスクリーニングにより同定されたタンパク質は、TDP-43およびFUS/TLSを含む数種のRNA結合タンパク質であった(実施例3)。
リピート配列(UGGAA)expを発現するSCA31ショウジョウバエモデルは、リピート配列の用量依存的に複眼変性を生じた(実施例1および2)。このショウジョウバエを、同定されたRNA結合タンパク質であるTDP-43またはFUS/TLSを発現するショウジョウバエと交配させた結果、複眼変性を軽減することができ、(UGGAA)exp誘導毒性の抑制効果が確認された(実施例4)。この抑制効果は、RNA発現を低下させることによるものではなく、in vitroおよびin vivoの双方において、RNAの異常な凝集を抑制することによるものであることが明らかとなった(実施例5および6)。
TDP-43は、トランス活性化応答領域(transactivation responsive region(TAR)) DNA結合タンパク質43(TAR DNA-binding protein 43、TDP-43)の略語である。TDP-43およびFUS/TLS(fused in sarcoma / translated in liposarcoma)は、家族性ALSの原因遺伝子として同定され、孤発性ALSにおいても原因タンパク質分子と考えられている。TDP-43およびFUS/TLSの発現異常によりALSをはじめとする種々の神経変性疾患が発症することが報告されていることから、これらのタンパク質がSCA31の治療に用い得るということは、驚くべきことであった。
従って、本発明の一態様は、TDP-43およびFUS/TLSから選択されるRNA結合タンパク質、またはこれらのRNA結合領域を含む断片を含む、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤である。
本発明において好適に使用し得るTDP-43としては、哺乳動物由来のTDP-43およびそのRNA結合断片が挙げられる。例えばUniProtKBには種々の哺乳動物由来のTDP-43の配列等の情報が変異型を含めて登録されており、当業者であれば、TDP-43およびその断片、変異体を容易に入手することができ、また合成することも可能である。TDP-43のアミノ酸配列の例として、例えばヒトTDP-43(Accession No. Q13148、配列番号1)、マウスTDP-43(Accession No. Q921F2、配列番号2)等を挙げることができる。ショウジョウバエも類似のタンパク質を発現することがわかっており、本明細書において、dTDP-43と記載する。
ヒトTDP-43は414アミノ酸からなるタンパク質であり、そのRNA結合領域は105〜169位のアミノ酸に相当するRRM1、193〜257位のアミノ酸に相当するRRM2である(図4A)。TDP-43のN-末端には核移行シグナルやスプライシングに関与する領域があり、一方C-末端には他のタンパク質との結合に関与する領域が含まれる。
本発明においては、上記の全長TDP-43を使用することができる。従って、本発明の好適な一態様は、TDP-43が
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるか、または、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性を有するものである、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤である。
本明細書において、「数個」とは、5個以下、好適には3個以下、より好適には2個以下を意味する。従って、例えば「配列番号1で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列」とは、配列番号1で示されるアミノ酸配列において5個以下、好適には3個以下、より好適には2個以下のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を意味するものとする。上記の通り、TDP-43等の本発明に係るタンパク質にはいくつかの変異体の存在が報告されており、従って、ヒトTDP-43であっても、そのアミノ酸配列を1種のみに限定することはできない。本発明において重要なことは、「(UGGAA)n(n=80-100)((UGGAA)exp)に対する結合活性を有」し、それによって(UGGAA)n(n=80-100)((UGGAA)exp)RNAの凝集を阻害することである。
本明細書において、「(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性」とは、in vitroおよび/またはin vivoにおいて(UGGAA)n(n=80-100)と結合し、その非存在下では凝集する傾向を有する(UGGAA)n(n=80-100)RNAの凝集を阻害することができる活性を意味するものとする。本発明者等の知見では、(UGGAA)22程度のリピート長ではショウジョウバエにおける毒性は誘導されない。一方、SCA31患者のプルキンエ細胞内では約200回のリピート長を有するRNAが存在することが報告されており、(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性が生体内における治療効果をもたらすためには必要かつ十分なものと推測される。
本発明の治療剤は、上記の通り、(UGGAA)n(n=80-100)RNAの凝集をin vitroおよび/またはin vivoにおいて阻害することができるものである。阻害の程度は、例えば患者由来の組織サンプルまたはショウジョウバエ等の実験動物から得られるサンプル、またはin vitroのサンプル中でのRNA凝集体量、またはRNA凝集領域が対照と比較して 50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは90%以上減少するものであり得る。あるいは、本発明の治療剤は、別の側面から記載すれば、(UGGAA)n(n=80-100)によってコードされるタンパク質の産生を対照と比較して50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは90%以上低下させるものであり得る。
本発明者等の知見によれば、RNA結合領域が本発明の目的のためには必須であり、そのN-末端およびC-末端は本発明の機能には必要ではないことが明らかとなった(実施例4)。TDP-43のC-末端にはそれ自体が毒性と関連するプリオンドメインがあるとされており、このようなドメインを含まないTDP-43断片とすることで、ALSを発症させる潜在的なリスクを回避することができ、より安全で有効な治療効果を得ることができる。更に、全長タンパク質よりも小さな断片とすることは、医薬として調製する際に、また投与して標的部位にまでの送達させる際に、より大きなタンパク質分子と比較してより効果的であり得る。
従って、本発明において使用することができる断片は、TDP-43タンパク質のRNA結合領域(RRM)を含む断片であれば良い。従って、本発明の別の好適な一態様は、TDP-43のRNA結合領域を含む断片が、配列番号1の105〜169位のアミノ酸に相当するRRM1領域、および/または193〜257位のアミノ酸に相当するRRM2領域を必須に含む、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤である。RNA結合領域にアミノ酸置換等の変異が生じた結果、(UGGAA)n(n=80-100)((UGGAA)exp)に対する結合活性を失ってしまう場合には、本発明の効果を得ることができない。従って、TDP-43の上記RNA結合領域内にはアミノ酸の欠失、置換または付加が存在しないことが好ましい。一方、RNA結合領域以外の領域については、治療剤としての効果、製剤・投与を考慮した場合の安定性を含む種々の要因を考慮して検討することができる。
FUS/TLS(fused in sarcoma / translated in liposarcoma、hnRNP P2としても知られる)は、疾患に関連するRBPであるだけでなく、標準的なRNA認識モチーフ(RRM)および推定されるプリオンドメインを有し、TDP-43との機能的かつ構造的類似性を共有しており、ニューロンにおける転写制御およびRNAプロセシングにおいて機能している。本発明者等は、FUS/TLSもTDP-43と同様のSCA31由来のRNAリピートの凝集抑制効果を有することを見出した(実施例8)。
本発明において好適に使用し得るFUS/TLSとしては、哺乳動物由来のFUS/TLSおよびそのRNA結合断片が挙げられる。例えばUniProtKBには種々の哺乳動物由来のFUS/TLSの配列等の情報が変異型を含めて登録されており、アミノ酸配列の例として、例えばヒトFUS/TLS(Accession No. P35637、配列番号3)、マウスFUS/TLS(Accession No. P56959、配列番号4)等を挙げることができる。ヒトFUS/TLSは526アミノ酸からなるタンパク質であり、そのRNA結合領域は285〜371位のアミノ酸に相当する。
従って、本発明の好適な一態様は、FUS/TLSが
(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるか、または、
(b)配列番号3で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性を有するものである、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤である。
また、本発明の別の好適な一態様は、FUS/TLSのRNA結合領域を含む断片が、配列番号3の285〜371位のアミノ酸を必須に含む、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤である。RNA結合領域にアミノ酸置換等の変異が生じた結果、(UGGAA)n(n=80-100)((UGGAA)exp)に対する結合活性を失ってしまう場合には、本発明の効果を得ることができない。従って、FUS/TLSの上記RNA結合領域内にはアミノ酸の欠失、置換または付加が存在しないことが好ましい。一方、RNA結合領域以外の領域については、治療剤としての効果、製剤・投与を考慮した場合の安定性を含む種々の要因を考慮して検討することができる。
疾患を生じさせるマイクロサテライトリピートが、ATGで開始するオープンリーディングフレームなしにタンパク質に異常に翻訳され得ることが示されている(Zu, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 260-265, 2011)。このリピートに関連する非-ATG(RAN)翻訳タンパク質は、SCA8、DM1、FXTAS、およびC9ORF72 ALS/FTDを含む数多くの疾患で報告されている(Cleary, J.D. and Ranum, L.P., Current Opinion in Genetics & Development 26C, 6-15, 2014)。他の非コーディングリピート伸長障害とは異なり、SCA31におけるTGGAA反復配列中にはATG-開始コドンが含まれている。しかしながら、本発明者等は、イントロンTGGAAリピートがRAN翻訳メカニズムによってペンタペプチドリピート(PPR)タンパク質に異常に翻訳され得るとの仮説を立て、この仮説を実証すべく検討を重ねた。その結果、TGGAAリピートがコードするPPRタンパク質が、SCA31患者の脳に存在すること、および(UGGAA)expを発現するショウジョウバエでもこのPPRタンパク質が合成されていることが確認された。そして、本発明に係るTDP-43等のタンパク質が、(UGGAA)expリピートがコードするタンパク質産生に対しても抑制的に作用し得ることを確認した(実施例7)。
RNA凝集に対するTDP-43およびFUS/TLSの効果は、C9ORF72 ALS/FTD(Donnelly, C.J. et al., Neuron, 80, 415-428, 2013)またはDM1/DM2(Querido, E. et al., Journal of Cell Science, 124, 1703-1714, 2011)におけるRNA凝集を促進することが報告されているADARB2またはMBNL 1等の他のRBPとは異なるものである。TDP-43およびFUS/TLSがその標的RNA凝集を抑制する保護的役割は、神経変性疾患におけるタンパク質凝集を抑制する分子シャペロンの役割と類似している。しかしながら、HSP70あるいはHSP40等の分子シャペロンは、FXTASに関連するCGGリピートを発現するショウジョウバエの表現型を軽減するが(Jin, P. et al., Neuron, 39, 739-747, 2003)、本発明者等は、これらの分子シャペロンが(UGGAA)expを発現するショウジョウバエの変性表現型を軽減することはできないことを確認した(データは示さない)。
本発明の治療剤として使用できるTDP-43およびFUS/TLSタンパク質およびこれらの断片は、製剤としての安定性向上等の目的のために、製薬上許容される塩の形態であっても良い。また、治療剤としての効果、具体的には(UGGAA)exp結合活性を損なわない範囲で、また患者に対して毒性等の有害な作用を及ぼさない範囲で、当分野において通常許容される誘導体とすることもできる。これらの塩および誘導体を含む、TDP-43およびFUS/TLSタンパク質およびこれらの断片は、単独で使用しても、組み合わせて使用しても良い。
本発明はまた、上記のTDP-43およびFUS/TLSをコードするポリヌクレオチドを、核酸医薬として投与することも可能である。ポリヌクレオチドはDNAでもRNAでも良く、ヒトでの発現に好適なベクター等の発現系、患部、具体的には小脳に効果的に送達するための送達系の設計は、当分野の技術常識に基づいて適宜行うことができる。
従って、本発明の別の一態様は、TDP-43もしくはFUS/TLS、またはこれらのRNA結合領域を含む断片をコードするヌクレオチド配列を含む、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤である。
本発明の治療剤は、単独で、または通常用いられる医薬担体と配合して医薬組成物として、髄液内、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内の注射又は非経腸的ルート等の非経口的ルート、ならびに経口ルートで投与することができ、非経口ルートが好ましく、髄液内注射がさらに好ましい。投与形態としては、注射剤、錠剤、カプセル剤、加硫剤、シロップ剤、乳剤、噴霧剤等が挙げられる。担体としては、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、グルコース液及び緩衝生理食塩水が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、キシロース、トレハロース、果糖などの糖類;マンニトール、キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グルタミン酸緩衝液などの緩衝液;脂肪酸エステルなどの界面活性剤などを添加剤として用いることができる。担体と配合される場合、有効成分である本発明の治療剤の含有量は、製剤により適宜選択されればよく、製剤により種々異なるが、0.001〜1重量%であることが好ましい。投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、治療目的等により決定されるが、一般に、成人の患者に対して、非経口投与の場合、0.0001〜1mgを1日1回〜数回に分けて投与することができる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
ショウジョウバエにおける(UGGAA) exp の発現によるRNA凝集および毒性誘導の実証
SCA31におけるプルキンエ細胞変性にin vivoで関与し得る(UGGAA)expの毒性の特徴を明らかにするために、本発明者等は、UAS/GAL4システムを用いて、疾患に特異的な(UGGAA)expリピート、または正常集団に見られるUAGAAおよびUAAAAUAGAA(配列番号5)複合体からなる対照リピートを発現するトランスジェニックショウジョウバエの系を作製するための発現構築物を作製した(図1−1)。
ゲノムDNAからのPCRによってSCA31または対照リピート挿入DNAを増幅した。完全なリピートの増幅のために、pUASTベクターの転写産物の領域を増幅するようにプライマーを設計した(フォワードプライマー:5’-TCTACGGAGCGACAATTCAA-3'(配列番号6)、リバースプライマー:5'-TGCTCCCATTCATGAG-3'(配列番号7))。(UGGAA)exp領域(図1−1 Part 1)のPCR増幅のためには、フォワードプライマー:5'-AGGGAATTGGGAATTCGTTAACA-3'(配列番号8)およびリバースプライマー:5'-TCCATTCCATTCTATTCTATTCCCAT-3'(配列番号9)を用いた。PCRによって増幅されたリピートのおおよそのサイズはゲル電気泳動で確認した。正確なリピート長の特定のために、PCR産物を1% アガロースゲル上の電気泳動で分離し、PCRII TAベクター(Invitrogen)にクローニングし、DNA配列決定によってリピート長を決定した。得られたPCR産物は、およそ80-100個のTGGAAリピートを含む(UGGAA)expと、22個のTGGAAを含む(UGGAA)22を含んでいた。
PCR産物をHaeIIIで消化し、精製して、pBluescript KS(+)ベクター(Stratagene)中にクローニングした。ショウジョウバエの発現構築物は、ショウジョウバエの形質転換ベクターpUASTのNotIおよびXhoIクローニング部位の間にpBluescript KS(+)中のDNA断片を挿入することによって作製した。これらの構築物はリピート配列のすぐ上流にTAG-またはTAA-翻訳終止コドンを含む。形質転換ショウジョウバエはy,w株(Bestgene Inc.)を用い、標準的な方法で作成した。
他に記載のない限り、実験は全て25℃で行った。羽化1-2日後のショウジョウバエの眼の表現型をSZX10型実体顕微鏡(Olympus)および走査型電子顕微鏡(Miniscope TM1000, Hitachi)で評価した。
ショウジョウバエゲノム中の導入遺伝子について、TGGAA特異的PCRによって確認して、およそ80-100個のTGGAAリピートを有するいくつかのショウジョウバエの系((UGGAA)expの強発現系(S)、弱発現系(W)、および最も強く発現した系(L))と、22個のTGGAAリピートを有する(UGGAA)22系とを確立した。(UGGAA)exp長の効果を評価するために、ショウジョウバエの複眼で(UGGAA)exp、(UGGAA)22または対照リピートを発現させた。
定量的リアルタイムPCRのためには、20匹の三齢幼虫の全RNAをRNeasy kit(Quiagen)を用いて抽出し、PrimeScriptTM RT Master Mix(Takara Bio)を用いてcDNAを取得した。PCRに先立って、cDNAをDNase I(Invitrogen)で処理してゲノムDNAを除去した。リアルタイムPCRはLightCycler 480(Roche)を用いて3回行い、データはΔΔCt法または標準曲線法(Rp49レベル)を用いて行った。SCA31リピートまたは対照リピートの挿入のために使用したプライマーは以下の通りである。フォワードプライマー:5'-AGGGAATTGGGAATTCGTTAACA-3'(配列番号8)、リバースプライマー:5'-CTGGAGTGCAGTGACGTGATCT-3'(配列番号10)。
その結果、(UGGAA)22と対照リピートの発現は眼の形態に大きな影響を与えなかった(図1−2 AおよびB)が、(UGGAA)expの強発現(S)系では眼のサイズが小さくなり、かつ個眼の異常を有する眼の形態の崩壊を生じ、弱い発現(W)系ではやや乱れた表現型をもたらした(図1−2 CおよびD)。(UGGAA)expを最も強く発現した系では初期の発達段階で致死を誘導した(L系)(図1−3 A)。全転写産物を増幅するプライマーを用いたRT-PCRでは、全ての系で導入遺伝子が転写されていることが示された。ホモ接合性のトランスジェニック(UGGAA)expショウジョウバエはヘテロ接合性のトランスジェニック(UGGAA)expショウジョウバエと比較してより重篤な複眼変性を示していた(図1−2 I)。従って(UGGAA)expは用量依存的に作用していることが示される。
(UGGAA)expがどのようにして眼における神経毒性を示すのかを調べるために、本発明者等は、(UGGAA)expを発現する網膜の発達の初期イベントを追跡した。光受容体の分化は三齢幼虫の複眼原基で生じるため、GMR-GAL4システムにより、導入遺伝子を分化中の光受容体のみに誘導した。
(UGGAA)exp由来のRNA凝集がショウジョウバエの複眼原基中に存在するか否かを決定するために、本発明者等は、DIG-コンジュゲートロックト核酸(LNA)プローブを用い、yellow-white(yw)、(UGGAA)22、(UGGAA)expの弱発現系および強発現系に対するRNA蛍光in situハイブリダイゼーション(RNA FISH)を行った(図1−2 E-H)。センス鎖の凝集(赤色)を検出するためのRNA FISHを、DAPI(青色)での核DNA染色と組み合わせた。その結果、対照リピートまたは(UGGAA)22を発現する系ではRNA凝集は検出されなかったが(EおよびF)、(UGGAA)exp(W)および(S)系の複眼原基では(UGGAA)expRNAの凝集(矢じり)が観察され、ヒトSCA31の病理と類似していた(図1−2 GおよびH)。RNAの凝集は核(矢印)および細胞質の双方に存在しているようであるが、組織の変性が非常に重篤であるために、細胞質内に存在しているように観察されるRNA凝集も、本来は核内に存在していた可能性がある。重要なことは、RNA凝集の量が(UGGAA)expの発現レベルおよび複眼変性の重篤度と相関していたことである(図1−3)。また、(UGGAA)expの強発現系である(S)系では、発現量の差以上に複眼原基内のRNA凝集体量が増加していることが示された(図1−3 B )。凝集は、RNaseによる前処理をした場合には減少し、RNAによるものであることは明らかである(図1−2 J)。
上記の結果から、(UGGAA)expは、用量および長さに依存して、異常凝集した構造の形成を介して毒性を発揮することが実証された。
[実施例2]
ショウジョウバエ成虫での(UGGAA) exp の発現による毒性誘導の実証
次に、本発明者等は、ショウジョウバエの中枢神経系(CNS)での(UGGAA)expの発現の影響を調べるためにelav-GAL4システムを用いた。elav-GAL4を用いたCNSでの(UGGAA)expの持続的発現は蛹を致死させたため、本実施例においては誘導性Gene-Switch発現系を用い、羽化後のショウジョウバエのCNSで(UGGAA)exp発現を誘導した。
寿命分析およびクライミング試験はFeany, M.B. and Bender, W.W., Nature, 404, 394-398, 2000に記載された方法に若干の修正を加えて行った。具体的には、20匹のショウジョウバエをプラスチックバイアル内に入れ、バイアルを軽くたたいてショウジョウバエをバイアルの底に落としてから、クライミングの様子を観察した。15秒経過した時点で、バイアルの頂部(10cm超)に到達したショウジョウバエを計数した。各時点で20回以上の試験を行い、各群について100匹以上のショウジョウバエを試験した。
elav-GeneSwitchを用いた寿命分析によって(UGGAA)expの神経毒性を分析した結果、(UGGAA)exp(S)ショウジョウバエはEGFP、対照リピート、および(UGGAA)22を発現するショウジョウバエよりも寿命が短かく、対照では80〜90日間生存したのに対して、(UGGAA)exp(S) ショウジョウバエの生存の平均は34日間であった(p < 0.001, log-rank 試験, n = 100-120 匹/群)(図2A)。
更に、クライミング試験において、(UGGAA)exp(S)を発現するショウジョウバエはより進行性の運動機能障害を示し、28日目にはわずか34.4±11.7%のショウジョウバエしか登ることができなかった。これに対し、EGFPを発現するショウジョウバエの80.2±6.9%、対照リピートを発現するショウジョウバエの79.1±8,1%、および(UGGAA)22を発現するショウジョウバエの72.1±9.2%が28日目にバイアルの頂部まで登ることができた(平均±s.d, n = 100-120, ***p < 0.001, two-way ANOVA)(図2B)。
これらのデータから、(UGGAA)expを発現するショウジョウバエがヒトのSCA31の神経学的・病理学的性質を再現していることが示された。
[実施例3]
in vitroおよびin vivoにおけるTDP-43とUGGAA RNAとの相互作用
in vitro RNAプルダウンアッセイによって、潜在的(UGGAA)exp結合パートナーのスクリーニングを行った。具体的には、(UGGAA)expまたは対照リピートを含むビオチン化RNAをT7 RNAポリメラーゼ(Roche)を用いてin vitro転写によって合成し、PC12細胞またはマウス脳の核画分(NE-PER抽出試薬(Pierce)を用いて細胞を溶解させて分画した)と共にインキュベートした。次いで、ストレプトアビジンコートした磁気ビーズ(Dynabeads M-280 Streptavidin (Invitrogen))を用いてプルダウンし、捕捉されたタンパク質-(UGGAA)exp複合体をSDS-PAGEによって分離し、クマシーブルーによって染色した。目的のバンドをゲルから切り出し、LC-MS分析によってタンパク質を同定した。
ヒトの脳組織(患者1:80歳男性、患者2:74歳男性)の調製およびFISHによるプルキンエ細胞中のリピート転写産物の検出は、ジゴキシゲニン(DIG)-コンジュゲートロックト核酸(LNA)プローブ(5nM、Exiqon)、(TTCCA)5または(TTTTATTCTA)2.5(配列番号11)を用いて行った。ヒト脳切片のスライド上への固定、洗浄等の操作は一般的な手法で行った。染色は、一次抗体として抗TBP-43抗体(1/100希釈、Abcam AB41972)、二次抗体としてAlexa-Fluor 488にコンジュゲートさせたヤギ抗ウサギ抗体(1/500、Fisher)を用いた。
その結果、RNAの輸送、スプライシング、編集において機能する数種のRNA結合タンパク質および核パラスペックル(paraspeckle)の成分が同定された。本発明者等は同定されたタンパク質の中で最も量の多いタンパク質の一つであるTDP-43に着目し、SCA31の病理におけるその役割を詳細に解析した。
ウエスタンブロット解析結果から、TDP-43がin vitroにおいて(UGGAA)expと特異的に相互作用することが確認された(図3A)。更に、ヒトSCA31プルキンエ細胞におけるRNA FISHおよびRBP免疫蛍光分析から、TDP-43が(UGGAA)expRNA病巣と共局在していることが示され、in vivoにおいてもTDP-43が(UGGAA)expに結合していることが示唆された(図3B)。これらの結果から、TDP-43がSCA31の発症において役割を果たしていることが強く示唆された。
[実施例4]
TDP-43による(UGGAA) exp 誘導毒性の抑制
(UGGAA)exp誘導毒性におけるTDP-43の役割を調べるために、本発明者等は(UGGAA)exp発現ショウジョウバエをヒト野生型TDP-43発現ショウジョウバエと交配した。TDP-43の発現のために使用した構築物の模式図を図4Aに示す。
ヒトTDP-43を発現するトランスジェニックショウジョウバエは、pUASTベクターを用い、標準的技法で作製した。pUAST-TDP-43ΔNおよびpUAST-TDP-43ΔC構築物は、それぞれアミノ酸1-89およびアミノ酸276-414をコードする領域を欠失させることによって作製した。TDP-43 RRM変異体構築物は、QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis kit(Stratagene)を用い、フェニルアラニン残基147、149、194、229および231をロイシンに変異させることによって作製した。
その結果、ALS/FTDのショウジョウバエモデルにおけるTDP-43毒性を示唆する先行研究の結果と一致して、ヒト野生型TDP-43(TDP-43 WT)の発現によって、眼の変性がわずかに認められた(図4B)。しかしながら、(UGGAA)expを発現するショウジョウバエにおいて、TDP-43 WTの共発現は、複眼変性を劇的に抑制した(図4C)。一方、内在性のショウジョウバエTDP-43(dTDP-43)(Lin, M.J. et al., PloS one 6, e20371, 2011)のRNA干渉(RNAi)-介在型ノックダウンは、(UGGAA)exp(W)系で複眼変性を大きく増大させ、(UGGAA)exp(S)系では致死的表現型を誘導した(図4C)。これらのデータから、TDP-43はin vivoにおいて(UGGAA)expの毒性に関わる重要な役割を果たしていることが示される。
(UGGAA)exp誘導毒性を抑制するためにTDP-43のどの部分が必要であるのかを決定するために、本発明者等はN-末端(ΔN)またはC-末端(ΔC)領域を欠き、スプライシング制御およびマイクロRNA(miRNA)生合成/サイレンシングのための他のタンパク質との相互作用ができない(Buratti, E. et al., The Journal of Biological Chemistry 280, 37572-37584, 2005; Ling, S.C. et al., Neuron 79, 416-438, 2013)、あるいはRNA認識モチーフに5個のアミノ酸置換を有し(TDP-43 RRM変異体)、そのRNA標的に対する結合能が低下したTDP-43変異体(Buratti, E. and Baralle, F.E., The Journal of Biological Chemistry 276, 36337-36343, 2001; Elden, A.C. et al., Nature 466, 1069-1075, 2010)を発現するトランスジェニックショウジョウバエを作製した(図4A)。
N-末端(ΔN)およびC-末端(ΔC)を欠くTDP-43断片のみを発現するショウジョウバエの一部も軽度の複眼変性を示したため(図4B)、本発明者等は各遺伝子型についてこの比較的弱い表現型を有する系を選択して(UGGAA)exp発現ショウジョウバエと交配した。
その結果、驚くべきことに、2つのTDP-43欠失変異体のいずれかを共発現させても、(UGGAA)exp発現ショウジョウバエの表現型が顕著に軽減されたが、RRM領域に変異を生じさせたTDP-43 RRM変異型は変性を軽減することができなかった(図4C)。これらの結果から、TDP-43と(UGGAA)expとの直接的相互作用が、(UGGAA)exp誘導毒性を軽減する役割を有し得ることが示された。
[実施例5]
(UGGAA) exp RNAのフォールディングのATP非依存型RNAシャペロンとしてのTDP-43の機能
TDP-43がそのRNA結合能を介して(UGGAA)exp誘導毒性を抑制するメカニズムを解析するために、本発明者等は(UGGAA)expとTDP-43とを共発現するショウジョウバエにおける(UGGAA)exp転写産物の発現レベルおよびRNAの凝集を検討した。
その結果、TDP-43 WTの共発現は(UGGAA)exp転写産物の発現レベルに有意な影響をもたらさなかった(図5A)が、RNAの凝集は(UGGAA)exp-TDP-43の相互作用によって大きく抑制された(図5B-5D)。(UGGAA)exp(W)系では、TDP-43の共発現によりRNA凝集体量が複眼原基の面積あたり2.08%から0.37%に減少し、約82%の凝集阻害活性が示された。また、(UGGAA)exp(S)系では、RNA凝集体量が12.9%が4.3%に減少し、約67%の凝集阻害活性があることが示された (図5D)。
一方、TDP-43 RRM突然変異体の共発現は(UGGAA)expを発現するショウジョウバエにおけるRNA凝集を抑制することができなかった(図5B-5D)。また、(UGGAA)exp(W)系の複眼原基におけるRNA FISHおよびRBPの蛍光免疫染色から、TDP-43が核内の(UGGAA)expRNA転写産物と結合していることが明らかになった(図5E)。更に、複眼の形態の増悪と一致して、dTDP-43のノックダウンがRNA凝集を劇的に増大させた(図5C−5D)。これらの結果から、TDP-43は(UGGAA)exp転写産物の分解を促進するのではなく、in vivoにおけるRNA-TDP-43の相互作用を介してRNAの凝集を消失させ、それによってRNAの毒性を中和することが示された。
[実施例6]
in vitroにおけるTDP-43と(UGGAA) exp との相互作用
実施例5のデータから、TDP-43が(UGGAA)expと直接相互作用して異常なRNAのin vivoにおける非機能的コンフォメーションの形成を抑制する可能性が示唆された。本発明者等は次いで、TDP-43がin vitroにおける(UGGAA)exp凝集を直接抑制するか否かを原子間力顕微鏡(High-speed AFM, NanoExplorer, RIBM)を用いて試験した。
溶液中で熱変性させた直後、T7 RNAポリメラーゼを用いてin vitroで転写された(UGGAA)expRNAは、その多くが、大きなRNA凝集体(高さ > 1.5nm、幅 > 40nm、星印、3.2±1.9%)としてよりも一本鎖RNA(ssRNA、高さ < 0.9nm、矢印、19.5±2.6%)として、または小さな凝集体(高さ > 1.5nm、幅 > 15nm、< 40nm、矢じり、77.3±3.4%)として存在していたが、RNAのみの条件で室温で10分間インキュベーションした後、大きな凝集体の比率が顕著に増加した(38.9±9.5%、**p < 0.01)。しかしながら、それ自体の凝集傾向を失くした精製組換えTDP-43ΔC(Wang, I.F. et al., Nature Communications 3, 766, 2012)と共にインキュベーションした結果、(UGGAA)expRNAが一本鎖として維持され(20.6 ± 5.0%, **p < 0.01)、RNAのみの条件と比較すると大きなRNA凝集形成(6.1±3.1%, ** p < 0.01)を抑制した(図6A-6B)。
実施例5の結果と合わせると、TDP-43が標的RNAである(UGGAA)expの凝集を直接結合することによって抑制し、その結果として(UGGAA)expの毒性を消失させ得ることが示された。このプロセスは、ATP依存的にCUGリピート二本鎖をほどくDEAD-boxヘリカーゼDDX6等とは異なり、アデノシン三リン酸(ATP)または他のタンパク質を必要とせず、RNAの品質管理におけるTDP-43の新たな機能を明らかにするものである。
[実施例7]
リピートがコードするペンタペプチドリピートタンパク質産生のTDP-43による抑制
イントロンTGGAAリピートがRAN翻訳メカニズムによってペンタペプチドリピート(PPR)タンパク質に異常に翻訳され得るとの仮説に基づけば、図7Aに示すように、全てのフレームで、TGGAAリピートの翻訳は1種のPPRタンパク質、ポリ-(Trp-Asn-Gly-Met-Glu)(配列番号12)を生じる。本発明者等は、[H]CMEWNGMEWMGMEWNG[OH](配列番号13)ペプチドに対するポリクローナル抗体(抗-WNGME SGJ1705およびSGJ1706)を常法により作製した。アフィニティー精製したPPR抗体の特異性を、組換えペンタペプチドを含む小脳組織切片の処理によって確認したところ、PPRタンパク質の封入量が減少し、アフィニティー精製PPR抗体はGST融合物として細菌中に生成した組換えポリ-(WNGME)ペプチドを検出した。
次いで、PPRタンパク質がSCA31患者の脳に存在するか否かを評価するために、小脳組織切片における免疫組織化学分析を行った。SCA31患者の組織切片において、ポリ-WNGME-特異抗体が、対照には見られないプルキンエ細胞の細胞体および樹状突起内の点状の顆粒(黒矢印)を検出し、PPRタンパク質がSCA31患者の脳に存在することが示唆された(図7B)。
次に、ポリ-WNGMEペプチドが(UGGAA)expを発現するショウジョウバエでも発現されているか否かを検討した。抗-WNGME-抗体を用いた免疫染色から、対照リピートあるいは(UGGAA)22を発現するショウジョウバエの系ではPPRタンパク質生成の証拠は見られなかったが、(UGGAA)exp(W)および(S)系の双方の三齢幼虫の複眼原基でPPRタンパク質が合成されていることが明らかになった(図7Cおよび7D、矢印)。
(UGGAA)exp誘導毒性の抑制に対するRNAシャペロンとしてのTDP-43の顕著な効果から、本発明者等は、TDP-43がショウジョウバエにおけるPPRタンパク質の産生にも影響するか否かを検討した。その結果、TDP-43のアップレギュレーションは(UGGAA)exp(W)および(S)系双方でのPPRタンパク質の産生並びにRNA凝集を有意に低下させた(**P < 0.01、PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり2.5±0.38および4.1±0.48 %から0.1±0.02および0.9±0.23 %にそれぞれ低下した)(図7Dおよび7E)。しかしながら、RNAの蓄積および(UGGAA)exp誘導毒性を抑制できないTDP-43 RRM変異体の共発現によっても(UGGAA)exp発現ショウジョウバエにおけるPPRタンパク質の合成が抑制された(PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり0.9±0.15および1.0±0.38 % にそれぞれ低下した。*p < 0.05, **p < 0.01)。更に、dTDP-43のサイレンシングは(UGGAA)exp(W)系におけるPPRタンパク質の合成を統計的に有意には増加させなかった(複眼原基あたり3.3±0.68 %)。
これらのデータから、PPRタンパク質の量は(UGGAA)expを発現するショウジョウバエにおけるRNA凝集の度合いおよび量とは必ずしも相関せず、PPRタンパク質はこのショウジョウバエモデルにおいてRNAから翻訳されるものではないことが示唆された。
一方、(UGGAA)expを発現するショウジョウバエの溶解物のウェスタンブロット分析からWNGMEとの免疫反応性を有する分子種が明らかになり、TDP-43がin vivoにおけるPPR産生の阻害に関与していることが確認された(相対PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり1.0および6.7±1.36 %から0.1±0.05 および1.3±0.33 % にそれぞれ低下した。*p < 0.05, *** p < 0.001)(図7Fおよび7G)。
[実施例8]
FUS/TLSによる(UGGAA) exp 誘導毒性の抑制効果
ショウジョウバエにおける(UGGAA)exp毒性に対するFUS/TLSの効果を評価した。ヒトFUS/TLSをアップレギュレーションすると、TDP-43と同様に(UGGAA)exp(S)系での複眼変性を劇的に軽減した(図8A)。また、FUS/TLSは、TDP-43と同様に、(UGGAA)expを発現する三齢幼虫におけるRNAの凝集およびリピートRNAをコードするPPRタンパク質の生成を抑制した。FUS/TLSを(UGGAA)expと共発現させても(UGGAA)exp転写産物の発現レベルには影響しなかった(図8B)が、それらの発現はRNA凝集(**p < 0.01, 複眼原基あたり12.4±0.76 から4.1±0.26%に減少、約67%の凝集阻害活性 )およびPPRタンパク質(**p < 0.001, 複眼原基あたり4.1±0.48から1.3±0.16 %に減少)の統計的に有意な減少をもたらした(図8Cおよび8D)。また、免疫ブロット解析から、FUS/TLSがPPRタンパク質の合成を阻害していることが明らかとなった(***p < 0.001, 相対PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり1.0から0.5±0.05 %に減少)(図8E)。
本発明により、従来効果的な治療法がなかった脊髄小脳失調症31型(SCA31)に対して、その発症メカニズムに基づく新たな治療剤の提供が可能となる。

Claims (5)

  1. TDP-43(transactivation responsive region DNA-binding protein 43)もしくはFUS/TLS(fused in sarcoma / translated in liposarcoma)から選択されるRNA結合タンパク質、またはこれらのRNA結合領域を含む断片を含む、脊髄小脳失調症31型(SCA31)治療剤。
  2. TDP-43が
    (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるか、または、
    (b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性を有するものである、請求項1記載の治療剤。
  3. FUS/TLSが
    (a)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるか、または、
    (b)配列番号3で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ(UGGAA)n(n=80-100)に対する結合活性を有するものである、請求項1記載の治療剤。
  4. TDP-43のRNA結合領域を含む断片が、配列番号1の105〜169位のアミノ酸に相当するRRM1領域、および/または193〜257位のアミノ酸に相当するRRM2領域を必須に含む、請求項1記載の治療剤。
  5. FUS/TLSのRNA結合領域を含む断片が、配列番号3の285〜371位のアミノ酸を必須に含む、請求項1記載の治療剤。
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