以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。各構成要素の寸法及び比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
<第1実施形態>
図1に、幅方向の中間部に非配向領域を有する積層体の第1実施形態を示す。また、図2に、幅方向の端部非配向領域を有する酸化物超電導線材の第1実施形態を示す。図1に示す積層体5及び図2に示す超電導積層体6は、金属基板1の主面1b上に、中間層2(下地層2A、配向層2B、キャップ層2C)、酸化物超電導層3及び保護層4がこの順に積層された積層構造を有する。中間層2及び酸化物超電導層3には、非配向領域2b,3bが形成されている。
なお、本明細書において、非配向領域とは、結晶が配向性を示す領域を含む層において、配向性を示さない領域を意味する。また、配向阻害領域とは、上に積層される層の結晶配向性を阻害する領域である。なお、配向阻害領域は、別の層を介して積層された層の配向性をも阻害することができる。
図1に示す積層体5において、中間層2を構成する配向層2Bの主面2Bbには、中間層2又は金属基板1の内部にまで達する凹溝部2Baが形成されている。金属基板1上には、複数の凹溝部2Baが、間隔をおいて平行に延びている。凹溝部2Baの形成方法としては、配向層2Bの主面2Bbに加工工具を押し当てて金属基板1を移動させる方法が挙げられる。
配向層2Bの主面2Bbに凹溝部2Baが形成されることで、凹溝部2Baの直下及びその周囲に位置する配向層2Bの配向性が乱され、配向層2Bに非配向領域が形成される。凹溝部2Baの縁部(幅方向の両側)には、配向層2Bが盛り上がった隆起部が形成されてもよい。したがって、配向層2Bは、凹溝部2Baと隆起部において配向性を有さず、凹溝部2Ba又は隆起部が形成された領域は、非配向領域として機能する。また、凹溝部2Ba及び隆起部は、その上に積層されるキャップ層2C及び酸化物超電導層3の配向性を阻害する配向阻害領域として機能する。
凹溝部2Baの幅W1は、0.3μm以上40μm以下とすることが好ましい。凹溝部2Baの幅W1を0.3μm以上とすることで、酸化物超電導層3に確実に非配向領域3bを形成することができる。また、凹溝部2Baの幅W1を40μm以下とすることで、酸化物超電導層3の非配向領域3bの幅を狭くして臨界電流密度を高めることができる。
なお、本明細書において、凹溝部2Baとは、配向層2Bがその主面2Bbから凹み、成膜厚さより薄くなっている領域を意味する。また、隆起部は、配向層2Bがその主面2Bbから突出した領域を意味する。凹溝部2Baの深さD1は、配向層2Bの主面2Bbから凹溝部2Baの最も深い部分までの深さ方向の距離である。
凹溝部2Baの深さD1は、0.3μm以上10μm以下とすることが好ましい。凹溝部2Baの深さD1を0.3μm以上とすることで、より確実に酸化物超電導層3に非配向領域3bを形成することができる。また、凹溝部2Baの深さD1を10μm以下とすることで、金属基板1の強度低下を抑制することができる。なお、凹溝部2Baの断面形状は、図1に示された略円弧形状に限られず、例えば、V字状の溝であっても良い。
キャップ層2Cのうち、配向層2Bの凹溝部2Ba又は隆起部の上に積層される部分は、配向性を有さない。したがって、中間層2は、凹溝部2Ba又は隆起部における厚さ方向において、全体として非配向領域2bを有する。
酸化物超電導層3は、中間層2(特に配向層2B、キャップ層2C)によって配向性が制御されているため、中間層2の非配向領域2b上に形成された部分は配向性を有することができない。酸化物超電導層3において、中間層2の非配向領域2b上に形成される部分は、配向性を有していない非配向領域3bとなる。
酸化物超電導層3の非配向領域3bは、超電導特性を有さないか、又は臨界電流が著しく低いため、使用時には高抵抗領域となり、電流が流れにくくなる。中間層2及び酸化物超電導層3が金属基板1の主面1bに平行に形成された領域は、中間層2及び酸化物超電導層3が配向性を有する配向領域10となる。
図1に示すように、第1実施形態に係る積層体5は、積層体5の幅方向の中間部に、非配向領域2b,3bを有する。これらの非配向領域2b,3bは、配向領域10の長手方向に渡り延びている。積層体5が非配向領域2b,3bを有する位置において、積層体5を長手方向に切断すると、図2に示すように、幅方向の端部に非配向領域2b,3bを有する超電導積層体6を作製することができる。この超電導積層体6は、酸化物超電導線材として利用することができる。酸化物超電導線材は、超電導積層体6の周囲に安定化層を有してもよい。
第1実施形態に係る積層体5は、酸化物超電導層3の配向性を制御する中間層2の一部を直接的に加工して、凹溝部2Baを形成している。これにより、より確実に中間層2に非配向領域2bを形成することができる。
本実施形態に係る超電導積層体6を含む酸化物超電導線材は、酸化物超電導層3の積層後に、積層体5の切断工程を経ても、クラック等のダメージが非配向領域2b,3bの内部にとどまり、配向領域10への影響を抑制することができる。このため、配向領域10における酸化物超電導層3の超電導特性が悪化することがない。また、配向領域10における各層の耐剥離性(剥離強度)が悪化することがない。
線材の幅方向全面にわたって酸化物超電導層が配向している場合、細線加工により微小なクラック等の欠陥が生じると、酸化物超電導層の欠陥を起点として剥離が生じた際、酸化物超電導層が幅方向の大部分又は全面が剥離するおそれがある。しかし、幅方向の端部に非配向領域を設けた場合、酸化物超電導層の非配向領域には多数の結晶粒界が存在するため、クラック等の欠陥が生じても剥離の進展が阻害され、耐剥離性を向上することができる。
一般的に、積層により形成された酸化物超電導層3は、酸化物超電導層3の下に位置する層に対する耐剥離性が弱いことが知られている。本実施形態に係る酸化物超電導線材によれば、酸化物超電導層3と酸化物超電導層3の下に位置する中間層2との耐剥離性を高め、酸化物超電導層3の剥離を抑制できる。配向層2Bの凹溝部2Baは、配向層2Bの主面2Bbに加工工具を押し当てることで形成されており、表面に加工に起因する微細な凹凸が形成されている。凹凸を有する凹溝部2Ba上に形成されたキャップ層2Cにおいては、配向層2Bに形成された微細な凹凸にならって、キャップ層2Cの表面に微細な凹凸が形成される。キャップ層2C上に酸化物超電導層3が形成されると、微細な凹凸に起因するアンカー効果によりキャップ層2Cと酸化物超電導層3との接合強度が大きくなるため、酸化物超電導層3の耐剥離性が高まる。これにより、酸化物超電導層3が剥離しにくくなると考えられる。
なお、本実施形態は、中間層2のうち、配向層2Bに凹溝部2Baを形成する構成の例である。すなわち、中間層2を構成する複数の層のうち何れかの層を積層した後に、積層された層の主面に、線材の長さ方向に沿って配向阻害領域が形成される。中間層2に形成される凹溝部は、中間層2を構成する複数の層のうち何れかの層(積層された層)の主面に形成することができる。凹溝部により、中間層2に非配向領域2bを構成できる。即ち、中間層2の非配向領域2bは、中間層2を構成する複数層のうち何れかの層に形成された凹溝部により配向が乱された領域であればよい。
中間層2を構成する複数の層のうち何れか1層又は2層以上が凹溝部2Baにおいて少なくとも部分的に欠落した場合、配向阻害領域が何れかの層の除去により容易に形成され、酸化物超電導層3の非配向領域3bをより確実に形成することができる。
また、本実施形態に例示したように、配向層2Bに凹溝部2Baを形成することで、凹溝部2Baは、配向層2B上に形成されたキャップ層2Cにより覆われる。配向層2Bに凹溝部2Baを形成する場合、凹溝部2Baに位置する部分である配向層2B、及び、その部分の下に位置する下地層2Aの各層が薄くなったり、部分的に除去され、金属基板1が露出したりする。凹溝部2Baの上にもキャップ層2Cを形成することで、凹溝部2Baの領域内で金属基板1と酸化物超電導層3が直接接触することがない。これにより、金属基板1を構成する金属材料が、酸化物超電導層3に拡散することを抑制できる。したがって、凹溝部2Baが、配向層2Bに形成され、キャップ層2Cにより凹溝部2Baを覆う構造とすることが好ましい。
本実施形態においては、凹溝部2Baにおいて下地層2A及び配向層2Bの両方が少なくとも部分的に欠落した場合、キャップ層2Cが金属基板1に直接接触した箇所を有することもできる。非配向領域において金属基板1と酸化物超電導層3が直接接触することを防ぐには、欠落は中間層2の一部とし、中間層2を構成する複数の層のうち何れか1層又は2層以上が金属基板1と酸化物超電導層3との間に介在することが好ましい。
<第2実施形態>
図3に、幅方向の中間部に非配向領域を有する積層体の第2実施形態を示す。また、図4に、幅方向の端部非配向領域を有する酸化物超電導線材の第2実施形態を示す。図3に示す積層体15及び図4に示す超電導積層体16は、金属基板11の主面11b上に、中間層12(下地層12A、配向層12B、キャップ層12C)、酸化物超電導層13及び保護層14がこの順に積層された積層構造を有する。中間層12及び酸化物超電導層13には、非配向領域12b,13bが形成されている。
第2実施形態に係る酸化物超電導線材は、凹溝部が金属基板の主面上に形成される点で、第1実施形態に係る酸化物超電導線材とは異なる。その他の部分は、おおむね第1実施形態と同様にすることができる。
図3に示す積層体15において、金属基板11の主面11bには、間隔をおいて平行に配置された複数本の凹溝部11aが形成されている。凹溝部11aは、金属基板11の主面11bに形成された溝であり、金属基板11の長手方向に延びている。凹溝部11aの形成方法としては、金属基板11の主面11bに加工工具を押し当てて金属基板11を移動させる方法が挙げられる。
金属基板11の凹溝部11aは、配向阻害領域として機能する。すなわち、凹溝部11a上に形成される中間層12及び酸化物超電導層13の配向性が阻害され、凹溝部11a上に形成される中間層12及び酸化物超電導層13に非配向領域12b,13bが形成される。
金属基板11の凹溝部11aの幅W2は、10μm以上500μm以下が好ましい。凹溝部11aの幅W2を10μm以上とすることで、中間層12に十分な幅を有する非配向領域12bを形成することができる。また、凹溝部11aの幅W2を500μm以下とすることで、酸化物超電導層13の非配向領域13bの幅を狭くして臨界電流密度を高めることができる。
金属基板11の凹溝部11aの深さD2は、0.3μm以上10μm以下が好ましい。凹溝部11aの深さD2を0.3μm以上とすることで、より確実に中間層12に非配向領域12bを形成することができる。また、凹溝部11aの深さD2を10μm以下とすることで、金属基板11の強度低下を抑制することができる。なお、凹溝部11aの断面形状は、図3に示されたV字状に限られず、例えば、略円弧形状の溝であっても良い。
本実施形態においては、金属基板11に凹溝部11aによる傾斜面が形成されているため、この凹溝部11a上に形成される中間層12の配向が乱れる。これにより、中間層12において、金属基板11の凹溝部11a上に形成される部分には、凹溝部11aに対応する非配向領域12bが形成される。また、凹溝部11a上に形成される中間層12の表面には、凹溝部11aの形状に対応した凹溝部12aが形成される。なお、中間層12の凹溝部12aの断面形状は、図3に示されたV字状に限られず、例えば、略円弧形状の溝であっても良い。
酸化物超電導層13の配向性は、中間層12(特に配向層12B、キャップ層12C)によって制御されている。したがって、中間層12の非配向領域12b上に形成された部分は、超電導状態を発現するのに十分な配向性を有さない。酸化物超電導層13において、中間層12の非配向領域12b上に形成される部分は、結晶の配向が乱れた非配向領域13bとなる。また、この非配向領域13bには、中間層12の凹溝部12aに対応した凹溝部13aが形成される。なお、酸化物超電導層13の凹溝部13aの断面形状は、図3に示されたV字状に限られず、例えば、略円弧形状の溝であっても良い。
酸化物超電導層13の配向性は、中間層12の配向性のみならず、中間層12の表面性状にも依存する。中間層12に非配向領域12bが設けられていること、及び中間層12の表面に凹溝部12aが形成されていることにより、凹溝部12a及び非配向領域12bの上に形成される酸化物超電導層13を構成する結晶は、より配向しにくくなり、非配向領域13bの非配向性が顕著となる。
酸化物超電導層13の非配向領域13bは、超電導特性を有さないか、又は臨界電流が著しく低いため、使用時には高抵抗領域となり、電流が流れにくくなる。中間層12及び酸化物超電導層13が金属基板11の主面11bに平行に形成された領域は、中間層12及び酸化物超電導層13が配向性を有する配向領域20となる。酸化物超電導層13の凹溝部13a上に形成される保護層14の表面には、凹溝部13aの形状に対応した凹溝部14aが形成されてもよい。
図3に示すように、第2実施形態に係る積層体15は、積層体15の幅方向の中間部に、非配向領域12b,13bを有する。これらの非配向領域12b,13bは、配向領域20の長手方向に渡り延びている。積層体15が非配向領域12b,13bを有する位置において、積層体15を長手方向に切断すると、図4に示すように、幅方向の端部に非配向領域12b,13bを有する超電導積層体16を作製することができる。この超電導積層体16は、酸化物超電導線材として利用することができる。酸化物超電導線材は、超電導積層体16の周囲に安定化層を有してもよい。
第2実施形態に係る積層体15は、金属基板11の一部を直接的に加工して、凹溝部11aを形成している。このため、凹溝部11aを有する金属基板11の主面11b上に中間層12及び酸化物超電導層13を形成する方法は、従来公知の方法でよい。金属基板11の凹溝部11a上に中間層12及び酸化物超電導層13を構成する各層が積層されることにより、非配向領域12b,13bが形成される。
本実施形態に係る超電導積層体16を含む酸化物超電導線材は、酸化物超電導層13の積層後に、積層体15の切断工程を経ても、クラック等のダメージが非配向領域12b,13bの内部にとどまり、配向領域20への影響を抑制することができる。このため、配向領域20における酸化物超電導層13の超電導特性が悪化することがない。また、配向領域20における各層の耐剥離性(剥離強度)が悪化することがない。
<第3実施形態>
図5に、幅方向の中間部に非配向領域を有する積層体の第3実施形態を示す。また、図6に、幅方向の端部非配向領域を有する酸化物超電導線材の第3実施形態を示す。図5に示す積層体25及び図6に示す超電導積層体26は、金属基板21の主面21b上に、中間層22(下地層22A、配向層22B、キャップ層22C)、酸化物超電導層23及び保護層24がこの順に積層された積層構造を有する。中間層22及び酸化物超電導層23には、非配向領域22b,23bが形成されている。
第3実施形態に係る酸化物超電導線材は、配向阻害領域の構成の点で、第2実施形態に係る酸化物超電導線材とは異なる。具体的には、第2実施形態の凹溝部11a,12a,13aの代わりに、粗面部21a,22aが設けられる。その他の部分は、おおむね第2実施形態と同様にすることができる。
図5に示す積層体25において、金属基板21の主面21bには、間隔をおいて平行に配置された複数本の粗面部21aが形成されている。粗面部21aの形成方法としては、例えば、金属基板21の主面21bに対するレーザー照射が挙げられる。金属基板21の粗面部21aは、算術表面粗さRaが5nm以上1000nm以下の領域であることが好ましい。金属基板21の主面21bの算術平均粗さRaを3nm〜4nmの領域であることが好ましい。
金属基板21の粗面部21aの幅W3は、10μm以上500μm以下が好ましい。粗面部21aの幅W3を10μm以上とすることで、中間層22に十分な幅を有する非配向領域22bを形成することができる。また、粗面部21aの幅W3を500μm以下とすることで、酸化物超電導層23の非配向領域23bの幅を狭くして臨界電流密度を高めることができる。
本実施形態においては、金属基板21に粗面部21aが形成されているため、この粗面部21a上に形成される中間層22の配向が乱れる。これにより、中間層22において、金属基板21の粗面部21a上に形成される部分には、粗面部21aに対応する非配向領域22bが形成される。中間層22の配向性は、中間層22の下に存在する金属基板21の表面性状に依存するため、金属基板21の粗面部21aは、配向阻害領域として機能する。また、粗面部21a上に形成される中間層22の表面には、粗面部21aに対応した粗面部22aが形成される。
酸化物超電導層23の配向性は、中間層22(特に配向層22B、キャップ層22C)によって制御されている。したがって、中間層22の非配向領域22b上に形成された部分は、超電導状態を発現するのに十分な配向性を有さない。加えて、中間層22の非配向領域22bの表面には、粗面部22aが形成されている。したがって、非配向領域22b上に形成される酸化物超電導層23は非配向領域23bとなる。
酸化物超電導層23の非配向領域23bは、超電導特性を有さないか、又は臨界電流が著しく低いため、使用時には高抵抗領域となり、電流が流れにくくなる。中間層22及び酸化物超電導層23が金属基板21の主面21bに平行に形成された領域は、中間層22及び酸化物超電導層23が配向性を有する配向領域30となる。
図5に示すように、第3実施形態に係る積層体25は、積層体25の幅方向の中間部に、非配向領域22b,23bを有する。これらの非配向領域22b,23bは、配向領域30の長手方向に渡り延びている。積層体25が非配向領域22b,23bを有する位置において、積層体25を長手方向に切断すると、図6に示すように、幅方向の端部に非配向領域22b,23bを有する超電導積層体26を作製することができる。この超電導積層体26は、酸化物超電導線材として利用することができる。酸化物超電導線材は、超電導積層体26の周囲に安定化層を有してもよい。
本実施形態に係る超電導積層体26を含む酸化物超電導線材は、酸化物超電導層23の積層後に、積層体25の切断工程を経ても、クラック等のダメージが非配向領域22b,23bの内部にとどまり、配向領域30への影響を抑制することができる。このため、配向領域30における酸化物超電導層23の超電導特性が悪化することがない。また、配向領域30における各層の耐剥離性(剥離強度)が悪化することがない。
<酸化物超電導線材等>
以下、酸化物超電導線材を形成する各部の構成について詳細に説明する。
金属基板1、11,21は、超電導線材に使用し得る基板(基材)であれば、金属基板の種類は限定されない。金属基板は、耐熱性を有する金属で形成されていることが好ましい。金属基板の材料としては、耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(登録商標)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等の何れの種類も使用できる。また、金属基板として、金属結晶の配向が揃った配向基板を用いても良い。本実施形態においては、金属基板の形状は、長尺のテープ形状であるが、例えば、シート形状であっても良い。金属基板の厚みは、目的に応じて適宜調整すれば良く、10〜500μmの範囲とすることができる。
中間層2,12,22は、金属基板1,11,21の主面1b,11b,21b上に形成される。中間層2,12,22の構造としては、下地層2A,12A,22Aと、配向層2B,12B,22Bと、キャップ層2C,12C,22Cがこの順に積層された構造を適用することができる。下地層は、拡散防止層及びベッド層の何れか一方又は両方から構成することができる。
拡散防止層は、拡散防止層よりも上面に他の層(拡散防止層とは異なる層)を形成する際に加熱処理した結果、金属基板や他の層が熱履歴を受ける場合に、金属基板の構成元素の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層は、Si3N4、Al2O3、GZO(Gd2Zr2O7)等から構成される。拡散防止層の厚さは、例えば10〜400nmである。
ベッド層は、金属基板と酸化物超電導層との界面における構成元素の反応を抑え、ベッド層よりも上方(ベッド層の上面)に設ける層の配向性を向上させるために設けられる。ベッド層の材質としては、Y2O3、CeO2、Dy2O3、Er2O3、Eu2O3、Ho2O3、La2O3等が挙げられる。ベッド層の厚さは、例えば10〜100nmである。
配向層は、その上のキャップ層の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、例えば、Gd2Zr2O7、MgO、ZrO2−Y2O3(YSZ)、SrTiO3、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Ho2O3、Nd2O3等の金属酸化物を例示することができる。この配向層はIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。
キャップ層は、上述の配向層の表面に成膜されて、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなる。キャップ層の材質としては、例えば、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、ZrO2、YSZ、Ho2O3、Nd2O3、LaMnO3等が挙げられる。キャップ層の厚さは、50〜5000nmの範囲が挙げられる。
酸化物超電導層3,13、23は、酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、特に限定されないが、例えば一般式REBa2Cu3OX(RE123)で表される希土類系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。中でも、Y、Gd、Eu、Smの1種か、又はこれら元素の2種以上の組み合わせが好ましい。超電導層の厚さは、例えば0.5〜5μm程度である。この厚さは、長手方向に均一であることが好ましい。酸化物超電導層は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法、熱塗布分解法(MOD法)等で積層することができる。
保護層4,14,24は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層と保護層の上に設けられる層(例えば安定化層など)との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層の材質としては、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、金と銀との合金、その他の銀合金、銅合金、金合金などの金属が挙げられる。保護層は、少なくとも酸化物超電導層の表面(厚さ方向で、金属基板側に対する反対側の面)を覆っている。さらに、保護層が、酸化物超電導層の側面、中間層の側面、金属基板の側面及び裏面から選択される領域の一部または全部を覆ってもよい。
保護層の厚さとしては、例えば1〜30μm程度が挙げられる。酸化物超電導層の非配向領域において酸化物超電導層が平坦でない表面形状を有する場合、保護層は同様に平坦でない表面形状を有してもよく、保護層の表面が平坦となるように保護層の厚さを分布させてもよい。保護層がスパッタ、蒸着などにより薄く形成され、酸化物超電導層の非配向領域上において保護層の表面に凹溝部(例えば図3の凹溝部14a)が形成される場合、非配向領域に沿った積層体の切断が容易になるので好ましい。
上述の実施形態において、超電導積層体の酸化物超電導層は、幅方向の両端部の非配向領域により、幅方向の外側に対して外部と分断されている。酸化物超電導層の表面を覆う保護層が導電性を有することにより、酸化物超電導層を外部(安定化層等)と電気的に接続することができる。積層体の切断後又は切断前に酸化物超電導層の酸素アニールを行う場合は、アニール時に酸素ガスが保護層を通過して酸化物超電導層に到達し得る条件で保護層を形成することが好ましい。
幅方向の中間部に非配向領域を有する積層体5,15,25を切断して超電導積層体6,16,26を作製する際、切断方法としては、連続波又はパルス波のレーザービームが挙げられる。レーザーとしては、特に限定されないが、希土類添加光ファイバを用いた光ファイバレーザー、固体レーザー、気体レーザー等が挙げられる。生産性の観点では、連続波の光ファイバレーザーが好適である。
レーザービームのスポット径は、例えば20μm程度であり、500μm以下、100μm以下、10μm以上が好ましい。積層体が切断される際の積層構成としては、金属基板、中間層、酸化物超電導層、保護層を有し、安定化層、金属テープ等を有しない状態が好ましい。積層体の一部が除去される切断部の幅は100μm以下が好ましい。また、切断部の幅は、切断前の積層体の幅方向の中間部に設けられる非配向領域の幅より狭いことが好ましい。
切断により積層体の一部が溶融して不定形の溶融物が発生する場合、不活性ガス等のシールドガスの噴射等により、積層体から溶融物を吹き飛ばして除去することが好ましい。レーザーの中心波長は、近赤外領域、例えば1050〜1100nm程度の波長が好ましい。レーザーのビーム出力は、積層体の材料や厚さ等にもよるが、例えば10W〜1kW程度が好ましい。
積層体の切断位置を制御する方法は、特に限定されないが、金属基板等に基準(線又は点)を設けて基準から切断位置までの距離を数値的に制御する方法、金属基板等に切断位置の長手方向の両端等に印を設ける方法等が挙げられる。切断後の超電導積層体の幅方向の端部に残る非配向領域の幅(片側当たり)としては、0.1〜100μm、あるいは0.3〜50μm程度が好ましい。非配向領域の幅が広すぎると、配向領域の幅が狭く臨界電流密度が低下するおそれがある。非配向領域の幅が狭すぎると、剥離を抑制する効果が低減する。積層体の幅方向における非配向領域及び切断箇所の数及び位置は特に限定されないが、等間隔又は任意の間隔で2本以上としてもよい。
中間層の積層構造に関しては、第1実施形態において説明したように、超電導積層体の幅方向の端部の非配向領域において、中間層を構成する少なくとも1又は2層以上(例えば下地層又は配向層を構成する)が欠落していてもよい。中間層を構成する少なくとも1又は2層以上が、配向領域から非配向領域にも連続して、酸化物超電導層の下に積層されていることが好ましい。配向領域から非配向領域に連続している層としては、配向領域において酸化物超電導層の下に接する層(例えばキャップ層)を含むことが好ましい。中間層の幅方向の端部において欠落する層は、キャップ層より下側に積層される層の1又は2以上であることが好ましい。この場合、非配向領域において欠落した層と酸化物超電導層との間に、少なくとも1つの層が配向領域から連続して存在するため、酸化物超電導層の配向領域と非配向領域との間に生ずる不連続性を緩和することができ、好ましい。
また、製造方法に関しては、中間層が2層以上から構成される場合、最初に配向阻害領域を形成する段階は、中間層の積層前に金属基板に配向阻害領域を形成する工程でもよく、中間層の1層以上を積層した後でもよく、中間層を構成するすべての層を積層した後とすることもできる。第1実施形態において説明したように、中間層を構成する一部の層(例えば配向層)を積層した後に配向阻害領域を形成し、その後さらに中間層を構成する残部の層(例えばキャップ層)を積層する工程を有してもよい。この場合、中間層を構成する一部の層に最初に形成された配向阻害領域と酸化物超電導層との間に、中間層を構成する残部の層が介在するため、酸化物超電導層の配向領域と非配向領域との間に生ずる不連続性を緩和することができ、好ましい。
安定化層としては、保護層上に金属テープ、めっき層、蒸着層などの金属層が積層された構成であってもよい。保護層、めっき層、蒸着層、金属基板などの上に、あるいは超電導積層体の周囲に、半田等の接合材層を介して金属テープを積層しても良い。2種以上の安定化層を積層することも可能である。積層体の切断後に、保護層又は安定化層と同様な金属層を、切断面上に積層してもよい。
金属テープとしては、銅、Cu−Zn合金、Cu−Ni合金等の銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、ステンレス等の比較的安価な導電性の金属材料を用いることができる。接合材としては、例えばSn−Pb系、Pb−Sn−Sb系、Sn−Pb−Bi系、Bi−Sn系、Sn−Cu系、Sn−Pb−Cu系、Sn−Ag系などの半田、Sn、Sn合金、In、In合金、Zn、Zn合金、Ga、Ga合金などの金属が挙げられる。めっき層、蒸着層としては、Ag,Cu等又はこれらの合金が挙げられる。
酸化物超電導線材は、さらに、全体が絶縁性の被覆層で被覆されていても良い。被覆層で酸化物超電導線材が被覆されることにより、酸化物超電導線材の全体が保護され、安定した性能の酸化物超電導線材が得られる。被覆層は、例えば、酸化物超電導線材等の絶縁被覆に通常使用される、各種樹脂や酸化物等の公知の材質で形成されているのが好ましい。
被覆層を構成する樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、シリコン樹脂、アルキッド樹脂、ビニル樹脂等が例示できる。また、紫外線硬化性樹脂が好ましい。また、被覆層を構成する酸化物としては、CeO2、Y2O3、Gd2Zr2O7、Gd2O3、ZrO2−Y2O3(YSZ)、Zr2O3、Ho2O3等が例示できる。
テープ状の超電導線材の巻線を超電導コイルとする場合、巻線の線材間に上記の樹脂を含浸することが好ましい。線材間に樹脂が充填されることにより、線材が相互に接着され、かつ電気的に短絡が防止される。また、超電導線材は、外部端子を有することができる。外部端子を有する箇所では、他の箇所と異なる断面構造を有してもよい。
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
金属基板又は中間層に形成される配向阻害領域としては、上述の実施形態における金属基板又は中間層の凹溝部、金属基板又は中間層の隆起部、金属基板又は中間層の粗面部、中間層の非配向領域に限られない。また、これらの配向阻害領域を2種以上組み合わせることもできる。凹溝部に伴って側方に隆起部を形成することもでき、主面上に凹溝部を伴うことなく隆起部を形成することもできる。長手方向に渡る隆起部(凸条部)は、金属基板又は中間層とは異なる材料を金属基板又は中間層の何れかの層の主面上に付与して形成することも可能である。
上記実施形態の酸化物超電導線材においては、超電導積層体の幅方向の両端部に、酸化物超電導層及び中間層の長手方向に渡る非配向領域を有している。また、上記実施形態の酸化物超電導線材において、非配向領域は、超電導積層体の幅方向の両端部のみに設けられ、幅方向の中間部は、配向領域となっている。他の実施形態としては、超電導積層体の中間部にも非配向領域を設けることができる。また、超電導積層体の中間部に設けられた非配向領域が長手方向に連続して設けられることにより、2本以上の配向領域が幅方向に分割して設けられたマルチフィラメント構造とすることもできる。配向領域によるフィラメントの幅は、100μm以上が好ましい。
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
ハステロイ(米国ヘインズ社商品名)基板上に、スパッタ法によりAl2O3の拡散防止層(膜厚100nm)を成膜した。次いで、拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法によりY2O3のベッド層(膜厚30nm)を成膜した。次いで、ベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgOの配向層(膜厚5〜10nm)を形成した。配向層の表面から長手方向に連続した傷により凹溝部を形成し、凹溝部における配向層を除去した。凹溝部において、さらに下地層(拡散防止層及びベッド層)が除去されてもよく、金属基板の主面に傷が達してもよい。
配向層の上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)によりCeO2のキャップ層(膜厚500nm)を成膜した。次いで、キャップ層上にPLD法によりGdBa2Cu3OXの酸化物超電導層(膜厚2μm)を形成した。この酸化物超電導層上を含む積層体の外周にスパッタ法によりAgの保護層を形成した。保護層は、酸化物超電導層の表面及び側面上だけでなく、中間層及び金属基板の側面、金属基板の裏面にも形成することができる。その後、中間層に形成した凹溝部に沿って、レーザー裁断により細線加工を行った。得られた超電導線材の切断面において、中間層及び酸化物超電導層の切断面(表面)における結晶状態を確認したところ、凹溝部に起因する非配向領域を有していた。