JP6499580B2 - 修飾基を遊離し、標識するための方法、修飾基の解析方法及び遊離糖鎖の標識方法 - Google Patents

修飾基を遊離し、標識するための方法、修飾基の解析方法及び遊離糖鎖の標識方法 Download PDF

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Description

本発明は、修飾基を遊離し、標識するための方法及びキット、修飾基の解析方法及びキット、並びに遊離糖鎖の標識方法に関する。
生体内において、セリン及びスレオニンは、リン酸化、硫酸化、糖鎖修飾(O−GalNAc型、O−GlcNAc型、O−Fuc型、O−Man型、O−Xyl型、O−Gal型、O−Glc型)等の多様な翻訳後修飾を受けるアミノ酸残基であり、これらの翻訳後修飾は、シグナル伝達や分化制御等の様々な生命の高次機能調節において重要な役割を担っている。
このような翻訳後修飾を医療の分野に利用しようとする動きがある。例えば、特定のタンパク質のリン酸化を担うキナーゼを阻害する薬剤が既に医薬品として上市されており、また、O−結合型糖鎖の定性、定量的な変動をみることで、種々の疾患の診断が可能であることがわかっている。
セリン及びスレオニンの翻訳後修飾のうち、O−リン酸化、O−硫酸化、及びO−GlcNAc化は、それぞれリン酸基、硫酸基、及びO−GlcNAc基が単独で結合するものであるが、一方で、O−GalNAc化、O−Fuc化、O−Man化、O−Xyl化等のO−結合型糖鎖修飾は、一般に、糖鎖がさらに伸長して多様な構造をとる。
リン酸化されたセリン及びスレオニンのリン酸化結合部位の解析手法の一法として、β脱離・マイケル付加法(BEMA法)が知られている。この方法は、塩基性条件下に、リン酸基がβ脱離し、不飽和カルボニルが生成され、これがマイケル反応受容体となることを応用したものである(特許文献1及び2、非特許文献1)。BEMA法の応用についてもいくつか報告されており、例えば、ジチオトレイトールのようなチオール基を有する化合物をマイケル供与体として作用させることで、リン酸化部位を標識し、ペプチドの精製やオンビーズ、オンチップ上の蛍光標識などに用いられている(特許文献3)。
BEMA法は、タンパク質のリン酸化に関わる研究に貢献し、広く使われる手法となっているが、O−GlcNAc化を含めた、セリン及びスレオニンの他の翻訳後修飾もまた、BEMA法で遊離されるため、本法ではセリン及びスレオニンにおいてどのような種類の翻訳後修飾があったのかを区分することができない。また、BEMA法におけるマイケル供与体としては、チオール基を有する化合物が一般的であり、他のマイケル供与体の応用例はほとんど報告されていなかった。
セリン及びスレオニンの糖鎖部分の多様な構造(O−GalNAc型、O−GlcNAc型、O−Fuc型、O−Man型、O−Xyl型、O−Gal型、O−Glc型)を解析する場合、タンパク質から多様な構造を有する糖鎖を効率的に切り出す有効な酵素が発見されていないため、強アルカリ下(pH約11.5〜12.5)のβ脱離反応による化学的手法が広く用いられてきた。この場合、糖タンパク質及び糖ペプチドより遊離した糖鎖についても、糖鎖の還元末端側から順次β脱離を受けて分解(ピーリング反応)を起こし得るため、高濃度の還元剤を加えて、β脱離反応と同時に還元末端を糖アルコールに還元する方法が開発された。この方法は1968年にCarlsonによって報告されたものであり、昨今でも、O−GalNAc型糖鎖を遊離するための標準的な方法となっている(非特許文献2)。しかし、この方法には、(1)還元剤存在下のβ脱離はペプチド部分の分解を引き起こすため、タンパク質部分の解析を行うことが困難である、(2)還元により糖鎖の還元末端が失われるため、糖鎖の分離や高感度分析のための誘導体化が困難になる、という2つの欠点があった。
これらの問題を克服するために、セリン及びスレオニンの翻訳後修飾をβ脱離反応で遊離する際にピラゾロン試薬をはじめとする標識剤を共存させる方法(BEP法)が、本発明者らや、他の研究グループにより報告された(特許文献4及び5、非特許文献3−5)。このBEP法によれば、遊離した糖鎖が速やかに標識剤(ピラゾロン誘導体)と反応し、遊離した糖鎖やペプチド部分の分解をほぼ完全に回避することができる。
一方、Reinholdらは、有機アミンを用いるCarlson法の変法(マイクロ波照射、pH条件:pH約12.5(追試)、反応温度:70℃)により、β脱離反応の反応時間を短縮できることを示した(非特許文献6)。
特表2007−515625号公報 米国特許第7803751号明細書 特開2009−19002号公報 国際公開第2012/111775号 国際公開第2011/038874号
"Enrichment analysis of phosphorylated proteins as a tool for probing the phosphoproteome",Nature Biotechnology(2001),19(4),379−382. Don M. Carlson and Charles Blackwell,"Structures and Immunochemical Properties of Oligosaccharides Isolated from Pig Submaxillary Mucins",J.Biol.Chem.1968,243:616−626. Jun−ichi Furukawa et al,"A Versatile Method for Analysis of Serine/Threonine Posttranslational Modifications by β−Elimination in the Presence of Pyrazolone Analogues",Anal.Chem.2011,83:9060−9067. Zauner G et al,"Mass spectrometric O−glycan analysis after combined O−glycan release by beta−elimination and 1−phenyl−3−methyl−5−pyrazolone labeling",Biochim Biophys Acta.2012,1820,1420−1428. Wang C et al,"One−pot nonreductive O−glycan release and labeling with 1−phenyl−3−methyl−5−pyrazolone followed by ESI−MS analysis.",Proteomics.2011,11,4229−4242. Stephanie Maniatis et al,"Rapid De−O−Glycosylation Concomitant with Peptide Labeling Using Microwave Radiation and an Alkyl Amine Base",Anal.Chem.2010,82:2421−2425.
しかしながら、Carlson法やBEP法を含めて、β脱離反応に基づく翻訳後修飾基の遊離には長い反応時間(10〜24時間)を要しており、翻訳後修飾基の大規模解析を制限する一つの要因となっていた。また、BEP法におけるマイクロ波照射についてはこれまで報告がなされていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、効率良くかつ短時間に、修飾基を遊離し、標識することのできる方法及びキットを提供することを目的とする。また本発明は、前記方法を用いた修飾基の解析方法及びキットを提供することを目的とする。また本発明は、効率良くかつ短時間に、遊離糖鎖を標識することのできる方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る試料中の修飾された糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つから修飾基を遊離し、標識するための方法は、
修飾された糖タンパク質と、ピラゾロン誘導体、イソキサゾロン誘導体、ヒダントイン誘導体、ローダニン誘導体、及びマレイミド誘導体のうち少なくとも1つである標識剤と、を含むpH6.0〜pH10.0の溶液にマイクロ波を照射する工程を含む。
前記溶液のpHは、pH7.5〜pH9.0であってもよい。
修飾基が遊離されたセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つが標識されてもよい。
前記標識剤は、ピラゾロン誘導体であってもよい。
標識剤とともにチオール化合物を用いてもよい。
前記修飾基は、翻訳後修飾基であってもよい。
前記翻訳後修飾基は、O−結合型糖鎖であってもよい。
本発明の第2の観点に係る修飾基の解析方法は、本発明の第1の観点に係る方法により試料中の修飾された糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つから遊離され、標識された修飾基を分析する、
ことを特徴とする。
本発明の第3の観点に係る、本発明の第1の観点に係る方法のためのキットは、ピラゾロン誘導体、イソキサゾロン誘導体、ヒダントイン誘導体、ローダニン誘導体、及びマレイミド誘導体のうち少なくとも1つである標識剤を含む溶液を備える。
本発明の第4の観点に係る修飾基を解析するためのキットは、本発明の第3の観点に係るキットを備える。
本発明の第5の観点に係る遊離糖鎖の標識方法は、遊離糖鎖と、ピラゾロン誘導体、イソキサゾロン誘導体、ヒダントイン誘導体、ローダニン誘導体、及びマレイミド誘導体のうち少なくとも1つである標識剤と、を含むpH6.0〜pH10.0の溶液にマイクロ波を照射する工程を含む。
本発明によれば、効率良くかつ短時間に、修飾基を遊離し、標識することのできる方法及びキットを提供することができる。また本発明によれば、前記方法を用いた修飾基の解析方法及びキットを提供することができる。また本発明によれば、効率良くかつ短時間に、遊離糖鎖を標識することのできる方法を提供することができる。
遊離糖鎖のピラゾロン誘導体による反応に対して、反応溶液のpHが与える影響について検討した図である。(a)は0.3M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH8.0)、(b)は0.4M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH8.3)、(c)は0.5M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH11.4)、(d)は0.6M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH11.8)での結果である。 遊離糖鎖のピラゾロン誘導体による反応に対して、マイクロ波照射による加熱の有無が与える影響について検討した図である。(a)はヒートブロックにより加熱した比較例、(b)はマイクロ波発生装置により加熱した実施例のスペクトルである。 マイクロ波発生装置により加熱した実施例とヒートブロックにより加熱した比較例とで、標識された糖鎖の回収量を比較したグラフの図である。 O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質のピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、マイクロ波照射による加熱の有無が与える影響について検討した図である。(a)はヒートブロックにより加熱した比較例、(b)はマイクロ波発生装置により加熱した実施例のスペクトルである。 マイクロ波発生装置により加熱した実施例とヒートブロックにより加熱した比較例とで、遊離標識された糖鎖の回収量を比較したグラフの図である。 O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質のピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、反応溶媒の種類の違いが与える影響について検討した図である。(a)はジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた場合、(b)はメタノールを用いた場合である。 O−GalNAc型糖鎖を有する糖ペプチドのピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、ペプチド分解がみられるか検討した図である。 O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質のピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、マイクロ波照射による加熱温度の違いが反応効率に与える影響について検討した図である。(a)は加熱温度85℃、(b)は加熱温度100℃、(c)は加熱温度110℃、(d)は加熱温度120℃、(e)は加熱温度130℃、(f)は加熱温度140℃である。 各温度の反応において遊離標識された糖鎖の回収量を比較したグラフの図である。 糖タンパク質であるブタ胃ムチンのピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、遊離標識された糖鎖総量の経時変化を評価したグラフの図である。 細胞ペレットを用いて、ピラゾロン誘導体を用いた遊離標識反応により、O−結合型糖鎖を検出できるか検討したスペクトルの図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明による、試料中の修飾された糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つから修飾基を遊離し、標識するための方法(以下、本明細書において「遊離標識方法」といい、この反応を「遊離標識反応」という)は、修飾された糖タンパク質と、標識剤と、を含むpH6.0〜pH10.0の溶液にマイクロ波を照射する工程を含む。
本発明による遊離標識方法は、(修飾された)糖タンパク質におけるセリン残基及びスレオニン残基の酸素原子を介して結合した修飾基を、タンパク質から遊離して(以下、この反応を「遊離反応」という)、標識剤により標識する(以下、この反応を「標識反応」という)ものである。
前述の“試料”とは、後述する糖タンパク質を含む試料であれば特に制限されず、化学合成由来の試料でも、生体由来の試料でもよい。生体由来の試料の場合には、例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、チンパンジー等、又はこれらの免疫不全動物等の動物由来の試料が挙げられる。また、試料は植物由来のものであってもよい。
前述の“修飾された糖タンパク質”とは、生体内で翻訳後修飾を受けた糖タンパク質であってもよく、合成由来の糖タンパク質であってもよいが、好ましくは翻訳後修飾を受けた糖タンパク質である。より具体的には、セリン残基及びスレオニン残基の酸素原子を介して、修飾基としてリン酸基、硫酸基、グリカン等、又はこれらの1若しくは2以上の基が結合した糖タンパク質を“修飾された糖タンパク質”と称する。なお、翻訳後修飾を受けた糖タンパク質の場合、本明細書において、後述する翻訳後修飾基として酸素原子を介して結合したリン酸基を“O−リン酸基”といい、翻訳後修飾基として酸素原子を介して結合した硫酸基を“O−硫酸基”といい、翻訳後修飾基として酸素原子を介して結合したグリカンを“O−結合型糖鎖”という。また、本明細書において、糖タンパク質には、糖ペプチドを含むものとして理解される。言い換えると、本明細書において、糖タンパク質とは、糖タンパク質及び糖ペプチドのうち少なくとも1つであると理解される。
前述の“O−結合型糖鎖”において、セリン残基及びスレオニン残基の酸素原子と結合する糖としては、N−アセチルガクトサミン、マンノース、N−アセチルグルコサミン、キシロース、グルコースのいずれかから始まるものや、N−アセチルガクトサミン、マンノース、フコース、キシロース、グルコースのいずれかから始まり、さらに糖が結合して伸長したものでもよい。
前述の“修飾基を遊離し、標識する”とは、糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つから、修飾基(リン酸基、硫酸基、糖鎖等、又はこれらの1若しくは2以上の基)をβ脱離反応により遊離し、β脱離反応で遊離する際に生成した二重結合に対してマイケル付加反応により、後述する標識剤によって標識することを意味する。なお、翻訳後修飾を受けた糖タンパク質を用いる場合、修飾基は、翻訳後修飾基(O−リン酸基、O−硫酸基、O−結合型糖鎖等、又はこれらの1若しくは2以上の基)となる。修飾基は、糖タンパク質からの遊離と同時に、又は遊離に引き続いて、標識剤により標識される。
本発明の遊離標識方法においては、修飾基が遊離された糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つが標識されてもよい。該標識は、修飾基への標識と同様に、標識剤によりなされる。
以下に、翻訳後修飾基としてO−結合型糖鎖が糖タンパク質から遊離され標識された反応と、糖タンパク質側が修飾された反応と、が、両方生じた場合の一例を示す(標識剤として、後述するピラゾロン誘導体(3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)を用いている)。
前述の“標識剤”は、ピラゾロン誘導体、イソキサゾロン誘導体、ヒダントイン誘導体、ローダニン誘導体、及びマレイミド誘導体のうち少なくとも1つである。該標識剤は、これらのうち1種であってもよく、又は2種若しくは3種以上であってもよい。標識剤に用いられるピラゾロン誘導体としては、ピラゾロン基を有する化合物であれば適宜選択され得、例えば、3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)、1,3−ジメチル−ピラゾロン(DP)、3−メチル−1−p−トリル−5−ピラゾロン(MTP)、3−メチル−1−(キノリン−8−イル)−1H−ピラゾール−5(4H)−オン等が挙げられる。また、標識剤に用いられるイソキサゾロン誘導体としては、例えば、3(2H)−イソキサゾロン、5−メチル−3(2H)−イソキサゾロン、2,5−ジメチル−3(2H)−イソキサゾロン等が挙げられる。また、標識剤に用いられるヒダントイン誘導体としては、例えば、2,4−イミダゾリジンジオン、3−メチル−2,4−イミダゾリジンジオン、3−(2−プロピン−1−イル)−2,4−イミダゾリジンジオン等が挙げられる。また、標識剤に用いられるローダニン誘導体としては、2−チオキソ−4−チアゾリジノン、3−メチル−2−チオキソ−4−チアゾリジノン等が挙げられる。本発明の遊離標識方法においては、ピラゾロン誘導体を好適に用いることができる。
本発明の遊離標識方法においては、標識剤とともにチオール化合物を用いてもよい。このチオール化合物としては、チオール基を有する化合物であれば、特に制限されることなく用いることができ、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、2−アミノエタンチオール、チオコリン、2−(ピリジン−4−イル)エタンチオール等を挙げることができる。例えば、翻訳後修飾基としてO−結合型糖鎖を糖タンパク質から遊離させ標識させる場合に、標識剤とともにチオール化合物を用いると、例えば、O−結合型糖鎖側を標識剤により標識させ、糖タンパク質側をチオール化合物により標識させること等が可能となり、O−結合型糖鎖側の解析に有利に働く場合がある。
本発明による遊離標識方法で用いる、糖タンパク質と標識剤とを含む溶液については、糖タンパク質と標識剤とを溶媒中に溶解させた状態でもよいし、糖タンパク質と標識剤とを溶媒中に分散させた状態でもよい。本発明による遊離標識方法は、効率良く反応を進める観点から、好ましくは、糖タンパク質と標識剤とを溶媒中に溶解させた状態で行われる。溶媒としては、例えば、水、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロパノール等を使用することができる。本発明の効果を奏する溶媒であれば、適宜選択され得る。
前述の溶液のpHは、pH6.0〜pH10.0の範囲である。このpHの範囲は、従来の方法(Carlsonの方法を含む)によるβ脱離反応のpH条件(pH11.5〜12.5)より穏和(pHが低い)であり、pH6.0〜pH10.0の範囲では、糖タンパク質の分解(ペプチド分解)を低減しつつ、効率良く修飾基を遊離して標識することができる。なお、該溶液のpHは、より好ましくはpH7.5〜pH9.0であり、さらにより好ましくはpH8.0〜pH9.0である。なお、該溶液のpHの調節は、例えば、溶液に水酸化ナトリウム溶液を加えることで行うことができる。
本発明による遊離標識方法は、前述の溶液にマイクロ波を照射する工程を含む。
前述の“マイクロ波を照射する”とは、マイクロ波として波長1mm〜1m、周波数300MHz〜300GHzの電波を溶液に照射することをいう。マイクロ波照射は、公知のマイクロ波発生装置を用いて行うことができ、例えば、マグネトロン発振により周波数1000〜5000MHz程度のマイクロ波出力が得られるマイクロ波発生装置を用いることができる。マイクロ波発生装置としては、例えば、マグネトロン発振により周波数2455MHz、最大圧力30バールで、最大850Wのマイクロ波出力が得られるMonowave300(アントン・パール社)を用いることができる。
前述の“マイクロ波を照射する工程”における溶液の温度は、4℃〜135℃が好ましい。4℃〜135℃の範囲では、効率良く修飾基を遊離して標識することができ、かつ、糖タンパク質の分解(ペプチド分解)を低減させることができる。なお、溶液の温度は、より好ましくは35℃〜135℃であり、さらにより好ましくは85℃〜130℃である。
本発明による遊離標識方法によって、糖タンパク質からどのような修飾基が、どれくらいの量で遊離されたかについては、遊離されて標識剤により標識された修飾基(以後、本明細書において「標識化修飾基」という)を後述する分析方法により分析することで、確認することができる。
本発明の遊離標識方法によれば、β脱離反応の反応速度を向上させるとともに、修飾基の修飾剤による修飾の反応速度をも向上させることができるため、効率良くかつ短時間に、修飾基を遊離し、標識することができる。それに伴い、標識化修飾基の回収量を向上させることができる。
また、本発明の遊離標識方法では、従来のβ脱離反応におけるpH条件(pH11.5〜pH12.5)のような強アルカリ性ではなく、より弱アルカリ性の条件下で反応させるため、糖タンパク質の分解(ペプチド分解)を低減させることができる。
次に、本発明による、修飾基を遊離し、標識するためのキットについて、説明する。
上述の本発明のキットは、前述の標識剤を含む溶液を備え、遊離標識方法を行うためのものである。標識剤、pH条件(溶液のpHをpH6.0〜pH10.0に調節する)、マイクロ波照射、温度条件等については、すべて前述と同様である。本キットは、前述の標識剤を含む溶液が入っている容器を備える。該容器に糖タンパク質を含む試料(例えば、細胞破砕液を精製したサンプル)を入れて溶液と混合させて、混合溶液のpHを例えば水酸化ナトリウム溶液を加えてpH6.0〜pH10.0に調節し、該容器に直接マイクロ波を照射してもよいし、該容器から容器中の溶液を別の容器に移し替えて糖タンパク質との混合液を作製し(pH6.0〜pH10.0に調節する)、マイクロ波を照射してもよい。したがって、該容器の素材としては、前者の場合にはマイクロ波を照射しても容器内の溶液に悪影響を及ぼさない素材(例えば、ポリプロピレン等のプラスチック、ガラス)を用い、後者の場合には安定的に溶液を保存し得る素材であれば特に制限されずに用いることができる。上述の本発明のキットによれば、効率良くかつ短時間に、修飾基を遊離し、標識することができる。
次に、本発明による修飾基の解析方法について、詳述する。
本発明による修飾基の解析方法は、前述の遊離標識方法により試料中の修飾された糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つから遊離され、標識された修飾基(標識化修飾基)を分析することにより行われる。
標識化修飾基の分析は、液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーを用いて行うことができる。また、目的分子の種類に応じて適宜選択することができるが、例えば、質量分析(MS)(エレクトロスプレーイオン化(ESI)等)、核磁気共鳴(NMR)、紫外線吸光光度計(UV)、エバポレイティブ光散乱検出器(ELS)、電気化学検出器等を用いることができる。いずれかの方法で分析してもよく、2つ以上を組み合わせて分析してもよい。本発明の効果を奏する分析方法であれば、適宜選択され得る。なお、生体試料中の糖タンパク質を用いて分析する場合、公知の方法により糖タンパク質の抽出及び精製を行った後に、分析に供することができる。
前述の遊離標識方法では、効率良くかつ短時間に標識化修飾基を得ることができるため、該遊離標識方法により得られた標識化修飾基を分析することによる本発明の解析方法では、より迅速に試料中の修飾基の定量的、定性的分析を行うことが可能となり、また、より多くのサンプルについて効率良く分析することができる。
また、前述の遊離標識方法では、標識化修飾基の回収量を向上させることができるため、該遊離標識方法により得られた標識化修飾基を分析することによる本発明の解析方法では、より高感度に修飾基の分析を行うことができる。例えば、修飾基を高感度に構造解析、定量分析することができる。
試料中のO−結合型糖鎖を解析する場合、本発明の解析方法によれば、細胞や組織中に含まれるO−結合型糖鎖を高感度に分析することができるため、例えば、従来困難であった細胞破砕液中の網羅的なO−結合型糖鎖の解析が可能となる。また、例えば、細胞中のO−グライコームなどの微量にしか存在しない生体由来糖鎖の解析が可能となる。
また、O−結合型糖鎖は、近年、iPS細胞をはじめとする幹細胞のマーカーとして用い得ることがわかってきている。したがって、本発明の解析方法によれば、例えば、再生医療の現場にて、移植に用いるiPS細胞由来の組織において、目的の細胞に分化しているかのチェックや、iPS細胞が残っていないかのチェックを効率良くかつ短時間に行うことができる。このように、本発明の解析方法によれば、再生医療に用いる試料をより多くかつ迅速に解析でき、再生医療の治療ストラテジーの決定に大いに役立てることができる。
次に、本発明による修飾基を解析するためのキットについて、説明する。
本発明による修飾基を解析するためのキットは、前述の遊離標識方法のためのキットを備える。該キットにより、前述の修飾基の解析方法と同様に、効率良くかつ短時間に、修飾基を解析することができる。
次に、本発明による遊離糖鎖の標識方法について、詳述する。
本発明による遊離糖鎖の標識方法は、遊離糖鎖と、標識剤と、を含むpH6.0〜pH10.0の溶液にマイクロ波を照射する工程を含む。
前述の“遊離糖鎖”は、N−アセチルガクトサミン、マンノース、N−アセチルグルコサミン、キシロース、グルコースのいずれかから始まるものや、N−アセチルガクトサミン、マンノース、フコース、キシロース、グルコースのいずれかから始まり、さらに糖が結合して伸長したものでもよい。なお、標識剤、pH条件、温度条件、マイクロ波照射の詳細については、前述と同様である。
以下に、標識剤としてピラゾロン誘導体(3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP))を用いた場合の遊離糖鎖の標識反応の一例を示す。
本発明の遊離糖鎖の標識方法によれば、修飾基の修飾剤による修飾の反応速度を向上させることができるため、効率良くかつ短時間に、遊離糖鎖を標識させることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
遊離糖鎖の標識剤(ピラゾロン誘導体)による反応に対して、反応溶液のpHが与える影響について検討した。
マルトテトラオース(東京化成工業、1mmol/mL、10μL)に、各々20μLの0.3M、0.4M、0.5M及び0.6M水酸化ナトリウムと、20μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液と、を加え(反応溶媒:水)、ヒートブロックにより加熱温度85℃に維持し、60分反応させて、マルトテトラオースをPMPで標識化した。反応溶液のpHについては、0.3M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液ではpH8.0、0.4M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液ではpH8.3、0.5M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液ではpH11.4、0.6M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液ではpH11.8(従来の方法(Carlsonの方法を含む)によるβ脱離反応のpH条件とほぼ同じ)であった。
反応終了後、キトテトラオーズ(生化学工業)により調整した10nmolのbisPMP標識キトテトラオースを添加し、その後、2,5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(UltraFlex II、ブルカー社)により解析を行った。
マルトテトラオースのPMPによる標識の反応式を下記に示す。
図1に、PMPによって標識された標識化マルトテトラオースのMALDI−TOFスペクトルを示す。図1(a)は0.3M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH8.0)、図1(b)は0.4M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH8.3)、図1(c)は0.5M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH11.4)、図1(d)は0.6M水酸化ナトリウムを加えた反応溶液(pH11.8)での結果である。0.6M水酸化ナトリウムを加えた場合(pH11.8(図1(d)))では、Carlson法をはじめとする従来のβ脱離反応の方法と同等のpH条件であるが、標識化マルトテトラオースのシグナルは出現しなかった。一方、0.3M、0.4M及び0.5Mの水酸化ナトリウムを加えた場合(pH8.0(図1(a))、pH8.3(図1(b))、及びpH11.4(図1(c)))では、標識化マルトテトラオースのシグナルが出現し、0.4M水酸化ナトリウムを加えた場合(pH8.3(図1(b)))で最も高い標識化マルトテトラオースのシグナルが出現した。
以上より、マルトテトラオースのピラゾロン誘導体による反応においては、Carlson法をはじめとする従来のβ脱離反応の方法での反応条件とは異なり、反応溶液のpH条件がpH8.3の場合に、最も反応効率が高いことが示された。
(実施例2)
遊離糖鎖のピラゾロン誘導体による標識反応に対して、マイクロ波照射による加熱の有無が与える影響について検討した。
マルトヘキサオース(東京化成工業、1mmol/mL、100μL)に、200μLの0.4M NaOH、及び200μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液を加え(反応溶媒:水)、実施例ではマイクロ波発生装置(Monowave300、アントン・パール社)により加熱温度85℃に維持し、比較例ではヒートブロックにより加熱温度85℃に維持し、10分、20分、30分又は60分静置した。各々の反応溶液のpHは8.3であった。
反応終了後、500pmolのbisPMP標識キトテトラオース(実施例1と同様)を添加した後、2,5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(実施例1と同様)により解析を行った。
図2に、PMPによって標識された標識化マルトヘキサオースのMALDI−TOFスペクトルを示す。図2(a)はヒートブロックにより加熱した比較例、図2(b)はマイクロ波発生装置により加熱した実施例によるスペクトルである。いずれにおいても、標識化マルトヘキサオースのシグナルが出現していた。
図3に、標識化されたマルトヘキサオースの回収量を、外部標準により比較した結果を示す。比較例(ヒートブロックにより85℃に加熱)では、マルトヘキサオースの標識化の立ち上がりが遅く、反応開始60分後でも緩やかな回収量の増加がみられた。一方、実施例(マイクロ波照射により85℃に加熱)では、反応開始10分後にはマルトヘキサオースの標識化がほぼ完了しており、反応開始60分後の反応効率は比較例(マイクロ波照射無し)と比較して20%高かった。
以上より、マイクロ波照射により加熱することで、マルトヘキサオースのピラゾロン誘導体による標識の反応効率が向上し、標識化されたマルトヘキサオースの回収量が増加することが示された。
(実施例3)
O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質のピラゾロン誘導体による遊離標識反応に対して、マイクロ波照射による加熱の有無が与える影響について検討した。
O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質であるブタ胃ムチン(シグマアルドリッチ、1mg/mL、100μL)に、200μLの0.4M 水酸化ナトリウム、及び200μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液を加え(反応溶媒:水)、実施例ではマイクロ波発生装置(実施例2と同様)により加熱温度85℃に維持し、比較例ではヒートブロックにより加熱温度85℃に維持し、2時間静置した。各々の反応溶液のpHは8.3であった。
反応終了後、100pmolのbisPMP標識キトテトラオース(実施例1と同様)を添加した後、1M塩酸で中和し、反応液をイアトロビーズカラム(イアトロン社)により精製し、2,5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(実施例1と同様)により解析を行った。
ムチンのPMPによる遊離標識の反応式を下記に示す。
図4に、検出された糖鎖のMALDIスペクトルを示す。図4(a)はヒートブロックにより加熱した比較例、図4(b)はマイクロ波発生装置により加熱した実施例のスペクトルである。いずれにおいてもタンパク質の分解物のピークは検出されておらず、PMPによって標識された糖鎖のシグナルが出現していた。
図5に、検出された糖鎖のヒストグラムを示す。外部標準により回収量を比較した結果、実施例(マイクロ波照射により85℃に加熱)では、比較例(ヒートブロックにより85℃に加熱)に比して、標識化されたO−結合型糖鎖の総量が約4倍に増加していた。
以上より、マイクロ波照射を照射することにより、O−結合型糖鎖のβ脱離反応及びピラゾロン誘導体による遊離糖鎖の標識反応の反応効率が向上し、標識化されたO−結合型糖鎖を高い効率で回収できることが示された。
(実施例4)
O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質のピラゾロン誘導体による遊離標識反応に対して、反応溶媒の種類の違いが与える影響について検討した。
O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質であるブタ胃ムチン(実施例3と同様)(1mg/mL、100μL)に、反応溶媒としてDMSO又はメタノールを用いて、200μLの0.4M NaOH、及び200μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)を加え、マイクロ波発生装置(実施例2と同様)により加熱温度120℃で2時間静置した。各々の反応溶液のpHは8.3であった。
反応終了後、100pmolのbisPMP標識キトテトラオース(実施例1と同様)を添加した後、1M塩酸で中和し、クロロホルムで洗浄した後、2,5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(実施例1と同様)により解析を行った。
図6に、検出された糖鎖のMALDIスペクトルを示す。反応溶媒がDMSO(図6(a))及びメタノール(図6(b))のいずれにおいても、同程度の糖鎖の回収が確認された。
以上より、ムチンのピラゾロン誘導体による遊離標識反応の反応溶媒として、DMSO及びメタノールが使用可能であることが示された。
(実施例5)
O−GalNAc型糖鎖を有する糖ペプチドのピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、ペプチド分解がみられるか検討した。
O−GalNAc型糖鎖を有する合成糖ペプチド(20μg/100μL)に、200μLの0.4M NaOH、200μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液を加え(反応溶媒:水)、マイクロ波発生装置(実施例2と同様)により加熱温度120℃に維持し、2時間静置した。反応溶液のpHは8.3であった。
反応終了後、1M塩酸で中和し、反応液をクロロホルムで洗浄し、2,5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(実施例1と同様)により解析を行った。
図7に、O−GalNAc型糖鎖を有する糖ペプチドの遊離標識反応後のMALDIスペクトルを示す。PMPによって標識された糖鎖及びペプチドのシグナルが出現し、ペプチドの分解したピークは検出されなかった。
以上より、O−GalNAc型糖鎖を有する糖ペプチドのピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、ペプチドの分解はほとんど検出されず、反応が2時間で完了することが示された。これは、Carlson法をはじめとする従来のβ脱離反応の方法とは異なるpH条件下(水素イオン濃度で>10)で遊離標識反応を行うことで、ペプチドの分解が抑制され、それに伴う反応性の低下がマイクロ波照射にて補償されたことによると考えられる。
(実施例6)
O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質のピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、マイクロ波照射による加熱温度の違いが反応効率に与える影響について検討した。
O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質であるブタ胃ムチン(実施例3と同様)(1mg/mL、100μL)に、200μLの0.45M NaOH、及び200μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液を加え(反応溶媒:水)、マイクロ波発生装置(実施例2と同様)により加熱温度85℃、100℃、110℃、120℃、130℃及び140℃にて、2時間静置した。反応溶液のpHは8.3であった。
反応終了後、100pmolのbisPMP標識キトテトラオース(実施例1と同様)を添加した後、1M塩酸で中和し、反応液をイアトロビーズカラム(実施例3と同様)により精製し、2,5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(実施例1と同様)により解析を行った。
図8に、糖タンパク質糖鎖のMALDIスペクトルを示す。図8(a)は加熱温度85℃、図8(b)は加熱温度100℃、図8(c)は加熱温度110℃、図8(d)は加熱温度120℃、図8(e)は加熱温度130℃、図8(f)は加熱温度140℃である。加熱温度120℃では、PMPよって標識された糖鎖の回収量が最も多かった(図8(d))。一方で、加熱温度140℃では、タンパク質の分解物と思われるピークが検出された(図8(f))。
図9に、検出された糖鎖のヒストグラムを示す(外部標準により回収量を比較した)。マイクロ波照射による加熱温度120℃において、ピラゾロン誘導体によって標識されたO−結合型糖鎖の回収量が最も多かった。
以上より、ムチンのピラゾロン誘導体による遊離標識反応においては、マイクロ波照射による加熱温度120℃で最も反応効率が高いことが示された。
(実施例7)
糖タンパク質であるブタ胃ムチンのピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、遊離標識された糖鎖総量の経時変化を評価した。
O−結合型糖鎖を有する糖タンパク質であるブタ胃ムチン(実施例3と同様)(1mg/mL、100μL)に、200μLの0.4M NaOH、及び200μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液を加え(反応溶媒:水)、マイクロ波発生装置(実施例2と同様)により加熱温度120℃にて、0.5時間、1時間、2時間、及び4時間静置した。反応溶液のpHは8.3であった。
比較例においては、前述同様のブタ胃ムチン(10mg/mL、10μL)に、20μLの0.4M NaOH、及び20μLの0.5M PMPのメタノール溶液を加え(反応溶媒:水)、サーマルサイクラーにより加熱温度85℃にて、2時間、4時間、8時間、及び16時間静置した。反応溶液のpHは8.3であった。
反応終了後、100pmolのbisPMP標識キトテトラオース(実施例1と同様)を添加した後、1M塩酸で中和し、反応液をイアトロビーズカラム(実施例3と同様)により精製し、2,5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(実施例1と同様)により解析を行った。
図10に、ブタ胃ムチンより遊離され、PMPにより標識された糖鎖総量の経時変化を示す(実施例(マイクロ波照射により120℃に加熱)及び比較例(サーマルサイクラーにより85℃に加熱))。比較例(サーマルサイクラーにより85℃に加熱)では、立ち上がりが遅く、反応開始16時間後においても回収量は1000pmolに満たなかった。一方で、実施例(マイクロ波照射により120℃に加熱)では、反応開始2時間後で回収量が最大となり、比較例に比して、約7倍の回収量が得られた。
以上より、ムチンのピラゾロン誘導体による遊離標識反応において、マイクロ波照射による加熱を行うことにより、遊離標識された糖鎖が効率良くかつ短時間に回収されることが示された。
(実施例8)
細胞ペレットを用いたピラゾロン誘導体による遊離標識反応により、O−結合型糖鎖を検出できるか検討した。
ヒトiPS細胞(HiPS−RIKEN−1A、理化学研究所)の細胞ペレット(1×10個)を、2%ドデシル硫酸ナトリウムを含むトリス酢酸緩衝液中(100μL)で、超音波処理(5秒照射+10秒インターバルを4セット)により溶解した。可溶化した細胞破砕液に、2μLの0.5Mトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(終濃度約100mM)及び200mMのヨードアセトアミド(終濃度約20mM)を加え、タンパク質のジスルフィド結合を還元アルキル化した(室温、30分)。反応液に472μL(4倍量)の氷冷エタノールを加えてエタノール沈殿(−30℃、2時間)を行い、遠心分離(20000×g、10分、4℃)により、沈殿(タンパク質画分)と上清とに分けた。沈殿の方をO−結合型糖鎖解析に供した。沈殿に超純水を加えて溶解し、Amicon(ミリポア社)を用いて、分子量3000以上の糖タンパク質濃縮画分とした。
回収した糖タンパク質濃縮画分100μLに、200μLの0.4M水酸化ナトリウム及び200μLの0.5M 3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液を加え(反応溶媒:水)、マイクロ波発生装置(実施例2と同様)により加熱温度120℃で2時間静置した。反応溶液のpHは8.3であった。
反応終了後100pmolのbisPMP標識キトテトラオース(実施例1と同様)を添加した後、1M HClにより中和し、クロロホルムを加え洗浄することで過剰試薬を除去した後、グラファイトカーボン及びイアトロビーズ(実施例3と同様)により糖鎖部分を精製した。精製したサンプルを2、5−ジヒロド安息香酸(10mg/mL)と混合し、MALDI−TOF(/TOF)(実施例1と同様)により解析を行った。
図11に、検出されたO−結合型糖鎖のマススペクトルを示す。細胞ペレットから、各種のO−結合型糖鎖が高感度に検出された。
以上より、ピラゾロン誘導体による遊離標識反応を利用することで、細胞ペレットからO−結合型糖鎖を高感度に解析できることが示された。
なお、本発明は、本発明の広義の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
本発明は、2013年5月31日に出願された日本国特許出願2013−115782号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2013−115782号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
本発明によれば、効率良くかつ短時間に、試料中の修飾基の定量的、定性的分析を行うことが可能であり、修飾基の高感度な構造解析や定量分析も可能である。このように、本発明によりO−結合型糖鎖をはじめとする修飾基の網羅的な解析が可能となり、生物学や医学への貢献が期待される。

Claims (9)

  1. 修飾された糖タンパク質と、ピラゾロン誘導体、イソキサゾロン誘導体、ヒダントイン誘導体、ローダニン誘導体、及びマレイミド誘導体のうち少なくとも1つである標識剤と、を含むpH6.0〜pH10.0の溶液に100〜130℃の温度でマイクロ波を照射する工程を含む、
    試料中の修飾された糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つから修飾基を遊離し、標識するための方法。
  2. 前記溶液のpHは、pH7.5〜pH9.0である、
    ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 修飾基が遊離されたセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つが標識される、
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記標識剤は、ピラゾロン誘導体である、
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 標識剤とともにチオール化合物を用いる、
    ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記修飾基は、翻訳後修飾基である、
    ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記翻訳後修飾基は、O−結合型糖鎖である、
    ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
  8. 請求項1乃至7のいずれか1項の方法により試料中の修飾された糖タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のうち少なくとも1つから遊離され、標識された修飾基を分析する、
    ことを特徴とする修飾基の解析方法。
  9. 遊離糖鎖と、ピラゾロン誘導体、イソキサゾロン誘導体、ヒダントイン誘導体、ローダニン誘導体、及びマレイミド誘導体のうち少なくとも1つである標識剤と、を含むpH6.0〜pH10.0の溶液に100〜130℃の温度でマイクロ波を照射する工程を含む、
    遊離糖鎖の標識方法。
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