以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(1.システム構成)
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るシステムの構成について説明する。図1は、本実施形態に係るシステムの構成例を示す図である。図1を参照すると、本実施形態に係るシステム1は、連続鋳造機の鋳型2に配置される湯面レベル計3と、状態推定装置4と、表示/印刷装置5と、連続鋳造制御装置6と、を備える。
湯面レベル計3は、例えば渦流式のレベル計であり、鋳型2の所定の位置における湯面高さを測定する。なお、後述するように、本実施形態では複数の湯面レベル計3が設置される。
状態推定装置4は、湯面レベル計3の測定値に基づいて、鋳型2内の湯面高さ分布を推定する。具体的には、状態推定装置4は、湯面高さ分布を推定する際に、湯面の全体上下動成分と、それ以外の成分(すなわち、湯面形状変動に対応する成分)とを分離して推定することができる。また、状態推定装置4は、湯面高さ分布を、連続鋳造中にリアルタイムで推定することができる。湯面高さ分布の推定結果は、表示/印刷装置5又は連続鋳造制御装置6に送信される。
表示/印刷装置5は、状態推定装置4による湯面高さ分布の推定結果を、例えばディスプレイへの表示や紙媒体への印刷によってリアルタイムに出力する。例えば、表示/印刷装置5は、推定された湯面形状をグラフとしてディスプレイ等に表示する。この場合、表示/印刷装置5は、図示されているように、湯面形状を、湯面レベル計3による実測値と、状態推定装置4による推定値とを重ね合わせて表現してもよい。
ここで、従来知見により、連続鋳造においては、湯面高さの時間変動が特に大きい位置では鋳片欠陥が多く発生することが知られている。従って、上記のように推定された湯面形状が表示/印刷装置5によってリアルタイムで出力されることにより、湯面形状変動を把握することができ、当該湯面形状変動に基づいて、鋳造の完了前に鋳片欠陥の鋳片幅方向での分布を把握することが可能になる。これによって、鋳片品質管理の迅速化を図ることができる。
連続鋳造制御装置6は、状態推定装置4による推定結果に基づいて、鋳型内湯面高さを目標値に保つような、湯面レベル制御を行う。具体的には、湯面全体の上下動は鋳型内溶鋼収支差により発生するので、連続鋳造制御装置6は、状態推定装置4による湯面の全体上下動の推定結果に基づいて、湯面の全体上下動を抑制するように、鋳型2に溶鋼を注入する浸漬ノズル8の開閉制御や、鋳型2の下方から鋳片を引き抜くピンチロールの回転速度制御を実行する。なお、連続鋳造制御装置6による湯面レベル制御は、連続鋳造中にリアルタイムで行われてよい。
図2は、図1に示すシステム1における湯面レベル計3の配置例について説明するための図である。図2には、鋳型2の幅方向断面が示されている。本実施形態では、鋳型2の幅方向両端部、つまり鋳型2の断面における両方の短辺に、2基の湯面レベル計3a、3bが設置され得る。ここで、湯面レベル計3の設置位置は、検出対象になる波長成分の腹に近い位置であることが望ましい。後述するように、鋳型2の幅方向両端部は、各波長成分の腹になる位置であるため、湯面レベル計3の設置位置として好適である。なお、波長成分の意味については後述する。
ただし、本実施形態における湯面レベル計3の設置位置は、かかる例に限定されない。例えば、通常、鋳型2には、湯面レベル制御用に湯面レベル計が1基設置されている。操業上のメンテナンス性及び維持コストの観点から、本実施形態で用いるために増設する湯面レベル計の数は、できるだけ少ないことが望ましい。それゆえ、既に制御用の湯面レベル計が用いられている場合には、当該制御用湯面レベル計を本実施形態で用いる湯面レベル計3のうちの1基とすることが望ましい。
制御用に設置される湯面レベル計は、通常、浸漬ノズルを避けて、鋳型中央から離れた位置に取り付けられる。例えば、制御用の湯面レベル計は、鋳型幅の1/4の位置に取り付けられている。かかる制御用の湯面レベル計に加えて第2の湯面レベル計を設置する場合、例えば、全ての波長成分について腹の位置である鋳型2の幅方向の一方の端部に当該第2の湯面レベル計が取り付けられることが望ましい。
なお、上記のような制御用の湯面レベル計が設置されていない場合や、設置されていてもこれを利用しない場合には、鋳型2の幅方向両端部に2基の湯面レベル計を新たに設置してもよい。
なお、推定の精度を更に上げるために、3基以上の湯面レベル計3が設置されてもよい。第3の湯面レベル計3についても、検出対象の波長成分の腹に近い位置に設置されることが望ましい。上記の例のように、鋳型幅の1/4の位置などに取り付けられる制御用の湯面レベル計を利用し、新たな湯面レベル計を鋳型2の幅方向の一方の端部に設置した場合、第3の湯面レベル計は、第2の湯面レベル計とは反対側の鋳型2の幅方向端部に取り付けられることが望ましい。また、既に第1及び第2の湯面レベル計が鋳型2の幅方向両端部に設置されている場合には、鋳型2の幅方向両端部以外で全ての波長成分の腹になる位置はないため、検出対象の波長成分を特定し、該波長成分の腹になる位置に第3の湯面レベル計3を設置すればよい。例えば、一般に、波長の長い成分ほどよく観測されるため、鋳型2の幅Wに対して、2W、W、2W/3など、波長のより長い成分の腹に近い位置に、第3の湯面レベル計3を設置してもよい。また、この場合において、第1及び第2の湯面レベル計3についても何らかの理由で鋳型2の幅方向両端部に設置することが困難である場合には、それ以外で検出対象の波長成分の腹に近い位置に第1及び第2の湯面レベル計3が設置されてもよい。
(2.湯面高さ分布の推定)
続いて、上記のシステム1の状態推定装置4によって実行される湯面高さ分布の推定処理について、更に説明する。
(2−1.湯面高さ分布のモデル化)
引き続き図2を参照して、湯面形状を構成する波長成分について説明する。図2には、鋳型2内の湯面形状を構成する、1次から3次までの波長成分S1〜S3の波形が示されている(説明のため、各波長成分の振幅は均等になっている)。1次波長成分S1の波長λ1は、λ1=2Wであり、2次波長成分S2の波長λ2は、λ2=Wであり、3次波長成分S3の波長λ3は、λ3=2W/3である(Wは鋳型幅)。
ここで、鋳型2の高さは幅に比べて十分に大きいため、湯面形状のモデル化にあたっては深水波近似を利用することができる。また、鋳型2の幅は厚みに比べて十分に大きいため、モデル化にあたっては湯面高さの厚み方向での変動を考慮せず、幅方向での変動のみ考慮することができる。
湯面の鋳型両短辺の境界では溶鋼の水平方向速度=0が常に成り立つため、任意の時刻t及び鋳型2内の幅方向の任意の位置xにおける湯面高さy(x,t)を、波長λn=2W/n(鋳型幅W、n=1,2,・・・)の正弦波形状を基底関数fn(x)とする線形モデルで表すことができる。この結果、任意の時刻における湯面形状は、鋳型2の幅方向の両端を腹とする基底関数fn(x)の重ね合わせによって表現される。なお、本実施形態では、当該基底関数fn(x)のことを、n次の波長成分とも呼ぶ。上述した図2に示す1次から3次までの波長成分S1〜S3の波形は、1次から3次までの基底関数f1(x)〜f3(x)に対応している。
具体的には、n次の波長成分、すなわち基底関数fn(x)は、下記のように表される。
n:偶数 fn(x)=cos(2πnx/2W)
n:奇数 fn(x)=sin(2πnx/2W)
上記のように波長成分を定義すると、N次までの波長成分を考慮した(n=1,2,…,N)任意の時刻t及び鋳型2内の幅方向の任意の位置xにおける湯面高さy(x,t)は、下記数式(1)のような線型方程式によって表現できる。
ここで、a0(t)は湯面高さに含まれる全体上下動成分を示す。また、fn(x)は上記基底関数であって湯面高さに含まれるn次波長成分の正弦/余弦関数部分を示し、an(t)はn次波長成分の係数を示す。
各波長成分の波長は鋳型2の幅Wから求められるため、fn(x)は任意の時刻について算出可能である。従って、n次波長成分の係数a1(t),a2(t),・・・,aN(t)及び全体上下動成分a0(t)が求められれば、任意の時刻における湯面高さy(x,t)を推定することができる。また、その際には、求められたn次波長成分の係数a1(t),a2(t),・・・,aN(t)及び全体上下動成分a0(t)から、任意の時刻における湯面形状及び湯面の全体上下動も同時に推定され得る。
ここで、溶鋼を渦なし、非粘性、非圧縮の完全流体と仮定すると、表面波の基礎方程式より、定在波として発生するn次波長成分の係数an(t)は、固有角周波数ωnで単振動するn次波長成分変動の重ね合わせとして表現できる。この場合、n次波長成分の係数an(t)は、下記数式(2)を満たす。
湯面変動が全体上下動成分及び定在波成分だけを含むと仮定した場合、上記数式(2)によってn次波長成分の係数an(t)を算出できれば、湯面変動を説明することができる。しかしながら、湯面変動は、全体上下動成分及び定在波成分だけではなく、例えば鋳型2内での溶鋼流動の影響による湯面の盛り上がりのような、定在波以外の外乱成分を含む。そこで、本実施形態では、各波長成分の係数an(t)が、鋳型内溶鋼流動等による外乱に駆動されて時間変化するものとし、その外乱変動を、確率的なノイズ成分として単振動モデルに取り込む。具体的には、各波長成分の係数an(t)が従う時間変動は、下記数式(3)のように表現できる。
ここで、dn(t)は、n次波長成分を駆動する外乱である。外乱dn(t)は、状態空間モデルにおけるシステムノイズに対応するものである。
各n次波長成分の強制振動モデルである上記数式(3)を、厳密解(0次ホールド)により離散化すると(Δt:サンプリング時間)、下記数式(4)が得られる。下記数式(4)は、状態空間モデルにおけるシステム方程式に対応するものである。
一方、鋳型2の幅方向位置xi(測定点)に設置されるi番目の湯面レベル計3(i=1,2,・・・,L)によってサンプリング時刻kに測定された湯面高さy(xi,k)を上記数式(1)を用いて記述すると、下記数式(5)のようになる。ここで、wi(k)は、それぞれの湯面レベル計3における時変の測定誤差であり、状態空間モデルにおける観測ノイズに対応するものである。下記数式(5)は、状態空間モデルにおける観測方程式に対応するものである。
上記数式(4)、(5)から、各波長成分の係数an(k)の状態空間モデルは、下記数式(6)、(7)のように表現できる。
(2−2.カルマンフィルタによる湯面高さ分布の推定)
本実施形態では、上記のようにして生成された状態空間モデルにおいて、モデル内部の状態変数(すなわち、上記x(k))を逐次的に推定する手法としてカルマンフィルタを適用する。カルマンフィルタは、対象プロセスのダイナミクスが線型の状態空間モデルに従う場合に、限られた観測点の情報からモデル内部の状態変数を逐次的に推定する手法である。本実施形態における湯面変動の状態空間モデルは線形であるため、カルマンフィルタを適用することができる。
ここで、上記数式(6)、(7)におけるシステムノイズd(k)及び観測ノイズw(k)からなるベクトルを、雑音ベクトルξ(k)とする(すなわち、ξ(k)=(d(t),w(k))。このとき、一般的なカルマンフィルタによる状態推定において、雑音ベクトルξ(k)から推定誤差ベクトルe(k)への信号の流れは、図3に示すようなブロック図によって表現される。図3は、一般的なカルマンフィルタによる状態推定における、雑音ベクトルξ(k)から推定誤差ベクトルe(k)への信号の流れを示すブロック図である。
図3に示すブロック図において、雑音ベクトルξ(k)から推定誤差ベクトルe(k)への離散伝達関数をTeξ(z)とする(すなわち、e(k)=Teξ(z)ξ(k))。このとき、定常カルマンフィルタは、下記数式(8)に示すTeξ(z)のH2ノルムを最小化することが知られている(例えば、「片山徹著、「応用カルマンフィルタ」、朝倉書店、2000年2月」を参照)。すなわち、当該伝達関数Teξ(z)のH2ノルムは、カルマンフィルタの評価関数であると言える。
しかしながら、図3に示すシステムでは、雑音ベクトルξ(k)(すなわち、システムノイズd(k)及び観測ノイズw(k))を、白色雑音とみなしている。これに対して、実際のシステムノイズd(k)及び観測ノイズw(k)は、必ずしも白色雑音ではなく、平坦でないスペクトル分布を有する有色雑音である。図3に示すシステムにおいて、雑音ベクトルξ(k)が白色雑音でなく有色雑音である場合には、カルマンフィルタ推定値にバイアスが生じ、推定精度が悪化する恐れがある。
これを防ぐために、本実施形態では、上記の伝達関数Teξ(z)に周波数重みを持たせる。具体的には、周波数重み関数W(z)を導入し、下記数式(9)に示すTeξ(z)W(z)のH2ノルムを最小化することを考える。
これにより、雑音ベクトルξ(k)が有色雑音である場合であっても、当該雑音ベクトルξ(k)の周波数特性に応じた周波数重み関数W(z)を適宜選択することにより、波長成分係数を推定する際の推定精度の悪化を抑制することが可能になる。例えば、雑音ベクトルξ(k)の低周波成分が比較的強い場合には、周波数重み関数W(z)にローパスフィルタ特性を持たせることにより、波長成分係数の推定における低周波成分の推定精度の悪化を抑制することができる。
ここで、伝達関数Teξ(z)に対して周波数重み関数W(z)を考慮することは、図3に示すブロック図においては、入力である雑音ベクトルξ(k)と出力である推定誤差ベクトルe(k)との間に、周波数重み関数W(z)に対応するブロックを追加することに対応する。このような、周波数重み関数W(z)を考慮したブロック図を、図4に示す。図4は、周波数重み関数W(z)を考慮した、本実施形態に係るカルマンフィルタによる状態推定における、雑音ベクトルη(k)から推定誤差ベクトルe(k)への信号の流れを示すブロック図である。
図4に示すように、周波数重み関数W(z)を考慮することは、有色雑音である雑音ベクトルξ(k)が、白色雑音である雑音ベクトルη(k)が伝達関数W(z)を通過することによって生成されるとみなすことに相当する。つまり、上記数式(9)に示すH2ノルムを最小化することは、上記数式(6)、(7)に示す状態空間モデルを有色雑音のダイナミクスを含むように拡大した系に対して、通常のカルマンフィルタを適用することにほかならない。
従って、本実施形態では、有色雑音のダイナミクスを定式化し、これを用いて上記数式(6)、(7)に示す状態空間モデルを拡大したものを、各波長成分の係数an(k)の状態空間モデルとする。そして、この拡大された状態空間モデル(以下、拡大状態空間モデルと呼ぶ)の状態変数を、カルマンフィルタを用いて推定することにより、全体上下動成分a0(k)及び各波長成分の係数an(k)を推定し、湯面高さ分布を推定する。
(2−3.拡大状態空間モデル)
拡大状態空間モデルの導出について具体的に説明する。まず、有色雑音である雑音ベクトルξ(k)を離散時間の状態空間モデルで表現する。本実施形態では、システムノイズd(k)が有色性を有するものとみなし、d(k)を状態空間モデルで表現する。
なお、ここでは、一例として、周波数重み関数W(z)が1次のローパスフィルタである場合について説明する。この場合、W(z)の状態空間モデルは、下記数式(10)、(11)で表現される。ここで、vn(k)は、白色ガウス雑音である。
上記数式(10)、(11)において、係数An (d)、Bn (d)、Cn (d)、Dn (d)は、周波数重み関数W(z)に応じて決定される。具体的には、上記数式(10)、(11)における伝達関数G(z)は、下記数式(12)のように書ける。
一方、周波数重み関数W(z)は1次のローパスフィルタであるから、W(z)を、1次のローパスフィルタ1/(1+TLs)(時定数TL)が、双一次変換s=(2/T)((1−z−1)/(1+z−1))(サンプリング時間T)を用いて離散化された伝達関数であるとすると、W(z)は、下記数式(13)のように表現できる。
上記数式(12)、(13)から、G(z)=W(z)となるように、すなわち、下記数式(14)を満たすように、係数An (d)、Bn (d)、Cn (d)、Dn (d)を決めればよい。
例えば、係数An (d)、Bn (d)、Cn (d)、Dn (d)は、下記数式(15)〜(18)のように決定される。ただし、下記数式(15)〜(18)に示す値は、係数An (d)、Bn (d)、Cn (d)、Dn (d)の一例であって、上記数式(14)を満たせば、係数An (d)、Bn (d)、Cn (d)、Dn (d)は他の値であってもよい。
上記数式(4)を、上記数式(10)、(11)を用いて拡張すると、各波長成分の係数an(t)のダイナミクスは、下記数式(19)のように表現できる。
結果的に、上記数式(6)、(7)に示す状態空間モデルを、上記数式(10)、(11)を用いて拡張することにより、本実施形態に係る拡大状態空間モデルは、下記数式(20)、(21)のように表現される。
本実施形態では、図1に示す状態推定装置4が、周波数重み関数W(z)を選定し、選定した当該周波数重み関数W(z)を用いて、以上説明した手順に従って、上記数式(20)、(21)で示される拡大状態空間モデルを生成する。そして、状態推定装置4は、当該拡大状態空間モデルに対してカルマンフィルタを適用することにより、全体上下動成分a0(k)及び各波長成分の係数an(k)を推定する。具体的には、状態推定装置4は、サンプリング時刻ごとに、レベル計位置xiにおける湯面高さ推定値yest(xi,k)と、湯面レベル計の測定値yobs(xi,k)の誤差を修正するように、全体上下動成分a0(k)及び各波長成分の時変の係数an(k)(n=1、2、・・・N)を、カルマンフィルタを用いて逐次推定する。そして、状態推定装置4は、推定したa0(k)、an(k)を上記数式(1)に代入することにより、サンプリング時刻ごとの湯面高さ分布を推定することができる。なお、上記数式(20)、(21)で示す拡大状態空間モデルにおけるa0(k)、an(k)の推定は、カルマンフィルタを用いた状態推定方法の手法として一般的に用いられている各種の手法を用いて行われてよい。従って、ここでは、その推定手法についての詳細な説明は省略する。
また、以上の説明では、周波数重み関数W(z)が1次のローパスフィルタである場合について説明したが、本実施形態はかかる例に限定されない。周波数重み関数W(z)としては、例えばバンドパスフィルタや2次のローパスフィルタ等、各種の周波数特性に対応するものが用いられてよい。周波数重み関数W(z)の形態が異なる場合には、上記数式(10)、(11)に示す状態空間モデル、及び上記数式(13)に示す周波数重み関数W(z)の具体的な形が変化するものの、以上説明した処理と同様の処理を行うことにより、拡大状態空間モデルを構築することが可能である。
以上説明したように、本実施形態では、カルマンフィルタによる推定機構に重み周波数関数W(z)を導入することにより、システムノイズが有色雑音である場合に、当該カルマンフィルタによる推定精度を向上させることができる。従って、鋳型2内の湯面高さ分布をより高精度に推定することが可能になる。ここで、本実施形態によれば、湯面高さ分布を推定する際に、湯面の全体上下動成分(すなわち、a0(k))と、各波長成分の変動成分(すなわち、a1(k),・・・,aN(k))とを、分離して推定することができる。すなわち、湯面レベル制御の制御対象である全体上下動成分を高精度に分離して求めることができる。従って、推定された全体上下動成分を用いて湯面レベル制御を行うことにより、当該湯面レベル制御の精度も向上させることが可能になる。
また、上述したように、従来知見により、連続鋳造機においては、鋳型2内の湯面高さの時間変動が特に大きい位置では鋳片欠陥が多く発生することが知られている。本実施形態によれば、湯面形状を高精度に推定することが可能となるため、例えば湯面形状変動とスラブ表皮下欠陥分布とを結び付けることにより、高品質な鋳片製造実現のための適正な操業条件を把握することができる。この際、湯面レベル計3の測定値に基づいてリアルタイムで湯面形状の推定を行うことにより、その推定結果に基づいて鋳片欠陥の鋳片幅方向での分布を、鋳造の完了前に把握することができるため、鋳片品質管理を迅速に行うことが可能になる。
このように、本実施形態によれば、湯面高さ分布を高精度に推定可能であることにより、鋳片品質を大幅に向上させることができ、歩留まりの向上及び製造コストの低減効果を得ることができる。
図5は、状態推定装置4による湯面高さ分布の推定処理のアルゴリズムの構成について説明するための図である。図中、推定プロセス30が、状態推定装置4による湯面高さ分布の推定処理に相当する。図示するように、状態推定装置4は、推定プロセス30の推定処理に従って、湯面レベル計3の設置位置xiにおける湯面高さの推定値yest(xi,k)を計算する。そして、状態推定装置4は、湯面レベル計3による湯面高さの測定値yobs(xi,k)と、当該湯面高さの推定値yest(xi,k)との誤差(出力予測誤差)を計算する。状態推定装置4は、当該出力予測誤差が小さくなるようにカルマンゲインKaugを更新して、次のサンプリング時刻k+1での湯面高さの推定値yest(xi,k+1)を再度計算する。このような逐次推定のステップを繰り返すことによって、湯面高さ分布を高精度に推定することが可能になる。
なお、状態推定装置4は、上記の計算を、湯面レベル計3の設置位置xiごとに実行する。従って、湯面レベル計3の設置位置xiにおける湯面高さの推定値yest(xi,k)は、位置xiごとに算出される。
図中、状態変数推定値xB|Aは、時刻Aにおける、時刻Bでの状態量xaugの予測値を表す。状態推定装置4は、湯面高さの推定値yest(xi,k)を計算する過程で求められるxk|kから、全体上下動成分a0(k)及び各波長成分の係数a1(k)、・・・,aN(k)を抽出する。そして、状態推定装置4は、抽出したa0(k)、a1(k)、・・・,aN(k)を上記数式(1)に代入することにより、湯面高さ分布y(x,k)を求めることができる。
実機プロセスまで含めた状態推定装置4による湯面高さ分布の推定処理のアルゴリズムの概要を、図6に示す。図6は、実機プロセスまで含めた、状態推定装置4による湯面高さ分布の推定処理のアルゴリズムの構成について説明するための図である。
図6において、実機プロセス20は、実際の連続鋳造機の鋳型2内で生じている湯面の状態変動を表したものである。図示するように、実機プロセス20は、上記数式(6)、(7)に示す状態空間モデルで表現することができる。なお、推定プロセス30の構成は、図5に示すものと同様である。
当該アルゴリズムにおいては、状態推定装置4は、推定プロセス30に示す計算処理を実行し、湯面レベル計3の設置位置xiにおける湯面高さの推定値yest(xi,k)を、模擬的に計算によって求める。そして、状態推定装置4は、算出したyest(xi,k)と湯面レベル計3による湯面レベルの測定値yobs(xi,k)との差分である出力予測誤差を小さくするようにカルマンフィルタの逐次ステップを繰り返すことによって、推定プロセス30における処理を実行することにより、湯面高さ分布y(x,k)を高精度に推定することができる。
図7は、状態推定装置4による湯面高さ分布の推定処理の処理手順を示すフロー図である。図7に示すように、本実施形態に係る推定処理では、まず、周波数重み関数W(z)が選定される(Step1)。周波数重み関数W(z)は、例えば、連続鋳造機の鋳型2において実際に生じている湯面変動に含まれる外乱成分の周波数特性に応じて決定され得る。例えば、当該外乱成分において低周波成分が比較的強い場合には、周波数重み関数W(z)としてローパスフィルタを選定すればよい。
なお、外乱成分の周波数特性は、例えば、湯面レベル計3の測定値を周波数解析することによって推測することができる。具体的には、周波数解析の結果、湯面レベル計3の測定値の周波数分布に、波長成分の固有振動数と異なる周期性成分が含まれている場合には、当該周期性成分を、外乱の周波数特性を表すものとみなすことができる。あるいは、過去の実績値から、連続鋳造時の操業条件に応じて外乱成分の周波数特性が予測可能である場合には、その予測結果に応じて周波数重み関数W(z)が選定されてもよい。
ただし、実際には、鋳型2内の湯面変動に含まれる外乱成分には、多様な要因に起因するものが複雑に混ざり合っている。従って、上記のように周波数解析から当該外乱成分の周波数特性を推測したり操業条件から当該外乱成分の周波数特性を予測したりすることが、困難であることがある。よって、周波数重み関数W(z)としては、あらゆる周波数特性を有する外乱に対しても一定の効果を奏するようなものが選定されることが好ましい。本発明者らによる実験の結果、周波数重み関数W(z)として1次のローパスフィルタを用いることによって、あらゆる周波数特性を有する外乱に対しても、比較的高精度な推定を行うことができることが判明した(詳細は下記実施例1、2を参照)。当該実験結果から、外乱成分の周波数特性の推測や予測が困難である場合には、周波数重み関数W(z)としては、1次のローパスフィルタが好適に選定されてよい。ただし、外乱成分の周波数解析の結果が利用できない場合であっても、必ずしも周波数重み関数W(z)として1次のローパスフィルタが用いられなくてもよい。例えば、外乱成分の周波数特性が経験的に2次のローパス特性を有することが既知である場合には、2次のローパスフィルタを用いる等、周波数重み関数W(z)は適宜選択されてよい。
周波数重み関数W(z)が選定されると、次に、選定された周波数重み関数W(z)を用いて、上記数式(20)、(21)に示す拡大状態空間モデルが構築される(Step2)。
次に、構築した拡大状態空間モデルに対してカルマンフィルタを適用することにより、a0(k)、a1(k)、・・・、an(k)が推定される(Step3)。
そして、推定されたa0(k)、a1(k)、・・・、an(k)を上記数式(1)に代入することにより、湯面高さ分布が推定される(Step4)。Step3及びStep4に示す処理は、上記図5に示すアルゴリズムに従って実行される。
(3.状態推定装置の機能構成)
図8を参照して、以上説明した処理を実行する、状態推定装置4の機能構成について説明する。図8は、本実施形態に係る状態推定装置4の機能構成を示すブロック図である。図8を参照すると、本実施形態に係る状態推定装置4は、その機能として、測定値取得部41と、演算部42と、出力部43と、記憶部44とを有する。以下、各部の機能について説明する。
測定値取得部41は、湯面レベル計3から測定値を受信する通信装置によって実現される。上記のように、本実施形態では複数の湯面レベル計3(例えば図2に示された湯面レベル計3a、3b)が設置されるため、測定値取得部41は、複数の湯面レベル計3からそれぞれ測定値を取得する。測定値取得部41は、取得した測定値を、演算部42に提供する。
演算部42は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによって実現される。演算部42では、当該演算部42を構成するプロセッサが所定のプログラムに従って動作することにより、上記図7におけるStep1〜Step4における処理が実行され、湯面高さ分布が推定される。これらの処理の詳細については、既に説明しているため、ここではその説明を省略する。
演算部42は、湯面高さ分布の推定結果を、出力部43に提供する。あるいは、演算部42は、湯面高さ分布の推定結果を、記憶部44に格納してもよい。また、演算部42は、湯面高さ分布の推定処理の過程で得られる各種の情報(例えば、全体上下動成分a0(k)や、各波長成分の係数an(k)等)を、出力部43に提供したり、記憶部44に格納したりしてもよい。
出力部43は、CPU等のプロセッサと、外部装置に信号を送信する通信装置とによって実現される。例えば、出力部43は、演算部42による湯面高さ分布の推定結果を、図1に示す表示/印刷装置5に出力する。表示/印刷装置5は、湯面高さ分布の推定結果をディスプレイ等に表示する。また、出力部43は、演算部42による湯面高さ分布の推定結果を、図1に示す連続鋳造制御装置6に出力してもよい。連続鋳造制御装置6は、推定された全体上下動成分に基づいて、例えば鋳型2への溶鋼注入量及び/又は鋳型2からの鋳片引き抜き速度を、湯面の全体上下動を抑制するように制御する。
記憶部44は、例えば、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリ、並びに、HDD(Hard Disk Drive)等の各種の記憶デバイスによって実現される。記憶部44には、例えば、演算部42による湯面高さ分布の推定処理に使用される各種のパラメータや、推定処理の途中経過など、各種のデータが格納される。また、記憶部44には、演算部42による湯面高さ分布の推定結果が、一時的に又は永続的に格納されてもよい。この推定結果は、出力部43によって、図1に示す表示/印刷装置5及び/又は連続鋳造制御装置6に出力されてもよい。
以上、本実施形態に係る状態推定装置4の機能の一例について説明した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアによって構成されていてもよい。また、複数の構成要素の機能を、CPUが一括して実現してもよい。なお、状態推定装置4を実現するための構成は、実施する時々の技術レベルに応じて適宜変更されうる。
また、上述のような本実施形態に係る状態推定装置4の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することが可能である。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等であり得る。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
(4.ハードウェア構成)
図9は、本実施形態に係る状態推定装置4のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図9を参照すると、状態推定装置4は、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。状態推定装置4は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、又はリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、状態推定装置4内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスによって構成されるバス907によって相互に接続されている。CPU901は、図8に示す演算部42及び出力部43を構成し得る。また、ROM903及びRAM905は、図8に示す記憶部44を構成し得る。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バス等の外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等ユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線や電波等を利用したリモートコントローラであってもよいし、状態推定装置4の操作機能を有するタブレット端末等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザによって入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路等から構成されている。状態推定装置4のユーザは、この入力装置909を操作することによって、状態推定装置4に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、液晶やCRT等を用いたディスプレイ、ランプ等のインジケータ、スピーカ若しくはヘッドホン等の音声出力装置、又はプリンタ装置等がある。出力装置911は、例えば、状態推定装置4が行った各種処理によって得られた結果を出力する。例えば、ディスプレイは、状態推定装置4が行った各種処理によって得られた結果を、テキスト又はイメージとして画面表示する。また、例えば、音声出力装置は、状態推定装置4が行った各種処理によって得られた結果を、アラーム又はダイアログとして音声出力する。なお、図1を参照して説明したように、本実施形態に係るシステム1は、ユーザに対して情報を提示する手段として、表示/印刷装置5を備える。表示/印刷装置5は、出力装置911と同様の機能を有するものであるため、表示/印刷装置5が出力装置911の機能を代替し得る場合には、状態推定装置4には、出力装置911は必ずしも設けられなくてもよい。
ストレージ装置913は、状態推定装置4の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は光磁気記憶デバイス等によって構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、及び外部から取得した各種のデータ等を格納する。ストレージ装置913は、図8に示す記憶部44を構成し得る。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、状態推定装置4に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。
接続ポート917は、機器を状態推定装置4に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、状態推定装置4は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、LAN(Local Area Network)用の通信カードを含み得る。また、通信装置919は、各種有線通信用のルータ又はモデム等を含んでもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等によって構成され、例えば、インターネットやLAN等を含み得る。通信装置919は、図8に示す出力部43を構成し得る。
以上、本実施形態に係る状態推定装置4の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアによって構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
本発明の第1の実施例について説明する。第1の実施例では、計算機上で数値的に外乱を発生させ、仮想的な湯面変動のデータを生成した。そして、生成した湯面変動のデータに対して、上述した図7に示す本実施形態に係る湯面高さ分布推定方法を実行し、その推定精度を評価した。
外乱としては、以下の6種類((A)〜(F))の周波数特性を有するものを用意した。(A)〜(E)は有色外乱であり、(F)は比較のために用意した白色外乱である。
(外乱の種類)
(A):2次バンドパスフィルタ(中心周波数0.1Hz)
(B):2次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.6Hz)
(C):2次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.3Hz)
(D):1次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.6Hz)
(E):1次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.3Hz)
(F):白色雑音
なお、(A)〜(E)における有色外乱は、白色雑音を、各外乱に対応する伝達関数を通過させることにより生成した。外乱ダイナミクスの伝達関数G(s)を、下記数式(22)〜(24)に示す。ただし、計算機に実装する際には、下記数式(22)〜(24)に示す伝達関数を双一次変換を用いて時間離散化している。
また、カルマンフィルタ推定機構の周波数重み関数W(z)としては、下記の6種類((a)〜(f))を考慮し、外乱の周波数特性のばらつきに対してロバストな推定結果が得られるカルマンフィルタ評価関数の周波数重みを調査した。
(周波数重み関数の種類)
(a):2次バンドパスフィルタ(中心周波数0.1Hz)
(b):2次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.6Hz)
(c):2次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.3Hz)
(d):1次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.6Hz)
(e):1次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.3Hz)
(f):周波数重み無し
なお、周波数重み関数W(z)の具体的な形は、上記の外乱ダイナミクスの伝達関数G(s)と同様である。すなわち、(a)におけるW(z)は、上記数式(24)を双一次変換を用いて時間離散化したものであり、(b)、(c)におけるW(z)は、上記数式(23)を双一次変換を用いて時間離散化したものであり、(d)、(e)におけるW(z)は、上記数式(22)を双一次変換を用いて時間離散化したものである。
その他、シミュレーションの詳細な条件は以下の通りである。
・鋳型幅1.63m。
・レベル計は3基設置するものとし、測定位置は両端及び1/4幅位置とした。
・0.1secピッチで、20480sec間測定。
・波長成分数は5次まで考慮。
・全体上下動についてはステップ状外乱を仮定。
・各波長成分係数について周波数重み関数は同一とした。
・各波長成分係数のシステムノイズ分散値は同一とした。
・観測ノイズ分散は各ケースで一定とした。
上記の条件でシミュレーションを実行し、各外乱(A)〜(F)に対応する湯面変動のデータに対して、各周波数重み関数W(z)((a)〜(f))を適用して本実施形態に係る湯面高さ分布推定方法をそれぞれ実行し、湯面高さ分布を推定した。そして、各ケースについて、その推定精度を定量的に評価するために、下記数式(25)で定義される平均二乗誤差(RMSE:Root Mean Square Error)を計算した。
ここで、
・Tは、時間方向のサンプリング点数、
・Δtは、サンプリング間隔、
・Pは、鋳型幅方向のサンプリング点数、
・ysim(p,kΔt)は、計算機上で生成した解析対象である湯面変動における、サンプリング時刻t=kΔtでの幅方向位置pでの湯面高さ、
・yest(p,kΔt)は、本実施形態に係る湯面高さ分布推定方法により推定した湯面変動における、サンプリング時刻t=kΔtにおける幅方向位置pでの湯面高さ
である。
結果を下記表1に示す。なお、表1では、各外乱(A)〜(F)について、推定精度が最も良い場合(すなわち、RMSEが最小となる場合)のRMSEを1として規格化し、各ケースでのRMSEを表示している。また、表1では、周波数重み関数W(z)((a)〜(f))ごとのRMSEの加算値も併せて表記している(最右欄参照)。
上記表1から、外乱が有色外乱である場合((A)〜(E)の場合)に、周波数重み無し((f))で湯面高さ分布の推定を行うと、外乱が白色外乱である場合((F)の場合)に比べて、推定誤差が大きくなっていることが分かる。つまり、外乱を白色外乱と仮定し、何ら周波数重みを考慮しない方法では、実際の鋳型内における湯面高さ分布を高精度に推定することは困難であると言える。
また、外乱が二次バンドパスフィルタ、二次ローパスフィルタを通して生成された場合((A)、(B)、(C)の場合)において、周波数重み無し((f))で湯面高さ分布の推定を行うと、推定精度が悪化する。逆に、外乱が白色雑音の場合((F))において、周波数重み関数W(z)として2次ローパスフィルタを選んで((b)、(c))湯面高さ分布の推定を行うと、推定精度が悪化する。
また、各周波数重み関数W(z)((a)〜(f))についてのRMSEの加算値を参照すると、周波数重み関数W(z)として1次ローパスフィルタ(カットオフ周波数0.6Hz、0.3Hz)を選んだ場合((d)、(e))に、他の場合に比べて当該加算値が小さくなっていることが分かる。これは、周波数重み関数W(z)として1次ローパスフィルタを選択することにより、(A)〜(F)に示すような多様な外乱に対して、平均的に良好な推定結果を得ることができることを示している。このように、周波数重み関数W(z)を選ぶ際には、例えば、各周波数重み関数について、想定される複数種類の外乱のそれぞれを含む湯面変動に対して推定処理を行い、推定結果からRMSEの加算値を算出し、それが最小となる周波数重み関数W(z)を選ぶことが好ましい。なお、ここでは一例として、周波数重み関数W(z)の有効性を加算値を用いて判断したが、加算値の代わりに各周波数重み関数W(z)((a)〜(f))についてのRMSEの平均値を用いてもよい。
あるいは、周波数重み関数W(z)((a)〜(f))ごとに各外乱((A)〜(F))に対応するRMSEを算出し、周波数重み関数W(z)((a)〜(f))ごとにその最大値を求め、当該最大値が最も小さい周波数重み関数W(z)を選択してもよい。このようにして周波数重み関数W(z)を選択することにより、ロバスト性の高い推定結果を得ることが可能になる。
本発明の第2の実施例について説明する。第2の実施例では、溶鋼流動の水モデル実験を実施し、本発明の有効性を確認した。なお、水モデル実験とは、透明なアクリル樹脂板を用いて実寸大の鋳型の模型を作成し、溶鋼の代わりに水を満たすことで、溶鋼湯面の変動を模擬する実験である。水は溶鋼と流体力学的特性が近いため、鋳型に満たす液体として水が用いられることが多い。
具体的には、水モデル実験時の水面撮影動画を解析することにより、水面高さの変動データを取得した。そして、当該水面高さの変動データのうちの、湯面レベル計設置位置に対応する位置での水面高さの値を、湯面レベル計での測定値とみなして、本実施形態に係る湯面高さ分布推定方法を実行した。
なお、第2の実施例においては、上記第1の実施例の結果を踏まえて、周波数重み関数W(z)として1次ローパスフィルタを適用した。ただし、カットオフ周波数が推定精度に与える影響を確認するために、1次ローパスフィルタのカットオフ周波数を0.1Hz〜1.0Hzの範囲で変更し、各カットオフ周波数の場合について湯面高さ分布を推定した。
また、比較のため、周波数重み関数W(z)を考慮しない場合についても、同様に、湯面変動の推定を行った。
その他、シミュレーションの詳細な条件は以下の通りである。
・鋳型幅1.63m、鋳造速度1.6m/m相当。
・レベル計は3点設置するものとし、測定位置は両端及び1/4幅位置とした。
・0.1secピッチで150sec間測定。
・波長成分数は5次まで考慮。
・全体上下動についてはステップ状外乱を仮定。
・各波長成分係数についてシステムノイズ、周波数重み関数は同一とした。
・観測ノイズ分散は各ケースで一定とした。
・波長成分係数のシステムノイズ分散値は数値最適化により求めた値を使用(湯面形状推定誤差のRMSEが最小となる分散値)。
上記の条件でシミュレーションを実行し、周波数重み関数W(z)として1次ローパスフィルタ(カットオフ周波数:0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0Hz))を適用した場合、及び周波数重み関数W(z)を適用しない場合のそれぞれについて、本実施形態に係る湯面高さ分布推定方法を実行し、各ケースでの推定結果に対して、動画解析の結果得られた水面高さとのRMSEを計算した。RMSEの定義は、第1の実施例と同様である。
結果を下記表2及び図10に示す。図10は、第2の実施例の結果を示すグラフ図である。なお、図10は、下記表2の内容をグラフ化したものである。
上記表2及び図10に示すように、周波数重み関数W(z)を適用しない場合には、RMSEは0.908mmであった。一方、周波数重み関数W(z)として1次ローパスフィルタを選択した場合には、RMSEは約0.850〜0.860mmの間の値となった。特に、周波数重み関数W(z)としてカットオフ周波数が0.3Hzである1次ローパスフィルタを選択した場合に、RMSEは最小となり、その値は0.853mmであった。
当該結果から、カットオフ周波数によらず、周波数重み関数W(z)として1次ローパスフィルタを適用することにより、周波数重み関数W(z)を用いない場合に比べて推定精度が向上することが確認できた。また、この例においては、周波数重み関数W(z)としてカットオフ周波数が0.3Hzである1次ローパスフィルタを選択した場合に、最も推定精度が高くなることが分かった。
(5.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。