以下に、本発明の実施の形態に係るインバータ装置、圧縮機駆動装置及び空気調和機を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るインバータ装置の構成図である。実施の形態1では、インバータ装置100を、不図示の空気調和機に搭載される圧縮機の駆動装置として適用する例を説明する。
インバータ装置100は、交流電源1から供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路2と、コンバータ回路2から出力される直流電力を三相交流電力に変換するインバータ主回路3と、コンバータ回路2及びインバータ主回路3の間に設けられる負側直流母線Nに流れる直流電流Idcを検出する直流電流検出回路5と、コンバータ回路2及びインバータ主回路3の間に設けられる正側直流母線P及び負側直流母線Nに印加される直流電圧Vdcを検出する直流電圧検出回路6と、インバータ制御部7とを備える。インバータ装置100には、インバータ主回路3が出力する三相交流電力により駆動される三相の永久磁石同期電動機4が接続される。
コンバータ回路2は、コンバータ回路2が出力する直流電圧Vdcの値が250Vから450Vになるように構成される。具体例には、交流電源1がAC100Vの場合、空気調和機に設けられる圧縮機駆動用のコンバータ回路2には倍電圧整流回路が適用され、AC200Vの場合、空気調和機に設けられる圧縮機駆動用のコンバータ回路2には全波整流回路が適用される。
その他、空気調和機に設けられる圧縮機駆動用のコンバータ回路2は、交流電源1及びコンバータ回路2の間に配置された不図示のリアクトルを短絡及び開放させて昇圧する構成にしたものでもよいし、交流電源1から供給される交流電力を整流する整流回路の後段に配置された不図示のリアクトルを短絡及び開放させて昇圧する構成にしたものでもよい。このようにコンバータ回路2には多数の方式が適用されるが、コンバータ回路2が出力する直流電圧Vdcの値が250Vから450Vの範囲になるような構成であれば、コンバータ回路2にはどの方式を用いてもよい。また図1に示す交流電源1は単相交流電源であるが、三相交流電源でもよい。
インバータ主回路3は、SiC−MOSFET(SiC:Silicon Carbide、MOSFET:Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)で構成される複数の半導体スイッチング素子であるスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6と、複数のスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6のそれぞれに逆並列接続される複数の還流ダイオードであるダイオードD1,D2,D3,D4,D5,D6と、複数のスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6のそれぞれを駆動するための複数の駆動回路3a,3b,3c,3d,3e,3fとにより構成される。
空気調和機に設けられる圧縮機駆動用のスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6には、コンバータ回路2が出力する直流電圧Vdcと配線インピーダンスにより生じるサージ電圧とを考慮して、耐圧600V前後の素子が使用される。複数の還流ダイオードであるダイオードD1,D2,D3,D4,D5,D6にはSiC−MOSFETの寄生ダイオードを用いる。スイッチング素子SW1,SW2,SW3のそれぞれのドレインは正側直流母線Pに接続される。スイッチング素子SW4,SW5,SW6のそれぞれのソースは負側直流母線Nに接続される。スイッチング素子SW1のソースは、スイッチング素子SW4のドレインに接続される。スイッチング素子SW2のソースは、スイッチング素子SW5のドレインに接続される。スイッチング素子SW3のソースは、スイッチング素子SW6のドレインに接続される。正側直流母線Pに接続された3つのスイッチング素子SW1,SW2,SW3は上アーム側スイッチング素子群を構成し、負側直流母線Nに配置された3つのスイッチング素子SW4,SW5,SW6は下アーム側スイッチング素子群を構成する。
駆動回路3aは、インバータ制御部7から出力されるPWM駆動信号UPを入力し、PWM駆動信号UPをスイッチング素子SW1を駆動できる電圧に変換してスイッチング素子SW1のゲートに出力する。駆動回路3bは、インバータ制御部7から出力されるPWM駆動信号VPを入力し、PWM駆動信号VPをスイッチング素子SW2を駆動できる電圧に変換してスイッチング素子SW2のゲートに出力する。駆動回路3cは、インバータ制御部7から出力されるPWM駆動信号WPを入力し、PWM駆動信号WPをスイッチング素子SW3を駆動できる電圧に変換してスイッチング素子SW3のゲートに出力する。駆動回路3dは、インバータ制御部7から出力されるPWM駆動信号UNを入力し、PWM駆動信号UNをスイッチング素子SW4を駆動できる電圧に変換してスイッチング素子SW4のゲートに出力する。駆動回路3eは、インバータ制御部7から出力されるPWM駆動信号VNを入力し、PWM駆動信号VNをスイッチング素子SW5を駆動できる電圧に変換してスイッチング素子SW5のゲートに出力する。駆動回路3fは、インバータ制御部7から出力されるPWM駆動信号WNを入力し、PWM駆動信号WNをスイッチング素子SW6を駆動できる電圧に変換してスイッチング素子SW6のゲートに出力する。
以下では、複数のスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6を単にスイッチング素子SW1〜SW6と称し、複数のダイオードD1,D2,D3,D4,D5,D6を単にダイオードD1〜D6と称し、複数の駆動回路3a,3b,3c,3d,3e,3fを単に駆動回路3a〜3fと称する場合がある。
永久磁石同期電動機4は、不図示の固定子鉄心にU相巻線41、V相巻線42及びW相巻線43で構成される三相Y形結線が施された固定子4aと、固定子4aの内部に設けられた永久磁石回転子4bと、U相巻線41に接続される端子Uと、V相巻線42に接続される端子Vと、W相巻線43に接続される端子Wとを備える。
インバータ主回路3のスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW4の接続点3−1が永久磁石同期電動機4の端子Uに接続される。インバータ主回路3のスイッチング素子SW2及びスイッチング素子SW5の接続点3−2が永久磁石同期電動機4の端子Vに接続される。インバータ主回路3のスイッチング素子SW3及びスイッチング素子SW6の接続点3−3が永久磁石同期電動機4の端子Wに接続される。実施の形態1では、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW4の接続点3−1と端子Uとの間に流れる電流をU相電流Iuと称し、スイッチング素子SW2及びスイッチング素子SW5の接続点3−2と端子Vとの間に流れる電流をV相電流Ivと称し、スイッチング素子SW3及びスイッチング素子SW6の接続点3−3と端子Wとの間に流れる電流をW相電流Iwと称する。
U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwが永久磁石同期電動機4の固定子4aに供給され、固定子4aが発生する磁界により永久磁石回転子4bが回転し、永久磁石回転子4bに接続された不図示の圧縮機が回転することにより、空気調和機内に冷媒が循環する。実施の形態1では、三相Y形結線が施された固定子4aを永久磁石同期電動機4に使用する例について説明しているが、永久磁石同期電動機4には、三相Y形結線が施された固定子4aの代わりに三相Δ形結線が施された固定子4aを用いてもよい。
直流電流検出回路5は、負側直流母線Nに設けられたシャント抵抗5aと増幅器5bとを備える。増幅器5bは、シャント抵抗5aに直流電流が流れることにより生じるシャント抵抗5aの両端間の電圧降下分を増幅し、増幅した電圧を直流電流Idcに対応する電流情報としてインバータ制御部7に出力する。図1では増幅器5bから出力される電流情報を直流電流Idcとして表記している。増幅器5bとしてはオペアンプを用いた回路を例示できる。実施の形態1では、シャント抵抗5aの両端間の電圧降下分を増幅することにより直流電流を検出する直流電流検出回路5の構成例を示すが、直流電流検出回路5には、直流電流を検出可能なDCCT(DC Current Transformer)を用いてもよい。
直流電圧検出回路6は、コンバータ回路2の出力側に接続される正側直流母線P及び負側直流母線Nの間に印加される直流電圧Vdcを分圧してインバータ制御部7に与える。
インバータ制御部7は、直流電流検出回路5で検出された直流電流と、直流電圧検出回路6で検出された電圧と、外部から与えられる周波数指令値f*とに基づき、インバータ主回路3を構成するスイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれを制御するためのPWM駆動信号UP,UN,VP,VN,WP,WNを出力する。以下では、周波数指令値f*を単にf*で表し、PWM駆動信号UP,UN,VP,VN,WP,WNを単にPWM駆動信号UP〜WNと称する場合がある。
PWM駆動信号UP,VP,WPは、インバータ主回路3の上アーム側スイッチング素子群のPWM駆動信号であり、それぞれがスイッチング素子SW1,SW2,SW3を駆動するための信号である。PWM駆動信号UN,VN,WNは、インバータ主回路3の下アーム側スイッチング素子群のPWM駆動信号であり、それぞれがスイッチング素子SW4,SW5,SW6を駆動するための信号である。
インバータ制御部7はマイクロプロセッサにより実現できる。インバータ制御部7は、AD(Analog to Digital)変換器8と、AD変換器9と、出力電圧ベクトル補正部10とを備える。AD変換器8には直流電流検出回路5の出力が入力され、AD変換器8は直流電流検出回路5から出力されるアナログの電圧を、インバータ制御部7内の演算に利用可能なディジタル値に変換する。AD変換器9には直流電圧検出回路6の出力が入力され、AD変換器9は直流電圧検出回路6から出力されるアナログの電圧を、インバータ制御部7内の演算に利用可能なディジタル値に変換する。
出力電圧ベクトル補正部10は、PWM駆動信号を演算する1演算周期中に、直流電流Idcから二相分の相電流を再現するため、出力電圧ベクトルに補正を加える。出力電圧ベクトルについては後述する。
次にインバータ装置100の動作を説明する。図2は図1に示す直流電流検出回路で検出された直流電流の値に基づきPWM駆動信号の演算が行われてから、演算されたPWM駆動信号が反映されるまでの動作を示すタイミングチャートである。以下では、PWM駆動信号の演算を単にPWM演算と称する場合がある。
図2において、(a)にはPWM信号の基準キャリアが示される。基準キャリア周期Tc_stdは、PWM駆動信号を演算する演算周期Tsと同じであり、図2には「Tc_std=Ts」と表示されている。(b)にはPWM演算の開始タイミングが矢印で示される。
(c)にはPWM駆動信号を生成するための制御キャリア1が示される。制御キャリア1は、PWM演算の演算処理時間Txが「Ts/2≦Tx<2Ts/3」に設定される場合における制御キャリアの一例であり、制御キャリア1のキャリア周期Tc1は「Tc1=2Ts/3」に設定される。以下では制御キャリア1のキャリア周期Tc1を単に制御キャリア周期Tc1と称する場合がある。(d)には演算処理時間Txが「Ts/2≦Tx<2Ts/3」に設定される場合におけるPWM演算の処理区間が示される。
(e)にはPWM駆動信号を生成するための制御キャリア2が示される。制御キャリア2は、PWM演算の演算処理時間Txが「2Ts/3≦Tx<3Ts/4」に設定される場合における制御キャリアの一例であり、制御キャリア2のキャリア周期Tc2は「Tc2=Ts/2」に設定される。以下では制御キャリア2のキャリア周期Tc2を単に制御キャリア周期Tc2と称する場合がある。(f)には演算処理時間Txが「2Ts/3≦Tx<3Ts/4」に設定される場合におけるPWM演算の処理区間が示される。
(g)にはPWM駆動信号を生成するための制御キャリア3が示される。制御キャリア3は、PWM演算の演算処理時間Txが「3Ts/4≦Tx<4Ts/5」に設定される場合における制御キャリアの一例であり、制御キャリア3のキャリア周期Tc3は「Tc3=2Ts/5」に設定される。以下では制御キャリア3のキャリア周期Tc3を単に制御キャリア周期Tc3と称する場合がある。(h)には演算処理時間Txが「3Ts/4≦Tx<4Ts/5」に設定される場合におけるPWM演算の処理区間が示される。
図2には、左右対称の三角波キャリアである基準キャリア及び制御キャリアが例示され、図2では基準キャリアの谷タイミングと制御キャリアの谷タイミングもしくは山タイミングとが一致している。(c)、(e)、(g)に示す制御キャリア1,2,3には、出力電圧ベクトルを反映した区間が重ねて表記されている。(c)、(e)、(g)では、出力電圧ベクトルを便宜上「Vsxy_z」の形で表記している。すなわち、(c)には(d)に示すPWM演算で演算された出力電圧ベクトルVsxy_zが表記され、(e)には(f)に示すPWM演算で演算された出力電圧ベクトルVsxy_zが表記され、(g)には(h)に示すPWM演算で演算された出力電圧ベクトルVsxy_zが表記されている。
出力電圧ベクトルVsxy_zの「x」の部分には”a”と”b”があり、「x=a」の出力電圧ベクトルは、直流電流検出回路5で検出された直流電流Idcから永久磁石同期電動機4に流れる二相分の相電流情報を再現できるベクトルであることを示す。「x=b」の出力電圧ベクトルは、前記「x=a」の出力電圧ベクトルと合成すると後述する演算周期当たりの出力電圧ベクトルとなるベクトルであることを示す。ただし、後述するが変調率が1以上になるようなとき、2つのベクトルを合成しても演算周期当たりの出力電圧ベクトルと一致しない状態もあり得る。
Vsxy_zの「y」の部分には整数が入り、「y=1」の出力電圧ベクトルは、(d)、(f)、(h)のそれぞれに示される「演算処理1」で演算される出力電圧ベクトルを示す。「y=2」の出力電圧ベクトルは、(d)、(f)、(h)のそれぞれに示される「演算処理2」で演算される出力電圧ベクトルを示す。
Vsxy_zの「z」の部分には対応する制御キャリアの数字が入り、「z=1」の出力電圧ベクトルは、制御キャリア1のPWM演算による出力電圧ベクトルを示す。「z=2」の出力電圧ベクトルは、制御キャリア2のPWM演算による出力電圧ベクトルを示す。「z=3」の出力電圧ベクトルは、制御キャリア3のPWM演算による出力電圧ベクトルを示す。
続いて、直流電流Idcが検出されてからPWM駆動信号が演算され、演算されたPWM駆動信号が反映されるまでの動作を、(d)のPWM演算の演算処理1のタイミングを例に取り説明する。
演算処理1の演算開始タイミングは基準キャリアの谷タイミングDである。タイミングDは制御キャリア1の谷タイミングでもある。演算処理1で使用される直流電流Idcは、演算開始タイミングDの直前の制御キャリア1の半キャリア周期であるA〜Dの区間で検出される。A〜Dの半キャリア周期区間には、出力電圧ベクトル「Vsa0_1」に対応したPWM駆動信号が出力されているため、インバータ制御部7は、直流電流Idcに基づき、永久磁石同期電動機4に流れる二相分の相電流情報を検出できる。
インバータ制御部7は、直流電流Idcに基づいて、次の演算開始タイミングIよりも制御キャリア1の半キャリア周期前のタイミングFから1演算周期後のタイミングKまでの中心位相における出力電圧ベクトルを求める。インバータ制御部7は、この演算を、演算開始タイミングDからタイミングFまでの区間内で行う。演算された出力電圧ベクトルに対するPWM駆動信号は、タイミングFからタイミングKまでの区間に反映される。以下では、F〜Kの区間のように、演算された出力電圧ベクトルに対するPWM駆動信号が反映される区間を「PWM駆動信号反映区間」と称する場合がある。
インバータ制御部7は、次の演算処理2の演算開始タイミングIの直前における制御キャリア1の半キャリア周期であるF〜Iの区間に、出力電圧ベクトル「Vsa1_1」に対応したPWM駆動信号を出力し、残りのI〜Kの区間に、出力電圧ベクトル「Vsb1_1」に対応したPWM駆動信号を出力する。
同様にインバータ制御部7では、演算周期Ts毎に(d)の演算処理2以降の演算が行われる。ここで、演算開始タイミングは、必ずしも三角波キャリアの谷タイミングまたは山タイミングである必要はなく、PWM駆動信号を反映させたいタイミングまでに演算が終了することが確保できれば、上記のタイミングより演算開始タイミングが遅くても構わない。インバータ制御部7では、(f)、(h)の動作も(d)と同様に行われる。
次に、出力電圧ベクトルについて説明する。出力電圧ベクトルVsの大きさ|Vs|及びγ軸からの位相θvは、回転座標系の制御軸(γ−δ軸)におけるγ軸電圧Vγ及びδ軸電圧Vδの値が求められれば、それぞれ下記式(1)及び式(2)より求めることができる。
γ軸電圧Vγ及びδ軸電圧Vδは、角速度指令値ω*(=2π×f*)と永久磁石同期電動機4に流れる相電流情報とに基づき、例えば特許第3860031号公報に記載される公知の方法で算出できる。
また、この場合の変調率は、直流電圧検出回路6で検出された直流電圧Vdcに基づき下記式(3)より求められる。
続いて、出力電圧ベクトルVsとインバータ主回路3のスイッチング素子との関係を説明する。
図3は本発明の実施の形態1に係るインバータ制御部で演算される1演算周期当たりの出力電圧ベクトルVsと、出力電圧ベクトル補正部10による補正前の制御キャリア1の半キャリア周期当たりの出力電圧ベクトルVscとの関係を示す図である。図4は基本電圧ベクトルに対するインバータ主回路のスイッチング素子のスイッチング状態と直流電流Idcから再現される相電流情報との対応関係を示す図である。図5は図3に示す出力電圧ベクトルVscに対応したPWM駆動信号のタイミングチャートである。図6は本発明の実施の形態1に係るインバータ制御部で演算される1演算周期当たりの出力電圧ベクトルVsと、出力電圧ベクトル補正部10による補正後の出力電圧ベクトルVsa,Vsbとの関係を示す図である。
図3には制御キャリア1の場合に演算される出力電圧ベクトルVsが示される。図3に示すV0〜V7は基本電圧ベクトルであり、図4では、8つの基本電圧ベクトルV0〜V7のそれぞれが、インバータ主回路3のスイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれのONまたはOFFの状態に対応付けられている。
図4に示すように基本電圧ベクトルV0では、スイッチング素子SW1,SW2,SW3がOFFであり、スイッチング素子SW4,SW5,SW6がONである。基本電圧ベクトルV1では、スイッチング素子SW2,SW3,SW4がOFFであり、スイッチング素子SW1,SW5,SW6がONである。基本電圧ベクトルV2では、スイッチング素子SW3,SW4,SW5がOFFであり、スイッチング素子SW1,SW2,SW6がONである。基本電圧ベクトルV3では、スイッチング素子SW1,SW3,SW5がOFFであり、スイッチング素子SW2,SW4,SW6がONである。基本電圧ベクトルV4では、スイッチング素子SW1,SW5,SW6がOFFであり、スイッチング素子SW2,SW3,SW4がONである。基本電圧ベクトルV5では、スイッチング素子SW1,SW2,SW6がOFFであり、スイッチング素子SW3,SW4,SW5がONである。基本電圧ベクトルV6では、スイッチング素子SW2,SW4,SW6がOFFであり、スイッチング素子SW1,SW3,SW5がONである。基本電圧ベクトルV7では、スイッチング素子SW4,SW5,SW6がOFFであり、スイッチング素子SW1,SW2,SW3がONである。
また図4には、スイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれが基本電圧ベクトルV1〜V6の非零の電圧ベクトルの状態になるときに、直流電流Idcから再現される永久磁石同期電動機4に流れる相電流情報が基本電圧ベクトルV1〜V6に対応付けられている。
基本電圧ベクトルV1には相電流情報「+Iu」が対応し、基本電圧ベクトルV2には相電流情報「−Iw」が対応し、基本電圧ベクトルV3には相電流情報「+Iv」が対応し、基本電圧ベクトルV4には相電流情報「−Iu」が対応し、基本電圧ベクトルV5には相電流情報「+Iw」が対応し、基本電圧ベクトルV6には相電流情報「−Iv」が対応している。相電流情報の「+」は、インバータ主回路3から永久磁石同期電動機4に向かって流れる相電流の方向を表し、相電流情報の「−」は永久磁石同期電動機4からインバータ主回路3に向かって流れる相電流の方向を表す。
図3において、出力電圧ベクトルVsの大きさは演算周期Ts当たりの大きさで示される。実施の形態1では、制御キャリア周期Tc1がTc1=2Ts/3に設定されているため、半キャリア周期(Tc・1/2)当たりの出力電圧ベクトルVscは出力電圧ベクトルVsの大きさの1/3となる。tiは出力電圧ベクトルVscに隣接する大きさが非零の基本電圧ベクトルであるV1,V2の内、回転方向元の基本電圧ベクトルV1の半キャリア周期当たりの出力時間である。回転方向元は出力電圧ベクトルの回転方向に対して後方を意味する。tkは回転方向先の基本電圧ベクトルであるV2の半キャリア周期当たりの出力時間である。回転方向先は出力電圧ベクトルの回転方向に対して前方を意味する。TMINはインバータ主回路3に供給される直流電流を検出するのに必要な最小時間である。最小時間TMINは、駆動回路3a〜3f及びスイッチング素子SW1〜SW6の応答遅延時間と、インバータ主回路3に供給される直流電流に発生するリンギング時間と、直流電流検出回路5の遅延時間と、AD変換器8のサンプルホールド時間と、後述する上下短絡防止時間とを考慮して設定される。
ここで、出力電圧ベクトルVscに隣接する大きさが非零の基本電圧ベクトルであるV1,V2の内、回転方向元の基本電圧ベクトルであるV1から出力電圧ベクトルVsまでの角度を、不図示のθx[°]とする。このとき、時間ti,tkのそれぞれは下記式(4)及び式(5)により求めることができる。
図5において、(a)は制御キャリア1を示す。(b)はスイッチング素子SW1〜SW6のPWM駆動信号UP〜WNを示す。(c)は直流電流Idcを示す。(d)はPWM駆動信号に対応した電圧べクトル状態を示す。図5には、PWM駆動信号の反映区間が図2のA−F区間のようにキャリア立下りから始まる場合を示している。
図5の(a)の制御キャリア1に表記されるVscは、制御キャリア1の半キャリア周期で出力される出力電圧ベクトルを示し、図5には、制御キャリア1の立下り半周期で出力される2つのVscと、制御キャリア1の立上り半周期で出力される1つのVscとが示される。
図5の(b)において、PWM駆動信号が「H(ON)」の場合、その対応するスイッチング素子がON動作し、「L(OFF)」の場合にその対応するスイッチング素子がOFF動作する。例えば、PWM駆動信号のUPが「H(ON)」の場合、その対応するスイッチング素子SW1がONし、UPが「L(OFF)」の場合、スイッチング素子SW1がOFFする。実施の形態1では、半キャリア周期におけるゼロベクトルV0,V7の出力割合を1:1にしているが、この出力割合は任意に設定できる。
また、PWM駆動信号UP及びPWM駆動信号UNのスイッチング状態が「ONからOFF」または「OFFからON」に切り替わるときには、スイッチング素子の上下短絡を防止する上下短絡防止時間を設ける必要があるが、ここでは説明の簡略化のため省略している。PWM駆動信号VP及びPWM駆動信号VNのスイッチング状態が「ONからOFF」または「OFFからON」に切り替わるときの上下短絡防止時間と、PWM駆動信号WP及びPWM駆動信号WNのスイッチング状態が「ONからOFF」または「OFFからON」に切り替わるときの上下短絡防止時間も同様である。
このように出力電圧ベクトルが求められれば、そのベクトルに対応したPWM駆動信号を生成できる。しかしながら、図3に示されるように、出力電圧ベクトルVscの時間tiはTMIN以上であるが、出力電圧ベクトルVscの時間tkはTMIN未満であり、インバータ制御部7では直流電流Idcから二相分の相電流情報を再現することができない。
そこで実施の形態1に係るインバータ制御部7の出力電圧ベクトル補正部10は、図6に示されるように、出力電圧ベクトルVsの補正を行い、演算周期Ts当たりの出力電圧ベクトルVsを、直流電流Idcから二相分の相電流情報が再現される出力電圧ベクトルVsaと、出力電圧ベクトルVsaとの合成がVsとなる出力電圧ベクトルVsbとに分けて出力する。このようにすることで、1演算周期中に前記直流電流から二組分の相電流を再現できると共に、1演算周期当たりの出力電圧ベクトルを同一に保持できる。
具体的には、出力電圧ベクトルVsaに隣接し、かつ、大きさが非零の基本電圧ベクトルであるV1,V2の内、回転方向元の基本電圧ベクトルであるV1の半キャリア周期当たりの出力時間をtiaとし、「tia=ti」とし、回転方向先の基本電圧ベクトルであるV2の半キャリア周期当たりの出力時間をtkaとし、「tka=TMIN」とする。
「(tia+tka)>(Tc1/2)」となる場合、tia及びtkaの内、出力時間が長い方を「(Tc1/2)−TMIN」とする。また、出力電圧ベクトルVsbの回転方向元の基本電圧ベクトルの残りの出力区間、すなわち図6に示す1キャリア周期当たりの出力時間をtibとする。出力電圧ベクトルVsbの回転方向先の基本電圧ベクトルの残りの出力区間、すなわち図6に示す1キャリア周期当たりの出力時間をtkbとする。そしてインバータ制御部7の出力電圧ベクトル補正部10は、「(tib+tkb)>(Tc1/2)×Nc」となる場合、「(tib+tkb)=(Tc1/2)×Nc」となるように出力時間tib,tkbの内、短い方を零に近づける。Ncは、出力電圧ベクトルVsbを出力する区間の半キャリア周期の数であり、この場合はNc=2である。
出力時間の短い方を零にしても「(tib+tkb)=(Tc1/2)×Nc」とならない場合、インバータ制御部7の出力電圧ベクトル補正部10は、更に出力時間の長い方を「(Tc1/2)×Nc」とする。変調率が1以上になるようなとき、出力電圧ベクトルVsbはこのような状態になるが、この場合、出力電圧ベクトルVsa及び出力電圧ベクトルVsbの合成ベクトルは、出力電圧ベクトルVsとは完全には一致しない状態となる。しかしながら、このような状態になるのは変調率が1以上になるようなPWM駆動信号が飽和する高回転領域状態であり、補正前後での1演算周期当たりの出力電圧ベクトルは略同一に保持される。
図7は図6に示す出力電圧ベクトルVsa,Vsbに対応して出力電圧ベクトル補正部により補正されたPWM駆動信号の第1のタイミングチャートである。図7では、インバータ制御部7が、出力電圧ベクトルVsaをPWM駆動信号反映区間の最初の半キャリア周期に出力し、出力電圧ベクトルVsbを残りのPWM駆動信号反映区間に出力する場合を示す。図7には、図5と同様にPWM駆動信号反映区間がキャリア立下りから始まる場合を示す。図7に示す(a)〜(d)の意味は図5に示す(a)〜(d)と同じである。また、図7に示す(c)におけるTrg1及びTrg2は、直流電流Idcから二相分の相電流情報を得るための検出タイミングを表す。
ここで実施の形態1では、検出タイミングTrg1及び検出タイミングTrg2の間隔が、上アーム側スイッチング素子群を制御する複数のPWM駆動信号の内、それぞれのON幅が中間となるPWM駆動信号、すなわち図7ではPWM駆動信号VPがONからOFFに切り替わるタイミングの前後で、二相分の相電流情報を得られる最小時間に設定されている。この最小時間は前述した最小時間TMINと同じ長さの時間である。
この場合、インバータ制御部7は、直流電流Idcに基づき二相分の相電流情報を最小時間の間隔で得ることができるので、「Iu+Iv+Iw=0」の関係に基づき残りの一相の相電流も精度よく再現できるというメリットがある。しかしながら、検出タイミングTrg1は、検出される電圧ベクトル状態の終端近くのタイミングとなり、検出タイミングTrg2は、検出される電圧ベクトル状態に切り替わった直後のタイミングとなるため、検出される相電流の値が実際の相電流の中心値から外れ、永久磁石同期電動機4の制御性が悪化する。
この対策として、制御キャリア1または制御キャリア3のように、演算周期毎に直流電流Idcが検出される区間の三角波キャリアの状態がキャリア立上り区間及び立下り区間に切り替わるキャリア周期Tcを設定し、検出タイミングTrg1、検出タイミングTrg2及び電圧ベクトル状態の関係を変えることにより、実際の相電流の中心値から外れる影響を緩和できる。制御の応答性は若干犠牲になるが、再現された相電流、または相電流を制御軸(γ−δ軸)上に変換した電流値の移動平均を取ることで、更に上記の影響を緩和できる。
図8は図6に示す出力電圧ベクトルVsa,Vsbに対応して出力電圧ベクトル補正部により補正されたPWM駆動信号の第2のタイミングチャートである。図7及び図8の相違点は、図7ではPWM駆動信号反映区間がキャリア立下りから始まるのに対して、図8では、PWM駆動信号反映区間が図2のF−K区間のようにキャリア立上りから始まることである。
ここで、検出タイミングTrg1及び検出タイミングTrg2の間隔は、上アーム側スイッチング素子群を制御する複数のPWM駆動信号の内、それぞれのON幅が中間となるPWM駆動信号、すなわち図8ではPWM駆動信号VPがOFFからONに切り替わるタイミングの前後で、二相分の相電流情報を得られる最小時間に設定されている。この最小時間は前述した最小時間TMINと同じ長さの時間である。
図7のようにPWM駆動信号反映区間がキャリア立下りから始まる場合、検出タイミングTrg1では直流電流Idcから基本電圧ベクトルV2に対応する相電流(−Iw)が再現され、検出タイミングTrg2では直流電流Idcから基本電圧ベクトルV1に対応する相電流(+Iu)が再現される。
これに対して図8のようにキャリア立上りから始まる場合、検出タイミングTrg1では直流電流Idcから基本電圧ベクトルV1に対応する相電流(+Iu)が再現され、検出タイミングTrg2では基本電圧ベクトルV2に対応する相電流(−Iw)が再現される。
以上のように実施の形態1に係るインバータ装置100は、直流母線から供給される直流電力を複数のスイッチング素子SW1〜SW6を用いて三相交流電力に変換するインバータ主回路3と、直流母線に流れる直流電流を検出する直流電流検出回路5と、直流電流検出回路5より検出された直流電流Idcに基づいて複数のスイッチング素子SW1〜SW6を制御するPWM駆動信号UP〜WNを出力するインバータ制御部7とを備える。そしてインバータ制御部7は、PWM駆動信号UP〜WNを演算する演算周期をTs、演算処理時間をTxとするとき、PWM駆動信号UP〜WNの制御キャリア周期Tcに「Tx<(Ts−Tc/2)」を満たす値を設定するようにしたので、演算処理時間Txが演算周期Tsの1/2以上の用途においても、次の演算処理には直前の演算処理で生成されたPWM駆動信号UP〜WNにより生じる直流電流を検出でき、より一層制御の応答性が高いインバータ装置100が得られる。これにより、高速回転時の負荷変動にも追従でき、脱調及び過電流遮断の発生を抑制できるという効果を奏する。
またインバータ制御部7は、PWM駆動信号UP〜WNを三角波キャリアに基づいて生成し、演算周期Ts毎に直流電流Idcを検出する区間の三角波キャリアの状態がキャリア立上り区間及び立下り区間を交互に切り替わるように、制御キャリア周期Tcを設定することで、直流電流Idcから再現される相電流情報が実際の相電流の中心値から外れることで生じる永久磁石同期電動機4の制御性の悪化を抑制できる。
またインバータ制御部7は、1演算周期中に直流電流Idcから二相分の相電流を再現するために出力電圧ベクトルを補正し、出力電圧ベクトルを補正すると共に、補正前後での1演算周期当たりの出力電圧ベクトルが同一になるように補正する出力電圧ベクトル補正部10を備える。これにより、出力電圧ベクトルを補正したことによる相電流波形の歪を極力抑制することができ、それに伴い発生する騒音も抑制できる。
またインバータ制御部7は、変調率が1以上になるような場合には、直流電流Idcから二相分の相電流情報が再現される出力電圧ベクトルVsaと、出力電圧ベクトルVsa以外の残りのPWM駆動信号反映区間に出力される出力電圧ベクトルVsbとの合成ベクトルが、演算周期Ts当たりの出力電圧ベクトルVsに必ずしも一致しないようにしているので、常に直流電流Idcから二相分の相電流情報が得られる。
またインバータ装置100は、インバータ主回路3のスイッチング素子SW1〜SW6にSiC−MOSFETのようなワイドバンドギャップ半導体素子を使用することで、スイッチング損失を抑えることができるため、「Tx<(Ts−Tc/2)」の条件を満たす制御キャリア周期Tcの設定自由度を高くできる。
なお実施の形態1に係るインバータ主回路3のスイッチング素子SW1〜SW6にはSiC−MOSFETが用いられ、還流ダイオードであるダイオードD1〜D6にはSiC−MOSFETの寄生ダイオードを用いる構成としているが、スイッチング素子SW1〜SW6及びダイオードD1〜D6はこれらに限定されるものではない。空気調和機に設けられる圧縮機駆動用のインバータ主回路3で主に使われているSi−IGBT(Silicon−Insulated Gate Bipolar Transistor)をスイッチング素子SW1〜SW6として用いてもよいし、Si−FRD(Silicon−Fast Recovery Diode)をダイオードD1〜D6として用いてもよい。なお実施の形態1では三角波キャリアを用いたPWM駆動信号の生成について説明しているが、のこぎり波キャリアなど他のキャリアにおいても同様なPWM駆動信号を生成できる場合はこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
実施の形態2.
実施の形態1では制御キャリア周期を一定値とした例を説明したが、実施の形態2では変調率に応じて制御キャリア周期を変化させる例を説明する。実施の形態2に係るインバータ装置100のハードウェア構成は、実施の形態1に係るインバータ装置100と同様であり、以下では実施の形態2に係るインバータ装置100において制御キャリア周期を変化させる演算例について説明する。
空気調和機に設けられる圧縮機駆動用のインバータ主回路3には、スイッチング素子SW1〜SW6として主にSi−IGBTが使用され、また還流ダイオードとして主にSi−FRDが使用される。このようなインバータ主回路3では、5kHz前後の制御キャリア周波数に、インバータ主回路3及び永久磁石同期電動機4の総合効率が最大となるポイントが存在する。
一方、実施の形態1に係るインバータ装置100のように、スイッチング素子SW1〜SW6としてSiC−MOSFETが使用され、還流ダイオードであるダイオードD1,D2,D3,D4,D5,D6として前記スイッチング素子SW1〜SW6の寄生ダイオードが使用されるインバータ主回路3では、Si−IGBT及びSi−FRDが使用される場合に比べて、インバータ主回路3のスイッチング損失が減少する。そのためインバータ主回路3におけるスイッチング損失と永久磁石同期電動機4の鉄損とのバランスが変わり、インバータ主回路3及び永久磁石同期電動機4の総合効率が最大となる制御キャリア周波数は、より一層高い6kHz〜18kHzに変わる。
しかしながら、インバータ制御部7が直流電流Idcに基づいて、1演算周期中に永久磁石同期電動機4に流れる二相分の相電流情報を得るように制御する場合、前述した図6のように出力電圧ベクトルを変化させる必要が生じる。これは、永久磁石同期電動機4に供給する出力電圧の変動が大きくなることを意味し、如いては永久磁石同期電動機4に流れる相電流の変動が大きくなることに繋がる。そのため、特に変調率が低いときには、制御キャリア周期を低くしても、すなわち制御キャリア周波数を高くしても永久磁石同期電動機4の鉄損が改善されずに、図9のように変調率に応じて上記の総合効率が最大となる制御キャリア周期が変化する。
図9を用いて総合効率及び制御キャリア周期の関係を説明する。図9は変調率Vk1,Vk2,Vk3(Vk1<Vk2<Vk3)における制御キャリア周期と総合効率の関係を示す図である。図9の横軸は制御キャリア周期Tcを表し、図9の縦軸は制御キャリア周期Tcを変化させたときのインバータ主回路3及び永久磁石同期電動機4の総合効率を示す。
図9には3つの変調率Vk1,Vk2,Vk3及び制御キャリア周期Tc1,Tc2,Tc3が示される。最も高い値の変調率Vk3のときに前記総合効率が最大となる制御キャリア周期がTc3であり、最も低い値の変調率Vk1のときに前記総合効率が最大となる制御キャリア周期がTc1であり、変調率Vk3よりも低く変調率Vk1よりも高い値の変調率Vk2のときに前記総合効率が最大となる制御キャリア周期がTc2である。すなわち図9に示される3つの変調率Vk1,Vk2,Vk3はVk1<Vk2<Vk3の関係性を有し、3つの制御キャリア周期Tc1,Tc2,Tc3はTc3<Tc2<Tc1の関係性を有する。
図10は変調率に対する制御キャリア周期の設定例を示す図である。図10の横軸は変調率Vkであり、図10の縦軸は制御キャリア周期Tcである。図10の横軸に示される7つの変調率Vk1,Vk1a,Vk2a,Vk2,Vk2b,Vk3a,Vk3は、Vk1<Vk1a<Vk2a<Vk2<Vk2b<Vk3a<Vk3の関係性を有する。図10の縦軸に示される3つの制御キャリア周期Tc1,Tc2,Tc3は、Tc3<Tc2<Tc1の関係性を有する。
実施の形態2に係るインバータ装置100のインバータ制御部7は、変調率VkがVk1a以下では制御キャリア周期Tc1を設定し、変調率VkがVk2a以上、かつ、Vk2b以下では制御キャリア周期Tc2を設定し、変調率VkがVk3a以上では制御キャリア周期Tc3を設定する。変調率VkがVk1aを超え、かつ、Vk2a未満の場合、インバータ制御部7は、直前の制御キャリア周期Tcの値を保持する。また変調率VkがVk2bを超え、かつ、Vk3a未満の場合、インバータ制御部7は、直前の制御キャリア周期Tcの値を保持する。
ここで、インバータ制御部7は、図2に示すように演算周期Tsの値を一定値にした状態で、制御キャリア周期Tcの変更を行う。例えば、図2のDのタイミングで制御キャリア周期TcをTc1からTc2に変更する場合、Vsb0_2の区間の出力はVsb0_1の区間の出力を再計算することで設定される。この再計算では、Ncが2から3に変更される。こうすることで、制御キャリア周期Tcの切り替え時の相電流の変動を抑えられる。
そして演算周期Tsを固定にしたままで上記の総合効率が最大となる制御キャリア周期Tcに近い状態、すなわち制御キャリア周波数に近い状態でインバータ装置100を動作させることができる。ただし、制御キャリア周期Tcが一番高い値のTc1のときでも「Tx<(Ts−Tc/2)」の条件を満たしていることが前提である。
以上のように実施の形態2に係るインバータ装置100は、インバータ主回路3、直流電流検出回路5及びインバータ制御部7を備え、インバータ制御部7は、PWM駆動信号UP〜WNを演算する演算周期Tsを一定値にした状態で、変調率に応じてキャリア周期Tcを切り替える。この構成により、制御の応答性が高いインバータ装置100を得ることができると共に、インバータ主回路3及び永久磁石同期電動機4の総合効率が最大となる制御キャリア周期Tcに近い状態、すなわち制御キャリア周波数に近い状態でインバータ装置100を動作させることができる。
なお実施の形態2では、キャリア周期の値が変調率Vkの値に応じて3段階に切り替えられているが、実施の形態2に係るインバータ制御部7は、変調率Vkの値に応じて、キャリア周期の値を2段階に切り替える構成としてもよい。例えばインバータ制御部7は、演算周期毎に直流電流Idcが検出される区間の三角波キャリアの状態がキャリア立上り区間及び立下り区間に切り替わる制御キャリア1及び制御キャリア3の2箇所のみで、制御キャリア周期Tcを切り替える。
また実施の形態2に係るインバータ制御部7は、制御キャリア周期Tcを変調率Vkに応じて切り替えるが、同様な効果が得られる他のパラメータ、例えば永久磁石同期電動機4の周波数により制御キャリア周期Tcを切り替えるようにしても良い。なお、本発明を用いれば、スイッチング素子SW1〜SW6にSiC−MOSFETのようなワイドギャップ半導体を用いた構成において、インバータ主回路3と永久磁石同期電動機4との総合効率が高いインバータ装置を得るために、上記制御キャリア周波数を6kHz〜18kHzの範囲に設定しても、検出される電流値の直前の演算により生成されるPWM変調に基づくものにすることができるので、制御の応答性を維持したまま実現することができる。
実施の形態3.
図11は本発明の実施の形態3に係る圧縮機駆動装置及び空気調和機の構成図である。図11に示す圧縮機駆動装置200は、実施の形態1または実施の形態2に係るインバータ装置100を圧縮機20の駆動装置として用いたものであり、図11に示す空気調和機300は、圧縮機駆動装置200と、圧縮機駆動装置200により駆動される圧縮機20と、四方弁31と、室外熱交換器32−1と、室内熱交換器32−2と、膨張弁33とを備える。
圧縮機20は、冷媒を圧縮する圧縮部21と、圧縮部21を駆動する永久磁石同期電動機4とを備える。圧縮機20、四方弁31、室外熱交換器32−1、室内熱交換器32−2及び膨張弁33は、冷媒配管30により相互に接続され、冷媒を循環させる冷媒回路を構成する。そして空気調和機300は、冷媒が蒸発または凝縮するとき、熱交換対象となる空気に対して吸熱または放熱することを利用し、管内を通過する冷媒の圧力を変化させながら空気調和運転を行う。不図示の送風ファンが回転することにより発生する風が室外熱交換器32−1に通流する。これにより室外熱交換器32−1では冷媒と空気との熱交換が行われる。
同様に不図示の送風ファンが回転することにより発生する風が室内熱交換器32−2に通流する。これにより室内熱交換器32−2では冷媒と空気との熱交換が行われる。
実施の形態3に係る空気調和機300には、実施の形態1に係るインバータ装置100が圧縮機駆動装置200として用いられているため、応答性が高い空気調和機300が得られると共に騒音の発生を抑制できる。
なお実施の形態1及び実施の形態2に係るインバータ装置100は、空気調和機300の圧縮機20を駆動するための装置に限定されず、永久磁石同期電動機4を用いたあらゆる装置に適用が可能である。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。