JP6734112B2 - 脂質の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、炭素原子数12〜18前後の高級脂肪酸を還元して得られる高級アルコールの誘導体は、界面活性剤として用いられている。アルキル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩等は陰イオン性界面活性剤として利用されている。また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやアルキルポリグリコシド等は非イオン性界面活性剤として利用されている。そしてこれらの界面活性剤は、いずれも洗浄剤や殺菌剤等に利用されている。同じ高級アルコールの誘導体であるアルキルアミン塩やモノ又はジアルキル4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤は、繊維処理剤、毛髪リンス剤、殺菌剤等に日常的に利用されている。また、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩は殺菌剤や防腐剤等に日常的に利用されている。さらに、植物油脂はバイオディーゼル燃料の原料としても利用されている。
また、炭素原子数が20以上の長鎖脂肪酸は不飽和度によって化学的性質が異なり、様々な用途に用いられている。例えば、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といった長鎖多価不飽和脂肪酸は機能性食品として用いられている。また、アラキジン酸、ベヘン酸、エルカ酸といった長鎖飽和脂肪酸又は長鎖一価不飽和脂肪酸は、分散剤や潤滑油などの工業原料として有用である。
シアノバクテリア(藍色細菌)は真正細菌の一群であり、光合成によって酸素を産生し、二酸化炭素を固定化する能力を有する。シアノバクテリアは、それらが10数億年前に真核生物に細胞内共生(1次共生)したことが葉緑体の起源であると考えられている。そのため、葉緑体の祖先生物として光合成研究に広く利用されている。また、シアノバクテリアは他の植物と比べて生育が速く、かつ高い光合成能力を有する。さらにシアノバクテリアは形質転換能も有する。
そのためシアノバクテリアは外来DNAを細胞内に導入することで微生物学的な物質生産に利用可能であることから、バイオ燃料などの物質の生産用宿主として注目されている。
また本発明は、長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させたシアノバクテリアの形質転換体の提供を課題とする。
本発明者らはまず、長鎖脂肪酸の合成に関与する酵素として、藻類の1種であるナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の藻類のKASを新たに同定した。そして、このナンノクロロプシス属の藻類のKASをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させた結果、元来長鎖脂肪酸の生産能を有さないシアノバクテリアが長鎖脂肪酸の生産能を獲得することを見い出した。そして、ナンノクロロプシス属の藻類のKASをコードする遺伝子の発現を促進させない場合と比較して、長鎖脂肪酸の生産性が向上することを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性(以下、「KAS活性」ともいう)を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
また本発明は、前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させて、シアノバクテリアの細胞内で生産される長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させ、生産される全脂肪酸又は全脂質中の脂肪酸又は脂質の組成を改変する、脂質の組成の改変方法に関する。
また本発明は、前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させる、長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産能をシアノバクテリアに付与する方法に関する。
また本発明の形質転換体は、長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性に優れる。
また本明細書において、脂肪酸や、脂肪酸を構成するアシル基の表記において「Cx:y」とあるのは、炭素原子数xで二重結合の数がyであることを表す。「Cx」は炭素原子数xの脂肪酸やアシル基を表す。
さらに本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'側に続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'側に続く領域を示す。
脂肪酸合成の第一段階では、アセチル−ACP(又はアセチル−CoA)とマロニルACPとの縮合反応により、アセトアセチルACPが生成する。この反応をKASが触媒する。次いで、β−ケトアシル−ACPレダクターゼによりアセトアセチルACPのケト基が還元されてヒドロキシブチリルACPが生成する。続いて、β−ヒドロキシアシル−ACPデヒドラーゼによりヒドロキシブチリルACPが脱水され、クロトニルACPが生成する。最後に、エノイル−ACPレダクターゼによりクロトニルACPが還元されて、ブチリルACPが生成する。これら一連の反応により、アセチル−ACPからアシル基の炭素鎖が2個伸長されたブチリルACPが生成する。以下、同様の反応を繰り返すことで、アシル−ACPの炭素鎖が伸長し、最終的に炭素原子数16又は18のアシル−ACPが合成される。
タンパク質がKAS活性を有することは、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、各種アシル−ACPを基質とした鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
後述の実施例で示すように、前記タンパク質(A)又は(C)をコードする遺伝子の発現を促進した形質転換体では、炭素原子数20、22、又は24の長鎖脂肪酸の生産性が向上する。よって前記タンパク質(A)〜(D)は、炭素原子数20以上の長鎖β−ケトアシル−ACP合成活性を有する、KAS II型のKASであると考えられる。なお本明細書において「長鎖β−ケトアシル−ACP合成活性」とは、主に炭素原子数16以上のアシル−ACPを基質とし、炭素原子数20以上の長鎖アシル−ACP合成の伸長反応を触媒する活性のことをいう。また本明細書において「長鎖」とは、アシル基の炭素原子数が20以上、好ましくは炭素原子数が20、22又は24であることをいう。
また、ChloroP(http://www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)やtargetP(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)を用いた局在予測より、前記タンパク質(A)は葉緑体局在型のKASであり、N末端側のアミノ酸40残基は葉緑体移行シグナル配列であると考えられる。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにKAS活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
またタンパク質(B)として、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、KAS活性を有し、かつ葉緑体移行シグナル配列が削除されていることが好ましい。後述の実施例で示すように、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質においてN末端側の葉緑体移行シグナル配列を削除することで、長鎖脂肪酸の生産性がさらに向上する。このようなタンパク質(B)としては、N末端側のアミノ酸配列として、配列番号1の1位〜40位の任意の位置でN末端側のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列と、C末端側のアミノ酸配列として、配列番号1の41位〜475位のアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
またタンパク質(B)として、前記タンパク質(A)又は(B)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
またタンパク質(D)として、前記タンパク質(C)又は(D)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
なお、ナンノクロロプシス・オキュラータ等の藻類は、私的又は公的な研究所等の保存機関より入手することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株は、国立環境研究所(NIES)から入手することができる。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号45で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
配列番号2の塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質(ナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株由来のKAS)をコードする遺伝子の塩基配列である。
またDNA(b)として、前記DNA(a)の塩基配列との同一性が60%以上の塩基配列からなり、KAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードし、かつ葉緑体移行シグナル配列をコードする領域の塩基配列が削除されていることが好ましい。後述の実施例で示すように、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質においてN末端側の葉緑体移行シグナル配列を削除することで、長鎖脂肪酸の生産性がさらに向上する。このようなタンパク質をコードするDNAとしては、5’末端側の塩基配列として、配列番号2の1位〜120位の任意の位置で5’末端側の塩基が欠失した塩基配列と、3’末端側の塩基配列として、配列番号2の121位〜1428位の塩基配列からなるDNAであってもよい。
また前記DNA(b)として、前記DNA(a)又は(b)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
また前記DNA(d)として、前記DNA(c)又は(d)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
以下本明細書において、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させたものを「形質転換体」ともいい、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させていないものを「宿主」又は「野生株」ともいう。
本発明で用いる形質転換体は、宿主自体に比べ、長鎖脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質の生産性(長鎖脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質の生産量、生産される全脂肪酸又は脂質に占める長鎖脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質の割合)が増加傾向にある。そしてその結果、当該形質転換体では、脂質中の脂肪酸組成が改変される。そのため、当該形質転換体を用いた本発明は、特定の炭素原子数の脂質、特に長鎖脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、好ましくは炭素原子数20以上の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数20〜24の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の飽和脂肪酸、1価の不飽和脂肪酸、若しくは2価の不飽和脂肪酸、及びこれを構成成分とする脂質、より好ましくは20、22若しくは24の飽和脂肪酸若しくは1価の不飽和脂肪酸、及びこれを構成成分とする脂質、の生産に好適に用いることができる。
なお、宿主や形質転換体の脂肪酸及び脂質の生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
前記KAS遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示す塩基配列に基づいて、KAS遺伝子を人工的に合成できる。KAS遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス・オキュラータからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、実施例で用いたナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145は、国立環境研究所(NIES)より入手することができる。
シアノバクテリアは多様性に富んでおり、細胞の形状のみを見ても、シネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803のような単細胞性のもの、ヘテロシストを形成し窒素固定を行うアナベナ・エスピー(Anabaena sp.)PCC7120のように多細胞がヒモ状に繋がっている糸状性のもの、又はらせん状や分岐状のもの等がある。
生育環境についても、別府温泉から単離されたサーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)BP-1のような好熱性のもの、海洋性で沿岸部に生息するシネココッカス・エスピー(Synechococcus sp.)CC9311、又は外洋に生息するシネココッカス・エスピーWH8102など、様々な条件に適応した種が見られる。
また、種独自の特徴を持つものとして、ミクロシスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)のように、ガス小胞を持ち毒素を産生することのできるものや、チラコイドを持たず集光アンテナであるフィコビリソームが原形質膜に結合しているグロイオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)PCC7421、又は一般的な光合成生物のようにクロロフィルaでなくクロロフィルdを主要な(>95%)光合成色素として持つ海洋性のアクリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)なども挙げられる。
本発明で好ましく用いることができる発現ベクターとしては、pUC系ベクター(タカラバイオ社製)、pBluescript(pBS) II SK(-)(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(Mckenzie,T. et al.,(1986),Plasmid 15(2);p.93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、pMW218/219(ニッポンジーン社製)、pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(クロンテック社製)、及びIN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)が挙げられる。このうち、pUC系ベクターがより好ましい。
また、目的DNA断片が組み込まれたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、及びゲンタマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することもできる。
またシアノバクテリアに導入する異種遺伝子は、シアノバクテリアにおけるコドン使用頻度にあわせてコドンを至適化されることが好ましい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。
形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。形質転換方法としては、自然形質転換法、エレクトロポレーション法、及び接合法が挙げられる。
脂質生産のための培養期間としては、十分に菌体が増殖した条件で脂肪酸が高濃度に蓄積するように行えばよく、例えば、7〜45日間、好ましくは7〜30日間、より好ましくは10〜14日間、通気攪拌培養又は振とう培養がすることが好適である。
脂質中に含まれる脂肪酸又は脂肪酸エステル化合物は、分散剤等の工業原料への利用の観点から、長鎖脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物が好ましく、炭素原子数20以上の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数20〜24の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数20、22若しくは24の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数20、22若しくは24の飽和脂肪酸、1価の不飽和脂肪酸、若しくは2価の不飽和脂肪酸、又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数20、22若しくは24の飽和脂肪酸若しくは1価の不飽和脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましい。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
<3>前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させて、シアノバクテリアの細胞内で生産される長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させ、生産される全脂肪酸又は全脂質中の脂肪酸又は脂質の組成を改変する、脂質の組成の改変方法。
<4>前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させる、長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産能をシアノバクテリアに付与する方法。
<6>前記タンパク質(B)が、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上190個以下、より好ましくは1個以上166個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上118個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上9個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<1>〜<5>のいずれか1項記載の方法。
<7>前記タンパク質(D)が、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上174個以下、好ましくは1個以上152個以下、好ましくは1個以上130個以下、好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上8個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<1>〜<5>のいずれか1項記載の方法。
<8>前記タンパク質(A)〜(D)が、長鎖β−ケトアシル−ACP合成活性を有するKASである、前記<1>〜<7>のいずれか1項記載の方法。
<9>前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子が、下記DNA(a)〜(d)のいずれか1つからなる遺伝子である、前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号45で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<10>前記DNA(b)が、前記DNA(a)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上571個以下、好ましくは1個以上499個以下、より好ましくは1個以上428個以下、より好ましくは1個以上357個以下、より好ましくは1個以上285個以下、より好ましくは1個以上214個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNA、又は前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAである、前記<9>項記載の方法。
<11>前記DNA(d)が、前記DNA(c)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上523個以下、好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上392個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上196個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上13個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNA、又は前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAである、前記<9>項記載の方法。
<12>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、である、前記<1>〜<11>のいずれか1項記載の方法。
<13>前記脂質が、長鎖脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、好ましくは炭素原子数20以上の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20〜24の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の飽和脂肪酸、1価の不飽和脂肪酸、若しくは2価の不飽和脂肪酸、又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の飽和脂肪酸若しくは1価の不飽和脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、を含む、前記<1>〜<12>のいずれか1項記載の方法。
<14>BG-11培地を用いて前記シアノバクテリアを培養する、前記<1>〜<13>のいずれか1項記載の方法。
<16>前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターをシアノバクテリアに導入してなる、形質転換体。
<17>前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターをシアノバクテリアに導入する、形質転換体の作製方法。
<18>前記タンパク質(A)〜(D)がそれぞれ、前記<6>又は<7>項で規定するタンパク質である、前記<15>〜<17>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<19>前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子が、前記DNA(a)〜(d)のいずれか1つからなる遺伝子である、前記<15>〜<18>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<20>前記DNA(b)及び(d)がそれぞれ、前記<10>又は<11>項で規定するDNAである、前記<19>項に記載の形質転換体又はその作製方法。
<21>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、である、前記<15>〜<20>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<23>前記脂質が、長鎖脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、好ましくは炭素原子数20以上の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20〜24の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の飽和脂肪酸、1価の不飽和脂肪酸、若しくは2価の不飽和脂肪酸、又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数20、22若しくは24の飽和脂肪酸若しくは1価の不飽和脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、を含む、前記<22>項記載の使用。
(1)カナマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生株のゲノムDNAを鋳型として、表1記載のプライマーpUC118/slr0168up-F(配列番号3)及びプライマーKmr/slr0168up-R(配列番号4)を用い、ニュートラルサイトslr0168領域の上流断片(slr0168up断片:配列番号5)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型として、表1記載のプライマーKmr/slr0168down-F(配列番号6)とプライマーpUC118/slr0168down-R(配列番号7)のプライマーセットを用いて、ニュートラルサイトslr0168領域の下流断片(slr0168down断片:配列番号8)を増幅した。
さらに、pJH1プラスミド(Trieu-Cuot P et al.,Gene,1983,vol.23,p.331-341)を鋳型として、表1記載のプライマーKmr-F(配列番号9)及びKmr-R(配列番号10)を用いてPCRを行い、カナマイシン耐性マーカー遺伝子断片(Kmr断片:配列番号11)を増幅した。
前記pUC118-slr0168::Kmプラスミドを鋳型とし、表1記載のプライマーKmr-F(配列番号9)及びプライマーslr0168up-R(配列番号12)を用いてPCRを行い、pUC118-slr0168::Kmプラスミドを線状化した。
次に、シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生株のゲノムDNAより、表1記載のプライマーslr0168up/Pcpc560-F(配列番号13)及びプライマーPcpc560-R(配列番号14)を用い、高発現cpc560プロモーター断片(Jie Z et al., Scientific Reports, 2014, vol. 4, p. 4500、Pcpc560断片:配列番号15)を増幅した。
また、シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生型ゲノムDNAより、表1記載のプライマーTrbc-F(配列番号16)及びKm/Trbc-R(配列番号17)を用いてPCRを行い、rbc遺伝子のターミネーター領域(Trbc断片:配列番号18)を増幅した。
さらに、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株より作製したcDNAライブラリーを鋳型として、表1記載のプライマーPcpc560/NoKASII-F(配列番号19)及びプライマーTrbc/NoKASII-R(配列番号20)を用いてPCRを行い、NoKASII断片(配列番号2)を増幅した。
得られたpUC118-slr0168::Pcpc560-NoKASII-Trbc-Kmプラスミドを用いて、自然形質転換法によりシネコシスティス・エスピーPCC6803株を形質転換し、カナマイシン耐性により選抜した。このようにして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノム上のslr0168領域中に、NoKASII遺伝子発現コンストラクトを導入したΔslr0168::NoKASII株を取得した。
ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株より作製したcDNAライブラリーを鋳型として、表1記載のプライマーPcpc560/NoKASII(-40)-F(配列番号21)及びプライマーTrbc/NoKASII-R(配列番号20)を用いてPCRを行い、葉緑体移行シグナルを削除したNoKASII遺伝子断片(NoKASII(-40)断片、配列番号2の121位〜1428位の塩基配列の5'末端側に開始コドン(ATG)を付加した塩基配列(配列番号45で表される塩基配列))を増幅した。
NoKASII断片に代えてNoKASII(-40)断片を用いた以外は作製例1と同様にして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株由来のニュートラルサイトslr0168領域中にcpc560プロモーター、NoKASII(-40)断片、rbcターミネーター、及びカナマイシン耐性遺伝子カセットがこの順で挿入された、pUC118-slr0168::Pcpc560-NoKASII(-40)-Trbc-Kmプラスミドを得た。
そして、pUC118-slr0168::Pcpc560-NoKASII-Trbc-Kmプラスミドに代えてpUC118-slr0168::Pcpc560-NoKASII(-40)-Trbc-Kmプラスミドを用いた以外は作製例1と同様にして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株を形質転換し、Δslr0168::NoKASII(-40)株を取得した。
シロイヌナズナより作製したcDNAライブラリーを鋳型として、表1記載のプライマーPcpc560/AtKASII-F(配列番号22)及びプライマーTrbc/AtKASII-R(配列番号23)を用いてPCRを行い、シロイヌナズナ由来のKASII(配列番号42)をコードするKASII遺伝子断片(AtKASII断片、NCBI Gene ID 843835、配列番号24)を増幅した。
NoKASII断片に代えてAtKASII断片を用いた以外は作製例1と同様にして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株由来のニュートラルサイトslr0168領域中にcpc560プロモーター、AtKASII遺伝子、rbcターミネーター、及びカナマイシン耐性遺伝子カセットがこの順で挿入された、pUC118-slr0168::Pcpc560-AtKASII-Trbc-Kmプラスミドを得た。
そして、pUC118-slr0168::Pcpc560-NoKASII-Trbc-Kmプラスミドに代えてpUC118-slr0168::Pcpc560-AtKASII-Trbc-Kmプラスミドを用いた以外は作製例1と同様にして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株を形質転換し、Δslr0168::AtKASII株を取得した。
下記表3に示す組成のBG-11培地10mLを加えた20mL三角フラスコ中で、作製例1〜3で作製した形質転換体、並びにシネコシスティス・エスピーPCC6803株(野生株)を10日間培養した。培養は一定の照明下(60μE・m-2・sec-1)、30℃にてロータリーシェーカー(120rpm)を用いて行い、初発菌体濃度をOD730=0.4に設定した。なお形質転換体を培養するBG-11培地には、カナマイシンを25μg/mLの濃度となるよう添加した。
乾固した脂質画分に0.5N KOHメタノール溶液0.7mLを加えて攪拌し、80℃で30分間恒温した。さらに、3フッ化ホウ素メタノール溶液1mLを加え、80℃で10分間メチルエステル化反応を行った。この反応液に、ヘキサン0.5mL及び飽和食塩水1mLを加えて攪拌し、室温にて10分間静置した後、上層のヘキサン層を回収して脂肪酸メチルエステルを得た。
(解析条件)
分析装置:7890A GC system(Agilent)
キャピラリーカラム:DB-WAX 20m×100μm×0.10μm(J&W Scientific)
移動相:高純度ヘリウム
カラム内流量:0.3mL/分
昇温プログラム:100℃(1分)→12.5℃/分(200℃まで)→5℃/分(250℃まで)→250℃(9分)
平衡化時間:0.5分
注入口:スプリット注入(スプリット比:50:1)
圧力:57.308psi
注入量:5μL
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム
検出器温度:350℃
ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各形質転換体の総脂肪酸量に占める、各種脂肪酸量の割合(%)を算出した。その結果を表4に示す。表4の結果は、同条件で行った3連の培養実験の平均値と標準偏差を示している。
これに対し、表4に示すように、ナンノクロロプシス・オキュラータ由来のNoKASII遺伝子を導入することで、シネコシスティス・エスピーPCC6803株は炭素原子数20以上の長鎖脂肪酸の生産能を獲得する。特に、葉緑体移行シグナルを削除したNoKASII遺伝子をシアノバクテリアに導入してなる形質転換体では、炭素原子数20以上の長鎖脂肪酸の生産量がより増加した。
一方、シネコシスティス・エスピーPCC6803株にシロイヌナズナ由来のAtKASII遺伝子を導入しても、炭素原子数20以上の長鎖脂肪酸の産生を検知することができなかった。
(1)カナマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942の野生株のゲノムDNAを鋳型として、表2記載のプライマーpUC118/NS1up-F(配列番号25)とプライマーKmr/NS1up-R(配列番号26)のプライマーセットを用いて、ニュートラルサイトNS1領域の上流断片(NS1up断片:配列番号27)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型として、表2記載のプライマーKmr/NS1down-F(配列番号28)とプライマーpUC118/NS1down-R(配列番号29)のプライマーセットを用いて、ニュートラルサイトNS1領域の下流断片(NS1down断片:配列番号30)を増幅した。
前記pUC118-NS1::Kmプラスミドを鋳型とし、表1記載のプライマーKmr-R(配列番号10)及び表2記載のプライマーNS1down-F(配列番号31)を用いてPCRを行い、pUC118-NS1::Kmプラスミドを線状化した。
次に、pTrc99Aクローニングベクター(NCBI Accession number M22744)の配列より人工合成したtrcプロモーター配列を鋳型に、表2記載のプライマーKmr/Ptrc-F(配列番号32)及びプライマーPtrc-R(配列番号33)を用いてPCRを行い、Ptrc断片(配列番号34)を増幅した。
また、シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生型ゲノムDNAより、表1記載のプライマーTrbc-F(配列番号16)及びNS1down/Trbc-R(配列番号35)を用いてPCRを行い、Trbc断片(配列番号18)を増幅した。
さらに、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株より作製したcDNAライブラリーを鋳型として、表2記載のプライマーPtrc/NoKASII-F(配列番号36)及びプライマーTrbc/NoKASII-R(配列番号20)を用いてPCRを行い、NoKASII断片(配列番号2)を増幅した。
得られたpUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII-Trbcプラスミドを用いて、自然形質転換法によりシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株を形質転換し、カナマイシン耐性により選抜した。このようにして、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株のゲノム上のNS1領域中に、NoKASII遺伝子発現コンストラクトを導入したΔNS1::NoKASII株を取得した。
ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株より作製したcDNAライブラリーを鋳型として、表2記載のプライマーPtrc/NoKASII(-40)-F(配列番号37)及びプライマーTrbc/NoKASII-R(配列番号20)を用いてPCRを行い、葉緑体移行シグナルを削除したNoKASII遺伝子断片(NoKASII(-40)断片、配列番号2の121位〜1428位の塩基配列の5'末端側に開始コドン(ATG)を付加した塩基配列(配列番号45で表される塩基配列))を増幅した。
NoKASII断片に代えてNoKASII(-40)断片を用いた以外は作製例4と同様にして、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942由来のニュートラルサイトNS1領域中にカナマイシン耐性遺伝子カセット、trcプロモーター領域、NoKASII(-40)断片、及びrbcターミネーターがこの順で挿入された、pUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII(-40)-Trbcプラスミドを得た。
そして、pUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII-Trbcプラスミドに代えてpUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII(-40)-Trbcプラスミドを用いた以外は作製例4と同様にして、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株を形質転換し、ΔNS1::NoKASII(-40)株を取得した。
シロイヌナズナより作製したcDNAライブラリーを鋳型として、表2記載のプライマーPtrc/AtKASII-F(配列番号38)及び表1に記載のプライマーTrbc/AtKASII-R(配列番号23)を用いてPCRを行い、シロイヌナズナ由来のKASII(配列番号42)をコードするKASII遺伝子断片(AtKASII断片、NCBI Gene ID 843835、配列番号24)を増幅した。
NoKASII断片に代えてAtKASII断片を用いた以外は作製例5と同様にして、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942由来のニュートラルサイトNS1領域中にカナマイシン耐性遺伝子カセット、trcプロモーター領域、AtKASII遺伝子、及びrbcターミネーターがこの順で挿入された、pUC118-NS1::Km-Ptrc-AtKASII-Trbcプラスミドを得た。
そして、pUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII-Trbcプラスミドに代えてpUC118-NS1::Km-Ptrc-AtKASII-Trbcプラスミドを用いた以外は作製例4と同様にして、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株を形質転換し、ΔNS1::AtKASII株を取得した。
大腸菌K12株より抽出したゲノムDNAを鋳型として、表2記載のプライマーPtrc/EcKASII-F(配列番号39)及びプライマーTrbc/EcKASII-R(配列番号40)を用いてPCRを行い、大腸菌由来のKASII(配列番号43)をコードするKASII遺伝子断片(EcKASII断片、EcoGene Accession Number EG12606:配列番号41)を増幅した。
NoKASII断片に代えてEcKASII断片を用いた以外は作製例5と同様にして、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942由来のニュートラルサイトNS1領域中にカナマイシン耐性遺伝子カセット、trcプロモーター領域、EcKASII遺伝子、及びrbcターミネーターがこの順で挿入された、pUC118-NS1::Km-Ptrc-EcKASII-Trbcプラスミドを得た。
そして、pUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII-Trbcプラスミドに代えてpUC118-NS1::Km-Ptrc-EcKASII-Trbcプラスミドを用いた以外は作製例4と同様にして、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株を形質転換し、ΔNS1::EcKASII株を取得した。
作製例4〜7で作製した形質転換体、並びにシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株(野生株)について、試験例1と同様の条件下で培養し、脂質の製造を行った。
培養終了後、試験例1と同様に、総脂肪酸量に占める各種脂肪酸量の割合(%)の算出を行った。その結果を表5に示す。
これに対し、表5に示すように、ナンノクロロプシス・オキュラータ由来のNoKASII遺伝子を導入することで、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株は炭素原子数20の長鎖脂肪酸の生産能を獲得する。特に、葉緑体移行シグナルを欠失して削除したNoKASII遺伝子をシアノバクテリアに導入してなる形質転換体では、炭素原子数20の長鎖脂肪酸の生産量がより増加し、炭素原子数22以上の長鎖脂肪酸の生産能も獲得した。
一方、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株にシロイヌナズナ由来のAtKASII遺伝子や大腸菌由来のEcKASII遺伝子を導入しても、炭素原子数20以上の長鎖脂肪酸の産生を検知することができなかった。
よって、前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現を促進させることで、長鎖脂肪酸の生産性を獲得又は向上させた形質転換体を作製することができる。そしてこの形質転換体を培養することで、長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させることができる。
遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、NoKASIIのアミノ酸配列に対する、シロイヌナズナ由来のKASII(AtKASII)及び大腸菌由来のKASII(EcKASII)のアミノ酸配列の同一性を算出した。その結果、NoKASIIのアミノ酸配列(配列番号1)に対する、AtKASIIのアミノ酸配列(配列番号42)の同一性は39%であった。また、NoKASIIのアミノ酸配列(配列番号1)に対する、EcKASIIのアミノ酸配列(配列番号43)の同一性は44%であった。
さらに、NoKASII遺伝子の塩基配列に対する、AtKASII遺伝子及びEcKASII遺伝子の塩基配列の同一性を算出した。その結果、NoKASII遺伝子の塩基配列(配列番号2)に対する、AtKASII遺伝子の塩基配列(配列番号24)の同一性は49%であった。また、NoKASII遺伝子の塩基配列(配列番号2)に対する、EcKASII遺伝子の塩基配列(配列番号41)の同一性は52%であった。
Claims (14)
- 下記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させた形質転換体を培養して炭素原子数が20以上の長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。 - 下記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させ、シアノバクテリアの細胞内で生産される炭素原子数が20以上の長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質生産性の向上方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。 - 下記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させて、シアノバクテリアの細胞内で生産される炭素原子数が20以上の長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させ、生産される全脂肪酸又は全脂質中の脂肪酸又は脂質の組成を改変する、脂質の組成の改変方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。 - 下記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させる、炭素原子数が20以上の長鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産能をシアノバクテリアに付与する方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。 - 前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子をシアノバクテリアに導入して前記遺伝子の発現を促進させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 前記タンパク質(A)〜(D)が、長鎖β−ケトアシル−ACP合成活性を有するβ−ケトアシル−ACPシンターゼである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
- 前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子が、下記DNA(a)〜(d)のいずれか1つからなる遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号45で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 前記シアノバクテリアが、シネコシスティス(Synechocystis)属又はシネココッカス(Synechococcus)属のシアノバクテリアである、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
- 前記脂質が長鎖脂肪酸又はそのエステル化合物を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
- 下記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させた形質転換体。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。 - 下記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターをシアノバクテリアに導入してなる形質転換体。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。 - 前記タンパク質(A)〜(D)が、長鎖β−ケトアシル−ACP合成活性を有するβ−ケトアシル−ACPシンターゼである、請求項10又は11に記載の形質転換体。
- 前記タンパク質(A)〜(D)の少なくともいずれか1つをコードする遺伝子が、下記DNA(a)〜(d)のいずれか1つからなる遺伝子である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の形質転換体。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号45で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 前記シアノバクテリアが、シネコシスティス(Synechocystis)属又はシネココッカス(Synechococcus)属のシアノバクテリアである、請求項10〜13のいずれか1項記載の形質転換体。
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