以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11、中心電極13、主体金具15及び接地電極16を備えている。
絶縁体11は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ基焼結体からなる略円筒状の部材である。絶縁体11は、軸線Oに沿って貫通する軸孔12が形成されている。中心電極13は、軸孔12に挿入されると共に絶縁体11の先端側に保持される金属製(例えばニッケル基合金製)の棒状の電極である。
端子金具14は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具14は絶縁体11に取り付けられ、端子金具14の先端側は軸孔12内に配置される。端子金具14は中心電極13と軸孔12内で電気的に接続される。
主体金具15は、内燃機関のねじ穴(図示せず)に固定される略円筒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。接地電極16は主体金具15に接合される金属製(例えばニッケル基合金製)の棒状の部材である。接地電極16は、中心電極13と火花ギャップを介して対向する。
図2は絶縁体11の組織の模式図である。図2は、絶縁体11の組織のごく一部を拡大したものが図示されている。アルミナ基焼結体からなる絶縁体11は、アルミナ(Al2O3)を主体とする結晶粒20と、結晶粒20の境界である結晶粒界21と、を備えている。結晶粒界21には、2つの結晶粒20の境界である二結晶粒界22と、3つ以上の結晶粒20の境界である多結晶粒界23と、がある。
絶縁体11を構成するアルミナ基焼結体は、Al,Si,Ba及び希土類元素を含有する。アルミナ基焼結体は、Al2O3に換算して、Al成分を90〜98wt%含有する。これにより、焼結性を確保すると共に良好な耐電圧性能を得ることができる。Al成分はAl2O3,BaAl 12 O19,BaAl2Si2O8等の結晶相を形成して結晶粒20に存在し、結晶粒界21にも存在する。
Si成分は焼結助剤由来の成分であり、酸化物、イオン等としてアルミナ基焼結体に存在する。Si成分は、通常、焼結時には溶融して液相を形成し、焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。焼結後は、BaAl 12 Si2O8等の結晶相を形成して結晶粒20に存在し、ガラスの骨格の一部となって結晶粒界21にも存在する。アルミナ基焼結体は、SiO2に換算して、Si成分を1〜5wt%、好ましくは1〜2.7wt%含有する。これにより、焼結体の緻密化を促進させる一方、低融点のガラス相が結晶粒界21に過剰に形成されないようにできる。また、Si成分はAl成分およびBa成分と共に、Al2O3と密着性の高いBaAl2Si2O8を形成して耐電圧特性および機械的特性を向上させる。
Ba成分は焼結助剤由来の成分であり、酸化物、イオン等としてアルミナ基焼結体に存在する。Ba成分は、通常、焼結時には溶融して液相を形成し、焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。焼結後は、BaAl 12 O19,BaAl2Si2O8等の結晶相を形成して結晶粒20に存在し、結晶粒界21にも存在する。
アルミナ基焼結体は、BaOに換算して、Ba成分を0.3〜6wt%、好ましくは1〜6wt%含有する。これにより、焼結体の緻密化を促進させる一方、低融点のガラス相が結晶粒界21に過剰に形成されないようにできる。さらに、低融点のガラスを形成し易いSiと共にBaAl2Si2O8等の結晶相を形成することにより、Siを含むガラス相の形成を抑制して耐電圧特性および機械的強度を向上させる。
アルミナ基焼結体は、Ba以外のMg,Ca等のアルカリ土類金属を含有することができる。Mg成分およびCa成分は、Ba成分と同様に焼結助剤として機能する。焼結後は、酸化物、イオン等として結晶粒20や結晶粒界21に存在する。アルミナ基焼結体は、MgOに換算して、Mg成分を0.1〜1wt%含有する。また、CaOに換算して、Ca成分を2wt%以下、好ましくは0.3wt%以下含有する。これにより、焼結体の緻密化を促進させる一方、低融点のガラス相が結晶粒界21に過剰に形成されないようにできる。
希土類成分は焼結助剤由来の成分であり、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuを含む。希土類成分は、酸化物、イオン等として結晶粒20や結晶粒界21に存在する。希土類成分は、焼結時にアルミナの異常粒成長を抑制し、絶縁体の機械的強度を確保する。希土類成分は、Y,La,Pr,Nd及びYbを含む成分が、取り扱いが容易なため好適である。アルミナ基焼結体は、酸化物換算で、希土類成分を0.11〜5wt%含有する。これにより、焼結時のアルミナの異常粒成長を抑制する一方、低融点のガラス相が結晶粒界21に過剰に形成されないようにできる。
アルミナ基焼結体は、この発明の目的を損なわない範囲で、不可避不純物などの他の元素を含有しても良い。他の元素としては、Na,S,N,B,Ti,Mn,Ni等が挙げられる。Na成分を含有する場合、Na2Oに換算して、100〜2000ppmが好ましい。アルミナ基焼結体を緻密化できると共に、Naの結晶粒界への析出を抑制して高温環境下における耐電圧性能を確保するためである。
次に、絶縁体11及びスパークプラグ10の製造方法について具体的に説明する。絶縁体11の原料粉末として、主成分としてのAl化合物粉末、Si化合物粉末、Ba化合物粉末および希土類化合物粉末と、バインダーと、溶媒とを混合して、スラリーを調製する。必要に応じて、可塑剤、消泡剤、分散剤等の添加物を添加してもよい。各原料粉末の混合は、原料粉末の混合状態を均一にし、かつ得られる焼結体を高度に緻密化することができるように、8時間以上にわたって行われるのが好ましい。
Al化合物粉末は、焼成によりアルミナに転化する化合物であれば特に制限はなく、通常、アルミナ粉末が用いられる。Al化合物粉末は、現実的に不可避不純物としてNa成分を含有していることがあるので、高純度のものを用いるのが好ましく、例えば、Al化合物粉末における純度は99.5%以上であるのが好ましい。
Al化合物粉末は、緻密なアルミナ基焼結体を得るには、通常、その平均粒径が0.1〜5.0μmの粉末を使用するのがよい。この平均粒径は、レーザー回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000))により測定した値である。
Al化合物粉末は、焼成後のアルミナ基焼結体の質量(酸化物換算)を100質量%としたときに、酸化物換算で90質量%以上98質量%以下となるように調製されることが、良好な耐電圧性能を得る上で好ましい。
Si化合物粉末、Ba等のアルカリ土類金属の化合物粉末および希土類化合物粉末は、焼成によりSi、アルカリ土類金属および希土類の酸化物に転化できる化合物であれば特に制限はなく、例えば、各元素の酸化物、その複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の各種無機系粉末、又は天然鉱物の粉末等を挙げることができる。なお、Si化合物粉末等として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの質量%で把握する。Si化合物粉末等の純度および平均粒径はAl化合物粉末の場合と基本的に同様である。
バインダーは、原料粉末の成形性を良好にすることができればよく、そのようなバインダーとして親水性結合剤を挙げることができる。親水性結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、水溶性アクリル樹脂、アラビアゴム、デキストリン等を挙げることができる。これらのバインダーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
バインダーとしては、結晶化を阻害しないように、Na成分およびK成分の少ないものを使用するのが好ましい。バインダーは、原料粉末100質量部に対して、0.1〜7質量部の割合で配合されるのが好ましく、1〜5質量部の割合で配合されるのが特に好ましい。
溶媒は、原料粉末を分散させることができればよく、そのような溶媒として水、アルコール等を挙げることができる。これらの溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒は、原料粉末100質量部に対して、40〜120質量部であるのが好ましく、50〜100質量部であるのが特に好ましい。
原料粉末、バインダー、溶媒等を混合して得られたスラリーは、スプレードライ法等により噴霧乾燥されて球状の造粒物に調製される。この造粒物の平均粒径は、30〜200μmが好ましく、50〜150μmが特に好ましい。この平均粒径は、レーザー回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000))により測定した値である。
次に、この造粒物を例えばラバープレス又は金型プレス等でプレス成形して成形体を得る。得られた成形体は、その外面がレジノイド砥石等で研削されることにより形状が整えられる。なお、成形体の成形方法はプレス成形に限られるものではなく、射出成形等の他の成形方法を採用することは当然可能である。
所望の形状に整形された成形体を、大気雰囲気下、1450℃以上の最高温度まで4時間以内に昇温し、最高温度で1〜1.5時間焼成した後、冷却することにより、アルミナ基焼結体が得られる。アルミナの異常粒成長を抑制して、得られるアルミナ基焼結体(絶縁体11)の耐電圧性能および機械的強度を確保する。
一方、Ni基合金等の電極材料を所定の形状および寸法に加工して中心電極13及び接地電極16を作製する。所定の形状および寸法に塑性加工等によって形成した主体金具15に接地電極16を抵抗溶接等によって接合する。絶縁体11に中心電極13及び端子金具14を公知の方法により組み付け、接地電極16が接合された主体金具15に絶縁体11を組み付ける。接地電極16の先端部を中心電極13側に折り曲げて、接地電極16の先端が中心電極13の先端と対向するようにして、スパークプラグ10が製造される。
絶縁体11は、酸化物換算で、Si成分を1〜5wt%、Mg成分を0.1〜1wt%、Ca成分を2wt%以下、Ba成分を0.3〜6wt%、希土類成分を0.11〜5wt%含有する。これにより、低融点のガラス相が焼成時に適度に形成されるので、アルミナ基焼結体を緻密化できる。なお、元素の定量分析は、例えばICP発光分光分析やICP質量分析等によって行われる。
次に図3から図5を参照して、エネルギー分散型X線分析装置が付いた走査透過型電子顕微鏡(STEM−EDS)を用いて絶縁体11を分析した結果を説明する。図3(a)は絶縁体11のSTEM像である。図3(b)はSTEM−EDSによるAlの分布を示す図であり、図3(c)はLaの分布を示す図であり、図3(d)はBaの分布を示す図であり、図3(e)はMgの分布を示す図であり、図3(f)は酸素の分布を示す図である。
図4は電子線回折図形の測定点1〜6の位置を示す絶縁体11のSTEM像である。なお、図4で示す測定点1〜6は全て粒界三重点(多結晶粒界23、図2参照)である。図5(a)は測定点1における電子線回折図形であり、図5(b)は測定点2における電子線回折図形であり、図5(c)は測定点3における電子線回折図形であり、図5(d)は測定点4における電子線回折図形であり、図5(e)は測定点5における電子線回折図形であり、図5(f)は測定点6における電子線回折図形である。図3から図5は、STEM−EDSを用いて電子線のプローブ径が1.0nmの条件下で絶縁体11を50,000倍の倍率で分析した結果である。図4に付したバーの一目盛は60nmを示している。
なお、絶縁体11は、STEM−EDSを用いて電子線のプローブ径が1.0nmの条件下で200,000倍の倍率で分析したときに、結晶粒界21(図2参照)のうち厚さ15nm以下の部分を無作為に選択した測定点において、Si及び希土類が検出される。Si及び希土類が検出された測定点において、Ba,Mg,Ca,Sr等のアルカリ土類金属は検出限界未満であり、検出されない。二結晶粒界22にアルカリ土類金属が検出されないように絶縁体11を調製することにより、高温環境下における二結晶粒界22の脆化を抑制できる。その結果、絶縁体11の高温環境下における耐電圧性能を向上できる。
図3(c)及び図3(d)と図4とを照合すると、測定点1〜4ではBaが存在し、測定点5,6ではLaが存在していることが確認できる。また、図5(a)から図5(d)に示すように、測定点1〜4の電子線回折図形には回折斑点が存在し、ブロードな円環状のハローパターンがみられない。これにより、測定点1〜4は結晶化していることがわかる。絶縁体11は、Baが検出される部分が結晶化しているので、多結晶粒界23等のBaが検出される部分の高温環境下における脆化を抑制できる。よって、絶縁体11の高温環境下での耐電圧性能を向上できる。さらに、強度が劣るSiO2−BaO−La2O3系のガラス相の生成を抑制できるので、絶縁体11の強度を向上できる。
絶縁体11は、図3(d)で確認された、Baが検出される部分の中の中央付近の任意の10点の測定点のうち、電子線回折図形にハローパターンがみられる測定点が3点以上となるように調製されるのが好ましい。この条件を満たす場合には、Baによりアルミナ基焼結体の緻密化を促進させることができ、さらに多結晶粒界23等のBaが存在する部分の高温環境下における脆化を抑制できる。よって、絶縁体11の高温環境下での耐電圧性能を向上できる。
一方、図5(e)及び図5(f)に示すように、La(希土類元素)が検出される測定点5,6の電子線回折図形はブロードな円環状のハローパターンがみられる。これにより、測定点5,6は非晶質(ガラス相)であることがわかる。絶縁体11は、希土類元素が検出される部分の中の任意の10点の測定点のうち、ハローパターンがみられ、非晶質であることがわかる測定点が5点以上あるように調製されるのが好ましい。この場合には、焼結時にアルミナの粒成長を促進する希土類成分の結晶化を抑制することにより、アルミナの異常粒成長を抑制できる。よって、絶縁体11の機械的強度を確保できる。
絶縁体11は、回折角および相対強度で特定されるX線回折図形において、BaAl 12 O19の回折強度II(2θ:35.74°)に対するBaAl2Si2O8の回折強度I(2θ:22.50°)の比率(I/II)が0.5以上に設定されるのが好ましい。これにより、Baを含みSiを含まないBaAl 12 O19等の結晶相に比べて、Al2O3との密着性が高いBa及びSiを含むBaAl2Si2O8等の結晶相の比率を多くできる。Ba系の結晶相とアルミナの結晶相との間の界面を破壊され難くできるので、絶縁体11の耐電圧性能を向上できる。
絶縁体11は、結晶粒20(図2参照)の平均粒径が0.3〜1.0μmに調製されるのが好ましい。平均粒径はインターセプト法により求める。インターセプト法では、軸線Oを含む絶縁体11の研磨断面に、既知の長さの試験線(直線)を引き、試験線が通過または捕捉した結晶粒20の数を求め、この数から平均粒径を得る。結晶粒20の平均粒径を0.3〜1.0μmとすることにより、絶縁体11の機械的強度を向上できる。
絶縁体11は、表面の算術平均粗さ(Ra)が1μm以下に調製されると好ましい。表面の凹凸を絶縁体11の破断の起点になり難くするためである。絶縁体11が射出成形によって成形されると、絶縁体11のRaをこの範囲に調製できる。これにより、絶縁体11の機械的強度を確保できる。
算術平均粗さは、JIS B0601:1994年に準拠して測定される。算術平均粗さRaの測定は、非接触式の形状測定レーザマイクロスコープVK−X110/X100(キーエンス社製)や、SEM等の顕微鏡やマイクロスコープ等で得られた画像を解析する画像解析ソフトWinROOF(三谷商事製)を用いて行われる。
絶縁体11の相対密度は94〜99%であると好ましい。耐電圧特性と機械的強度とを確保するためである。相対密度は、実験(アルキメデス法)により求めた密度を理論密度で除した値である。理論密度は、ICP発光分光分析およびICP質量分析により、アルミナ基焼結体(絶縁体11)のうちAl以外に0.1wt%以上含まれる元素を定量分析し、その他をAl2O3として算出する。
さらに、絶縁体11の任意の断面を鏡面研磨した面内に存在する気孔のうち1μm以上の大きさの気孔の割合が1%以下であると好ましい。気孔への応力集中を抑制するためである。これにより、絶縁体11の高温環境下における耐電圧特性と機械的強度とを向上できる。
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(アルミナ基焼結体の製造)
原料粉末として、平均粒径が0.2〜2.1μmのアルミナ粉末、SiO2粉末、及び、Ba,Ca,Mg,Laの炭酸塩粉末を準備した。これらの粉末を種々の割合で混合した原料粉末と、バインダーとしてのポリビニルアルコールと、溶媒としての水とを混合して種々のスラリーを調製した。
得られたスラリーをスプレードライ法等により噴霧乾燥し、平均粒径が約100μmの球状の造粒物に調製した。得られた造粒物に熱可塑性樹脂を混練した後、射出成形することにより、種々の成形体を得た。この成形体を大気雰囲気下において、温度1450℃〜1650℃の範囲内の焼成時間を1〜8時間に設定して、サンプル1〜29における種々の焼結体(絶縁体11の形状に焼成した試料を含む)を得た。以下、サンプル(焼結体)の評価方法について説明する。
(成分分析)
サンプル1〜12における焼結体の組成、即ち各成分の含有率を、ICP発光分光分析により検出した。検出された各成分の酸化物換算の質量の合計を100wt%としたときの質量割合(%)として、各成分の含有率を算出した。
(STEM−EDS)
サンプル1〜23,27〜29における焼結体について、STEM−EDS(日立製作所製HD−2000)を用いて組成に関する情報を得た。加速電圧は200kV、電子線のプローブ径は1.0nmとし、EDSによる元素分析、元素マッピング、電子線回折を50,000倍の倍率で行った。
EDSによる元素分析は、結晶粒界21(図2参照)のうち厚さ15nm以下の部分に電子を3分間照射してデータを取得した。その部分におけるアルカリ土類金属の分析は薄膜近似法により行い、Si−K線の強度に対するBa−L線またはCa−K線の強度から算出した濃度比が10.0%以下の場合は、ノイズによる影響と判断して、その部分にアルカリ土類金属は存在しない(検出限界未満)とした。
また、元素マッピングによってBaが検出された部分の中の中央付近の任意の10点の測定点について電子線回折を行った。また、Laが検出された粒界三重点の中の任意の10点の測定点について電子線回折を行った。各測定点の電子線回折図形がハローパターンかどうかを調べた。
(平均粒径)
サンプル1〜29における焼結体(絶縁体11)について、軸線O(図1参照)を含む断面を鏡面研磨した後、熱エッチング処理を行った。熱エッチング処理の代わりに化学エッチング処理を行っても良い。SEMを用いて、エッチング処理を行った断面を観察した。SEMの加速電圧は15kV、作動距離は10〜12mmとした。1視野の大きさを200μm×200μmとする矩形領域のSEM画像を、無作為に10視野撮影した。
次いで、インターセプト法によって平均粒径を求めた。まず、得られたSEM画像の矩形領域の2つの対角線の少なくとも一方と交差する結晶粒を選択し、選択された個々の結晶粒について、その最大径を求めてこれを長径D1とした。最大径は、その結晶粒の外径をあらゆる方向から測定したときの最大値である。そして、長径D1の中点を通り長径D1と直交する直線上における結晶粒の外径を短径D2とした。長径D1と短径D2の平均値を、その結晶粒のみなし粒径とした。対角線の少なくとも一方と交差するn個の結晶粒のみなし粒径の平均値を、その視野における平均粒径とした。平均粒径はSEM画像の視野ごとに多少の差が発生するので、10視野の平均値を平均粒径とした。
(耐電圧試験)
図6に示す耐電圧試験装置30を用いて、サンプル1〜20,24〜26における有底筒状の試料41(アルミナ基焼結体)の800℃における高温耐電圧試験を行った。図6は耐電圧試験装置30の断面図である。
図6に示すように、試料41は軸線方向の中心に軸孔42が形成されている。軸孔42は先端が塞がれている。試料41は、軸孔42の先端の開口が塞がれた円筒状の小径部43と、小径部43よりも外径が大きい円筒状の大径部44とを備えている。小径部43及び大径部44は軸線方向に連接されている。耐電圧試験装置30は、金属製の環状部材31と、環状部材31を加熱するヒータ32と、環状部材31との間に高電圧が印加される棒状の電極33とを備えている。電極33はNi合金製である。
試料41の軸孔42の開口から軸孔42の先端まで電極33を挿入し、試料41の小径部43と大径部44との境界付近の外周面に環状部材31の内周面が接するように環状部材31を配置した状態で、試料41の耐電圧を測定した。
具体的には、試料41の周囲が800℃になるまでヒータ32で加熱した状態で、環状部材31と電極33との間に電圧を印加した。電圧は1.5kV/秒の割合で昇圧し、試料41に絶縁破壊が発生したとき、即ち試料41が貫通して昇圧できなくなったときの電圧値を測定した。
絶縁破壊した試料41を耐電圧試験装置30から取り出し、絶縁破壊して貫通した部分の試料41の外周面から軸孔42までの厚さを測定した。絶縁破壊が発生したときの電圧値を厚さで除した値(kV/mm)を耐電圧とした。
(曲げ強度)
JIS R1601:2008年に基づいて、室温(5〜35℃)における3点曲げ強さを測定した。
(算術平均粗さ)
サンプル21〜23における焼結体(絶縁体11)について、形状測定レーザマイクロスコープVK−X110/X100(キーエンス社製)を用いて、絶縁体11の先端部の軸線O方向における算術平均粗さを測定した。
(ベンディング試験)
サンプル21〜23における焼結体(絶縁体11)について、材料試験機を用いて、周方向における異なる3方向から絶縁体11(図1参照)の先端部に対して軸線Oと直交する向きの荷重を加え、絶縁体11に破壊が生じたときの荷重(破壊荷重)を測定した。
(X線回折)
サンプル24〜26における焼結体に研磨処理を施した後、株式会社リガク製のX線回折装置(型式:Smart Lab)を用いて、X線:CuKα(λ1.54Å)、X線出力:40kV−30mA、スキャンスピード(計数時間):20.0、サンプリング幅:0.02deg、入射スリット:1/2deg、受光スリット(1):15.000mm、受光スリット(2):20.000mmの測定条件でX線回折分析をした。
得られたX線回折図形から、BaAl 12 O19の回折強度II(2θ:35.74°)に対するBaAl2Si2O8の回折強度I(2θ:22.50°)の比率(I/II)を算出した。X線回折図形における各ピークの回折強度は、株式会社リガク製のデータ解析ソフト「ピークサーチ」を用い、平滑化:加重平均(平滑化点数11)、バックグラウンド除去(ピーク幅閾値0.10、強度閾値0.01)の条件でデータ処理することにより求めた。
なお、サンプル1〜29における焼結体の相対密度は94〜99%であり、焼結体の任意の断面を鏡面研磨した面内に存在する気孔のうち1μm以上の大きさの気孔の割合は1%未満であった。また、サンプル1〜29における焼結体は、Na成分の含有率が、酸化物(Na2O)換算で100〜2000ppmであった。
表1は、サンプル1〜12の組成、15nm以下の厚さの結晶粒界に検出された元素、平均粒径、800℃における耐電圧および曲げ強度の測定結果である。
サンプル1〜10は結晶粒界にSi及びLaが検出されたのに対し、サンプル11,12は、Si及びLaに加えてBa又はCaが結晶粒界に検出された。サンプル1〜10の耐電圧は、結晶粒界にBa又はCaが検出されたサンプル11,12の耐電圧に比べて著しく高いことがわかった。サンプル1〜10は、高温環境下における結晶粒界の脆化を抑制できるので、サンプル11,12に比べて、高温環境下における耐電圧性能を向上できたと推察される。
なお、サンプル12の結晶粒界にCaが検出されたのは、Ca成分の含有率が2wt%よりも高かったからであると推察される。また、サンプル11の結晶粒界にBaが検出されたのは、他のサンプルよりも焼成時間が長かったからであると推察される。
Ba成分の含有率が1wt%よりも低いサンプル2,10は、他のサンプルに比べて曲げ強度が低いことがわかった。サンプル2,10は、Ba成分の含有率が低く、BaAl2Si2O8等のSiを含む結晶相が形成され難いため、Siを含むガラス相の形成を抑制する効果が乏しくなり、結晶粒界の強度が低下したと推察される。
Ca成分の含有率が0.3wt%よりも高いサンプル8は、サンプル1,3〜7,9に比べて曲げ強度が低いことがわかった。サンプル8は、Ca成分によって強度の低いガラス相が結晶粒界に形成されたので、強度が低下したと推察される。
Si成分の含有率が2.7wt%以下のサンプル5,7は、曲げ強度が710MPa以上あることがわかった。サンプル5,7は、Si成分の含有率が低く、強度の低いガラス相の生成を抑制できたので、強度が向上したと推察される。
表2は、サンプル13〜20の15nm以下の厚さの結晶粒界に検出された元素、Baが検出された部分の中の中央付近の任意の10点の測定点のうち、電子線回折図形がハローパターンだった測定点の数、平均粒径、800℃における耐電圧および曲げ強度の測定結果である。
サンプル19,20は、Baが検出された部分の中の任意の10点の測定点のうちハローパターンが3点または5点みられたサンプルであり、サンプル1〜18に比べて、Baが検出された部分の結晶化が進行していないことを示している。サンプル19,20は、サンプル1〜18に比べて、耐電圧が低いことがわかった。さらに、ハローパターンがみられる測定点が5点のサンプル20は、ハローパターンがみられる測定点が3点のサンプル19に比べて耐電圧が低いことがわかった。これにより、高温環境下での耐電圧を向上させるため、Baが検出された部分(主に多結晶粒界23)の結晶化を進行させ、高温環境下における多結晶粒界23(図2参照)等の脆化を抑制することが有効であると推察される。
サンプル13〜17は結晶粒界(主に二結晶粒界22)にSi及びLaが検出されたのに対し、サンプル18はSi及びLaに加えてBaが結晶粒界に検出された。サンプル13〜17の耐電圧は、サンプル18の耐電圧に比べて高いことがわかった。サンプル13〜17は、高温環境下における二結晶粒界22(図2参照)の脆化を抑制できるので、サンプル18に比べて、高温環境下における耐電圧性能を向上できたと推察される。従って、高温環境下における耐電圧性能を向上させるには、サンプル13〜17のように、15nm以下の厚さの結晶粒界にSi及びLa(希土類元素)を存在させ、Baが検出された部分の電子線回折図形に回折斑点を存在させるのが良いことがわかった。
サンプル16は平均粒径が0.3μm未満のサンプルであり、サンプル17は平均粒径が1.0μmより大きいサンプルである。平均粒径が0.3〜1.0μmのサンプル13〜15は、サンプル16,17に比べて、曲げ強度が大きいことがわかった。サンプル16は焼成時の粒成長が不十分のため強度が低く、サンプル17は粗大粒子が存在して強度が低下したと推察される。
表3は、サンプル21〜23の15nm以下の厚さの結晶粒界に検出された元素、Baが検出された部分の中の中央付近の任意の10点の測定点のうち電子線回折図形がハローパターンだった測定点の数、平均粒径、絶縁体11の先端部の算術平均粗さ及びベンディング試験における破壊荷重の測定結果である。
サンプル23は、算術平均粗さが1.0μmより大きいサンプルである。算術平均粗さが1.0μm以下のサンプル21,22は、サンプル23に比べて、ベンディング試験の破壊荷重が大きいことがわかった。サンプル23は、絶縁体11の先端部の表面の凹凸が破壊の起点となり、破壊荷重が小さくなったと推察される。
表4は、サンプル24〜26の15nm以下の厚さの結晶粒界に検出された元素、X線回折図形から算出したBaAl 12 O19の回折強度II(2θ:35.74°)に対するBaAl2Si2O8の回折強度I(2θ:22.50°)の比率(I/II)、平均粒径および800℃における耐電圧の測定結果である。
サンプル26はI/IIが0.5未満のサンプルである。I/IIが0.5以上のサンプル24,25は、サンプル26に比べて、耐電圧が大きいことがわかった。サンプル26は、サンプル24,25に比べてBaAl
12 O
19の量が多く、Al
2O
3の結晶相とBaAl
12 O
19の結晶相との界面の接合強度は、Al
2O
3の結晶相とBaAl
2Si
2O
8の結晶相との界面の接合強度よりも小さいので、サンプル26は、Al
2O
3の結晶相とBaAl
12 O
19の結晶相との界面で絶縁破壊したと推察される。
表5は、サンプル27〜29の15nm以下の厚さの結晶粒界に検出された元素、Laが検出された部分の中の任意の10点の測定点のうち電子線回折図形がハローパターンだった測定点の数、平均粒径および曲げ強度の測定結果である。
サンプル27は、Laが検出された粒界三重点の中の任意の10点の測定点のうち10点の電子線解析図形がハローパターンであった。サンプル29は、Laが検出された部分の中の任意の10点の測定点のうち10点の電子線解析図形に回折斑点が確認され、ハローパターンがみられなかった。サンプル27は、サンプル29に比べて、Laが検出された部分の結晶化が進行していないことを示している。サンプル28の結晶化の度合いは、サンプル27,29の結晶化の度合いの中間である。
サンプル27,28,29は平均粒径が同じだが、サンプル29,28,27の順に曲げ強度が高くなることがわかった。サンプル29,28,27の順に、焼結時にアルミナの粒成長を促進する希土類成分の結晶化を抑制できたので、サンプルの強度が向上したと推察される。
なお、この実施例では、希土類元素としてLaを配合した場合について説明したが、Y,Pr,Nd,Yb等の他の希土類元素を配合した場合にも、同様の結果が得られる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記実施の形態では、主体金具15に接合された接地電極16と中心電極13との間に火花放電を生じさせるスパークプラグ10の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。実施の形態で説明したアルミナ基焼結体を、他のスパークプラグの絶縁体に適用することは当然可能である。他のスパークプラグとしては、例えば、中心電極13を内包する絶縁体の周囲にバリア放電を生じさせるスパークプラグ、絶縁体を貫通する中心電極の先端にコロナ放電を生じさせるスパークプラグ等が挙げられる。