本開示は、真菌宿主株およびそれらを作成および使用するための組換えDNA構築物に関する。真菌宿主株は、当分野において公知の他の発現方法と比較して、これらの宿主内での発現レベルのより高い信頼性および/またはより低い可変性を備える関心対象の遺伝子もしくは変異体の発現を提供するために使用できる。真菌宿主株は、特定の実施形態では、信頼できるもしくは低い可変性方法で関心対象の遺伝子を発現させるための遺伝子組込みを効率的に標的とするために有用である。
第1態様では、本開示は、遺伝的に安定性の形質転換真菌株を構築する方法であって、a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程を含む方法を提供する。
所定の実施形態では、制限酵素は、形質転換染色体DNAを線状化できる、および/または染色体DNA内で適合する付着端を生成できる。
一部の実施形態では、線状化DNAは、1つ以上の関心対象の遺伝子を含む。好適には、関心対象の遺伝子は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼまたは所定の他の有用な酵素の内の1つをコードする。一部の場合には、線状化DNAは、2つ以上の関心対象の遺伝子を含むことができるので、したがって形質転換真菌株は2つ以上の酵素もしくは関心対象のタンパク質をコードする遺伝子の産物の混合物を発現する。所定の特定の実施形態では、好適な形質転換真菌株は、タンパク質混合物を発現する。一部の実施形態では、関心対象の遺伝子は、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原またはそのような遺伝子産物のいずれかの断片をコードすることができる。
一部の実施形態では、線状化DNAは、さらに少なくとも1つの選択マーカーを含む。選択マーカーは、好適には、als1、amdS、hygR、pyr2、pyr4、pyrG、sucA、ブレオマイシン耐性マーカー、ブラスチシジン耐性マーカー、ピリチアミン耐性マーカー、クロリムロンエチル耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、アデニン経路遺伝子、トリプトファン経路遺伝子、チミジンキナーゼマーカーまたは本発明の形質転換真菌株を作製するために使用できることが当業者には公知である、もしくは当業者に公知になるであろう任意の他のマーカーである。
一部の実施形態では、真菌株は、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株であってよい。
一部の実施形態では、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株は、好適には糸状菌株であってよい。例えば、糸状菌株は、トリコデルマ(Trichoderma)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、フミコラ(Humicola)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、フザリウム(Fusarium)属、ニューロスポラ(Neurospora)属もしくはエメリセラ(Emericella)属である。所定の実施形態では、糸状菌株は、好適にはトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(T.リーゼイ(reesei))である。代替実施形態では、糸状菌株は、好適にはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)である。
第2態様では、本開示は、下記の:a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程を含む方法を使用して得られた、遺伝的に安定性の形質転換真菌宿主株を提供する。
一部の実施形態では、1つ以上の関心対象の遺伝子を含むこの態様の遺伝的に安定性の形質転換真菌株。例えば、関心対象の遺伝子は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼまたは他の有用な酵素をコードする遺伝子であってよい。一部の場合には、この態様の形質転換真菌株は、2つ以上の関心対象の遺伝子を含むので、したがって、形質転換真菌株は、関心対象の遺伝子の産物である物質の混合物を生成することができる。その意味で、この態様の形質転換真菌株を使用すると、関心対象の遺伝子の産物を含む混合物もしくは組成物を生成することができる。所定の実施形態では、関心対象の遺伝子は、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原またはそのような物質のいずれか1つの断片をコードする遺伝子であってよい。
一部の実施形態では、この態様の形質転換真菌株は、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株である。所定の特定の実施形態では、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株は、好適には糸状菌株であってよい。例えば、糸状菌株は、トリコデルマ(Trichoderma)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、フミコラ(Humicola)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、フザリウム(Fusarium)属、ニューロスポラ(Neurospora)属もしくはエメリセラ(Emericella)属由来の菌株であってよい。所定の特定の実施形態では、形質転換糸状菌株は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)であってよい。また別の特定の実施形態では、形質転換糸状菌株は、好適には、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)であってよい。
第3態様では、本開示は、真菌形質転換体の安定性を改良する方法であって、線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌株の細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程を含む方法を提供する。
一部の実施形態では、真菌形質転換体の安定性を改良する方法の制限酵素は、形質転換染色体DNAを線状化できる、および/または染色体DNA内で適合する付着を生成できる。
一部の実施形態では、真菌形質転換体の安定性を改良する方法において使用される線状化DNAは、1つ以上の関心対象の遺伝子を含む。関心対象の遺伝子は、好適には、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼなどをコードする遺伝子である。所定の実施形態では、本方法において使用される線状化DNAは、2つ以上の関心対象の遺伝子を含むので、したがって、本方法は、2つ以上の関心対象の遺伝子によってコードされる産物である、そのような酵素の混合物を生成するために使用できる。その意味において、本方法は、改良された安定性を備える真菌形質転換体によって生成される酵素、またはそのような真菌形質転換体によって生成される酵素もしくはタンパク質混合物を含む組成物を生成するために使用できる。一部のまた別の実施形態では、関心対象の遺伝子は、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原またはそのような物質の断片をコードする遺伝子であってよい。
一部の実施形態では、本態様の本方法の線状化DNAは、さらに少なくとも1つの選択マーカーを含む。例えば、選択マーカーは、好適には、als1、amdS、hygR、pyr2、pyr4、pyrG、sucA、ブレオマイシン耐性マーカー、ブラスチシジン耐性マーカー、ピリチアミン耐性マーカー、クロリムロンエチル耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、アデニン経路遺伝子、トリプトファン経路遺伝子およびチミジンキナーゼマーカーであってよい。
一部の実施形態では、この態様の真菌株は、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株である。例えば、好適な子嚢菌(Ascomycete)の真菌株は、糸状菌株であってよい。糸状菌株は、トリコデルマ(Trichoderma)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、フミコラ(Humicola)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、フザリウム(Fusarium)属、ニューロスポラ(Neurospora)属もしくはエメリセラ(Emericella)属菌株の菌株であってよい。一部の特定の実施形態では、糸状菌株は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)菌株である。所定の他の実施形態では、糸状菌株は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)菌株である。
また別の態様では、本開示は、形質転換真菌株を好適な培地中で発酵させる方法であって、その菌株が下記の:a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程を使用して得られる方法を提供する。所定の実施形態では、真菌株は、関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下で発酵させられる。
一部の実施形態では、本態様の方法を使用して発酵させた真菌株によって発現した関心対象の遺伝子は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼまたは本明細書に列挙した酵素の1つ以上の混合物をコードする。一部の他の実施形態では、真菌株によって発現した関心対象の遺伝子は、さらにペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原およびそのような分子の1つ以上の断片または混合物をコードする遺伝子であってよい。
所定の関連態様では、本発明はさらに、形質転換真菌株によって発現する関心対象の遺伝子の産物を含む本態様の発酵ブロスの終点である組成物に関する。
さらにまた別の態様では、本開示は、関心対象の遺伝子を発現させる方法であって、前記関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下の好適な培地中で形質転換真菌株を増殖および発酵させる工程を含み、それによって形質転換真菌株が下記の:a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程を使用して得られる方法を提供する。
一部の実施形態では、本態様の方法は、さらに前記関心対象の遺伝子の発現のレベルをアッセイする工程を含む。関心対象の遺伝子は、好適には、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびこれらの酵素の1つ以上の混合物をコードすることができる。または、関心対象の遺伝子は、好適にはペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原および断片またはこれらの材料の2つ以上の混合物をコードすることができる。
また別の態様では、本開示は、形質転換真菌細胞内で関心対象の遺伝子を発現させる方法によって生成される関心対象の遺伝子によってコードされた関心対象のタンパク質を提供するが、このとき真菌細胞は、下記の:a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程にしたがうことによって得られる。
また別の態様では、本開示は、関心対象の遺伝子によってコードされた関心対象のタンパク質を含むタンパク質性組成物を提供するが、このとき形質転換真菌細胞は、下記の:a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程にしたがって得られる。
さらにまた別の態様では、本開示は、本明細書の様々な態様の方法のいずれかおよび/または本開示の形質転換真菌株を、バイオマス加水分解、クリーニング用途、穀物加工処理、動物栄養、食品組成物、織物処理などにおいて使用することによって生成されるタンパク質性組成物を使用する方法を提供する。
さらにまた別の態様では、本開示は、a)染色体DNA内に少なくとも1つの制限酵素部位を含有する真菌宿主細胞;およびb)関心対象の遺伝子を発現させるために操作できる配列、選択マーカーおよび前記染色体制限酵素部位の側面に位置する配列と実質的に相同性を備える配列を含有する核酸分子であって;実質的相同性を備える前記配列は、関心対象の遺伝子の発現を生じさせる相同性組換え事象を誘発する核酸分子を含む真菌発現系を提供する。
所定の実施形態では、真菌発現系は、真菌宿主細胞の染色体DNA内で好適な制限酵素部位を生成できる制限酵素を発現する発現カセットをさらに含む。
関心対象の遺伝子は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびこれらの酵素の2つ以上の混合物をコードする遺伝子であってよい。または、関心対象の遺伝子は、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原、断片またはこれらの分子の2つ以上の混合物をコードすることができる。
一部の実施形態では、選択マーカーは、好適には、als1、amdS、hygR、pyr2、pyr4、pyrG、sucA、ブレオマイシン耐性マーカー、ブラスチシジン耐性マーカー、ピリチアミン耐性マーカー、クロリムロンエチル耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、アデニン経路遺伝子、トリプトファン経路遺伝子またはチミジンキナーゼマーカーであってよい。
一部の実施形態では、真菌宿主株は、子嚢菌(Ascomycete)の真菌宿主株である。例えば、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株は、好適には糸状菌株である。一部の実施形態では、真菌宿主株は、トリコデルマ(Trichoderma)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、フミコラ(Humicola)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、フザリウム(Fusarium)属、ニューロスポラ(Neurospora)属もしくはエメリセラ(Emericella)属宿主株である。特定の例では、糸状菌宿主株は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)宿主株である。また別の特定の例では、糸状菌宿主株は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)宿主株である。
関連態様では、本開示は、本明細書に記載した真菌発現系を使用する方法であって、その真菌発現系は、a)染色体DNA内に少なくとも1つの制限酵素部位を含有する真菌宿主細胞;およびb)関心対象の遺伝子を発現させるために操作できる配列、選択マーカーおよび前記染色体制限酵素部位の側面に位置する配列と実質的に相同性を備える配列を含有する核酸分子を含む方法を提供する。実質的相同性を備える配列は、相同性組換え事象を誘発し、これは結果として関心対象の遺伝子の発現を生じさせる。b)の核酸分子は、染色体制限酵素部位を生成できる制限酵素の存在下で真菌宿主細胞内に形質転換させられる。
一部の実施形態では、制限酵素は、同様に真菌宿主細胞内に位置する発現カセットによって生成される。
また別の関連態様では、本開示は、本明細書に記載した真菌発現系を使用する方法によって得られる形質転換もしくは誘導真菌株を提供する。さらに、本開示は、下記の:a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程にしたがうことによって得られる、形質転換もしくは誘導真菌株を発酵させる方法をさらに提供する。
さらにまた別の態様では、本開示は、関心対象の遺伝子を発現させる方法であって、前記関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下の好適な培地中で形質転換もしくは誘導真菌株を増殖および発酵させる工程を含む方法を提供する。これに関連して、本開示はさらに、関心対象の遺伝子によってコードされた関心対象のタンパク質を提供する。さらに、本開示は、関心対象のタンパク質を含むタンパク質性組成物を提供する。本開示はさらに、バイオマス加水分解、クリーニング用途、穀物加工処理、動物栄養、食品組成物、織物処理などにおいてそのようなタンパク質性組成物を使用する方法を提供する。
また別の態様では、本開示は:
a)染色体DNA内の少なくとも1つの制限酵素部位を含む真菌宿主細胞を入手する工程;および
b)関心対象の1つ以上の遺伝子を発現させるために操作可能である配列、少なくとも1つの選択マーカーおよび前記染色体制限酵素部位の側面に位置する配列との実質的相同性を備える配列を含有する核酸分子を入手する工程であって、前記相同配列は相同性組換え事象を誘発して前記関心対象の遺伝子の発現を生じさせる工程;
ならびにb)の核酸分子をa)の真菌宿主細胞に染色体制限酵素部位を生成できる制限酵素の存在下で形質転換させる工程、を含む標的遺伝子組込み法を提供する。
一部の実施形態では、真菌宿主細胞は、さらに真菌宿主細胞内で制限酵素を生成するために使用される発現カセットをさらに含む。
関心対象の遺伝子は、好適には、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼまたはこれらの酵素の2つ以上の混合物をコードする。または、関心対象の遺伝子は、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原、これらの分子の断片またはこれらの分子の1つ以上の混合物をコードする。
選択マーカーは、好適には、als1、amdS、hygR、pyr2、pyr4、pyrG、sucA、ブレオマイシン耐性マーカー、ブラスチシジン耐性マーカー、ピリチアミン耐性マーカー、クロリムロンエチル耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、アデニン経路遺伝子、トリプトファン経路遺伝子またはチミジンキナーゼマーカーであってよい。
一部の実施形態では、真菌宿主株は、好適には、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株である。例えば、子嚢菌(Ascomycete)の真菌株は、糸状菌株であってよい。一部の実施形態では、糸状菌株は、トリコデルマ(Trichoderma)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、フミコラ(Humicola)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、フザリウム(Fusarium)属、ニューロスポラ(Neurospora)属もしくはエメリセラ(Emericella)属真菌株である。所定の特定の実施形態では、糸状菌株は、好適には、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)菌株である。所定の他の特定の実施形態では、糸状菌株は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)菌株である。
1つの態様では、本開示は、遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を構築する方法であって、a)線状化(「線状」とも呼ぶ)もしくは環状DNAと制限酵素(制限酵素の「処理を用いて」とも呼ぶ)との混合物を使用してトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の処理を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の処理を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を提供する。
また別の態様では、本開示は、遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を構築する方法であって、a)線状化もしくは環状DNAを用いてトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞は制限酵素を生成するように誘導され、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の誘導を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の誘導を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を提供する。
また別の態様では、本開示は、線状化もしくは環状DNAと制限酵素との混合物を使用してトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程を含むトリコデルマ(Trichoderma)属形質転換体の安定性を改良する方法であって、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成することができ、制限酵素の処理を用いて生じた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の処理を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い方法を提供する。
さらにまた別の態様では、本開示は、線状化もしくは環状DNAと制限酵素との混合物を使用してトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程を含むトリコデルマ(Trichoderma)属形質転換体の安定性を改良する方法であって、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる制限酵素を生成するように誘導され、制限酵素の誘導を用いて生じた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の誘導を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い方法を提供する。
段落[0047]に記載した方法の一部の実施形態では、本方法は、さらにトリコデルマ(Trichoderma)属細胞内に、形質転換工程前または工程中の誘導後に制限酵素を生成できる構築物を導入する工程をさらに含む。
段落[0046]〜[0048]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、本方法は、遺伝的に安定性のトリコデルマ(Trichoderma)属形質転換体を選択する工程をさらに含む。
段落[0044]〜[0049]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、本方法は、同一の線状化もしくは環状DNAを用いて、しかし制限酵素の処理もしくは制限酵素の誘導を用いずにトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の同一前形質転換菌株を形質転換させる工程をさらに含む。
段落[0044]〜[0050]のいずれか1つに記載した方法の所定の実施形態では、制限酵素の処理もしくは誘導を用いた安定性形質転換体の百分率および制限酵素の処理もしくは誘導を用いない安定性形質転換体の百分率は、同一条件下で同一形質転換法を用いて、および所定の実施形態では、ほぼ同一数の細胞および同一量の線状化もしくは環状DNAを使用して得られる。
段落[0044]〜[0051]のいずれか1つに記載した方法の所定の実施形態では、制限酵素の処理もしくは誘導を用いた安定性形質転換体の百分率は、制限酵素の処理もしくは誘導を用いない安定性形質転換体の百分率より少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%もしくは90%高い。特定の実施形態では、制限酵素の処理もしくは誘導を用いた安定性形質転換体の百分率は、制限酵素の処理もしくは誘導を用いない安定性形質転換体の百分率の少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍もしくは6倍高い。
段落[0044]〜[0052]のいずれか1つに記載した方法の特定の実施形態では、制限酵素の処理もしくは誘導を用いた安定性形質転換体の百分率は、少なくとも5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%もしくは90%である。特定の実施形態では、制限酵素の処理もしくは誘導を用いた安定性形質転換体の百分率は、試験した全形質転換体の中で少なくとも50%、60%、70%、80%もしくは90%である。
段落[0044]〜[0053]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、制限酵素の処理もしくは誘導を用いた形質転換効率は、制限酵素の処理もしくは誘導を用いない形質転換効率より少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%もしくは90%高い。特定の実施形態では、制限酵素の処理もしくは誘導を用いた形質転換効率は、制限酵素の処理もしくは誘導を用いない形質転換効率の少なくとも1倍、2倍、3倍もしくは4倍高い。
段落[0008]〜[0013]、[0022]、[0023]、[0025]、[0026]、[0035]、[0036]、[0038]〜[0040]および[0044]〜[0054]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、制限酵素は、少なくとも6塩基対の制限部位を認識する。一部の実施形態では、制限酵素は、少なくとも8塩基対の制限部位を認識する。特定の実施形態では、制限酵素は、少なくとも10塩基対の制限部位を認識する。特定の実施形態では、制限酵素は、少なくとも12塩基対の制限部位を認識する。特定の実施形態では、本方法においては、少なくとも2つの異なる制限酵素が使用される。
段落[0008]〜[0013]、[0022]、[0023]、[0025]、[0026]、[0035]、[0036]、[0038]〜[0040]および[0044]〜[0055]のいずれか1つに記載した方法の所定の実施形態では、制限酵素は、メガヌクレアーゼである。所定の実施形態では、制限酵素は、LAGLIDADGホーミングメガヌクレアーゼである。特定の実施形態では、制限酵素は、I−SceI、I−CreI、I−MsoI、I−AniI、I−DmiIおよびPI−PfuIからなる群から選択される。
[0008]〜[0013]、[0022]、[0023]、[0025]、[0026]、[0035]、[0036]、[0038]〜[0040]および[0044]〜[0055]のいずれか1つに記載した方法の一部の他の実施形態では、制限酵素は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)またはRNA誘導エンドヌクレアーゼである。
段落[0008]〜[0013]、[0022]、[0023]、[0025]、[0026]、[0035]、[0036]、[0038]〜[0040]および[0044]〜[0057]のいずれか1つに記載した方法の所定の実施形態では、制限酵素は、形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で適合する付着端を生成することができる。
段落[0044]〜[0058]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞は、線状化DNAを用いて形質転換される。一部の他の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞は、環状DNAを用いて形質転換される。
段落[0044]〜[0059]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、線状化もしくは環状DNAは、1つ以上の関心対象の遺伝子を含む。所定の実施形態では、関心対象の遺伝子は、1つの酵素をコードする。特定の実施形態では、関心対象の遺伝子は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、それらの変異体、それらの機能的断片またはそれらの2つ以上の混合物をコードする。さらに他の特定の実施形態では、関心対象の遺伝子は、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原、それらの変異体、それらの機能的断片またはそれらの2つ以上の混合物をコードする。
段落[0044]〜[0060]のいずれか1つに記載した方法の所定の実施形態では、線状化もしくは環状DNAは、選択マーカーを含む。特定の実施形態では、選択マーカーは、好適には、als1、amdS、hygR、pyr2、pyr4、sucA、ブレオマイシン耐性マーカー、ブラスチシジン耐性マーカー、ピリチアミン耐性マーカー、クロリムロンエチル耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、アデニン経路遺伝子、トリプトファン経路遺伝子またはチミジンキナーゼマーカーである。
段落[0044]〜[0061]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、本方法は、トリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNAまたはRNA配列を使用する工程を含まない。一部の実施形態では、本方法は、少なくとも約20、30、40、50、100、150または200ヌクレオチド長であるトリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNAまたはRNA配列を使用する工程を含まない。所定の実施形態では、本方法は、少なくとも150または200ヌクレオチド長であるトリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNA配列を使用する工程を含まない。所定の実施形態では、本方法は、少なくとも約20、30、40または50ヌクレオチド長であるトリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるRNA配列を使用する工程を含まない。
段落[0044]〜[0061]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、本方法は、トリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNAまたはRNA配列を使用する工程を含む。一部の実施形態では、本方法は、少なくとも約150、200、300または400ヌクレオチド長であるトリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNA配列を使用する工程を含む。特定の実施形態では、本方法は、少なくとも約500、600、700、800、900または1,000ヌクレオチド長であるトリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNA配列を使用する工程を含む。本方法は、少なくとも約20、30、40または50ヌクレオチド長であるトリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるRNA配列を使用する工程を含む。所定の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNAまたはRNA配列は、相同領域の少なくとも20、30、40、50、150、200、300、400、500、600、700、800、900もしくは1,000ヌクレオチドの全長にわたって少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一(またはRNAの場合は同等)である。
段落[0044]〜[0061]および[0063]のいずれか1つに記載した方法の一部の実施形態では、本方法は、トリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNA配列を使用する工程を含み、トリコデルマ(Trichoderma)属ゲノム配列と相同であるDNA配列は、制限酵素によって切断された部位で相同組換えによってトリコデルマ(Trichoderma)属染色体DNAと再結合する。
段落[0044]〜[0064]のいずれか1つに記載した方法の所定の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属菌株は、T.リーゼイ(T.reesei)、T.ビレンス(T.virens)、T.アスペレウム(T.asperellum)、T.ハルジアヌム(T.harzianum)、T.コニンギイ(T.koningii)、T.ロンギブラキアタム(T.longibrachiatum)、T.ビリデ(T.viride)またはT.アトロビリデ(T.atroviride)菌株である。特定の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属菌株は、T.リーゼイ(T.reesei)菌株である。
また別の態様では、本開示は、段落[0044]〜[0065]のいずれか1つに記載した方法を使用して得られた遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を提供する。
段落[0066]に記載のトリコデルマ(Trichoderma)属菌株の一部の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属菌株は、1つ以上の関心対象の遺伝子を含む。所定の実施形態では、関心対象の遺伝子は、1つの酵素をコードする。特定の実施形態では、関心対象の遺伝子は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、それらの変異体、それらの機能的断片またはそれらの2つ以上の混合物をコードする。さらに他の特定の実施形態では、関心対象の遺伝子は、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原、それらの変異体、それらの機能的断片またはそれらの2つ以上の混合物をコードする。
段落[0066]〜[0067]のいずれか1つに記載したトリコデルマ(Trichoderma)属菌株の所定の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属菌株は、T.リーゼイ(T.reesei)、T.ビレンス(T.virens)、T.アスペレウム(T.asperellum)、T.ハルジアヌム(T.harzianum)、T.コニンギイ(T.koningii)、T.ロンギブラキアタム(T.longibrachiatum)、T.ビリデ(T.viride)またはT.アトロビリデ(T.atroviride)菌株である。特定の実施形態では、トリコデルマ(Trichoderma)属菌株は、T.リーゼイ(T.reesei)菌株である。
さらにまた別の態様では、本開示は、関心対象のタンパク質を発現させる方法であって、a)段落[0067]〜[0068]のいずれか1つに記載したトリコデルマ(Trichoderma)属菌株を使用する工程であって、関心対象の遺伝子は関心対象のタンパク質をコードする工程;およびb)トリコデルマ(Trichoderma)属菌株から関心対象のタンパク質を生成する工程を含む方法を提供する。所定の実施形態では、関心対象のタンパク質は、分泌タンパク質である。
また別の態様では、本開示は、段落[0044]〜[0065]および[0069]のいずれか1つに記載した方法を適用することによって生成された関心対象のタンパク質を提供する。
さらにまた別の態様では、本開示は、段落[0070]に記載した関心対象のタンパク質を含む組成物を提供する。
また別の態様では、本開示は、リグノセルロース系バイオマス基質の加水分解、クリーニング用途、穀粒およびデンプン加工処理、動物栄養、食品組成物または織物処理における段落[0071]に記載した組成物の使用を提供する。
I.概説
本開示は、真菌宿主株およびそれらを作成および使用するための組換えDNA構築物に関する。真菌宿主株は、信頼できるもしくは低い可変性方法で関心対象のタンパク質を発現させるために特に安定性および有用である。本開示はさらに、そのように構築された真菌宿主株、関心対象のタンパク質およびそのような改良された真菌宿主株の発酵により調製されるそのような関心対象のタンパク質を含む組成物の使用に関する。
本明細書に記載した方法は、改良された信頼性を備える関心対象のタンパク質または関心対象の変異体を発現する。そこで用語「改良された信頼性」は、(1)形質転換体の少なくとも60%(例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%もしくは少なくとも99%)は安定性形質転換体であること;または(2)形質転換体の少なくとも60%(例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%もしくは少なくとも99%)はバックグラウンド発現レベルを超えて意図されたように関心対象のタンパク質もしくは変異体を発現すること;または(3)関心対象のタンパク質もしくは変異体は、60%未満(例えば、55%未満、50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満もしくは2%未満)で変動する発現レベルを備えて発現することを意味する。上記の(3)または本明細書の他の場所で言及された用語「発現レベル変動」は、最高および最低発現レベル間の差を、最高発現レベルとバックグラウンド発現レベルとの差である数値によって割ることによって定義もしくは決定されるが、このとき全決定は同一構築物および同一の関心対象の遺伝子もしくは変異体を用いて実施される。
II.定義
本特許の菌株、組成物および方法について記載する前に、下記の用語および語句について定義する。定義されていない用語は、当分野において使用されるそれらの通例の意味に一致するはずである。
ある範囲の数値が提供される場合、状況が明確に他のことを指示しない限り、その範囲の上限と下限の間にある下限値の単位の10分の1までの各介在値、およびその範囲内の任意の他の記載された値もしくは介在値は、本発明の組成物および方法の範囲内に含まれると理解されている。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立してより小さな範囲内に含まれてよく、同様に上記の範囲内の任意の限度が特別に除外されることを前提として、本発明の組成物および方法内に含まれる。上記の範囲が限度の一方または両方を含む場合、それらの含まれた限度のいずれかもしくは両方を排除する範囲もまた、本発明の組成物および方法の中に含まれる。
所定の範囲は、用語「約」が先行する数値を用いて提示される。用語「約」は、本明細書では、それが先行する正確な数ならびにその用語が先行する数に近い、もしくは近似する数についての文字による支持を提供するために使用される。数が特別に挙げられた数に近い、もしくは近似するかどうかを決定する際には、近い、もしくは近似する挙げられていない数は、それが提示される状況において、特別に挙げられた数の実質的同等物を提供する数であってよい。例えば、数値と関連して、用語「約」は、その用語がその状況において他に特別に定義されない限り、数値の−10%〜+10%の範囲を意味する。また別の例では、語句「約6のpH値」は、pH値が他に特別に定義されていない限り、5.4〜6.6のpHを意味する。
本明細書に提供した見出しは、全体として本明細書を参照することによって得ることのできる本組成物および本方法の様々な態様もしくは実施形態を制限するものではない。したがって、直下に定義した用語は、全体として本明細書を参照することによってより十分に定義される。
本文献は、読み易くするために多数のセクションで構成されている;しかし、読者には、1つのセクションに記載された記述が他のセクションにも適用できることを理解されるであろう。この方法で、本開示の様々なセクションのために使用された見出しは、制限するものと見なすべきではない。
他に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明の組成物および方法が属する分野の当業者であれば一般に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書に記載したものと類似もしくは同等の任意の方法および材料は、さらに本発明の組成物および方法の実践もしくは試験においても使用することができ、以下では代表的な例示的方法および材料について説明する。
本明細書で言及した全ての刊行物および特許は、それぞれ個別の刊行物もしくは特許が参照により組み込まれると特別および個別に指示されているかのように参照により本明細書に組み込まれ、それらの刊行物に言及されている方法および/または材料と関連付けて方法および/または材料を開示および記述するために参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物についての言及は、出願日前の開示のためであり、本発明の組成物および方法には先行発明によってそのような刊行物に先行する資格が与えられないとの承認であると見なすべきではない。さらに、提供した刊行日は、独立して確証される必要がある実際の刊行日とは異なる可能性がある。
本発明の詳細な説明にしたがうと、下記の略語および定義が適用される。単数形「1つの」および「その」は、状況が明白に他のことを指示していない限り、複数形を含む。そこで、例えば「1つの酵素」との言及には複数のそのような酵素が含まれ、「用量」との言及には1つ以上の用量および当業者には知られているそれらの同等物などが含まれる。
さらに、特許請求項はあらゆる任意選択的要素を排除するために作成できることに留意されたい。したがって、この記述は、特許請求項の要素の言及と関連付けた「単独で」、「唯一の」などの排他的用語を使用するため、または「消極的」限定の使用のための優先的根拠として機能することが意図されている。
用語「組換え」は、主題細胞、核酸、ポリペプチド/酵素またはベクターに関して使用した場合、主題がその自然状態から修飾されていることを示す。そこで、例えば、組換え細胞は、細胞の天然(非組換え)形内で見いだされない遺伝子を発現する、または異なるレベルで、もしくは自然では見いだされる条件とは異なる条件下で天然遺伝子を発現する。組換え核酸は、天然配列とは1つ以上のヌクレオチドが相違する場合がある、および/または例えば異種プロモーターなどの異種配列、発現ベクター内で分泌などを許容するシグナル配列と機能的に連結している。組換えポリペプチド/酵素は、天然配列とは1つ以上のアミノ酸が異なる場合がある、および/または異種配列と融合している。関心対象のタンパク質をコードする核酸を含むベクターは、例えば、組換えベクターである。
さらに、本明細書で使用する用語「から本質的になる」は、この用語の後の成分が、全組成物の30重量%未満の総量にあってこの成分の作用もしくは活性に寄与しない、または妨害しない他の公知の成分の存在下で存在する組成物を意味することに留意されたい。
さらに、本明細書で使用する用語「含んでいる」は、それには限定されないその用語の後の成分を「含んでいる」ことを含むことを意味する。用語「含んでいる」の後の成分は、必要とされる、または必須であるが、これらの成分を含んでいる組成物は、さらに他の非必須もしくは任意選択的成分を含むことができる。
さらに、本明細書で使用する用語「からなる」は、その用語の後の成分「からなる」ことを含むことを意味し、それに限定される。用語「からなる」の後の成分は、このため必要とされる、または必須であり、本組成物中には他の成分が全く存在しない。
当業者には本開示を読めば明白であるように、本明細書に記載および例示した個々の実施形態のそれぞれは、本明細書に記載した本発明の組成物および方法の範囲もしくは精神から逸脱せずに他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴とは容易に分離することができる、または組み合わせることができる別個の成分および特徴を有する。任意の言及した方法は、言及した事象の順に、または論理的に可能である任意の他の順に実施することができる。
本明細書で使用する用語「遺伝的に安定性の菌株」は、不安定菌株と比較してそれらのより迅速な増殖速度に関する。さらに、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属などの多数の糸状菌宿主を使用すると、固体培養培地上のギザギザの輪郭とは対照的に、平滑さを備える環状コロニーの形成を際立った特徴として使用できる。
用語「関心対象のタンパク質」は、任意選択的に高レベルで、および商業化の目的で糸状菌内で発現させることが望ましいポリペプチドを意味する。そのようなタンパク質は、酵素、基質結合タンパク質、界面活性タンパク質、構造的タンパク質などであってよい。
本明細書で使用する用語「関心対象の遺伝子」は、関心対象のタンパク質をコードする遺伝子を意味する。
本明細書で使用する用語「ベクター」は、異なる宿主細胞間の移動のために設計された核酸構築物を意味する。「発現ベクター」は、異種細胞内に異種DNA断片を組み込んで発現させる能力を有するベクターを意味する。多数の原核生物および真核生物発現ベクターは、市販で入手できる。適切な発現ベクターの選択は、当業者の知識の範囲内に含まれる。
したがって、「発現カセット」もしくは「発現ベクター」は、標的細胞内の特定の核酸の転写を許容する一連の特定核酸要素を用いて、組換え的もしくは合成的に生成された核酸構築物である。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルスもしくは核酸断片内に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも、転写対象の核酸配列およびプロモーターが含まれる。
本明細書で使用する用語「プラスミド」は、コーディングベクターとして使用される、および多数の細菌および一部の真核生物内の特別な染色体自己複製遺伝要素を形成する環状二本鎖DNA構築物を意味する。
本明細書で互換的に使用する用語「選択マーカー」もしくは「選択可能マーカー」は、その発現が自然に存在する、または対応する選択的作用物質の存在下、または対応する選択的増殖条件下で増殖する能力を細胞に付与する、細胞内に導入される遺伝子を意味する。本明細書で使用する用語「選択可能マーカーコーディングヌクレオチド配列」は、そのような選択マーカーもしくは選択可能マーカーをコードするヌクレオチド配列を意味する。
本明細書で使用する用語「プロモーター」は、下流遺伝子の転写を指示するために機能する核酸配列を意味する。プロモーターは、一般に、その中で標的遺伝子が発現させられる宿主細胞にとって適切であろう。プロモーターは、他の転写および翻訳調節核酸配列(「制御配列」とも呼ぶ)と一緒に、頻回に所定の遺伝子を発現させるために使用される。一般に、転写および翻訳調節配列には、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始および終結配列、翻訳開始および終結配列ならびにエンハンサーもしくはアクチベーター配列が含まれるがそれらに限定されない。
本明細書で使用する用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基を含む任意の長さのポリマーを意味するために互換的に使用される。本明細書では、アミノ酸残基についての慣習的な1文字もしくは3文字コードが使用される。ポリマーは、直鎖状もしくは分岐鎖状であってよく、改変アミノ酸を含むことができ、非アミノ酸によって分断化されてよい。これらの用語は、さらに、自然に、または、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または例えば標識化成分との共役結合などの任意の他の操作もしくは修飾インターベンションによって改変されているアミノ酸ポリマーも含んでいる。さらにこの定義の範囲内に含まれるのは、例えば、アミノ酸(例えば、非天然アミノ酸などを含む)の1つ以上のアナログを含有するポリペプチド、ならびに当分野において公知の他の修飾である。
本明細書で使用する「真菌」は、例えば酵母および「カビ」などの微生物ならびに「キノコ」を含む大きな群の真核生物の任意のメンバーである。これらの生物は、植物、動物、原生生物および細菌とは別個の真菌界として分類される。1つの主要な相違は、真菌細胞が、セルロースを含有する植物および一部の原生生物の細胞壁とは異なり、および細菌の細胞壁とは異なり、キチンを含有する細胞壁を有することである。
本明細書で使用する「子嚢菌(Ascomycete)の真菌株」は、真菌界内の子嚢菌門(Ascomycota)内の任意の生物を意味する。代表的な子嚢菌(Ascomycete)真菌細胞には、例えば、トリコデルマ種(Trichoderma spp)、アスペルギルス種(Aspergillus spp)およびペニシリウム種(Penicillium spp)などのチャワンタケ亜門(subphylum Pezizomycotina)内の糸状菌が含まれるがそれらに限定されない。
本明細書で使用する「糸状菌」は、真菌植物(Emycota)亜門および卵菌類(Oomycota)亜門の全ての糸状菌形を意味する。例えば、糸状菌には、制限なく、アクレモニウム(Acremonium)、アスペルギルス(Aspergillus)、エメリセラ(Emericella)、フザリウム(Fusarium)、フミコラ(Humicola)、ムコール(Mucor)、ミセリオプトラ(Myceliophthora)、ニューロスポラ(Neurospora)、シタリジウム(Scytalidium)、チエラビア(Thielavia)、トリポクラジウム(Tolypocladium)またはトリコデルマ(Trichoderma)種が含まれる。一部の実施形態では、糸状菌は、アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・フォエティダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・ジャポニカス(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)もしくはアスペルギルス・オリザエ)であってよい。一部の実施形態では、糸状菌は、フザリウム・バクトリジオイデス(Fusarium bactridioides)、フザリウム・セレアリス(Fusarium cerealis)、フザリウム・クルックウェレンセ(Fusarium crookwellense)、フザリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・グラミヌム(Fusarium graminum)、フザリウム・ヘテロスポルム(Fusarium heterosporum)、フザリウム・ネグンジ(Fusarium negundi)、フザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・レティキュラツム(Fusarium reticulatum)、フザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)、フザリウム・サムブチヌム(Fusarium sambucinum)、フザリウム・サルコクロウム(Fusarium sarcochroum)、フザリウム・スポロトリキオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フザリウム・スルフレウム(Fusarium sulphureum)、フザリウム・トルロスム(Fusarium torulosum)、フザリウム・トリコセキオイデス(Fusarium trichothecioides)もしくはフザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)である。一部の実施形態では、糸状菌は、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)、フミコラ・ラヌギノーサ(Humicola lanuginosa)、ムコール・ミーヘイ(Mucor miehei)、ミセリオフトラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、シタリジウム・サーモフィラム(Scytalidium thermophilum)もしくはチエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)である。一部の実施形態では、糸状菌は、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギイ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、例えばRL−P37(Sheir−Neiss et al.,Appl.Microbiol.Biotechnology,20 (1984) pp.46−53;Montenecourt B.S.,Can.,1−20,1987),QM9414 (ATCC No.26921),NRRL 15709,ATCC 13631,56764,56466,56767,またはトリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、例えばATCC32098および32068である。一部の実施形態では、糸状菌は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションからトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)ATCC56765として入手できるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)RutC30である。これに関連して、一部の実施形態では、本開示は本明細書に記載した糸状菌のいずれか1つの全細胞ブロス調製物を提供する。
「異種」核酸構築物もしくは核酸配列は、その中で発現する細胞にとって天然形ではない、または天然形で存在しない配列の一部分を有する。制御配列に関して「異種」は、それの発現を現在調節している同一遺伝子を調節するために自然には機能しない制御配列(すなわち、プロモーターもしくはエンハンサー)に関する。一般に、異種核酸配列は、細胞またはそれらがその中に存在するゲノムの一部にとって内因性ではなく、感染、トランスフェクション、形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどによって細胞に加えられている。「異種」核酸構築物は、天然細胞内で見いだされる制御配列/DNAコーディング配列の組み合わせと同一である、または異なる制御配列/DNAコーディング配列の組み合わせを含有することができる。
本明細書で使用する用語「宿主細胞」には、単細胞生物、多細胞生物に由来して組織培養中に配置された細胞または本発明による核酸構築物を用いた形質転換を受けやすい多細胞生物の一部として存在する細胞のいずれであろうと、任意の真菌が含まれる。例えば酵母および他の真菌細胞などのそのような宿主細胞は、DNAを複製して、本発明において使用するヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを生成するために使用できる。好適な細胞は、一般に糸状菌もしくは酵母である。特に好ましいのは、糸状菌、好ましくは、例えばA.ニガー(A.niger)およびA.ツビンゲンシス(A.tubingensis)などのアスペルギルス(Aspergillus)属である。他の好ましい生物には、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus orizae)、A.アワモリ(A.awamori)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、T.ビリデ(T.viride)およびT.ロンギブラキアタム(longibrachiatum)のいずれか1つが含まれる。
本明細書で使用する「形質転換(された)」は、細胞が組換えDNA技術の使用によって形質転換されていることを意味する。形質転換は、典型的には細胞内への1つ以上のヌクレオチド配列の挿入によって発生する。挿入されたヌクレオチド配列は、異種ヌクレオチド配列であってよい、すなわち、例えば融合タンパク質などの形質転換されなければならない細胞にとって自然ではない配列である。
用語「誘導」には、「に由来した」、「得られた」、「入手可能」および「作成された」が含まれ、一般には、1つの特定の材料がまた別の材料中にその起源が見いだされる、または他の特定の材料を参照して記載できる特徴を有する。
本明細書で使用する用語「遺伝子」は、コーディング領域に先行する、もしくはコーディング領域の次に来る領域を含んでいても含んでいなくてもよい、ポリペプチドを生成する際に含まれるDNAのセグメント、例えば5’未翻訳(51UTR)もしくは「リーダー」配列および3’UTRもしくは「トレーラー」配列ならびに個別コーディングセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を意味する。他の実施形態では、遺伝子は商業的に重要な工業用タンパク質もしくはペプチド、例えば、プロテアーゼ、マンナナーゼ、キシラナーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、オキシダーゼおよびリパーゼなどの酵素をコードする。関心対象の遺伝子は、天然型遺伝子、変異遺伝子または合成遺伝子であってよい。
本明細書で互換的に使用する用語「制限酵素」、「制限エンドヌクレアーゼ」もしくは「部位特異的エンドヌクレアーゼ」は、制限部位として公知の特異的制限ヌクレオチド配列もしくはその近くでDNAを切断する酵素である。制限酵素は、一般に、それらの構造が相違し、それらがそれらのDNA基質をそれらの認識部位で切断するかどうか、または認識および切断部位が相互に離れているかどうかで3つのタイプに分類される。タイプIは、認識配列から約1,000塩基対以上のランダム部位で切断できる。タイプIIの切断配列は、その認識配列と重複する。タイプIIIは、認識配列から約25塩基対でDNAを切断する。さらに、制限酵素に分類されるのは、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびCRISPR/Cas、例えばRNA−誘導エンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)である。メガヌクレアーゼは、ゲノム内では極めて希である約12〜40塩基対の大きな認識部位を認識する天然型制限酵素である。メガヌクレアーゼの例には、ホーミングメガヌクレアーゼ、例えばその例にはI−SceI、I−CreI、I−MsoI、I−AniI、I−DmiIおよびPI−PfuIが含まれるLAGLIDADGファミリーが含まれる。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、FokI制限エンドヌクレアーゼ由来の非特異的DNA切断ドメインとジンクフィンガータンパク質との融合である。ZFN二量体は、DNA損傷反応経路を刺激する標的DNA二本鎖切断(DSB)を誘導する。設計されたジンクフィンガードメインの結合特異性は、ZFNを特異的ゲノム部位に方向付ける。転写活性化因子様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼ(TALEN)は、FokI切断ドメインとTALEタンパク質由来のDNA結合ドメインとの融合である。TALEは、それぞれが単一塩基対を認識する多数の33〜35アミノ酸反復ドメインを含有する。ZFNと同様に、TALENは、DNA損傷反応経路を活性化してカスタム変化を可能にする標的DSBを誘導する。RNA誘導エンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)は、CRISPR/Cas系の一部である。CRISPRもしくはClustered Regulatory Interspaced Short Palindromic Rpeats(クラスター化された規則的に間隔が空いた短いパリンドローム反復)は、複数の短い直接反復を含有しており、細菌もしくは古細菌に獲得免疫を提供する遺伝子座である。CRISPR系は、侵襲性異種DNAの配列特異的サイレンシングについてはcrRNAおよびtracrRNAに依存する。3つのタイプのCRISPR/Cas系が存在する。タイプII系では、Cas9はcrRNA−tracrRNA標的認識後にDNAを切断するRNA誘導DNAエンドヌクレアーゼとして機能する。
DNAを切断するために、全制限酵素は、1回ずつDNA二重らせんのそれぞれの糖リン酸塩骨格(すなわち、各ストランド)を通して2回切開する。3,000種を超える制限酵素が詳細に研究されてきており、これらの内600種超が市販で入手可能である。これらの酵素は、研究室でのDNA修飾のために日常的に使用されており、分子クローニングにおける重要なツールである。例えば、下記の制限酵素:PacI、SwaI、PmeI、AscI、AsiSI、FseI、NotI、SrfIおよびSgfIは、8塩基対の制限部位を認識し、市販で入手できる。本明細書で使用する制限酵素には、それらが糸状菌の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる限り、天然型制限酵素および合成、ハイブリッドもしくは突然変異制限酵素の両方が含まれる。
本明細書で使用する用語「制限酵素部位」、「制限部位」もしくは「認識部位」は、様々な制限酵素によって認識されるヌクレオチドの特異的(長さが4〜8塩基対から12〜40塩基対)配列を含有するDNA分子上の場所である。これらは、パリンドローム配列(多数の制限酵素がホモダイマーとして結合するため)または非対称性(オーダーメイド設計TALENもしくはZNFヌクレアーゼのため)のいずれかであってよく、特定制限酵素は、どこか近くで、または例えば1,000bp超など離れた箇所でその認識部位内の2つのヌクレオチド間の配列を切断することができる。例えば、共通制限酵素EcoRI認識部位は、パリンドローム配列であるGAATTCを認識し、どちらも上部および底部ストランド両方の上のGとAとの間を切断し、各末端にAATTのオーバーハングを残す。オーバーハングは、粘着性もしくは付着端としても公知である付着相補体を伴わないDNAストランドの末端部分である。このオーバーハングは次に、適合する付着端(例えば、また別のEcoRI切断片)としても公知である相補的オーバーハングを備えるDNAの一片に結紮するために使用できる(DNAリガーゼを参照されたい)。一部の制限酵素は、平滑末端と呼ばれる、制限部位にオーバーハングを残さない方法でDNAを切断する。
本明細書で使用する用語「同一性率(%)」は、用語「相同性率(%)」と互換的に使用され、配列アラインメントプログラムを使用して整列させた場合に、本発明のポリペプチドもしくは本発明のポリペプチドのアミノ酸配列のいずれか1つをコードする核酸配列間の核酸配列もしくはアミノ酸配列の同一性のレベルを意味する。
III.真菌宿主株およびDNA構築物ならびにそれらの使用方法
本開示は、真菌宿主株およびそれらを作成および使用するための組換えDNA構築物に関する。真菌宿主株は、当分野において公知の他の発現方法と比較して、より高い信頼性および/または発現レベルにおけるより低い可変性を備える、これらの宿主内での関心対象の遺伝子もしくは変異体の発現を提供するために使用できる。真菌宿主株は、特定の実施形態では、信頼できるもしくは低い可変性方法で関心対象の遺伝子を発現させるための遺伝子組込みを効率的に標的とするために有用である。
1.制限酵素媒介性組込み法(REMI)を使用した遺伝的に安定性の形質転換真菌株の構築
第1態様では、本開示は、遺伝的に安定性の形質転換真菌宿主株を構築する方法であって、a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程を含む方法を提供する。
その第1態様では、本開示は、さらに遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を構築する方法であって、a)線状化(「線状」とも呼ぶ)もしくは環状DNAと制限酵素(制限酵素の「処理を用いて」とも呼ぶ)との混合物を使用してトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の処理を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の処理を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を提供する。
その第1態様では、本開示は、さらに遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を構築する方法であって、a)線状化もしくは環状DNAを用いてトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞は制限酵素を生成するように誘導され、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成することができる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の誘導を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の誘導を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を提供する。
第2態様では、本開示は、上記の第1態様に記載した方法を使用して得られた遺伝的に安定性の形質転換真菌株を提供する。
第3態様では、本開示は、真菌形質転換体の安定性を改良する方法であって、線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程を含む方法を提供する。
その第3態様では、本開示は、さらに線状化もしくは環状DNAと制限酵素との混合物を使用してトリコデルマ(Trichoderma)属形質転換体の安定性を改良する方法であって、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成することができ、制限酵素の処理を用いて生じた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の処理を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い方法を提供する。
その第3態様では、本開示は、さらにトリコデルマ(Trichoderma)属形質転換体の安定性を改良する方法であって、線状化もしくは環状DNAを使用してトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程を含み、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる制限酵素を生成するように誘導され、制限酵素の処理を用いて生じた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の誘導を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い方法を提供する。
a.伝統的な真菌株構築法
関心対象のタンパク質のための生成宿主としての真菌株の使用は、長年にわたり経済的に実行可能であると見なされてきて、これまでの期間は商業的環境において広範に使用されてきた。真菌に対する形質転換および菌株構築のために、PEG/プロトプラスト形質転換(Hinnen et al.,1978)、電気的形質転換(Karube et al.,1985)、バイオリスティクス(Armaleo et al.,1990)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)媒介性形質転換(ATMT) (de Groot et al.,1998)およびRNA緩衝(RNAi)技術(Akashi et al.,2005)による標準方法を含む様々な遺伝子法が開発されてきた。
所定の実施形態では、形質転換のためにアスペルギルス種(Aspergillus sp.)またはヒポクレア種(Hypocrea sp.)を調製するために、真菌の菌糸体由来のプロトプラストが調製される。例えば、Campbell et al.Curr.Genet.16:53−56;1989を参照されたい。菌糸体は、発芽した栄養胞子から入手できる。菌糸体を細胞壁を消化する酵素を用いて処理すると、プロトプラストが生じる。プロトプラストは、次に、懸濁媒中の浸透安定剤の存在によって保護される。好適な安定剤には、例えば、ソルビトール、マンニトール、塩化カリウム、硫酸マグネシウムなどが含まれる。典型的には、安定剤の濃度は、約0.8M〜約1.2M(例えば、約0.9M〜約1.2M、約1.0M〜約1.2M、約1.1M〜約1.2Mなど)で変動する可能性がある。
特定の実施形態では、懸濁媒中で約1.2Mのソルビトールが安定剤として使用される。宿主株(例えば、アスペルギルス種(Aspergillus sp.)またはヒポクレア種(Hypocrea sp.)(トリコデルマ種(Trichoderma sp.))内へのDNAの取り込みは、頻回にカルシウムイオン濃度に依存する。一般に、約10mMのCaCl2〜約50mMのCaCl2(例えば、約15mM〜約45mM、約20mM〜約40mM、約25mM〜約35mM)が取込み溶液に使用される。取込み溶液中にカルシウムイオンを含むことの他に、頻回に含まれる他の品目は、緩衝系、例えばTEバッファー(10mMのTris(pH7.4);1mMのEDTA)または10mMのMOPS(pH6.0)バッファー(モルホリンプロパンスルホン酸)およびポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。このバッファー中のポリエチレングリコールは、細胞膜を融解させ、そこで培地の内容物が宿主株(例えば、アスペルギルス種(Aspergillus sp.)またはヒポクレア種(Hypocrea sp.))の細胞質中に送達されることを許容し、プラスミドDNAが核に運ばれると考えられている。所定の実施形態では、この融解工程は、宿主染色体内に組み込まれたプラスミドDNAの複数のコピーを残す。
通常、形質転換では、105〜106/mL、好ましくは2×105/mLの密度での透過性処理を受けているアスペルギルス種(Aspergillus sp.)プロトプラストもしくは細胞を含有する懸濁液が使用される。同様に、形質転換では、108〜109/mL、好ましくは2×108/mLの密度での透過性処理を受けているヒポクレア種(Hypocrea sp.(トリコデルマ種(Trichoderma sp.))プロトプラストもしくは細胞を含有する懸濁液が使用される。適切な溶液(例えば、1.2Mのソルビトール;50mMのCaCl2)中の体積100μLのこれらのプロトプラストもしくは細胞を所望のDNAと混合する。一部の実施形態では、実質的量のPEGを取込み溶液に加える。例えば、プロトプラスト懸濁液には約0.1〜約1体積の25%のPEG4000を加えることができる。特定の例では、約0.25体積の25%のPEG4000をプロトプラスト懸濁液に加える。例えば、ジメチルスルホキシド、ヘパリン、スペルミジン、塩化カリウムなどの添加物もまた、取込み溶液に加えると形質転換を補助することができる。
所定の実施形態では、この混合物を約0℃で約10〜約30分間の期間にわたりインキュベートする。所望の遺伝子もしくはDNA配列の取込みをさらに強化するために、追加のPEGを混合物に加えることができる。所定の実施形態では、25%のPEG4000を形質転換混合物の体積の5〜15倍の体積で加えることができる;しかし、これより多いおよび少ない体積もまた好適な可能性がある。例えば、25%のPEG4000は、一部の実施形態では、形質転換混合物の体積の10倍で加えられる。PEGを加えた後、形質転換混合物は次に室温または氷温のいずれかでインキュベートし、その後にソルビトールおよびCaCl2溶液を加える。次に増殖培地のアリコートを溶融させるためにプロトプラスト懸濁液がさらに加えられる。この増殖培地は、形質転換体の増殖を許容する。本開示の所望の形質転換体を増殖させるためには、多数の増殖培地を好適に使用することができる。所定の実施形態では、例えば、Pyr+形質転換体が選択される場合は、ウリジンを含有しない増殖培地を使用するのが好ましい。例えば、コロニーは、ウリジンを含まない増殖培地上に移動させられて精製される。
この段階で、安定性形質転換体は、それらのより迅速な増殖速度によって不安定性形質転換体から識別することができる。さらに、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属などの多数の糸状菌宿主を使用すると、ウリジンが欠如する固体培養培地上のギザギザの輪郭とは対照的に、平滑さを備える環状コロニーの形成を際立った特徴として使用できる。一部の実施形態では、さらに、安定性の試験および選択は、固体非選択培地(例えば、ウリジンを含有する)上で形質転換体を増殖させる工程、この培養培地から胞子を収穫する工程およびこれらの胞子の百分率を決定する工程によって実施することができる。選択された胞子は、ウリジンが欠如する選択培地上で発芽させて増殖させられる。安定性形質転換体の百分率は、試験した全形質転換体の間で計算できる。
上記の形質転換法を使用すると、安定性形質転換体の百分率は、5〜30%の間で変動する可能性があり、これは最善の菌株を選択するためには極めて多数の形質転換体をスクリーニングしなければならないことを意味する。安定性頻度は、使用される、およびトリコデルマ(Trichoderma)属菌株内の選択マーカーに依存する可能性がある。さらに、アスペルギルス(Aspergillus)属のような一部の他の真菌と比較して、トリコデルマ(Trichoderma)属における不安定性形質転換体の頻度が極めて高い理由は依然として知られていない。この高レベルの不安定性形質転換体のために、生産菌株のスクリーニングおよび選択の工程は、極めて労力を要して時間を消費する傾向がある。このため、低下した可変性を備える、関心対象のタンパク質を発現させるために遺伝的に安定性の形質転換真菌株を生成する信頼できる手段は、明白な長所を提供する。
外因性DNAが標的遺伝子置換として染色体内に組み込まれると、外因性DNAは、DNA DSB(二本鎖切断)の細胞修復機序を含んでいる。DSBは、2つの主要経路:相同配列に依存するHR(相同性組換え)経路および配列相同性に依存しないNHEJ経路を通してゲノムの維持において極めて重要な役割を果たす(Kanaar et al.,1998)。これらの2つの修復機序は、独立して機能するが、機能における競合を明らかにすると考えられる(van Dyck et al.,1999)。単細胞真核生物であるS.セレビシアエ(S.cerevisiae)においては、HRがDSBを修復する際に含まれる主要経路であるが、大多数の糸状菌におけるHRの低頻度(5%)は標的遺伝子置換に関する研究を妨害した(Weld et al.,2006)。その結果として、糸状菌における高度に効率的な遺伝子ターゲティングを達成するためには、NHIJ経路の排除を通してHR経路を増加させる方法が必要とされる。NHIJ欠損性菌株はHRの効率を改良するために開発されてきたが、それはこの遺伝子がHRを介してその内因性遺伝子座により容易に組み込まれるからである。NHIJ欠損性菌株の形態は野生型と類似であったが、突然変異体は例えばフレオマイシン、ブレオマイシンおよびメタンスルホン酸メチル/エチルなどの数種の化学物質に対してより感受性であった。このため、関心対象の遺伝子を標的方法で真菌ゲノム内に組み込むことができるように他の方法、系もしくはテクノロジーを開発する必要がある。
b.制限酵素媒介性組込み(REMI)を使用する真菌株の構築
PEG−プロトプラスト系をベースとする制限酵素媒介性組込み(REMI)は、最初にS.セレビシアエ(S.cerevisiae)において確立され(Schiest and Petes,1991)、例えばコクリオボルス・ヘテロストロフス(Cochliobolus heterostrophus)(Lu et al.,1994)およびアルテルナリア・アルテルナタ(Alternaria alternata)(Tanaka et al.,1999)などの数種の真菌植物病原体において上首尾で適用されてきた。今日、REMI技術は、病原性遺伝子の同定ならびに他の遺伝子機能評価において有用な極めて多数もしくは高百分率の真菌突然変異体を生成することに成功してきた。例えば、線虫捕捉真菌であるアルトロボトリス・オリゴスポラ(Arthrobotrys oligospora)を最適化REMI法を用いて処理すると、1μgの線状プラスミドDNA当たり、および総数2,000個超の形質転換体中で34〜175個の形質転換体が生じた。さらに、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)の突然変異体ライブラリー内でREMIによってスクリーニングした11個の興味深い突然変異体およびコムギ瘡痂病、CBL1およびMSY1における菌力と関連するまた別の2つの遺伝子もまた同定された(Seong et al.,2005)。さらに、病原性または植物防御化合物に対する耐性に関連する数種のタンパク質は、F.オキシスポラム(F.oxysporum)からREMI技術によって同定された(Duyvesteijn et al.,2005;Imazaki et al.,2007;Madrid et al.,2003)。これらをまとめると、改良された突然変異体(形質転換体)頻度および単一コピー挿入率は、REMIによって確実に得ることができる。
本開示は、これまでに認識されても適用されてもいない状況におけるREMIの使用を提供するが、すなわち、REMIは、形質転換体の頻度とは対照的に、安定性トリコデルマ(Trichoderma)属形質転換体の百分率を有意に増加させるために使用された。実際に、形質転換体の頻度は、REMIをトリコデルマ(Trichoderma)属に適用した場合に、予想されたよりも少ないことが見いだされた。しかし、作成された形質転換体の中では、頻度が減少すると、安定性形質転換体の数は劇的に増加する。
また別の観点からは、トリコデルマ(Trichoderma)属が制限酵素の存在下でDNAを用いて形質転換された場合は、不安定性形質転換体の数は劇的に低下し、そこで安定性コロニーの容易な選択が可能になると記載された(図4A〜4E)。
伝統的なPEG媒介性形質転換実験では、安定性形質転換体の百分率は、5〜30%の間で変動する可能性がある。対照的に、REMIがトリコデルマ(Trichoderma)属PEG媒介性形質転換実験のために適用されると、安定性形質転換体の百分率は90%まで増加する。結果として、最高菌株を選択するためにスクリーニングしなければならない形質転換体の数は、有意に減らすことができる。
さらに、REMIが適用されると、より高い百分率の高産生性形質転換体が観察された。
一部の実施形態では、本方法のために、または本明細書に記載した真菌宿主株とともに使用された制限酵素は、真菌宿主細胞内に配置された発現カセットによって生成される。発現カセットは、例えば、好適には、高レベル転写のために有用な選択マーカーおよび配列を含有する任意の発現ベクター内に挿入することができる。
制限酵素またはその一部に対するコーディング領域は、そのような汎用発現ベクター内に挿入することができ、それが発現カセットプロモーターおよびターミネーター配列の転写制御下に配置する。そのような汎用発現ベクターの非限定的例は、アスペルギルス(Aspergillus)属のpRAXである。関心対象の遺伝子もしくは変異遺伝子またはそれらの一部は、強力なglaAプロモーターの下流に挿入することができる。そのような汎用発現ベクターの非限定的例は、ヒポクレア(Hypocrea)属のpTrex3gMである。関心対象の遺伝子もしくは変異遺伝子またはそれらの一部は、強力なcbhlプロモーターの下流に挿入することができる。
所定の実施形態では、ベクター内では、制限酵素もしくは関心対象のタンパク質をコードするDNA配列は、構造的遺伝子へのリーディングフレーム内で、転写および翻訳配列、例えば、好適なプロモーター配列およびシグナル配列に機能的に連結していてよい。プロモーターは、好適には、特定の宿主細胞内で転写活性を示す任意のDNA配列であってよく、宿主細胞にとって同種もしくは異種いずかであるタンパク質をコードする遺伝子に由来してよい。任意選択的シグナルペプチドは、関心対象のタンパク質もしくは変異体の細胞外産生を提供することができる。シグナル配列をコードするDNAは、好ましくは、発現すべき遺伝子に自然に関連しているDNAである。しかし、任意の適切な起源由来、例えばエキソ−セロビオヒドロラーゼ由来またはトリコデルマ(Trichoderma)属のエンドグルカナーゼ由来のシグナル配列は企図されている。
制限酵素もしくは関心対象のタンパク質をコードするDNA配列をプロモーターにライゲートする、および好適なベクター内へのそのような構築物の挿入のために使用できるプロトコルは、当分野において公知である。
本明細書に記載したDNAベクターもしくは構築物は、例えば、上記に記載した形質転換法、トランスフェクション法、マイクロインジェクション法、マイクロポレーション法、バイオリスティクス照射法などの公知の技術にしたがって真菌宿主細胞内に導入することができる。
本明細書に提供した本発明とともに好適に使用される真菌株は、トリコデルマ種(Trichoderma spp.)、特にトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(ロンギブラキアタム(longibrachiatum))由来の真菌株であってよい。しかし、関心対象の遺伝子は、さらに例えば、アブシディア種(Absidia spp.);アクレモニウム種(Acremoniυm spp.);アガンカス種(Agancus spp.)、アナエロミセス種(Anaeromyces spp.);A.アウクレアタス(A.auculeatus)、A.アワモン(A.awamon)、A.フラバス(A.flavus)、A.フォエティダス(A.foetidus)、A.フマリカス(A.fumaricus)、A.フミガーツス(A.fumigatus)、A.ニデュランス(A.nidulans)、A.ニガー(A.niger)、A.オリザエ(A.oryzae)、A.テレウス(A.terreus)およびA.バーシカラー(A.versicolor)を含むアスペルギルス種(Aspergillus spp.);オイロバシジウム種(Aeurobasidium spp.);セファロスポラム種(Cephalosporum spp.);カエトミウム種(Chaetomium spp.);クリソスポリウム種)Chrysosporium spp.);コプリヌス種(Coprinus spp.);ダクチルム種(Dactyllum spp.);F.コングロメランス(F.conglomerans)、F.デセムセルラレ(F.decemcellulare)、F.ジャバニカム(F.javanicum)、F.リム(F.lim)、F.オキシスポラム(Foxysporum)およびF.ソラニ(F.solani)を含むフザリウム種(Fusarium spp.);グリオクラジウム種(Gliocladium spp.);H.インソレンス(H.insolens)およびH.ラヌギノサ(H.lanuginosa)を含むフミコラ種(Humicola spp.);ムコール種(Mucor spp.);N.クラッサ(N.crassa)およびN.シトフィラ(N.sitophila)を含むニューロスポラ種(Neurospora spp.);ネオカリマスティックス種(Neocallimastix spp.);オルピノミセス種(Orpinomyces spp.);ペニシリウム種(Penicillium spp.);ファネロケーテ種(Phanerochaete spp.);フレビア種(Phlebia spp.);ピロミセス種(Piromyces spp.);シュードモナス種(Pseudomonas spp.);リゾプス種(Rhizopus spp.);シゾフィラム種(Schizophyllum spp.);トラメテス種(Trametes spp.);T.リーゼイ(T.reesei)、T.リーゼイ(T.reesei(ロンギブラキアタム(longibrachiatum))およびT.ビンデ(T.vinde)を含むトリコデルマ種(Trichoderma spp.);およびジゴリンクス種(Zygorhynchus spp.)などの真菌を含む任意の他の好適な微生物由来であってよい。同様に、関心対象の遺伝子もしくはそれがコードするタンパク質は、例えば、バチルス種(Bacillus spp.)、セルロモナス種(Cellulomonas spp.);クロストリジウム種(Clostridium spp.)、ミセリオフトラ種(Myceliophthora spp.);サーモモノスポラ種(Thermomonospora sppp.);ストレプトミセス種(Streptomyces spp.)、S.オリボクロモゲネス(S.olivochromogenes);フィブロバクター・スクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)などの細菌およびカンジダ・トレスン(Candida torresn、C.パラシロシス(C.parapsllosis);C.サケ(C.sake);C.ゼイラノイデス(C.zeylanoides)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta);ロードトルーラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis);R.ムチラギノーザ(R.mucilaginosa)およびスポロボロミセス・ロゼウス(Sporobolomyces roseus)を含む酵母の中に見いだすことができる。関心対象の遺伝子は、または例えば細菌などの他の起源に由来してよい。
c.真菌株中の標的遺伝子組込み系
1つの態様では、本開示は、第1部では、染色体DNA内に少なくとも1つの制限酵素部位を含有する真菌宿主細胞;および第2部では、1つ以上の関心対象の遺伝子を発現させるために操作できる配列、選択マーカーおよび前記染色体制限酵素部位の側面に位置する配列と実質的に相同性を備える配列を含有する核酸分子を含む真菌発現系であって、このとき相同性配列は関心対象の遺伝子の発現を結果として生じる相同性組換え事象を誘発する真菌発現系を提供する。さらに、本開示は、上述の態様の真菌発現系を使用する方法であって、制限酵素部位を生成できる制限酵素の存在下で前記核酸分子を真菌宿主細胞内に形質転換させる工程を含む方法を提供する。
さらに、本開示は、真菌発現系を使用する方法によって得られる形質転換もしくは誘導真菌株を提供する。
なおさらに、本開示は、標的遺伝子組込み方法であって、最初に染色体DNA内の少なくとも1つの制限酵素部位を含む真菌宿主細胞、および関心対象の1つ以上の遺伝子を発現させるために操作可能である配列、少なくとも1つの選択マーカーおよび前記染色体制限酵素部位の側面に位置する配列との実質的相同性を備える配列を含有する核酸分子を入手する工程であって、前記相同配列は相同性組換え事象を誘発して前記関心対象の遺伝子の発現を生じさせる工程;次に第1工程の核酸分子を第1工程の真菌宿主細胞に染色体制限酵素部位を生成できる制限酵素の存在下で形質転換させる工程を含む標的遺伝子組込み法を提供する。
本開示は、遺伝子機能を解明するために開発された標的遺伝子組込み系であって、微生物および真核生物両方のゲノム内で相互作用するタンパク質パートナーを同定する工程を含む標的遺伝子組込み系を提供する。伝統的には、遺伝子機能を決定するための方法は、典型的には、生物の表現型を評価するために関心対象の遺伝子についてのヌル突然変異の作成、関心対象の遺伝子が非機能的にさせられる場合と関心対象の遺伝子が存在する場合とを比較する工程を含む。ヌル突然変異は、組換えDNA技術を使用して作成された遺伝子崩壊ベクターを使用する遺伝子崩壊(遺伝子ノックアウトもしくは遺伝子置換とも呼ぶ)によって生成される。関連生物内に形質転換されると、関心対象の崩壊遺伝子を備えるDNA構築物は、相同性組換えによってそのような生物のゲノム内の常在場所に組み込まれ、遺伝子の機能的コピーを置換するであろう。上述した伝統的な工程は、広範囲の生物における遺伝子の崩壊のためには良好に機能してきたが、いくつかの固有の限界を有する。例えば、大多数の真菌を含む多細胞真核生物において優勢である非相同末端結合(NHEJ)は、ゲノム内にランダムに組み込まれる発現ベクターを生じさせる。さらに、形質転換体間でさえ、典型的には大きな百分率の不安定性形質転換体が生成され、安定性形質転換体を得るためには形質転換体のさらなるスクリーニングを余儀なくさせる。
さらに、真菌系、例えば、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を使用した高度に特異的活性を備えるタンパク質もしくは変異体を同定するためのハイスループット・スクリーニングは、標的組込み事象の低効率のために、難題であった。他方、長年にわたり、その後に真菌宿主生物によって発現もしくは精製することができ、さらに工業使用に供することのできるタンパク質/変異体/酵素の有意味なスクリーニングを提供するためには、関心対象のタンパク質/変異体/酵素が最終的に生成される真菌系、または相当に密接に関連している真菌系においてそのようなハイスループット・スクリーニングを実施することが極めて重要である。しかし、多数の当業者によって好まれる例えばトリコデルマ(Trichoderma)属系などの真菌系では、関心対象の突然変異遺伝子を含有する発現カセットのランダム組込みは、ほぼ必然的および頻回に発生し、2つの変量:1)発現レベル;および2)関心対象のタンパク質/変異体/酵素の活性を生じさせ、それらの相互作用は途方もなく大きな複雑性を導く。したがって、ゲノム内の規定の部位への関心対象の遺伝子の標的組込みを介する形質転換体のタンパク質発現における相同性を生じさせる、本明細書に記載したようなアプローチは、タンパク質活性を直接的に特徴的な突然変異と関連付けることができるので高度に望ましい。
以前には、発現レベルの可変性を減少させるための努力が重ねられてきた。例えば、非相同末端結合(NHEJ)経路(例えば、ku70、ku80もしくはlig4)が不活性化されている突然変異真菌株は、相同性組込みの頻度の増加を提示することが見いだされてきた。残念なことに、このようにして得られた形質転換体の数は、極めて小さかった。さらに、工業用菌株におけるku70内での突然変異は、それらが遺伝的不安定性を導く場合には望ましくないと報告されている(Aw and Polizzi 2013)。
本開示は、T.リーゼイ(T.reesei)ゲノム内の規定部位で二本鎖切断を作成するためにI−SceIエンドヌクレアーゼを使用することにより、T.リーゼイ(T.reesei)菌株内で無傷のNHEJ遺伝子を用いると標的組込み頻度が改良されたことを証明する。
特定の例(実施例2)では、cbh2遺伝子座にI−SceI制限部位を存在させるために組換えT.リーゼイ(T.reesei)を構築し、I−SceIの存在下で組換えT.リーゼイ(T.reesei)を形質転換させるためにI−SceI制限部位の側面に位置する配列を実質的に備えるグルコアミラーゼ発現カセットを使用すると、これはT.リーゼイ(T.reesei)ゲノム内の規定部位で二本鎖切断を作成した。二重交差を介しての所定の遺伝子座でのグルコアミラーゼ発現カセットの標的組込みが観察された(図11)。さらに表3に示したように、誘導性I−SceI構築物についてはたった46%およびコントロール構築物については16%であったのに比して、標的方法では68%のグルコアミラーゼを発現する形質転換体(I−SceI誘導)が組み込まれた。
d.真菌株の発酵
1つの態様では、本開示は、好適な培地中で、a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程を含む方法を使用して得られている形質転換真菌株を発酵させる方法を提供する。
この態様では、本開示は、さらにa)線状化/線状もしくは環状DNAと制限酵素との混合物を用いてトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の処理を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の処理を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を使用して得られている、形質転換真菌株を好適な培地中で発酵させる方法をさらに提供する。
同一態様では、本開示は、a)線状化/線状もしくは環状DNAを用いてトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞は制限酵素を生成するように誘導され、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の誘導を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の誘導を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を使用して得られている形質転換真菌株を好適な培地中で発酵させる方法をさらに提供する。
また別の態様では、本開示は、関心対象の遺伝子を発現させる方法であって、例えば、上記の態様において記載された方法にしたがって、関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下の好適な培地中で得られている形質転換真菌株を増殖させて発酵させる工程を含む方法を提供する。
また別の態様では、本開示は、好適な培地中で、それにより形質転換もしくは誘導真菌株が本明細書に記載した方法および真菌発現系を使用して得られる形質転換もしくは誘導真菌株を発酵させる方法を提供する。
さらにまた別の態様では、本開示は、関心対象の遺伝子を発現させる方法であって、好適な培地中および前記関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下で本明細書に提供した形質転換もしくは誘導真菌株を増殖および発酵させる工程を含む方法を提供する。こうして得られた形質転換もしくは誘導真菌株は、好適には、一般に、好適な制限酵素部位を生成できる制限酵素の存在下で所定の核酸分子を真菌宿主細胞内に形質転換させる工程を含めて、本明細書に記載もしくは提供した真菌発現系を使用することができる。
当分野において周知の発酵方法のいずれも、本明細書に提供した形質転換もしくは誘導真菌株を発酵させるために好適に使用することができる。一部の実施形態では、真菌細胞は、バッチもしくは連続発酵条件下で装飾させられる。
伝統的なバッチ発酵は、培地の組成が発酵の開始時に設定され、発酵中にその組成が変更されない閉鎖系である。発酵の開始時に、培地には所望の生物が接種される。言い換えると、全発酵工程は、全体を通して発酵系にいかなる成分の追加も行わずに行われる。
または、バッチ発酵は、炭素源の添加に関して「バッチ」であると見なされる。さらに、発酵工程を通して例えばpHや酸素濃度などの因子を制御するための頻回な試みが実施される。典型的には、バッチ系の代謝産物およびバイオマス組成は、発酵が停止するまで常に変化する。バッチ培養内では、細胞は静的誘導期を通って高増殖対数期へ進行し、および最終的には増殖率が減少もしくは停止する静止期に進む。未処理のまま放置すると、静止期にある細胞は最終的には死滅するであろう。一般に、対数期にある細胞は、生成物の大量生産の原因となる。
標準バッチ系での好適な変形形態は、「フェドバッチ発酵」系である。典型的なバッチ系のこの変形形態では、発酵の進行につれて基質が徐々に加えられる。フェドバッチ系は、異化代謝産物抑制が細胞の代謝を抑制することが公知である場合、および/または発酵培地中では限定量の基質を有することが所望である場合には有用である。フェドバッチ系内での実際の基質濃度の測定は困難であり、このため例えばpH、溶存酸素およびCO2などの排気ガスの部分圧などの測定可能な因子の変化に基づいて推定される。バッチおよびフェドバッチ発酵は、当分野において周知である。
連続発酵は、また別の公知の発酵方法である。連続発酵は、定義された発酵培地がバイオリアクターに連続的に加えられ、等量の馴化培地から加工処理のために同時に除去される開放系である。連続発酵は、一般に、細胞が主として対数期増殖に維持される一定密度で培養を維持する。連続発酵は、細胞増殖および/または生成物濃度に影響を及ぼす1つ以上の因子の調節を許容する。例えば、炭素源もしくは窒素源などの制限的栄養分は、一定比率に維持することができ、他の全てのパラメーターは調節することが許容される。他の系では、培地濁度によって測定される細胞濃度が一定に維持される間に、増殖に影響を及ぼす多数の因子を連続的に変化させることができる。連続系は、定常状態増殖条件を維持しようと努力する。そこで、除去される培地に起因する細胞消失は、発酵中の細胞増殖率に対してバランスが取られなければならない。連続発酵工程のための栄養分および増殖因子を調節する方法ならびに生成物形成速度を最大化するための技術は、工業微生物学の分野において周知である。
e.真菌株によって生成される関心対象のタンパク質
1つの態様では、本開示は、関心対象の遺伝子によってコードされ、関心対象の遺伝子を発現させるによって生成された関心対象のタンパク質であって、その方法は、関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下の好適な培地中で形質転換真菌株を増殖および発酵させる工程を含み、その菌株は:a)線状化DNAと制限酵素との混合物を使用して真菌細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素は前記真菌株の染色体DNA内で二本鎖切断を生成できる工程;およびb)工程a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換真菌株を選択する工程を使用して得られる関心対象のタンパク質を提供する。
この態様では、本開示は、関心対象の遺伝子によってコードされ、関心対象の遺伝子を発現させるによって生成された関心対象のタンパク質であって、その方法は、関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下の好適な培地中で形質転換真菌株を増殖および発酵させる工程を含み、その菌株は、a)線状化/線状もしくは環状DNAと制限酵素との混合物を用いてトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の処理を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の処理を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を使用して得られる関心対象のタンパク質をさらに提供する。
同一態様では、本開示は、関心対象の遺伝子によってコードされ、関心対象の遺伝子を発現させるによって生成された関心対象のタンパク質であって、その方法は、関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下の好適な培地中で形質転換真菌株を増殖および発酵させる工程を含み、その菌株は、a)線状化/線状もしくは環状DNAを用いてトリコデルマ(Trichoderma)属細胞を形質転換させる工程であって、トリコデルマ(Trichoderma)属細胞は制限酵素を生成するために誘導され、制限酵素はトリコデルマ(Trichoderma)属細胞の染色体DNA内で二本鎖切断(DSB)を生成できる工程;およびb)a)において生成された遺伝的に安定性の形質転換トリコデルマ(Trichoderma)属菌株を選択する工程であって、制限酵素の誘導を用いた安定性形質転換体の百分率が制限酵素の誘導を用いずに入手できる安定性形質転換体の百分率より高い工程を含む方法を使用して得られる関心対象のタンパク質をさらに提供する。
また別の態様では、本開示は、関心対象の遺伝子によってコードされ、関心対象の遺伝子の発現を許容する条件下の好適な培地中で誘導真菌株内で関心対象の遺伝子を発現させる方法によって生成される関心対象のタンパク質であって、その菌株は、真菌発現系を使用する方法であって、第1部では、染色体DNA内の少なくとも1つの制限酵素部位を含有する真菌宿主細胞;および第2部では1つ以上の関心対象の遺伝子を発現させるために操作可能である配列を含有する核酸分子、選択マーカーおよび前記染色体制限酵素部位の側面に位置する配列と実質的相同性を備える配列を含み、相同配列は結果として関心対象の遺伝子の発現を生じさせる相同性組換え事象を誘発し、それにより第1部の核酸分子は制限酵素部位を生成できる制限酵素の存在下で真菌宿主細胞内に形質転換される関心対象のタンパク質を提供する。
関心対象のタンパク質は、好適には任意の内因性および異種タンパク質であってよい。関心対象のタンパク質は、1つ以上のジスルフィド架橋を含有することができる、またはその機能的形態がモノマーもしくはマルチマーである、すなわち、タンパク質が四次構造を有し、複数の同一(同種)もしくは非同一(異種)サブユニットから構成されるタンパク質であってよいが、関心対象のタンパク質は、好ましくは関心対象の特性を備えるタンパク質である。
関心対象のタンパク質は、関心対象の変異体であってよい。関心対象のタンパク質もしくは関心対象の変異体は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、β−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼもしくはそれらの変異体、またはこれらの酵素もしくは変異体の2つ以上の混合物であってよい。関心対象のタンパク質もしくは関心対象のタンパク質の変異体の非限定的例は、デンプン代謝に含まれるタンパク質もしくは酵素またはそれらの変異体、グリコゲン代謝に含まれるタンパク質もしくは酵素またはそれらの変異体、酵素、例えばアセチルエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−グルカナーゼ、グルカンリサーゼ、エンド−β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、オキシドレダクターゼ、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ラムノ−ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、タウマチン、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ(D−ヘキソース:02−オキシドレダクターゼ、EC1.1.3.5)、それらの変異体およびこれらの酵素もしくはそれらの変異体の2つ以上の組み合わせであってよい。
関心対象のタンパク質もしくは関心対象の変異体は、さらに好適には、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原(例えば、HBV表面抗原、HPV E7など)もしくはそれらの変異体もしくは断片、またはそのような物質、変異体もしくは断片の2つ以上の混合物であってよい。
他のタイプの関心対象のタンパク質もしくは変異体は、食品または作物に栄養価を提供できるタンパク質もしくは変異体であってよい。非限定的例には、栄養分吸収阻止因子の形成を阻害できる植物性タンパク質およびより望ましいアミノ酸組成物(例えば、非トランスジェニック植物より高いリシン含量)を有する植物性タンパク質が含まれる。
f.このように生成されたタンパク質性組成物の使用
1つの態様では、本開示は、関心対象のタンパク質を含むタンパク質性組成物を提供する。タンパク質性組成物は、好適には、本明細書に提供した方法を使用して生成される。本組成物は、本明細書に記載した方法を使用して発現させた、関心対象の遺伝子によってコードされた関心対象のタンパク質を含む。本組成物は、例えばバイオマス加水分解、クリーニング用途、穀物加工処理、動物栄養、食品組成物、織物処理などの様々な有用な工業用途において使用することができる。
例えば、このように生成されたタンパク質性組成物は、リグノセルロース系バイオマス加水分解において使用できる。世界最大の再生可能なバイオマス源であるリグノセルロースは、主として、リグニン、セルロースおよびその大部分がキシランであるヘミセルロースから構成される。リグノセルロース系供給原料からエタノールへの変換は、大量の供給原料の容易な入手可能性、材料の燃焼もしくは埋立処分を回避できるという望ましさおよびエタノール燃料の清浄度という長所を有する。木材、農業残留物、草本作物および都市固形廃棄物は、エタノール製造のための供給原料であると見なされてきた。リグノセルロースがいったん発酵性糖、例えばグルコースに転換されると、発酵性糖は、酵母によって容易にエタノールに発酵させられる。セルロースは、β−1,4−結合によって共有結合された単糖であるグルコースのポリマーである。多数の微生物は、β結合グルカンを加水分解する酵素を生成する。これらの酵素には、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼおよびβ−グルコシダーゼが含まれる。キシランは、1,4−β−グルコシド結合D−キシロピラノースから形成された多糖である。キシラン(例えば、エンド−1,4−β−キシラナーゼ、EC3.2.1.8)は、キシラン内の内部β−1,4−キシロシド結合を加水分解して、より低分子量のキシロースおよびキシロ−オリゴマーを生成する。本開示は、工業用酵素、変異体およびそのようなリグノセルロース系バイオマス使用にとっての関心対象の混合物のプロデューサーとして好適および有利である、改良された形質転換体安定性を証明した形質転換真菌細胞を提供する。
また別の例では、このように生成されたタンパク質性組成物は、クリーニング用途において使用できる。酵素的クリーニング成分は、それらが、さもなければ従来型の化学的洗剤によっては容易には除去されない汚れ、染みおよび他の砕片を破壊する能力のために人気が高い。クリーニングのために有用な周知の酵素には、例えば、それぞれが一連の様々な機能性を提供するリパーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、さらに所定のセルラーゼさえなどの他の酵素とともに、プロテアーゼおよびアミラーゼが含まれる。プロテアーゼは、タンパク質をベースとする染みに有効である;アミラーゼは炭水化物やデンプンに働く;およびリパーゼは、例えば、脂質もしくは脂肪を破壊する。本開示は、クリーニング用途にとっての工業用酵素、変異体および関心対象の混合物のプロデューサーとして好適および有利である、改良された形質転換体安定性を証明した形質転換真菌細胞を提供する。
また別の例では、このように生成されたタンパク質性組成物は、穀粒加工処理において使用できる。デンプンは、植物自体ならびに微生物および高等生物によって使用される、植物における最も一般的な貯蔵炭水化物である。極めて様々な酵素は、デンプン加水分解を触媒することができる。全ての植物起源からのデンプンは穀物の形態で発生するが、植物起源の種に依存して、デンプンは顕著に様々なサイズおよび物理的特徴で存在する。デンプンの酸加水分解は以前には広範に使用されていたが、この工程は現在では、耐蝕性材料やその他の利点を必要とすることが少なく、加熱のために必要とするエネルギーが少なく、酸性工程よりも制御するのが相当に容易であることが知られている酵素的工程によって置換されている。本開示は、例えばデンプン分解および穀粒加工処理にとっての工業用酵素、変異体および関心対象の混合物のプロデューサーとして好適および有利である、改良された形質転換体安定性を証明した形質転換真菌細胞を提供する。
また別の例では、このように生成されたタンパク質性組成物は、食品用途において使用できる。細菌、酵母およびカビによって生成された酵素は、何千年にもわたり例えばパン、チーズ、ビールおよびワインなどの食品を製造するために食品用途において使用されてきた。現在、酵素は、パン製造、チーズ製造、デンプン加工処理および果汁や他の飲料の製造において使用され、そのような改良された質感、外観および栄養価を提供し、所望の香味および芳香などを生成する。食品用酵素は、典型的には、動物および植物(例えば、デンプン消化酵素、アミラーゼは、発芽大麦種子から入手できる)ならびにある範囲の有益な微生物を起源とする。酵素は、多数の加工処理における合成化学物質に置換して、伝統的な化学物質に基づく技術にとっての実行可能で所望である代替品であると思われる。酵素は、エネルギー消費を減少させて、廃棄物もしくは副生成物の生分解性を改良する、食品製造加工処理の環境的性能を改良することに役立つことができる。酵素は、それらの作用において合成化学物質よりも特異的である傾向があり、したがって、酵素的加工処理はより少ない副反応および廃棄物もしくは副生成物を生じさせ、結果としてより高品質の生成物を生成して、汚染の可能性を減少させる傾向がある。酵素的加工処理は、頻回に唯一の可能な加工処理でもある。これの1つの例は、酵素であるペクチナーゼの使用に依存する透明リンゴ果汁濃縮液の製造にある。食品用酵素の大多数は、微生物、例えばバチラス(Bacellus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属またはクルイベロミセス(Kluyveromyces)属から生成される。本開示は、食品用途におけるなどの使用にとっての工業用酵素、変異体および関心対象の混合物のプロデューサーとして好適および有利である、改良された形質転換体安定性を証明した形質転換真菌細胞を提供する。
また別の例では、このように生成されたタンパク質性組成物は、動物飼料用添加物において使用できる。セルラーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、α−アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、フィターゼおよび他の炭水化物は、動物試料工業において広範に使用されてきた。多数の植物をベースとする供給原料は動物の成長を低下させる栄養阻害因子を備える物質を含有するので、そのような供給原料に加えられる酵素は、繊維、タンパク質、デンプンおよびフィチン酸塩を分解し、それらを動物がより消化し易くし、肉、卵もしくはミルク生産性を最大化しながら、より安価で頻回に地元で製造される供給原料の使用を可能にすることによってこれらの栄養阻害因子の消化性を改良する。同時に、そのような供給原料に加えられる酵素は、さらに腸の健康および動物の性能強化を支持する利点を提供する。本開示は、動物飼料用途におけるなどの使用にとっての工業用酵素、変異体および関心対象の混合物のプロデューサーとして好適および有利である、改良された形質転換体安定性を証明した形質転換真菌細胞を提供する。
さらにまた別の例では、このように生成されたタンパク質性組成物は、織物用途において使用できる。酵素は、織物加工処理の不可欠な部分になっている。織物工業においては、2つの明確に確立された酵素用途がある。第1に、例えばアミラーゼなどの酵素は、一般に湯通しのための予備仕上げ領域において使用される。第2に、例えばセルラーゼなどの酵素は、柔軟化、バイオストーン加工および綿製品のピリング傾向を低下させるための仕上げ領域で一般に使用される。例えば、ペクチナーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、カタラーゼ、キシラナーゼなどの他の酵素もまた織物加工処理において使用される。さらに、デニムや非デニムのフェーディング、バイオスカーリング、バイオポリッシング、ウール仕上げ、過酸化物除去、染料の脱色などに含まれた酵素を必要とする様々な用途がある(Cavaco−Paulo and Gubitz,2003;Chelikani et al.,2004;Nalankilli,1998;Shenai,1990)。本開示は、織物用途におけるなどの使用にとっての工業用酵素、変異体および関心対象の混合物のプロデューサーとして好適および有利である、改良された形質転換体安定性を証明した形質転換真菌細胞を提供する。
本発明の菌株、組成物および方法の態様は、限定するものであると見なすべきではない下記の実施例を考慮に入れると、より詳細に理解することができる。材料および方法の修飾は、当業者には明白であろう。
本開示において使用される一部の真菌((トリコデルマ(Trichoderma)属)菌株およびプラスミド(大部分は本試験において構築された)を下記の表1に示す。
実施例1:REMIを使用するAclAmy1の発現
A.AclAmy1発現ベクターの構築
1)pTrex3gM−AclAmy1
ここで関心対象のモデルタンパク質として使用する酵素AclAmy1は、(配列番号1)(ボールド体およびイタリック体で記載したシグナル配列を備える)のアミノ酸配列を有するアスペルギルス・クラバタス(Aspergillus clavatus)を起源とする酸性安定性真菌α−アミラーゼを意味する。
AclAmy1遺伝子のヌクレオチド配列は、8個のイントロンを含み、その配列(配列番号2)は以下に提示する。
このタンパク質は67kDa(キロダルトン)の計算質量を有し、EC3.2.1.1.のクラスの他のタンパク質と同様に、大きなα結合多糖(例えば、デンプン)のα結合を加水分解することができる。最適pHは、基質としてのPAHBAH(p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド)上で測定して4.5であるが、他方高酵素活性は、3〜7の広範囲のpHで見いだされる。その酵素活性が最高である温度は、66℃である。
pTrex3gM−AclAmy1ベクターは、強力なcbhIプロモーターの制御下に配置されたその天然コーディング配列からAclAmy1の発現を駆動するように設計された。AclAmy1をコードするAclAmy1遺伝子は、以下のプライマーを用いるPCRを使用してアスペルギルス・クラバタス(Aspergillus clavatus)染色体から増幅させた。
プライマー1(5’−ggggcggccgccaccATGAAGCTTCTAGCTTTGACAAC−3’)(配列番号3);および
プライマー2(5’−cccggcgcgccttaTCACCTCCAAGAGCTGTCCAC−3’)(配列番号4).
制限酵素NotIおよびAscIを用いた消化後、PCR産物を(米国公開公報特許第2011/0136197(A1)号明細書に記載されたような)pTrex3gM発現ベクター内にクローン化し、同一制限酵素を用いて消化し、結果として生じたプラスミドをpTrex3gM−AclAmy1と標識した。pTrex3gM−AclAmy1のプラスミドマップは、図1に提供した。このプラスミドマップの機能エレメントの完全リストもまた、図1に提供した。
AclAmy1遺伝子の配列は、DNAシーケンシングによって確証した。
2.pENTRY−AclAmy1
発現ベクターpTrex8gM−AclAmyl1を構築するために、A.クラバタス(A.clavatus)Amy1をコードする断片を最初に(上述のような)プラスミドpTrex3gM−AclAmy1からpDonor221ベクター内に供給業者(Life Technologies,Carlsbad CA)の勧告にしたがってGateway(登録商標)BP反応を介して再クローン化した。生じたpEntry−AclAmy1プラスミドおよびその機能エレメントは、図2に示した。
3.pTrex8gM−AclAmy1
A.クラバタス(A.clavatus)α−アミラーゼをコードするENTRYベクターDNA断片をさらにGateway(登録商標)LR反応によってさらにpTREX8gMに移すと、結果としてプラスミドpTREX8gM−AclAmy1が生じた(図3)。pTREX8gM−AclAmy1の機能エレメントは、図3に列挙した。
クローンは、コーディング領域をシーケンシングすることによって実証された。
B.異所性発現のための形質転換
1.プロトプラストの調製
トリコデルマ(Trichoderma)属菌株の胞子は、50mLのYEG培養培地(5g/Lの酵母抽出物、20g/Lのグルコース)中に接種し、50mmの動程を備える撹拌式インキュベーター(Infors−HT,Switzerland)内の28℃で250mLの撹拌フラスコ内で180rpmの速度で一晩増殖させた。一部の実験では、cbh1、cbh2、egl1およびegl2a遺伝子の欠失を伴うT.リーゼイ(T.reesei)菌株RL−P37の誘導体を使用し、一部の他の実験では、他のT.リーゼイ(T.reesei)菌株を使用した。任意の好適なトリコデルマ(Trichoderma)属菌株は、本明細書に開示した実験のような実験のために機能するであろう。
発芽した胞子は、10分間の遠心分離(3,000g)によって収集し、10mLの1.2のMgSO4、10mMのリン酸ナトリウム(pH5.8)を用いて2回洗浄した。ペレットは、1.2gの溶解酵素(Sigma,St Louis MO)を補給した40mLの同一バッファー中に再懸濁させた。
これは、プロトプラストが形成されるまで100〜200rpmの速度で振とうすることで、撹拌式インキュベーター内で28℃でインキュベートした。
懸濁液は、菌糸体を除去するためにMiraclothに通して濾過し、等量の0.6Mのソルビトール、0.1MのTris−HCl(pH7.0)をプロトプラスト溶液の上部に緩徐に加えた。これを15分間にわたり、4,000rpmで遠心した。
プロトプラストは、中間期に見いだされ、これらを次に注意深く収集し、新規試験管に移した。この工程を必要なプロトプラストが収集されるまで必要に応じて繰り返した。等量の1.2Mのソルビトール、10mMのCaCl2、10mMのTris−HCl(pH7.5)をプロトプラストに加えた。これらのプロトプラストは、4℃で15分間、4,000rpmでペレット化し、1.2Mのソルビトール、10mMのCaCl2、10mMのTris−HCl(pH7.5)中で2回洗浄した。最後に、プロトプラストを同一バッファー中に1×108/mLのプロトプラストの濃度へ再懸濁させ、プロトプラスト200μL当たり50μLの25%のPEG6000、50mMのCaCl2、10mMのTris−HCl(pH7.5)を加えた。生じた材料は、次に−80℃で貯蔵した。
2.異所性発現のための形質転換
一部の実験では、プロトプラストを形質転換させるためにPCR産物を直接的に使用した。約5〜20μgのDNA(PCR産物)は、200μLのプロトプラストに加え、氷上で20分間インキュベートした。その後、形質転換混合物を室温に移し、2mLの25%のPEG6000、CaCl2、10mMのTris−HCl(pH7.5)および4mLの1.2Mのソルビトール、10mMのCaCl2、10mMのTris−HCl(pH7.5)を加えた。
制限酵素媒介性組込み(REMI)をサンプルに適用したら、その後に20単位の制限エンドヌクレアーゼをそのサンプルのDNAに加えた。
一部の他の実験では、トリコデルマ(Trichoderma)属プロトプラストを形質転換させるためにプラスミドDNAを使用し、一部の場合には、制限エンドヌクレアーゼを使用してプラスミドDNAを線状化した。消化混合物をインキュベートした後、プラスミドDNAは、制限エンドヌクレアーゼから精製しなかった。
1つの実験では、cbhIプロモーターからAclAmy1コーディング領域を通してプラスミドpTrex8gM−AclAmy1からのpyr2の3’部分までの領域を含むPCR断片は、以下のプライマーを使用して入手した。
プライマー1:5’GAGTTGTGAAGTCGGTAATCCCGCTG(配列番号5);and
プライマー2:3’CGATACACGCACCAGGTACCCCAGTGGGGAAGC)(配列番号6).
PcbhI−AclAmy1−pyr2のPCR産物は、任意の制限酵素を添加せずに、またはPacI制限酵素を用いてのいずれかでT.リーゼイ(T.reesei)プロトプラストを形質転換させるために使用した。形質転換体は、10mMのNH4Clを補給したAmdS培地上でのウリジン原栄養のために選択した。この培地を作成するために、2×のAmdS溶液(30g/LのKH2PO4、20mMのアセトアミド、1.2g/LのMgSO4 *7H2O、1.2g/LのCaCl2 *2H2O、0.48g/Lのクエン酸*H2O、0.5g/LのFeSO4 *7H2O、40mg/LのZnSO4 *7H2O、8mg/LのCuSO4.5H2O、3.5mg/LのMnSO4.H2O、2mg/LのH3BO3(ホウ酸)、40g/Lのグルコース(pH4.5)を2Mのソルビトールを含有する等量の4%の寒天と混合した。
トリコデルマ(Trichoderma)属形質転換の例は、図4A〜4Eに示した。図4A、4Cおよび4Dは、REMIを含まない典型的な形質転換実験におけるT.リーゼイ(T.reesei)形質転換体の図および百分率を示している−−約10〜20%の形質転換体が形態学的に安定性である。図4Bおよび4Eは、REMIが適用された典型的な形質転換実験におけるT.リーゼイ(T.reesei)形質転換体の図および百分率を示している−−約80〜90%の形質転換体が形態学的に安定性である。
3.形質転換体の選択
グルコース/ソホロース産生培地中で増殖させた後、Megazyme,UK(「Ceralpha法」)からのα−アミラーゼ活性キットを用いる活性アッセイを使用してA.クラバタス(A.clavatus)α−アミラーゼの発現レベルについて発酵サンプルを分析した。
平行して、発現はSDS−PAGE分析(Life Technologies,Carlsbad CA)によって確証した。
C.トリコデルマ(Trichoderma)属発酵およびアミラーゼ活性アッセイ
固体の多孔性マトリックスからラクトースを遊離させるように構成された24ウエルプレート内に上述のT.リーゼイ(T.reesei)菌株RL−P37の誘導体由来のトリコデルマ(Trichoderma)属形質転換体を接種した。各ウエルは、1.25mLのNREL培地(9g/Lのカザミノ酸、5g/Lの(NH4)2SO4、4.5g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4 *7H2O、1g/LのCaCl2 *2H2O、33g/LのPIPPSバッファー(pH5.5)、0.25%のT.リーゼイ(T.reesei)微量元素(100%:175g/Lのクエン酸(無水)、200g/LのFeSO4 *7H2O、16g/LのZnSO4 *7H2O、3.2g/LのCuSO4.5H2O、1.4g/LのMnSO4.H2O、0.8g/LのH3BO3(ホウ酸)、16g/Lのグルコース)を含有していた。透明化懸濁液は、Ceralpha法(Megazyme,UK)を使用してα−アミラーゼ活性について分析した。
Ceralphaは、穀類、真菌および細菌α−アミラーゼを測定するために、ブロックされたp−ニトロフェニルα−D−マルトヘプタオシド+過剰のα−グルコシダーゼおよびグルコアミラーゼである。透明化懸濁液は、36mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)中で100〜500倍まで希釈した(これは予想α−アミラーゼ活性に依存するであろう)。
または、透明化懸濁液は、10mMのNaCl、0.1mMのCaCl2、0.005%のTween 80の溶液中に100〜500倍まで希釈した(これは予想α−アミラーゼ活性に依存するであろう)。40μLの希釈透明懸濁液は、等量のCeralpha基質と混合し、28℃で10分間インキュベートした。反応は100μLの200mMのホウ酸ナトリウム溶液(pH10.2)を加えることによって終結させた。吸光度は405nMで測定し、希釈計数のために収集し、1分間当たりのα−アミラーゼ活性として表示した。透明化懸濁液はさらにSDS−PAGE(Life Technologies,Carlsbad CA)によって分析した。
図5は、α−アミラーゼ産生レベルにおける差を示している。活性PacI酵素の存在下で得られた安定性トリコデルマ(Trichoderma)属iRNAxyn1,3形質転換体は、α−アミラーゼ活性のより高い絶対レベルおよびα−アミラーゼの上昇した発現を伴うより多数の安定性形質転換体の両方を示した。REMIは(不安定性形質転換体と比較して)安定性形質転換体の百分率を増加させ、安定性形質転換体はさらにより高い力価のα−アミラーゼも産生した。
これらの結果は、制限酵素SspIの存在下でまた別のプラスミドpTrex8gM AGL2(α−ガラクトシダーゼを発現する)を使用してT.リーゼイ(T.reesei)iRNAxyn1.3の形質転換実験を用いて確証した。
制限酵素が加えられると直ちに、不安定性形質転換体のバックグラウンドは有意に減少し、安定性のα−ガラクトシダーゼ産生性形質転換体の百分率が増加した。
実施例2:T.リーゼイ(T.reesei)における標的組込みを改良するためのI−SceIの使用
A.T.リーゼイ(T.reesei)におけるI−SceI活性を測定するためのレポーター菌株の構築
1.I−SceIランディング部位カセットの構築:方法
I−SceIランディング部位を備えるプラスミドpBJP6を設計し、下記および図6に示したように構築した。
5’UTRのcbh2、Pcbh1およびTcbh2は、T.リーゼイ(T.reesei)菌株であるQM6A(制限なく、http://www.uniprot.org/taxonomy/431241を含む様々な起源から公的に入手可能)のゲノムDNAからプライマーGSP1およびGSP2、PP1およびPP2、GSP3およびGSP4それぞれならびに本明細書の下記の一覧を用いて増幅させた。PCR断片はphusion DNAポリメラーゼ(Fermentas)を使用して溶解させ、プラスミドpBJP4を生成するためにpBluescriptSK(+)のXbaIおよびKpnI制限部位にクローン化した(図6)。
さらに、C末端切断型GFP(GFPn*もしくはΔNGFP)をコードするDNA断片(GFPn*−GFPc*構築物)および600bp重複配列(斜線棒の領域)を備えるGFPN末端切断型GFP(GFPn*もしくはGFPΔC)をコードするDNA断片を運ぶために、また別のプラスミドpGFPrepを構築した。GFPn*−GFPc*構築物は、ウミエラ(Ptilosarcus)種のGFP配列に基づいて設計され、Geneart,Germanyから合成的に注文された。GFPn*−GFPc*構築物を次にpBJP4のNdeI制限部位に、cbhIプロモーターとcbhIターミネーターとの間にクローン化すると、プラスミドpBJP5が生じた。最終pBJP6プラスミドは、2つのプライマー(FwpGAN−ISceIPmeIおよびRevpGAN−ISceIPmeI)を使用してアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)のpyrGマーカーをプラスミドから増幅させ、pBJP5のPmeI部位(GFPn*−GFPc*構築物内の2本の600bp重複GFP配列の間)にクローン化することにより入手された。プライマーは、I−SceI制限部位およびPmeI部位をPCR増幅中にpyrGマーカーの下流および上流に組み込むために、2つのI−SceI部位によって挟まれたpyrGマーカーを運ぶPCR増幅断片が生じるように設計された。結果として生じるプラスミドpBJP6は、図6に示したように、5’UTR cbh2−Pcbh1−GFPn*−I−SceI−pyrG−I−SceI−GFPc*−Tcbh2構築物を含有する。pBJP6プラスミドの配列は、制限分析およびシーケンシングによって確証した。
この実施例で使用したプライマー配列は、下記およびさらに表2に提示した。
GSPL(フォワード)5’−TCTAGAGGCTGTGCATTTCCGTTCTC−3’(配列番号7)
GSP2(リバース)5’−TGGTTACGGCAACAAACCTG−3’(配列番号8)
PP1(フォワード)
5’−CAGGTTTGTTGCCGTAACCAATTTGCCTGCTTGACCGACTG−3’(配列番号9)
PP2(リバース)
5’−GGAACGATGGGTTTGCGTCCATATGGGGTAAGTCACTTACGGCAGC−3’(配列番号10)
GSP3(フォワード)5’−CCATATGGACGCAAACCCATCGTTCC−3’(配列番号11)
GSP4(リバース)5’−GGTACCGGTTCACCGCCTTATGTGAG−3’(配列番号12)
FwpGAN−ISceIPmel(フォワード)
5’−GGTTTAAACCTAGGGATAACAGGGTAATTCGCCCTTGCTCTAGATAAC−3’(配列番号13)
RevpGAN−ISCELPmel(リバース)
5’−GGTTTAAACCTAGGGATAACAGGGTAATAATTCGCCCTTGACTAGTGC−3’(配列番号14)
GSP5(フォワード)5’−GCGATCGCACGCAAACCCATCGTTCC−3’(配列番号15)
GPS6(リバース)5’−GCGATCGCGGTTCACCGCCTTATGTGAG−3’(配列番号16)
2.I−SceI活性を監視するためのマーカー切除法の設計:機序
T.リーゼイ(T.reesei)内のメガヌクレアーゼI−SceIの活性を監視するためにレポーター構築物pBJP6を使用し、アッセイ法については図8に描出した。
図7の上部に略図により示したように、pBJP6は、5’UTR cbh2−Pcbh1−GFPn*−I−SceI−pyrG−I−SceI−GFPc*−Tcbh2構築物を含有する。5’UTR cbh2およびTcbh2の包含は、宿主細胞内のcbh2遺伝子座での標的組込みのために使用する。選択マーカーpyrGを挟む2つのI−SceI認識部位(上にハサミの絵が描かれたグレーの箱)を使用して、I−SceIの活性を監視する。
この戦略の理論的根拠は、GFPn*−I−SceI−pyrG−I−SceI−GFPc*構築物を含有するT.リーゼイ(T.reesei)菌株中の活性I−SceIの発現およびGFP反復による二本鎖切断の修復(斜線の箱を伴って提示)を生じさせるであろうことであった。反復を介しての完全な修復は、GFPを発現するウリジン栄養素要求性菌株(pyrG−)を生じさせるであろう(図7に描出)。
3.cbh2遺伝子座にI−SceI制限部位を存在させているT.リーゼイ(T.reesei)菌株の構築:結果
pBJP6は、プライマーGSP1およびGSP4(プライマーの場所は図6に示した)を用いてPCR増幅させ、上述のようにI−SceI活性を監視するための7.5kbのPCR産物/カセット(5’UTR cbh2−Pcbh1−GFPn*−I−SceI−pyrG−I−SceI−GFPc*−Tcbh2構築物)は、PEG媒介性プロトプラスト形質転換法によってT.リーゼイ(T.reesei)菌株P37delta cbhIpyrG−26に形質転換させる。
ウリジン原栄養形質転換体を精製し、全カセットがcbh2遺伝子座で組み込まれた形質転換体についてサウザンブロットによって分析した。最初の診断的PCR(結果は示していない)に基づいて、9つの形質転換体をサウザンブロット分析のために選択した。単一コピー形質転換体を選択し、cbh2遺伝子座でのゲノム内への完全カセットの適正な組込みを確証するための3つの異なるプローブ。
サウザンブロット分析は、cbh2遺伝子座で完全I−SceIカセットの単一コピーを存在させている3つの形質転換体(JP7.7、JP7.9およびJP7.12)を解明した(図8)。
残り6つの形質転換体中、5つは組み込まれたカセットの複数のコピーを有することが証明された(JP7.10、JP7.11、JP7.13、JP7.14、JP7.15)、またはゲノム内に組み込まれた完全カセットを有していないと思われた(JP7.8)。
その後の実験には、形質転換体JP7.7を使用した。
B.I−SCEI発現構築物の構築
1.I−SceI発現ベクターの構築
T.リーゼイ(T.reesei)における発現のために、I−SceI配列(GenBankアクセッション番号GU575293.1)のコドン最適化合成遺伝子を作成した(Geneart,Germany)。合成I−SceIヌクレオチド配列(配列番号17)は、下記に示した:
I−SceI発現ベクターを構築するために、I−SceI遺伝子は、供給業者Life technologies,USA)の勧告にしたがってGateway組換え法により米国特許出願公開第20110020899号明細書において例示されたようにテロメアプラスミドpTTT内にクローン化した。cbhI遺伝子のラクトース誘導性プロモーターを使用して、pTTTプラスミド内でのI−SceI遺伝子の発現を誘導した。さらに、pTTTプラスミドはA.ニデュランス(A.nidulans)のamdS選択マーカーを運んだので、これは窒素源としてアセトアミドを使用するT.リーゼイ(T.reesei)における形質転換および選択を許容した。
結果として生じた発現カセットpTTT−I−SceI(図16)では、cbhI遺伝子のラクトース誘導性プロモーターがI−SceI遺伝子の発現を駆動する。さらに、pTTTプラスミドはA.ニデュランス(A.nidulans)のamdS選択マーカーを運んだので、これは窒素源としてアセトアミドを使用するT.リーゼイ(T.reesei)における形質転換および選択を可能にした。
2.T.リーゼイ(T.reesei)におけるI−SceI発現は標的染色体遺伝子座でDSBを誘導する
pTTT−I−SceI構築物を使用してI−SceIランディング部位を含有する菌株ならびにI−SceIランディング部位を含有していない陰性コントロール菌株を形質転換させた。形質転換後、amdS陽性形質転換体を最小培地上で精製し、グルコースおよび窒素源としてのアセトアミドを含有してプレーティングし、炭素源としての2%のグルコース(非誘導条件)もしくは2%のラクトース(誘導条件)を含有する9cmのペトリ皿の中央に点接種した。形質転換結果は図9に示した。
図9に示したように、I−SceIを発現してI−SceIカセットを含有する菌株内のラクトースによる誘導は、セクター形成を提示するコロニーを生じさせる。これらのセクターは、増殖を示さない領域を指す矢印で指示した。このセクタ−化は、pyrGマーカーの消失をもたらすGFP反復を介して修復された二本鎖切断を生成するI−SceI活性であると解釈された。
pyrGマーカーを消失した結果として、コロニーのこの部分は、このセクターを生じさせるウリジンを含まないプレート上ではもはや増殖しないであろう。図9に示したように、これらのセクターは炭素源としてラクトースが使用された場合に最も多く存在したが、グルコースプレート上でも観察され、これはグルコース上でさえ、一部のI−SceIが発現したことを示した。
ラクトース上でのセクター化は、pTTT−ISceIを発現する形質転換体上で観察されたが、コントロール菌株については観察されなかった(図9)。ウリジンがラクトースプレートに加えられると、もはやセクター化を視認することはできず、これはセクターがpyrGマーカーの消失によって誘発されることを示した(図9)。ラクトースプレート上での形質転換体のセクター化は、S.セレビシアエ(S.cerevisiae)I−SceIが発現させられ、T.リーゼイ(T.reesei)において活性であることを証明した。
組換えについては、液体培養中でも監視した。形質転換体はウリジンを含む最小培地中の液体培養中で増殖させ、I−SceI発現はソホロースによって誘導された。結果として生じた形質転換体の顕微鏡観察所見は、図10に示した。菌糸の蛍光顕微鏡写真は、ループアウトの結果としての機能的GFPの再構成を示すGFP蛍光を示した。GFPは誘導後にI−SceI発現カセットを存在させる菌株(JP7.7.12、JP7.7.14およびJP7.7.16)内でのみ観察され、その結果はさらに、I−SceIが誘導後に活性的に発現したことを示している(図10)。
C.グルコアミラーゼの改良された形質転換および標的組込み効率
1.標的組込みのためのグルコアミラーゼ発現カセットの構築
米国特許第8138321号明細書に記載されている、cbhIプロモーターの制御下でT.リーゼイ(T.reesei)の野生型グルコアミラーゼ遺伝子を運ぶプラスミドptrex6gGA/wtは、I−SceIランディング部位で組み込むことのできるグルコアミラーゼ発現カセットを構築するための出発点として使用された。
I−SceIランディング部位でのグルコアミラーゼカセットの相同性組込みを許容するために、cbh2ターミネーター領域(Tcbh2)をptrex6gGA/wt内にクローン化した(図11)。Tcbh2は、プライマーGSP5およびGSP6(表2に提供した)および鋳型としてのQM6aのゲノムDNAを使用するPCRによって得られた。
PCR産物はAsiSIを用いて消化し、ptrex6gGA/wtの同一制限部位にクローン化すると、プラスミドpJP8が得られた。10kbのグルコアミラーゼ発現カセットは、PsiIを用いてpJP8から切断し、形質転換のために使用した。形質転換体は、クロリムロンエチルに対する耐性を付与するalSマーカーによって選択した。
2.I−SceI発現下での形質転換頻度、安定性および標的組込みの効率
I−SceIによって媒介されるDSB(二本鎖切断)がT.リーゼイ(T.reesei)における形質転換および組換え効率を増加させられるかどうかを決定するために、グルコアミラーゼ発現カセットを標的組込みのために線状断片としてI−SceI制限部位およびI−SceI発現カセット(JP7.7.12)を運んでいる菌株内に形質転換させた。
形質転換体は、(クロリムロンエチル基質を含有する)およびグルコースを含有する(I−SceI非誘導条件)もしくはラクトースおよびグルコースの混合物を含有する(I−SceI誘導条件)選択培地から沈着させられた。陰性コントロールとして、I−SceI制限部位だけを運んでいてI−SceIカセット(JP7.7)を運んでいない菌株もまた、同一量の線状プラスミドを用いて形質転換させた。次に、各群の形質転換において得られた形質転換体の安定性を分析した。形質転換の結果および安定性分析の結果は、表3および図12に示した。
表3および図12の結果は、I−SceI誘導が非誘導条件およびコントロールと比較して、形質転換体の数をそれぞれ3倍および6倍超に増加させることを示した(表3)。さらに、I−SceIの誘導後のJP7.7.12形質転換体はほぼ全てが安定性であったが(90%)、他方I−SceIの誘導を行わなかったJP7.7.12形質転換体は44%しか安定性ではなく、陰性コントロール菌株JP7.7形質転換体(I−SceI発現カセットを伴わない)については53%もしくは58%しか安定性ではなかった(表3)。これは、I−SceIの発現が形質転換効率を増加させ、さらに形質転換体の安定性も増加させることを証明している。
各群からの約40個の安定性形質転換体は、上記の実施例に記載したように多孔性マトリックスからラクトースを緩徐に遊離させた24ウエルMTP中のNREL培地上で精製形質転換体を増殖させることによってグルコアミラーゼ産生についてスクリーニングした。I−SceI誘導条件において、それぞれ非誘導I−SceI条件およびコントロールについての37%および30%に比較して、約55%の形質転換体がグルコアミラーゼを発現していた。
グルコアミラーゼを発現する形質転換体は、引き続いてそれらのpyrG表現型について分析した。二重交差を介しての所定の遺伝子座でのグルコアミラーゼ発現カセットの標的組込みは、クロリムロンエチル耐性(als+)および結果としてウリジン栄養素要求性を生じさせるpyrGマーカーの消失を生じさせると予想された(図11)。
表3に示したように、I−SceIが誘導されると、グルコアミラーゼを発現する形質の68%は標的方法で組み込まれたが、これに対して非誘導I−SceI条件およびコントロールではそれぞれ46%および16%しか組み込まれなかった。
グルコアミラーゼを発現する選択されたpyrG−形質転換体のサウザンブロット分析は、それらが予想されたようにI−SceIランディング部位でGlaA発現カセットを含有することを証明した(図13)。グルコアミラーゼを発現しない、またはグルコアミラーゼを発現するがpyrG−ではない菌株は、変化した組込みパターンを示した(図13)。
3.標的組込み対非標的組込み間のグルコアミラーゼ発現の比較
標的組込みグルコアミラーゼ発現カセットを用いた形質転換体のグルコアミラーゼ活性の可変性をランダム組込みに由来するグルコアミラーゼ活性の可変性と比較するために、菌株をマイクロタイタープレート内で増殖させ、培地をグルコアミラーゼ活性について試験した。
各形質転換体は個別に3つのマイクロタイタープレートウエル内で増殖させ、この生物学的三重サンプルの平均グルコアミラーゼ活性を決定すると、標準偏差が<10%である高い再現性の結果が得られた。
図14に示したように、グルコアミラーゼカセットの標的組込みを行った形質転換体は、グルコアミラーゼカセットの非標的組込みの発現に比較して、グルコアミラーゼ発現の低い可変性(0.9〜1.35相対単位のグルコアミラーゼ活性)を示した(図14)。明白に、発現カセットの非標的組込みは、形質転換体間のGA活性レベルの有意な変動を生じさせた。
結論として、このデータは、I−SceIにより作成された二本鎖切断は、関心対象の遺伝子を含有するカセットの標的組込みを刺激し、形質転換体間のタンパク質発現の同種性を増加させることを証明した。
D.プロトプラスト混合物へのI−SceIの直接添加によりDSBを作成した後のグルコアミラーゼ発現カセットの改良された形質転換および標的組込み
1.I−SceI添加による標的組込み
I−SceIによって媒介される標的組込みは、さらにI−SceI制限部位(JP7.7)を運んでいるプロトプラストと線状化グルコアミラーゼ標的組込みカセット(pJP8)との混合物中にI−SceI制限酵素を直接的に添加することによって試験されている。
手短には、200μLのJP7.7プロトプラストに、異なる量のI−SceI酵素+線状化pJP8カセットを加え、室温で15分間インキュベートし、その後に氷上で20分間インキュベーションした。I−SceIは、Thermo scientificから入手した。形質転換は、PEG媒介性プロトプラスト法によって、酵素バッファーの1×の最終濃度にI−SceIおよびDNA混合物を加えることによって実施した(例えば、270μLの総量のプロトプラスト、I−SceIおよびDNA混合物とともに30μLの10×の酵素バッファーを加える)。35分間のインキュベーション後、プロトプラスト混合物は、10μMのウリジンおよび5μg/mLのクロリムロンエチルを含有する形質転換プレート上でプレーティングした。結果は、表4に要約した。
表4に示したように、I−SceI酵素の直接的添加は、形質転換頻度および標的組込み形質転換体の数を増加させた。得られた形質転換体の数は、100単位のI−SceIがプロトプラストに添加された場合には3倍まで増加した。
有意な数の一次形質転換体は、I−SceIが添加された場合に安定性であることが見いだされた。
形質転換体の数および安定性形質転換体の百分率は、I−SceI濃度の増加に伴い増加した。約75%の形質転換体はI−SceIの存在下ではGla発現カセットを含有していたが、I−SceIの非存在下では、たった約25%の形質転換体しかグルコアミラーゼ活性を示さなかった。
グルコアミラーゼを発現する形質転換体の大多数では、発現カセットは、相同性組換え事象によって組み込まれた(それぞれ50単位および100単位のI−SceIを添加した場合に分析された形質転換体の78%および85%)。コントロール形質転換(I−SceIを添加していない)からのグルコアミラーゼを発現する形質転換体は、全く標的組込みされなかった(表4)。
I−SceI添加を形質転換プレート内で0.8mg/mLのFOAと結合することにより、本発明者らは、標的組込み形質転換体を直接的に選択することができた(表4)。FOA耐性形質転換体の精製後、試験した全安定性形質転換体はグルコアミラーゼを発現し、グルコアミラーゼ発現カセットは、相同性組換えによってcbh2遺伝子座で適正に組み込まれた(図9)。
2.遺伝的特性解析およびI−SceI発現を使用して標的対非標的組込みを比較したグルコアミラーゼ発現の比較
標的組込みグルコアミラーゼ発現カセットを用いた形質転換体のグルコアミラーゼ活性の可変性をランダム組込みに由来するグルコアミラーゼ活性の可変性と比較するために、菌株をマイクロタイタープレート内で増殖させ、培地をグルコアミラーゼ活性について試験した。
図15に示したように、I−SceIから得られたグルコアミラーゼカセットの標的組込みを用いた形質転換体は、ランダム形質転換体の発現と比較したグルコアミラーゼ発現において低い可変性を提示した。FOA選択を使用することによって得られた形質転換体は、さらに類似の発現パターンを示したが、これはFOAおよびFOAの可能性のある突然変異効果の選択がグルコアミラーゼの発現レベルに影響を及ぼさなかったことを示している。
実施例3:REMIを使用した他の安定性T.リーゼイ(T.reesei)菌株の構築
A.2つの異なるDNA断片を用いたT.リーゼイ(T.reesei)の形質転換
2つの異なる線状DNA断片は、関心対象のまた別のタンパク質を発現させるために構築し、共形質転換によりT.リーゼイ(T.reesei)内に導入した。1つの断片は、選択マーカーとしてのpyr2遺伝子を有し、他の断片は選択マーカーとしてamdS遺伝子を有していた。形質転換は、任意の制限酵素を用いずに、または制限酵素であるSwaIもしくはPacIを用いて実施した。形質転換体は、両方のマーカーの存在について同時に選択した。制限酵素を全く加えていない場合に比較して、形質転換中の様々な量の様々な制限酵素を包含する効果を決定するために、数回の形質転換を実施した。下記は、得られた形質転換体の数および安定性であった百分率を示している結果の概要である。
B.多数の制限酵素を用いて処理したT.リーゼイ(T.reesei)の形質転換
形質転換効率および形質転換体の安定性に複数の制限酵素を使用することが及ぼす効果を見るために、T.リーゼイ(T.reesei)菌株は、溶解性セルロースモノオキシゲナーゼ(EG4)コーディング配列を含むPCR断片および任意の制限酵素を用いて処理していない、20単位のAsiSIだけで処理した、各7単位のAsiSI、PacIおよびSwaIを用いて処理した、または各7単位のAsiSI、PacIおよびPmeIを用いて処理したpyr2選択マーカーを用いて形質転換させた。形質転換は、上記に記載したように標準PEGプロトコルにしたがって実施し、形質転換体は1Mのソルビトールを含む最小培地プレート上で増殖させた。結果は、図17Aおよび17Bに示した。同一総量の制限酵素による消化を行うと、3種の異なる酵素を用いた消化は、1つだけの制限酵素(50%)を用いた消化に比較して、安定性T.リーゼイ(T.reesei)形質転換体(80%まで)の百分率を増加させたが、これは形質転換効率を低下させると思われる。
上記の組成物および方法をある程度詳細に、明確に理解されるために例示および実施例によって記載してきたが、当業者には、本明細書の教示に照らせば、添付の特許請求項の精神もしくは範囲から逸脱せずに所定の変化および修飾を加えられることは容易に明白である。
したがって、先行する文は、本発明の組成物および方法の原理を単に例示するものである。当業者であれば、本明細書に明示的に記載も証明もしていないが、本発明の組成物および方法の原理を実現する、および本発明の精神および範囲の中に含まれる様々な配列を考案することができることは理解されるであろう。さらに、本明細書で言及した全ての実施例および条件に関する専門用語は、読者が当分野への拡大に本発明者らが寄与した本発明の組成物および方法ならびに概念の原理を理解することが意図されており、そのような詳細に言及された実施例および条件に関して制限するものではないと見なすべきである。さらに、本発明の組成物および方法ならびにそれらの特定の実施例の原理、態様および実施形態について言及している本明細書の全ての陳述は、それらの構造的および機能的両方の同等物を含むことが意図されている。さらに、そのような同等物には、現在公知の同等物および将来開発される同等物、つまり構造とは無関係に、同一機能を実施する、開発される任意の要素が含まれることが意図されている。このため、本発明の組成物および方法の範囲は、本明細書に示して記載した典型的な実施形態に限定されることは意図していない。
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