以下に、本発明の実施の形態に係る駆動装置、流体利用装置及び空気調和機を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る駆動装置の構成を示す図である。同期電動機は、回転子に永久磁石が設けられる永久磁石界磁式同期電動機と、回転子に界磁巻線が巻かれている巻線界磁式同期電動機と、回転子の突極性を利用して回転トルクを得るリラクタンス式同期電動機とに大別される。永久磁石界磁式同期電動機は、回転子鉄心の外周面に永久磁石が設けられた表面磁石型同期交流電動機と、回転子鉄心の内部に永久磁石が埋め込まれた永久磁石埋込型電動機とに大別される。実施の形態1に係る駆動装置100には、これらの同期電動機の種別の内、同種の同期電動機を2台用いてもよいし、異種の同期電動機を2台用いてもよい。また、実施の形態1では、2台の同期電動機のそれぞれが三相同期電動機であるとして説明するが、2台の同期電動機には、二相、五相などの三相以外の相数の同期電動機を用いてもよい。
実施の形態1では、2台の同期電動機の内、一方を「メイン側同期電動機1a」と称し、他方を「サブ側同期電動機1b」と称する場合がある。メイン側同期電動機1aは第1の同期電動機であり、サブ側同期電動機1bは第2の同期電動機である。
実施の形態1では、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が同程度でもよいし、異なるものであってもよい。但し、2台の同期電動機として同一仕様の同期電動機を用いたとしてもモータ定数が異なる可能性がある。同一仕様の同期電動機において、モータ定数が異なる要因としては、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれを構成する部品の製造時の寸法のばらつき、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれの駆動に伴い発生する温度の違いなどがある。また、モータ定数が異なる要因としては、メイン側同期電動機1aから電力変換器2までに設けられる配線のインピーダンスと、サブ側同期電動機1bから電力変換器2までに設けられる配線のインピーダンスとの違いなどがある。また、モータ定数が異なる要因としては、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれの負荷トルクの違い、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれのインダクタンスの磁気飽和点の違いなどがある。磁性体は、弱い磁場では印加された磁場に対し、線形に磁化されてゆくが、一定強度以上の磁場が印加された場合、線形に磁化されなくなる。このように線形に磁化されない現象を磁気飽和と呼び、線形に磁化されなくなり磁束が一定の値となる部分が、前述した磁気飽和点である。
駆動装置100は、並列接続されるメイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bに電力を供給する電力変換器2と、リレー回路11と、メイン側同期電動機1aに流れる第1の電流を検出する電流検出部4aと、サブ側同期電動機1bに流れる第2の電流を検出する電流検出部4bとを備える。
電力変換器2は、直流電圧源3から供給される直流電力を交流電力に変換してメイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bへ出力する。実施の形態1では電力変換器2に電圧形インバータが用いられる。電圧形インバータは、直流電圧源3から供給される直流電圧をスイッチングして交流電圧に変換する装置である。なお、電力変換器2は、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bを駆動するための交流電力を出力できるものであれば、電圧形インバータに限定されず、電流形インバータ、交流電力を振幅及び周波数が異なる交流電力に変換するマトリックスコンバータ、複数の変換器の出力を直列又は並列に接続したマルチレベル変換器などの回路でもよい。
リレー回路11は、2台の同期電動機の内、一方のみ駆動する場合に利用される。図1では、電力変換器2にサブ側同期電動機1bを接続する配線に設けられている。リレー回路11は、電力変換器2によって駆動される同期電動機の台数を2台から1台に切り替え、又は1台から2台に切り替える場合に利用される。リレー回路11の接点は、不図示の切替部から出力される切替信号の有無によって制御される。2台の同期電動機が同時に駆動される場合、リレー回路11の接点は閉じた状態となり、サブ側同期電動機1bはリレー回路11を介して電力変換器2と電気的に接続される。
なお、リレー回路11は、電力変換器2にサブ側同期電動機1bを接続する配線に設けられる代わりに、電力変換器2にメイン側同期電動機1aを接続する配線に設けられてもよい。また、リレー回路11は、機械式リレーで構成されてもよいし、半導体スイッチで構成されてもよい。また、2台の同期電動機を常に駆動する場合、駆動装置100は、リレー回路11を省いて、電力変換器2にメイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bを直接接続する構成としてもよい。
第1の電流検出器である電流検出部4aは、電力変換器2からメイン側同期電動機1aに流れる相電流を検出し、検出した相電流の値を示す電流情報を出力する。第2の電流検出器である電流検出部4bは、電力変換器2からサブ側同期電動機1bに流れる相電流を検出し、検出した相電流の値を示す電流情報を出力する。
電流検出部4a,4bはCT(Current Transformer)と呼ばれる計器用変流器を用いた電流センサであってもよいし、シャント抵抗を用いた電流センサであってもよい。また電流検出部4a,4bは、これらを組み合わせたものでもよい。実施の形態1に係る駆動装置100では、同期電動機の近くに設けられた電流検出部4a,4bによって電流が検出される。図1に示した例では、同期電動機に流れる相電流を直接検出しているが、電流検出方式は、キルヒホッフの電流則によって同期電動機に流れる電流を演算できればよく、直接検出する例に限定されない。例えば、電力変換器2の負側直流母線に設けられるシャント抵抗を用いた1シャント電流検出方式、電力変換器2の下アームと直列に接続されるシャント抵抗を用いた下アームシャント電流検出方式などを用いて同期電動機に流れる相電流を検出してもよい。なお、三相の電力変換器2の場合、下アームシャント電流検出方式は、3つの下アームのそれぞれに直列に接続されるシャント抵抗を用いるため、3シャント電流検出方式とも呼ばれる。但し、1シャント電流検出方式又は3シャント電流検出方式では、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれに流れる電流の合計値のみ計測されるため、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bの内、何れか一方の同期電動機の近くに電流センサを設ける必要がある。また、言うまでもないが、三相の同期電動機の場合、同期電動機に接続される三相の配線の内の何れか二相の配線に電流センサを設ければ、残りの一相の電流はキルヒホッフの電流則で計算可能であるため、三相の配線の全てに電流センサを設ける必要がない。また電流検出部4a及び電流検出部4bの構成及び配置に関しては様々な方式が考えられるが、基本的にはどの方式を用いても構わない。
また、駆動装置100は、第1の磁極位置検出部である磁極位置検出部5aと、第2の磁極位置検出部である磁極位置検出部5bと、電圧指令を出力する制御部である電流制御部6と、減算器8と、脈動成分抽出部7と、角度差補正部10と、磁束電流指令決定部9とを備える。
磁極位置検出部5aは、メイン側同期電動機1aが有する回転子の磁極位置を検出して、磁極位置を示す信号を出力する。磁極位置検出部5bは、サブ側同期電動機1bが有する回転子の磁極位置を検出して、磁極位置を示す信号を出力する。
磁極位置検出部5a及び磁極位置検出部5bのそれぞれは、例えばロータリーエンコーダ、レゾルバ、ホールセンサなどである。ロータリーエンコーダは、回転子の機械的変位量を電気信号に変換し、変換した信号を処理して磁極位置を示す信号を出力する。レゾルバは、励磁コイルと互いに直交する2つの検出コイルとを組み合わせて構成されている。励磁コイルに正弦波信号が入力されると、検出コイルから出力される電圧は、回転子の回転角度に比例して変化する。この電圧の変化が回転子の磁極位置を示す信号として出力される。ホールセンサは、ホール効果を利用して磁石が発する磁界又はコイルに電流が流れることで発生する磁界を検出し、検出した磁界を電気信号に変換し、この電気信号を、回転子の磁極位置を示す信号として出力する。
なお、磁極位置検出部5a及び磁極位置検出部5bのそれぞれは、回転子の磁極位置を検出できれば、ロータリーエンコーダ、レゾルバ又はホールセンサに限定されない。例えば、磁極位置検出部5aは、メイン側同期電動機1aに流れる相電流と、電流制御部6から出力される電圧指令とを用いて、メイン側同期電動機1aの磁極位置を推定するものであってもよい。同様に、磁極位置検出部5bは、サブ側同期電動機1bに流れる相電流と、電流制御部6から出力される電圧指令とを用いて、サブ側同期電動機1bの磁極位置を推定するものであってもよい。
磁極位置の推定方法には様々な方法が存在するが、同期電動機が備える回転子の回転速度全域の内、中高速域では、同期電動機の速度起電力を示す情報を利用して、磁極位置を推定するのが一般的である。速度起電力は、回転子が回転することによって同期電動機内部に生じる誘起電力であり、同期電動機が備える回転子と固定子の間に生じる界磁と、回転子の回転速度とに比例する。また、回転子の回転速度全域の内、低速域において、同期電動機に高周波電圧を印加した際に発生する高周波電流のリサージュ軌跡を調べ、インダクタンスの突極性から磁極位置を推定する手法もある。リサージュ軌跡とは、磁束密度の時間変化を、2次元座標面上における軌跡で表すものである。
電流制御部6は、メイン側同期電動機1aに流れる電流を制御するために、メイン側同期電動機1aが備える回転子の永久磁石による磁束の方向をd軸とし、d軸に直交する軸をq軸として、ベクトル制御によって、電流検出部4aで検出された電流をdq座標系の電流指令値に座標変換するベクトル制御器である。一般的なベクトル制御器では、回転子の磁極を基準としたdq座標上での電流制御が行われる。相電流をdq座標上の値に変換すると、交流量が直流量となり制御が容易となるためである。同期電動機では、q軸電流と同期電動機のマグネットトルクとが比例するため、q軸は「トルク軸」と称され、q軸電流は「トルク電流」と称される。q軸電流に対してd軸電流は、固定子で発生する磁束の変化をもたらし、同期電動機の出力電圧の振幅を変化させるため、d軸は「磁束軸」と称され、d軸電流は「磁束電流」、「励磁電流」などと称される。なお、前述した永久磁石埋込型電動機では、d軸電流によってリラクタンストルクが変化するため、q軸電流のみがトルクに作用するわけではないが、一般的にはq軸電流をトルク電流と呼ぶことが多い。
座標変換には、磁極位置検出部5aで検出される磁極位置が用いられる。なお、電流制御部6には、ベクトル制御におけるdq座標系以外にも、αβ固定子座標系、γδ座標系などの極座標系を用いてもよい。また、電流制御部6には、ベクトル制御の代わりに直接トルク制御(Direct Torque Control:DTC)を採用してもよい。但し、DTCを採用する場合、電流指令を、磁束指令及びトルク指令に換算する必要がある。
なお、dq座標系ではなく、固定子から発生する磁束を基準とした座標系で制御を行えば、トルク電流と磁束電流をより厳密に計算できる。この座標系は、f−t座標系、n−t座標系などと呼ばれることが多いが、公知であるため詳細については説明を割愛する。実施の形態1では、q軸電流を「トルク電流」と称し、d軸電流を「磁束電流」と称する場合があるが、dq座標系以外の座標系を使って制御する場合、マグネットトルクが原理的に発生しないリラクタンス同期電動機を用いる場合などは、この限りではない。
なお、電流制御部6は、メイン側同期電動機1aに流れるトルク電流がトルク電流指令の値と一致するように制御され、またメイン側同期電動機1aに流れる磁束電流が磁束電流指令の値と一致するように制御される。電流制御部6の具体的な実現方法はどのような方法であってもよいが、電流制御部6は一般的には比例積分制御器及び非干渉化制御器により構成される。トルク電流指令は、磁束電流指令決定部9において速度制御の結果、算出されるものであってもよいし、上位のコントローラから入力されるものであってもよい。磁束電流指令の詳細は後述する。
電流制御部6によってメイン側同期電動機1aがベクトル制御されたとき、サブ側同期電動機1bはメイン側同期電動機1aに連れ回り駆動されるため、サブ側同期電動機1bがオープンループ駆動している状態になる。同期電動機のオープンループ駆動に関する有名な論文として以下の参考文献1がある。
(参考文献1)伊東淳一、豊崎次郎、大沢博著 「永久磁石同期電動機のV/f制御の高性能化」、電気学会論文誌D、122巻(2002年)3号 P253−259
上記参考文献1によれば、同期電動機をオープンループ駆動すると、同期電動機が固有角周波数ωnで自己発振して、制御が不安定になる場合があると述べられている。固有角周波数ωnは、下記(1)式の近似式により表される。但し、Pmは極対数、Φaは電機子鎖交磁束数、Laは電機子インダクタンス、Jは慣性モーメントを表す。
機電連成振動は、電機ばね共振と呼ばれる場合があるため、上記(1)式によって表される固有角周波数ωnは、電機ばね共振角周波数とも呼ばれる。上記参考文献1に開示される技術には、電機ばね共振を抑えるために安定化補償器が追加されているが、駆動装置100でも同様の安定化補償が必要となる。そのために、図1に示すサブ側同期電動機1bに流れるトルク電流が電機ばね共振によってどの程度振動しているかを調べる必要がある。
サブ側同期電動機1bに流れるトルク電流には、加減速トルクによる成分と、負荷トルクによる成分とが重畳されている。図1に示す脈動成分抽出部7では、サブ側同期電動機1bのトルク電流に含まれる電機ばね共振角周波数付近の脈動成分が抽出される。なお、脈動成分抽出部7が電機ばね共振角周波数付近の脈動成分を抽出する方法には、ハイパスフィルタを用いる方法と、バンドパスフィルタを用いる方法との2種類があるため、これらを順に説明する。
図2は図1に示す脈動成分抽出部の第1の構成例を示す図である。図2には、1次のハイパスフィルタを用いた脈動成分抽出部7Aの構成例が示され、その伝達関数は下記(2)式で表される。但し、sはラプラス変換の演算子、ωcはカットオフ角周波数である。
上記(2)式には、1次のハイパスフィルタを用いた場合の伝達関数が示されるが、より急峻なフィルタ特性を得たい場合、次数がnのハイパスフィルタを用いてもよい。nは2以上の整数である。ハイパスフィルタを用いる場合、カットオフ角周波数ωcは、電機ばね共振角周波数の1/3以下、例えば電機ばね共振角周波数の1/5から1/20の値に設定するのが好適である。
図3は図1に示す脈動成分抽出部の第2の構成例を示す図である。図3には、2次のバンドパスフィルタを用いた脈動成分抽出部7Bの構成例が示され、その伝達関数は下記(3)式で表される。但し、sはラプラス変換の演算子、ωpはピーク角周波数を表す。qは、クオリティファクタであり、フィルタの通過帯域幅を決定する係数である。
上記(3)式には、2次のバンドパスフィルタを用いた場合の伝達関数が示されるが、より急峻なフィルタ特性を得たい場合、次数がmのバンドパスフィルタを用いてもよい。mは3以上の整数である。バンドパスフィルタを用いる場合、脈動成分抽出部7Bは、ピーク角周波数ωpと電機ばね共振角周波数とを一致させる。但し、上記の参考文献1では言及されていないが、電機ばね共振角周波数は、駆動条件により変動する性質がある。そのため、バンドパスフィルタの通過帯域幅は、電機ばね共振角周波数の変動分を見越して広めに設計する必要がある。なお、電機ばね共振角周波数を実測してピーク角周波数ωpを電機ばね共振角周波数にトラッキングするような構成を取っても良く、その場合は通過帯域幅を狭くできる。
なお、上記(3)式の計算を行う代わりに、図4に示すようにフーリエ級数展開を用いたバンドパスフィルタを用いてもよい。図4は図1に示す脈動成分抽出部の第3の構成例を示す図である。図4に示す脈動成分抽出部7Cは、脈動周波数計測部71、余弦波発生器72、正弦波発生器73、フーリエ余弦係数演算部74、フーリエ正弦係数演算部75及び交流復元器76を備える。
電流検出部4bで検出された電流である入力信号に含まれる脈動周波数、すなわち電流検出部4bで検出された電流に含まれる脈動周波数が、脈動周波数計測部71で計測される。余弦波発生器72は、脈動周波数で振動する余弦波信号を発生し、正弦波発生器73は、脈動周波数で振動する正弦波信号を発生する。
フーリエ余弦係数演算部74は、余弦波発生器72からの余弦波信号を用いて、電流検出部4bで検出された電流である入力信号のフーリエ級数展開を行い、当該入力信号に含まれる特定周波数成分を直流化して、フーリエ余弦係数を演算する。フーリエ余弦係数は、任意の周期を持つ偶関数をcosの級数に展開したときの係数である。フーリエ正弦係数演算部75は、正弦波発生器73からの正弦波信号を用いて、当該入力信号のフーリエ級数展開を行い、当該入力信号の特定周波数成分を直流化して、フーリエ正弦係数を演算する。フーリエ正弦係数は、任意の周期を持つ奇関数をsinの級数に展開したときの係数である。
交流復元器76は、余弦波発生器72からの余弦波信号と、正弦波発生器73からの正弦波信号と、フーリエ級数展開によって得られたフーリエ余弦係数と、フーリエ級数展開によって得られたフーリエ正弦係数とを用いて、交流を復元する。図4に示す脈動成分抽出部7Cによれば、フーリエ級数展開と逆変換とによって、バンドパスフィルタの特性が得られる。
上記(3)式を離散化すると計算精度が低下し易くなるが、フーリエ級数展開を使うことによって計算精度の低下が抑制される。従って、サブ側同期電動機1bのトルク電流に含まれる電機ばね共振角周波数付近の脈動成分を、フーリエ級数展開を用いて抽出する方法は、実装の面で優れている。このことから、フーリエ級数展開を用いて脈動成分を抽出する方法は、バンドパスフィルタのピーク周波数を変化させる場合に有用と考えられるが、計算精度を確保できる場合には、図4に示す脈動周波数計測部71と上記(3)式とを組み合わせたバンドパスフィルタを、図1に示す脈動成分抽出部7として利用してもよい。
このように、脈動成分抽出部7は、サブ側同期電動機1bのトルク電流に含まれる電機ばね共振角周波数付近の脈動成分を抽出できれば、図2から図4に示す何れのフィルタで構成してもよい。なお、バンドパスフィルタに比べてハイパスフィルタは、設計及び回路への実装が簡便であるため、設計及び回路への実装の簡便さを重視する場合、ハイパスフィルタを選択するとよい。また、鋭い遮断特性を得たい場合には、バンドバスフィルタを選択するとよい。
なお、特許文献1に開示される技術では、メイン側同期電動機及びサブ側同期電動機がそれぞれ有する回転子の回転速度の差である速度差が求められ、この速度差を用いることによって速度差安定化補償が行われている。これによりメイン側同期電動機は安定に制御されているため、特許文献1に開示される技術は、サブ側同期電動機の速度脈動成分を求めて安定化補償を行っていたと言える。特許文献1に開示される技術以外の脈動成分抽出方法は、実施の形態1のようにサブ側同期電動機1bのトルク電流に含まれる脈動成分を抽出方法と、サブ側同期電動機1bの有効電力に含まれる脈動成分を抽出する方法とが考えられる。本願発明者の調査の結果、磁極位置検出部5a,5bによる磁極検出精度が高い場合には、特許文献1に開示される脈動成分抽出方法が有効であり、磁極位置検出部5a,5bによる磁極位置検出精度が低い場合には、トルク電流又は有効電力に含まれる脈動成分を抽出方法が有効であることが判明した。
例えば、機械系の慣性モーメントが大きいファン、ブロワーなどの流体利用装置では、トルク脈動が大きくても、速度信号に現れる速度脈動はごく小さいことがある。この場合、速度脈動よりもトルク脈動の方がS/N比(Signal to Noise Radio)が高く、磁極位置検出が容易である。従って、速度差の代わりに、実施の形態1のようにトルク電流の脈動成分を用いることは、磁極位置検出をする上で合理的である。また、機械系の慣性モーメントが大きくても速度脈動が小さい場合、有効電力の脈動は、トルクの脈動と等価に扱える。そのため、脈動成分抽出部7は、有効電力の脈動を検出する構成としてもよい。
また実施の形態1ではメイン側同期電動機1aがベクトル制御されているため、トルク電流指令値に追従してメイン側同期電動機1aが駆動されるはずである。しかしながら、現実には様々な外乱要因によってメイン側同期電動機1aにも微弱な振動が生じる場合がある。外乱要因としては、電力変換器2を構成する直列の上下アームの半導体素子の短絡防止時間、電流センサのオフセット、電流センサのゲインアンバランス、回転子に設けられる磁石から発生する磁束の歪みなどが考えられる。実施の形態1に係る駆動装置100は、このように微弱な振動が生じた場合を考慮して、サブ側同期電動機1bの脈動成分からメイン側同期電動機1aの脈動成分を差し引くことによって、メイン側同期電動機1aの脈動成分の影響を除去する構成としてもよい。
また、磁極位置検出部5a,5b以外に、加速度センサ、トルクセンサなどのセンサをサブ側同期電動機1bに取付が可能な場合、脈動成分抽出部7は、加速度センサ、トルクセンサなどのセンサの出力値からサブ側同期電動機1bの脈動成分を抽出する構成としてもよい。
図1に示す減算器8は、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bがそれぞれ有する回転子の磁極位置の差である第1の角度差を求める。磁極位置は、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれの回転子の回転位置に等しく、又はメイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれの回転子の回転角度に等しい。以下では第1の角度差を単に「角度差」と称する場合がある。角度差を求める理由を説明するために、以下に永久磁石同期電動機の定常状態における電圧方程式とトルク方程式を示す。
電圧方程式は下記(4)式のように表される。またトルク方程式は下記(5)式のように表される。下記(5)式の右辺の第一項はマグネットトルクを表し、第二項はリラクタンストルクを表す。マグネットトルクはq軸電流に比例し、リラクタンストルクはd軸電流とq軸電流の積に比例する。
上記(4)式及び(5)式において、Raは電機子抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Pmは極対数、Φaは電機子鎖交磁束数、ωeは角速度、idはd軸電流、iqはq軸電流、vdはd軸電圧、vqはq軸電圧、tは発生トルクを表す。これらの各係数の添字「x」は、同期電動機がメイン側であるかサブ側であるかを識別するためのものである。例えば、メイン側とサブ側を識別する必要がない場合、添字に「x」が付けられ、又は添字「x」が省略される。また添字に「x」の代わりに「m」が付けられた場合にはメイン側を表し、添字に「x」の代わりに「s」が付けられた場合にはサブ側を表す。
次に、図5から図11を用いて、磁束電流補償によるサブ側同期電動機1bのトルク変化の挙動について説明する。図5は図1に示すサブ側同期電動機のトルク変化の挙動を説明するための第1の図である。図6は図1に示すサブ側同期電動機のトルク変化の挙動を説明するための第2の図である。図7は図1に示すサブ側同期電動機のトルク変化の挙動を説明するための第3の図である。図8は図1に示すサブ側同期電動機のトルク変化の挙動を説明するための第4の図である。図9は図1に示すサブ側同期電動機のトルク変化の挙動を説明するための第5の図である。図10は図1に示すサブ側同期電動機のトルク変化の挙動を説明するための第6の図である。図11は図6、図7、図9及び図10に示すメイン側のd軸電流と、角度差の符号と、サブ側同期電動機のトルクの状態とを対応付けて示す図である。
図5から図10には磁束電流補償によるサブ側同期電動機1bのトルク変化の挙動が示され、図5から図10の内容は特許文献1で開示されている。なお、図5から図10では、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれのモータ定数が等しいものとして説明する。
まず図5を基準として、メイン側同期電動機1aのd軸がサブ側同期電動機1bのd軸よりも遅れ位相となっているケースについて説明する。図5ではメイン側同期電動機1aの磁束電流idmが零であり、メイン側同期電動機1aのトルク電流iqmが正方向に流れている場合、電圧指令ベクトルv→ dq *は第二象限の方向に発生する。2台の同期電動機に異なる負荷トルクが発生したとき、2台の同期電動機のモータ定数が等しい場合には、重負荷の同期電動機の位相が遅れる。そのため、図5のケースでは、メイン側同期電動機1aの負荷がサブ側同期電動機1bの負荷よりも大きいと言える。すなわちメイン側同期電動機1aの方が重負荷である。駆動装置100は2台の同期電動機に同じ電圧を印加するが、メイン側同期電動機1aの方が重負荷である場合、サブ側同期電動機1bの磁束電流は正方向に流れる。これは上記(4)式を解くことにより明らかである。
ここで、図6のようにメイン側同期電動機1aに正の磁束電流が流れた場合を考える。この場合、メイン側同期電動機1aのq軸電圧が正方向に増加することによって、電圧指令ベクトルがv→ dq *からv→ dq **に変化する。このようにメイン側同期電動機1aのq軸電圧が変化することにより、サブ側同期電動機1bのd軸電圧が減少して、サブ側同期電動機1bのq軸電圧が増加する。サブ側同期電動機1bのd軸電圧が減少すると、サブ側同期電動機1bのq軸の電機子反作用であるωesLqsiqsが減少する。そのため、サブ側同期電動機1bのq軸電流が減少する。また、サブ側同期電動機1bのq軸電圧が増加することによって、サブ側同期電動機1bのd軸電流が増加する。このようにメイン側同期電動機1aの磁束電流idmであるd軸電流を変化させることによって、サブ側同期電動機1bの電流が変化する。このサブ側同期電動機1bの電流の変化によって、サブ側同期電動機1bのトルクは、図5に示すサブ側同期電動機1bのトルクと比べて変化する。ここでは説明を簡単にするために、同期電動機が表面磁石型同期交流電動機であるとして、リラクタンストルクがないものとする。この場合、サブ側同期電動機1bの電流が変化したときのサブ側同期電動機1bのトルクは、図5の状態に比べて減少する。
図7には、図6の場合とは逆に、メイン側同期電動機1aに負の磁束電流が流れた場合のサブ側同期電動機1bのトルク状態が示される。この場合、メイン側同期電動機1aのq軸電圧が減少することによって、電圧指令ベクトルがv→ dq *からv→ dq **に変化する。これにより、サブ側同期電動機1bのd軸電圧が増加して、サブ側同期電動機1bのq軸電圧が減少する。サブ側同期電動機1bのd軸電圧が増加したことにより、サブ側同期電動機1bのq軸電流は増加し、サブ側同期電動機1bのq軸電圧が減少することにより、サブ側同期電動機1bのd軸電流は減少する。この場合、サブ側同期電動機1bのトルクは、図5の状態に比べて増加する。
次に図8を基準として、メイン側同期電動機1aのd軸がサブ側同期電動機1bのd軸よりも進み位相となっているケースについて説明する。図8では、メイン側同期電動機1aのd軸電流が零であり、メイン側同期電動機1aの負荷がサブ側同期電動機1bの負荷よりも大きい状態、すなわちメイン側同期電動機1aの方が重負荷となっている。メイン側同期電動機1aとサブ側同期電動機1bには同じ電圧が印加されているため、サブ側同期電動機1bの方が重負荷となる場合、サブ側同期電動機1bのd軸電流は負方向に流れる。
ここで、図9のようにメイン側同期電動機1aに正のd軸電流が流れた場合を考える。この場合、メイン側同期電動機1aのq軸電圧が増加することによって、電圧指令ベクトルがv→ dq *からv→ dq **に変化する。このようにメイン側同期電動機1aのq軸電圧が変化することにより、サブ側同期電動機1bのd軸電圧が増加して、サブ側同期電動機1bのq軸電圧も増加する。サブ側同期電動機1bのd軸電圧が増加したことにより、サブ側同期電動機1bのq軸電流が増加する。また、サブ側同期電動機1bのq軸電圧が増加することによりサブ側同期電動機1bのd軸電流が減少する。この場合、サブ側同期電動機1bのトルクは、図8の状態に比べて増加する。
図10には、図9の場合とは逆に、メイン側同期電動機1aに負の磁束電流が流れた場合のサブ側同期電動機1bのトルク状態が示される。この場合、サブ側同期電動機1bのq軸電流は減少する。従って、サブ側同期電動機1bのトルクは、図8の状態に比べて減少する。
図6、図7、図9及び図10に示すメイン側のd軸電流と、角度差の符号と、サブ側同期電動機1bのトルクの状態とを対応付けて示すものが図11である。2台の同期電動機の角度差λを下記(6)式のように定めた場合、メイン側同期電動機1aのd軸電流を増加させた際、角度差λが正であれば、サブ側同期電動機1bのトルクは減少し、角度差λが負であればサブ側同期電動機1bのトルクは増加する。但し、下記(6)式のθesは、サブ側同期電動機1bの磁極位置を電気角で表したものであり、θemは、メイン側同期電動機1aの磁極位置を電気角で表したものである。一方、メイン側同期電動機1aのd軸電流を減少させた際、角度差λが正であればサブ側同期電動機1bのトルクは増加し、角度差λが負であればサブ側同期電動機1bのトルクは減少する。すなわち、メイン側同期電動機1aのd軸電流を変化させることによりサブ側同期電動機1bのトルクを変化させてサブ側同期電動機1bの駆動を安定化させようとする場合、角度差λが正であるか負であるかによって、d軸電流の補償方向を決定する必要がある。このような理由から、駆動装置100は、減算器8を用いて角度差λを求めている。
しかしながら、上記説明は、メイン側同期電動機1aのモータ定数がサブ側同期電動機1bのモータ定数と等しいことを前提としているため、メイン側同期電動機1aのモータ定数がサブ側同期電動機1bのモータ定数と異なる場合、意図したトルク変化が得られないケースがある。意図したトルク変化が得られないという課題は、本願発明者の検討によって発見されたものである。意図したトルク変化が得られない理由については後述することとし、先に、図1に示す磁束電流指令決定部9の機能を説明する。
磁束電流指令決定部9は、サブ側同期電動機1bの駆動を安定化させるための磁束電流指令を決定する。磁束電流を変化させることでサブ側同期電動機1bのトルクを変えることができることはすでに述べたとおりである。
図12は図1に示す磁束電流指令決定部の構成例を示す図である。図13は図12に示す符号判定器による符号判定処理を説明するための第1の図である。図14は図12に示す符号判定器による符号判定処理を説明するための第2の図である。図15は図12に示す符号判定器による符号判定処理を説明するための第3の図である。
図12に示す磁束電流指令決定部9は、脈動抑制制御部91及び補償方向決定部92を備える。磁束電流指令決定部9は、サブ側同期電動機1bのトルク電流の脈動成分を入力とし、脈動抑制制御部91と補償方向決定部92を用いて、磁束電流指令を決定する。脈動抑制制御部91は、ゲイン乗算部911及び位相調整部912により構成される。なお、特許文献1の技術では、磁束電流指令決定部9の入力に速度差が用いられているが、実施の形態1の磁束電流指令決定部9には、トルク電流の脈動成分が用いられている。なお、磁束電流指令決定部9への入力は、トルク電流の脈動成分に限定されず、有効電力に含まれる脈動成分でもよい。
ゲイン乗算部911は、入力信号である脈動成分のゲインを調整する。位相調整部912は、入力信号である脈動成分の位相を調整し、振幅が調整された脈動成分を出力する。なお、ゲイン乗算部911と位相調整部912の何れか一方だけで系の安定性を確保できるのであれば、脈動抑制制御部91は、必ずしもゲイン乗算部911及び位相調整部912の双方を備える必要は無い。
ゲイン乗算部911は、入力信号である脈動成分に特定のゲインを乗算して出力するものであり、系の安定性と即応性を調節する機能を有する。ゲインは動作条件に応じて変更してもよい。動作条件は、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれの角速度指令に等しい。例えば、低速域ではゲイン乗算部911におけるゲインを高くし、高速域ではゲイン乗算部911におけるゲインを低くしてもよい。高速域でゲイン乗算部911におけるゲインを低くする理由は、高速運転では、低速運転時と同じ角度差でも、低速運転時に比べてゲインが低い場合でも同期電動機の回転が安定しており、高速運転時に低速運転時と同様にゲインを高くすると、補償し過ぎとなり同期電動機の回転が不安定になるためである。位相調整部912は例えば、位相遅れ補償器、ローパスフィルタ、積分制御器などで構成される。位相遅れ補償器は高周波域でゲインを一定値下げて安定化を図るものであり、産業界で一般的に用いられている。ローパスフィルタ及び積分制御器にも高周波域の信号位相を変化させる性質があるため、位相遅れ補償器と同じようにローパスフィルタ又は積分制御器を用いることができる。
1次ローパスフィルタによる近似積分器を位相調整部912として使用する場合、そのカットオフ角周波数は、電機ばね共振角周波数の1/3以下に設定するとよい。可能であれば電機ばね共振角周波数の1/10から1/20までの値とする。このように設定すると、電機ばね共振角周波数付近で位相を90度前後遅らせることができ、制御安定性が高まる。
図12には示されていないが、脈動抑制制御部91の入出力の何れかに不感帯を設けてもよい。この不感帯は前述の脈動成分抽出部7で除去しきれなかった電機ばね共振以外の周波数成分を除去するのに役立つ。
補償方向決定部92は、符号判定器921及び乗算器922により構成され、図5から図11で説明した動作原理に則り、角度差から、磁束電流指令の補償方向を決定する。符号判定器921は図13から図15に示される符号判定処理を行う。図13から図15の横軸は、符号判定器921の入力である角度差を表す。角度差は図11に示すように正又は負の値を示す。図13から図15の縦軸は符号判定器921の出力の値を示す。
最も基本的な符号判定処理は図13に示す方法である。符号判定器921は、角度差が正を示す場合には「1」を出力し、角度差が負を示す場合には「−1」を出力する。但し、図13の方法では角度差が零に近いときにチャタリングが発生するおそれがある。そのため、図14のように角度差が零に近い領域では、符号判定器921の出力を「1」から「−1」へ徐々に切り替え、又は符号判定器921の出力を「−1」から「1」へ徐々に切り替えるように構成してもよい。
また、角度差が大きい条件では、角度差が小さい条件に比べて、メイン側同期電動機1aの磁束電流の変化量がサブ側同期電動機1bのトルクの変化量に及ぼす影響が大きくなる。そのため、図15のように角度差が大きい領域では、角度差が大きくなるに従って、符号判定器921の出力値を徐々に下げるようにしてもよい。
乗算器922は符号判定器921の出力と脈動抑制制御部91の出力とを掛け合わせ、磁束電流指令を生成する。すなわち、磁束電流指令決定部9では、脈動抑制制御部91により抑制された脈動成分と、補償方向決定部92の符号判定器921により決定された補償方向とにより、磁束電流指令を決定する。
特許文献1では、角度差から決定された補償方向に基づいて同期電動機の制御が行われており、角度差が零となる点を境に、磁束電流の補償方向を切り換えている。しかしながら、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が異なる場合、特許文献1の制御方式では、補償方向の誤判定が生じる。その理由は以下の通りである。
特許文献1の技術では、メイン側同期電動機1aのd軸電流が操作される。以下では、メイン側同期電動機1aのd軸電流が操作されることは、サブ側同期電動機1bにどのような影響を及ぼすかを、数式的に明らかにする。ここでは、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が同じ場合だけでなく、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が異なる場合についても述べる。
メイン側同期電動機1aの定常状態における電圧方程式において、d軸電流に対して微小摂動が加えられると、下記(7)式が得られる。
上記(7)式において、vdmはメイン側同期電動機1aのd軸電圧、vqmはメイン側同期電動機1aのq軸電圧である。Δvdmは、メイン側同期電動機1aのd軸電流の微小摂動によって生じる、メイン側同期電動機1aのd軸電圧の微小摂動である。Δvqmは、メイン側同期電動機1aのd軸電流の微小摂動によって生じる、メイン側同期電動機1aのq軸電圧の微小摂動である。Ramはメイン側同期電動機1aの電機子抵抗、ωemはメイン側同期電動機1aの角速度、Ldmはメイン側同期電動機1aのd軸のインダクタンス、Lqmはメイン側同期電動機1aのq軸のインダクタンスである。idmはメイン側同期電動機1aのd軸電流、iqmはメイン側同期電動機1aのq軸電流、Δidmはメイン側同期電動機1aのd軸電流の微小摂動である。Φamはメイン側同期電動機1aの電機子鎖交磁束数である。
上記(7)式と上記(4)式との差を取ることによって、メイン側同期電動機1aのdq軸電圧の微小摂動を下記(8)式のように求めることができる。
角度差を、上記(6)式で述べたλで表すと、メイン側同期電動機1aのdq軸電圧摂動は、下記(9)式のように、サブ側同期電動機1bのdq平面上に座標変換することができる。下記(9)において、vdsはサブ側同期電動機1bのd軸電圧、vqsはサブ側同期電動機1bのq軸電圧である。
上記(9)式に上記(8)式を代入して整理すると、下記(10)式が得られる。下記(10)式において、Δvdsは、メイン側同期電動機1aのd軸電流の微小摂動によって生じる、サブ側同期電動機1bのd軸電圧の微小摂動である。Δvqsは、メイン側同期電動機1aのd軸電流の微小摂動によって生じる、サブ側同期電動機1bのq軸電圧の微小摂動である。
次に、サブ側同期電動機1bの定常状態における電圧方程式を電流について解くことで、下記(11)式が得られる。下記(11)式において、idsはサブ側同期電動機1bのd軸電流、iqsはサブ側同期電動機1bのq軸電流である。Rasはサブ側同期電動機1bの電機子抵抗、ωesはサブ側同期電動機1bの角速度、Ldsはサブ側同期電動機1bのd軸のインダクタンス、Lqsはサブ側同期電動機1bのq軸のインダクタンスである。Φasはサブ側同期電動機1bの電機子鎖交磁束数である。
ここで、上記(11)式の右辺の最後の項に示されるサブ側同期電動機1bのdq軸電圧に、上記(10)式の微小摂動を加え、それによって生じるサブ側同期電動機1bのdq軸電流の変化をΔids、Δiqsとして、上記(11)式の左辺に加えると、下記(12)式が得られる。
上記(12)式から上記(11)式を減じることによって、サブ側同期電動機1bのdq軸電流の微小摂動分を抽出することができる。サブ側同期電動機1bのdq軸電流の微小摂動分は下記(13)式のように表すことができる。
上記(13)式に上記(10)式を代入して整理すると、メイン側同期電動機1aのd軸電流摂動によるサブ側同期電動機1bのdq軸電流の変化は、下記(14)式のように表すことができる。
上記(14)式は係数が複雑なため、下記(15)式のように簡単な係数に置き換えて整理する。下記(15)において、Aは、A=RasRam+ωemωesLdmLqsで求められる。Bは、B=ωemLdmRas−ωesLqsRamで求められる。Cは、C=ωemLdmRas−ωesLdsRamで求められる。Dは、D=ωemωesLdmLds+RamRasで求められる。Eは、E=Δidm/(Ras 2+ωes 2LdsLqs)で求められる。
一方、サブ側同期電動機1bのトルクtsは下記(16)式により表される。
上記(16)式において、サブ側同期電動機1bのdq軸電流に対し、微小摂動を加えると下記(17)式が得られる。下記(17)式の添字「0」は動作点の値を表す。
上記(17)式から、サブ側同期電動機1bのdq軸電流摂動に関係する部分を抽出すると、下記(18)式が得られる。下記(18)式の右辺の第一項はサブ側モータのマグネットトルク摂動であり、第二項はリラクタンストルク摂動である。
ここでは、説明を分かり易くするために、まずはリラクタンストルク摂動が非常に小さく無視できる場合を想定する。このとき、マグネットトルク摂動と角度差λと関係は、下記(19)式によって表すことができる。下記(19)式において、Cは、C=ωemLdmRas−ωesLdsRamで求められる。Dは、D=ωemωesLdmLds+RamRasで求められる。Eは、E=Δidm/(Ras 2+ωes 2LdsLqs)で求められる。
リラクタンストルクの摂動を無視すれば、角度差λがどのような値のときに、マグネットトルク摂動が常に零になるかを、計算で求めることができる。上記(19)式の左辺に零を代入して、角度差λについて式を整理すれば下記(20)式が得られる。下記(20)式において、Cは、C=ωemLdmRas−ωesLdsRamで求められる。Dは、D=ωemωesLdmLds+RamRasで求められる。
上記(20)式には、2台の同期電動機のそれぞれのd軸インダクタンスと、2台の同期電動機のそれぞれの電機子抵抗と、2台の同期電動機のそれぞれの角速度とが含まれる。
並列駆動が、ある程度適切に行われている場合、2台の同期電動機のそれぞれの角速度は互いに等しいと考えられるので、ここでは、2台の同期電動機のそれぞれの角速度に差異がないものとして、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数の差異、すなわちd軸インダクタンスの差異と、電機子抵抗の差異とについて考える。2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が互いに等しい場合、上記(20)式の右辺の分数の分子は零となるため、角度差が零となるポイントを境に、メイン側同期電動機1aのd軸電流とサブ側同期電動機1bのトルクとの増減関係が変化する。このことから、特許文献1に開示される制御方式では、角度差が零となるポイントで、磁束電流の補償方向を切り替える処理が行われている。
2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が互いに異なる場合、上記(20)式の右辺の分数の分子は零にならない。この場合、メイン側同期電動機1aのd軸電流とサブ側同期電動機1bのトルクとの増減関係が変化するポイントは、角度差が零になる点ではない。そのため、特許文献1に開示される制御方式では、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が互いに異なる場合、角度差が零近くになるとき、磁束電流の補償方向を誤判定するという欠点がある。
磁束電流の補償方向を誤判定すると、サブ側同期電動機1bに意図しないトルク変化が発生するため、サブ側同期電動機1bに持続的な振動が生じるおそれがある。サブ側同期電動機1bの持続的な振動の発生プロセスは以下のとおりである。まず、磁束電流の補償方向が誤判定されたことにより、サブ側同期電動機1bに意図しないトルク変化が発生する。これにより角度差が増大する。角度差が一定値を超えると、補償方向の判定が正常な状態に戻る。これにより角度差が減少する。しかしながら、角度差が減少して零近くになると、再度、補償方向を誤判定する状態に陥る。こういった悪循環を繰り返すことでサブ側同期電動機1bに持続的な振動が生じるのである。
このことから、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が互いに異なる場合には、磁束電流の補償方向をモータ定数の差異を加味して決定する必要があると言える。実施の形態1に係る角度差補正部10は、磁束電流の補償方向を修正するためのものである。例えば、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が既知である場合、下記(21)式のように、角度差信号を修正すればよい。下記(21)式において「〜」は「補正後」という意味である。θesは、サブ側同期電動機1bの磁極位置を電気角で表したものであり、θemは、メイン側同期電動機1aの磁極位置を電気角で表したものである。Cは、C=ωemLdmRas−ωesLdsRamで求められる。Dは、D=ωemωesLdmLds+RamRasで求められる。Ldm、Lds、Ras及びRamがモータ定数に相当する。
上記(21)式において、アークタンジェントを含む第二項は、第1の角度差の補正量である角度差補正量を表す。角度差補正量は、当該第二項の式を用いて、回転子の回転速度が変化する度に角度差補正部10内で計算してもよいが、事前に計算した値を、角度差補正部10にデータテーブルとして格納しておき、角度差補正部10は、当該データテーブルを参照することによって、回転子の回転速度に対応する角度差補正量を読み出して、読み出した角度差補正量を、上記の第二項の式で求められる角度差補正量の代わりに用いてもよい。図16を参照して、データテーブルを用いた角度差補正量の計算方法の具体例を説明する。
図16は図1に示す角度差補正部で演算される角度差補正量と回転子の回転速度との関係を示す図である。図16において、縦軸には角度差補正量が示され、横軸には回転子の回転速度が示される。図16では回転子の回転速度が「速度」と表記される。図16によれば、回転速度に応じて角度差補正量が変化していることが分かる。このような回転速度に対応する角度差補正量を事前に計算しておき、計算した角度差補正量を前述したデータテーブルに格納する。なお、このような角度差補正量の推移から簡単な近似式を導出しておき、角度差補正部10は、上記(21)式のアークタンジェントを含む第二項の代わりに、導出された近似式を用いて、角度差補正量を計算してもよい。
次に図17及び図18を参照して、図1に示す角度差補正部10の構成例を説明する。図17は図1に示す角度差補正部の第1の構成例を示す図である。図17には、上記(21)式を用いて、補正後の角度差である第2の角度差を求める角度差補正部10Aの構成例が示される。以下では第2の角度差を「補正後角速度」と称する。角度差補正部10Aは、補正量演算部10a及び減算器10bを備える。補正量演算部10aは、モータ定数及び速度指令を用いて、上記(21)式のアークタンジェントを含む第二項の計算を行う。なお、2台の同期電動機の回転速度を正確に検出できる場合、速度指令の代わりに回転速度を用いて、上記(21)式のアークタンジェントを含む第二項の計算を行ってもよい。減算器10bは、上記(21)式に従い、角度差から、補正量演算部10aで演算された角度差補正量を差し引くことにより、補正後角度差を演算する。
図18は図1に示す角度差補正部の第2の構成例を示す図である。図18には、データテーブル10cを用いて補正後角度差を求める角度差補正部10Bの構成例が示される。角度差補正部10Bは、図17に示す補正量演算部10aの代わりに、補正量演算部10d及びデータテーブル10cを備える。図18のデータテーブル10cには、モータ定数及び回転速度に応じて変化する複数の角度差補正量が格納されているものとする。角度差補正部10Bは、データテーブル10cを参照することによって、モータ定数及び速度指令に対応する角度差補正量を読み出して、読み出した角度差補正量を出力する。なお、データテーブル10cに格納するデータ量を減らすために、データテーブル10cは不図示の補間処理手段を有していてもよい。
なお、実施の形態1では、同期電動機が表面磁石型同期交流電動機であると仮定して、リラクタンストルクがないものとして角度差を補正する構成例について説明したが、リラクタンストルクがある場合でも、角度差が零に近い値であるとして近似を行えば、メイン側同期電動機1a側のd軸電流摂動によるサブ側同期電動機1b側のマグネットトルク摂動が零となる条件を、比較的簡単に導出することができる。実施の形態1は、角度差が零に近い値であるときに、磁束電流の補償方向を誤判定する状態に陥る現象を対象としているため、上記の近似は妥当なものである。下記(22)式は、メイン側同期電動機1a側のd軸電流摂動によるサブ側同期電動機1b側のマグネットトルク摂動と、リラクタンス摂動との和が零となる条件を表している。下記(22)において、Aは、A=RasRam+ωemωesLdmLqsで求められる。Bは、B=ωemLdmRas−ωesLqsRamで求められる。Cは、C=ωemLdmRas−ωesLdsRamで求められる。Dは、D=ωemωesLdmLds+RamRasで求められる。Eは、E=Δidm/(Ras 2+ωes 2LdsLqs)で求められる。Fは、F=Pm(Φas+(Lds−Lqs)ids0で求められる。Gは、G=Pm(Lds−Lqs)iqs0で求められる。Hは、H=Pm(Lds−Lqs)で求められる。
リラクタンストルクがない同期電動機の場合、式変形の過程でメイン側同期電動機1a側のd軸電流の摂動項が消去されるのに対し、リラクタンストルクがある同期電動機の場合、摂動項が消去されない。しかしながら、角度差補正量を決定する際、メイン側同期電動機1a側のd軸電流の摂動項まで加味すると計算が複雑になりすぎる。そのため、実用上は、メイン側同期電動機1a側のd軸電流の摂動項が微小であるとして、消去したほうがよい。その結果、リラクタンストルクが大きい同期電動機における角度差補正値の理論式は下記(23)式のように表される。下記(23)式を演算すれば、リラクタンストルクが大きい同期電動機でも、表面磁石型同期電動機と同様の安定化補償を行うことができる。但し、下記(23)式を計算するのには、必要なパラメータが多く、計算も煩雑である。このような課題の対策については実施の形態2以降で説明する。
モータ定数が異なる2台の同期電動機を並列駆動する際、磁束電流を変化させることでサブ側同期電動機1bの安定化を図る場合には、モータ定数の差異を考慮して磁束電流の補償方向を決定しなければ、補償方向の誤判定が生じるときがある。特許文献1に記載の手法では、同仕様の2台の同期電動機を並列駆動する場合であっても、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が異なると、補償方向の誤判定が生じるおそれがある。この誤判定は、サブ側同期電動機1bに持続的な振動を引き起こすため、サブ側同期電動機1bに大きな速度むらが生じる。これに伴い、サブ側同期電動機1bの振動及び騒音の増加と、モータ効率の低下が懸念される。
実施の形態1に係る駆動装置100は、モータ定数の差異を考慮して磁束電流の補償方向を決定するように構成されているため、1台の電力変換器を用いて2台の同期電動機を駆動する場合でも、モータ定数の変動に対するロバスト性が向上し、磁束電流指令決定部9が磁束電流の補償方向を誤判定することを防止できる。従って、磁束電流の補償方向の誤判定に起因する速度むらの発生が抑制される。また、速度むらの発生が抑制されるため、サブ側同期電動機1bの振動及び騒音の増加を抑制でき、更にモータ効率の低下を抑制できる。
実施の形態2.
実施の形態1では、角度差の補正を行うために、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が必要である。但し、これらのモータ定数は様々な要因で変化する。実施の形態2では、角度差の補正のためのモータ定数測定機能を備えた駆動装置100について説明する。図19は本発明の実施の形態2に係る駆動装置が備える電流制御部の構成図である。図20は本発明の実施の形態2に係る駆動装置が備える角度差補正部の構成図である。実施の形態2の駆動装置100は、実施の形態1の電流制御部6及び角度差補正部10の代わりに電流制御部6A及び角度差補正部10Cを備える。その他の構成については、実施の形態1の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図19に示す電流制御部6Aは、トルク電流及び磁束電流をそれぞれ制御するための機能である。電流制御部6Aは、加算器61aと、加算器61bと、減算器61cと、減算器61dと、加算器61eと、減算器61fと、加算器61gと、加算器61hと、比例積分微分(Proportional Integral Derivative:PID)制御器62aと、PID制御器62bとを備える。また電流制御部6Aは、非干渉化制御器63と、モータ定数を測定するためのテスト信号を発生するテスト信号発生部64とを備える。また電流制御部6Aは、これらの機能以外にも、メイン側同期電動機1aの相電流を所望の座標系の電流に座標変換する第1の座標変換器と、電圧指令を三相座標系に逆変換する第2の座標変換器とを備える。図19では、第1の座標変換器及び第2の座標変換器の図示が省略されている。なお、実施の形態2の電流制御部6Aには、実施の形態1の電流制御部6と同様に、dq回転子座標上でのベクトル制御器を用いるのが好適であるが、ベクトル制御におけるdq座標系以外にも、αβ固定子座標系、γδ座標系などの極座標系を用いてもよい。また、電流制御部6Aには、ベクトル制御の代わりにDTCを採用してもよい。
テスト信号発生部64は、モータ定数測定を行うために、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bの停止時に、直流電圧、直流電流、交流電圧又は交流電流のテスト信号をメイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bに与える。テスト信号は、トルク電流指令、磁束電流指令、q軸電圧指令及びd軸電圧指令を変化させるための信号である。なお、テスト信号発生部64が発生するテスト信号の詳細については後述する。
加算器61aは、トルク電流指令と、テスト信号発生部64から出力されるトルク電流指令を変化させるためのテスト信号とを加算する。減算器61cは、加算器61aで加算されたトルク電流指令及びテスト信号からトルク電流を減じることによって、トルク電流偏差を計算する。PID制御器62aは、トルク電流偏差に対して比例演算、積分演算及び微分演算を行うことによって制御量を決定する。
加算器61bは、磁束電流指令と、テスト信号発生部64から出力される磁束電流指令を変化させるためのテスト信号とを加算する。減算器61dは、加算器61bで加算された磁束電流指令及びテスト信号から磁束電流を減じることによって、磁束電流偏差を計算する。PID制御器62bは、磁束電流偏差に対して比例演算、積分演算及び微分演算を行うことによって制御量を決定する。
非干渉化制御器63は、加算器61aで加算されたトルク電流指令及びテスト信号と、速度指令と、加算器61bで加算された磁束電流指令及びテスト信号とを用いて、フィードフォワード制御により、dq軸間の制御干渉を除去するためのd軸電圧及びq軸電圧を生成する。具体的には、非干渉化制御器63は、速度指令と、加算器61bで加算された磁束電流指令及びテスト信号とを用いて、d軸電流によって発生するq軸電圧に干渉する電圧を打ち消すための電圧を生成して、加算器61eへ出力する。非干渉化制御器63は、加算器61aで加算されたトルク電流指令及びテスト信号と、速度指令とを用いて、q軸電流によって発生するd軸電圧に干渉する電圧を打ち消すための電圧を生成して、減算器61fへ出力する。
加算器61eは、PID制御器62aの出力に非干渉化制御器63の出力を加算して出力する。加算器61gは、加算器61eの出力に、テスト信号発生部64から出力されるq軸電圧指令を変化させるためのテスト信号を加算することによって、q軸電圧指令を出力する。
減算器61fは、PID制御器62bの出力から非干渉化制御器63の出力を減算して出力する。加算器61hは、減算器61fの出力に、テスト信号発生部64から出力されるd軸電圧指令を変化させるためのテスト信号を加算することによって、d軸電圧指令を出力する。
図20に示す角度差補正部10Cは、電流制御部6Aによる電圧変化又は電流変化の分析結果を用いて角度差を補正するために、図18に示す補正量演算部10d及びデータテーブル10cを備えると共に、テスト信号分析部10eを備える。テスト信号分析部10eには、メイン側同期電動機1a側の相電流であるメイン側相電流と、サブ側同期電動機1b側の相電流であるサブ側相電流と、電圧指令とが入力される。テスト信号分析部10eは、これらを分析することで、モータ定数を計測して出力し、更にモータ定数の差異によって生じる電気的挙動である、サブ側トルク電流の脈動成分を分析する。すなわち、テスト信号分析部10eは、テスト信号によって生じる電圧変化又は電流変化を分析する。計測の結果、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれのd軸インダクタンス及び電機子抵抗が分かれば、補正量演算部10dによって角度差補正量の演算が可能である。なお、角度差補正部10Cは、補正量演算部10d及びデータテーブル10cの代わりに、図17に示す補正量演算部10aを用いて、角度差補正量の演算を行ってもよい。
モータ定数の計測法には、様々な計測法が提案されているが、それらの全ての計測法を例示することができないため、実施の形態2では一例を説明する。
例えば、テスト信号発生部64は、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bの停止時に、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bに交流電圧又は交流電流のテスト信号を与えることによって、2台の同期電動機のそれぞれの相電流を計測する。そして、テスト信号分析部10eは、この相電流を計測することによって、2台の同期電動機のそれぞれの電機子抵抗が計測できる。但し、一般に、電力変換器2では、上下アームの短絡防止時間の影響などによって、出力電圧に誤差が含まれるため、電圧誤差の補償精度が低い場合、電機子抵抗に計測誤差が生じる。そのような場合、テスト信号分析部10eは、2台の同期電動機のそれぞれに流れる相電流の比率を計測する。電機子抵抗のノミナル値は一般に入手可能であるから、テスト信号分析部10eは、電機子抵抗のノミナル値と、計測した相電流比率の値とを比較すればよい。相電流比率を測定する方法では、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのどちらのモータ定数が変化したのかまでは分からないが、実用上、上記(21)式の計算を行うに際して支障はない。
また、テスト信号発生部64は、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bの停止時に、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bに、d軸方向の交流電圧又は交流電流のテスト信号を与え、テスト信号分析部10eは、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれに流れる電流の値から、d軸インダクタンスを計測できる。電圧誤差が無視できない場合、テスト信号分析部10eは、メイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bのそれぞれに流れる相電流の交流振幅を抽出し、その比率を計測して、この比率から上記(21)式の計算をしてもよい。
このように、同期電動機が停止中に、2台の同期電動機のそれぞれの電機子抵抗とd軸インダクタンスとを測定すれば、上記(21)式の計算を容易に行うことができる。しかしながら、運転中の同期電動機の温度変化により、電機子抵抗は変化する。そこで、同期電動機が運転しているときに、電機子抵抗の変化を計測する方法を考える。一つの方法として、上記(8)式の右辺の1行目のRamを、下記(24)式のように変形し、定常運転中にメイン側同期電動機1aのd軸電流に、直流のテスト信号を重畳することによって、重畳前後のd軸電圧の変化を計測する方法が考えられる。この計測方法は、電力変換器2の出力電圧に対して高い精度が必要となるが、運転中に電機子抵抗を測定できるメリットがある。なお、上記(8)式はメイン側同期電動機1aに関する数式であるが、サブ側同期電動機1bに関しても同様の数式で電機子抵抗を計算できる。なお、巻線の温度変化を計測する温度センサを使用できる場合、同期電動機で発生する温度の変化を温度センサによって計測し、ノミナル値からの抵抗の変化量を算出してもよい。
上記(21)式の計算を行うには、2つの同期電動機のそれぞれの電機子抵抗及びd軸インダクタンスが既知であればよいが、上記(23)式の計算を行うには、サブ側同期電動機1bの電機子鎖交磁束数Φasと、q軸インダクタンスLqsも必要となる。電機子鎖交磁束数Φasは温度変化及び過電流減磁といった要因で変化し、q軸インダクタンスLqsは、大電流が流れたときの磁気飽和により変化する。上記(23)式の計算を精度良く行うためにはこれらの定数も計測する必要がある。
インダクタンスの測定方法としては、例えば特許第5634620号公報(以下、参考文献2という)の手法が公知である。参考文献2では、複数の一定の直流電圧の電圧指令を、回転機に印加し、印加した電圧の中から任意に選択した測定用電圧指令と、測定用電圧指令印加前後の回転機電流とを用いて、インダクタンスを演算する手法が考案されている。
実施の形態2に、参考文献2に開示されるインダクタンス演算手法を適用した場合、図19に示すテスト信号発生部64が複数の一定の直流電圧の電圧指令をテスト信号として発生し、テスト信号分析部10eは、テスト信号発生部64が発生した電圧指令の中から任意に選択した測定用電圧指令と、測定用電圧指令の発生前後の回転機電流とを用いて、インダクタンスを演算する。ここで、テスト信号はインパルス状の電圧となる。インダクタンスの演算の原理は、参考文献2で詳細に記述されているため、ここでは説明を割愛する。このインダクタンス測定方法を用いることによって、実施の形態2に係る駆動装置100でも、q軸インダクタンスを計測することが可能である。なお、参考文献2に開示されるインダクタンス手法を適用して、d軸インダクタンスを計測することもできる。
電機子鎖交磁束数を計測する手法としては、例えば磁束オブザーバが公知である。磁束オブザーバの活用例は特開2003−302413号公報(以下、参考文献3という)に開示されている。磁束オブザーバは、モータに印加される電圧とモータに流れる電流とを用いて、固定子磁束及び回転子磁束を推定するものである。参考文献3では、磁束オブザーバと適応制御とを組み合わせて、同期電動機の速度推定を実施しているが、その計算過程において回転子d軸磁束、すなわち電機子鎖交磁束数の推定が行われている。回転子d軸磁束の推定には速度情報が必要となるが、速度情報は、適応制御により算出された速度推定値でもよいし、センサ類によって検出された速度真値でもよい。
実施の形態2に、参考文献3に開示される電機子鎖交磁束数の計測方法を適用する場合、テスト信号分析部10eの内部に磁束オブザーバを設ければよい。この場合、テスト信号発生部64はテスト信号を発生させる必要がないため、テスト信号は零とする。このように電機子鎖交磁束数を計測する手法も公知である。
以上の方法により、実施の形態2では、電機子抵抗、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及び電機子鎖交磁束数の計測が可能である。そして、モータ定数が既知であれば、上記(21)式及び(23)式の計算を行うことは容易である。実施の形態2によれば、駆動装置100にモータ定数測定機能を設けることによって、2台の同期電動機の角度差が的確に補正され、磁束電流の補償方向の誤判定を防ぐことができる。
実施の形態3.
実施の形態3では、磁束電流の補償方向を誤判定した際のサブ側同期電動機1bの脈動成分の特徴を調べることで、角度差の補正を行う構成例を説明する。実施の形態3の具体的な構成例を説明する前に、磁束電流の補償方向を誤判定した場合に、どのようなことが発生するかを図21及び図22を用いて説明する。
図21は図1に示すメイン側同期電動機の電機子抵抗に+30%の誤差を加えた場合のサブ側同期電動機のトルク電流波形を説明するための図である。図22は図1に示すメイン側同期電動機の電機子抵抗に−30%の誤差を加えた場合のサブ側同期電動機のトルク電流波形を説明するための図である。図21及び図22では、並列駆動時にはモータ定数が等しい2つの同期電動機の内、一方の同期電動機のみが駆動されたことによって、2台の同期電動機のモータ定数に差異が発生したケースを想定している。一方の同期電動機のみが駆動されるのは、図1に示すリレー回路11の接点が開放された場合である。
サブ側同期電動機1bのトルク電流であるサブ側トルク電流は、前述した電機ばね共振により、上記(1)式の近似式で記述される固有角周波数で振動する。図21の上側の図には、サブ側トルク電流の原波形と、固有角周波数の基本波成分とが示される。原波形は実線で示され、基本波成分は破線で示される。横軸は時間である。基本波成分は、サブ側トルク電流の原波形に含まれる固有角周波数成分である。図21の上側の図には、サブ側トルク電流の原波形に固有角周波数成分がどの程度含まれるかを明示するため、原波形と基本波成分とが併記されている。
前述した磁束電流指令決定部9は、電機ばね共振を抑え込むため、磁束電流を適宜変化させているが、図21では、上記(21)式の角度差補正が行われていないために磁束電流指令決定部9が磁束電流の補償方向を誤判定して、サブ側同期電動機1bに持続的な振動が生じているものとする。このように、サブ側同期電動機1bに持続的な振動が生じている場合のサブ側トルク電流には、波形に歪みが生じていることが分かる。
図21の下側の図には、誤判定によって生じるサブ側トルク電流の脈動成分が示される。脈動成分には、原波形から基本波成分を差し引いた波形成分と、電機ばね共振の2次高調波成分とが含まれる。原波形から基本波成分を差し引いた波形成分が実線で示され、電機ばね共振の2次高調波成分が破線で示される。横軸は時間である。
補償方向の誤判定が定常的に発生する状態になると、電機ばね共振1周期に2回の誤判定が発生する。そのため、サブ側トルク電流を周波数解析すると、電機ばね共振の偶数次の高調波成分が増加する傾向がある。電機ばね共振の偶数次の高調波成分が増加していることを明示するため、図21の下側の図には、原波形から基本波成分を差し引いた波形成分と、電機ばね共振の2次高調波成分とが併記される。
図22の上側の図には、サブ側トルク電流の原波形と、固有角周波数の基本波成分とが示される。原波形は実線で示され、基本波成分は破線で示される。横軸は時間である。図22の下側の図には、誤判定によって生じるサブ側トルク電流の脈動成分が示される。図22によれば、図21と同様に、誤判定による脈動が生じていることが分かり、また電機ばね共振の偶数次の高調波成分が生じていることが分かる。
但し、図22に示すサブ側トルク電流の波形は、図21のサブ側トルク電流の波形と異なっている。波形が異なる理由は、図21に示す状態から電機子抵抗が変化したことによって、上記(21)式で示される角度差補正の理想値が変化し、角度差補正の理想値が変化したことによって、誤判定の発生タイミングが変化し、更に、誤判定によって生じるトルクショックの方向が変化したためである。図21では、トルクショックのピークは負の方向であるが、図22では、トルクショックのピークは正の方向である。また、2次高調波成分の位相も図21と図22では異なっている。なお、上記(20)式で示される角度差補正の理想値の計算結果は、図21の場合、負の値となり、図22の場合、正の値となる。
これらの結果は、磁束電流の補償方向を誤判定した場合に、サブ側同期電動機1bに電機ばね共振の偶数次の振動が発生することを示唆している。また、角度差補正の最適値が正であるか負であるかによって、トルクショックのピークの発生方向と偶数次高調波成分の位相とが変化することを示唆している。
本願発明者の調査の結果、このような事実が判明したため、本願発明者は、トルク電流の波形を解析して、補償方向の誤判定を検出する方法を検討した。なお、図21及び図22では、最も分かり易い例としてトルク電流の波形を示したが、トルク電流の代わりに有効電力の脈動、速度の脈動などから図21及び図22に示すような現象を観測することもできる。
図23は本発明の実施の形態3に係る駆動装置が備える角度差補正部の構成図である。実施の形態3の駆動装置100は、実施の形態1の角度差補正部10の代わりに角度差補正部10Dを備える。角度差補正部10Dは、脈動成分分析部10f及びオフセット量制御部10gを備える。その他の構成については、実施の形態1の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
脈動成分分析部10fは、サブ側同期電動機1bに流れるサブ側トルク電流に含まれる脈動成分を周波数分析する機能である。サブ側トルク電流は、電流検出部4bで検出された三相座標系での電流値が、不図示の座標変換器によって回転直交座標(dq軸)でのdq軸電流へ変換された後の、q軸電流を示す。上記(1)式によって表される電機ばね共振角周波数は、近似誤差を含むため、脈動成分分析部10fは、サブ側トルク電流に含まれる共振角周波数を計測するための共振角周波数計測部10hを備える。なお、共振角周波数計測部10hは、共振角周波数を計測するためだけでなく、同期電動機が駆動したときモータ定数が変化することも考慮して、脈動成分分析部10fに設けた方が望ましい。
また、脈動成分分析部10fは、サブ側トルク電流の脈動成分に対して解析処理を行うことによって特定の高調波成分を抽出するフィルタ部10iを備える。フィルタ部10iには、例えば、サブ側トルク電流の脈動成分から電機ばね共振角周波数の2次高調波成分を抽出するバンドパスフィルタを用いることができる。また、フィルタ部10iは、サブ側トルク電流の脈動成分の直流成分を除去するハイパスフィルタと、電機ばね共振角周波数の基本波成分を除去するノッチフィルタとを組み合わせたものでもよい。
オフセット量制御部10gは、脈動成分の高調波成分が減少するよう角度差に対して補正量を加える機能である。オフセット量制御部10gの詳細は後述する。減算器10bは、角度差からオフセット量制御部10gの出力を差し引き、補正後角度差を決定する。
オフセット量制御部10gの最も単純な構成例としては、探索アルゴリズムを用いる方法が考えられる。探索アルゴリズムは様々存在するが、ここでは最も有名な探索アルゴリズムの1つである山登り法を例として取り上げる。なお、山登り法を選んだのは単に例示のしやすさを考慮しただけであり、実施の形態3の構成がこれに限定されるものではない。
オフセット量制御部10gは、自動探索部10jを備える。自動探索部10jは、フィルタ部10iからの高調波成分に対して、角度差補正量を変化させながら高調波成分の増減を調査することにより、山登り法により角度差補正量の最適値を自動探索する。図24は図23に示す自動探索部に用いられる山登り法による角度差補正量の自動探索のイメージを示す図である。縦軸は共振角周波数の2次高調波成分、横軸は角度差補正量を表す。
脈動成分の2次高調波成分の発生要因は磁束電流の補償方向の誤判定によるものであるから、角度差補正量を最適に調整した場合、2次高調波成分が最小になると予想される。初期条件の動作点Xでは、角度差補正量が零であり、磁束電流の補償方向の誤判定が起こっているため、2次高調波成分がある程度観測されている。ここで、角度差補正量を増加させ、動作点をXからYに変化させたとする。この場合、動作点が最適点の方向から遠ざかるので、誤判定の頻度が増えて2次高調波成分が増加する。これは望ましくないので、角度差補正量を減少させることを考える。角度差補正量を減少させ、動作点をXからZに変化させた場合、動作点が最適点の方向に近づくので、誤判定の頻度が減って2次高調波成分が減少する。このように、山登り法を用いることによって、角度差補正量を徐々に変化させながら脈動成分の2次高調波成分が最小となるポイントを探していけば、やがて最適点にたどり着く。なお、角度差信号を適切に補正していくと、電機ばね共振の2次高調波成分だけでなく、電機ばね共振の基本波成分も徐々に弱まっていく。そのため、2次高調波成分が最小となるポイントが見つかっていなくても、ある程度、振動が弱まったら、探索を打ち切ってもよい。
なお、オフセット量制御部10gの別の構成例としては、自動探索部10jによる探索アルゴリズムを用いる代わりに、PID制御を用いる方法が考えられる。オフセット量制御部10gのPID制御では、例えば図21又は図22に示されるサブ側トルク電流脈動の中から、鋭いピークが発生している箇所が抽出され、抽出されたピーク部分が積分されることによって、適切な補正量が得られる。
自動探索に基づく手法は、探索にある程度の時間を要するものの、モータ定数を必要としない点で優れている。リラクタンストルクが大きいモータの場合、上記(23)式を解くのには多くのモータ定数が必要となるため、実施の形態2で述べたような多数のモータ定数測定手段、例えばテスト信号発生部64、テスト信号分析部10eなどが必要になる。これに対して、実施の形態3の自動探索に基づく手法は、制御構成を簡素化できるという効果を得ることができる。また、実施の形態3の自動探索に基づく手法は、モータ定数を必要としないためオンラインでの角度差補正が可能であり、また同期電動機が長時間運転した際の定数変化に対応可能となる。
実施の形態4.
図25は本発明の実施の形態4に係る駆動装置が備える角度差補正部の構成図である。実施の形態4に係る角度差補正部10Eは、実施の形態2のテスト信号分析部10e、補正量演算部10d及びデータテーブル10cを備え、更に実施の形態3の脈動成分分析部10f及びオフセット量制御部10gを備える。
角度差補正部10Eでは、モータ定数の値に基づき演算される角度差補正量が角度差から差し引かれることにより補正後角度差が演算され、又は、補償方向の誤判定により生じる偶数次高調波に基づき演算される角度差補正量が角度差から差し引かれることにより補正後角度差が演算される。このように角度差補正部10Eは、モータ定数の値に基づき演算される角度差補正量と、偶数次高調波に基づき演算される角度差補正量とを個別に演算することができる。なお、角度差補正部10Eは、モータ定数の値に基づき演算される角度差補正量と、偶数次高調波に基づき演算される角度差補正量との双方を、角度差から差し引く構成としてもよい。
実施の形態4によれば、モータ定数の値に基づき演算される角度差補正量を用いることによって、リラクタンストルクが大きいモータが利用される場合における磁束電流の補償方向の誤判定を防止でき、またモータ定数を必要としない場合にも偶数次高調波に基づき演算される角度差補正量を用いて補正後角度差を求めることが可能である。
実施の形態5.
実施の形態5では、実施の形態1,2,3,4に係る駆動装置100を用いた流体利用装置の構成例について説明する。図26は本発明の実施の形態5に係る流体利用装置の構成図である。実施の形態5では、メイン側同期電動機1aの回転軸にプロペラファン300aが設けられ、サブ側同期電動機1bの回転軸にプロペラファン300bが設けられている流体利用装置300について説明する。
図26に示す流体利用装置300は、実施の形態1の駆動装置100を備え、駆動装置100は電力変換器駆動装置200を備える。電力変換器駆動装置200は、プロセッサ201及びメモリ202を備える。図1に示す各機能、すなわち電流制御部6、脈動成分抽出部7、減算器8、角度差補正部10及び磁束電流指令決定部9は、プロセッサ201及びメモリ202を用いてその機能が実現される。
図26に示すようにプロセッサ201及びメモリ202を利用する場合、上記の各機能のそれぞれは、ソフトウェア、ファームウェア又はこれらの組合せにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ202に記憶される。プロセッサ201はメモリ202に記憶されたプログラムを読み出して実行する。またこれらのプログラムは、上記の各機能のそれぞれが実行する手順及び方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。メモリ202は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、又はEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)(登録商標)といった半導体メモリが該当する。半導体メモリは不揮発性メモリでもよいし揮発性メモリでもよい。またメモリ202は、半導体メモリ以外にも、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク又はDVD(Digital Versatile Disc)が該当する。なお、プロセッサ201は、演算結果等のデータをメモリ202に出力しても記憶させてもよいし、メモリ202を介して不図示の補助記憶装置に当該データを記憶させてもよい。
なお、流体利用装置300は、実施の形態1の駆動装置100の代わりに実施の形態2、3又は4の駆動装置100を備えてもよい。この場合、図19に示す電流制御部6Aと、図20に示す角度差補正部10Cと、図23に示す角度差補正部10Dと、図25に示す角度差補正部10Eとは、プロセッサ201及びメモリ202を用いてその機能が実現される。
実施の形態1でも述べたように、電力変換器2はメイン側同期電動機1a及びサブ側同期電動機1bに任意の交流電力を供給できるものであれば、基本的にどのような回路構成でも構わない。電流検出部4a,4b及び磁極位置検出部5a,5bで検出された情報はプロセッサ201へ送信される。
リレー回路11は必須の構成要件ではないが、リレー回路11を用いることによって、同期電動機の運転台数を変えることができる。また、2台の同期電動機の内、一方の同期電動機を長時間運転させた後に、2台の同期電動機の並列運転へ切り替える際、2台の同期電動機の温度には温度差が生じているため、温度差の影響でサブ側同期電動機1bの安定性が低下する恐れがある。しかしながら、このような切り替えを行う場合でも、実施の形態1,2,3,4で説明した手法を用いることによって、2台の同期電動機を安定に並列運転することが可能である。
2つのプロペラファン300a,300bは、互いに同一形状のものであってもよいし、異なる形状のものであってもよい。また、2つのプロペラファン300a,300bの空気の流路は必ずしも同じでなくともよい。例えば流体利用装置300が空気調和機の場合、2つのプロペラファン300a,300bは、当該空気調和機の室外機内の送風室に設けられる2つの送風ファンに相当し、上記の空気の流路は、当該送風室に相当する。送風室は、室外機の側面板、天井板、底板、熱交換器などに囲まれることで形成される空間である。送風室には、プロペラファン300a,300bが回転することによって空気の流れが形成される。
2つのプロペラファン300a,300bの回転数と負荷トルクとの特性は、異なっていた方が安定に並列駆動しやすいため、2台の同期電動機に異なる形状のファンを設けてもよいし、一方のファンが設けられる流路の断面積を、他方のファンが設けられる流路の断面積よりも小さくしてもよい。また、一方の同期電動機でプロペラファンを駆動し、他方の同期電動機でポンプを駆動するなど、それぞれ異なる仕様の流体利用装置を駆動する構成としてもよい。
なお図26には示されていないが、流体利用装置300は、電力変換器2が出力する電圧を検出する電圧検出部を備え、電圧検出部で検出された電圧情報がプロセッサ201へ入力されるように構成してもよい。また図26には示されていないが、流体利用装置300は、ファンの風速を計測する風速センサを備え、風速センサで検出された風速情報がプロセッサ201へ入力されるように構成してもよい。また図26には示されていないが、ファンによって冷却される対象物の温度を検出する温度センサを備え、温度センサで検出された温度情報がプロセッサ201へ入力されるように構成してもよい。
流体利用装置300の流体負荷は、ダンパ特性を持っており、高回転域では、そのダンパ特性がオープンループ駆動された同期電動機の駆動を安定化させる。しかしながら、低回転域では、そのダンパ特性が弱まり、同期電動機の駆動が不安定になるため、流体利用装置300は、磁束電流を変化させることによって、同期電動機の駆動の安定化を図る。しかしながら、特許文献1に開示される磁束電流の制御方法を、流体利用装置300の電力変換器駆動装置200に適用した場合、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数に差異が生じたとき、角度差が零に近い領域において、磁束電流の補償方向の誤判定が生じる。流体利用装置300は、低回転域では低負荷であるため、低回転域では角度差が零に近づき、誤判定が頻発する。このように、安定性が低い低回転域で補償方向の誤判定が頻発すると、脱調のおそれが生じる。また、誤判定に起因して発生する持続的な振動により、同期電動機の振動及び騒音の増加と、モータ効率の低下が懸念される。このようなことから、特許文献1に開示される磁束電流の制御方法を流体利用装置300の電力変換器駆動装置200に用いるには、低速での駆動特性の面で課題があった。
実施の形態1,2,3,4で述べた角度差補正法又は定数測定法を図26に示す流体利用装置300の電力変換器駆動装置200に用いることにより、低回転域で補償方向の誤判が発生することを防止できる。これにより、実施の形態5の流体利用装置300では、幅広い速度範囲で同期電動機の並列駆動を実現することができる。また、実施の形態5の流体利用装置300は、1つの電力変換器で1台の同期電動機を駆動する既存の同期電動機駆動装置を、ソフトウェアの書き換えなどを行うことで実現できるため、コストの増加を抑制しながら2つのプロペラファン300a,300bを駆動可能な流体利用装置300を得ることができる。
実施の形態6.
実施の形態6では、実施の形態4に係る流体利用装置300を用いた空気調和機の構成例について説明する。図27は本発明の実施の形態6に係る空気調和機の構成図である。実施の形態6に係る空気調和機400は、流体利用装置300、冷媒圧縮機401、凝縮器403、受液器404、膨張弁405及び蒸発器406を備える。冷媒圧縮機401と凝縮器403との間は配管で接続される。同様に、凝縮器403と受液器404との間は配管で接続され、受液器404と膨張弁405との間は配管で接続され、膨張弁405と蒸発器406との間は配管で接続され、蒸発器406と冷媒圧縮機401との間は配管で接続される。これにより、冷媒圧縮機401、凝縮器403、受液器404、膨張弁405及び蒸発器406には冷媒が循環する。なお、図27では図示が省略されているが、流体利用装置300は、図1などに示す電流検出部4a,4b、磁極位置検出部5a,5cなどを備える。
空気調和機400では冷媒の蒸発、圧縮、凝縮、膨張という工程が繰り返し行われるため、冷媒は液体から気体へ変化し、更に気体から液体へ変化することにより、冷媒と機外空気との間で熱交換が行われる。
蒸発器406は、低圧の状態で冷媒液を蒸発させ、蒸発器406の周囲の空気から熱を奪うことによって、冷却作用を発揮するものである。冷媒圧縮機401は、冷媒を凝縮するために蒸発器406でガス化された冷媒ガスを圧縮して、高圧のガスにするものである。凝縮器403は、冷媒圧縮機401で高温になった冷媒ガスの熱を放出することで、高圧の冷媒ガスを凝縮し、冷媒液に変換するものである。流体利用装置300は、プロペラファン300a,300bを回転することによって、風を発生させて、この風を凝縮器403に通過させることにより、凝縮器403を冷却する。膨張弁405は、冷媒を蒸発させるために、冷媒液を絞り膨張して、冷媒液を低圧の液に変換するものである。受液器404は循環する冷媒量の調節のために設けられるもので、小型の装置では省略してもよい。
空気調和機400の大出力化に伴って凝縮器403が大型化すると、凝縮器403を冷却するための冷却装置として機能する流体利用装置300の冷却性能を増加させる必要が生じる。但し、凝縮器403の寸法を大きくするのに合わせて、冷却装置として機能する流体利用装置300の仕様変更を行うのは煩雑である。また、流体利用装置300の冷却性能を増加させるために、流体利用装置300を大出力化するためには、流体利用装置300を量産するための製造ラインの変更が必要となる場合もあり、製造ラインを構築するための初期投資がかさむ。そのため、大型の空気調和機400では、複数の冷却ファンを備えた流体利用装置300を使用することで冷却性能を向上させている。
また、空気調和機400には、低コスト化の要求が高く、その一方で省エネルギー規制が年々強化されているため高効率化も要求されている。近年の省エネルギー規制では、定格動作点だけでなく、低出力駆動の動作点での駆動効率も重要視される。そのために冷却ファンの動作回転数の下限値を極力引き下げる必要がある。
ここまで述べてきたとおり、特許文献1で開示される技術を用いた並列駆動装置は、コスト面では非常に優れているものの、特許文献1で開示される技術では、モータ定数に差異がある場合、磁束電流の補償方向の誤判定が生じて、誤判定に起因して持続的な振動が発生する。流体利用装置300を空気調和機400用の冷却ファンとして用いる場合、流体負荷の特性上、低速側での制御が不安定になりやすい。そのため、風量の指令値が低速の指令である場合、図1に示すリレー回路11を用いて、同期電動機の運転台数を2台から1台に減らしてもよいのだが、そうした場合、2台の同期電動機のそれぞれに発生する温度に温度差が生じる可能性がある。このような温度差が生じると、温度差に起因してモータ定数の差異が生じるため、特許文献1に開示される磁束電流の制御方法を用いた駆動装置では、磁束電流の補償方向の誤判定が生じるおそれがある。このようなことから、特許文献1に開示される磁束電流の制御方法を用いた駆動装置では、冷却ファンの動作回転数の下限値を一定値以下に下げることができず、当該駆動装置を備える空気調和機の運転動作範囲が狭まるという問題があった。従って、特許文献1に開示される磁束電流の制御方法を用いた駆動装置は、空気調和機の冷却ファンに求められる低コスト化と高冷却性能とを両立させることが困難である。
実施の形態6に係る空気調和機400は、実施の形態1から4で述べた並列駆動法を利用しているため、低速域の駆動が不安定になることがなく、駆動可能範囲を拡大できる。また、実施の形態6に係る空気調和機400は、引用文献1に開示される磁束電流の制御方法に比べて、並列駆動を実現するためのセンサ類の追加を必要としない。従って、実施の形態6では、空気調和機400の冷却ファンに要求される低コスト化と高冷却性能とを両立させることが可能である。また、実施の形態6では、引用文献1に開示される技術に比べて、モータ定数の変動に対する信頼性を大幅に向上することができる。
なお、実施の形態1から4に係る駆動装置100は、2台の同期電動機のそれぞれのモータ定数が全く異なる場合でも、同期電動機を安定に駆動できるため、流体利用装置300及び空気調和機400以外のあらゆる機器に適用でき、産業の発展に有用である。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。