脊椎動物(特に哺乳動物)の組織は、傷害若しくは疾患、又は加齢等に伴い細胞・臓器の損傷が起こった場合、再生系が働き、細胞・臓器の損傷を回復しようとする。この作用に、当該組織に備わる幹細胞(組織幹細胞、体性幹細胞)が大きな役割を果たしている。幹細胞は、あらゆる細胞・臓器に分化する多能性を有しており、この性質により細胞・臓器の損傷部を補うことで回復に導くと考えられている。このような幹細胞を応用した、次世代の医療である再生医療に期待が集まっている。
哺乳動物における幹細胞研究で最も進んでいる組織は骨髄である。骨髄には生体の造血幹細胞が存在しており、全ての血液細胞再生の源であることが明らかにされた。さらに骨髄には、造血幹細胞とは別に、臓器や組織(例えば、骨、軟骨、筋肉、脂肪等)へ分化可能な幹細胞が包含されていることが報告されている(非特許文献1参照)。
さらに、近年、骨髄以外にも、皮膚、肝臓、膵臓、脂肪等、あらゆる臓器や組織に幹細胞が存在することが明らかにされ、各臓器や組織の再生及び恒常性維持を司っていることがわかってきた(非特許文献2〜5参照)。また、各臓器や組織に存在する幹細胞は可塑性に優れており、今まで自己複製が不可能であった臓器や組織の再生にも利用できる可能性がある。
一方で、これらの幹細胞のうちのいくつかは、加齢とともに減少することが知られており、各組織の恒常性維持のために幹細胞の減少を防ぐ技術の研究が積極的になされている(非特許文献6)。また、近年、幹細胞の能力(多能性)を、臓器や組織の再生へ応用するため、細胞移植治療や組織工学(再生医療や再生美容)の分野において幹細胞を生体組織から分離した後に培養し増殖させる技術の開発が進められている(非特許文献7、8)。
特に、幹細胞を生体外で培養する場合、幹細胞の能力である多能性を維持した状態、すなわち、未分化な状態を維持させたまま増殖させることが極めて重要である。もし、この培養時に幹細胞の未分化状態が維持できず分化誘導が進んでしまった場合、最終的に調製された幹細胞の能力(多能性)は失われていることになり、目的の効果(臓器や組織の再生等)を発揮できない。
以上より、幹細胞を細胞移植治療や組織工学(再生医療や再生美容)に利用し、臓器や組織の再生を望む場合、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま培養できなければならない。
現在までに、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま増殖させる技術について、幾つか報告があるが、未だ発展途上である。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や造血幹細胞は、支持細胞(ストローマ細胞、又はフィーダー細胞)と共培養することで未分化を維持することができる(特許文献1及び非特許文献9〜11参照)。しかしながら、最近になってフィーダー細胞由来の内在性ウイルスによる異種動物間の感染例が報告されており(非特許文献12参照)、支持細胞を使用した幹細胞の培養は、医療用途を目的とした幹細胞の培養には適していない。
その他の方法に、サイトカインを複雑に組合せることによって幹細胞の未分化状態を維持させる方法がある。例えば、マウスES細胞は、LIF(白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor))を培地に添加することによって、未分化性が維持される(特許文献2及び非特許文献13参照)。その他、初期作用性サイトカイントロンボポイエチン(TPO)、インターロイキン6(IL−6)、FLT−3リガンド、及び幹細胞因子(SCF)の存在下で、未分化性を維持させることが胚性幹細胞、体性幹細胞等で報告されている(特許文献3及び非特許文献14参照)。
しかしながら、サイトカインは、高価であり、採取原料や保存性等の問題があり、容易な使用は難しい。加えて、LIFの効果は極めて特定の細胞系統に限定的であり、特に霊長類のES細胞や体性幹細胞においては、LIFの添加のみでは未分化状態を維持することができないことが明らかにされている(非特許文献10参照)。
このように、現在、報告されている幹細胞の未分化状態の維持方法はいずれも、煩雑な操作を必要とし、また未分化状態の維持効果が低い。従って、幹細胞を再生医療に利用するために、幹細胞を、未分化状態を維持したまま増殖させる技術が求められていた。つまり、安全且つ簡便で効率的に、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま増殖させることができる技術が求められていた。
一方、エラスチンは、皮膚の真皮、靭帯、腱、血管壁、軟骨など、伸縮性が必要される組織にコラーゲンと共に多く存在する構造タンパク質である。エラスチンの物理的機能としては、皮膚や血管等の弾力性向上作用、生物学的機能としては、細胞遊走作用及び血小板凝集阻害作用などが知られている。また、エラスチンは不溶性タンパク質であるため、可溶化するための方法や、デスモシンやイソデスモシンといったエラスチンを構成する特有のアミノ酸を多く含む高純度エラスチンペプチドを得るための方法も開発されている。エラスチンペプチドについては、真皮線維芽細胞や血管内皮細胞の増殖促進作用を有すること(特許文献4)、血管における平滑筋増殖阻害活性を示すこと(特許文献5)が報告されている。また、エラスチンペプチドをコラーゲンペプチドと併用した場合、線維芽細胞の増殖を促進するが、エラスチンペプチド単体では、線維芽細胞の増殖を抑制することが報告されている(非特許文献15)。このように、エラスチンペプチドが細胞の増殖に及ぼす効果は、細胞の種類や条件により異なる。また、エラスチンペプチドの幹細胞の増殖促進効果や未分化状態維持効果については、これまで何ら知られていない。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、エラスチンペプチドを有効成分として含有する。
本発明において用いる「エラスチンペプチド」とは、不溶性タンパク質として生体組織に存在するエラスチンを分解してペプチド化し、可溶性にした「水溶性エラスチンペプチド」を意味する。水溶性エラスチンペプチドは、例えば、エラスチンを含有する魚類、哺乳類、鳥類などの生体組織を、酸処理若しくはアルカリ処理で分解するか、又は、酵素処理で分解することによって得られる。本発明において用いるエラスチンペプチドは、生体組織に含まれるエラスチンの全部がペプチドまで分解されているものでもよく、部分的にペプチドまで分解されているものでもよい。本発明において用いるエラスチンペプチドは、種々の分子量サイズのペプチドを含む組成物であって、分子量は特に限定されない。また、化学的又は酵素的手法によりN−アセチル化等の修飾を加えたものであってもよい。
生体組織としては、例えば、カツオ、マグロ、ハマチ、サケ等の魚類から得られた動脈球、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等の哺乳動物から得られた項靱帯、大動脈血管が挙げられる。なかでも、デスモシンやイソデスモシンなどの特有のアミノ酸から構成されるエラスチンを豊富に含むことから、魚類の動脈球が好ましく、カツオ、マグロ、カジキ、タラ、ハマチ、ブリ、サケ、マス等の大型魚の動脈球がより好ましい。
本発明において用いるエラスチンペプチドは、エラスチンのポリペプチド鎖を断片化させ、水溶性を向上させる可溶化処理を含む方法であれば、水溶性エラスチン(ペプチド)の調製方法として公知のいずれの方法によって行ってもよい(例えば、特開2007−151453号、特開2009−219422号、特開2010−155820号等参照)。
エラスチンペプチドの調製は、例えば以下のような方法に従って行うことができる。まず、可溶化を容易にするため、原料となる生体組織に対して前処理を行う。前処理には、原料の洗浄、アルカリ溶液への浸漬処理、粉砕及びホモジナイズ処理、不要物質(血液、脂質、可溶性タンパク質、コラーゲン)の除去、脱脂処理等が含まれる。この前処理によりエラスチンを主成分とする不溶性タンパク質混合物が得られる。
次に、得られた不溶性タンパク質混合物を可溶化処理する。可溶化処理は任意の公知の方法を用いて行うことができ、例えば、酸処理、アルカリ処理、酵素処理が挙げられる。酸処理は、酸溶液中に不溶性タンパク質を一定時間浸漬し、溶解させることにより行う。用いる酸の例としては、シュウ酸、ギ酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、スルファミン酸、過塩素酸、トリクロロ酢酸等が挙げられるが、シュウ酸が好ましい。具体的な手法として、シュウ酸溶液中で加熱処理する酸分解法が知られている。酸処理後、アルカリにより中和を行うが、使用するアルカリとしては水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムが好ましい。また、アルカリ処理は、アルカリ溶液中に不溶性タンパク質を一定時間浸漬し、溶解させることにより行う。アルカリの例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。具体的な手法として、アルカリ性含水エタノール溶液で処理するアルカリ−エタノール法が知られている。また、アルカリ処理後、酸(例えば、塩酸、酢酸、硫酸等)により中和を行うことが好ましい。酵素処理は、医薬品、化粧品、食品の製造に使用される任意のタンパク分解酵素を使用することができる。タンパク分解酵素は、エラスチンを分解できる酵素であれば特に限定はされず、例えば、エラスターゼ、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメラインなどが使用できる。酵素処理は、不溶性タンパク質含有液にプロテアーゼを添加し、プロテアーゼの至適温度で適当な時間(例えば、24時間程度)インキュベートすることにより行い、酵素処理後、加熱(例えば、90℃で10分間程度)して酵素を失活させる。
上記のいずれかの処理により得られた水溶性エラスチンペプチドは、必要により、使用形態に応じて溶液のpH調整を行い、また、脱塩処理を行う。脱塩処理は、限外ろ過法、イオン交換法等の任意の方法により行うことができる。不純物や残渣の除去は、珪藻土、活性炭などを用いた処理により行うことができ、また、限外濾過、ゲル濾過、イオン交換カラムクロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの慣用の方法で精製することができる。得られた水溶性エラスチンペプチドは、そのまま溶液として使用することもできるが、凍結乾燥、通風乾燥などの慣用の方法で乾燥することにより、粉末化することができる。
本発明において、エラスチンペプチドは、市販品を用いてもよく、例えば、マグロ動脈球由来エラスチン(和光純薬工業社製)、カツオ動脈球由来エラスチン(林兼産業社製)、ブタ大動脈由来エラスチン(和光純薬工業社製)、ウシ項靭帯由来エラスチン(和光純薬工業社製)等を用いることができる。また、エラスチンペプチドは1種を用いてもよく、由来、加水分解の程度、分子量分布等が異なる2種以上のエラスチンペプチドを併用してもよい。
エラスチンペプチドは、生体レベルで又は培養レベルで未分化状態を維持させつつ幹細胞を効率的に増殖させる作用を有するので、幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤として使用できる。さらに、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、幹細胞を、未分化状態を維持しつつ効率的に増殖させるための幹細胞培養用培地添加剤、研究用試薬としても使用することができる。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤を、ヒトを含めた哺乳動物の幹細胞に適用することで、幹細胞の未分化状態を維持し、また幹細胞の増殖を促進することができる。本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤を適用する幹細胞としては、本発明の目的に沿うものであれば特に限定されず、例えば胚性の幹細胞(ES細胞);骨髄、血液、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)、脂肪、毛包、脳、神経、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する体性の幹細胞;遺伝子導入等により人工的に作製された幹細胞(人工多能性幹細胞:iPS細胞)が挙げられる。好ましくは、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、骨髄、血液、皮膚又は脂肪組織由来の幹細胞に対してより効果を発揮する。例えば、骨髄由来の幹細胞として造血幹細胞が挙げられ、本発明において「造血幹細胞」とは、多能性骨髄系幹細胞及び多能性リンパ系幹細胞を含み、骨髄系細胞(赤血球、血小板、好酸球、好塩基球、好中球、単球等)及びリンパ系細胞(B細胞、T細胞、NK細胞等)への分化が可能な細胞をいう。造血幹細胞は、CD34抗原が陽性で、かつ、CD38抗原が陰性である(CD34+CD38−)ことにより特徴づけられる。ES細胞としては、例えば、着床以前の初期胚を培養することによって樹立されたES細胞、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立されたES細胞、及びそれらのES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変したES細胞が挙げられる。このようなES細胞は、例えば、自体公知の方法によって作製することができるが、所定の機関より入手でき、さらには市販品を購入することもできる。また、これらの幹細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞又は凍結細胞のいずれであってもよい。
さらに、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、幹細胞の分化の方向性及び分化の過程等について同等の特性を持っていれば、全ての哺乳動物由来の幹細胞に応用が可能である。例えば、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物の幹細胞に対して効果を発揮することができる。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤の幹細胞への適用は、生体外であっても生体内であってもよく、いずれの場合もその作用を発揮できる。従って、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、その有効量を添加した幹細胞培養用培地にて幹細胞を培養することによって、あるいは、ヒトを含む哺乳動物に投与することによって、幹細胞の未分化状態を維持し、増殖を促進することができる。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、有効成分であるエラスチンペプチドが優れた幹細胞の未分化状態維持作用及び増殖促進作用を有するので、皮膚、骨芽、軟骨、筋肉、神経、脂肪、肝臓などの生体内の組織又は臓器の幹細胞に作用して当該組織又は臓器の障害又は損傷を治療、改善、及び予防するのに有効である。また、幹細胞は、加齢などに伴い減少又は機能低下することから、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、上記生体内の組織又は臓器の幹細胞の減少や機能低下に関連する疾患を治療、改善、及び予防するのに有効である。ここで、組織又は臓器の障害又は損傷、幹細胞の減少や機能低下に関連する疾患としては、例えば、皮膚関連では、シワ、タルミ、シミ、くすみ、肌荒れ、皮膚の肥厚、毛穴のひらき、ニキビ痕、創傷、瘢痕、ケロイドなどが挙げられ、薄毛や脱毛などの頭皮や毛髪の損傷も含まれる。また、骨関連では、骨粗しょう症、骨折(脊椎圧迫骨折、大腿骨頚部骨折等)など、軟骨疾患では、変形性関節症、関節リウマチ、椎間板ヘルニアなど、神経関連では、脊髄損傷、顔面神経麻痺、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、加齢に伴う記憶低下など、血液関連では、再生不良性貧血、白血病など、心血管関連では心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症など、歯科関連では歯周病、歯槽膿漏による歯槽骨損傷など、眼科関連では、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、緑内障など、肝臓・膵臓関連では肝炎、肝硬変、糖尿病などが挙げられるが、これらに限定されない。
また、エラスチンペプチドは、造血幹細胞の増殖促進作用及び未分化状態維持作用を有するので、造血幹細胞の減少又は機能低下に関連する血液及び造血器の疾患又は病態を治療、改善、及び予防するための医薬品として有効である。ここで、造血幹細胞の減少又は機能低下に関連する血液及び造血器の疾患又は病態としては、例えば、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、溶血性貧血、赤芽球癆、再生不良性貧血、先天性貧血(例えば鎌状赤血球血症)、発作性夜間色素尿症、二次性貧血(感染症、悪性腫瘍、慢性疾患、腎疾患、肝疾患、内分泌性疾患等に伴う貧血)、白血病、骨髄異形性症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患(真性多血症・本態性血小板血症・骨髄線維症など)、突発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血のほか、一般的な貧血状態(動悸、息切れ、眩暈、立ち眩み、異嗜症、易疲労感、倦怠感、食欲不振、悪心、頭痛、顔面蒼白、肌のクスミやクマ、耳鳴り、肩こり、口角炎等)などが挙げられるが、これらに限定はされない。また、「造血幹細胞の減少又は機能低下」は、上記の疾患によるものだけではなく、抗癌剤や免疫抑制剤の投与、癌の放射線治療によるものを含む。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤におけるエラスチンペプチドの含有量は、特に限定されないが、その性状(抽出液、濃縮物、又は乾燥物)により、例えば、0.00001〜100重量%の範囲で適宜設定でき、0.0001〜10重量%が好ましく、0.001〜1重量%であることがより好ましい。
本発明はまた、幹細胞を、エラスチンペプチドを含有する培地で培養することで、幹細胞の未分化状態を維持させたまま、幹細胞増殖を促進する方法に関する。換言すれば、本発明に係る方法は、幹細胞を、エラスチンペプチドを含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法、幹細胞の未分化状態維持方法、又は幹細胞の増殖促進方法ということができる。
本発明に係る方法において、幹細胞の培養には、幹細胞の未分化状態維持及び増殖のために一般的に使用されている培地を用いればよい。例えば、幹細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、具体的には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D−MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F−12(D−MEM/F−12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等が挙げられる。また、培地に、増殖因子として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及び/又は白血球遊走阻止因子(LIF)を添加してもよい。さらに、必要に応じて、培地は、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27−サプリメント、N2−サプリメント、ITS−サプリメント、抗生物質等を含有してもよい。
また、上記の成分以外には、1〜20%の含有率で血清が培地に含まれることが好ましい。しかしながら、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
市販品の培地としては、インビトロジェン製の間葉系幹細胞基礎培地や、三光純薬製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、Sigma社製のハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等を用いることができる。
幹細胞の培養に用いる培養器は、幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。
培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
幹細胞培養に使用される培地に対するエラスチンペプチドの添加濃度は、上述の本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤におけるエラスチンペプチドの含有量に準じて適宜決定することができるが、エラスチンペプチドの量に換算して、例えば10〜10000μg/mL、好ましくは100〜5000μg/mLの濃度が挙げられる。また、幹細胞の培養期間中、エラスチンペプチドを、定期的に培地に添加してもよい。
幹細胞の培養条件は、幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30〜40℃、好ましくは36〜37℃である。CO2ガス濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約2〜5%である。なお、培地の交換は2〜3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
幹細胞の未分化状態維持は、例えば、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤の非存在下で培養した幹細胞と比較して、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤の存在下で培養した該幹細胞において幹細胞未分化マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで培養開始時の発現レベルと同程度のレベルに有意に維持されているか否かで評価することができる。幹細胞未分化マーカー遺伝子としては、例えばNanog遺伝子(Cell Res.2007 Jan;17(1):42−9.Review.Nanog and transcriptional networks in embryonic stem cell pluripotency.Pan G,Thomson JA.)等が挙げられる。
幹細胞未分化マーカー遺伝子発現レベルの測定方法としては、mRNAレベルでは、例えば幹細胞未分化マーカー遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT−PCR、定量PCRやノーザンブロッティング等の方法が挙げられ、また、タンパク質レベルでは、例えば幹細胞未分化マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング等の免疫学的方法が挙げられる。
発現レベルの測定の結果、培養開始時(100%未分化状態)の幹細胞における幹細胞未分化マーカー遺伝子の発現レベルと本発明の幹細胞の未分化状態維持剤の存在下で所定時間培養後の幹細胞における幹細胞未分化マーカー遺伝子の発現レベルとの相対比が、本発明の幹細胞の未分化状態維持剤の非存在下で培養した場合の同相対比(コントロール)よりも大きい場合に幹細胞の未分化状態を維持できたと判定することができる。
また、幹細胞の増殖促進は、例えば、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤の非存在下で培養した幹細胞と比較して、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤の存在下で培養した該幹細胞の細胞数が有意に増加されているか否かで評価することができる。細胞数の測定は、例えば、MTT法やWST法などにより、市販の細胞数測定キットを用いて行うことができる。測定の結果、培養開始時の幹細胞の細胞数と本発明の幹細胞の増殖促進剤の存在下で所定時間培養後の幹細胞の細胞数との相対比が、本発明の幹細胞の増殖促進剤の非存在下で培養した場合の同相対比(コントロール)よりも大きい場合に幹細胞の増殖を促進できたと判定することができる。
上記の本発明に係る方法により調製された幹細胞は移植材料(細胞移植剤)として用いることができ、従来の骨髄移植又は臍帯血移植と同一の方法で実施できる。
上記の本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤あるいは本発明に係る方法に準じて、エラスチンペプチドを、単独で、あるいは培地と別々に又は培地と混合し、幹細胞の未分化状態維持又は増殖促進のための試薬キットとして提供することもできる。当該キットは、必要に応じて取扱い説明書等を含むことができる。あるいは、エラスチンペプチドを培地と混合し、幹細胞の未分化状態維持又は増殖促進用培地として提供することもできる。
本発明に係る上記の幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品等の各種組成物に配合して提供することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油二層系、又は水−油−粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物の配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、育毛剤等が挙げられる。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、点眼剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤を、前記皮膚関連の損傷や疾患を治療、改善、及び予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
本発明の医薬品は、上記疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、及び予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
本発明の化粧品、医薬品、医薬部外品における幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、エラスチンペプチドの量に換算して、0.001〜30重量%が好ましく、0.01〜10重量%がより好ましい。上記の量があくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
また、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又は増殖促進剤は、飲食品にも配合できる。また、本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。幹細胞が造血幹細胞である場合は、本剤は、特に高齢者、妊産婦、月経や出血傾向を伴う疾病(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃腸のポリープや癌、痔など)時における貧血や貧血に伴う諸症状の改善及び予防のための健康食品等に好適に用いることができる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
本発明の飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程においてエラスチンペプチドを添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、エラスチンペプチドを添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6等のビタミン類、カルシウムなどのミネラル類、食物繊維等)を添加することもできる。
本発明の飲食品におけるエラスチンペプチドの配合量は、幹細胞の未分化状態維持効果及び増殖促進効果を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]エラスチンペプチドの幹細胞に対する増殖促進効果及び未分化状態維持効果の評価
以下に、エラスチンペプチドを用いた、幹細胞に対する増殖促進効果及び未分化状態維持効果の実験例とその結果を示す。
エラスチンペプチドとして、マグロ動脈球由来エラスチン(商品名「エラスチン, 水溶性, マグロ動脈球由来」、和光純薬工業社製)、カツオ動脈球由来エラスチン(商品名「カツオエラスチン」;林兼産業社製)、ブタ大動脈由来エラスチン(商品名「エラスチン, 水溶性, ブタ大動脈由来」;和光純薬工業社製)、ウシ項靭帯由来エラスチン(商品名「エラスチン, 水溶性, ウシ項靭帯由来」;和光純薬工業社製)を用いた。
(実験例1)幹細胞に対する増殖促進効果の評価
ヒト幹細胞培養液(TOYOBO社製)を用いて培養したヒト成体幹細胞(DSファーマバイオメディカル社製)を、6cmディッシュに3x105個播種し、被験物質(エラスチンペプチド)を最終濃度が1250μg/mL、2500μg/mL、5000μg/mLになるように添加し、3日間培養を続けた。
3日間の培養後、細胞をPBS(−)にて3回洗浄した後、ラバーポリスマンにて集め、それぞれの細胞数をカウントした。
被験物質未添加時の総細胞数をコントロールとし、コントロールを100(%)とした場合の、被験物質添加時の細胞数の増減(%)を算出し、幹細胞増殖促進効果の評価を行った。これらの試験結果を以下の表1に示す。
表1に示すように、エラスチンペプチドには、いずれも顕著な幹細胞増殖促進効果が認められた。なお、上述のコントロールの値を100%とした場合、培養開始時のヒト体性幹細胞数は、25%であった。以上より、エラスチンペプチドの極めて優れた幹細胞増殖促進効果を明らかにした。なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、市販のヒト造血幹細胞、マウス胚性幹細胞(ES細胞)についても同様な試験を行ったところ、顕著な幹細胞増殖促進効果が認められた。
(実験例2)幹細胞に対する未分化状態維持効果の評価
被験物質(エラスチンペプチド)の造血幹細胞に対する未分化状態維持に及ぼす影響を、造血幹細胞の未分化マーカーであるCD34(CD34 antigen)の発現を指標に評価した。
DMEM/F12培地を基礎培地とし、ウシ胎児血清(1%)、Insulin (10ng/ml)、Transferrin (10ng/ml)、2−メルカプトエタノール(100μM)となるように調製した培地を用いてA−6細胞(マウス造血幹細胞)(理化学研究所)を培養した。なお、A−6細胞は、12 well plateに1×106個ずつ播種した。その際、最終濃度が2500μg/mLになるよう被験物質(エラスチンペプチド)を添加した。培養4日後に、細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen)によって細胞からRNAを抽出した。2−STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、CD34遺伝子の発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
CD34遺伝子(未分化マーカー)用プライマーセット)
フォワードプライマー:5'-CTTCTGCTCCGAGTGCCATT-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'-ATACCCTGGGCCAACCTCAC-3'(配列番号2)
Gapdh(内部標準)用のプライマーセット:
フォワードプライマー:5'-CCGTGTTCCTACCCCCAAT-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-TGCCTGCTTCACCACCTTCT-3'(配列番号4)
未分化状態維持効果は、培養開始時のA−6細胞におけるCD34 mRNAの発現量を内部標準であるGapdh mRNAの発現量に対する割合として算出したCD34の遺伝子相対発現量(CD34遺伝子発現量/Gapdh遺伝子発現量)の値を100%未分化状態とし、これに対し、培養4日後のA−6細胞におけるCD34の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。なお、陽性対照としてbFGFを用いた。結果を表2に示す。
表2に示すように、エラスチンペプチドには、いずれも顕著な幹細胞の未分化状態維持効果が認められた。なお、本実験例で用いた造血幹細胞以外にも、市販のマウス胚性幹細胞(ES細胞)についても同様な試験を行ったところ、顕著な幹細胞の未分化状態維持効果が認められた。
以上の各実験例に示すように、エラスチンペプチドを幹細胞に適用することで、従来の技術に比べて、簡便且つ効率的に、未分化状態を維持させたまま幹細胞の増殖を促進させることが可能になった。