JP6845500B2 - 骨格筋前駆細胞の製造方法 - Google Patents
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Description
[1]多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞を製造する方法であって、下記の工程(1)と(2A)または(2B)とを含む方法。
(1)多能性幹細胞をTGF-β阻害剤とGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程
(2A)(1)の工程で得られた細胞を、HGFを含み、さらにIGF1を含んでもよい培養液中で培養する工程
(2B)(1)の工程で得られた細胞を、
(i) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤、IGF1、HGFおよびbFGFを含む培養液中、
(ii) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中、および
(iii) TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中
で順次培養する工程
[2]さらに下記の工程(3)を含む、[1]に記載の方法。
(3)(2A)または(2B)の工程で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、IGF1および血清を含む培養液中で培養する工程
[3]前記工程(1)、(2B)および(3)のTGF-β阻害剤がSB431542である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記工程(1)のGSK3β阻害剤がCHIR99021であり、当該CHIR99021の培地中での濃度が5μM以上である、[1]から[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]前記工程(2B)のGSK3β阻害剤がLiClである、[1]から[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記工程(3)の血清がウマ血清である、[2]から[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]さらに下記の工程(4)を含む、[2]から[6]のいずれか1項に記載の方法。
(4)(3)の工程で得られた細胞からMyf5を発現する細胞を単離する工程
[8]さらに下記の工程(5)を含む、[7]に記載の方法。
(5)(4)の工程で得られた細胞を少なくとも24時間培養する工程
[9]前記工程(5)が、SB431542、IGF1およびウマ血清を含む培養液中で培養する工程である、[8]に記載の方法。
[10]多能性幹細胞がヒトiPS細胞またはヒトES細胞である、[1]から[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11]SB431542、CHIR99021、IGF1、HGF、およびウマ血清を含有することを特徴とし、任意でLiClおよびbFGFをさらに含んでもよい、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞への分化誘導用試薬キット。
[12]多能性幹細胞がヒトiPS細胞またはヒトES細胞である、[11]に記載のキット。
[13][1]から[10]のいずれか1項に記載の方法により製造された骨格筋前駆細胞を含む筋原性疾患治療剤。
[14]前記筋原性疾患が筋ジストロフィーである、[13]に記載の剤。
[15]有効量の[1]から[10]のいずれか1項に記載の方法により製造された骨格筋前駆細胞を対象に投与することを含む、筋原性疾患の治療方法。
[16]筋原性疾患の治療に使用するための、[1]から[10]のいずれか1項に記載の方法により製造された骨格筋前駆細胞。
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、以下のものに限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、精子幹(GS)細胞、胚性生殖(EG)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、Muse細胞などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、iPS細胞およびntES細胞であり、筋原性疾患治療に用いるという観点から、より好ましくは、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞であり、さらに好ましくは、ヒトiPS細胞である。
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720に記載の組み合わせが例示される。
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している (T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。
本発明によれば、多能性細胞から骨格筋前駆細胞を製造するにあたって、下記の工程(1)と(2A)または(2B)とを含む方法を用いることができる。
(1)多能性幹細胞をTGF-β阻害剤とGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程
(2A)(1)の工程で得られた細胞を、HGFを含み、さらにIGF1を含んでもよい培養液中で培養する工程
(2B)(1)の工程で得られた細胞を、
(i) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤、IGF1、HGFおよびbFGFを含む培養液中、
(ii) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中、および
(iii) TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中
で順次培養する工程
本工程では、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞への分化誘導に先立って、多能性幹細胞を培養する工程を含み得る。ここでは、多能性幹細胞を任意の方法で分離し、浮遊培養により培養してもよく、あるいはコーティング処理された培養皿を用いて接着培養により培養してもよい。本工程では、好ましくは、接着培養が用いられる。ここで、多能性幹細胞の分離方法としては、例えば、力学的に分離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)など)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離溶液を用いた分離方法、Trypsin/ EDTAを用いた解離方法などが挙げられる。好ましくは、Trypsin/ EDTAを用いて細胞を解離する方法が用いられる。
本工程(1)は、多能性幹細胞をTGF-β阻害剤とGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程である。本工程(1)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、およびこれらの混合培地などが包含される。本工程(1)において、好ましくは、IMDM培地およびHam's F12培地の混合培地である。
本工程(2A)は、前記工程(1)で得られた細胞を、HGFを含み、さらにIGF1を含んでもよい培養液中で培養する工程である。本工程(2A)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、SF-O3培地(エーディア株式会社)およびこれらの混合培地などが包含される。本工程(2A)において、好ましくは、SF-O3培地が用いられる。
本工程(2B)は、前記工程(1)で得られた細胞を、
(i) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤、IGF1、HGFおよびbFGFを含む培養液中、
(ii) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中、および
(iii) TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中
で順次培養する工程である。本工程は前期工程(2A)の代わりに行われる工程である。以下、サブ工程(i)〜(iii)について順に説明する。
本サブ工程(i)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、SF-O3培地(エーディア株式会社)およびこれらの混合培地などが包含される。本サブ工程(i)において、好ましくは、SF-O3培地が用いられる。
本サブ工程(ii)は、前記サブ工程(i)で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中で培養する工程である。本サブ工程(ii)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、SF-O3培地およびこれらの混合培地などが包含される。本サブ工程(ii)において、好ましくは、SF-O3培地が用いられる。
本サブ工程(iii)は、前記サブ工程(ii)で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中で培養する工程である。本サブ工程(iii)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、SF-O3培地およびこれらの混合培地などが包含される。本サブ工程(iii)において、好ましくは、SF-O3培地が用いられる。
本工程(3)は、前記工程(2A)または(2B)で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、IGF1および血清を含む培養液中で培養する工程である。本工程(3)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base mediumおよびこれらの混合培地などが包含される。本工程(3)において、好ましくは、DMEM培地が用いられる。
本工程(4)は、工程(3)で得られた骨格筋前駆細胞を含む細胞集団からMyf5を発現する細胞を単離する工程である。本工程(4)において、Myf5を発現する細胞の単離は、細胞内におけるMyf5の発現を検知し、それに基づいてMyf5を発現している細胞を選択的に得ることができる方法もしくはMyf5を発現していない細胞を検知し、それに基づいてMyf5を発現していない細胞を選択的に除去できる方法であれば特に限定されない。従って、Myf5を代替する遺伝子を用いて単離しても良い。Myf5を代替する遺伝子としては、細胞表面に存在する遺伝子が好ましく、例えば、CD34またはM-cadherinが例示される。
本工程(5)は、前記工程(4)で単離された骨格筋前駆細胞を培養液中で再培養する工程である。本工程(5)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができ、例えば、前記工程(3)と同様の培地が用いられるが、これに限定されない。
本発明の一つの態様において、多能性幹細胞からの骨格筋前駆細胞の分化誘導用試薬キットを提供する。本キットには、上記した骨格筋前駆細胞の誘導のための特定の因子を含む骨格筋前駆細胞誘導剤(例えば、凍結乾燥物、適当な緩衝液に溶解した凍結液剤など)、細胞、試薬および培養液を含み得る。本キットには、さらに分化誘導の手順を記載した書面や説明書を含んでもよい。
本発明の方法により製造された多能性幹細胞由来の骨格筋前駆細胞は、種々の目的で使用することができる。例えば、対象、またはHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から採取した体細胞を用いて誘導したiPS細胞から分化させた骨格筋前駆細胞を該患者に移植する、自家もしくは同種異系移植による幹細胞療法が可能となる。本発明における対象となる疾患は、筋原性疾患(ミオパチー)が例示される。筋原性疾患は、例えば、筋ジストロフィー(例、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋緊張性筋ジストロフィー等)、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、ミトコンドリアミオパチーなどの遺伝性ミオパチー、多発性筋炎、皮膚筋炎、重症筋無力症などの非遺伝性ミオパチー筋ジストロフィー、糖原病、周期性四肢麻痺、が例示される。より好ましい対象は、筋ジストロフィーである。
本発明は、前記方法により多能性幹細胞から製造される骨格筋前駆細胞を含む筋原生疾患治療剤を提供する。後記実施例に示されるように、本発明の骨格筋前駆細胞をCardiotoxin(CTx)処理することで筋障害を起こしたNSGマウスに移植したところ、移植した骨格筋前駆細胞の生着が認められた。したがって、本発明で提供される骨格筋前駆細胞は、筋原生疾患を治療するのに有用である。
本発明は、筋原性疾患の治療または予防に有用な薬剤である候補薬剤のスクリーニング方法を提供する。
(1)候補物質を、筋原性疾患患者由来のiPS細胞から分化誘導した骨格筋前駆細胞と接触させる工程、
(2)候補物質と接触させなかった場合と比較して、当該骨格筋前駆細胞の病態が緩和された場合、筋原性疾患の治療剤または予防剤として選別する工程。
ヒトiPS細胞(201B7)は、京都大学の山中教授より供与されたものを、従来の方法で培養した(Takahashi K, et al. Cell. 131:861-72, 2007)。
骨格筋前駆細胞への分化誘導前に、ヒトiPS細胞(Pax3-GFP iPSCsまたはMyf5-tdTomato C3 iPSCs)を、MatriGelでコーティングした培養容器上で低密度培養を行った。簡潔には、6cmディッシュ1枚分のヒトiPS細胞を、通常の継代と同様の方法で処理した。CTK溶液でMSNLフィーダーから解離させ、PBSで2回洗浄した後、1mL 0.25%Trypsin/1mM EDTAを添加して、37℃で5分間インキュベートした。続いて、5mlの培地を加えて、15回程ピペッティングし、15mlチューブに細胞を回収した。900rpmで5分間遠心分離した後、上清を除去し、10μM Y-27632を添加した2ml mTeSR1で再懸濁した。その後、細胞数をカウントした。別途、ヒトiPS細胞維持培地(bFGF不添加)でMatriGelを50倍(2時間静置の場合)または100倍(一昼夜静置の場合)に希釈し、培養容器へ添加し、静置させMatriGelコーティングを行った。培養容器から余剰のMatriGelを吸引除去し、10μM Y-27632を添加したmTeSR1を2ml/wellずつ加えた。シングルセルのヒトPax3-GFP iPSCを、MatriGel でコーティングした6cmディッシュ 1枚あたり3x104個、MatriGel でコーティングした6wellプレート1wellあたり1×104個ずつ播種した。各培養容器をよく揺らして、細胞が均一に拡散するように混和し、37℃でインキュベートした。 2日目(Day-2)に培地をmTeSR1で交換し、引き続き4日目(Day0)まで培養を行った。
上記で得られたiPS細胞を次の通り、骨格筋前駆細胞の分化誘導を行った。
培地を、10μM SB431542および10μM CHIR99021を添加したCDMi基本培地(1% Albumin from bovine serum (SIGMA)、1% Penicillin-Streptomycin Mixed Solution (ナカライテスク)、1% CD Lipid Concentrate (Invitrogen)、1% Insulin-Transferrin-Selenium (Invitrogen)、450μM 1-Thioglycerol (SIGMA)を添加したIMDM(1X) Iscove’s Medified Dullbecco’s Medium (+)L-Glutamine (+)25mM HEPES (Invitorogen)とF-12(1X)Nutrient Mixture(Ham) (+)L-Glutamine (Invitrogen)を1:1で混合した培地)に2ml/ wellで交換した。その後、2日目(Day2)および5日目(Day5)に培地交換を行った。
工程(1)で得られた細胞の培地を、0.2% BSA、200μM 2-ME(2-Mercaptoethanol)、5mM LiCl(Nacarai)、10μM SB431542、10ng/ml IGF-1(Peprotech)、10ng/ml HGF(Peprotech)および10ng/ml bFGF(オリエンタル酵母)を添加したSF-O3(三光純薬)に交換し、培養を継続した。
工程(2B)(i)で得られた細胞の培地を、0.2% BSA、200μM 2-ME、5mM LiCl、10μM SB431542および10ng/ml IGF-1を添加したSF-O3に交換し、3日間培養した。
工程(2B)(ii)で得られた細胞の培地を、0.2% BSA、200μM 2-ME、10μM SB431542、10ng/ml IGF-1および10ng/ml HGFを添加したSF-O3に交換し、2週間培養した。このとき、新鮮な同培地にて、週2回、培地交換を行った。
この段階でMYH3陽性の胎児期の細い筋管細胞が散見されるようになった。そこで、さらなる成熟化を促すために、工程(2B)(iii)で得られた細胞の培地を、2% Horse Serum(HS)、5μM SB431542および10ng/ml IGF-1を添加したDMEM基本培地に交換した。以後、適宜観察を続け、少なくともDay80程度まで培養を行った。なお、培養中は、週2回培地交換を行った。
Day7における骨格筋前駆細胞への分化誘導状態を調べるために、FACS解析およびマーカー遺伝子発現量の比較を行った。簡潔には、FACS解析については、上記工程(1)のDay7の細胞を回収し、CD271(NGFR)およびPax3-GFPを指標として、CD271陰性Pax-GFP陽性細胞に着目した。マーカー遺伝子発現量の測定については、RT-PCRにより、Pax3、T、Tbx6、Mesp2、PDGFRa、KDR、CD56、Sox10、NGFR、Pax7およびMyf5の各遺伝子の発現量を測定することにより行った。
Day7における継代の効果を調べるために、FACS解析を行った。簡潔には、上記工程(1)において示されたとおり、Day7で継代を行い、その後Day14まで培養を行った細胞を回収し、Pax3-GFPを指標として、FACSにより細胞を選別することにより行った。
分化誘導14日目までの継時的なマーカー遺伝子の発現状態を調べるために、RT-PCRによる解析を行った。簡潔には、Tbx6、Wnt3a、Mesp2、PDGFRa、Pax3、Meox1の各遺伝子について、RT-PCRにより発現状態を調べた。
Day35まで培養を行った細胞について、MHCおよびMyogeninの抗体染色、ならびにGFP(Pax3-GFP)の蛍光染色により分化状態を調べたところ、Pax3-GFP陽性の胎児期筋管細胞分化が誘導されることが見出された(図4)。効率よく胎児期筋管細胞が誘導されることが示唆された。
分化誘導42日目までの継時的なマーカー遺伝子の発現状態を調べるために、RT-PCRによる解析を行った。簡潔には、Myf5およびMyoDの各遺伝子について、RT-PCRにより発現状態を調べた。
Day42以降の筋幹細胞の成熟化を確認するために、抗体染色および蛍光染色による観察を行った。簡潔には、57日目および60日目まで培養を行った細胞について、Embryonic MHCおよびMyogeninの抗体染色、ならびにGFP(Pax3-GFP)の蛍光染色により分化状態を調べた。
84日目(Day84)における細胞群(Pax3-GFP陽性細胞および陰性細胞)について、筋管分化能を調べるため、抗体染色を行った。簡潔には、Day84においてPax3-GFPを指標としてFACSによりソーティング後、7日間同条件で培養をした各細胞群に対して、MHCおよびMyogeninの抗体染色を行った。
分化誘導Day51の骨格筋前駆細胞のマウスへの移植における効果を調べた。簡潔には、上記工程(3)のday51の細胞群を、CTx処理後1日のNSGマウスの前脛骨筋に筋注で移植した。移植の4週間後に、移植部位周辺を摘出し、常法に従って切片を作製し、ヒト核、Spectrin、eMYHおよびラミニンの抗体染色を行い、移植細胞の生着および筋再生についての評価を行った。
分化誘導Day84の骨格筋前駆細胞のマウスへの移植における効果を調べた。簡潔には、上記工程(3)のday84の細胞群について、FACSによりPax3-GFP陽性細胞を選別した。続いて、2.6×105個のPax3-GFP陽性細胞を、CTx処理後1日のNSGマウスの前脛骨筋に筋注で移植した。移植の4週間後に、ヒト核、エオシンおよびラミニンの抗体染色を行い、移植細胞の生着および筋再生についての評価を行った。
201B7を常法に従って相同組換えにより、Myf5遺伝子座の開始コドンの5’側へtdTomato配列を連結させ、Myf5の発現と連携してtdTomatoを発現するiPS細胞株(Myf5-tdTomato C3 iPSCs)を作製した。
上記で得られたiPS細胞を実施例1の通り、分化誘導前準備を行い、次の通り、骨格筋前駆細胞の分化誘導を行った。
実施例1の工程(1)と同様の条件にて、18日間培養を行った。なお、7日目(Day7)および14日目(Day14)に上記と同様の方法で継代を行った。
工程(1’)で得られた細胞を、実施例1の工程(2B)(i)と同様の条件にて、4日間培養を行った。
工程(2B)(i)で得られた細胞を、実施例1の工程(2B)(ii)と同様の条件にて、3日間培養を行った。
工程(2B’)(ii)で得られた細胞を、実施例1の工程(2B)(iii)と同様の条件にて、14日間培養を行った。
工程(2B’)(iii)で得られた細胞を、実施例1の工程(3)と同様の条件にて、培養を継続し、適宜経過後に得られた細胞を用いた。
Myf5-tdTomato C3 iPSCsを用いて、実施例1に記載した方法にて、筋前駆細胞へと分化誘導した。このときの細胞群(Myf5-tdTomato陽性細胞および陰性細胞)について、Day34からDay85までの継時的なマーカー遺伝子の発現状態を調べるために、RT-PCRによる解析を行った。簡潔には、上記工程(3’)のDay84の細胞群について、FACSによりMyf5-tdTomato陽性または陰性の細胞を選別し、Myf5、MyoD、Pax3、およびPax7の各遺伝子について、それぞれRT-PCRにより発現状態を調べた。
44日目(Day44)における細胞群(Myf5-tdTomato陽性細胞および陰性細胞)について、筋管分化能を調べるため、抗体染色を行った。簡潔には、Day44においてMyf5-tdTomatoを指標としてFACSによりソーティング後、1日、7日または14日間、工程(3’)の条件で培養をした各細胞群に対して、MHCおよびMyogeninの抗体染色を行った。
本実施例の分化誘導方法により誘導された骨格筋前駆細胞(day71のMyf5陽性細胞)について、移植における効果を調べるために、移植実験を行った。簡潔には、上記工程(3’)のday71の細胞群について、FACSによりMyf5-tdTomato陽性細胞を選別した。選別直後の7.5×105個のMyf5-tdTomato陽性細胞、または選別直後の6.1×105個のMyf5-tdTomato陰性細胞を、CTx処理後1日のNSGマウスの前脛骨筋に筋注で移植した。移植の4週間後に、ヒトspectrinの抗体染色を行い、筋再生についての評価を行った。
本実施例の分化誘導方法により誘導された骨格筋前駆細胞(day78のMyf5陽性細胞)について、移植における効果を調べるために、移植実験を行った。簡潔には、上記工程(3’)のday78の細胞群について、FACSによりMyf5陽性細胞を選別した。続いて、5×105個のMyf5陽性細胞を24時間再培養した後、CTx処理後1日のNSGマウスの前脛骨筋に筋注で移植した。移植の4週間後に、ヒトspectrinの抗体染色を行い、筋再生についての評価を行った。
201B7を常法に従って相同組換えにより、Myf5遺伝子座の開始コドンの5’側へtdTomato配列を連結させ、Myf5の発現と連携してtdTomatoを発現するiPS細胞株(Myf5-tdTomato C3 iPSCsおよびMyf5-tdTomato E16 iPSCs)を作製した。
上記で得られたiPS細胞を実施例1の通り、分化誘導前準備を行い、次の通り、骨格筋前駆細胞の分化誘導を行った。
実施例1の工程(1)と同様の条件にて、18日間培養を行った。なお、7日目(Day7)および14日目(Day14)に上記と同様の方法で継代を行った。
工程(1”)で得られた細胞の培地を、0.2% BSA、200μM 2-ME(2-Mercaptoethanol)を添加したSF-O3(三光純薬)に、10μM SB431542および/または10ng/ml IGF-1(Peprotech)および/または10ng/ml HGF(Peprotech)および/または10ng/ml bFGF(オリエンタル酵母)を添加した培地、あるいはいずれも非添加の培地に交換し、21日間培養を行った。
工程(2A)で得られた細胞を、実施例1の工程(3)と同様の条件にて、培養を継続し、適宜経過後に得られた細胞を用いた。
Myf5-tdTomato C3 iPSCsおよびMyf5-tdTomato E16 iPSCsを用いて、上記工程(1”)、(2A)および(3”)の方法にて、筋前駆細胞へと分化誘導した。このときの細胞群(Myf5-tdTomato陽性細胞および陰性細胞)について、Myf5-tdTomato陽性細胞群の割合を評価した。その結果、工程2AにおいてMyf5-tdTomato陽性細胞が存在すること、及びHGFを添加し、かつTGFβ阻害剤およびbFGFを添加していない培地、特にHGFおよびIGF1のみを添加した培地での培養後に、Myf5-tdTomato陽性細胞が多く含まれていることが見出された(図16)。
本実施例の分化誘導方法により誘導された骨格筋前駆細胞(day35のMyf5陽性細胞)について、移植における効果を調べるために、移植実験を行った。簡潔には、上記工程(2A)のday35の細胞群について、FACSによりMyf5-tdTomato陽性細胞を選別した。選別直後の3.7×105個のMyf5-tdTomato陽性細胞、または選別直後の3.7×106個のMyf5-tdTomato陰性細胞を、CTx処理後1日のNSGマウスの前脛骨筋に筋注で移植した。移植の4週間後に、ヒトSpectrinの抗体染色を行い、筋再生についての評価を行った。
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
Claims (15)
- ヒト多能性幹細胞からヒト骨格筋前駆細胞を製造する方法であって、下記の工程(1)と(2A)または(2B)とを含む方法。
(1)ヒト多能性幹細胞の集団をTGF-β阻害剤とGSK3β阻害剤を含む培養液中で14日以上21日以下培養する工程
(2A)(1)の工程で得られた細胞集団を、HGFを含み、さらにIGF1を含んでもよい培養液中で14日以上21日以下培養する工程
(2B)(1)の工程で得られた細胞集団を、
(i) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤、IGF1、HGFおよびbFGFを含む培養液中で1日以上10日以下、
(ii) TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中で1日以上10日以下、および
(iii) TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中で7日以上20日以下順次培養する工程 - さらに下記の工程(3)を含む、請求項1に記載の方法。
(3)(2A)または(2B)の工程で得られた細胞集団を、TGF-β阻害剤、IGF1および血清を含む培養液中で9〜50日間培養する工程 - 前記工程(1)および(2B)のTGF-β阻害剤がSB431542である、請求項1または2に記載の方法。
- 前記工程(1)のGSK3β阻害剤がCHIR99021であり、当該CHIR99021の培地中での濃度が5μM以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記工程(2B)のGSK3β阻害剤がLiClである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
- 前記工程(3)の血清がウマ血清である、請求項2に記載の方法。
- さらに下記の工程(4)を含む、請求項2または6に記載の方法。
(4)(3)の工程で得られた細胞からMyf5を発現する細胞を単離する工程 - さらに下記の工程(5)を含む、請求項7に記載の方法。
(5)(4)の工程で得られた細胞を少なくとも24時間培養する工程 - 前記工程(5)が、SB431542、IGF1およびウマ血清を含む培養液中で培養する工程である、請求項8に記載の方法。
- ヒト多能性幹細胞がヒトiPS細胞またはヒトES細胞である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
- 前記工程(1)で得られた細胞集団全体に占めるPAX3陽性細胞の割合が90%以上である、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
- 前記工程(2B)を含む、請求項11に記載の方法。
- 前記工程(2A)を含み、当該工程を、HGFおよびIGF1を含み、かつTGF-β阻害剤およびbFGFを含まない培養液中で行う、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
- SB431542、CHIR99021、IGF1、HGFおよびウマ血清を含有することを特徴とし、任意でLiClおよびbFGFをさらに含んでもよい、ヒト多能性幹細胞からヒト骨格筋前駆細胞への分化誘導用試薬キット。
- ヒト多能性幹細胞がヒトiPS細胞またはヒトES細胞である、請求項14に記載のキット。
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