JP6859629B2 - 繊維状セルロース含有物 - Google Patents

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Description

本発明は、繊維状セルロース含有物の製造方法に関する。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。近年は、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂を含む複合シートが開発されている。また、微細繊維状セルロースは増粘作用を発揮することができるため、微細繊維状セルロースを増粘剤として各種用途に用いることも検討されている。
微細繊維状セルロースを例えば増粘剤として使用する場合には、微細繊維状セルロースを分散させた液体を加工工場等に輸送することが行われている。しかし、微細繊維状セルロースを分散させた液体には大量の分散媒が含まれているため、輸送に係る費用が高いという問題がある。このため、輸送コストを削減するために、微細繊維状セルロースを分散させた液体を出来る限り濃縮した形態とすることが望まれている。
例えば、特許文献1には、微細繊維状セルロースを含む乾燥固形物が開示されている。特許文献1では、アニオン変性セルロースナノファイバーの水性懸濁液のpHを9〜11に調整した後に、脱水・乾燥させることによりアニオン変性セルロースナノファイバーの乾燥固形物を得ている。また、特許文献2には、カルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程と、セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程が開示されている。ここでは、ゲル状体に、有機性の液体化合物と分散剤とを混合することで、セルロースナノファイバーを再分散させ、セルロースナノファイバー分散液を得ている。
特開2015−134873号公報 特開2014−118521号公報
微細繊維状セルロースの乾燥固形物やゲル状体などの濃縮物は、良好な再分散性を有していることが好ましい。例えば、微細繊維状セルロースの再分散液を用いて微細繊維状セルロース含有シートを形成する場合もあるが、この場合には、微細繊維状セルロース含有シートは透明性を有していることが求められており、再分散液とする前の微細繊維状セルロースの乾燥固形物や濃縮物を長期保管した後であっても、微細繊維状セルロース含有シートは高い透明性を有していることが求められている。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、再分散液とする前の微細繊維状セルロースの乾燥固形物や濃縮物を長期保管した後であっても、再分散液から透明性の高いシートを形成することが可能なセルロース含有物を実現することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維状セルロース含有物において、粘度を特定の条件で測定した際に、各条件における粘度が所定の条件を満たすように調整することにより、繊維状セルロース含有物を長期保管した後であってもその再分散液から透明性の高いシートが形成され得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維状セルロース含有物であって、繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上であり、以下の条件1で測定した粘度が3000mPa・s以上であり、以下の条件2aで測定した粘度をηBとし、以下の条件2bで測定した粘度をηCとした場合、ηB/ηCの値は0.7よりも大きい繊維状セルロース含有物;
(条件1)
繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーAを得る;スラリーAを23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーBを得る;スラリーBを自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌し、23℃に24時間静置した後に、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する;
(条件2a)
23℃で240時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する;
(条件2b)
23℃で240時間静置した繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度12000r・cm/分で5分間撹拌してスラリーA'を得る;スラリーAに代えてスラリーA'を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する。
[2] 金属成分の含有量が、繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.5質量%以下である[1]に記載の繊維状セルロース含有物。
[3] 固形状である[1]又は[2]に記載の繊維状セルロース含有物。
[4] 以下の条件3aで測定した粘度をηDとし、以下の条件3bで測定した粘度をηEとした場合、ηD/ηEの値は0.7よりも大きい[1]〜[3]のいずれかに記載の繊維状セルロース含有物;
(条件3a)
50℃で72時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する;
(条件3b)
50℃で72時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件2b)と同様にして粘度を測定する。
[5] 界面活性剤をさらに含む[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維状セルロース含有物。
[6] 水溶性有機化合物をさらに含む[1]〜[5]のいずれかに記載の繊維状セルロース含有物。
本発明によれば、長期保管後であっても再分散液から透明性の高いシートを形成し得る繊維状セルロース含有物が得られる。
図1は、繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(繊維状セルロース含有物)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(以下、微細繊維状セルロースともいう)を含む繊維状セルロース含有物に関する。繊維状セルロース含有物における繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上である。本発明の繊維状セルロース含有物においては、以下の条件1で測定した粘度が3000mPa・s以上であり、以下の条件2aで測定した粘度をηBとし、以下の条件2bで測定した粘度をηCとした場合、ηB/ηCの値は0.7よりも大きい。
ここで、条件1、条件2a及び2bは以下のとおりである。
(条件1)
繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーAを得る;スラリーAを23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーBを得る;スラリーBを自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌し、23℃に24時間静置した後に、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する。
(条件2a)
23℃で240時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する。
(条件2b)
23℃で240時間静置した繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度12000r・cm/分で5分間撹拌してスラリーA'を得る;スラリーAに代えてスラリーA'を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する。
本発明の繊維状セルロース含有物は、上記構成を有するため、良好な再分散性を発揮することができ、水等の溶媒に分散した後には優れた増粘性を発揮することができる。具体的には、繊維状セルロース含有物の再分散液の初期粘度は3000mPa・s以上であればよく、5000mPa・s以上であることが好ましく、6000mPa・s以上であることがより好ましく、10000mPa・s以上であることがさらに好ましい。繊維状セルロース含有物の再分散液の初期粘度は、上述した条件1のとおりに測定をする。まず、繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーAを得る。この場合、繊維状セルロース含有物は、調製後、室温に置いて20時間経過していないものを用いる。そして、このスラリーAを23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーBを得る。スラリーBを50mL容量のガラススクリュービンに入れ、自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌する。自転公転撹拌機を用いた撹拌では、脱泡処理が行われる。その後、23℃に24時間静置し、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する。なお、スラリーA及びスラリーBを得る工程における撹拌速度2250r・cm/分での撹拌には、ディスパーザー(撹拌TKロボミクス、特殊機化工業社製、半径1.5cmの撹拌羽を使用)を用いることができる。また、自転公転撹拌機としては、例えば自転公転式スーパーミキサーを用いることができ、シンキー社製のARE−250を挙げることができる。そして、B型粘度計としては、BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVTを用いることができる。
本発明の繊維状セルロース含有物は、長期保管後であっても再分散後に優れた増粘性を発揮することができる。すなわち、本発明の繊維状セルロース含有物は長期保管性に優れており、長期保管後であっても一定以上の粘度を発現することができる。長期保管後の再分散液の粘度は、条件2aで測定することができる。条件2aでは、まず、繊維状セルロース含有物を23℃で240時間静置する。その後、繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーAを得る。このスラリーAを23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーBを得る。スラリーBを50mL容量のガラススクリュービンに入れ、自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌する。自転公転撹拌機を用いた撹拌では、脱泡処理が行われる。その後、23℃に24時間静置し、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する。なお、攪拌装置や粘度計については、条件1と同様のものを用いることができる。
条件2aで測定された再分散液の粘度は、3000mPa・s以上であることが好ましく、5000mPa・s以上であることがより好ましく、8000mPa・s以上であることがさらに好ましく、9000mPa・s以上であることが特に好ましい。
また、本発明の繊維状セルロース含有物は、長期保管後に撹拌力の強弱による粘度差が少ないことに特徴がある。具体的には、条件2aで測定した粘度をηBとし、条件2bで測定した粘度をηCとした場合、ηB/ηCの値は0.7よりも大きければよく、0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。ここで、条件2aで測定した粘度ηBは、長期保管後の再分散液に通常の撹拌を行い、その後測定した粘度であり、条件2bで測定した粘度ηCは、長期保管後の再分散液に強い撹拌を行い、その後測定した粘度である。条件2bでは、まず、繊維状セルロース含有物を23℃で240時間静置する。その後、繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度12000r・cm/分で5分間撹拌してスラリーA'を得る。このスラリーA'を23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーB'を得る。スラリーB'を50mL容量のガラススクリュービンに入れ、自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌する。自転公転撹拌機を用いた撹拌では、脱泡処理が行われる。その後、23℃に24時間静置し、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する。なお、攪拌装置や粘度計については、条件1と同様のものを用いることができる。
条件2bで測定された再分散液の粘度は、3000mPa・s以上であることが好ましく、5000mPa・s以上であることがより好ましく、8500mPa・s以上であることがさらに好ましい。
本発明の繊維状セルロース含有物においては、条件1で測定した再分散液の粘度を3000mPa・s以上とし、かつ条件2aで測定した再分散液の粘度ηBを、条件2bで測定した再分散液の粘度ηCで除すことで得られる数値(ηB/ηC)を0.7よりも大きくすることにより、長期保管後であっても再分散液から透明性の高いシートを形成することができる。また、本発明は、上記条件を全て満たす繊維状セルロース含有物を製造することに成功したものでもあり、このような粘度条件とシートの透明性との関係性を初めて見出したものでもある。なお、特定の粘度条件を満たす繊維状セルロース含有物は、例えば、繊維状セルロース含有物に添加する添加剤の種類や量をコントロールしたり、繊維状セルロース含有物の製造工程を適切に制御することで得ることができる。
本発明の繊維状セルロース含有物においては、以下の条件3aで測定した粘度をηDとし、以下の条件3bで測定した粘度をηEとした場合、ηD/ηEの値は0.7よりも大きいことが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。
ここで、条件3a及び3bは以下のとおりである。
(条件3a)
50℃で72時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する。
(条件3b)
50℃で72時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件2b)と同様にして粘度を測定する。
条件3aでは、まず、繊維状セルロース含有物を50℃で72時間静置する。その後、繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーAを得る。このスラリーAを23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーBを得る。スラリーBを50mL容量のガラススクリュービンに入れ、自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌する。自転公転撹拌機を用いた撹拌では、脱泡処理が行われる。その後、23℃に24時間静置し、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する。なお、攪拌装置や粘度計については、条件1と同様のものを用いることができる。
条件3aで測定された再分散液の粘度は、2000mPa・s以上であることが好ましく、3000mPa・s以上であることがより好ましく、4000mPa・s以上であることがさらに好ましく、5000mPa・s以上であることが特に好ましい。
条件3bでは、まず、繊維状セルロース含有物を50℃で72時間静置する。その後、繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度12000r・cm/分で5分間撹拌してスラリーA'を得る。このスラリーA'を23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーB'を得る。スラリーB'を50mL容量のガラススクリュービンに入れ、自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌する。自転公転撹拌機を用いた撹拌では、脱泡処理が行われる。その後、23℃に24時間静置し、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する。なお、攪拌装置や粘度計については、条件1と同様のものを用いることができる。
条件3bで測定された再分散液の粘度は、3000mPa・s以上であることが好ましく、5000mPa・s以上であることがより好ましく、6000mPa・s以上であることがさらに好ましく、8000mPa・s以上であることが特に好ましい。
条件3a及び3bにおける測定においてもηD/ηEの値を上記範囲内に制御することにより、長期保管後であっても再分散液から透明性の高いシートを形成しやすくなる。
繊維状セルロース含有物の形態は特に制限されるものではなく、例えば、固形状、ゲル状、液状といった種々の形態で存在することができる。中でも繊維状セルロース含有物は、固形状もしくはゲル状であることが好ましく、固形状であることがより好ましい。また、繊維状セルロース含有物は、粉粒物であることがさらに好ましい。ここで、粉粒物は、粉状及び/又は粒状の物質である。なお、粉状物質は、粒状物質よりも小さいものをいう。一般的には、粉状物質は粒子径が1nm以上0.1mm未満の微粒子をいい、粒状物質は、粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒子をいう。なお、広義の意味では、ゲル状も固形状の一形態であると言えるから、固形状に分類される場合もある。
本発明の繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロースを5質量%以上含有する。このため、繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース濃縮物や微細繊維状セルロース凝集物と呼ぶこともできる。繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上であればよく、7.5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの含有量の上限値は特に限定されるものではないが、例えば95質量%とすることができる。本発明の繊維状セルロース含有物中には、繊維状セルロースが高濃度で存在しており、濃縮された形態となっているため、保管コストや輸送コストを低減することができる。また、例えば増粘剤や複合化する際の原料として用いる場合は、水の持ち込み量を少なくすることもできる。さらに、繊維状セルロース含有物の含有量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロース含有物中における繊維状セルロースの安定性を高めることもできる。
なお、繊維状セルロースの含有量が、繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上10質量%未満の範囲である場合は、一般的に、繊維状セルロース含有物はゲル状である。また、繊維状セルロースの含有量が、繊維状セルロース含有物の全質量に対して10質量%以上である場合は、繊維状セルロース含有物は固形状である。
本発明の繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした際に、該スラリーのpHは4以上であることが好ましく、4.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましく、6.0以上であることが特に好ましい。また、固形分濃度が0.5質量%のスラリーのpHは、13以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、11以下であることがさらに好ましい。固形分濃度が0.5質量%のスラリーのpHを上記範囲内とすることにより、繊維状セルロース含有物の長期保管安定性をより高めることができる。
固形分濃度が0.5質量%のスラリーのpHは、微細繊維状セルロース含有物をイオン交換水に添加し、固形分濃度が0.5質量%のスラリーとした後、マグネチックスターラーで撹拌し、全体が混ざった後に測定する。装置に表示されたpHの読み取りは、マグネチックスターラーによる撹拌開始から5分以上経過後に行う。また、測定時の温度は23℃とした。pHの測定装置としては、公知の測定機器を用いることができる。
本発明の繊維状セルロース含有物に含まれる粗大セルロース繊維量の割合は、特に限定されないが、好ましくは50%未満である。粗大セルロース繊維量は、30%未満であることがより好ましく、10%未満であることがさらに好ましい。ここで、粗大セルロース繊維量は、以下の方法で測定したものである。
まず、微細繊維状セルロースのスラリーにイオン交換水を添加して、繊維固形分濃度を0.2質量%に調整する。次いで12000G×10minの条件で遠心分離し、得られた上澄み液を回収する。そして、上澄み液の固形分濃度を測定する。そして、下記式により、粗大セルロース繊維の割合を算出する。
粗大セルロース繊維の割合(%)=100−(上澄み液の固形分濃度/0.2質量%×100)
(繊維状セルロース)
本発明の繊維状セルロース含有物は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を含む。微細繊維状セルロースは、イオン性官能基を有する繊維であることが好ましく、この場合イオン性官能基は、アニオン性官能基(以下、アニオン基ともいう)であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。なお、本明細書においては、リン酸基を有する繊維状セルロースは、リン酸化微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有することが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
Figure 0006859629
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1〜nの整数)及びα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。また、繊維原料に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、リン酸化効率を高めつつも使用する化合物Aのコストを抑制することができる。
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、シートとした場合には良好な強度発現が期待できる。
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
<カルボキシル基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、たとえば繊維原料にTEMPO酸化処理などの酸化処理を施すことや、カルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって処理することで、カルボキシル基を導入することができる。
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性官能基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、官能基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、官能基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済み官能基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<解繊処理>
イオン性官能基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
超高圧ホモジナイザーを用いる場合、解繊処理時の圧力は、150MPa以上であることが好ましく、200MPa以上であることがより好ましい。また、解繊処理時の圧力は、500MPa以下であることが好ましい。また、処理回数は、2回以上であることが好ましく、3回以上であることがより好ましい。
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
微細繊維状セルロースは、解繊処理により得られた微細繊維状セルロース含有スラリーを、一度濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊処理を行って得てもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、及びWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、微細繊維状セルロース含有スラリーをシート化することで濃縮、乾燥し、該シートに解繊処理を行い、再度微細繊維状セルロース含有スラリーを得ることもできる。
微細繊維状セルロース含有スラリーを濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊(粉砕)処理をする際に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
(金属成分)
本発明の繊維状セルロース含有物は、二価以上の金属成分を含んでいてもよい。二価以上の金属成分は、繊維状セルロース含有物の製造工程の凝集工程において、金属塩として添加される成分であることが好ましい。このような金属塩は、微細繊維状セルロースを凝集させる働きをするため、凝集剤と呼ぶこともできる。
二価以上の金属成分を含む金属塩としては、例えば、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化銅、硫酸銅、塩化鉄、硫酸鉄、塩化鉛、硫化鉛等が挙げられる。二価以上の金属成分を含む金属塩としては、上記塩のうち1種のみが添加されてもよく、2種以上が添加されてもよい。中でも、二価以上の金属成分を含む金属塩としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム及び硫酸カルシウムから選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、塩化アルミニウム及び塩化カルシウムから選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
二価以上の金属成分の含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましく、0.15質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。なお、金属成分の含有量は0質量%であってもよい。
なお、本発明の繊維状セルロース含有物中における二価以上の金属成分の含有量は、ICP−AES測定(ICP発光分光分析)により定量することができる。ICP−AES測定により定量を行う際は、まず、微細繊維状セルロース含有物10gを525℃で加熱して灰化する。そして、灰化した微細繊維状セルロース含有物を1%硝酸5mLで溶解し、湿式分解する。この溶液を50mLへ定容し、0.45μmのフィルターでろ過したものをICP−AES測定に用いる。
本発明においては、二価以上の金属成分が含まれる場合は、繊維状セルロース含有物の製造工程において添加された二価以上の金属成分が完全に除去されずに繊維状セルロース含有物中に残留していることを意味する。繊維状セルロース含有物の製造工程では、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液に二価以上の金属成分を添加し、その後に酸を添加することにより二価以上の金属成分が除去される。しかし、この場合、酸により二価以上の金属成分が完全に除去されることはなく、微量の金属成分が最終生成物である繊維状セルロース含有物中にも含まれることになる。
(界面活性剤)
本発明の繊維状セルロース含有物は、界面活性剤を含むものであってもよい。本発明の繊維状セルロース含有物の製造工程では、繊維状セルロース含有物のスラリーのpHを調整するためにアルカリ成分等のpH調整剤を添加することがある。界面活性剤は、このようなpH調整剤を表面張力を下げることで繊維状セルロースの繊維間に浸透させやすくする働きをするものと考えられる。具体的には、後述するpH調整工程で添加するアルカリ溶液を繊維状セルロースの繊維間に浸透させやすくする働きをする。このため、このような界面活性剤は浸透助剤と呼ぶこともできる。
界面活性剤は、イオン性界面活性剤であっても、非イオン性界面活性剤であってもよい。イオン性界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、又は両性界面活性剤を挙げることができる。なお、非イオン性界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤と呼ぶこともある。中でも本発明においては、非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。繊維状セルロース含有物が非イオン性界面活性剤を含むことにより、微細繊維状セルロース含有物は、長期保管後であっても再分散後に優れた増粘性を発揮しやすくなる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、プルロニック、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアシルエステル、アルキルポリグリコシド、脂肪酸メチルグリコシドエステル、アルキルメチルグルカミド、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いることが好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、トデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステルなどが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピリジニウム硫酸塩、ステアラミドメチルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、脂肪酸ポリエチレンポリアミド、アシルアミノエチルピリジニウム塩、アシルコラミノホルミルメチルピリジニウム塩などの第4級アンモニウム塩、ステアロオキシメチルピリジニウム塩、脂肪酸トリエタノールアミン、脂肪酸トリエタノールアミンギ酸塩、トリオキシエチレン脂肪酸トリエタノールアミン、セチルオキシメチルピリジニウム塩、p−イソオクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩などのエステル結合アミンやエーテル結合第4級アンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、1−ヒドロキシエチル−2−アルキルイミダゾリン、1−アセチルアミノエチル−2−アルキルイミダゾリン、2−アルキル−4−メチル−4−ヒドロキシメチルオキサゾリンなどの複素還アミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N−アルキルプロピレンジアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミンジメチル硫酸塩、アルキルビグアニド、長鎖アミンオキシドなどのアミン誘導体等が挙げられる。
また、両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、ココアンホ酢酸ナトリウム等を挙げることができる。
界面活性剤の含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。また、界面活性剤の含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロース含有物は、長期保管後であっても再分散後に優れた増粘性を発揮しやすくなる。
(水溶性有機化合物)
本発明の繊維状セルロース含有物は、水溶性有機化合物を含むものであってもよい。本発明において水溶性有機化合物は隣接する微細繊維状セルロースの間に入り込み、それにより微細繊維状セルロース間に微細なスペースを設けるためのスペーサーとして働く。このため、水溶性有機化合物はスペーサー分子と呼ぶこともできる。このようなスペーサー分子を有する繊維状セルロース含有物においては、繊維状セルロース間に存在する水分が除去(放湿)された場合であっても繊維状セルロースが再分散不可能な状態にまで凝集することが抑制される。このため、繊維状セルロース含有物の再分散性がさらに良化し、長期保管後であっても再分散液から透明性の高いシートを形成しやすくなる。なお、水溶性有機化合物は、上述した界面活性剤と組み合わせ添加されてもよく、単独で添加されてもよい。
水溶性有機化合物は不揮発性であることが好ましい。不揮発性の水溶性有機化合物を用いることにより、微細繊維状セルロース間に入り込んだ後に喪失されることが抑制され、長期保管後の再分散性をより向上させることが可能となる。また、再分散液の粘度や粘度保持率を高めることができる。ここで、本明細書における不揮発性の水溶性有機化合物は例えば、沸点が100℃以上の水溶性有機化合物である。
水溶性有機化合物は、1分子中に水素結合に寄与する基を少なくとも1つ有していることが好ましく、2つ以上有していることがより好ましく、3つ以上有していることがさらに好ましい。水素結合に寄与する基としては、例えば、−OH、−NH、−O−、=O、=N−などの基を挙げることができる。
水溶性有機化合物1分子中において、水素結合に寄与する基の数を、水溶性有機化合物1分子を構成する炭素数の数で除した値は、0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。このような水溶性有機化合物を用いることにより、繊維状セルロース含有物の再分散性をより良化させることができる。また、繊維状セルロース含有物の粘度保持率も改善される傾向が見られる。
水溶性有機化合物の分子量全体に対する窒素原子(N)、酸素原子(O)、硫黄原子(S)及びリン原子(P)の原子量の合計は、25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。窒素、酸素、硫黄及びリンの原子量の合計比率を上記範囲とすることにより、再分散性に優れた繊維状セルロース含有物が得られやすくなる。なお、窒素、酸素、硫黄及びリンの原子量の合計比率は、水溶性有機化合物の構成元素比から算出するか、もしくは元素分析によって算出することができる。
水溶性有機化合物としては、例えば、糖や水溶性高分子、尿素等を挙げることができる。具体的には、トレハロース、尿素、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)等を挙げることができる。また、水溶性有機化合物として、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリアクリルアミド、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチン、チオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩を用いることもできる。中でも、水溶性有機化合物は、トレハロース、ポリエチレングリコール(PEG)及び尿素から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
水溶性有機化合物として水溶性高分子を用いる場合、水溶性高分子の分子量は、100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましい。また、水溶性高分子の分子量は、50000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましい。
水溶性有機化合物の含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、水溶性有機化合物の含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。水溶性有機化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロース含有物は、長期保管後であっても再分散液から透明性の高いシートを形成しやすくなる。
(任意成分)
本発明の繊維状セルロース含有物には、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、アルコール、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子、樹脂等を挙げることができる。また、任意成分として、有機イオンを添加してもよい。
また、任意成分としては、吸湿剤を挙げることもできる。吸湿剤としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、アルミナ、セピオライト、酸化カルシウム、ケイソウ土、活性炭、活性白土、ホワイトカーボン、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
(繊維状セルロース含有物の製造方法)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液を得る工程と、繊維状セルロースを凝集させる工程を含む繊維状セルロース含有物の製造方法に関するものでもある。繊維状セルロースを凝集させる工程としては、例えば、分散液に二価以上の金属成分を添加する工程を挙げることができる。また、このような二価以上の金属成分を添加する工程を含む場合は、金属成分を除去するための酸添加工程をさらに含むことが好ましい。
繊維状セルロース含有物の製造方法は、さらにpH調整工程を含むものであってもよい。pH調整工程は、繊維状セルロース含有物を、固形分濃度が0.5質量%のスラリーとした際に、スラリーのpHが4以上となるようにpHを調整する工程であることが好ましい。
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液を得る工程は、上記の(繊維状セルロース)の項目で詳述した工程である。繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液を得る工程は、置換基導入工程と、アルカリ処理工程と、解繊処理工程とを含む。
分散液に二価以上の金属成分を添加する工程では、二価以上の金属成分を含む金属塩を添加することが好ましい。二価以上の金属成分を含む金属塩としては、上述した金属塩を挙げることができる。分散液に二価以上の金属成分を添加する工程では、二価以上の金属成分を含む金属塩を分散液中に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上となるように添加することが好ましく、5質量部以上となるように添加することがより好ましい。また、二価以上の金属成分を含む金属塩を分散液中に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、100質量部以下となるように添加することが好ましく、50質量部以下となるように添加することがより好ましい。
金属成分を添加する工程は、二価以上の金属成分を添加した後に濾過工程をさらに含むことが好ましい。このような濾過工程は、金属成分添加工程と酸添加工程の間に設けられ、濾過工程を設けることで、濃縮物を効率よく得ることができる。
濾過工程で使用する濾材は特に限定されないが、ステンレス製、濾紙、ポリプロピレン製、ナイロン製、ポリエチレン製、ポリエステル製などの濾材を使用できる。酸を使用することもあるため、ポリプロピレン製の濾材が好ましい。濾材の通気度は低いほど歩留りが高まるため、30cm3/cm2・sec以下、より好ましくは10cm3/cm2・sec以下、さらに好ましくは1cm3/cm2・sec以下である。
濾過工程はさらに圧縮工程を含んでもよい。圧縮工程では、圧搾装置を用いることもできる。このような装置としては、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレスなど一般的なプレス装置を用いることができ、装置は特に限定されない。圧縮時の圧力は0.2MPa以上であることが好ましく、0.4MPa以上であることがより好ましい。
次いで、繊維状セルロース含有物の製造方法は、酸添加工程を含むことが好ましい。繊維状セルロース含有物の製造方法では、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液に二価以上の金属成分を添加し、その後に酸を添加することにより二価以上の金属成分の少なくとも一部が除去される。このため、酸添加工程は、金属塩除去工程とも呼ばれる。酸添加工程では、なるべく多くの金属成分を除去することが好ましいが、完全に金属成分を除去することは不可能であり、最終生成物である繊維状セルロース含有物中に0.5質量%以下の金属成分が残留する場合もある。
酸添加工程で添加する酸成分は、無機酸および有機酸のいずれであってもよい。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等が挙げられる。中でも、硫酸及び塩酸から選択される少なくとも1種を添加することが好ましい。使用する酸成分(酸性液)の濃度は特に限定されないが、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。酸性液の濃度を上記範囲とすることにより、セルロースの分解による劣化を抑制することができる。なお、上記酸のうち少なくとも一部が繊維状セルロース含有物に残留してもよいが、酸添加工程の後にpH調整工程を設けることにより、酸成分を中和することが好ましい。
酸添加工程は、酸を添加した後に濾過工程をさらに含んでもよい。また、濾過工程は、さらに圧縮工程を含んでいてもよい。
pH調整工程は、繊維状セルロース含有物を、固形分濃度が0.5質量%のスラリーとした際に、スラリーのpHが4以上となるようにpHを調整する工程である。pH調整工程は、酸添加工程で添加された酸成分を中和する工程であるから、中和工程と呼ばれることもある。すなわち、pH調整工程では、アルカリ成分が添加される。なお、これらのアルカリ成分のうち少なくとも一部が繊維状セルロース含有物に残留してもよいが、大部分は、pH調整工程における中和反応に用いられる。
pH調整工程で添加するアルカリ成分は、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、などが挙げられる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等が挙げられる。中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムから選択される少なくとも1種は好ましく用いられ、水酸化ナトリウムは特に好ましく用いられる。
pH調整工程では、上記アルカリ成分に加えて、界面活性剤及び水溶性有機化合物から選択される少なくとも1種を添加してもよい。この場合、添加する界面活性剤や水溶性有機化合物としては、上述した界面活性剤及び水溶性有機化合物を列挙することができる。
なお、界面活性剤及び水溶性有機化合物から選択される少なくとも1種は、pH調整工程を設けない場合であっても、添加されてもよい。この場合、界面活性剤及び水溶性有機化合物から選択される少なくとも1種は、上述した金属成分添加工程もしくは酸添加工程の後工程に設けられることが好ましく、酸添加工程の後工程に設けられることがより好ましい。
繊維状セルロース含有物の製造工程において界面活性剤を添加する場合は、界面活性剤は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.001質量部以上となるように添加することが好ましく、0.01質量部以上となるように添加することがより好ましく、0.1質量部以上となるように添加することがさらに好ましい。また、界面活性剤は微細繊維状セルロース100質量部に対して、20質量部以下となるように添加することが好ましく、10質量部以下となるように添加することがより好ましい。
繊維状セルロース含有物の製造工程において水溶性有機化合物を添加する場合は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、5質量部以上となるように添加することが好ましく、10質量部以上となるように添加することがより好ましい。また、水溶性有機化合物は微細繊維状セルロース100質量部に対して、200質量部以下となるように添加することが好ましく、100質量部以下となるように添加することがより好ましい。
本発明の繊維状セルロース含有物の製造方法は、上述した工程に加えて、粉末化工程をさらに含んでもよい。本発明の繊維状セルロース含有物の製造方法が粉末化工程を含む場合、ミキサー粉砕、噴霧乾燥、オーブン乾燥、有機溶剤による脱水等の方法を採用することができる。これらの方法は適宜組み合わせて行うこともできる。なお、得られる繊維状セルロース含有物は粉粒体であってもよく、フロック状やフレーク状、ペースト状であってもよい。
(再分散)
上述した工程で製造された微細繊維状セルロース含有物は、水等の溶媒に再分散させることで用いられることが好ましい。このような再分散スラリーを得るために使用する溶媒の種類は、特に限定されないが、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル等が挙げられる。
微細繊維状セルロース含有物の再分散は常法により行うことができる。例えば、微細繊維状セルロース含有物に、上記した溶媒を添加して微細繊維状セルロース含有物を含む液を調製する工程と、この微細繊維状セルロース含有物を含む液中の微細繊維状セルロースを分散させる工程により、再分散を行うことができる。
微細繊維状セルロース含有物を含む液中の微細繊維状セルロースを分散させる工程に用いる分散装置としては、上記の<解繊処理>において記載した解繊処理装置と同様のものを使用してもよい。
(用途)
本発明の微細繊維状セルロース含有物の用途は特に限定されない。微細繊維状セルロース含有物は、例えば増粘剤として使用されることが好ましい。この場合、微細繊維状セルロース含有物の再分散スラリーは、増粘剤として各種用途(例えば、食品、化粧品、セメント、塗料、インクなどへの添加物、地下層処理用流体など)に使用することができる。
本発明の微細繊維状セルロース含有物は、樹脂やエマルジョンと混合し補強材としての用途に使用することもできる。また、繊維状セルロース含有物のスラリーを用いて成形し、成形体を作製してもよい。この場合、繊維状セルロース含有物のスラリーには、樹脂やエマルジョンを混合することが好ましい。なお、成形体は、シート形状以外に種々の形状であってもよい。さらに、微細繊維状セルロース再分散スラリーを用いて製膜し、各種シートとして使用することもできる。
(シート)
本発明の繊維状セルロース含有物は透明性の高いシートすることができる。具体的には、本発明の繊維状セルロース含有物からシートを形成した場合、シートのヘーズは、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。ここで、シートのヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。
本発明においては、繊維状セルロース含有物を長期保管した後であっても透明性の高いシートを形成することができる。具体的には、繊維状セルロース含有物を23℃で240時間保管した後であっても、上記ヘーズ値を満たすシートを形成することができる。
なお、ヘーズの測定に用いられるシートの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μm以下とすることができる。なお、シートの厚みは、触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
また、ヘーズの測定に用いられるシートの坪量は、10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、シートの坪量は、100g/m2以下であることが好ましく、80g/m2以下であることがより好ましい。ここで、シートの坪量は、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。
(シートの製造方法)
シートの製造工程は、上述した工程で得られる微細繊維状セルロース含有物の再分散液を基材上に塗工する工程、又は、再分散液を抄紙する工程を含む。なお、本発明においては、微細繊維状セルロース含有物は長期保管をした後のものであってもよく、このような場合であってもヘーズの低いシートを形成することができる。
再分散液をシート化する工程の前には、再分散液に親水性高分子をさらに添加する工程を設けることが好ましい。親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体などを挙げることができる。
親水性高分子の含有量は、繊維状セルロース100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下であることが好ましい。親水性高分子の粘度平均分子量は特に限定されないが、1.0×103以上1.0×107以下であることが好ましく、2.0×103以上1.0×107以下であることがより好ましく、5.0×103以上1.0×107以下であることがさらに好ましい。
<塗工工程>
塗工工程は、再分散液を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、再分散液に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板又は金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
塗工工程において、再分散液の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
再分散液を塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、再分散液を容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程は、基材上に塗工した再分散液を乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
<抄紙工程>
シートの製造工程は、再分散液を抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
抄紙工程では、再分散液をワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。再分散液を濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースや防腐剤は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
再分散液からシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含む再分散液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された再分散液から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
<製造例1>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプを絶乾質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、リン酸化セルロースの脱水シートを得た。得られた脱水シートの赤外線吸収スペクトルをFT−IRで測定した。その結果、1230cm-1以上1290cm-1以下にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。
得られたリン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、2質量%スラリーを調製した。このスラリーを、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロースAを得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していることを確認した。
<製造例2>
製造例1において、アルティマイザー処理の代わりにクリアランスを100μmに設定したシングルディスクリファイナーを3回パスさせることで、微細繊維状セルロースBを得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していることを確認した。
<置換基量の測定>
置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1(リン酸基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。算出した結果、微細繊維状セルロースA及びBともに1.60mmol/gであった。
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
解繊パルプスラリーの上澄み液を濃度0.01質量%以上0.1質量%以下に水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。微細繊維状セルロースAは、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。また、微細繊維状セルロースBには、後述する方法で測定される粗大セルロース繊維、幅1000nm以下の微細繊維が混在していることを確認した。
<粗大セルロース繊維量の測定>
粗大セルロース繊維量は、以下の方法で測定した。まず、微細繊維状セルロースのスラリーにイオン交換水を添加して、繊維固形分濃度を0.2質量%に調整した。次いで、冷却高速遠心分離機(コクサン社製、H−2000B)を用いて12000G×10minの条件で遠心分離し、得られた上澄み液を回収した。そして、上澄み液の固形分濃度を測定した。そして、下記式により、粗大セルロース繊維の割合を算出した。
粗大セルロース繊維の割合(%)=100−(上澄み液の固形分濃度/0.2質量%×100)
なお、微細繊維状セルロースA及び微細繊維状セルロースBについて粗大セルロース繊維量を算出した結果、微細繊維状セルロースAは0.9%、微細繊維状セルロースBは86.4%であった。
<実施例1>
微細繊維状セルロースAの分散液(2質量%)を500g取り、そこに0.5質量%に希釈した塩化カルシウム水溶液を250g加えてゲル化させた。濾過後、濾紙にて圧搾し、微細繊維状セルロースの濃度が20質量%の濃縮物1を得た。この濃縮物を0.1N塩酸水溶液250gに30分間浸漬し、その後濾過し、濾紙にて圧搾することで微細繊維状セルロースの濃度が20質量%の濃縮物2を得た。100質量部の濃縮物2に対し、0.35N水酸化ナトリウム水溶液を100質量部、ノニオン性界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェットPUR)を0.2質量部加え、薬さじでよく練り混ぜ、ミキサー(岩谷産業社製、ミルサー800DG)で粉砕し、微細繊維状セルロースの濃度が10質量%の微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。
<実施例2>
実施例1において、サンプル作製の際、2回目の圧搾において濃縮物を微細繊維状セルロースの濃度が20質量%ではなく微細繊維状セルロースの濃度が40質量%になるまで圧搾し、濃縮物2を得た。100質量部の濃縮物2に対し、0.7N水酸化ナトリウム水溶液を100質量部、ノニオン性界面活性剤(SNウェットPUR)を0.4質量部になるように加えて混ぜ、微細繊維状セルロースの濃度が20質量%の濃縮物を得た以外は、実施例1と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。
<実施例3>
実施例1において、サンプル作製の際、2回目の圧搾において濃縮物を微細繊維状セルロースの濃度が20質量%ではなく微細繊維状セルロースの濃度が40質量%になるまで圧搾し、濃縮物2を得た。100質量部の濃縮物2に対し、0.7N水酸化ナトリウム水溶液を92質量部、ノニオン性界面活性剤(SNウェットPUR)を0.4質量部、トレハロース(東京化成工業社製)を8質量部になるように加えて混ぜ、微細繊維状セルロースの濃度が20質量%の濃縮物を得た以外は、実施例1と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。
<実施例4>
実施例3において、トレハロースの代わりにポリエチレングリコール200(東京化成工業社製)を用いた以外は、実施例3と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。
<実施例5>
実施例1において、ノニオン性界面活性剤(SNウェットPUR)を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。
<実施例6>
実施例2において、ノニオン性界面活性剤(SNウェットPUR)を添加しなかった以外は、実施例2と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。
<実施例7>
微細繊維状セルロースA分散液(2質量%)100質量部に対し、トレハロースを0.5質量部になるように混合し、50℃の乾燥機で乾燥させて微細繊維状セルロースの濃度が70質量%の濃縮物を得た。
<比較例1>
実施例1において、水酸化ナトリウム水溶液とノニオン性界面活性剤(SNウェットPUR)を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)を得た。
<比較例2>
実施例1において、微細繊維状セルロースAの代わりに微細繊維状セルロースBを用いた以外は、実施例1と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)を得た。
<比較例3>
実施例7において、トレハロースを加えずに乾燥させ、85質量%の濃縮物を得た以外は、実施例7と同様の方法で微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)を得た。しかし、乾燥した後に水中に分散させようとしても、微細繊維状セルロースが沈殿してしまい、均一な分散液が得られなかったため、評価は行わなかった。
(評価)
(条件1の評価)
実施例及び比較例で得た微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)をイオン交換水に添加し、固形分濃度が0.5質量%のスラリーを100g作製した。その後、マグネチックスターラーで撹拌しながら1N水酸化ナトリウムを滴下し、スラリーのpHを10に調整した。このスラリーをディスパーザー(撹拌TKロボミクス、特殊機化工業社製、半径1.5cmの撹拌羽を使用)にて、1500rpm(2250r・cm/m)で5分間撹拌した。24時間後、スラリーをイオン交換水で0.4質量%になるように希釈し、ディスパーザーで2250r・cm/mで5分間撹拌した。得られたスラリーを50mL容量のガラススクリュービンに入れ、自転公転式スーパーミキサー(ARE−250、シンキー社製)にて、2200rpm、2分間脱泡モードで処理を行った。23℃の環境で24時間静置し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、初期粘度を測定した。
(条件2の評価)
実施例及び比較例で得た微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)を23℃で10日間保存した後、条件1の評価と同様に分散、評価を行い、粘度ηBを測定した。また、0.5質量%のスラリーを作製する際の撹拌力を8000rpm(12000r・cm/m)としたものを作製し、同様の手順で希釈、脱泡、粘度測定を行い、粘度ηCを測定した。
(条件3の評価)
実施例及び比較例で得た微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)を50℃で3日間保存した後、条件2の評価と同様に分散、評価を行い、粘度ηD(2250r・cm/mで分散)、ηE(12000r・cm/mで分散)を測定した。
(スラリーのpH)
実施例及び比較例で得た微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)をイオン交換水に添加し、固形分濃度が0.5質量%のスラリーを100g作製した。マグネチックスターラーで撹拌し、全体が混ざった後(5分以上経過後)にpHを測定した。
(シートの作成)
実施例及び比較例で得た微細繊維状セルロース含有物(濃縮物)を23℃で10日間保存した後、0.5質量%になるようにイオン交換水に添加し、1N水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを10に調整し、スラリーを作製した。このスラリー100質量部に対し、ポリエチレングリコール4000000(和光純薬工業社製)の0.5質量%水溶液を、ポリエチレングリコールが15質量部になるように添加した。仕上がり坪量が30g/m2になるように混合液を計量し、アクリル板に展開し、50℃のオーブンで乾燥した。なお、所定の坪量になるよう、アクリル板上には堰止用の板を配置し、得られるシートが四角形になるようにした。このシートのヘーズを、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定した。
Figure 0006859629
表1に示したように、条件1および2を満たすような濃縮物を作製することで、保存後に分散し、シート化した際のヘーズ値が低く抑えられる濃縮物を得ることができた。一方、比較例の濃縮物は、シート化した際のヘーズ値が満足のいくものではなかった。

Claims (5)

  1. 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維状セルロース含有物であって、
    前記繊維状セルロース含有物は粉粒物であり、
    前記繊維状セルロースの含有量は、前記繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上70質量%以下であり、
    前記繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした際の該スラリーのpHは4以上であり、
    以下の条件1で測定した粘度が3000mPa・s以上であり、以下の条件2aで測定した粘度をηBとし、以下の条件2bで測定した粘度をηCとした場合、ηB/ηCの値は0.7よりも大きい繊維状セルロース含有物;
    (条件1)
    繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーAを得る;スラリーAを23℃に24時間静置した後に、固形分濃度が0.4質量%となるように希釈し、撹拌速度2250r・cm/分で5分間撹拌してスラリーBを得る;スラリーBを自転公転撹拌機を用いて撹拌速度2200rpmで2分間撹拌し、23℃に24時間静置した後に、B型粘度計を用いて23℃にて回転数3rpmで3分間回転させ、粘度を測定する;
    (条件2a)
    23℃で240時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する;
    (条件2b)
    23℃で240時間静置した繊維状セルロース含有物を固形分濃度が0.45質量%以上0.7質量%以下となるように水に分散させ、撹拌速度12000r・cm/分で5分間撹拌してスラリーA’を得る;スラリーAに代えてスラリーA’を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する。
  2. 金属成分の含有量が、前記繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.5質量%以下である請求項1に記載の繊維状セルロース含有物。
  3. 以下の条件3aで測定した粘度をηDとし、以下の条件3bで測定した粘度をηEとした場合、ηD/ηEの値は0.7よりも大きい請求項1又は2に記載の繊維状セルロース含有物;
    (条件3a)
    50℃で72時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件1)と同様にして粘度を測定する;
    (条件3b)
    50℃で72時間静置した繊維状セルロース含有物を用いる以外は、上記(条件2b)と同様にして粘度を測定する。
  4. 界面活性剤をさらに含む請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有物。
  5. 水溶性有機化合物をさらに含む請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有物。
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