JP7084021B2 - ターゲティングベクター - Google Patents

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Description

本発明は、ターゲティングベクターに関する。より具体的には、本発明は、遺伝子組み換えにおいて、相同組み換えを劇的に高効率化できる汎用性の高いターゲティングベクターに関する。
遺伝子組み換えマウスは、発生学上および疾患学上において遺伝子機能を理解するための重要なツールである。従来の遺伝子ターゲティング法においては、標的とする遺伝子ごとにデザインされたターゲティングベクターを作製して胚性幹(ES)細胞へ導入し、相同組み換え(HR)によって突然変異が導入される。相同組み換えによる変異の導入は、細胞が本来有するDNAの二重鎖切断(DNA double-strand break:DSB)の修復機構を利用し、DSBの修復の際に、核内に導入されたターゲティングベクターを参照して修復させることによって行われる。ターゲティングベクターは薬剤耐性遺伝子とともに細胞に導入され、薬剤耐性を持った細胞コロニーをスクリーニングすることによって、標的のゲノムに特異的に挿入された標的化ES細胞を選ぶ。標的化ES細胞を野生型胚盤胞に注入することで、標的遺伝子の改変を含むマウスを生成する。
標的遺伝子の改変技術つまりゲノム編集技術は、標的DNAへDSBを導入することを前提としており、DSBを導入するための人工制限酵素の開発と応用とによって発展してきた。人工制限酵素としては、DNA結合ドメインとしてZincフィンガーを持つZFNと、植物の非病原性細菌キサントモナス由来の転写因子TALEタンパク質由来の結合ドメインを持つTALENとの2種類がある。人工制限酵素は、細胞内に導入されると、近接する標的配列に結合して二量体を形成し、二本鎖DNAを切断する。
近年、次世代のゲノム編集技術として、CRISPR-Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats / CRISPR associated proteins)が開発された(例えば、特許文献1、非特許文献1及び2参照)。CRISPR-Cas9法は、Cas9ヌクレアーゼ(DNA切断酵素)と、ヒトU6ポリメラーゼIIIプロモータで発現されたガイドRNAベクターとを共発現させ、特定の標的DNA配列を切断する。Cas9ヌクレアーゼによって二本鎖切断が導入されると、通常どおり、非相同末端連結又は相同組み換え修復の経路によって修復される。CRISPR-Cas9を過剰発現していることから、繰り返し二本鎖切断が導入され、それにより修復エラーが誘導される。非相同末端連結経路では、修復過程のエラーによって、欠失や挿入などの変異を導入することができ、これによって、遺伝子内の変異であれば、フレームシフトを引き起こし遺伝子が破壊される。一方、相同組み換え経路の修復では、ドナーベクターを共導入することによって切断部分に外来の遺伝子を挿入し、遺伝子ノックインやSNPsの置換を行うことが可能である。CRISPR-Cas9法は、ゲノム配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができる遺伝子改変技術として、ZFN及びTALENに続く第三世代のゲノム編集ツールとして広く利用されている。
米国特許第8697359号
Cell 153, 910-918 (2013) Cell 154, 1370-1379 (2013)
ZFNやTALENを用いたゲノム編集では、薬剤耐性遺伝子でスクリーニングしたものの多くは非相同末端連結によるものであり、相同組み換えによるものが得られる効率は低いという問題点がある。CRISPR-Cas9法はゲノム編集効率が改善されているが、改変の導入そのものは細胞の本来のゲノムDNAの二本鎖切断に対する修復機構が担っているという点において、ZFNやTALENを用いた技術と変わりはない。例えば、相同組み換え経路を経る二本鎖切断修復において、ドナーベクターを共導入することによって切断部分に外来の遺伝子を挿入できるものの、このような挿入は、細胞が本来的に有するゲノムDNAの二本鎖切断に対する修復機構に依存している。従って、CRISPR-Cas9法であっても、相同組み換えの効率が高くない欠点は依然として解決されていない。
このように相同組み換え自体は、細胞が本来的に有するゲノムDNAのDSBに対する修復機構が担う内在的な現象であるため、細胞に内在する遺伝子と細胞内に導入された外来遺伝子との間で相同組み換えを起こす確率が人為的な工夫で向上する余地はない、というのが当業者間の認識であった。このため、内在性の相同組み換えの効率を改善することには注目されてこなかった。
そこで本発明の目的は、内在性の相同組み換えを高効率化できるゲノム改変技術を提供することにある。
本発明者は鋭意検討の結果、ターゲティングベクターの末端の形状が相同組み換えの効率に大きな影響をもたらすことを見出した。さらに、本発明者は、ターゲティングベクターンの両端が3’突出形状を有し、且つ突出末端(オーバーハング部)の長さが所定以上である場合に、当業者が予想だにしない劇的な高効率で相同組み換えが起きることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 外来DNA断片と、前記外来DNA断片の両側に、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含むターゲティングベクターであって、
前記ターゲティングベクターの両端がいずれも3’末端が突出したオーバーハング部を有し、前記オーバーハング部が前記相同配列を有し、且つ200mer以上の塩基長を有する、ターゲティングベクター。
項2. 前記オーバーハング部の塩基長が500mer以下である、項1に記載のターゲティングベクター。
項3. 前記外来DNA断片がマーカー遺伝子を含む、項1に記載のターゲティングベクター。
項4. 外来DNA断片と、前記外来DNA断片の両側に、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含むターゲティングベクターであって;前記ターゲティングベクターの両端がいずれも3’末端が突出したオーバーハング部を有し、前記オーバーハング部が前記相同配列を有し且つ200mer以上の塩基長を有するターゲティングベクターを、前記標的DNA部位を染色体上に有する細胞に導入する導入工程を含む、遺伝子改変細胞の製造方法。
項5. 前記導入工程を前核注入法により行う、項4に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
項6. 前記標的DNA部位で二重鎖切断を生じさせる二重鎖切断工程を含まない、項4又は5に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
項7. 前記標的DNA部位で二重鎖切断を生じさせる二重鎖切断工程を含む、項4又は5に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
項8. 前記二重鎖切断工程を、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、又はクリスパー関連(Cas9)ヌクレアーゼにより行う、項7に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
項9. 外来DNA断片と、前記外来DNA断片の両側に、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含む直鎖状DNA構築物であって、両末端が前記相同DNA断片で構成される直鎖状DNA構築物を構築する工程と、
前記直鎖状DNA構築物にエキソヌクレアーゼを作用させることによって、前記直鎖状DNA構築物の両末端において3’末端が200mer以上の塩基長で突出したオーバーハング部を生じさせる工程と、を含む、ターゲティングベクターの製造方法。
項10. 前記オーバーハング部を生じさせる工程において、前記エキソヌクレアーゼとしてT7エキソヌクレアーゼを用い、且つ、前記T7エキソヌクレアーゼを1分20秒以上作用させる、項9又は10に記載のターゲティングベクターの製造方法。
項11. 前記直鎖状DNA構築物を構築する工程と、前記オーバーハング部を生じさせる工程との間に、3’突出末端を生成する制限酵素によって前記DNA構築物の両末端を処理する工程を含む、項9に記載のターゲティングベクターの製造方法。
本発明によれば、内在性の相同組み換えを高効率化できるゲノム改変技術が提供されるため、内在性の相同組み換えの仕組みを利用した正確な遺伝子改変が可能であり、多くの生物系への適用が可能となる。
本発明のターゲッティングベクターの製造方法(製造方法A)の一例を模式的に示す。 本発明のターゲッティングベクターの製造方法(製造方法B)の一例を模式的に示す。 本発明のターゲッティングベクターの製造方法(製造方法B)の他の例を模式的に示す。 本発明のターゲッティングベクターの製造方法(製造方法B)の更に他の例を模式的に示す。 試験例1で得られた、ExoIII活性の試験結果(a)及びT7活性の試験結果(b)を示す。 試験例2で試験したHprt遺伝子ターゲティングベクターに用いた置換ベクターの設計を示す。 試験例2で用いたHprt遺伝子ターゲティングベクターの形状の模式図と、当該ベクターでそれぞれ遺伝子ターゲティングを行った細胞のコロニーの写真とを示す。 試験例3で試験したNudCD2遺伝子ターゲティングベクターに用いた置換ベクターの設計を示す。 試験例3において得られた、NudCD2遺伝子ターゲティングベクターで遺伝子ターゲティングを行った細胞のコロニーの写真(a)と、サザンブロッティング分析結果(b)を示す。 試験例4において試験したRosa26遺伝子ターゲティングベクターに用いた置換ベクターの設計を示す。 試験例4における遺伝子ターゲティングで得られたクローンのサザンブロッティング解析結果を示す。 試験例5において試験したNudCD2遺伝子ターゲティングベクターに用いた置換ベクターの設計を示す。 試験例5における遺伝子ターゲティングで得られたクローンのサザンブロッティング解析結果を示す。
[1.ターゲティングベクター]
本発明のターゲティングベクターは、外来DNA断片と、当該外来DNA断片の両端に相同DNA断片とを含む。相同DNA断片は、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する。外来DNA断片と相同DNA断片とは、直接的に又は他の配列を介して間接的に隣接しうる。本発明のターゲティングベクターの両端は、いずれも3’末端が突出したオーバーハング部を有する。つまり、オーバーハング部は一本鎖DNAである。このオーバーハング部が、上述の相同配列を有する。さらに、オーバーハング部は、200mer以上の塩基長を有する。このような本発明のターゲティングベクターは、相同組み換え効率を劇的に向上させることができる。
[1-1.オーバーハング部(相同DNA断片)]
1本鎖DNAからなるオーバーハング部は、相同DNA断片で構成され、その塩基長は、200merである。オーバーハング部の塩基長が200merを下回ると、相同組み換え効率の所望の向上効果を得ることができない。相同組み換え効率の向上効果をより良好に得る観点から、オーバーハング部の塩基長さは、好ましくは250mer以上、より好ましくは300mer以上で、さらに好ましくは400mer以上であってもよい。オーバーハング部の塩基長の上限としては特に限定されるものではないが、相同組み換え効率の向上効果を良好に得る観点から、例えば500mer以下、好ましくは450mer以下が挙げられる。相同DNA断片の塩基長の範囲は上記の上限値及び下限値を適宜組み合わせることができる。
オーバーハング部を構成する相同DNA断片は、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する。相同DNA断片と標的DNA部位との相同性は、相同組み換えを起こす程度に類似であればよく、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上、最も好ましくは100%である。相同性は、DNAシーケンサ等を用いて解析することにより適宜決定することができる。
本発明のターゲットベクターは、上述のような3’突出型且つ所定塩基長のオーバーハング部を有するという構造上の特徴によって、細胞内に導入された時に、細胞に、DNA二本鎖切断(DSB)が導入されたと認識させることで、細胞が本来有するDNA二本鎖切断修復機構を機能させ、相同組み換えを起こすことができる。このように、本発明のターゲティングベクターは、内在性の相同組み換えの仕組みを引き出して相同組み換えを起こすため、相同組み換え効率を劇的に向上させることができる。このように内在性の相同組み換えの仕組みを利用できるため、本発明のターゲットベクターは、標的DNA部位及び外来配列等に拘束されない極めて広範な汎用性を有するともに、正確な相同組み換えが可能であることから、オフターゲット問題も低減することができる。
[1-2.標的DNA部位]
標的DNA部位は、上述のとおり特に限定されない。例えば、標的DNA部位としては、Hprt遺伝子、Nud遺伝子、Rosa遺伝子等、あらゆる遺伝子の遺伝子座が挙げられる。また、標的DNA部位は、複数の遺伝子座を含んでいてもよい。Hprt遺伝子はX染色体に存在し、XYの細胞において半接合であるため、ターゲティングされたクローンは、Hprt遺伝子の不活性化により6-TG等を用いる陰性選択で容易に同定することができる。Nud遺伝子は核輸送に関わっており、当該遺伝子ファミリーのメンバーとしては、NudC遺伝子、NudE遺伝子、NudF遺伝子、NudG遺伝子等が挙げられ、ターゲティングされたクローンは、Nud遺伝子の不活性化によりLIS1を不安定化させ、細胞質ダイニン欠損又はLIS1欠損に類似した表現型をもたらす。Rosa遺伝子は、成長の全段階で広範に発現し、胚性幹細胞由来の遺伝子導入マウスを生成する目的等で用いることができる。
標的DNA部位の他の例として、HLA遺伝子等の抗原提示遺伝子の遺伝子座等も挙げられる。抗原提示遺伝子の改変は、ドナー(ヒト又は非ヒト動物)の抗原提示遺伝子を、レシピエント(ヒト)と適合性のよい遺伝子に置き換え、移植用臓器の作製を行う目的で行うことができる。この場合、良好な適合性を得るために、抗原提示領域の比較的広い領域を置き換えることが必要となる場合がある。本発明のターゲティングベクターは前述のように内在性の相同組み換えの仕組みを利用した正確な遺伝子改変が可能であるため、このような広い領域を置き換えることにも適している。標的DNA部位としては、上述の例に限られず、ゲノムの広範な領域を設定することができる。ゲノムの広範な領域としては、酵母人工染色体(YAC)やヒト人工染色体(HAC)等ですでにクローニングされているものも挙げられる。例えば、ヒトにおける様々なタイプのHLAの全領域はHACでクローニング及びライブラリー化されており、本発明においても用いることができる。
標的DNA領域においては、相同組み換えによって、本発明のターゲティングベクターの2つの相同DNA断片それぞれと相同な領域に挟まれた領域中に、外来DNA断片が組み込まれる。本発明において、設定される標的DNA領域の長さは限定されない。本発明のターゲティングベクターは、狭い領域だけでなく、上述のように広い領域を置き換えることにも適しているため、標的DNA領域は、例えば、1kbp以上又は10kbp以上であってもよいし、50kbp以上であってもよいし、100kbp以上、200kbp以上、又は300kbp以上であって もよい。標的DNA領域は、その上限において特に限定されるものではないが、例えば500kbp以下が挙げられる。
[1-3.外来DNA断片]
外来DNA断片が有する配列としては特に限定されず、例えば、外来遺伝子、マーカー遺伝子等が挙げられる。これらの外来遺伝子は、単独または適宜組み合わされて使用される。
外来遺伝子としても特に限定されず、目的タンパク質の産生、遺伝子組み換え生物の作製等、遺伝子組み換えの目的に応じて当業者が適宜選択することができる。目的タンパク質の産生を行う場合、外来遺伝子としては、医薬等として有用なタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。遺伝子組み換え生物の作製を行う場合、外来遺伝子としては、宿主が持たない遺伝子(ヒトの疾患遺伝子、マーカー遺伝子等)、宿主が持つ遺伝子を過剰発現させる遺伝子等が挙げられる。本発明のターゲティングベクターにおいては、1種類の外来遺伝子が単独で組み込まれてもよいし、2種以上の外来遺伝子が組み合わされて組み込まれてもよい。
外来遺伝子は、遺伝子発現に関連する配列と適宜組み合わされた発現ユニットとしてターゲティングベクター中に組み込むことができる。外来遺伝子の発現に関連する配列としては、プロモータ配列、転写終結シグナル配列等の遺伝子発現に必要な配列、及び調節エレメント等の遺伝子発現を調節する配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、CMV、SV40、RSV、EF1α、CAG、U6、pGK等が挙げられる。転写終結シグナル配列としては、BGHポリAシグナル配列、SV40ポリAシグナル配列等が挙げられる。調節エレメントとしては、エンハンサー、IRES(internal ribosome entry site)配列、LoxP配列およびFRT配列等が挙げられる。
マーカー遺伝子としては、本発明のベクターに含まれる遺伝子が発現している宿主を特定するために用いられるものであれば特に限定されず、例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、レポーター遺伝子、フランキングプローブ遺伝子等が挙げられる。
薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、等が挙げられる。
蛍光タンパク質遺伝子としては、例えば、GFP、YFP、CFP、BFP、Venus、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどの蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
レポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼなどが挙げられる。
フランキングプローブ遺伝子としては、遺伝子改変細胞の取得後、相同組み換えをサザンブロット法により確認する場合に、検出用プローブとして利用できる任意の配列を当業者が適宜決定することができる。
外来DNA断片の塩基長としては特に限定されず、例えば標的DNA部位の長さ等に応じて適宜決定することができる。本発明のターゲティングベクターは、狭い領域だけでなく、上述のように広い領域を置き換えることにも適しているため、外来DNA断片の塩基長としては、例えば、1kbp以上又は10kbp以上であってもよいし、50kbp以上であってもよいし、100kbp以上、200kbp以上、又は300kbp以上であってもよい。外来DNA断片の塩基長は、その上限において特に限定されるものではないが、例えば500kbp以下が挙げられる。
[1-4.ターゲティングベクターの種類]
本発明のターゲティングベクターの種類としては特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、ウイルスベクター(アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター)、人工染色体ベクター(大腸菌人工染色体(bacterial artificial chromosome:BAC)、P1フアージ由来人工染色体(P1 bacteriophage artificial chromosome:PAC)、酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome:YAC)、ヒト人工染色体(human artificial chromosome:HAC)等)等が挙げられる。これらのベクターは、外来DNA断片の大きさや相同組み換えの目的に応じて当業者によって適宜選択される。
[2.ターゲティングベクターの製造方法]
本発明のターゲティングベクターを製造する方法としては、直鎖状のDNA構築物を構築した後にエキソヌクレアーゼで処理する方法(製造方法A;図1参照)と、環状のDNA構築物を構築した後にニックを生じさせ、さらにニック間の二重鎖の解離を行う方法(製造方法B;図2~図4参照)とが挙げられる。
[2-1.製造方法A]
製造方法Aは、直鎖状DNA構築物を構築する工程a1と、オーバーハング部を生じさせる工程a2(図1)とを含む。製造方法Aは、比較的短いターゲティングベクターの製造に適している。
工程a1では、外来DNA断片と、当該外来DNA断片の両側に、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含む直鎖状DNA構築物を構築する。この直鎖状DNA構築物においては、相同DNA断片が両末端に位置するように構成される。外来DNA断片及び標的DNAについては、上述の「1.ターゲティングベクター」で詳述したとおりである。また、相同DNA断片については、二本鎖DNAであることを除き、上述の「1.ターゲティングベクター」で詳述したとおりである。
直鎖状DNA構築物の構築方法は、従来公知の方法に従って、当業者が適宜選択することができる。例えば、適当な制限酵素等を用いて切断した外来DNA断片配列を含む断片を、ベースとなるベクターの制限酵素部位あるいはマルチクローニングサイトにライゲーション反応により挿入することによって、直鎖状DNA構築物を構築することができる。
直鎖状DNA構築物は、その両末端を除く部分が、製造方法Aにおいてオーバーハング部を生じさせる反応系に対してインタクトである。具体的には、直鎖状DNA構築物は、DNA二本鎖のうち片方の隣接塩基間の結合が切断された構造つまりニックを有していない。これによって、後述の工程a2において、直鎖状DNA構築物の末端以外の不所望の位置にエキソヌクレアーゼが作用することを防止することができる。なお、製造方法Aは、このようにニックを有しない直鎖状DNA構築物を用意する観点から、比較的短いターゲティングベクターの製造に適している。具体的には、製造方法Aは、外来DNA断片の長さが例えば20kbp以下、好ましくは10kbp以下であるターゲティングベクターを製造する場合に用いることが好ましい。製造方法Aにおける外来DNA断片の長さの下限としては、例えば、1kbp以上が挙げられる。
工程a2では、直鎖状DNA構築物にエキソヌクレアーゼを所定時間作用させてオーバーハング部を生じさせる。図1に、工程a2を模式的に示す。エキソヌクレアーゼとしては、DNAの5’末端から加水分解によりモノヌクレオチドを逐次的に遊離する5’-3’エキソヌクレアーゼを用いる。5’-3’エキソヌクレアーゼは、当業者が適宜選択することができる。例えば、エキソヌクレアーゼとして、T7エキソヌクレアーゼ(図1中、T7として示す)、T5エキソヌクレアーゼ、ラムダキソヌクレアーゼ等が挙げられる。
エキソヌクレアーゼによる作用により、直鎖状DNA構築物の末端の二本鎖相同DNA断片から3’突出型の一本鎖DNAを生じる。当該1本鎖DNAの長さが200mer以上となるまでの時間、エキソヌクレアーゼを作用させることによって、当該一本鎖DNAが相同組み換え効率を向上させる長さのオーバーハング部が得られる。オーバーハング部の長さの調整は、エキソヌクレアーゼによる処理時間を調整することで行うことができる。エキソヌクレアーゼによる処理時間は、用いるエキソヌクレアーゼの種類に応じて決定することができる。例えば、T7エキソヌクレアーゼは、1分間に約150塩基を遊離させることが本発明者によって確認されている。従って、エキソヌクレアーゼとしてT7エキソヌクレアーゼを用いる場合、200mer以上の長さのオーバーハング部を得るために、1分20秒以上作用させることが有効である。
製造方法Aにおいては、上記の工程a1と工程a2の間に、3’突出末端を生成する制限酵素によって前記DNA構築物の両末端を処理する工程をさらに含んでもよい。本工程は、工程a2の前処理として行われるものである。本工程によって短い塩基長の3’末端を予め生じさせておくことにより、工程a2におけるエキソヌクレアーゼの反応をより容易に開始することができる。本工程によって用いられる制限酵素としては、3’突出末端を生じさせるものであれば特に限定されず、SfiI、KpnI、Sse8387I、SacI等が挙げられる。
[2-2.製造方法B]
製造方法Bでは、DNA構築物を構築する工程b1と、ニックを生じさせる工程b2及びニック間の二重鎖の解離を行う工程b3(図2~図4)と、を含む。製造方法Bは、長大なターゲティングベクターの製造に適している。
工程b1では、外来DNA断片と、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含むDNA構築物を構築する。外来DNA断片及び標的DNAについては、上述の「1.ターゲティングベクター」で詳述したとおりである。また、相同DNA断片については、二本鎖DNAであることを除き、上述の「1.ターゲティングベクター」で詳述したとおりである。DNA構築物としては、環状DNA構築物及び直鎖状DNA構築物のいずれであってもよい。
環状DNA構築物又は直鎖状DNA構築物の構築方法は、従来公知の方法に従って、当業者が適宜選択することができる。例えば、適当な制限酵素等を用いて切断した外来DNA断片配列を含む断片を、ベースとなるベクターの制限酵素部位あるいはマルチクローニングサイトにライゲーション反応により挿入することによって、環状DNA構築物又は直鎖状DNA構築物を構築することができる。環状DNA構築物のベースとなるベクターとしては、例えば大腸菌人工染色体(bacterial artificial chromosome:BAC)、P1フアージ由来人工染色体(P1 bacteriophage artificial chromosome:PAC)等が挙げられる。直鎖状DNA構築物のベースとなるベクターとしては、例えば酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome:YAC)、ヒト人工染色体(human artificial chromosome:HAC)等が挙げられる。
工程b2では、DNA構築物にニックを生じさせる。環状DNA構築物においては、図2左に示すように、ターゲティングベクターのオーバーハング部に相当する長さ分隔てて、一方の一本鎖と他方の一本鎖とにそれぞれ1箇所ずつ生じさせた一対のニック(図中、Nで示す。)を形成することができる。直鎖状DNA構築物においては、図3左に示すように、ターゲティングベクターのオーバーハング部に相当する長さ分隔てて、一方の一本鎖と他方の一本鎖とに生じさせた一対のニック(図中、Nで示す。)を2個所において形成することができる。
このように所定の距離だけ離間させて一対のニックを生じさせるための方法として、CRISPR-Cas9法のニッカーゼ改変型Cas9を用いるダブルニッキング法を応用することができる。具体的には、環状DNA構築物において、当該所定の距離に応じた2箇所を標的部位とする2つのガイドRNA(gRNA)を設計し、それら2つのgRNAを環状DNA構築物の標的部位に接岸させる。標的部位に接岸したgRNAは、ニッカーゼ改変型Cas9をリクルートし、ニッカーゼ改変型Cas9は当該標的部位それぞれにおいて一本鎖切断を行う。
なお、工程b2において生じさせるニックの数は、環状DNA構築物においては少なくとも一対、直鎖状DNA構築物においては少なくとも一対を2個所分であればよい。後述の工程b3におけるニック間のDNAの解離を容易にするために、当該一対のニックの一方及び/又は他方を複数のニックとしてもよい(つまり、一方の一本鎖に複数個所、及び/又は他方の一本鎖に複数個所、小刻みにニックを生じさせてもよい)。当該複数のニックのそれぞれは、互いに20~30塩基隔たっていることが好ましい。複数のニックを導入するためには、対応するニッカーゼ改変型Cas9及びガイドRNAを複数セット用意すればよい。
工程b3では、ニック間の二重鎖DNAの解離を行う。二重鎖DNAの解離を行う方法としては特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。例えば、熱を加える、あるいはpHをアルカリ性にするなどにより二本鎖DNAを変性させる方法が挙げられる。アルカリ性にする方法では解離後にpHを適切な緩衝液を用いて中性に戻すことができる。上述のように複数のニックが導入されている場合は、小刻みに(例えば20-30塩基ずつ)解離させればよいため、リアニーリングの可能性をより低く、より容易に解離させることができる。ニック間の二重鎖が解離されることによって、一本鎖DNAからなる所定長さの3’突出型オーバーハング部を生じるとともに、本発明のターゲティングベクターを得ることができる。
なお、製造方法Bにおいても、環状DNA構築物は、オーバーハング部を生じさせる反応系に対してインタクトである。製造方法Bにおいては、オーバーハング部の生成にエキソヌクレアーゼを用いないため、環状DNA構築物は、工程b2でニックを生じさせる部位以外にも、gRNAが非対応である限り、他の部位にニックを有していても構わない。従って、製造方法Bは、比較的長いターゲティングベクターの製造に適している。具体的には、製造方法Bは、外来DNA断片の長さが例えば20kbp以上、好ましくは200kbp以上、さらに好ましくは300kbp以上であるターゲティングベクターを製造する場合に用いることが好ましい。製造方法Bにおける外来DNA断片の長さの上限としては、例えば、500kbp以下が挙げられる。
[3.遺伝子改変細胞の製造方法]
上述の本発明のターゲティングベクターを細胞に導入することで、相同組み換えによって標的DNA部位に外来DNA断片が組み込まれた遺伝子改変細胞を効率的に得ることができる。本発明の遺伝子改変細胞の製造方法は、上述の本発明のターゲティングベクターを、標的DNA部位を染色体上に有する細胞に導入する導入工程を含む。
[3-1.導入工程]
本発明の特徴を有するターゲティングベクターが細胞内に導入されると、細胞が、DNA二本鎖切断(DSB)が導入されたと認識することで、細胞が本来有するDNA二本鎖切断修復機構が機能し、相同組み換えが起こる。つまり、本発明の遺伝子改変細胞の製造方法は、内在性の相同組み換えの仕組みを利用するものである。相同組み換えの仕組みは、真核生物においてDNA二本鎖切断修復機構として機能しており、その基本メカニズムは高度に保存されている。従って、本発明の遺伝子改変細胞の製造方法は、任意の真核生物由来の細胞に適用することができる。例えば、哺乳類(例えば、マウス、ラット、ブタ、及びウシ、並びにヒト、コモンマーモセット等の霊長類)、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、線虫、植物等に由来する細胞が挙げられる。
また、細胞の種類としても特に限定されず、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、受精卵等が挙げられる。本発明のターゲティングベクターの相同組み換え効率が高いため、これまで遺伝子挿入による遺伝子改変動物の作製にしか用いられてこなかった受精卵への前核注入によっても相同組み換えを起こすことが可能である。したがって、本発明においては、ターゲティングベクターの導入に受精卵への前核導入を行うことで、相同組み換え細胞の作製をより容易に行うことができる。
ターゲティングベクターの導入方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ウイルスベクター系手法として、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクター等を感染させる方法が挙げられ、非ウイルスベクター系手法として、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法などの物理化学的方法が挙げられる。
なお、本発明の遺伝改変細胞の作製方法は、上述のように、ターゲットベクターの導入によって、細胞にDNA二本鎖切断(DSB)が導入されたと認識させることで相同組み換えを起こすため、標的DNA部位で二重鎖切断を生じさせる二重鎖切断工程は行わなくてもよい。
一方で、本発明の遺伝子改変細胞の作製方法は、標的DNA部位で二重鎖切断を生じさせる二重鎖切断工程を行うことを排除するものではない。二重鎖切断工程を行う場合、生じさせた二重鎖切断の修復に本発明のターゲティングベクターをドナーベクターとして用いることができる。二重鎖切断には、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、又はクリスパー関連(Cas9)ヌクレアーゼなどの酵素を利用することができる。この場合、これらの酵素を発現させる核酸を細胞に導入することができる。
また、ベクターの種類や外来遺伝子によっては、遺伝子改変細胞の取得効率等を勘案して、Cre/LoxPシステムやFlp/FRTシステムなどのような、組み換え酵素を利用した部位特異的導入システムも適宜適用することもできる。
[3-2.その他の工程]
ターゲティングベクターの導入工程の後、遺伝子改変細胞の選択工程を行うことができる。選択工程は、薬剤耐性遺伝子をターゲティングベクターに組み込んだ場合は、陽性選択により行うことができ、目的DNA部位としてHprt遺伝子座を設定した場合は、Hprt遺伝子の不活性化に基づく陰性選択により行うことができる。また、これら陽性選択と陰性選択とを組み合わせて高い精度で細胞選択を行ってもよい。その他、プロモータートラップ法やポリAトラップ法なども適宜組み合わせて利用することができる。
選択工程によって取得された遺伝子改変細胞は、必要に応じ、ゲノムDNAを抽出して、PCR法やサザンブロット法等によって相同組み換えを確認することができる。遺伝子改変細胞は、その後、遺伝子組み換えの目的に応じた工程に供される。例えば目的タンパク質の産生を目的とする場合は、適当な培養方法(例えば、バッチカルチャー法、フェッド-バッチカルチャー法、還流培養法等)によって培養することができる。また、遺伝子組み換え生物の作製を目的とする場合、遺伝子改変細胞を初期胚と凝集させ、偽妊娠個体に移植してキメラ個体を作製し、野生型個体と交配させてヘテロF1世代を得た後、F1世代同士を交配してホモF2世代を得ることができる。
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[試験例1:エキソヌクレアーゼIII(ExoIII)およびT7エキソヌクレアーゼ(T7)の酵素活性の推定]
ベクターを蛍光レポーターSYBR Green I(Invitrogen)でインターカレートし、ExoIIIまたはT7で消化しながら、リアルタイム定量的PCRを用いてdsDNAを検出することで、ExoIIIまたはT7の酵素活性を調べた。
eGFP空ベクター(Clontech)を、EcoRI(5’突出末端を残す)、SmaI(平滑末端を残す)、またはKpnI(3’突出末端を残す)で直線化した。直線化したeGFP空ベクターをSYBR Green Iと混合し、その後、ExoIIIまたはT7で処理した。各ウェルにおいては、20μlの反応混合物中、10μg eGFP空ベクターおよび20ユニットの酵素/ウェルを含有させた。ベクターを、ExoIII及びT7で、それぞれ、37℃および30℃で50~60分間処理した。ExoIIIまたはT7の消化活性を、Applied Biosystems(登録商標)7500リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)により、1分ごとの蛍光強度の低下から推定した。実験は5回行い、得られたデータを平均した。
図5に、SYBR Greenを用いた、ExoIII活性の試験結果(a)及びT7活性の試験結果(b)を示す。図中、X軸は経過時間(分)を示し、Y軸は、SYBR Greenの相対強度(出発点を1.0として標準化されている)を示す。KpnIによって3’突出末端を有するように直線化されたeGFP空ベクターの場合は、ExoIII消化に対して相対的に耐性の傾向であったが、T7は、いずれの制限部位に対しても非常に活性が高かった。なお、eGFP空ベクターは長さが4.7kbpである。蛍光強度の低下を考慮し、ExoIIIの消化速度は100塩基/分、T7の消化速度は150塩基/分と導出された。
[試験例2:Hprt遺伝子ターゲティング:ターゲティングベクターの末端形状及びオーバーハング部塩基長の検討]
X染色体にあるHprt遺伝子を用いて、末端形状及び/又は突出末端のオーバーハング部の塩基長が異なるターゲティングベクターを作成し、それらターゲティングベクターによる相同組み換え効率を検討した。
マウスHprt遺伝子の相同ターゲティングのため、図6に示す置換ベクターを設計した。つまり、Hprt遺伝子のエクソン3へ挿入されたネオマイシン耐性カセット(V. L. Tybulewicz, C. E. Crawford, P. K. Jackson, R. T. Bronson, R. C. Mulligan, Neonatal lethality and lymphopenia in mice with a homozygous disruption of the c-abl proto-oncogene. Cell 65, 1153-1163 (1991))を含有するターゲティングベクターを構築した。このベクターは、PCR増幅により、アイソジェニック129/SvマウスゲノムDNAから単離されたHprtゲノム配列から構築した。図6に示すように、ターゲティングベクターは、Hprt遺伝子のエクソン3および隣接イントロンを置換した、ネオマイシン耐性カセットPGK-neoを有し、両側に、Hprt遺伝子の3.4kbp相同領域を有する。
C. Deng, A. Wynshaw-Boris, F. Zhou, A. Kuo, P. Leder, Fibroblast growth factor receptor 3 is a negative regulator of bone growth. Cell 84, 911-921 (1996)における記載に従って、上述のベクター25μgを、表1及び表2に記載の条件に従って酵素処理した。なお、比較例1はコントロール(ベクターなし)、比較例2は酵素処理する前の環状ベクター、比較例3はNotIで直線化したベクター(平滑末端)、比較例4-1はNotIで直線化した後にExoIIIで1分処理したベクター(片側5’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は100mer)、比較例4-2はNotIで直線化した後にExoIIIで3分処理したベクター(片側5’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は300mer)、比較例4-3はNotIで直線化した後にExoIIIで5分処理したベクター(片側5’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は500mer)、比較例5-1はNotIで直線化した後にT7で1分処理したベクター(片側3’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は150mer)、比較例5-2はNotIで直線化した後にT7で3分処理したベクター(片側3’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は450mer)、比較例5-3はNotIで直線化した後にT7で5分処理したベクター(片側3’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は750mer)、比較例6はEcoRIとNotIとの二重消化(ベクター骨格も除去)を行ったベクター(平滑末端)、比較例7-1はEcoRIとNotIとの二重消化を行った後にExoIIIで1分処理したベクター(両側5’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は100mer)、比較例7-2はEcoRIとNotIとの二重消化を行った後にExoIIIで3分処理したベクター(両側5’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は300mer)、比較例8はEcoRIとNotIとの二重消化を行った後にT7で1分処理したベクター(両側3’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は150mer)、実施例1はEcoRIとNotIとの二重消化を行った後にT7で3分処理したベクター(両側3’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長は450mer)である。
これらの酵素で処理したベクターを、TC1胚性幹(ES)細胞へトランスフェクションした。エレクトロポレーション後、ES細胞を、マイトマイシン処理されたMEF細胞上へ、100mm直径のペトリ皿1枚あたり106個のES細胞濃度となるように蒔いた。細胞に、一日おきに新鮮な培地を供給した。
37℃での24時間のインキュベーション後、培地にG418(250μg/ml、Roche)を追加した。細胞に一日おきに新鮮な培地を供給し、G418選択下で7日間維持し、続いて、G418プラス6-チオグアニン(6-TG:1μg/ml、Sigma-Aldrich)における選択下で7日間、維持した。これらの期間終了時点で、生存するコロニーの数を決定した。
Hprt遺伝子ターゲティングの結果として、各ベクターの形状の模式図とコロニーの写真とを図7に示す。図7中のコロニーの写真においては、最初の7日間のG418のみによる選択(左側コロニー写真)、及び次の7日間のG418及び6-TGによる選択(右側コロニー写真)を示す。また、各ベクターの形状の概要を表1に、コロニーの数をまとめた結果を表2に示す。表2では、最初の7日間のG418のみによる選択でのコロニー数、6-TG耐性のコロニー数に対するG418及び6-TGによる選択でのコロニー数の比を示す。
Figure 0007084021000001
Figure 0007084021000002
相同組み換えによりネオマイシン耐性遺伝子が導入された細胞は、G418に対する耐性を有し、相同組み換えによりHprt遺伝子を欠損した細胞は、6-TGに対する耐性を有する。ターゲティングベクターのトランスフェクションなしの場合(比較例1)、G418及び6-TGの選択後には、ごくわずかなコロニーが存在したのみであった。表2のG418及び6-TGによる選択でのコロニー数に示されるように、オーバーハング部を有さないリニアベクターを用いた比較例3及び比較例6は、相同組み換え効率は殆ど向上しなかった。また、オーバーハング部を有さないリニアベクターを用いた比較例3と、片側5’オーバーハングのターゲティングベクターを用いた比較例4-1~比較例4-3とを比較すると、片側5’オーバーハングのターゲティングベクターを用いた比較例4-1~比較例4-3では、それぞれ、相同組み換え効率は約2倍、約4倍、及び約5倍程度しか向上しなかった。同様に、オーバーハング部を有さないリニアベクターを用いた比較例6と、両側5’オーバーハングのターゲティングベクターを用いた比較例7-1~比較例7-2とを比較しても、両側5’オーバーハングのターゲティングベクターを用いた比較例7-1~比較例7-2では、それぞれ、相同組み換え効率は約2倍、及び約4倍程度しか向上しなかった。
そして、オーバーハング部を有さないリニアベクターを用いた比較例3と、片側3’オーバーハングのターゲティングベクターを用いた比較例5-1~5-3とを比較しても、片側3’オーバーハングのターゲティングベクターを用いた比較例5-1~5-3では、それぞれ、相同組み換え効率は向上しないか、せいぜい3倍程度しか向上しなかった。これに対し、両側3’オーバーハングであって、3’オーバーハング部の塩基長が150であるターゲティングベクターを用いた比較例8では、相同組み換え効率がオーバーハング部を有さないリニアベクターを用いた比較例6に比べ25倍に向上した。
さらに、両側3’オーバーハングであって、3’オーバーハング部の塩基長が450merであるターゲティングベクターを用いた実施例1では、相同組み換え効率は、オーバーハング部を有さないリニアベクターを用いた比較例6に比べると40倍を優に超え、比較例3に比べると400倍を優に超える向上効果が発揮された。実証された高い相同組み換え効率は、当業者がこれまで全く予想することができないほどの驚くべき効率であった。このように、本発明のターゲティングベクターを用いると、相同組み換え効率を劇的に向上させることができた。
[試験例3:NudCD2遺伝子ターゲティング]
本発明のターゲットベクターが、ES細胞の他の遺伝子座にも適用可能であることを検証するため、マウスNudCD2遺伝子についてターゲティングを行った。
マウスNudCD2遺伝子の相同ターゲティングのため、図8に示す置換ベクターを設計した。図8に示すように、ターゲティングベクターは、NudCD2遺伝子の最初のエクソンの前に挿入された、ネオマイシンカセットPGK-neoを含有する。図8に示すように、両端にそれぞれ1個目と2個目のloxP配列対を有するネオマイシンカセットを、エクソン1の始まりへ挿入し、3個目のloxP配列を、NudCD2のイントロン1へ挿入した。相同組み換えに基づいた置換が起こると新規のKpnI部位が導入される。従って、得られたクローンのDNAをKpnIで消化した後、フランキングプローブによりサザンブロット解析を行うことで、相同組み換え事象を検出することができる。
上述のベクター25μgを、表3のModificationに記載の条件に従って酵素処理した。なお、比較例9は、EcoRIとNotIとの二重消化(ベクター骨格も除去)で直線化したベクター(平滑末端)、実施例2は、EcoRIとNotIとで直線化した後にT7で3分処理したベクター(両側3’オーバーハング、オーバーハング部の塩基長さは450塩基)である。
これらの酵素で処理したベクターを、TC1胚性幹(ES)細胞へトランスフェクションした。エレクトロポレーション後、ES細胞を、マイトマイシン処理されたMEF細胞上へ、100mm直径のペトリ皿1枚あたり106個のES細胞濃度となるように蒔いた。細胞に、一日おきに新鮮な培地を供給した。
37℃での24時間のインキュベーション後、培地にG418(250μg/ml、Roche)を追加した。細胞に一日おきに新鮮な培地を供給し、G418選択下で7日間維持した。それに引き続き、フランキングプローブを用いるサザンブロッティング分析を行った。ターゲットとされた対立遺伝子へ新しく導入されたKpnI部位である制限多型によって、相同組み換えクローンを決定した。
図9に、G418による7日間の選択後のES細胞のコロニー(a)、及びKpnI消化後のG418耐性クローンの、フランキングプローブを用いたサザンブロッティング分析結果(b)を示す。WTで表されるバンドは、野生型対立遺伝子(3.1kbp)を示し、HRで表されるバンドは、導入されたターゲット遺伝子(2.5kbp)を示す。また、表3に、G418耐性クローンに関する遺伝子型分析の結果を示す。比較例9では、全168個のG418耐性コロニーのうちわずか5個のクローンが相同組み換え体であったことに対し、実施例2では、全252個のG418耐性コロニーのうち237個ものクローンが相同組み換え体であった。これらの結果が示すように、本発明のターゲットベクターを用いることで、相同組み換えクローンの数を劇的に増加させることができた。しかも、実施例2では237個の相同組み換え体のうち、22個のクローンが両アレルとも相同組み換えを起こしたことさえ確認された。
Figure 0007084021000003
[試験例4:前核注入によるマウス受精卵のRosa26遺伝子ターゲティング]
本発明のターゲティングベクターを用い、マウス受精卵への前核注入により、Rosa遺伝子座の直接遺伝子ターゲティングを行った(実施例3)。
前核注入によって直接Rosa26遺伝子をターゲティングするため、図10に示す置換ベクター(Rosa26-H2B-eGFP)を設計した。Rosa26-H2B-eGFPは、T. Abe, H. Kiyonari, G. Shioi, K. Inoue, K. Nakao, S. Aizawa, T. Fujimori, Establishment of conditional reporter mouse lines at ROSA26 locus for live cell imaging. Genesis 49, 579-590 (2011)に従って作製した。相同組み換えに基づいた置換が起こるとサザンブロッティング分析のための新規のEcoRI部位が導入される。
設計したベクターRosa26-H2B-eGFPを、制限酵素SfiI処理によってベクター骨格を除去し、T7で3分処理することによって、ターゲティングベクターを得た。
得られたターゲティングベクターを、C57BL/6マウスの受精卵に注入した。合計459個の受精卵に前核注入を行い、110匹の仔を得た。得られた仔の尾からDNAを抽出し、Rosa26遺伝子のフランキングプローブを用いるサザンブロッティング分析に供した。ターゲットにされた対立遺伝子へ新しく導入されたEcoRI部位における制限多型によって相同組み換え事象を決定した。つまり、EcoRI消化後の多型を、図10に示されるフランキングプローブによって検出した。また、λDNAのHindIII消化物をサイズマーカーとして用いた。
サザンブロッティング分析結果を図11に示す。WTで表されるバンドは、野生型対立遺伝子(15.5kbp)を示し、HRで表されるバンドは、導入されたターゲット遺伝子(10.5kbp)を示す。この実施例3によると、2つの相同組み換え体が見出された。導入されたターゲット遺伝子に由来するバンドの検出強度は、野生型よりも低かった。この結果は、産生されたRosaターゲティングマウスがモザイクであることを示している。このことは、外来DNAの導入が染色体DNAの複製の第1ラウンド後に起こったことを意味している。
[試験例5:前核注入によるマウス受精卵のNudCD2遺伝子ターゲティング]
前核注入によるマウス受精卵の直接的遺伝子ターゲティングが他の遺伝子座にも適用可能であることを検証するため、マウス受精卵への前核注入により、NudCD2遺伝子座の直接遺伝子ターゲティングを行った(実施例4)。
前核注入によって直接NudCD2遺伝子をターゲティングするため、図12に示すネオマイシンカセットを有しない置換ベクターを設計した。図12に示すように、ベクターにおいて、最初のエクソンを2個のloxP部位に隣接させた。相同組み換えに基づいた置換が起こるとサザンブロッティング分析のための新規のApaI部位が導入される。
設計したベクターを、制限酵素SfiI処理によってベクター骨格を除去し、T7で3分処理することによって、ターゲティングベクターを得た。
得られたターゲティングベクターを、FVBマウスの受精卵に前核注入した。合計213個の受精卵に前核注入を行い、41匹の仔を得た。得られた仔の尾からDNAを抽出し、NudCD2遺伝子のフランキングプローブを用いるサザンブロッティング分析に供した(λDNAのHindIII消化物をサイズマーカーとして用いた。)。ターゲットにされた対立遺伝子へ新しく導入されたApaI部位における制限多型によって相同組み換え事象を決定した。つまり、ApaI消化後の多型を、図12に示されるフランキングプローブによって検出した。また、λDNAのHindIII消化物をサイズマーカーとして用いた。
サザンブロッティング分析結果を図13に示す。WTで表されるバンドは、野生型対立遺伝子(15.5kbp)を示し、HRで表されるバンドは、導入されたターゲット遺伝子(11kbp)を示す。この実施例4によると、1つの相同組み換え体が見出された。導入されたターゲット遺伝子に由来するバンドの検出強度は、野生型と同様であった。このことは、外来DNAの導入が染色体DNAの複製の第1ラウンド後に起こったことを意味している。

Claims (11)

  1. 外来DNA断片と、前記外来DNA断片の両側に、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含むターゲティングベクターであって、
    前記ターゲティングベクターの両端がいずれも3'末端が突出したオーバーハング部を有し、前記オーバーハング部が前記相同配列を有し、且つ200mer以上の塩基長を有する、ターゲティングベクター。
  2. 前記オーバーハング部の塩基長が500mer以下である、請求項1に記載のターゲティングベクター。
  3. 前記外来DNA断片がマーカー遺伝子を含む、請求項1に記載のターゲティングベクター。
  4. 外来DNA断片と、前記外来DNA断片の両側に、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含むターゲティングベクターであって;前記ターゲティングベクターの両端がいずれも3'末端が突出したオーバーハング部を有し、前記オーバーハング部が前記相同配列を有し且つ200mer以上の塩基長を有するターゲティングベクターを、前記標的DNA部位を染色体上に有する細胞に導入する導入工程を含み、
    前記細胞が、真核細胞又はヒト細胞であり、前記ヒト細胞が人工多能性幹細胞である、遺伝子改変細胞の製造方法(但し、ヒトを作製する場合を除く)
  5. 前記導入工程を前核注入法により行う、請求項4に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
  6. 前記標的DNA部位で二重鎖切断を生じさせる二重鎖切断工程を含まない、請求項4又は5に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
  7. 前記標的DNA部位で二重鎖切断を生じさせる二重鎖切断工程を含む、請求項4又は5に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
  8. 前記二重鎖切断工程を、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、又はクリスパー関連(Cas9)ヌクレアーゼにより行う、請求項7に記載の遺伝子改変細胞の製造方法。
  9. 外来DNA断片と、前記外来DNA断片の両側に、標的DNA部位の一部と相同組み換え可能な相同配列を有する相同DNA断片とを含む直鎖状DNA構築物であって、両末端が前記相同DNA断片で構成される直鎖状DNA構築物を構築する工程と、
    前記直鎖状DNA構築物にエキソヌクレアーゼを作用させることによって、前記直鎖状DNA構築物の両末端において3'末端が200mer以上の塩基長で突出したオーバーハング部を生じさせる工程と、を含む、ターゲティングベクターの製造方法。
  10. 前記オーバーハング部を生じさせる工程において、前記エキソヌクレアーゼとしてT7エキソヌクレアーゼを用い、且つ、前記T7エキソヌクレアーゼを1分20秒以上作用させる、請求項9に記載のターゲティングベクターの製造方法。
  11. 前記直鎖状DNA構築物を構築する工程と、前記オーバーハング部を生じさせる工程との間に、3'突出末端を生成する制限酵素によって前記DNA構築物の両末端を処理する工程を含む、請求項9又は10に記載のターゲティングベクターの製造方法。


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