JP7200687B2 - 方向性電磁鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、変圧器等の鉄心材料として用いられる。方向性電磁鋼板には、高磁束密度及び低鉄損等の磁気特性が要求される。
磁気特性を確保するため、方向性電磁鋼板の結晶方位は、例えば鋼板面に平行に{110}面が揃い、かつ圧延方向に〈100〉軸が揃った方位(ゴス方位)に制御される。ゴス方位の集積を高めるために、AlN、MnS等をインヒビターとして用いた二次再結晶プロセスが広く活用されている。
通常、鉄損を低下させることを目的として、方向性電磁鋼板の表面には、皮膜が形成されている。この皮膜は、方向性電磁鋼板に張力を付与することにより、鋼板単板としての鉄損を低下させる。この皮膜はさらに、方向性電磁鋼板を積層して使用する際に、鋼板間の電気的絶縁性を確保することにより、鉄心としての鉄損を低下させる。
皮膜が形成された方向性電磁鋼板としては、母鋼板の表面に、Mgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼純皮膜が形成されて、さらに、仕上げ焼純皮膜の表面上に絶縁皮膜が形成されたものがある。つまり、この場合、母鋼板上の皮膜は、仕上げ焼鈍皮膜と、絶縁皮膜とを含む。仕上げ焼純皮膜及び絶縁皮膜の各々は、絶縁性を確保する機能及び母鋼板へ張力を付与する機能の両方の機能を担っている。
Mgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼純皮膜は、鋼板に二次再結晶を生じさせる仕上げ焼鈍において、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤と母鋼板とが、600~1200℃で30時間以上施される熱処理中に反応することにより形成される。
絶縁皮膜は、仕上げ焼鈍後の母鋼板に、例えば、燐酸又は燐酸塩、コロイド状シリカ、及び、無水クロム酸又はクロム酸塩を含むコ-ティング溶液を塗布し、300~950℃で10秒以上焼付け乾燥することにより形成される。
皮膜が、絶縁性及び母鋼板への張力付与の機能を発揮するために、これらの皮膜(仕上げ焼鈍皮膜及び絶縁皮膜)と母鋼板との高い密着性が要求される。
従来、上記密着性は、主として、母鋼板と仕上げ焼純皮膜との界面の凹凸によるアンカー効果によって確保されてきた。しかしながら、この界面の凹凸は、方向性電磁鋼板が磁化される際の磁壁移動の障害にもなるので、低鉄損化を妨げる要因にもなっている。
そこで、さらに低鉄損化するために、Mgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼純皮膜を存在させずに、上述の界面を平滑化した状態で絶縁皮膜の密着性を確保する技術が、たとえば、特開昭49-096920号公報(特許文献1)及び国際公開第2002/088403号(特許文献2)に提案されている。
特許文献1に開示された方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上げ焼純皮膜を酸洗等により除去し、母鋼板表面を化学研磨又は電界研磨で平滑にする。特許文献2に開示された方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上げ焼鈍時にアルミナ(Al)を含む焼鈍分離剤を用いて、仕上げ焼鈍皮膜の形成自体を抑制して、母鋼板表面を平滑化する。しかしながら、特許文献1及び特許文献2の製造方法において、平滑な母鋼板表面に接触して(母鋼板表面上に直接)絶縁皮膜を形成する場合、母鋼板表面に対して絶縁皮膜が密着しにくい(十分な密着性が得られない)という問題があった。
このような課題に対し、平滑化された母鋼板表面に対する皮膜の密着性を高めるため、母鋼板と絶縁皮膜との間に中間層(下地皮膜)を形成する技術が、たとえば、特開平05-279747号公報(特許文献3)、特開平06-184762号公報(特許文献4)、特開平09-078252号公報(特許文献5)、及び、特開平07-278833号公報(特許文献6)に提案されている。
特許文献3には、燐酸塩又はアルカリ金属珪酸塩の水溶液を母鋼板表面に塗布して、母鋼板表面上に中間層を形成する方法が開示されている。また、特許文献4~特許文献6には、母鋼板に対して、温度及び雰囲気を適切に制御した数十秒~数分の熱処理を施すことにより、外部酸化型の酸化珪素膜を中間層として形成する方法が開示されている。
特許文献3~特許文献6にて提案された中間層は、絶縁皮膜の密着性の向上と、母鋼板と皮膜との界面における凹凸の形成抑制等による平滑化による鉄損の低下にある程度の効果を発揮した。しかしながら、密着性についてはさらなる向上が求められた。
そのため、特開2002-322566号公報(特許文献7)、特開2002-363763号公報(特許文献8)、特開2003-313644号公報(特許文献9)、特開2003-171773号公報(特許文献10)、特開2002-348643号公報(特許文献11)、及び、特開2004-342679号公報(特許文献12)に示す新たな技術が提案された。
特許文献7には、酸化珪素を主体とする外部酸化膜に加え粒状外部酸化物を形成する技術が開示されている。また、特許文献8には、酸化珪素を主体とする外部酸化型酸化膜の空洞を制御する技術が開示されている。
特許文献9~特許文献11には、酸化珪素主体の外部酸化膜に金属鉄や金属系酸化物(例えば、Si-Mn-Cr酸化物、Si-Mn-Ca-Ti酸化物、Fe酸化物等)を含有させることにより、外部酸化膜を改質する技術が開示されている。
特許文献12には、酸化反応によって生成した酸化珪素を主体とする酸化膜と塗布焼付けによって形成した酸化珪素を主体とするコーティング層とを含む複層の中間層を有する方向性電磁鋼板が開示されている。
上述のとおり、酸化珪素を主体とする外部酸化膜を中間層として用いることにより、母鋼板表面が平滑化されていても、中間層を介して絶縁皮膜の母鋼板に対する密着性を確保し、かつ、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板が提案されている。
ところで、方向性電磁鋼板は、トランスの鉄心として巻きコアやEIコア等に利用される場合、所望の形状に加工された後、空気中の水分、又は、鉄心が浸漬される油中の水分等と接触する。そのため、耐水性が求められる。しかしながら、上述の酸化珪素を主体とする中間層を有する方向性電磁鋼板の特許文献では、水による絶縁皮膜の剥離に関する記載はなく、絶縁皮膜の耐水性を課題として検討している文献はない。本発明者らの検討の結果、特許文献7~12のように「母鋼板/中間層/絶縁皮膜」の三層構造とした場合、広く実用化されている一般的な方向性電磁鋼板の「母鋼板/Mgを含有する酸化皮膜/絶縁皮膜」の三層構造とした場合に比べて、絶縁皮膜の耐水性が低い場合があることが分かった。
特開昭49-096920号公報 国際公開第2002/088403号 特開平05-279747号公報 特開平06-184762号公報 特開平09-078252号公報 特開平07-278833号公報 特開2002-322566号公報 特開2002-363763号公報 特開2003-313644号公報 特開2003-171773号公報 特開2002-348643号公報 特開2004-342679号公報
上述したように、現在、広く実用化されている一般的な方向性電磁鋼板の皮膜構造は、図1に示される「母鋼板1/Mgを含有する酸化皮膜2A/絶縁皮膜3」の三層構造を基本構造としている。絶縁皮膜は、一般的には非晶質燐酸塩とコロイド状シリカが混合して形成されたセラミックス皮膜である。
一方、鉄損の低減及び、母鋼板と絶縁皮膜との密着性の確保のために、母鋼板と皮膜との界面形態をマクロ的に均一で平滑とした方向性電磁鋼板の皮膜構造は、単純には、図2に示されるような「母鋼板1/中間層2B/絶縁皮膜3」の三層構造を基本構造とすることが好ましい。
しかしながら、図2の構成を有する方向性電磁鋼板の場合、図1に示すMgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼純皮膜を有する方向性電磁鋼板よりも、絶縁皮膜の耐水性が低い場合がある。耐水性の低下は、皮膜(中間層及び絶縁皮膜)が薄くなると顕著になる。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされた。本発明の目的は、酸化珪素を主体とする中間層を有し、絶縁皮膜の密着性及び耐水性に優れる、方向性電磁鋼板を提供することである。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)母鋼板と、前記母鋼板の表面上に直接接して形成されており、かつ、酸化珪素を主体とする中間層と、前記中間層の表面上に形成されている絶縁皮膜とを備え、前記絶縁被膜がボイドを含み、前記絶縁皮膜中の空洞率が、面積率で5~30%である、方向性電磁鋼板。
(2)(1)に記載の方向性電磁鋼板であって、前記ボイドの平均径が、前記絶縁皮膜の膜厚の1/4以下かつ1/20以上である、方向性電磁鋼板。
(3)(1)または(2)に記載の方向性電磁鋼板であって、前記絶縁皮膜が、P、OおよびSiを含む化合物と、Crとからなり、前記絶縁皮膜中の平均Cr濃度が、0.1原子%以上である、方向性電磁鋼板。
(4)(1)~(3)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板であって、前記ボイドの平均重心位置から、前記絶縁皮膜と前記中間層との界面までの距離が、前記絶縁皮膜の膜厚の4/5以下である、方向性電磁鋼板。
(5)(1)~(4)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板であって、前記絶縁皮膜の表面において、Cr濃度が前記絶縁皮膜全体の平均Cr濃度の80%未満であるCr欠乏領域の総面積率が50%以下である、方向性電磁鋼板。
(6)スラブを準備する準備工程と、前記スラブを1280℃以下で加熱した後、熱間圧延を実施して方向性電磁鋼板用熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、前記方向性電磁鋼板用熱延鋼板に対して熱延板焼鈍を実施して焼鈍鋼板を製造する熱延板焼鈍工程と、前記焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して母鋼板を製造する脱炭焼鈍工程と、前記母鋼板に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、前記焼鈍分離剤塗布後の前記母鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、仕上げ焼鈍皮膜が形成された前記母鋼板を製造する仕上げ焼鈍工程と、必要に応じて、仕上げ焼鈍皮膜を除去し、前記母鋼板の表面粗さをRaで1.0μm以下の平滑面にする母鋼板表面平滑化工程と、仕上げ焼鈍工程又は母鋼板平滑化工程後の前記母鋼板に対して熱処理を実施して、前記母鋼板の表面と接触し、酸化珪素を主体とする中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層の表面に絶縁皮膜を形成する絶縁皮膜形成工程と、を備え、前記絶縁皮膜形成工程は、前記母鋼板の表面に形成された前記中間層の前記表面上に、燐酸塩、コロイド状シリカ、及び無水クロム酸又はクロム酸塩を含むコーティング溶液を塗布する塗布工程と、前記コーティング溶液が塗布された前記母鋼板を加熱して、600~1150℃で5~300秒焼付け処理を行って前記絶縁皮膜を形成する焼付け工程と、を含み、前記焼付け工程では、前記母鋼板の加熱の際、100~600℃の温度域での平均加熱速度を10~200℃/秒とする、方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明の方向性電磁鋼板は、母鋼板の表面上に酸化珪素を主体とする中間層を有し、絶縁皮膜に空洞が形成されているので、絶縁皮膜の密着性に優れている。また、本発明の方向性電磁鋼板はさらに、絶縁皮膜がCrを含有する場合は、密着性の向上に加え、耐水性の低下を抑制することができる。
従来の方向性電磁鋼板の断面図の例を示す模式図である。 酸化珪素を主体とする中間層2Bを有する方向性電磁鋼板の断面図の例を示す模式図である。 本実施形態に係る方向性電磁鋼板の断面図の例を示す模式図である。
本発明者らは、上述した課題を解決する手法について検討を行った。
本発明者らはまず、絶縁皮膜の、中間層を介した母鋼板に対する密着性(以下、単に絶縁皮膜の母鋼板に対する密着性という場合がある)を高める方法について検討を行った。検討の結果、絶縁皮膜中に、複数のボイド(空隙)が存在すれば、絶縁皮膜の母鋼板に対する密着性が高まると考えた。この理由は以下のように考えている。絶縁皮膜中にボイドが存在すれば、曲げ等の応力が加わった際に、ボイドが応力緩和サイトとして働く。応力が緩和されれば、母鋼板と中間層との界面、中間層と絶縁皮膜との密着界面に作用する応力が低くなる。その結果、絶縁皮膜の母鋼板に対する密着性が高まると考えられる。
本発明者らはさらに、酸化珪素を主体とする中間層が母鋼板表面と接触して形成されており、かつ、中間層の表面上に絶縁皮膜が接触して形成されている方向性電磁鋼板において、絶縁皮膜の耐水性が低下する原因について検討を行った。
発明者らはまず、酸化珪素を主体とする中間層が母鋼板表面と接触して形成されており、かつ、中間層の表面上に絶縁皮膜が接触して形成されている方向性電磁鋼板において、絶縁皮膜がCrを含有する場合に、絶縁皮膜の耐水性が低下することを見出した。そこで、絶縁皮膜がCrを含有する場合に、絶縁皮膜の耐水性が低下する原因について、さらに検討を行った。
Crを含有する絶縁皮膜の耐水性の低下は、中間層が薄くなるほど顕著になる。そのため、本発明者らは、絶縁皮膜の耐水性の低下は、母鋼板と絶縁皮膜との間の物質移動に伴う作用に関連しているものと考えた。さらに検討した結果、本発明者らは、酸化珪素を主体とする中間層と絶縁皮膜とを有する方向性電磁鋼板において、絶縁皮膜の耐水性が低下するメカニズムは、次のとおりであると考えた。
すなわち、絶縁皮膜の焼付け時に、熱拡散により、母鋼板中のFeが母鋼板から中間層を通って絶縁皮膜に侵入し、Feが絶縁皮膜内に拡散する。絶縁皮膜中のFe濃度が低い場合、絶縁皮膜のマトリクスである非結晶性燐酸塩中にはCrを相当量固溶することができる。しかしながら、絶縁皮膜中のFe濃度が高まれば、Feが絶縁皮膜中のCrと結合して、Fe及びCrの結晶性燐化物((Fe,Cr))が形成される。Fe及びCrの結晶性燐化物が形成されれば、絶縁皮膜のマトリクス中にCrが欠乏している領域(以下、Cr欠乏領域)が形成される。絶縁皮膜中に占めるCr欠乏領域の割合が大きくなるほど、絶縁皮膜の耐水性が低下する。
以上の絶縁皮膜の耐水性低下のメカニズムに基づいて、本発明者らは、Crを含有する絶縁皮膜の耐水性の低下を抑制するためには、絶縁皮膜の焼付け時において、母鋼板から絶縁皮膜にFeが侵入するのを抑制することが有効であると考えた。
このような考え方に基づき、本発明者らはさらに検討を進めた。その結果、焼付け時、Feの拡散限界温度である550℃以下の温度域において、絶縁皮膜中に意図的にボイド(バルク欠陥)を導入することにより、Feの拡散経路をボイドにより物理的に遮断でき、Feが絶縁皮膜のボイドよりも表面側に侵入するのを抑制できることを見出した。
以上の知見に基づいて完成した方向性電磁鋼板は、母鋼板と、母鋼板の表面上に直接接して形成されて、かつ酸化珪素を主体とする中間層と、中間層の表面上に形成されている絶縁皮膜とを備える。中間層は母鋼板の表面に直接接して形成されており、Mgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼鈍皮膜が表面に実質的に存在しない。また、絶縁皮膜中の空洞率は5~30%である。
上記絶縁皮膜が、P、OおよびSiを含む化合物と、Crとからなり、絶縁皮膜中の平均Cr濃度は0.1原子%以上である場合、絶縁皮膜の耐水性にも優れるので好ましい。
より好ましくは、上記絶縁皮膜の表面において、Cr濃度が絶縁皮膜全体の平均Cr濃度の80%未満であるCr欠乏領域の、皮膜全体に対する総面積率が、50%以下である。
また、このような方向性電磁鋼板は、
(S0)スラブを準備する準備工程と、
(S1)前記スラブを1280℃以下で加熱した後、熱間圧延を実施して方向性電磁鋼板用熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、
(S2)前記方向性電磁鋼板用熱延鋼板に対して熱延板焼鈍を実施して焼鈍鋼板を製造する熱延板焼鈍工程と、
(S3)前記焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、
(S4)前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して母鋼板を製造する脱炭焼鈍工程と、
(S5)前記母鋼板に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
(S6)前記焼鈍分離剤塗布後の前記母鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、仕上げ焼鈍皮膜が形成された前記母鋼板を製造する仕上げ焼鈍工程と、
(S7)必要に応じて、仕上げ焼鈍皮膜を除去し、前記母鋼板の表面粗さをRaで1.0μm以下の平滑面にする母鋼板表面平滑化工程と、
(S8)仕上げ焼鈍工程又は母鋼板平滑化工程後の前記母鋼板に対して熱処理を実施して、前記母鋼板の表面と接触し、酸化珪素を主体とする中間層を形成する中間層形成工程と、
(S9)前記中間層の表面に絶縁皮膜を形成する絶縁皮膜形成工程と、
を備える製造方法によって得られる。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板(本実施形態に係る方向性電磁鋼板)及びその製造方法について詳述する。
[方向性電磁鋼板]
図3は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の表面近傍の断面図である。図3を参照して、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、母鋼板1と、母鋼板1の表面に接触して形成されている皮膜20とを備える。皮膜20は、母鋼板1の表面に直接接触して形成されている中間層2Bと、中間層2Bの表面に接触して形成されている絶縁皮膜30とを備える。
[母鋼板]
本発実施形態に係る方向性電磁鋼板は、特に絶縁皮膜30の構成に特徴を有する。
母鋼板1の化学組成及び組織は、絶縁皮膜30の構成とは直接関連しない。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母鋼板1の化学組成及び組織は、特に限定されない。たとえば、母鋼板1は、一般的な方向性電磁鋼板に用いられる母鋼板でよい。以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板が備える母鋼板1の一例を説明する。
[母鋼板1の化学組成]
上述の母鋼板1の化学組成は、一般的な方向性電磁鋼板における母鋼板の化学組成を用いることができる。母鋼板1の化学組成はたとえば、次の元素を含有する。母鋼板1の化学組成における各元素の含有量で使用する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
本実施形態に係る向性電磁鋼板の母鋼板1はたとえば、Si:0.50~7.00%、C:0.005%以下、及び、N:0.0050%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなる。以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母鋼板1の化学組成の代表的な一例の限定理由について説明する。
Si:0.50~7.00%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が0.50%未満であれば、この効果が十分に得られない。そのため、Si含有量は0.50%以上であることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは1.50%以上であり、さらに好ましくは2.50%以上である。
一方、Si含有量が7.00%を超えると、母鋼板1の飽和磁束密度が低下する。そのため、鉄損が劣化する。したがって、好ましくは、Si含有量は、7.00%以下である。Si含有量は、より好ましくは5.50%以下であり、さらに好ましくは4.50%以下である。
C:0.005%以下
炭素(C)は、母鋼板1中で化合物を形成し、鉄損を劣化させる。したがって、C含有量は、0.005%以下であることが好ましい。C含有量はなるべく低いほうが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.004%以下であり、さらに好ましくは0.003%以下である。
一方、C含有量はなるべく低いほうが好ましいので0%でもよいが、Cは鋼中に不純物として含有される場合がある。したがって、C含有量は、0%超としてもよい。
N:0.0050%以下
窒素(N)は、母鋼板1中で化合物を形成し、鉄損を劣化させる。したがって、N含有量は、0.0050%以下であることが好ましい。N含有量はなるべく低いほうが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.0040%以下であり、さらに好ましくは0.0030%以下である。
一方、N含有量はなるべく低いほうが好ましいので、0%でもよいが、Nは鋼中に不純物として含有される場合がある。したがって、N含有量は、0%超としてもよい。
母鋼板1の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここでいう「不純物」は、母鋼板1を工業的に製造する際に、原材料に含まれる成分、又は製造の過程で混入する成分から不可避的に混入し、本実施形態に係る方向性電磁鋼板によって得られる効果に実質的に影響を与えない元素を意味する。
[任意元素]
母鋼板1の化学組成は、磁気特性の改善や、製造上の課題解決を目的として、Feの一部に代えて、1種または2種以上の任意元素を以下の範囲で含有してもよい。Feの一部に代えて含有される任意元素として、たとえば、次の元素が挙げられる。これらの元素は含有させなくてもよいので、下限は0%である。一方、これらの元素の含有量が多すぎると、析出物が生成して鉄損が劣化したり、フェライト変態が抑制されて、GOSS方位が十分に得られなかったり、飽和磁束密度が低下したりして、鉄損が劣化する。そのため、含有させる場合でも、以下の範囲とすることが好ましい。
Al:0.065%以下、
Mn:1.00%以下、
S及びSe:合計で0.001%以下、
Bi:0.010%以下、
B:0.0080%以下、
Ti:0.015%以下、
Nb:0.020%以下、
V:0.015%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下、
Cr:0.30%以下、
Cu:0.40%以下、
P:0.50%以下、
Ni:1.00%以下、及び
Mo:0.10%以下。
上述した本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母鋼板の化学組成は、後述する化学組成を有するスラブを用いることによって得られる。
[母鋼板の表面の粗さ]
母鋼板1の表面の粗さは特に限定されない。しかしながら、皮膜20と母鋼板1との界面に凹凸が形成されずに鉄損の低下作用の妨害が回避される観点から、たとえば、Ra(算術平均粗さ)で1.0μm以下であることが好ましい。母鋼板1の表面の算術平均粗さRaのより好ましい上限は0.7μmであり、さらに好ましい上限は0.5μmである。
上記母鋼板1の表面の算術平均粗さRaは次の方法で測定する。
方向性電磁鋼板の圧延方向に垂直な断面を観察面とするサンプルを採取する。得られた観察面における母鋼板表面の粗さを次の方法で測定する。母鋼板表面に仕上げ焼純皮膜や中間層2B等の皮膜20が形成されている場合には、観察面(断面)における母鋼板1と中間層2Bとの界面、皮膜20が形成されておらず母鋼板表面が露出している場合には、観察面(断面)における母鋼板表面の板厚方向の位置座標を、0.01μm以上の精度で計測し、JIS B 0601(2001)に準拠した算術平均粗さRaを算出する。
計測は、母鋼板表面と平行な方向に0.1μmピッチで連続した2mmにわたる範囲(合計20000点)について実施し、基準長さを2mmとして算術平均粗さRaを求める。母鋼板表面の少なくとも任意の5箇所で上記方法により算術平均粗さRaを求め、各箇所で得られたRa値の平均値を、母鋼板表面の算術平均粗さRaと定義する。この観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)により実施でき、位置座標の計測は、画像処理を適用することが実用的である。
[Mgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼鈍皮膜について]
母鋼板1の表面には、Mgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼鈍皮膜(グラス皮膜)が実質的に存在しない。ここで、「グラス皮膜」とは、仕上げ焼鈍が実施されることにより、焼鈍分離剤のMgOと母鋼板1とが反応して、母鋼板1の表面に形成されるMgを含有する酸化皮膜を意味する。また、「グラス皮膜」とは、皮膜中におけるMgの含有量が15~55原子%の範囲である酸化皮膜である。
「仕上げ焼鈍皮膜」には、焼鈍分離剤と母鋼板1が反応して生じた生成物(例えば、フォルステライト等の無機鉱物質やAlを含有する酸化物等)のみならず、未反応の焼鈍分離剤が含まれていてもよい。
母鋼板1の表面に、「仕上げ焼純皮膜が実質的に存在しない」とは、仕上げ焼鈍工程において、仕上げ焼鈍皮膜の形成が意図的に抑制され、その結果、母鋼板1の最表面に仕上げ焼純皮膜が実質的に存在しない場合であってもよいし、仕上げ焼鈍工程後に母鋼板1の表面から仕上げ焼鈍皮膜を実質的に全て除去した結果、母鋼板1の表面上に仕上げ焼鈍皮膜が実質的に存在しない場合であってもよい。さらに、後述の母鋼板表面平滑化工程において、仕上げ焼鈍後の母鋼板1の表面に仕上げ焼鈍皮膜を残存させた後、中間層形成工程以降の工程で仕上げ焼鈍皮膜を実質的に全て消失させた結果、母鋼板1の表面上に仕上げ焼鈍皮膜が実質的に存在しない場合であってもよい。
[中間層2B]
中間層2Bは、仕上げ焼純皮膜が実質的に存在しない上記母鋼板1の表面に接触して形成されている。中間層2Bは、酸化珪素を主体とする外部酸化膜である。ここで、「酸化珪素を主体とする」とは、酸化珪素を主体とするとは、組成としてFe含有量が80原子%未満、P含有量が5原子%未満、Si含有量が20原子%以上、O含有量が50原子%以上、Mg含有量が10原子%以下、を満足することを指す。
中間層2Bは、母鋼板1と絶縁皮膜30との間に配置される層であり、母鋼板1と絶縁皮膜30とを密着させる作用を有する。
中間層2Bの主体をなす酸化珪素は、SiOx(x=1.0~2.0)が好ましく、SiOx(x=1.5~2.0)がより好ましい。酸化珪素がより安定するからである。母鋼板1の表面に酸化珪素を形成する熱処理を十分に施せば、シリカ(SiO)を形成することができる。
例えば水素:20~50体積%、残部:窒素及び不純物からなり、露点:-20~2℃の雰囲気において、600~1150℃の温度域で10~600秒保持するような条件で、母鋼板1に対して熱処理を実施して中間層2Bを形成する場合、酸化珪素は非晶質のままとなる。このような非晶質な酸化珪素を含む中間層2Bは、熱応力に耐える高い強度を有し、かつ弾性率が比較的小さくて熱応力を容易に緩和できる緻密な材質の中間層2Bとなる。
方向性電磁鋼板の母鋼板1は、Siを高濃度(例えば、Si:0.80質量%以上7.00質量%以下)で含有しているので、酸化珪素を主体とする中間層2Bとの間に強い化学親和力が発現し、中間層2Bと母鋼板1とが強固に密着する。
中間層2Bの厚さは特に限定されない。2nm以上であれば、絶縁皮膜30の母鋼板1に対する密着性がより有効に高まるため、中間層2Bの好ましい厚さは2nm以上であり、さらに好ましくは5nm以上である。一方、中間層2Bの厚さが400nm以下であれば、中間層2B内のボイド33やクラック等の欠陥が有効に抑制される。したがって、中間層2Bの好ましい厚さは400nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。中間層2Bは皮膜密着性を確保できる範囲内で薄くした方が、形成時間を短くして高生産性にも貢献できるとともに鉄心として利用する際の占積率の低下を抑制できるので、中間層2Bの厚さはさらに100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。
中間層2Bの厚さの測定方法は次のとおりである。
電子線の径を10nmとしたTEM(透過電子顕微鏡)で中間層2Bの断面を観察して測定する。具体的には、例えば、TEM観察用に、試料を板厚方向に平行な観察断面を有するように切り出して、該試料の観察断面において、母鋼板1の表面に平行な方向の幅が10μm以上であり、中間層2B、後述する母鋼板1、及び後述する絶縁皮膜30を含む測定領域中から、該幅方向に相互に2μm以上離れた5箇所以上の測定位置を選択して、中間層2Bの厚さをTEMで測定する。測定された値の平均を、中間層2Bの厚さとする。測定領域中における各測定位置の中間層2Bの厚さをTEMで測定する場合には、後述する母鋼板1及び絶縁皮膜30の間に存在する層を、中間層2Bとして測定する。
[絶縁皮膜30]
絶縁皮膜30は、中間層2Bの表面上に形成される。絶縁皮膜30は、母鋼板1に張力を付与して鋼板単板としての鉄損を低下させる。絶縁皮膜30はさらに、方向性電磁鋼板を積層して使用する際に、鋼板間の電気的絶縁性を確保する。
絶縁皮膜30は、その組成については一般的なものであればよい。絶縁皮膜30はたとえば、燐酸塩や硼酸アルミを主体とするものでもよい。例えば、燐酸塩とコロイド状シリカとが混合物されて得られた皮膜であって、P、OおよびSiを含む化合物からなってもよい。
絶縁皮膜30は、各種の特性を改善するために様々な元素や化合物をさらに含有してもよい。
絶縁皮膜30は、Crを含有しなくてもよい。しかしながら、絶縁皮膜30がCrを含有する場合、後述するように絶縁皮膜が空洞を有していれば、母鋼板1と絶縁皮膜30との密着性に加え、耐水性が高まる。
絶縁皮膜30がCrを含有する場合、絶縁皮膜30中の平均Cr濃度は、0.1原子%以上であることが好ましい。絶縁皮膜30中の平均Cr濃度の好ましい上限は、5.0原子%である。Cr濃度が0.1原子%未満では上述の効果が十分に得られない。
絶縁皮膜30がCrを含有する場合、全体のCr濃度の平均が0.1原子%以上であるものであれば特に限定されないが、無水クロム酸又はクロム酸塩を含有するものでもよい。さらに、絶縁皮膜30は、各種の特性を改善するために様々な元素や化合物をさらに含有するものでもよい。
平均Cr濃度の測定方法は次のとおりである。TEMで絶縁皮膜30全体を観察して、絶縁皮膜30の厚さ方向の全厚が含まれるように、Cr濃度分布についてEDS(エネルギー分散型X線分析)面分析を行う。面分析で得られた絶縁皮膜30の各位置でのCr濃度の平均値を、平均Cr濃度(原子%)と定義する。面分析は鋼板表面に平行な方向へ20μm以上分析する。
絶縁皮膜30中のボイド33は、絶縁皮膜30の母鋼板1に対する密着性を高める。この理由は次のとおりである。
絶縁皮膜中にボイドが存在すれば、曲げ等の応力が加わった際に、ボイドが応力緩和サイトとして働く。応力が緩和されれば、特に中間層2Bと母鋼板1との密着界面に作用する応力が低くなる。その結果、絶縁皮膜の母鋼板1に対する密着性が高まる。
絶縁皮膜30における空洞率が5%未満であれば、絶縁皮膜30の密着性が十分に向上しない。したがって、絶縁皮膜30における空洞率は5%以上である。絶縁皮膜30における空洞率の好ましい下限は、7%であり、さらに好ましくは10%である。
一方、絶縁皮膜30の空洞率が30%を超えれば、絶縁性が低下する。したがって、絶縁皮膜30における空洞率は30%以下である。絶縁皮膜30における空洞率の好ましい上限は、25%であり、さらに好ましくは20%である。
効率的に応力緩和する観点から、ボイドの平均径が絶縁皮膜の膜厚の1/4以下、かつ1/20以上であることが好ましく、1/5以下、1/20以上であることがより好ましい。すなわち、ボイドの平均径をR、絶縁被膜の膜厚をtとしたとき、R/tが0.05~0.25であることが好ましい。
絶縁皮膜30中のボイド33はさらに、絶縁皮膜がCrを含有する場合、後述の絶縁皮膜形成工程における焼付け工程時において、熱拡散によりFeが母鋼板1から中間層2Bを通って絶縁皮膜30に侵入するのを物理的に阻止する。これにより、絶縁皮膜30中のFe濃度を下げることができ、絶縁皮膜30中において、FeがCrと結合して結晶性燐化物を形成するのを抑制できる。その結果、絶縁皮膜30において、Cr欠乏領域が発生するのを抑制することができ、絶縁皮膜30の耐水性を高く維持できる。
絶縁皮膜30における空洞率が5%未満であれば、Feの侵入を阻止する効果が小さい。
前述のボイド33によるFeの熱拡散の抑制は、ボイド33よりも母鋼板1側のFeに対して有効である。そのため、Cr欠乏領域の形成抑制の観点から、各ボイドの平均重心位置から中間層と絶縁皮膜との界面までの距離は、絶縁皮膜厚さの4/5以内であることが好ましい。より好ましくは2/3以内、更に好ましくは1/2以内である。
ボイドの形成によって上昇する絶縁皮膜30における空洞率、ボイドの平均径および平均重心位置は次の測定方法により求めることができる。
鋼板の圧延方向に垂直な断面を鋼板表面に平行な方向へ1mm以上SEM観察し、空洞の面積率を画像解析により算出する。平均径は、観察領域内の各ボイドの面積から算出される円相当径を平均して求める。平均重心位置は、画像解析により求める。
具体的には、10000倍の倍率で撮影した反射電子像の画像を256諧調のモノクロ画像に変換する。256諧調の内、黒色側から50%の諧調を閾値として二値化画像に変換し、黒色領域を絶縁皮膜(ボイド含む)と定義する。また、256諧調の内、黒色側から20%の諧調を閾値として二値化画像に変換し、黒色領域をボイドと定義する。
絶縁皮膜中の空洞率は、上記2つの二値化画像で得られた各領域の面積から以下の式で算出する。
(空洞率)=(ボイドの面積)÷(絶縁皮膜(ボイド含む)の面積)×100(%)
また、ボイドの平均径は、二値化画像に対して、粒子解析により得られるボイドの平均円相当径とする。
さらに、ボイドの平均重心位置は、母鋼板表面からボイド内の画像ピクセルまでの距離をhとした時に、次式で求められる母鋼板表面とボイド内の全ピクセルとの平均距離haveとする。
Figure 0007200687000001
ここで、上記式中、nはボイド内の全ピクセル数、hはボイド内のi番目のピクセルから母鋼板表面までの距離である。
[絶縁皮膜30中のCr欠乏領域の総面積率]
絶縁皮膜30において、Cr濃度が絶縁皮膜30全体の平均Cr濃度の80%未満の領域を、「Cr欠乏領域」と定義する。母鋼板1の表面と垂直な断面での絶縁皮膜30において、絶縁皮膜30の空洞率が5~30%、かつボイドの平均重心位置から中間層と絶縁皮膜との界面までの距離が絶縁皮膜の厚さの4/5以内であれば、絶縁皮膜30中のCr欠乏領域の面積率を50%以下に制御できる。
Cr欠乏領域の総面積率は、鋼板表面において、鋼板表面に対して平行な方向に20μm以上を分析して算出する。測定は、TEMを用いて行う。TEMで絶縁皮膜30全体を観察する。観察面に対して、Cr濃度分布についてEDS(エネルギー分散型X線分析)面分析を行う。Cr濃度が、原子濃度で、絶縁皮膜30全体の平均濃度の80%未満であれば、Cr欠乏領域であると特定する。
絶縁皮膜30全体のCr濃度の平均は、皮膜部の空洞を除いた面分析結果すべての平均値とする。特定されたCr欠乏領域の総面積の、視野観察面中の絶縁皮膜30全体の総面積に対する比(%)を、観察視野の皮膜全体の面積に対する、Cr欠乏領域の総面積率(%)と定義する。
絶縁皮膜30の厚さは特に限定されない。絶縁皮膜30の厚さは0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。この場合、母鋼板1に対して有効に張力を付与することができ、さらに、優れた耐水性を示す。
一方、絶縁皮膜30の厚さは10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。この場合、絶縁皮膜の膜厚増加による占積率の低下を抑制でき、鉄損の劣化を抑制することができる。
絶縁皮膜30の厚さは、皮膜20の断面をSEM又はTEMで観察して測定することができる。
絶縁皮膜30には、必要に応じ、レーザー、プラズマ、機械的方法、エッチング、その他の手法で、局所的な微小歪領域又は溝を形成する磁区細分化処理を施してもよい。
[方向性電磁鋼板の製造方法]
上述の本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、たとえば次の製造方法により製造できる。以下、本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法の一例を詳述する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、次の工程S0~S9を含む製造方法によって得られる。
S0:準備工程
S1:熱間圧延工程
S2:熱延板焼鈍工程
S3:冷間圧延工程
S4:脱炭焼鈍工程
S5:焼鈍分離剤塗布工程
S6:仕上げ焼鈍工程
S7:(必要に応じて)母鋼板表面平滑化工程
S8:中間層形成工程
S9:絶縁皮膜形成工程
以下、各工程について説明する。
[S0:準備工程]
準備工程では、方向性電磁鋼板の製造に用いるスラブ(鋼素材)を準備する。スラブの化学組成は、一般的な方向性電磁鋼板における母鋼板の化学組成を用いることができる。スラブの製造方法の一例は次のとおりである。
溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いてスラブを製造する。連続鋳造法によりスラブを製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。他の方法によりスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されない。スラブの厚さはたとえば、150~350mmである。スラブの厚さは好ましくは、220~280mmである。スラブとして、厚さが10~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。薄スラブを用いる場合、熱間圧延工程において、次工程の仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
[スラブの化学組成]
スラブの化学組成はたとえば、次の元素を含有する。化学組成に関する%は質量%である。
Si:0.80~7.00%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が0.80%未満であれば、仕上げ焼鈍時にγ変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。したがって、Si含有量は0.80%以上であることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは2.00%以上であり、さらに好ましくは2.50%以上である。
一方、Si含有量が7.00%を超えれば、冷間加工性が低下して、冷間圧延時に割れが発生しやすくなる。したがって、好ましくは、Si含有量は7.00%以下である。Si含有量は、より好ましくは4.50%以下であり、さらに好ましくは4.00%以下である。
C:0.085%以下、
炭素(C)は不可避に含有される。Cは、一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、磁気特性に悪影響を及ぼす。したがって、C含有量は0.085%以下であることが好ましい。C含有量はなるべく低い方が好ましい。
しかしながら、工業生産における生産性を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.050%である。Cは後述の脱炭焼鈍工程及び仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後の母鋼板では0.005%以下となる。
酸可溶性Al:0.010~0.065%
酸可溶性アルミニウム(Al)は、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。酸可溶性Alの含有量が0.010~0.065%の範囲内にある場合に二次再結晶が安定する。したがって、酸可溶性Alの含有量は0.010~0.065%であることが好ましい。酸可溶性Al含有量は、より好ましくは0.015%以上であり、さらに好ましくは0.020%以上である。二次再結晶の安定性の観点から、酸可溶性Al含有量は、より好ましくは0.045%以下であり、さらに好ましくは0.035%以下である。
酸可溶性Alは、仕上げ焼鈍後に残留すると化合物を形成し、鉄損を劣化させる。そのため、仕上げ焼鈍中の純化により、方向性電磁鋼板の母鋼板においては、酸可溶性Alをできるだけ少なくすることが好ましい。
N:0.0040~0.0120%
窒素(N)は、Alと結合してインヒビターとして機能する。N含有量が0.0040%未満であれば、十分な量のインヒビターが生成しない。したがって、N含有量は0.0040%以上であることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.0050%以上であり、さらに好ましくは0.0060%以上である。
一方、N含有量が0.0120%を超えれば、鋼板中に欠陥の一種であるブリスタが発生しやすくなる。したがって、N含有量は0.0120%以下であることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.0110%以下であり、さらに好ましくは0.01000%以下である。
Nは仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後の母鋼板では0.0050%以下となる。
Mn:0.05~1.00%
マンガン(Mn)は、S又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mn含有量が0.05~1.00%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。したがって、Mn含有量は、0.05~1.00%であることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは0.06%以上であり、さらに好ましくは0.08%以上である。Mn含有量は、より好ましくは0.50%以下であり、さらに好ましくは0.20%以下である。
S及びSe:合計で0.003~0.015%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、Mnと結合して、MnS又はMnSeを生成し、インヒビターとして機能する。S及びSeの含有量が合計で0.003~0.015%であれば、二次再結晶が安定する。したがって、S及びSeの含有量は合計で0.003~0.015%であることが好ましい。
S及びSeは仕上げ焼鈍後に残留すると化合物を形成し、鉄損を劣化させる。そのため、仕上げ焼鈍中の純化により、仕上げ焼鈍後の母鋼板においては、S含有量及びSe含有量をできるだけ少なくすることが好ましい。
ここで、「S及びSeの含有量が合計で0.003~0.015%である」とは、スラブの化学組成がS又はSeのいずれか一方のみを含有し、S又はSeのいずれか一方の含有量が合計で0.003~0.015%であってもよいし、スラブがS及びSeの両方を含有し、S及びSeの含有量が合計で0.003~0.015%であってもよい。
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここでいう「不純物」は、母鋼板1を工業的に製造する際に、原材料に含まれる成分、又は製造の過程で混入する成分から混入し、本実施形態に係る方向性電磁鋼板によって得られる効果に実質的に影響を与えない元素を意味する。
[任意元素]
スラブの化学組成は、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、Feの一部に代えて、任意元素の1種または2種以上を以下の範囲で含有してもよい。Feの一部に代えて含有される任意元素として、たとえば、次の元素が挙げられる。
Bi:0.010%以下、
B:0.080%以下、
Ti:0.015%以下、
Nb:0.20%以下、
V:0.15%以下、
Sn:0.10%以下、
Sb:0.10%以下、
Cr:0.30%以下、
Cu:0.40%以下、
P:0.50%以下、
Ni:1.00%以下、及び
Mo:0.10%以下。
[S1:熱間圧延工程]
熱間圧延工程では、準備されたスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して熱延鋼板(方向性電磁鋼板用熱延鋼板)を製造する。
具体的には、まず、スラブを加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1280℃以下である。スラブの加熱温度を1280℃以下とすることにより、たとえば、1280℃よりも高い温度で加熱した場合の諸問題(専用の加熱炉が必要なこと、及び溶融スケール量の多さ等)を回避することができる。
スラブの加熱温度の下限値は特に限定されない。加熱温度が低すぎる場合、熱間圧延が困難になって、生産性が低下することがある。したがって、加熱温度は、1280℃以下の範囲で生産性を考慮して設定すればよい。スラブの加熱温度の好ましい下限は1100℃である。スラブの加熱温度の好ましい上限は1250℃である。
スラブ加熱工程そのものを省略して、鋳造後、スラブの温度が下がるまでに熱間圧延を開始することも可能である。
次に、加熱されたスラブに対して、熱間圧延機を用いた熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。熱間圧延機はたとえば、粗圧延機と、粗圧延機の下流に配置された仕上げ圧延機とを備える。粗圧延機は、一列に並んだ粗圧延スタンドを備える。各粗圧延スタンドは、上下に配置された複数のロールを含む。仕上げ圧延機も同様に、一列に並んだ仕上げ圧延スタンドを備える。各仕上げ圧延スタンドは、上下に配置される複数のロールを含む。加熱された鋼材を粗圧延機により圧延した後、さらに、仕上げ圧延機により圧延して、熱延鋼板を製造する。
熱間圧延により製造される熱延鋼板の厚さは特に限定されない。熱延鋼板の厚さはたとえば、3.5mm以下である。
熱間圧延工程における仕上げ温度(仕上げ圧延機において最後に鋼板を圧下する仕上げ圧延スタンドの出側での鋼板温度)は、たとえば900~1000℃である。以上の熱間圧延工程により、熱延鋼板を製造する。
[S2:熱延板焼鈍工程]
熱延板焼鈍工程では、熱間圧延工程により製造された方向性電磁鋼板用熱延鋼板に対して、熱延板焼鈍を実施して、焼鈍鋼板を製造する。
熱延板焼鈍の条件は、たとえば、熱延板焼鈍における焼鈍温度(熱延板焼鈍炉での炉温)が、750~1200℃である。焼鈍温度での保持時間はたとえば、30~600秒である。
[S3:冷間圧延工程]
冷間圧延工程では、熱延板焼鈍工程後の焼鈍鋼板に対して、冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。冷間圧延は、冷間圧延機を用いて実施する。冷間圧延機は、一列に配列された複数の冷間圧延スタンドを備える。各冷間圧延スタンドは、複数の冷間圧延ロールを含む。
冷間圧延工程において、冷間圧延は1回のみ実施してもよいし、複数回実施してもよい。冷間圧延を複数回実施する場合、冷間圧延を実施した後、軟化を目的とした中間焼鈍を実施し、その後、冷間圧延を再び実施する。中間焼鈍条件は、公知の方法が用いられる。
中間焼鈍工程を実施することなく、複数の冷間圧延工程を実施する場合、製造された方向性電磁鋼板において、均一な特性が得られにくい場合がある。一方、複数回の冷間圧延工程を実施し、かつ、各冷間圧延工程の間に中間焼鈍工程を実施する場合、製造された方向性電磁鋼板において、磁束密度が低くなる場合がある。したがって、冷間圧延工程の回数、及び、中間焼鈍工程の有無は、最終的に製造される方向性電磁鋼板に要求される特性及び製造コストに応じて決定される。
1回又は複数回での冷間圧延における、好ましい累計の冷延率(累積圧下率)は80%以上であり、より好ましくは90%以上である。累積の冷延率の好ましい上限は95%である。ここで、累計の冷延率(%)は次のとおり定義される。
冷延率(%)=(1-最後の冷間圧延後の冷延鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の焼鈍鋼板の板厚)×100
焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施する前に、焼鈍鋼板に対して酸洗処理を実施してもよい。製造された冷延鋼板は、コイル状に巻き取られる。冷延鋼板の板厚は、特に限定されないが、鉄損をより低下させるためには、0.35mm以下とすることが好ましく、0.30mm以下とすることがより好ましい。
[S4:脱炭焼鈍工程]
脱炭焼鈍工程では、冷間圧延工程により製造された冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶させる。脱炭焼鈍はたとえば、次の方法で実施する。
冷延鋼板を熱処理炉に装入する。熱処理炉の温度(脱炭焼鈍温度)をたとえば、800~950℃とし、熱処理炉の雰囲気を、水素及び窒素を含有する湿潤雰囲気とする。脱炭焼鈍を実施することにより、一次再結晶が発現すると共に、鋼板中の炭素が鋼板から除去される。上述のとおり、脱炭焼鈍工程での脱炭焼鈍温度の一例は、800~950℃であり、脱炭焼鈍温度での保持時間の一例は、15~150秒である。
[S5:焼鈍分離剤塗布工程]
焼鈍分離剤塗布工程では、鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。焼鈍分離剤は、特に限定されない。例えば、アルミナ(Al)を主成分とする焼鈍分離剤、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤、又は、これら両方を主成分とする焼鈍分離剤等が挙げられる。
焼鈍分離剤としては、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤が好ましい。仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成されることを抑制できるからである。また、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤としては、アルミナ及びマグネシアの両方を主成分とする焼鈍分離剤が好ましい。鋼板の中に含まれているAlを仕上げ焼鈍皮膜中に取り込んで鋼板を純化することができるので、鋼板に含まれているAlが内部酸化し鉄損が上昇することを抑制できるからである。
また、アルミナ及びマグネシアを主成分とする焼鈍分離剤としては、主成分におけるマグネシアの質量比を10~60%としたものが好ましく、中でも20~50%、特に20~40%としたものがより好ましい。主成分のうちのマグネシアの質量比が20%未満(アルミナの質量比が80%超)では、鋼板に含まれているAlを仕上げ焼鈍皮膜に取り込んで鋼板を純化することができないからである。一方、マグネシアの質量比が高いと、仕上げ焼鈍時にマグネシアが母鋼板1と反応して、仕上げ焼鈍皮膜と鋼板との界面に凹凸が生じて鉄損が劣化する傾向があるからである。
焼鈍分離剤塗布工程後の母鋼板1(脱炭焼鈍鋼板)は、コイル状に巻取った状態で、次工程の仕上げ焼鈍工程に供される。
[S6:仕上げ焼鈍工程]
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤塗布工程後の母鋼板1に対して、仕上げ焼鈍を実施する。これにより、母鋼板1において二次再結晶を生じさせる。また、仕上げ焼鈍が行われると、焼鈍分離剤と母鋼板1とが反応して母鋼板表面に仕上げ焼純皮膜が形成される。仕上げ焼純皮膜には、焼鈍分離剤と鋼板とが反応して生じた生成物が含まれており、未反応の焼鈍分離剤が含まれていてもよい。その結果、仕上げ焼鈍工程により、仕上げ焼鈍皮膜が形成された母鋼板が製造される。
例えば、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤のような、Alを含有する焼鈍分離剤が塗布された場合には、焼鈍分離剤と母鋼板1が反応してAlを含有する酸化物を主体とする仕上げ焼純皮膜が形成される。また、Alを含有しない焼鈍分離剤が塗布された場合でも、焼鈍分離剤と母鋼板1に含有されるAlが反応して、鋼板表面にAlを含有する酸化物を主体とする仕上げ焼純皮膜が形成される。また、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤が塗布された場合には、焼鈍分離剤と母鋼板1が反応してフォルステライト(MgSiO)を主体とする仕上げ焼純皮膜が形成される。さらに、Al又はMgを含有する焼鈍分離剤が塗布された場合には、焼鈍分離剤が完全に反応せずに、未反応の焼鈍分離剤が含まれている仕上げ焼純皮膜が形成されることがある。
仕上げ焼鈍条件は、特に限定されず、例えば、1100~1300℃の範囲内の温度で20~24時間加熱することによって実施する。
また、Alを含有しない焼鈍分離剤が塗布された場合において、焼鈍分離剤と母鋼板1に含有されるAlとを反応させて、鋼板表面にAlを含有する酸化物を主体とする仕上げ焼純皮膜を形成させる場合にも、仕上げ焼鈍条件は特別な条件とする必要はなく一般的な条件であればよい。
仕上げ焼鈍は、純化焼鈍も兼ねている。純化焼鈍により、上記のAl、N、Mn、S及びSeのようなインヒビター成分が鋼中から除去される。
[S7:母鋼板表面平滑化工程]
母鋼板表面平滑化工程は、必要に応じて実施される。つまり、母鋼板表面平滑化工程は、実施しなくてもよい。母鋼板表面平滑化工程が実施される場合、母鋼板表面平滑化工程では、絶縁皮膜30による鉄損の低下作用の妨害を回避できるように、必要に応じて、仕上げ焼鈍後の母鋼板表面を平滑面に調整する(平滑にする)。具体的には、母鋼板表面の算術平均粗さRaが、例えば、1.0μm以下となるように調整するのが好ましい。鉄損の低下作用の妨害を効果的に回避できるからである。平滑化後の母鋼板表面の算術平均粗さRaが0.7μm以下となるように調整することがより好ましく、0.5μm以下となるように調整することがさらに好ましい。
母鋼板表面平滑化工程の実施の必要性は、仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成される場合と、仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成されない場合とで大別される。以下、それぞれの場合について説明する。
「仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成される場合」とは、フォルステライトを主体とする仕上げ焼鈍皮膜が形成される従来の方向性電磁鋼板のように、仕上げ焼鈍皮膜が母鋼板1との界面においていわゆる「根」とも呼ばれる形態で母鋼板内側の深い位置まで形成され、絶縁皮膜30による鉄損の低下作用が妨害される場合を意味する。具体的には、仕上げ焼鈍後の母鋼板表面の算術平均粗さRaが、例えば、1.0μmを超える場合を意味する。
一方、「仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成されない場合」とは、仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成されない場合を意味する。具体的には、仕上げ焼鈍後の母鋼板表面のRa(算術平均粗さ)が、例えば、1.0μm以下である場合を意味する。
(1)仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成される場合
仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成される場合には、絶縁皮膜30による鉄損の低下作用が界面の凹凸によって妨害されることを回避するために、母鋼板表面平滑化工程を実施する。具体的には、仕上げ焼鈍後の鋼板表面から仕上げ焼純皮膜を全て除去した上、仕上げ焼鈍後の母鋼板表面を平滑化することにより平滑面に調整する。
仕上げ焼純皮膜の全てを除去する方法としては、酸洗、研削等の手段で念入りに除去して母鋼板1を剥き出しにする方法が用いられる。また、仕上げ焼鈍後の母鋼板表面を平滑化する方法としては、母鋼板表面を化学研磨又は電界研磨で平滑化する方法が用いられる。
(2)仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成されない場合
仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成されない場合には、母鋼板表面平滑化工程を実施しなくてよい。
[S8:中間層形成工程]
中間層形成工程では、仕上げ焼鈍工程後、又は、仕上げ焼鈍皮膜と母鋼板1との界面に凹凸が形成された場合には母鋼板表面平滑化工程後、母鋼板1に対して熱処理を実施して、母鋼板1の表面に接触し、酸化珪素を主体とする中間層2Bを形成する。
熱処理の条件としては、特に限定されないが、中間層2Bを2~400nmの厚さに成膜する場合、300~1150℃の温度域で5~120秒保持することが好ましく、600~1150℃の温度域で10~60秒保持することがより好ましい。
さらに、母鋼板1の内部を酸化させないようにする観点から、焼鈍の昇温時及び温度保持時の雰囲気を還元性の雰囲気とすることが好ましく、水素を混合した窒素雰囲気とすることがより好ましい。水素を混合した窒素雰囲気としては、例えば、水素:5~50体積%及び残部:窒素及び不純物からなり、露点:-20~2℃の雰囲気が挙げられる。中でも、水素:10~35体積%、残部:窒素及び不純物からなり、露点:-10~0℃の雰囲気が好ましい。
中間層形成工程では、水素:20~50体積%、残部:窒素及び不純物からなり、露点:-20~2℃の雰囲気中にて600~1150℃の温度域で10~60秒保持して鋼板に熱処理を施すことが好ましい。
[S9:絶縁皮膜形成工程]
絶縁皮膜形成工程では、中間層表面にP、OおよびSiを含む化合物からなる絶縁皮膜30を形成する。絶縁皮膜30はCrを含んでもよい。絶縁皮膜形成工程は、絶縁皮膜30用のコーティング溶液を、中間層2Bの表面上に塗布する塗布工程と、コーティング溶液が塗布された母鋼板1を加熱し、焼付け処理を実施して絶縁皮膜30を形成する焼付け工程とを含む。以下、塗布工程及び焼付け工程について詳述する。
[塗布工程]
塗布工程では、燐酸塩、コロイド状シリカ、及び必要に応じて無水クロム酸又はクロム酸塩を含むコーティング溶液を、母鋼板1上の中間層2Bの表面上に塗布する。無水クロム酸又はクロム酸塩は含有しなくてもよい。燐酸塩としては、たとえば、Ca、Al、Mg、Sr等の燐酸塩が挙げられる。コロイド状シリカとは、直径1nm~直径1μm程度の粒子状の二酸化ケイ素(SiO)である。コロイド状シリカは特に限定はなく、その粒子サイズも適宜使用することができる。クロム酸塩としては、例えば、Na、K、Ca、Sr等のクロム酸塩が挙げられる。さらに、コ-ティング溶液には、各種の特性を改善するために様々な元素や化合物をさらに添加してもよい。塗布方法も特に限定されず、周知の方法で足りる。
[焼付け工程]
焼付け工程では、コーティング溶液が塗布された母鋼板1を加熱し、焼付け処理を実施して絶縁皮膜30を形成する。同時に、この焼付け工程により、絶縁皮膜30中にボイド33を形成する。形成されたボイドは熱拡散によるFeの絶縁皮膜30への侵入を抑制する。
焼付け処理では、コーティング溶液が塗布された母鋼板1を熱処理炉内で加熱する。そして、600~1150℃の温度域(焼付け温度)で焼付け処理を実施する。焼付け温度での保持時間は5~300秒とする。
焼付け温度に到達する前の加熱時において、母鋼板1が100℃~600℃の温度域での平均加熱速度を、10~200℃/秒とする。絶縁皮膜30は、100℃~600℃の間の温度域で、内包した水分や酸素がガスとして放出される。100℃~600℃の間の温度域の加熱速度を制御することで、脱ガスに起因するボイド33の量(絶縁皮膜の空洞率)及びボイド33のサイズ(平均径)を制御できると考えられる。
母鋼板1の表面温度が100℃~600℃の温度域での平均加熱速度が10℃/秒未満であれば、脱ガス速度が遅いため、絶縁皮膜30中に十分なボイド33が形成されない。その結果、絶縁皮膜30中の空洞率が5%未満となり、絶縁皮膜の密着性が低下する。一方、母鋼板1の表面温度が100℃~600℃の温度域での平均加熱速度が200℃/秒を超えれば、絶縁皮膜30内にボイド33が過剰に形成される。そのため、絶縁皮膜30中の空洞率が30%を超える。この場合、鋼板の絶縁性が低下する。したがって、母鋼板1の表面温度が100℃~600℃の温度域での平均加熱速度を、10~200℃/秒とする。
また、絶縁皮膜30がCrを含有する場合、母鋼板1の表面温度が100℃~600℃の温度域でボイド33を形成すると同時に、その後の絶縁皮膜焼付け温度を800℃以上~900℃未満に制御することで、ボイドの存在位置を中間層と絶縁皮膜との界面付近に制御してFeの絶縁皮膜30中への拡散を効果的に抑制できる。そのため、耐水性も向上させることができる。この理由は次のとおりである。
ボイドによるFeの拡散抑制効果はボイドよりも母鋼板1側(中間層2Bと絶縁皮膜30との界面側)のFeに対して有効である。したがって、最も拡散速度の速い焼付け温度でのボイドの存在位置が、より界面側にあるほどFeの拡散が抑制され、Cr欠乏領域の形成を抑制する効果が高い。前記の制御でボイド33の存在位置が変化する理由は明らかではないが、ボイドに成長する核が形成するまでの、コーティング溶液の表面側からの乾燥状態、結晶水などの分解反応、さらには絶縁皮膜を形成する際の燐酸塩とコロイド状シリカの反応速度が影響して、中間層、絶縁皮膜界面に近い適切な領域にボイドの核が形成されるものと考えられる。さらに焼付け温度においてもボイド内に残留した水蒸気等の脱ガス過程が影響して、中間層、絶縁皮膜界面に近い位置でボイドの成長が優勢となる。その結果、ボイド分布が好ましい状態となり、Feの拡散およびそれに起因するCr欠乏層の拡大を効率的に抑制できると思われる。
焼付け工程での他の条件は、周知の条件でよい。焼付け処理の雰囲気はたとえば、ガスの酸化度(PHO/PH):0.001~0.1の雰囲気であってもよいし、他の雰囲気であってもよい。
絶縁皮膜形成工程では、焼付け後に絶縁皮膜30及び中間層2Bが変化しないように、上記ガスの酸化度をより低く保持した雰囲気において鋼板を冷却することが好ましい。冷却条件としては、一般的な条件であればよいが、例えば、水素:75体積%及び残部:窒素及び不純物からなり、露点:5~10℃及びガスの酸化度(PHO/PH):0.01未満の雰囲気で冷却する。
[その他の製造工程]
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、一般的に方向性電磁鋼板の製造方法において行われる工程をさらに含んでいてもよい。好ましくは、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、脱炭焼鈍工程後であって、仕上げ焼鈍工程前に、鋼板中のN含有量を増加させる窒化処理を実施する窒化処理工程をさらに含んでもよい。一次再結晶領域と二次再結晶領域の境界部位の鋼板に与える温度勾配が低くとも磁束密度を安定して向上させることができるからである。窒化処理としては、一般的な処理であればよい。例えば、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で焼鈍する処理、MnN等の窒化能のある粉末を含む焼鈍分離剤を塗布した母鋼板(脱炭焼鈍鋼板)を仕上げ焼鈍する処理等が挙げられる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例を提示して、本発明を具体的に説明する。以下において、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
<実施例1>
質量%で、Si:3.30%、C:0.050%、酸可溶性Al:0.030%、N:0.0080%、及びMn:0.10%、S及びSe:合計で0.005%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成のスラブを準備した。
上記スラブを1150℃で60分均熱加熱した。
加熱後のスラブに対して熱間圧延を施して、板厚が2.6mmの熱延鋼板を製造した。
製造した熱延鋼板に対して、熱延板焼鈍を実施して、焼鈍鋼板を製造した。熱延板焼鈍の条件は、900℃に120秒保持することとした。
製造された焼鈍鋼板に対して冷間圧延を施し、板厚が0.3mmの冷延鋼板を製造した。
製造された冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を施した。脱炭焼鈍は、水素:75体積%、残部:窒素及び不純物からなる雰囲気中にて、850℃で90秒保持する条件で実施した。
得られた母鋼板の表面に、焼鈍分離剤を塗布した。焼鈍分離剤は、試験番号1~8については、アルミナ(Al)とマグネシア(MgO)を質量比で60:40とした。また、試験番号9~16については、マグネシア(MgO)のみで構成される焼鈍分離材を用いた。
焼鈍分離剤を塗布した鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施して母鋼板を得た。仕上げ焼鈍は、水素-窒素混合雰囲気にて、15℃/時の昇温速度で1200℃まで加熱した後に、水素雰囲気にて1200℃で20時間保持する条件で実施した。その後、自然冷却し、二次再結晶及び純化が完了した鋼板を得た。
仕上げ焼鈍後の鋼板の化学組成は、いずれも質量%で、Si:3.30%、C:0.0020%以下、酸可溶性Al:0.0030%以下、N:0.0020%以下、及びMn:0.10%、S及びSe:合計で0.0005%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなっていた。
仕上げ焼鈍後の母鋼板に対して、熱処理を実施して、試験番号9~16については母材表面の平滑化を行った後、中間層を形成した。中間層形成工程の条件は次のとおりであった。水素:35体積%、残部:窒素及び不可避不純物からなり、露点:-2℃の雰囲気で、800℃まで加熱して30秒間保持した。その後、自然冷却した。いずれの例でも、中間層の組成は、Fe含有量が80原子%未満、P含有量が5原子%未満、Si含有量が20原子%以上、O含有量が50原子%以上、Mg含有量が10原子%以下を満足していた。
中間層を形成した母鋼板に対して、絶縁被膜を形成した。絶縁被膜の形成に際しては、まず、中間層の表面に、コーティング溶液を塗布した。コーティング溶液の組成は、燐酸アルミ:60%、及び、コロイド状シリカ:40%であった。コーティング溶液を塗布した鋼板に対して、水素:75体積%、残部:窒素及び不純物からなる雰囲気で、850℃まで加熱した。その際、鋼板の表面温度が100℃~600℃の間の温度域での平均加熱速度は、表1の、「焼付け工程での加熱速度」欄に記載のとおりとした。加熱した鋼板を、30秒間保持して絶縁皮膜を焼付けた。焼付け後、室温まで鋼板を冷却した。
Figure 0007200687000002
試験番号1~試験番号16の鋼板表面には、燐酸塩を主体とし、コロイド状シリカ32を含有する絶縁皮膜30が形成された。絶縁皮膜の厚みは、1.5~2.0μmであった。以上の工程により、方向性電磁鋼板を作製した。
得られた方向性電磁鋼板について、絶縁皮膜中の空洞率を測定した。また、皮膜の密着性、絶縁性を評価した。
[絶縁皮膜中の空洞率測定]
絶縁皮膜中の空洞率を測定した。
具体的には、各試験番号の方向性電磁鋼板から、方向性電磁鋼板の圧延方向に垂直な断面が得られるように、試験片を採取した。試験片の断面に対して、SEMを用いて、倍率10000倍、視野面積8μm×6μmで、観察した。観察領域は、方向性電磁鋼板表面に平行な方向へ1mmとした。空洞の面積率を画像解析により算出した。
より具体的には、10000倍の倍率で撮影した反射電子像の画像を256諧調のモノクロ画像に変換し、256諧調の内、黒色側から50%の諧調を閾値として二値化画像に変換し、黒色領域を絶縁皮膜(ボイド含む)と定義した。また、256諧調の内、黒色側から20%の諧調を閾値として二値化画像に変換し、黒色領域をボイドと定義した。
そして、絶縁皮膜中の空洞率は、上記2つの二値化画像で得られた各領域の面積から以下の式で算出した。
(空洞率)=(ボイドの面積)÷(絶縁皮膜(ボイド含む)の面積)×100(%)
結果を表1に示す。
また、ボイドの平均径は、同様の画像を用いて、二値化画像に対して、粒子解析により得られる円相当径を平均して求めた。
[密着性試験]
密着性試験は、JIS K 5600-5-1(1999)の耐屈曲性試験に準じて実施した。試験番号1~試験番号16の方向性電磁鋼板から、圧延方向に80mm、圧延垂直方向に40mmの試験片を採取した。採取した試験片を直径16mmの丸棒に巻きつけた。密着性試験には、JIS K 5600-5-1(1999)の耐屈曲性試験に記載のタイプ1の試験装置を用いて、180°曲げを行った。曲げた後の試験片について、絶縁皮膜30が剥離した部分の合計面積を測定した。試験片の皮膜側の表面全体の面積に対する、絶縁皮膜30が剥離した部分の合計面積の割合を、φ16mm曲げ皮膜剥離率(%)とした。結果を表1に示す。
φ16mm曲げ皮膜剥離率(%)が50%以下であれば密着性に優れると判断した。
[絶縁性試験]
絶縁性試験は、JIS C 2550-4(2011)に準じて実施した。試験番号1~試験番号14の方向性電磁鋼板から、圧延方向に垂直な方向に30mm×圧延方向に280mmの試験片を採取した。採取した試験片に対して、JIS C 2550-4に記載された、層間抵抗(Ω・cm)を測定した。電圧は0.5V、加圧力2N/mmとした。10個の接触子電極に流れる全電流値から、層間抵抗値を算出した。測定された層間抵抗値の平均値を求め、層間抵抗とした。結果を表1に示す。層間抵抗が100Ω・cm以上であれば、絶縁性に優れると判断した。
表1を参照して、試験番号3~試験番号6及び試験番号11~試験番号14は、φ16mm曲げ皮膜剥離率が50%以下となり、層間抵抗が100Ω・cm以上であり、密着性及び絶縁性に優れた。
一方、試験番号1、2、9及び10では、焼付け工程での加熱速度が10℃/秒未満であり、絶縁皮膜中の空洞率が5%未満となった。その結果、φ16mm曲げ皮膜剥離率が50%を超えた。つまり、密着性が低かった。
試験番号7、8、15及び16では、焼付け工程での加熱速度が200℃/秒を超え、絶縁皮膜中の空洞率が30%を超えた。その結果、層間抵抗が100Ωcm未満となった。つまり、絶縁性が低かった。
<実施例2>
質量%で、Si:3.30%、C:0.050%、酸可溶性Al:0.030%、N:0.0080%、及びMn:0.10%、S及びSe:合計で0.005%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成のスラブを準備した。
上記スラブを1150℃で60分均熱加熱した。
加熱後のスラブに対して熱間圧延を施して、板厚が2.6mmの熱延鋼板を製造した。
製造した熱延鋼板に対して、熱延板焼鈍を実施して、焼鈍鋼板を製造した。熱延板焼鈍の条件は、900℃に120秒保持することとした。
製造された焼鈍鋼板に対して冷間圧延を施し、板厚が0.3mmの冷延鋼板を製造した。
製造された冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を施した。脱炭焼鈍は、水素:75体積%、残部:窒素及び不純物からなる雰囲気中にて、850℃で90秒保持する条件で実施した。
得られた母鋼板の表面に、焼鈍分離剤を塗布した。焼鈍分離剤は、アルミナ(Al)とマグネシア(MgO)を質量比で60:40とした。焼鈍分離剤を塗布した鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施して母鋼板を得た。仕上げ焼鈍は、水素-窒素混合雰囲気にて、15℃/時の昇温速度で1200℃まで加熱した後に、水素雰囲気にて1200℃で20時間保持する条件で実施した。その後、自然冷却し、二次再結晶及び純化が完了した鋼板を得た。
また、仕上げ焼鈍後の鋼板の化学組成は、いずれも質量%で、Si:3.30%、C:0.0020%以下、酸可溶性Al:0.0030%以下、N:0.0020%以下、及びMn:0.10%、S及びSe:合計で0.0005%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなっていた。
仕上げ焼鈍後の母鋼板に対して、熱処理を実施して、中間層を形成した。中間層形成工程の条件は次のとおりであった。水素:35体積%、残部:窒素及び不可避不純物からなり、露点:-2℃の雰囲気で、800℃まで加熱して30秒間保持した。その後、自然冷却した。いずれの例でも、中間層の組成は、Fe含有量が80原子%未満、P含有量が5原子%未満、Si含有量が20原子%以上、O含有量が50原子%以上、Mg含有量が10原子%以下を満足していた。
中間層を形成した母鋼板に対して、絶縁被膜を形成した。まず、中間層の表面に、コーティング溶液を塗布した。コーティング溶液の組成は、燐酸アルミ:50%、コロイド状シリカ:50%、及び、無水クロム酸:10%であった。
コーティング溶液を塗布した鋼板に対して、水素:75体積%、残部:窒素及び不純物からなる雰囲気で、表2の「焼付け温度」欄に記載の温度まで加熱した。また、鋼板の表面温度が100℃~600℃の間の温度域での平均加熱速度は、表2の、「焼付け工程での加熱速度」欄に記載のとおりとした。加熱した鋼板を、30秒間保持して絶縁皮膜を焼付けた。
焼付け後、室温まで鋼板を冷却した。P、OおよびSiを含む化合物と、Crとからなる絶縁皮膜が形成された。絶縁皮膜の厚みは、1.5~2.0μmであった。以上の工程により、方向性電磁鋼板を作製した。
得られた方向性電磁鋼板について、絶縁皮膜中の空洞率、ボイドの平均径、重心位置、絶縁皮膜中のCr濃度、Cr欠乏領域の総面積率を測定した。また、皮膜の密着性、絶縁性、耐水性を評価した。
[絶縁皮膜中の空洞率測定]
各試験番号の方向性電磁鋼板から、方向性電磁鋼板の圧延方向に垂直な断面が得られるように、試験片を採取した。試験片の断面に対して、SEMを用いて、倍率10000倍、視野面積8μm×6μmで、観察した。観察領域は、方向性電磁鋼板表面に平行な方向へ1mmとした。空洞の面積率を実施例1と同様の要領で画像解析により算出した。
結果を表2に示す。
[絶縁皮膜中のボイドの平均径、重心位置の測定]
空洞率の測定に用いた画像を用いて、ボイドの平均径を、実施例1と同様の要領で観察領域内の各ボイドの面積から算出される円相当径を平均して求めた。
また、ボイドの平均重心位置は、母鋼板表面からボイド内の画像ピクセルまでの距離をhとした時に、次式で求められる母鋼板表面とボイド内の全ピクセルとの平均距離haveとして求めた。
Figure 0007200687000003
ここで、上記式中、nはボイド内の全ピクセル数、hはボイド内のi番目のピクセルから母鋼板表面までの距離である。
結果を表2に示す。表2の「ボイドの平均重心位置」の欄のA~Dは、以下を示す。
A:ボイドの平均重心位置から中間層と絶縁皮膜との界面までの距離が、絶縁皮膜厚さの4/5超
B:ボイドの平均重心位置から中間層と絶縁皮膜との界面までの距離が、絶縁皮膜厚さの4/5以下、2/3超
C:ボイドの平均重心位置から中間層と絶縁皮膜との界面までの距離が、絶縁皮膜厚さの2/3以下、1/2超
D:ボイドの平均重心位置から中間層と絶縁皮膜との界面までの距離が、絶縁皮膜厚さの1/2以下
[絶縁皮膜中のCr濃度測定]
絶縁皮膜中のCr濃度測定は、各試験番号の方向性電磁鋼板表面において、方向性電磁鋼板表面に対して平行な方向に10μmを分析して算出した。TEMで絶縁皮膜全体を観察して、絶縁皮膜の厚さ方向の全厚が含まれるように、Cr濃度分布についてEDS(エネルギー分散型X線分析)面分析を行い、面分析で得られた絶縁皮膜の各位置でのCr濃度の平均値を、平均Cr濃度(原子%)と定義した。測定条件は、倍率1000倍で、被膜部の総視野面積は20μmとした。
[絶縁皮膜中のCr欠乏領域の総面積率測定]
絶縁皮膜のCr欠乏領域の総面積率を測定した。絶縁皮膜中のCr濃度測定を、上記のとおり行った結果、Cr濃度が、原子濃度で、絶縁皮膜全体の平均濃度の80%未満であれば、Cr欠乏領域であると特定した。絶縁皮膜全体のCr濃度の平均は、皮膜部の空洞を除いた面分析結果すべての平均値とした。特定されたCr欠乏領域の総面積の、視野観察面中の絶縁皮膜全体の総面積に対する比(%)を、Cr欠乏領域の面積率(%)とした。
[密着性試験]
密着性試験は、JIS K 5600-5-1(1999)の耐屈曲性試験に準じて実施した。試験番号17~試験番号30の方向性電磁鋼板から、圧延方向に80mm、圧延垂直方向に40mmの試験片を採取した。採取した試験片を直径16mmの丸棒に巻きつけた。密着性試験には、JIS K 5600-5-1(1999)の耐屈曲性試験に記載のタイプ1の試験装置を用いて、180°曲げを行った。曲げた後の試験片について、絶縁皮膜30が剥離した部分の合計面積を測定した。試験片の皮膜側の表面全体の面積に対する、絶縁皮膜30が剥離した部分の合計面積の割合を、φ16mm曲げ皮膜剥離率(%)とした。結果を表2に示す。
φ16mm曲げ皮膜剥離率(%)が50%以下であれば密着性に優れると判断した。
[絶縁性試験]
絶縁性試験は、JIS C 2550-4(2011)に準じて実施した。試験番号17~30の方向性電磁鋼板から、圧延方向に垂直な方向に30mm×圧延方向に280mmの試験片を採取した。採取した試験片に対して、JIS C 2550-4に記載された、層間抵抗(Ω・cm)を測定した。電圧は0.5V、加圧力2N/mmとした。10個の接触子電極に流れる全電流値から、層間抵抗値を算出した。測定された層間抵抗値の平均値を求め、層間抵抗とした。結果を表2に示す。層間抵抗が100Ω・cm以上であれば、絶縁性に優れると判断した。
[耐水性試験]
絶縁皮膜の耐水性については、上記の密着性試験後の試験片を用いて評価した。密着性試験後の試験片の曲げた部分を、曲げたまま水の中に浸漬した。1分経過後、試験片を引き上げ、絶縁皮膜が剥離した部分の合計面積を測定した。試験片の皮膜側の表面全体の面積に対する、絶縁皮膜が剥離した部分の合計面積の割合を、水浸漬後の皮膜剥離率(%)とした。結果を表2に示す。
φ16mm曲げ皮膜剥離率と水浸漬後の皮膜剥離率の差が20%以下である場合に、耐水性に優れると判断した。
Figure 0007200687000004
表2を参照して、試験番号17~22、25~28では、φ16mm曲げ皮膜剥離率が50%以下となり、層間抵抗が100Ω・cm以上であり、密着性及び絶縁性に優れた。
試験番号18~20、25~28ではさらに、水浸漬後の皮膜剥離率が(φ16mm曲げ皮膜剥離率+20)%以下となり、耐水性にも優れた。
一方、試験番号23、24では、焼付け工程での加熱速度が10℃/秒未満であり、絶縁皮膜中の空洞率が5%未満となった。その結果、φ16mm曲げ皮膜剥離率が50%を超えた。つまり、密着性が低かった。また、耐水性にも劣っていた。
試験番号29、30では、焼付け工程での加熱速度が200℃/秒を超え、絶縁皮膜中の空洞率が30%を超えた。その結果、層間抵抗が100Ωcm未満となった。つまり、絶縁性が低かった。
1 母鋼板
2A Mgを含有する酸化皮膜である仕上げ焼鈍皮膜
2B 中間層
3、30 絶縁皮膜
31 マトリクス
33 ボイド

Claims (6)

  1. 母鋼板と、
    前記母鋼板の表面上に直接接して形成されており、かつ、酸化珪素を主体とする中間層と、
    前記中間層の表面上に形成されている絶縁皮膜と
    を備え、
    前記絶縁皮膜がボイドを含み、前記絶縁皮膜中の空洞率が、面積率で5~30%である、方向性電磁鋼板。
  2. 請求項1に記載の方向性電磁鋼板であって、前記ボイドの平均径が、前記絶縁皮膜の膜厚の1/4以下かつ1/20以上である、
    方向性電磁鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記絶縁皮膜が、P、OおよびSiを含む化合物と、Crとからなり、前記絶縁皮膜中の平均Cr濃度が、0.1原子%以上である、
    方向性電磁鋼板。
  4. 請求項1~3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記ボイドの平均重心位置から、前記絶縁皮膜と前記中間層との界面までの距離が、前記絶縁皮膜の膜厚の4/5以下である、
    方向性電磁鋼板。
  5. 請求項1~4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記絶縁皮膜の表面において、
    Cr濃度が前記絶縁皮膜全体の平均Cr濃度の80%未満であるCr欠乏領域の総面積率が50%以下である、
    方向性電磁鋼板。
  6. スラブを準備する準備工程と、
    前記スラブを1280℃以下で加熱した後、熱間圧延を実施して方向性電磁鋼板用熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、
    前記方向性電磁鋼板用熱延鋼板に対して熱延板焼鈍を実施して焼鈍鋼板を製造する熱延板焼鈍工程と、
    前記焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、
    前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して母鋼板を製造する脱炭焼鈍工程と、
    前記母鋼板に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
    前記焼鈍分離剤塗布工程後の前記母鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、仕上げ焼鈍皮膜が形成された前記母鋼板を製造する仕上げ焼鈍工程と、
    必要に応じて、仕上げ焼鈍皮膜を除去し、前記母鋼板の表面粗さをRaで1.0μm以下の平滑面にする母鋼板表面平滑化工程と、
    仕上げ焼鈍工程又は母鋼板平滑化工程後の前記母鋼板に対して熱処理を実施して、前記母鋼板の表面と接触し、酸化珪素を主体とする中間層を形成する中間層形成工程と、
    前記中間層の表面に絶縁皮膜を形成する絶縁皮膜形成工程と、
    を備え、
    前記絶縁皮膜形成工程は、
    前記母鋼板の表面に形成された前記中間層の前記表面上に、燐酸塩、コロイド状シリカ、及び無水クロム酸又はクロム酸塩を含むコーティング溶液を塗布する塗布工程と、 前記コーティング溶液が塗布された前記母鋼板を加熱して、600~1150℃で5~300秒焼付け処理を行って前記絶縁皮膜を形成する焼付け工程と、
    を含み、
    前記焼付け工程では、前記母鋼板の加熱の際、100~600℃の温度域での平均加熱速度を10~200℃/秒とする、
    方向性電磁鋼板の製造方法。
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