JP7208570B2 - 受信装置 - Google Patents

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Description

本発明は、水中で音波を受信する技術に関する。
水中(特に海中)では、電磁波の吸収減衰が極めて大きい。そのため、無線伝送には、搬送波として音波が利用されることが一般的である。ただし、音波は電磁波と比べて伝搬速度が極めて遅い。そのため、海面や海底や海中構造物等に反射して到来する遅延波と、反射せずに到来する直接波と、の遅延時間の取り得る幅(以下「遅延広がり」という。)が極めて大きい。大きな遅延時間を持った信号の重畳により、劣悪な波形歪みが発生する。さらに、伝搬速度の遅さが原因となって、海流や波浪等の影響により、直接波と遅延波との間で生じるドップラー周波数差(以下「ドップラー広がり」という。)が大きくなってしまう。直接波と遅延波間との位相差の変化に伴って、波形歪みのパターン(以下「伝搬路特性」という。)が時間的に変動する。遅延広がりの大きさとドップラー広がりの大きさとは、共に伝搬速度の逆数に比例する。そのため、水中で音波を使った場合の遅延広がりとドップラー広がりとは、それぞれ空気中で電磁波を使った場合の遅延広がりとドップラー広がりと比べて、同条件で約20万倍大きくなる。そのため、音波を使って情報伝送を可能にするためには、高速に時変動する波形歪みを補償し続けることが必要となる。
このような水中音響通信特有の課題を解決する技術として、送受信装置間の伝搬路特性の逆特性をもつFIRフィルターを適応的に計算して適用する適応等化技術が提案されている(例えば非特許文献1)。
図5は、非特許文献1に示される適応等化技術を適用した受信装置90の具体例を示した図である。受信装置10は、受波器901、変換部902、FIR(Finite Impulse Response)フィルター903、シンボル推定部904及びフィルター係数計算部905を備える。受波器901は、水中の音波を電気信号に変換する。変換部902は、受波器901によって受信された信号のサンプリングを行う。FIRフィルター903は、サンプリングされた信号の波形操作を行う。シンボル推定部904は、FIRフィルター903を通過した信号に基づいて、送信されたシンボルの推定を行う。フィルター係数計算部905は、FIRフィルター903を通過した信号と、推定されたシンボルと、の誤差が最小となるようにFIRフィルター903のタップ係数を適応的に計算する。FIRフィルター903は、遅延広がりをカバーできる長さのタップ長を具備する。すなわち、遅延広がりをσ_T秒、FIRフィルター903のサンプリングレートがf_sヘルツとすると、タップ数N_tapは以下の式(1)のように表される。
Figure 0007208570000001
なお、タップ数N_tapの設計については、上述した非特許文献1の33ページや80ページに記載されている。
このように、遅延広がりよりも長い時間長をカバーするFIRフィルター903が適応的に最適化される。このような最適化によって、直接波と遅延波との重ね合わせにより発生する波形歪みをFIRフィルター903によって補償することが可能となる。すなわち、伝搬路特性の逆特性を持つ等化フィルターを動的に構成することが可能となる。このような処理によって、劣悪で時変動する波形歪みの補償が実現されている。
なお、非特許文献1に記載のある通り、複数の受波器901と、それに連接された複数のFIRフィルター903を用いる構成も提案されている。この構成においても、上述した構成と同様に、FIRフィルター903のタップ数は式(1)を満たすように設計される。それぞれのFIRフィルター903は、それぞれの送受波器間で生じた波形歪みを補償するように動作する。すなわち、それぞれのFIRフィルター903は、伝搬路特性の逆特性を持つ等化フィルターが構成されるように動作し、複数の受波器901はダイバーシチ効果を得る目的で利用されている。
越智 寛,"広帯域音源を用いた海中での高速ディジタルデータ伝送に関する研究"電気通信大学博士論文,2009年3月
伝搬路特性の逆特性を持つフィルターの係数を推定するためには、原理的に遅延広がり以上の時間が掛かる。その一方で、ドップラー広がりの逆数に比例した時間で伝搬路特性が変化する。そのため、ドップラー広がりと遅延広がりとが共に大きい場合、伝搬路特性の逆特性を持つフィルターの係数を推定している間に、伝搬路特性そのものが変化してしまう。そのため、従来技術では波形歪みの補償が困難となる。
ドップラー広がりの大きさは、利用される周波数や移動速度に比例する。そのため、高速通信のために高い周波数帯が利用された場合や、送信機又は受信機が高速に移動した場合には、従来の技術では波形歪みの補償を十分に行うことが難しかった。そのため、情報伝送ができない状態に陥ってしまっていた。このような理由により、従来の水中音響機器の通信速度は数十kbpsに制約されていた。したがって、水中音響機器を用いた通信を高速移動環境へ適用することが困難であった。
上記事情に鑑み、本発明は、遅延広がりによる波形歪みの影響を軽減することが可能となる技術の提供を目的としている。
本発明の一態様は、水中を伝搬する音波に基づく信号を受信するM個の受波器と、前記受波器によって受信された信号を波形操作するM個のFIRフィルターと、M個の前記FIRフィルターの出力信号を合成する合成器と、前記合成器によって合成された出力信号の誤差を小さくするように、前記M個のFIRフィルターのタップ係数を計算するフィルター係数計算部と、を備え、前記M個のFIRフィルターのタップ長は、前記音波の直接波と遅延波との到来時間の取り得る幅である遅延広がりよりも短い、受信装置である。
本発明により、遅延広がりによる波形歪みの影響を軽減することが可能となる。
本発明の受信装置10の機能構成の概略を示す概略ブロック図である。 受信装置10の動作原理を示した図である。 従来の受信装置と本実施形態における受信装置10とのシミュレーションの実施条件を示す表である。 図3に示される実施条件で行われたシミュレーションの結果を示すグラフである。 非特許文献1に示される適応等化技術を適用した受信装置90の具体例を示した図である。
本発明の受信装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[概略]
図1は、本発明の受信装置10の機能構成の概略を示す概略ブロック図である。本発明の受信装置10では、想定される遅延広がりσ_Tよりも十分に短いタップ長を有したFIRフィルター103が複数設けられる。タップ長とは、サンプリングの時間間隔と、タップ数とを乗じて得られる値である。このようなタップ長のFIRフィルター103が用いられるため、各FIRフィルター103は、波形歪みの逆特性のフィルターを構成することはできない。しかしながら、本発明の受信装置10では、波形歪みの根本的な原因である遅延波を空間的に除去することができる。そのため、大きな遅延広がりによる波形歪みの影響を軽減することが可能となる。以下、本発明の受信装置10の詳細について説明する。
[詳細]
受信装置10は、M台の受波器101(101_1~101_M)、M台の変換部102(102_1~102_M)、M台のFIRフィルター103(103_1~103_M)、合成器104、シンボル推定部105及びフィルター係数計算部106を備える。Mは、2以上の整数である。受波器101、変換部102及びFIRフィルター103は、いずれも同数設けられることが望ましい。なお、以下の説明では、M台の同名の装置に共通する構成に関しては、“_1”等の符号を省略して記載する。例えば、受波器に関しては、“受波器101_1”ではなく、“受波器101”と記載する。
受波器101は、水中を伝搬してきた音波を受波し、受波された音波を電気信号に変換する。
変換部102は、受波器101によって変換された電気信号のサンプリングを行う。具体的には以下の通りである。変換部102は、受波器101によって変換された電気信号に対し、アナログデジタル変換を行う。そして、変換部102は、アナログデジタル変換によって得られたデジタル信号について、周波数変換を行う。なお、変換部102には他の構成(変形例)が採用されてもよいが、各変形例については後述する。
FIRフィルター103は、変換部102によってサンプリングされた信号に対して波形操作を行う。FIRフィルター103のタップ数は、想定される遅延広がりσ_Tよりも十分に短いタップ長を確保できるように設定される。すなわち、FIRフィルター103のタップ数は、サンプリングの時間間隔と、想定される遅延広がりσ_Tと、に基づいて設定される。
合成器104は、FIRフィルター103によって波形操作が行われた後のM個の信号を合成する。
シンボル推定部105は、合成器104によって合成された後の信号に基づいて、水中を伝搬してきた音波に含まれるシンボルを推定する。言い換えれば、受信された音波が送信された時点に含んでいたシンボルを推定する。
フィルター係数計算部106は、M個のFIRフィルター103のタップ係数を適応的に計算する。タップ係数は、合成器104の出力信号が示すシンボルと、シンボル推定部105によって推定されたシンボルと、の誤差が最小となるように適応的に計算される。
例えば、受波器101間の距離のうち最も大きい距離をd[m]、水中における音速をc[m/s]とすると、FIRフィルター103_1~103_Mのそれぞれのタップ数Ntapは以下の式2のように表される。なお、dは上述したように受波器101間の距離のうち最も大きい距離であるため、もし受波器101間の距離が全て均一であれば、その均一な距離がdの値となる。
Figure 0007208570000002
すなわち、タップ長が、直接波と遅延波との遅延時間の取り得る幅(遅延広がり)よりも十分に短く、且つ、受波器101間の到来時間差よりも長くなるようにタップ数が設計される。このタップ数は、M個のFIRフィルター103全てに共通であってもよい。遅延広がり(σ_T)よりも十分に短いとは、例えば遅延広がりの10分の1であってもよいし、遅延広がりの100分の1であってもよい。例えば、遅延広がりとd/cの値との中間値よりも、d/cに近い値をとることが、遅延広がりよりも十分に短いということであるとして定義されてもよい。
次に、タップ数について詳細に説明する。本実施形態の受信装置10では、複数の受信系列(受波器101、変換部102及びFIRフィルター103の組合せ)が設けられる。各FIRフィルター103のタップ長は、上述したように遅延広がりよりも十分に短く設定される。フィルター係数計算部106は、このような複数の受信系列におけるFIRフィルター103について、適応的に最適化する。FIRフィルター103_1~103_Mは、そのタップ長が遅延広がりよりも十分に短いため、波形歪みの逆特性のフィルターを構成することはできない。一方で、本実施形態の受信装置10では、波形歪みの根本原因である遅延波を空間的に除去するという、従来とは全く異なる波形等化アプローチが適用されている。
さらに詳細に説明する。図2は、受信装置10の動作原理を示した図である。図2の例では、直観的な理解を手助けするため、送信信号はパルス信号、受波器101の数は2つ(101_a及び101_b)、遅延波の数は1つであると仮定する。また、便宜的に、合成器104の後段にさらにFIRフィルター103_cを接続した構成について説明する。この構成は、FIRフィルター103_1~103_Mをそれぞれ2つのFIRフィルター103a及び103bに分離し、合成器104の後段に配置しただけである。すなわち、図2に示される構成は、受信装置10と等価な動作を行うことが可能である。
図2に示すように、まず前段のFIRフィルター103_a及びFIRフィルター103_bでは、波形操作として、2つの遅延波が同時刻、逆位相となるように時間シフトと逆相化とが行われる。このような波形操作により、合成後の信号において遅延波の成分が消える。その結果、2つの受波器101_a及び101_bによって受信された直接波同士の重ね合わせによる波形歪みのみが残る。そして、後段のFIRフィルター101_cによって、直接波同士の重ね合わせによる波形歪みが補償される。以上の処理によって、波形等化が完了する。
受波器101間での直接波同士の到来時間差と、遅延波同士の到来時間差とは、たかだか送受波間の距離で決まるものであり、直接波と遅延波との時間差(遅延広がり)よりも圧倒的に短い。そのため、図2を用いて説明した波形操作は、極めて短いタップ長のFIRフィルター103で実現可能である。また、受波器101間での直接波同士の到来時間差及び位相差と、遅延波同士の到来時間差及び位相差とは、直接波及び遅延波の到来方向が変わらない限り一定である。そのため、直接波と遅延波との時間差及び位相差に比べて安定している。そのため、直接波と遅延波との時間差及び位相差によって決まる伝搬路の逆特性を推定するような従来の受信装置とは異なり、大きなドップラー広がりの伝搬路であっても極めて安定した波形等化が可能となる。
なお、フィルター係数計算部106には、明示的に図2を用いて説明したような動作を行わせるための新たな構成を適用する必要は無く、従来からあるフィルター係数計算部としての機能を実装すれば十分である。すなわち、FIRフィルター103のタップ長を、意図的に遅延広がりよりも十分に短く設定し、且つ、受波器101間の到来時間差よりも長くすることで、結果的に図2を用いて説明したような動作を行うFIRフィルター103が構成される。このような構成は、図2を用いて説明した動作が理論的に可能であり、且つ、それを実行することで出力される信号の誤差が最小となるためである。
図2でも説明したように、合成器104の後段にさらにFIRフィルター103_cを接続する構成においても、理論上は図1の構成と同等の動作を行うことが可能である。そのため、図1のような構成であっても図2のような構成であってもよい。ただし、図2のようなFIRフィルター103のカスケード構成では、誤差特性曲面が4次の関数となってしまい、その結果として局所的最小解を持つ構成となってしまう。そのため、LMSやRLS等の適応アルゴリズムにより誤ったフィルター係数に収束してしまう可能性がある。このことは、以下の参考文献にも開示されている。
参考文献:林和則,原晋介,“アダプティブアレーと判定帰還型等化器のカスケード接続による時空間等化法,”電子情報通信学会論文誌B,Vol.J85-B,No.6,pp.900-909
このような理由により、実用上は、後段にFIRフィルター103をカスケード接続しない図1のような構成が望ましい。図1の構成の場合には、各FIRフィルター103は、図2における前段のFIRフィルター103(103_a又は103_b)と、後段のFIRフィルター103(103_c)との機能を有する。
また、本実施形態の受信装置10は、受波器101の個数Mよりも1だけ小さい数の遅延波を除去する能力を有する。そのため、受波器101及びFIRフィルター103の個数(受信系列の個数)である自然数“M”は、受波器101に到来することが予定されている遅延波(除去対象として処理の対象となっている遅延波)の数よりも大きい正の整数とすることが望ましい。
図3は、従来の受信装置と本実施形態における受信装置10とのシミュレーションの実施条件を示す表である。図4は、図3に示される実施条件で行われたシミュレーションの結果を示すグラフである。具体的には、図4は、シミュレーションの結果として、移動速度に対するシンボル判定後のビット誤り率を示す。図4から明らかなように、400kbps(200kbaud、QPSK)という高速な通信においては、従来の受信装置は移動速度が0.001m/sを超えたあたりからフィルターの更新が間に合わなくなりビット誤り率の劣化が始まる。そのため、波浪や潮流等の僅かな伝搬路の変化にも追従できず、実用上は固定環境においても通信困難であることが分かる。一方、本実施形態に係る受信装置10は10m/sを超えるような超高速移動環境においても、ビット誤り率0.1%以下をキープ可能である。なお、移動速度が極めて低速な場合には、シミュレーション結果では、従来の受信装置の方が、ビット誤り率特性が良好である。この理由は、従来の受信装置はフィルターの更新が追い付く限りにおいては伝搬路の逆特性のフィルターで補償する理想的な波形等化が可能であるためである。
以上説明したように、本実施形態の受信装置10は、複数の受波器101に連接させたFIRフィルター103において、遅延広がりよりも十分に短いタップ長が適用されている。そして、このようなFIRフィルター103のフィルター係数を適応的に最適化する構成が採用されている。このような構成によって、波形歪みの根本原因である遅延波を空間的に除去することが可能である。そして、遅延波が空間的に除去されるため、水中の高速移動環境における高速通信が可能である。
[変形例]
本実施形態において、変換部102は、アナログデジタル変換のみを行うように構成されてもよい。変換部102は、アナログ信号に対して周波数変換を行い、その後にアナログデジタル変換を行うように構成されてもよい。
M個の受波器101の物理的な間隔は、全て均等であってもよいし、個々に異なってもよい。
また、非特許文献1に記載のようなFIRフィルター(フィードフォワードフィルター)の残留誤差を除去するフィードバックフィルターを後段に接続する構成にしてもよい。
なお、受信装置10のシンボル推定部105及びフィルター係数計算部106は、それぞれCPU等のプロセッサーやメモリを用いて構成される。シンボル推定部105及びフィルター係数計算部106は、記憶装置に記憶されたプログラムをプロセッサーが読み出して実行することによって動作する。プログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。シンボル推定部105及びフィルター係数計算部106の動作の一部又は全部は、例えば、LSI、ASIC、PLD又はFPGA等を用いた電子回路を含むハードウェアを用いて実現されてもよい。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
本発明は、水中における音波を用いた通信に適用可能である。
10…受信装置、101…受波器、102…変換部、103…FIRフィルター、104…合成器、105…シンボル推定部、106…フィルター係数計算部

Claims (5)

  1. 水中を伝搬する音波に基づく信号を受信するM個の受波器と、
    前記受波器によって受信された信号を波形操作するM個のFIRフィルターと、
    M個の前記FIRフィルターの出力信号を合成する合成器と、
    前記合成器によって合成された出力信号の誤差を小さくするように、前記M個のFIRフィルターのタップ係数を計算するフィルター係数計算部と、
    を備え、
    前記M個のFIRフィルターのタップ長は、前記音波の直接波と遅延波との到来時間の取り得る幅である遅延広がりよりも短い、受信装置。
  2. 前記タップ長は、M個の前記受波器間の距離のうち最も大きい距離を、水中での音速で割って得られる時間よりも長い、請求項1に記載の受信装置。
  3. 前記Mの値は、処理の対象となる遅延波の数よりも大きい正の整数である、請求項1又は2に記載の受信装置。
  4. 前記受波器によって受信された前記音波をデジタル信号に変換するM個の変換部をさらに備える、請求項1に記載の受信装置。
  5. 前記変換部は、前記音波の信号について周波数変換をさらに行う、請求項4に記載の受信装置。
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