JP7432190B2 - 抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するための、データの取得方法およびキット - Google Patents

抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するための、データの取得方法およびキット Download PDF

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特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス https://doi.org/10.1002/npr2.12100 掲載日 令和2年3月12日
本発明は、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するための、データの取得方法およびキットに関する。
大うつ病(Major Depressive Disorder:MDD)は、全ての疾患および障害の中で最も高い、障害調整生命年(Disability-Adjusted Life Year:DALY)に対する疾病負荷値を有する。つまり、大うつ病は、社会に対して大きな負担をかける疾患である。
近年、大うつ病の病因として、免疫の炎症プロセスが関与していることが明らかになりつつある。例えば、免疫の炎症プロセスに関与するサイトカインである、インターロイキン6(IL-6)および腫瘍壊死因子-α(TNF-α)等が抑うつ症状の誘発に関与することが示唆されている(非特許文献1~5参照)。
上述した状況にあって、現在、大うつ病の治療方法の開発が強く求められている。大うつ病の治療方法の1つとして、抗うつ薬が挙げられる。抗うつ薬としては、例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)、および、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin-Noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI)等を挙げることができる。
しかしながら、大うつ病の患者の中には、抗うつ薬による治療に対して抵抗性がある患者が多く存在し、これらの患者には抗うつ薬による治療は有効ではない。抗うつ薬による治療が有効でない患者に対しては、増強薬の投与、電気けいれん療法、および/または、経頭蓋磁気刺激などの、別の治療が必要となる。
Grygiel-Gorniak B et al., Cytokine secretion and the risk of depression development in patients with connective tissue diseases. Psychiatry Clin Neurosci., 2019; 73: 302-316 Connor TJ et al., Depression. Stress and immunological activation: the role of cytokines in depressive disorders. Life Sci., 1998; 62: 583-606 Dantzer R. O’Connor JC et al., From inflammation to sickness and depression: when the immune system subjugates the brain. Nat Rev Neurosci., 2008; 9: 46-56 Dowlati Y et al., A meta-analysis of cytokines in major depression. Biol Psychiatry., 2010; 67: 446-457 Zhang H et al., Peripheral interleukin-6 administration increases extracellular concentration of serotonin and the evoked release of serotonin in the rat striatum. Neurochem Int., 2001; 38: 303-308
しかしながら、従来技術では、抗うつ薬による治療に対して抵抗性がある患者を、抗うつ薬の投与前に識別することができないという問題がある。
抗うつ薬による治療に対して抵抗性がある患者を抗うつ薬の投与前に識別することができなければ、患者にとって有効ではない治療を長く続けることになり、その結果、患者にとって有効な治療を開始する時期が遅れるのみならず、患者にとって不要な経済的負担を強いることになる。
本発明の一態様は、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するための、データの取得方法およびキットを提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、抗うつ薬による治療に対して抵抗性がある患者から採取された試料は、抗うつ薬による治療によって症状が寛解した患者から採取された試料と比較して、試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が有意に高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
免疫の炎症プロセスには、様々なタンパク質が関与する。後述する実施例で実証するように、これらのタンパク質の中でも、インターロイキン6および腫瘍壊死因子-α等は抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのバイオマーカーとして機能せず、インターロイキン6レセプターこそが抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのバイオマーカーとして機能するということは、大きな発見であった。
本発明の一実施形態は、以下の態様を含む:
〔1〕被験体から採取された試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質を検出する検出工程を有する、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
〔2〕上記試料は血清、尿、血漿、または脳脊髄液である、〔1〕に記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
〔3〕上記検出工程では、上記試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が、35.80ng/mL以上であるか否かを検出する、〔1〕または〔2〕に記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
〔4〕上記大うつ病患者は、食欲異常、および/または、興味の喪失の症状を示す大うつ病患者である、〔1〕~〔3〕の何れかに記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
〔5〕上記検出工程で検出されたインターロイキン6レセプタータンパク質の検出結果を、重回帰分析にて処理する、データ取得工程を有する、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
〔6〕インターロイキン6レセプタータンパク質を検出するための物品を備えている、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのキット。
本発明の一態様によれば、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するための、データの取得方法およびキットを提供することができる。
本発明の一態様によれば、主観的な指標(例えば、患者の感情、行動など)ではなく、インターロイキン6レセプタータンパク質という客観的な指標に基づいて、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別することができる。
上段、中段、および下段は、各々、治療抵抗性の患者群、および症状が寛解した患者群における血清中における、sIL-6R、TNF-α、および、IL-6の濃度の分布を示す図である。 sIL-6R、TNF-α、および、IL-6に関するROC分析の結果を示す図である。 QIDS-SR16の各カテゴリーのスコアと、血清中のsIL-6Rの濃度との相関を示す図である。 バリマックス回転後の2次元で表された因子をプロットした図である。
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
〔1.抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法〕
「抗うつ薬抵抗性」を広く定義するのか、または、狭く定義するのかに応じて、患者が抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者に該当するか否かの判定が異なる。例えば、緩やかに抵抗性を定義する立場に立てば、1種類の抗うつ薬による治療を行っても症状の寛解が得られない場合に、抵抗性と判断され得る。一方、厳密に抵抗性を定義する立場に立てば、2種類の抗うつ薬による治療、および、当該治療に続く増強療法を行っても症状の寛解が得られない場合に、抵抗性と判断され得る。一例では、2種類以上の抗うつ薬を少なくとも12週間投与しても症状の寛解が得られない患者を、「抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者」と定義し、一方、1種類または2種類の抗うつ薬を服用した後に症状の寛解が得られる患者を、「症状の寛解が得られる大うつ病患者」と定義する場合があるが、これに限定されない。
本発明の一実施形態に係る抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法は、被験体から採取された試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質を検出する検出工程を有する。当該検出工程は、被験体から採取された試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質を検出および定量する工程であってもよい。
上記抗うつ薬としては、限定されない。上記抗うつ薬としては、例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬、非定型抗精神病薬、セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤を挙げることができる。
上記大うつ病患者は、特定の症状を示す患者であり得る。当該症状として、例えば、食欲異常(abnormality of appetite)、興味の喪失(loss of interest)、不眠症(insomnia)、悲しい気持ち(sorrowful feelings)、集中力の低下(decrease in concentration)、自己の見方(view of self)、死または自殺についての考え(thought of death or suicide)、エネルギーレベル(energy level)、落ち着かない、または、落ち着かない感じ(feeling slowed down or restless)、または、これらの2つ以上の組み合わせ(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、または、9つ)、を挙げることができる。
後述する実施例に示すように、上述した症状のうち、食欲異常の症状を示す大うつ病患者、および、興味の喪失の症状を示す大うつ病患者では、他の症状を示す大うつ病患者と比較して、試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が著しく高い。それ故に、上記大うつ病患者は、食欲異常、および/または、興味の喪失の症状を示す患者であることが好ましい。当該構成であれば、より正確に抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別することができる。
上記被験体としては、限定されない。当該被験体は、大うつ病の主な治療対象であるヒトであってもよく、大うつ病の研究などに用いられる実験動物であってもよい。当該被験体として、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、サル、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ)を挙げることができる。
上記試料としては、限定されない。当該試料として、例えば、血清、尿、血漿、および脳脊髄液を挙げることができる。容易に採取でき、かつ、容易に検出工程に供することができるという観点から、上記試料の中では、血清が好ましい。
インターロイキン6レセプターは、膜結合型インターロイキン6レセプター、および、可溶性インターロイキン6レセプターに大別することができる。膜結合型インターロイキン6レセプターは、様々な細胞の細胞膜に結合した状態で存在する。一方、可溶性インターロイキン6レセプターは、血清、尿、血漿、および脳脊髄液の中に可溶化した状態で存在する。
上記検出工程にて検出されるインターロイキン6レセプタータンパク質は、可溶性インターロイキン6レセプタータンパク質であってもよく、膜結合型インターロイキン6レセプタータンパク質であってもよいが、より正確に抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別することができるという観点から、可溶性インターロイキン6レセプタータンパク質であることが好ましい。
上記検出工程は、公知の方法によって行われ得、当該方法は限定されない。上記検出工程は、例えば、イムノアッセイ(例えば、エンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ)、または、ウエスタンブロットによって行われ得、より具体的に、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)によって行われ得る。これらの方法であれば、被験体から採取された試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質の量を精度高く定量することができるとともに、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を精度高く識別することができる。
上記検出工程では、抗インターロイキン6レセプター抗体(例えば、抗可溶性インターロイキン6レセプター抗体、および、抗膜結合型インターロイキン6レセプター抗体)が用いられ得る。
上記抗インターロイキン6レセプター抗体は、抗インターロイキン6レセプター抗体の全体を含むもの、抗インターロイキン6レセプター抗体の全体からなるもの、抗インターロイキン6レセプター抗体の断片を含むもの、または、抗インターロイキン6レセプター抗体の断片からなるものであってもよい。例えば、抗インターロイキン6レセプター抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、または、これらの断片(例えば、F(ab’)、Fab’、Fab、または、Fv)であってもよい。抗インターロイキン6レセプター抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、または、これらの断片であってもよい。
キメラ抗体とは、定常領域がヒトの抗体の定常領域に置き換えられている抗体を意図する。キメラ抗体は、周知方法にしたがって作製され得る(例えば、欧州特許公開公報EP0125023を参照)。
ヒト化抗体とは、H鎖およびL鎖の相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)以外がヒトの抗体の構造に置き換えられている抗体を意図する。
ヒト抗体とは、ヒトの抗体生産に関与する遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を用いて作製された抗体を意図する(例えば、欧州特許公開公報EP0546073を参照)。
F(ab’)、Fab’、Fab、および、Fvは、抗体の全体をプロテアーゼ(例えば、パパイン、または、ペプシン)によって分解し、必要に応じて、分解物を更に還元することによって得ることができる。また、F(ab’)、Fab’、Fab、および、Fvは、抗体を生産するハイブリドーマから、これらのcDNAを単離し、当該cDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主に導入することによって得ることができる。この場合には、抗体フラグメントは、抗体フラグメントと別のタンパク質との融合タンパク質として得ることもできる。
上記抗インターロイキン6レセプター抗体は、周知の方法(例えば、(1)HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、および、(2)岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)にしたがって作製することができる。勿論、インターロイキン6レセプター抗体として、市販の抗体を用いることも可能である。
モノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法(例えば、(1)ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495-497(1975))、(2)トリオーマ法、(3)ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))、および、(4)EBV-ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R Liss,Inc.,77-96(1985)))にしたがって作製することができる。
上記検出工程では、試料(例えば、血清)中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が、所定の濃度以上であるか否かを検出することが好ましい。なお、当該「所定の濃度」としては、「抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者」と「症状の寛解が得られる大うつ病患者」とを区別するための閾値を採用すればよい。
例えば、被験体から採取された試料(例えば、血清)中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が所定の濃度以上である場合には、当該被験体を「抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者」として識別することができる。一方、被験体から採取された試料(例えば、血清)中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が所定の濃度未満である場合には、当該被験体を「症状の寛解が得られる大うつ病患者」として識別することができる。
上記「所定の濃度(閾値)」としては、限定されないが、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の識別特異度を高める観点からは、例えば、35.80ng(インターロイキン6レセプタータンパク質)/mL(試料)であることが好ましく、37.00ng(インターロイキン6レセプタータンパク質)/mL(試料)であることがより好ましく、40.00ng(インターロイキン6レセプタータンパク質)/mL(試料)であることが更に好ましい。上記構成であれば、より正確に、かつ、より客観的に抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別することができる。
抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の識別感度を高める観点からは、例えば、35.80ng(インターロイキン6レセプタータンパク質)/mL(試料)であることが好ましく、35.00ng(インターロイキン6レセプタータンパク質)/mL(試料)であることがより好ましく、34.00ng(インターロイキン6レセプタータンパク質)/mL(試料)であることが更に好ましい。上記構成であれば、より高感度で抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別することができる。
このように感度および特異度の観点から、当業者は、その目的に合わせて抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の識別のための閾値を容易に決定することができる。つまり、特異度よりも感度を優先する場合には閾値を低く設定し、感度よりも特異度を優先する場合には閾値を高く設定する。
また、上述の閾値は、任意の測定系を用いてインターロイキン6レセプタータンパク質濃度を測定した値であり、例えば、Quantikine(登録商標)ヒトIL-6sRイムノアッセイを用いて測定することによって得られた値である。同一の試料を異なる測定系で測定した場合、インターロイキン6レセプタータンパク質濃度の測定値は、測定系間で若干の誤差が生じる場合がある。閾値は、例えば複数の測定系で得られる数値範囲内とすることも可能である。
本発明のある実施形態に係る抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法は、大うつ病の重症度を客観的に把握するためのデータを取得する、データ取得工程をさらに有する。
上記データ取得工程では、上述の検出工程で得られたインターロイキン6レセプタータンパク質濃度に基づいて、所望の統計分析を行い、大うつ病の重症度を把握するためのデータを取得することが挙げられる。例えば、QIDS-SR16スコアの説明変数として、インターロイキン6レセプタータンパク質のみを抽出した重回帰分析などを行うことによって、大うつ病の重症度を把握するデータ取得が可能である。
〔2.抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのキット〕
本発明の一実施形態に係る抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのキットは、インターロイキン6レセプタータンパク質を検出するための物品を備えている。
上記物品は、インターロイキン6レセプタータンパク質の検出に用い得るものであればよく、具体的な構成は限定されない。当該物品としては、例えば、インターロイキン6レセプタータンパク質に結合し得る物品が挙げられ、より具体的に、抗インターロイキン6レセプタータンパク質抗体を挙げることができる。
上記抗インターロイキン6レセプタータンパク質抗体は、上述した〔1.抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法〕にて説明した抗体であり得る。当該抗体については既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
上記キットは、上述した〔1.抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法〕にて説明した検出工程を行うためのキットであり得、例えば、イムノアッセイ用キット(例えば、エンザイムイムノアッセイ用キット、ラジオイムノアッセイ用キット、蛍光イムノアッセイ用キット)、または、ウエスタンブロット用キットであり得、より具体的に、ELISA用キットであり得る。
上記キットに備えられている物品(例えば、抗インターロイキン6レセプタータンパク質抗体など)は、支持体上に固定化された形態(例えば、アレイ、マイクロアレイ)のものであってもよい。この場合、上記支持体の材質、大きさ、および、形状などは限定されず、所望の材質、大きさ、および、形状であり得る。当該構成であれば、簡便に抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別することができる。
本発明の一実施形態に係る抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのキットは、インターロイキン6レセプタータンパク質を検出および定量するための更なる構成を備えていてもよい。当該構成としては、(i)抗インターロイキン6レセプタータンパク質抗体に結合する二次抗体、および、(ii)抗インターロイキン6レセプタータンパク質抗体に捕捉されたインターロイキン6レセプタータンパク質に結合する二次抗体を挙げることができる。
上記二次抗体は、放射性同位体、酵素、蛍光物質、または、発酵物質によって標識化された二次抗体であり得る。当該構成であれば、より正確に、インターロイキン6レセプタータンパク質を検出および定量することができる。
〔3.その他〕
本発明の一実施形態は、以下の態様をも含み得る:
<1>試料(例えば、被験体から採取された試料)中のインターロイキン6レセプタータンパク質を検出する検出工程を有する、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の診断方法。
<2>上記試料は血清、尿、血漿、または脳脊髄液である、<1>に記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の診断方法。
<3>上記検出工程では、上記試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が、35.80ng/mL以上であるか否かを検出する、<1>または<2>に記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の診断方法。
<4>上記大うつ病患者は、食欲異常、および/または、興味の喪失の症状を示す大うつ病患者である、<1>~<3>の何れかに記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の診断方法。
<5>上記検出工程で検出されたインターロイキン6レセプタータンパク質の検出結果を、重回帰分析にて処理する、データ取得工程を有する、<1>~<4>の何れかに記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者の診断方法。
〔1.実験方法〕
(1-1.定義)
本実験では、2種類以上の抗うつ薬(具体的に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、およびノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬から選択される2種類以上)を少なくとも12週間投与しても症状の寛解が得られない患者を、「抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者」(換言すれば、治療抵抗性:Treatment-resistant)と定義した。一方、上述した抗うつ薬の1種類または2種類を服用した後に症状の寛解が得られる患者を、「症状の寛解が得られる大うつ病患者」(換言すれば、寛解:Remitted)と定義した。
簡易抑うつ症状尺度(QIDS-SR16)のスコアが5点以下の症状は、うつ病の17項目ハミルトン評価尺度(HRSD17)のスコアが7点以下の症状に相当する。そこで、QIDS-SR16のスコアが5点以下の場合に、寛解と定義した。
(1-2.実験デザイン)
2018年9月から2018年12月までの間に受診した患者の中で、診断および統計マニュアル-5(DSM-5(登録商標))に従って、精神病症状を伴わないMDDと診断された患者から血液サンプルを採取した。それぞれの患者について、採血の時点で、治療抵抗性であるのか、寛解であるかの判断がなされた。
実験結果を明確なものとするために、症状が寛解した患者の選択に当たっては、最初の治療から当該実験への登録までに大うつ病の再発を示さなかった患者に限定した。実験対象の患者は、20~80歳であって、かつ、妊娠も授乳もしていない患者とした。また、(i)双極性障害、精神病性障害、強迫性障害、または、摂食障害の診断を受けた患者、(ii)てんかんの病歴を有する患者、(ii)主要な医学的障害および神経学的障害を有する患者、および、(iv)薬物もしくはアルコールに対する依存症、または、これらを乱用する患者は、本実験の対象から除外した。関節リウマチまたは橋本病などによって炎症状態の患者も、本実験の対象から除外した。
この実験は、ヘルシンキ宣言(1989)に従って行われた。また、この実験は、医療法人健翔会(No.1201-05-005708)の臨床研究倫理委員会によってレビューされ、承認された。患者/参加者は、書面によるインフォームドコンセントの手続きを経て、この実験に参加した。
(1-3.生物学的測定)
IL-6およびTNF-αの測定のために、5mLのEDTA(Ethylenediaminetetraacetic acid)を含む真空採血管に血液を収集し、sIL-6R(可溶性インターロイキン6レセプタータンパク質)の測定のために、寒天ベースの真空採血管に血液を収集した。収集した血液を、4℃で冷蔵保存した。
各タンパク質の測定は、sIL-6RについてはSRL社にて、IL-6およびTNF-αについてはLSI Medience社にて行った。具体的に、4℃で冷蔵保存した血液を1500gで5分間の遠心分離にかけ、分離された血清を、分析まで、-80℃で冷凍保存した。
IL-6、TNF-α、および、sIL-6Rの測定に当たっては、それぞれ、QuantiGlo(登録商標) ELISAヒトIL-6イムノアッセイ、QuantiGlo(登録商標)ヒトTNF-α化学発光イムノアッセイ第2世代、および、Quantikine(登録商標)ヒトIL-6sRイムノアッセイを使用した。IL-6、TNF-α、および、sIL-6Rの血清中の濃度の正常範囲は、それぞれ、≦2.41pg/mL、≦1.79pg/mL、および、14~46ng/mLである。
(1-4.統計分析)
TNF-α、IL-6、および、sIL6-Rの血清中の濃度について、治療抵抗性の患者と、症状が寛解した患者との間で比較検討を行った。グループ間の差異は、IBM SPSSによって分析した。データを、平均±SEMとして示し、P<.05の場合に、統計的に有意な差があるものと見なした。
受信者動作特性分析(ROC分析)を行った。曲線下面積(AUC)が0.7よりも大きい場合に、難治性および寛解を区別する上で、実験対象のタンパク質が有効であると結論付けた。
QIDS-SR16スコアを従属変数とし、他方、実験対象のタンパク質の血清中の濃度を独立変数として、変数増減法(ステップワイズ法)により、SPSSを用いて重回帰分析を行った。また、血清中のsIL-6R濃度と、QIDS-SR16スコアの各カテゴリーとの間で、相関分析を行った。さらに、QIDS-SR16のカテゴリー間の相関係数行列に基づいて、因子分析を行った。
〔2.結果〕
合計25人の治療抵抗性の患者、および、17人の症状が寛解した患者を、実験に登録した。女性の割合は、治療抵抗性の患者では52.0%、症状が寛解した患者では64.7%であった。平均年齢は、それぞれ、52.4±2.0歳、および、53.6±2.0歳であった。
患者の特性については、治療抵抗性の患者と、症状が寛解した患者との間で、有意な差異は認められなかった(表1)。
Figure 0007432190000001
血清中のsIL-6Rの濃度は、治療抵抗性の患者では、37.6ng/mL(95%信頼区間[CI] 34.0~41.2ng/mL)であり、症状が寛解した患者では、31.1ng/mL(95%CI 27.5~34.6ng/mL)であって、治療抵抗性の患者における血清中のsIL-6Rの濃度は、症状が寛解した患者における血清中のsIL-6Rの濃度よりも有意に高かった(図1の上段を参照)。
血清中のTNF-αの濃度は、治療抵抗性の患者では、2.23pg/mL(95%CI 1.44~3.02pg/mL)であり、症状が寛解した患者では、1.90pg/mL(95%CI 1.21~2.58pg/mL)であって、両者の間に有意差が認められなかった(図1の中段を参照)。
血清中のIL-6の濃度は、治療抵抗性の患者では、1.79pg/mL(95%CI 1.11~2.48pg/mL)であり、症状が寛解した患者では、1.41pg/mL(95%CI 0.85~1.97pg/mL)であって、両者の間に有意差が認められなかった(図1の下段を参照)。
なお、図1では、各タンパク質の血清中の濃度を、箱ひげ図として表示している。ボックスの中央の線は、濃度の中央値を表わす。ボックスの上部の線と、ボックスの下部の線とは、それぞれ、上部と下部との四分位数を表わす。ひげの上端と下端とは、それぞれ、濃度の最大値と最小値とを表わす。箱ひげ図から外れた値は、「星印」、「丸印」にて表示されている。なお、図1中の用語は、それぞれ以下を表す;Treatment-resistant:治療抵抗性の患者群、Remitted:症状が寛解した患者群、Treatment_Response:治療応答性。
ROC分析では、血清中のsIL-6Rの濃度のみが、有意なAUC(=0.789)を示し、当該AUCは、測定されたタンパク質の中で最高であった(図2を参照)。当該ROC分析に基づいて、治療抵抗性の患者と、症状が寛解した患者とを区別するためのsIL-6Rの濃度のカットオフ値は35.80ng/mLであることが分かった。また、その場合の感度と特異度とは、それぞれ0.68と0.71とであった。
なお、図2では、AUC値は、sIL-6R、TNF-α、IL-6について、それぞれ0.789(P=.009)、0.572(P=.434)、および、0.591(P=.324)。帰無仮説において、AUCは0.5である。なお、図2中の用語は、それぞれ以下を表す;Sensitivity:感度、Specificity:特異度。
重回帰分析では、QIDS-SR16スコアの説明変数として、sIL-6Rのみを抽出した(図3を参照)。決定係数(=0.278)は高くないため、QIDS-SR16の各カテゴリーのスコアと、血清中のsIL-6Rの濃度とについて、相関分析を行った。その結果、sIL-6Rの濃度と、食欲異常および興味の喪失に関連するスコアとの間に、特に有意な相関が検出された(表2を参照)。
なお、図3では、QIDS-SR16スコア=0.420×[sIL6-Rの濃度]-5.123として、回帰方程式が得られた。なお、図3中の用語は、それぞれ以下を表す;Normal:正常、Light:軽度、Middle:中程度、Severity:重度、Greatly Severity:著しく重度。
Figure 0007432190000002
悲しい気持ち(カテゴリー2)と、死または自殺についての考え(カテゴリー6)とは、血清中のsIL-6Rの濃度との相関係数が比較的低く、これら二つのカテゴリーは因子分析において互いに近くにプロットされた(図4を参照)。
なお、図4では、主成分分析によって、2つの要素が抽出された。なお、図4中の用語はそれぞれ以下を表す;Factor-1、Factor-2、:因子-1、因子-2、Category_1~9:カテゴリー1~9。
本発明は、大うつ病患者の診断および治療、並びに、大うつ病の研究(例えば、大うつ病の発症メカニズムの研究)に利用することができる。

Claims (4)

  1. 被験体から採取された試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質を検出する検出工程を有し、
    上記検出工程では、上記試料中のインターロイキン6レセプタータンパク質の濃度が、35.80ng/mL以上であるか否かを検出する、抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
  2. 上記試料は血清、尿、血漿、または脳脊髄液である、請求項1に記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
  3. 上記大うつ病患者は、食欲異常、および/または、興味の喪失の症状を示す大うつ病患者である、請求項1または2に記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
  4. 上記検出工程で検出されたインターロイキン6レセプタータンパク質の検出結果を、重回帰分析にて処理する、データ取得工程を有する、請求項1~の何れか1項に記載の抗うつ薬抵抗性の大うつ病患者を識別するためのデータの取得方法。
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