JP7510046B2 - クラッド材 - Google Patents

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Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板で構成されるクラッド材に関する。
ステンレス鋼板とアルミニウム合金板などの金属板を積層し、拡散接合したクラッド材は、それぞれの層を構成するステンレス鋼板および金属板の両方の特性を備え、それぞれ単独の材料では得られない複合特性を有するため、様々な部品に適用されている。特に、モバイル電子機器の筐体などの電子機器用のプレス成形部品に適用されるクラッド材には、優れた成形性が求められる。
特許文献1には、冷間加工で生じる圧延集合組織を利用して純アルミ板とステンレス鋼帯との異方性を異ならせることにより、純アルミ板の異方性とステンレス鋼帯の異方性を相殺し、加工性に優れたステンレス鋼/アルミクラッド板を製造する発明が開示されている。
特許文献2には、薄板連続鋳造法により製造したアルミニウム又はアルミニウム合金板にステンレス鋼板を合わせ、次に、アルミニウム又はアルミニウム合金板が20乃至60%、ステンレス鋼板が4%以下の加工率となる条件で熱間又は冷間加工することにより両者を圧接し、その後230乃至450℃の温度で焼鈍処理することにより、成形性が優れたクラッド板を得る発明が開示されている。
特許文献3には、結晶粒度番号が7から10の範囲に調整したフェライト系ステンレス鋼とアルミニウムとで構成される深絞り成形性にクラッド板の発明が開示されている。
特許文献4には、Mgを含むアルミニウム合金のインサート材を挿入したアルミニウム合金とステンレス鋼のクラッド板の発明が開示されている。
特開平10-244620号公報 特開平8-309561号公報 特開平11-319970号公報 特開平9-103891号公報
しかしながら、上記の従来技術では優れた剥離強度を有しておらず、様々な部品への加工時に剥離が生じるおそれがある。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、優れた剥離強度を有するオーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板で構成されるクラッド材を提供することを目的とする。
本発明者らが検討を重ねた結果、オーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板の表層部における結晶方位を特定方位に揃えることで、高い剥離強度が得られることを新たに知見した。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板の表層部における{110}<112>方位の集積度を高めることが重要である。
このようなオーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板は、表層に結晶配列が類似する結晶粒が多く存在することから、2枚の板を貼りあわせた際に、配列が近い結晶粒同士が接する確率が高まる。その結果、低温で短時間の加熱でも十分に拡散接合すると考えられる。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、「オーステナイト系ステンレス鋼板と、アルミニウム合金板とのクラッド材であって、
前記オーステナイト系ステンレス鋼板の前記アルミニウム合金板との界面に近接する表層部において、マルテンサイトの面積率が5.0%以下、かつ、{110}<112>方位のX線ランダム強度比が8.0以上であり、
前記アルミニウム合金板の前記オーステナイト系ステンレス鋼板との界面に近接する表層部において、{110}<112>方位のX線ランダム強度比が4.0以上である、
クラッド材。」を要旨とする。
本発明によれば、オーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板で構成される優れた剥離強度を有するクラッド材を得ることができる。
本発明の結晶方位が表示されるφ2=45°断面のODFを示す図である。
〔クラッド材〕
本発明のクラッド材は、オーステナイト系ステンレス鋼板層と、アルミニウム合金板層とを備えるクラッド材であり、各層の界面に近接する表層部における{110}<112>方位の集積度を高めることが重要である。
クラッド材の総厚さには制約がないが、0.1~0.6mmであることが好ましい。また、各層の厚さにも制約がないが、オーステナイト系ステンレス鋼板層の厚さは0.05~0.55mm、アルミニウム合金板層の厚さは、0.05~0.55mmであることが好ましい。
なお、以下の説明において、各層の界面に近接する表層部を「表層部」とも呼び、具体的には、各層の厚さをtとするとき、界面から20μmまでの領域を意味する。なお、各層の界面とは反対側の面に近接する表層部については、特に制約はなく、界面に近接する表層部と同様であってもよいし、異なっていてもよい。また、以下の説明では、2層のクラッド材について説明するが、3層以上のクラッド材であってもよいことは言うまでもない。以下、各層について説明する。
<オーステナイト系ステンレス鋼板>
本発明のクラッド材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼板は、所定の金属組織を備える。以下、オーステナイト系ステンレス鋼板の金属組織、化学組成、製造方法の順で説明する。
(金属組織)
上述のように、優れた剥離強度を得るためには、オーステナイト系ステンレス鋼板のアルミニウム合金板との接触箇所(界面)に近接する表層部における金属組織の制御が重要となる。具体的には、鋼板の表層部におけるマルテンサイトの面積率、オーステナイト粒の平均粒径および{110}<112>方位のX線ランダム強度比を、以下に示す範囲に調整する必要がある。それぞれの規定について詳しく説明する。
マルテンサイトの面積率:5.0%以下
鋼板の表層部にマルテンサイトが多いと拡散接合またはレーザー加工などで熱が加えられる際に、オーステナイト相へ変態し、鋼板の平坦度を低下させることで剥離強度を低下させる。加えて、オーステナイト相の面積率が低減することから{110}<112>方位粒の組織全体に占める分率も低下してしまう。そのため、鋼板の表層部におけるマルテンサイトの面積率は、5.0%以下とする。
表層部のマルテンサイトの面積率は、以下の手順により求める。まず、素材を電解研磨した100μm×100μm以上の面積の板表面と平行な面について、fcc構造およびbcc構造を結晶構造として選択して、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)で測定を実施する。そして、fcc構造と判別されない、すなわちbcc結晶構造を有する、または高ひずみで測定不能な領域をマルテンサイトとみなし、その面積率を求める。
なお、サンプルを作製する際にコロイダルシリカのような研磨剤での仕上研磨を行うと表層のオーステナイト相が加工誘起マルテンサイト変態を起こすおそれがあることから、必ず電解研磨または化学研磨でサンプル作製を行う。また、研磨される量は板厚に対して1/8厚までとする。板表面と平行な面での測定が困難な場合には板厚断面からの測定で代用することも可能である。その際にはアルミニウム合金板との界面を形成する側の最表層から20μmまでの領域を10000μm以上の面積となるような領域で同様の測定を行うものとする。
{110}<112>方位のX線ランダム強度比:8.0以上
{110}<112>方位は、オーステナイトの圧延加工集合組織の代表的な主方位である。鋼板の表層部(接合面)での同方位への集積を8.0以上とすることで、高い剥離強度が確保される。このため、この方位のX線ランダム強度比の下限を8.0とする。{110}<112>方位のX線ランダム強度比は8.5以上とすることが好ましく、9.0以上とすることがより好ましい。上限は特に設けないが、X線ランダム強度比が20.0を超えると、隣接する結晶粒との方位差15°以上を満足できなくなり、有効な結晶粒界として作用しなくなることから、この値を上限とすることが望ましい。
{110}<112>方位のランダム強度比は、X線回折によって測定される{200}、{311}、{220}極点図のうち、複数の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function,ODFという。)から求めればよい。なお、本発明でいうX線ランダム強度比とは、特定の方位への集積を持たない標準試料と供試材とのX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を標準試料のX線強度で除した数値である。
図1に、本発明の結晶方位が表示されるφ2=45°断面のODFを示す。{110}<112>方位は厳密にはφ1=55°,Φ=90°で表記される方位を指す。しかしながら、試験片加工および試料のセッティングに起因する測定誤差を生じることがあるため、φ1=50~60°、Φ=85~90°の範囲の最大値を、この方位の強度比として代表させる。ここで、結晶の方位は、通常、板面に垂直な方位を(hkl)または{hkl}、圧延方向に平行な方位を[uvw]または<uvw>で表示する。
{hkl},<uvw>は、等価な面の総称であり、(hkl),[uvw]は、個々の結晶面を指す。すなわち、本発明においてはfcc構造を対象としているため、例えば、(111),(-111),(1-11),(11-1),(-1-11),(-11-1),(1-1-1),(-1-1-1)面は等価であり、区別がつかない。このような場合、これらの方位を総称して{111}と称する。
なお、ODFは、対称性の低い結晶構造の方位表示にも用いられるため、一般的にはφ1=0~360°,Φ=0~180°,φ2=0~360°で表現され、個々の方位が(hkl)[uvw]で表示される。しかしながら、本発明では、対称性の高いfcc結晶構造を対象としているため、Φとφ2については0~90°の範囲で表現される。また、φ1は、計算を行う際に変形による対称性を考慮するか否かによって、その範囲が変化するが、本発明においては、対称性を考慮してφ1=0~90°で表記する。すなわち、φ1=0~360°での同一方位の平均値を、0~90°のODF上に表記する方式を選択する。この場合は、(hkl)[uvw]と{hkl}<uvw>は同義である。したがって、例えば、図1に示したφ2=45°断面におけるODFの、(110)[1-12]のX線ランダム強度比は、{110}<112>方位のX線ランダム強度比と同義である。
また、X線回折用試料は、接合面となる表面を、機械研磨およびバフ研磨した後、さらに電解研磨して歪みを除去して、接合面から20μm深さの面を露出させたものを使用する。この露出させた面を測定面とする。
なお、X線回折による測定ができない場合には、EBSD法により測定してもよい。この場合、上記の露出面において400μm×400μm以上の視野内10μmピッチで測定を行う。また、板表面と平行な面での測定が困難な場合には、板厚断面を測定面としてもよい。この場合には、接合界面から20μmまでの厚みの位置において接合界面に平行な仮想線を引き、その仮想線上において8mmの長さを10μmピッチで測定を行う。以上、主として、オーステナイト系ステンレス鋼板におけるX線ランダム強度比の測定方法について説明したが、アルミニウム合金板におけるX線ランダム強度比も同様の方法で測定することができる。
オーステナイト粒の平均粒径:5μm以下
表層部のオーステナイト粒の平均粒径を5μm以下とすることにより、単位面積当たりの結晶粒数が増加し、{110}<112>方位粒の存在頻度が平均化されるため、剥離強度が向上すると考えられる。したがって、本発明では、鋼板の表層部におけるオーステナイト粒の平均粒径の上限を5μmとすることが好ましい。また、エッチング加工等を行う場合、加工面が平滑になるというメリットもある。
オーステナイト粒の平均粒径は、以下の手順により算出する。まず、前述の方法で作製した素材の表層部において、100μm×100μm以上の面積をEBSDで測定し、fcc構造と判別された領域のうち、方位差15°以上の境界で囲まれた領域を1つの結晶粒とみなし、所定の面積中に含まれる結晶粒の数から結晶粒1個当たりの平均面積Sを算出する。そして、平均面積から、下記式(iii)によりオーステナイト粒の平均粒径Dを算出する。
D=(2S/π)0.5 ・・・(iii)
(化学組成)
クラッド材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼板については、上記の金属組織を有するものであれば、化学組成は特に限定しない。例えば、質量%で、
C:0.005~0.15%、
Si:1.0%以下、
Mn:1.5%以下、
Cr:15.0~20.0%、
Ni:6.0~15.0%、
N:0.005~0.15%、
Nb:0.01~0.50%、
Mo:0~2.0%、
Cu:0~1.5%、
V:0~0.15%、
Ti:0~0.30%、
B:0~0.010%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で求められるMd30値が20~60℃である化学組成が例示される。
Md30値=497-462×(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-20×(Ni+Cu)-18.7Mo ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の鋼中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
例示した化学組成における各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.005~0.15%
Cは、安価に鋼板の強度を高める強力な固溶強化元素である。また、Nbと結合して微細なNb化合物を析出し、再結晶および粒成長を抑制する効果を有する。しかし、Cは強力なオーステナイト安定化元素でもあり、その含有量が過剰であると、結晶粒微細化に必要な加工誘起変態が起こらなくなる。また、結晶粒微細化を目的とする低温での最終焼鈍時に粗大なCr炭化物が結晶粒界に析出し、Cr欠乏相が形成するため、ステンレス鋼として必要な耐食性が維持できない。したがって、C含有量は0.005~0.15%とするのがよい。C含有量は0.01%以上であるのが好ましい。また、C含有量は0.13%以下であるのが好ましく、0.12%以下であるのがより好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、溶製時の脱酸材として使用され、鋼の強化にも寄与する。しかし、Si含有量が過剰であると、粗大な酸化物を形成する可能性が高く、加工性を低下させる。したがって、Si含有量は1.0%以下とするのがよい。Si含有量は0.6%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Si含有量は0.1%以上であるのが好ましい。
Mn:1.5%以下
Mnは、熱間加工時の脆性破壊の防止と鋼の強化に寄与する。しかし、Mnは、強力なオーステナイト生成元素であるため、Mn含有量が過剰であると、冷間圧延時に生成する加工誘起マルテンサイトが少なくなり、最終焼鈍で微細結晶粒を得ることができなくなる。したがって、Mn含有量は1.5%以下とするのがよい。Mn含有量は1.2%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Mn含有量は0.1%以上であるのが好ましい。
Cr:15.0~20.0%
Crは、ステンレス鋼の基本元素であり、鋼材表面に酸化物層を形成し、耐食性を高める作用を奏する。しかし、Crは、強力なフェライト安定化元素であるため、Cr含有量が過剰であると、δフェライトが生成する。このδフェライトは素材の熱間加工性を劣化させる。したがって、Cr含有量は15.0~20.0%とするのがよい。Cr含有量は16.0%以上であるのが好ましく、19.0%以下であるのが好ましい。
Ni:6.0~15.0%
Niは、オーステナイト生成元素であり、室温でオーステナイト相を安定化させる作用を有する元素である。しかし、Ni含有量が過剰であると、オーステナイト相が安定化し過ぎて、冷間圧延時の加工誘起マルテンサイト変態が起こらなくなる。さらに、Niは高価な元素であり、含有量の過度な増大はコストの大幅な上昇を招く。したがって、Ni含有量は6.0~15.0%とするのがよい。Ni含有量は6.5%以上であるのが好ましい。また、Ni含有量は11.0%以下であるのが好ましく、9.0%以下であるのがより好ましい。
N:0.005~0.15%
Nは、Cと同様に、強力な固溶強化元素であり、鋼の強度向上に寄与する。また、Nbと結合して微細なNb化合物として熱間圧延時または焼鈍時に析出し、再結晶および粒成長を抑制する効果がある。しかし、N含有量が過剰であり、鋼板の製造過程で多数かつ粗大な窒化物が生成した場合、熱間加工性を顕著に劣化させ、製造を困難にする。また、Cと同様に、強力なオーステナイト安定化元素でもあり、N含有量が過剰であると、結晶粒微細化に必要な加工誘起変態が起こらなくなる。したがって、N含有量は0.005~0.15%とするのがよい。N含有量は0.01%以上であるのが好ましい。また、N含有量は0.13%以下であるのが好ましく、0.12%以下であるのがより好ましい。
Nb:0.01~0.50%
Nbは、焼鈍時に微細な炭化物または窒化物を生成し、ピン止め効果により結晶の粒成長を抑制することから、素材の結晶粒の微細化に有効な元素である。また、Nbは固溶して、または炭窒化物として熱間加工中の再結晶を抑制することでオーステナイトの加工集合組織を発達させる。しかし、Nb含有量が過剰であると、再結晶を抑制し、焼鈍後に未再結晶部が多量に残存する他、熱間加工性も劣化させる。また、Nbは極めて高価な元素であり、含有量の過度な増大はコストの大幅な上昇を招く。したがって、Nb含有量は0.01~0.50%とするのがよい。Nb含有量は0.03%以上であるのが好ましく、0.04%以上であるのがより好ましい。また、Nb含有量は0.30%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましい。
Mo:0~2.0%
Moは、材料の耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Moは極めて高価であり、含有量の過度な増大はコストの大幅な上昇を招く。したがって、Mo含有量は2.0%以下とするのがよい。Mo含有量は1.0%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Mo含有量は0.1%以上であるのが好ましい。
Cu:0~1.5%
Cuは、オーステナイト生成元素であり、オーステナイト相の安定度の調整に有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Cu含有量が過剰であると、製造過程で粒界に偏析する。このような粒界偏析は、熟間加工性を顕著に劣化させ、製造を困難にする。したがって、Cu含有量は1.5%以下とするのがよい。Cu含有量は1.0%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Cu含有量は0.1%以上であるのが好ましい。
V:0~0.15%
Ti:0~0.30%
VおよびTiは、Nbと同様、再結晶を抑制し、望ましい集合組織を強め、結晶粒の微細化に有効な元素であるため、必要に応じてこれらから選択される1種または2種を含有させてもよい。しかしながら、上記元素を過剰に含有させると、加工性の劣化を招く。したがって、V:0.15%以下、Ti:0.30%以下とするのがよい。一方、上記効果を得るためには、V:0.01%以上およびTi:0.01%以上から選択される1種以上を含有させるのが好ましい。
B:0~0.010%
Bは、粒界を強化する元素であり、熱間加工性の改善に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、かえって加工性の劣化を招く。したがって、B含有量は0.010%以下とするのがよい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は0.001%以上であるのが好ましい。
本発明の鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明の作用効果に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。不純物の総量は、0.8%以下とするのが好ましい。
Md30値:20~60℃
本発明が対象とする準安定オーステナイト系ステンレス鋼では、冷間圧延時におけるオーステナイトから加工誘起マルテンサイト(マルテンサイト)への変態と、その後の熱処理における加工誘起マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態を活用することにより、微細結晶粒が得られる。
Md30値が20℃未満であってオーステナイト安定度が高過ぎると、冷間圧延時に十分な加工誘起マルテンサイトが生成しないおそれがある。加えて、オーステナイトの冷間加工により焼鈍時の静的再結晶が促進され{100}<001>等の好ましくない方位が発達するために相対的に{110}<112>が低減してしまう。一方、Md30値が60℃を超えるとオーステナイト安定度が低くなり過ぎ、熱処理時に逆変態したオーステナイトが、冷却中に再度マルテンサイトに変態する場合がある。この場合、オーステナイト量が低減し、結果として{110}<112>方位を有する粒も低減してしまう。
したがって、下記(i)式で求められるMd30値は20~60℃とするのがよい。Md30値は25℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましい。また、Md30値は55℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましい。
Md30値=497-462×(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-20×(Ni+Cu)-18.7Mo ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の鋼中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
(製造方法)
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法については特に制限は設けないが、以下に示す方法により製造することが可能である。本発明の製造方法では、同鋼を常法により溶製、鋳造し、熱間圧延に供する鋼片を得る。この鋼片は、鋼塊を鍛造または圧延したものでもよいが、生産性の観点から、連続鋳造により鋼片を製造することが好ましい。また、薄スラブキャスター等を用いて製造してもよい。
(a)加熱工程
通常、鋼片は鋳造後、冷却し、熱間圧延を行うために、再度、加熱する。この場合、熱間圧延を行う際の鋼片の加熱温度は1150℃以上とする。これは、加熱温度が1150℃未満となると、粗大なNb炭窒化物が溶け残り、熱間加工中の割れの起点となる可能性があると共に、熱延中の集合組織のランダム化を促進(望ましい集合組織の形成が抑制)するためである。加熱温度は1170℃以上とすることが望ましい。加熱温度の上限は特に規定しないが、1400℃超に加熱することは生産性の低下に繋がると共に、通常の圧延では発達しない方位の成長を招くおそれがあることから、この温度を上限とすることが望ましい。なお、溶製した鋼を鋳造後、直ちに熱間圧延を行う連続鋳造-直接圧延(CC-DR)のようなプロセスを採用してもよい。
(b)熱間圧延工程
本発明の鋼板の製造方法においては、880~1000℃の温度域で熱間圧延を終了する。終了温度が880℃未満で圧延が行われると、変形抵抗が高くなりすぎて生産性を著しく阻害するとともに、熱延板の表層部の剪断層の発達が促される。終了温度は900℃以上とすることが望ましい。一方、熱間圧延の終了温度が1000℃超となるとすべての圧延パスで再結晶が生じることで熱延板の集合組織がランダム化し、表層部での{110}<112>が低減する。終了温度は980℃以下とすることが望ましく、950℃以下とすることがより望ましい。
また、熱間圧延の最終2パスにおいて、下記(ii)式で求められる形状比Lをいずれも4.5以下とする。最終2パスの形状比の少なくとも一方が4.5超となると、鋼板と圧延ロールの間の摩擦によって熱延板の表層部に剪断層と呼ばれる板厚中心層と結晶方位の異なる層が形成される。剪断層には{110}<112>方位が含まれないことから熱延の段階で剪断層が発達すると表層部の{110}<112>も低減してしまう。形状比Lは4.2以下とすることが望ましく、4.0未満とすることがより望ましい。形状比Lの下限は特に設けないが、2.5未満とすると熱延板の板厚が厚くなり、冷延の負荷が高くなることからこの値を下限とする。形状比Lは2.8以上であるのが望ましく、3.0以上であるのがより望ましい。
L=(√(R×(tin-tout)))/((2tout+tin)/3) ・・・(ii)
但し、式中における記号の意味は以下のとおりである。
L:各パスでの形状比
R:各パスでのロール半径(mm)
in:各パスでの入側板厚(mm)
out:各パスでの出側板厚(mm)
(c)巻取工程
上記の条件で熱間圧延を終了した鋼板を、900℃以下の温度範囲で巻き取る。巻取温度が900℃超となると巻取り中に再結晶が進行し、望ましい集合組織が弱くなる。巻取温度は880℃以下とすることが望ましく、850℃以下とすることがより望ましい。巻取温度の下限は特に規定しないが、550℃未満にすることは特段の効果がないばかりかコイルの強度を高め、巻き戻しを困難にすることからこの温度を下限とすることが望ましい。
上記の熱間圧延を完了後、一般的な工程と同様に冷間圧延と焼鈍を一回ないし複数回繰り返して鋼板を製造する。その際、最終工程のみを限定する。
(d)最終冷間圧延工程
最終冷延の圧延率が40%未満の場合、冷間圧延中のマルテンサイト変態が十分に起こらず、その後の焼鈍中の逆変態による細粒化が起こらない。さらに、加工集合組織が形成されないことから{110}<112>が発達しない。一方、圧延率が90%超となると通常の圧延と異なる方位が発達し{110}<112>が低減するのに加え、装置への負荷も極めて高くなる。したがって、圧延率を40~90%とする。圧延率は45%以上とすることが望ましく、50%以上とすることがより望ましい。また、圧延率は85%以下とすることが望ましく、80%以下とすることがより望ましい。
(e)最終焼鈍工程
最終焼鈍到達温度が600℃未満では逆変態が生じず、粒径5μm以下を達成することができない。一方、最終焼鈍の到達温度を1000℃超とすると、粒成長を促し、粒径を粗大化させるとともに、{110}<112>以外の方位が発達する。したがって、最終焼鈍到達温度は600~1000℃とする。最終焼鈍到達温度は650℃以上とすることが望ましく、700℃以上とすることがより望ましい。また、最終焼鈍到達温度は980℃以下とすることが望ましく、970℃以下とすることがより望ましい。
なお、上記の製造条件に加えて熱延板に冷延前に焼鈍を施してもよい。冷延前の焼鈍温度は600~1000℃とすることが望ましい。これは、600℃未満では熱延板が十分に軟化せず、冷間圧延時の加工の負荷が高くなるためであり、1000℃を超えると、粒径が粗大化し、静的再結晶が進行するためである。
また、最終焼鈍後に鋼板の機械的特性の調整を目的とする冷間圧延(調質圧延)、続けて、板の形状変化の原因となる残留応力の低減(歪取り)とγ母相への逆変態とを目的とした熱処理を実施してもよい。調質圧延率は50%以下とすることが望ましい。これは、50%以下でJIS規格(G4305)等に規定される必要な機械的性質へ調整可能なためである。熱処理温度は600℃~900℃とするのが望ましく、650~850℃とするのがより望ましい。これは、600℃未満では歪取りの効果を得られず、逆変態を生じないためである。また、900℃を超える温度では、冷間圧延での性能調整の効果が消失するためである。
<アルミニウム合金板>
本発明のクラッド材を構成するアルミニウム合金板は、所定の金属組織を備える。以下、アルミニウム合金板の金属組織、化学組成、製造方法の順で説明する。
(金属組織)
{110}<112>方位のX線ランダム強度比:4.0以上
アルミニウム合金板のオーステナイト系ステンレス鋼板との界面に近接する表層部において、{110}<112>方位のX線ランダム強度比が4.0以上であることが必要である。このアルミニウム合金板の表層部は、オーステナイト系ステンレス鋼板の表層部と同じ金属面({110}<112>方位)を多く備えるため、高い剥離強度を確保することができる。
なお、圧着または圧延によりクラッド材とした後のアルミニウム合金板の結晶粒径は100μm以下であることが望ましい。結晶粒径が100μm超となると表面性状が劣化し、美観を損なう可能性がある。
(化学組成)
アルミニウム合金板の化学組成については、上記の金属組織を有するものであれば、化学組成は特に限定しない。ただし、析出強化型アルミニウム合金であれば、{110}<112>方位のX線ランダム強度比を大きくしやすい。析出強化型アルミニウム合金としては、例えば、2000系アルミニウム合金(Cu等の元素を添加したアルミニウム合金)、6000系アルミニウム合金(Mg、Si等の元素を添加したアルミニウム合金)などが挙げられる。
(製造方法)
アルミニウム合金板の製造方法については特に制約はないが、強い{110}<112>方位を発達させるためには60%以上の冷間圧延を施すことが望ましい。また、表層にて{110}<112>を発達させる観点では冷間圧延を実施する際のロール径は100mm以上が望ましい。
〔クラッド材の製造方法〕
本発明のクラッド材は、上記の条件を備えるオーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板を積層し、圧延または圧着すること、さらには熱処理を行うことにより、拡散接合を生じさせて製造することができる。各層の界面に酸化物が形成され接合強度に悪影響を及ぼす場合があるので、圧延または圧着および熱処理は、真空中などの各層の表面に酸化物が形成されにくい条件で行うのが良い。また、圧延または圧着および熱処理は、下記の条件を満たすのが好ましい。
圧延または圧着は、10~450℃の温度で実施することが好ましい。10℃未満にすることは特段の効果が得られないばかりか変形抵抗の増加、コスト増を招くことからこれを下限とする。一方、450℃超とすることはアルミニウム合金板の急速な粒成長を招き表面性状の劣化や{110}<112>方位への集積度の低下を招く恐れがある。
圧着の際は20~200MPaの圧力を負荷するのがよい。圧力が20MPa未満では十分な剥離強度が得られない。一方200MPa超の圧力を負荷しても特段の効果が得られずコスト増を招くことからこの値を上限とすることが望ましい。
圧延を行う際の圧下率(断面減少率)は、5~30%の範囲とするのがよい。圧下率を5%未満で制御することは工業的に困難であると共に、十分な剥離強度が得られない可能性があることからこの値を下限とする。一方、圧下率を30%超とするとオーステナイト系ステンレス鋼板とアルミニウム合金版の界面で剪断変形が生じ、軟質なアルミニウム合金板の表層部分で結晶回転が生じることで{110}<112>方位への集積が低下する。このことから圧下率の上限は30%とすることが望ましい。
圧延または圧着後に、更に熱処理を行ってもよい。その際熱処理温度は150℃~450℃とするのがよい。熱処理温度が150℃未満では十分な拡散が起こらず特性が変化しないことからこの温度を下限とすることが望ましい。一方、熱処理温度を450℃超とするとアルミニウム合金板が著しく粒成長し表面性状が劣化することから450℃以下とすることが望ましい。
なお、三層以上のクラッド材は、例えば、上記の方法で二層のクラッド材を製造した後、他のオーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板を積層し、拡散接合することにより、製造することができる。
表1に示す種類のオーステナイト系ステンレス鋼を溶製し、表2に示す製法で製造し、表2中に示す金属組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼板を作製した。ただし、表2において、「SRT」は圧延前の加熱温度を、「L1」は最終パスより一つ手前のパスでの形状比を、「L2」は最終パスでの形状比を、「FT」は圧延終了温度を、「CT」は巻取温度を、「CR」は最終冷間圧延の圧延率を、「AT」は最終焼鈍温度をそれぞれ意味する。
アルミニウム合金については、表3に示す市販の合金板を調達した。なお、表3中のB4-2のみ市販の合金(0.4mm厚)を圧下率70%にて冷延後、500℃で30分の熱処理を施した。
Figure 0007510046000001
Figure 0007510046000002
Figure 0007510046000003
オーステナイト系ステンレス鋼板の表層部におけるオーステナイト粒の平均粒径およびマルテンサイトの面積率は、以下のようにして測定した。まず、鋼板の表層部の表面と平行な面について、EBSDで測定した。そして、fcc構造と判別された領域のうち、方位差15°以上の境界で囲まれた領域を1つの結晶粒とみなし、所定の面積中に含まれる結晶粒の数から結晶粒1個当たりの平均面積Sを算出した。そして、平均面積から、上記式(iii)によりオーステナイト粒の平均粒径Dを算出した。続いて、fcc構造と判別されない、すなわちbcc結晶構造を有する、または高ひずみで測定不能な領域をマルテンサイトとみなし、その面積率を求めた。
また、オーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板の表層部の{110}<112>方位のランダム強度比は、以下のようにして測定した。まず、板を機械研磨およびバフ研磨した後、さらに電解研磨して歪みを除去し、表面から15~20μmが測定面となるように調整した試料を用いてX線回折を行った。なお、特定の方位への集積を持たない標準試料のX線回折も同条件で行った。
次に、X線回折によって得られた{200}、{311}、{220}極点図を基に、級数展開法でODFを得た。そして、このODFからランダム強度比を決定した。なお、表層部のX線回折は、クラッド板の界面に近接する表層部について測定する。なお、実施例におけるX線回折は、圧延または圧着される前のオーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板について測定したが、その測定値は、クラッド板についてのオーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板の測定値と同等であることを確認している。
得られたオーステナイト系ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板を各種組み合わせて、圧延または圧着によりクラッド板を作製した。
圧延は、Ar雰囲気炉にて350℃に加熱後、大気中に取出し、圧下率20%にて行った。その後、再度350℃に加熱し、その温度で30分保持する熱処理をおこなった。
圧着は、50mm×50mmのオーステナイト系ステンレス鋼板とアルミニウム合金板を重ねあわせた後、50MPaの応力を付与しつつ、真空にて350℃に加熱し、その温度で30秒間保持する熱処理をおこなった。クラッド板の組み合わせおよび、熱処理後に実施した剥離試験で得られた剥離強度、アルミニウム合金の粒径を表4に示す。
なお剥離試験はJIS K 6854:1999に記載のT字剥離試験法に従って実施した。幅10mm、長さ150mmの剥離試験片を用いて、180mm/分の引張速度で行った。剥離強度は、20MPa以上を目標とする。
クラッド板のアルミニウム合金の粒径は、クラッド板の板厚断面からアルミニウム合金板部分を全厚×1000μmの領域をEBSDで測定した。このとき、fcc構造と判別された領域のうち、方位差15°以上の境界で囲まれた領域を1つの結晶粒とみなし、所定の面積中に含まれる結晶粒の数から結晶粒1個当たりの平均面積Sを算出した。そして、平均面積から、上記式(iii)によりアルミニウム合金の平均粒径Dを算出した。
Figure 0007510046000004
表4に示すように、クラッド板において本発明の条件を満足するNo.1~8では、十分な剥離強度を有していたが、オーステナイト系ステンレス鋼板またはアルミニウム合金板の表層部の{110}<112>方位のランダム強度比が本発明の範囲を外れるNo.9~13では、剥離強度が十分ではなかった。
本発明によれば、オーステナイト系ステンレス鋼板、および、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板で構成される、優れた剥離強度を有するクラッド材を得ることができる。このクラッド材は、モバイル電子機器の筐体などの電子機器用のプレス成形部品の材料に適している。

Claims (4)

  1. オーステナイト系ステンレス鋼板と、アルミニウム合金板とのクラッド材であって、
    前記オーステナイト系ステンレス鋼板が、Nb:0.01~0.50%を含み、下記式から算出されるMd30値が20~60℃であり、
    前記オーステナイト系ステンレス鋼板の前記アルミニウム合金板との界面から15~20μmの表層部において、マルテンサイトの面積率が5.0%以下、かつ、{110}<112>方位のX線ランダム強度比が8.0以上であり、
    前記アルミニウム合金板の前記オーステナイト系ステンレス鋼板との界面から15~20μmの表層部において、{110}<112>方位のX線ランダム強度比が4.0以上である、
    クラッド材。
    Md30値=497-462×(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-20×(Ni+Cu)-18.7Mo
    但し、上記式中の元素記号は、各元素の鋼中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
  2. 前記オーステナイト系ステンレス鋼板の化学組成が、
    質量%で、
    C:0.005~0.15%、
    Si:1.0%以下、
    Mn:1.5%以下、
    Cr:15.0~20.0%、
    Ni:6.0~15.0%、
    N:0.005~0.15%、
    Nb:0.01~0.50%、
    Mo:0~2.0%、
    Cu:0~1.5%、
    V:0~0.15%、
    Ti:0~0.30%、
    B:0~0.010%、
    残部:Feおよび不純物である、
    請求項1に記載のクラッド材。
  3. 前記クラッド材の総厚さが0.6mm以下である、
    請求項1または2に記載のクラッド材。
  4. オーステナイト系ステンレス鋼板と、アルミニウム合金板とのクラッド材であって、
    前記オーステナイト系ステンレス鋼板の前記アルミニウム合金板との界面から15~20μmの表層部において、マルテンサイトの面積率が5.0%以下、かつ、{110}<112>方位のX線ランダム強度比が8.0以上であり、
    前記アルミニウム合金板の前記オーステナイト系ステンレス鋼板との界面から15~20μmの表層部において、{110}<112>方位のX線ランダム強度比が4.0以上であり、
    JIS K 6854:1999に記載のT字剥離試験法に従って、幅10mm、長さ150mmの剥離試験片を用いて、180mm/分の引張速度で実施した剥離強度が、20MPa以上である、
    クラッド材。
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