以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本開示を具体化した一例であって、本開示の技術的範囲を限定する趣旨ではない。本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
(実施形態1)
[1]全体構成
まず、本実施形態に係るエンジンシステム1の全体構成について、図1~図6を参照して説明する。図1においては、エンジンシステム1の各部の構成を模式的に示し、かつ電気的な接続関係については(電気信号の流れる方向に向けた)一点鎖線の矢印にて示している。
本実施形態に係るエンジンシステム1は、図1に示すように、エンジンシステム1の主構成となるエンジン本体2を備える。ここでいう「エンジン」は、燃料を燃焼させて機械的エネルギー(動力)を生じさせる熱機関であって、燃料の燃焼が機関の内部で行われ、燃焼ガスを動作ガスとして熱エネルギーを機械的エネルギーに変える原動機である内燃機関を含む。つまり、エンジン本体2は、供給される燃料を用いて動力(機械的エネルギー)を発生させる。
本実施形態に係るエンジン本体2は、ピストン21(図1参照)の往復運動を回転運動に変換し動力として回転力を出力するレシプロエンジン(reciprocating engine)である。特に本実施形態では、少なくとも水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(Hydrogen fueled internal combustion engine)、つまり水素燃料レシプロエンジンを、エンジン本体2の例として説明する。
本実施形態では一例として、図1に示すように、船舶10に用いられるエンジンシステム1について説明する。このエンジンシステム1は、船舶10の船体100に搭載される。つまり、本実施形態に係る船舶10は、エンジンシステム1と、船体100と、を備えている。エンジンシステム1は、船体100を推進させる推進力を発生させるための駆動源として用いられる。本実施形態ではさらに、エンジンシステム1は、船体100で使用される電気エネルギー(電力)を生成する発電機101(図1参照)を駆動させるための駆動源としても利用可能である。つまり、エンジンシステム1は、船体100の推進力発生用、又は発電機101駆動用の駆動源として用いられる。発電機101で生成される電気エネルギーは、蓄電装置に蓄えられてもよい。
船舶10は、海、湖又は河川等の水上を航行(航走)する移動体である。本実施形態では一例として、船舶10は、主として海においてスポーツ又はレクリエーション等に用いられる小型船舶である「プレジャーボート」である。船舶10の船体100は、図2に示すように、プロペラ103及びプロペラシャフト104を有している。プロペラ103は、プロペラシャフト104によってエンジンシステム1のエンジン本体2と連結されている。船舶10は、エンジン本体2で発生する動力を受けてプロペラシャフト104を中心にプロペラ103を回転させることにより、船体100を前進又は後進させるための推進力を生じさせる。
エンジン本体2は、例えば、船体100の機関室の内底板上にベース台を介して据え付けられる。ここで、エンジン本体2は、図2に示すように、船体100が水上に停泊している状態において、水平面に対して船体100の進行方向の一方に、傾斜角度θ1だけ傾斜した姿勢で配置される。具体的には、エンジン本体2は、クランクシャフト22(図1参照)の回転軸Ax1(図3参照)を船体100の進行方向に沿わせつつ、船体100の進行方向の前進側(前進時に進む側)ほど高くなるように傾斜した「前上がり」の姿勢で配置されている。
また、本実施形態では、船舶10は、人(操縦者)の操作(遠隔操作を含む)に応じて動作する構成であって、特に、操縦者である人が搭乗可能な有人タイプであることとする。そのため、船舶10は、操縦者の操作を受け付ける操作盤102(図1参照)を船体100に有しており、操作盤102に対する操作に応じて、エンジンシステム1のエンジン制御部20がエンジン本体2を駆動させる。これにより、船舶10は、操縦者の操作に応じてエンジン本体2を駆動し、プロペラ103を回転させることによって船体100を前進又は後進させることが可能となる。また、船体100は、舵機構、表示装置、通信装置、及び照明設備等を含む種々の船内設備を更に備えている。また、エンジンシステム1が発電機101の駆動に用いられる場合には、発電機101の制御状態(発電機負荷)又は人(操縦者)の操作(遠隔操作を含む)等に応じて、エンジン制御部20がエンジン本体2を駆動させる。
本実施形態に係るエンジンシステム1は、気体燃料を空気と混合させてから燃焼室50に流入させる予混合燃焼方式と、液体燃料を燃焼室50内に噴射して燃焼する拡散燃焼方式と、のいずれにも対応可能な、いわゆるデュアルフューエルエンジン(DFエンジン)である。ここで、気体燃料は一例として水素であって、液体燃料は一例として化石燃料(軽油又はガソリン等)であることとする。より詳細には、液体燃料として軽油を用いることで、エンジンシステム1は、燃料に水素を用いるガスモードと、燃料に軽油を用いるディーゼルモードと、のいずれにも対応可能である。ここで、ガスモードにおいては着火用燃料として少量の液体燃料(軽油等)が更に用いられてもよい。
また、本実施形態では、説明の便宜上、図3に示すように、クランクシャフト22の回転軸Ax1に沿う方向を出力軸方向D1と定義する。さらに、図3に示すように、出力軸方向D1と直交しかつエンジン本体2が使用可能な状態での鉛直方向に沿った方向を上下方向D2と定義し、出力軸方向D1と上下方向D2との両方に直交する方向を幅方向D3と定義する。ここで、出力軸方向D1の一方を「前方」、他方を「後方」と定義し、クランクシャフト22においてプロペラシャフト104と連結される側(フライホイールが配置される側)を後方とする。同様に、幅方向D3の一方を「左方」、他方を「右方」と定義する。さらに、上下方向D2のうち、後述するクランク室52(図1参照)から見て気筒51(図1参照)が位置する側を「上方」、反対側を「下方」と定義する。
言い換えれば、本実施形態で用いられる各方向は、いずれもクランクシャフト22の回転軸Ax1を基準として規定される方向である。ここで、エンジン本体2は、上述したように、クランクシャフト22の回転軸Ax1を船体100の進行方向に沿わせつつ、傾斜角度θ1だけ水平面に対して傾斜する「前上がり」の姿勢で配置される。そのため、上下方向D2に延びる仮想直線は、船体100にエンジン本体2が搭載された状態での鉛直方向に対して、傾斜角度θ1だけ(後進側に)傾斜することになる。ただし、これらの方向は、いずれもエンジン本体2の使用方向(使用時の方向)を限定する趣旨ではない。
エンジン本体2の後端部からは、エンジン出力軸としてのクランクシャフト22が後方に向かって突出する。クランクシャフト22には、減速機を介してプロペラシャフト104が連結される。エンジン本体2が駆動され、クランクシャフト22が回転軸Ax1を中心に回転すると、プロペラシャフト104につながるプロペラ103が回転して船体100の推進力が発生する。エンジンシステム1が、発電機101の駆動に用いられる場合には、クランクシャフト22には、発電機101が連結される。この場合、エンジン本体2が駆動され、クランクシャフト22が回転軸Ax1を中心に回転すると、発電機101が駆動されて電気エネルギーが生成される。
本実施形態に係るエンジンシステム1は、上述したようにデュアルフューエルエンジンである。そのため、エンジンシステム1は、気体燃料(水素)を空気に混合させて燃焼させる予混合燃焼方式(ガスモード)と、液体燃料(軽油)を拡散させて燃焼させる拡散燃焼方式(ディーゼルモード)と、のいずれかを選択して、エンジン本体2を駆動させることができる。そのため、エンジン本体2には、気体燃料(ここでは水素)と液体燃料(ここでは軽油)との2種類の燃料を、エンジン本体2の外部から供給可能に構成されている。
すなわち、エンジンシステム1は、図1に示すように、気体燃料を供給するための燃料供給装置3と、液体燃料を供給するための液体燃料供給装置4と、を備えている。
燃料供給装置3は、噴射部31と、液化水素タンク32と、燃料供給路33と、気化器34と、調圧バルブ35と、ガスアドミッションバルブ36と、を有している。液化水素タンク32は、液化された気体燃料(ここでは水素)を貯留する燃料タンクであって、燃料供給路33を通してガスアドミッションバルブ36に接続されている。気化器34及び調圧バルブ35は、燃料供給路33に、上流側から気化器34、調圧バルブ35の順で挿入されている。気化器34は、液化水素を気化する。調圧バルブ35は、エンジン本体2への気体燃料の供給量を調整するガスバルブユニットである。ガスアドミッションバルブ36は、燃料供給路33を通して供給される気体燃料を、ノズル状(筒状)の噴射部31から、エンジン本体2内に噴射する。
液体燃料供給装置4は、液体燃料噴射部41を有している。液体燃料供給装置4は、液体燃料供給路を介して、液体燃料タンクに接続されている。液体燃料供給装置4は、液体燃料供給路を通して供給される液体燃料を、ノズル状(筒状)の液体燃料噴射部41から、エンジン本体2内に噴射する。
ここで、気体燃料を噴射する噴射部31は、燃焼室50につながる給気ポート61の内部に臨む位置に配置され、液体燃料を噴射する液体燃料噴射部41は、燃焼室50に臨む位置に配置されている。これにより、噴射部31は、気体燃料を給気ポート61内に噴射し、気体燃料を空気と混合させてから燃焼室50に流入させる。一方、液体燃料噴射部41は、液体燃料を燃焼室50内に直接的に噴射する。つまり、燃料供給方式として、気体燃料についてはポート噴射方式が採用され、液体燃料については直噴方式が採用される。
エンジン本体2は、図3及び図4に示すように、シリンダブロック5の上にシリンダヘッド6を組み付けて構成される。シリンダブロック5は、気筒51(シリンダ)及びクランク室52を有している。シリンダヘッド6は、給気ポート61及び排気ポート62を有している。図3に示すように、シリンダブロック5の下部には、クランクシャフト22が、回転軸Ax1を出力軸方向D1に向けた状態で回転可能に支持されている。
シリンダブロック5には、図5に示すように、複数(本実施形態では6つ)の気筒51がクランクシャフト22の回転軸Ax1に沿うように一列(直列)に並べて形成される。つまり、本実施形態では、エンジン本体2は、気筒51が複数直列に並べて配置された直列多気筒エンジン(直列6気筒エンジン)である。クランクシャフト22の回転軸Ax1に沿った出力軸方向D1と、複数の気筒51の並び方向とは一致している。各気筒51には、図1に示すように、ピストン21が上下方向D2にスライド可能、つまり往復移動可能に収容されている。ピストン21は、コネクティングロッド24を介してクランクシャフト22に連結される。
シリンダヘッド6は、複数(本実施形態では6つ)の気筒51に一対一で対応するように複数設けられている。複数(本実施形態では6つ)のシリンダヘッド6は、それぞれ気筒51を上方から覆うように、1つのシリンダブロック5の上方に固定されている。つまり、複数のシリンダヘッド6は、出力軸方向D1に一列に並べて配置されている。図1に示すように、各気筒51の内部空間のうち、ピストン21の上面とシリンダヘッド6の下面とで囲まれた空間が、燃焼室50として機能する。つまり、ピストン21が上下方向D2に往復移動することで、燃焼室50は膨張と収縮とを交互に繰り返すことになる。
複数のヘッドカバー71は、複数(本実施形態では6つ)の気筒51に一対一で対応するように、出力軸方向D1に一列に並べて、シリンダヘッド6上に配置されている。各ヘッドカバー71の内部には、給気弁72及び排気弁73を動作させるためのプッシュロッド及びロッカーアーム等を含む動弁機構が収容されている。給気弁72は、シリンダヘッド6に形成された給気ポート61のうち、燃焼室50につながる開口を開閉する。排気弁73は、シリンダヘッド6に形成された排気ポート62のうち、燃焼室50につながる開口を開閉する。これにより、給気弁72が開いた状態では、燃焼室50に給気ポート61からの空気(吸入空気)を取り込むことができる。排気弁73が開いた状態では、燃焼室50からの排気を排気ポート62に排出することができる。
給気弁72及び排気弁73の開閉駆動は、カムシャフト23(図1参照)にて行われる。カムシャフト23は、図1及び図6に示すように、シリンダブロック5における気筒51の左方に配置されたカム室53に収容されている。カム室53は、気筒51及びクランク室52等と一体に、シリンダブロック5に形成されている。カム室53は、出力軸方向D1に延びており、同じく出力軸方向D1に延びたカムシャフト23を回転可能に収容する。カムシャフト23は、クランクシャフト22の回転に連動して出力軸方向D1に沿った回転軸を中心に回転し、給気弁72及び排気弁73の各々を開閉駆動する。
また、シリンダブロック5の上方であって、かつシリンダヘッド6の左方に当たる部位には、サイドカバー74が取り付けられている。つまり、エンジン本体2の左側面の上部には段差が形成されており、この段差部分を覆うように、サイドカバー74が取り付けられる。サイドカバー74で覆われた空間には、液体燃料供給用レール配管、メイン燃料噴射ポンプ及びパイロット燃料供給用レール配管等が配置されている。液体燃料供給用レール配管は、出力軸方向D1に延びるように配置され、拡散燃焼方式での燃焼時に各気筒51の燃焼室50に液体燃料を分配して供給する。液体燃料供給用レール配管に供給された液体燃料は、各気筒51に対応して設けられたメイン燃料噴射ポンプに分配され、メイン燃料噴射ポンプから供給された液体燃料は液体燃料噴射部41から燃焼室50内に噴射される。パイロット燃料供給用レール配管は、予混合燃焼方式での燃焼時に気体燃料着火を目的として、各気筒51の燃焼室50にパイロット燃料を分配して供給する。
また、図1及び図6に示すように、シリンダブロック5における気筒51の右方には、エンジン本体2の外部からの空気(給気)を各気筒51の燃焼室50に分配して供給するための給気マニホールド54が配置されている。給気マニホールド54は、気筒51及びクランク室52等と一体に、シリンダブロック5に形成されている。給気マニホールド54は、出力軸方向D1に延びており、複数のシリンダヘッド6に形成された複数の給気ポート61につながっている。これにより、複数の給気ポート61には給気マニホールド54から空気が分配される。つまり、給気マニホールド54は、給気ポート61を通して、各気筒51の燃焼室50に通じることになる。
図6に示すように、シリンダヘッド6の右上方には、各気筒51の燃焼室50での燃焼により発生した排気を集めてエンジン本体2の外部に排出するための排気マニホールド75が配置されている。排気マニホールド75は、出力軸方向D1に延びており、複数のシリンダヘッド6に形成された複数の排気ポート62につながっている。これにより、複数の排気ポート62からの排気は排気マニホールド75に集約される。つまり、排気マニホールド75は、排気ポート62を通して、各気筒51の燃焼室50に通じることになる。
ここで、シリンダブロック5、シリンダヘッド6及びピストン21等の、エンジン本体2を構成する主要部品は、例えば、アルミ合金及び鋳鉄等の金属材料にて構成されている。これらの主要部品は、所望の耐久性(剛性及び耐摩耗性等を含む)を有し、かつ比較的優れた熱伝導性を有している。
上記構成によれば、拡散燃焼方式でのエンジン本体2の駆動時には、給気マニホールド54から各気筒51に供給された空気がピストン21のスライドにより圧縮された適宜のタイミングで、液体燃料噴射部41から燃焼室50内に液体燃料が噴射される。液体燃料が燃焼室50内に噴射されることにより、ピストン21は、燃焼室50で生じる爆発から得られる推進力によって気筒51内を往復運動し、ピストン21の往復運動がコネクティングロッド24を介してクランクシャフト22の回転運動に変換される。これにより、エンジン本体2は、クランクシャフト22の回転力を動力(機械的エネルギー)として出力する。
一方、予混合燃焼方式でのエンジン本体2の駆動時には、液化水素タンク32から燃料供給路33を通して供給された気体燃料が、噴射部31から給気ポート61内に噴射される。これにより、給気マニホールド54から給気ポート61に供給される空気と、気体燃料とが給気ポート61内で混合される。そのため、各気筒51には、給気ポート61から空気と気体燃料との混合気が導入され、当該混合気がピストン21のスライドにより圧縮された適宜のタイミングで、燃焼室50内に少量のパイロット燃料が噴射されることにより、気体燃料に着火される。ピストン21は、燃焼室50で生じる爆発から得られる推進力によって気筒51内を往復運動し、ピストン21の往復運動がコネクティングロッド24を介してクランクシャフト22の回転運動に変換される。これにより、エンジン本体2は、クランクシャフト22の回転力を動力(機械的エネルギー)として出力する。
拡散燃焼方式及び予混合燃焼方式のいずれであっても、燃焼室50での燃焼(爆発)により生じる排気は、ピストン21の運動により気筒51から押し出され、排気ポート62を通して排気マニホールド75に集められた後、エンジン本体2の外部に排出される。
また、本実施形態に係るエンジンシステム1は、エンジン本体2に加えて、過給機8(図1参照)を備える過給機付きエンジンである。過給機8は、図3及び図4に示すように、エンジン本体2の前部の上方に配置されている。
過給機8は、図1に示すように、給気側タービン81と、排気側タービン82と、を有している。給気側タービン81は、空気を給気マニホールド54に取り込むための給気通路83上に配置されている。排気側タービン82は、排気マニホールド75につながる排気通路84上に配置されている。排気側タービン82は給気側タービン81に連結されており、排気通路84を通して排出される空気(排気)の流れによって排気側タービン82が回転すると、給気側タービン81が回転する。給気側タービン81が回転することで、給気通路83から取り込まれる空気(吸入空気)は、圧縮され、インタークーラ85を通して給気マニホールド54に送られる。インタークーラ85は、図6に示すように、エンジン本体2の前端面に沿って配置されており、過給機8で圧縮された空気(吸入空気)を冷却する。図1における太線矢印は、空気(吸入空気及び排気を含む)の流れ(気流)を表している。
ところで、本実施形態に係るエンジンシステム1は、上述した構成のエンジン本体2(及び過給機8)に加えて、図1に示すように、エンジン制御部20、筒内圧センサ76及び回転数センサ77等を更に備えている。
エンジン制御部20は、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の1以上のメモリとを有するコンピュータシステムを主構成とし、種々の処理(情報処理)を実行する。エンジン制御部20における1以上のメモリには、1以上のプロセッサにエンジン制御方法を実行させるためのプログラム(エンジン制御プログラム)が記録されている。エンジン制御部20は、調圧バルブ35、ガスアドミッションバルブ36及び液体燃料噴射部41等に制御信号(電気信号)を出力し、調圧バルブ35、ガスアドミッションバルブ36及び液体燃料噴射部41等を制御する。これにより、エンジン制御部20では、エンジン本体2の出力(主として回転数)を、任意の値に調節するようにエンジン本体2を制御することが可能である。
筒内圧センサ76は、各気筒51の燃焼室50に臨む位置に配置され、燃焼室50内の圧力を計測し、計測値(圧力)に応じた電気信号をエンジン制御部20に出力する。回転数センサ77は、クランクシャフト22の回転数(及び回転角)を計測し、計測値(回転数)に応じた電気信号をエンジン制御部20に出力する。
[2]定義
本開示でいう「ブローバイガス」は、エンジン本体2の圧縮工程又は燃焼行程で高圧となった燃焼ガス(排気)及び未燃焼ガス等のうち、気筒51の内周面とピストン21の外周面との隙間を通して気筒51(燃焼室50)からクランク室52に漏れ出したガスを意味する。言い換えれば、「ブローバイガス」は、圧縮行程で高圧となった燃焼室50内の混合気がクランク室52に漏れ出してなる「圧縮漏れガス」を含む。つまり、燃焼室50内の未燃焼ガス等が、気筒51とピストン21との間の気密を確保するためのピストンリング(コンプレッションリング)のシール能力を超えると、燃焼室50内の未燃焼ガス等が、ブローバイガスとしてクランク室52に漏れ出すことがある。
本開示でいう「比重」は、ある物質の密度と、基準物質の密度との比を意味し、気体に関する比重は、当該気体と同温度かつ同圧力における基準物質としての空気との密度の比で表される。そのため、気体であるブローバイガスの比重が「1」より小さければ、ブローバイガスと同温度かつ同圧力における(ブローバイガスと)同体積の空気に比べて、ブローバイガスの質量は小さく(つまり軽く)なる。反対に、気体であるブローバイガスの比重が「1」より大きければ、ブローバイガスと同温度かつ同圧力における(ブローバイガスと)同体積の空気に比べて、ブローバイガスの質量は大きく(つまり重く)なる。一例として、水素の比重は「0.06952」であって「1」よりも十分に小さいため、ブローバイガスの主成分が水素である場合には、ブローバイガスの比重は「1」よりも小さくなり、ブローバイガスは同温度かつ同圧力で同体積の空気よりも軽くなる。あるいは、気体の比重は、標準状態(0℃、1気圧)の基準物質としての空気との密度の比で表されてもよい。
本開示でいう「バックファイア」は、例えば給気行程において、燃焼室50又は給気ポート61等において、意図せず着火し、その火炎が燃焼室50又は給気ポート61等の内部に存在することを意味する。したがって、(給気弁72が開いている)給気行程において、バックファイアが発生すると、給気ポート61が火炎に晒される可能性がある。
本開示でいう「平行」とは、一平面上の二直線であればどこまで延長しても交わらない場合、つまり二者間の角度が厳密に0度(又は180度)である場合に加えて、二者間の角度が0度に対して数度(例えば10度未満)程度の誤差範囲に収まる関係にあることをいう。同様に、本開示でいう「直交」とは、二者間の角度が厳密に90度で交わる場合に加えて、二者間の角度が90度に対して数度(例えば10度未満)程度の誤差範囲に収まる関係にあることをいう。
[3]シリンダブロックの構成
次に、エンジン本体2のうちのシリンダブロック5(及びその周辺構造)の構成について、図7~図16を参照してより詳細に説明する。図7は、出力軸方向D1の一方側である後側(クランクシャフト22が突出する側)からエンジン本体2を見た、シリンダブロック5の一部を破断しつつ主要な断面部分に斜線(ハッチング)を付した概略図である。図7では、サイドカバー74等の図示を適宜省略している。
本実施形態では、シリンダブロック5には、上述したように、気筒51及びクランク室52に加えて、カム室53及び給気マニホールド54が形成されている。気筒51、クランク室52、カム室53及び給気マニホールド54は、いずれもシリンダブロック5の内部において互いに区切られた区画(室)からなり、それぞれ内部空間を有している。そのため、これら気筒51、クランク室52、カム室53及び給気マニホールド54の内周面は、いずれもシリンダブロック5の内周面501に含まれる。具体的に、クランク室52がシリンダブロック5の下部に配置され、クランク室52の上方に、気筒51、カム室53及び給気マニホールド54が配置されている。気筒51、カム室53及び給気マニホールド54のうち、気筒51が幅方向D3の中央に配置され、気筒51の左方にカム室53が配置され、気筒51の右方に給気マニホールド54が配置されている。このように、シリンダブロック5は、上下方向D2に並ぶ気筒51とクランク室52とを含み、気筒51の下方にクランク室52が位置する。
ここで、図7では、気筒51、クランク室52、カム室53及び給気マニホールド54は、1つずつ示しているが、実際には、気筒51は、出力軸方向D1(図7の紙面に直交する方向)に複数(本実施形態では6つ)並べて配置されている。一方、クランク室52については、隣接する気筒51間に位置する仕切壁521によって、出力軸方向D1において一応仕切られているものの、仕切壁521の下部に形成された連通孔522によって一体に連続する。つまり、クランク室52は、出力軸方向D1につながる一つの区画(室)からなる。また、カム室53の下面には開口部531が形成されており、カム室53の内部空間は開口部531を通してクランク室52の内部空間Sp1と連続する。給気マニホールド54は、出力軸方向D1に延びる一つの区画(室)からなる。
気筒51は、上下方向D2に延びる円筒状に形成されており、内部にピストン21を上下方向D2に沿って往復移動可能に収容する。気筒51の上下方向D2の両端面は開放されている。ピストン21は、気筒51の内径に対応する外径を有する円柱状の部材であって、ピストン21によって気筒51の内部空間は上下方向D2に二分される。そして、気筒51の内部空間のうち、ピストン21の上方の空間、つまりピストン21の上面とシリンダヘッド6の下面とで囲まれた空間が、燃焼室50となる。一方、気筒51の内部空間のうち、ピストン21の下方の空間は、クランク室52の内部空間Sp1に連続する。
本実施形態では、ピストン21は、下面(クランク室52に臨む面)が開放された中空部材からなる。つまり、ピストン21は、円筒部211と、隔離壁212と、を有している。円筒部211は、上下方向D2の両端面が開放された円筒状の部位であって、隔離壁212は、円筒部211の上面を覆う部位である。ここでは、円筒部211と隔離壁212とは一体に形成されており、ピストン21は、全体として有底筒状に形成されている。そのため、厳密には、気筒51の内部空間のうち、燃焼室50と、クランク室52の内部空間Sp1に連続する空間とは、隔離壁212にて分離されている。言い換えれば、隔離壁212の上方の空間が燃焼室50となり、隔離壁212の下方の空間は、円筒部211の内部空間も含めて、クランク室52の内部空間Sp1に連続する。コネクティングロッド24は、その上端部がピストン21内に挿入された状態でピストン21に支持されている。
また、本実施形態では、気筒51は、ピストン21を案内するシリンダライナ511にて構成されている。シリンダライナ511は、円筒状の部品であって、その内周面に対してピストン21を摺動することにより、ピストン21の移動方向(上下方向D2)を規制する。シリンダライナ511は、シリンダブロック5のライナ支持壁55にて支持されている。ライナ支持壁55は、シリンダライナ511よりも一回り大きな内径を有する円筒状の部位であって、シリンダライナ511は、ライナ支持壁55に嵌め込まれることによりシリンダブロック5に固定される。ここで、シリンダライナ511の上下方向D2の寸法は、ライナ支持壁55の上下方向D2の寸法よりも大きく、シリンダライナ511の下端部はライナ支持壁55の下面から下方(クランクシャフト22側)に突出する。要するに、本実施形態では、シリンダブロック5は、気筒51を構成するシリンダライナ511を支持するライナ支持壁55を有する。シリンダライナ511の下端は、ライナ支持壁55の下端から下方に突出する。
クランク室52は、上述したように気筒51の下方に位置する。クランク室52の内部空間Sp1には、クランクシャフト22が回転軸Ax1を中心に回転可能に収容されている。クランクシャフト22は、仕切壁521にて回転可能に支持されており、コネクティングロッド24を介して連結されたピストン21の往復運動に連動して回転する。ここで、クランク室52は、気筒51の内部空間のうちのピストン21の上方の燃焼室50とは、ピストン21により隔離されている。ただし、例えば、燃焼室50内が高圧となる圧縮行程等においては、上述したように気筒51とピストン21との隙間を通して、未燃焼ガス等のブローバイガスが、燃焼室50からクランク室52に漏れ出すことがある。
ところで、関連技術として、燃焼室50からクランク室52に漏れ出したブローバイガスへの対策を講じたエンジンシステムが知られている。関連技術に係るエンジンシステムでは、クランク室52の内面部には、クランク室52からブローバイガスを取り入れる取入口が設けられる。取入口は、取入通路によってブローバイガス通路につながっており、エンジンシステムは、ブローバイガス通路にて、給気系を介してブローバイガスを燃焼室50に還流させるように構成されている。ここで、取入口(ブローバイガス取入部)は、クランクジャーナルよりも下側の位置に配置されることで、ブローバイガス取入部とクランクシャフト22のクランクジャーナルとの干渉が回避される。
しかしながら、例えば、水素等の比重が1より小さい気体燃料を用いるエンジンシステム1においては、クランク室52に漏れ出したブローバイガスがクランク室52の上方に滞留しやすい。そのため、上記関連技術のように、取入口がクランクジャーナルよりも下側の位置に配置されていると、クランク室52からブローバイガスを効率的に排出できない可能性がある。
そこで、本実施形態では、以下に説明する構成を採用することにより、クランク室52からブローバイガスを効率的に排出しやすいエンジンシステム1を提供可能とする。
すなわち、本実施形態に係るエンジンシステム1は、空気を基準とする比重が1より小さいブローバイガスが生じ得るエンジンシステム1である。このようなエンジンシステム1において、シリンダブロック5の内周面501には、換気口502が開口している。換気口502は、クランク室52の内部空間Sp1とシリンダブロック5の外部空間とをつなぐ換気通路503につながる口(孔)である。換気口502は、クランク室52における上下方向D2の中心C1よりも上方側に配置されている。
要するに、例えば、水素等の比重が1より小さい気体燃料を用いることで、(空気を基準とする)比重が1より小さいブローバイガスが生じ得るエンジンシステム1において、上記構成を採用することで、ブローバイガスを効率的に排出しやすくなる。この種のエンジンシステム1においては、クランク室52に漏れ出したブローバイガスは、クランク室52の上方に滞留しやすい。本実施形態に係るエンジンシステム1では、換気口502は、クランク室52のうち中心C1よりも上方側に配置されているため、クランク室52の上方に滞留するブローバイガスを、換気口502から効率的に排出することが可能である。つまり、ブローバイガスが滞留するクランク室52の上方部位に、ブローバイガスの出口となる換気口502が形成されているので、クランク室52の内部空間Sp1からブローバイガスが換気口502(及び換気通路503)経由で効率的に排出される。よって、クランク室52からブローバイガスを効率的に排出しやすいエンジンシステム1を提供できる。
具体的には、図7に示すように、クランク室52における上下方向D2の中心C1は、クランク室52の上下方向D2の寸法(高さ寸法)L1を二等分する位置に設定される。つまり、クランク室52の上端と下端との両方から等距離となる位置に中心C1が設定される。この中心C1から見て、上下方向D2における上方側、つまり気筒51側に位置するように、換気口502が配置される。換気口502は、平面視において、例えば、ブローバイガスを通過させるのに十分な大きさの円形状(真円)に開口している。ただし、換気口502は、円形状に限らず、例えば、楕円形状、四角形状又は多角形状に開口していてもよい。
より詳細には、換気口502は、気筒51の下端よりも上方側に配置されている。つまり、換気口502は、上下方向D2において、クランク室52の中心C1よりも上方側であって、かつ気筒51の下端よりも上方側に配置されている。ここでいう気筒51の下端は、気筒51のうち、最も下方に位置する部位であって、クランク室52に臨む部位である。本実施形態では、上述したように気筒51を構成するシリンダライナ511が、ライナ支持壁55の下端から下方に突出するので、シリンダライナ511の下端(下面)が気筒51の下端となる。気筒51の下端(シリンダライナ511の下端)は、図7に示すように、クランク室52における上下方向D2の中心C1よりも上方側に位置し、当該気筒51の下端よりも更に上方側に、換気口502が配置される。
これにより、比重が1より小さいブローバイガスは、気筒51の下端からクランク室52に漏れ出した後、気筒51の下端よりも上方側に位置する換気口502側に誘導されやすくなる。結果的に、クランク室52からブローバイガスをより効率的に排出しやすくなり、ブローバイガスの排出性能の向上を図ることができる。
また、換気口502は、下方に向けて開口する。ここで、上下方向D2において、気筒51から見てクランク室52側が「下方」であるところ、換気口502は、気筒51から見てクランク室52側に向かって開口することになる。換気口502は、シリンダブロック5の内周面501に開口しているので、内周面501のうち下方を向いた部位、つまり天面となる部位に換気口502が形成されることにより、下方に向けて開口する換気口502が実現される。換気口502は、下方に向けて開口していればよく、厳密に真下に向けて開口する構成だけでなく、斜め下方に向けて開口する構成も含む。つまり、換気口502の開口面の法線は、上下方向D2に平行であってもよいし、上下方向D2に対して傾斜していてもよい。
これにより、比重が1より小さいブローバイガスは、気筒51の下端からクランク室52に漏れ出した後、上方に向かって流れる際に換気口502から排出されやすくなる。結果的に、クランク室52からブローバイガスをより効率的に排出しやすくなり、ブローバイガスの排出性能の向上を図ることができる。
また、本実施形態では、上述したようにシリンダブロック5は、クランク室52とつながっており、カムシャフト23を収容するカム室53を更に含んでいる。ここで、換気口502は、カム室53に形成されている。要するに、換気口502は、図7に示すように、気筒51、クランク室52及びカム室53等を含むシリンダブロック5のうち、カム室53に配置されている。ここでは一例として、カム室53におけるカムシャフト23の上方となる位置、つまりカム室53の上壁部532に、換気口502が形成されている。ここで、換気口502は、上壁部532を上下方向D2に貫通する。カム室53の内部空間は開口部531を通してクランク室52の内部空間Sp1と連続するので、クランク室52に漏れ出したブローバイガスは、開口部531を通してカム室53内に導入されることになる。
これにより、カムシャフト23を収容するための空間を利用することで、換気口502を形成するための空間を新設することなく、クランク室52からブローバイガスを効率的に排出することができる。しかも、カム室53は、クランク室52の上方に位置するので、比重が1より小さいブローバイガスは、クランク室52に漏れ出した後、換気口502が形成されたカム室53に集まりやすくなり、ブローバイガスの排出性能の向上を図ることができる。
また、本実施形態では一例として、換気通路503は、図7に示すように、換気口502から上下方向D2に沿って真っすぐ延びる円筒状のパイプ(管)である。換気通路503は、換気口502に結合されており、換気口502から排出されるブローバイガスの通路として機能する。換気通路503の先端(換気口502とは反対側の端部)は、シリンダブロック5の外部空間の適宜の位置に配置される。一例として、換気通路503の先端は、サイドカバー74の内側に位置してもよいし、サイドカバー74の外側に位置してもよい。さらに、換気通路503の先端は、エンジン本体2が搭載されている船体100の外部に位置してもよいし、船体100の機関室に設けられた換気装置に接続されてもよい。
ただし、換気通路503は、この構成に限らず、例えば、角筒状等、円筒状以外の形状であってもよいし、チューブ又はホース等であってもよい。さらに、換気通路503は、クランク室52の内部空間Sp1とシリンダブロック5の外部空間との間におけるブローバイガスの通路となり得る構成であればよく、筒状の部材であることすら必須ではない。つまり、換気口502が、換気通路503を通して最終的にシリンダブロック5の外部空間に通じていればよく、例えば、サイドカバー74の内部空間が換気通路503として機能してもよい。
以上説明した構成によれば、図8に示すように、ブローバイガスは、クランク室52の内部空間Sp1から換気口502(及び換気通路503)経由で効率的に排出されることになる。図8では、ブローバイガスの流れを太線矢印で示している。すなわち、気筒51とピストン21との隙間を通して、未燃焼ガス等が、燃焼室50からクランク室52に漏れ出すことでブローバイガスが発生する。本実施形態では、比重が1より小さい気体燃料(水素)を用いることで、ブローバイガスについても比重が1より小さくなるため、クランク室52に漏れ出したブローバイガスはクランク室52の上方へと移動する。クランク室52の上方には、クランク室52の内部空間Sp1と開口部531にてつながるカム室53が設けられているため、上方に移動するブローバイガスは、開口部531を通してカム室53へと流入する。その結果、ブローバイガスは、カム室53の換気口502から排出され、換気通路503を通してシリンダブロック5の外部空間へと排出される。
また、本実施形態では、図9に示すように、換気通路503は、気体と液体とを分離する気液分離部504を有する。気液分離部504は、一例として、換気通路503の内側に設けられた突出壁からなる。気液分離部504としての突出壁は、換気通路503の内周面から、換気通路503の中心軸に向けて突出する。本実施形態では、換気通路503の内周面のうち幅方向D3の一方(左方)側から突出する突出壁と、幅方向D3の他方(右方)側から突出する突出壁とが、上下方向D2において交互に並ぶにように、気液分離部504としての突出壁が複数設けられている。幅方向D3の一方(左方)側から突出する突出壁と、幅方向D3の他方(右方)側から突出する突出壁とは、その先端部同士が上下方向D2において重複する。
このような気液分離部504が設けられることにより、換気通路503内部はラビリンス構造となり、換気口502から換気通路503に導入されたブローバイガスは、気液分離部504としての突出壁の間を縫うように蛇行しながら換気通路503内を流れる。そして、ブローバイガスが気液分離部504としての突出壁に接触した際、ブローバイガスと共に排出されたオイル又は水分等の液体が気液分離部504としての突出壁に付着する。これにより、ブローバイガスと共に排出された液体(オイル又は水分等)が、気液分離部504にて捕獲され、ブローバイガスに含まれている気体と分離される。結果的に、ブローバイガスは、オイル等の液体成分が少なくとも一部除去された状態で、換気通路503から排気されることになり、ブローバイガスの排気に伴うオイル消費等の抑制につながる。
気液分離部504は、上述したような突出壁に限らず、換気口502より排出されるブローバイガスから液体を分離する機能があればよい。気液分離部504は、例えば、換気通路503内に配置されるフィルタ等であってもよいし、突出壁とフィルタとの組み合わせであってもよい。
ところで、本実施形態に係るエンジン本体2は、上述したように、気筒51が複数(本実施形態では6つ)直列に並べて配置された直列多気筒エンジン(直列6気筒エンジン)である。この種のエンジンでは、複数の気筒51の各々についてブローバイガスが生じ得るところ、本実施形態では、ブローバイガス排出用の換気口502は、複数の気筒51に対して1つのみ設けられている。言い換えれば、換気口502は、複数の気筒51において共用されている。すなわち、本実施形態では、上述したように、クランク室52は、出力軸方向D1につながる一つの区画(室)からなる。そのため、複数の気筒51のいずれでブローバイガスが生じたとしても、結局は、同一のクランク室52にブローバイガスが漏れ出すことになる。してみれば、ブローバイガス排出用の換気口502においても、複数の気筒51に対して1箇所にあれば足りることになる。
具体的には、図10に示すように、気筒51は、出力軸方向D1に並ぶように複数設けられており、複数の気筒51は、出力軸方向D1の両側に位置する一端側気筒51A及び他端側気筒51Bを含む。ここで、換気口502は、一端側気筒51Aに対応する位置に配置される。要するに、出力軸方向D1に並ぶ6つの気筒51のうち、出力軸方向D1の一端(本実施形態では前端)側にある気筒51を「一端側気筒51A」、出力軸方向D1の他端(本実施形態では後端)側にある気筒51を「他端側気筒51B」と定義する。この場合に、換気口502は、カム室53のうち、一端側気筒51Aに対応する位置、つまり前端部に形成される。換気通路503は、この換気口502から上方に延びるように設けられる。
このように、換気口502は、複数の気筒51に対して1箇所にあればよく、結果的に、ブローバイガスの排出のための構造を簡略化することができる。特に、本実施形態では、エンジン本体2は「前上がり」の姿勢で配置されている(図2参照)ので、クランク室52に漏れ出したブローバイガスは、相対的に上方に位置する前端部側に集約されやすくなる。そのため、シリンダブロック5(におけるカム室53)の前端部に換気口502が配置された構成では、船体100に設けた排気管105(図2参照)から、より効率的にブローバイガスを排出することが可能となる。
また、本実施形態では、換気口502からのブローバイガスの排気をよりスムーズに行うために、図11に示すように、シリンダブロック5の内周面501には、クランク室52の内部空間Sp1とシリンダブロック5の外部空間とをつなぐ気体導入口505が開口している。図11は、気筒51、クランク室52及びカム室53の位置関係を模式的に表すシリンダブロック5の概略図である。
このような気体導入口505が、換気口502とは別に設けられることによって、換気口502からのブローバイガスの排気時に、クランク室52の内部空間Sp1に新鮮な空気を取り込むことが可能である。その結果、クランク室52の内部空間Sp1の換気(ブローバイガスの排気)をよりスムーズに行うことが可能である。気体導入口505は、平面視において、例えば、空気を通過させるのに十分な大きさの円形状(真円)に開口している。ただし、気体導入口505は、円形状に限らず、例えば、楕円形状、四角形状又は多角形状に開口していてもよい。
気体導入口505は、図11に示すように、クランク室52に配置されるクランクシャフト22の回転軸Ax1に沿う出力軸方向D1において、換気口502と気体導入口505とは互いに異なる位置に配置されている。つまり、換気口502と気体導入口505とは、出力軸方向D1において互いにオフセットしている。図11の例では、気体導入口505は、出力軸方向D1の他端側にある他端側気筒51Bに対応する位置、つまりシリンダブロック5の後端部に配置されている。要するに、換気口502は、出力軸方向D1の一端(本実施形態では前端)側に配置されているのに対し、気体導入口505は、出力軸方向D1の他端(本実施形態では後端)側に配置されている。
この構成によれば、気体導入口505から導入される気体(空気)は、換気口502に向けて流れることで、出力軸方向D1に沿った気流を形成するので、気流を出力軸方向D1の広範囲にわたって作用させることができる。したがって、気流によるブローバイガスの排出性能の更なる向上を図ることができる。
特に、本実施形態では、換気口502は、一端側気筒51Aに対応する位置(前端部)に配置されているのに対し、気体導入口505は、他端側気筒51Bに対応する位置(後端部部)に配置されている。このように、換気口502と気体導入口505とが、出力軸方向D1におけるシリンダブロック5の両端部に配置されることで、気流をクランク室52における出力軸方向D1の略全域にわたって作用させることができる。したがって、気流によるブローバイガスの排出性能の更なる向上を図ることができる。
また、本実施形態では、換気口502と気体導入口505とは、平面視において、クランク室52に配置されるクランクシャフト22の回転軸Ax1を挟んで反対側に配置されている。つまり、平面視において、換気口502は回転軸Ax1から見て幅方向D3の一方側(本実施形態では左方側)に位置するのに対し、気体導入口505は回転軸Ax1から見て幅方向D3の他方側(本実施形態では右方側)に位置する。気体導入口505は、一例として、クランク室52の右側壁を貫通するように、クランク室52の右側壁に形成されている。このように、換気口502と気体導入口505とが回転軸Ax1を挟んで反対側に配置されることで、気流をクランク室52における幅方向D3の広範囲にわたって作用させることができる。したがって、気流によるブローバイガスの排出性能の更なる向上を図ることができる。
さらに、本実施形態では、気体導入口505は、クランク室52における上下方向D2の中心C1(図7参照)よりも下方側に配置されている。これにより、気体導入口505から導入される気体(空気)による気流は、斜め上方の換気口502に向けて流れることで、上下方向D2に沿った気流を形成するので、クランク室52の全体にわたって気流を作用させることができる。したがって、気流によるブローバイガスの排出性能の更なる向上を図ることができる。
ここで、本実施形態に係るエンジンシステム1は、図12に示すように、気流形成部506を更に備える。気流形成部506は、気体導入口505から換気口502に向かう気流を形成する。図12は、気筒51、クランク室52、カム室53及び給気マニホールド54の位置関係を模式的に表すシリンダブロック5の概略図である。本実施形態では一例として、過給機8を気流形成部506に利用する。具体的には、気流形成部506は、給気マニホールド54と気体導入口505との間をつなぐバイパス管を含む。気流形成部506としてのバイパス管は、例えば、給気マニホールド54における気流の下流側の端部(本実施形態では後端部)から気体導入口505への空気の通り道を形成する。これにより、過給機8で圧縮された空気(吸入空気)は、インタークーラ85を通して給気マニホールド54に送られ、さらに気流形成部506としてのバイパス管を通して気体導入口505に送られる。その結果、気体導入口505は、圧縮空気によってクランク室52の内部空間Sp1に対して正圧の状態となり、クランク室52内においては換気口502から気体(ブローバイガス)を押し出す向きの気流が発生する。
このように、気流形成部506が設けられることにより、クランク室52の内部空間Sp1に強制的に気流を形成することができ、クランク室52内にブローバイガスが停滞しにくくなる。つまり、気流形成部506によって、換気口502からのブローバイガスの排出が促進され、ブローバイガスの排出性能の更なる向上を図ることができる。しかも、本実施形態では、過給機8を気流形成部506に利用するので、気流を形成するための装置を新設する必要がない。
図13は、換気口502と気体導入口505との位置関係、及び気流形成部506に関する変形例を示す。図13の「A」に示す変形例では、換気口502は、シリンダブロック5の出力軸方向D1の中央部に配置され、気体導入口505は、シリンダブロック5の出力軸方向D1の両端部にそれぞれ配置されている。この例では、2箇所に形成された気体導入口505から導入される気体(空気)が、1箇所の換気口502に向けて流れることで、出力軸方向D1に沿った気流を形成する。
図13の「B」に示す変形例では、気流形成部506は、船体100に搭載されているエアタンクを含み、エアタンクから気体導入口505に空気を送り込む。図13の「C」に示す変形例では、気流形成部506は、電動ファンを含み、電動ファンから気体導入口505に空気を送り込む。図13の「B」及び「C」のいずれの例であっても、気体導入口505は、クランク室52の内部空間Sp1に対して正圧の状態となり、クランク室52内においては換気口502から気体(ブローバイガス)を押し出す向きの気流が発生する。
一方、図13の「D」に示す変形例では、気流形成部506は、電動ファンを含み、電動ファンにて換気口502からブローバイガスを引き込む。この例では、換気口502の下流側(換気通路503側)がクランク室52の内部空間Sp1に対して負圧の状態となり、クランク室52内においては気体導入口505から換気口502に気体(ブローバイガス)が引き込まれる向きの気流が発生する。このように、気流形成部506は、正圧及び負圧のいずれを発生することにより気流を形成してもよく、又は、正圧と負圧との両方を発生する構成であってもよい。図13の「C」又は「D」の変形例において、電動ファンに代えて、例えば、ポンプが用いられてもよい。
以下、本実施形態に係るエンジンシステム1のピストン21の構成について、図14及び図15を参照して、より詳細に説明する。図14及び図15は、ピストン21周辺を拡大した概略断面図である。
気筒51内を上下方向D2に沿って往復移動するピストン21の内側に形成されるピストン内空間210には、図14に示すように、ピストン21の移動に伴って上下方向D2に沿って往復移動する撹拌部213が配置されている。本実施形態では、ピストン21の円筒部211の内周面から、ピストン21の中心軸に向けて突出する羽根状の突起が撹拌部213を構成する。ピストン内空間210は、ピストン21の円筒部211で囲まれた円柱状の空間であって、ピストン21の隔離壁212にて燃焼室50と分離された空間である。コネクティングロッド24は、その上端部がピストン内空間210に挿入された状態でピストン21に支持されている。撹拌部213は、円筒部211の周方向の全周に形成されており、かつ上下方向D2において離間して複数(ここでは2つ)設けられている。
要するに、クランク室52の内部空間Sp1に連続するピストン内空間210には、ピストン21の移動に伴って往復移動する撹拌部213が設けられている。このような撹拌部213が設けられることにより、ピストン21が往復運動するとピストン内空間210で撹拌部213が往復移動し、ピストン内空間210の気体が撹拌される。そのため、気筒51とピストン21との隙間を通して、未燃焼ガス等のブローバイガスが、燃焼室50からピストン内空間210に漏れ出したとしても、ピストン内空間210のブローバイガスを積極的に流動させ、クランク室52に移動させやすくなる。よって、ピストン内空間210にブローバイガスが滞留することを抑制しやすくなり、ブローバイバスの排出性能の更なる向上が期待できる。
また、撹拌部213は、ピストン内空間210に設けられ、ピストン21の移動に伴って往復移動する構成であればよく、ピストン21の円筒部211から突出する突起に限らず、例えば、コネクティングロッド24の上端部から突出する突起であってもよい。つまり、コネクティングロッド24のうち、ピストン21の下端よりも上方側に設けられた突起であれば、上述した撹拌部213と同様に、ピストン21の往復移動に伴ってピストン内空間210の気体を撹拌できる。撹拌部213は、ピストン21とコネクティングロッド24との両方に設けられていてもよい。
また、図15に示すように、気筒51内を上下方向D2に沿って往復移動するピストン21のうち気筒51の内部空間を上下方向D2に隔てる隔離壁212は、内部に空洞部214を有することが好ましい。具体的には、隔離壁212の下面(燃焼室50とは反対側の面)にプレート215が溶着等の適宜の方法で固定されることにより、隔離壁212を二重構造とする。これにより、プレート215の上方側(燃焼室50側)には、断熱層としての空洞部214が形成される。
要するに、気筒51の内部空間のうち、燃焼室50と、クランク室52の内部空間Sp1に連続する空間とは、隔離壁212にて分離されるので、隔離壁212の上面は燃焼室50に晒されることになる。そのため、図14のように、空洞部214が設けられていない構成では、隔離壁212の上面の熱が隔離壁212の裏面(下面)側に伝わりやすく、例えば、水素等を主成分とするブローバイガスが加熱される可能性がある。これに対して、断熱層としての空洞部214が形成された図15の構成によれば、空洞部214にてプレート215の下面側には熱が伝わりにくくなる。したがって、燃焼室50の熱によって、例えば、水素等を主成分とするブローバイガスが加熱されることを抑制できる。
また、ピストン内空間210のブローバイガスを積極的に流動させるための構成として、撹拌部213に加えて又は代えて、図16に示すように、撹拌ノズル216が設けられていてもよい。撹拌ノズル216は、その先端部を気筒51の下面から気筒51の内部空間に臨ませる位置に、各気筒51に設けられている。撹拌ノズル216は、気筒51の内部に向けて、気体(例えば空気)又は液体(例えばオイル)を、間欠的又は連続的に噴射する。これにより、気筒51の内部に噴射された気体又は液体によって、ピストン内空間210の気体が撹拌される。そのため、気筒51とピストン21との隙間を通して、未燃焼ガス等のブローバイガスが、燃焼室50からピストン内空間210に漏れ出したとしても、ピストン内空間210のブローバイガスを積極的に流動させ、クランク室52に移動させやすくなる。よって、ピストン内空間210にブローバイガスが滞留することを抑制しやすくなり、ブローバイバスの排出性能の更なる向上が期待できる。
ところで、上述したピストン21に関する構成については、ブローバイガスの排気対策の構成(換気口502)等とは切り離して、それ単独で採用し得る。すなわち、一態様に係るエンジンシステム1は、気筒51とクランク室52とを含むシリンダブロック5を備え、気筒51内を往復移動するピストン21の内側に形成されるピストン内空間210には、ピストン21の移動に伴って往復移動する撹拌部213が配置されている。また、別の一態様に係るエンジンシステム1は、気筒51とクランク室52とを含むシリンダブロック5を備え、気筒51内を往復移動するピストン21のうち気筒51の内部空間を(ピストン21が往復移動する方向に)隔てる隔離壁212は、内部に空洞部214を有する。
[4]シリンダヘッドの構成
次に、エンジン本体2のうちのシリンダヘッド6(及びその周辺構造)の構成について、図17~図21を参照してより詳細に説明する。図17は、出力軸方向D1の一方側である後側(クランクシャフト22が突出する側)からエンジン本体2を見た、シリンダブロック5及びシリンダヘッド6一部を破断しつつ主要な断面部分に斜線(ハッチング)を付した概略図である。図17では、サイドカバー74等の図示を適宜省略している。
本実施形態では、シリンダヘッド6には、上述したように、給気ポート61及び排気ポート62が形成されている。給気ポート61及び排気ポート62は、いずれもシリンダヘッド6の内部において互いに区切られた区画(室)からなり、それぞれ内部空間を有している。シリンダヘッド6は複数(本実施形態では6つ)設けられているが、複数のシリンダヘッド6は共通の構成を採用している。そこで、以下では、特に断りがない限り、1つのシリンダヘッド6に着目して説明する。
本実施形態では一例として、図18及び図19に示すように、給気ポート61及び排気ポート62は、シリンダヘッド6に2つずつ設けられている。つまり、1つのシリンダヘッド6に対して、2つの給気ポート61、及び2つの排気ポート62が形成されている。ただし、2つの給気ポート61は基本的には共通の構成を採用し、2つの排気ポート62は基本的には共通の構成を採用している。そこで、以下では、特に断りがない限り、1つの給気ポート61又は1つの排気ポート62に着目して説明する。図18は、シリンダヘッド6及び気筒51の概略外形を想像線(二点鎖線)で示し、給気ポート61及び排気ポート62を強調表示した概略斜視図である。また、図19は、後述する冷媒通路63を想像線(二点鎖線)で示し、給気ポート61及び排気ポート62を強調表示した概略平面図である。
シリンダヘッド6は、図17及び図18に示すように、気筒51の上方に配置されている。これにより、気筒51の内部空間のうち、ピストン21の上面とシリンダヘッド6の下面とで囲まれた空間が、燃焼室50として機能する。シリンダヘッド6に形成された給気ポート61及び排気ポート62のいずれも、燃焼室50につながる開口を有している。
給気ポート61は、シリンダブロック5に形成された給気マニホールド54と、燃焼室50と、の間をつなぐ気体(吸入空気)の通り道である。そして、給気ポート61のうち、燃焼室50側の開口、つまり気流の下流側となる開口には、給気弁72が設けられている。そのため、給気マニホールド54から分配される空気は、給気弁72が開いた状態で、給気ポート61を介して燃焼室50に供給される。
さらに、本実施形態では、気体燃料については燃料供給方式としてポート噴射方式が採用されているので、燃料供給装置3は、給気ポート61の内部空間に気体燃料(本実施形態では水素)を供給する。つまり、気体燃料を噴射する燃料供給装置3の噴射部31は、給気ポート61の内部に臨む位置に配置されており、給気ポート61内に気体燃料を噴射する。燃料供給装置3が気体燃料を噴射するタイミングについて詳しくは「[5]エンジンシステムの制御動作」の欄で説明する。
一方、排気ポート62は、排気マニホールド75と、燃焼室50と、の間をつなぐ気体(排気)の通り道である。そして、排気ポート62のうち、燃焼室50側の開口、つまり気流の上流側となる開口には、排気弁73が設けられている。そのため、燃焼室50から排出される気体は、排気弁73が開いた状態で、排気ポート62を介して排気マニホールド75に排出(集約)される。
また、図17及び図19に示すように、シリンダヘッド6には、給気ポート61及び排気ポート62に加えて、冷媒通路63が形成されている。冷媒通路63は、冷媒が通るための通路である。ここでいう「冷媒」は、冷却サイクルにおいて熱を移動させるために用いられる熱媒体を意味し、例えば、水(冷却水)若しくはオイル等の液体、又は冷却ガスのような気体等の流体である。つまり、冷媒通路63を流体である冷媒が流れることによって、冷媒通路63の周囲から熱を奪うことができ、冷媒通路63の周囲を冷却することが可能である。本実施形態では一例として、冷媒通路63は冷媒としての冷却水を通すためのウォータジャケットである。
冷媒通路63は、図19に示すように、平面視において、給気ポート61及び排気ポート62のうちの燃焼室50側の開口を囲む環状に形成されている。具体的に、図17に示すように、冷媒通路63は、給気ポート61における燃焼室50側の開口に隣接する位置に配置されている。そして、冷媒通路63には、シリンダヘッド6の外部で冷却された冷媒(冷却水)が循環するように供給される。これにより、冷媒通路63を流れる冷媒によって、給気ポート61及び排気ポート62のうち、主として燃焼室50側の開口周辺が冷却されることになる。
ところで、関連技術として、筒内噴射用インジェクタと給気通路噴射用インジェクタとを備えるデュアル噴射型のエンジンシステムが知られている。関連技術に係るエンジンシステムでは、燃料噴射量の調整(補正)により、燃料蒸発ガスのパージ処理実行の際におけるバックファイアの発生を抑制する。具体的に、筒内噴射用インジェクタ及び給気通路噴射用インジェクタの分担率が所定の範囲内にあるときの燃料蒸発ガスのパージ処理実行の際、導入されるパージ燃料量に対応する燃料噴射量補正を、給気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量のみを変えて行なう。
ただし、例えば、水素等の気体燃料を用いるエンジンシステム1においては、より燃料(気体燃料)に着火しやすくなる場合がある。そのため、万一バックファイアが発生した場合に、給気ポート61内に供給される燃料(気体燃料)に着火し、バックファイアが連鎖することまで見越して、より一層のバックファイア対策を施すことが望まれる。
そこで、本実施形態では、以下に説明する構成を採用することにより、より一層のバックファイア対策を可能とするエンジンシステム1を提供可能とする。
すなわち、本実施形態に係るエンジンシステム1は、燃焼室50に空気を供給する給気ポート61と、給気ポート61の内部空間Sp2(図20参照)に気体燃料を供給する燃料供給装置3と、を備えている。燃料供給装置3は、気体燃料を噴射する噴射部31を有する。ここで、図20に示すように、少なくとも給気ポート61の内周面611のうち噴射部31からの気体燃料の噴射領域R1の中心軸Ax2との交点には、冷却部612が配置されている。言い換えれば、給気ポート61の内周面611と噴射部31からの気体燃料の噴射領域R1の中心軸Ax2との交点は、冷却部612に含まれる。
本開示でいう「冷却部」は、給気ポート61の内周面611のうち冷却されることによって相対的に低温となる部位を意味する。つまり、給気ポート61の内部空間Sp2に臨む内周面611の温度は均一ではなく、部位によって温度差が生じ得るところ、他の部位に比べて相対的に低温となる部位が冷却部612を構成する。一例として、給気ポート61の内周面611のうち、基準温度(例えば、内周面611の温度の平均値又は中央値等)未満の部位が冷却部612となる。
要するに、例えば、水素等の気体燃料が給気ポート61の内部空間Sp2に噴射されるポート噴射方式を採用したエンジンシステム1において、上記構成を採用することで、より一層のバックファイア対策が可能となる。この種のエンジンシステム1においては、例えば、バックファイアにより給気ポート61が火炎に晒されるような状況で、給気ポート61内に噴射される気体燃料(水素等)に着火すると、バックファイアが連鎖する可能性がある。本実施形態に係るエンジンシステム1では、気体燃料の噴射領域R1の中心軸Ax2を冷却部612に向けることで、気体燃料の熱引けが良好となり、バックファイアの発生直後であっても、気体燃料が加熱されることによる気体燃料の着火を抑制できる。このように、給気ポート61内での気体燃料の冷却性能を向上させたことで、バックファイアの連鎖を抑制でき、より一層のバックファイア対策が可能なエンジンシステム1を提供できる。
より詳細には、図20に示すように、給気ポート61は、断面形状が一方向に向けて凸となる湾曲部600を有している。本実施形態では一例として、湾曲部600は、給気ポート61の中間部分に設けられており、断面形状が上方に向けて凸となるように湾曲することで、給気ポート61は全体として逆U字状の断面形状を有する。そのため、給気ポート61の内部空間Sp2における空気(吸入空気)の流れ(気流)は、湾曲部600に沿って一方向(ここでは上方)に向けて凸となる弧を描く経路をとる。図20では、吸入空気の流れを太線矢印で示している。
本実施形態では、冷却部612は、このような給気ポート61において、その内周面611のうちの湾曲部600の他方向(ここでは下方)側の面、つまり湾曲部600の内周側面602に配置されている。つまり、内周面611は、湾曲部600の一方向(ここでは上方)側の面となる外周側面601と、湾曲部600の他方向(ここでは下方)側の面となる内周側面602と、を含むところ、内周側面602に冷却部612が配置される。
そして、ノズル状(筒状)の噴射部31は、その先端部が外周側面601から給気ポート61内に突出する形で配置されており、噴射部31から冷却部612に向けて気体燃料が噴射される。つまり、噴射部31の先端部は、少なくとも内周側面602に設けられた冷却部612に向けられている。ここで、噴射領域R1の中心軸Ax2は、噴射部31の先端を頂点として略円錐状に広がる噴射領域R1の中心軸であって、ノズル状(筒状)の噴射部31の中心軸と略一致する。
また、冷却部612は、給気ポート61において噴射部31よりも空気の気流の下流側に配置されている。図20の例では、給気ポート61において、右方から左方に向かう空気の気流が生じるため、燃料供給装置3の噴射部31の先端に対して、下流側となる左方に冷却部612が配置されている。
このように、冷却部612が噴射部31よりも下流側に配置されていることで、噴射部31から噴射された気体燃料が、空気の気流によって下流側に流された場合でも、冷却部612に到達しやすくなる。そのため、冷却部612による気体燃料の冷却効果を十分に発揮することが可能である。
ところで、冷却部612の具体的態様としては、例えば、以下に説明する第1態様、第2態様及び第3態様がある。第1態様は、冷媒通路63を用いた冷媒冷却方式、第2態様は、付着冷媒を用いた気化潜熱方式、第3態様は、空冷方式である。すなわち、第1態様、第2態様若しくは第3態様、又はこれらの組み合わせによって、給気ポート61の内周面611の冷却部612が実現可能である。
まず、第1態様(冷媒冷却方式)では、図20に示すように、冷媒通路63の近傍部位が冷却部612となる。具体的には、冷媒通路63と給気ポート61の内部空間Sp2とは、隔壁部64によって物理的に隔離されており、当該隔壁部64における冷媒通路63とは反対側の面(給気ポート61の内周面611)が、冷却部612を構成する。すなわち、エンジンシステム1は、給気ポート61が形成されたシリンダヘッド6を備え、シリンダヘッド6は、冷媒が通る冷媒通路63を有している。ここで、冷却部612は、少なくとも冷媒通路63と給気ポート61とを物理的に隔てる隔壁部64に配置されている。
この構成によれば、シリンダヘッド6に設けられた冷媒通路63を流れる冷媒により、冷却部612を効率的に冷却することが可能である。さらに、冷媒の流量等によって、冷却部612の温度を調整することも可能であるため、より確実に気体燃料を冷却することが可能である。よって、気体燃料が加熱されることによる気体燃料の着火をより一層抑制できる。
さらに、図20に示すように、隔壁部64は、薄肉部641と、厚肉部642と、を含んでいる。薄肉部641は、冷媒通路63と給気ポート61との間の厚みTh1が基準厚みよりも小さい。厚肉部642は、冷媒通路63と給気ポート61との間の厚みTh2が基準厚みよりも大きい。薄肉部641と厚肉部642とのうちの薄肉部641のみに冷却部612が設けられている。ここでいう「基準厚み」は、隔壁部64の基準となる厚みであって、一例として、隔壁部64の厚みの平均値又は中央値等である。つまり、隔壁部64の厚みは均一ではなく、部位によって異なる。そして、冷却部612は、隔壁部64のうち相対的に薄肉である薄肉部641に設けられ、厚肉部642には設けられていない。
この構成によれば、冷媒通路63を流れる冷媒にて、冷却部612をより効率的に冷却することが可能である。すなわち、隔壁部64の内周面611のうち、相対的に冷媒通路63までの距離が近く、冷媒通路63を流れる冷媒に熱が伝わりやすい薄肉部641に冷却部612が配置されるので、より確実に気体燃料を冷却することが可能である。よって、気体燃料が加熱されることによる気体燃料の着火をより一層抑制できる。
第2態様(気化潜熱方式)では、図21に示すように、エンジンシステム1は、給気ポート61の内周面611の一部に付着冷媒651を付着させる冷媒供給部65を更に備える。冷却部612は、少なくとも付着冷媒651が付着する部位に配置されている。ここでいう「付着冷媒」は、主として気化潜熱に用いられる熱媒体を意味し、例えば、水(冷却水)若しくはオイル等の液体である。すなわち、給気ポート61の内周面611の一部に付着冷媒651が付着することで、付着冷媒651が気化する際に内周面611の熱を奪うことによって、内周面611の冷却が行われる。そこで、給気ポート61の内周面611のうち付着冷媒651が付着する部位を冷却部612とすることで、冷却部612の冷却が実現される。付着冷媒651を「付着」させる態様としては、例えば、付着冷媒651の噴霧、吐出、結露又は塗布等がある。
具体的に、図21の「A」に示す例では、付着冷媒651を噴射するノズル状(筒状)の冷媒供給部65が用いられている。この冷媒供給部65は、その先端部が外周側面601から給気ポート61内に突出する形で配置されており、噴射部31から冷却部612に向けて気体燃料が噴射される。つまり、冷媒供給部65の先端部は、少なくとも内周側面602に設けられた冷却部612に向けられている。これにより、冷媒供給部65から噴射される付着冷媒651は、給気ポート61の内周面611(内周側面602)の冷却部612に付着し、冷却部612を冷却する。
また、図21の「B」に示す例では、給気ポート61に導入される空気を冷却する冷媒供給部65が用いられている。この冷媒供給部65は、コイル状の冷却器からなり、給気ポート61における給気マニホールド54側の開口付近に配置されている。冷媒供給部65に冷媒が供給されることで、冷媒供給部65を通過する空気が冷却され、空気中の水蒸気量が飽和水蒸気量を超えると、結露により付着冷媒651としての水が発生する。付着冷媒651は、空気の気流によって運ばれ、少なくとも内周側面602に設けられた冷却部612に付着する。これにより、付着冷媒651は、給気ポート61の内周面611(内周側面602)の冷却部612に付着し、冷却部612を冷却する。冷媒供給部65に供給される冷媒は、例えば、液化水素タンク32との熱交換により低温に維持されることが好ましい。
図21の例では、冷媒供給部65に加えて、冷媒通路63により第1態様の冷媒冷却方式も併用されているが、第2態様(気化潜熱方式)と第1態様とを組み合わせることは必須ではない。つまり、第2態様(気化潜熱方式)を採用する場合には、冷媒通路63が省略されてもよく、この場合でも付着冷媒651によって冷却部612は実現可能である。
第3態様(空冷方式)では、給気ポート61の内部空間Sp2における空気の流れ(気流)を利用して、給気ポート61の内周面611の一部に冷却部612を形成する。すなわち、例えば、ファン等を用いて空気の流速を高め、給気ポート61の内周面611の一部に空気を当てることにより、給気ポート61の内周面611のうち空気が当たる部位を、気流にて冷却して冷却部612とする。この構成によれば、別途、冷媒を用いることなく、給気ポート61の内周面611の一部を冷却して冷却部612を構成することが可能である。
その他、本実施形態に係るエンジンシステム1においては、バックファイア対策として、下記の構成を採用することが更に有用である。
一つ目の構成として、燃料供給装置3の噴射部31を冷却するノズル冷却構造を設け、噴射部31から噴射される気体燃料自体を冷却する。ノズル冷却構造は、一例として、噴射部31の周囲に配置される冷媒の通路によって実現可能である。これにより、噴射部31が冷媒にて冷却され、シリンダヘッド6から噴射部31への入熱が抑制されるため、気体燃料の温度上昇を抑制することが可能である。冷媒の通路は、例えば、シリンダヘッド6から幅方向D3に延びてもよいし、あるいはシリンダヘッド6から上方に延びてもよい。
二つ目の構成として、燃料供給装置3の噴射部31を覆う断熱材を設け、噴射部31から噴射される気体燃料への入熱を抑制する。これにより、シリンダヘッド6から噴射部31への入熱が抑制されるため、気体燃料の温度上昇を抑制することが可能である。
[5]エンジンシステムの制御動作
次に、本実施形態に係るエンジンシステム1の制御動作について、図22、図23及び図24を参照して説明する。本実施形態では、上述したようにエンジンシステム1の制御はエンジン制御部20が行うので、以下に説明するエンジンシステム1の制御動作は、エンジン制御部20によって実行される処理を含む。
本実施形態では、エンジン制御部20は、図22に示すようなタイミングで、燃料供給装置3を制御し給気ポート61への気体燃料の噴射を実行する。図22では、横軸をクランク角とし、排気弁73の開度G1及び給気弁72の開度G2(「弁開度」と表記)、給気ポート61内の給気空気の流速(「流速」と表記)、及び給気ポート61内における燃焼室50付近の内周面611(壁面)の温度(「温度」と表記)を示す。ここで、クランク角は、時間経過に応じて、ピストン21が下死点(BDC:Bottom Dead Center)と上死点(TDC:Top Dead Center)との間を往復移動するのに伴って連続的に変化する。そのため、クランク角を示す横軸は、時間軸に相当する。
図22において、時点t0でピストン21が下死点にあり、時点t2でピストン21が上死点にあり、時点t7でピストン21が下死点にあって、時点t1にてバックファイアが発生したことと仮定する。ここで、時点t1は、時点t0と時点t2との間にあって、給気弁72が開弁を開始した直後のタイミングである。この場合において、時点t2後の時点t3において、排気弁73が閉弁(開度G1が0)すると、その後、冷却期間T1が経過して初めて、気体燃料の噴射が可能な噴射許可期間T2が開始する。ここで、気体燃料の噴射が分割噴射(間欠噴射)である場合、最初の噴射開始から最後の噴射終了までが噴射許可期間T2内に実行される。
すなわち、本実施形態では、燃料供給装置3は、排気弁73が閉じることを含む供給開始条件を満足した後、冷却期間T1が経過すると、給気ポート61の内部空間Sp2への気体燃料の供給を開始する。ここで、冷却期間T1は、冷却部612を冷却するための期間であって、気体燃料の噴射が禁止される期間である。具体的には、供給開始条件は、排気弁73が閉じる(開度G1が0)ことに加え、給気弁72が開く(開度G2が0より大きい)ことを含む。図22の例において、時点t3では、排気弁73が閉弁し、かつ(その前の時点t1で)給気弁72が開弁しているため、供給開始条件を満たすことになる。そのため、時点t3から時点t5までの冷却期間T1が経過し、噴射許可期間T2に入ると、燃料供給装置3は、気体燃料の噴射(供給)を開始することが可能となる。
この構成によれば、気体燃料の供給(噴射)が開始される前に、冷却期間T1が設定されるので、冷却部612を確実に冷却した後に、給気ポート61の内部空間Sp2への気体燃料の供給を開始することができる。したがって、バックファイアが発生した場合であっても、冷却部612による気体燃料の冷却が行われ、バックファイアの連鎖を抑制しやすくなる。
また、冷却期間T1の終了時点は、給気弁72の開度G2が最大となる時点以降に設定される。つまり、冷却期間T1の終了時点である時点t5は、給気弁72の開度G2が最大(開度G2のピーク)となる時点t4から見て、クランク角の遅角側に設定される。
この構成によれば、給気ポート61内の給気空気の流速が最大となるタイミング以降で気体燃料の供給が開始されることになり、気体燃料をより効率的に冷却可能となる。すなわち、給気弁72の開度G2が最大となるときに給気ポート61内の給気空気の流速が最大となるところ、このタイミング(図22では時点t4)以降に、気体燃料の供給を開始することで、気体燃料の冷却性能が向上する。したがって、バックファイアの連鎖をより一層抑制しやすくなる。
また、本実施形態に係るエンジンシステム1は、給気ポート61に空気を送り込む過給機8を備えている。これにより、冷却期間T1を設けることによって気体燃料の供給開始のタイミングが遅れても、気体燃料を燃焼室50に送り込みやすくなる。つまり、過給機8によって空気の流速が加速されることで、給気ポート61内に噴射された気体燃料が燃焼室50に流入しやすくなる。
ここで、図22に示すように、噴射許可期間T2は、給気弁72の閉弁直前に挿入される猶予期間T3を考慮して設定されている。猶予期間T3は、冷却期間T1と同様に、気体燃料の噴射が禁止される期間である。すなわち、噴射許可期間T2が終了する時点t6から、給気弁72が閉弁(開度G2が0)する時点t7までの間は、猶予期間T3として、気体燃料の噴射は禁止される。言い換えれば、冷却期間T1の終了時点は、給気弁72が閉弁する時点t7から、猶予期間T3と噴射許可期間T2との合計時間だけ遡った時点(図22では時点t5)に設定される。
この構成によれば、噴射許可期間T2が終了する時点t6で給気弁72が閉弁されることによる給気ポート61への気体燃料の残留が抑制される。つまり、噴射許可期間T2が終了する時点t6で給気ポート61内に気体燃料が残留していても、当該残留分の気体燃料は猶予期間T3中に燃焼室50へと排出可能である。
さらに、猶予期間T3の長さは、噴射部31(の先端)と給気ポート61における燃焼室50側の開口との間の距離に基づいて設定されることが好ましい。ここでいう距離は、給気ポート61内における空気の流路上の距離である。具体的には、噴射部31(の先端)と給気ポート61における燃焼室50側の開口との間の距離が長いほど、猶予期間T3は長く設定される。これにより、噴射部31から噴射される気体燃料が燃焼室50に排出されるのに要する時間を考慮して、猶予期間T3が設定されるため、給気ポート61内に気体燃料が残留しにくくなる。
ところで、上述した燃料供給装置3の制御に関する構成については、ブローバイガスの排気対策の構成(換気口502)、及び冷却部612等とは切り離して、それ単独で採用し得る。すなわち、一態様に係るエンジンシステム1は、燃焼室50に空気を供給する給気ポート61と、給気ポート61の内部空間Sp2に気体燃料を供給する燃料供給装置3と、を備えている。燃料供給装置3は、排気弁73が閉じることを含む供給開始条件を満足した後、冷却期間T1が経過すると、給気ポート61の内部空間Sp2への気体燃料の供給を開始する。
図23は、エンジンシステム1を発電機101の駆動、又は船体100の推進に使用する場合における、気体燃料の噴射に係るエンジン制御部20の動作(処理)の一例を示すフローチャートである。
すなわち、エンジン制御部20は、まずはエンジンシステム1を発電機101の駆動に使用するか否かを判断する(S1)。エンジンシステム1を発電機101の駆動に用いる場合(S1:Yes)、エンジン制御部20は、発電モードにあると判断し、処理をステップS2に移行させる。一方、エンジンシステム1を船体100の推進に用いる場合(S1:No)、エンジン制御部20は、発電モードにないと判断し、処理をステップS6に移行させる。
ステップS2では、エンジン制御部20は、発電機101の負荷、及びエンジン本体2の回転数(実回転数)を取得する。そして、エンジン制御部20は、発電機101の負荷とエンジン回転数との相関関係を示す「負荷-回転数マップ」に照らして、気体燃料の噴射時期、つまり気体燃料の噴射を開始するタイミングを決定する(S3)。そして、エンジン制御部20は、気体燃料の噴射量を演算し(S4)、気体燃料の噴射時期が到来すると気体燃料を噴射させるように燃料供給装置3を制御する(S5)。
ステップS6では、エンジン制御部20は、操作盤102(のスロットルレバー)の操作量、及びエンジン本体2の回転数(実回転数)を取得する。ここで、エンジン制御部20は、エンジン本体2の目標回転数を設定し(S7)、目標回転数と実回転数との差分を演算する(S8)。さらに、エンジン制御部20は、直前サイクルの気体燃料の噴射量に対して不足する気体燃料の噴射量(不足噴射量)を演算する。そして、エンジン制御部20は、気体燃料の噴射量と気体燃料の噴射時間との相関関係を示す「噴射量-噴射時間マップ」に照らして、気体燃料の噴射時間を決定する(S10)。また、エンジン制御部20は、気体燃料の噴射量と冷却期間T1との相関関係を示す「噴射量-冷却期間マップ」に照らして、気体燃料の噴射時期、つまり気体燃料の噴射を開始するタイミングを決定する(S11)。そして、エンジン制御部20は、気体燃料の噴射時期が到来すると気体燃料を噴射させるように燃料供給装置3を制御する(S12)。
エンジン制御部20は、上記ステップS1~S12の処理を繰り返し実行する。ただし、図23に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
図24は、エンジンシステム1を発電機101の駆動に使用する場合において、バックファイアが発生した際にのみ冷却期間T1を設けるようにした、エンジン制御部20の動作(処理)の一例を示すフローチャートである。
すなわち、エンジン制御部20は、まずは発電機101の負荷、エンジン本体2の回転数(実回転数)、及び燃焼室50内の圧力(筒内圧)を取得する(S21)。ここで、筒内圧は筒内圧センサ76から取得され、バックファイアの発生の有無に関する情報である。それから、エンジン制御部20は、例えば筒内圧に基づいて、バックファイアが発生しているか否かを判断する(S22)。筒内圧の波形等からバックファイアの発生が検知された場合(S22:Yes)、エンジン制御部20は、処理をステップS23に移行させる。一方、筒内圧の波形等からバックファイアの発生が検知されなかった場合(S22:No)、エンジン制御部20は、処理をステップS24に移行させる。
ステップS23では、エンジン制御部20は、発電機101の負荷とエンジン回転数との相関関係を示す「負荷-回転数第1マップ」に照らして、気体燃料の噴射時期、つまり気体燃料の噴射を開始するタイミングを決定する。「負荷-回転数第1マップ」は、バックファイア発生時用に用意されているマップであって、冷却期間T1を考慮して気体燃料の噴射時期を設定するためのマップである。
ステップS24では、エンジン制御部20は、発電機101の負荷とエンジン回転数との相関関係を示す「負荷-回転数第2マップ」に照らして、気体燃料の噴射時期、つまり気体燃料の噴射を開始するタイミングを決定する。「負荷-回転数第2マップ」は、バックファイアが発生していない定常時用に用意されているマップであって、冷却期間T1を考慮せずに気体燃料の噴射時期を設定するためのマップである。
そして、エンジン制御部20は、気体燃料の噴射量を演算し(S25)、気体燃料の噴射時期が到来すると気体燃料を噴射させるように燃料供給装置3を制御する(S26)。
エンジン制御部20は、上記ステップS21~S26の処理を繰り返し実行する。ただし、図24に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
[6]変形例
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
本開示におけるエンジンシステム1は、エンジン制御部20としてのコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしての1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示におけるエンジン制御部20としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、エンジン制御部20に含まれる一部又は全部の機能部は電子回路で構成されていてもよい。
また、エンジンシステム1の少なくとも一部の機能が、1つの筐体内に集約されていることはエンジンシステム1に必須の構成ではなく、エンジンシステム1の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。反対に、実施形態1において、複数の装置(例えば、エンジン本体2及び発電機101)に分散されている機能が、1つの筐体内に集約されていてもよい。
さらに、エンジンシステム1の少なくとも一部は、船体100に搭載されることに限らず、船体100とは別に設けられてもよい。一例として、エンジン制御部20が、船体100とは別に設けられたサーバ装置によって具現化される場合、サーバ装置と船体100(の通信装置)との間の通信により、エンジン制御部20によるエンジンシステム1の制御が可能となる。エンジン制御部20の少なくとも一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
また、船舶10は、プレジャーボートに限らず、貨物船及び貨客船等を含む商船、タグボート及びサルベージ船等を含む作業船、気象観測船及び練習船等を含む特殊船、漁船、並びに艦艇等であってもよい。さらに、船舶10は、操縦者が搭乗する有人タイプに限らず、人(操縦者)が遠隔操作可能であるか、又は自律運航可能な無人タイプの船舶であってもよい。また、船舶10は、船体100にエンジン本体2に加えて、モータ(電動機)等の1以上の動力源を備えていてもよい。エンジンシステム1は、船舶10以外に用いられてもよい。
また、エンジンシステム1は、複数の気筒51が直列に並べて配置された直列多気筒エンジンに限らず、例えば、複数の気筒51がクランクシャフト22の回転軸Ax1を頂点とするV字状に配置されたV型エンジン又は水平対向エンジン等であってもよい。V型エンジンの場合には、例えば、図25に示すように、両側の気筒51間のバンク角内に、クランク室52の内部空間Sp1とつながるカム室53が配置される。この構成であっても、例えば、カム室53に換気口502が形成されることにより、クランク室52からのブローバイガスの排出を効率的に行うことが可能である。
また、エンジンシステム1は、気筒51を1つのみ備える単気筒エンジンであってもよい。エンジンシステム1は、デュアルフューエルエンジンに限らず、例えば、燃料として気体燃料(例えば水素)のみを用いるエンジン(例えば水素専焼エンジン)であってもよい。また、エンジンシステム1は、過給機付きエンジンに限らず、過給機8を備えない自然給気エンジンであってもよい。
また、気体燃料の燃料供給方式は、燃料を給気ポート61内に噴射するポート噴射方式に限らず、燃料を燃焼室50内に直接的に噴射する直噴方式であってもよい。この場合、気体燃料を噴射する噴射部31は、燃焼室50に臨む位置に配置される。
また、換気口502は、常時開いていることは必須ではなく、例えば、弁装置等により開閉可能に構成されていてもよい。この場合、換気口502が開いている期間に、換気口502からのブローバイガスの排出が行われ、換気口502が閉じている期間には、換気口502からのブローバイガスの排出が行われない。
(実施形態2)
本実施形態に係るエンジンシステム1Aは、図26及び図27に示すように、換気口502の位置が、実施形態1に係るエンジンシステム1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。図27では、ブローバイガスの流れを太線矢印で示している。
すなわち、本実施形態では、図26に示すように、シリンダブロック5は、気筒51を構成するシリンダライナ511を支持するライナ支持壁55を有する。シリンダライナ511の下端は、ライナ支持壁55の下端から下方に突出する。ここで、換気口502は、ライナ支持壁55の下端に配置されている。具体的には、シリンダライナ511を囲む円筒状のライナ支持壁55の下面における周方向の一部に、換気口502が形成されている。図26の例では、ライナ支持壁55の下面のうち、シリンダライナ511の左方となる位置に換気口502が形成されている。ここで、本実施形態では、図26に想像線(二点鎖線)で示すように、カム室53の開口部531には、カム室53の内部空間とクランク室52の内部空間Sp1とを区切るカム室壁533が設けられていることとする。カム室壁533は、カム室53の内部空間とクランク室52の内部空間Sp1とを完全に分離してもよいし、カム室53の内部空間とクランク室52の内部空間Sp1とを一部隔ててもよい。
換気口502につながる換気通路503は、換気口502から上下方向D2に沿って真っすぐ上方に延びる縦通路503Aと、縦通路503Aの上端部から幅方向D3に沿って左方に延びる横通路503Bと、を有している。縦通路503Aは、換気口502から上下方向D2に沿って上方に延びていればよく、例えば、換気口502から斜め上方に延びていてもよいし、換気口502から蛇行しながら上方に延びていてもよい。この換気通路503は、ライナ支持壁55の内部に形成された壁内通路である。このように、換気通路503は、延長方向が異なる縦通路503A及び横通路503Bを含むことで、縦通路503Aと横通路503Bとの接続部位に、変曲部503C(図27参照)を有している。つまり、縦通路503Aと横通路503Bとの接続部位が変曲部503Cを構成する。
以上説明した構成によれば、図27に示すように、ブローバイガスは、クランク室52の内部空間Sp1から換気口502(及び換気通路503)経由で効率的に排出されることになる。すなわち、気筒51とピストン21との隙間を通して、未燃焼ガス等が、燃焼室50からクランク室52に漏れ出すことでブローバイガスが発生する。本実施形態では、比重が1より小さい気体燃料(水素)を用いることで、ブローバイガスについても比重が1より小さくなるため、クランク室52に漏れ出したブローバイガスはクランク室52の上方へと移動する。シリンダライナ511の下端は、ライナ支持壁55の下端から下方に突出しているので、シリンダライナ511の下端からクランク室52に漏れ出たブローバイガスは、シリンダライナ511の下端で折り返すようにして、上方に窪んだライナ支持壁55の下面に向かって移動する。その結果、ブローバイガスは、ライナ支持壁55の下端(下面)の換気口502から排出され、換気通路503を通してシリンダブロック5の外部空間へと排出される。
ここで、ライナ支持壁55の下端(下面)は、気筒51の中心軸に対して垂直ではなく傾斜している。つまり、図27に示すように、ライナ支持壁55の下面には、換気口502が設けられた端部(左端部)側ほど上方に位置するように、「左上がり」の勾配が付されている。そのため、ライナ支持壁55の下端に滞留するブローバイガスは、ライナ支持壁55の下面の勾配によってシリンダライナ511の周囲を迂回するようにして左端側に集められる。よって、ブローバイガスは、ライナ支持壁55の下端の左端部に設けられた換気口502から効率的に排出されることになる。
また、本実施形態では、換気通路503のうちの変曲部503Cが、気液分離部504として機能する。要するに、このような変曲部503C(気液分離部504)が設けられることにより、換気口502から換気通路503に導入されたブローバイガスは、気液分離部504としての変曲部503Cを通過する際に縦通路503Aの突き当り面に衝突するように換気通路503内を流れる。そして、ブローバイガスが気液分離部504としての変曲部503Cの内周面に接触した際、ブローバイガスと共に排出されたオイル又は水分等の液体が気液分離部504としての変曲部503Cの内周面に付着する。これにより、ブローバイガスと共に排出された液体(オイル又は水分等)が、気液分離部504にて捕獲され、ブローバイガスに含まれている気体と分離される。
このように、本実施形態では、換気通路503は、ガスの流通方向が変化する変曲部503Cを有している。気液分離部504は変曲部503Cを含んでいる。結果的に、ブローバイガスは、オイル等の液体成分が少なくとも一部除去された状態で、換気通路503から排気されることになり、ブローバイガスの排気に伴うオイル消費等の抑制につながる。
カム室壁533は、必須の構成ではなく、適宜省略されてもよい。実施形態2に係る構成(変形例を含む)は、実施形態1で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
(実施形態3)
本実施形態に係るエンジンシステム1Bは、図28に示すように、複数の気筒51に一対一に対応するように複数の換気口502が設けられている点で、実施形態1に係るエンジンシステム1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
すなわち、本実施形態では、気筒51は、出力軸方向D1に並ぶように複数(6つ)設けられている。ここで、換気口502は、カム室53のうち、複数の気筒51の全てに対応するように、出力軸方向D1における6箇所に形成されている。換気通路503は、これら複数(本実施形態では6つ)の換気口502からそれぞれ上方に延びるように、複数設けられる。
ここで、複数の換気通路503の先端部(上端部)は、1本の共通排気管507につながっている。共通排気管507は、出力軸方向D1に沿って延びており、その先端(本実施形態では後端)が、エンジン本体2の外部空間に位置する。これにより、複数の気筒51の各々で発生したブローバイガスは、それぞれ換気口502及び換気通路503を通して共通排気管507に集約され、共通排気管507を通してエンジン本体2の外部空間に排出される。
本実施形態では、共通排気管507は、クランクシャフト22の回転軸Ax1に対して平行ではなく傾斜している。つまり、図28に示すように、共通排気管507は、出力軸方向D1の一端(本実施形態では後端)側ほど上方に位置するように、「後上がり」の勾配が付されている。そのため、共通排気管507に集約されたブローバイガスは、共通排気管507の勾配によって共通排気管507の先端側(後端側)に集められる。よって、ブローバイガスは、共通排気管507から効率的に排出されることになる。
実施形態3に係る構成は、実施形態1又は実施形態2で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
(実施形態4)
本実施形態に係るエンジンシステム1Cは、図29に示すように、冷却部612が外周側面601に配置されている点で、実施形態1に係るエンジンシステム1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
すなわち、本実施形態では、給気ポート61は、断面形状が一方向に向けて凸となる湾曲部600を有している。冷却部612は、給気ポート61の内周面611のうち湾曲部600の一方向(ここでは上方)側の面、つまり外周側面601に配置されている。つまり、内周面611は、湾曲部600の一方向(ここでは上方)側の面となる外周側面601と、湾曲部600の他方向(ここでは下方)側の面となる内周側面602と、を含むところ、外周側面601に冷却部612が配置される。
このように、冷却部612が外周側面601に配置されていることで、噴射部31から噴射された気体燃料が、空気の気流によって流された場合でも、冷却部612に到達しやすくなる。要するに、湾曲部600における空気の気流は、主として外周側面601寄りを通るため、外周側面601に冷却部612があることで、気体燃料が冷却部612にて冷却されやすくなる。そのため、冷却部612による気体燃料の冷却効果を十分に発揮することが可能である。
ここで、本実施形態では、噴射部31のノズル長が比較的長く設定されることで、噴射部31から噴射される気体燃料の指向性が高められている。つまり、噴射部31が長くなるほど、噴射部31から噴射される気体燃料の指向性が向上し、気体燃料が冷却部612により一層到達しやすくなる。
ところで、本実施形態では一例として、外周側面601に配置される冷却部612を実現するために、図29に示すように、バルブシート部66を利用している。すなわち、給気ポート61における燃焼室50側の端部には、給気弁72が着座するバルブシート部66が設けられている。冷却部612は、バルブシート部66に配置されている。具体的には、バルブシート部66における給気ポート61の内部空間Sp2とは反対側の面には、冷媒を通すための冷媒通路661が形成されている。この冷媒通路661に冷媒が流れることにより、バルブシート部66が冷却され、バルブシート部66に設けられた冷却部612が冷却される。つまり、冷却部612の具体的態様としては、第1態様(冷媒冷却方式)が採用されている。
この構成によれば、給気ポート61のうち燃焼室50に最も近いバルブシート部66にて、気体燃料を冷却することができる。そのため、バックファイアにより燃焼室50から火炎(又は熱せられた気体)が給気ポート61に流れ込んでも、給気ポート61の入口(バルブシート部66)に設けられた冷却部612にて冷却を図ることができ、バックファイアの連鎖をより一層抑制できる。
また、実施形態4の変形例として、外周側面601に配置される冷却部612を実現するために、図30に示すように、絞り部67が利用されてもよい。絞り部67は、給気ポート61のうち、空気の気流に直交する断面積、つまり流路断面積が局所的に縮小された部位である。つまり、給気ポート61の流路断面積は均一ではなく、少なくとも絞り部67において、絞り部67の上流側及び下流側よりも小さく(狭く)なっている。このような絞り部67は、給気ポート61の内周面611に形成されたリブ等によって具現化される。図30の例では、給気ポート61の内周面611から後方(図30の紙面手前側)に突出するリブにて、給気ポート61の流路断面積が局所的に狭められた絞り部67が構成されている。
このような絞り部67が設けられることにより、絞り部67を通過する際に流速が高められた空気は略直進することで、給気ポート61の内周面611(ここでは外周側面601)に衝突する。これにより、給気ポート61の内周面611のうち空気が当たる部位を、気流にて冷却して冷却部612とすることができる。要するに、図30の例では、給気ポート61は、空気の気流に直交する断面積が部分的に縮小された絞り部67を有している。冷却部612は、給気ポート61の内周面611のうち、給気ポート61における絞り部67の断面から気流の下流側に向けて垂直に延びる仮想線VL1との交点を含む。このように、絞り部67を利用して実現される冷却部612は、第3態様(空冷方式)の一種である。
この構成によれば、絞り部67を設けるだけで、空気の流速を高めるためのファン等の装置を用いることなく、空冷方式による冷却部612を実現することができる。したがって、冷却部612を実現するための構成の簡略化を図ることが可能である。図30の例では、バルブシート部66の冷媒通路661は省略可能である。
また、本実施形態では、冷媒通路63は適宜省略可能である。実施形態4に係る構成(変形例を含む)は、実施形態1、実施形態2又は実施形態3で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。