JP7597995B2 - 方向性電磁鋼板の磁区構造の解析方法及び解析システム - Google Patents

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Description

本発明は、方向性電磁鋼板、方向性電磁鋼板の磁区構造の解析方法及び解析システムに関する。
方向性電磁鋼板は、Siを7質量%以下含有し、二次再結晶粒が{110}<001>方位(Goss方位)に集積した二次再結晶集合組織を有する鋼板である。方向性電磁鋼板の磁気特性は、{110}<001>方位への集積度に大きく影響される。近年、実用されている方向性電磁鋼板では、結晶の<001>方向と圧延方向との角度が5°程度の範囲内に入るように制御されている。
方向性電磁鋼板は積層されて変圧器の鉄心などに用いられるが、主要な磁気特性である高磁束密度、低鉄損に加え、振動・騒音の原因となる磁歪が小さいことが求められている。結晶方位はこれら特性との強い相関が知られており、例えば、特許文献1~3のような精緻な方位制御技術が開示されている。
さらに、方向性電磁鋼板は種々のデバイスに用いられており、デバイスの性能を向上させるために、方向性電磁鋼板の磁区構造を評価する様々な方法が提案されている。例えば、特許文献4及び特許文献5は、所定の条件を満たす磁区の面積率を規定することで、鉄損の改善をもたらす技術を開示している。
特開2001-192785号公報 特開2005-240079号公報 特開2012-052229号公報 特開2000-345306号公報 特開2004-225154号公報
変圧器の小型化要求を背景として、鉄心自体を小さくすることが要求されている。同じ磁気的な動作を得る場合、鉄心が小さくなると鉄心を高磁場で作動させる必要がある。このため、変圧器の鉄心素材として使用される方向性電磁鋼板に対しては高磁場領域での磁気特性の向上が求められる。
また、一般的に方向性電磁鋼板の板厚を薄くすると鉄損が低くなることが知られており、板厚の薄い方向性電磁鋼板の適用が拡大している。
本願発明者らは、板厚が薄い鋼板により製造した変圧器鉄心の高磁場領域での特性を詳細に検討した。その結果、従来の技術に従い結晶方位を好ましく制御した鋼板を素材とした場合であっても、特に、騒音の低減に改善の余地があることを認識した。
変圧器鉄心の騒音に関する素材の関与としては、方向性電磁鋼板の磁歪と関連した検討が行われることが多い。本願発明者らはこの観点で検討を進めたが、板厚が薄い鋼板で製造した鉄心の高磁場領域での騒音は、素材板厚が比較的厚く低磁場領域で使用される場合の騒音とは異なり、素材の磁歪との相関は比較的低いことが判明した。
この原因をさらに探究したところ、問題となる騒音は素材の磁歪の方向、すなわち磁化方向である鋼板面内での振動ではなく、鋼板面外の振動によって引き起こされていることを知見した。
この現象を詳細に観察したところ、次のような状況が判明した。変圧器鉄心において鋼板は閉磁路を形成するように配置される。つまり、いわゆる積鉄心では鋼板ブロックが四角形状に組み立てられ、いわゆる巻鉄心では略四角形になるように曲げ成形される。そしてこの鉄心は銅線コイルやケースなどと固定される。このため、素材鋼板は面内方向、特に磁化方向の端部で拘束された状況となっている。
この状況で鋼板が鋼板面外に振動する原因を考えると、鋼板が伸びるような寸法変化が起きて、鋼板が板面外に撓んでいることが予想される。一般的に鋼板の磁歪は、磁場が低い領域では鋼板寸法が縮むように歪むが、高磁場では縮み歪から伸び歪に転ずることが知られている。また素材板厚が薄い場合に騒音が問題になることから、本願発明者らはこの伸び磁歪に起因する鋼板面外への撓みが解消すべき騒音の原因であると結論づけた。
この結論に従い、従来技術と同様に磁歪を小さくする方策を検討したが、全体の磁歪が小さくなるように制御した鋼板においても、伸び磁歪については顕著な低減が実現できなかった。このため、鋼板面外振動に起因する騒音に関しては、素材板厚が比較的厚く低磁場領域で使用する場合の騒音ほどの改善は達成できなかった。また、単純に伸び磁歪の大きさと騒音の相関を検討したが、単純な伸び磁歪の大きさだけでは高磁場領域で使用する場合の騒音低減指針としては不十分であった。
伸び磁歪の大きさと形状は消磁状態に鋼板に生じる還流磁区の量と磁化回転が関連していることが知られている。よって、還流磁区の状態と磁化回転の量を制御することができれば、高磁場領域で使用する場合の騒音を効果的に抑制可能であることが期待される。しかし、以下のような障害があった。
従来、磁区構造に着目して方向性電磁鋼板の特徴を制御する技術は複数存在するものの、磁区構造に関する精緻な制御技術の開発が十分なされているとは言えない。すなわち、従来の技術では、方向性電磁鋼板の主磁区である180°磁区の平均間隔、面積率、角度等、磁区構造の平均的な情報で規定するものが多く、方向性電磁鋼板の磁区構造の空間分布や不均一性をも含めて特徴づけるものは少ない。特に、還流磁区のような不均一性の高い磁区構造を含めた定量的な評価手法は皆無と言える。
例えば、特許文献4及び特許文献5では、所定の条件を満たす磁区の面積率を規定しているが、そのような磁区の分散状態(一体となった一つの磁区なのか、複数の磁区なのか)については規定しておらず、また、それらを定量的に求める手法も存在しない。
このような状況を踏まえ、本願発明者らは次のような視点で磁区構造の定量化を検討した。
方向性電磁鋼板の結晶組織は、比較的大きくかつ結晶方位が高度に揃った結晶粒により構成されている。一つ一つの結晶粒は単結晶と見做すことができ、その磁区構造の大部分は単純な磁区構造である180°磁区で占められている。このような中で、相対的に複雑な磁区構造である還流磁区は結晶粒界近傍に生じやすく、磁化回転の量は180°磁区とRD(圧延方向)軸とのなす角度と対応する。つまり、還流磁区を抑制するには単純には結晶粒径を大きくして、結晶粒界領域の存在割合を低減する方策が考えられ、磁化回転の量を抑制するためには180°磁区とRD軸を平行にすればよい。しかし、単純に結晶粒径を大きくしただけでは、コイルセット等による連続的な方位変化によって、結晶粒界での結晶方位変化が大きくなるために結晶粒界近傍領域での還流磁区の生成が増大し、かえって高磁場での騒音を増大させることにもなる。
さらに詳細に磁区を観察したところ、結晶粒界には還流磁区が生成しやすい結晶粒界と還流磁区がほとんど生成しない結晶粒界があることに気付いた。これは粒界のモフォロジーや方位関係、析出物、表面性状、歪等の多岐にわたる要因によって、粒界があったとしても、つまり結晶方位に不連続な変化があったとしても磁区としては形態を保ったまま連続的に存在可能な場合があることを示している。
この観点で様々な鋼板製造条件について検討した結果、特定の製造条件により、結晶組織を還流磁区の生成が抑制された結晶粒界が優位になるように制御可能であるとの結果を得た。さらに、その磁区構造の定量化手段を検討し、本発明で制御すべき板厚が薄い鋼板により製造した鉄心の高磁場領域での騒音との相関が非常に高く、該騒音の低減にとって好ましい範囲を特定することができる解析方法及び解析システムを確定した。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高磁場領域(1.9T程度の磁場)での騒音を改善した鉄心の製造を可能とする方向性電磁鋼板、方向性電磁鋼板の磁区構造の解析方法及び解析システムを提供することを目的とする。
本発明の実施形態に係る方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:2.0~7.0%、Nb:0~0.030%、V:0~0.030%、Mo:0~0.030%、Ta:0~0.030%、W:0~0.030%、C:0~0.0050%、Mn:0~1.0%、S:0~0.0150%、Se:0~0.0150%、Al:0~0.0650%、N:0~0.0050%、Cu:0~0.40%、Bi:0~0.010%、B:0~0.080%、P:0~0.50%、Ti:0~0.0150%、Sn:0~0.10%、Sb:0~0.10%、Cr:0~0.30%、Ni:0~1.0%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、Goss方位に配向する集合組織を有し、且つ所定の方法で導出された同一磁区角度領域の平均径が5.0mm以上である。同一磁区角度領域を導出する所定の方法は、a)2種類の色によって二値化された又は3以上の階調で表現された方向性電磁鋼板の磁区画像から、磁区画像の複数の位置にそれぞれ対応する複数の部分領域を切り出し、b)複数の部分領域のそれぞれに対して2次元フーリエ変換を施すことによって複数の部分フーリエ画像を求め、c)複数の部分フーリエ画像のそれぞれのスポットのピーク位置に基づいて、方向性電磁鋼板の180°磁区の角度の空間分布を導出し、d)180°磁区の角度の空間分布に基づき、磁区画像のうち、180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域を同一磁区角度領域として導出する。
本発明の実施形態に係る方向性電磁鋼板の磁区構造の解析方法は、a)2種類の色によって二値化された又は3以上の階調で表現された方向性電磁鋼板の磁区画像から、磁区画像の複数の位置にそれぞれ対応する複数の部分領域を切り出すステップと、b)複数の部分領域のそれぞれに対して2次元フーリエ変換を施すことによって複数の部分フーリエ画像を求めるステップと、c)複数の部分フーリエ画像のそれぞれのスポットのピーク位置に基づいて、方向性電磁鋼板の180°磁区の角度の空間分布を導出するステップと、d)180°磁区の角度の空間分布に基づき、磁区画像のうち、180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域を同一磁区角度領域として導出するステップと、を備える。
本発明の実施形態に係る方向性電磁鋼板の磁区構造の解析システムは、2種類の色によって二値化された又は3以上の階調で表現された方向性電磁鋼板の磁区画像から、磁区画像の複数の位置にそれぞれ対応する複数の部分領域を切り出し、複数の部分領域のそれぞれに対して2次元フーリエ変換を施すことによって複数の部分フーリエ画像を求め、複数の部分フーリエ画像のそれぞれのスポットのピーク位置に基づいて、方向性電磁鋼板の180°磁区の角度の空間分布を導出し、180°磁区の角度の空間分布に基づき、磁区画像のうち、180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域を同一磁区角度領域として導出する演算部を備える。
本願明細書において、「180°磁区」とは、磁化方向が結晶の<100>方位であり、且つ圧延方向にほぼ平行な2つの180°磁壁に挟まれた磁区を表す。
また、180°磁区の「角度」とは、基準となる磁化方向に対する180°磁区の方位を表す。一般的に方向性電磁鋼板の場合、基準となる磁化方向はRD(圧延方向)と平行である。
本発明によれば、方向性電磁鋼板の磁区画像から、位置毎に部分領域を切り出して2次元フーリエ変換を行うことで、180°磁区の角度が所定範囲内にある連続する領域及びその位置を定量的に導出する手法により方向性電磁鋼板を特定し、変圧器鉄心の高磁場領域での騒音を低減し、騒音特性を好ましく制御することが可能となる。
本発明の実施形態に係る解析システムの構成を示すブロック図である。 図1の画像取得装置のハードウェア構成を示すブロック図である。 図1の解析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。 磁区画像から複数の部分領域を切り出す方法を説明する模式図である。 磁区画像から切り出された複数の部分領域のそれぞれに2次元フーリエ変換を施すことによって得られた複数の部分フーリエ画像の一例である。 粒界のないほぼ均一な磁区の画像と、粒界を伴う不均一な磁区の画像の一例である。 図6に示す2つの磁区画像のそれぞれについて短区間2次元フーリエ変換(ST2DFT)を用いて導出された180°磁区の角度の空間分布を示すグラフである。 図6に示す2つの磁区画像のそれぞれについて、線分法による磁区構造の解析結果とST2DFTによる磁区構造の解析結果とを比較する表である。 本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を例示する流れ図である。
本発明の好ましい一実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、以下に記載する数値限定範囲には、下限値及び上限値が含まれる。「超」又は「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。
(1)方向性電磁鋼板の化学組成
まず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の化学組成を説明する。本実施形態の方向性電磁鋼板は、化学組成として、基本元素を含み、必要に応じて選択元素を含み、残部がFe及び不純物からなる。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、基本元素(主要な合金元素)として、質量分率で、Si(シリコン):2.00%~7.00%を含有する。
Siは、結晶方位を{110}<001>方位に集積させるために、含有量が2.0~7.0%であることが好ましい。
本実施形態では、化学組成として、不純物を含有してもよい。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップから、又は製造環境等から混入する元素を指す。不純物の合計含有量の上限は、例えば、5%であればよい。
また、本実施形態では、上述の基本元素及び不純物に加えて、選択元素を含有してもよい。例えば、上述した残部であるFeの一部に代えて、選択元素として、C、Mn、S、Se、Al、N、Cu、Bi、B、P、Ti、Sn、Sb、Cr、Ni、Nb、V、Mo、Ta、Wなどを含有してもよい。
C(炭素):0~0.0050%
Mn(マンガン):0~1.0%
S(硫黄):0~0.0150%
Se(セレン):0~0.0150%
Al(酸可溶性アルミニウム):0~0.0650%
N(窒素):0~0.0050%
Cu(銅):0~0.40%
Bi(ビスマス):0~0.010%
B(ボロン):0~0.080%
P(燐):0~0.50%
Ti(チタン):0~0.0150%
Sn(スズ):0~0.10%
Sb(アンチモン):0~0.10%
Cr(クロム):0~0.30%
Ni(ニッケル):0~1.0%
Nb(ニオブ):0~0.030%
V(バナジウム):0~0.030%
Mo(モリブデン):0~0.030%
Ta(タンタル):0~0.030%
W(タングステン):0~0.030%
これらの選択元素は、公知の目的に応じて含有させればよい。これらの選択元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、上記効果は損なわれない。
なお、方向性電磁鋼板では、製造工程で脱炭焼鈍及び二次再結晶時の純化焼鈍を経ることで、比較的大きな化学組成の変化(含有量の低下)が起きる。元素によっては純化焼鈍によって、一般的な分析手法では検出できない程度(1ppm以下)にまで含有量が低減することもある。方向性電磁鋼板の上記化学組成は、最終製品における化学組成である。一般に、方向性電磁鋼板の最終製品の化学組成は、出発素材である後述のスラブの化学組成とは異なるが、基本的にはスラブに含有されていた元素が残存したものであり、スラブ組成と製造条件で調整される。
方向性電磁鋼板の化学組成は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、方向性電磁鋼板の化学組成は、Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry(ICP-AES)を用いて測定すればよい。具体的には、方向性電磁鋼板から採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、C及びSは燃焼-赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
なお、上記の化学組成は、方向性電磁鋼板の成分である。測定試料となる方向性電磁鋼板が、表面に酸化物等からなる中間層、絶縁被膜等を有している場合は、これらを下記の方法で除去してから化学組成を測定する。
例えば、絶縁被膜の除去方法として、被膜を有する方向性電磁鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬すればよい。具体的には、NaOH:30~50質量%+H2O:50~70質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80~90℃で5~10分間、浸漬した後に、水洗して乾燥することで、方向性電磁鋼板から絶縁被膜を除去することができる。なお、絶縁被膜の厚さに応じて、上記の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間を変えればよい。
また、例えば、中間層の除去方法として、絶縁被膜を除去した電磁鋼板を、高温の塩酸に浸漬すればよい。具体的には、溶解したい中間層を除去するために好ましい塩酸の濃度を予め調べ、この濃度の塩酸に、例えば30~40質量%塩酸に、80~90℃で1~5分間、浸漬した後に、水洗して乾燥させることで、中間層を除去することができる。通常は、絶縁被膜の除去にはアルカリ溶液を用い、中間層の除去には塩酸を用いるように、処理液を使い分けて各被膜を除去する。
(2)方向性電磁鋼板の磁区構造
方向性電磁鋼板が規定する磁区構造は、これまで特別な鋼板を特定可能なほど十分に定量化されていなかったことは前述の通りである。よって、以下では、まず、本実施形態で使用する磁区構造の定量化手法について説明し(以下の(2-1)参照)、その後、その定量化手法により得られた定量化パラメータの妥当性を検証し(以下の(2-2)参照)、さらに、その定量化手法に基づく方向性電磁鋼板の規定(以下の(2-3)参照)について説明する。
(2-1)方向性電磁鋼板の磁区構造の定量化手法
以下、図面を参照して本発明の実施形態で用いる磁区構造の定量化手法を説明する。
<システム構成>
まず、本実施形態に係る磁区構造の定量化手法(解析方法)を実現するシステムの構成について説明する。
図1に、本実施形態に係る解析システム100の構成を示す。解析システム100は、方向性電磁鋼板の磁区構造を解析するシステムであり、図1に示すように、画像取得装置20と解析装置30とを備え、画像取得装置20と解析装置30は、ケーブルを介して接続されている。
画像取得装置20は、図2に示すように、光源部21と、磁気光学(MO)センサ23と、イメージセンサ25と、信号処理部27とを有する。
光源部21は、発光ダイオード(LED)からなる光源を有しており、MOセンサ23に対して、偏光面の揃った光を照射する。
MOセンサ23は、方向性電磁鋼板等の磁性体の構造を測定する装置であり、測定対象の磁性体試料が載置される観察面を有する。光源部21から照射された光は、MOセンサ23の内部を通って反射層で反射され、反射光はMOセンサ23の内部を再び通ってMOセンサ23の外部に出力される。磁性体試料としての方向性電磁鋼板がMOセンサ23の観察面上に載置されると、MOセンサ23の内部に、方向性電磁鋼板の自発磁化の向きに応じた漏れ磁場が生じるが、この漏れ磁場によって、反射光の偏光面が回転する。
イメージセンサ25は、Complementary Metal-Oxide-Semiconductor(CMOS)イメージセンサであり、MOセンサ23からの反射光を受光面に結像させて光電変換し、光電変換後のアナログ信号を信号処理部27に出力する。偏光面が回転した反射光をイメージセンサ25で検出することで、後述のように、漏れ磁場の空間分布を得ることができ、方向性電磁鋼板の磁区構造が明らかとなる。
信号処理部27は、アンプ、ADコンバータ、Digital Signal Processor(DSP)等を有する。イメージセンサ25から出力されたアナログ信号は、アンプにより増幅され、ADコンバータによりデジタル信号に変換される。このデジタル信号に対し、DSPにより所定のデジタル処理が施されることで画像信号が生成される。信号処理部27で生成された画像信号は、コネクタを介して解析装置30に出力される。
解析装置30は、Personal Computer(PC)等のコンピュータデバイスであり、図3に示すように、演算部31と、メモリ33と、表示部35と、入力部37と、通信I/F39とを有する。
演算部31は、Central Processing Unit(CPU)を有し、メモリ33に記憶されたプログラムに従って、磁区構造の解析方法を実行する。演算部31によって実行される磁区構造の解析方法の詳細は後述する。
メモリ33は、Read Only Memory(ROM)及びRandom Access Memory(RAM)を有する。ROMは、演算部31のCPUによって実行されるプログラム及びこれらのプログラムの実行時に必要なデータを格納する。ROMに格納されたプログラム及びデータは、RAMにロードされて実行される。
なお、メモリ33は、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気メモリ、又は光ディスク等の光メモリを有するようにしてもよい。あるいは、解析装置30に着脱可能で、コンピュータ読み取り可能な記録媒体にプログラムやデータを格納するようにしてもよい。あるいは、演算部31で実行されるプログラムを、通信I/F39を介してネットワークから受信するようにしてもよい。
表示部35は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ、又は有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレイ等のディスプレイを有し、画像取得装置20から出力された画像信号に基づいて画像を表示し、また、演算部31による磁区構造の解析結果を表示する。
入力部37は、マウス、キーボード等の入力デバイスを有する。
通信I/F39は、Local Area Network(LAN)、Wide Area Network(WAN)、インターネット等のネットワークを介して外部機器との間でデータの送受信を行うためのインターフェースである。
なお、演算部31として、CPU等の汎用ハードウェアの代わりに、磁区構造の解析に特化した、Application Specific Integrated Circuit(ASIC)又はField Programmable Gate Array(FPGA)等の専用ハードウェアを採用してもよい。
また、画像取得装置20と解析装置30が無線通信により接続されていてもよい。
さらに、図1では、画像取得装置20と解析装置30が別々に設けられている例を示しているが、画像取得装置20と解析装置30が一体化したシステムを採用してもよい。
<磁区構造の解析方法>
次に、演算部31によって実行される磁区構造の解析方法について説明する。
方向性電磁鋼板のような周期的な磁区構造を有する磁性体を対象とする場合、フーリエ変換を用いて磁区構造を評価するのが有効である。
そこで、まず、短区間フーリエ変換(short-term Fourier transform)(以下、「STFT」と呼ぶ。)について説明する。STFTは、解析対象のデータ列に対して窓関数を移動させながら解析する手法であり、音声信号の時間・周波数解析に古くから用いられている信号処理法の一つである。
STFTでは、離散信号データ列x(k)を短区間に分割して、その周波数構造を分析するために、0≦k≦N-1(Nは自然数)の範囲の窓関数Wa(k)を用いる。窓関数Wa(k)として、Hamming窓、Hanning窓、Blackman窓などが適用可能である。
STFTでは、式(1)で表されるように、窓関数Wa(k)をnSだけシフトして離散信号データ列x(k)に乗じることにより、x(k)からnS≦k≦nS+N-1の区間を切り出したデータ列xn(k―nS)が得られる。
Figure 0007597995000001
ここで、n(整数)はデータ列のインデックスを表し、S(整数)は窓関数のシフト量を表す。
切り出した区間に対してxn(n´)=xn(k―nS)と定義し、式(2)のような離散フーリエ変換(DFT)を行うことで、データ位置nSに対応した周波数スペクトルが得られる。
Figure 0007597995000002
ここで、fは空間周波数である。
本実施形態では、以下に説明するように、STFTを2次元領域に拡張した短区間2次元フーリエ変換(以下、「ST2DFT」と呼ぶ。)を用いて、方向性電磁鋼板の磁区構造を解析する。
以下では、画像取得装置20で取得された画像信号が表す画像(以下、磁区画像と呼ぶ。)を2次元座標(k-l座標)のデータ列としてx(k,l)と表記する。本実施形態において解析対象とする磁区画像は、グレースケールなど、2種類の色によって二値化された画像、又は3以上の階調(多階調)で表現された画像である。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の磁区構造を解析するため、演算部31は、以下の(A-1)、(A-2)、(A-3)及び(A-4)のステップを実行する。
(A-1)磁区画像から複数の部分領域を切り出すステップ;
(A-2)ST2DFTを行うステップ;
(A-3)180°磁区の角度の空間分布を導出するステップ;
(A-4)同一磁区角度領域を導出するステップ.
以下、各ステップについて詳細に説明する。
(A-1)磁区画像から複数の部分領域を切り出すステップ
磁区画像から複数の部分領域を切り出して、それぞれの周波数構造を分析するために、k方向の範囲を0≦k≦Nk-1、l方向の範囲を0≦l≦Nl-1とした矩形窓の窓関数Wa(k,l)を用いる(Nk及びNlは自然数)。窓関数Wa(k,l)としては、Hamming窓、Hanning窓、Blackman窓などが適用可能である。
磁区画像のデータ列x(k,l)における観察位置をインデックス(n,m)で表記し、k方向及びl方向における窓関数Wa(k,l)のシフト量をそれぞれSk及びSlと表記すると(n、m、Sk、Slは整数)、式(3)のように、磁区画像からnSk≦k≦nSk+Nk-1、mSl≦l≦mSl+Nl-1の範囲を切り出した部分領域のデータ列xnm(k-nSk,l-mSl)が得られる。
Figure 0007597995000003
図4に、磁区画像Gから、観察位置(n,m)=(1,1)、(2,2)、(3,3)、…、(P,Q)(P及びQは自然数)のそれぞれに対応する部分領域が切り出された例を示している。
本実施形態において、窓関数Wa(k,l)の範囲を定めるNk及びNlは、それぞれ、部分領域におけるk方向の画素数及びl方向の画素数に対応するパラメータである。
(A-2)ST2DFTを行うステップ
部分領域のデータ列をxnm(n´, m´)=xnm(k-nSk, l-mSl)と定義し、xnm(n´, m´)に対して2次元フーリエ変換を施すと、式(4)のように、観察位置(n,m)の部分領域に対応する部分フーリエ画像X(fk,fl,n,m)が得られる。
Figure 0007597995000004
ここで、fk及びflは空間周波数である。空間周波数fkの分解能をΔfk、空間周波数flの分解能をΔflと表記すると、それぞれ、式(5)及び式(6)のように定義される。
Figure 0007597995000005
ここで、Δk及びΔlは、それぞれ、磁区画像におけるk方向の空間分解能及びl方向における空間分解能である。
例えば、図4に示した各部分領域のデータ列xnm(k-nSk,l-mSl)に対して2次元フーリエ変換を施すと、図5に示すように、観察位置(n, m)ごとに部分フーリエ画像X(fk,fl,n,m)が得られる。
(A-3)180°磁区の角度の空間分布を導出するステップ
部分フーリエ画像X(fk,fl,n,m)が得られると、部分フーリエ画像X(fk,fl,n,m)のスポットのピーク位置の座標(k成分fk max(n,m)及びl成分fl max(n,m))が求められる。
そして、式(5)及び式(6)で定義した空間周波数の分解能と、部分フーリエ画像のスポットのピーク位置とから、式(7)のように、180°磁区の角度の空間分布θ(n,m)が導出される。
Figure 0007597995000006
(A-4)同一磁区角度領域を導出するステップ
次に、ステップ(A-3)で得られた180°磁区の角度の空間分布θ(n,m)に基づき、磁区画像Gのうち、180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域が同一磁区角度領域として導出される。同一磁区角度領域を規定する磁区角度の範囲については後述する。
以上のように、本実施形態の磁区構造の解析方法によれば、短区間2次元フーリエ変換(ST2DFT)を用いることにより、磁区画像の位置情報を保ったまま、180°磁区の角度の空間分布θ(n,m)を定量的に導出し、さらに、180°磁区の角度の空間分布θ(n,m)に基づき、磁区画像Gのうち、180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域を同一磁区角度領域として導出する。これにより、同一磁区角度領域及びその位置(n,m)を定量的に求めることができ、方向性電磁鋼板の鉄損を制御する指針として利用することが可能である。
(2-2)磁区構造の定量化パラメータの妥当性
次に、解析システム100を用いて、以下のように、方向性電磁鋼板の2種類の磁区構造(i)及び(ii)を解析し、ST2DFTによる定量的な導出方法の有効性(妥当性)を、従来法である線分法と比較して検証する。
(i)粒界を伴わないほぼ均一な磁区構造;
(ii)粒界を伴う不均一な磁区構造.
MOセンサ23の観察面の大きさを55.68mm×40.37mmとし、この領域での漏れ磁場の空間分布が3200pixel×2320pixelで取得可能であるとする。この場合、磁区画像の空間分解能はΔk=Δl=17.4μmとなる。
画像取得装置20で得られる磁区画像は3200pixel×2320pixelであるが、本実施形態では、(i)と(ii)での解析結果をより明確にするために、512pixel×512pixelの範囲でトリミングを行った。
図6に、画像取得装置20から得られた(i)に対応する磁区画像D00と(ii)に対応する磁区画像D01の例を示している。図6において「RD」は、方向性電磁鋼板の圧延方向を表している。磁区画像D00は、磁区構造がほぼ均一であるが、磁区画像D01は、画像中心部に粒界を含んでいるため、画像上部と下部で磁区構造が大きく異なる。
従来法では、磁区画像D00から得られた磁区構造に対して、磁区と平行な線分を3本引き、線分法によって、線分の角度から95%信頼区間の角度を求めた。また、隣接する磁壁間の距離(磁壁間隔)を表す180°磁区の幅も導出した。180°磁区の幅については、磁区と平行な3本の線分を同様に引き、線分法によって95%信頼区間における180°磁区の幅(平均磁区幅)を導出した。磁区画像D01の磁区構造に関しては、磁区の領域ごとに、磁区画像D00と同様の測定を行い、磁区ごとに平均磁区幅と角度を導出した。
磁区画像D00から線分法によって導出した180°磁区の平均磁区幅及び角度は、それぞれ、175μm~189μm、0.13°~1.5°となった。また、磁区画像D01についても同様に線分法を用いると、画像上部の180°磁区の平均磁区幅及び角度は、それぞれ、131μm~138μm、10.6°~12.5°となり、画像下部の180°磁区の平均磁区幅及び角度は、それぞれ、243μm~249μm、0.63°~1.7°となった。
一方、ST2DFTでは、次のとおりパラメータを設定した:
空間分解能:Δk=Δl=17.4μm;
磁区画像から切り出す部分領域のサイズ:Nk=Nl=64;
窓関数のシフト量:Sk=Sl=1.
ここで、磁区画像から切り出す部分領域のサイズについては、切り出す部分領域の中に少なくとも1周期以上の180°磁区が含まれていなければ解析を行うことができないため、Nk=Nl=64とした。
図7に、磁区画像D00及びD01のそれぞれについて180°磁区の角度の空間分布θ(n,m)を示す。図7に示す磁区画像D01のθ(n,m)から、粒界を含む磁区においても、粒界部を明確に区別可能であることがわかる。
また、ST2DFTを用いた磁区構造の解析方法によって、図7に示すように、180°磁区の角度(deg)と位置(n,m)との関係をマッピングすることができるため、同一磁区角度領域とその位置(n,m)を容易に導出することが可能となる。
図8に、線分法による磁区構造の解析結果とST2DFTによる磁区構造の解析結果(図7)とを比較した結果を示す。
図8において、磁区画像D01の上部は、m座標が200より大きい領域を示し、磁区画像D01の下部は、m座標が0~200の領域を示している。図8におけるST2DFTによる解析結果は、磁区画像D00については、観察位置(n,m)=(200,200)での180°磁区の幅(図8で「磁区幅」と表記)及び角度を示し、磁区画像D01の上部については、観察位置(n,m)=(200,350)での磁区幅及び角度を示し、磁区画像D01の下部については、観察位置(n,m)=(200,100)での磁区幅及び角度を示している。
図8より、180°磁区の角度について、線分法とST2DFTの双方において同様の結果が認められるが、線分法の方が角度の分解能は高い。これは、角度を算出する際、式(7)に代入するn、mが整数であり、且つ原点近傍の値になりやすい傾向に起因している。180°磁区の幅を135μmと仮定すると、角度分解能は約±6°となり、実際の磁区の角度変化と比べて非常に粗い。この課題を解決するためには、部分フーリエ画像のピーク位置を取得する際に、分布を仮定して内挿したり、隣接するフーリエスポットの強度を考慮して重心をとるなどの方法が有効であると考えられる。この方法によってピーク位置を連続的に取得することができるため、180°磁区の角度の分解能を高めることが可能である。
上述のような分解能の問題があることから、本実施形態におけるピーク位置の導出は、部分フーリエ画像のうち、強度が高い10点のスポット位置(ただし、原点は除く)と強度を求め、強度と位置を考慮して重心を求めることで導出する。
このように、ST2DFTによる磁区構造の解析結果は、従来法である線分法と比較しても良好であり、ST2DFTによる180°磁区の角度の定量的な導出方法が有効であることがわかる。
(2-3)方向性電磁鋼板の規定
次に、上記ST2DFTによる磁区構造の解析結果、すなわち180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域である同一磁区角度領域を規定する。同一磁区角度領域は、一般的には異なる結晶粒と判断される領域であっても、磁区角度が実質的に同一とみなせる領域であり、例えば結晶方位に関する「コロニー」のような概念として認識することができる。
同一磁区角度領域は、観察領域をどの程度の大きさとするかに加え、部分フーリエ画像をどのような大きさで区切るか、同一とみなす角度をどのように決定するか、などにより変化する。本実施形態では、現実的な磁区の大きさ、結晶粒の大きさ、さらには磁気特性との相関の強さなどを考慮し、以下のように規定する。
(2-3-1)観察領域
磁区画像のうち、計測対象とする観察領域の大きさを500mm×500mmとする。この大きさは一般的に磁気特性をJIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)に基づいて測定する際のサンプルの大きさに準じている。また、k方向を圧延直角方向(TD方向)と平行とし、l方向をRD方向と平行として観察を行う。
(2-3-2)フーリエ画像の大きさ
観察領域の大きさが500mm×500mmの鋼板を、磁区画像の1画素当たりの空間分解能が25μm以下となるように設定し、グレースケールで取得する。取得した磁区画像は、黒と白とを含め、連続的な256階調で表現する。以降の数値処理において、黒を0、白を255の値(無次元量)として取り扱う。なお、一度の測定で上記測定範囲を観察することが困難な場合は、複数回測定した磁区画像を結合させて一つの磁区画像として取り扱ってもよい。その際、画像同士のつなぎ目に不整合が起こらないよう、観察位置を調整して観察することは当然のことである。
(2-3-3)観察する試料
磁区構造は歪等の影響を受けやすいので、上記観察領域は鋼板端部、観察サンプル端部など、鋼板取扱い、及びサンプル切り出しによる歪の影響がほとんど無い領域を選択することは当然である。また、本実施形態の磁区画像は、50Hzで1.9T以上となるような磁界で励磁し、その後、磁界を徐々に小さくしていく方法等によって、予め消磁された状態で観察するものとする。
(2-3-4)部分フーリエ画像の大きさ
部分フーリエ画像の大きさを2mm×2mmとする。この大きさは部分領域の中に少なくとも1周期以上の180°磁区が含まれるのに十分な大きさである。また、窓関数のシフト量は、25μm以下とする。
(2-3-5)同一磁区角度領域とみなす磁区角度
部分領域について得られる磁区角度を0degから1deg未満、1deg以上~5deg未満、5deg以上~の3つの区域に区分し、隣接する部分領域が同一の区域内にある場合は、磁区角度が連続している、すなわち一つの同一磁区角度領域内にあると判断する。本実施形態では、隣接する部分領域が一つの同一磁区角度領域内にあるか否かは、隣接する部分領域との磁区角度の差に依らないものとする。例えば、磁区角度が0.0degである部分領域と0.9degである部分領域は連続した同一磁区角度領域を形成しているが、0.9degである部分領域と1.1degである部分領域は、磁区角度の差が0.2degではあるが、連続してはおらず、この境界が同一磁区角度領域の境界となる。
また、区域の区間が不連続である理由は、方向性電磁鋼板はGoss方位に高度に集積しているため、0degから1deg未満の領域における0.5degの方位変化と、5deg以上の領域における0.5degの方位変化は、磁気特性に与える影響が大きく異なる。特に、0degから1deg未満の領域における角度の変化が最も磁気特性に影響を与えるため、このように0degに近いほど区間を短くした。
注意を要するのは、同一磁区角度領域の境界は基本的に上記のように決定されるが、実際の鋼板においては、180°磁区内に生じる還流磁区、鋼板表面に生じた傷等による測定、測定時のノイズ等によって、大きな同一磁区角度領域の内部に微小な同一磁区角度領域が存在しているように観察されることである。このように観察される微小な領域は、騒音改善を目的として本実施形態で制御すべき同一磁区角度領域の平均径の評価においては、外乱要因となり、本実施形態が見出した高磁場領域での騒音と同一磁区角度領域の平均径との相関を著しく低下させる。このため、本実施形態においては、上記の操作において面積が10.0mm2以下となる領域については、その領域を取り囲む境界は存在しないものとして取り扱う。すなわち、10.0mm2以下の面積で観察される領域は、その周囲の領域と同一の磁区角度領域として取り扱い、以下で説明する平均径の導出においては、「観察領域内に存在する同一磁区角度領域の個数」としては数えない。
(2-3-6)同一磁区角度領域の平均径
同一磁区角度領域の平均径は、観察領域における同一磁区角度領域の円相当径である。すなわち、(観察領域の面積)/(観察領域内に存在する同一磁区角度領域の個数)により平均同一磁区角度領域面積SAを求め、SA=πd2となるdを同一磁区角度領域の平均径とする。この際、観察領域の最外境界に接する同一磁区角度領域については、該コロニーが観察領域外にも鏡面対称でつながっているとみなし、個数を「0.5個」として積算することとする。
本実施形態では、同一磁区角度領域の平均径を5.0mm以上とする。これにより、高磁場領域での伸び磁歪が効率的に抑制され、鋼板の面外振動による騒音が顕著に低減される。好ましくは8.0mm以上、さらに好ましくは10.0mm以上である。同一磁区角度領域の平均径の上限は特に限定する必要はなく、本実施形態の効果を発揮するという観点では、同一磁区角度領域の平均径は大きいほど好ましい。例えば、コイルで製造される鋼板全体が単一の同一磁区角度領域として認識されることは技術的には理想的な状態と言える。ただし、結晶粒径が100mm程度にとどまる現状の実用的な方向性電磁鋼板において、幅数100mm、長さ数100m以上にも及ぶコイル全体が単一の同一磁区角度領域となることが現実的でないことも明白である。現状の製造プロセスにより製造される方向性電磁鋼板おける同一磁区角度領域の現実的な最大径としては500mm、さらには300mm程度が挙げられる。本実施形態において、観察領域を500mm×500mmと設定しているのも同一磁区角度領域の現実的な最大径を考慮したものである。
同一磁区角度領域が大きくなると鋼板の面外振動による騒音が抑制される理由は明確ではないが以下のように推定している。還流磁区は、結晶中の原子配列が乱れた領域に発生しやすい。方向性電磁鋼板の結晶組織において原子配列が乱れた領域である結晶粒界は、還流磁区が発生しやすい領域であるが、その発生頻度は結晶粒界をまたいだ方位変化、元素偏析、歪蓄積、さらには鋼板表面性状などにより影響される。このため、還流磁区が発生しやすい結晶粒界と発生しにくい結晶粒界が存在し、結晶粒径が同じ(結晶粒界の存在頻度が同じ)でも、還流磁区が発生しにくい結晶粒界の存在割合が多ければ還流磁区の存在頻度は低下する。結晶粒界において還流磁区が発生しにくいと、180°磁区は磁区角度をほとんど変化させず結晶粒界をまたいで連続的な空間を占めるようになる。この状況は本実施形態が規定する同一磁区角度領域の平均径が大きい状況であり、還流磁区の存在割合が少ないため伸び磁歪が抑制され、結果として高磁場領域での鋼板の面外振動に起因する騒音が低下する。さらに、180°磁区の角度が0degに近ければ近いほど、高磁場領域まで励磁した際に磁化回転が発生しづらくなる。磁化回転は、磁歪波形に高調波成分を生じさせ騒音の増大を招くため、低減することが好ましい。したがって、0~1degの領域の面積が最大であることが望ましいと言える。具体的には、本発明の好ましい形態においては、0~1degの領域の面積は全面積の70%以上にも及ぶ。特に好ましい形態では90%以上にもなる。ただし、高磁場領域での鋼板の面外振動に起因する騒音は、単純に伸び磁歪を小さくしただけで抑制可能ではないことは前述のとおりであり、以下に説明するような磁区構造の総合的な変化が高磁場領域での鋼板の面外振動に起因する騒音の抑制には必要と考えている。
本実施形態により得られる磁区構造は、結晶粒径の粗大化とは独立に作用する。一般的に、結晶粒径が粗大化すれば同一磁区角度領域も粗大化していく。しかしながら、本実施形態における同一磁区角度領域の粗大化は、結晶粒径の粗大化によって成し遂げられた場合、必ずしも高磁場領域での鋼板の面外振動に起因する騒音の抑制には寄与しないと考えられる。なぜならば、結晶粒径の粗大化による同一磁区角度領域の粗大化のみでは、隣接結晶粒との結晶方位差に起因した還流磁区の低減が不十分であるためであると推察している。したがって、本実施形態における同一磁区角度領域の粗大化は粒界の有無に関わらず生じる。理想的には、粒界をまたいで同一磁区角度領域が存在することが理想的である。したがって、この理想状態を評価するため、式(8)のように、方向性電磁鋼板の結晶粒径Rcと同一磁区角度領域の平均径dの比を取ることで、その影響を評価する。
d/Rc≧1.1 …(8)
ここで、Rcは方向性電磁鋼板の平均の円相当径であり、平均結晶粒面積SBを求め、SB=πRc2となるRcを結晶粒径とする。なお、上記の結晶粒径Rcは、母鋼板の表面に酸化物等からなる一次被膜(グラス被膜、中間層)、絶縁被膜等を有している場合は、これらを公知の方法で除去してから目視により測定する。
一般的に磁区角度が大きくなると、磁気特性の低下(ヒステリシス損の増加)という悪影響を避けることができない。一方、本実施形態が特徴とする結晶粒界をまたいだ磁区構造の連続状態は、磁区角度を維持した状態で連続するため、同一磁区角度領域が粗大化しても磁区角度自体は大きくはならない。このため、磁区角度拡大に起因する磁気特性の低下(ヒステリシス損の増加)は本質的に問題とならない。
上述のように、同一磁区角度領域の平均径の上限は特に限定する必要はないが、同一磁区角度領域が大きくなるということは、還流磁区の存在頻度の低下につながり、高磁場領域での鋼板の面外振動に起因する騒音の低下にとって好都合となる。とは言え、実用的な鋼板で達成可能な同一磁区角度領域の平均径は100mm程度であり、これが現実的な上限となる。
さらに、上記のように決定される部分領域により、磁区角度の変動の大きさを以下のように規定する。
(2-3-7)磁区角度の変動
観察領域について、また、RD方向と平行であるl方向について隣接する部分領域の磁区角度の差の絶対値の総合計をΔθl(deg)とし、TD方向と平行であるk方向について隣接する部分領域の磁区角度の差の絶対値の総合計をΔθk(deg)とし、さらに同一磁区角度領域の導出に用いた部分領域の面積の総合計をS(mm2)とするとき、以下の式(9)を満足することを好ましい形態とする。
(Δθl+Δθk)/S≦1.0degmm-2 …(9)
式(9)の値は、l方向、すなわち鋼板圧延方向における単位面積当たりの磁区角度変動の大きさを表しており、上述のように、結晶粒径の影響を除外して、磁区構造の連続性を表す指標となる。この値が小さいほど、磁区角度のばらつきが小さいことになり、同一磁区角度領域の境界での還流磁区の発生が抑制されている状況に相当する。式(9)は好ましくは0.8degmm-2以下、さらに好ましくは0.6degmm-2以下である。式(9)の下限は特に限定する必要はなく、本実施形態の効果を発揮するという観点では、ゼロ、すなわち500mm×500mmの観察領域が単一の同一磁区角度領域であり、さらに同一磁区角度領域の内部においても磁区角度の変動が全くないことは理想的な状態と言える。ただし、実用的な方向性電磁鋼板においてこのような状態とすることは困難であり、ひとつの結晶粒の内部においてさえも隣接結晶粒との結晶方位差や粒界形態による影響、さらには表面粗度のような形状的な変動に起因した磁区角度の変動を完全に除去することは困難と言える。現状の製造プロセスにより製造される方向性電磁鋼板おける式(9)の現実的な下限値としては0.01degmm-2、さらには0.005degmm-2程度が挙げられる。
なお、本明細書における「高磁場領域」とは、方向性電磁鋼板中の磁場として1.9T以上の領域を想定して用いている。ただし、現実の鉄心において素材として使用されている方向性電磁鋼板の全ての部分が1.9T以上になる状況はない。現実の鉄心においては磁束に疎密があり、磁束が通過しにくい部位での磁束密度は1.9T未満となっている状況は当然である。このような状況を勘案しても、本実施形態の効果として発現する高磁場領域での鋼板の面外振動に起因する騒音は、鋼板の少なくとも一部が拘束された状況で鋼板の少なくとも一部が1.9T以上の磁束密度で磁化された際の鋼板の寸法変化に起因する振動、として理解される。
(3)方向性電磁鋼板の板厚
本実施形態で発現する結晶粒界での磁区構造の連続化効果が、鋼板の磁化に伴う鋼板面外への撓みを抑制して騒音を抑えることは上述の通りである。また、鋼板が薄いほど鋼板が撓みやすくなるため、本実施形態の効果は、板厚が薄い鋼板で発揮されやすいことも上述の通りである。厳密には板厚が厚くても本実施形態の効果は発揮される。本実施形態で注目する騒音は、鉄心設計や鉄心構造も含めた鋼板の面内方向での拘束の程度にも依存するため、実用的な騒音改善効果の有無を方向性電磁鋼板の板厚だけで決定することはできないが、一般的な鉄心において十分な効果が発揮される方向性電磁鋼板の板厚の目途としては0.35mm以下が挙げられる。0.25mm以下の鋼板では本実施形態の効果が明確になり、0.15mm以下の鋼板であれば本実施形態のメリットは顕著である。
(4)方向性電磁鋼板の製造方法
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を説明する。
図9は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を例示する流れ図である。図9に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の製造方法は、鋳造工程(S11)と、熱間圧延工程(S12)と、熱延板焼鈍工程(S13)と、冷間圧延工程(S14)と、脱炭焼鈍工程(S15)と、焼鈍分離剤塗布工程(S16)と、仕上げ焼鈍工程(S17)と、絶縁被膜形成工程(S21)とを備える。また、必要に応じて、脱炭焼鈍工程から仕上げ焼鈍工程までの任意のタイミングで窒化処理を行ってもよく、冷間圧延工程後の任意のタイミングで磁区制御工程(S22)をさらに有してもよい。
本実施形態の鋼板の特徴である磁区構造を好ましく制御するには、上記絶縁被膜形成工程における張力の制御が重要である。その他の製造条件は、従来の公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適用することができる。例えば、高温スラブ加熱によって形成するMnSやAlNをインヒビターとして利用する製造方法や、低温スラブ加熱とその後の窒化処理によって形成するAlNをインヒビターとして利用する製造方法などがある。本実施形態の特徴である切り替えは、何れの製造方法でも適用が可能であり、特定の製造方法に限定されない。以下では、窒化処理を適用する製造方法を一例として説明する。
(鋳造工程)
鋳造工程(S11)では、スラブを準備する。スラブの製造方法の一例は次のとおりである。溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いてスラブを製造する。連続鋳造法によりスラブを製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されない。スラブの厚さは、たとえば、150~350mmである。スラブの厚さは、好ましくは、220~280mmである。スラブとして、厚さが10~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。薄スラブを用いる場合、熱間圧延工程にて、仕上げ圧延前の粗圧延を省略することができる。
スラブの化学組成は、一般的な方向性電磁鋼板の製造に用いられるスラブの化学組成を用いることができる。スラブの化学組成はたとえば、次の元素を含有する。
C:0~0.0850%
炭素(C)は、製造過程では一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、最終製品のC含有量が過剰であると磁気特性に悪影響を及ぼす。したがって、スラブのC含有量は0~0.0850%であればよい。C含有量の好ましい上限は0.0750%である。Cは後述の脱炭焼鈍工程及び仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.0050%以下となる。Cを含む場合、工業生産における生産性を考慮すると、C含有量の下限は0%超であってもよく、0.0010%であってもよい。
Si:2.0~7.0%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が2.0%未満であれば、仕上げ焼鈍時にオーステナイト変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。一方、Si含有量が7.0%を超えれば、冷間加工性が低下して、冷間圧延時に割れが発生しやすくなる。Si含有量の好ましい下限は2.50%であり、さらに好ましくは3.0%である。Si含有量の好ましい上限は4.50%であり、さらに好ましくは4.0%である。
Mn:0.~1.0%
マンガン(Mn)は、S又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mn含有量は0~1.0%であればよい。Mnを含有させる場合、Mn含有量が0.05~1.0%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定するので好ましい。本実施形態では、インヒビターの機能の一部をNb群元素の窒化物によって担うことが可能である。この場合は、一般的なインヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、Mn含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.20%である。
S:0~0.0350%
Se:0~0.0350%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、Mnと結合して、MnS又はMnSeを生成し、インヒビターとして機能する。S含有量は0~0.0350%であればよく、Se含有量は0~0.0350%であればよい。S及びSeの少なくとも一方を含有させる場合、S及びSeの含有量が合計で0.0030~0.0350%であれば、二次再結晶が安定するので好ましい。本実施形態では、インヒビターの機能の一部をNb群元素の窒化物によって担うことが可能である。この場合は、一般的なインヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、S及びSe含有量の合計の好ましい上限は0.0250%であり、さらに好ましくは0.010%である。S及びSeは仕上げ焼鈍後に残留すると化合物を形成し、鉄損を劣化させる。そのため、仕上げ焼鈍中の純化により、S及びSeをできるだけ少なくすることが好ましい。
ここで、「S及びSeの含有量が合計で0.0030~0.0350%」であるとは、スラブの化学組成がS又はSeのいずれか一方のみを含有し、S又はSeのいずれか一方の含有量が0.0030~0.0350%であってもよいし、スラブがS及びSeの両方を含有し、S及びSeの含有量が合計で0.0030~0.0350%であってもよい。
Al:0~0.0650%
アルミニウム(Al)は、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。Al含有量は0~0.0650%であればよい。Alを含有させる場合、Alの含有量が0.010~0.065%の範囲内にある場合に、後述の窒化により形成されるインヒビターとしてのAlNは二次再結晶温度域を拡大し、特に高温域での二次再結晶が安定するので好ましい。Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.0250%である。二次再結晶の安定性の観点から、Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
N:0~0.0120%
窒素(N)は、Alと結合してインヒビターとして機能する。N含有量は0~0.0120%であればよい。Nは製造過程の途中で窒化により含有させることが可能であるため下限が0%でもよい。一方、Nを含有させる場合、N含有量が0.0120%を超えれば、鋼板中に欠陥の一種であるブリスタが発生しやすくなる。N含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.0090%である。Nは仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.0050%以下となる。
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。なお、ここでいう「不純物」は、スラブを工業的に製造する際に、原材料に含まれる成分、又は製造の過程で混入する成分から不可避的に混入し、本実施形態の効果に実質的に影響を与えない元素を意味する。
また、スラブは、製造上の課題解決のほか、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、上記Feの一部に代えて、公知の選択元素を含有してもよい。選択元素として、たとえば、次の元素が挙げられる。
Cu:0~0.40%
Bi:0~0.010%
B:0~0.080%
P:0~0.50%
Ti:0~0.0150%
Sn:0~0.10%
Sb:0~0.10%
Cr:0~0.30%
Ni:0~1.0%
Nb:0~0.030%
V:0~0.030%
Mo:0~0.030%
Ta:0~0.030%
W:0~0.030%
これらの選択元素は、公知の目的に応じて含有させればよい。これらの選択元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程(S12)は、所定の温度(例えば1100~1400℃)に加熱されたスラブの熱間圧延を行い、熱間圧延鋼板を得る工程である。熱間圧延工程では、例えば、鋳造工程後に加熱された珪素鋼素材(スラブ)の粗圧延を行った後、仕上げ圧延を行って所定厚さ、例えば、1.8~3.5mmの熱間圧延鋼板とする。仕上げ圧延終了後、熱間圧延鋼板を所定の温度で巻き取る。
インヒビターとしてのMnS強度はそれほど必要でないため、生産性を考慮すれば、スラブ加熱温度は1100℃~1280℃とすることが好ましい。
(熱延板焼鈍工程)
熱延板焼鈍工程(S13)は、熱間圧延工程で得た熱間圧延鋼板を所定の温度条件(例えば750~1200℃で30秒間~10分間)で焼鈍して、熱延焼鈍板を得る工程である。
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程(S14)は、熱延板焼鈍工程で得た熱延焼鈍板を、1回の冷間圧延、又は焼鈍(中間焼鈍)を介して複数回(2回以上)の冷間圧延(例えば総冷延率で80~95%)により、例えば、0.10~0.50mmの厚さを有する冷間圧延鋼板を得る工程である。
(脱炭焼鈍工程)
脱炭焼鈍工程(S15)は、冷間圧延工程で得た冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍(例えば700~900℃で1~3分間)を行い、一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程である。冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍を行うことで、冷間圧延鋼板中に含まれるCが除去される。脱炭焼鈍は、冷間圧延鋼板中に含まれる「C」を除去するために、湿潤雰囲気中で行うことが好ましい。
(窒化処理)
窒化処理は、二次再結晶におけるインヒビターの強度を調整するために実施する。窒化処理では、上述の脱炭焼鈍の開始から、後述する仕上げ焼鈍における二次再結晶の開始までの間の任意のタイミングで、鋼板の窒素量を40~300ppm程度に増加させればよい。窒化処理としては、例えば、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で鋼板を焼鈍する処理や、MnN等の窒化能を有する粉末を含む焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板を仕上げ焼鈍する処理等が例示される。
スラブがNb群元素を上記の数値範囲で含有する場合は、窒化処理によって形成されるNb群元素の窒化物が比較的低温で粒成長抑止機能が消失するインヒビターとして機能するので、二次再結晶が従来よりも低温から開始する。この窒化物は、二次再結晶粒の核発生の選択性に関しても有利に作用し、高磁束密度化を実現している可能性も考えられる。また、窒化処理ではAlNも形成され、このAlNが比較的高温まで粒成長抑止機能が継続するインヒビターとして機能する。これらの効果を得るためには、窒化処理後の窒化量を130~250ppmとすることが好ましく、さらには150~200ppmとすることが好ましい。
(焼鈍分離剤塗布工程)
焼鈍分離剤塗布工程(S16)は、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する工程である。焼鈍分離剤としては、例えば、MgOを主成分とする焼鈍分離剤や、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いることができる。
なお、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍によって中間層としてフォルステライト被膜(Mg2SiO4を主体とする被膜)が形成されやすく、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍によって中間層として酸化膜(SiO2を主体とする被膜)が形成されやすい。これらの中間層は、必要に応じて除去してもよい。
焼鈍分離剤を塗布後の脱炭焼鈍鋼板は、コイル状に巻取った状態で、次の仕上げ焼鈍工程で仕上げ焼鈍される。
(仕上げ焼鈍工程)
仕上げ焼鈍工程(S17)は、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を施し、二次再結晶を生じさせる工程である。この工程は、一次再結晶粒の成長をインヒビターにより抑制した状態で二次再結晶を進行させることによって、{100}<001>方位粒を優先成長させ、磁束密度を飛躍的に向上させる。
(絶縁被膜形成工程)
絶縁被膜形成工程(S21)は、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)に絶縁被膜を形成する工程である。一般的な主たる目的である被膜の形成については、仕上げ焼鈍後の鋼板に、りん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜や、アルミナゾルと硼酸とを主体とする絶縁被膜を公知の方法で形成すればよい。
ただし、本工程は、本実施形態の鋼板の特徴である磁区構造を好ましく制御するために利用することができる工程であり、本明細書で説明する製造方法においては重要な工程となる。本実施形態で規定する磁区構造を実現するには、鋼板製造における最終熱処理となる本工程での張力制御がポイントとなる。まず、昇温前の鋼板の最大張力を30MPa以下となるよう制御を行ったのち、750℃以上の温度域のすべての時点における張力を、6.5~13.0Mpa、かつ時間微分の絶対値の最大値を3.0MPa/s以下で通板を行う。この張力変化を判定するデータは、通板中の張力を一般的な方法で連続的に測定し、特定時刻tにおける張力として、時刻t-10秒まで遡って10秒間の張力を平均化した値を用いるものとする。このような10秒間の平均化を行う理由は、通板中に意図せぬ極短時間の応力変動(ハンチング)が生じることがあり、この影響を緩和するためである。
最終熱処理工程の昇温前と冷却過程での張力を上記のように制御することで、本実施形態が規定する磁区構造が好ましいものとなる。このような変化が起きる原因は明確ではないが以下のような理由が考えられる。本実施形態が対象とするSiを2%以上含有する鋼板の常温における降伏応力は200MPaを超えており、昇温前の鋼板への負荷が許容される30MPaという張力は弾性変形内と判断できる応力である。しかし、この程度の応力でも鋼板内部の微小領域、特に構成元素や転位が特別な構造で配置されている結晶粒界においては、弾性変形内の応力によりわずかな構造変化が起きて、これが引き続く高温域での熱処理過程での変化に影響を及ぼすものと考えられる。また、750℃以上の温度域では粒界の移動(結晶粒成長や結晶方位変化)はほとんど起きないが、昇温前に負荷された張力による構造変化も影響して、粒界面の形態、粒界上の転位構造、粒界への元素偏析、粒界上の析出などが変化し、磁区の連続化に影響を及ぼす。この温度域での張力は、粒界近傍での転位形成を含めた原子移動を通じて本実施形態の効果に影響を及ぼす。張力が低すぎると上記の粒界の変化自体が起きにくくなる。張力が高すぎると粒界近傍での不用意な転位の増殖を引き起こすこととなり、粒界をまたいだ磁区角度の連続性に著しい悪影響を及ぼす。温度が低い状況では原子移動が起きにくいため、本実施形態の効果への影響は小さくなる。温度が高い状況では原子移動が活発となり好ましい特殊な粒界構造自体が解消されてしまい本実施形態の効果への影響は小さくなる。そして、その変化はさらに、適切な範囲での張力の変動により粒界特性の変化が好ましく増長され、結果として粒界を挟んだ磁区の連続性が高まるように影響を及ぼすと考えられる。基本的には粒界の形態はなめらかになり、転位密度が低下し、偏析が均一化するような状況になると考えているが、直接的な検出はできていない。
昇温前の鋼板に負荷される最大張力は好ましくは25MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下である。この張力は低い方が好ましいが、一般的な絶縁被膜形成熱処理ラインは、「仕上げ焼鈍コイル払い出しリール→ブライドルロール→余剰焼鈍分離剤除去→ブライドルロール→入側ルーパー→ブライドルロール→被膜原料塗布→焼鈍→ブライドルロール→出側ルーパー→ブライドルロール→巻き取りリール」という構成を有しており、払い出しから被膜原料塗布までの鋼板取り扱いのため、負荷張力を5MPa未満とすることは困難である。
750℃以上の温度域のすべての時点における張力の変動幅は好ましくは7.0~11.0MPa、さらに好ましくは7.5~10.0MPaである。張力の時間微分の最大値については、好ましくは2.5MPa/s以下、さらに好ましくは2.0MPa/s以下である。
また、本実施形態に係る製造方法は、必要に応じて、磁区制御工程をさらに有してもよい。
(磁区制御工程)
磁区制御工程(S22)は、方向性電磁鋼板の磁区を細分化する処理を行う工程である。例えば、レーザー、プラズマ、機械的方法、エッチングなどの公知の手法により、方向性電磁鋼板に局所的な微小歪又は局所的な溝を形成すればよい。このような磁区細分化処理は、本実施形態の効果を損ねない。
図9に示す方向性電磁鋼板の製造方法は、絶縁被膜形成工程で磁区構造を制御するために、絶縁被膜形成工程が必須である例を示している。しかしながら、上述の磁区構造を有する方向性電磁鋼板を製造することができる方法であれば、絶縁被膜形成工程は必ずしも必要ではない。
次に、実施例により本実施形態の効果を具体的に詳細に説明する。本実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1に示す化学組成を有するスラブを素材として、表2に示す化学組成を有する方向性電磁鋼板を製造した。表1及び表2で、「-」は含有量を意識した制御及び製造をしておらず、含有量の測定を実施していないことを示し、「<」を付記する数値は、含有量を意識した制御及び製造を実施して含有量の測定を実施したが、含有量として十分な信頼性を有する測定値が得られなかったこと(測定結果が検出限界以下であること)を示す。
Figure 0007597995000007
Figure 0007597995000008
方向性電磁鋼板は、基本的には公知の製造条件に基づいて製造した。スラブを鋳造し、熱間圧延、熱延板焼鈍を施した。
さらに、冷間圧延、及び脱炭焼鈍を実施し、一部については、脱炭焼鈍後の鋼板に、水素-窒素-アンモニアの混合雰囲気で窒化処理(窒化焼鈍)を施した。
さらに、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板に塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍の最終過程では、鋼板を水素雰囲気にて1200℃で20時間保持(純化焼鈍)して、自然冷却した。
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に形成された一次被膜(中間層)の上に、りん酸塩とコロイド状シリカを主体としクロムを含有する絶縁被膜形成用のコーティング溶液を塗布し、水素:窒素が75体積%:25体積%の雰囲気で加熱して保持し、冷却して、絶縁被膜を形成した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ2μmのフォルステライト被膜であり、絶縁被膜は平均厚さ1μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
(B-1)方向性電磁鋼板の磁気特性
方向性電磁鋼板の磁気特性は、JIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)に基づいて測定した。
磁気特性として、800A/mで励磁したときの鋼板の圧延方向の磁束密度B8(T)を測定した。
(B-2)方向性電磁鋼板の磁区構造
方向性電磁鋼板の磁区構造を上記解析方法により定量化し、同一磁区角度領域を測定した。
(B-3)鉄心の騒音特性
各鋼板を素材として、3相3脚積形式の鉄心を作成した。鉄心のサイズは、全体の高さ750mm、幅750mm、U相、V相、W相の幅はそれぞれ150mm、積層板厚は40mmである。鉄心を固定するため、両側を木枠で囲み、クランプとボルトで固定をしている。クランプやボルトに対する締め付けトルクを、鉄心表面に対する平均締め付け圧力が0.30MPaとなるように調整した。鉄心接合部は6段ステップラップで、同時積枚数1としている。各鉄心について鉄心表面から30cm離れた位置に等間隔に8本のマイクを配置し、騒音を測定した。
(測定例1)
鋼種A、B、C、Dについて板厚0.35mm以下の鋼板を製造するに際し、絶縁被膜形成工程の張力を変化させ、同一磁区角度領域の平均径dが異なる各4種の鋼板、(A、B、C、D)-(1~4)を製造した。この際、各鋼種において、張力の変動は比較的小さく、ほぼ一定となるよう制御した。各鋼種内の製造過程で条件が変化したのは絶縁被膜形成工程の張力だけであるため、各鋼種内で磁束密度、鉄損、磁歪はほぼ同じ特性値となっている。これらの鋼板の磁区構造を解析するとともに、鉄心を製造し騒音を測定した。測定結果を表3に示す。各鋼種内において、騒音の変化はdとの相関が強いことがわかる。つまり、板厚が薄い鋼板で製造した鉄心の騒音を低減するにはdを適正範囲に制御することが有効であることがわかる。
(測定例2)
鋼種A、B、Dについて板厚0.35mm以下の鋼板を製造するに際し、絶縁被膜形成工程の張力を変化させ、dが異なる各4種の鋼板、(A、B、D)-(11~14)、(B、D)-(15~18)、(D19~D22)を製造した。この際、各鋼種において、張力の絶対値は一定とし、時間微分の最大値のみが変動するよう制御した。また、磁区細分化のために、圧延方向と交差する方向に延伸するように線状若しくは点状に、次の条件で、局所的な歪を付与するか、又は局所的な溝を形成した。なお、ピッチは圧延方向の間隔であり、Uaはエネルギー密度であり、機械的溝形成は歯車プレス法であり、化学的溝形成は電解エッチング法である。鋼板B15~B18は、それぞれ、エッチング、電子ビーム、機械歪、及びレーザーを用いて磁区制御した。電子ビーム照射の条件は、照射ピッチ=4mm、Ua=7mJ/mm2であり、レーザー照射の条件は、照射ピッチ=4mm、Ua=2.0mJ/mm2であり、機械的溝形成の条件は、ピッチ=4mm、溝深さ=20μm、溝下粒なしであり、化学的溝形成の条件は、ピッチ=4mm、溝深さ=20μmである。なお、機械的溝形成及び化学的溝形成の後に、次の条件で絶縁被膜を形成した。機械的溝形成は、リン酸アルミ系絶縁被膜を焼付焼鈍850℃×30秒で形成した。化学的溝形成は、リン酸アルミ系絶縁被膜を焼付焼鈍850℃×60秒で形成した。
各鋼種内の製造過程で条件が変化したのは絶縁被膜形成工程の張力だけであるため、各鋼種内で磁束密度、鉄損、磁歪はほぼ同じ特性値となっている。これらの鋼板の磁区構造を解析するとともに、鉄心を製造し騒音を測定した。測定結果を表4に示す。各鋼種内において、dが同等であっても、(Δθl+Δθk)/Sが式(9)を満たすことにより、騒音が低下することがわかる。
本発明の上記態様によれば、方向性電磁鋼板の磁区画像から、磁区の角度が所定の範囲内にある領域及びその位置を定量的に導出する手法により方向性電磁鋼板を特定し、変圧器鉄心の高磁場領域での騒音を低減し、騒音特性を好ましく制御することが可能となるので、産業上の利用可能性が高い。
20 画像取得装置
21 光源部
23 MOセンサ
25 イメージセンサ
27 信号処理部
30 解析装置
31 演算部
33 メモリ
35 表示部
37 入力部
39 通信I/F
100 解析システム

Claims (3)

  1. 方向性電磁鋼板の磁区構造の解析方法であって、
    a)2種類の色によって二値化された又は3以上の階調で表現された前記方向性電磁鋼板の磁区画像から、前記磁区画像の複数の位置にそれぞれ対応する複数の部分領域を切り出すステップと、
    b)前記複数の部分領域のそれぞれに対して2次元フーリエ変換を施すことによって複数の部分フーリエ画像を求めるステップと、
    c)前記複数の部分フーリエ画像のそれぞれのスポットのピーク位置に基づいて、前記方向性電磁鋼板の180°磁区の角度の空間分布を導出するステップと、
    d)前記180°磁区の角度の空間分布に基づき、前記磁区画像のうち、前記180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域を同一磁区角度領域として導出するステップと、
    を備える、解析方法。
  2. 前記磁区画像を2次元座標(k,l)のデータ列x(k,l)で表し、
    前記磁区画像における観察位置を(n,m)、
    窓関数をWa(k,l)、
    前記窓関数のk方向及びl方向におけるシフト量を、それぞれ、Sk及びSl、
    前記複数の部分領域の各々のk方向の画素数及びl方向の画素数に対応するパラメータを、それぞれ、Nk及びNl、と表記すると、
    前記a)のステップでは、
    前記窓関数を用いて前記磁区画像からnSk≦k≦nSk+Nk-1、mSl≦l≦mSl+Nl-1の範囲を切り出すことによって、前記複数の部分領域の各々について、以下の式のようにデータ列xnm(k-nSk,l-mSl)を求め、
    Figure 0007597995000011
    前記c)のステップでは、
    以下の式のように、前記180°磁区の角度の空間分布θ(n,m)を導出し、
    Figure 0007597995000012
    Δfk及びΔflは、それぞれ、前記磁区画像の空間周波数のk方向の分解能及びl方向の分解能を表し、
    Δk及びΔlは、それぞれ、前記磁区画像のk方向の空間分解能及びl方向の空間分解能を表し、
    fk max(n,m)及びfl max(n,m)は、それぞれ、前記複数の部分フーリエ画像の各々のスポットのピーク位置のk成分及びl成分を表す、請求項1に記載の解析方法。
  3. 方向性電磁鋼板の磁区構造の解析システムであって、
    2種類の色によって二値化された又は3以上の階調で表現された前記方向性電磁鋼板の磁区画像から、前記磁区画像の複数の位置にそれぞれ対応する複数の部分領域を切り出し、
    前記複数の部分領域のそれぞれに対して2次元フーリエ変換を施すことによって複数の部分フーリエ画像を求め、
    前記複数の部分フーリエ画像のそれぞれのスポットのピーク位置に基づいて、前記方向性電磁鋼板の180°磁区の角度の空間分布を導出し、
    前記180°磁区の角度の空間分布に基づき、前記磁区画像のうち、前記180°磁区の角度が所定の範囲内にある連続する領域を同一磁区角度領域として導出する演算部を備える、解析システム。
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