以下、本発明にかかる実施形態について説明するが、特定的な記載がない限り、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
[光学部材]
図1(a)に、本発明の部材の一形態を示す模式図を示す。
本発明の部材100は、基材10の上に、基材側から順に、第1の領域21と第2の領域22と第3の領域23とを含む多孔質層20を有しており、防曇性能と反射防止層性能を有している。図では、基材10の片面に多孔質層20を有する構成を示しているが、用途に応じて、基材10の両側に多孔質層20を設けても良い。
本発明の部材100は、基材10を適宜選択することにより、窓ガラス、鏡、レンズ、透明フィルムなど、幅広い用途に用いることができる。特に、撮像系や投影系の光学レンズ、光学ミラー、光学フィルター、アイピース、屋外カメラや監視カメラ用の平面カバーやドームカバー、フェイスシールドやマウスシールドなどの用途に適している。
(基材)
基材10の材質には、ガラスや樹脂などを用いることが可能である。その形状は限定されることはなく、平面、曲面、凹面、凸面、フィルム状であっても良い。
ガラスには、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化ランタン、酸化ガドリニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ホウ素、酸化アルミニウムなどを含有する無機ガラスを用いることができる。ガラスの基材は、研削研磨、モールド成形、フロート成形などで成形することができる。
樹脂には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、アクリル樹脂、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。
基材10の強度や平坦性の向上、基材10に接する膜の密着性の向上などを目的として、基材10の表面を洗浄あるいは研磨したり、接着層やハードコート層などの機能層を設けたりしてもよい。
(多孔質層)
図1(b)に多孔質層20の拡大図を示す。第1の領域は第1の粒子24を含み、第3の領域は第1の粒子とは形状の異なる第2の粒子25を含み、第2の領域は第1の粒子24と第2の粒子25の両方を含んでいる。ここでいう「形状が異なる」には、単に大きさが異なる相似形状も含まれる。図1(b)には、第1の粒子24が球状の粒子、第2の粒子25が鎖状の粒子の場合を表している。
多孔質層20に含まれる粒子間には空隙が形成され、三次元的に互いに連通して外気とつながっている。このような多孔質構造により、部材の外部環境の湿度が高くなると、多孔質層20の空隙内に侵入した空気に含まれる水分が凝縮して吸着され、防曇性を発揮することができる。また、多孔質層20に含まれる空隙が互いに連通しているため、層に含まれる空隙全体を利用して水分を吸着することが可能となり、高い防曇性能を発現することができる。
本発明にかかる部材の多孔質層20では、第2の領域22の平均空隙率が、第1の領域21の平均空隙率より大きく、前第3の領域23の平均空隙率より小さくなっている。多孔質層20の中で、第3の領域23が最も大きな平均空隙率を有しており、水分を吸着する役割を主に担っている。従って、もし多孔質層20に防曇性能だけを求めるなら、第3の領域だけを有していれば良いが、防曇性能に加えて光反射防止性能を求める場合には、第3の領域だけでは不十分である。以下にその理由を説明する。
図2(a)に示すように、基材10の上に、防曇のために空隙率の大きい多孔質層220を直接形成した場合を考える。ガラスや樹脂からなる基材10の屈折率が1.5程度であるのに対し、防曇のために設けられる多孔質層220の屈折率は1.2~1.3程度である。このように屈折率差が大きいと、基材10と多孔質層220との界面で光反射R1が生じてしまう。
基材10と多孔質層220との界面で生じる光反射を低減するには、多孔質層220と基材10との間に、多孔質層220の屈折率と基材10の屈折率の中間の屈折率を有する層221を設けた図2(b)の構成が考えられる。多孔質層220と層221との屈折率差と基材10と多孔質層220との屈折率差を同程度とし、層221の膜厚は、低減したい波長λのλ/4の整数倍とする。このような構成により、層221と基材10と界面による反射光R1と多孔質層220と層221と界面による反射光R2との干渉により、反射光を低減することが可能となる。
ところが、図2(b)の構成には、次のような課題が生じる。光学部材が高湿度環境下に曝露されて多孔質層220が水分を吸着(吸湿)すると、空隙内の空気が水に置換されるため多孔質層220の屈折率が上昇する。層221が蒸着膜などの空隙率の小さい層の場合、吸湿しても層221の屈折率はほとんど変化しないため、多孔質層220と層221との屈折率差が、多孔質層220と基材10との屈折率差よりも小さくなる。すると、反射光R1と反射光R2との強度バランスが崩れ、干渉によって反射光を十分に低減できなくなってしまう。
そこで、層221を、多孔質層220の空隙率と基材10の空隙率の中間程度となるように調整された多孔質層221’とし、多孔質層221’にも吸湿させることにより、吸湿による屈折率の差を低減しようとすると、新たな問題が生じることが分かった。
多孔質層221’を形成した後、その上に多孔質層220を形成すると、多孔質層221’と多孔質層220との界面に空隙率が小さい緻密な領域が形成されてしまい、水分の移動が遮られてしまう。そのため、多孔質層220で吸着された水分は、多孔質層221’に移動することができなくなり多孔質層220内に留まる。水分を吸着する多孔質層220の屈折率だけが上昇し、多孔質層221’の屈折率が変化しないと、層221’が蒸着膜の場合と同様の理由によって、それぞれの界面での反射光の強度バランスが崩れ、反射光を十分に低減できなくなってしまう。
多孔質層221’と孔質層220との界面に形成される緻密な領域は、多孔質層221’を形成する際の塗工液の乾燥時に、乾燥が最初に始まる塗工液表面で粒子が密に凝集することに起因していると考えられる。そこで、本発明では、図1(b)に示すように、多孔質層221’に相当する第1の領域21と多孔質層220に相当する第3の領域23との間に、第1の粒子24と第2の粒子25とを含む第2の領域22を設けている。
第2の領域は、第1の領域21を形成するための塗工液を基材に塗布し、塗工液が乾燥してしまう前に第3の領域23を形成するための塗工液を塗布することで形成することができる。第2の領域22は、第1の粒子24と第2の粒子25の両方を含むため、第1の領域21の空隙率と第3の領域の空隙率の中間の空隙率となり、緻密な領域が形成されるのを抑制することができる。第1の領域21を形成するための塗工液を基材に塗布し、塗工液が乾燥してしまう前に、第1の粒子と第2の粒子を含む塗工液を塗布し、その乾燥前に第3の領域23を形成するための塗工液を塗布することで、第2の領域を形成してもよい。
第1の領域21と第3の領域23と間に水分の移動を妨げる緻密な領域がないと、第3の領域23に吸着された水分は、第2の領域22を介して第1の領域21へと移動する。そして、第1の領域21および第2の領域22も、第3の領域23と同様に水分吸着により屈折率が上昇する。その結果、多孔質層20が水分を吸着した際も、第1の領域21と第3の領域23との屈折率差と、第3の領域23と基材10との屈折率差が同程度となり、それぞれの界面で反射される光の強度も同程度となるため、反射防止性能を維持することが可能となる。
防曇と反射防止の観点から、第1の領域の空隙率は10%以上30%以下が好ましく、第3の領域の空隙率は40%以上60%以下が好ましい。ここで、空隙率とは、多孔質層の断面における任意の領域において、領域に含まれる空隙部の合算面積の割合をいう。
空隙率は以下の手法で算出することができる。まず、多孔質層20を任意に位置で膜厚方向に沿って薄片化し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)による観察画像を取得する。取得した画像に対してimage Pro PLUS(メディアサイバネティクス社製)などを用いて画像処理を行い、空隙部と空隙でない部分とを二値化して、それぞれの領域における空隙部の合算面積を算出する。そして、多孔質層のそれぞれの領域における、空隙部が占める面積の比率を算出し、空隙率とする。空隙率の算出は、多孔質層20の断面において、各領域を含む150nm×150nm以上の領域について算出するのが好ましい。
図1(b)には、第1の粒子24が球状の粒子、第2の粒子25が鎖状粒子の場合を示しているが、第3の領域の平均空隙率を第1の領域の平均空隙率より大きくできれば、これに限定されるものではない。例えば、第1の粒子24および第2の粒子25をいずれも球状の粒子とし、第2の粒子25の粒子径を第1の粒子24よりも大きくしてもよい。第1の粒子24には、第2の粒子25より粒子間に形成される空孔が少なくなる、形状と粒子径を選択するとよい。
第1の粒子24、第2の粒子25は、それぞれ球状、鎖状、円盤状、楕円状、棒状、針状、角型など様々な形状から適宜選択して単独でも組み合わせても使用できる。成膜性に優れ、十分な膜硬度を得ながら空孔率を上げられる点で、球状または鎖状が特に好ましい。また、互いに形状が異なる複数種類の粒子を混合して使用しても良い。
鎖状の粒子とは、複数個の粒子が鎖状(数珠状ともいう)に、直線または屈曲しながら連なった粒子の集合体である。鎖状粒子を形作る粒子の形状は、個々の粒子を明確に観察できる状態でもよいし、互いに融着して形が崩れていてもよく、膜となってもその鎖状に連なった構造が維持される。そのため、他の形状の粒子を用いた時に比較して粒子間の空隙を広げることができ、細孔容積の大きな多孔質層を形成することができる。
第1の粒子24あるいは第2の粒子25に球状、円盤状、楕円状の粒子を用いる場合は、その平均粒子径は5nm以上100nm以下が好ましい。平均粒子径が5nm以上であれば、成膜時の圧縮応力を解放できるためにクラックが発生しにくい傾向にある。平均粒子径が100nm以下であれば、粒子の大きさに伴う光の散乱が発生しにくく、透明性の高い膜が得られやすい。より好ましい平均粒子径は10nm以上60nm以下である。
第1の粒子24あるいは第2の粒子25に鎖状、棒状、針状の粒子を用いる場合は、短径の平均は5nm以上40nm以下であることが好ましく、8nm以上30nm以下であることがより好ましい。短径の平均が5nm以上40nm以下であれば、雰囲気中の水分や化学物質の取り込みによる信頼性低下や散乱が発生しにくくなる。長径/短径の比は3以上12以下であることが好ましく、4以上10以下であることがより好ましい。長径/短径の比がこの範囲にあれば、細孔容積を大きくし易くなると同時に、光の散乱を抑制して高い透明性が得られやすくなる。
ここで粒子の平均粒子径とは、平均フェレ径である。この平均フェレ径は透過電子顕微鏡像によって観察したものを画像処理によって測定することができる。画像処理方法としては、image Pro PLUS(メディアサイバネティクス社製)など市販の画像処理を用いることができる。所定の画像領域において、必要であれば適宜コントラスト調整を行い、粒子測定によって各粒子の平均フェレ径を測定し、平均値を算出して求めることができる。
第1の粒子24および第2の粒子25は、それぞれ酸化ケイ素や酸化ジルコニウムを主成分とする単一の金属酸化物の粒子であってもよいし、元素の一部をAl、Ti、Zn、Zr、Bなどの他の元素で置き換えたり、有機基を結合させたりしてもよい。多孔質層20の屈折率を低くし、化学的安定性に優れる点で、酸化ケイ素を主成分とする粒子が特に好ましい。
多孔質層20の強度(耐擦傷性)を高めるためには、粒子同士を結合させるとよい。粒子同士を結合させる方法としては、バインダーを用いて粒子を物理的に結合させる方法や、粒子の表面に処理を施して粒子同士を化学的に結合させる方法が挙げられる。バインダーには、有機バインダー、無機バインダーのいずれも用いることが可能であるが、化学的に安定な無機バインダーが好ましく、特に酸化ケイ素化合物が好ましい。酸化ケイ素化合物の好適な例は、ケイ酸エステルを加水分解・縮合することにより得られる酸化ケイ素オリゴマーである。
多孔質層20に含まれる空孔の平均孔径は、窒素ガス吸着法による細孔分布測定で得られる値が、3nm以上50nm以下であることが好ましい。平均孔径が3nm以上であれば、多孔質層20の中で空気や水分の移動が円滑に行われ、十分な防曇性能を発現することが可能性となる。平均孔径が50nm以下であれば、光の散乱原因となる孔径が100nmを超える空孔が少ないため、高い透明性を実現することが可能となる。より好ましい孔径は5nm以上20nm以下である。
多孔質層20に含まれる空隙の量は、窒素ガス吸着法によって細孔容積として求めることができる。細孔容積は0.1cm3/g以上1.0cm3/g以下であることが好ましい。細孔容積が0.1cm3/g以上であると、防曇性を得るために十分な量の水の量を、多孔質層20で保持することができる。細孔容積が1.0cm3/g以下であれば、骨格の硬度が低下することなく十分な耐擦傷性が得られる。より好ましい細孔容積0.3cm3/g以上0.6cm3/g以下である。
多孔質層20のうち、外部環境に曝される第3の領域23は、主に水分を吸着する役割を担うため、用途に応じて求められる量の水分を吸着することのできる空隙を有することが望まれる。従って、第3の領域23の厚みを要求される防曇性能に応じて設定するとよい。第3の領域が厚いほど防曇性能は高くなるが、多孔質層30が無機材料から形成される場合、膜厚が厚くなりすぎると応力による割れが生じてしまうため、0.2μm以上2μm以下の厚さが好ましい。より好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下である。
第1の領域21、第2の領域22それぞれの厚さは、光学設計に従って決めると良い。第1の領域21は、低減したい波長λのλ/4の整数倍であればよいが、50nm以上150nm以下とするのが好ましい。この範囲であれば、可視光の波長λの反射を干渉条件で低減することができる。
各領域の物理的な厚さは、電子ビーム加工装置で光学部材上の積層膜の断面が露出するように薄片化し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて得られる像から測定することができる。
(表面反射防止層)
部材の反射防止効果をより高めるため、図3に示すように、多孔質層20の上に表面反射防止層30を設け、空気と多孔質層20との界面で生じる反射を低減する構成も好ましい。
表面反射防止層30は、部材の光入出射界面における反射を抑える反射防止性能と、外部と多孔質層20との間の水分の移動を可能にする透湿性とを有している。表面反射防止層30は、互いに屈折率の異なる複数の層の積層体であり、光学設計に応じて高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層が適宜組み合わされる。表面反射防止層30と空気との屈折率差を低減して反射を抑制するため、表面反射防止層30の最表面には、低屈折率層が設けられる。表面反射防止層30は、蒸着法によって形成されるのが好ましい。
本発明では、屈折率が1.8以上の層を高屈折率層、1.4以上1.8未満の層を中屈折率層、1.4未満の層を低屈折率層と呼ぶ。なお、本発明において、透明とは、可視光の透過率が70%以上の状態を指し、屈折率として、ナトリウムd線(波長589.3nm)における値(nd)を示す。
低屈折率層には、酸化ケイ素(SiO2、nd=1.46)、フッ化マグネシウム(MgF2、nd=1.38)、フッ化カルシウム(CaF2、nd=1.43)などの無機材料を含む膜を用いることができる。
中屈折率層には、酸化アルミニウム(Al2O3、nd=1.77)、酸化ケイ素、フッ化カルシウムなどの無機材料を含む膜を用いることができる。
高屈折率層には、酸化ジルコニウム(ZrO2、nd=2.13)、酸化チタン(TiO2、nd=2.52~2.72)、酸化タンタル(Ta2O5、nd=2.17)、酸化ニオブ(Nb2O5、nd=2.32)、酸化ハフニウム(Hf2O5、nd=1.91)などの無機材料を含む膜が挙げられる。高屈折率層には、これらの金属酸化物から選択した2種類含んでいてもよいし、他の金属酸化物と混合して屈折率を調整してもよい。
反射防止層30に含まれる各層の厚さは、10nm以上200nm以下が好ましい。この範囲内で各層の厚さを設定することによって、広い波長域の可視光の反射を低減することが可能となる。広い波長域での反射率を抑えるためには、積層数は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。
表面反射防止層30が透湿性を有することで外部と多孔質層20との間の水分の移動を可能とし、湿度に応じて水分を多孔質層20に保持したり、多孔質層20に保持した水分を外気に放出したりして、防曇性を繰り返し発揮することが可能となる。表面反射防止層30に透湿性を持たせるためには、各層が空孔を含むように形成するとよい。膜内に空孔を有する層は、蒸着時の成膜ガスの導入圧力や基板の温度、基材に飛来する蒸着物質の角度など、蒸着条件を適宜調整することによって形成することができる。中でも加熱しないで蒸着を行う無加熱蒸着や斜方蒸着が好ましい。
膜の屈折率は、膜の組成と密度によって決まる。例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)の真密度の状態における屈折率ndは1.38であるが、膜内に30%の空孔が存在していると、ndは1.27まで低減する。これは、膜内の空孔に、nd=1.0の空気が存在することによって、膜全体としての屈折率が低下するためである。このように、同じ組成からなる層の場合、緻密な膜ほど屈折率は高くなり、密度の低い膜ほど屈折率は低くなる。そして、反射防止層を構成する各層を、空孔を含む密度の低い膜とすることで、水分が透過しやすい膜にすることができる。
部材を曇らせないためには、部材の表面近傍の相対湿度を100%以下に保つ必要がある。多孔質層20の水分保持量は有限であるから、多孔質層20はできる限り相対湿度100%近くで吸湿を開始することが望まれる。
部材の表面近傍の水分は、表面反射防止層30を通過して多孔質層20に吸着される。例えば、表面反射防止層30の空孔を多孔質層20の空孔に比べて小さくすると、水分が表面反射防止層30を移動するためには、多孔質層20の中を移動する際より高い圧力が必要となる。つまり、表面反射防止層30を通って、水が多孔質層20へと拡散するためには、多孔質層20単体よりも、水の相対圧(相対湿度)が高くなければならない。このように、多孔質層20の上に、多孔質層20よりも空隙の小さい表面反射防止層30を積層することにより、多孔質層20単体よりも高い相対湿度で水の吸着が開始するため、より防曇性を向上させることができる。
また、空隙への水分の吸着がケルビン式に従うとすると、多孔質内で水分の凝縮が進んで吸着が始まるときの湿度は、空隙が大きくなるに従って高湿度側に移動する。表面反射防止層30に含まれる空隙は多孔質層20に含まれる空隙に比べて十分小さいため、表面反射防止層30は、多孔質層20では吸着が始まらない低湿度環境でも水分を吸着し始める。例えば、表面反射防止層30の水に対する接触角が10度で、空孔径が直径3nmの場合は、相対湿度50%から水分の吸着が始まると予想される。
このように、表面反射防止層30では多孔質層20よりも低湿度環境で水分の吸着がはじまり、高湿度環境になるにつれ、表面反射防止層30に吸着された水分が多孔質層20へと移動する。その結果、本発明にかかる光学部材は、広い湿度範囲で防曇性能を発揮することができる。
本発明に係る表面反射防止層30は、それ自体が保持できる水分量が少ないため、たとえ水分を吸着しても屈折率が大きく変化することがない。従って、高湿度環境になっても反射防止性能を発揮することが可能である。
(下地反射防止層)
反射防止効果をさらに高めるためには、図4に示すように、多孔質層20と基材10との間に下地反射防止層40を設け、多孔質層20と基材10との界面で生じる反射を低減する構成も好ましい。
下地反射防止層40としては、多孔質層20と基材10との間の屈折率を有する単膜、あるいは、高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層など、互いに屈折率の異なる層を複数組み合わせた積層体を設けるのが好ましい。下地反射防止層40内での干渉を利用すれば、波長λだけでなくより広い波長域で反射を低減することができる。高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層それぞれには、表面反射防止層に例示した膜を用いることができる。下地反射防止層40は、蒸着法やスパッタリング法などの真空成膜法や、ゾル-ゲル液や粒子の分散液などを用いたウェット成膜法で形成することができる。
下地反射防止層40に加えて表面反射防止層30を備える構成も、反射防止効果が高まるため好ましい。
(部材の製造方法)
以下、図4の部材の製造方法について説明する。
本発明にかかる部材100の製造方法は、基材10の上に、多孔質層20を形成する工程、を含む。
多孔質層20を形成する工程にはウェット成膜法が用いられる。ウェット法で多孔質層20を形成する場合は、ゾル-ゲル法などで合成した金属酸化物前駆体や金属酸化物粒子を含む塗工液を基板上に塗膜を形成し、15℃から200℃で乾燥させることによって形成することが可能である。金属酸化物前駆体や金属酸化物粒子を含む塗工液に限定されず、ポリマー粒子を含む塗工液を用いてもよい。
多孔質層20を形成するための塗工液に用いることができる溶媒は、原料が均一に溶解し、かつ反応物が析出しない溶媒であれば良い。例えば水を用いることができる。また、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチルプロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、シクロペンタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、4-メチル-2―ペンタノール、2-メチル-1―ペンタノール、2-エチルブタノール、2,4-ジメチル-3―ペンタノール、3-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノールなどの1価のアルコール類。エチレングリコール、トリエチレングリコールなどの2価以上のアルコール類を用いることができる。また、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、イソプロポキシエタノール、ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1―エトキシ-2-プロパノール、1―プロポキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール類、ジメトキシエタン、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルのようなエーテル類を用いることができる。また、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類。アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類を用いることができる。また、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルフォルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような、非プロトン性極性溶媒等を用いることができる。これらの中から選択した2種類以上の溶媒を混ぜて使用することもできる。
塗工液と塗工面との濡れ性を改善したり、層の厚均一性を高めたり、多孔質層20と塗工面との密着性を改善したりする目的で、多孔質層20を形成するための塗工液に添加物を加えることができる。添加物の例としては、界面活性剤、レベリング剤、密着促進剤、酸触媒などが挙げられ、添加量は多孔質層20を形成する固形成分に対して2重量部以下であることが好ましい。
多孔質層20を、金属酸化物前駆体や金属酸化物粒子を含む塗工液を用いて形成する方法としては、スピンコート法、スプレー法、ブレードコート法、ロールコート法、スリットコート法、印刷法やディップコート法などが挙げられる。凹面などの立体的に複雑な形状を有する部材を製造する場合は、膜厚の均一性の観点からスピンコート法やスプレー法が好適である。
第1の領域21、第2の領域22、および第3の領域23は、第1の粒子24を含む塗工液を塗布して塗膜を形成した後、塗膜の表面が乾燥してしまう前に第2の粒子25を含む塗工液を塗布することによって形成することができる。第1の粒子24を含む塗工液を塗布して塗膜を形成してから第2の粒子25を含む塗工液を塗布するまでの時間は、溶媒の種類や温度、第2の領域の厚さ等にもよるが、2分以内が好ましく1分以内がより好ましい。
第1の領域21および第3の領域23の厚みや空孔率は、それぞれの領域を形成する塗工液の個性成分含有量や粘度、塗工条件を制御することで制御することができる。第2の領域22の厚みや空孔率は、第1の粒子24を含む塗工液の塗布した後の乾燥条件によって制御することができる。例えば、乾燥時間が短いと第2の領域22は厚くなり、長いと薄くなる。
また、第1の領域21を形成するための塗工液の塗布と第3の領域23を形成するための塗工液の塗布との間に、第1の粒子と第2の粒子を含む塗工液を塗布する工程を加えて第2の領域22を形成してもよい。第1の粒子と第2の粒子を含む塗工液、第3の領域23を形成するための塗工液は、先に塗布した塗工液からなる膜の表面が乾燥前に塗布する。この場合、第1の粒子24と第2の粒子25を含む塗工液の塗膜の厚さによって、第2の領域の厚さを調整することができる。
第1の粒子24を含む塗工液と第2の粒子25を含む塗工液を基材10の上に塗布した後には、乾燥および/または硬化が行われる。乾燥および硬化は、溶媒を除去したり、バインダー自体の反応あるいはバインダーと粒子との反応を進めたりするために行われる。残留溶媒による影響や層内にクラックが発生するのを抑制する観点で、乾燥および/または硬化の温度は、15℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上150℃以下がより好ましい。また乾燥および/または硬化の時間は、5分以上24時間以下が好ましく、15分以上5時間以下がより好ましい。
前述したように、製造が容易で安定性が比較的高いという点で、多孔質層20の形成に用いる塗工液には、酸化ケイ素粒子が分散されているのが好ましい。以下、多孔質層20を形成する塗工液として、酸化ケイ素粒子を分散させた液を用いて形成する場合を詳細に説明する。以下は、第1の粒子24を含む塗工液と第2の粒子25を含む塗工液の両方について説明するものである。
多孔質層20の形成に用いる塗工液は、酸化ケイ素粒子が分散した液、バインダー成分を含むバインダー溶液、溶媒などを混合して調整することができる。
酸化ケイ素粒子が分散した液体は、水熱合成法などの湿式法で作製した球状や鎖状の酸化ケイ素粒子の分散液に、水や溶媒を添加して希釈する方法で調整することができる。あるいは、同様に湿式法で作成された酸化ケイ素粒子の分散液の溶媒を蒸留や限外濾過で所望の溶媒に置換する方法、フュームドシリカなど乾式法で合成した酸化ケイ素粒子を超音波やビーズミルなどで水や溶媒に分散する方法、等で調製することができる。鎖状の酸化ケイ素粒子を用いる場合、鎖状以外に、真円状、楕円上、円盤状、棒状、針状、角型などの形状の粒子を適宜混合して使用しても良い。粒子全体に対して鎖状以外の形状の粒子を混合できる割合は、基材や積層する膜との屈折率を考慮して適宜決めることが可能である。
酸化ケイ素粒子同士を結合させるために加えるバインダーとしては、酸化ケイ素化合物が好ましい。酸化ケイ素化合物の好適な例は、ケイ酸エステルを加水分解・縮合することにより得られる酸化ケイ素オリゴマーである。
塗工液における酸化ケイ素化合物の添加量は、耐擦傷性と防曇性の観点から、酸化ケイ素粒子に対して1質量%以上30質量%以下が好ましく、4質量%以上20質量%以下がより好ましい。
酸化ケイ素粒子の分散液に酸化ケイ素オリゴマーを添加する方法は、いくつか考え得る。例えば、予め水や溶媒中で調製した酸化ケイ素オリゴマー溶液を酸化ケイ素粒子の分散液に混ぜる方法や、酸化ケイ素オリゴマーの原料を酸化ケイ素粒子分散液に混ぜてから酸化ケイ素オリゴマーに転換する方法が挙げられる。
酸化ケイ素オリゴマーは、溶媒中または分散液中で、ケイ酸メチル、ケイ酸エチルなどのケイ酸エステルに水や酸または塩基を加えて加水分解および縮合させることによって調製することができる。ケイ酸エステルに添加する酸としては、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸などを用いることができる。塩基としては、アンモニアや各種アミン類の中から、溶媒への溶解性やケイ酸エステルの反応性を考慮して選択するとよい。バインダー溶液を調製する際には、80℃以下の温度で加熱することも可能である。
バインダー溶液に含まれる酸化ケイ素縮合物の重量平均分子量としては、ポリスチレン換算で500以上3000以下が好ましい。重量平均分子量が500未満であると、硬化後のクラックが入りやすく、また塗液としての安定性が低下する。また、重量平均分子量が3000を超えると粘度が上昇するためバインダー内部のボイドが不均一になりやすくなるため大きなボイドが発生しやすくなる。
酸化ケイ素粒子同士を化学的に結合させる場合は、活性を高めたシラノール基を介して酸化ケイ素粒子同士を結着させる方法を用いることができる。具体的には、酸化ケイ素粒子の表面を強酸などで処理する方法や酸化ケイ素粒子の表面にシラノール基を付着させる方法が挙げられる。
酸化ケイ素粒子の分散液に用いることができる溶媒は、原料が均一に溶解し、かつ反応物が析出しない溶媒であれば良い。前述した、1価のアルコール類、2価以上のアルコール類、エーテルアルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、非プロトン性極性溶媒等を用いることができる。さらに、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類や、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類、あるいは、クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類を用いることもできる。また、これらの中から選択した2種類以上の溶媒を混ぜて使用することもできる。
[第二実施形態]
表面反射防止層30を備える部材を機器に組み込んで用いる場合など、用途によっては表面反射防止層30の金属酸化膜が大気に曝され、層の表面にシロキサン系の有機物が付着して水の接触角が高くなることがある。表面反射防止層30の表面における水の接触角が高くなると、部材で保持可能な水分量を超える水分が表面に存在する場合に、部材の表面で水滴を形成し、曇りの原因になる。
そこで、本実施例では、図5に示すように、部材の空気と接する面(反射防止層40の表面)に親水ポリマー層50を設け、部材表面の水に対する接触角の上昇を抑制する。
(親水性ポリマー層)
親水性ポリマー層50には、親水性の官能基を含む化合物であれば、特に限定されることなく用いることができるが、中でも両性イオンの親水基を有するポリマーが特に好ましい。両性イオンの親水基の存在により、表面の親水性がより高まるとともに電気抵抗が低くなるため、汚染物が帯電付着しにくくなる。その結果、長期にわたって高い親水性を維持することが可能となる。光学部材の表面に親水性ポリマー層が存在することにより、光学部材で保持できなかった水分は、光学部材の表面で水滴にならず水膜となるため、曇りの発生を抑制することができる。
両性イオン親水基としては、スルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホルコリン基、スルホン基、ホスホネート基、カルボン酸無水物の群から選択されるいずれか一種類を好適に用いることができる。また、両性イオンの親水基を有するポリマーの有機骨格は、特に限定されるものではない。
親水性ポリマー層50と表面反射防止層30との密着性を高めるためには、親水性ポリマー層50に接する表面反射防止層30の化学組成を選択することが好ましい。例えば、親水性ポリマー層50を形成するための溶液に含まれるシランカップリング剤のシラノール基と反応させるためには、表面反射防止層30の親水層を形成する面に酸化ケイ素を用いることが好ましい。
一般に、多層膜の反射防止性能を高めるためには、空気に接する層の屈折率を低くすることが好ましい。しかしながら、親水性ポリマー層50の形成に用いられる化合物は、シランカップリング剤や親水性ポリマーが一般的であり、屈折率が1.4を超える化合物が多い。そこで、表面反射防止層30の反射防止性能に影響を与えずに、シロキサン系の有機物が表面に付着するのを抑制して親水性を維持するため、親水性ポリマー層50の層厚を1nm以上20nm以下とすることが好ましい。
このような層厚の親水性ポリマー層であれば、反射防止層の各層の屈折率や膜厚を設計することで、親水層を形成しても高い反射防止性能を実現することが可能である。
親水性ポリマー層の層厚は、X線光電子分光装置を用いて、次の手法によって計測することができる。部材の表面にX線ビームを照射し、検出される光電子ピークの強度から、親水性ポリマー由来の元素濃度を測定する。親水性ポリマー由来の元素は、例えば親水性ポリマーの親水基がスルホベタイン基であれば硫黄を、ホスホルコリン基であればリンを、カルボベタイン基であれば窒素を用いて測定することができる。続いて、部材の表面の任意の所定領域に、イオンビームで一定時間エッチングした後、エッチングした領域内にX線ビームを照射し、親水性ポリマー由来の元素濃度を測定する。親水性ポリマー由来の元素濃度を測定とエッチングのセットを複数回繰り返し、表面からの溝の深さDを物理的に測定する。エッチング回数と溝の深さDとから、1回のエッチング工程で親水性ポリマー層50がエッチングされる層厚を算出できる。
1回のエッチング工程でエッチングされる層厚を算出したエッチング条件で、光学素子の表面に形成された親水性ポリマー層50に対して、親水性ポリマー由来の元素が検出できなくなるまで、エッチングと親水性ポリマー由来の元素濃度測定を繰り返し行う。親水性ポリマー由来の元素の検出強度が消失した時点のエッチング回数に、1回のエッチング工程でエッチングされる層厚を乗じた値を、本発明では親水性ポリマー層50の層厚とする。
親水性ポリマー層50は、親水性を有する官能基を含む化合物を含む溶液を、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スリットコート法、印刷法やディップコート法などの方法で前記反射防止層の上に供給し、硬化して形成することができでる。
親水性を有する官能基を含む化合物は、両性イオンの親水基を有するポリマーが特に好ましい。親水性ポリマーが有する好ましい主鎖構造としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、等を用いることができる。
親水性ポリマーの溶液の溶媒には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステル類などの中から、用いる親水性ポリマーとの相溶性の高い溶媒を選択して用いることが好ましい。
[第三実施形態]
図6は、本発明にかかる撮像装置の好適な実施形態の一例であり、本発明の光学機器の一例であるレンズ鏡筒(交換レンズ)が結合された一眼レフデジタルカメラの構成を示している。
本発明の光学機器とは、双眼鏡、顕微鏡、半導体露光装置、交換レンズ等、透明基材の上に多孔質層を形成した、本発明にかかる部材を含む光学系を備える機器のことをいう。あるいは本発明の部材を通過した光によって画像を生成する機器のことをいう。
また、本発明の撮像装置とは、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等のカメラシステムや、携帯電話機等の本発明の部材を通過した光を受光する撮像素子を備える電子機器のことをいう。なお、電子機器に搭載されるモジュール状の形態、例えばカメラモジュールを撮像装置とする場合もある。
図6において、カメラ本体320と光学機器であるレンズ鏡筒310とが結合されているが、レンズ鏡筒310はカメラ本体320対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
被写体からの光は、レンズ鏡筒310の筐体311内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ312、313などからなる光学系を通過し、撮像素子に受光される。本発明にかかる部材は、筐体内の、例えば最も曇りが生じやすいレンズ312に用いることが好ましいが、光学系を構成するレンズのいずれに用いてもよい。
ここで、レンズ313は内筒314によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒311の外筒に対して可動支持されている。
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体321内の主ミラー322により反射され、プリズム323を透過後、ファインダレンズ324を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー322は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー325によりAF(オートフォーカス)ユニット326の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー322は主ミラーホルダ327に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー322とサブミラー325を光路外に移動させ、シャッタ328を開き、撮像素子329にレンズ鏡筒310から入射した撮影光像を結像させる。また、絞り315は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
図6のように、本発明にかかる部材を用いることで、外部環境の変化によって光学系に曇りが発生するのを抑制することができ、明瞭な像を得ることができる。
以下、本発明にかかる実施例および比較例を説明する。ただし、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
(1)多孔質層の第1の領域を形成するための酸化ケイ素粒子分散液1の調製
球状の酸化ケイ素粒子の1-メトキシ-2-プロパノール(以下、PGME)分散液(日産化学工業株式会社製 PGM-ST、平均粒径12nm・固形分濃度30質量%、)370gに1-エトキシ-2-プロパノールを加えて、固形分濃度5.5質量%の球状酸化ケイ素粒子の1-エトキシ-2-プロパノール分散液2018.2gを調製した。
別の容器に、ケイ酸エチル62.6gと1-エトキシ-2-プロパノール36.8gの溶液に、0.01mol/lの希塩酸54gをゆっくり加えて室温で90分間攪拌した後、40℃で1時間加熱して固形分濃度11.8質量%酸化ケイ素オリゴマー溶液を調製した。
得られた球状酸化ケイ素粒子の1-エトキシ-2-プロパノール分散液に、酸化ケイ素バインダー溶液94.1gをゆっくり加えてから室温で2時間攪拌して酸化ケイ素粒子塗工液1を調製した。
塗工液を動的光散乱法による粒度分布測定(マルバーン社製 ゼータサイザーナノZS)により、平均粒子径が15nmの球状の酸化ケイ素粒子が分散していることを確認した。
(2)多孔質層の第3の領域を形成するための酸化ケイ素粒子分散液2の調製
鎖状の酸化ケイ素粒子の2-プロパノール(IPA)分散液(日産化学工業株式会社製 IPA-ST-UP、平均粒径12nm・固形分濃度15質量%)500gに1-プロポキシ-2-プロパノールを加えながらIPAを留去して、固形分濃度17.3質量%の鎖状酸化ケイ素粒子の1-プロポキシ-2-プロパノール分散液433.3gを調製した。
別の容器に、ケイ酸エチル62.6gと1-プロポキシ-2プロパノール36.8gの溶液に、0.01mol/lの希塩酸54gをゆっくり加えて室温で90分間攪拌した。その後、40℃で1時間加熱して、固形分濃度11.8質量%酸化ケイ素オリゴマー溶液を調製した。
前記鎖状酸化ケイ素粒子の1-プロポキシ-2-プロパノール分散液に、前記酸化ケイ素オリゴマー溶液25.4gをゆっくり加えてから室温で2時間攪拌して酸化ケイ素粒子塗工液2を調製した。
塗工液を動的光散乱法による粒度分布測定(マルバーン社製 ゼータサイザーナノZS)により、単径が11nm、長径が77nmの鎖状酸化ケイ素粒子が分散していることを確認した。
(3)膜厚と空孔の測定
基板に形成した反射防止層にカーボン膜及びPt-Pd膜をコート後、電子ビーム加工装置(FIB-SEM;FEI製Nova600)装置内で薄片化し、走査型透過電子顕微鏡(STEM;日立製S-5500)観察を実施した。得られた二次電子画像から各層の膜厚を測定した。第2の領域の有無は得られた二次電子画像の二値化を行い、空孔量を基板側から表面側に向かって空孔が占める部分の面積を算出することで空孔率の変化を求めることで判別できる。
(4)屈折率の計測
波長380nmから800nmまでの範囲について分光エリプソメータで入射光と反射光の偏光状態の変化を測定し、屈折率を算出した。屈折率の代表値としてndを示す。屈折率の算出には、(3)で計測した膜厚を用いた。
(5)防曇性評価
防曇性評価装置(共和界面科学株式会社製 AFA-2)を用いて、25℃に保持した透明基板を15℃まで冷却しながら25℃で70%RHの雰囲気に放置し、透過像を1秒毎に300秒まで記録した。透過像から圧縮防曇指数解析を行い、圧縮防曇指数の時間変化プロットした。
得られたプロットから圧縮防曇指数が初期値から低下し始めるまでの時間を読み取り、以下の基準で防曇性を評価した。圧縮防曇指数が初期値から低下し始めるまでの時間が長いほど、防曇性に優れる。多孔質層が成膜されていない40mm角、厚さ3mmの平板ガラス(株式会社オハラ製S-BSL7、nd=1.52)は68秒で曇り始める。
(6)反射率評価
反射率測定機(オリンパス株式会社製 USPM-RU)を用いて波長380nmから780nmの絶対反射率を測定し、波長400~700nmの反射率の平均値(平均反射率)を求め、以下の基準で判定を行った。吸水前後の平均反射率が小さいほど反射性能に優れる。
(実施例1)
40mm角、厚さ3mmの平板ガラス(株式会社オハラ製S-BSL7、nd=1.52)の上に、酸化ケイ素粒子分散液1を適量滴下し、4000rpmで12秒スピンコートして塗膜を形成した。そして、酸化ケイ素粒子分散液1からなる塗膜が乾燥する前に、続けて酸化ケイ素粒子分散液2を適量滴下し、1500rpmで30秒スピンコートして塗膜を形成した。その後、熱風循環オーブンを用いて140℃で30分間加熱し、塗膜を硬化させることで多孔質層を有する部材を作製した。
(実施例2)
酸化ケイ素粒子分散液1を適量滴下し、4000rpmで16秒スピンコートする以外は実施例1と同様にして多孔質層を有する部材を得た。
(実施例3)
以下の手順で多孔質層を形成する塗工液を塗布した点を除き、実施例1と同様にして多孔質層を有する部材を作製した。
酸化ケイ素粒子分散液1を適量滴下し、5000rpmで20秒スピンコートした。続けて、酸化ケイ素粒子分散液1と酸化ケイ素粒子分散液2を10:1で混合した液体を適量滴下し5000rpmで10秒スピンコートし酸化ケイ素粒子分散液2を適量滴下し、1500rpmで30秒スピンコートした。
(実施例4)
多孔質層を形成した後、反射防止性能を考慮した設計に基づいて、酸化ケイ素を含む層と酸化チタンを含む層とフッ化マグネシウムを含む層との組み合わせからなる表面反射防止層を成膜する以外は、実施例1と同様にして多孔質層を形成して部材を得た。
表面反射防止層を成膜する際には、所望の屈折率が得られるように、基材の温度、到達真空圧力、各層の成膜時の圧力を調整した。また、各層の成膜には、酸化ケイ素のペレット(キヤノンオプトロン株式会社製SiO2E型式)、酸化チタンを含むペレット(日亜化学工業株式会社製)、フッ化マグネシウムのペレット(稀産金属株式会社製MgF
2)を用いた。表面反射防止層の各層の屈折率および膜厚を表1に示す。
(比較例1)
40mm角、厚さ3mmの平板ガラス(株式会社オハラ製S-BSL7、nd=1.52)の上に、下地膜としてフッ化マグネシウムを蒸着法にて成膜した後、酸化ケイ素粒子分散液2を適量滴下し、1500rpmで30秒スピンコートした。その後、熱風循環オーブンを用いて140℃で30分間加熱し、硬化させることにより多孔質層を有する部材を作製した。フッ化マグネシウムの下地膜は、基材と多孔質層との屈折率差を低減して、反射を低減するために設ける層である。
(比較例2)
多孔質層を形成した後に、続けて表面反射防止膜を形成する以外は、比較例1と同様にして多孔質層を有する部材を作製した。表面反射防止膜は、実施例4と同様に、表1に示す多層からなる蒸着膜とした。
(実施例1~3及び比較例1~2の評価)
実施例1~4で作製した部材の構成と評価結果を表2、比較例1、2で作製した部材の構成と評価結果を表3にまとめて示す。
防曇性評価において、比較例1、2で作製した部材が102[sec]で曇ってしまうのに対して、実施例1~4の部材は110[sec]未満以下で曇ることはなく、防曇性に優れていることが確認された。ガラス基材は、防曇性評価において68秒で曇りを生じることから、防曇性を有していることがわかる。
実施例1~3と比較例1との結果から、反射防止のために下地層を設ける比較例1の構成は、本発明に係る実施例1~3の構成に比べて、吸水により平均反射率が高くなってしまうことがわかる。実施例1と比較例1の部材それぞれについて、吸水前後に測定した反射特性を図7、8示す。実施例1の吸水前後の平均反射率差は1.53%であり、比較例1の吸水前後の平均反射率差は1.65%であり、実施例1の方が反射防止特性に優れていた。
実施例4と比較例2の部材は、いずれも多孔質層の上に表面反射防止層を形成したものである。いずれも、反射防止層と組み合わせることで反射防止特性が高まることが確認された。しかし、吸水前の平均反射率が、実施例4と比較例2で同等であったにもかかわらず、吸水後には平均屈折率に大きな差ができ、実施例4の方が反射防止特性に優れることが確認された。実施例4の吸水前後の平均反射率差は0.73%、比較例2の吸水前後の平均反射率差は1.03%であった。
以上の結果から、本発明にかかる部材は、吸湿前後における防曇性および反射防止に優れることが確認された。