JP7649100B2 - アンモニアの生産方法 - Google Patents

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Description

本発明は、広く、アンモニアを生産する方法等に関する。
アンモニアは、農作物の窒素系肥料や食品等の原料として幅広く利用されており、農作物や食品の増産に寄与し、今日の人口増加を支え続けてきた。アンモニアの大半は、ハーバー・ボッシュ法によって工業的に生産されているが、この工程には高温、高圧という条件が必要で大量のエネルギーを要する等、環境負荷の大きさに問題がある。ハーバー・ボッシュ法に頼らないアンモニア製造法も検討されており、例えば、土壌細菌等の窒素固定細菌を用いたアンモニア生産法が提案されている。しかしながら、当該方法には窒素固定細菌によるアンモニアの生産速度や用いられる細菌の安全性の課題があった。
一方で、エネルギー問題や地球環境問題が深刻化している今日、再生可能性やカーボンニュートラルの観点からバイオマスが注目されてきた。
バイオマス中の代表的成分は、糖質、タンパク質等である。デンプン系や木質系等の糖質系バイオマスは、バイオエタノール製造に利用されているものの、食品廃棄物等のタンパク質が豊富なバイオマスは、バイオエタノール製造の原料としては不向きであり、ほとんどが利用されていない。
特開2010-046026号公報 特許第4615126号公報
本発明者は、バイオマスのタンパク質を含有する材料を、ソースとして効率的に利用することが可能であれば有用であるとの考えのもと、研究を行った。
グルタミナーゼは、グルタミンと水を基質に、1分子のグルタミンから、アンモニアとグルタミン酸を1分子ずつ作りだす酵素である。グルタミナーゼにより生成するグルタミン酸はうま味成分であり、食品製造において重要な物質の一つである。
グルタミナーゼを菌体内に発現する場合には、その菌体培養液や破砕液からグルタミナーゼを分離、精製するが、通常、菌体内の他の酵素、例えばグルタミン酸デヒドロゲナーゼ等の酵素も含まれることがあるので、菌体内発現のグルタミナーゼを使ってアンモニアを生産する場合、生成されたアンモニアが菌体内の他の酵素によって速やかに他のアミノ酸へと変換されてしまう。特に、酵母はこのような窒素同化能力が高いため、高濃度のアンモニアを得ることは困難であった。
また、本発明者らによるバイオマスからのアンモニア生産法の研究において、バイオマス中に高濃度に含まれているグルコースが、アンモニア生産反応を阻害していることが明らかとなった。
上記事情に鑑みて、本発明は、環境負荷が低い、新規なアンモニア生産法を提供することを目的とする。
本発明者らは、タンパク質が豊富なバイオマス等のタンパク質含有材料の原料に対し、アンモニアの生産に関連する遺伝子を改変した微生物を加えることにより、上記課題を達成することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1]アンモニアを生産する方法であって、
タンパク質含有材料と、遺伝子組換え微生物とを接触させる工程を含む、方法。
[2]前記タンパク質含有材料は、バイオマスである、[1]に記載の方法。
[3]前記バイオマスは、食品又はその廃棄物を含む、[2]に記載の方法。
[4]前記食品又はその廃棄物は、大豆、その加工物又は残渣を含む、[3]に記載の方法。
[5]前記加工物又は残渣は、分解物を含む、[4]に記載の方法。
[6]前記分解物は、しょうゆ麹を含む、[5]に記載の方法。
[7]前記分解物は、大豆タンパク質又はそのペプチドを含む、[5]に記載の方法。
[8]前記遺伝子組換え微生物は、その細胞表層にグルタミナーゼを提示するよう遺伝子組換えがされている、[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記微生物は、酵母、大腸菌又は乳酸菌を含む、[8]に記載の方法。
[10]前記酵母の細胞表層に提示しているグルタミナーゼは、酸耐性である、[9]に記載の方法。
[11]前記グルタミナーゼは、麹菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)又はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)に由来する、[8]から[10]のいずれかに記載の方法。
[12]前記麹菌は、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)を含む、[11]に記載の方法。
[13]前記酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ジゴサッカロマイセス・ロキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)又はカンジダ・ユチリス(Candida utilis)を含む、[9]から[12]のいずれかに記載の方法。
[14]グルタミン酸が更に生産される、[1]から[13]のいずれかに記載の方法。
[15]前記遺伝子組換え微生物は、glnA及び/又はptsG遺伝子の破壊株である、[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
[16]前記微生物は、DgsA及び/又はkivD遺伝子を発現する、[15]に記載の方法。
[17]前記微生物は、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)又はエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)を含む、[15]又は[16]に記載の方法。
[18]前記接触工程は、5mM以上の濃度のグルコースの存在下で実施される、[15]から[17]のいずれかに記載の方法。
[19]アンモニアを原料とする製品を製造する方法であって、[1]~[18]のいずれかに記載の方法を用いてアンモニアを生産する工程を含む、方法。
[20]前記製品は、酵母エキス原料又は農産物の肥料である、[19]に記載の製品。
[21]グルタミン酸を生産する方法であって、
タンパク質含有材料と、細胞表層にグルタミナーゼを提示するように遺伝子が組換えられた微生物とを接触させて、グルタミン酸を生成する工程を含む、方法。
[22]グルタミン酸は、食品の製造に使用される、[21]に記載の方法。
[23]前記食品は、しょうゆである、[22]に記載の方法。
[24]食品におけるグルタミン酸を増強する方法であって、
タンパク質含有材料と、細胞表層にグルタミナーゼを提示するように遺伝子が組換えられた微生物とを接触させて、グルタミン酸を生成する工程を含む、方法。
[25]前記食品は、しょうゆである、[24]に記載の方法。
[26]前記タンパク質含有材料は、バイオマスである、[24]または[25]に記載の方法。
[27]前記バイオマスは、大豆又はその加工物を含む、[26]に記載の方法。
[28]前記加工物は、しょうゆ麹を含む、[27]に記載の方法。
[29]前記加工物は、大豆タンパク質又はそのペプチドを含む、[27]に記載の方法。
[30]前記グルタミナーゼは、麹菌に由来する、[24]から[29]のいずれかに記載の方法。
[31]前記麹菌は、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)である、[30]に記載の方法。
[32]前記微生物は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ジゴサッカロマイセス・ロキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)及びカンジダ・ユチリス(Candida utilis)から選択された酵母である、[24]から[31]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、タンパク質の豊富なバイオマス等のタンパク質含有材料を原料とするため、環境に優しいアンモニア生産法を提供することができる。
また、本発明によれば、細胞表層にグルタミナーゼを提示する表層提示菌体を生体触媒として用いることで、生産されたアンモニアの窒素同化を防ぐことができ、ひいては効率的にアンモニアを生産することが可能になる。グルタミナーゼは、細胞表層に配置されることで、酸耐性が向上するという利点もある。
グルタミナーゼを提示する表層提示菌体の使用により、アンモニアの生産のみならず、グルタミン酸を同時に生産することもできる。
さらに、本発明によれば、グルコーストランスポーターやグルタミン合成酵素破壊菌株を用いることで、バイオマス中にグルコースが含まれていても、効率的にアンモニアを生産することができる。
図1-1~図1-4は、pULD1の塩基配列を示す。 図1-1~図1-4は、pULD1の塩基配列を示す。 図1-1~図1-4は、pULD1の塩基配列を示す。 図1-1~図1-4は、pULD1の塩基配列を示す。 図2は、実施例1におけるpULD1-Glutaminase組換え株とpULD1組換え株のアンモニア生産性の評価を示す。 図3は、実施例2におけるpULD1-Glutaminase組換え株とpULD1組換え株のアンモニア生産性の評価を示す。 図4は、実施例3におけるDH10B株、ΔglnA株、ΔptsG株、及びΔglnAΔptsG株のアンモニア生産性の評価を示す。 図5は、実施例4におけるDH10B株、ΔglnA株、ΔglnAΔptsG株のアンモニア生産性の評価を示す。 図6は、実施例5におけるpULD1-Glutaminase組換え株のグルタミン酸生産性の評価を示す。 図7は、実施例6におけるpULD1-Glutaminase組換え株のアンモニアとグルタミン酸生産性の評価を示す。
(タンパク質含有材料)
本明細書で使用する場合、「タンパク質含有材料」とは、タンパク質を含有する材料を意味し、肉類、魚介類、卵類等の動物由来のタンパク質を含有する材料や、穀物類、野菜類等の植物由来のタンパク質を含有する材料のみならず、微生物由来のタンパク質を含有する材料を含む、あらゆる生物由来のタンパク質を含有する材料を意味する。限定することを意図するものではないが、そのような材料の例として、バイオマス、例えば、食品を製造する際、特に加工時に生成する廃棄物等が挙げられる。バイオマスは、タンパク質に加え、デンプン等の糖質系の成分を含んでもよい。
本明細書で使用する場合、「タンパク質」は上述のような生物由来のタンパク質を意味するが、その分解産物であるオリゴペプチド、ペプチド、アミノ酸を含んでもよい。
(バイオマス)
本明細書で使用する場合、「バイオマス」とは、広く、再生可能な、生物由来の有機性資源で、化石資源を除いたものを意味する。このような有機性資源の中でも、タンパク質、アミノ酸、尿素、尿酸等の含窒素化合物を含有する材料は分解を経てアンモニアを生成するため好ましい。窒素含有化合物を含むバイオマスとして、飲食品又はその廃棄物等が挙げられる。バイオマスの種類に応じて飲食品と廃棄物の範囲は互いに変動し得る。生物が大豆である場合を例に説明すると、大豆そのものや、豆乳のような加工物は飲食品に含まれると考えられるが、その残渣である大豆粕は廃棄されて飼料等にされる場合もあれば、おからとして食用にされる場合もあり、食品と廃棄物は明確に区別できない。そのため、本明細書で使用する場合のバイオマスには廃棄物のみならず飲食品も含まれ得る。
食品やその廃棄物には、微生物により発酵した状態のものや加水分解等で分解された状態のものも含まれる。大豆を例に説明すると、発酵物の例としてしょうゆ麹があり、分解物として、大豆タンパク質やそのペプチド等がある。
(遺伝子組換え微生物)
本明細書で使用する場合、「遺伝子組換え微生物」とは、菌体外でアンモニアを生産できるよう形質転換されている微生物、好ましくは、細胞表層にグルタミナーゼを提示するよう形質転換されている微生物(以下、「グルタミナーゼ表層提示」微生物ともいう)や、アンモニアの生産に悪影響を及ぼす遺伝子が破壊されている微生物を意味する。このような微生物として酵母、大腸菌、乳酸菌が挙げられる。アンモニアを生産できる限り、微生物は同じか異なる種のもののうち、1又は複数の株を同時に使用することもできる。
微生物の種類は、アンモニアの生産効率や、アンモニアの最終目的物の用途に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、最終製品が医薬、食品、化粧品のように人体に適用され得るものである場合、微生物は人体に有害ではないものが好ましい。
限定することを意図するものではないが、飲食品に使用可能な酵母の例として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ジゴサッカロマイセス・ロキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)等が挙げられる。これらの酵母は、細胞表層にグルタミナーゼを提示するよう形質転換する場合にも好適に使用することができる。
グルタミナーゼは、過酷な条件下でもアンモニアの生産効率が高い特性を有するものが好ましい。そのようなグルタミナーゼとして、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)やアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等の麹菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)に由来するグルタミナーゼが挙げられる。アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のグルタミナーゼをコードする遺伝子(配列番号8-10)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)由来のグルタミナーゼをコードする遺伝子(配列番号11)を以下の表1に記載する。
アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)は表1の遺伝子のオルソログを有する。
グルタミナーゼ遺伝子を用いた遺伝子組換えは常法により行うことができる。例えば、バクテリオファージ、コスミド、又は原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターにグルタミナーゼ遺伝子を組み込むことで、各々のベクターに対応する宿主細胞がその細胞表層にグルタミナーゼを提示するよう形質転換される。細胞表層に提示されたグルタミナーゼにより、アンモニアは菌体外で生産されるため、菌体内に取り込まれない限り窒素同化されず、効率的な生産が可能になる。
限定することを意図するものではないが、飲食品に使用可能なその他の微生物の例として、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)等が挙げられる。これらの微生物は、アンモニアの生産に悪影響を及ぼす遺伝子、例えばグルタミン合成酵素をコードする遺伝子やホスホトランスフェラーゼシステム(PTS)を構成するタンパク質をコードする遺伝子を破壊した株を作成する場合にも好適に使用することができる。グルタミン合成酵素をコードする遺伝子としてglnAがある。また、PTSを構成するタンパク質をコードする遺伝子として、enzyme II(EII)のドメインA、B、CをコードするptsG遺伝子がある。これらの遺伝子を破壊することで、バイオマスにグルコースが含まれていても、効率的にアンモニアを生産することが可能になる。
上記遺伝子の破壊は、対象の遺伝子の一部又は全部を破壊すること、例えばglnA遺伝子の一部又は全部を欠失させたり、glnA遺伝子の途中に薬剤耐性遺伝子等、別の遺伝子を挿入する等して正常に機能しないように遺伝子を修飾すること等を意味する。
微生物は更に、アンモニアの生産効率増大に関与する遺伝子が発現するよう、別の遺伝子で更に形質転換されていてもよいし、その生産効率低下に関与する遺伝子が破壊するような変異が導入されていてもよい。アンモニアの生産効率増大に関与する遺伝子として、グルコースカタボライト抑制に関与する転写因子であるDgsAや、アミノ酸脱炭酸酵素であるkivd等がある。
(アンモニア生産方法)
タンパク質含有材料と遺伝子組換え微生物との接触工程は、遺伝子組換え微生物がアンモニアを生産するのに必要な条件のもと行われる。その条件は使用する微生物の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。
バイオマス中にグルコースが含まれている場合、その濃度が増大するにつれてアンモニアの生産が阻害されてしまうが、ptsG遺伝子とglnA遺伝子を破壊することで生産効率の低下を防ぐことができる。そのため、上記接触工程は、高濃度、例えば5mM以上、好ましくは10mM以上、より好ましくは50mM以上のグルコースの存在下でも実施可能である。
(アンモニアの用途)
生産されたアンモニアは種々の用途、例えば、酵母エキス等の飲食品、硝酸等の基礎化学品、硫安等の窒素肥料等の原料に好適に使用される。
(グルタミン酸の生産)
グルタミナーゼ表層提示微生物を使用した場合、菌体外において更にグルタミン酸を生産することができる。
(グルタミン酸の用途)
グルタミン酸は、しょうゆ、うま味調味料の原料として好適に使用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例で使用したプライマーの配列情報について表2に記載する。
(グルタミナーゼ表層提示酵母の作製)
[グルタミナーゼ発現用プラスミドの作製]
細胞表層提示型グルタミナーゼの発現には、国際公開第2010/101158号に開示の方法に従って作製したプラスミドpULD1を使用し、選択マーカーとしてURA3マーカーを使用した。pULD1の塩基配列(配列番号7)は図1-1~1-4に示す。
まず、大腸菌(Eschrichia coli)DH5α株(タカラバイオ社)のDNAを鋳型に、一対のプライマーpULD1-Glutaminase_Fw(配列番号1)及びpULD1-Glutaminase_Rv(配列番号2)を用いたPCRにより、グルタミナーゼ遺伝子(YbaS)のDNA断片(配列番号11)を増幅した。得られたDNA断片とpULD1は、制限酵素XhoIとBglII(TOYOBO社)で処理し、それらを連結することでプラスミドpULD1-Glutaminaseを作成した。
[形質転換]
Frozen-EZ Yeast Transformation II(登録商標)キット(Zymo Research社製)を使用して、プラスミドpULD1-GlutaminaseとプラスミドpULD1を出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)W303-1a株(National BioResource Project (NBRP))に導入して形質転換を行った。形質転換により得られたコロニーをSC(ウラシル未添加(以下、「-Uracil」ともいう))培地プレートで選択し、pULD1-Glutaminase組換え株とpULD1組換え株を得た。
[グルタミナーゼ表層提示酵母の評価]
本実施例では、グルタミンからアンモニアを得るために必要な表層提示グルタミナーゼの能力を評価した。
200mM MES緩衝液(pH5.5)、120mM又は179mMグルタミンが含まれている反応液に、SC(-Uracil)で一晩培養したpULD1-Glutaminase組換え株とpULD1組換え株を培地のOD600が1となるように加えた。これらを振とう培養機(TAITEC社製BR-23。以下同様)で240rpm、37℃で反応させ、反応後0時間、4時間、8時間、24時間にサンプリングした。
反応液はブロックインキュベーター(アステック社製BI516。以下同様)で80℃、15分加熱処理した。アンモニア濃度はF-キットアンモニア(JKインターナショナル社製)で測定した。
図2に示すように、対照株であるpULD1組換え株では、反応時間中にアンモニアの生産はほとんど見られなかった。一方で、pULD1-Glutaminase組換え株では、顕著なアンモニア濃度増加が観察された。特に120mM グルタミン含有反応液を24時間反応させたとき、反応効率は約109%であった。これは表層提示したグルタミナーゼが効率的にグルタミンからアンモニアを生産したことを示している。上記反応効率は、アンモニア分析値/アンモニア理論上最大値(120mMアンモニア)に基づき算出した。
なお、上述のように反応効率が約109%のように100%を超えた理由としては、酵母菌体内のグルタミン酸が溶出した可能性が考えられる。
(グルタミナーゼ表層提示酵母を用いたバイオマスからのアンモニア生産)
本実施例では、バイオマスとしておから粕を使用した、グルタミナーゼ表層提示酵母によるアンモニア生産の検討を行った。
まず、10gのおからをミキサー(Iwatani社製IFM-700G)で粉砕し、これに70gの50mM MES緩衝液(pH5.5)を加えた。さらに、プロチンSD-AY10(アマノエンザイム社製)とプロテアックス(アマノエンザイム社製)を1.5g加え、振とう培養機で55℃、200rpm、48時間反応させた。このおからの分解液を定性ろ紙No.2(ADVANTEC社製。以下同様)を用いてろ過した。このろ液に対し、SC(-Uracil)培地で一晩培養したpULD1-Glutaminase組換え株とpULD1組換え株を培地のOD600が1となるように加えた。これらを振とう培養機で240rpm、37℃で10分間反応させ、ブロックインキュベーターで80℃、15分加熱した後、アンモニア濃度を測定した。
図3に示すように、対照株では、反応前後でアンモニア濃度に大きな変化は見られなかった。一方で、pULD1-Glutaminase組換え株では、10分の反応でアンモニア濃度が2倍以上となった。このことからも、グルタミナーゼ表層提示酵母を用いることで、バイオマスからの効率的なアンモニア生産が可能であることが示された。
(glnA、ptsG破壊大腸菌を用いたバイオマスからのアンモニア生産)
本実施例において、バイオマスにグルコースが含まれていても効率的にアンモニアを生産する細菌細胞の樹立を検討した。
[ΔglnA株とΔptsG株の作製]
大腸菌(Escherichia coli)DH10B株(タカラバイオ社)の遺伝子破壊法は、ワンステップ不活性化方法(One-step inactivation method)という手法によって行った。なお、この手法や使用したプラスミドの詳細は当業者に公知である(例えば、山田 雅巳,Environ. Mutagen Res., 25:87-92(2003);Kirill A. Datsenko and Barry L. Wanner, PNAS, vol.97(12): 6640-6645(2000))を参照のこと)。
まず、ヒートショック法によってプラスミドpKD46を形質転換させたDH10B株をLB培地で37℃一晩培養し、50mLのLB培地(+10mM アラビノース)に2mL植菌した。OD600が0.5になったところで培地を氷冷した。遠心後のペレットを冷水と冷10%グリセロール水溶液で洗浄した後、コンピテントセルとして-80℃で保管した。
glnAとptsG遺伝子を欠損させるために、プラスミドpKD13を鋳型に、プライマーΔglnA_Fw(配列番号3)とΔglnA_Rv(配列番号4)の組み合わせ、プライマーΔptsG_Fw(配列番号5)とΔptsG_Rv(配列番号6)の組み合わせでPCRを行った。得られたPCR産物はGene PluserII(登録商標)エレクトロポーレーター(Biorad社製)を用いて、600Ω、1.35kV、10μFの条件で、上記コンピテントセルに形質転換させた。
その後形質転換した株をSOC培地で一晩静置培養し、さらに翌日LB培地(+カナマイシン)で培養を行うことで、相同組換えが生じてカナマイシン耐性遺伝子が挿入されたΔglnA株とΔptsG株がそれぞれ得られた。得られた株はさらに37℃で培養しpKD46を欠落させた。
[ΔptsGΔglnA株の作製]
作製したΔptsG株をLB培地(+カナマイシン)で37℃一晩前培養し、50mLのLB培地(+カナマイシン)に2mL植菌した。OD600が0.5になったところで培地を氷冷した。遠心後のペレットを冷水と冷10%グリセロール水溶液で洗浄した後、コンピテントセルとして-80℃で保管した。
このコンピテントセルにプラスミドpCP20を形質転換させるために、Gene Pulser IIエレクトロポーレーターを用いて、600Ω、1.35kV、10μFの条件で形質転換させた。得られたコロニーは30℃で一晩培養し、さらに37℃で継代培養し、pCP20を欠落させた。
このΔptsG株について、ΔglnA株を作製する方法と同じ手順で行い、ΔglnAΔptsG株を作製した。
[遺伝子破壊株のアンモニア生産性の評価]
実施例2で作製したおからの分解ろ液に、DH10B株、ΔglnA株、ΔptsG株、及びΔglnAΔptsG株を、それぞれ培地のOD600が0.5となるように加え、振とう培養機で37℃、200rpmで26時間反応させた。
反応液は遠心分離した。上清をブロックインキュベーターで80℃、15分加熱した後、アンモニア濃度を測定した。おから分解液中には約70mMのグルコースが含まれていた。
図4に示すように、DH10B株では効率的にアンモニア生産ができなかった。しかし、グルタミン合成酵素をコードするglnAと、グルコースホスホトランスフェラーゼシステムの主要輸送体をコードするptsGを同時に破壊することで、グルコースを高濃度に含んだバイオマスから高効率でアンモニアを生産することが可能であることが示された。
(遺伝子破壊株のアンモニア生産性の評価)
本実施例において、異なる濃度のグルコースの存在下で、実施例3で作製したΔglnAΔptsG株によるアンモニア生産性を検討した。
6g/L リン酸一水素二ナトリウム(ナカライテスク社)、3g/L リン酸二水素一ナトリウム(ナカライテスク社)、0.5g/L塩化ナトリウム(ナカライテスク社)、7.25g/Lイースト抽出物(日本BD社)、0.1mM塩化カルシウム(ナカライテスク社)、1mM硫酸マグネシウム(ナカライテスク社)を混合し、滅菌処理した。このようにして得られた培地にグルコース(ナカライテスク社)を10mM又は50mM加え、培地のOD600が0.5となるように、DH10B株、ΔglnA株又はΔglnAΔptsG株を加え、振とう培養機で37℃、200rpmで26時間反応させた。反応液は遠心分離し、上清をブロックインキュベーターで80℃、15分加熱した後、アンモニア濃度を測定した。
図5に示すように、対照株であるDH10B株では効率的にアンモニア生産ができなかった。しかし、ΔglnAΔptsG株では高濃度のグルコースを加えても効率よくアンモニアを生産することが可能であることが示された。
(表層提示グルタミナーゼを使用したグルタミン酸生産)
本実施例において、実施例1で作製したグルタミナーゼ表層提示酵母によるグルタミン酸生産の検討を行い、食品製造にも応用可能かを検討した。
[しょうゆ麹の作製]
加熱変性した大豆と小麦を等量含む固体培地に、キッコーマン株式会社が保有する麹菌アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)の株の胞子を添加して、25~40℃で72時間製麹することによりしょうゆ麹を得た。
[グルタミン酸生産性の評価]
得られたしょうゆ麹60gに、乳酸0.6mL、水76mLを加え、さらにSC(-Uracil)培地で一晩培養したpULD1-Glutaminase組換え株とpULD1組換え株を培地のOD600が1となるように加えた。また比較用に、グルタミナーゼ SD-C100S(アマノエンザイム社)を50mg加えた。これらを振とう培養機で240rpm、25℃で24時間反応させ、定性ろ紙No.2でろ過した。ろ液はバイオセンサ(王子計測機器社製BF-5D)でグルタミン酸濃度を求めた。
しょうゆ麹中には麹菌由来のグルタミナーゼが豊富に含まれているが、それらは塩や酸によって失活したり、麹菌由来のプロテアーゼによって分解を受ける。図6に示すように、グルタミナーゼ酵素剤を加えた場合でも、グルタミン酸濃度は上昇しなかった。一方でpULD1-Glutaminase組換え株を添加した条件では、グルタミン酸濃度が20%近く上昇した。これは表層提示されたグルタミナーゼが塩酸、各種酵素に対して安定であり、酸耐性に優れることを示し、食品製造におけるグルタミン酸増強にも有用であることを示している。
(大豆タンパク質分解物からのアンモニアとグルタミン酸生産)
本実施例において、実施例1で作製したグルタミナーゼ表層提示酵母を用いて、大豆タンパク質分解物からのアンモニアとグルタミン酸生産を検討した。
大豆ペプチドハイニュートS(アマノエンザイム社製)3gに乳酸60μLと水10mLを加え、SC(-Uracil)培地で一晩培養したpULD1-Glutaminase組換え株を培地のOD600が1となるように加えた。これらを振とう培養機で240rpm、37℃で24時間反応させ、ブロックインキュベーターで80℃、15分加熱した後、グルタミン酸濃度とアンモニア濃度を測定した。
図7に示すように、グルタミナーゼ表層提示酵母は、大豆分解物中のグルタミンと反応し、アンモニアとグルタミン酸を同時に生産していることが示された。

Claims (17)

  1. アンモニアを生産する方法であって、
    タンパク質含有材料と、遺伝子組換え微生物とを接触させる工程を含み、
    前記遺伝子組換え微生物は、その細胞表層にグルタミナーゼを提示するよう遺伝子組換えがされており、
    前記グルタミナーゼは、麹菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)又はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)に由来する、方法。
  2. 前記タンパク質含有材料は、バイオマスである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記バイオマスは、食品又はその廃棄物を含む、請求項2に記載の方法。
  4. 前記食品又はその廃棄物は、大豆、その加工物又は残渣を含む、請求項3に記載の方法。
  5. 前記加工物又は残渣は、分解物を含む、請求項4に記載の方法。
  6. 前記分解物は、しょうゆ麹を含む、請求項5に記載の方法。
  7. 前記分解物は、大豆タンパク質又はそのペプチドを含む、請求項5に記載の方法。
  8. 前記微生物は、酵母、大腸菌又は乳酸菌を含む、請求項1に記載の方法。
  9. 前記酵母の細胞表層に提示しているグルタミナーゼは、酸耐性である、請求項8に記載の方法。
  10. 前記麹菌は、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ジゴサッカロマイセス・ロキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)又はカンジダ・ユチリス(Candida utilis)を含む、請求項8または9のいずれか一項に記載の方法。
  12. グルタミン酸が更に生産される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
  13. アンモニアを生産する方法であって、
    タンパク質含有材料と、遺伝子組換え微生物とを接触させる工程を含み、
    前記遺伝子組換え微生物は、glnA及びptsG遺伝子の破壊株である、方法。
  14. 前記微生物は、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)又はエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)を含む、請求項13に記載の方法。
  15. 前記微生物は、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)であり、前記接触工程は、5mM以上の濃度のグルコースの存在下で実施される、請求項13に記載の方法。
  16. アンモニアを原料とする製品を製造する方法であって、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法を用いてアンモニアを生産する工程を含む、方法。
  17. 前記製品は、酵母エキス原料又は農産物の肥料である、請求項16に記載の方法
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