JP7671987B2 - 繊毛関連疾患モデルおよびその利用 - Google Patents

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Description

本発明は繊毛関連疾患患者由来の人工多能性幹(iPS)細胞から誘導された腎臓オルガノイドから得られる嚢胞形成モデルおよびそれを用いて繊毛関連疾患治療薬をスクリーニングまたは評価する方法に関する。
難治遺伝性疾患である常染色体優性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease; ADPKD)は、腎臓に進行性に多数の嚢胞を形成し、中年期以降に末期腎不全に進行する。ADPKDの原因遺伝子は、85%の症例がPKD1, 15%の症例がPKD2であり、これらの遺伝子を改変した疾患モデルマウスやラットなどの実験動物を用いた研究が行われてきたが、完全な病態解明には至らず、根治的な治療法も開発されていない。
近年、難治性疾患の患者体細胞から樹立したiPS細胞または健常者由来のiPS細胞に原因遺伝子変異を導入した疾患特異的iPS細胞を樹立し、in vitroにおいて罹患細胞種に分化誘導することによって、病態を再現する疾患モデルを作製し、詳しい病態解析や治療薬探索を行う研究が盛んに行われている。しかし、ADPKDの腎嚢胞については、未だ病態解析や治療薬探索に使用可能なiPS細胞を用いた疾患モデルは確立されていない。
Freedmanらのグループは、健常ヒトES細胞株にゲノム編集にてPKD1またはPKD2のホモ欠失変異を導入したADPKD特異的ES細胞株から腎組織を分化誘導して腎嚢胞の再現を試みているが(非特許文献1~4)、腎臓の発生過程を正確に再現しているか否かは不明である。また、フォルスコリン投与では健常コントロールと比べ嚢胞形成に有意差が出ていない。さらに、ADPKD患者由来iPS細胞株(PKD1ヘテロ欠失)では腎組織への分化誘導が安定せず、健常iPS細胞株と比較して明らかな病的形質を認めていない。
WO 2018/216743
Freedman BS. et al., J Am Soc Nephrol 2013 Freedman BS. et al., Nat Commun 2015 Cruz NM. et al., Nat Mater 2017 Czerniecki SM. et al., Cell Stem Cell 2018
本発明は、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)などの繊毛関連疾患の治療薬のスクリーニングや評価に使用可能な嚢胞形成モデルを開発することを課題とする。
発明者らのグループは、特許文献1において、iPS細胞から腎臓オルガノイドを作製する方法を開発した。そして、今回、上記課題を解決するために、ADPKD患者の線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、特許文献1に記載の分化誘導法を用いて作製した腎組織をフォルスコリンやブレビスタチン等の存在下で培養することによって、腎嚢胞モデルを作製することに成功した。そして、このモデルを利用し、嚢胞の形状やカルシウムの動態等を指標とすることで、ADPKDなどの繊毛関連疾患の治療薬候補物質のスクリーニングや評価を効率よく行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]繊毛関連疾患患者由来の体細胞から得られた人工多能性幹(iPS)細胞を分化誘導して得られた腎臓オルガノイドまたはそれに含まれる尿細管細胞(尿細管上皮細胞を含む、以下同様)などの腎構成細胞を、薬剤候補物質と接触させる工程、および当該腎臓オルガノイドまたは尿細管細胞などの腎構成細胞における、カルシウム動態、および/または嚢胞形成を測定する工程、を含む、繊毛関連疾患治療薬のスクリーニングまたは評価方法。
[2]前記体細胞が変異型PKD(Polycystic Kidney Disease)遺伝子を保持する、[1]に記載の方法。
[3]前記体細胞がPKD1遺伝子および/またはPKD2遺伝子に変異を有する繊毛関連疾患患者由来である、[2]に記載の方法。
[4]前記繊毛関連疾患が常染色体優性多発性嚢胞腎である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]嚢胞形成促進物質による刺激により嚢胞形成を誘導したのち、嚢胞形成を測定する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]嚢胞形成促進物質がフォルスコリン、8-Bromo-cAMPまたはブレビスタチンである、[5]に記載の方法。
[7]嚢胞形成の測定が嚢胞のサイズ、数、もしくは真円度の測定である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]mTOR阻害剤またはCFTR阻害剤を陽性コントロールとして使用する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]測定結果を、健常者由来の体細胞から得られたiPS細胞または遺伝子変異修復iPS細胞を分化誘導して得られた腎臓オルガノイドまたはそれに含まれる腎構成細胞のカルシウム動態、および/または嚢胞形成と比較する、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]腎臓オルガノイドが、以下の工程により得られたものである、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
(i)多能性幹細胞を、FGF(線維芽細胞増殖因子)2、BMP(骨形成タンパク質)4、GSK(グリコーゲン合成酵素キナーゼ)-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGF(トランスフォーミング増殖因子)β阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程;
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体、BMP阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程;
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程;および
(vii)工程(vi)で得られた細胞を非接着培養することにより細胞塊を形成させて培養する工程。
[11]繊毛関連疾患患者由来の体細胞から得られたiPS細胞を分化誘導して得られた腎臓オルガノイドを含む繊毛関連疾患モデルであって、嚢胞形成促進物質による刺激により嚢胞形成を生じた、繊毛関連疾患モデル。
本発明により作製される腎嚢胞モデルは、嚢胞形成やカルシウム放出低下など繊毛関連疾患の病態をより生体に近い状態で反映しており、腎嚢胞形成のインビトロモデルとして極めて優れている。本発明の腎嚢胞モデルを使用することで、腎嚢胞形成を抑える治療薬開発をこれまでにない高い精度で行うことができる。また、本発明により作製される病態モデルを用いて、ADPKDなどの繊毛関連疾患の病態解明を行うことができる。
ADPKD患者由来のiPS細胞から分化誘導された腎臓オルガノイド(凝集体形成培養10日目)内の繊毛に対する免疫染色(LTL、ARL13B)結果を示す蛍光顕微鏡写真。 ADPKD患者由来のiPS細胞から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン(10μM)またはブレビスタチン(25μM)存在下で培養し嚢胞形成を誘導した結果を示す図(顕微鏡写真:明視野像)。 ADPKD患者由来のiPS細胞から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養して形成された嚢胞を含む腎臓オルガノイドの免疫染色(PODXL(糸球体マーカー)、LTL(近位尿細管マーカー)、CDH1(遠位尿細管マーカー))の結果を示す蛍光顕微鏡写真。2枚は異なる腎臓オルガノイドの免疫染色画像である。 腎臓オルガノイド(ADPKD患者由来および健常者由来)をフォルスコリン存在下で培養して嚢胞形成を誘導したときの、腎嚢胞の面積比(Cystic Area)と真円度を示すグラフ。それぞれの腎臓オルガノイドにおいて、サイズが上位の一定順位内に入る嚢胞を解析対象とし、横軸は解析に含める嚢胞の個数を示している。 フォルスコリンによる嚢胞形成に対する各種薬剤の効果を評価した結果を示す図(写真)。コントロールはDMSOを使用した。 蛍光標識されたヒトiPS細胞(ADPKD患者由来および健常者由来)から分化誘導された近位尿細管細胞のCa flux測定を示す。t=20で、10μM Thapsigarginを投与し、2秒毎に2分40秒後(t=180)まで撮影した。 健常者(Normal Subject-AおよびB)由来iPS細胞株およびADPKD患者(Patient-AおよびB)由来iPS細胞株からそれぞれ分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養し嚢胞形成を誘導した結果を示す図(顕微鏡写真:明視野像)。 健常者(Normal Subject-AおよびB)由来iPS細胞株およびADPKD患者(Patient-AおよびB)由来iPS細胞株からそれぞれ分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養して嚢胞形成を誘導したときの、腎嚢胞の面積比(Cystic Area)の統計学的検定の結果を示すグラフ。 ADPKD患者(Patient-A)由来iPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養して形成された嚢胞を含む腎臓オルガノイドにおけるマーカー(マーカーは図3と同じ)の発現を経時変化に免疫染色で解析した結果を示す蛍光顕微鏡写真(上段)、および対応するヘマトキシリン・エオジン染色の光学顕微鏡写真(下段)。 ADPKD患者(Patient-A)由来iPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリンおよび各種薬剤存在下で培養して嚢胞形成を誘導したときの、腎嚢胞の面積比(Cystic Area)の統計学的検定の結果を示すグラフ。コントロールはフォルスコリンのみを添加した。 健常者由来iPS細胞株(Wild-type)、および変異導入iPS細胞株(PKD1ヘテロ株(PKD1+/-)およびPKD1ホモ株(PKD1-/-))から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養し嚢胞形成を誘導した結果を示す図(顕微鏡写真:明視野像)。 健常者由来iPS細胞株(Wild-type)、および変異導入iPS細胞株(PKD1ヘテロ株(PKD1+/-)およびPKD1ホモ株(PKD1-/-))から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養して嚢胞形成を誘導したときの、腎嚢胞の面積比(Cystic Area)の統計学的検定の結果を示すグラフ。 変異導入iPS細胞株(PKD1ホモ株(PKD1-/-))から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養して形成された嚢胞を含む腎臓オルガノイドにおけるマーカーの発現を免疫染色で解析した結果を示す蛍光顕微鏡写真。2枚は同じ腎臓オルガノイドの免疫染色画像であり、右図は左図の拡大写真である。
本発明の繊毛関連疾患治療薬のスクリーニングまたは評価方法は、繊毛関連疾患患者由来の体細胞から得られたiPS細胞を分化誘導して得られた腎臓オルガノイドまたはそれに含まれる尿細管細胞などの腎構成細胞を薬剤候補物質と接触させる工程、および当該腎臓オルガノイドまたは尿細管細胞などにおける、カルシウム動態、および/または嚢胞形成を測定する工程、を含む。
繊毛関連疾患としては、ciliopathy(繊毛病あるいは繊毛関連疾患)と呼ばれる疾患が挙げられ、腎臓に嚢胞が形成される疾患が挙げられるが、より具体的には、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)、常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)、およびネフロン癆(nephronophthisis)が例示される。
これらの疾患は一般に遺伝子異常によって引き起こされる。例えば、ADPKDの原因遺伝子はPKD1遺伝子およびPKD2遺伝子が挙げられる。
PKD1遺伝子は膜蛋白質“Polycystin (PC)1, transient receptor potential channel interacting”(Ensembl gene ID:ENSG00000008710)(旧称:polycystic kidney disease 1 (autosomal dominant))をコードする。PKD1としては、例えば、UniProtKBデータベースのアクセッション番号:P98161に登録されているアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。ただし、PKD1のアミノ酸配列は人種などにより異なるため、この特定のアミノ酸配列には限定されず、当該アミノ酸配列と80%以上、90%以上、95%以上、または98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってよい。
PKD2遺伝子は“polycystin(PC)2, transient receptor potential cation channel”(Ensembl gene ID:ENSG00000118762)(旧称:polycystic kidney disease 2 (autosomal dominant))をコードする。PKD2としては、例えば、UniProtKBデータベースのアクセッション番号:Q13563に登録されているアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。ただし、PKD2のアミノ酸配列は人種などにより異なるため、この特定のアミノ酸配列には限定されず、当該アミノ酸配列と80%以上、90%以上、95%以上、または98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってよい。
これらのPKD遺伝子の変異は、例えば、Cell 77: 881-94, 1994及びScience 272: 1339-1342, 1996に報告されている。また、Ameku et al. Sci Rep 2016;6:30013のTable 1に記載の変異でもよい。
PKD1
W429S, S2235L, V3008M, S3404Y, S3405Y, Missense
G3818R, Missense
E2111K, R2327W, Missense
Q3895X Nonsense
PKD2
A190T, Missense
したがって、繊毛関連疾患患者はこれらの遺伝子に変異(ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異などを含む)を有することが好ましい。対立遺伝子の一方に変異を有するヘテロ変異個体でもよいが、対立遺伝子の両方に変異を有するホモ変異個体でもよい。例えば、ADPKDの場合はヘテロ変異個体で発症し、ホモ変異個体は出生しないのでヘテロ変異個体が好ましく、ARPKDおよびネフロン癆の場合はホモ変異個体で発症するのでホモ変異個体が好ましい。
繊毛関連疾患患者由来の体細胞からiPS細胞を作製するにあたっては、患者由来の体細胞をそのまま使用してiPS細胞を作製してもよいが、健常人由来体細胞から得られたiPS細胞(正常iPS細胞とも呼ぶ)に繊毛関連疾患患者由来の変異型PKD遺伝子をヘテロ又はホモで導入することで、「繊毛関連疾患患者由来の体細胞から得られたiPS細胞」を再現し、それを使用してもよい。
体細胞としては、特に限定されないが、成熟した体細胞だけでなく、胎児(仔)や新生児(仔)の体細胞も包含され、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知の方法を採用することができ、例えば、体細胞へ初期化因子を導入することによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795-797、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,2:525-528、Eminli S,et al.(2008),Stem Cells.26:2467-2474、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.26:1269-1275、Shi Y,etal.(2008),Cell Stem Cell,3,568-574、Zhao Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3:475-479、Marson A,(2008),Cell Stem Cell,3,132-135、Feng B,et al.(2009),Nat.Cell Biol.11:197-203、R.L.Judson et al.,(2009),Nat.Biotechnol.,27:459-461、Lyssiotis CA,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci U S A.106:8912-8917、Kim JB,et al.(2009),Nature.461:649-643、Ichida JK,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:491-503、Heng JC,et al.(2010),Cell Stem Cell.6:167-74、Han J,et al.(2010),Nature.463:1096-100、Mali P,et al.(2010),Stem Cells.28:713-720、Maekawa M,et al.(2011),Nature.474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
iPS細胞から腎臓オルガノイドへの分化誘導は公知の方法を使用することができるが、好ましくは特許文献1に記載された以下の工程(i)~(vi)を含む方法を使用することができる。
(i)iPS細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程;
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体、BMP阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程;
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程;および
(vii)工程(vi)で得られた細胞を非接着培養により細胞塊を形成させて培養する工程。
工程(i)~(vi)は接着培養で行うことが好ましい。
接着培養とは、細胞が培養基材に接着した状態で培養されることを意味し、例えば、コーティング処理された培養皿にて培養することを意味する。コーティング剤としては、細胞外基質が好ましく、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリンおよびラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(商標)などの細胞からの調製物であってもよい。細胞外基質は好ましくは、ラミニンまたはその断片である。本発明においてラミニンとは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造を有するタンパク質であり、サブユニット鎖の組成が異なるアイソフォームが存在する細胞外マトリックスタンパク質である。ラミニンは、5種のα鎖、4種のβ鎖および3種のγ鎖のヘテロ三量体の組合せで約15種類のアイソフォームを有する。特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4またはα5であり、β鎖は、β1、β2、β3またはβ4であり、ならびにγ鎖は、γ1、γ2またはγ3が例示される。ラミニンは、より好ましくは、α5、β1およびγ1からなるラミニン511である(Nat Biotechnol 28, 611-615 (2010))。ラミニンは断片であってもよく、インテグリン結合活性を有している断片であれば、特に限定されないが、例えば、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメント(ラミニン511E8)(EMBO J., 3:1463-1468, 1984、J. Cell Biol., 105:589-598, 1987、WO2011/043405)であってもよい。ラミニン511E8は市販されており、例えばニッピ株式会社等から購入可能である。
各工程に使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へ各工程で必要なサイトカインや薬剤を添加して調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum EssentialMedium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s ModifiedEagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’sF12(F12)培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Thermo Fisher Scientific)、N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、およびこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。ReproFF2(リプロセル)など、あらかじめ幹細胞培養用に最適化された培地を使用してもよい。
以下、各工程についてさらに説明する。
(i)iPS細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程
工程(i)では、iPS細胞を当該分野で公知の方法で分離し、培養することができる。iPS細胞の分離の方法としては、例えば、力学的分離や、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)(Innovative Cell Technologies,Inc)が挙げられる)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離溶液を用いた分離が挙げられる。
工程(i)において使用されるGSK-3β阻害剤は、GSK-3βの機能、例えば、キナーゼ活性を阻害できるものである限り特に限定されず、例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニル-α-ブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(α,4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(GSK-3βペプチド阻害剤)および高い選択性を有するCHIR99021(Nature(2008)453:519-523)が挙げられる。これらの化合物は、例えば、Stemgent社、Calbiochem社、Biomol社等から入手可能である。GSK-3β阻害剤としては、CHIR99021が挙げられる。本工程で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、0.5μMから3μMであり、特に好ましくは0.5μMから1.5μMである。
工程(i)で使用されるFGF2(塩基性FGF:bFGF)はヒトFGF2が好ましく、ヒトFGF2としては、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のアクセッション番号:ABO43041.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。FGF2は分化誘導活性を有する限りその断片および機能的改変体が包含されるFGF2は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるFGF2の濃度は、1ng/mlから1000ng/ml、好ましくは、10ng/mlから500ng/ml、より好ましくは、50ng/mlから250ng/mlである。
工程(i)で使用されるBMP4はヒトBMP4が好ましく、ヒトBMP4としては、例えば、NCBIのアクセッション番号:AAH20546.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。BMP4は分化誘導活性を有する限りその断片および機能的改変体が包含されるBMP4は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるBMP4の濃度は、0.1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、0.5ng/mlから50ng/ml、より好ましくは、0.5ng/mlから5ng/mlである。
工程(i)において使用されるレチノイン酸は、レチノイン酸そのものでもよいし、天然のレチノイン酸が有する分化誘導機能を保持するレチノイン酸誘導体でもよい。レチノイン酸誘導体として、例えば、3-デヒドロレチノイン酸、4-[[(5,6,7,8-tetrahydro-5,5,8,8-tetramethyl-2-naphthalenyl)carbonyl]amino]-Benzoic acid(AM580)(Tamura K,et al.,Cell Differ.Dev.32:17-26(1990))、4-[(1E)-2-(5,6,7,8-tetrahydro-5,5,8,8-tetramethyl-2-naphthalenyl)-1-propen-1-yl]-Benzoic acid(TTNPB)(Strickland S,et al.,Cancer Res.43:5268-5272(1983))、およびTanenaga,K.et al.,Cancer Res.40:914-919(1980)に記載されている化合物、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3-デヒドロレチノール、3-デヒドロレチナール等が挙げられる。
工程(i)で用いるレチノイン酸またはその誘導体の濃度は、例えば、1nMから100nM、好ましくは、5nMから50nM、より好ましくは、5nMから25nMである。
工程(i)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(i)の培養時間は後期後方エピブラストが分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~2日の培養であり、好ましくは1日である。
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程
工程(ii)で使用されるFGF2は工程(i)で説明したものと同様であり、その好ましい濃度範囲も同様である。
工程(ii)において使用されるGSK-3β阻害剤は、前述の工程(i)において例示したGSK-3β阻害剤を使用することができ、好ましいGSK-3β阻害剤としては、CHIR99021が挙げられる。工程(ii)で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから50μM、さらに好ましくは、1μMから20μMであり、特に好ましくは2から10μMである。工程(ii)で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は工程(i)における濃度より増加させることが好ましい。
工程(ii)で使用されるBMP7はヒトBMP7が好ましく、ヒトBMP7としては、例えば、NCBIのアクセッション番号:NM_001719.2のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。BMP7は分化誘導活性を有する限りその断片および機能的改変体が包含されるBMP7は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるBMP7の濃度は、0.1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、0.5ng/mlから50ng/ml、より好ましくは、0.5ng/mlから5ng/mlである。
工程(ii)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(ii)の培養時間は中胚葉系譜原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば、10時間~2日、または1~2日の培養であり、好ましくは0.5~1日である。
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程
工程(iii)において使用されるFGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7は工程(ii)と同様であり、その好ましい濃度範囲も同様であるが、GSK-3β阻害剤の濃度範囲は0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから7.5μMであり、特に好ましくは2から5μMである。
工程(iii)において使用されるTGFβ阻害剤は、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質が挙げられ、例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、 NPC30345、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、 LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A83-01(WO2009146408) およびこれらの誘導体などが例示される。TGFβ阻害剤は、好ましくは、A83-01であり得る。
培養液中におけるTGFβ阻害剤の濃度は、ALKを阻害する濃度であれば特に限定されないが、0.5μMから100μM、好ましくは、1μMから50μM、さらに好ましくは、5μMから25μMである。
工程(iii)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(iii)の培養時間は中胚葉系譜後期原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば0.25~3日の培養であり、好ましくは0.5~2日であり、さらに好ましくは0.75~1.5日である。
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程
工程(iv)において使用されるFGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7は工程(ii)と同様であり、その好ましい濃度範囲も同様であるが、GSK-3β阻害剤の濃度範囲は0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから7.5μMであり、特に好ましくは2から5μMである。
工程(iv)において使用されるアクチビンには、ヒトおよび他の動物由来のアクチビンならびにこれらの機能的改変体が包含されるが、アクチビンAが好ましく、ヒトアクチビンAがより好ましい。ヒトアクチビンAとしては、例えば、NCBIのアクセッション番号:NP_002183.1またはUniProtのアクセション番号P08476.2 のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。例えば、R&D systems社等の市販されているものを使用することができる。工程(iv)で用いるアクチビンの濃度は、1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、5ng/mlから50ng/ml、より好ましくは、5ng/mlから25ng/mlである。
工程(iv)において使用されるROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y-27632(例、Ishizaki et al.,Mol.Pharmacol.57,976-983(2000);Narumiya et al.,Methods Enzymol.325,273-284(2000)参照)、Fasudil/HA1077(例、Uenata et al.,Nature 389:990-994(1997)参照)、H-1152(例、Sasaki et al.,Pharmacol.Ther.93:225-232(2002)参照)、Wf-536(例、Nakajima et al.,Cancer Chemother Pharmacol.52(4):319-324(2003))参照)およびそれらの誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、およびそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の公知の低分子化合物も使用できる(例えば、米国特許出願公開第2005/0209261号、同第2005/0192304号、同第2004/0014755号、同第2004/0002508号、同第2004/0002507号、同第2003/0125344号、同第2003/0087919号、および国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。好ましいROCK阻害剤としてはY-27632が挙げられる。工程(iv)において使用されるROCK阻害剤の濃度は、使用するROCK阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.1μMから100μM、好ましくは、1μMから75μM、さらに好ましくは、5μMから50μMである。
工程(iv)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(iv)の培養時間は後腎系譜後期原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~5日の培養であり、好ましくは3日である。
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体、BMP阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程
工程(v)において使用されるレチノイン酸またはその誘導体は工程(i)で説明したとおりであり、その好ましい濃度範囲は例えば、10nMから500nM、好ましくは、50nMから250nMである。
工程(v)において使用されるFGF9はヒトFGF9が好ましく、ヒトFGF9としては、例えば、NCBIのアクセッション番号:NP_002001.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。FGF9は分化誘導活性を有する限りその断片および機能的改変体が包含される。FGF9は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるFGF9の濃度は、例えば、1ng/mlから500ng/ml、10ng/mlから500ng/ml、50ng/mlから300ng/ml、または150ng/mlから250ng/mlである。
工程(v)において使用される培地は、さらに、BMP阻害剤を含む。
BMP阻害剤としては、Chordin、Noggin、Follistatin、などのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin (すなわち、6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo [1,5-a]pyrimidine)、その誘導体 (P. B. Yu et al. (2007), Circulation, 116:II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4:33-41; J. Hao et al. (2008), PLoS ONE, 3(8):e2904)およびLDN193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。
BMP阻害剤としてより好ましくはNOGGINであり、その濃度は、例えば、1ng/mlから100ng/ml、5ng/mlから50ng/ml、10ng/mlから30ng/mlである。
工程(v)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(v)培養時間は後期後方中間中胚葉が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~3日の培養であり、好ましくは2日である。
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程
工程(vi)において使用されるGSK-3β阻害剤およびFGF9はそれぞれ工程(i)および工程(v)で説明したとおりであり、その好ましい濃度範囲も同様である。
工程(vi)の培養日数は、腎前駆細胞が得られる限り特に制限はないが、例えば、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上が挙げられる。培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
(vii)工程(vi)で得られた細胞(腎前駆細胞)を非接着培養することにより細胞塊を形成する工程
腎前駆細胞から腎臓オルガノイド、すなわち糸球体、尿細管、集合管、血管、間質組織を内包する細胞凝集体を得る方法としては、例えば、上記方法で得られた腎前駆細胞を非接着培養して細胞塊を作製し、それを、3T3-Wnt4細胞などのフィーダー細胞、マウス胎仔脊髄細胞、またはマウス胎仔腎細胞と共培養する方法、またはCHIR99021などのGSK-3β阻害剤を含む基礎培地を使用して半気相培養を行う方法(参考文献 Nature, 526, 564-568 (2015))が挙げられる。培地は、GSK-3β阻害剤に加えて、FGF9やFGF2、さらにはROCK阻害剤を含むことができる。FGF9やFGF2、ROCK阻害剤の好ましい濃度は上記と同様である。なお、半気相培養を行う場合のある態様においては、GSK-3β阻害剤やFGF2を、例えば、当該培養開始~1日後まで、当該培養開始~2日後まで、当該培養開始~3日後までの日数のみ培地に含有させることを含む方法があげられる。
工程(vii)の培養日数は、腎臓オルガノイドが形成される限りにおいて特に制限はないが、例えば、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上が挙げられる。腎前駆細胞分化誘導工程において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
上記のようにして得られた腎臓オルガノイドは、繊毛関連疾患治療薬のスクリーニングや評価に使用できる。
本発明のスクリーニング方法においては、任意の被験物質を用いることができ、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、および天然化合物が例示される。本発明において、被験物質はまた、(1)生物学的ライブラリ法、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリ法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリ法、および(4)アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する合成ライブラリ法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリ法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する生物学的ライブラリ法はペプチドライブラリに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子化合物ライブラリに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993)Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059;Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994)J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリは、溶液(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照のこと)またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith(1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
上記のようにして得られた腎臓オルガノイドに、嚢胞形成促進物質を一定期間、例えば、1~30日間、好ましくは5~15日間与えることで、腎嚢胞形成を誘導することができ、これを繊毛関連疾患モデルとすることができる。
嚢胞形成促進物質としては、フォルスコリンや8-Bromo-cAMPなどのcAMP経路の活性化剤やブレビスタチンなどのミオシンII阻害剤が挙げられる。フォルスコリンの濃度は1~100μMが好ましく、5~20μMがより好ましい。8-Bromo-cAMPの濃度は10~1000μMが好ましく、50~200μMがより好ましい。ブレビスタチンの濃度は1~100μMが好ましく、10~50μMがより好ましい。
嚢胞形成を指標にして薬剤のスクリーニングまたは評価を行う場合、例えば、腎臓オルガノイドをフォルスコリンなどの嚢胞形成促進物質の存在下で培養する際および/またはその前後に、被験物質を接触させて一定期間(例えば、1時間~72時間)培養したのちに、嚢胞形成を測定し、それを、被験物質を接触させない場合と比較する態様が挙げられる。嚢胞形成の測定には、嚢胞のサイズや数の測定だけではなく、真円度などの嚢胞形状の測定も含まれる。嚢胞のサイズは、例えば、後述の面積比で測定することが可能である。
患者由来のiPS細胞から分化誘導した腎臓オルガノイドをフォルスコリンなどの嚢胞形成促進物質の存在下で培養すると、健常者由来のiPS細胞から分化誘導した腎臓オルガノイドの場合と比較しても顕著に、嚢胞の数が増加したり、サイズが大きくなったり、真円度が低下したりする。ここで、被験物質を接触させたときに、嚢胞の数が減少したり、サイズが小さくなったり、真円度が向上したりした場合に、その被験物質は嚢胞形成を低減または阻害する能力を有すると評価したり、繊毛関連疾患治療薬の候補物質として選択したりすることができる。
また、被験物質の効果を、嚢胞形成阻害効果を有する陽性コントロールの効果と比較することにより、評価することもできる。陽性コントロールとしては、ラパマイシン(Rapamycin)やエベロリムス(Everolimus)などのmTOR阻害剤や、CFTR (Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator ) inhibitor II やCFTR inhibitor 172などのCFTR阻害剤が使用できる。
一方、腎臓オルガノイドを用いて細胞内カルシウム動態を測定することで、薬剤のスクリーニングや評価を行うこともできる。細胞内カルシウム動態測定のためには、腎臓オルガノイドから尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞を単離して用いることが好ましい。腎臓オルガノイドから尿細管上皮細胞の単離は、例えば、CD326 (EpCAM)などの尿細管上皮細胞マーカーに対する抗体を用いたソーティングなどにより行うことができる。腎臓オルガノイドから近位尿細管細胞の単離は、例えば、CD10,CD13などの近位尿細管細胞マーカーに対する抗体(PLoS ONE 8: e66750.2013)、あるいはLTL (Lotus tetragonolobus Lectin)などの近位尿細管細胞に対する特異的レクチンを用いたソーティングなどにより行うことができる。あるいは、腎臓オルガノイドの状態で細胞内カルシウム動態を測定することもできる。特定の腎構成細胞において内在性にCa indicatorを発現する腎臓オルガノイドを用いることで、特定の腎構成細胞における蛍光強度の変化を指標として細胞内カルシウム動態を測定することもできる。
細胞内カルシウム動態測定は常法に従って行うことができる。
具体的には、Fura-2(同仁化学研究所)、Fluo4、Fluo3、Fura2、Indo1、Rhod2、Quin2、Fura-PE3、Fura Red、calcium green1、calcium crimson、Oregon green 488 BAPTA-1、fluo-3FF、fluo-5N、mag-fura-5、mag-indo-1、rhod-5N、Calbryte-590、Cal-520等(R. Y. Tsien, Methods Cell Biol., 1989, 30, 127)のカルシウム感受性色素(カルシウム指示薬)を細胞にロードし、蛍光強度の変化を指標として細胞内カルシウム動態をFDSS(浜松ホトニクス社)などの測定器で測定する方法が挙げられる。薬剤によるカルシウム放出を測定する過程と、その後細胞外からのカルシウム流入を測定する過程の両者の測定が好ましい。
疾患患者由来のiPS細胞から分化誘導して調製された腎臓オルガノイドから得られた尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞では、健常者由来のiPS細胞から分化誘導して調製された腎臓オルガノイドから得られた尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞と比較して、Thapsigarginによるカルシウム放出が低下している。
疾患患者由来のiPS細胞から分化誘導して調製された腎臓オルガノイドから得られた尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞を一定期間(例えば、1時間~72時間)被験物質とインキュベートしたのち、細胞内カルシウム濃度を測定し、その結果、カルシウム濃度が被験物質とインキュベートしない場合や陰性コントロールとインキュベートしたときと比べて増加する場合、その被験物質は細胞内カルシウム濃度を増加させる能力を有すると評価したり、繊毛関連疾患治療薬の候補物質として選択したりすることができる。
また、被験物質の効果を、細胞質内カルシウム濃度の上昇作用を有する陽性コントロールの効果と比較することにより、評価することもできる。
本発明においては、疾患患者由来のiPS細胞から分化誘導された腎臓オルガノイドまたは尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞での測定結果を、遺伝子変異修復iPS細胞から分化誘導された腎臓オルガノイドまたは尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞での測定結果と比較することが好ましい。また、正常iPS細胞にPKD遺伝子変異を導入した株から分化誘導された腎臓オルガノイドまたは尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞での測定結果を、親株である正常iPS細胞から分化誘導された腎臓オルガノイドまたは尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞での測定結果と比較することも好ましい。
なお、上記遺伝子変異修復iPS細胞とは、繊毛関連疾患患者の原因遺伝子の変異箇所を正常に置換したiPS細胞を意味し、当該変異箇所が正常配列に置換された以外は、当該繊毛関連疾患者と同じ遺伝子情報を有するiPS細胞を意味する。このような遺伝子修復iPS細胞からの腎臓オルガノイドまたは尿細管上皮細胞や近位尿細管細胞などの腎構成細胞と比較することにより、より正確に薬剤の繊毛関連疾患に対する効果を評価することができる。遺伝子変異修復iPS細胞は公知の遺伝子修復技術により調製することができる。例えば、CRISPR/Cas9、TALEN、ZFNなどのゲノム編集技術により、患者由来iPS細胞における繊毛関連疾患原因遺伝子を正常型に置換することで行うことができる。具体的には、CRISPR/Cas9の場合、患者由来iPS細胞に、Cas9およびgRNAとともに、正常型配列を有するオリゴヌクレオチドを導入し、変異配列を置換することにより、行うことができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の態様は以下の実施例には限定されない。
実施例1
<実験手順>
iPS細胞からの腎前駆細胞の誘導
PKD1遺伝子に変異を有するADPKD患者の体細胞にレトロウイルスベクターによってOCT4, SOX2, KLF4, c-MYC遺伝子を導入してiPS細胞を作製した(CiRA00009株、CiRA00007株)。得られたiPS細胞をWO 2018/216743の実施例に記載の方法で培養し、腎(ネフロン)前駆細胞を得た。コントロールとして、健常人由来iPS細胞から同様にして腎(ネフロン)前駆細胞を得た。なお、CiRA00009株はQ3895X, Nonsense変異を有し、CiRA00007株はG3818R, Missense変異を有する(Ameku et al. Sci Rep 2016 ;6:30013)。
また、以下のiPS細胞からも同様にして腎(ネフロン)前駆細胞を誘導した。
1)PKD2遺伝子に変異を有するADPKD患者の体細胞にレトロウイルスベクターによってOCT4, SOX2, KLF4, c-MYC遺伝子を導入して作製したiPS細胞(Ameku et al. Sci Rep 2016;6:30013)。
2)PKD1またはPKD2遺伝子に変異を有するADPKD患者の体細胞にエピゾーマルベクターによって、OCT4, SOX2, KLF4, L-MYC, LIN28, shp53またはp53DDを導入して作製したiPS細胞。
3)健常人体細胞由来のiPS細胞に変異型PKD1およびPKD2遺伝子を導入して作製したiPS細胞。
腎臓オルガノイド作製と薬剤処理による腎臓オルガノイド嚢胞形成アッセイ
(実験方法)
1.上記の通り、未分化ヒトiPS細胞(患者由来又は健常人由来)から、WO 2018/216743の実施例に記載の分化誘導系を用いてネフロン前駆細胞を作製し、それを用いて以下の手順で腎臓オルガノイドを作製した。
2.day 11-12のネフロン前駆細胞を、Accumaxを用いて単一の細胞に解離する。24 well plateの1 wellあたり100 μLのAccumaxを加え、37℃、5% CO2で10-15分間インキュベートする。10% FBS 900 μLを加え反応停止した後、P-1000ピペットマンでgentle pipettingを行い、単一の細胞まで解離する。
3.細胞懸濁液の細胞数を測定する。
4.DMEM/F12 Glutamax 培地(Thermo Fisher Scientific)、ビタミンA不含有B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、500 U/ml PSからなる無血清培地に200 ng/ml FGF9および1 μM CHIR99021を添加した培地にY-27632を終濃度10 μMになるように加え、細胞凝集体作製時の培地とする。
5.細胞凝集体1個あたり1.0-1.5 x 105 cellsとなるように細胞懸濁液をエッペンドルフチューブにとり、300 G x 3 minで遠心する。
6.上清を捨て、4で作製した培地を用いて、細胞凝集体1個あたり50-100 μLとなるように、細胞を再懸濁する。
7.U底の96 well plate(非接着)に50-100 μLずつ細胞懸濁液をとり、300 G x 3 minで遠心する。
8.1-2日培養後、形成された細胞凝集体を24-wellトランズウェルのinsert上に移し、気相液相界面培養とする(day 0:オルガノイド培養開始)。KR5 medium (DMEM/F12 Glutamax containing 0.1 mM non-essential amino acids, 500 U/ml PS, 55 μM 2-mercaptoethanol and 5% KSR)に、200 ng/ml FGF2、5 μM CHIR99021を加えたものを培地とする(1 wellあたり120 μLで培地交換する)。
9.48時間後にKR5 mediumに培地交換し(day 2)、その後は2日ごとにKR5 mediumで培地交換を行う。day 8には、糸球体および尿細管様構造を持つネフロンオルガノイドまで分化する。
10.嚢胞形成誘導と嚢胞の測定は以下の手順で行った。
day 8から、KR5 mediumに10 μM フォルスコリン(あるいは100 μM 8-Br-cAMP)を加えたものに変更する(2日ごとに培地交換)。コントロールは、同濃度のDMSOを使用する。
11.day 15まで培養を継続し、KEYENCE BZ-X700で位相差像を撮影して、画像データを取得する。
12.画像データの解析は、IN Cell Developer Toolbox (GE healthcare)を用いる。嚢胞の指標としては、オルガノイド全体に占める嚢胞部分の面積率(cystic area)、嚢胞の真円度を用いる。嚢胞のサイズが上位の一定順位内に入るものだけに限定して解析するプロトコルが有用である。
13.CFTR阻害薬(Yang B et al. JASN 2008)、およびmTOR阻害薬(Shillingford J et al. Proc Natl Acad Sci USA 2006)等を用いて、嚢胞形成に対する効果を調べた。day 8でフォルスコリンを開始する3時間前から、100 μM CFTR inhibitor 172、50 μM CFTR inhibitor II、10 μM ラパマイシンまたは10 μM エベロリムスをプレインキュベーションする。その後、これらの薬剤とともに10 μM フォルスコリンを含む培地に変更し、2日ごとに培地交換を行う。前述のプロトコルを用いて、day15での嚢胞部分の面積率、および真円度を測定する。
ヒトiPS細胞由来尿細管上皮細胞のCa flux測定
(実験方法)
1.上記の手順1-9に従ってトランズウェル上で腎臓オルガノイドを作製する。KR5 mediumでの培地交換を続けることにより、day 12まで腎臓オルガノイドを維持することができる。
2.day 8-12の腎臓オルガノイドをエッペンドルフチューブに回収する。P-1000ピペットマンを用いてPBS(-)を適度な強さで吹きかけ、insertに接着しているオルガノイドをはがし、1.5 mLのエッペンドルフチューブあたり約10個のオルガノイドを回収する。
3.上清部分のPBS(-)を捨てる。
4.TrypLE select (Thermo Fisher Scientific)500 μLを加え、37℃、5% CO2で30分間インキュベートする。約15分の時点で一度、P-1000ピペットマンを用いてgentle pipettingを行う。
5.10% FBS 500 μLを加え、gentle pipettingで単一の細胞に解離する。
6.セルストレーナー(35 μm)を通した後、細胞数を計測する。
7.CD326 (EpCAM) MicroBeads (ミルテニー, 130-061-101)を用いて、EpCAM+ MACSによる尿細管上皮細胞の濃縮を行う(Forbes T et al. Am J Hum Genet 2018)。manufacturer's protocolに従いつつ、細胞数に応じてbufferの量は適宜調節する。既報と同様に、1回のMACSでEpCAM+細胞の十分な純化(98.5%)が可能である。
8.Renal Epithelial Cell Growth Medium 2, RECGM2 (PromoCell)に、Y-27632を終濃度50 μMになるように加え、5.0×104 cellあたり50 μLとなるよう細胞懸濁液を作製する。透明底のハーフエリア96 well plate (Greiner, 675090)に、1 wellあたり5.0×104 cell (50μL)でEpCAM+細胞を播種し、37℃、5% CO2で一晩インキュベートする。
9.翌日にはコンフルエントとなるため、FDSS-μCELLによるCa flux測定を行う。RECGM2にCa指示薬であるCal-520 (AAT Bioquest, 21131)を4 μM、water soluble probenecid (Thermo Fisher Scientific, P36400)を2.5 mMとなるように加える。このRECGM2混合液をそれぞれのwellに50 μLずつ加えていく(終濃度は、Cal-520 2 μM、probenecid 1.25 mMとなる。)。37℃、5% CO2で、30分間インキュベートする。
10.測定の直前に、それぞれのwellを200μL のHBSS (Ca、Mg、およびフェノールレッドを含まない)で洗浄する。その後、各wellにHBSS (Ca、Mg、およびフェノールレッドを含まない)を 80 μLずつ入れる。この際、water soluble probenecid 1.25 mM、クエンチャーとして0.05~0.5 mg/mLのAcid Red 27(東京化成, A0583)を加えてもよい。
11.2段階の薬液注入(それぞれ20 μLずつ)で、Ca releaseの後、Ca influxを測定するように、FDSS-μCELLの撮影プロトコルを設定する。
12.第一段階では、Thapsigargin(終濃度10 μM)、Angiotensin II, human(終濃度10 μM)、[Arg8]-Vasopressin(終濃度10 μM)など、Ca releaseを引き起こす薬剤をCa-free HBSSに溶解したものを注液する。第二段階では、終濃度2 mMのCaCl2を注液してストア作動性Ca流入を測定する(ベースラインに対する蛍光強度の比を測定する)。
13.ポジティブコントロールとして、第一段階で終濃度5 μM ionomycin、第二段階で終濃度30 mM EGTAを用いて、細胞内Ca濃度の変化を測定できていることを示す。
14.第一段階 (Ca release)のピーク値、AUC (area under the curve)値、第二段階 (Ca influx)のピーク値、AUC値、プラトー値を解析する。
蛍光標識されたヒトiPS細胞由来近位尿細管細胞のCa flux測定
(実験方法)
1.上記手順1-6と同様に、day 8-12のネフロンオルガノイドから細胞を調製する。
2.Renal Epithelial Cell Growth Medium 2, RECGM2 (PromoCell)に、Y-27632を終濃度50 μMになるように加え、1.0×105 cellあたり100 μLで細胞懸濁液を作製する。透明底の96 well plateに、1 wellあたり1.0×105cell (100 μL)で細胞を播種し、37℃、5% CO2で一晩インキュベートする。96 well plateへのコーティングは不要である。
3.翌日にはコンフルエントとなるため、IN Cell Analyzer 6000 (GE healthcare)によるCa flux測定を行う。
4.近位尿細管細胞を標識するため、RECGM2に20 μMの6-carboxyfluorescein (6-CF)を加え、100 μLずつwellに加えていく(終濃度10 μM)。37℃、5% CO2で1時間インキュベートする。
5.1時間後、RECGM2にCa指示薬であるCalbryte-590 (AAT Bioquest, 20700)を4 μM、water soluble probenecid (Thermo Fisher Scientific, P36400)を2.5 mMで加え、1 wellあたり100 μLで培地交換を行う。37℃、5% CO2で、1時間インキュベートする。
6.測定の直前に、各wellを200μL のHBSS (Ca、Mgおよびフェノールレッドを含まない) で洗浄する。その後、HBSS (Ca、 Mgおよびフェノールレッドを含まない) 100 μLずつ各wellに加える。
7.IN Cell Analyzer 6000のLiquid Handling機能を用いて、2段階の薬液注入(それぞれ100 μLずつ)によるCa fluxを測定する。第一段階の撮影が終了した後、ピペットマンを用いてwell中の溶液を100 μLに減らす。
8.Ca fluxの測定対象を、6-CFで蛍光標識された細胞に限定することで、近位尿細管細胞のCa flux測定が可能である。上記12-13と同様の計測を行う。
<結果>
図1に示すように、ADPKD患者由来iPS細胞株から尿細管を含む腎臓オルガノイドを作製でき、近位尿細管マーカーLTLと繊毛マーカーARL13Bの発現により、尿細管に一次繊毛が確認できた。
オルガノイド培養開始から8日目にフォルスコリンまたはブレビスタチンを添加し、培養を継続したところ、15日目の時点で、腎嚢胞の形成が見られた(図2)。マーカー染色により確認したところ、糸球体由来の嚢胞はほとんど目立たず、尿細管由来の嚢胞が確認された(図3)。なお、フォルスコリン処理を行うことで、実際はday 30-40程度までネフロンオルガノイドの嚢胞増大がみられる。
イメージアナライザを用いて、腎嚢胞の面積比(Cystic Area)と真円度を測定した。
なお、面積比は以下の通り算出した。
腎嚢胞の面積比 (%) = 腎嚢胞総面積 / オルガノイド総面積 × 100
結果を図4に示す。このように、腎嚢胞の面積比は、患者由来腎臓オルガノイドにおいて顕著に増加しており、また、真円度は健常者由来腎臓オルガノイドよりも低い(嚢胞の形態が不整である)ことが確認でき、腎嚢胞形成および薬剤の効果の定量評価が可能であることが分かった。
次に、フォルスコリンによる嚢胞形成に対する薬剤の効果を調べた。その結果、図5に示すように、数種の薬剤、特にmTOR阻害剤やCFTR阻害剤がフォルスコリンによる腎嚢胞形成を抑制した 。
また、同疾患の患者腎細胞では健常者のものと比べて細胞内へのCa流入が低下していることが報告されている。上記のCa流入測定系を用いることで、ADPKD患者iPS細胞由来の尿細管細胞において、Caの流入低下を再現でき、ここに薬剤を添加することで、Caの流入低下に対する薬剤の効果を評価できる。図6の結果から、健常iPS細胞株由来の腎臓オルガノイド近位尿細管細胞や尿細管上皮細胞と比較して、ADPKD患者由来iPS細胞株から分化誘導した腎臓オルガノイドの近位尿細管細胞や尿細管上皮細胞では、Thapsigarginによる小胞体からのカルシウム放出が低下しており、ピークに至るまでの時間も遅い傾向があることがわかった。
実施例2
実施例1と同様にしてADPKD患者(Patient-A、B)からiPS細胞を作製した。
なお、Patient-A、Bはそれぞれ、実施例1のCiRA00009、CiRA00007に相当する。
作製されたiPS細胞を用い、ADPKD患者(Patient-A、B)由来のiPS細胞から、実施例1と同様の手順に従って腎臓オルガノイドを誘導した。
また、健常者(Normal Subject-AおよびB)からも同様にして腎臓オルガノイドを誘導した。
オルガノイド培養開始10日目からフォルスコリン10μMを添加し17日目の時点で嚢胞形成を評価した。結果を図7に示す。いずれの患者由来のiPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドもフォルスコリンにより嚢胞が形成されたことが確認された。
腎嚢胞の面積比(Cystic Area)の統計学的検定の結果を図8に示す。Patient-A(nonsense), Patient-B(missense)いずれの患者由来のiPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドも、健常者由来iPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドと比較して、統計学的に有意な嚢胞の増大が認められた。
また、ADPKD患者(Patient-A)由来iPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドに対して、フォルスコリン10μMを添加した際の嚢胞形成の経時的な変化を評価した。結果を図9に示す。この結果から、ADPKD患者由来iPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドでは、フォルスコリンの投与開始後、わずか1時間で尿細管の拡張が始まることがわかった。さらに6時間後には、拡張していない尿細管と拡張して上皮が扁平化している尿細管の差が明らかになった。
次に、フォルスコリンによる嚢胞形成に対する各種薬剤の効果を評価するために、ADPKD患者(Patient-A)由来iPS細胞株から腎臓オルガノイドを誘導し、オルガノイド培養の10日目からフォルスコリン10μMとともに各種薬剤を添加し17日目の時点で腎嚢胞の面積比(Cystic Area)を計測した。結果を図10に示す。Tolvaptan(臨床的に使用されているADPKDの嚢胞増大抑制薬)では、コントロール(フォルスコリン単剤)と比較して、嚢胞のサイズに統計学的有意差を認めなかったが、CFTR inhibitor 172およびエベロリムスでは統計学的に有意に嚢胞増大を抑制した。
実施例3
CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を用いて健常者由来iPS細胞株に変異PKD1遺伝子を導入した変異導入iPS細胞株(PKD1ヘテロ株(PKD1+/-)およびPKD1ホモ株(PKD1-/-))を作製し、解析した。
CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を用いた疾患特異的iPS細胞株の樹立は以下の手順で行った。
Ishida et al. (Site-specific randomization of the endogenous genome by a regulatable CRISPR-Cas9 piggyBac system in human cells, Sci. Rep. 8 (2018) 310.)に記載の方法を用いて、PKD1遺伝子のエクソン34のスプライシング受容部位(splicing acceptor site)に、非相同末端結合(non-homologous end joining (NHEJ))により変異を導入した。
具体的には、Okita et al. (An efficient nonviral method to generate integration-free human-induced pluripotent stem cells from cord blood and peripheral blood cells, Stem Cells 31 (2013) 458-466.)に記載された健常者由来ヒトiPS細胞株である585A1株をwild-type株として、このwild-type株に対してpiggyBacトランスポゾンベクター(Addgene ID 100596およびAddgene ID 100598およびPiggyBac Transposase発現用ベクター)を用いて、TetO-Cas9-GR遺伝子およびPKD1遺伝子のエクソン34のスプライシング受容部位をターゲットとしたgRNA発現用配列を導入し、薬剤投与によりinducibleにCas9活性を誘導して非相同末端結合(NHEJ)によるゲノム編集を生じさせた。
ゲノム編集後のiPS細胞は、フローサイトメトリーによりシングルコロニーに単離され、その後シークエンス解析を行うことで、片アレルにフレームシフト変異を確認したものをPKD1ヘテロ株、両アレルにフレームシフト変異を確認したものをPKD1ホモ株とした。
健常者由来iPS細胞株(Wild-type)、および疾患特異的iPS細胞株(PKD1ヘテロ株(PKD1+/-)およびPKD1ホモ株(PKD1-/-))から実施例2と同様の手順で腎臓オルガノイドを誘導し、オルガノイド培養の10日目からフォルスコリン10μMを添加し17日目の時点で嚢胞形成を評価した。結果を図11に示す。健常者由来iPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドではフォルスコリン添加によって嚢胞は形成されなかったが、変異導入iPS細胞株から分化誘導された腎臓オルガノイドではフォルスコリン添加によって嚢胞形成が促進され、その程度はPKD1ホモ株で顕著であった。このことは、腎嚢胞の面積比(Cystic Area)の統計学的検定(図12)でも確かめられた。
また、健常者由来iPS細胞株または疾患特異的iPS細胞株(PKD1ホモ株(PKD1-/-))から分化誘導された腎臓オルガノイドをフォルスコリン存在下で培養し、形成された嚢胞を含む腎臓オルガノイドを免疫染色で解析した。結果を図13に示す。糸球体由来の嚢胞はほとんど目立たず、尿細管由来の嚢胞が確認された。
本明細書中に言及される、特許、公開出願及びその他の刊行物、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)などのデータベースを通して入手可能なGenBank受託番号及び関連する配列情報並びに他のデータは、その一部または全体が、参照により組み込まれる。

Claims (6)

  1. PKD1遺伝子および/またはPKD2遺伝子に変異を有する常染色体優性多発性嚢胞腎患者由来の体細胞から得られた人工多能性幹(iPS)細胞を分化誘導して得られた腎臓オルガノイドを、薬剤候補物質と接触させる工程、および当該腎臓オルガノイドにおける嚢胞形成を測定する工程、を含む、常染色体優性多発性嚢胞腎治療薬のスクリーニングまたは評価方法であって、前記嚢胞形成を測定する工程は、ミオシンII阻害剤による刺激により嚢胞形成を誘導したのち、嚢胞形成を測定することを含む、前記方法
  2. ミオシンII阻害剤がブレビスタチンである、請求項1に記載の方法。
  3. 嚢胞形成の測定が嚢胞のサイズ、数、もしくは真円度の測定である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  4. mTOR阻害剤またはCFTR阻害剤を陽性コントロールとして使用する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  5. 測定結果を、健常者由来の体細胞から得られたiPS細胞または遺伝子変異修復iPS細胞を分化誘導して得られた腎臓オルガノイドの嚢胞形成と比較する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  6. 腎臓オルガノイドが、以下の工程により得られたものである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
    (i)多能性幹細胞を、FGF(線維芽細胞増殖因子)2、BMP(骨形成タンパク質)4、GSK(グリコーゲン合成酵素キナーゼ)-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
    (ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
    (iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGF(トランスフォーミング増殖因子)β阻害剤を含む培地で培養する工程;
    (iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程;
    (v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体、BMP阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程;
    (vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程;および
    (vii)工程(vi)で得られた細胞を非接着培養することにより細胞塊を形成させて培養する工程。
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