JP7699427B2 - 高強度高靭性鉄基合金およびその製造方法 - Google Patents

高強度高靭性鉄基合金およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、各種構造部品・部材、特に航空宇宙関連機器用部材に適した比強度および靱性に優れた高強度高靭性鉄基合金およびその製造方法に関する。
近年、各種機器を構成する構造部材には、総重量の増加を防止するために軽量であることが求められることが多くなっている。とりわけ航空宇宙関連用部材に対してはこれが非常に重要な要求となっている。鉄鋼材料はアルミニウム合金やチタン合金に比べて比重が大きいことから、適用範囲が限定されるが、比強度がアルミニウム合金やチタン合金に匹敵するマルエージング鋼は、航空宇宙関連用部材として適用されている(例えば非特許文献1)。
航空宇宙関連用部材のうち外気に近い領域で用いられるものは稼働中、低温に曝されることがある。例えば高度10000mで飛行する航空機は-50℃、地球を周回する人工衛星は-100℃の環境に曝されるとされ、このような低温環境で用いられる構造部材では、低温脆化のないことが重大事故を防止するために不可欠となる。低温で脆化しないか、脆化が少ない鉄鋼材料としては、オーステナイト系ステンレス鋼(比強度130)や、ニッケル鋼(同100)があるが、比強度はアルミニウム合金やチタン合金の1/2程度である。
また、特許文献1や特許文献2に、高強度で靭性の高い鋳造合金が開示されているが、比強度がアルミニウム合金やチタン合金の1/2程度であり、また鋳造品の軽量化は難しいため、適用が進んでいない。
特開2008-007820 特開2014-181394
大同特殊鋼株式会社プレスリリース、[令和2年6月3日検索]、インターネット<URL:https://www.daido.co.jp/about/release/2017/0427_pw.html>
本発明は、マルエージング鋼と同等の比強度を有し、-100℃においてマルエージング鋼より高い靭性が得られ、しかも材料コストを低く抑えることができ、かつ形状の自由度が高い、各種構造部品・部材、特に航空宇宙関連機器用部材に適した高強度高靭性鉄基合金およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、形状の自由度が高く、マルエージング鋼と同等の比強度を有し、かつ-100℃においてより高い靭性が得られ、しかも材料コストをマルエージング鋼より低く抑えることのできる鉄基合金を得ることを目的に、種々検討を行った。
その結果、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているマルエージング高に比べて高価な合金元素の含有量が少ない、特定組成の粉末を積層造形して組織を著しく微細にすることにより、従来実現できなかった高比強度と高靭性が得られることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)~(7)を提供する。
(1)質量%で、
C:0.12~0.3%、
Si:0.15~0.7%、
Mn:0.4~1.2%、
P:0.015%以下、
S:0.015%以下、
Ni:2~4%、
Cr:0.1~0.5%、
Mo:0.3~0.5%
を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、デンドライト2次アーム間隔が5μm以下である凝固組織を有することを特徴とする高強度高靭性鉄基合金。
(2)質量%で、V:0.05~0.15%をさらに含有し、CおよびVの含有量が質量%で
C×0.3≦V≦C×0.6
を満足することを特徴とする上記(1)に記載の高強度高靭性鉄基合金。
(3)質量%で、Ca:0.01~0.05%をさらに含有し、CaおよびSの含有量が質量%で
S×2≦Ca≦S×4.5
を満足することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の高強度高靭性鉄基合金。
(4)C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Mo/4+Cr/5+V/14
で表される炭素当量の値が、質量%で0.6%以下であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載の高強度高靭性鉄基合金。
(5)比強度≧200kN・m/kg、-100℃衝撃吸収エネルギー≧60J(2mmVノッチシャルピー衝撃試験片)を同時に満足することを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の高強度高靭性鉄基合金。
(6)上記(1)~(4)のいずれかに記載の組成を有する合金素材を、レーザーまたは電子ビームによって、溶融・凝固させて積層造形し、デンドライト2次アーム間隔が5μm以下である凝固組織を有する高強度高靭性鉄基合金を製造することを特徴とする高強度高靭性鉄基合金の製造方法。
(7)前記合金素材は、粉末であることを特徴とする上記(6)に記載の高強度高靭性鉄基合金の製造方法。
本発明によれば、マルエージング鋼と同等の比強度を有し、-100℃においてマルエージング鋼より高い靭性が得られ、しかも材料コストを低く抑えることができ、かつ形状の自由度が高い、各種構造部品・部材、特に航空宇宙関連機器用部材に適した高強度高靭性鉄基合金およびその製造方法が提供される。
本発明の実施例に用いたアトマイズ装置を示す概念図である。 DASと冷却速度との関係を示す図である。 本発明材のミクロ組織写真例である。
以下、本発明の限定理由について、化学成分および製造条件に分けて説明する。
なお、以下の説明において、特に断わらない限り成分における%表示は質量%である。
[化学成分]
C:0.12~0.3%
Cは強度および焼入れ性向上に有効な元素である。しかし、その含有量が0.12%未満では200kN・m/kg以上の比強度を得ることができず、また0.3%を超えると延性と靭性が低下し、製造時の割れが発生しやすくなる。したがって、C含有量を0.12~0.3%の範囲とする。
Si:0.15~0.7%
Siは脱酸を目的として添加する元素である。しかし、その含有量が0.15%未満では脱酸が不十分で、空孔が発生するようになり、また0.7%を超えると延性と靭性が低下する。したがって、Si含有量を0.15~0.7%とする。
Mn:0.4~1.2%
Mnは強度および焼入れ性向上に有効な元素であり、脱酸効果も有する。しかし、その含有量が0.4%未満ではその効果が少なく、1.2%を超えると延性と靭性が低下するとともに溶接性を劣化させる。したがって、Mn含有量を0.4~1.2%の範囲とする。
Ni:2~4%
Niは高強度と高延性および高い低温靭性を同時に得ようとする本発明において最も重要な元素である。Niは強度および焼入れ性に有効な元素であるが、同様の効果のある他の元素と異なり、延性、靭性および溶接性に及ぼす悪影響が小さい。また、Niはオーステナイト安定化作用の大きい元素であり、フェライト変態域を長時間側へ移動させ、ベイナイト変態域が拡大することにより、冷却速度の遅い厚肉部においてもフェライト析出を抑え、高い強度が得られる。しかし、Niが2%未満では200kN・m/kg以上の比強度が得られず、4%超では加熱脆化が顕著に表れるようになる。したがって、Ni含有量を2~4%の範囲とする。
Cr:0.1~0.5%
Crは比強度向上に有効な元素である。しかし、0.1%未満ではその効果が少なく、0.5%を超えるとその効果が得られなくなるとともに炭素当量が増加し溶接性を低下させる。したがって、Cr含有量を0.1~0.5%の範囲とする。
Mo:0.3~0.5%
Moは焼入れ性を向上させるとともに焼戻し脆化を抑制するために添加する。しかし、0.3%未満ではその効果が少なく、0.5%を超えるとその効果が得られなくなるとともに炭素当量が増加し溶接性を低下させる。したがって、Mo含有量を0.3~0.5%の範囲とする。
P:0.015%以下
S:0.015%以下
PおよびSは靱性に大きな影響を及ぼす元素である。それぞれ0.015%を超えて含有されると母材の靱性を著しく低下させる。したがってPおよびSの含有量を0.015%以下とする。
V:0.05~0.15%、C×0.3≦V≦C×0.6
VはCと結びついて炭化物を形成し、焼戻し軟化抵抗性を高めることにより、焼戻し熱処理時の比強度維持に有効な元素であり、焼戻し熱処理条件管理が容易になる他、溶接熱影響部の機械的性質の低下を防止することができるので必要に応じて添加してもよい。0.05%未満ではその効果が不十分で、0.15%超では延性と靭性が低下する。したがって、Vを添加する場合は、V含有量を0.05~0.15%の範囲とする。また、Vは、以上の範囲を満たしても、C×0.3未満では十分な比強度が得られず、C×0.6超では比強度向上効果が飽和し材料費の増大を招く。したがって、Vを添加する場合は、C×0.3≦V≦C×0.6の範囲とする。
Ca:0.01~0.05%、S×2≦Ca≦S×4.5
CaはSと結びついて高融点硫化物を形成し、低融点のFeSやMnSが結晶粒界に生成するのを防止し、延性を向上させる効果があるため、必要に応じて添加してもよい。Sを0.015%以下含有する場合において、Ca含有量が0.01%未満ではその効果がほとんど得られず、0.05%を超えるとS含有量に対して過剰になり、単に材料費の増大を招くだけである。したがって、Caを添加する場合は、Ca含有量を0.01~0.05%の範囲とする。また、Ca含有量をS量に応じて調整することが好ましい。Ca<S×2ではCaの効果が小さく、Ca>S×4.5では効果が飽和し材料費の増大を招く。したがって、Caを添加する場合は、Ca含有量は、S×2≦Ca≦S×4.5の範囲とする。
C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Mo/4+Cr/5+V/14≦0.6%
C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Mo/4+Cr/5+V/14で示される炭素当量は溶接性を評価する値である。炭素当量が0.6%を超えると硬化性が大きくなるため、低温割れの発生や溶接部の延性低下などを防止するには特別な熱管理が必要になる。したがって、炭素当量は0.6%以下とすることが好ましい。なお、必要に応じて、本発明組成範囲で溶接構造用鋳鋼品(JIS G5102)鋼種と同等の炭素当量に調整することも可能である。
なお、上記組成を有する合金成分の残部は、Feおよび不可避不純物である。
[凝固組織]
本発明に係る高比強度高靭性合金において、上記組成の合金をデンドライト2次アーム間隔(以下、DASと記すことがある)が5μm以下となるように凝固組織を微細化することにより、200kN・m/kg以上の比強度と60J以上の-100℃衝撃吸収エネルギーを同時に得ることができる。
その理由は、適正な組成合金を急速凝固することにより、ホール・ペッチの関係で説明される、「組織の微細化による高強度化」に加え、微細組織と合金元素のミクロ偏析軽減による靭性向上が、実現したためと考えられる。
[製造条件]
上記組成を有する合金素材を、レーザーまたは電子ビームによって、溶融・凝固させて積層造形させる。これにより合金素材が溶融された後、急冷され、DAS間隔を5μm以下の微細な組織とすることができる。
具体的には、上記範囲内の組成を有する合金素材として合金粉末を準備し、レーザーまたは電子ビームによって、溶融・凝固させて積層造形する。レーザーまたは電子ビームを用いることにより、合金の凝固時の冷却速度を3000℃/sec.以上とすることができ、DAS間隔を5μm以下の微細凝固組織の合金とすることができる。
一方、後掲の図2から明らかなように、本発明合金のような高融点の鉄系合金を工業的に鋳造可能な銅合金鋳型鋳造法の場合、DASを5μm以下にすることは到底できず、また、非鉄系合金を対象とするダイカスト法は、鋳造プロセスの中では最も冷却速度が大きいが、これによっても、DASを5μm以下とするには冷却速度が不十分であり、所期の特性を得ることは不可能である。
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す化学成分および組成の合金について試験体を作製した。表1のうちNo.1~15は本発明の範囲内である実施例、No.16~27は本発明の範囲を外れる比較例である。No.1~26の試験体は積層造形によって作製し、No.27の試験体については砂型鋳造により作製した。
No.1~26の積層造形の試験体の場合には、まず、表1のNo.1~26の化学組成の合金を高周波誘導炉で溶解し、図1に示すアトマイズ装置を用いて、溶融した1700℃の金属を滴下し、ノズルから不活性ガス(本例ではアルゴンガス)を噴霧することで液滴に分断するとともに急速凝固させ、原料となる球状粉末を得た。次いで、球状粉末をふるい分けして粒径10~45μmの造形用粉末を得た。その後、レーザー式積層造形装置を用いて、出力300W、レーザー移動速度1000mm/秒、レーザー走査ピッチ0.1mm、粉末積層厚さ0.04mmの条件で造形用粉末を積層造形し、JIS G0307の図1b)に準拠した試験体を作製した。
No.27の砂型鋳造の試験体の場合には、No.27の合金を高周波誘導炉で溶解し、JIS G0307の図1b)に準拠した砂型に鋳造し、試験体を作製した。
図2は、本発明試料の光学顕微鏡組織観察によって実測したDASと、以下の文献1に記載のDASと冷却速度の関係の外挿線から、試料の冷却速度を推定するもので、以下の文献2~4の情報から得られた各種鋳型の冷却速度も併記した。
R=(DAS/709)1/-0.386 ・・・(1)
R:冷却速度(℃/min.)、DAS:デンドライト2次アーム間隔(μm)
文献1:「鋳鋼の生産技術」P378、素形材センタ―
文献2:「鋳物」、第63巻(1991)第11号、P915
文献3:「鋳造工学」、第68巻(1996)第12号、P1076
文献4:「素形材」、Vol.54(2013)No.1、P13
積層造形による試験体は造形用ベースプレートから放電ワイヤーカットで切り離した後、また、砂型鋳造による試験体は鋳型砂を取り除いた後、880℃で1時間保持した後に水冷し、600℃、2時間の焼戻し処理を行った。
これらの試験体から引張試験用としてJIS-Z2241、14A号試験片、シャルピー衝撃試験用としてJIS-Z2242、2mmVノッチ試験片を作成した。引張試験は20℃で、シャルピー衝撃試験は-100℃で実施した。表2に試験結果を示す。
表2に示すように、No.1~15の本発明例は、いずれもDASが5μm以下の微細組織となり、200kN・m/kg以上の比強度と60J以上の-100℃衝撃吸収エネルギーを有するものとなった。図3に本発明材のミクロ組織写真例を示す。
これに対し、No.16~27の比較例のうちNo.16~26は、積層造形により製造されたためDASの値は5μm以下であったが、組成が本発明の範囲から外れるため、比強度および衝撃吸収エネルギーのいずれかが低い値となった。また、No.27は、組成範囲は本発明の範囲内であるが、DASの値が極めて大きく、比強度および衝撃吸収エネルギーのいずれもが低い値となった。
Figure 0007699427000001
Figure 0007699427000002

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C:0.12~0.3%、
    Si:0.15~0.7%、
    Mn:0.4~1.2%、
    P:0.015%以下、
    S:0.015%以下、
    Ni:2~4%、
    Cr:0.1~0.5%、
    Mo:0.3~0.5%
    を含有し、
    残部がFeおよび不可避不純物からなり、デンドライト2次アーム間隔が5μm以下である凝固組織を有することを特徴とする高強度高靭性鉄基合金。
  2. 質量%で、V:0.05~0.15%をさらに含有し、CおよびVの含有量が質量%で
    C×0.3≦V≦C×0.6
    を満足することを特徴とする請求項1に記載の高強度高靭性鉄基合金。
  3. 質量%で、Ca:0.01~0.05%をさらに含有し、CaおよびSの含有量が質量%で
    S×2≦Ca≦S×4.5
    を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高強度高靭性鉄基合金。
  4. C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Mo/4+Cr/5+V/14
    で表される炭素当量の値が、質量%で0.6%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高強度高靭性鉄基合金。
  5. 比強度≧200kN・m/kg、-100℃衝撃吸収エネルギー≧60J(2mmVノッチシャルピー衝撃試験片)を同時に満足することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の高強度高靭性鉄基合金。
  6. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の組成を有する合金素材を、レーザーまたは電子ビームによって、溶融・凝固させて積層造形し、デンドライト2次アーム間隔が5μm以下である凝固組織を有する高強度高靭性鉄基合金を製造することを特徴とする高強度高靭性鉄基合金の製造方法。
  7. 記合金素材は、粉末であることを特徴とする請求項6に記載の高強度高靭性鉄基合金の製造方法。
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