本開示を詳述する前に概要を説明する。本開示は、X線を反射させるX線ミラー装置に関する。本開示に係るX線ミラー装置は、外側ミラー(第1ミラーともいう)と、光軸と外側ミラーの間に配置される内側ミラー(第2ミラーともいう)とを備える。つまり、X線ミラー装置は、外側ミラーと内側ミラーを組み合わせたネスト型の構造を有する。本開示によれば、外側ミラーと内側ミラーを組み合わせにより、それぞれのミラーに入射するX線の斜入射角を全反射可能な角度(例えば10mrad)以下に抑えつつ、X線光学系の開口数を向上できる。
X線光学系では、ミラーの斜入射角が極めて小さいために、光軸から外側ミラーまでの距離も極めて小さくなり、例えば5mm以下となりうる。この場合、光軸と外側ミラーの間に内側ミラーを配置するためには、内側ミラーを非常に薄くする必要があり、例えば1mm以下、または500μm以下の厚さが必要である。また、X線光学系にて要求される反射面の形状精度は10nm以下または5nm以下とされる。そのため、内側ミラーには、極めて薄い基板の表面の形状精度を10nm以下に維持するという非常に困難な仕様が要求される。
本開示では、内側ミラーを圧電基板により形成し、圧電基板の両面に電極を形成することにより、圧電基板の表面からなる反射面の形状を印加電圧に応じて可変にする。つまり、内側ミラーとして形状可変ミラーを用いる。非常に薄い圧電基板を用いることにより、光軸と外側ミラーの間の限られたスペースに内側ミラーを配置可能となる。また、内側ミラーを形状可変ミラーとすることにより、内側ミラーの理想形状からのずれを補償することができ、薄い基板を用いる内側ミラーの反射面の形状精度を向上できる。
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、説明の理解を助けるため、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の寸法比と一致しない。
下記の実施形態では、X線を反射させるためのX線ミラー装置について説明するが、本開示は、X線またはX線とは異なる波長を有する光線を反射させるミラー装置として用いることができる。この場合、光線は、可視光であってもよいし、赤外光であってもよいし、紫外光であってもよいし、極端紫外光であってもよい。光線は、X線よりも波長の短いガンマ線であってもよい。光線は、レーザー光であってもよい。ミラー装置は、光線を利用する任意の光学装置に用いることができる。ミラー装置において、光線が入射する面のことを入射面または反射面ということがある。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るX線ミラー装置10の構成を概略的に示す断面図である。X線ミラー装置10は、外側ミラー(または第1ミラー)12と、内側ミラー(または第2ミラー)14とを備える。X線ミラー装置10は、第1焦点F1からのX線20を反射し、第2焦点F2に集束させるよう構成される。図1において、第1焦点F1と第2焦点F2を結ぶ直線を光軸18とする。また、光軸18に近づく方向を内側方向、光軸18から遠ざかる方向を外側方向ということがある。
図1のX線ミラー装置10は、対物レンズとして用いることができる。例えば、第1焦点F1に試料が配置され、試料からのX線が拡大されて第2焦点F2に結像される。第2焦点F2には、試料の拡大像(X線像)を検出されるためのX線検出装置が配置される。X線ミラー装置10は、外側ミラー12と内側ミラー14の組み合わせにより、X線ミラー装置10が集束可能な第1焦点F1からのX線20の角度範囲α1、α2の合計(つまり開口数)を大きくする。これにより、観察する試料の空間分解能を向上させることができ、例えば10nm以下または5nm以下の空間分解能を実現できる。
外側ミラー12は、X線20が斜入射する外側反射面(または第1反射面)22を有する。内側ミラー14は、X線20が斜入射する内側反射面(または第2反射面)24と、内側反射面24とは反対側の面(または裏面)26とを有する。外側反射面22および内側反射面24のそれぞれは、例えば、第1焦点F1および第2焦点F2に一致する二つの焦点を有する楕円形状の凹曲面である。
外側反射面22および内側反射面24のそれぞれは、円弧状、楕円状、双曲線状または放物線状の凸曲面または凹曲面であることができる。外側反射面22および内側反射面24のそれぞれは、一方向(例えば、光軸方向)のみに曲率を有してもよい。外側反射面22および内側反射面24のそれぞれは、二方向に曲率を有する曲面であってもよいし、平坦面であってもよい。
外側ミラー12は、光軸18から離れて配置され、外側反射面22が内側となるように配置される。外側ミラー12は、外側反射面22から見て外側反射面22の法線方向に光軸18が存在するように配置される。
内側ミラー14は、光軸18と外側ミラー12の間に配置される。内側ミラー14は、内側反射面24が内側、裏面26が外側となるように配置される。内側ミラー14は、内側反射面24から見て内側反射面24の法線方向に光軸18が存在するように配置される。内側ミラー14は、外側反射面22の法線方向に外側反射面22から離れて配置される。内側ミラー14の裏面26は、外側反射面22と対向する。
外側反射面22および内側反射面24は、色収差のない斜入射全反射ミラーであることが好ましい。外側反射面22および内側反射面24は、例えば、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、金(Au)などの単一の金属材料からなる金属薄膜で構成される。外側反射面22および内側反射面24は、色収差を避けるために、ブラッグ反射を利用する多層膜ミラーを備えない構成であることが好ましい。多層膜ミラーは、例えば、重元素からなる複数の第1層と、軽元素からなる複数の第2層とを交互に周期的に積層させた多層膜によって構成される。
外側反射面22および内側反射面24は、色収差が許容される用途においては、多層膜ミラーを備えてもよい。ただし、色収差の影響を緩和するために、多層膜ミラーの積層数(例えば、第1層の層数と第2層の層数の合計)を100以下、30以下または15以下とすることが好ましい。X線吸収端構造(XANES;X-ray Absorption Near Edge Structure)を計測する用途では、例えば±100eV程度のエネルギー範囲において色収差が無視できる程度の光学特性が求められ、この場合には多層膜ミラーの積層数を100以下とすることが好ましい。X線広域微細構造(EXAFS;Extended X-ray Absorption Fine Structure)を計測する用途では、例えば±500eV程度のエネルギー範囲において色収差が無視できる程度の光学特性が求められ、この場合には多層膜ミラーの積層数を30以下または15以下とすることが好ましい。
なお、外側反射面22および内側反射面24の一方を全反射ミラーとし、外側反射面22および内側反射面24の他方を多層膜ミラーとしてもよい。例えば、斜入射角が相対的に大きくなる外側反射面22を多層膜ミラーとし、斜入射角が相対的に小さくなる内側反射面24を全反射ミラーとしてもよい。
外側反射面22は、第1焦点F1からの第1角度範囲α1のX線束20aを第2焦点F2に向けて反射させる。第1角度範囲α1は、外側反射面22に入射するX線20の斜入射角の最大値θ1および最小値θ2を用いて、α1≒θ1-θ2と表すことができる。外側反射面22にてX線20を全反射させるためには、斜入射角の最大値θ1を臨界角以下とする必要がある。臨界角の大きさは、X線20のエネルギー(つまり波長)に依存し、X線20のエネルギーが大きくなるほど臨界角が小さくなる。例えば、X線のエネルギーが10keVであれば、臨界角の大きさは約7mradである。第1角度範囲α1を最大化するという観点では、外側反射面22における斜入射角の最大値θ1は、できるだけ大きいことが好ましい。したがって、外側反射面22における斜入射角の最大値θ1は、上限値である臨界角にできるだけ近いことが好ましい。
内側反射面24は、第1焦点F1からの第2角度範囲α2のX線束20aを第2焦点F2に向けて反射させる。第2角度範囲α2は、第1角度範囲α1とは異なる角度範囲である。第2角度範囲α2は、内側反射面24に入射するX線20の斜入射角の最大値θ3および最小値θ4を用いて、α2≒θ3-θ4と表すことができる。内側反射面24は、外側反射面22よりも内側に配置されるため、内側反射面24における斜入射角の最大値θ3は、外側反射面22における斜入射角の最大値θ1よりも小さくなる。例えば、内側反射面24における斜入射角の最大値θ3は、臨界角よりも小さな値となりうる。
X線20の斜入射角が小さい場合、反射面に必要とされる形状精度が緩和される。したがって、内側反射面24の形状精度は、外側反射面22の形状精度よりも低くてもよい。外側反射面22および内側反射面24の形状精度(PV;Peak-to-Valley)は、10nm以下または5nm以下である。外側反射面22の形状精度(PV)は、3nm以下であることが好ましく、例えば2nm程度である。内側反射面24の形状精度(PV)は、3nm以上であってもよく、例えば5nm程度であってもよい。外側反射面22および内側反射面24の形状精度(PV)は、切削や機械研磨等による粗加工の後、EEM(Elastic Emission Machining)等の公知の精密加工を施すことにより実現できる。
第1距離D1は、外側反射面22における斜入射角の最大値θ1を臨界角(例えば10mrad)以下にし、かつ、X線光学系を実用的なサイズ(例えば1m~10m)に収めるという制約によって小さな値となる。光軸18から外側反射面22までの第1距離D1は、例えば10mm以下、5mm以下、3mm以下、または1mm以下である。第1距離D1は、例えば100μm以上、200μm以上、300μm以上、または500μm以上である。
第1距離D1は、光軸18の内側反射面24までの第2距離D2、内側反射面24から裏面26までの内側ミラー14の厚さt、および内側ミラー14から外側反射面22までの第3距離D3の合計に相当する(つまり、D1=D2+t+D3)。第1角度範囲α1および第2角度範囲α2の合計を最大化するためには、内側ミラー14の厚さtを可能な限り小さくすることが好ましい。内側ミラー14の厚さtは、例えば1mm以下、500μm以下、300μm以下、または200μm以下である。内側ミラー14の厚さtは、例えば10μm以上、50μm以上、100μm以上、150μm以上、または200μm以上である。第2距離D2および第3距離D3のそれぞれは、例えば50μm以上、100μm以上、200μm以上、または500μm以上である。第2距離D2および第3距離D3のそれぞれは、例えば5mm以下、3mm以下、2mm以下、または1mm以下である。第3距離D3は、例えば第2距離D2より大きい。第3距離D3は、第2距離D2と同じでもよいし、第2距離D2よりも小さくてもよい。
内側ミラー14は、圧電基板を用いた形状可変ミラーとして構成される。内側ミラー14を形状可変ミラーとすることにより、極めて薄い厚さtと内側反射面24の形状精度を両立できる。内側ミラー14に用いることのできる形状可変ミラーの詳細は、別途後述する。一方、外側ミラー12は、厚さの制約がないため、外側反射面22の形状精度を実現できる限りにおいて、任意の種類のミラーを用いることができる。
外側ミラー12は、圧電材料を用いた形状可変ミラーであってもよいし、圧電材料を用いない(つまり形状可変ではない)通常のミラーであってもよい。外側ミラー12が通常のミラーである場合、シリコンやガラスといった表面形状を精密に加工できる任意の材料の基板から構成される。外側ミラー12が形状可変ミラーである場合、外側反射面22を有する基板の表面に圧電素子を貼り付けたものを用いてもよいし、外側反射面22を有する圧電基板を用いてもよい。
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態に係る形状可変ミラー30の構成を概略的に示す断面図である。図2の形状可変ミラー30は、図1の内側ミラー14として用いることができる。図2の形状可変ミラー30は、図1の外側ミラー12として用いられてもよい。形状可変ミラー30は、圧電基板32と、反射面電極(または第1電極)34と、裏面電極(または第2電極)36と、電源38とを備える。
図2において、形状可変ミラー30におけるX線20の入射方向と反射方向の双方に直交する方向をx方向としている。また、圧電基板32の厚み方向をz方向とし、x方向およびz方向の双方に直交する方向をy方向としている。y方向は、X線20の光軸18が延びる方向(光軸方向ともいう)に相当する。図示される座標軸は、説明の理解を助けるために設定されるものであり、形状可変ミラー30の使用時の向きを限定するものではない。
圧電基板32は、反射面40と、反射面40とは反対側の面(または裏面)42とを有する。反射面40には反射面電極34が設けられ、裏面42には裏面電極36が設けられる。圧電基板32の厚みは、10μm以上10mm以下であり、例えば50μm以上1mm以下である。圧電基板32の厚みは、100μm以上、200μm以上、または250μm以上であってもよい。圧電基板32の厚みは、500μm以下、400μm以下、または300μm以下であってもよい。
圧電基板32は、圧電材料からなり、例えば、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)などの圧電単結晶材料からなる。圧電基板32として、例えば、127.86度YカットLN基板、140度YカットLN基板または36度YカットLN基板などを用いることができる。
圧電基板32は、反射面電極34と裏面電極36の間に印加される電圧に応じて変形する。圧電基板32は、第1圧電層44と、第2圧電層46とを備える。第1圧電層44および第2圧電層46は、z方向に印加される電圧に応じてy方向に伸縮する。第1圧電層44および第2圧電層46は、同一材料であって、分極方向が互いに反対である。図2の例では、第1圧電層44の分極方向A1は-z方向であり、第2圧電層46の分極方向A2は+z方向である。第1圧電層44が伸長するように電圧を印加すると、第2圧電層46は収縮する。逆に、第1圧電層44が収縮するように電圧を印加すると、第2圧電層46は伸長する。その結果、圧電基板32は、バイモルフ型圧電素子のように機能する。第1圧電層44および第2圧電層46の厚さは、同程度であることが好ましい。
圧電基板32は、例えば、第1圧電層44および第2圧電層46のそれぞれに対応する二枚の基板を用意し、互いの分極方向が反対となる向きで二枚の基板を接合することにより形成できる。第1圧電層44および第2圧電層46は、オプティカルコンタクトなどの接着剤を用いない方法で接合されることが好ましい。
圧電基板32は、分極方向が一定である基板を熱処理することによって形成されてもよい。LN基板やLT基板では、キュリー点近傍の温度で熱処理によって分極方向が反転した分極反転層が形成されることが知られている。
図3(a)~(c)は、分極反転層56の形成方法の一例を模式的に示す図であり、LN基板を用いる場合を示す。図3(a)は、熱処理前のLN基板50を示す。LN基板50は、プラス面52とマイナス面54を有する。LN基板50の分極方向A2は、マイナス面54からプラス面52に向かう方向である。図3(b)は、熱処理中のLN基板50を示す。熱処理によってプラス面52の近傍に分極反転層56が形成される。熱処理の温度は、例えば1100~1150℃である。分極反転層56の厚さt1は、熱処理時間に依存し、熱処理の時間が長くなるほど厚さt1が増える。図3(c)は、熱処理後のLN基板50を示す。熱処理時間を調整することにより、分極反転層56の厚さt1をLN基板50の厚さtの半分にすることができる。例えば、LN基板50の厚さtが200μmの場合、分極反転層56の厚さt1を100μmとするために必要な熱処理の条件は、1150℃で約6時間である。
圧電基板32としてLT基板を用いる場合、熱処理の前に、LT基板を安息香酸やピロリン酸などに浸漬し、基板表面のリチウムイオン(Li+)をプロトン(H+)に交換するプロトン交換法を適用する必要がある。プロトン交換後に、LT基板を550℃~600℃で熱処理することにより、互いの分極方向が反対となる第1圧電層44および第2圧電層46を形成できる。LT基板を用いる場合、LN基板を用いる場合とは分極方向が逆となり、第1圧電層44の分極方向が+z方向となり、第2圧電層46の分極方向が-z方向となる。これは、熱処理中にプロトンが結晶内部に拡散していくために、プラス面ではなく、マイナス面に分極反転層が形成されるためと考えられる。
なお、圧電基板32として、バイモルフ型ではない圧電材料を用いてもよい。この場合、圧電基板32は、その全体の分極方向が一様であってもよい。圧電基板32がバイモルフ型ではない場合、圧電基板32は、z方向に印加される電圧に応じてz方向に伸縮するように構成されてもよい。
図2に戻り、反射面40は、斜入射全反射ミラーとして求められる形状精度および表面粗さを有する。反射面40の形状精度(PV)は、例えば10nm以下であり、好ましくは2nm以上5nm以下である。反射面40の表面粗さ(Rms)は、例えば0.5nm以下であり、好ましくは0.05nm以上0.2nm以下である。
反射面40は、例えば、円弧状、楕円状、双曲線状または放物線状の凸曲面または凹曲面であり、一方向(例えば、y方向)のみに曲率を有する。図2の例において、反射面40は凹曲面である。反射面40は、平坦面であってもよいし、二方向(例えばx方向およびy方向)に曲率を有する曲面であってもよい。裏面42は、例えば、研磨された平坦面である。
反射面電極34は、反射面40に設けられる。反射面電極34は、例えば10nm以上100nm以下の厚さを有する。反射面電極34は、例えば、反射面40の全体を被覆し、反射面40の全体にわたって均一な厚みを有するように設けられる。反射面電極34が均一な厚みを有することにより、反射面電極34の表面は、反射面40に対応した形状を有し、反射面40と同等の形状精度および表面粗さを有する。反射面電極34は、圧電基板32に電圧を印加するための電極として機能するとともに、X線20を全反射させる全反射ミラーとしても機能する。
反射面電極34の材料として、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、金(Au)などを用いることができる。反射面電極34は、単一材料の金属薄膜で構成されてもよいし、材料の異なる複数の金属薄膜の積層体として構成されてもよい。反射面電極34は、例えば、反射面40と接触するCrやTiなどの接着層と、接着層上に形成されるRh,Pt,Auなどの反射層とを有してもよい。反射面電極34は、蒸着法やスパッタリング法を用いて形成できる。
裏面電極36は、裏面42に設けられる。裏面電極36は、光軸方向(例えば、y方向)に間隔をあけて並べられる複数の電極36a,36b,36c,36d,36e,36f,36g,36h,36iを備える。複数の電極36a~36iの光軸方向(例えば、y方向)の幅wは、例えば0.5mm以上10mm以下であり、好ましくは1mm以上6mm以下である。複数の電極36a~36iの光軸方向(例えば、y方向)の間隔dは、例えば0.1mm以上5mm以下であり、好ましくは0.5mm以上4mm以下である。複数の電極36a~36iの光軸方向(例えば、y方向)のピッチp(幅wと間隔dの合計)は、例えば、1mm以上15mm以下であり、好ましくは1.5mm以上10mm以下である。
複数の電極36a~36iは、例えば、光軸方向(例えば、y方向)の幅w、間隔dおよびピッチpが一定となるように構成される。複数の電極36a~36iのそれぞれの幅w、間隔dおよびピッチpの少なくとも一つは、互いに異なるように構成されてもよい。例えば、反射面40に斜入射するX線20の角度θが光軸方向の位置に応じて異なる場合、X線20から見たときの実効的なピッチp×θが一定となるように、複数の電極36a~36iのピッチpを互いに異ならせてもよい。
裏面電極36は、金属材料からなり、例えば、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などを用いることができる。裏面電極36の厚みは、特に限られないが、例えば、100nm以上1000nm以下である。
電源38は、反射面電極34と裏面電極36の間に直流電圧を印加する。電源38は、複数の電極36a~36iのそれぞれに異なる電圧を印加可能となるよう構成される。図2では、図面の煩雑化を防ぐため、電源38が複数の電極36a~36iのうちの一つの電極36aのみに接続されている。実際には、電源38は、複数の電極36a~36iのそれぞれと接続される。電源38は、複数の電極36a~36iのそれぞれに印加する電圧を独立して制御するように構成される。電源38は、例えば-1kVから+1kVの範囲で可変となる直流電圧を印加する。電源38は、複数の電極36a~36iのそれぞれの印加電圧を個別に可変制御することにより、電源38は、複数の電極36a~36iのそれぞれに対応する位置における圧電基板32の変形量を制御し、反射面40の形状を可変制御する。
図4は、形状可変ミラー30の反射面40の変形量の一例を示すグラフである。図4は、複数の電極36a~36iに電圧を印加していないときの反射面40の高さを基準とし、複数の電極36a~36iの印加電圧の大きさを10V、20V、30V、40V、50Vおよび100Vとした場合の反射面40の変形量を示す。複数の電極36a~36iの印加電圧は、光軸方向(例えば、y方向)に正負を交互に入れ替えている。グラフの縦軸は、厚み方向(z方向)の変形量[nm]であり、グラフの横軸は、光軸方向(例えば、y方向)の位置[mm]である。図4の実施例では、複数の電極36a~36iの幅wを5mmとし、間隔dを1mmにしている。圧電基板32として、250μm厚のバイモルフ型のLN基板を用いている。
図4に示されるように、変形後の反射面40の凸部と凹部が約6mmごとに生じており、6mmピッチで配置される複数の電極36a~36iの位置に対応するように反射面40を変形できていることが分かる。複数の電極36a~36iの印加電圧の大きさを100Vとした場合、凸部と凹部の高低差は約1mmであり、バイモルフ型に起因する大きな変形量を実現できている。また、印加電圧と変形量の間には高い線形性があることが分かる。さらに、PZTなどの圧電セラミック材料に存在するようなヒステリシスが見られず、印加電圧を固定しているにも拘わらず時間経過とともに変形量が変化してしまうドリフトも見られない。したがって、本実施形態に係る形状可変ミラー30によれば、印加電圧に応じて変形量を一意に決めることができ、反射面40の形状を安定的に高い再現性で制御できる。
本実施形態によれば、X線20を反射面40に照射しながら反射面40の形状を可変制御できるため、形状可変ミラー30が組み込まれるX線ミラー装置10において最適となるように反射面40の形状を事後的に調整できる。例えば、X線を用いるペンシルビーム法により反射面40の形状を計測することで、形状可変ミラー30をX線ミラー装置10に適用した状態において、反射面40の形状の計測および調整をその場で精密に実行できる。
形状可変ミラー30を内側ミラー14として用いる場合、圧電基板32の厚さが非常に小さいため、内側ミラー14を支持するための支持力に起因した歪みが内側反射面24に生じうる。本実施形態によれば、内側ミラー14が形状可変ミラー30であるため、内側反射面24の支持力に起因する歪みを補償し、内側反射面24が理想形状となるように変形させることができる。例えば、内側ミラー14の支持力に起因する内側反射面24の歪みを有限要素法などのシミュレーションによって高精度に予測しておくことで、その歪みを高い精度で補償できる。
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る形状可変ミラー30Aの構成を概略的に示す上面図である。第3実施形態では、圧電基板32の反射面40に反射面電極33および反射膜35が設けられる。反射面電極33は、光軸方向(例えば、y方向)に間隔をあけて並べられる複数の電極33a,33b,33c,33d,33e,33f,33g,33h,33iを備える。本実施形態について、上述の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を適宜省略する。
形状可変ミラー30Aは、圧電基板32と、反射面電極33と、反射膜35と、裏面電極36(図2参照)と、電源38(図2参照)とを備える。反射面電極33および反射膜35は、圧電基板32の反射面40に設けられる。反射膜35は、X線20が入射する反射面40のx方向の中央部に配置される。反射膜35は、X線20を全反射させる全反射ミラーとして機能する。反射膜35は、上述の実施形態に係る反射面電極34と同様の材料および厚さで構成されることができる。
反射面電極33は、反射膜35を挟んでx方向の両側に配置される。反射面電極33は、反射膜35からx方向に離れて配置される。反射面電極33は、複数の電極33a~33iを備える。複数の電極33a~33iは、上述の実施形態に係る裏面電極36の複数の電極36a~36iと同様の幅w、間隔d、ピッチpを有することができる。反射面電極33は、上述の実施形態に係る反射面電極34と同様の材料および厚さで構成されることができる。反射面電極33は、上述の実施形態に係る裏面電極36と同様の材料および厚さで構成されてもよい。
本実施形態において、裏面電極36は、上述の実施形態と同様に複数の電極36a~36iを備えることができる。この場合、裏面電極36の複数の電極36a~36iの幅w、間隔d、ピッチpは、反射面電極33の複数の電極33a~33iの幅w、間隔d、ピッチpと共通であることが好ましい。
本実施形態において、裏面電極36は、上述の実施形態と同様の複数の電極36a~36iを備えなくてもよい。この場合、裏面電極36は、圧電基板32の裏面42(図2参照)の全面に均一に形成され、共通電極として機能してもよい。
電源38は、反射面電極33の複数の電極33a~33iのそれぞれに異なる電圧を印加可能となるよう構成される。裏面電極36が複数の電極36a~36iを備える場合、電源38は、反射面電極33および裏面電極36の対向する電極のペア(例えば電極33aと電極36aのペア、電極33bと電極36bのペアなど)の間に電圧を印加する。
本実施形態においても、上述の実施形態と同様の効果を実現できる。
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態に係る形状可変ミラー30Bの構成を概略的に示す断面図である。第4実施形態では、第1圧電層44Bと第2圧電層46Bの間に中間電極48がさらに設けられる。本実施形態について、上述の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を適宜省略する。
形状可変ミラー30Bは、圧電基板32Bと、反射面電極(または第1電極)34と、裏面電極(または第2電極)37と、電源38Bと、中間電極48(または第3電極)とを備える。反射面電極34は、上述の実施形態と同様に構成される。裏面電極37は、圧電基板32の裏面42の全面に均一に形成され、共通電極として機能する。
圧電基板32Bは、第1圧電層44Bと、第2圧電層46Bとを備え、第1圧電層44Bと第2圧電層46Bとの間に中間電極48が設けられる。第1圧電層44Bおよび第2圧電層46Bは、同一材料であり、分極方向が同じである。図6の例では、第1圧電層44Bの分極方向B1は-z方向であり、第2圧電層46Bの分極方向B2も-z方向である。第1圧電層44Bおよび第2圧電層46Bの分極方向B1,B2は、図示されるものに限られず、例えば+z方向であってもよい。
中間電極48は、光軸方向(例えば、y方向)に間隔をあけて並べられる複数の電極48a,48b,48c,48d,48e,48f,48g,48h,48iを備える。複数の電極48a~48iは、上述の実施形態に係る裏面電極36の複数の電極36a~36iと同様の幅w、間隔d、ピッチpを有することができる。中間電極48は、上述の実施形態に係る反射面電極34や裏面電極36と同様の材料および厚さで構成されることができる。
中間電極48は、例えば、蒸着法やスパッタリング法を用いて、第1圧電層44Bの接合面に第1金属膜を形成し、第2圧電層46Bの接合面に第2金属膜を形成した後、第1金属膜と第2金属膜を接合することにより形成できる。第1金属膜と第2金属膜の接合方法は特に問わず、任意の接合技術を用いることができる。一例として、常温接合や拡散接合といった固相接合技術を用いることができる。その他、導電性接着剤や金属ナノ粒子などのバインダー材料を用いて、第1金属膜と第2金属膜の間を電気的および機械的に接合してもよい。第1金属膜と第2金属膜の間は、絶縁性の接着剤や接着層によって機械的に接合されてもよい。中間電極48は、第1圧電層44Bまたは第2圧電層46Bの一方の接合面のみに形成される金属膜で構成されてもよい。これらの場合において、第1圧電層44Bと第2圧電層46Bの間の接合方法は特に限られず、任意の材料の接着剤や接着層を用いてもよいし、接着剤を用いない接合方法を用いてもよい。
電源38Bは、反射面電極34と中間電極48の間に直流電圧を印加するとともに、中間電極48と裏面電極37の間に直流電圧を印加する。図6の例では、反射面電極34と裏面電極37の電位が共通となるように電源38Bが接続されている。なお、変形例では、反射面電極34と中間電極48の間に直流電圧を印加する第1電源とは別に、中間電極48と裏面電極37の間に直流電圧を印加する第2電源を用いてもよい。つまり、反射面電極34と中間電極48の間の第1印加電圧と、中間電極48と裏面電極37の間の第2印加電圧とを個別に制御可能であってもよい。
図6の例では、第1圧電層44Bに印加される電界の方向と、第2圧電層46Bに印加される電界の方向が上下逆となる。第1圧電層44Bおよび第2圧電層46Bは、分極方向が同じであるため、互いに逆方向の電圧が印加されることによって、バイモルフ型圧電素子のように機能する。
本実施形態においても、上述の実施形態と同様の効果を実現できる。
なお、図6の構成の変形例では、第1圧電層44Bの反射面40に、図5に示される反射面電極33および反射膜35を設けてもよい。つまり、第1圧電層44Bの反射面40には、複数の電極33a~33iが設けられてもよい。また、第2圧電層46Bの裏面42に、上述の実施形態に係る裏面電極36を設けてもよい。つまり、第2圧電層46Bの裏面42には、複数の電極36a~36iが設けられてもよい。この場合、中間電極48は、複数の電極48a~48iを備えてもよいし、複数の電極48a~48iを備えなくてもよい。後者の場合、中間電極48は、第1圧電層44Bおよび第2圧電層46Bの接合面の全面に形成される共通電極として機能してもよい。電源38Bは、反射面電極33の複数の電極33a~33iのそれぞれに異なる電圧を印加可能となるよう構成されてもよい。電源38Bは、裏面電極36の複数の電極36a~36iのそれぞれに異なる電圧を印加可能となるよう構成されてもよい。
(第5実施形態)
図7は、第5実施形態に係る形状可変ミラー30Cの構成を概略的に示す下面図である。第5実施形態では、裏面電極36がx方向およびy方向に二次元アレイ状に配列される。第5実施形態では、二次元アレイ状の裏面電極36のそれぞれに異なる電圧を印加することにより、反射面40の形状を二次元で可変制御することができる。図7に示す例では、圧電基板32の外形が円形であるが、基板32の外形は特に限定されない。圧電基板32の外形は矩形であってもよい。
(第6実施形態)
図8は、第6実施形態に係る形状可変ミラー30Dの構成を概略的に示す下面図である。第6実施形態では、圧電基板32の外形が円形であり、裏面電極36が径方向および周方向に二次元アレイ状に配列される。第6実施形態においても、二次元アレイ状の裏面電極36のそれぞれに異なる電圧を印加することにより、反射面40の形状を二次元で可変制御することができる。
(第7実施形態)
図9は、第7実施形態に係る形状可変ミラー30Eの構成を概略的に示す断面図である。第7実施形態では、反射面電極34の上に多層膜ミラー58がさらに設けられる点で、上述の実施形態と相違する。本実施形態について、上述の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を適宜省略する。
形状可変ミラー30Eは、圧電基板32と、反射面電極34と、裏面電極36と、電源38と、多層膜ミラー58とを備える。多層膜ミラー58は、多層膜ミラー58に入射する光線20Eを高反射率で反射させるように構成される。光線20Eが紫外光、可視光または赤外光である場合、多層膜ミラー58は、誘電体多層膜であってもよく、光線20Eの反射率が99%以上、例えば99.9%以上となるように構成されてもよい。誘電体多層膜の材料は特に限られないが、Al2O3、SiO2、HfO2などの酸化物材料や、LaF3、MgF2、AlF3などのフッ化物材料を用いることができる。多層膜ミラー58の厚さは特に限られないが、例えば圧電基板32の厚さよりも小さい。多層膜ミラー58の厚さは、例えば1μm以上、5μm以上または10μm以下であり、例えば50μm以下、20μm以下または10μm以下である。
形状可変ミラー30Eは、反射面電極34と多層膜ミラー58との間に追加の誘電体層を備えない。したがって、圧電基板32の反射面40から多層膜ミラー58の上面59までの間に含まれる誘電体材料の厚さは、多層膜ミラー58の厚さに一致する。形状可変ミラー30Eは、反射面電極34と多層膜ミラー58との間に追加の誘電体層を備えてもよい。追加の誘電体層の材料として、誘電体多層膜と同様の材料を用いることができる。追加の誘電体層の厚さは、例えば1μm以上、5μm以上または10μm以下であり、例えば50μm以下、20μm以下または10μm以下である。これらの場合、圧電基板32の反射面40から多層膜ミラー58の上面59までの厚さは、1mm以下であり、例えば200μm以下、100μm以下または50μm以下である。
(第8実施形態)
図10は、第8実施形態に係る形状可変ミラー30Fの構成を概略的に示す上面図である。第8実施形態では、図5に示す第3実施形態と同様、圧電基板32の反射面40に反射面電極33および反射膜35が設けられる。第8実施形態では、反射面電極33および反射膜35の外周形状を、角を丸めた多角形としている点で第3実施形態と相違する。本実施形態について、上述の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を適宜省略する。
反射面電極33を構成する複数の電極33a~33hのそれぞれの外周形状は、角33rを丸めた多角形であり、例えば角33rを丸めた矩形である。各電極33a~33hの角33rの曲率半径は、例えば、各電極33a~33hの光軸方向(例えば、y方向)の幅wの1%以上、5%以上または10%以上であり、幅wの50%以下、30%以下または20%以下である。反射面電極33を構成する各電極33a~33hの角33rに丸みを持たせることにより、角33rにおける電界集中を緩和し、高電圧が印加される際に生じうる放電を抑制できる。
反射膜35の外周形状は、角35rを丸めた多角形であり、例えば角35rを丸めた矩形である。反射膜35の角35rの曲率半径は、反射面電極33を構成する各電極33a~33hの角33rの曲率半径と同じか、それよりも大きい。反射膜35の角35rの曲率半径は、例えば、各電極33a~33hの光軸方向(例えば、y方向)の幅wの1%以上、5%以上または10%以上であり、幅wの100%以下、50%以下または30%以下である。反射膜35の角35rに丸みを持たせることにより、角35rにおける電界集中を緩和し、反射面電極33と反射膜35の間で生じうる放電を抑制できる。
なお、他の実施形態に係る形状可変ミラー30,30A,30B,30C,30D,30Eにおいても、反射面電極(または第1電極)33,34、反射膜35、および裏面電極(または第2電極)36,37の少なくとも一つの外周形状は、角を丸めた多角形または矩形であってもよい。例えば、図7や図8に示される形状可変ミラー30C、30Eにおいて、裏面電極36の角に丸みを持たせてもよい。
図11は、形状可変ミラー30Fの反射面の変形量の一例を示すグラフである。破線で示される曲線G1は、形状可変ミラー30Fの複数の電極33a~33hに電圧を印加していないときの反射膜35の表面形状を示す。実線で示される曲線G2は、形状可変ミラー30Fの複数の電極33a~33hに所定の電圧を印加したときの反射膜35の表面形状を示す。グラフの縦軸は、反射膜35の表面の理想形状からの誤差を示す。曲線G1で示される電圧印加前の形状精度(PV)は、140nm程度である。一方、曲線G2で示される電圧印加後の形状精度(PV)は、3nmであり、X線ミラーとして好ましい形状精度を実現できていることが分かる。
なお、図11に示される形状精度は、本実施形態に係る形状可変ミラー30Fのみならず、他の実施形態に係る形状可変ミラー30,30A,30B,30C,30D,30Eにおいても実現することができる。
図12(a),(b)は、形状可変ミラー30Fの動作例を模式的に示す図である。図12(a)は、形状可変ミラー30Fの反射面40を凹曲面とし、反射面40に入射するX線20を試料39の特定点39aに集束させる場合を示す。図12(b)は、形状可変ミラー30Fの反射面40を凸曲面とし、反射面40に入射するX線20を試料39の広い範囲39bに向けて発散させる場合を示す。
本実施形態に係る形状可変ミラー30Fは、複数の電極33a~33hに印加される電圧の変化に応じた反射面40の変形量が大きいため、電圧を変化させるだけで、図12(a)の状態と図12(b)の状態とを切り替えることができる。図12(a)の状態において、特定点39aにおけるX線20のビーム幅を200nm程度に集束させることができる。一方、図12(b)の状態において、X線20が照射される範囲39bの大きさを1mm以上または10mm以上に発散させることができる。例えば、試料39を固定したまま、試料39の特定点39aのみにX線20を照射する集束モードと、試料39の広い範囲39bにX線20を照射する発散モードとを切り替えることができる。これにより、試料39の局所的な測定と全体的な測定とを瞬時に切り替えることができ、ユーザの利便性を向上できる。
なお、図12(a),(b)に示される動作例は、本実施形態に係る形状可変ミラー30Fのみならず、他の実施形態に係る形状可変ミラー30,30A,30B,30C,30D,30Eにおいても実現することができる。
(第9実施形態)
図13は、第9実施形態に係るX線ミラー装置10Aの構成を概略的に示す断面図である。第9実施形態では、内側ミラー14Aの厚みが光軸方向にテーパー状に変化するように構成される点で、図1のX線ミラー装置10と相違する。以下、本実施形態について、上述の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を適宜省略する。
X線ミラー装置10Aは、外側ミラー12と、内側ミラー14Aとを備える。外側ミラー12は、上述の実施形態と同様に構成される。内側ミラー14Aは、内側反射面24Aと、裏面26Aとを備える。内側反射面24Aは、上述の実施形態の内側反射面24と同様に構成されることができる。
内側ミラー14Aは、X線20の入射側(第1焦点F1側)に位置する第1端部25と、X線の20の出射側(第2焦点F2側)に位置する第2端部27とを有する。内側ミラー14Aは、第1端部25から第2端部27に向けて光軸18に沿って延びる。内側ミラー14Aは、第1端部25の厚さtaと第2端部27の厚さtbが異なり、第1端部25から第2端部27に向けて厚さがテーパー状に変化するよう構成される。内側ミラー14Aの厚さは、光軸方向に単調に増加または減少するように構成される。図13の例では、第1端部25の厚さtaが第2端部27の厚さtbよりも小さく、第1端部25から第2端部27に向けて厚さが単調に増加するように構成される。図13とは異なる例では、第1端部25の厚さtaが第2端部27の厚さtbよりも大きく、第1端部25から第2端部27に向けて厚さが単調に減少するように構成されてもよい。
本実施形態によれば、内側ミラー14Aの厚さをテーパー状に変化させることにより、厚みを一定にする場合に比べて、第1端部25の厚みtaまたは第2端部27の厚みtbを小さくできる。その結果、内側ミラー14Aによって遮蔽されるために有効利用できないX線20の角度範囲δを小さくすることができ、第1角度範囲α1をより大きくすることができる。有効利用できない角度範囲δは、例えば第1角度範囲α1と第2角度範囲α2の間の範囲である。これにより、X線ミラー装置10Aの開口数をさらに向上させ、空間分解能を向上できる。
図13の例では、X線ミラー装置10Aから第1焦点F1までの距離が第2焦点F2までの距離よりも近いため、X線ミラー装置10Aに入射するX線束20a,20bの角度範囲α1,α2が相対的に大きく、X線ミラー装置10Aから出射するX線束20c,20dの角度範囲β1,β2が相対的に小さい。このような場合、外側ミラー12に入射するX線束20aと内側ミラー14Aに入射するX線束20bの間のスペースが特に限られる。一方で、外側ミラー12から出射するX線束20cと内側ミラー14Aから出射するX線束20dの間のスペースは比較的余裕がある。図13の例において、第1端部25の厚さtaを小さくすることにより、第1角度範囲α1にあるX線束20aが内側ミラー14Aによって遮蔽されることを防ぎ、X線ミラー装置10Aの開口数の向上に寄与できる。また、第2端部27厚さtbを大きくすることにより、内側ミラー14Aの機械的強度を向上できる。
なお、図13の例とは逆に、X線ミラー装置10Aから第2焦点F2までの距離が第1焦点F1までの距離よりも近い構成の場合、第1端部25の厚さtaを大きくし、第2端部27の厚さtbを小さくすることができる。これにより、X線ミラー装置10Aの開口数の向上と内側ミラー14Aの機械的強度の向上を両立できる。
(第10実施形態)
図14は、第10実施形態に係るX線ミラー装置110の構成を概略的に示す断面図である。X線ミラー装置110は、外側ミラー(または第1ミラー)112と、内側ミラー(または第2ミラー)114と、中間ミラー116(または第3ミラー)とを備える。第10実施形態では、外側ミラー112と内側ミラー114の間に中間ミラー116が追加される点で、上述の第1実施形態と相違する。以下、第10実施形態について、上述の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を適宜省略する。
外側ミラー112は、X線120が斜入射する外側反射面(または第1反射面)122を有する。外側反射面122は、第1焦点F1からの第1角度範囲α1のX線束120aを第2焦点F2に向けて反射させる。外側ミラー112は、上述の第1実施形態に係る外側ミラー12と同様に構成されることができる。
内側ミラー114は、X線120が斜入射する内側反射面(または第2反射面)124と、内側反射面124とは反対側の面(または裏面)126とを有する。内側反射面124は、第1焦点F1からの第2角度範囲α2のX線束120bを第2焦点F2に向けて反射させる。内側ミラー114は、上述の第1実施形態に係る内側ミラー14と同様に構成されることができる。
中間ミラー116は、X線120が斜入射する中間反射面(または第3反射面)128と、中間反射面128とは反対側の面(または裏面)130とを有する。中間反射面128は、第1焦点F1からの第3角度範囲α3のX線束120cを第2焦点F2に向けて反射させる。第3角度範囲α3は、第1角度範囲α1および第2角度範囲α2とは異なる角度範囲である。中間ミラー116は、外側ミラー112と内側ミラー114の間に配置される。中間ミラー116の中間反射面128は、内側ミラー114と対向する。中間ミラー116の裏面130は、外側ミラー112と対向する。
中間ミラー116は、内側ミラー114と同様、配置スペースの制約上、厚みを薄くする必要がある。中間ミラー116は、内側ミラー114と同様、中間反射面128の形状精度(PV)が10nm以下または5nm以下とすることが好ましい。中間ミラー116を内側ミラー114と同様に構成することにより、極めて薄い厚さと中間反射面128の形状精度を両立できる。中間ミラー116として、例えば、図2、図5または図6に示される形状可変ミラー30,30A,30Bを用いることができる。
本実施形態によれば、X線ミラー装置110を三枚のミラーを組み合わせたネスト構造とすることにより、X線ミラー装置110が集束可能な第1焦点F1からのX線120の角度範囲α1、α2、α3の合計(つまり開口数)を大きくできる。これにより、空間分解能を向上させることができ、例えば10nm以下または5nm以下の空間分解能を実現できる。
変形例においては、外側ミラー112と内側ミラー114の間に複数の中間ミラーを配置してもよい。また、外側ミラー112と内側ミラー114の間に配置される複数の中間ミラーとして形状可変ミラー30,30A,30Bを用いることができる。これにより、複数の中間ミラーのそれぞれについて、極めて薄い厚さと反射面の形状精度を両立できる。
変形例においては、図13に示される内側ミラー14Aと同様に、内側ミラー114および中間ミラー116の少なくとも一方の厚みをテーパー状に変化させてもよい。内側ミラー114の厚みのみをテーパー状に変化させてもよいし、中間ミラー116の厚みのみをテーパー状に変化させてもよいし、内側ミラー114および中間ミラー116のそれぞれの厚みをテーパー状に変化させてもよい。また、外側ミラー112と内側ミラー114の間に配置される複数の中間ミラーの厚みをテーパー状に変化させてもよい。
(第11実施形態)
図15は、第11実施形態に係るX線ミラー装置210の構成を概略的に示す断面図である。X線ミラー装置210は、第1外側ミラー(または第1ミラー)212と、第1内側ミラー(または第2ミラー)214と、第2外側ミラー(または第4ミラー)232と、第2内側ミラー(または第5ミラー)234とを備える。第3実施形態では、光軸218を挟んだ両側に外側ミラーおよび内側ミラーが配置される点で、上述の実施形態と相違する。以下、第11実施形態について、上述の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を適宜省略する。
第1外側ミラー212は、X線220が斜入射する第1外側反射面(または第1反射面)222を有する。第1外側反射面222は、第1焦点F1からの第1角度範囲α1のX線束220aを第2焦点F2に向けて反射させる。第1外側ミラー212は、上述の第1実施形態に係る外側ミラー12と同様に構成されることができる。
第1内側ミラー214は、X線220が斜入射する第1内側反射面(または第2反射面)224と、第1内側反射面224とは反対側の面(または第1裏面)226とを有する。第1内側反射面224は、第1焦点F1からの第2角度範囲α2のX線束220bを第2焦点F2に向けて反射させる。第1内側ミラー214は、上述の第1実施形態に係る内側ミラー14と同様に構成されることができる。
第2外側ミラー232は、光軸218を挟んで第1外側ミラー212の反対側に配置される。第2外側ミラー232は、光軸218を挟んで第1外側ミラー212と対称となる位置に配置されることができる。第2外側ミラー232は、X線220が斜入射する第2外側反射面242(または第4反射面)を有する。第2外側反射面242は、第1焦点F1からの第3角度範囲α3のX線束220cを第2焦点F2に向けて反射させる。第2外側反射面242は、光軸218を挟んで第1外側反射面222と対称となる形状を有してもよい。この場合、第3角度範囲α3は、光軸218を挟んで第1角度範囲α1と対称な角度範囲となる。第2外側ミラー232は、上述の第1実施形態に係る外側ミラー12と同様に構成されることができる。
第2内側ミラー234は、光軸218を挟んで第1内側ミラー214の反対側に配置される。第2内側ミラー234は、光軸218を挟んで第1内側ミラー214と対称となる位置に配置されることができる。第2内側ミラー234は、光軸218と第2外側ミラー232の間に配置される。第2内側ミラー234は、X線220が斜入射する第2内側反射面(または第5反射面)244と、第2内側反射面244とは反対側の面(または第2裏面)246とを有する。第2裏面246は、第2外側ミラー232と対向する。第2内側反射面244は、第1内側反射面224と対向する。第2内側反射面244は、第1焦点F1からの第4角度範囲α4のX線束220dを第2焦点F2に向けて反射させる。第2内側反射面244は、光軸218を挟んで第1内側反射面224と対称となる形状を有してもよい。この場合、第4角度範囲α4は、光軸218を挟んで第2角度範囲α2と対称な角度範囲となる。第2内側ミラー234は、上述の第1実施形態に係る内側ミラー14と同様に構成されることができる。
本実施形態によれば、光軸を挟んだ反対側に追加の外側ミラーおよび追加の内側ミラーを配置することにより、X線ミラー装置210が集束可能な第1焦点F1からのX線220の角度範囲α1、α2、α3、α4の合計(つまり開口数)を大きくできる。これにより、空間分解能を向上させることができ、例えば10nm以下または5nm以下の空間分解能を実現できる。
変形例においては、図13に示される内側ミラー14Aと同様に、第1内側ミラー214および第2内側ミラー234の厚みをテーパー状に変化させてもよい。
変形例においては、第1外側ミラー212と第1内側ミラー214の間に一以上の第1中間ミラー(または第6ミラー)を配置してもよい。また、第2外側ミラー232と第2内側ミラー234の間に一以上の第2中間ミラー(または第7ミラー)を配置してもよい。一以上の第2中間ミラーは、光軸218を挟んで一以上の第1中間ミラーと対称に配置されてもよい。第1中間ミラーおよび第2中間ミラーは、図14の第10実施形態に係る中間ミラー216と同様に構成されることができる。変形例においては、図13に示される内側ミラー14Aと同様に、第1内側ミラー214および第2内側ミラー234の厚みをテーパー状に変化させてもよく、第1中間ミラーおよび第2中間ミラーの厚みをテーパー状に変化させてもよい。
(第12実施形態)
図16は、第12実施形態に係るX線装置60の構成を概略的に示す斜視図である。X線装置60は、X線を利用する光学装置の一例であり、いわゆる結像型(イメージング型)の顕微鏡構成を有するX線顕微鏡である。X線装置60は、照明光学系62と、試料保持部64と、結像光学系66と、X線検出部68とを備える。X線装置60は、X線源90にて生成されるX線92を試料88に照射し、試料88を透過したX線96の拡大像をX線検出部68にて検出するよう構成される。
X線源90は、試料88を観察するためのX線92を生成する。X線源90の種類は特に限定されず、X線管、SPring-8等の大型放射光施設、X線自由電子レーザーなどを用いることができる。X線源としてX線管などの小型の装置を用いる場合、X線装置60は、X線源90を備えてもよい。一方、X線源90として放射光施設などの大型の装置を用いる場合、X線装置60は、X線源90を備えなくてもよい。X線源90は、例えば、2keV以上の硬X線を出力するよう構成される。X線源90は、特定の波長に単色化された単色X線を生成してもよいし、様々な波長成分を含む連続X線(白色X線)を生成してもよい。
照明光学系62は、X線源90と試料保持部64の間に配置される。照明光学系62は、X線源90からのX線92を試料保持部64に集光させるよう構成される。照明光学系62は、いわゆるKB(Kirkpatrick-Baez)ミラーにより構成され、水平凹面ミラー70および垂直凹面ミラー72を含む。水平凹面ミラー70および垂直凹面ミラー72は、それぞれの反射面の法線方向が直交するように配置される。水平凹面ミラー70および垂直凹面ミラー72の反射面は、例えば、試料保持部64の位置に焦点を有する楕円の凹曲面で構成される。照明光学系62は、後述する結像光学系66と同様、四つの曲面ミラーによって構成されてもよい。
試料保持部64は、照明光学系62から出射するX線94が照射される試料88を保持する。試料保持部64は、観察対象となる試料88をX線94の光路上に保持する。試料保持部64の構成は特に限定されず、試料88の特性に応じて、試料88の位置を固定するための任意の構成を用いることができる。試料保持部64は、例えば、X線94の光路に対して試料88の位置を調整するためのステージ装置を含む。
結像光学系66は、試料保持部64とX線検出部68の間に配置される。結像光学系66は、試料保持部64からのX線96をX線検出部68に結像させるよう構成される。結像光学系66は、いわゆるAKB(Advanced Kirkpatrick-Baez)ミラー光学系であり、四つの曲面ミラー74,76,78,80を含む。結像光学系66は、例えば、100倍~1,000倍程度の像倍率を実現するように構成される。
結像光学系66は、例えば、双曲凹面ミラーと楕円凹面ミラーを組み合わせたWolter1型ミラーとして構成することができる。この場合、第1曲面ミラー74は、水平双曲凹面ミラーであり、例えば、試料保持部64の位置に焦点を有する双曲線の凹曲面で構成される反射面を有する。第2曲面ミラー76は、垂直双曲凹面ミラーであり、例えば、試料保持部64の位置に焦点を有する双曲線の凹曲面で構成される反射面を有する。第3曲面ミラー78は、水平楕円凹面ミラーであり、例えば、X線検出部68の位置に第1焦点を有し、第1曲面ミラー74と共有する第2焦点を有する楕円の凹曲面で構成される反射面を有する。第4曲面ミラー80は、垂直楕円凹面ミラーであり、例えば、X線検出部68の位置に第1焦点を有し、第2曲面ミラー76と共有する第2焦点を有する楕円の凹曲面で構成される反射面を有する。
図16の例では、試料保持部64からX線検出部68に向けて、水平双曲凹面ミラー、垂直双曲凹面ミラー、水平楕円凹面ミラー、垂直楕円凹面ミラーの順に四つの曲面ミラー74~80ミラーを配置しているが、配置順序はこれに限られない。例えば、水平双曲凹面ミラーの次に水平楕円凹面ミラーを配置してもよいし、垂直双曲凹面ミラーの次に垂直楕円凹面ミラーを配置してもよい。また、結像光学系66を楕円凹面ミラーと双曲凸面ミラーを組み合わせたWolter3型ミラーとして構成することもできる。この場合、第1曲面ミラー74を水平楕円凹面ミラーとし、第2曲面ミラー76を垂直楕円凹面ミラーとし、第3曲面ミラー78を水平双曲凸面ミラーとし、第4曲面ミラー80を垂直双曲凸面ミラーとすることができる。
X線検出部68は、結像光学系66から出射するX線98を検出する。X線検出部68は、例えば、X線98の二次元像を検出するX線カメラである。X線検出部68の構成は特に限定されないが、例えば、直接変換型または間接変換型のイメージセンサ(CCDまたはCMOSセンサ)を用いることができる。X線検出部68は、解像度をより高めるため、シンチレータにて変換された可視光像を拡大するためのレンズ等の光学素子と、拡大された可視光像を画像化するイメージセンサとを含んでもよい。
照明光学系62および結像光学系66の少なくとも一方は、上述の実施形態または変形例に係るX線ミラー装置10,10A,110または210を含むことができる。
照明光学系62を構成する水平凹面ミラー70および垂直凹面ミラー72の少なくとも一つは、X線ミラー装置10,10A,110または210により構成されてもよい。X線ミラー装置10,10A,110または210は、水平凹面ミラー70のみに適用されてもよいし、垂直凹面ミラー72のみに適用されてもよいし、水平凹面ミラー70および垂直凹面ミラー72の双方に適用されてもよい。
結像光学系66を構成する四つの曲面ミラー74~80の少なくとも一つは、X線ミラー装置10,10A,110または210により構成されてもよい。X線ミラー装置10,10A,110または210は、四つの曲面ミラー74~80のうちのいずれか一つ、二つまたは三つに適用されてもよいし、これらの全てに適用されてもよい。照明光学系62および結像光学系66の少なくとも一方にX線ミラー装置10,10A,110または210を用いることにより、X線光学系の特性を向上させ、空間分解能を向上できる。
本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210は、より高い開口数が必要とされる結像光学系66に適用することが好ましい。特に、試料保持部64の近くに配置され、結像光学系66の対物レンズとなる水平曲面ミラーおよび垂直曲面ミラーのそれぞれにX線ミラー装置10,10A,110または210を適用することが好ましい。図16の構成であれば、水平双曲凹面ミラーである第1曲面ミラー74および垂直双曲凹面ミラーである第2曲面ミラー76の一方、または、双方に適用することが好ましい。結像光学系66の分解能を上げるためには、結像光学系66の開口数を大きくする必要があるためである。X線光学系の対物レンズとなる曲面ミラーにX線ミラー装置10,10A,110または210を適用することで、X線装置60の空間分解能を効果的に向上できる。
結像光学系66は、照明光学系62と同様に、水平凹面ミラーおよび垂直凹面ミラーからなるKBミラーにより構成されてもよい。この場合、水平凹面ミラーおよび垂直凹面ミラーの少なくとも一方にX線ミラー装置10,10A,110または210を用いることにより、結像光学系66の特性を向上させ、X線装置60の空間分解能を向上できる。
X線装置60は、X線源90と照明光学系62の間に配置されるX線分光器(不図示)をさらに備えてもよい。X線分光器は、X線源90からのX線92を単色化するよう構成される。X線分光器は、二結晶モノクロメータなどの結晶分光器であってもよく、結晶角度を変化させることにより、X線波長が可変となるよう構成されてもよい。X線装置60は、X線波長を可変にすることにより、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)イメージングを提供できる。X線装置60は、色収差の少ないX線光学系により構成されるため、単純にX線波長を変化させるのみで高分解能(例えば10nm以下または5nm以下)のXAFSイメージを提供できる。
本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210は、任意のX線装置に適用することができ、特に、X線装置が備える集光光学系や結像光学系といったX線光学系に適用することができる。X線装置の一例として、図16に例示した結像型X線顕微鏡の他に、走査型X線顕微鏡やX線望遠鏡を挙げることができる。
走査型X線顕微鏡は、X線を試料保持部に集光させる集光光学系を備え、集光光学系を構成するX線ミラーの少なくとも一つが本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210であってもよい。走査型X線顕微鏡の場合、集光光学系によって集光されるX線のビームサイズによって分解能が決まる。本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210を用いることで、集光光学系の特性を向上させ、走査型X線顕微鏡の分解能の向上を図ることができる。走査型X線顕微鏡の集光光学系として、図16の照明光学系62と同様の水平凹面ミラー70および垂直凹面ミラー72を用いることができ、その少なくとも一方に本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210を用いることができる。走査型X線顕微鏡の集光光学系として、四つの曲面ミラーを含むAKBミラー光学系を用いることもでき、四つの曲面ミラーの少なくとも一つに本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210を用いることができる。
X線望遠鏡は、観測対象となる天体からのX線をX線検出部に結像させる結像光学系を備え、結像光学系を構成するX線ミラーの少なくとも一つが本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210であってもよい。X線望遠鏡の結像光学系として、例えば、図16の結像光学系66と同様のAKBミラー光学系を用いることができる。図16の試料88を観測対象の天体とみなした場合、第1曲面ミラー74および第2曲面ミラー76を放物凹面ミラーとし、第3曲面ミラー78および第4曲面ミラー80を双曲凹面ミラーとしたWolter1型の結像光学系を用いることができる。その他、第1曲面ミラー74および第2曲面ミラー76を放物凸面ミラーとし、第3曲面ミラー78および第4曲面ミラー80を楕円凹面ミラーとしたWolter3型の結像光学系を用いることができる。Wolter3型を用いる場合、光軸から楕円凹面ミラーまでの距離が確保しやすくなるため、光軸と外側ミラーの間に内側ミラーを配置することが容易となる。これらの場合において、四つの曲面ミラーの少なくとも一つに本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210を用いることができる。
本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210は、任意のX線装置における波面補償光学素子として用いられてもよい。波面補償光学素子として用いる場合、実質的に平坦面である反射面をわずかに変形させ、例えば、斜入射するX線の波面収差とは逆の形状にすることにより、入射するX線の波面収差を補償する。X線ミラー装置10,10A,110または210によって波面収差が補償されたX線は、レンズやミラーなどのX線光学素子によってさらに加工されてもよいし、試料保持部に保持される試料に照射されてもよいし、X線検出部により検出されてもよい。
本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210は、X線を利用する光リソグラフィ装置に適用されてもよい。光リソグラフィ装置は、例えばX線源からのX線をパターンマスクに照射するための照明光学系と、パターンマスクによってパターン化されたX線をウェハなどの試料に結像させる結像光学系とを備える。本開示に係るX線ミラー装置10,10A,110または210は、光リソグラフィ装置の照明光学系および結像光学系の少なくとも一方に適用することができる。
本開示に係る形状可変ミラー30,30A,30B,30C,30Dまたは30Eは、レーザー光線の波面収差を補償するための波面補償光学素子として用いることができる。例えば、レーザー核融合にて用いられる超高強度レーザーの波面補償光学素子として用いることができる。
(第13実施形態)
図17は、第13実施形態に係る光学装置300の構成を概略的に示す図である。光学装置300は、レーザー光源302と、照射光学系304とを備える。光学装置300は、レーザー光源302から提供されるレーザー光332を試料保持部308に保持される燃料カプセル306に照射し、燃料カプセル306にて核融合を生じさせるために用いられる。燃料カプセル306は、例えば、燃料として重水素とトリチウムを含む。重水素とトリチウムが核融合すると、ヘリウムと高速中性子(約10.6MeV)が生成され、高速中性子から取り出される熱エネルギーを利用して発電がなされる。
レーザー光源302は、例えば1TW(1012W)以上または1PW(1015W)以上のピーク出力を有する高強度レーザー光を出力するよう構成される。レーザー光源302の出力波長は特に限らないが、例えば、1053nmや1064nmといった近赤外光、または近赤外光の高調波(第2高調波、第3高調波または第4高調波)を出力するよう構成される。レーザー光源302は、パルスレーザであり、10ns以下、1ns以下、100ps以下または10ps以下のパルス幅を有するレーザー光332を出力する。レーザー光332のパルスエネルギーは、例えば100J以上であり、1kJ以上、10kJ以上、100kJ以上または1MJ以上である。レーザー光源302から照射光学系304に提供されるレーザー光332のビーム径は、例えば10cm以上であり、30cm以上、50cm以上、80cm以上または100cm以上である。
照射光学系304は、第1折返ミラー310と、第2折返ミラー312と、ステアリングミラー314と、集光ミラー316とを備える。レーザー光源302からのレーザー光332は、第1折返ミラー310および第2折返ミラー312にて反射された後、ステアリングミラー314に入射する。ステアリングミラー314は、ステアリングミラー314と集光ミラー316の間に位置する中間焦点318に向けてレーザー光を集光させる。集光ミラー316は、中間焦点318からのレーザー光を反射させ、燃料カプセル306に集光させる。ステアリングミラー314は、例えば放物面ミラーであり、集光ミラー316は、例えば楕円ミラーである。ステアリングミラー314および集光ミラー316は、レーザー光332を集光させる集光光学素子の一例である。集光光学素子は、反射型に限られず、レンズなどの透過型の光学素子であってもよい。
照射光学系304が備える光学素子(第1折返ミラー310、第2折返ミラー312、ステアリングミラー314および集光ミラー316)は、レーザー光332のビーム径に対応したサイズを有する。照射光学系304が備える光学素子のサイズは、レーザー光332のビーム径以上であり、例えばビーム径よりも20%以上大きい。照射光学系304が備える光学素子のサイズは、例えば10cm以上であり、15cm以上、30cm以上、40cm以上、50cm以上、60cm以上、80cm以上または100cm以上である。
照射光学系304は、燃料カプセル306から飛来する高速中性子を遮蔽するための筐体320の内部に配置される。照射光学系304は、筐体320を備えてもよい。筐体320の内部には、レーザー光332が通過するための折り返し光路が設けられる。中間焦点318の近傍には、他の場所に比べて狭い光路幅を有する狭路328が形成される。狭路328は、高速中性子を遮蔽するための中性子フィルタとして機能する。狭路328を形成することにより、狭路328よりも上流に位置するステアリングミラー314、第2折返ミラー312および第1折返ミラー310に高速中性子が直接照射されることを防ぐことができる。
一方で、狭路328よりも下流に位置する集光ミラー316への高速中性子の直接照射を防ぐことは困難である。そのため、集光ミラー316の表面は、高速中性子の照射による損傷が発生しやすく、燃料カプセル306にレーザー光334を高精度に集光するための表面形状精度を維持できなくなる。言い換えれば、集光ミラー316の表面の損傷によってレーザー光334の波面の乱れが生じ、レーザー光334の集光精度が低下する。このようなレーザー光334の波面の乱れを補償するため、第1折返ミラー310および第2折返ミラー312の少なくとも一方を波面補償光学素子とすることができる。つまり、第1折返ミラー310および第2折返ミラー312の少なくとも一方に、上述の実施形態に係る形状可変ミラー30,30A,30B,30C,30D,30Eまたは30Fを用いることができる。
照射光学系304は、第2折返ミラー312とステアリングミラー314の間に配置されるビームスプリッタ322と、ビームスプリッタ322にて反射された光を検出する検出器324とをさらに備えることができる。ビームスプリッタ322は、燃料カプセル306からの戻り光を検出器324に導くように配置される。検出器324は、燃料カプセル306から集光ミラー316およびステアリングミラー314を経由した光を検出することにより、集光ミラー316の表面の損傷を計測する。検出器324の計測結果は、第1折返ミラー310および第2折返ミラー312の少なくとも一方における波面補償の制御に用いることができる。
照射光学系304は、レーザー光源302から提供されるレーザー光332を反射させる形状可変ミラー(第1折返ミラー310および第2折返ミラー312の少なくとも一方)と、形状可変ミラーにて反射されたレーザー光を試料保持部308に保持される燃料カプセル306に向けて集光させる集光ミラー316とを備える。第1折返ミラー310および第2折返ミラー312の少なくとも一方は、上述の実施形態に係る形状可変ミラー30,30A,30B,30C,30D,30Eまたは30Fと同様に構成されることができる。形状可変ミラーとして、LNやLTなどの圧電単結晶材料を用いることにより、ヒステリシスやドリフトの発生を抑制することができ、反射面の形状を印加電圧に応じて一意に決めることができる。そのため、燃料カプセル306に照射されるレーザー光334の波面の乱れを高精度で補償することができ、集光ミラー316の表面の損傷の影響を緩和できる。これにより、集光ミラー316のメンテナンス周期を長くすることができ、長期間にわたって安定稼働が可能なレーザー核融合炉の実現に寄与できる。
(第14実施形態)
図18は、第14実施形態に係るレーザー核融合炉400の構成を概略的に示す図である。レーザー核融合炉400は、レーザー光源402と、照射光学系404と、燃料供給装置408と、反応容器410と、ブランケット412と、格納容器414と、レーザー導入口416と、燃料導入口418とを備える。
レーザー光源402および照射光学系404は、上述のレーザー光源302および照射光学系304と同様に構成されることができる。照射光学系404から出力されるレーザー光424は、レーザー導入口416を通って反応容器410の内部空間420に導入される。レーザー光424は、反応容器410の内部空間420に導入される燃料カプセル406に照射される。図18に示される例では、4つのレーザー光源402および照射光学系404を用いて4方向から燃料カプセル306にレーザー光424が照射されるが、レーザー光424の照射数は特に限られず、3以下でもよいし、5以上でもよい。レーザー光424の照射数は、10以上または20以上であってもよい。燃料カプセル306に照射するレーザー光として、燃料を圧縮するための圧縮用レーザー光と、燃料を点火するための点火用レーザー光とを組み合わせてもよい。
燃料供給装置408は、燃料導入口418を通じて反応容器410の内部空間420に燃料カプセル406を導入する。反応容器410は、燃料カプセル406およびレーザー光424が導入される内部空間420を有する。反応容器410の内側にはブランケット412が設けられる。ブランケット412は、燃料カプセル406における核融合反応にて生じる高速中性子を吸収して熱に変換する。ブランケット412は、燃料の再生産が可能な材料を含む。ブランケット412は、例えば、リチウム(Li)を含む固体材料(例えばチタン酸リチウム)または液体材料(例えばチタン鉛、フッ化リチウム・ベリリウム)を備え、中性子の捕捉によってトリチウムを再生産するよう構成される。格納容器414は、反応容器410の外側に配置される。格納容器414の内部には水などの中性子遮蔽材422が収容される。
ブランケット412にて生じた熱は、反応容器410に導入される配管428の内部を流れる流体に伝達され、蒸気発生器430に送られる。配管428の内部を流れる流体は、図示しないポンプなどによって循環する。蒸気発生器430は、配管428の内部を流れる流体からの熱を利用して蒸気を生成する。蒸気発生器430にて発生した蒸気は、蒸気タービン432に送られ、蒸気タービン432を駆動する。発電機434は、蒸気タービン432にて生じた駆動力を用いて発電する。
以上、本開示を実施形態にもとづいて説明した。本開示は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。