JP7712601B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

表面被覆切削工具

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Description

本発明は、表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関する。
従来、切削工具を高寿命とすべく、炭化タングステン(以下、WCということがある)基超硬合金等の基体の表面に、被覆層を被覆した被覆工具があり、この被覆工具は耐摩耗性等が向上している。
そして、被覆工具のより一層の切削性能を向上させるために、被覆層の組成や構造について、種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、1以上の層により構成され、前記層のうち少なくとも1層は、Ti1-xAlxNからなる第1単位層と、Ti1-yAlyNからなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、前記第1単位層はfcc型結晶構造を有し、前記Ti1-xAlxNにおけるxは0<x<0.65を満たし、前記第2単位層はhcp型結晶構造を有し、前記Ti1-yAlyNにおけるyは0.65≦y<1を満たす被覆層を有する被覆工具が記載され、該被覆工具は硬度と耐酸化性に優れるとされている。
特開2015-124407号公報
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたもので、優れた耐摩耗性、耐熱亀裂性を有する表面被覆切削工具を得ることを目的とする。
本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具は、
基体と該基体の表面に被覆層を有し、
(a)前記被覆層は、前記基体に接する下地層、該下地層に接する下部層、および、該下部層に接する上部層を有し、
(b)前記下地層は、その平均厚さが0.05~2.00μmであって、Tiの窒化物または炭窒化物を含み、
(c)前記下部層は、その平均厚さが0.5~13.5μmであって、
(AlXBTi1-XB)(CYB1-YB)である複合窒化物Bまたは複合炭窒化物B’を含み、前記XBの平均値であるXBAVG、前記YBの平均値であるYBAVGが、それぞれ、0.50≦XBAVG≦0.75、0.00≦YBAVG≦0.05であり、
(d)前記複合窒化物Bまたは複合炭窒化物B’は、前記被覆層の厚さ方向の断面において、80面積%以上のNaCl型面心立方構造の結晶粒Bを有し、
(e)前記結晶粒Bは前記厚さ方向に、前記XBの増減を繰り返す結晶粒を含み、前記XBの隣接する極大値と極小値の差の平均値ΔXBが、0.01~0.05であって、前記厚さ方向における繰返し変化の間隔が1~12nmであり、
(f)前記上部層は、その平均厚さが0.5~9.4μmであって、
(AlXCTi1-XC)(CYC1-YC)である複合窒化物Cまたは複合炭窒化物C’を含み、前記XCの平均値であるXCAVG、前記YCの平均値であるYCAVGが、それぞれ、0.50≦XCAVG≦0.75、0.00≦YCAVG≦0.05であり、
(g)前記複合窒化物Cまたは複合炭窒化物C’は、前記厚さ方向の断面において、80面積%以上のNaCl型面心立方構造の結晶粒Cを有し、
(h)前記結晶粒Cは前記厚さ方向に、前記XCの増減を繰り返す結晶粒を含み、前記XCの隣接する極大値と極小値の差の平均値ΔXCが、0.10~0.50であって、前記厚さ方向における繰返し変化の間隔が20~100nmであり、
(i)前記下部層および前記上部層は、0.00≦XBAVG-XCAVG≦0.10を満たす。
さらに、前記実施形態に係る表面被覆切削工具は、次の(1)~(3)の少なくとも1つを満足してもよい。
(1)前記下部層において、ρB=[Cl]/([Ti]+[Al]+[C]+[N]+[Cl])([Q]は、元素Qの原子数を表す)が0.001~0.050であり、
前記上部層において、ρC=[Cl]/([Ti]+[Al]+[C]+[N]+[Cl])が0.001~0.010であること。
(2)前記被覆層において、NaCl型の面心立方晶構造の結晶粒の200回折線の強度値I(200)と同111回折線の強度値I(111)は、
1.0≦I(200)/I(111)の関係を満たすこと。
(3)隣り合う2つの前記結晶粒Bの粒界からそれぞれの粒内に25nm入り込んだ線lに囲まれた範囲を領域α、該線lと粒界に囲まれた範囲を領域βと定義したとき、
0.20≦xβ≦xα-0.10(ただし、xαは領域αにおける前記XBの平均値であり、xβは領域βにおける任意の位置の直径50nmの領域における前記XBの平均値)を満足する箇所が領域β内に5~20面積%で存在すること。
前記実施形態に係る表面被覆切削工具は、優れた耐摩耗性、耐熱亀裂性を有する。
本発明の一実施形態に係る表面被覆切削工具の縦断面模式図である。 本発明の一実施形態に係る表面被覆切削工具の被覆層の縦断面において、Alの含有量の繰返し変化の一部を示す模式図である。 領域αおよび領域βを表す模式図である。
本発明者は、被覆層にAlとTiとの複合炭化物、複合窒化物(以下、(AlTi)CNと表すことがある)を有する被覆工具において、より優れた耐摩耗性、耐熱亀裂性を有するための方策について鋭意検討した。
その結果、被覆工具の表面側に耐摩耗性に優れた組成の(AlTi)CN層を所定の平均厚さで設け、その下方(基体側)に耐熱亀裂性を有する組成の(AlTi)CN層を所定の平均厚さで設け、かつ、両(AlTi)CN層はAl含有量の所定の繰り返し変化を有することにより、被覆工具が優れた耐摩耗性、耐熱亀裂性を発揮するとの知見を得た。
以下では、本発明の実施形態の被覆工具について詳細に説明する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するときは、「L以上、M以下」と同義であって、その範囲は上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値のみに単位が記載されているときは、下限値の単位も同じである。
図1に、本発明の一実施形態に係る被覆工具の縦断面図(基体の表面の微小な凹凸を無視して基体の表面を水平面と扱いこの面に垂直方向の断面)を模式的に示す。この図1から明らかなように、この実施形態に係る被覆工具は、基体(1)の表面に下地層(2)が接し、該下地層(2)の工具表面側で該下地層(2)と接する下部層(3)と、さらに該下部層(3)の工具表面側で該下部層(3)と接する上部層(4)を有している。そして、下地層(2)、下部層(3)および上部層(4)は被覆層(5)を構成する。また、後述するように、最外層(6)を選択的に設けてもよい。
以下、順に各層を説明する。
1.下地層
基体表面に接する下地層は、Tiの窒化物もしくは炭窒化物からなり、基材と下部層との密着性を与える層(密着層)として働くものである。
(1)平均組成
下地層の組成は、Tiの窒化物もしくは炭窒化物であれば、特段の制約はない(化学量論的組成に限定されない)。例えば、組成式TiC1-Z(0≦Z≦0.5)であってよい。ここで、Zが、0.5より多く含まれると下地層の硬度が過度に上昇し、下地層が基材界面から剥離しやすくなることがある。
また、Tiと(C1-Z)との比は特に限定されるものではないが、1:0.8~1:1.2が好ましい。その理由は、この範囲内であれば、確実に本発明の目的が達成できるためである。
(2)平均厚さ
下地層の平均厚さは、0.05~2.00μmであることが好ましい。その理由は、0.05μmより薄いと密着層としての働きが不十分であり、一方、2.00μm以上であると被覆層に占める密着層の厚さが過多となり、十分な耐摩耗性能が得られないためである。下地層の平均厚さは0.10~1.50μmであることがより好ましい。
2.下部層
下地層の表面に接し工具表面側に設ける下部層は、(AlTi)CN層であって、基材方向へ進展する熱亀裂の進展抑制層として働くものである。
(1)平均組成
下部層は、(AlXBTi1-XB)(CYB1-YB)において、XBの平均含有量であるXBAVG、YBの平均含有量であるYBAVGが0.50≦XBAVG≦0.75、0.00≦YBAVG≦0.05であることが好ましい。
その理由は、XBAVGが0.50未満であると、(AlTi)CN皮膜が本来持つ、高い耐酸化特性が十分に得られず、一方、XBAVGが0.75を上回ると隣接する上部層との良好な密着性が得られにくくなり、上部層が剥離しやすくなって耐久性が劣るためである。XBAVGの値は、0.65≦XBAVG≦0.75であることがより好ましい。
(AlTi)CNにおけるC成分には、硬さを向上させる作用があるため、含有してもよい。しかし、YBAVGが0.05を超えると、下部層の高温強度が低下するため、0.00≦YBAVG<0.05とすることが好ましい。
また、(AlXBTi1-XB)と(CYB1-YB)との比は特に限定されるものではないが、1:0.8~1:1.2が好ましい。その理由は、この範囲内であれば、確実に本発明の目的が達成できるためである。
このことは、上部層の(AlXCTi1-XC)と(CYC1-YC)においても同じである。
(2)NaCl型面心立方構造の結晶粒
下部層では、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒の割合が80面積%以上であることが好ましい。その理由は、80面積%未満であること、下部層中に(AlTi)CNの本来の安定相であり軟質なウルツ鉱型の六方晶構造の割合が増加し、被覆工具の十分な耐久性を得られないためである。NaCl型面心立方構造を有する結晶粒の割合は90面積%以上であることがより好ましい。100面積%であってもよい。
(3)平均厚さ
下部層の平均厚さは、0.5~13.5μmであることが好ましい。その理由は、0.5μm未満であると前述の熱亀裂進展の抑制が十分に得られず、一方、13.5μmを超えると下部層の結晶粒子が粗大化し、耐摩耗性は得られるものの、加工衝撃による結晶粒の脱落を伴う損傷が生じやすく、被覆工具の異常損傷につながるためである。下部層の平均厚さは、2.0~7.0μmであることがより好ましい。
(4)XBの増減の繰返し変化
下部層では、被覆層の厚さ方向に、XBの増減を繰り返す結晶粒の割合が60面積%以上であることが好ましい。その理由は、60面積%未満であると、前述の熱亀裂進展の抑制が十分に得られないためである。XBの増減を繰り返す結晶粒の割合は100面積%であってもよい。
XBの増減の繰返し変化において、隣接する極大値と極小値との差の平均値ΔXBが0.01~0.05であることが好ましい。ΔXBをこの範囲とする理由は、0.01未満であるとクラック進展の抑制が十分ではなく耐チッピング性が低下し、一方、0.05を超えると、高いAl含有量の領域と低いAl含有量の領域の境界に生じる格子歪みが大きくなって、切削時の破壊起点となってチッピング等の異常損傷を生じるためである。ΔXBは0.01~0.03であることがより好ましい。
また、隣接する極大値と極小値との間隔の平均値、すなわち、被覆層の厚さ方向における平均間隔が1~12nmであることが好ましい。平均間隔をこの範囲とする理由は、平均間隔が1nm未満であると、高いAl含有量の領域と低いAl含有量の領域の境界の数が増え、局所的な密着強度の低下や塑性変形が生じやすくなって耐チッピング性、硬さが低下し、一方、12nmを超えると、切削時のクラック進展抑制のための下部層の緩衝作用が十分でないためである。平均間隔は1~5nmであることがより好ましい。
図2は、XBの増減の繰返し変化(Al含有量の繰返し変化)の一例の一部を模式的に示す図である。図2では、極大値、極小値のそれぞれが同じ値であり、隣接する極大値と極小値の間隔も同じであるが、XBの増減の繰返し変化とは、XBが極大値と極小値を交互にとるように変化すればよく、極大値および極小値が、それぞれ、同じ値であっても同じ値でなくてもよく、隣接する極大値と極小値の間隔も同じであっても、異なっていてもよい。
ここで、XBの増減の繰返し変化を有する下部層における極大値を与える位置とこれに隣接する極小値を与える位置の平均間隔は、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒のそれぞれに対して、下部層の厚さ方向にAlの含有量を測定しXBの繰返し変化とは考えられないノイズをローパスフィルタ等の公知の手段による除去を行ってグラフ化することにより求められる。
すなわち、図2に示すように、XBの増減の繰返し変化を示す曲線に対して、この曲線を横切る直線mを引く(図2では直線mは極大値、極小値をそれぞれ2つ横切る長さを示しているが、直線mの長さはこれに限らず、極大値および極小値の平均値、並びに平均間隔が精度よく求められる長さとする)。この直線mは、前記曲線に囲まれた領域の面積が直線mの上側と下側とで等しくなるように引いたものである(m=XBAVGである)。そして、この直線mがAl含有量の繰返し変化を示す曲線を横切る領域毎に、XBの極大値または極小値を求め、両者の間隔を測定し、複数箇所におけるこの測定値を平均することによって、下部層におけるNaCl型面心立方構造を有する結晶粒のそれぞれに対して、XBの増減の繰返し変化の平均間隔を求める。また、Al含有割合XBの増減の繰り返しにおける隣接する極大値と極小値との差の平均値を求め、ΔXBとして算出する。
(5)Cl含有量
下部層において、ρB=[Cl]/([Ti]+[Al]+[C]+[N]+[Cl])([Q]は、元素Qの原子数を表す)が0.001~0.050であることがより好ましい。
ρBをこの範囲とする理由は、0.001未満では被覆層の潤滑性が十分でないことがあり、一方、0.050を超えると下部層の靭性がそこなわれて耐チッピング性が低下することがあるためである。
(6)XBの粒界近傍とそれ以外の関係
図3に示すように、下部層において、隣接するNaCl型面心立方構造の結晶粒について、両者の結晶粒界からそれぞれの結晶粒内に25nm離れた線l(10)に囲まれた範囲を領域α(8)、該線l(10)と粒界に囲まれた範囲を領域β(9)とするとき、
0.20≦XBβ≦XBα-0.10を満足する箇所が領域β内に5~20面積%含まれることがより一層好ましい。
ここで、XBαは、領域αにおけるXBの平均値であり、XBβは領域Bにおける任意の位置の直径50nmの領域におけるXBの平均値である。
その理由は、以下のとおりである。
前記関係式については、XBβ>XBα-0.10であると、転位の移動が抑制されてTiAlCN層の硬さの向上が十分でないことがあり、粒界近傍の格子定数が上がって(TiAl)CN層に圧縮応力が付与されることによる耐チッピング性向上の効果も小さいことがある。一方、XBβが0.20未満であると、(TiAl)CN層の耐高温酸化性が劣るため耐チッピング性が低下することがある。したがって、0.20≦XBβ≦XBα-0.10が成り立つことがより一層好ましい。
領域αと領域βの組成に関する前記関係式を満足する箇所が領域βに占める面積割合については、領域β内に存在する割合が5面積%未満であると、(TiAl)CN層の硬さ向上効果と耐チッピング性向上が十分でないことがあり、20面積%を超えると、(TiAl)CN層の耐高温酸化性が劣るため耐チッピング性が低下することがある。したがって、この面積割合は5~20面積%であることがより好ましいとしたが、より一層好ましくは10~20面積%である。
ここで、領域αと領域βの組成の測定方法について説明する。
まず、次のようにして、(TiAl)CN層を構成する結晶粒の結晶粒界を求め、結晶粒を特定する。すなわち、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)に付属する結晶方位解析装置を用いて、研磨された縦断面において、表面研磨面の法線方向に対して、例えば、0.5~1.0度に傾けた電子線をPrecession(歳差運動)照射しながら、電子線を任意のビーム径および間隔でスキャンし、連続的に電子回折パターンを取り込み、個々の測定点の結晶方位を解析する。観察視野としては、基体表面に平行な方向に幅50μm、縦は被覆層の厚さ(平均厚さ)分が例示できる。
なお、本測定に用いた電子線回折パターンの取得条件は、例えば、加速電圧200kV、カメラ長20cm、ビームサイズ2.4nmで、測定ステップは5.0nmである。この時、測定した結晶方位は測定面上を離散的に調べたものであり、隣接測定点間の中間までの領域をその測定結果で代表させることにより、測定面全体の方位分布として求めるものである。なお、これら測定点で代表させた領域(以下、ピクセルということがある)として、正六角形状のものを例示できる。このピクセルのうち隣接するもの同士の間で5度以上の結晶方位の角度差がある場合、または隣接するピクセルの片方のみがNaCl型の面心立方構造を示す場合は、これらピクセルの接する前記領域の辺を粒界とする。そして、この粒界とされた辺により囲まれた部分を1つの結晶粒と定義する。ただし、隣接するピクセル全てと5度以上の方位差がある、あるいは、隣接するNaCl型の面心立方構造を有する測定点がないような、単独に存在するピクセルは結晶粒とせず、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒として取り扱う。このようにして、粒界判定を行い、結晶粒を特定する。
次に、前述の手順により特定された少なくとも10個のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒を含む観察視野を定義する。結晶粒を特定するに当たって判定した粒界をもとにして、隣接するNaCl型面心立方構造の結晶粒について、両者の結晶粒界からそれぞれの結晶粒内に25nm離れた線l(10)をソフトウェア使って描き、領域αと領域βを画定する。そして、TEMを用いたエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:EDS)(例えば、ビーム径1nm)を用いて、面分析を行う。領域αについては、観察視野内のすべての領域αにおけるXBαを算出する。そして、領域βについて、観察視野内のすべての領域βを50nm間隔に分割し、分割した各範囲に対して面分析(直径50nmの円形)を行い、0.20≦XBβ≦XBα-0.10を満足する箇所が領域βに占める面積割合を求める。
3.上部層
上部層は、(AlTi)CN層であって、切削加工中の耐摩耗層を向上させ、被削材に起因する溶着物の付着を抑制する層として働くものである。
(1)平均組成
上部層は、(AlXCTi1-XC)(CYC1-YC)において、XCの平均含有量であるXCAVG、YCの平均含有量であるYCAVGが0.50≦XCAVG≦0.75、0.00≦YCAVG≦0.05であることが好ましい。
その理由は、XCAVGが0.50未満であると、(AlTi)CNが有する高い耐酸化特性が十分に得られず、一方、XCAVGが0.75を上回ると、所望の耐摩耗性や所望の溶着抑制が得られないためである。XCAVGは、0.65≦XCAVG≦0.75であることがより好ましい。(AlTi)CNにおけるC成分には、硬さを向上させる作用があるため含有してもよい。しかし、YCAVGが0.05を超えると、高温強度が低下するためYCAVGは0.05未満であることが好ましい。
(2)NaCl型面心立方構造の結晶粒
上部層では、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒の割合が80面積%以上であることが好ましい。その理由は、80面積%未満であると、上部層中に(AlTi)CNの本来の安定相であり軟質なウルツ鉱型の六方晶構造の割合が増加し、十分な被覆工具の耐久性を得られないためである。NaCl型面心立方構造を有する結晶粒の割合は90面積%以上であることがより好ましい。100面積%であってもよい。
(3)平均厚さ
上部層の平均厚さは、0.5~9.4μmであることが好ましい。その理由は、0.5μm未満であると、十分な耐摩耗性や溶着抑制が得られず、一方、9.4μmを超えると、切削加工中の基材方向へ進展する熱亀裂を起点とした上部層中での損傷が大きくなり、工具の異常損傷の原因となり得るためである。上部層の平均厚さは、2.0~5.0μmであることがより好ましい。
(4)XCの増減の繰返し変化
上部層では、被覆層の厚さ方向に、XCの増減を繰り返す結晶粒の割合が60面積%以上であることが好ましい。その理由は、60面積%未満であると、十分な耐摩耗性が得られないためである。XCの増減を繰り返す結晶粒の割合は100面積%であってもよい。
XCの増減の繰返し変化において、隣接する極大値と極小値との差の平均値ΔXCが0.10~0.50であることが好ましい。ΔXCをこの範囲とする理由は、0.10未満であると、下部層にXBの増減の繰返し変化が存在しても、上部層でのクラック進展の抑制が十分ではなく耐チッピング性が低下し、一方、0.50を超えると、上部層の高いAl含有量の領域と低いAl含有量の領域の境界に生じる格子歪みが大きくなって、結晶欠陥が増えて上部層の硬さが低下するためである。ΔXCは0.30~0.50であることがより好ましい。
また、隣接する極大値と極小値を与える間隔の平均値、すなわち、被覆層の厚さ方向における平均間隔が20~100nmであることが好ましい。平均間隔をこの範囲とする理由は、平均間隔が20nm未満であると、下部層にXBの増減の繰返し変化が存在しても、被覆層の靭性が十分に向上せず、一方、100nmを超えると、上部層が切削時のクラック進展を十分に抑制できず耐チッピング性、太白理性が低下するためである。平均間隔は60~100nmであることがより好ましい。
XCの増減の繰返し変化における隣接する極大値と極小値との差の平均値ΔXC、および、XCの増減の繰返し変化の平均間隔の定義、測定方法は、XBの増減の繰返し変化と同じである。
(5)Cl含有量
上部層において、ρC=[Cl]/([Ti]+[Al]+[C]+[N]+[Cl])([Q]は、元素Qの原子数を表す)が0.001~0.010であることがより好ましい。
ρCをこの範囲とする理由は、0.001未満では被覆層の潤滑性が十分でないことがあり、一方、0.010を超えると上部層の靭性がそこなわれて耐チッピング性が低下することがあるためである。
4.XBAVGとXCAVGの関係式(0.00≦XBAVG-XCAVG≦0.10)
前記上部層および下部層は、0.00≦XBAVG-XCAVG≦0.10を満たすことが好ましい。XBAVG-XCAVG>0.1であると、Alの平均含有量の差が大きくなって、下部層と上部層の連続的な結晶成長が阻害されるためである。0.00≦XBavg-XCavg≦0.05であることがより好ましい。
5.I(200)/I(111)の値
下部層および上部層において、NaCl型の面心立方晶構造の結晶粒の200回折線の強度値I(200)と同111回折線の強度値I(111)は、1.0≦I(200)/I(111)の関係を満たすことがより好ましい。
前述の目的を達成するためには、あたかも下部層と上部層との界面において、下部層の結晶粒の先端に上部層の結晶粒がはめ込まれるように上部層が連続的に成長することが好ましい。上部層は<111>優先方向に成長するため、上部層がこの連続的な成長を行っていることを確認するため、I(200)/I(111)指標とした。
I(200)/I(111)が1.0未満であると、この連続的な成長が十分になされておらず、下部層での熱亀裂進展の抑制が十分でないことがある。
5.その他の層
(1)最外層
本実施形態では、Tiの窒化物層、炭化物層、炭窒化物層(これらは化学量論的組成に限定されない)のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1~4.00μmの合計平均層厚を有する最外層を上部層に接して設けてもよい(最外層はなくてもよい)。この最外層を設けると、これらの層が有する明瞭な色によって、被覆工具がインサートの場合は切削使用後のコーナー識別(使用済み部位の識別)が容易となる。ここで、合計平均層厚が0.1μm未満であると、最外層を設けた目的が十分に達成されず、一方、4.0μmを超えると、チッピングが発生しやすくなる。
(2)意図しない層
成膜ガスの切り換え時に、意図せずに、下地層であるTiCN層、Tiの炭化物、窒化物、炭酸化物および炭窒酸化物層、(AlTi)CN層、および、α-Al層とは違う層がごくわずかであるが製造されることがある。
6.基体
(1)組成
本実施形態において、基体は、超硬合金(WC基超硬合金:WCの他、Coを含み、さらに、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含むもの等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの等)、セラミックス(窒化珪素、サイアロン、酸化アルミニウムなど)、または、cBN焼結体を用いることができるが、これらに限定されない。
(2)形状
基体の形状は、切削工具として用いられる形状であれば特段の制約はなく、インサートの形状、ドリルの形状が例示できる。
7.組成の測定
下部層と上部層のAlの含有量XB、XCおよびCの含有量YB、YCは、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用い、断面を研磨した試料において、電子線を縦断面に照射し、被覆層の厚さ方向に5本以上の線分析を行って得られたオージェ電子の解析結果を平均したものである。
8.NaCl型面心立方構造の結晶粒の割合の測定
NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒の面積割合は、前述のとおり電子線後方散乱回折により、結晶粒界を画定した後、回折像に基づきNaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒個々の結晶構造を鑑別し、NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒が占める面積割合を層毎に求める。
9.平均厚の測定
被覆層を構成する各層の平均厚さは、例えば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)等を用いて、被覆層を任意の位置の縦断面の観察用の試料を作製し、その縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)またはTEM、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)、あるいはSEMまたはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectrometry)を用いて複数箇所(例えば、5箇所)で観察して、厚さを求めこれらを平均することにより得ることができる。
10.I(111)とI(200)の測定
下部層のみ、上部層のみのX線回折結果を得ることはできず、下地層、下部層、上部層(さらに選択的に設けられる最外層)のX線回折結果が一体となって(総括されて)示される。すなわち、被覆層のX線回折結果が示される。
I(200)/I(111)の値の求め方は、以下のとおりである。例えば、Cu-Kα1線をX線源として測定範囲(2θ):20~120度、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepの条件にて、基体表面に対して平行な被覆層表面において、X線回折を行い、JCPDS00-038-1420立方晶TiNとJCPDS00-046-1200立方晶AlN、各々に示される同一結晶面の回折角度の間(例えば、36.66~38.53°、43.59~44.77°、61.81~65.18°)に現れるX線回折ピークを確認する。そして、200回折線、および、111回折線におけるX線回折ピーク強度の測定値を測定し、111回折線の強度I(111)に対する200回折線の強度I(200)の比であるI(200)/I(111)を得る。
11.製造方法
本実施形態の被覆工具の被覆層は、化学蒸着法によって、例えば、以下のような製造条件によって製造することができる。
(1)下地層の製造
例えば、以下のような製造条件1)または2)を例示できる。
1)製造条件1
TiN層の成膜
反応ガス組成(体積%)
TiCl:3.0~6.0%、N:25.0~35.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.0~12.0kPa
反応雰囲気温度:780~900℃
2)製造条件2
TiCN層の成膜
反応ガス組成(体積%)
TiCl:3.0~6.0%、N:15.0~30.0%
CHまたはCHCN:0.6~2.0%,H:残
反応雰囲気圧力:5.0~12.0kPa
反応雰囲気温度:780~900℃
(2)下部層の製造
反応ガス組成(容量%)
ガス群B1:NH:4.0~5.5%、H:65~76%
ガス群B2:AlCl:0.45~0.90%、TiCl:0.20~0.55%、
:0.0~12.0%、C:0.0~0.5%、H:残
反応雰囲気圧力:4.0~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~900℃
ガス供給周期:1.0~5.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.1~0.2秒
ガス群B1の供給とガス群B2の供給の位相差:0.1~0.2秒
(3)上部層の製造
反応ガス組成(容量%)
ガス群C1:NH:1.5~3.0%、H:65~76%
ガス群C2:AlCl:0.45~0.75%、TiCl:0.20~0.55%、
:0.0~12.0%、C:0.0~0.5%、H:残
反応雰囲気圧力:4.0~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~900℃
ガス供給周期:6.0~10.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.3~0.5秒
ガス群C1の供給とガス群C2の供給の位相差:0.1~0.3秒
次に、実施例について説明する。
ここでは、実施例として、基体としてWC基超硬合金を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、基体として、前記したものを用いた場合であっても同様であるし、ドリル、エンドミルに適用した場合も同様である。
原料粉末として、WC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示されるとおりに配合した。ワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1420℃に1時間保持の条件で真空焼結し、ISO規格のSEEN1203AFSN形状をもったWC基超硬合金製の基体A~Cをそれぞれ製造した。なお、各原料粉末には微量の不可避不純物が含まれていた。
次に、これら基体A~Cの表面に、下地層、下部層、上部層を、それぞれ、表2~4に示す製造条件に従って順に成膜し、表5に示す実施例の被覆工具1~8(以下、実施例1~8)を得た。なお、表2において、下地層の成膜ガスをガス群Aと称している。
一方、比較のために、基体A~Cの表面に、下地層、下部層、上部層を、それぞれ、表2~4に示す製造条件に従って順に成膜し、表6に示す比較例の被覆工具1~8(以下、比較例1~8)を得た。
実施例1~8、比較例1~8について、電子線回折によりTiAlCN層を構成する結晶粒の結晶粒界を求める際には、前記ピクセルを正六角形状とした。
表5、6において、「1.0 ≦ I(200)/ I(111)を満足するか」の欄で「〇」は1.0 ≦ I(200)/ I(111)を満足することを、「×」は1.0 ≦ I(200)/ I(111)を満足しないこと(1.0 > I(200)/ I(111)であること)を表している。
続いて、前記本発明被覆工具1~8および比較被覆工具1~8について、前記各種の工具基体A~C(ISO規格SEEN1203AFSN形状)をいずれもカッタ径80mmの合金鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、以下に示す、Ti合金の湿式高速正面フライス、センターカット切削試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。表7に、切削試験の結果を示す。なお、比較被覆工具1~8については、チッピング発生が原因で切削時間終了前に寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
切削試験:湿式高速正面フライス、センターカット切削試験
カッタ径:80mm
被削材:JIS・Ti-6Al-4V合金(60種)のブロック材
切削速度:100m/min
切り込み:2.5mm
送り:0.25mm/刃
切削時間:10分
表7において、比較例の寿命に至る切削時間(分)とはチッピング発生が原因で寿命に至るまでの切削時間(分)を示している。
表7から明らかなように、実施例はいずれも刃先が欠損に至るまでの加工時間である最大加工時間が長く、優れた耐久性を有していた。
1 基体
2 下地層
3 下部層
4 上部層
5 被覆層
6 最外層
7 粒界
8 領域α
9 領域β
10 線l

Claims (4)

  1. 基体と該基体の表面に被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
    (a)前記被覆層は、前記基体に接する下地層、該下地層に接する下部層、および、該下部層に接する上部層を有し、
    (b)前記下地層は、その平均厚さが0.05~2.0μmであって、Tiの窒化物または炭窒化物を含み、
    (c)前記下部層は、その平均厚さが0.5~13.5μmであって、
    (AlXBTi1-XB)(CYB1-YB)である複合窒化物Bまたは複合炭窒化物B’を含み、前記XBの平均値であるXBAVG、前記YBの平均値であるYBAVGが、それぞれ、0.50≦XBAVG≦0.75、0.00≦YBAVG≦0.05であり、
    (d)前記複合窒化物Bまたは複合炭窒化物B’は、前記被覆層の厚さ方向の断面において、80面積%以上のNaCl型面心立方構造の結晶粒Bを有し、
    (e)前記結晶粒Bは前記厚さ方向に、前記XBの増減を繰り返す結晶粒を含み、前記XBの隣接する極大値と極小値の差の平均値ΔXBが、0.01~0.05であって、前記厚さ方向における繰返し変化の間隔が1~12nmであり、
    (f)前記上部層は、その平均厚さが0.5~9.4μmであって、
    (AlXCTi1-XC)(CYC1-YC)である複合窒化物Cまたは複合炭窒化物C’を含み、前記XCの平均値であるXCAVG、前記YCの平均値であるYCAVGが、それぞれ、0.50≦XCAVG≦0.75、0.00≦YCAVG≦0.05であり、
    (g)前記複合窒化物Cまたは複合炭窒化物C’は、前記厚さ方向の断面において、80面積%以上のNaCl型面心立方構造の結晶粒Cを有し、
    (h)前記結晶粒Cは前記厚さ方向に、前記XCの増減を繰り返す結晶粒を含み、前記XCの隣接する極大値と極小値の差の平均値ΔXCが、0.10~0.50であって、前記厚さ方向における繰返し変化の間隔が20~100nmであり、
    (i)前記下部層および前記上部層は、0.00≦XBAVG-XCAVG≦0.10を満たす
    ことを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記下部層において、ρB=[Cl]/([Ti]+[Al]+[C]+[N]+[Cl])([Q]は、元素Qの原子数を表す)が0.001~0.050であり、
    前記上部層において、ρC=[Cl]/([Ti]+[Al]+[C]+[N]+[Cl])が0.001~0.010であること
    を特徴とする請求項1に記載された表面被覆切削工具。
  3. 前記被覆層において、NaCl型の面心立方晶構造の結晶粒の200回折線の強度値I(200)と同111回折線の強度値I(111)は、
    1.0≦I(200)/I(111)の関係を満たすこと
    を特徴とする請求項1または2に記載された表面被覆切削工具。
  4. 隣り合う2つの前記結晶粒Bの粒界からそれぞれの粒内に25nm入り込んだ線lに囲まれた範囲を領域α、該線lと粒界に囲まれた範囲を領域βと定義したとき、
    0.20≦xβ≦xα-0.10(ただし、xαは領域αにおける前記XBの平均値であり、xβは領域βにおける任意の位置の直径50nmの領域における前記XBの平均値)を満足する箇所が領域β内に5~20面積%で存在すること
    を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載された表面被覆切削工具。

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