以下の説明は、本手法の実施を可能にするために十分詳細に本手法の実施形態を示すものである。これらの特定の実施形態を参照して本手法を説明するが、当然のことながら、本手法は異なる形態で具体化でき、また本説明は、任意の添付の請求項を、本明細書に記載する特定の実施形態に限定するものと解釈されるべきでない。むしろ、これらの実施形態を提供することにより、本開示は完璧で完全なものとなり、また当業者に本手法の範囲を完全に伝えるものとなる。
本説明では、当業者には理解されるはずのさまざまな用語を使用する。以下に、誤解を避けるために明確化を行う。用語「治療する」、「治療された」、および「治療」は、治療される状態、障害、または疾患、特にがんに関連する、またはこれによって引き起こされる少なくとも1つの症状の軽減または緩和を含む。特定の実施形態では、治療は、本発明の化合物によって治療されるがんに関連する、またはこれによって引き起こされる少なくとも1つの症状を軽減および/または緩和することを含む。いくつかの実施形態では、治療は、宿主における特定のがんのある種の細胞、例えばCSCの死を引き起こすことを含み、がん細胞がさらに増殖するのを防ぐこと、および/または、例えばエネルギーを生成する機構をそのような細胞から奪ってCSC機能を阻害することによって達成し得る。例えば、治療はがんの1つもしくは複数の症状の軽減、またはがんの根治である可能性がある。別の例として、本手法を使用して、がんにおけるミトコンドリア代謝を阻害し、がんのCSCを根絶し(例えば、増殖するより速い速度で殺す)、がんのTICを根絶し、がんの末梢循環腫瘍細胞を根絶し、がんの増殖を阻害し、CSCを標的にして阻害し、TICを標的にして阻害し、末梢循環腫瘍細胞を標的にして阻害し、転移を予防し(すなわち、転移の可能性を低下させ)、再発を予防し、化学療法に対するがん感受性を増強し、放射線療法に対するがん感受性を増強し、光線療法に対するがん感受性を増強し得る。
用語「がん幹細胞」および「CSC」は、動物宿主に移植すると自己再生能、分化能、および腫瘍形成能を有する、腫瘍内のがん細胞の亜集団を指す。CSCは、「バルク」がん細胞と比べて、ミトコンドリア質量が増加し、ミトコンドリア生合成が亢進し、ミトコンドリアタンパク質翻訳の活性が向上している。本明細書で使用する「末梢循環腫瘍細胞」は、原発腫瘍から脈管系またはリンパ系に流れ込んだがん細胞であり、血液循環に乗って全身に運ばれる。CellSearchの末梢循環腫瘍細胞検査を用いて、末梢循環腫瘍細胞を検出し得る。
語句「ATP-high」および「ATP-low」は、ATPベースの蛍光シグナルを有する細胞亜集団を指し、それぞれ開始細胞集団におけるATPベースの蛍光シグナルの上部および下部を表す。上部は、開始細胞集団のATPベースの蛍光シグナルの上位25%、または上位20%、または上位15%、または上位10%、または上位5%、または上位2%、または上位1%を表し得る。下部は、開始細胞集団のATPベースの蛍光シグナルの下位25%、または下位20%、または下位15%、または下位10%、または下位5%、または下位2%、または下位1%を表し得る。
本明細書で使用する語句「薬学的に有効な量」は、プロテインキナーゼ活性の調節、調整、もしくは阻害などの治療結果、例えばプロテインキナーゼの活性阻害、またはがんの治療を達成するために、宿主、または宿主の細胞、組織、もしく器官に投与するのに必要な量を示す。当技術分野における通常の技術を有する医師または獣医師は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方することができる。例えば、医師または獣医師は、所望の治療効果を達成するために必要とされるよりも少ない量で、医薬組成物に用いられる本発明の化合物の用量を開始し、所望の効果が得られるまで用量を徐々に増加させることができよう。
バイオインフォマティクス解析から、3次元足場非依存性増殖、幹細胞性、および遠隔転移におけるミトコンドリアATP合成の役割が明らかとなる。特にミトコンドリアATP合成は、バイオインフォマティクス手法において、3次元足場非依存性増殖および転移の重要な決定因子である。既存のプロテオームプロファイリングデータを照会し、2つの異なるER(+)乳がん細胞株(MCF7とT47D)で2次元単層と3次元マンモスフェアを比較した。全体として、3次元マンモスフェアでは、両細胞株で共通する1,519個のタンパク質のうち22個のATP関連タンパク質が、両方のデータセットで上方制御されていることがわかった。以下の表1に、これらのタンパク質のアクセッション番号と、MCF7およびT47D細胞(スフィアと2次元接着培養)における発現量の倍率変化を示す。21個のATP関連タンパク質のうち、ATP5F1B、ATP5F1C、ATP5IF1、ATP5MG、ATP5PB、ATP5PD、およびATP5POを含む7つのミトコンドリアATP合成酵素のサブユニットが検出された。Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ソフトウェアを用いると、3次元足場非依存性増殖の予測上流制御因子が2つの細胞株間で高度に保存されており、腫瘍成長および腫瘍細胞増殖に関連する既存のIPAデータセットと特異的に関連していることが観察された。
また、GEO転写プロファイリングデータセットを再解析し、MDA-MB-231細胞(トリプルネガティブ乳がん細胞株)の2次元培養、3次元培養、およびin vivo腫瘍増殖を比較した。図1Aは、両方の3次元培養条件(足場非依存性腫瘍とin vivo腫瘍)下で、すべて2次元接着培養に対して転写的に上方制御されたATP関連遺伝子のヒートマップを示す。1列目が遺伝子名、2列目が2次元のMDA-MB-231細胞の発現プロファイル、3列目が3次元のMDA-MB-231細胞の発現プロファイル、4列目が異種移植片のMDA-MB-231細胞の発現プロファイルを示す。濃いセルは倍率変化が小さく、明るいセルは倍率変化が大きいことを示す。ヒートマップは倍率変化のlogを示し、例えば最も明るいセルは+/-4である。2次元のMDA-MB-231列では明るいセルが負の変化(例えば、ATP11A-AS1の倍率変化は-4log)を示すのに対し、3次元および異種移植片列では明るいセルは正の変化(例えば、ATP12Aの倍率変化は4log)を示す。
ヒト乳がん転移に関連する2つの異なるGEO DataSetsにおけるATP関連遺伝子(OXPHOSおよびATP関連トランスポーター)の転写発現は、転移に関連するATP関連遺伝子を同定するのに有用であった。図1Bおよび1Cは、GSE2034およびGSE59000 GEO DataSetsのボルケーノプロットを示す。具体的には、図1Bでは、転移のあるシナリオと転移のないシナリオにおける遺伝子発現を比較し(GSE2034)、図1Cでは転移のあるシナリオと原発腫瘍における遺伝子発現を比較している(GSE59000)。ボルケーノプロットは、OncoLandのMetastatic Cancer(QIAGEN OmicSoft Suite)で提供されているアノテーションを調べ、未修正のp値カットオフ<0.05でアノテートされた遺伝子で、Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア(IPA;QIAGEN)を用いて機能「コア解析」を実施して作成した。ATP関連遺伝子(OXPHOSとATP関連トランスポーター)の転写プロファイルは、両方のGEO DataSetsで、転移に特異的に関連して増加した。
図1Dは、転移の予後バイオマーカーとして、両方のデータセットで高度に上方制御されたATP関連遺伝子を特定するのに使用される、2つの乳がん転移のGEO DataSets(GSE2034およびGSE59000)を交差させたベン図を示す。2つのGEO DataSetsの交差は、図1Bおよび1Cに関連して説明したように、IPAソフトウェアを使用して行った。1,055個の遺伝子の重複セットに含まれていたATP関連遺伝子はわずか5個だった。これらのATP関連遺伝子、ABCA2、ATP5F1C、COX20、NDUFA2、およびUQCRBは両方の転移GEO DataSetsで高度に上方制御されており、したがって、がんの転移の予測に関して予後的重要性を有する。これら5個のATP関連遺伝子は、転移の徴候となるATP関連転移遺伝子シグネチャーとして使用し得る。中でも、ATP5F1C(ATP5C1としても知られる)は、ミトコンドリアATP合成酵素の可溶性触媒コアF1のγサブユニットをコードする。UQCRBは、ミトコンドリア複合体IIIの必須成分であり、機能的にユビキノンと結合し、電子伝達に関与する。COX20は、ミトコンドリア複合体IVの構築に不可欠なシャペロンである。NDUFA2は、ミトコンドリア複合体Iの機能に必須である。また、ABCA2は、ATP結合カセットトランスポーター遺伝子ファミリーのメンバーである。
本物の乳がん転移巣では、ATP5F1C転写発現は、i)5個の転移マーカー遺伝子(EPCAM、MKI67、RRP1B、VCAM1、CXCR4);ii)4個の細胞周期制御遺伝子(CDK1、CDK2、CDK4、CDK6);およびiii)11個のCSCマーカー遺伝子(CDH1、ALDH2、ALDH1BA1、ALDH9A1、SOX2、VIM、CDH2、ALDH7A1、ALDH1B1、CD44、ALDH3B2、統計的有意性の順番に記載)の同時発現と正に相関している。図2A~2Nは、ATP5F1Cと、CDH1、ALDH2、SOX2、VIM、CD44、EPCAM、MKI67、RRP1B、CXCR4、VCAM1、CDK1、CDK2、CDK4、およびCDK6の順に、それぞれの遺伝子との正相関を示すデータプロットである。
さらにATP5F1C転写発現は、ミトコンドリア複合体I~V、mt-DNAにコードされた転写物、および転移遺伝子シグネチャーの5つのメンバーのうち他の3つ、すなわちUQCRB、COX20、およびNDUFA2の同時発現とも正に相関している。図2O~2Qは、ATP5F1Cと、それぞれUQCRB、COX20、およびNDUFA2との正相関を示すデータプロットである。この転移遺伝子シグネチャーの2つのメンバー、ATP5F1CとUQCRBの発現は、ヒト骨格筋組織における最大酸素摂取量(V02max)およびタイプ1線維(ミトコンドリアに富む)の割合の高さと機能的に相関している。
骨格筋におけるATP5F1Cの発現も、運動トレーニング後に、患者の筋力向上に応じて有意に増加する。逆に、ATP5F1Cの発現は歳をとるに従って減少し、プロジェリア症候群の患者では低下していた。これらの結果は、ATP5F1Cの高発現が、細胞レベルでのミトコンドリアATP産生増加のバイオマーカーであることを強く示唆している。
特に診断時にリンパ節陰性であり、タモキシフェン治療を受けたER(+)患者(ハザード比(無再発生存期間)=2.77;P=3.4E-06;N=471)では、ATP5F1Cが遠隔転移および腫瘍再発の予後バイオマーカーとなることを、カプラン・マイヤー(KM)解析を用いて確認した。図3Aは、ER(+)、無再発生存期間(N=3,082)のカプラン・マイヤー曲線を示し、図3Bは、ER(+)、無遠隔転移生存期間(N=1,395)のカプラン・マイヤー曲線を示し、図3Cは、ER(+)、リンパ節陰性、タモキシフェン治療歴あり、無再発生存期間(N=471)のカプラン・マイヤー曲線を示す。
これらの結果は、ミトコンドリア複合体IVを検出する組織化学的活性染色を用いて、外科的に切除されたリンパ節内の乳がん転移巣においてミトコンドリア活性が機能的に上方制御されていることを示すこれまでの研究とも一致する。さらに本発明者らは以前に、N=28の乳がん患者由来の試料を用いて、ATP5F1C(4.64倍;p=1.14E-05)を含むATP5遺伝子ファミリーの16のメンバーが、ヒト乳がん細胞において、隣接する間質細胞に対して転写的に上方制御されていることを指摘した。
既存のGEO DataSets(GSE55470)を用いて、乳がん末梢循環腫瘍細胞(CTC)の転写バイオマーカーとしてのATP関連遺伝子およびOXPHOS遺伝子の使用を患者で評価した。図4Aは、データセットにおけるATP-ABC遺伝子発現プロファイルのヒートマップを示し、凡例を含む。図4Bは、図4Aと同じ凡例に基づき、OXPHOS遺伝子発現プロファイルのヒートマップを示す。一般に、セルの色が明るいほど、発現の絶対値が高い。本出願に関連して使用される白黒では、正と負の倍率変化の区別は難しい。対照血液を示す最初の5列の大部分は、元のヒートマップでは緑色で、発現の倍率変化が負であることを示す。残りのセルの大部分は赤色で、発現の倍率変化が正であることを示す。概して、CTC中のATP含有量が多いと、全血中でCTCを同定、追跡するバイオマーカーとして有用であり得、それにより、がん診断が改善し、転移拡散を予防する可能性がある。
図4Cは、ATP-highおよびATP-low亜集団のMDA-MB-231細胞のウエスタンブロット解析の結果を示す。結果は、ATP-highのMDA-MB-231細胞においてミトコンドリアマーカーとCTCマーカーが共に上方制御されていることを示している。ATP5F1Cを含む複合体I~Vのミトコンドリアマーカーは、ATP-low亜集団のMDA-MB-231細胞に対して、ATP-high亜集団のMDA-MB-231細胞ですべて過剰発現していた。さらに、CTCと転移の2つの既知のマーカー(VCAM-1とEp-CAM)は、ATP-high亜集団のATP-high亜集団で過剰発現していた。βアクチンとβチューブリンを、同等のタンパク質負荷のマーカーとして使用した。
総合すると、バイオインフォマティクスデータと解析から、ミトコンドリアATP合成増加が、3次元足場非依存性増殖および転移の重要なドライバーである可能性があることがわかる。この解析に基づいて、ATPレベルが最も高いがん細胞は、ATPレベルが低いがん細胞と比べて、増殖性が高く、より幹様で、3次元足場に依存しない増殖を行い、その他の攻撃的な挙動を示すと考えられる。同様に、ATPレベルが最も低い細胞は、休眠性が高いとみられる。いずれの亜集団も、特にがん研究や薬剤スクリーニングでの使用にとって大きな価値がある。本手法は、代謝分画によって、がん細胞集団からこれらの亜集団を分離する方法を提供する。がん細胞集団には数多くの亜集団が存在する。CSCは、自己再生能を有し、分化が可能で、移植されると腫瘍形成能を示す、がん細胞の小さな亜集団である。しかしながら、本明細書に記載するように、すべてのCSCが同じように生成されるわけではない。ATPレベルに基づいて分離、精製されたCSCは、自然発生するがん細胞集団にも、CD44、CD24、およびCD133などの従来のマーカーを用いて分離、精製されたCSCにすらも見られない特有の表現型特性を有している。
本手法において、細胞、好ましくはがん細胞は、ATP-Red1などの蛍光ATP標識色素およびフローサイトメトリーを用いて、代謝条件に基づいて分画し得る。最終的にATPレベルは、「幹細胞性」や増殖能といったがん細胞の表現型形質を決定する。そのため、ATP標識色素を使用して、全細胞集団内からエネルギー的に「最適」ながん細胞を同定、精製できる。本発明者らは、蛍光生体染色色素であるBioTracker ATP-Red1を選択し、生がん細胞のATPに標識した。当然のことながら、後から開発されたプローブを含む他の蛍光ATP撮像プローブも、本手法から逸脱することなく使用し得る。好ましくは、蛍光ATP撮像プローブはミトコンドリアATPを標的とする。
ATP-Red1は、通常、非蛍光性であるが、ATPと結合すると蛍光性になり、ADPを含む他の関連ヌクレオチドや代謝物とは結合しない。より具体的には、BioTracker ATP-Red1は、糖(アラビノース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、リボース、ソルボース、スクロース、またはキシロース)または他のヌクレオチド(AMP、ADP、CMP、CDP、CTP、UMP、UDP、UTP、GMP、GDP、またはGTP)を認識しない。重要なこととして、この蛍光ATP撮像プローブはATPに対して「ターンオン」の蛍光反応を示し、約6倍に蛍光が増強される。蛍光顕微鏡を用いると、ATP-Red1は、細胞のATP産生の主要源であるミトコンドリア内で主に検出される。したがって、ATP-Red1は、フローサイトメトリーによってがん細胞集団を代謝的に分画する蛍光プローブとして好ましい。
がん細胞集団は、ATP-highおよびATP-low細胞亜集団に分離または分画した後、表現型の特徴付けを行い得る。亜集団は、上下の蛍光シグナルの割合(例えば、上位および下位20%、上位および下位1%など)に関して定義し得、細胞選択および回収のためのFACSのゲーティングカットオフ値は、選択した割合に基づいて決定する。本明細書に開示するデータは、ゲーティングカットオフ値として主に上位および下位5%、ならびに上位および下位10%に依拠したが、当然のことながら、本手法から逸脱することなく他の割合も使用し得る。言うまでもなく、割合は50%未満とすべきであり、割合が大きくなるほど、所定の細胞集団に対する表現型の特徴付けの特異性が低くなることが予想されよう。
図5Aは、本実施形態による代謝分画手順の実施形態を示す。蛍光ATP撮像プローブは培地に溶解し、インキュベートし得る(501)。本明細書に記載する結果は、蛍光ATP撮像プローブとして5μMのBiotracker ATP-Redを培地に溶解し、30分間、細胞でインキュベートして得た。次いで、細胞をPBSで洗浄してトリプシン処理し、FACS緩衝液中で再懸濁させ、40μmのセルストレーナーでろ過した(503)。3次元スフィアまたは2次元接着条件から得た細胞は、FACSのソーター(例えば、SONYのSH800)を用いて解析した(505)。細胞は、ATPベースの蛍光シグナル(例えば、上位/下位1%、2%、3%、4%、5%、10%など)を用いて所望のATP含有量でゲートし、選別した(507)。図5Bは、ATP-high(上位5%)およびATP-low(下位5%)細胞亜集団を単離するための、ATP-Red1によるMCF7細胞の代謝分画の例を示す。比較のためにバルク(5%)集団も選択した。右図は、さまざまな蛍光強度での細胞数を示したもので、ATP-high(上位5%)亜集団、ATP-low(下位5%)亜集団、およびバルク培地の領域を同定している。図5Bの左図は、各亜集団のATPベースの蛍光シグナルの平均値を示す。平均シグナル強度に基づいて、ATP-highのMCF7細胞はATP-low集団と比べてATPレベルが約15倍高く;バルク細胞集団と比べてATPレベルが2倍と推定される。
図6Aおよび6Bは、3つの細胞亜集団(ATP-low5%、バルク5%、ATP-high5%)すべてにおける細胞増殖の連続的なリアルタイムアッセイ系の結果を示す。細胞増殖はxCELLigence(登録商標)RTCA DP装置を用いて評価した。細胞は、最初にATP含有量で選別し、計数してからRTCA DP E-Plateに播種(共通培地で1×104)してリアルタイム増殖解析を行った。3つの亜集団(ATP-low5%、バルク5%、ATP-high5%)すべてをグラフに示す。結果から、120時間後、ATP-high集団の増殖性は、バルク細胞集団に対して約2倍、ATP-low集団に対して約5倍高いことがわかる。データは、平均値±SD、n=3を示す。一元配置分散分析、ダネットの多重比較検定、**p<0.001、***p<0.001、****p<0.0001。図6Aからわかるように、ATP-high亜集団は他の亜集団と比較してCell Indexが有意に高く、ATP-low亜集団は他の亜集団と比較してCell Index有意に低かった。図6Bは、各亜集団のCell Indexの経時的な傾きを示す。各時点(24、48、72、96、および120時間)において、ATP-high細胞集団の傾きは、他の2つの亜集団と比較して有意に高かった。データは、平均値±SD、n=3を示す。二元配置分散分析、テューキー法で修正、*p<0.01。120時間の評価全体を通して、ATP-high亜集団の増殖速度が最も高かったのは明らかである。結果から、ATP-high集団の増殖性は、バルク細胞集団に対して少なくとも約2倍、ATP-low集団に対して少なくとも約5倍高いことがわかる。これは、ミトコンドリアのATPレベルがMCF7細胞増殖の重要な決定因子であること、また、本手法の蛍光ATP撮像プローブによる代謝分画が、最も増殖性の高い細胞集団と最も増殖性の低い細胞亜集団を同定するための有効な技術であることを示している。
さらなるアッセイで、ATP-highのMCF7亜集団はエネルギー的に過剰増殖し、3次元足場非依存性増殖、がん幹細胞マーカー、およびミトコンドリア質量が有意に増加したことが確認された。ATP-Red1の選択性を確認するため、フローサイトメトリー後に、Cell-Titer-Gloを用いて細胞のATPレベルを測定した。しかしながら、Cell-Titer-Gloはルシフェラーゼベースのアッセイであるため、ATPレベルを検出するには細胞溶解が必要であり、そのため生細胞選別や撮像に使用できない。細胞を計数した後、次いで同数の単一細胞を用いて、Varioskan(商標)LUXプレートリーダーを使用し、発光によって相対的なATP含有量を評価した。図7Aの棒グラフは、ATP-low細胞集団に対して、ATP-highのMCF7亜集団の細胞がATPレベルで少なくとも15倍の増加を示し、一方でバルク細胞が約7倍の増加を示したことを示している。このグラフでは、MCF7集団におけるATP-high亜集団のATPレベルが、バルク細胞の少なくとも2倍であることもわかる。
3次元マンモスフェアアッセイを用いて、CSC活性およびCSC増殖の機能的な読み出し情報である足場非依存性増殖を測定した。図7Bは、5%をゲートカットオフとして用いた、ATP-high、バルク、およびATP-low亜集団の3次元マンモスフェアアッセイの結果を示す。図7Cは、アッセイ後の細胞亜集団の比較画像を示す。3次元マンモスフェアの画像は、EVOS FL Auto2顕微鏡を使用して取得した。それぞれ、選別した3つの細胞集団の細胞の代表的な画像である。4倍対物レンズを使用した。スケールバーは1,000μmである。ATP-highのMCF7細胞亜集団は、ATP-low亜集団に対して3次元スフェロイド形成が9倍増加し、バルク亜集団のほぼ2倍のマンモスフェア形成が見られた。これらのデータは、ATP-high細胞はバルクCSC集団よりも3次元足場非依存性増殖を行う能力が高いことを示唆している。
確立された2つのCSCマーカーであるCD44とALDH活性を使用して、亜集団の「幹細胞性」を調べた。図7Dは、FACSのゲーティングカットオフ値を5%とした場合、ATP-highのMCF7細胞亜集団(右の棒)が、ATP-low亜集団(左の棒)と比べてCD44の細胞表面発現でほぼ4倍、ALDH活性で約5.5倍となっていることを示している。ミトコンドリア質量の確立されたマーカーであるMitoTracker-Deep-Redでも同様の結果が得られ、ATP-highのMCF7亜集団で、ATP-low亜集団と比べて3倍の増加が認められた。ミトコンドリア質量はCSCにおける幹細胞性の特異的マーカーである。
これらは、本手法の代謝分画によってATP-high亜集団のCSC活性が高まることを示している。重要なこととして、ALDH活性の高さは、CSCのEMT(上皮間葉転換)のバイオマーカーであると考えられているのに対し、CD44は、むしろ上皮CSCマーカーであると考えられている。つまり、ATP-high細胞亜集団では、上皮CSCと間葉CSCの両方が有意に増加している。
抗酸化能と多分化能を示す蛍光生体プローブは、ATP-highのMCF7細胞集団も選択する。BioTracker ATP-Red1撮像プローブの有効性を、特にATP-high細胞集団の選択性について、他のいくつかの蛍光生体染色色素と比較した。このために、MCF7細胞の2次元単層をトリプシンで回収し、i)シスチン取り込み(「シスチン(cysteine)FITC」)およびγ-グルタミルトランスペプチダーゼ活性(GGT)などの抗酸化能;ii)多能性幹細胞;iii)低酸素;ならびにiv)老化(βガラクトシダーゼ活性、β-Gal)について、他の5つの蛍光BioTrackerプローブのパネルでライブ染色を行なった。次いで、フローサイトメトリーの直後に、Cell-Titer-Gloを用いて総ATPレベルを測定した。
図7Eは、この解析のCell-Titer-Gloの結果を示し、下位5%(各プローブの左の棒)に対する上位5%(各プローブの右の棒)の発光の倍率変化を表している。驚くことに、抗酸化能(シスチン取り込みとGGT活性)および多分化能を示すプローブは、すべてMCF7細胞のATP-high亜集団を選択した。しかしながら、追加で試験した蛍光生体プローブのうち、シスチンFITCの取り込みを直接測定するBioTrackerプローブは、ATP-high細胞亜集団の選択において最も有効であったが、ATP-Red1ほど有効ではなかった(3倍と20倍)。興味深いことに、高い抗酸化能は幹細胞性や薬剤耐性表現型と厳密に関連していることが知られている。低酸素プローブも、ATP-high細胞亜集団を積極的に選択した。これは、低酸素とミトコンドリア生合成の増加との関連に起因し得る。しかしながら、老化プローブ(βガラクトシダーゼ活性)は、ATP-high細胞集団もATP-low細胞集団も選択しなかった。
図8Aおよび8Bは、3次元マンモスフェアおよびATP-highのMCF7細胞の代謝プロファイリングに関する結果を示す。3次元足場非依存性増殖の根底にある代謝に対する理解を深めるために、2次元単層または3次元スフェロイドで培養したMCF7細胞の細胞内ATPレベルを比較した。後者の細胞集団はCSCが非常に豊富であることが知られている。2次元接着単層または3次元マンモスフェアとして増殖させたMCF7細胞中の代謝物のレベルを、Promegaのキット(Cell-Titer-Glo、GSH/GSSG-Glo、NADP-NADPH-Glo、NAD-NADH-Glo)を用いて比較した。2次元単層および3次元マンモスフェアは、最初にトリプシンで単一細胞に解離し、25ゲージ針で注入して、40μmのセルストレーナーでろ過した。細胞を計数した後、次いで同数の単一細胞を用いて、これらの相対発光量を評価した。なお、3次元マンモスフェアから得られた細胞は、いずれも2次元単層に対して、ATPレベルが2倍超、還元型グルタチオンレベルがほぼ2倍、NADP-NADPHレベルが2倍超、NAD-NADHレベルがほぼ1.5倍の増加を示した。データは、接着細胞に対する平均増加倍率±SD、n=4を表す。対応のないt検定、**p<0.005、***p<0.0005、****p<0.0001。
図8Aは、ATP、GSH/GSSG、NADP-NADPH、およびNAD-NADHを標的とするプローブについて、3次元スフェロイド(右の棒)と2次元単層(接着、左の棒)の発光の変化を比較したものである。3次元マンモスフェアから得られたMCF7細胞の定量分析では、ATPレベルが2次元単層細胞に対して2.3倍の増加を示した。GSH/GSSG比とNADP/Hレベルの両方で約2倍の増加が認められ、NAD/Hでも同様の結果が得られた。これらのデータは、3次元足場非依存性増殖には抗酸化能の向上も必要であり得るという考えと一致している。
以上から、2次元単層細胞のATP-high亜集団は、3次元足場非依存性増殖を起こす能力を有すると予想される。低接着条件下では、通常、MCF7細胞の90%超が、アポトーシス細胞死の特殊な形態であるアノイキスを起こす。ATPレベルが高ければ、細胞-基質接着がないために起こる懸濁液中での増殖という大きなストレスに、CSCがより抵抗できると推測される。しかし、エネルギー貯蔵量が多ければ、複数のストレス要因に対する耐性も付与され、結果として多剤耐性に至る可能性がある。
ATP-highおよびATP-lowのMCF7細胞は、Promegaのキット(Cell-Titer-Glo、GSH/GSSG-Glo、NADP-NADPH-Glo、NAD-NADH-Glo)を用いて、NAD/H、および2つの重要な抗酸化物質、GSHとNADP/Hについて、代謝プロファイリングを行った。最初に2次元単層の細胞をBioTracker ATP-Red1で染色し、フローサイトメトリーを用いてATP含有量による選別を行った。細胞を計数した後、次いで同数の単一細胞を用いて、これらの相対発光量を評価した。なお、ATP-high細胞は、いずれもATP-lowのMCF7細胞に対して、ATPレベルがほぼ25倍、還元型グルタチオンレベルが6倍、NADP-NADPHレベルがほぼ8倍、NAD-NADHレベルが2倍超の増加を示した。データは、ATP-low5%細胞に対する平均増加倍率±SD、n=4を表す。対応のないt検定、**p<0.005、***p<0.0005。図8Bに示すように、ATP-high亜集団の細胞は、いずれもATP-low亜集団の細胞に対して、NAD/Hを1.5倍超、NADP/Hを7.5倍超、還元型グルタチオン(GSH/GSSG比)を7倍超含有する。これらのデータは、ATP-high亜集団のMCF7細胞はエネルギーがより高く、その結果、抗酸化能が増強されていることを示している。高レベルの抗酸化物質は、がん細胞の薬剤耐性と関連することが知られており、多剤耐性表現型を示している。したがって、ATP-highのMCF7亜集団の細胞は、3次元の代謝表現型を模倣しており、集団からATP-high細胞を分離するという本手法が、多くの使用可能性を持つ特有の表現型を生み出すことを実証している。
ATP-highおよびATP-low亜集団の表現型は、数多くのがん腫に存在する。MCF7、T47D、MDA-MB-231、およびMDA-MB-468細胞のATP-high亜集団はすべて、3次元足場非依存性増殖の増加を示している。他の3つのヒト乳がん細胞株、T47D、MDA-MB-231、およびMDA-MB-468細胞から、FACSゲーティングカットオフ値10%でATP-highおよびATP-low細胞亜集団の組成物を作成した。ATP-highおよびATP-low細胞亜集団におけるATPの相対量は、Cell-Titer-Gloを用いて別々に検証した。最初に2次元単層細胞をBioTracker ATP-Red1で染色し、フローサイトメーターを用いてATP含有量による選別を行った。細胞を計数した後、次いで同数の単一細胞を用いて、これらの相対発光量を評価した。この一連の実験では、カットオフ値を10%として、ATP-highおよびATP-low細胞集団を画定した。この代謝分画方式は他の乳がん細胞株にもうまく適用できることに留意されたい。データは、ATP-low10%細胞に対する平均増加倍率±SD、n=3を表す。対応のないt検定、*p<0.05、**p<0.005、***p<0.0005。
図9Aおよび9Bは、10%ゲートを用いた、MCF7、T47D、MDA-MB-231、およびMDA-MB-468細胞のATP-highおよびATP-low亜集団のCell-Titer-Gloおよび3次元マンモスフェア形成を示す。図9Aは、これらすべての細胞株のATP-high亜集団が、ルシフェラーゼを用いたCell-Titer-Gloアッセイで確認したように、総ATPレベルが2~3倍増加し、ATP-high亜集団の表現型に特徴的なATPの増加を示したことを表している。図9Bからわかるように、3次元スフェロイドのアッセイでも同様の結果が得られ、調べた細胞株に応じてCSC活性および増殖が1.75~3倍増加したことが示されている。最初に2次元単層の細胞をBioTracker ATP-Red1で染色し、フローサイトメーターを用いてATP含有量による選別を行った。細胞を計数した後、5×103個の細胞をpoly-HEMAコートした6ウェルプレートに播種し、5日後に計数した。MCF7、T47D、MDA-MB-231、およびMDA-MB-468細胞のATP-high細胞集団はすべて、3次元足場非依存性増殖能の増強を示していることに留意されたい。データは、ATP-low10%細胞に対する平均増加倍率±SD、n=3を表す。対応のないt検定、***p<0.0005、****p<0.0001。
ATP-high亜集団の細胞は、酸化的ミトコンドリア代謝、解糖速度、および細胞周期進行の増加を示す。図10Aは、24時間後のMCF7細胞集団におけるATP-highおよびATP-low亜集団(10%)の発光を示す。細胞を計数した後、次いで同数の単一細胞を用いて、Varioskan(商標)LUXプレートリーダーを使用し、プレーティングの24時間後に、発光によって相対的なATP含有量を評価した。この実験では、多くの細胞が必要であったため、カットオフ値を10%として、ATP-highおよびATP-low細胞集団を画定した。データは、ATP-low10%細胞に対する平均増加倍率±SD、n=3を表す。対応のないt検定、****p<0.0001。観察されたATPレベルの増加は、ATP-high細胞を2次元単層としてプレーティングした24時間後には3分の1に低下し、エネルギーの高いATP-highの表現型が比較的一過性であり、より幹様な表現型と一致することを示している。
図10B~10Eは、ATP-highおよびATP-low亜集団の代謝フラックス解析の結果を示す。OCR(酸素消費速度)は、Seahorse XFe96を使用して、代謝フラックス解析で決定した。ATP-highのMCF7細胞集団は、基礎呼吸と最大呼吸に加え、ミトコンドリアATP産生も増加を示していることに留意されたい。細胞集団はプレーティングの24時間後に解析した。データは、ATP-low10%細胞に対する増加倍率(%)±SD、n=3を表す。対応のないt検定、*p<0.05、**p<0.005。ECAR(細胞外酸性化速度)は、Seahorse XFe96を使用して、代謝フラックス解析で決定した。ATP-highのMCF7細胞集団は解糖が増加を示していることに留意されたい。細胞集団はプレーティングの24時間後に解析した。データは、ATP-low10%細胞に対する平均増加倍率(%)±SD、n=3を表す。対応のないt検定、ns=有意差なし、***p<0.0005。図10Bおよび10Cのエネルギープロファイルは、ATP-high亜集団がATP-low集団に対して代謝的に活性であることを示している。細胞接着の24時間後、ATP-highのMCF7単層細胞は、基礎呼吸が2倍、最大呼吸が1.5倍、ATP産生が3倍の増加を示した。同様に、ATP-highのMCF7単層細胞も基礎解糖速度が1.5倍の増加を示した。図10Dおよび10Eの解糖速度は、ATP-high亜集団の生体エネルギーがATP-low亜集団よりも有意に高いことを示している。
ATP-high細胞亜集団の増殖能の評価から、ATP-high細胞亜集団は、さまざまながん種でATP-low亜集団よりも増殖性が著しく高いことが明らかとなった。図11A~11Dは、ヨウ化プロピジウムを用いた、DNA含有量を検出するFACS解析による、MCF7、T47D、MDA-MB-468、およびMDA-MB-231細胞の細胞周期進行を示す。見てわかるように、ATP-high細胞亜集団は、G0/G1期からS期およびG2/M期に移行し、ATP-low亜集団よりも増殖性が著しく高かった。より具体的には、G0/G1期が約80~88%から60~64%に減少したのに対し、S期は4~8%から9~21%に増加した。同様に、G2/M期が7~12%から17~30%に増加した。4つの細胞株すべてで、ATP-low亜集団に対して、ATP-high細胞亜集団において細胞周期進行のこうした明らかな促進が認められた。全体として、これは試験した4つの細胞株すべてで、S期の細胞数で1.9~3.6倍、G2/M期の細胞数で1.8~3.8倍の増加を示している。興味深いことに、S期における最大の増加がMCF7細胞で認められたのに対し、G2/M期における最大の増加はMDA-MB-231細胞で認められた。
一方、各細胞株のATP-low集団は基本的に静止状態にあり、細胞の80~88%が細胞周期のG0/G1期にあって、細胞周期停止の主要な表現型を示していた。すなわち、ATP-low細胞亜集団は現在のがん細胞の休眠状態の定義によく合致している。
したがって、高いATPレベルは、「幹細胞性」形質、足場非依存性増殖、および細胞増殖の主要な決定因子である。このように、本明細書に記載する実用的な手法により、全細胞集団から生体エネルギー的に「最適」で最も増殖性の高いがん細胞をうまく単離し、特有の表現型特性を有する細胞の新たな組成を形成することができる。これらの特性は、薬剤耐性と密接な関係がある。
ATP-high亜集団のMCF7細胞は多剤耐性表現型を示す。3次元マンモスフェアアッセイを、薬剤耐性の機能的な読み出し情報として使用して、4種の薬剤クラスに対するATP-highおよびATP-lowのMCF7細胞亜集団の感受性差を探索した。薬剤クラスは、タモキシフェン、ドキシサイクリン、DPI、およびパルボシクリブを含む。図12AはATP-low亜集団(下位5%)の結果を示し、図12BはATP-high亜集団(上位5%)の結果を示す。図12Aおよび12Bには、薬剤クラスごとに2種類の濃度を示す。
タモキシフェンは、ER(+)乳がん細胞を臨床的に標的として日常的に使用されるFDA承認薬であり、タモキシフェン耐性や治療失敗に至った結果、腫瘍再発や遠隔転移が起こることも少なくない。興味深いことに、ATP-lowのMCF7細胞による3次元マンモスフェア形成は、タモキシフェン治療に対する感受性が非常に高く、1μMで約40%、5μMで90%超の減少が認められた。これに対し、図12Bから、ATP-highのMCF7細胞による3次元マンモスフェア形成は、5μMでは溶媒で処理した対照の80%超と高いままで、タモキシフェンに著しい耐性を示したことがわかる。したがって、ATP-highのMCF7細胞は明らかにタモキシフェン耐性である。
図12Bから、ATP-highのMCF7細胞はミトコンドリアOXPHOS阻害剤、すなわちジフェニレンヨードニウム(DPI)にも耐性を示したがことがわかる。例えばATP-low細胞のDPI治療では、3次元マンモスフェア形成が100nMで90%超減少した。これに対し、ATP-high細胞のDPI治療(100nM)では、3次元マンモスフェア形成の減少はわずか55%程度だった。したがって、いずれの亜集団もミトコンドリア阻害剤に対して感受性はあるものの、ATP-high細胞では明らかに耐性が高かった。
ドキシサイクリンはミトコンドリアのリボソーム翻訳を阻害するFDA承認抗生物質である。図12Aと図12Bを比較すると、ATP-lowのMCF7細胞で非常に有効であった濃度、すなわち25μMおよび50μMで、ATP-high亜集団はドキシサイクリンに対して大幅な耐性を示したことがわかる。
FDA承認CDK4/6阻害剤であるパルボシクリブの有効性は、図12Aおよび12Bからも明らかである。ATP-low細胞のパルボシクリブ治療により、3次元マンモスフェア形成が12.5nMで約75%減少した。しかしながら、ATP-high細胞のパルボシクリブ治療(12.5nM)では、3次元スフェロイド形成の減少はわずか50%程度だった。このように、ATP-high細胞もCDK4/6阻害剤に対して耐性が高かった。したがって、ATP-high亜集団は、いくつかの薬剤種に対して耐性を示す表現型である。
幹細胞性の確立されたマーカーであるCD44およびALDH活性とBioTracker ATP-Red1を比較した。ATP-Red1と他のCSCマーカーの有効性を直接比較するために、MCF7とMDA-MB-231細胞の両方に二重標識法を適用した。細胞は、検出用に異なる蛍光チャネルを用いてCD44とATPについて二重標識を行った。これにより、CD44とATPについて4つの実験群、CD44-high/ATP-high、CD44-high/ATP-low、CD44-low/ATP-high、およびCD44-low/ATP-lowを得た。
細胞選別後、得られた4つの亜集団には、幹細胞性の機能的な読み出し情報として、3次元マンモスフェアアッセイを行った。ATPとCD44の細胞表面発現を比較した。細胞選別後、MCF7とMDA-MB-231株の両方を使用し、幹細胞性の機能的な読み出し情報として、異なる細胞亜集団で3次元足場非依存性増殖を測定した。簡単に説明すると、最初に2次元単層をBioTracker ATP(PEチャネル)と抗CD44(APCチャネル)の両方で共染色し、SONYのSH800セルソーターを用いて、フローサイトメトリーを行った。細胞を計数した後、5×103個の細胞をpoly-HEMAコートした6ウェルプレートに播種し、プレーティングの5日後に3次元マンモスフェアを計数した。図13Aおよび13Bに示すように、CD44-low/ATP-low細胞は、これらの亜集団の表現型特性から予想されるとおり、足場非依存性増殖が最も少なかった。そのため、CD44-low/ATP-low細胞を正常化のポイントとして選択した。CD44-high/ATP-highとCD44-low/ATP-highの2つの細胞亜集団が、最大の足場非依存性増殖を示した。したがって高レベルのATPは、CD44と比べると、MCF7とMDA-MB-231の両方の細胞で幹細胞性の主要な決定因子となる。
CD44-high集団のみを検討することにし、CD44-high集団を、増殖能の高い亜集団(CD44-high/ATP-high)と増殖能の低い亜集団(CD44-high/ATP-low)の2つに分類できるようATPで二重標識した。これにより、CD44-high/ATP-low集団は、明らかに足場非依存性増殖が有意に少ないことが示され、CD44(+)CSCの「休眠性」が高い亜集団となっている。
ALDH活性とATPを用いた二重標識でも、ほぼ同じ結果が得られた。細胞選別後、MCF7とMDA-MB-231株の両方を使用し、幹細胞性の機能的な読み出し情報として、異なる細胞亜集団で3次元足場非依存性増殖を測定した。簡単に説明すると、最初に2次元単層をBioTracker ATP(PEチャネル)とALDH活性(APCチャネル)の両方で共染色し、SONYのSH800セルソーターを用いて、フローサイトメトリーを行った。細胞を計数した後、5×103個の細胞をpoly-HEMAコートした6ウェルプレートに播種し、プレーティングの5日後に3次元マンモスフェアを計数した。図13Cおよび13Dは、ADLH活性とATPで二重標識した、それぞれMCF7およびMDA-MB-231細胞株のマンモスフェア形成アッセイの結果を示す。予想どおり、最大の足場非依存性増殖を示した2つの細胞集団はALDH-high/ATP-highとALDH-low/ATP-highであった。したがって高レベルのATPは、ALDHと比べると、MCF7とMDA-MB-231の両方の細胞で幹細胞性の主要な決定因子となる。同様に、ATPを用いて二重標識すると、ALDH-high集団を、増殖能の高い亜集団(ALDH-high/ATP-high)と増殖能の低い亜集団(ALDH-high/ATP-low)の2つに分類できる。
上記は、本手法が、ATPを休眠状態に関する第2のマーカーとして用い、CSCを、活性の高い過剰増殖亜集団と休眠性の高い亜集団に亜分画するための強力かつ有効な手法であることを証明している。この結果は、ATPレベルがCSCの休眠状態の機能制御因子であることも示している。
細胞の遊走、浸潤、および自然転移におけるミトコンドリアATPの役割も探索した。データは、ミトコンドリアATPが、がん細胞の転移過程に関わるエネルギーのバイオマーカーであることを証明している。MDA-MB-231細胞は、in vitroとin vivoの両方で、細胞運動性と転移を研究するための確立されたモデルである。MDA-MB-231細胞のATP-highおよびATP-low亜集団が細胞の遊走および浸潤を行う能力を、トランスウェルを用いた修正ボイデンチャンバーアッセイによって評価した。比較のためにバルク(5%)集団も選択した。浸潤を調べるために、トランスウェルは細胞外マトリクス、すなわちマトリゲルでコートし、単純な細胞遊走を防いだ。細胞の遊走および浸潤アッセイの両方に、化学誘引物質として血清を使用した。遊走および浸潤のパラメータは、クリスタルバイオレット染色強度と細胞数の両方を用いて、別々に定量化した。
図14Aおよび14Bは、この遊走および浸潤解析の結果を示す。ATP-highのMDA-MB-231細胞は、細胞遊走を起こす能力が、ATP-low細胞に対して20~40倍の増加を示した。予想どおり、バルク(5%)細胞は中間の表現型を示した。ATP-highのMDA-MB-231細胞は、浸潤を起こす能力が、ATP-low細胞集団に対して15~25倍の増加を示した。このため、ATP-highのMDA-MB-231細胞はin vivoでの前転移性細胞亜集団に相当する。
さらなる評価のために、鶏卵の漿尿膜(CAM)を用いた、確立されたin vivo転移アッセイを使用して、自然転移を定量的に測定した。ATP-highおよびATP-low細胞亜集団を細胞選別で単離した後、各卵(E9日目)のCAM上に30,000個の細胞(MDA-MB-231)を接種し、次いで無作為にいくつかの群に分けた。E18日目に、下部CAMを採取し、ヒトAlu配列の特異的プライマーを用いたqPCRで解析し、転移細胞数を評価した。特異性の陰性対照として、未注入の卵も並行して評価した。各実験条件について20個超の卵を処理した。
図15は、in vivoのCAMアッセイでの自然転移の結果を示す。データから、ATP-high亜集団のMDA-MB-231細胞はATP-low細胞亜集団よりも転移性が4.5倍高かったことがわかる。これらの亜集団は同じ細胞株に由来していた。したがって、ATP-high亜集団のMDA-MB-231細胞は前転移性CSC亜集団に相当する。図4Cに関連して上記で説明したように、ATP-high亜集団のMDA-MB-231細胞は、2つのCTCおよび転移マーカー(VCAM-1とEp-CAM)も過剰発現しており、過剰増殖CSCが、遠隔転移の播種に関与するCTCであることを示している。
したがって、本手法を用いて、がんが転移する可能性を検出することができる。例えば、がんの生体試料を代謝的に分画してATP-high亜集団の含有量を評価し得、その含有量を用いて、がんが転移する可能性を推定し得る。がん患者のATP-high亜集団の細胞を早期に検出、解析することによって、転移のリスクを診断し、本明細書に記述するATP枯渇療法剤などによる適切な治療を特定する極めて貴重な機会が得られる。
ATP-highのMCF7細胞を精製するTempo-ATPタンパク質バイオセンサーは、がん細胞における幹細胞性の新たなバイオマーカーとしてのATPの使用を独立的に検証する。蛍光タンパク質バイオセンサーであるTempo-ATPは、生細胞中のATPレベルを検出するまったく異なるプローブであり、これを使用してATPのレベルの高低を検出した。
細胞質蛍光タンパク質ATPバイオセンサーを組換えにより過剰発現しているTempo-ATP-MCF7細胞は、細胞選択のためのピューロマイシン耐性マーカーを用いて、Tempo-Bioscience,Inc.(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)が特別に作製した。このタンパク質ベースの蛍光ATPバイオセンサーは、励起波長が517~519nm、発光が535nmである。GFP様蛍光レポータータンパク質とインフレームで融合したATP結合ペプチドからなる。Tempo-ATP-MCF7細胞は、フローサイトメーター(励起=517~519nm;発光=535nm)を用いて、細胞質のATP含有量のサロゲートマーカーとしてGFP含有量によって分類した。細胞を計数した後、次いで同数の単一細胞を用いて、代謝および表現型の挙動を評価した。
結果を図16A~16Cに示す。GFP-low亜集団に対するGFP-high亜集団の発光の相対的増加を図16Aに示す。細胞周期進行のデータを図16Bに、マンモスフェア形成アッセイの結果を図16Cに示す。これまでの検討から予想されたとおり、ATP-highのTempo-MCF7細胞は、ATPが有意に増加し、還元型グルタチオン、NADP/H、およびNAD/Hがより減少し、さらに細胞周期進行および3次元足場非依存性増殖が増加を示した。Tempo-ATPのデータは、BioTracker ATP-Red1の結果、特に、高いATPレベルが、抗酸化能、細胞増殖、および3次元足場非依存性増殖の重要な決定因子であることを独立的に検証している。Tempo-ATPも有効ではあったが、BioTracker ATP-Red1は細胞の主要なATP産生源であるミトコンドリア内に直接局在するため、有効性が有意に高かった。
本手法は、大量のATP産生が、がん細胞における「幹細胞性」形質および増殖の主要なドライバーであることを実証している。本明細書に開示する観察は、がん細胞集団で観察される代謝不均一性の分子基盤、ならびに、i)急速な細胞周期進行、およびii)足場非依存性増殖など、いずれもin vivoでのCSCの転移性播種に必要とされる表現型の挙動との関係を説明することができよう。
実証したように、ATPは、がん細胞集団を代謝的に分画し、過剰増殖および休眠状態の亜集団を同定するバイオマーカーとして使用し得る。このことは、ATP枯渇療法は、過剰増殖性亜集団の治療に有効であり得、かつ腫瘍の再発および転移の可能性を低下させ得る、または排除し得ることを示している。
本手法に基づいて、BioTracker ATP-Red1のような生細胞のATPレベルを測定できる重要な蛍光色素を、代謝分画のための撮像プローブとして使用し得る。より具体的には、BioTracker ATP-Red1染色を、全細胞集団をフローサイトメトリーにかける生体エネルギー分画法と組み合わせて、集団のATP-highおよびATP-low亜集団を単離し得る。上記で検討した多くの例で、ER(+)ヒト乳がん細胞株であるMCF7細胞を使用してきたが、当然のことながら、本手法は任意の細胞株および任意のがん種に使用し得る。代謝分画の手法により、全細胞集団の中で最も「エネルギーに満ちた」がん細胞を単離することが可能となる。有利には、得られたATP-highのがん細胞亜集団を、ATP枯渇療法による根絶のための標的とし、創薬および薬剤開発の基盤として役立て得る。表現型の特性を考えると、ATP-high亜集団は、再発および転移の可能性を阻止する、または低下させる治療法の評価にも使用し得る。
並行する一連の研究で、本発明者らは、ATP枯渇療法を効果的に実現するのに使用できそうなミトコンドリア標的の治療薬を20種類以上確認した。これらの治療薬候補には以下がある:FDA承認薬(ドキシサイクリン、チゲサイクリン、アジスロマイシン、パモ酸ピルビニウム、アトバコン、ベダキリン、ニクロサミド、イリノテカン);天然物/機能性食品(アクチノニン、CAPE、ベルベリン、ブルチエリジン、メリチジン);および実験化合物(オリゴマイシン、AR-C155858、ミトリボスシン(2018年3月14日に出願された国際特許出願PCT/US2018/022403号明細書(特許文献1)を参照。また、参照によりその全体が援用される)、ミトケトスシン(2018年6月25日に出願された国際特許出願PCT/US2018/039354号明細書(特許文献2)を参照。また、参照によりその全体が援用される)、ミトフラボスシン(2018年10月23日に出願された国際特許出願PCT/US2018/057093号明細書(特許文献3)を参照。また、参照によりその全体が援用される)、TPP誘導体(ドデシル-TPPおよび2-ブテン-1,4-ビス-TPPを含む。2018年11月21日に出願された国際特許出願PCT/US2018/062174号明細書(特許文献4)を参照。また、参照によりその全体が援用される))。2種類の抗生物質とビタミンCとの3種の組み合わせ(ドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびアスコルビン酸)は、より低い抗菌レベルで、ミトコンドリアを標的とし、ATP枯渇およびCSC増殖を誘発するのに特に強力であることがわかっている(2019年12月16日に出願された国際特許出願PCT/US2019/066541明細書(特許文献5)を参照。また、参照によりその全体が援用される)。ATP枯渇化合物は、有効性、細胞膜透過、および/またはミトコンドリアの取り込みを増加させるために改変された既存の化合物であり得、これらについては、例えば2018年5月18日に出願された国際特許出願PCT/US2018/033466号明細書(特許文献6)(参照によりその全体が援用される)および2018年11月29日に出願された国際特許出願PCT/US2018/062956号明細書(特許文献7)(参照によりその全体が援用される)に記載されている。例えば、ミリスチン酸塩などの脂肪酸と結合させたドキシサイクリンは、ATP枯渇化合物として使用し得る。ATP-high亜集団が、当技術分野で通常処方される用量の化合物に耐性を示す場合など、状況によっては、化合物の用量を増やして投与することが適切となり得る。化合物は投与し得る。当然のことながら、前述の化合物のいずれかをATP枯渇療法剤として使用し、ATP-high亜集団を標的として、再発および転移の可能性を阻止し得る、または低下させ得る。当然のことながら、患者のがんの生体試料中のABCA2、ATP5F1C、COX20、NDUFA2、およびUQCRBの5つのメンバーの遺伝子シグネチャーの発現量が、患者の非がん性の生体試料中の発現量に対して上昇していることが認められた場合、前述の化合物のいずれかを、がん患者に投与する治療薬として使用し得る。
化合物の多くは、安全性プロファイルが優れたFDA承認の抗生物質を別の用途に用いたものであるため、第II相臨床試験が必要となる。例えば、ドキシサイクリンの第II相臨床予備試験では、CD44およびALDH1を特異的CSCマーカーとして使用して実証されたように、50年以上使用されているこの抗生物質が、初期乳がん患者のCSC集団を代謝的に標的とするのに実際に有効であることがすでに示されている。ミトコンドリアATP枯渇療法は、断食および/またはカロリー制限を機能的に模倣することによって、より効果的にCSCを餓死させることが期待されている。本手法では、ATP枯渇療法の効果を高めるために、抗がん治療の一環として断食および/またはカロリー制限を実施し得る。例えば、ATP枯渇療法を受ける患者は、治療用化合物の投与を受ける前に、12、16、24、36、または48時間などの時間にわたって絶食し得、および/または、治療用化合物の投与を受けた後に、12、16、24、36、または48時間などの時間にわたって絶食し得る。いくつかの実施形態では、絶食は、ATP枯渇効果を高めるために、治療用化合物の投与の前後に行い得る。これは、がんの予防、および老化する中でヒトの寿命を延ばす可能性にとって重要な意味を持つ。
ATP-high亜集団の細胞は、抗酸化能が増強された多剤耐性の表現型を示す。これまでの研究で、高い抗酸化能が、還元型グルタチオンレベルの上昇、NADPHの上昇、およびNRF2シグナルの活性化により、多剤耐性の発現に大きく寄与することが示されている。ATP-high亜集団のMCF7細胞は、還元型グルタチオンレベルが上昇した高い抗酸化能を有し、4種類の薬剤(タモキシフェン、パルボシクリブ、ドキシサイクリン、およびDPI)に対して本質的に耐性を示す。したがって、ATP-highというCSCの表現型の存在は、がん治療中の多剤耐性の原因を機構的に説明するのに役立ち得る。この関連で、現在のがん療法では、代謝的に「最適」ながん細胞のみが生き残る可能性がある。そうすると、これらの細胞は再発や転移の最大のリスクとなる。
上記に開示したデータは、ミトコンドリアの「力」とタモキシフェン耐性の直接的な因果関係も示している。例えば、タモキシフェンの濃度を高めながら長期的に曝露することで生成され、タモキシフェン耐性を獲得したMCF7-TAMR細胞は、ミトコンドリアのOXPHOSおよびATP産生のレベルの上昇を示した。MCF7-TAMR細胞では、タモキシフェン耐性の獲得は、2つの主要な抗酸化タンパク質(NQO1とGCLC)の過剰発現およびミトコンドリア代謝に対するそれらの好ましい代謝効果によるものであったことが、偏りのないプロテオーム解析から明らかとなった。また、MCF7細胞でNQO1またはGCLCを組換え過剰発現させると、ミトコンドリアATP産生およびタモキシフェン耐性が自律的に約2倍増加した。さらに、乳がん患者の獲得タモキシフェン耐性と臨床上関連するエストロゲン受容体(ERα;ESR1)における体細胞変異(Y537S)の組換え過剰発現によって、ミトコンドリア生合成の増加、OXPHOS、および高いATP産生が遺伝的にもたらされた。MCF7-TAMR細胞とMCF7-ESR1(Y537S)細胞のプロテオームプロファイルから、機能的に活性化された生物学的過程においてかなりの重複があることも示された。また、ミトコンドリアATP産生と機能的に関連した60個の遺伝子産物は、ER(+)/ルミナールA型乳がん患者においてタモキシフェン耐性を予測するものであった。これらの予測的バイオマーカーには、18種のミトコンドリアリボソームタンパク質(MRP)と、20種を超えるミトコンドリアOXPHOS複合体の構成要素があった。本明細書に開示するデータは、ATP-high亜集団の「未感作」MCF7細胞は、事前にタモキシフェンに曝露されていなくても、タモキシフェンに対して本質的に耐性があることを示している。このことは、乳がんのホルモン療法の有効性を最適化する上で、臨床的に重要な意味を持つ。
従来の化学療法レジメンによる治療は、「バルク」がん細胞を選択的に死滅させる一方で、実際にはCSCの数を増加させることがこれまでに報告されている。本開示以前に、この現象を説明する代謝仮説は提示されていない。Chanら(Genentech, Inc.)は、がん細胞集団全体に対するゲムシタビンとエトポシドの効果を調べた。驚くことに、ゲムシタビンとエトポシドによる治療後、生き残った細胞の集団で、ミトコンドリア呼吸が増加し、ATP含有量とミトコンドリア質量が増加を示したことを観察していた。しかしながら、彼らはこれらの観察結果について機構的な説明は行わず、CSC集団についても考慮しなかった。代わりに、ATPを測定しても化学療法剤の有効性を評価するのに役立つ情報は得られないと結論づけるにとどまった。本明細書に開示するデータを考慮すると、彼らの結果は、ゲムシタビンとエトポシドががん細胞のATP-lowおよびバルク亜集団を選択的に死滅させ、そのため、より幹様で薬剤耐性のある「エネルギーに満ちた」ATP-high亜集団が増加したという別の解釈ができる。したがって、がん細胞のATP-high亜集団を根絶するのに役立つ新たな創薬を開始する必要がある。
長期にわたって治療したさまざまな大腸がんおよび卵巣がんの細胞株(HT29、HCT116、A2780)では、細胞内のATPレベルが高いことが、オキサリプラチンとシスプラチンに対する薬剤耐性獲得の主な原因であることが示唆されたが、解糖および/またはミトコンドリア代謝の増加など、多様な機序が提案されている。しかしながら、これまでの研究では、薬剤耐性細胞集団を長期にわたって選択した後にしかATPレベルを測定していなかった。そのため、ATP産生と薬剤耐性の直接的な因果関係を確立することはできなかった。
以前、本発明者らは、「エネルギーに満ちた」がん幹細胞(e-CSCS)を単離するために、自己蛍光を用いて細胞内のFAD、FMN、およびリボフラビン含有量を検出するという、より間接的な方法を用いた。2019年6月19日に出願された国際特許出願PCT/US2019/037860号明細書(特許文献8)を参照のこと。また、同出願は参照によりその全体が援用される。しかしながら、ATP-Red1の使用は直接的な方法で、大幅に改善している。例えば、高自己蛍光(AF;上位5%)を用いてMCF7の2次元単層を分画すると、足場非依存性増殖が1.5倍増加し、ATP産生がほぼ2倍増加した、細胞のAF-high集団が得られた。これに対し本手法では、ATP-Red1(上位5%)を使用することで、足場非依存性増殖が9倍増加し、ATP含有量が15倍超増加したATP-highのMCF7単層細胞の亜集団が得られた。他のがん細胞株(T47D、MDA-MB-231、およびMDA-MB-468)のATP-high亜集団も、同様に過剰増殖の特性を示した。したがって、直接的なエネルギーバイオマーカーとしてATPを使用することは、自己蛍光よりもはるかに優れている。さらに、ATP-Red1は、試験した他の3つの乳がん細胞株を代謝的に分画する上でも有効であった。
腫瘍の休眠に対する従来の考え方によれば、休眠状態のがん細胞は、細胞増殖の速度が遅くなる、および/または細胞周期が停止する(静止)ことで、治療による細胞死を回避し、多剤耐性に至る。本明細書で開示するデータは、まさにその逆を示している。読み出し情報として3次元マンモスフェアアッセイを用いたところ、ATP-low亜集団のMCF7細胞は、細胞の87%超が細胞周期のG0/G1期にあり増殖性が低かったが、4種類の薬剤に対する感受性が高かった。逆に、ATP-high亜集団のMCF7細胞は、S期またはG2/M期にある細胞が38%超と、増殖性が有意に高く、明らかな多剤耐性表現型を示した。したがって高レベルのミトコンドリアATPは、がん細胞のエネルギー的に「最適」な集団であり、細胞増殖と薬剤耐性の両方の重要なドライバーといえる。
本発明者らは、in vivo異種移植動物モデルを使用し、一連の異なる抗ミトコンドリア療法を用いた治療が、i)代謝的にATP枯渇を誘発し、ii)がん細胞の転移を強力に阻害するのに十分であることを示している。これらの結果は、CSCの転移過程に高いATPレベルが重要であることを示しており、また、ATP-highのCSCが過剰増殖、幹様、足場非依存性であり、抗酸化能と内因性の多剤耐性が増大していることを示す、本明細書に開示したデータと一致する。したがって、本手法を用いて単離し得るATP-highのCSCは、in vivoでの腫瘍の再発および転移に関与しているとみられる。
上述のバイオインフォマティクス解析により、ATP関連遺伝子が、幹細胞性、増殖、および転移と密接に関連しており、特にATP5F1CはミトコンドリアATP合成酵素の触媒コアのγサブユニットをコードすることが示されている。さらに、ATP5F1Cは、タモキシフェン治療を受けているER(+)患者の腫瘍再発および遠隔転移の予後バイオマーカーであり、また治療失敗のマーカーでもある。また、ATP-highのMDA-MB-231細胞は、in vitroでは細胞遊走と細胞浸潤の両方、またin vivoでは自然転移を起こす能力の劇的な向上を示した。このように、ミトコンドリアATPは転移性播種において重要な役割を果たす。したがって、ミトコンドリアATP合成阻害剤は、転移を予防する、つまりATP-high亜集団のCSCを根絶する治療薬候補として有効であろう。
本手法の医薬組成物は、任意の薬学的に許容される担体中の(上記で確認した)ATP枯渇化合物を含む。溶液が所望される場合、水溶性化合物または塩のために選択される担体は水であり得る。水溶性に関しては、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、またはこれらの混合物などの有機ビヒクルが好適である可能性がある。さらに、本方法から逸脱することなく、水溶性を向上させる方法を使用し得る。後者の例では、有機ビヒクルは相当量の水を含むことができる。いずれの例でも溶液は、当業者に知られている適切な方法で、例示として0.22ミクロンのフィルターでろ過することによって滅菌できる。滅菌後、溶液は脱パイロジェン化ガラスバイアルなどの適切な容器に分注することができる。分注は、任意で無菌法で行う。次いで、滅菌したクロージャーをバイアルに装着し、所望により、バイアルの内容物を凍結乾燥させることができる。解糖阻害剤またはOXPHOS阻害剤などの第2の阻害剤化合物を含む実施形態は、当技術分野で利用可能な第2の阻害剤の形態を同時投与し得る。本手法は、別段の記載がない限り、特定の投与形態に限定されることを意図していない。
ATP枯渇化合物に加えて、本手法の医薬製剤は、当技術分野で知られる他の添加剤を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、酸(例えば塩酸)などのpH調整剤、および基剤または緩衝液(例えば酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、およびリン酸ナトリウム)を含み得る。いくつかの実施形態では、メチルパラベン、プロピルパラベン、およびベンジルアルコールなどの抗菌防腐剤を含み得る。抗菌防腐剤は、多回投与用に設計されたバイアルに製剤を入れる場合に含まれることが多い。本明細書に記載の医薬製剤は、当技術分野でよく知られた技術を用いて凍結乾燥できる。
ATP枯渇化合物の経口投与を含む実施形態では、医薬組成物は、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、溶液、懸濁液などの形態で摂取できる。クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、およびリン酸カルシウムなどさまざまな賦形剤を含む錠剤は、デンプン(例えばジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン)などさまざまな錠剤分解物質および特定の複合ケイ酸を、ポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチン、およびアカシアなどの結合剤と一緒に使用し得る。さらに、錠剤化のために、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびタルクなどの滑沢剤を含有させ得る。同様の種類の固形組成物を、軟質および硬質充填ゼラチンカプセルの充填剤として使用し得る。この関連の材料には、ラクトース(乳糖)および高分子量ポリエチレングリコールがある。経口投与のために水性懸濁液および/またはエリキシルが所望される場合、本開示主題の化合物は、さまざまな甘味料、香料、着色料、乳化剤、および/または懸濁剤の他、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、およびこれらのさまざまな組み合わせなどの希釈剤と組み合わせることができる。カルボシアニン化合物と第2の阻害剤化合物とを有する実施形態において、第2の阻害剤化合物は、カルボシアニン化合物の形態に限定されることなく、別の形態でも投与し得る。
本明細書で提供する追加的な実施形態は、本明細書に開示するATP枯渇化合物のリポソーム製剤を含む。リポソーム懸濁液を作製する技術は、当技術分野でよく知られている。化合物が水溶性の塩である場合、従来のリポソーム技術を用いて、同じものを脂質小胞に組み込むことができる。そのような場合、活性化合物は水溶性であるため、リポソームの親水性中心またはコア内に実質的に入れ込むことができる。使用する脂質層は、任意の従来組成物である可能性があり、コレステロールを含んでも含まなくてもよい。目的の活性化合物が水不溶性である場合、やはり従来のリポソーム形成技術を用いて、リポソームの構造を形成する疎水性脂質二重層内に塩を実質的に入れ込むことができる。いずれの例でも、標準的な超音波処理および均質化技術を用いるように、作製するリポソームの大きさを小さくできる。本明細書に開示する活性化合物を含むリポソーム製剤は、凍結乾燥して凍結乾燥物を作製することができ、これを水などの薬学的に許容される担体で再構成してリポソーム懸濁液を再生できる。
医薬組成物に関して、本明細書のATP枯渇化合物の薬学的に有効な量は、医療従事者が決定するものとし、患者の状態、体格、および年齢、ならびに送達経路によって異なる。非限定的な一実施形態では、約0.1~約200mg/kgの投与量が治療効果を有し、重量比は、塩を使用する場合を含め、被験者の体重に対するATP枯渇化合物の重量である。いくつかの実施形態では、投与量は、約1から5、10、20、30、または40μMの間までの活性化合物の血清濃度を得るために必要な化合物の量とすることができる。いくつかの実施形態では、経口投与のために約1mg/kg~約10mg/kg、およびいくつかの実施形態では約10~約50mg/kgの投与量を採用することができる。筋肉内投与には、通常、約0.5~5mg/kgの投与量を採用することができる。いくつかの実施形態では、静脈内または経口投与のために、投与量を約1~約50μmol/kg、または、任意で約22~約33μmol/kgの化合物とすることができる。経口投与形態は、例えば錠剤または他の固体投与形態あたり5mgから、50、100、200、または500mgを含む、任意の適切な量の活性物質を含むことができる。
以下の段落では、本明細書に記載するデータおよび実施形態に関連して使用される材料および方法について説明する。当然のことながら、当業者は、本手法から逸脱することなく、当技術分野において一般に受け入れられている代替の材料および方法を使用し得る。
細胞株および試薬:ER(+)[MCF7とT47D]およびトリプルネガティブ[MDA-MB-231とMDA-MB-468]ヒト乳がん細胞株をAmerican Type Culture Collection(ATCC)から購入した。ATP-Red1(BioTracker(商標)ATP-Red Live Cell Dye;#SCT045としても知られる)はSigma-Aldrich,Inc.から購入した。
図1Aのヒートマップは、以前にNCBIデータベースに登録したGSE36953 GEO DataSetを用いて作製した。総RNAは、2次元接着培養、3次元足場非依存性増殖、およびin vivo腫瘍増殖の3種類の増殖条件下で、TNBC細胞株であるMDA-MB-231細胞から調製した。解析は、Affymetrix Human Genome U133 Plus2.0Arrayで実施した。ヒートマップは、QIAGEN OmicSoft Suiteソフトウェアで作成した。ATP関連遺伝子は、両方の3次元培養条件(足場非依存性腫瘍とin vivo腫瘍)下で、すべて2次元接着培養に対して転写的に上方制御されていた。
ATP-Red1での生体染色後のフローサイトメトリー:ヒト乳がん細胞株は、最初に2次元単層または3次元スフェロイドとして増殖させた。次いで細胞を回収し、解離して単一細胞懸濁液にしてから、SONYのSH800セルソーターを用いたフローサイトメトリーで解析または選別した。簡単に説明すると、細胞のATP-highおよびATP-low亜集団は、プローブのATP-Red1で生体染色した後に単離した。ATP-highおよびATP-low細胞亜集団は、ATP-Red1シグナル内でゲーティングによって選択した。別段の記載がない限り、蛍光シグナルが最も弱い(下位5%または10%)細胞、または蛍光シグナルが最も強い(上位5%または10%)細胞を、それぞれATP-lowおよびATP-highとして回収した。ゲート外の細胞は、ゲート設定により選別時に破棄した。しかしながら、このような設定は、選別時に高純度を確保するために必要な場合が多い。データはFlowJo10.1ソフトウェアで解析した。
Cell-Titer-Gloを用いたATPアッセイ:Cell-Titer-Glo(#G7570)はPromega,Inc.から入手し、製造指示に従って使用して、溶解細胞のATPレベルを測定した。Cell-Titer-Gloはルシフェラーゼベースのアッセイ系である。
3次元足場非依存性増殖アッセイ:単一細胞懸濁液は、酵素分離(トリプシンEDTA×1、Sigma Aldrich、カタログ番号T3924)および手作業での分離(25ゲージ針)によって調製した。5000個の細胞を、マンモスフェア培地(DMEM-F12/B27/20ng/mL EGF/PenStrep)、非接着条件下で、2-メタクリル酸ヒドロキシエチル(poly-HEMA、Sigma、カタログ番号P3932)でコートした6ウェルプレートに播種した。細胞は、37℃、大気圧、5%(v/v)二酸化炭素/空気の加湿インキュベーターで5日間増殖させて維持した。5日後、目盛付接眼レンズを装着した顕微鏡を用いて、直径が50μmより大きな3次元スフェロイドを計数し、スフェロイドを形成した細胞の割合を算出し、1に正規化した(1=100%MFE;マンモスフィア形成効率)。マンモスフィアアッセイは3連で実施し、独立して3回くり返した。
代謝フラックス解析:細胞外酸性化速度と酸素消費速度は、Seahorse XFe96アナライザー(Agilent/Seahorse Bioscience、米国)を用いて解析した。細胞は、10%FBS(ウシ胎児血清)、2mM GlutaMAX、および1%Pen-Strepを添加したDMEMで維持した。1ウェルあたり乳がん細胞20,000個をXFe96ウェル細胞培養プレートに播種し、5%CO2加湿雰囲気中37℃で少なくとも12時間インキュベートし、細胞を接着させた。約24時間後、MCF7細胞は、予め温めたXFアッセイ培地で、またはOCR測定用に10mMグルコース、1mMピルビン酸、2mM L-グルタミンを添加し、pH7.4に調整したXFアッセイ培地で洗浄した。次いで細胞は、175μL/ウェルのXFアッセイ培地で、37℃の非CO2インキュベーターで1時間維持した。インキュベート中に、25μLの80mMグルコース、9μMオリゴマイシン、および1M 2-デオキシグルコース(ECAR測定用)、または10μMオリゴマイシン、9μM FCCP、10μMロテノン、10μMアンチマイシンA(OCR測定用)を、XFアッセイ培地で、XFe96センサーカートリッジの注入口に投入した。測定値は、タンパク質含有量(SRBアッセイ)およびHoechst33342含有量で正規化した。データセットは、XFe96ソフトウェアおよびGraphPad Prismソフトウェアを用いて、一元配置分散分析とスチューデントのt検定により解析した。実験はすべて、5連で実施し、独立して3回くり返した。
FACSによる細胞周期解析:Attune NxT Flow Cytometerを用いたFACS解析によって、ATP-highおよびATP-low細胞亜集団で細胞周期解析を実施した。簡単に説明すると、トリプシン処理後、再懸濁させた細胞を、10ng/mLのHoescht溶液(Thermo Fisher Scientific)を用いて、37℃の暗条件下で40分間インキュベートした。40分後、細胞を洗浄し、獲得のためにPBS(Ca、Mg)で、またはFACSのために選別緩衝液[3%(v/v)FBSおよび2mM EDTAを含有するPBS×1]で再懸濁した。条件ごとに50,000イベントを解析した。ゲーティングされた細胞は、手作業で細胞周期ステージに分類した。
統計的有意性:解析はすべて、GraphPad Prism6を用いて実施した。データは平均値±SD(または、指示がある場合は±SEM)で表した。実験はすべて、少なくとも独立して3回行い、試験した各実験条件について4つ以上の技術的複製を用いた(代表的なデータが示されている場合など、特に明記しない限り)。統計的有意差は、スチューデントのt検定または分散分析(ANOVA)検定を用いて決定した。複数群間の比較では、一元配置分散分析を用いて統計的有意差を求めた。p<0.05を有意とみなし、すべての統計的検定は両側で行った:p*<0.05;p**<0.01;p***<0.005;p****<0.0001。
バイオインフォマティクス解析:MCF7およびT47D乳がん細胞株を用いて、2次元単層と3次元マンモスフェアを比較する偏りのない非標識プロテオミクスを前述のように実施した。情報解析は、NCBIデータベースに登録されている、3次元増殖、転移、末梢循環腫瘍細胞(CTC)に関連する、さまざま公開なGEO DataSets(GSE36953;GSE2034;GSE59000;GSE55470)を用いて実施した。遺伝子発現プロファイリングデータは、これらのGEO DataSetsから抽出した。ヒートマップはQIAGEN OmicSoft Suiteソフトウェアで作成した。ボルケーノプロットは、OncoLandのMetastatic Cancer(QIAGEN OmicSoft Suite)で提供されているアノテーションを調べて作成した。さらに、アノテーションされた遺伝子で、Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア(IPA;QIAGEN)を用いて機能「コア解析」を実施した。遺伝子の共発現プロファイルは、cBioPortal(https://www.cbioportal.org/)を用いて、The Metastatic Breast Cancer Project(Provisional、2020)から抽出し、mRNA発現プロファイリング(RNA Seq V2 RSEM)は、患者146人の転移性乳がん試料のRNA配列決定によって行った。
カプラン・マイヤー(KM)解析:ATP5F1CのKM解析を実施するために、オープンアクセスのオンライン生存解析ツールを用いて、乳がん患者最大3,951人の公開マイクロアレイデータを照会した。この目的では、主にER(+)患者のデータを解析した。偏ったアレイデータは解析から除外した。これにより、ATP5F1C(ATP5C1としても知られる)を有意な予後マーカーとして同定できた。自動選択された最適なカットオフ値でハザード比を計算し、log-rank検定でp値を計算し、Rでプロットした。KM曲線は、単変量解析を用いて、KMプロッター(高解像度TIFFファイル)を使用してオンラインで作成した:https://kmplot.com/analysis/index.php?p=service&cancer=breast。
本手法により、腫瘍再発(RFS、無再発生存期間)および遠隔転移(DMFS、無遠隔転移生存期間)のマーカーとしてATP5F1Cのin silico検証を直接実施できた。これらの解析にはすべて、データベースの2020年最新版を利用した。
細胞遊走アッセイ:簡単に説明すると、0.1%BSAを含む0.5mLの無血清DMEM中の2.5×104個の細胞を、孔径8μmの、コートしていない膜改変ボイデンチャンバー(トランスウェル)のウェルに添加した。下部のチャンバーには、化学誘引物質としてDMEM中の10%ウシ胎児血清を入れた。細胞は37℃でインキュベートし、6時間にわたって遊走させた。非侵襲性細胞は綿棒でこすって膜の上面から除去した。チャンバーは100%メタノールで希釈した0.5%クリスタルバイオレットで30~60分間染色し、水ですすいだ後、明視野顕微鏡で観察した。浸潤および遊走の値は、膜ごとに5つのフィールドを計数して得た(20倍対物レンズ)、3つの独立した実験の平均である。細胞外マトリクス(すなわちマトリゲル)でプレコートしたトランスウェルを用いて、攻撃的な細胞浸潤を測定し、単純な細胞遊走を防いだことに留意されたい。
転移アッセイ:ニワトリ胚転移アッセイをINOVOTION(Societe:811310127、フランス、ラ・トロンシュ)で実施した。フランスの法律では、卵生胚を用いた科学実験に倫理審査による承認は必要ない(命令No.2013-118、2013年2月1日;第R-214-88条)。動物実験は、INOVOTIONに対する動物実験許可No.381029およびB3851610001に基づいて実施した。白色レグホンの受精卵を37.5℃、相対湿度50%で9日間インキュベートした。各実験条件について20個超の卵を処理した。その時点(E9)で、卵殻から気嚢に小さな穴を開けることで漿尿膜(CAM)を下げ、CAM上方の卵殻に1cm2の窓を開けた。MDA-MB-231腫瘍細胞株は、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM培地で培養した。E9日目に、細胞をトリプシンで剥離し、完全培地で洗浄し、移植用培地に懸濁させた。フローサイトメトリーによるATPベースの細胞選別後、各卵のCAM上に30,000個の細胞を接種し(E9日目)、次いで卵を無作為にいくつかの群に分けた。E18日目に、下部CAMの1cm2を採取し、各群8つの試料で転移細胞の数を評価した(n=10)。ゲノムDNAをCAMから抽出し(市販キット)、ヒトAlu配列の特異的プライマーを用いてqPCRで解析した。各試料のCq、平均Cq、および各群の転移の相対量の算出は、Bio-Rad(登録商標)CFX Maestroソフトウェアで直接管理される。特異性の陰性対照として、未注入の卵も並行して評価した。すべてのデータについて、事後検定を伴う一元配置分散分析を実施した。
本手法の実施形態の説明で使用する用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではない。説明および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに他を意味しない限り、複数形も含むことが意図されている。本手法は、以下の詳細な説明を考慮すれば明らかとなるように、多数の代替案、修正案、および等価物を包含する。
当然のことながら、本明細書では、「第1」、「第2」、「第3」、「a)」、「b)」、および「c)」などの用語を用いて本手法のさまざまな要素を説明し得るが、特許請求の範囲はこれらの用語によって制限されるべきではない。これらの用語は、本手法の1つの要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。したがって、本手法の教示から逸脱することなく、後述する第1の要素は、要素の一態様と称することも、同様に、第3の要素と称することもできよう。したがって、「第1」、「第2」、「第3」、「a)」、「b)」、および「c)」などの用語は、関連する要素に必ずしも順序などの階層を与えることを意図しておらず、識別の目的のみに使用される。作業(またはステップ)の順序は、特許請求の範囲に示される順番に限定されるものではない。
特に定義しない限り、本明細書で使用するすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。さらに当然のことながら、一般的に使用される辞書で定義されているような用語は、本願および関連技術の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義しない限り、理想化された、または過度に形式的な意味で解釈されるべきでない。本明細書に記載したすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。用語に矛盾がある場合、本明細書が優先する。
また、本明細書で使用する「および/または」は、関連する列挙された項目の1つまたは複数のあらゆる可能な組み合わせ、ならびに選択的に解釈される場合の組み合わせの欠如(「または」)を指し、これらを包含する。
文脈上他を意味しない限り、本明細書に記載する本手法のさまざまな特徴は、任意の組み合わせで使用できることが特に意図される。さらに本手法は、いくつかの実施形態において、実証的な実施形態に関して説明する任意の特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できることも企図する。
本明細書で使用する移行句「から基本的になる」(およびその文法的な変形)は、引用された材料またはステップ「および請求項の基本的かつ新規な1つまたは複数の特性に実質的に影響しないもの」を包含すると解釈されるものとする。したがって、本明細書で使用する用語「から基本的になる」は、「を含む」と等価であると解釈すべきでない。
本明細書において、例えば量または濃度など測定可能な値に言及する際に使用する用語「約」は、指定量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、さらには±0.1%の変動値を包含することを意味する。本明細書において測定可能な値について提示する範囲は、その中の任意の他の範囲および/または個々の値を含み得る。
このように、本手法の特定の実施形態を説明してきたが、添付の特許請求の範囲は、以下にクレームするその精神または範囲から逸脱することなく、その多くの明白な変形が可能であることから、上記の説明で示した特定の詳細に限定されないことが理解されよう。