以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1はスペクトル推定システムの構成の一例を示す図である。スペクトル推定システムは、スペクトル測定装置10、及びスペクトル推定装置50を備える。スペクトル測定装置10及びスペクトル推定装置50は、一体的な分析装置として構成してもよい。以下では、スペクトル推定システムとして、質量分析システムを例として説明するが、スペクトル推定システムは質量分析システムに限定されない。
スペクトル測定装置10は、試料注入部11、標準試料供給部12、流路切替バルブ13、イオン化部14、イオン光学系15、質量分離部16、検出部17、電圧発生部18、操作部19、及び制御部20を備える。
試料注入部11には、対象試料(「試料」ともいう)が注入される。対象試料は、工業材料、食品、環境、製薬などの様々な分野で使用されるものであり、例えば、低分子量化合物、タンパク質、アミノ酸、合成高分子ポリマー、または無機イオンなどが含まれるが、これらに限定されない。試料注入部11に注入された試料は、媒体(液体又はガス)によって、カラム(流路)を経由してイオン化部14に導入される。カラムを移動する過程で試料は分析種に分離される。分析種とは、試料の分析対象成分、分析試料、または分析目的成分を意味する。カラムの中途には、流路切替バルブ13が設けられ、試料注入部11に注入された試料の分析種と、標準試料供給部12に供給された標準試料の分析種とを選択的に切り替えてイオン化部14に導入する。標準試料は、イオン化した分析種の質量電荷比(m/z)に関するスペクトル(マススペクトル)のピークの位置が予め既知の試料である。なお、標準試料供給部12及び流路切替バルブ13は必須ではない。すなわち、試料注入部11から対象試料と標準試料の両方をイオン化部14に導入するようにしてもよい。
イオン化部14は、分析種をイオン化し、イオン光学系15は、イオン化した分析種(イオン)を収束させて質量分離部16に導入する。イオン光学系15で非イオン性粒子を除去してもよい。
質量分離部16は、観測用フィルタとしての機能を有する。質量分離部16は、例えば、4個の円柱状(内側が双曲面)の金属ロッドを中心軸から等距離に配置した四重極電場を用いて質量分離を行う。四重極電場は、電圧発生部18から供給される直流電圧と高周波交流電圧によって発生することができる。直流電圧と高周波交流電圧それぞれの電圧値は、電圧パラメータとして制御部20によって調整することができる。直流電圧と高周波交流電圧の比を変化させることにより、質量分離部16(観測用フィルタ)を通過できるイオンの質量電荷比の幅(観測用フィルタの帯域幅)を拡縮することができる。例えば、測定モードとして、第1モード、第2モード、及び第3モードを設け、観測用フィルタの帯域幅(測定窓の広さ)が狭い順に第1モード、第2モード、第3モードとすることができる。
また、直流電圧と高周波交流電圧の比を一定にして、直流電圧と高周波交流電圧それぞれを変化させることにより、質量分離部16を通過できるイオンの質量電荷比を変化させることができ、観測用フィルタを通過するイオンの質量電荷比を、質量電荷比の所要の下限値と上限値の間(m/z軸上)で走査(スキャン)することができる。すなわち、観測用フィルタのm/z軸上の位置のインデックスをiとすると、i=1~Mとすることができ、当該位置のインデックスを1つ移動させる都度、検出部17でイオンの数(量)を検出(観測)する。Mは観測回数となる。
操作部19は、電圧パラメータの設定、スペクトル測定装置10の動作条件などを設定することができる。
検出部17は、質量分離部16を通過して、到達したイオンの数(量)に応じた検出信号をスペクトル推定装置50へ出力する。
質量分離部16は、四重極型として説明したが、四重極型に限定されない。質量分離部16は、例えば、イオントラップ型、または飛行時間型などでもよい。イオントラップ型は、対向配置された一対のリング電極と、リング電極を挟むように配置された一対のエンドキャップ電極を備え、イオンは、一方のエンドキャップ電極から導入され、捕獲されたイオンが他方のエンドキャップ電極からイオン検出部に出力される。飛行時間型は、イオン加速用電極でイオンを加速してフライトチューブ(無電界領域)に導入し、導入されたイオンをイオン検出部で検出する。イオン検出部へ到達する時間によりイオンの質量電荷比を識別することができる。
図2はスペクトル推定装置50の構成の一例を示す図である。スペクトル推定装置50は、パーソナルコンピュータのような情報処理装置によって構成してもよい。スペクトル推定装置50は、装置全体を制御する制御部51、観測スペクトル信号算出部52、観測行列算出部53、記憶部54、スペクトル推定部55、表示処理部56、及び標準スペクトル信号算出部57を備える。スペクトル推定装置50には、有線又は無線を介して表示装置60が接続される。なお、表示装置60をスペクトル推定装置50に組み込んでもよい。
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などで構成することができる。記憶部54は、ハードディスク又は半導体メモリ等で構成することができ、後述の観測行列データ、及び学習モデルなどの所要の情報を記憶することができる。
観測スペクトル信号算出部52は、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づいて観測スペクトル信号を算出する。具体的には、観測スペクトル信号算出部52は、スペクトル測定装置10が出力する検出信号を取得し、質量電荷比(m/z)軸上の信号強度を算出して、観測スペクトル信号を求める。この処理においては、質量電荷比軸を適切にいくつかの区間に区切ることで離散化し、離散化によって得られるそれぞれの区間(スペクトルビンと呼ぶ)上での観測スペクトル信号を求める。質量電荷比の観測範囲(測定範囲)は、例えば、m/z=300~1600とすることができるが、これに限定されない。スペクトルビンの幅は、例えば、m/z=0.1とすることができるが、これに限定されない。なお、観測スペクトル信号を外部の分析器から取得できる場合は、制御部51は、観測スペクトル信号取得部として機能することができ、観測スペクトル信号を取得してもよい。この場合、観測スペクトル信号算出部52は必須の構成でなくてもよい。
標準物質の質量電荷比は既知であるが、測定条件(手法や装置)によって真正スペクトル信号の形状は変わり得るため、使用した測定条件での標準物質の真正スペクトル信号(標準スペクトル信号)を何らかの操作で得る必要がある。ここで、真正スペクトル信号とは、仮想的に十分に狭い測定窓を用いて測定した場合に得られると想定される理想的なスペクトル信号である。そこで、標準スペクトル信号算出部57において、観測用フィルタの帯域幅が最も狭いモードでの観測スペクトル信号に対してピーク検出などの処理を行うことで標準スペクトル信号を算出する。得られた標準スペクトル信号を標準物質に関する観測スペクトル信号とともに用いて観測関数の推定を行うことができる。
本実施の形態のスペクトル推定システムの観測系モデルは、式(1)で表すことができる。
式(1)において、yは、観測スペクトル信号算出部52で算出した観測スペクトル信号であり、式(2)で表すことができる。式(2)において、yiはi回目の観測時に得られた観測スペクトル信号の値である。ここで、i=1~Mであり、Mは観測回数を表す。すなわち、yiは、観測用フィルタのm/z軸上の位置のインデックスがiのときに検出された検出信号に基づいて算出された観測スペクトル信号の値を表す。
式(1)において、βは、対象試料の分析種を、スペクトル測定装置10において仮想的に十分に狭い測定窓を用いて観測した場合に得られると想定されるスペクトル信号(真正スペクトル信号)であり、式(3)で表すことができる。式(3)において、β1,β2,…,βNは、m/z軸上のスペクトルビン1,…,Nそれぞれにおける真正スペクトル信号の値である。ここで、1~Nは、スペクトルビンのインデックスであり、ビンの総数をNとしている。また、真正スペクトル信号βは、式(4)を満たすとする。式(4)の左辺は、真正スペクトル信号βの非ゼロ要素の数である。
式(1)において、εは、式(5)で表すことができ、i=1~Mにおける測定ノイズを表す。
式(1)において、Xは、観測行列であり、式(6)で表すことができる、M行N列の行列である。観測行列Xの各行である(xi j),j=1~Nが観測用フィルタの特性を表している。観測行列Xは、スペクトルビン幅以上の帯域幅を有し、観測用フィルタの特性を表す観測関数の値を要素とする行列である。観測行列Xは、(xi j)i=1~M,j=1~Nで表すM×N個の要素によって特徴付けられる。要素(xi j)は、インデックスi=1~M,j=1~Nそれぞれにおける観測関数の値を表す。観測行列Xは、記憶部54に記憶しておくことができる。なお、観測行列Xを外部の装置から取得できる場合には、例えば、制御部51が外部の装置から観測行列Xを取得し、取得した観測行列Xを使用してもよい。
式(1)で表す観測系モデルについて、具体的に説明する。
図3は本実施の形態の観測系モデルの一例を示す図である。図3の例では、便宜上、観測行列Xを、5行×7列の行列としている。すなわち、観測回数M=5、ビンの総数N=7である。観測行列Xの1行目の要素は、(f1,f2,f3,0,0,0,0)であり、これらの要素が観測用フィルタの特性を表す観測関数に相当する。なお、f1、f2、f3はゼロではないとする。すなわち、観測関数は、インデックスj=1~7それぞれにおいて、関数値が、f1,f2,f3,0,0,0,0となる関数である。観測行列Xの2行目の要素は、(0,f1,f2,f3,0,0,0)であり、1行目の観測関数を、インデックスjを1つ分だけずらしたものである。これは、観測用フィルタを、m/z軸上でスペクトルビン1つ分だけ移動させることに相当する。
真正スペクトル信号βは、7次元のベクトルであり、スペクトルビンそれぞれの真正スペクトル信号の値を、β1,β2,β3,β4,β5,β6,β7で表す。この場合、式(1)に基づく観測スペクトル信号yは、5次元のベクトルとなる。観測スペクトル信号yの各要素は、y1=f1・β1+f2・β2+f3・β3+ε1、y2=f1・β2+f2・β3+f3・β4+ε2、y3=f1・β3+f2・β4+f3・β5+ε3、y4=f1・β4+f2・β5+f3・β6+ε4、y5=f1・β5+f2・β6+f3・β7+ε5となる。y1~y5は、観測用フィルタ(観測関数)を、m/z軸上でスペクトルビン1つ分を移動させる都度、観測された観測信号の値である。ε1~ε5はノイズを表す。
図4は観測関数のm/z軸上での移動の様子を示す図である。本実施の形態の観測関数は、スペクトルビン幅以上の帯域幅を有する。図3の例では、観測関数は、連続する3つのスペクトルビンに亘って、0ではない関数値f1、f2、f3を持つ。すなわち、観測用フィルタは、試料のイオン化された分析種のうち、連続する複数のスペクトルビンに亘る質量電荷比の値をもつもののみを通過させる。
図5は比較例の観測系モデルの一例を示す図である。比較例の観測系モデルは、y=Iβ+εで表すことができる。観測行列Iは、7行×7列の行列としている。観測行列Iは、単位行列で表される。すなわち、比較例の場合、特定の質量電荷比を有するイオンのみを通過させる狭い測定窓を用いて観測する。観測スペクトル信号yは、7次元のベクトルとなる。観測スペクトル信号yの各要素は、y1=β1+ε1、y2=β2+ε2、y3=β3+ε3、y4=β4+ε4、y5=β5+ε5、y6=β6+ε6、y7=β7+ε7となる。ε1~ε7はノイズを表す。比較例の場合、狭い測定窓を用いて観測するので、観測できる信号強度が低下し、マススペクトルのピーク強度の精度や測定感度が低下する。
図6は比較例の観測関数のm/z軸上での移動の様子を示す図である。比較例の観測関数は、スペクトルビン幅の帯域幅を有する(高分解能観測と言える)。比較例の場合の測定窓(観測関数)は、質量電荷比の値が当該スペクトルビンの幅に含まれるイオンは通過することができるが、それ以外のイオンは通過できず観測されない。このため、観測できる信号強度が低下する。
これに対して、本実施の形態では、図3、図4に示すように、測定窓を広げて、いわゆる低分解能観測によって観測信号を得るので、マススペクトルの測定感度を向上させることができる。また、測定窓を広げて観測するので、比較例の場合と比べて、観測時の情報損失を低減することができる。例えば、図5に例示したように、真正スペクトル信号β1のみではなく、図3に例示したように、β1,β2,及びβ3の真正スペクトル信号の情報を1回の観測で得ることができる。
次に、観測行列の構築方法について説明する。なお、測定系の性質が既知であり、観測行列Xが事前に十分な精度で明らかである場合には、観測行列の構築を改めて行う必要はない。
以下では、観測関数の性質が全観測過程に亘って一定であると仮定する。観測関数を有限区間-J≦j≦J(測定窓)の外側では関数値が0となる離散関数として定義する。スペクトルビンの総数をNとする。標準試料に対して測定窓の位置をスペクトルビンのインデックス毎に1ずつ移動させることで、M(=N-2J)回の観測が行われるとする。この場合の観測行列Xは、式(7)で表すことができる。
また、観測スペクトル信号yの各要素は、式(8)で表すことができる。式(8)から、観測スペクトル信号yは、式(9)で表すことができる。Bは、標準試料の分析種の真正スペクトル信号(標準スペクトル信号)βi、i=1~Nに基づいて式(10)のように構築される行列である。fは、窓関数(観測関数を測定窓に対応する区間-J≦j≦Jに限定して構築されるベクトル)である。窓関数fは、式(11)で表すことができる。
スペクトルが既知(すなわち、上述のBが既知)である標準試料に対する観測を行うことで、得られた観測信号y、及び式(9)から、例えば、最小二乗法などを用いることにより、窓関数fを推定(算出)することができる。
図7は標準試料の分析種の観測スペクトル信号と真正スペクトル信号(標準スペクトル信号)の一例を示す図である。標準スペクトル信号算出部57は、標準試料の観測スペクトル信号からピーク検出を行い、その信号強度を調べることにより、標準スペクトル信号を算出することができる。また、当該ピーク近傍の観測スペクトル信号は窓関数fの推定に用いることができる。
上述のように、標準スペクトル信号算出部57は、観測用フィルタを用いて取得した、標準試料の分析種に関する観測スペクトル信号yに基づいて標準スペクトル信号を算出することができる。なお、標準スペクトル信号を外部の分析器から取得できる場合は、制御部51は、標準スペクトル信号取得部として機能することができ、標準スペクトル信号を取得してもよい。この場合、標準スペクトル信号算出部57は必須の構成でなくてもよい。
観測行列算出部53は、スペクトルビン幅以上の帯域幅を有し、当該観測用フィルタの特性を表す窓関数fを、観測スペクトル信号yと、標準スペクトル信号から構築される行列Bと窓関数fとの積(Bf)との誤差が最小になるようにして算出し、その結果に基づいて観測行列Xを構築することができる。観測行列算出部53によって構築された観測行列Xは、記憶部54に記憶することができる。なお、観測行列の構築は、スペクトル推定装置50以外の装置で行って、当該装置によって構築された観測行列Xを記憶部54に記憶してもよい。また、観測行列Xの代わりに窓関数fを記憶部54に記憶することとし、観測行列Xを使用する際に窓関数fを記憶部54から取得して観測行列Xを構築してもよい。
図8は標準試料を用いて推定された観測関数の一例を示す図である。横軸はスペクトルビンのインデックスを示し、縦軸は関数値を示す。第1モード、第2モード、第3モードは、測定窓の広さを特定する測定モードであり、観測関数の帯域幅(測定窓の広さ)は、第1モード、第2モード、第3モードの順に広くなる。観測関数の帯域幅は、スペクトルビン幅以上の広さを有し、いわゆる低分解能観測を行うことができる。また、図8から分かるように、帯域幅が広いモードほど、相対的に関数値(イオン検出量に相当)が大きくなる。
観測関数の推定には、標準試料の観測スペクトル信号の信号対雑音比が十分大きい質量電荷比(m/z)の範囲での観測スペクトル信号を用いればよい。図8の例では、1210≦m/z≦1235での観測スペクトル信号を用い、J=50として最小二乗法を行ったが、質量電荷比(m/z)の範囲やJの値は、これらに限定されない。第1モード、第2モード、第3モードにおける観測関数の半値全幅は、それぞれ0.6,0.7,2.3[m/z]となり、どの測定モードもスペクトルのビン幅0.1[m/z]に対する低分解能観測となっていることが分かる。また、測定窓の幅が広い測定モードほど関数値が大きくなっていることから、測定窓を広げることにより、観測用フィルタにおけるイオンの透過率が向上することが分かる。
なお、窓関数fが全観測過程に亘って一定であるとみなすことができない場合には、窓関数が一定とみなせる範囲でスペクトル領域を分割し、分割したスペクトル領域毎に、上述と同様の処理を行う。そして、それぞれのスペクトル領域で推定された窓関数を統合等することにより観測行列Xを構築すればよい。また、標準試料のスペクトル観測は、測定装置のキャリブレーションに必要な処理であるから、観測行列の構築のために測定系に新たなハードウェアや処理が追加されるわけではない。
本実施の形態では、スペクトルビン幅以上の幅を持つ測定窓(観測用フィルタ、観測関数)を用いることで、低分解能観測を行い、連続する複数のスペクトルビンに亘るスペクトル信号を同時に観測する。低分解能観測によって得られる観測スペクトル信号は、複数のスペクトル信号成分が混合されたものであるため、元の真正スペクトル信号を推定するための、事後的な処理が必要となる。測定窓を広げて観測を行うため、検出できるイオンの数(量)が増加し、マススペクトルのピーク強度の推定精度及び測定感度を向上させることができる。事後的な処理によって、測定窓の幅(帯域幅)以下のスペクトル分解能を達成することも可能である。
次に、真正スペクトル信号の推定方法について説明する。
スペクトル推定部55は、記憶部54から観測行列を読み出し、観測スペクトル信号算出部52で算出した観測スペクトル信号yを目的変数とし、観測行列Xを説明変数とし、分析種の真正スペクトル信号が有していると期待される性質を事前知識として利用して真正スペクトル信号βを推定する。事前知識として、例えば、対象試料の分析種の真正スペクトル信号のスパース性を用いることができる。スパース性(スパースな性質)とは、複数の推定パラメータに依存するデータにおいて、データの説明に寄与する推定パラメータは僅かであるというような意味である。対象試料の真正スペクトル信号について言えば、複数の連続するスペクトルビンに亘るスペクトルのうち、非ゼロの信号値を有するスペクトルビンの数は僅かであるという性質ということができる。スパース性を含む事前知識は、例えば、スペクトルピーク同士が隣接しやすい性質なども含めることができる。真正スペクトル信号の推定方法としては、スパース推定を用いることができ、例えば、ラッソ(Lasso)回帰、SCAD(smoothly clipped absolute deviation)、MCP(minimax concave penalty)などがある。以下では、ラッソ回帰を例に挙げて説明する。
図9はスペクトル推定部55の構成の第1例を示す図である。スペクトル推定部55は、パラメータ選択部551を備える。スペクトル推定部55は、式(12)を用いて、真正スペクトル信号を推定する。
式(12)において、β(ハット)は真正スペクトル信号の推定解であり、yは観測スペクトル信号であり、Xは観測行列であり、βは真正スペクトル信号の一時推定値(推定スペクトル信号)であり、λは正則化パラメータである。正則化パラメータλは、推定スペクトル信号に対する罰則の大きさを決めるハイパーパラメータであり、λ≧0である。式(12)の右辺の第1項は、二乗誤差、すなわち、観測スペクトル信号yと、観測行列と推定スペクトル信号(推定された真正スペクトル信号)との積(Xβ)との二乗誤差である。
式(12)の右辺の第2項は、スパースな解(すなわち、対象試料の真正スペクトル信号が有するスパース性を事前知識として利用する)を得るための項であり、正則化項、罰則項、あるいは制約条件などと称される。ここで、罰則項は、L1ノルムとすることができ、このときの罰則値は、L1ノルムの値として与えられる。正則化パラメータλは、λ→0ならば制約条件を与えていない場合と同じ状況になるが、λが大きくなるほど、推定結果はスパースとなる。すなわち、よりスパースな推定スペクトル信号を得ることができる。
スペクトル推定部55は、真正スペクトル信号βのスパース性に基づいて、罰則値と、二乗誤差値との和を最小とするように、真正スペクトル信号βを推定する。なお、真正スペクトル信号の推定にあたっては、例えば勾配降下にもとづく手法を用いるならば、推定スペクトル信号に対する二乗誤差値や罰則値を具体的に求める必要はない。このように、スペクトル推定部55による事後的な処理により、低分解能観測によって得られた、複数のスペクトル信号成分が混合された観測スペクトル信号yから元の真正スペクトル信号βを精度よく推定することができる。
上述の正則化パラメータλは、適切な推定結果を得るために適当な値を選択する必要がある。正則化パラメータλの選択基準として、例えば、AIC(Akaie information criterion)やBIC(Bayesian information criterion)などの情報量規準を用いることにより、小さい計算コストで正則化パラメータを選択できる。なお、CV(cross validation)などの方法を用いてもよい。また、正則化パラメータの適当な値が事前に分かっている場合には、改めて値の選択を行わなくてもよい。選択された正則化パラメータの値を用いて算出される真正スペクトル信号の推定解を、最終的な推定結果とする。
パラメータ選択部553は、正則化パラメータλを選択する。以下では、AIC for lassoを基準として採用する場合について説明するが、正則化パラメータλの選択方法は、これに限定されない。
AIC for lassoを基準とする場合、AIClassoは、式(13)で表すことができ、λAICは、式(14)で表すことができる。式(13)において、βλ(ハット)は、正則化パラメータλを用いて、式(12)によって得られた真正スペクトル信号の推定解であり、||βλ(ハット)||0は、推定解βλ(ハット)の非ゼロ要素の数である。式(14)を解く具体的な処理は、まず、λmin≦λ≦λmaxを満たす複数のλの値に対して真正スペクトル信号の推定解βλ(ハット)を算出し、算出した推定解βλ(ハット)から式(13)を用いてAIClassoを算出する。算出した複数のAIClassoのうち最小のAIClassoが得られたときのλをλAICとする。なお、λの値に対する推定解βλ(ハット)の算出は、ラッソ回帰、パス追跡法、ホモトピー法(βλ(ハット)がλの関数として区分線形になることを利用する方法などを使ってλの関数としてラッソ回帰の解を求める方法)などを用いることができる。
上述のように、パラメータ選択部553は、観測関数によって特性が表された観測用フィルタに導入される分析種の真正スペクトル信号の推定解が観測スペクトル信号をよく説明し、なおかつ推定解において値が非ゼロであるスペクトルビンの数を小さくするという二つの要請をバランスよく満たす推定解を与える正則化パラメータλを選択することができる。
図10はスペクトル推定部55の構成の第2例を示す図である。スペクトル推定部55は、学習モデル555を備える。学習モデル555は、深層学習(ディープラーニング)を含むニューラルネットワークモデルであり、入力層、出力層及び複数の中間層から構成されており、真正スペクトル信号に関する事前知識に相当する情報を学習等により獲得している。入力層には、対象試料の分析種の観測スペクトル信号が入力される。入力される観測スペクトル信号は、具体的には、質量電荷比(m/z)のスペクトルビンの数を要素数とし、各スペクトルビンにおける信号強度を要素値とするベクトルである。図10の例では、スペクトルビンは、質量電荷比がJ1~J2の範囲である。入力層に与える入力には、この他に対象試料に含まれる可能性がある分析種に関する情報などを加えてもよい。出力層からは、対象試料の分析種の真正スペクトル信号の推定値が出力される。出力される真正スペクトル信号の推定値は、具体的には、質量電荷比(m/z)のスペクトルビンの数を要素数とし、各スペクトルビンにおける信号強度を要素値とするベクトルである。このように、対象試料の観測スペクトル信号を学習モデル555に入力すると、学習モデル555は、対象試料の真正スペクトル信号の推定値を出力することができる。なお、試料に含まれる可能性のあるいくつかの分析種が事前に特定できる場合には、それらの分析種の量に関する推定値を出力に含めてもよい。
上述のように、スペクトル推定装置50は、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づいて算出された観測スペクトル信号を入力した場合に、当該分析種の真正スペクトル信号を推定する学習モデル555、及び、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づいて観測スペクトル信号を算出する観測スペクトル信号算出部52を備えてもよい。スペクトル推定装置50は、観測スペクトル信号算出部52で算出した観測スペクトル信号を学習モデル555に入力して、真正スペクトル信号を推定することができる。
学習モデル555は、例えば、CPU(例えば、複数のプロセッサコアを実装したマルチ・プロセッサなど)、GPU(Graphics Processing Units)、DSP(Digital Signal Processors)、FPGA(Field-Programmable Gate Arrays)などのハードウェアを組み合わせることによって構成することができる。また、学習モデル555は、ニューラルネットワークモデルに限定されるものではなく、他の機械学習モデルでもよい。
表示処理部56は、スペクトル推定部55で推定した真正スペクトル信号に基づいて推定結果(例えば、マススペクトルを含む)を表示装置60に出力することができる。
図11はマススペクトルの一例を示す図である。マススペクトルは、対象試料の分析種をイオン化し、生じたイオンの質量電荷比(m/z)の違いを利用し分離した個々のイオン強度(各m/zでのイオン強度)をグラフにしたものである。マススペクトルは、分析種によって違いが表れるので、対象試料の成分分析に使用することができる。図11の例では、複数の質量電荷比(m/z)の値において、スペクトルのピークが表れているが、図11は模式的に表した例であって、スペクトルのピークの数は1つの場合もあり得る。
次に、本実施の形態による真正スペクトル信号の推定に関する評価結果について説明する。
マススペクトルデータベースMassbankに登録されている実在のマススペクトルと、図8に示す観測関数に基づいて構築した各測定モード(第1モード、第2モード、第3モード)の観測行列とを用いて、上述の式(1)に従うノイズ付き線形観測シミュレーションを計算機上で行い、得られた観測信号から本実施の形態による推定方法と、比較例による推定方法とを用いてマススペクトルの推定を行った。従来のマススペクトル推定方法は、(1)第3モードでの観測信号そのものに対して、(2)適切な閾値を設定し、(3)閾値以上の信号に対してピーク検出を行うことで所望のマススペクトルを得る手法である。比較例では、この従来方法を本実施の形態による推定方法と比較できる形にすべく、(1)第3モードでの観測スペクトル信号yに対して、観測行列をIsubとする線形観測モデルを仮定した上で、(2)λAICに基づいてラッソ回帰を行い、(3)得られた推定スペクトルに対してピーク検出を行うことにした。
観測行列Isubは、式(15)で表すことができ、N次元単位行列INの部分行列である。観測行列IsubのfIは、式(16)で表すことができ、fI(j)は、式(17)で表すように、スペクトルビン幅だけの帯域幅を有する(高分解能観測と言える)。
数値シミュレーションには、26サンプルのマススペクトルデータ(50≦m/z<650、スペクトルビン幅=0.1[m/z]、ビン総数N=6000)に対して最大ピーク強度Kmax=100となるよう正規化処理を行ったものを用いた。ノイズは独立なガウシアンノイズとし、ノイズの標準偏差を1.0とした。
図12は推定方法の評価結果の第1例を示す図である。評価のための指標としては、MSE、λAIC/(fのL2ノルムの2乗)、F1scoreを用いた。MSE(Mean Squared Error)は、平均二乗誤差であり、実際の値βと推定値β(ハット)との誤差の2乗をビン総数で平均化したものである。図中の数値は平均を示し、カッコ内の数値は標準誤差を示す。
MSEは、値が小さいほど誤差が少ない。λAIC/(fのL2ノルムの2乗)は、ラッソ推定におけるピーク検出限界の指標となる。ここで、fは窓関数であり、-J≦j≦Jでの観測関数の関数値を並べた(2J+1)次元ベクトルである。窓関数fから構築した観測行列に基づくラッソ推定において、λAIC/(fのL2ノルムの2乗)は軟閾値と解釈できるため、ピーク検出限界の指標として取り扱うことができる。
F1scoreは、二値分類手法の評価に用いられる指標であり、二値分類手法を用いた際の真陽性、偽陰性、偽陽性、真陰性の標本数をそれぞれnTP、nFN、nFP、nTNとすると、F1scoreは、F1score=2・Precision・Recall/(Precision+Recall)で計算される。ここで、Precision(精度)=nTP/(nTP+nFP)であり、Recall(検出率)=nTP/(nTP+nFN)である。F1scoreは、PrecisionとRecallとの調和平均である。スペクトルピークの有無を判定する問題は、スペクトルのビンでの信号値がゼロか非ゼロかを判別する二値分類問題と捉えることができるため、F1scoreを評価指標として用いることができる。
図12に示すように、本実施の形態では、比較例と比較してMSEが小さい。すなわち、スペクトルピーク強度の推定精度が向上することが分かる。また、本実施の形態では、比較例と比較してλAIC/(fのL2ノルムの2乗)が小さい。すなわち、より強度の小さいスペクトルピークが検出可能であること、ピーク検出感度が向上していることが分かる。さらに、本実施の形態では、比較例と比較してF1scoreが大きい。すなわち、本実施の形態によれば、ピーク/非ピークの分類性能が向上することが分かる。
図13は推定方法の評価結果の第2例を示す図である。図13では、本実施形態の各測定モードにおけるλAIC/(fのL2ノルムの2乗)を対比している。図13に示すように、第1モード、第2モード、第3モードの順にλAIC/(fのL2ノルムの2乗)が小さくなっている。このことから、第3モードは、第1モード及び第2モードよりも、より強度の小さいスペクトルピークを検出できることが分かる。
図14は推定方法の評価結果の第3例を示す図である。図14において、横軸は質量電荷比(m/z)を示し、縦軸は相対的信号強度を示す。図14には、真のスペクトル信号(真正スペクトル信号に相当)、比較例による真正スペクトル信号の推定結果、本実施形態の真正スペクトル信号の推定結果を図示している。図14中、符号Oは、真正スペクトル信号のピーク位置のうち、推定スペクトル信号が正しくピークをもつ位置を示し、符号Xは、真正スペクトルピーク信号の位置のうち、推定スペクトル信号が誤ってピークをもたない位置を示す。符号Oの数が多いほど、真正スペクトル信号のピークをより検出できていることを表すので、比較例に比べて、本実施形態の推定方法は優位性があることが分かる。
図15は観測行列の構築の処理手順を示すフロー図である。なお、前述のとおり、測定系の性質が既知であり、観測行列Xが事前に十分な精度で明らかである場合には、観測行列の構築を改めて行う必要はない。以下、便宜上、処理の主体をスペクトル推定システム(以下、「システム」ともいう)として説明する。システムは、標準試料の分析種をイオン化して質量分離部16に導入する(S11)。システムは、ユーザの操作に基づいて、電圧パラメータを調整して測定窓(観測用フィルタ)をm/z軸上で走査する(S12)。
システムは、走査が終了したか否かを判定し(S13)、走査が終了していない場合(S13でNO)、ステップS12以降の処理を続ける。走査が終了した場合(S13でYES)、システムは、m/z軸上の連続信号を取得する(S14)。システムは、m/z軸上の連続信号に対して観測スペクトル信号を算出するとともに、ピーク検出を行うことにより標準試料の分析種の真正スペクトル信号(標準スペクトル信号)を得る(S15)。
システムは、標準スペクトル信号、及び標準試料の分析種の観測スペクトル信号に基づいて観測関数及び観測行列を算出する(S16)。観測関数及び観測行列の算出には、式(9)~式(11)を用いることができる。システムは、算出した観測行列を記憶部54に記憶し(S17)、処理を終了する。
図16は対象試料の分析種の真正スペクトル信号の推定の処理手順を示すフロー図である。システムは、対象試料の分析種をイオン化して質量分離部16に導入する(S21)。システムは、ユーザの操作に基づいて、電圧パラメータを調整して測定窓(観測用フィルタ)をm/z軸上で走査する(S22)。
システムは、走査が終了したか否かを判定し(S23)、走査が終了していない場合(S23でNO)、ステップS22以降の処理を続ける。走査が終了した場合(S23でYES)、システムは、m/z軸上の連続信号を取得する(S24)。
システムは、正則化パラメータλを選択し(S25)、二乗誤差値(すなわち、観測スペクトル信号と、観測行列と推定スペクトル信号の積との二乗誤差)と、推定スペクトル信号の罰則値に正則化パラメータλを乗じた値との和が最小となるように真正スペクトル信号の推定解β(ハット)を算出する(S26)。推定スペクトル信号の罰則値は、式(12)の右辺の第2項のβのL1ノルムに相当する。真正スペクトル信号の推定解β(ハット)の算出は、式(12)を用いることができる。
システムは、真正スペクトル信号の推定解β(ハット)の非ゼロ要素の数を算出し(S27)、正則化パラメータの評価指標が所定条件を充足するか否かを判定する(S28)。正則化パラメータの評価指標は、式(13)を用いることができる。所定条件を充足するか否かは、式(14)を用いて、選択した正則化パラメータλが式(13)の評価指標を最小にするか否かで判定できる。
正則化パラメータの評価指標が所定条件を充足しない場合(S28でNO)、システムは、ステップS25以降の処理を続ける。正則化パラメータの評価指標が所定条件を充足する場合(S28でYES)、システムは、その正則化パラメータに対応する真正スペクトル信号の推定解を最終的な真正スペクトル信号の推定結果として出力し(S29)、処理を終了する。
図2に例示したスペクトル推定装置50は、例えば、パーソナルコンピュータ等を用いることができる。スペクトル推定装置50は、CPU、ROM、RAM、GPU、及び記録媒体読取部などで構成することができる。記録媒体(例えば、CD-ROM等の光学可読ディスク記憶媒体)に記録されたコンピュータプログラム(プログラム製品)を記録媒体読取部(例えば、光学ディスクドライブ)で読み取ってRAMに格納することができる。ここで、コンピュータプログラムは、図15及び図16に記載された処理手順を含む。コンピュータプログラムを、ハードディスクに格納し、プログラム実行時にRAMに格納してもよい。RAMに格納されたコンピュータプログラムをCPUで実行させることにより、制御部51、観測スペクトル信号算出部52、観測行列算出部53、スペクトル推定部55、表示処理部56、及び標準スペクトル信号算出部57における各処理を実行することができる。コンピュータプログラムは、記録媒体読取部で読み取る構成に代えて、インターネットなどのネットワークを介して他のコンピュータ又はネットワークデバイス等からダウンロードしてもよい。
本実施の形態のスペクトル推定装置は、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づく観測スペクトル信号を取得する観測スペクトル信号取得部と、前記観測スペクトル信号を目的変数とし、スペクトルビン幅以上の帯域幅を有し、前記観測用フィルタの特性を表す観測関数を要素とする観測行列を説明変数とし、前記分析種の真正スペクトル信号に関するスパース性に基づいて前記真正スペクトル信号を推定する推定部とを備える。
本実施の形態のスペクトル推定装置において、前記観測用フィルタには、連続する複数のスペクトルビンに亘る質量電荷比(m/z)を有する、イオン化された分析種が導入される。
本実施の形態のスペクトル推定装置において、前記推定部は、前記観測スペクトル信号と、前記観測行列及び推定された真正スペクトル信号の積との二乗誤差と、推定された真正スペクトル信号のスパース性に基づく罰則項の値に正則化パラメータを乗じた値との和が最小になるようにして、前記真正スペクトル信号を推定する。
本実施の形態のスペクトル推定装置は、前記観測関数によって特性が表された観測用フィルタに導入される前記分析種の真正スペクトル信号の推定解の値が非ゼロであるスペクトルビンの数を小さくする前記正則化パラメータを選択する選択部を備える。
本実施の形態のスペクトル推定装置は、観測用フィルタを用いて取得した、マススペクトルのピークの位置が既知である標準試料の分析種に関する信号に基づく標準スペクトル信号を取得する標準スペクトル信号取得部と、観測スペクトル信号yと、前記標準スペクトル信号から構築される行列Bと窓関数fとの積(Bf)との誤差が最小になるようにして窓関数fを算出し、その結果に基づいて観測行列Xを構築する観測行列算出部とを備え、前記推定部は、前記観測行列算出部で算出した観測行列を用いて、前記真正スペクトル信号を推定する。
本実施の形態のスペクトル推定装置は、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づいて算出された観測スペクトル信号を入力した場合に、前記分析種の真正スペクトル信号を推定する学習モデルと、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づいて観測スペクトル信号を算出する観測スペクトル信号算出部とを備え、前記観測スペクトル信号算出部で算出した観測スペクトル信号を前記学習モデルに入力して、前記真正スペクトル信号を推定する。
本実施の形態のスペクトル推定システムは、前述のスペクトル推定装置と、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号を出力するスペクトル測定装置とを備え、前記スペクトル推定装置は、前記スペクトル測定装置が出力する検出信号に基づいて真正スペクトル信号を推定する。
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づく観測スペクトル信号を取得し、前記観測スペクトル信号を目的変数とし、スペクトルビン幅以上の帯域幅を有し、前記観測用フィルタの特性を表す観測関数を要素とする観測行列を説明変数とし、前記分析種の真正スペクトル信号に関するスパース性に基づいて前記真正スペクトル信号を推定する、処理を実行させる。
本実施の形態のスペクトル推定方法は、観測用フィルタを用いて取得した、対象試料の分析種に関する検出信号に基づく観測スペクトル信号を取得し、前記観測スペクトル信号を目的変数とし、スペクトルビン幅以上の帯域幅を有し、前記観測用フィルタの特性を表す観測関数を要素とする観測行列を説明変数とし、前記分析種の真正スペクトル信号に関するスパース性に基づいて前記真正スペクトル信号を推定する。
上述のように、本実施の形態の推定方法は、観測対象に対して、測定窓を広げて行う低分解能観測によって得られた観測スペクトル信号に対して線形観測モデルを適用し、観測対象が有すると期待されるスパース性を含む性質を事前知識として利用して目的のスペクトルを推定する(スパース推定)。観測対象のスペクトルに関する事前知識を利用することにより、低分解能観測で得られた、複数のスペクトル成分が混在する観測信号から高解像スペクトルを高精度・高感度で復元することができる。また、本実施の形態の推定方法によれば、スペクトルのピーク強度推定精度が向上するとともに、スペクトルのピーク検出感度、ピーク分類性能も向上する。さらに、本実施の形態では、測定条件によって、測定窓の幅以下のスペクトル分解能を達成することができる。測定系のハードウェアの改変をすることなく、ソフトウェアによる処理の追加のみによって実装することも可能である。
上述の実施の形態では、質量分析におけるマススペクトルについて説明したが、本実施の形態は、質量分析の分野に限定されるものでない。低分解能観測によって、例えば、連続する複数のスペクトルビンに関するスペクトル信号が混在して同時に観測されるような観測系(例えば、分光分析など)に対しても本実施の形態を適用することができる。