<ポリビニルアルコールフィルム>
本発明の一実施形態に係るポリビニルアルコールフィルム(PVAフィルム)は、PVA(A)と、無水マレイン酸に由来する構造単位を有する重合体(B)とを含み、PVA(A)100質量部に対する重合体(B)の含有量が、0.5質量部以上9.5質量部以下であり、重合体(B)の無水マレイン酸に由来する構造単位における塩化率が、0.3以上0.9以下である。
当該PVAフィルムは、偏光性能が優れる偏光フィルムを製造することができる。この理由としては、無水マレイン酸に由来し、一部が塩化している構造単位を有する重合体(B)は、PVA(A)との相溶性及び架橋性を併せ持つことにより、フィルム中でPVA(A)と重合体(B)とが良好な架橋構造を形成できることによると推測される。具体的には、無水マレイン酸に由来し、塩化している構造単位は、PVA(A)との相溶性及び水溶性を高めることができ、無水マレイン酸に由来し、塩化していない構造単位は、PVA(A)との良好な架橋反応性を示す。すなわち、当該PVAフィルムにおいては、PVA(A)と重合体(B)とは架橋構造を形成していることが好ましい。また、重合体(B)は、通常、実質的に中性であるため、ヨウ素系色素等の二色性色素の分解等の影響を与え難いことも、偏光性能が優れる偏光フィルムを得ることができる要因であると推測される。以下、各成分等について詳説する。
(PVA(A))
PVA(ビニルアルコール系重合体)(A)は、通常、PVAフィルムの主成分である。主成分とは、質量基準で最も含有量の大きい成分をいう。PVA(A)は、ビニルアルコール単位(-CH2-CH(OH)-)を構造単位として有する重合体である。PVA(A)は、ビニルアルコール単位の他、ビニルエステル単位やその他の構造単位を有していてもよい。
PVA(A)の重合度の下限としては、1,500が好ましく、1,800がより好ましく、2,000がさらに好ましい。重合度が上記下限以上であることで、PVAフィルム並びにこのPVAフィルムから得られる延伸フィルム及び偏光フィルムの耐久性を向上させることなどができる。また、重合度が上記下限以上であることで、偏光フィルムの偏光性能もより高まる傾向にある。一方、この重合度の上限としては、6,000が好ましく、5,000がより好ましく、4,000がさらに好ましい。重合度が上記上限以下であることで、製造コストの上昇や、製膜時における不良発生などを抑制することができる。なお、PVAの重合度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
PVA(A)のけん化度の下限としては、PVAフィルムの耐水性等の点などから、95モル%が好ましく、96モル%がより好ましく、98モル%がさらに好ましい。一方、このけん化度の上限は、100モル%であってよい。なお、PVAのけん化度とは、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合(モル%)をいう。けん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
PVA(A)の製造方法は特に限定されない。例えば、(1)ビニルエステル系重合体を得る工程、及び(2)得られたビニルエステル系重合体をけん化する、すなわちビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換する工程により、PVA(A)を製造することができる。
ビニルエステル系重合体は、ビニルエステル系単量体のみからなる単独重合体であってもよく、ビニルエステル系単量体と、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
ビニルエステル系単量体は、特に限定されないが、例えば蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。経済的観点からは、これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。
ビニルエステル系単量体と共重合可能な単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、α-ブチレン、イソブチレン等の炭素数2~30のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸又はその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-メチロール(メタ)アクリルアミド又はその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、又はその塩、エステル若しくは酸無水物;イタコン酸、又はその塩、エステル若しくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。
ビニルエステル系重合体は、上記他の単量体の1種又は2種以上に由来する構造単位を有することができる。上記他の単量体は、ビニルエステル系単量体を重合反応に供する際、重合系内に予め存在させておいたり、あるいは、重合反応の進行中に系内に添加したりするなどして使用することができる。
上記他の単量体の中でも、α-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。PVA(A)がα-オレフィンに由来する構造単位を含む場合、PVAフィルムの延伸性等が向上する。PVA(A)がα-オレフィンに由来する構造単位を含む場合、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率の下限は、全構造単位に対して1モル%が好ましく、2モル%がより好ましい。一方、この含有率の上限は、4モル%が好ましく、3モル%がより好ましい。α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が上記範囲であることで、上述の延伸性等をより効果的に発現することができる。また、PVAの全構造単位に対する他の単量体由来の構造単位の含有率の上限は、4モル%が好ましい場合があり、1モル%又は0.1モル%がより好ましい場合がある。
ビニルエステル系単量体を重合する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合などのいずれの方式でもよい。また、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を適用することができる。通常、無溶媒で重合を進行させる塊状重合法、又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる溶液重合法が採用される。高重合度のビニルエステル系共重合体を得る場合には、乳化重合法も好ましい。溶液重合法の溶媒は特に限定されないが、例えばアルコールである。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールを挙げることができる。重合系における溶媒の使用量は、目的とするPVAの重合度に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と重合系に含まれる全単量体との質量比{=(溶媒)/(全単量体)}として、好ましくは0.01~10の範囲内、より好ましくは0.05~3の範囲内から選択される。
ビニルエステル系単量体の重合に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等から重合方法に応じて選択すればよい。アゾ系開始剤としては、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。過酸化物系開始剤としては、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル系化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート;過酸化アセチル等を挙げることができる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。レドックス系開始剤としては、例えば上記過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤の使用量は、重合開始剤の種類により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて選択すればよい。例えば重合開始剤に2,2’-アゾビスイソブチロニトリル又は過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系単量体に対して0.01~0.2モル%が好ましく、0.02~0.15モル%がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温~150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
ビニルエステル系単量体の重合は、連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2-ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などを挙げることができる。これらのなかでも、アルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするPVAの重合度に応じて決定することができるが、一般にビニルエステル系単量体100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
ビニルエステル系重合体のけん化は、例えば溶媒としてのアルコール又は含水アルコールにビニルエステル系重合体が溶解した状態で行うことができる。けん化に使用するアルコールは、例えばメタノール、エタノールなどの低級アルコールが挙げられ、メタノールが好ましい。けん化に使用する溶媒は、例えばその質量の40質量%以下の割合で、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの他の溶媒を含んでもよい。けん化に使用する触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。けん化を行う温度は限定されないが、20~60℃の範囲内が好適である。けん化の進行にしたがってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、PVAを得ることができる。けん化方法は、前述した方法に限らず公知の方法を適用できる。
当該PVAフィルムにおけるPVA(A)の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、90質量%がよりさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。PVA(A)の含有量を上記範囲とすることで、得られる偏光フィルムの偏光性能をより高めることなどができる。
(重合体(B))
重合体(B)は、無水マレイン酸に由来する構造単位(i)を有する。構造単位(i)は、その一部が塩化している。塩化とは、塩基との反応により塩を形成していることをいう。無水マレイン酸に由来する構造単位(i)のうち、塩化していないものは、通常下記式(1)で表される構造単位である。無水マレイン酸に由来する構造単位(i)のうち、塩化しているものとしては、下記式(2)、(3)で表される構造単位等が挙げられる。
式(2)で表される構造単位は、塩基であるアンモニアとの反応により塩を形成した構造単位(i)の例である。式(2)で表される構造単位のように、2つのカルボキシ基のうちの1つは、塩を形成していなくてもよい。式(3)で表される構造単位は、水酸化ナトリウム等、ナトリウムイオンを含む塩基と反応により塩を形成した構造単位(i)の例である。その他、塩化している構造単位(i)としては、有機塩基(アニリン、ピリジン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン等)、ナトリウム以外のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物等と反応して塩化しているものが挙げられる。なお、Mg2+等、2価のカチオンを含む塩基と反応した場合、塩化している構造単位(i)は、2つのカルボキシ基と2価のカチオンとで環構造を形成していてもよい。また、構造単位(i)は、2種以上の塩基によって塩化していてもよい。
構造単位(i)における塩化率の下限は、0.3であり、0.4が好ましく、0.5がより好ましく、0.6がさらに好ましい。構造単位(i)の塩化率が上記下限以上であることにより、PVA(A)との相溶性、水溶性等を高めることができる。一方、構造単位(i)における塩化率の上限は、0.9であり、0.8が好ましい。構造単位(i)の塩化率が上記上限以下であることにより、PVA(A)との架橋性を確保し、偏光性能が優れる偏光フィルムを得ることができる。すなわち、上記式(1)で表される構造単位が有するカルボン酸無水物構造は、例えば加熱等によって効果的にPVA(A)との架橋構造を形成し、PVA(A)が疑似的に高重合度化される。このようなPVAフィルムを用いて偏光フィルムを製造することにより、偏光性能が優れる偏光フィルムが得られる。また、PVA(A)と重合体(B)とを混合した水溶液においては、同程度の偏光性能が発現される高重合度PVAの水溶液と比べて経時的な増粘が抑制される。この原因は明らかになっていないが、PVA(A)の水酸基が水和している状態ではPVA(A)の水酸基の求核性が低下し、上記式(1)で表される構造単位とPVA(A)の反応が抑制されるためと考えられる。
なお、「塩化率」とは、構造単位(i)(無水マレイン酸に由来する構造単位)のうち、塩基との反応により塩を形成している、すなわち塩化している構造単位の割合(モル比)を意味する。
構造単位(i)の一部は、アンモニア又は有機塩基との塩を形成していることが好ましく、アンモニアとの塩を形成していることがより好ましい。具体的には、構造単位(i)は、上記式(2)で表される構造単位を含むことが好ましい。重合体(B)がこのような構造単位(i)を有する場合、PVA(A)との相溶性が高まり、透明度の高いPVAフィルムを得ることができる。
構造単位(i)は、上記式(1)で表される構造単位のように変性されていない構造単位、及び上記式(2)、(3)で表される構造単位のように塩化している構造単位以外の他の構造単位を含んでいてもよい。このような構造単位(i)の中での他の構造単位としては、上記式(1)で表される構造単位が、塩基以外で変性されている構造単位などが挙げられる。但し、構造単位(i)としては、上記式(1)で表される構造単位と、塩化している構造単位とから実質的に構成されていることが好ましい。構造単位(i)のうち、上記式(1)で表される構造単位と、塩化している構造単位との合計含有率は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。
重合体(B)の全構造単位に対する構造単位(i)の含有率の下限としては、10モル%が好ましく、30モル%がより好ましく、40モル%がさらに好ましく、45モル%がよりさらに好ましい。一方、この構造単位(i)の含有率の上限としては、90モル%が好ましく、70モル%がより好ましく、60モル%がさらに好ましく、55モル%がよりさらに好ましい。重合体(B)における構造単位(i)の含有率が上記範囲内である場合、PVA(A)との相溶性、架橋性、水溶性、生産性等がより向上する。
重合体(B)は、α-オレフィンに由来する構造単位(ii)をさらに有することが好ましい。このような重合体(B)を用いることで、得られる偏光フィルムの偏光性能等をより高めることができる。
構造単位(ii)を形成するα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、α-ブチレン、イソブチレン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン等の炭素数2~30のα-オレフィンが挙げられる。これらの中でも、炭素数2~6のα-オレフィンが好ましく、炭素数3~5のα-オレフィンがより好ましく、イソブチレン(イソブテン、2-メチルプロペン等とも称される。)が特に好ましい。
重合体(B)の全構造単位に対する構造単位(ii)の含有率の下限としては、10モル%が好ましく、30モル%がより好ましく、40モル%がさらに好ましく、45モル%がよりさらに好ましい。一方、この構造単位(ii)の含有率の上限としては、90モル%が好ましく、70モル%がより好ましく、60モル%がさらに好ましく、55モル%がよりさらに好ましい。重合体(B)における構造単位(ii)の含有率が上記範囲内である場合、PVA(A)との相溶性、架橋性、水溶性、生産性等がより向上する。
重合体(B)は、構造単位(i)と構造単位(ii)との交互共重合体であることが好ましい。このような場合、重合体(B)の分散性が高まること、PVA(A)と均一性高く架橋構造を形成できることなどから、得られる偏光フィルムの偏光性能をより高めることができる。
重合体(B)は、構造単位(i)及び構造単位(ii)以外のその他の構造単位をさらに有していてもよい。但し、重合体(B)の全構造単位に対するその他の構造単位の含有率の上限としては、20モル%が好ましく、10モル%、3モル%又は1モル%がより好ましい場合がある。重合体(B)としては、実質的に構造単位(i)及び構造単位(ii)のみから構成される共重合体であることが好ましい。
重合体(B)の重量平均分子量の下限としては、5,000が好ましく、10,000がより好ましく、20,000がさらに好ましい。重合体(B)の重量平均分子量が上記下限以上である場合、PVA(A)との架橋による偏光性能の向上効果がより十分に生じる。一方、この重量平均分子量の上限としては、200,000が好ましく、170,000がより好ましく、150,000がさらに好ましい。重合体(B)の重量平均分子量が上記上限以下である場合、PVA(A)との相溶性、水溶性等が向上し、PVAフィルムの透明性等が向上する。
重合体(B)は、公知の方法により合成することができる。例えば、無水マレイン酸を公知の方法で単独重合、又は無水マレイン酸とα-オレフィンとを公知の方法で共重合させた後、得られた重合体を所定量の塩基と反応させることにより得ることができる。
重合体(B)としては、市販品を用いることもできる。重合体(B)の市販品としては、(株)クラレ製のイソバン(登録商標)-104、同-110等が挙げられる。また、無水マレイン酸とα-オレフィンとの共重合体等の市販品を塩基と反応させて重合体(B)を得ることもできる。無水マレイン酸とα-オレフィンとの共重合体の市販品としては、(株)クラレ製のイソバン(登録商標)-04、同-06、同-10、同-18等が挙げられる。
PVA(A)100質量部に対する重合体(B)の含有量の下限は、0.5質量部であり、1質量部が好ましく、2質量部がより好ましく、3質量部がさらに好ましい。一方、この含有量の上限は、9.5質量部であり、8質量部が好ましく、6質量部がより好ましい。重合体(B)の含有量を上記範囲とすることで、偏光性能が優れる偏光フィルムを得ることができる。具体的に重合体(B)の含有量を上記下限以上とすることで、得られる偏光フィルムの偏光性能が向上する。一方、重合体(B)の含有量を上記下限以下とすることで、延伸性及び耐破断性が高まり、十分な延伸によって優れた偏光性能を有する偏光フィルムを得ることができる。
当該PVAフィルムにおけるPVA(A)及び重合体(B)の合計含有量の下限としては、90質量%が好ましいことがあり、95質量%がより好ましいことがあり、98質量%がさらに好ましいこともある。
(可塑剤)
当該PVAフィルムは、可塑剤をさらに含むことができる。当該PVAフィルムが可塑剤を含むことにより、取扱性や延伸性の向上等を図ることができる。好ましい可塑剤としては、多価アルコールが挙げられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。これらの可塑剤は、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からグリセリンが好ましい。
当該PVAフィルムにおける可塑剤の含有量の下限としては、PVA100質量部に対して、1質量部が好ましく、3質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。可塑剤の含有量を上記下限以上とすることで、延伸性がより向上する。一方、この含有量の上限としては、20質量部が好ましく、17質量部がより好ましく、15質量部がさらに好ましい。可塑剤の含有量を上記上限以下とすることで、PVAフィルムが柔軟になりすぎたり、表面に可塑剤がブリードアウトしたりして、取扱性が低下するのを抑制することができる。
当該PVAフィルムにおけるPVA(A)、重合体(B)及び可塑剤の合計含有量の下限としては、90質量%が好ましく、95質量%がより好ましいことがあり、98質量%がさらに好ましいこともある。
(他の添加剤等)
当該PVAフィルムには、PVA(A)、重合体(B)及び可塑剤以外に、さらに充填剤、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの他の添加剤を、必要に応じて適宜配合できる。
但し、当該PVAフィルムにおけるPVA(A)、重合体(B)及び可塑剤以外の他の添加剤の含有量の上限としては、1質量%が好ましいことがあり、0.2質量%がより好ましいことがある。他の添加剤の含有量が上記上限を超える場合、PVAフィルムの強度、光学特性等に影響を与える場合がある。
当該PVAフィルムの50℃の4質量%ホウ酸水溶液中における破断応力は、8MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることがさらに好ましく、25MPa以上であることがよりさらに好ましい。また、当該PVAフィルムの50℃の4質量%ホウ酸水溶液中における破断ひずみは、150%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、300%以上であることがさらに好ましく、400%以上であることがよりさらに好ましい。PVAフィルムの破断応力及び破断ひずみが上記下限以上である場合、延伸性が向上し、より偏光性能に優れる偏光フィルムを得ることなどができる。上記破断応力の上限としては例えば100MPaであってもよく、70MPaであってもよい。また、上記破断ひずみの上限としては、1000%であってもよく、700%であってもよい。上記破断応力及び破断ひずみは、チャック間の距離30mm、引張速度240%/minで測定される値とする。
当該PVAフィルムの50℃の4質量%ホウ酸水溶液中における歪み300%のときの応力増加度は0.04MPa/%以上が好ましく、0.05MPa/%以上であることがより好ましく、0.06MPa以上であることが特に好ましい。応力増加度が上記の下限値以上である場合、PVA(A)と重合体(B)の反応が特に十分であるため、より高偏光性能な偏光フィルムを得ることができる。一方で、歪み300%のときの応力増加度は0.3MPa/%以下が好ましく、より好ましくは0.2MPa/%以下であり、更に好ましくは0.1MPa/%以下である。歪み300%のときの応力増加度が上記の上限値以下である場合、延伸性が高まり、十分な延伸を行うことができるため、偏光フィルムの生産性が向上する。上記歪み300%の応力増加度は、チャック間の距離30mm、引張速度240%/minで測定された応力-歪み曲線から算出された値とする。
当該PVAフィルムの50℃の4質量%ホウ酸水溶液中における破断応力、破断ひずみ及び応力増加度は、例えば重合体(B)の含有量等によって調整できる。例えば重合体(B)の含有量を少なくすると、上記破断応力及び破断ひずみは大きくなり、応力増加度は小さくなる傾向にある。
当該PVAフィルムの膨潤度の下限としては、160%が好ましく、170%がより好ましく、180%がさらに好ましい。膨潤度が上記下限以上であることにより、極度に結晶化が進行するのを抑制することができ、安定して高倍率まで延伸することができる。一方、この膨潤度の上限としては、260%が好ましく、240%がより好ましく、220%がさらに好ましい。膨潤度が上記上限以下であることにより、延伸時の溶解が抑制され、高温の条件下でも延伸することが可能となる。なお、PVAフィルムの膨潤度とは、PVAフィルムを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、30℃の蒸留水に30分間浸漬した後に105℃で16時間乾燥したPVAフィルムの質量で除して得られる値の百分率を意味する。
当該PVAフィルムの平均厚みの上限としては、60μmが好ましく、45μmがより好ましく、30μmがさらに好ましい。当該PVAフィルムの平均厚みが上記上限以下である場合、薄型の偏光フィルムを得ることなどができる。一方、この平均厚みの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましく、15μmがさらに好ましく、20μmがよりさらに好ましい。当該PVAフィルムの平均厚みが上記下限以上であることで、得られる偏光フィルムの強度を高めることなどができる。
当該PVAフィルムの幅は特に制限されず、製造される偏光フィルム等の用途などに応じて決めることができる。近年、液晶テレビや液晶モニターの大画面化が進行している点からPVAフィルムの幅を3m以上にしておくと、これらの用途に好適である。一方、PVAフィルムの幅があまりに大きすぎると実用化されている装置で偏光フィルムを製造する場合に一軸延伸を均一に行うことが困難になりやすい。従って、PVAフィルムの幅は7m以下であることが好ましい。
当該PVAフィルムは、偏光フィルム、位相差フィルム等の延伸フィルムの製造に用いられる原反フィルム(又は材料フィルム)として好適である。当該PVAフィルムを延伸することにより、延伸フィルムが得られる。
当該PVAフィルムは、単層フィルムであってもよく、多層フィルム(積層体)であってもよい。多層フィルムの形態としては、例えば熱可塑性樹脂フィルム上にコート法などによって形成されたPVA層を有するフィルムなどを挙げることができる。本発明の効果がより一層顕著に奏される点、積層(コート等)作業の煩雑さ、熱可塑性樹脂フィルムのコストなどの観点から単層フィルムであることが好ましい。
<ポリビニルアルコールフィルムの製造方法>
本発明のPVAフィルムの製造方法は、
PVA(A)と重合体(B)とを含む塗膜を形成する工程(1)、及び
上記塗膜を熱処理する工程(2)
を備える。
工程(1)で得られる塗膜におけるPVA(A)100質量部に対する重合体(B)の含有量は、0.5質量部以上9.5質量部以下であり、重合体(B)の無水マレイン酸に由来する構造単位における塩化率が、0.3以上0.9以下である。工程(1)で得られる塗膜に含まれるPVA(A)及び重合体(B)の具体的態様及び好適態様は、上記したPVAフィルムに含まれるPVA(A)及び重合体(B)と同様である。
工程(1)は、例えばPVA(A)及び重合体(B)、並びに必要に応じてさらに、可塑剤、その他の添加剤、及び後述する界面活性剤等のうちの1種又は2種以上が液体媒体中に溶解した製膜原液を用いて製膜することにより行うことができる。
液体媒体としては、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができる。これらの液体媒体は、1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好ましい。
製膜原液の揮発分率(製膜原液中における、製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の含有率)は、製膜方法、製膜条件などによっても異なるが、一般的には、下限として50質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。製膜原液の揮発分率が上記下限以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液調製時のろ過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVAフィルムの製造が容易になる。一方、この揮発分率の上限としては、95質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。製膜原液の揮発分率が上記上限以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVAフィルムの製造が容易になる。
製膜原液は界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤を含むことにより、製膜性が向上してPVAフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜に使用する金属ロールやベルトからのフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤を含む製膜原液からPVAフィルムを製造した場合には、当該PVAフィルム中には界面活性剤が含有され得る。上記界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点などから、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えばラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム、アルキル硫酸アンモニウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸カリウム、アルキルスルホン酸アンモニウム、アルキルスルホン酸トリエタノールアミン、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸二ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、等のスルホン酸型;アルキルリン酸エステルナトリウム、アルキルリン酸エステルカリウム、アルキルリン酸エステルアンモニウム、アルキルリン酸エステルトリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルナトリウム等のリン酸エステル型などが好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型等が好ましい。
これらの界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
製膜原液又は得られるPVAフィルムが界面活性剤を含む場合、その含有量の下限は、製膜原液又はPVAフィルムに含まれるPVA(A)100質量部に対して、0.01質量部が好ましく、0.02質量部がより好ましく、0.05質量部がさらに好ましい。界面活性剤の含有量が上記下限以上であることにより、製膜性及び剥離性がより向上する。一方、この含有量の上限としては、0.5質量部が好ましく、0.3質量部がより好ましく、0.1質量部がさらに好ましい。界面活性剤の含有量が上記上限以下であることにより、界面活性剤がPVAフィルムの表面にブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下することを抑制することができる。
製膜原液を用いて製膜する際の製膜方法としては、例えばキャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられる。これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でもキャスト製膜法及び押出製膜法が、厚み及び幅が均一で物性の良好なPVAフィルムが得られることから好ましい。
工程(2)では、工程(1)で形成された塗膜を熱処理する。この熱処理により、塗膜中のPVA(A)と重合体(B)とが架橋反応する。このような熱処理を行うことで、偏光性能が優れる偏光フィルムを製造することができるPVAフィルムが得られる。
工程(2)における熱処理温度の下限としては、100℃が好ましく、110℃がより好ましく、120℃がさらに好ましい。一方、この熱処理温度の上限としては、180℃が好ましく、160℃がより好ましく、140℃がさらに好ましい。この熱処理は、熱風乾燥機等により行うことができる。
<延伸フィルム>
本発明の一実施形態に係る延伸フィルムは、本発明の一実施形態に係るPVAフィルムから形成される。当該延伸フィルムは、偏光フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム等の延伸光学フィルムであることが好ましい。当該延伸フィルムは、一軸延伸されていてもよく、二軸延伸されていてもよいが、一軸延伸されていることが好ましい。
当該延伸フィルムは、本発明の一実施形態に係るPVAフィルムを延伸することにより得られるものであるため、当該延伸フィルムに含まれる各成分は、上述したPVAフィルムに含まれる成分と同様であってよい。但し、当該延伸フィルムは、他の成分をさらに含有していてもよい。例えば、当該延伸フィルムが偏光フィルムである場合、通常、表裏面に吸着された二色性色素等を有する。二色性色素としては、ヨウ素系色素が一般的である。
<偏光フィルム>
本発明の一実施形態に係る偏光フィルムは、本発明の一実施形態に係るPVAフィルムから形成される。当該偏光フィルムは、本発明の一実施形態に係るPVAフィルムの表裏面に二色性色素を吸着させ、一軸延伸することにより得ることができ、延伸フィルムの一形態である。
当該偏光フィルムの偏光性能としては、透過率43.7%以上のときの偏光度の下限として、99.90%であることが好ましく、99.92%であることがより好ましく、99.93%であることがより好ましい。偏光度が上記下限以上の場合、スマートフォン、ノートパソコン、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステムなどに用いたときのLCDのコントラストが向上する。
当該偏光フィルムは、通常、その両面又は片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム等が使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤や紫外線硬化型接着剤などを挙げることができ、PVA系接着剤が好ましい。
上記のようにして得られた偏光板は、さらに位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等が貼り合わせられていてもよい。なお、上記位相差フィルムとして、本発明の延伸フィルムを用いることもできる。偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせてLCDの部品として使用することができる。
<延伸フィルム及び偏光フィルムの製造方法>
本発明の一実施形態に係る延伸フィルムは、上述した当該PVAフィルムを延伸する工程(延伸処理)を備える製造方法によって得ることができる。また、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムは、上述した当該PVAフィルムに二色性色素を吸着させる工程(染色処理)と、当該PVAフィルムを一軸延伸する工程(一軸延伸処理)とを備える製造方法によって得ることができる。以下、偏光フィルムを製造する場合の具体的な製造方法について説明する。なお、偏光フィルム以外の延伸フィルムを製造する場合も、染色処理等を行わないこと以外は偏光フィルムを製造する場合に準じて行うことができる。
当該偏光フィルムを製造するための具体的な方法としては、当該PVAフィルムに対して、膨潤処理、染色処理、一軸延伸処理、及び必要に応じてさらに、架橋処理、固定処理、洗浄処理、乾燥処理、熱処理などを施す方法が挙げられる。この場合、膨潤処理、染色処理、架橋処理、一軸延伸、固定処理などの各処理の順序は特に制限されず、また、2つ以上の処理を同時に行うこともできる。また、各処理の1つ又は2つ以上を2回又はそれ以上行うこともできる。
膨潤処理は、PVAフィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度の下限としては、20℃が好ましく、22℃がより好ましく、25℃がさらに好ましい。一方、この温度の上限としては、40℃が好ましく、38℃がより好ましく、35℃がさらに好ましい。また、水に浸漬する時間の下限としては、0.1分が好ましく、0.5分がより好ましい。一方、この時間の上限としては、5分が好ましく、3分がより好ましい。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
染色処理は、PVAフィルムに対して二色性色素を接触させることにより行うことができる。二色性色素としては、ヨウ素系色素や染料を用いるのが一般的である。染色処理の時期としては、一軸延伸処理前、一軸延伸処理時及び一軸延伸処理後のいずれの段階であってもよい。染色処理はヨウ素系色素を用いる場合、PVAフィルムを染色浴としてヨウ素-ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行うのが一般的である。染色浴におけるヨウ素の濃度は0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、染色浴の温度の下限は、20℃が好ましく、25℃がより好ましい。一方、この温度の上限は、50℃が好ましく、40℃がより好ましい。
PVAフィルムに対して架橋処理を施すことで、高温で湿式延伸する際に、PVAが水へ溶出することを効果的に防止することができる。この観点から架橋処理は一軸延伸処理の前に行うことが好ましい。架橋処理は、架橋剤を含む水溶液にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができる。上記架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素無機化合物、アルキルモノボロン酸、アルキルジボロン酸などのホウ素有機化合物等を1種又は2種以上使用することができる。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度の下限は1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。一方、この濃度の上限は、15質量%が好ましく、7質量%がより好ましく、6質量%がさらに好ましい。架橋剤の濃度が上記範囲内にあることで十分な延伸性を維持することができる。架橋剤を含む水溶液はヨウ化カリウム等の助剤を含有してもよい。架橋剤を含む水溶液の温度の下限は、20℃が好ましく、25℃がより好ましい。一方、この温度の上限は、60℃が好ましく、50℃がより好ましい。この温度を上記範囲内とすることで効率良く架橋することができる。
一軸延伸処理は、湿式延伸法及び乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸水溶液中で行うこともできるし、上述した染色浴中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また、乾式延伸法の場合は、室温のまま一軸延伸処理を行ってもよいし、加熱しながら一軸延伸処理を行ってもよいし、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で一軸延伸処理を行ってもよい。これらの中でも、湿式延伸法が好ましく、ホウ酸水溶液中で一軸延伸処理を行うことがより好ましい。ホウ酸水溶液のホウ酸濃度の下限は0.5質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましく、1.5質量%がさらに好ましい。一方、このホウ酸濃度の上限は、6.0質量%が好ましく、5.0質量がより好ましく、4.0質量%がさらに好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、その濃度は0.01質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
一軸延伸処理における延伸温度の下限は、30℃が好ましく、40℃がより好ましく、50℃がさらに好ましい。一方、この延伸温度の上限は、90℃が好ましく、80℃がより好ましく、70℃がさらに好ましい。
一軸延伸処理における延伸倍率の下限は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から5倍が好ましく、6倍がより好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、例えば10倍が好ましく、8倍がより好ましいこともある。
長尺のPVAフィルムに一軸延伸処理を行う場合の一軸延伸処理の方向は、特に制限はない。長尺方向への一軸延伸処理又は横一軸延伸処理や、いわゆる斜め延伸処理を採用することができるが、偏光性能に優れる偏光フィルムが得られることから長尺方向への一軸延伸処理が好ましい。長尺方向への一軸延伸処理は、互いに平行な複数のロールを備える延伸装置を使用して、各ロール間の周速を変えることにより行うことができる。一方、横一軸延伸処理はテンター型延伸機を用いて行うことができる。
偏光フィルムの製造にあたっては、PVAフィルムへの二色性色素(ヨウ素系色素等)の吸着を強固にするために一軸延伸処理の後に固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する固定処理浴としては、ホウ酸、硼砂等のホウ素無機化合物、アルキルボロン酸、アルキルジボロン酸等のホウ素有機化合物等を1種又は2種以上含む水溶液を使用することができる。また、必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴におけるホウ素無機化合物の濃度の下限は、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。一方、この濃度の上限は、15質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。この濃度を上記範囲内にすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。固定処理浴の温度の下限は、15℃が好ましい。一方、この温度の上限は、60℃が好ましく、40℃がより好ましい。
洗浄処理は、水等にPVAフィルムを浸漬して行われることが一般的である。このとき、偏光性能向上の点から洗浄処理に用いる水等はヨウ化カリウム等の助剤を含有することが好ましい。このとき、ヨウ化カリウム等のヨウ化物の濃度は0.5質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。また、洗浄処理に用いる水等の温度の下限は、一般的に5℃であり、10℃が好ましく、15℃がより好ましい。一方、この温度の上限は、一般的に50℃であり、45℃が好ましく、40℃がより好ましい。
乾燥処理の条件は特に制限されないが、乾燥温度の下限としては、30℃が好ましく、50℃がより好ましい。一方、乾燥温度の上限としては、150℃が好ましく、130℃がより好ましい。上記範囲内の温度で乾燥することで、寸法安定性に優れる偏光フィルムが得られやすい。
乾燥処理の後に熱処理を行うことで、さらに寸法安定性に優れた偏光フィルムを得ることができる。ここで熱処理とは、乾燥処理後の水分率が5%以下の偏光フィルムをさらに加熱し、偏光フィルムの寸法安定性を向上させる処理のことである。熱処理の条件は特に制限されないが、60℃以上150℃以下の範囲内で熱処理することが好ましい。60℃よりも低温で熱処理を行うと熱処理による寸法安定化効果が不十分である。一方、150℃よりも高温で熱処理を行うと、偏光フィルムに黄変が激しく生じることがある。
<その他の実施形態>
本発明のPVAフィルム、PVAフィルムの製造方法、延伸フィルム、及び偏光フィルムは、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、延伸フィルムは偏光フィルムである場合を中心に説明したが、延伸フィルムは偏光フィルムに限定されるものではない。例えば、位相差フィルム等の偏光フィルム以外の延伸フィルムも、本発明の範囲内である。また、本発明のPVAフィルムは、偏光フィルム等の延伸フィルムの材料以外の用途に用いてもよい。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において採用された各測定または評価方法を以下に示す。
[製膜原液の外観]
調製した製膜原液について、目視にて透明性等の外観を評価した。
[PVAフィルムの外観]
製造したPVAフィルムについて、目視にて透明性等の外観を評価した。
[PVAフィルムの破断張力、破断ひずみ及び応力増加度]
製造したPVAフィルムについて、50℃の4質量%ホウ酸水溶液中における破断応力及び破断ひずみを測定した。チャック間の距離は30mm、引張速度は240%/minに設定し、ホウ酸水溶液に60秒間浸漬したあと、引張試験を開始した。また、測定で得られた応力-歪み曲線を表計算ソフト Microsoft Excelを用いて微分解析を行い、更に25点区間の移動平均処理を行うことで、歪み300%時の応力増加度を算出した。
[偏光フィルムの光学特性]
以下の実施例及び比較例において、得られた偏光フィルムの幅方向と長さ方向の中央部から、偏光フィルムの長さ方向4cm×幅方向2cmの長方形のサンプルを採取し、積分球付き分光光度計V-7100(日本分光株式会社製)とグランテーラ偏光子を備え付けた自動偏光フィルム測定装置VAP-7070S(日本分光株式会社製)を用いて、偏光フィルムのパラレル透過率及びクロスニコル透過率を測定した。ここで、測定波長範囲は380~780nmに設定し、グランテーラ偏光子を通して偏光フィルムに入射される偏光の振動方向が、偏光フィルムの透過軸に平行な場合の透過率をパラレル透過率、偏光フィルムの透過軸に垂直な場合をクロスニコル透過率とした。その後、「偏光フィルム評価プログラム」(日本分光株式会社製)を用いて、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠するように、前述のパラレル透過率とクロスニコル透過率を用いて、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行って、偏光フィルムの単体透過率、偏光度の算出を行い、これら2つの値を偏光フィルムの光学特性として得た。
実施例及び比較例で用いた重合体(B)等を以下に示す。
重合体(B-1):クラレ製「イソバン-104」(無水マレイン酸に由来する構造単位とイソブチレンに由来する構造単位との交互共重合体のアンモニア変性物、塩化率0.7、重量平均分子量55,000~65,000)
重合体(B-2):クラレ製「イソバン-110」(無水マレイン酸に由来する構造単位とイソブチレンに由来する構造単位との交互共重合体のアンモニア変性物、塩化率0.7、重量平均分子量160,000~170,000)
重合体(b-1):クラレ製「イソバン-04」(無水マレイン酸に由来する構造単位とイソブチレンに由来する構造単位との交互共重合体、塩化率0、重量平均分子量55,000~65,000)
重合体(b-2):ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社製 分子量約150,0000、ポリアクリル酸濃度25%の水溶液)
[実施例1]
(1)PVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物、けん化度99.9モル%、重合度2400)100質量部、重合体(B-1)5質量部、可塑剤としてグリセリンを10質量部、及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含む、固形分濃度が約10質量%である水溶液を調製し、これを製膜原液として用いた。この製膜原液を80℃の金属ロール上で乾燥し、得られた塗膜を熱風乾燥機中で128℃の温度で10分間熱処理し、平均厚み30μmのPVAフィルムを得た。
上記した方法により、調製した製膜原液の外観、並びに製造したPVAフィルムの外観、破断応力、破断ひずみ及び応力増加度を評価又は測定した。これらの結果を表1に示す。
また、調製した製膜原液は経時的な増粘がなく、製膜性は良好であった。
(2)上記(1)で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ9cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の蒸留水に浸漬しつつ、長さ方向に1.1倍に一軸延伸した。続いて、長さ方向に2.2倍(全体で2.4倍)に一軸延伸しつつ、ヨウ素1質量部に対してヨウ化カリウムを100質量部の割合で含有する水溶液(染色処理浴)(温度30℃)に60秒間浸漬してヨウ素を吸着させた。このとき、得られた偏光フィルムの透過率Ts(%)が43.7%になるように、染色処理浴のヨウ素濃度は適宜調整した。次いで、ホウ酸を3質量%及びヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(架橋処理浴)(温度30℃)に浸漬しつつ、長さ方向に1.2倍(全体で2.7倍)に一軸延伸した。さらにホウ酸を4質量%及びヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液(一軸延伸処理浴)に浸漬しつつ、長さ方向に全体で6.0倍(総延伸倍率)(温度60℃)まで一軸延伸した。その後、ヨウ化カリウムを3.5質量%の割合で含有する水溶液(洗浄処理浴)(温度30℃)に5秒間浸漬した。最後に60℃で4分間乾燥して偏光フィルムを得た。
上記した方法により、得られた偏光フィルムの偏光性能(透過率及び偏光度)を評価した。これらの結果を表1に示す。
[実施例2]
PVA100質量部に対する重合体(B-1)の含有量を2質量部としたこと及び熱処理温度を127℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、製膜原液の調製並びにPVAフィルム及び偏光フィルムの作製を行った。なお、各実施例及び比較例においては、PVAフィルムの膨潤度が200%となるように各熱処理温度を調整した。
上記した方法により、製膜原液の外観、PVAフィルムの外観、破断応力、破断ひずみ及び応力増加度並びに偏光フィルムの偏光性能(透過率及び偏光度)を評価又は測定した。これらの結果を表1に示す。
[実施例3]
重合体(B-1)に替えて重合体(B-2)を用いたこと及び熱処理温度を129℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、製膜原液の調製並びにPVAフィルム及び偏光フィルムの作製を行った。
上記した方法により、製膜原液の外観、PVAフィルムの外観、破断応力、破断ひずみ及び応力増加度並びに偏光フィルムの偏光性能(透過率及び偏光度)を評価又は測定した。これらの結果を表1に示す。
[比較例1]
PVA100質量部に対する重合体(B-1)の含有量を10質量部としたこと及び熱処理温度を135℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、製膜原液の調製並びにPVAフィルム及び偏光フィルムの作製を行った。製膜原液及びPVAフィルムは得られたものの、偏光フィルムの作製の際、延伸によってフィルムが破断し、偏光フィルムは得られなかった。
上記した方法により、製膜原液の外観、並びにPVAフィルムの外観、破断応力、破断ひずみ及び応力増加度を評価又は測定した。これらの結果を表1に示す。
[比較例2]
重合体(B-1)を含有させなかったこと及び熱処理温度を120℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、製膜原液の調製並びにPVAフィルム及び偏光フィルムの作製を行った。
上記した方法により、製膜原液の外観、PVAフィルムの外観、破断応力、破断ひずみ及び応力増加度、並びに偏光フィルムの偏光性能(透過率及び偏光度)を評価又は測定した。これらの結果を表1に示す。
[比較例3]
重合体(B-1)に替えて重合体(b-1)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、製膜原液を調製した。しかし、製膜原液に白色の沈殿物が生じ、偏光フィルムを得ることができないと判断したため、PVAフィルム及び偏光フィルムの作製は行わなかった。
[比較例4]
重合体(B-1)に替えて重合体(b-2)を用いたこと及び熱処理温度を120℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、製膜原液の調製並びにPVAフィルム及び偏光フィルムの作製を行った。
上記した方法により、製膜原液の外観、PVAフィルムの外観及び偏光フィルムの偏光性能(透過率及び偏光度)を評価又は測定した。これらの結果を表1に示す。
以上の結果から明らかなように、実施例1~3のPVAフィルムから得られる偏光フィルムは偏光度が高く、偏光性能に優れることがわかる。一方、比較例1~4においては、偏光性能に優れる偏光フィルムを得ることができなかった。