以下、本発明のワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラムを、図に示す実施形態に基づいて説明する。図1では、X方向をクレーン10の桁の延在方向でトロリが横行する方向とし、Y方向をクレーン10が走行する走行方向とし、Z方向を鉛直方向とする。また、矢印は信号の流れを示す。
図1に例示する診断システム1は、クレーン10において五つのシーブ21~25を経由して、ドラム12による繰り出しおよび巻き取りにより吊体11を移動させるワイヤロープ20の交換時期を診断するシステムである。診断システム1は、張力取得装置2、位置取得装置3a、3b、および、演算装置4を備えている。演算装置4は公知の種々のコンピュータを用いることができる。演算装置4は、中央演算処理部(CPU)5、主記憶部(メモリ)6、補助記憶部(例えば、HDD)7、入力部(キーボード、マウス)8、および、出力部(ディスプレイ)9を有している。診断プログラム30は演算装置4の補助記憶部7にインストールされている。
クレーン10は公知の種々のクレーンを用いることができる。クレーン10としては、ガントリークレーン(橋形クレーン)、トランスファークレーン(門型クレーン)、天井クレーン、および、ジブクレーン(タワークレーンを含む)が例示され、種類は特に限定されない。
本実施形態のクレーン10は、公知のガントリークレーンであり、複数本のワイヤロープ20と、吊体11と、ドラム12と、駆動装置13と、クレーン用制御装置14と、図示しない桁と、トロリと、脚構造物および走行装置と、を備える。クレーン10は桁に沿ったトロリのX方向の横行と走行装置によるY方向の走行とにより吊体11を所定の位置に移動させ、吊体11のZ方向の昇降によりコンテナの荷役作業を行う。吊体11とはワイヤロープ20により吊り上げられるものを示しており、本実施形態においては、吊具およびその吊具に連結されたコンテナ、または、コンテナに連結してない吊具を示すものとする。ドラム12、駆動装置13、および、クレーン用制御装置14は図示しない機械室に設置される。ドラム12は駆動装置13の回転動力により回転してワイヤロープ20を巻き取ったり、繰り出したりする。クレーン用制御装置14は、公知の種々のコンピュータを用いることができる。クレーン用制御装置14は、トロリをX方向に横行させる制御、走行装置によりクレーン10をY方向に走行させる制御、および、吊体11をZ方向に昇降させる制御を実行する。
ワイヤロープ20は公知の種々のワイヤロープを用いることができる。ワイヤロープ20は、例えば、複数の素線を撚り合わせたストランドを心の周りに所定のピッチで撚り合わせて成る。ワイヤロープ20のロープ径d〔mm〕、断面積A〔mm2〕、および、全長は特に限定されるものではない。一台のクレーン10には複数のワイヤロープ20が設けられているが、ワイヤロープ20の本数は特に限定されるものではない。ワイヤロープ20は、例えば、クレーン10に四本設けられており、図中では、各々のワイヤロープ20が実線、点線、一点鎖線、二点鎖線で区別される。
ワイヤロープ20の掛け方は公知の種々の掛け方を用いることができ、ワイヤロープ20は少なくとも一つのシーブを経由すればよい。例えば、ワイヤロープ20の掛け方は、一端が他のワイヤロープ20の他端に連結具15を介して連結され、他端がドラム12に連結され、中途位置が五つのシーブ21~25のそれぞれを経由する掛け方がある。この掛け方では、ワイヤロープ20が吊体11の吊具に設置されたシーブ23を介して吊体11を吊り上げている。
シーブ21~25(以下、シーブ21~25を示す場合は符号を省略する。)は公知の種々のシーブを用いることができる。シーブはワイヤロープ20の一端から他端に向かって間隔を空けて順に配置される。各々のシーブのシーブ径D〔mm〕およびシーブ形状は特に限定されるものではない。各々のシーブのシーブ径Dおよびシーブ形状は、例えば、同一である。ただし、シーブ21はワイヤロープ20の位置が変位しない箇所に接触するシーブであり、このシーブ21のシーブ径は他のシーブよりも小さいことがある。各々のシーブには配置順に数値が大きくなるシーブ番号iが付与されている。例えば、シーブ21のシーブ番号をi=1として、シーブ21からドラム12に向かって順に配置されたそれぞれのシーブ22~25にシーブ番号i(=2、・・・、5)が付与されている。
各々のシーブはワイヤロープ20の掛け方に応じて動滑車または定滑車のどちらかの種類が適宜、選択される。例えば、本実施形態では、シーブ21およびシーブ25がクレーン10の桁に設置された定滑車である。シーブ22およびシーブ24がクレーン10のトロリに設置されて、トロリの横行に伴ってX方向に移動する動滑車である。シーブ23が吊体11の吊具に設置されて、吊体11の昇降に伴ってZ方向に移動するとともにトロリの横行に伴ってX方向に移動する動滑車である。
張力取得装置2は、サンプリング周期を第一周期tに設定可能であり、かつ、ワイヤロープ20に作用する張力Wt〔kgf〕を取得可能であれば、公知の種々のセンサを用いることができる。張力取得装置2としては連結具15に作用する張力を計測するロードセルが例示され、ワイヤロープ20の各々に作用する張力Wtはロードセルが計測した張力の半分の値となる。
張力取得装置2は、ワイヤロープ20の位置が変位しない箇所でワイヤロープ20に作用する張力を取得することが望ましい。ワイヤロープ20の位置が変位しない箇所に張力取得装置2を設置することで、張力取得装置2の設置が簡便になる。張力取得装置2は、連結具15に設置されることがより望ましいが、複数の張力取得装置2がシーブ22~25の各々に設置されてもよい。張力取得装置2がシーブの各々に設置されることで通過区間29の各々に作用する張力を個別に取得可能となるが、張力取得装置2の設置数が増えることでデータの整理が煩雑になる。対して、張力取得装置2が連結具15ごとに設置されることで複数本のワイヤロープ20に作用する張力を取得する装置の数が少なくなり、データの整理には有利になる。
位置取得装置3a、3bは、サンプリング周期を第一周期tに設定可能であり、吊体11の位置(lt、ht)を取得可能であれば、公知の種々のセンサあるいは幾つかのセンサの組み合わせを用いることができる。吊体11の位置(lt、ht)は相対座標であり、基点からの移動距離のX方向成分とZ方向成分とを示す。基点としては、吊体11が移動可能な範囲に存在する位置であることが好ましい。位置取得装置3aは吊体11のX方向の位置ltを取得する装置であり、トロリの駆動装置の回転数を計測する装置が例示される。位置取得装置3bは吊体11のZ方向の位置htを取得する装置であり、ドラム12におけるワイヤロープ20の巻き取り長さやドラム12の回転数を取得する装置、あるいは、吊体11およびトロリの間の距離を計測する装置が例示される。
位置取得装置3a、3bは、吊体11の絶対位置座標を取得する装置でもよく、例えば、吊体11に直に設置された測位衛星システムのアンテナが例示される。吊体11の絶対位置座標を取得する場合には、クレーン10に絶対位置座標が特定された基点を設け、その基点の絶対位置座標と吊体11の絶対位置座標とから算出される吊体11の移動距離のX方向成分とZ方向成分を吊体11の位置(lt、ht)とすることが好ましい。また、岸壁に着岸した船舶に対してコンテナの荷役を行うクレーン10の場合には、吊体11の位置が地面より低い位置になることもあるため、Z方向の位置htを主巻海下揚程で補正することが好ましい。
演算装置4は、クレーン10の図示しない運転室あるいはクレーン10から離間した遠隔地に設置された運転室や、コンテナの管理を行う管理システムが設置される管理室に設置される。演算装置4は、入力部8により診断プログラム30が起動されて実行されると、診断プログラム30により指示された各データ処理を実行する。
演算装置4は、入力部8により、クレーン10の構造および仕様データ、ワイヤロープ掛図、ワイヤロープ20の全長、および、シーブ個数を含む基礎データが予め補助記憶部7に入力されている。演算装置4は、入力部8により、シーブ形状による係数a、ワイヤロープ20の撚り方による係数b、シーブ径D、ロープ径d、および、断面積Aが予め補助記憶部7に入力されている。
診断プログラム30は、起動された後に、入力部8により各データ処理で用いる初期値の選択、予測結果の選択、および、影響度の基準の条件を含む初期設定が行われる。診断プログラム30は、初期設定が完了した後に、演算装置4に初期設定に従った各データ処理を実行させる。
図2に診断方法および診断プログラム30により実行される手順の一例を示す。まず、診断プログラム30は、ワイヤロープ20に対して等間隔に区分された多数のワイヤ区間26が設定された状態で、演算装置4に予備診断工程を所定の期間の間で繰り返させる手順を実行させる(S110、S120)。ついで、診断プログラム30は、演算装置4に重点診断部位27を特定させる手順を実行させる(S130)。ついで、診断プログラム30は、多数のワイヤ区間26の一部が重点診断部位27に設定された状態で、演算装置4に本診断工程をワイヤロープ20が交換されるまで繰り返させる手順を実行させる(S140、S150)。以下に、まず、ワイヤ区間26および重点診断部位27の内容を詳述し、その後に、(S110)~(S180)の各ステップの内容を詳述する。
図3は、ワイヤロープ20の一部の部位を示す。ワイヤロープ20の上側および下側、並びに、一部の部位のさらに一部を拡大した点線円内に付した連続した番号(図中の「・・・」は省略した番号を示す)は、区間番号Mを示している。ワイヤロープ20の上側で連続した区間番号Mは、予備診断工程(S110)で用いられる多数のワイヤ区間26の区間番号Mを示している。ワイヤロープ20の下側で連続した区間番号Mは、本診断工程(S140)で用いられる重点診断部位27を除いた残りのワイヤ区間26の区間番号Mを示している。点線円内で連続した区間番号Mは、重点診断部位27に設定された多数の重点診断区間28の区間番号Mを示している。
ワイヤ区間26は、ワイヤロープ20を等間隔に区分する区間である。重点診断部位27は、予備診断工程(S110)により得られたデータに基づいて特定された部位である。具体的に、重点診断部位27は、多数のワイヤ区間26のなかで損傷の進行度が基準よりも高いワイヤ区間26を少なくとも一つ含み、複数のワイヤ区間26が連続して並んだ部位である。重点診断区間28は、重点診断部位27をワイヤ区間26の区間長(延在長さ)ΔSよりも短い区間長Δsで等間隔に区分する区間である。
多数のワイヤ区間26は、ワイヤロープ20の全長に亘って設定されてもよいが、ワイヤロープ20がシーブ21~25を通過する際に受ける損傷よりもより小さい損傷を受ける診断対象外の部位を除くとよい。診断対象外の部位としては、ワイヤロープ20の固定端を含む一端部および末端部が例示される。より具体的に、診断対象外の部位としては、吊体11が移動する際にワイヤロープ20の位置が変位しない部位、および、ドラム12に巻き取られた部位が例示される。ワイヤロープ20の位置が変位しない部位は、例えば、連結具15から桁のX方向の一端に固定された定滑車のシーブ21までの間の部位である。また、ドラム12に巻き取られた部位は、ワイヤロープ20がドラム12から最も繰り出された状態で、ドラム12に巻き取られた部位とドラム12からドラム12に最も近く、桁のX方向の他端に固定された定滑車のシーブ25までの間の部位である。
一本のワイヤロープ20における多数のワイヤ区間26と複数の重点診断区間28との合計した総数の桁数は、ワイヤ区間26の区間長ΔSおよび重点診断区間28の区間長Δsに応じて異なる。その総数の桁数は、国際単位系(SI)におけるワイヤロープ20の全長が三桁の場合に三桁~四桁が目安となり、その全長が二桁の場合に二桁~三桁が目安となっている。
予備診断工程(S110)では、多数のワイヤ区間26ごとに区間番号M(1≦M≦200)が付与されており、区間番号Mはワイヤロープ20の一端側または末端側のどちらか一方から他方に向うに連れて数値が大きくなっている。本診断工程(S140)では、予備診断工程で用いられた区間番号Mの一部が欠番(101≦M≦110)となり、欠番となった区間番号Mの代わりに重点診断部位27の多数の重点診断区間28ごとに区間番号M(201≦M≦217)が付与されている。重点診断区間28に付与された区間番号Mは、多数のワイヤ区間26に付与された区間番号Mの続きとなっており、ワイヤロープ20の一端側または末端側のどちらか一方から他方に向うに連れて数値が大きくなっている。ワイヤ区間26および重点診断区間28は、区間番号Mとともに区間の始端位置および終端位置が特定されている。区間番号Mの始端位置および終端位置は、区間番号(M=1)の始端位置を「0」として、区間長ΔSおよび区間長Δsと区間番号Mとに基づいて特定されている。
ワイヤロープ20の一本当たりのワイヤ区間26および重点診断区間28の総数は多いほど、ワイヤロープ20の交換時期の診断精度が高くなる。一方、その総数が多いほど、演算装置4において診断結果を出力するまでの演算負荷が増えることに加えて補助記憶部7の記憶領域を専有する度合いも大きくなる。そこで、一台のクレーン10に設けられた複数本のワイヤロープ20における全てのワイヤ区間26および重点診断区間28の合計数が5000以下となるように、一本当たりのワイヤ区間26および重点診断区間28の総数(区間番号Mの最大値)を設定することが好ましい。
ワイヤ区間26の区間長ΔSは長いほど、ワイヤロープ20の一本当たりのワイヤ区間26の総数が少なくなり、診断精度が低くなる。そこで、区間長ΔSは、吊体11を移動させた場合の単位時間あたりのワイヤロープ20の最小移動距離よりも短くすることが望ましい。区間長ΔSが最小移動距離よりも短くなることで、診断精度の向上には有利になる。なお、単位時間は、張力取得装置2や位置取得装置3a、3bのサンプリング周期とするとよい。
また、区間長ΔSは、最小移動距離に加えて、ワイヤロープ20の弛みや伸縮、あるいは、傾転装置の作動を考慮することがより望ましい。傾転装置は、ワイヤロープ20に作用する張力の過負荷の回避および吊体11の角度の調節を行う装置であり、公知の傾転装置を用いることができる。ワイヤロープ20に弛みや伸縮が生じるとワイヤロープ20が移動した状態になり、シーブを通過したときに損傷が生じる。同様に、傾転装置が作動するとワイヤロープ20が移動した状態になり、シーブを通過したときに損傷が生じる。弛みや伸縮、あるいは、傾転装置の作動によりワイヤロープ20の移動量は、予め多数の実験や試験データ、あるいは、コンピュータシミュレーション結果の蓄積により得られた知見に基づいて把握することが可能である。ただし、ワイヤロープ20の弛みや伸縮の微小な変化を考慮すると際限なく区間長ΔSが小さくなる。そこで、ワイヤロープ20の弛みは、駆動装置13が停止してワイヤロープ20に作用する張力が無くなったときの弛みによるワイヤロープ20の最小移動距離を採用するとよい。また、ドラムワイヤロープ20の伸縮は、ワイヤロープ20に作用する張力の最大張力時および最小張力時の伸びの差分と、クレーン10の設置場所の最高気温および最低気温の伸びの差分と、を採用するとよい。このように、ワイヤロープ20に生じる弛みや伸縮、あるいは、傾転装置の作動によるワイヤロープ20の移動を考慮して区間長ΔSを設定することで、ワイヤロープ20に生じる弛みや伸縮、あるいは、傾転装置の作動によるワイヤロープ20の損傷も考慮した診断になり、診断精度の向上には有利になる。
重点診断区間28の区間長Δsは、区間長ΔSよりも短ければよいが、ワイヤロープ20の最低シーブ接触長に基づいた精度を考慮して設定されることが望ましい。ワイヤロープ20の全長が200m、シーブ径Dが0.78m、ワイヤロープ20の最低シーブ接触長が1/4周の場合に、必要精度を考慮した区間長Δsとしては0.6mが例示される。例えば、ワイヤロープ20の全長が200mの場合に、ワイヤロープ20の全長に亘って0.6mで等間隔に区分された区間を診断するには、区間の総数が334個となり、演算負荷が増えることに加えて補助記憶部7の記憶領域を専有する度合いも大きくなる。一方、ワイヤ区間26の区間長ΔSを1mとし、重点診断部位27の全長を10m(重点診断部位27が連続した十個のワイヤ区間26で構成される)とし、重点診断区間28の区間長Δsを0.6mとすると、区間の総数が207個となり、前述の区分に比してデータ量が62%程度に収まることになる。以上が、ワイヤ区間26および重点診断部位27の説明である。以下に、(S110)~(S150)の各ステップの内容を詳述する。
図2に例示する予備診断工程(S110)では、演算装置4により、ワイヤロープ20に対して等間隔に区分された多数のワイヤ区間26が設定された状態で、吊体11の移動により変動する多数のワイヤ区間26ごとのデータに基づいて、多数のワイヤ区間26ごとに診断するデータ処理が実行される。この工程での診断手法は、公知の種々のワイヤロープ20の診断手法を用いることができる。
所定の期間が経過したか否かを判定するステップ(S120)では、演算装置4により、予備診断工程(S110)を繰り返した経過時間と所定の期間とを比較して、その経過時間が所定の期間を超えたか否かを判定するデータ処理が実行される。所定の期間は、任意に設定することができるが、クレーン10の作業日ごと、あるいは、予定されている複数回の荷役の開始から終了までの期間が例示される。
重点診断部位27を特定するステップ(S130)では、演算装置4により、所定の期間中での吊体11の移動により変動する多数のワイヤ区間26ごとのデータに基づいて、多数のワイヤ区間26の中でワイヤロープ20の診断への影響度が基準よりも高いワイヤ区間26を重点診断部位27として特定するデータ処理が実行される。所定の期間中での多数のワイヤ区間26ごとのデータは、所定の期間が経過するまでに繰り返し実行された予備診断工程(S110)で用いられたデータや診断結果を用いることができる。所定の期間中での多数のワイヤ区間26ごとのデータは、所定の期間の終了時のデータである。
影響度は、ワイヤロープ20の診断結果に影響を及ぼす度合いを示す。ワイヤロープ20の診断では、一箇所でも破断しないように、一箇所でも損傷が進行して破断のおそれがある場合にワイヤロープ20の交換が必要であると判断される。それ故、影響度が低いワイヤ区間26では損傷の進行が遅く、その損傷がより進行しても最初に破断する可能性が低い。一方で、影響度が高いワイヤ区間26では損傷の進行が早く、その損傷がより進行すると最初に破断する可能性が高い。よって、影響度は、損傷の進行の度合いに応じて把握することができる。損傷の進行の度合いは、予備診断工程(S110)での診断により把握することが可能である。
影響度の指標としては、予備診断工程(S110)で用いた公知の種々の診断手法で用いられるデータや診断結果を用いることができる。具体的に、影響度の指標としては、損傷の進行の度合いを示す所定の期間中の多数のワイヤ区間26ごとのシーブの通過回数、累積損傷度、および、ロープ径を用いることができる。影響度の指標は、シーブの通過回数、累積損傷度、および、ロープ径のいずれか一つを用いればよいが、いずれか二つ、あるいは、全部を用いてもよい。シーブの通過回数は、ワイヤ区間26がシーブを通過した回数の合計を示している。ワイヤ区間26はシーブ21~25のいずれかを通過するたびに損傷が生じることから、シーブの通過回数は、影響度に対して正の相関関係にある。累積損傷度については後述するが、累積損傷度は、ワイヤ区間26に累積した損傷の度合いを示しており、シーブの通過回数と通過時にワイヤロープ20に作用した張力とに基づいて算出される。累積損傷度が高いほど損傷の進行が進んでいることになることから、累積損傷度は、影響度に対して正の相関関係にある。ロープ径は、ワイヤ区間26ごとのロープ径を示し、累積損傷度に対して負の相関関係にある。それ故、ロープ径は、影響度に対して負の相関関係にある。影響度の指標は、累積損傷度あるいはロープ径のどちらか一方を用いることが望ましい。影響度の指標として累積損傷度あるいはロープ径を用いることで、重点診断部位27の特定の精度を向上するには有利になる。一方で、累積損傷度およびロープ径は、算出に要する計算負荷が高いことや計測に要する手間が増えること、あるいは、計測に要する時間が掛かることなどが生じる。それ故、影響度の指標としてシーブの通過回数を用いることで、予備診断工程(S110)をより簡便にするには有利になる。
影響度の基準は、任意に設定することができ、絶対評価でもよく、相対評価でもよい。絶対評価を用いる場合に、その基準は、予め多数の実験や試験のデータ、あるいは、コンピュータシミュレーション結果の蓄積などにより得られた知見により所定の期間の長さに応じて設定される固定値である。相対評価を用いる場合に、その基準は、多数のワイヤ区間26ごとの影響度の指標に基づいて設定される変動値である。相対評価での基準は、指標の平均値、中央値、または、中間値に「1」よりも大きい正の係数を乗算した値を用いることができる。また、相対評価での基準は、指標の最大値に「1」よりも小さい正の係数を乗算した値を用いることもできる。さらに、相対評価では、指標の最大値を含む、指標の上位の複数のワイヤ区間26が基準よりも高いと見做すこともできる。
図4は、各々のワイヤ区間26ごとのシーブの通過回数の度数分布を示す。図4では、折れ線グラフを用いたが、ヒストグラムを用いてもよい。naは、所定の期間の長さに応じて設定された絶対評価での基準値を示す。nbは、指標の最大値に「1」よりも小さい正の係数を乗算して算出された相対評価での基準値を示す。nmは、指標の最大値を示している。影響度の基準の設定によっては、一本のワイヤロープ20に重点診断部位27が特定されない場合もあり、一本のワイヤロープ20に複数の重点診断部位27が特定される場合もある。また、重点診断部位27に含まれるワイヤ区間26の数が過多になったり、過少になったりする場合もある。重点診断部位27は、影響度が基準よりも高いワイヤ区間26を少なくとも一つ含んでいればよいが、複数のワイヤ区間26が連続して並んだ部位であることが望ましい。そこで、影響度の基準としては、指標の極値に基づくことが望ましい。例えば、指標としてシーブの通過回数や累積損傷度を用いる場合に、影響度の基準は、シーブの通過回数や累積損傷度の最大値に基づいて設定される。指標としてロープ径を用いる場合に、影響度の基準はロープ径の最小値に基づいて設定される。このように、影響度の基準が指標の極値に基づくことで、一本のワイヤロープ20に少なくとも一つの重点診断部位27が特定でき、特定した重点診断部位27に含まれるワイヤ区間26の数が適切な数に収まる可能性が高まる。図4では、シーブの通過回数の最大値を含む、上位の十個のワイヤ区間26を重点診断部位27として特定している。
図2に例示する本診断工程(S140)では、演算装置4により、ワイヤロープ20に対して重点診断部位27が設定された状態で、吊体11の移動により変動する多数のワイヤ区間26ごとのデータに基づいて、多数のワイヤ区間26から重点診断部位27を除いた残りのワイヤ区間26と重点診断部位27とを診断するデータ処理が実行される。本診断工程での診断手法は、予備診断工程と同様の公知の種々のワイヤロープ20の診断手法を用いることができる。ただし、本診断工程では、残りのワイヤ区間26の診断の重点度よりも重点診断部位27の診断の重点度を高くする。
診断の重点度は、診断での中央演算部5の演算負荷の度合いや診断に要するデータの補助記憶部7の記憶領域を専有の度合いを示す。重点度が低いワイヤ区間26の診断では、中央演算部5の演算負荷の度合いが低く、診断に要するデータの補助記憶部7の記憶領域の専有の度合いも低い。一方、重点度が高い重点診断部位27の診断では、中央演算部5の演算負荷の度合いが高く、診断に要するデータの補助記憶部7の記憶領域の専有の度合いも高い。具体的に、本実施形態では、重点診断部位27に、ワイヤ区間26の区間長ΔSよりも短い区間長Δsの重点診断区間28を多数設けることで、診断の重点度を高めている。同じ診断手法を用いても、区間長が短いほど診断の精度の向上には有利になる。
本診断工程(S140)は、予備診断工程(S110)での多数のワイヤ区間26ごとのデータを、重点診断部位27に引き継いで、予備診断工程が行われて所定の期間での損傷も加味してワイヤロープ20の診断を行うことが望ましい。具体的に、図3に示した一例では、予備診断工程での区間番号101~区間番号110のデータは、重点診断区間28の区間番号201~区間番号217に引き継がれる(例えば、区間番号101のデータは、区間番号201~区間番号202に引き継がれる)。このように、本診断工程(S140)での診断に、予備診断工程(S110)で得られたデータも活用することで、本診断工程でのワイヤロープ20の診断精度の向上には有利になる。
ワイヤロープ20を交換したか否かを判定するステップ(S150)では、演算装置4により、ワイヤロープ20が交換されたか否かを判定するデータ処理が実行される。ワイヤロープ20の交換は、本診断工程(S140)が繰り返されて、ワイヤロープ20の交換が必要と判断された後に、実際にワイヤロープ20が交換され、診断プログラム30に交換したことが入力されることで判定される。
以上のように、特定した重点診断部位27の診断結果は、ワイヤロープ20の診断に大きい影響を及ぼす。それ故、本実施形態によれば、重点診断部位27をより重点的に診断することにより、ワイヤロープ20の全域を重点的に診断する手法と同様にワイヤロープ20の診断精度を向上できる。また、重点診断部位27は、ワイヤロープ20の一部の部位であることから、ワイヤロープ20の全域を重点的に診断する手法に比して、演算負荷を軽減するとともに記憶領域を専有するデータ量を抑制することができる。このように、本実施形態は、高精度のワイヤロープ20の診断を実施可能な構成でありながら、演算負荷を軽減するとともに記憶領域を専有するデータ量を抑制することができる。
本実施形態によれば、重点診断部位27が複数のワイヤ区間26が連続して並んだ部位として特定されることで、重点的に診断する必要がある箇所の診断漏れを回避するには有利になる。重点診断部位27に含まれる複数のワイヤ区間26の数は、任意に設定することが可能であるが、重点診断部位27の全長がワイヤロープ20の全長の一割から三割までの長さになる数、あるいは、ワイヤ区間26の区間長ΔSの五倍から二十倍までの長さになる数が好ましい。重点診断部位27の全長が短すぎると、ワイヤロープ20の診断に影響を及ぼす箇所への重点的な診断が漏れる可能性が大きくなり、その全長が長すぎると演算負荷や記憶領域を専有するデータ量が増大する可能性が大きくなる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明のワイヤロープの診断方法および診断システム1並びに診断プログラム30は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
診断システム1の診断対象のワイヤロープ20は公知の種々のクレーンに用いられるものに限定されない。診断対象のワイヤロープ20は、例えば、公知の種々のエレベータに用いられるワイヤロープでもよい。診断対象がエレベータのワイヤロープの場合に、エレベータのかごが本発明の吊体に相当する。
重点診断部位27の診断の重点度を高くする手法は、重点診断部位27にワイヤ区間26の区間長ΔSよりも短い区間長Δsの多数の重点診断区間28を設定する手法に限定されるものではない。重点度を高くする手法としては、特定した重点診断部位27のみを診断する手法も例示される。重点診断部位27のみを診断する手法では、予備診断工程(S110)と本診断工程(S140)とでクレーン10の荷役状況が異なる場合に、重点診断部位27を除いた残りのワイヤ区間26の影響度が高くなる事態に対処することができない。そこで、重点診断部位27のみを診断する手法では、既述した実施形態よりも重点診断部位27の全長をより長くすることが望ましい。例えば、区間長Δsを既述した実施形態よりも長くしたり、重点診断区間28の数を増やしたりするとよい。また、重点度を高くする手法としては、特定した重点診断部位27のみをクレーン10の稼働中にリアルタイム処理で診断し、重点診断部位27を除いた残りのワイヤ区間26の診断をクレーン10の休止中にバッチ処理で診断する手法も例示される。さらに、重点度を高くする手法は、例示した複数の手法を組合せてもよい。重点度を高くする手法は、例示したいずれの手法を用いても、演算負荷を軽減するとともに記憶領域を専有するデータ量を抑制することができる。
予備診断工程(S110)での荷役状況と本診断工程(S140)での荷役状況とが異なる場合がある。このような場合に、本診断工程(S140)を繰り返し行う過程で、特定した重点診断部位27の影響度よりも重点診断部位27を除いた残りのワイヤ区間26の影響度が高くなる可能性がある。そこで、本診断工程(S140)を繰り返し行う過程で、予備診断工程(S110)と同様の方法を用いて、その過程での新たな重点診断部位27を特定するとよい。これにより、本診断工程(S140)を繰り返し行う過程で、特定した重点診断部位27の影響度よりも重点診断部位27を除いた残りのワイヤ区間26の影響度が高くなった場合に、影響度が高くなったワイヤ区間26を新たな重点診断部位27として特定して、重点的に診断することが可能となる。なお、新たな重点診断部位27を特定した場合に、特定する以前の重点診断部位27はワイヤ区間26に戻すことになる。このとき、多数の重点診断区間28が一つのワイヤ区間26に戻ることになるため、戻した時点のワイヤ区間26の本診断工程(S140)での診断結果は、戻す時点での多数の重点診断区間28の各々の診断結果の平均値、中央値、あるいは、中間値を用いるとよい。
予備診断工程(S110)は、ワイヤロープ20の定期点検などを利用することができる。ワイヤロープ20の定期点検で、多数のワイヤ区間26ごとのロープ径を計測して、計測したロープ径を影響度の指標として用いることで、重点診断部位27を特定することができる。このように、予備診断工程(S110)でのワイヤロープ20の診断手法と重点診断工程(S140)でのワイヤロープ20の診断手法とが異なっていてもよい。
本診断工程(S140)での区間番号Mは、一部を欠番とせずに、ワイヤロープ20の一端側または末端側のどちらか一方から他方に向うに連れて数値が大きくなるように設定してもよい。この場合に、予備診断工程(S110)で用いる区間番号Mと本診断工程(S140)で区間番号Mとは重点診断部位27を境界として重点診断区間28に付与される区間番号Mの分、ずれることになる。よって、予備診断工程(S110)で得られたデータを本診断工程(S140)に引き継ぐ場合に、そのズレ分を考慮するとよい。
重点診断部位27は、ワイヤロープ20ごとに異なってもよい。また、重点診断部位27は、一本のワイヤロープ20に一つずつ設定されてもよいが、一本のワイヤロープ20が複数のシーブ21~25を通過する場合には、一本のワイヤロープ20に複数、設定されてもよい。複数の重点診断部位27が設定されることで、重点的に診断する必要がある箇所の診断漏れを回避するには有利になる。
既述した実施形態では、ワイヤロープ20の診断手法として公知の種々の手法を用いることが可能であるが、公知の種々の手法には、吊体11の振れを起因とした張力の変動も考慮して高精度にワイヤロープ20の交換時期を診断するには改善の余地がある。そこで、予備診断工程(S110)や本診断工程(S140)で用いるワイヤロープ20の診断方法としては、以下に詳述する方法が望ましい。
図5に診断方法および診断プログラム30により実行される手順の一例を示す。まず、第一周期tごとに張力Wtおよび位置(lt、ht)を取得する(S210、S220)。ついで、演算装置4の補助記憶部7に時系列データ31が記憶されると(S230)、診断プログラム30は演算装置4に各手順(S240~S270)を実行させる。最終的に、ワイヤロープ20の交換時期の診断結果が出力部9に出力されると、再び、スタートに戻り各々の手順が実行される。この各々の手順の繰り返しは、クレーン10により吊体11を移動させている間で繰り返される。また、繰り返しで累積されたデータはワイヤロープ20の交換とともにリセットされ、ワイヤロープ20を交換してからクレーン10による吊体11の移動が開始されると累積される。以下に、(S210)~(S280)の各ステップの内容を詳述する。なお、図1に図示した通過区間29は、吊体11が移動しているときにシーブ21~25のいずれかのシーブを通過中のワイヤ区間26または重点診断区間28を示し、区間内の少なくとも一部がシーブに接触して、そのシーブにより屈曲した状態となっている。
張力Wtを取得するステップ(S210)では、第一周期tごとに張力取得装置2によりワイヤロープ20に作用する張力Wtを取得する。位置(lt、ht)を取得するステップ(220)では、第一周期tごとに位置取得装置3a、3bにより吊体11の位置(lt、ht)を取得する。
第一周期tは予め設定された固定のサンプリング周期である。第一周期tは、通過区間29がシーブの通過に要する時間(あるワイヤ区間26がシーブの通過を開始してからその通過が終了するまでの間の時間)よりも短い期間に設定される。第一周期tは、ワイヤ区間26を基準とすることが望ましいが、重点診断区間28を基準とすることもできる。第一周期tは、吊体11の移動における定格速度、ワイヤ区間26の区間長ΔS、および、シーブ径Dの組み合わせにより設定される。また、第一周期tは吊体11の振れを単振り子と見做した場合にその振れの周期よりも短いことが望ましい。吊体11の振れの周期は吊体11とトロリとの間の距離で異なるため、第一周期tとしては、荷役サイクルの中で最も支配的な吊体11の振れの周期よりも短くしたり、あるいは、荷役サイクルの中で最も長い吊体11の振れの周期よりも短くしたりすることができる。第一周期tが吊体11の振れの周期よりも短くなることで、張力取得装置2により吊体11の振れに起因したワイヤロープ20に作用する張力をより正確に取得することが可能となる。張力取得装置2と位置取得装置3a、3bの各々はサンプリング周期を第一周期tで同期させることが望ましいが、張力取得装置2のサンプリング周期を第一周期tよりも短い周期としてもよい。
図6に例示する時系列データ31を記憶するステップ(S230)では、第一周期tごとの張力Wtおよび位置(lt、ht)が時系列に並んで成る時系列データ31が演算装置4の補助記憶部7に記憶される。時系列データ31は、第一周期tごとに張力取得装置2および位置取得装置3a、3bから直に演算装置4に送られてもよく、クレーン用制御装置14を介して演算装置4に送られてもよい。
時系列データ31は、前回の周期(t-1)までのデータに逐次、新たに取得した張力Wtおよび位置(lt、ht)が追加されて更新されるデータ構造でもよく、第一周期tよりも長い周期である第二周期Tごとにまとめられた複数の第二周期分データから成るデータ構造でもよい。また、時系列データ31は、第二周期Tごとにまとめられた一つの第二周期分データから成り、第二周期Tごとに更新されるデータ構造でもよい。時系列データ31が第一周期tごとに逐次、追加されて更新される場合に、時間の経過ともにデータ量が肥大化する。そこで、時系列データ31の肥大化を抑えるために、時系列データ31を第二周期T分でまとめることで、データ管理が容易となり、不要となった部分を補助記憶部7から削除して補助記憶部7の記憶領域の逼迫を回避するには有利になる。第二周期Tは予め設定された固定の周期であり、第一周期tが複数回繰り返される周期である。
通過区間29と引張応力δt〔kgf/m2〕を特定するステップ(S240)では、時系列データ31に基づいて演算装置4により各々の通過区間29を特定した後に、通過区間29に作用した引張応力δtを特定するデータ処理が実行される。通過区間29は、吊体11が移動しているときにシーブ21~25のいずれかのシーブを通過中の区間番号Mのワイヤ区間26または重点診断区間28を示し、シーブ番号iごとにその区間番号Mが特定される。通過区間29は、区間内の少なくとも一部がシーブに接触して、そのシーブにより屈曲した状態となっている。このステップでは、具体的に、時系列データ31の位置(lt、ht)に基づいて演算装置4により、第一周期tごとにどの区間番号Mのワイヤ区間26または重点診断区間28が通過区間29となっているかを特定して、図4に例示する通過区間時系列データ32を作成するデータ処理が実行される。ついで、作成した通過区間時系列データ32に基づいて演算装置4により、通過区間29に作用した引張応力δtを通過区間29の区間番号Mの切り替わりを判断基準として特定するデータ処理が実行される。
時系列データ31の位置(lt、ht)から通過区間29を特定する手法は、特に限定されるものではなく、シーブ番号iごとの通過区間29を特定可能であれば特に限定されない。その手法の一例を以下に示す。まず、吊体11の位置(lt、ht)が基点である場合のワイヤロープ20とシーブとの接触部位の所定の位置を予め取得しておく。所定の位置は接触部位の範囲内から任意に選択でき、例えば、接触部位の中点が例示される。この所定の位置が始端位置から終端位置までの範囲に存在する区間番号Mのワイヤ区間26または重点診断区間28は吊体11が基点に存在する場合の通過区間29になる。ついで、その所定の位置を初期値とし、吊体11の位置(lt、ht)のワイヤロープ20の掛け方により定められた関数に変数である位置(lt、ht)を代入する。ついで、得られた位置が始端位置から終端位置までの範囲に存在するワイヤ区間26または重点診断区間28を通過区間29として特定し、その区間番号Mを特定する。なお、第一周期tがワイヤ区間26を基準として設定されている場合に、通過区間29として特定される重点診断区間28は一つではなく、複数になる場合がある。
図7に例示する通過区間時系列データ32は、第一周期tごとに、シーブ番号iごとの通過区間29の区間番号Mと、第一周期tごとの張力Wtとが時系列に並んだデータセットである。通過区間時系列データ32としては、時系列データ31と同様に、前回の周期(t-1)までのデータに逐次、新たなデータが追加されて更新されるデータ構造、第二周期Tごとにまとめられた複数の第二周期分データから成るデータ構造、あるいは、第二周期Tごとにまとめられた一つの第二周期分データから成り、第二周期Tごとに更新されるデータ構造が例示される。本実施形態では、第二周期Tを第一周期tが三回繰り返される周期とし、通過区間時系列データ32を、第二周期Tごとにまとめられた複数の第二周期分データから成るデータ構造とした。
第二周期Tは予め設定された固定の周期であり、第一周期tが複数回繰り返される周期である。第二周期Tは、ワイヤ区間26を基準として、その期間中に通過区間29として特定される区間番号(M-1)が次の区間番号Mに切り替わる回数が少なくとも一回以上ある期間であることが望ましい。なお、第二周期Tも第一周期tと同様に重点診断区間28を基準とすることもできる。切り替わる回数が一回以上であれば多くとも第二周期Tの二周期分のデータを演算装置4によりデータ処理することでワイヤロープ20の診断結果を出力することが可能となり、補助記憶部7の専有領域を低減できる。また、切り替わる回数が多いほどデータ量が多くなるため、切り替わる回数は五回以下が望ましい。
通過区間29に作用した引張応力δtを特定する手法としては、通過区間29に作用した張力(張力取得装置2が取得した張力の半分の値)を特定し、特定したその張力をワイヤロープ20の断面積Aで除算して得られた値を引張応力δtとして特定する手法が例示される。通過区間29に作用した張力を特定する手法としては、通過区間29のシーブの通過の開始から終了までの間の第一周期tごとの張力Wtの平均値または中央値を算出する手法、通過区間29の所定の位置(例えば、通過区間29の真ん中の位置)がシーブを通過したときの張力Wtを特定する手法、通過区間29の区間番号Mが次の番号(M+1)に切り替わったときの張力Wtを特定する手法が例示される。複数の張力Wtの平均値または中央値を採用することにより、演算装置4の演算負荷は増加するが、通過区間29に作用した引張応力δtをより正確に把握するには有利になる。一方、複数の張力Wtのいずれかを選択する手法を採用することにより、演算装置4の演算負荷は減少する。したがって、通過区間29に作用した張力を特定する手法は、診断プログラム30により選択可能とし、状況に応じて適宜、変更可能にするとよい。
微細損傷度Djを算出するステップ(S150)では、特定した引張応力δtに基づいて演算装置4により、通過区間29に生じた微細損傷度Djを算出するデータ処理を実行する。具体的に、演算装置4により、特定した引張応力δtと予め把握している数値とを下記の数式(1)に代入して得られた値から下記の数式(2)を用いて微細損傷度Djを算出する。
予め把握している数値は、入力部8により入力され、演算装置4の補助記憶部7に記憶されている。数値は、シーブ形状による係数a、ワイヤロープ20の撚り方による係数b、各々のシーブのシーブ径D、および、ワイヤロープ20のロープ径dである。ただし、シーブ径やシーブ形状が各々のシーブで異なる場合に、シーブごとに数式(1)に代入されるシーブ径Dおよびシーブ形状による係数aの値は異なるものとする。
上記の数式(1)はニーマンの実験式である。したがって、数式(1)から得られる破断回数Njは、通過区間29に特定した引張応力δtが作用し続けた場合に、その通過区間29が破断に至るまでにシーブを通過可能な回数を示している。上記数式(2)は、微細損傷度Djが破断回数Njの逆数であることを示している。損傷度とは、公知の累積疲労損傷則において、S-N線図と応力波形とを用いて、各応力による影響(応力振幅が実際に生じた回数をその応力振幅により破断に至るまでの繰り返し数で除算した値)を足し合わせて算出された値を示す。つまり、微細損傷度Djは、引張応力δtが作用した状態の通過区間29がシーブを一回、通過したときにその通過区間29に生じた損傷の度合いを示すものである。
累積損傷度Dsを算出するステップ(S160)では、算出した微細損傷度Djに基づいて演算装置4により、微細損傷度Djがワイヤロープ20の使用開始時から逐次、ワイヤ区間26および重点診断区間28ごとに累積された累積損傷度Ds(ΣDj)を算出するデータ処理が実行される。具体的に、演算装置4により図8に例示する累積損傷度データ33が作成される。ワイヤロープ20の使用開始時とはワイヤロープ20が交換された直後に吊体11を移動させた時を示す。
累積損傷度データ33は、ワイヤ区間26および重点診断区間28の区間番号Mごとの時系列の微細損傷度Djとそれらの微細損傷度Djを逐次、累積した累積損傷度Dsとシーブの通過回数nとから構成される。累積損傷度データ33は補助記憶部7に記憶され、演算装置4により微細損傷度Djが算出されるごとに逐次、更新され、ワイヤロープ20の交換によりリセット(初期化)される。累積損傷度データ33は微細損傷度Djとともにその微細損傷度Djが発生したシーブ番号iが特定可能に構成されることが望ましい。シーブ番号iが特定可能になることで、シーブ番号iごとの微細損傷度Djの履歴を把握することが可能になる。通過回数nは区間番号Mのワイヤ区間26および重点診断区間28が通過区間29として特定された回数であり、微細損傷度Djが生じた回数を示す。通過回数nは、必須ではないが、後述する交換時期の診断において使用されることもある。累積損傷度データ33の時系列の微細損傷度Djは累積損傷度Dsを算出した後に削除してもよいが、削除せずに残しておくことでワイヤロープ20の損傷の解析に利用することができる。
交換時期を診断するステップ(S270)では、算出した微細損傷度Djに基づいて演算装置4によりワイヤロープ20の交換時期を診断するデータ処理が実行される。ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標としては、ワイヤロープ20の寿命、その寿命に達するまでの期間、その寿命に達するまでにシーブを通過可能な回数(以下、予測残り回数)がある。ワイヤロープ20は、多数のワイヤ区間26および多数の重点診断区間28のうちの一つでも破断したときに破断したことになる。そのため、ワイヤロープ20の交換時期として適切な時期は、多数のワイヤ区間26および多数の重点診断区間28のうちの少なくとも一つの区間が破断するよりも前の時期である。公知の累積疲労損傷則に準ずると、区間番号Mごとの累積損傷度Dsのいずれかが「1」に達するとワイヤ区間26または重点診断区間28のいずれかが破断することになることから、累積損傷度Dsはワイヤロープ20の寿命に相当する。また、区間番号Mごとの累積損傷度Dsの推移により累積損傷度Dsが「1」に達するまで(寿命に達するまで)の予測期間が予測可能であり、その予測期間がワイヤロープ20の寿命に達するまでの期間に相当する。また、累積損傷度Dsの逆数はワイヤ区間26または重点診断区間28が破断するまでにシーブを通過可能と予測される回数と見做せることから、予測残り回数に相当する。したがって、区間番号Mごとの累積損傷度Dsに基づいてワイヤロープ20の交換時期を診断することが可能である。
ワイヤロープ20の寿命によりワイヤロープ20の交換時期を診断するには、区間番号Mごとの累積損傷度Dsの中から最も大きい最大累積損傷度Dsmを特定し、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標としてその最大累積損傷度Dsmを用いる。最大累積損傷度Dsmが「1」に達した時(Dsm≧1)を、ワイヤロープ20の寿命が尽きた時としてワイヤロープ20の交換時期として診断してもよいが、ワイヤロープ20の交換時期としてはワイヤロープ20が破断するよりも前の時期であることが望ましい。そこで、最大累積損傷度Dsmが「1」よりも小さい値に設定した損傷度閾値Daに達した時(Dsm≧Da)をワイヤロープ20の交換時期として診断するとよい。損傷度閾値Daは診断プログラム30に対して入力部8により「1」よりも小さい値の範囲で任意に設定可能である。例えば、ワイヤロープ20の寿命の70%に達した時をワイヤロープ20の交換時期として診断する場合に、損傷度閾値Daは「0.7」に設定される。
ワイヤロープ20の寿命に達するまでの期間によりワイヤロープ20の交換時期を診断するには、所定の期間における所定の時刻ごとの最大累積損傷度Dsmを特定し、所定の時刻と最大累積損傷度Dsmとの相関関係を把握し、把握したその相関関係に基づいて予定時刻の予測累積損傷度Dfを予測し、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標として予測累積損傷度Dfを用いる。具体的に、所定の作業期間におけるクレーン10の作業日時ごとにワイヤロープ20の最大累積損傷度Dsmを特定し、作業日時と最大累積損傷度Dsmとの相関関係を把握する。次いで、その相関関係を用いることで、予定作業日時の予測累積損傷度Dfを予測する。そして、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標としてその予測累積損傷度Dfを用いる。予測累積損傷度Dfが「1」あるいは損傷度閾値Daに達する予定作業日時までをワイヤロープ20の交換時期として診断するとよい。作業日時と最大累積損傷度Dsmとの相関関係は、ある作業期間における作業日時ごとの最大累積損傷度Dsmの推移を直線に近似した直線で表すことができる。また、ある作業期間における作業日時ごとの最大累積損傷度Dsmの増加量の平均値や中央値で表すこともできる。
予測残り回数によりワイヤロープ20の交換時期を診断するには、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標として累積損傷度Dsの逆数を用いてもよいが、予測後にワイヤロープ20に実際に作用する張力Wtが予測不能であることから予測精度が低い。そこで、累積損傷度Dsに基づいて区間番号Mごとに吊体11の移動サイクルにおける一回当たりのサイクル損傷度Dcyを算出し、サイクル損傷度Dcyの中から最も大きい最大サイクル損傷度Dcymを特定し、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標として最大サイクル損傷度Dcymの逆数である最小予測サイクル回数Nsmを用いるとよい。
吊体11の移動サイクルは、所定の場所から目的の場所まで吊体11を移動させ、再び所定の場所に吊体11を移動させて戻すという一連のサイクルを示す。コンテナを船舶に荷積みする場合の「1」サイクルとは、コンテナを所定の位置から船舶の目標位置まで移動させ、船舶にコンテナを積み込んだ後に、目標位置から所定の位置に吊具を移動させて戻すこと(その逆のサイクルも含む)を示す。一回当たりのサイクル損傷度Dcyは、累積損傷度Dsを、ワイヤロープ20の使用開始時からその累積損傷度Dsが算出された時までの間の吊体11の移動サイクルの総数である移動サイクル数Ncyで除算して算出される。
最小予測サイクル回数Nsmが「0」に達した時(Nsm=0)、つまり、予測残り回数が無くなった時をワイヤロープ20の交換時期として診断してもよいが、交換時期としてはワイヤロープ20が破断するよりも前の時期であることが望ましい。そこで、最小予測サイクル回数Nsmに「1」よりも小さい値に設定されたサイクル係数kを乗算した値が「0」に達した時(kNsm=0)をワイヤロープ20の交換時期として診断するとよい。サイクル係数kは診断プログラム30に対して入力部8により「1」よりも小さい値の範囲で任意に設定可能である。例えば、最小予測サイクル回数Nsmが70%に達した時をワイヤロープ20の交換時期として診断する場合に、サイクル係数kは「0.7」に設定される。
最小予測サイクル回数Nsmとコンテナの荷役予定に基づいた予定移動サイクル数Naとを比較し、最小予測サイクル回数Nsmが予定移動サイクル数Naよりも小さい場合にその荷役予定の前にクレーン10を停止した時をワイヤロープ20の交換時期として診断してもよい。予定移動サイクル数Naはコンテナの荷役予定に基づいて設定され、コンテナの荷役予定はコンテナの荷役を管理する管理システムから入手可能である。例えば、作業日ごとの予定移動サイクル数Nb、Nc・・・を管理システムから入手して、とある作業日の作業終了後の最小予測サイクル回数Nsmを「50」とし、その作業日以降の次回の予定移動サイクル数Nbを「30」とし、その作業日以降の次次回の予定移動サイクル数Ncを「100」とする。このように、予定移動サイクルと最小予測サイクル回数Nsmとを比較することで、次回の予定移動サイクル数Nbの作業終了後をワイヤロープ20の交換時期として診断することが可能となる。最小予測サイクル回数Nsmの代わりに、最小サイクル回数Nsmにサイクル係数kを乗算した値を用いてもよい。
診断したワイヤロープ20の交換時期が近づいたときに、クレーン10の運転者や管理者にワイヤロープ20の交換を指示するとよい。ワイヤロープ20の交換の指示としては、演算装置4の出力部9の表示を変更したり、警告装置により警告ランプを点灯されたりあるいは警告音を鳴らしたりする方法が例示される。
以上のように、例示したワイヤロープ20の診断手法によれば、通過区間29がシーブを通過するごとに生じた微細損傷度Djを累積して、ワイヤロープ20の交換時期を診断する。それ故、ワイヤロープ20に作用する引張応力δtが細やかに変動してもその変動に応じた損傷を考慮してワイヤロープ20の交換時期を診断することが可能となる。これにより、ワイヤロープ20の交換時期の診断の精度を高めるには有利になり、ワイヤロープ20が破断する前に確実に交換することによる安全性の確保とワイヤロープ20の不必要な交換の頻度の低下によるコストダウンとを図ることができる。
また、例示したワイヤロープ20の診断手法によれば、分解能を通過区間29がシーブを通過するまでの間の期間よりも短い第一周期tとすることで、ワイヤロープ20に作用する細かな引張応力の変動によるワイヤロープ20の損傷を累積することができる。このように、通過区間29がシーブを通過するごとの微細損傷度Djを累積した累積損傷度Dsに基づいてワイヤロープ20の交換時期を診断することで、従来技術のように所定の期間のワイヤロープのシーブ通過回数を基準とする方法に比して高精度の診断を行うことができる。
診断プログラム30は、各々の手順が一つのパッケージとしてまとめられたものでもよく、各々の手順が幾つかのパッケージにまとめられたものでもよい。また、演算装置4は、各々の手順を実行する複数の電気回路やプログラマブルロジックコントローラ(PLC)の集合体としてもよい。