以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
本実施形態のサーメット焼結体は、硬質相及び結合相を含み、硬質相が、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物又は窒化物を含む相であり、結合相が、Co、Ni及びFeからなる群より選択される少なくとも1種を含む相であり、硬質相の含有割合が82質量%以上93質量%以下であり、結合相の含有割合が7質量%以上18質量%以下であり、硬質相は、(i)X線回折(以下「XRD」とも記す。)測定において、123.5°以上125.0°以下の位置に(422)面に由来する回折ピークを示す立方晶結晶構造を有する第1硬質相と、(ii)XRD測定において、121.0°以上123.5°未満の位置に(422)面に由来する回折ピークを示す立方晶結晶構造を有する第2硬質相と、を含み、第2硬質相の残留応力が、-1000MPa以上-600MPa以下であり、結合相の残留応力が、-600MPa以上-200MPa以下であり、下記の方法で算出する第1硬質相富化領域の厚み(以下、単に「第1硬質相富化領域の厚み」とも記す。)が、0μm以上1.0μm以下であり、下記の方法で算出する表面結合相割合(以下、単に「表面結合相割合」とも記す。)が、0.80以上0.95以下である。
(第1硬質相富化領域の厚みの算出方法)
サーメット焼結体表面に垂直な断面の反射電子(以下「BSE」とも記す。)観察像において、サーメット焼結体表面から順に内側に向けて0.5μm間隔で、サーメット焼結体表面に平行な線分を引く。当該線分の長さを100%としたとき、第1硬質相を横断する線分の割合が30%を下回る線分と、サーメット焼結体表面との最短距離を、第1硬質相富化領域の厚みとする。このとき、線分の長さは20μm以上とした。
(表面結合相割合の算出方法)
サーメット焼結体表面に垂直な断面において、エネルギー分散型X線分析装置(以下「EDS」とも記す。)付き走査型電子顕微鏡(以下「SEM」とも記す。)を用いて、サーメット焼結体表面より内側に向かって10μmの位置(表面部)、及びサーメット焼結体表面より500μm以上内側の位置(内部)において、Co、Ni及びFeの質量%を分析する。EDSによる分析は上記の分析位置を中心とし、10μm×10μmの領域の面分析で行う。表面部におけるCo、Ni及びFeの質量%の和を、内部におけるCo、Ni及びFeの質量%の和で除した値を、表面結合相割合とする。
このようなサーメット焼結体が、耐欠損性に優れると共に、耐摩耗性及び耐塑性変形性を向上させ、工具寿命を延長することができる要因は、詳細には明らかではないが、本発明者はその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、硬質相の含有割合が82質量%以上であると、サーメット焼結体は、硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性に優れる。一方、硬質相の含有割合が93質量%以下であると、相対的に結合相の含有割合が増加するため、サーメット焼結体は、靭性が向上し、耐欠損性に優れる。また、結合相の含有割合が7質量%以上であると、サーメット焼結体は、靭性が向上し、耐欠損性に優れる。一方、結合相の含有割合が18質量%以下であると、相対的に硬質相の含有割合が増加するため、サーメット焼結体は、硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性に優れる。また、第2硬質相の残留応力が、-1000MPa以上であると、硬質相の脆化が抑制され、サーメット焼結体は、耐欠損性が向上する。一方、第2硬質相の残留応力が、-600MPa以下であると、硬質相の靭性が向上し、サーメット焼結体は、耐欠損性に優れる。また、結合相の残留応力が、-600MPa以上であると、結合相の脆化が抑制され、サーメット焼結体は、耐欠損性が向上する。一方、結合相の残留応力が、-200MPa以下であると、結合相の靭性が向上し、サーメット焼結体は、耐欠損性に優れる。さらに、結合相の残留応力が、-200MPa以下であると、結合相が硬化して、サーメット焼結体は、耐摩耗性が向上する。また、第1硬質相富化領域の厚みが、1.0μm以下であると、サーメット焼結体は、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。また、表面結合相割合が、0.80以上であると、相対的に結合相の割合が増加するため、サーメット焼結体は、耐欠損性に優れる。一方、表面結合相割合が、0.95以下であると、相対的に硬質相の割合が増加するため、サーメット焼結体は、耐摩耗性及び耐塑性変形性に優れる。これらの効果が相俟って、本実施形態のサーメット焼結体は、耐欠損性に優れると共に、耐摩耗性及び耐塑性変形性を向上させ、工具寿命を延長することができる。
本実施形態のサーメット焼結体において、硬質相は、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物又は窒化物を含む相であり、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物を含む相であることが好ましく、Ti、W、Mo、Nb及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物を含む相であることがより好ましい。
硬質相を構成する具体的な組成としては、特に限定されないが、例えば、TiC、TiN、TiCN、WC、TaC、NbC、ZrC、Mo2C、Cr3C2、VC、HfC等が挙げられる。中でも、TiCN、WC、TaC、NbC、ZrC、Mo2C、Cr3C2が好ましく、TiCN、WC、NbC、ZrC、Mo2Cがより好ましい。
本実施形態のサーメット焼結体において、結合相は、Co、Ni及びFeからなる群より選択される少なくとも1種を含む相であり、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも1種を含む相であることが好ましく、Co及びNiからなる相であることがより好ましい。
本実施形態のサーメット焼結体において、硬質相の含有割合は、82質量%以上93質量%以下である。硬質相の含有割合が82質量%以上であると、サーメット焼結体は、硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性に優れる。一方、硬質相の含有割合が93質量%以下であると、相対的に結合相の含有割合が増加するため、サーメット焼結体は、靭性が向上し、耐欠損性に優れる。同様の観点から、硬質相の含有割合は、84質量%以上90質量%以下であることが好ましく、85質量%以上88質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態のサーメット焼結体において、結合相の含有割合が7質量%以上18質量%以下である。結合相の含有割合が7質量%以上であると、サーメット焼結体は、靭性が向上し、耐欠損性に優れる。一方、結合相の含有割合が18質量%以下であると、相対的に硬質相の含有割合が増加するため、サーメット焼結体は、硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性に優れる。同様の観点から、結合相の含有割合は、10質量%以上16質量%以下であることが好ましく12質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、硬質相及び結合相の含有割合の値(質量%)は、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物又は窒化物と、Co、Ni及びFeからなる群より選択される少なくとも1種との合計100質量%に対する含有割合の値(質量%)となる。
また、本実施形態において、硬質相及び結合相の含有割合(質量%)は、サーメット焼結体表面より内側に向かって500μm以上の位置において、EDSを用いて分析することにより測定することができる。EDSによる分析は上記の分析位置を中心とし、10μm×10μmの領域の面分析で行う。このとき、Tiは炭窒化物、W、Mo、Cr、Ta、Nb及びZrは炭化物として換算した値を、各相の含有割合(質量%)として算出した。具体的には、硬質相及び結合相の含有割合(質量%)は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
本実施形態のサーメット焼結体において、硬質相は、(i)XRD測定において、123.5°以上125.0°以下の位置に(422)面に由来する回折ピークを示す立方晶結晶構造を有する第1硬質相と、(ii)XRD測定において、121.0°以上123.5°未満の位置に(422)面に由来する回折ピークを示す立方晶結晶構造を有する第2硬質相と、を含む。
本実施形態において、第1硬質相及び第2硬質相は、サーメット焼結体の内部の断面組織のBSE観察像により特定することができる。図1は、サーメット焼結体の内部の断面組織のBSE観察像の一例である。当該BSE観察像において、黒色のコントラストを有する部分が、第1硬質相(1)であり、灰色~白色のコントラストを有する部分が、第2硬質相(6)(第2硬質相a(2)、別の第2硬質相b(3)、さらに別の第2硬質相c(4))であり、これらの硬質相間の細長い白色の部分が、結合相(5)である。
本実施形態のサーメット焼結体において、第1硬質相と第2硬質相との比率は、以下のように評価する。硬質相についての上述のXRD測定で特定した各々の硬質相に由来する2つの回折ピークについて、積分強度を算出する。第1硬質相の(422)面に由来する回折ピークの積分強度と、第2硬質相の(422)面に由来する回折ピークの積分強度との比率(第1硬質相:第2硬質相)は、1.0:1.5~1.0:3.5であることが好ましく、1.0:2.0~1.0:3.0であることがより好ましい。
第1硬質相は、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物又は窒化物を含む相であり、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物を含む相であることが好ましく、Ti、W、Mo、Nb及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物を含む相であることがより好ましい。
第2硬質相は、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物又は窒化物を含む相であり、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物を含む相であることが好ましく、Ti、W、Mo、Nb及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物を含む相であることがより好ましい。
本実施形態のサーメット焼結体において、第2硬質相の残留応力は、-1000MPa以上-600MPa以下である。第2硬質相の残留応力が、-1000MPa以上であると、硬質相の脆化が抑制され、サーメット焼結体は、耐欠損性が向上する。一方、第2硬質相の残留応力が、-600MPa以下であると、硬質相の靭性が向上し、サーメット焼結体は、耐欠損性に優れる。同様の観点から、第2硬質相の残留応力は、-950MPa以上-650MPa以下であることが好ましく、-900MPa以上-700MPa以下であることがより好ましい。
残留応力とは、硬質相及び結合相中に残留する内部応力(固有ひずみ)であって、一般に「-」(マイナス)の数値で表される応力を圧縮応力といい、「+」(プラス)の数値で表される応力を引張応力という。本実施形態においては、残留応力の大小を表現する場合、「+」(プラス)の数値が大きくなる程、残留応力が大きいと表現し、また「-」(マイナス)の数値が大きくなる程、残留応力が小さいと表現するものとする。
なお、本実施形態において、第2硬質相の残留応力は、XRDを用いたsin2ψ法により測定することができる。立方晶結晶構造を有する第2硬質相の(422)面に由来する回折ピークを用いて評価する。当該ピークは、2θ-θ測定において、121.0°以上123.5°未満の位置に存在する。具体的には、第2硬質相の残留応力は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
本実施形態のサーメット焼結体において、結合相の残留応力は、-600MPa以上-200MPa以下である。結合相の残留応力が、-600MPa以上であると、結合相の脆化が抑制され、サーメット焼結体は、耐欠損性が向上する。一方、結合相の残留応力が、-200MPa以下であると、結合相の靭性が向上し、サーメット焼結体は、耐欠損性に優れる。さらに、結合相の残留応力が、-200MPa以下であると、結合相が硬化して、サーメット焼結体は、耐摩耗性が向上する。同様の観点から、結合相の残留応力は、-550MPa以上-250MPa以下であることが好ましく、-500MPa以上-300MPa以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、結合相の残留応力は、XRDを用いたsin2ψ法により測定することができる。立方晶結晶構造を有する結合相に由来する回折ピークのうち、(311)面に由来する回折ピークを用いて評価する。当該ピークは、2θ-θ測定において、89.5°~93.0°の位置に存在する。具体的には、結合相の残留応力は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
本実施形態のサーメット焼結体において、第1硬質相富化領域の厚みは、0μm以上1.0μm以下である。第1硬質相富化領域の厚みが、1.0μm以下であると、サーメット焼結体は、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。同様の観点から、第1硬質相富化領域の厚みは、0.5μm以下であることが好ましく、0μmであることがより好ましい。
なお、本実施形態において、第1硬質相富化領域の厚みは、以下の方法で算出する。まず、サーメット焼結体表面に垂直な断面のBSE観察像において、サーメット焼結体表面から順に内側に向けて0.5μm間隔で、サーメット焼結体表面に平行な線分を引く。当該線分の長さを100%としたとき、第1硬質相を横断する線分の割合が30%を下回る線分と、サーメット焼結体表面との最短距離を、第1硬質相富化領域の厚みとする。このとき、線分の長さは20μm以上とした。
本実施形態のサーメット焼結体において、表面結合相割合は、0.80以上0.95以下である。表面結合相割合が、0.80以上であると、相対的に結合相の割合が増加するため、サーメット焼結体は、耐欠損性に優れる。一方、表面結合相割合が、0.95以下であると、相対的に硬質相の割合が増加するため、サーメット焼結体は、耐摩耗性及び耐塑性変形性に優れる。同様の観点から、表面結合相割合は、0.81以上0.91以下であることが好ましく、0.83以上0.88以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、表面結合相割合は、以下の方法で算出する。まず、EDSを用いて、サーメット焼結体表面より内側に向かって10μmの位置(表面部)、及びサーメット焼結体表面より500μm以上内側の位置(内部)において、Co、Ni及びFeの質量%を分析する。EDSによる分析は上記の分析位置を中心とし、10μm×10μmの領域の面分析で行う。表面部におけるCo、Ni及びFeの質量%の和を、内部におけるCo、Ni及びFeの質量%の和で除した値を、表面結合相割合とする。
本実施形態のサーメット焼結体において、下記の方法で算出する表面窒素割合(以下、単に「表面窒素割合」とも記す。)は、0.42以上0.50以下であることが好ましい。
(表面窒素割合の算出方法)
EDSを用いて、サーメット焼結体表面より内側に向かって10μmの位置において、N元素及びC元素の質量%を分析する。EDSによる分析は上記の分析位置を中心とし、10μm×10μmの領域の面分析で行う。N元素及びC元素の合計に対するN元素の比を、表面窒素割合とする。
本実施形態のサーメット焼結体において、表面窒素割合が0.42以上であると、N元素を一定量含むことを示し、切削加工時の、硬質粒子が被削材と反応し難くなり、反応摩耗の進展が抑制され、耐摩耗性が向上する傾向にある。また、表面窒素割合が0.42以上であると、被削材の加工面も優れる傾向にある。一方、表面窒素割合が0.50以下であると、焼結時、脱窒による空孔発生が抑制され、サーメット焼結体は、耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、表面窒素割合は、0.43以上0.48以下であることがより好ましく、0.44以上0.46以下であることがさらに好ましい。
次に、本実施形態のサーメット焼結体の製造方法の一例について説明する。なお、本実施形態のサーメット焼結体の製造方法は、上述した構成を達成し得る限り特に制限されるものではない。
本実施形態のサーメット焼結体の製造方法は、例えば、以下の工程1~11を含む。
工程1は、各原料粉末を配合する工程(配合工程)である。具体的には、特に限定されないが、例えば、平均粒径0.5~4.0μmの、Ti、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物又は窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の粉末82~93質量%と、平均粒径0.5~3.0μmの、Co、Ni及びFeからなる群より選択される少なくとも1種の粉末7~18質量%とを配合(ただし、これらの合計は100質量%である)する工程が挙げられる。原料粉末の具体例としては、特に限定されないが、例えば、TiC0.5N0.5、TiC0.3N0.7、WC、TaC、NbC、ZrC、Mo2C、Cr3C2、VC、HfC、Co、Ni及びFe等の粉末が挙げられる。
工程2は、工程1で配合した各原料粉末を、溶媒とともに湿式ボールミルにより、混合する工程(混合工程)である。ここで、各原料粉末の混合時間は、10~40時間とすることが好ましい。
工程3は、工程2で混合した粉末を、乾燥させる工程(乾燥工程)である。ここで、乾燥温度は、100℃以下とすることが好ましい。
工程4は、工程3で乾燥させた混合粉末を所定の形状に成形する工程(成形工程)である。成形工程において、具体的には、例えば、所定の工具形状となる金型を用いて、混合粉末をプレス、成形することが好ましい。さらに、成形工程において、例えば、パラフィンを添加することにより、成形性が向上する傾向がある。
工程5は、工程4で得られた成形体を、真空雰囲気において、室温から所定の温度(到達温度)まで昇温する工程(第1昇温工程)である。第1昇温工程の到達温度は、第2昇温工程の開始温度であり、例えば、1300~1440℃とすることが好ましい。第1昇温工程において、圧力は、70Pa以下とすることが好ましい。
工程6は、工程5の後、成形体を、N2ガス雰囲気において、所定の温度(到達温度)まで昇温する工程(第2昇温工程)である。第2昇温工程の開始温度は、例えば、1300~1440℃とすることが好ましい。第2昇温工程の到達温度は、焼結工程の温度であり、1450~1550℃とすることが好ましい。第2昇温工程において、圧力は、133~6650Paとすることが好ましい。
工程7は、工程6の後、成形体を、N2ガス雰囲気において、所定の温度で保持して焼結する工程(焼結工程)である。ここで、焼結温度は、1450~1550℃とすることが好ましく、1480~1550℃とすることがより好ましい。焼結工程において、圧力は、70~600Paとすることが好ましい。焼結時間は、30~120分間とすることが好ましい。
工程8:工程7で得られたサーメット焼結体を、真空雰囲気において、所定の温度まで冷却する工程(第1冷却工程)。ここで、第1冷却開始温度は、焼結温度であり、例えば、1450~1550℃とすることが好ましい。第1冷却到達温度は、例えば、1300~1350℃とすることが好ましい。第1冷却工程において、冷却速度は、20℃/分以下とすることが好ましく、3~15℃/分とすることがより好ましい。第1冷却工程において、圧力は、133Pa以下とすることが好ましい。
工程9は、工程8の後、サーメット焼結体を、不活性ガス雰囲気において、室温まで冷却する工程(第2冷却工程)である。ここで、第2冷却開始温度は、第1冷却到達温度であり、例えば、1300~1350℃とすることが好ましい。第2冷却到達温度は、室温である。第2冷却工程において、圧力は、133~300000Paとすることが好ましい。第2冷却工程において、不活性ガス雰囲気の具体例としては、特に限定されないが、例えば、He、Ne及びArガス雰囲気が挙げられる。
工程10は、工程9の後、サーメット焼結体の刃先にホーニング処理を施す工程(ホーニング工程)である。ここで、所望のホーニング形状に調整する。
工程11は、工程10の後、アルミナ(Al2O3)等の投射材の粒子をサーメット焼結体表面に衝突させる工程(ブラスト工程)である。ここで、ブラスト工程の方式は、乾式とすることが好ましい。ブラスト工程において、投射材の粒子の平均粒径は、100~150μmとすることが好ましい。ブラスト工程において、投射角度(工具の形状に成形した場合、工具のすくい面の法線からの傾斜角度)は、30~60度とすることが好ましい。ブラスト工程において、投射速度は、70~150m/secとすることが好ましく、70~130m/secとすることがより好ましい。
なお、工程1において使用される原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定することができる。
本実施形態のサーメット焼結体の製造方法の各工程は、以下の意義を有する。
工程1(配合工程)では、各原料粉末の配合比を調整することで、所望のサーメット焼結体の組成となるように調整することができる。
工程2(混合工程)では、所定の配合組成の原料粉末を均一に混合した、混合物を得ることができる。また、原料粉末の粒径を調整し、焼結体における組織及び粒度を調整することができる。
工程3(乾燥工程)では、混合物から溶媒を蒸発させた混合粉末を得ることができる。
工程4(成形工程)では、混合粉末から所定の工具形状の成形体が得られる。パラフィンを添加することにより、成形性が向上する。
工程5(第1昇温工程)では、液相出現前及び液相出現直後での脱ガスを促進するとともに、以下の工程7(焼結工程)における焼結性を向上させることができる。
工程6(第2昇温工程)では、成形体からの脱窒素を抑制しつつ、焼結温度まで昇温することができる。この工程6(第2昇温工程)と以下の工程7(焼結工程)とを組み合わせることで、表面結合相割合を小さくすることができる。
工程7(焼結工程)では、成形体を所定の温度で保持して焼結することによりサーメット焼結体を得るとともに、表面結合相割合を小さくすることができる。
工程8(第1冷却工程)では、第1硬質相富化領域を形成させることができる。また、表面窒素割合を調整することができる。
工程9(第2冷却工程)では、サーメット焼結体を室温まで冷却することができる。
工程10(ホーニング工程)では、工具形状のサーメット焼結体の刃先に所定のホーニング形状を備えさせることができる。
工程11(ブラスト工程)では、第2硬質相及び結合相に圧縮の残留応力を付与することができる。ブラスト工程の方式として、乾式ブラストは湿式ブラストに比して、高い圧縮の残留応力を付与することができる。一方、湿式ブラストは乾式ブラストに比して、焼結体表面を研削する力が強い傾向がある。
本実施形態のサーメット焼結体において、第1硬質相及び第2硬質相の2種の硬質相を形成させる方法としては、特に限定されないが、例えば、炭窒化物、炭化物又は窒化物からなる原料粉末として、Tiの炭窒化物、炭化物又は窒化物の粉末と、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭窒化物、炭化物又は窒化物の粉末を用いることで、上述の製造方法において、第1硬質相及び第2硬質相を得ることができる。また、配合するTiの炭窒化物、炭化物又は窒化物の粉末の配合比を高くすると、XRD測定で特定した第1硬質相の(422)面に由来する回折ピークの積分強度が高くなる傾向にある。
第1硬質相富化領域の厚みを所望の範囲に制御する方法としては、上述の製造方法において、第2昇温工程の開始温度(第1昇温工程の到達温度)を調整する方法が挙げられる。具体的には、上述した第2昇温工程の開始温度の範囲(1300~1440℃)内で、第2昇温工程の開始温度を高くすると、第1硬質相富化領域の厚みが小さくなる傾向にある。
表面結合相割合を所望の範囲に制御する方法としては、上述の製造方法において、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、第2昇温工程の開始温度(第1昇温工程の到達温度)を調整したり、第1冷却工程の冷却速度を調整したり、焼結工程の焼結温度を調整する方法が挙げられる。具体的には、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、第2昇温工程の開始温度を低くしたり、第1冷却工程の冷却速度を遅くしたり、焼結工程の焼結温度を高くすると、表面結合相割合が小さくなる傾向にある。
第2硬質相の残留応力を所望の範囲に制御する方法としては、上述の製造方法において、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、ブラスト工程の投射速度を調整する方法が挙げられる。具体的には、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、ブラスト工程の投射速度を速くすると、第2硬質相の残留応力が小さくなる傾向にある。
結合相の残留応力を所望の範囲に制御する方法としては、上述の製造方法において、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、ブラスト工程の投射速度を調整する方法が挙げられる。具体的には、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、ブラスト工程の投射速度を速くすると、第2硬質相の残留応力が小さくなる傾向にある。
表面窒素割合を所望の範囲に制御する方法としては、上述の製造方法において、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、第2昇温工程の開始温度(第1昇温工程の到達温度)を調整したり、第1冷却工程の冷却速度を調整したり、焼結工程の焼結温度を調整する方法が挙げられる。具体的には、ブラスト工程の方式として、湿式ではなく乾式を採用して、第2昇温工程の開始温度を低くしたり、第1冷却工程の冷却速度を遅くしたり、焼結工程の焼結温度を高くすると、表面窒素割合が小さくなる傾向にある。
本実施形態のサーメット焼結体は、さらに表面に従来からある物理蒸着法又は化学蒸着法により硬質膜を被覆してもよい。
本実施形態のサーメット焼結体は、特に限定されないが、例えば、フライス加工用又は旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル、エンドミルなどに利用することができる。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
[サーメット焼結体の製造]
原料粉末として、市販されている、平均粒径2.0μmのTiC0.5N0.5粉末、平均粒径2.0μmのTiC0.3N0.7粉末、平均粒径1.5μmのWC粉末、平均粒径1.5μmのTaC粉末、平均粒径1.5μmのNbC粉末、平均粒径1.5μmのZrC粉末、平均粒径1.5μmのMo2C粉末、平均粒径1.5μmのCr3C2粉末、平均粒径1.0μmのCo粉末、平均粒径1.0μmのNi粉末を用意した。なお、原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定した。
用意した原料粉末を下記表1の配合組成になるように秤量して、秤量した各原料粉末をアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共にステンレス製ポットに入れて湿式ボールミルで混合及び粉砕を行った。湿式ボールミルによる混合及び粉砕時間は15時間とした。
湿式ボールミルによる混合及び粉砕後、混合物を60℃で乾燥することにより、アセトン溶媒を蒸発して混合粉末を得た。
得られた混合粉末にパラフィンを3.0質量%添加した後、焼結後の形状がインサート形状TNMG160404になる金型でもって圧力100MPaでプレス成形して、混合粉体の成形体を得た。
得られた成形体を、真空雰囲気において、室温から表2に示す第2昇温工程の開始温度まで昇温した(第1昇温工程)。また、第1昇温工程において、圧力は50Paとした。
その後、成形体を、N2ガス雰囲気において、表2に示す第2昇温工程の開始温度から、表2に示す焼結工程の温度まで昇温した(第2昇温工程)。第2昇温工程において、圧力は600Paとした。
その後、成形体を、N2ガス雰囲気において、表2に示す焼結工程の温度で保持して焼結した(焼結工程)。焼結工程において、圧力は270Paとし、焼結時間は60分とした。
得られたサーメット焼結体を、真空雰囲気において、表2に示す焼結工程の温度から、1350℃まで冷却した(第1冷却工程)。また。第1冷却工程において、冷却速度は、表2示すとおりとし、圧力は90Paとした。
その後、サーメット焼結体を、Arガス雰囲気において、第1冷却到達温度1350℃から室温まで冷却した(第2冷却工程)。また、第2冷却工程において圧力は100000Paとした。
その後、サーメット焼結体の刃先にSiCブラシにより丸ホーニング処理を施した(ホーニング工程)。
その後、投射材として、アルミナ(Al2O3)粒子をサーメット焼結体表面に衝突させるブラスト工程を行った。ブラスト工程の方式は、表2に示すとおりとした。ブラスト工程において、投射材の粒子の平均粒径は、120μmとし、投射角度は、45度とした。また、投射速度は、表2に示すとおりとした。
以上のようにして発明品1~16及び比較品1~13を作製した。
発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体について、サーメット焼結体表面に垂直な断面の、サーメット焼結体表面より内側に向かって500μmの位置において、EDS付きSEMにて観察し、硬質相及び結合相の組成を同定した。
また、発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体における硬質相及び結合相の含有割合(質量%)は、EDSを用いて、サーメット焼結体表面に垂直な断面の、サーメット焼結体表面より内側に向かって500μmの位置において、EDSを用いて分析することにより測定した。EDSによる分析は上記の分析位置を中心とし、10μm×10μmの領域の面分析で行った。このとき、Tiは炭窒化物、W、Mo、Cr、Ta、Nb及びZrは炭化物として、換算した値を各相の含有割合(質量%)として算出した。結果を表3に示す。
発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体について、XRD測定を行い、123.5°以上125.0°以下の位置に(422)面に由来する回折ピークを示す立方晶結晶構造を有する第1硬質相と、121.0°以上123.5°未満の位置に(422)面に由来する回折ピークを示す立方晶結晶構造を有する第2硬質相と、を含むことを確認した。発明品1~16において、第1硬質相の(422)面に由来する回折ピークの積分強度と、第2硬質相の(422)面に由来する回折ピークの積分強度との比率(第1硬質相:第2硬質相)は、1.0:2.0~1.0:2.7の範囲内であった。上記のXRD測定は、具体的には以下のような方法で行った。株式会社リガク製のX線回折装置RINT TTRIII(製品名)を用いて、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折を、下記条件で行い、上記の各面指数のピーク強度を測定した。ここで測定条件は、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/min、2θ測定範囲:20°~140°とした。
なお、第1硬質相及び第2硬質相は、サーメット焼結体の内部の断面組織のBSE観察像により特定した。
発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体について、第2硬質相の残留応力は、XRDを用いたsin2ψ法により測定した。立方晶結晶構造を有する第2硬質相の(422)面に由来する回折ピークを用いて評価した。当該ピークは、2θ-θ測定において、121.0°以上123.5°未満の位置に存在した。結果を表4に示す。
発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体について、結合相の残留応力は、XRDを用いたsin2ψ法により測定した。立方晶結晶構造を有する結合相に由来する回折ピークのうち、(311)面に由来する回折ピークを用いて評価した。当該ピークは、2θ-θ測定において、89.5°~93.0°の位置に存在した。結果を表4に示す。
発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体について、第1硬質相富化領域の厚みは、以下の方法で算出した。まず、サーメット焼結体表面に垂直な断面のBSE観察像において、サーメット焼結体表面から順に内側に向けて0.5μm間隔で、サーメット焼結体表面に平行な線分を引いた。当該線分の長さを100%としたとき、第1硬質相を横断する線分の割合が30%を下回る線分と、サーメット焼結体表面との最短距離を、第1硬質相富化領域の厚みとした。このとき、線分の長さは20μmとした。結果を表4に示す。
発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体について、表面結合相割合は、以下の方法で算出した。まず、EDSを用いて、サーメット焼結体表面より内側に向かって10μmの位置(表面部)、及びサーメット焼結体表面より500μm以上内側の位置(内部)において、Co、Ni及びFeの質量%を分析した。EDSによる分析は上記の分析位置を中心とし、10μm×10μmの領域の面分析で行った。表面部におけるCo、Ni及びFeの質量%の和を、内部におけるCo、Ni及びFeの質量%の和で除した値を、表面結合相割合とした。結果を表4に示す。
発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体について、表面窒素割合は、以下の方法で算出した。EDSを用いて、サーメット焼結体表面より内側に向かって10μmの位置において、N元素及びC元素の質量%を分析した。EDSによる分析は上記の分析位置を中心とし、10μm×10μmの領域の面分析で行った。N元素及びC元素の合計に対するN元素の比を、表面窒素割合とした。結果を表4に示す。
得られた発明品1~16及び比較品1~13のサーメット焼結体を用いて、切削試験1及び切削試験2を行った。切削試験1は耐欠損性を評価し、切削試験2は耐摩耗性及び耐塑性変形性を評価する試験である。切削試験1及び2の結果を表5に示した。
[切削試験1]
被削材:SCM415、
被削材形状:側面に、等間隔に2本の溝が入っている丸棒、
切削速度:200m/min、
切り込み深さ:1.0mm、
送り:0.15mm/rev.、
クーラント:Wet、
インサート:TNMG160404、
評価項目:工具の刃先が欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの衝撃回数を測定した。
[切削試験2]
被削材:S45C、
被削材形状:丸棒、
切削速度:250m/min、
切り込み深さ:1.0mm、
送り:0.20mm/rev.、
クーラント:Wet、
インサート:TNMG160404、
評価項目:工具の刃先が欠損に至ったとき、又は工具の逃げ面摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工時間を測定した。
なお、切削試験1の工具寿命までの衝撃回数について、20000回以上をA、15000回以上20000回未満をB、15000回未満をCとして評価した。また、切削試験2の工具寿命までの加工時間について、30分以上をA、25分以上30分未満をB、25分未満をCとして評価した。この評価では、(優)A>B>C(劣)という順位になり、Aを有するほど切削性能が優れる。
表5の結果より、発明品のサーメット焼結体はいずれも切削試験1及び2の両方でB以上の評価を有し、耐欠損性に優れると共に、耐摩耗性及び耐塑性変形性にも優れることがわかった。一方、比較品のサーメット焼結体は、切削試験1及び2の少なくとも一方がCの評価を有し、耐欠損性、耐摩耗性及び耐塑性変形性の少なくとも一つの性能に劣ることがわかった。以上のことから、発明品のサーメット焼結体は、比較品のサーメット焼結体よりも切削性能に優れ、工具寿命が長いことがわかった。
なお、比較品11のサーメット焼結体は、表面を多量に削り取ってしまったため、表面結合相割合が大きくなったと考えられる。そのため、比較品11のサーメット焼結体は、切削試験2において、切削性能に劣り、工具寿命が短くなったと考えられる。
比較品11よりも、表面結合相割合が小さくなるように第2昇温工程の温度、焼結工程の温度及び第1冷却工程の冷却速度の条件を調整すると、焼結体の変形が激しく、目的とする工具形状が得られないため、切削性能の評価ができなかった。