JP7776169B2 - 魚体の硬さ感維持時間の延長方法 - Google Patents

魚体の硬さ感維持時間の延長方法

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Description

本発明は、魚体の硬さ感維持時間の延長方法に関するものである。
魚類の生食文化である刺身食について、地域によっては〆直後の独特の生鮮度感(硬さ感または硬い食感)が重視されている。例えば、関東地区などでは「熟成時」に刺身を食べる文化があり、関西地区及び九州地区などでは〆直後の「硬さ感」のある時に食する文化がある。
すなわち、関東地区では〆後一定時間経過し、旨味成分であるIMP(イノシン酸)が生成された頃の比較的柔らかい食感の魚肉を濃口醤油で食するのに対し、関西地区や九州地区では硬さ感のある〆直後の食感が好まれ、硬さ感がある(IMPが乏しい)魚肉を旨味成分を多く含む溜醤油で食する文化がある。
ところで、魚肉の硬さ感の維持時間は比較的短いため、硬さ感のある刺身は限られた場所、例えば産地近辺や活魚輸送された魚を取り扱う店舗などでしか味わうことができない。
具体的には、生鮮度感(硬さ感)は、〆後魚体が完全硬直したとき(完全硬直時)にはすでに消失している。完全硬直しているため、一見、生鮮度感(硬さ感)は維持されていそうであるが、そうではない。
硬さ感の維持時間については明確に述べられた資料は少なく、魚種により大きく異なることが経験的に知られている。また、硬直度と食感の関係について述べている文献には、硬直度が進む過程で急速に破断強度が低下するとの報告はあるが、応用できる範囲は極めて限定されている。すなわち、〆後の筋肉の物性変化が詳細に数値化できないことから、その変化の中途に存在する硬さ感(硬い食感)の消失時期を読み取ることはできていないのが現状である。
例えば、硬直度(死後硬直の指標)としては、特許文献1に記載されるように、尾藤らによる方法(東海区水産研究所報告書1983年109巻89-96頁)により算出される硬直指数が一般的に用いられているが、この方法(尾藤法)を用いても硬さ感の消失時期を読み取ることはできない。
具体的には尾藤法は、図1に示すように、架台(水平台)にラウンド(丸魚)の半分を乗せ、体長終端を測定点とし、適宜な時間間隔(例えば1h間隔)で測定を行い、図1中の式で硬直指数(R)を算出するものである。図1中のDは死直後の測定値、Dはその後の測定値である。測定対象のラウンドは、ポリ袋に封入されて指定の温度保冷庫に水平状態で保管され、測定する際に都度、保管庫から取り出し、ポリ袋から取り出したラウンドを架台に乗せて測定を行う。
図2は尾藤法により養殖のハマチ、マダイ、ヒラメの硬直指数を測定した例である。図2のグラフからは、ハマチ、マダイ、ヒラメの硬直指数が100%となる時間(完全硬直時間)が、0℃保管で夫々9、16、28h程度であることは読み取ことができる。
しかし、この完全硬直時間到達以前に存在する硬さ感の消失時期をグラフから読み取ることはできない。また、尾藤法では、測定にあたり測定対象(検体)の保管、移動、設置等を都度行う必要があることから、誤差が生じる可能性が高い。
特開2004-159539号公報
本発明は、上述のような現状に鑑み、本発明者が見出した硬さ感の消失時期を読み取れる測定方法を用いて種々検討した結果完成したもので、魚体の硬さ感の維持時間を延長することが可能な、これまでにない魚体の硬さ感維持時間の延長方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨を説明する。
魚体の硬さ感維持時間の延長方法であって、
前記魚体の脊髄を破壊する脊髄破壊工程と、
前記脊髄破壊工程後、前記魚体を溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の水中に4時間以上収容する酸素水養生工程と、
前記酸素水養生工程後、前記魚体に二酸化炭素を用いた麻酔処理を行い前記水中から取り上げる取上工程と、
前記取上工程後、前記魚体の血管に過飽和酸素水を導入する灌流処理を施す灌流処理工程と、
を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項1記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を常温から6℃~9℃冷却する第一冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項2記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記第一冷却工程後、前記魚体を5℃~8℃まで冷却する第二冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項1記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項2記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項3記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項1~6いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上350%以下の水中に収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、魚体の硬さ感維持時間の延長方法であって、
前記魚体を二酸化炭素を所定濃度溶存させた水中に所定時間収容する麻酔工程と、
前記麻酔工程後、前記魚体を、二酸化炭素濃度が40mg/L~80mg/Lで溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の混合水中に4時間以上収容する混合水養生工程と、
前記混合水養生工程後、前記混合水中から取り上げる取上工程と、
前記取上工程後、前記魚体の血管に過飽和酸素水を導入する灌流処理を施す灌流処理工程と、
を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項8記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を常温から6℃~9℃冷却する第一冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項9記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記第一冷却工程後、前記魚体を5℃~8℃まで冷却する第二冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項8記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項9記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項10記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を、二酸化炭素濃度が50mg/L~70mg/Lで溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上350%以下の混合水中に収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記麻酔工程は、前記魚体を、二酸化炭素濃度が500mg/L~800mg/Lの水中に30秒~1分30秒収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項1~6、8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記灌流処理工程後、前記魚体を5℃~8℃で保持して輸送する輸送工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項1~6、8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記魚体はマダイであり、硬さ感維持時間を30時間以上とすることを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
また、請求項1~6、8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記魚体はブリであり、硬さ感維持時間を20時間以上とすることを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法に係るものである。
本発明は上述のようにするから、魚体の硬さ感の維持時間を延長することが可能な、これまでにない魚体の硬さ感維持時間の延長方法となる。
尾藤法の概略説明図である。 硬直指数の測定結果の例である。 準備工程の概略説明図である。 撮影工程の概略説明図である。 測定状態を示す写真である。 マダイの収縮度の測定結果を示すグラフである。 ブリの収縮度の測定結果を示すグラフである。 収縮度曲線の5つの曲線モデルを示す概略説明図である。 マダイの収縮度、硬度および硬さ感の測定結果を示すグラフである。 ブリの収縮度、硬度および硬さ感の測定結果を示すグラフである。 マダイの標準モデルを示すグラフである。 ブリの標準モデルを示すグラフである。 硬さ維持時間を延長したマダイの収縮度を示すグラフである。 硬さ維持時間を延長したブリの収縮度を示すグラフである。 別例により硬さ維持時間を延長したマダイの収縮度を示すグラフである。
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
魚体の脊髄を破壊した後、前記魚体を溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の高濃度酸素水中に4時間以上収容して養生し、養生した前記魚体に麻酔処理を行い水中から取り上げた後、前記魚体の血管に過飽和酸素水を導入する灌流処理を施すことで、硬さ感維持時間が延長された鮮魚を得ることができる。
また、魚体を高濃度二酸化炭素により麻痺させた後、前記魚体を二酸化炭素濃度が40mg/L~80mg/Lで溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の低濃度二酸化炭素と高濃度酸素の混合水中に4時間以上収容して養生し、養生した魚体を水中から取り上げた後、前記魚体の血管に過飽和酸素水を導入する灌流処理を施すことで、硬さ感維持時間が延長された鮮魚を得ることができる。
硬さ感維持時間を延長することで、コスト高となる活魚輸送方法を生鮮魚輸送(鮮魚流通)に変更することも可能となる。すなわち、活魚輸送と比較してコストが安価な鮮魚輸送により販路の拡大促進が期待でき、近年大きく叫ばれているCO排出削減にも寄与し、設定された時間内であれば国内はもちろん海外への販路拡大にも寄与することになる。
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
本実施例は、マダイやブリ等の魚体の硬さ感維持時間を延長する方法である。
具体的には、前記魚体の脊髄を破壊する脊髄破壊工程と、前記脊髄破壊工程後、前記魚体を溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の水中に4時間以上収容する酸素水養生工程と、前記酸素水養生工程後、前記魚体に麻酔処理を行い前記水中から取り上げる取上工程と、前記取上工程後、前記魚体の血管に過飽和酸素水を導入する灌流処理を施す灌流処理工程とを含むものである。
前記酸素水養生工程は、前記魚体を常温(20℃~28℃)から6℃~9℃(好ましくは8℃~9℃)冷却する第一冷却工程と、前記第一冷却工程後、前記魚体を5℃~8℃(好ましくは8℃)まで冷却する第二冷却工程のいずれか若しくは双方を含むこととしても良い。また、第二冷却工程は、1時間あたり2℃程度のペースでゆっくりと冷却するのが好ましい。
また、前記酸素水養生工程の収容時間は24時間以下とするのが好ましい。また、溶存酸素量は350%以下とするのが好ましい。
また、本実施例は、前記灌流処理工程後、前記魚体を5℃~8℃で保持して輸送する輸送工程を含む。
なお、本実施例による硬さ感維持時間を測定する方法としては、以下に示す硬直度測定方法を用いることができる。
硬直度測定方法は、前記魚体の頭部および尾部を切断し、半身の一方を除去して脊椎骨付きの片半身を準備する準備工程と、前記片半身を恒温室(インキュベータ 恒温器)内の載置部に、尾部側が垂れ下がるように載置する載置工程と、前記尾部側の垂れ下がり度合いを取得する垂れ下がり度合い取得工程と、前記垂れ下がり度合いを取得時間毎に記録する記録工程と、記録工程で記録した前記垂れ下がり度合いに基づいて硬直度曲線を作成する硬直度曲線作成工程とを含むものである。
垂れ下がり度合いを取得する手段としては種々の手段を採用できるが、本実施例においては、前記載置部に載置された前記片半身を撮影手段により一定位置から所定時間間隔で撮影する撮影工程をさらに含み、前記取得工程は、前記撮影工程で撮影された各画像から前記垂れ下がり度合いを取得するものとしている。前記撮影工程における撮影は1分以上60分以下の一定間隔で行う。
図3は準備工程の概略説明図であり、図4は載置工程および撮影工程の概略説明図である。図中、符号1は魚体、2は脊椎骨、3は神経棘、4a・4bは半身、5はマーカー、6はスケール(目盛りが上下方向に沿って段階的に記載された定規)、7は載置部としての架台、8は撮影手段としてのカメラである。
準備工程は、図3に図示したように、まず魚体1の頭部および尾部を切断し(図3(a)→(b))、少なくとも脊椎骨2を残して片半身4bを除去する(図3(b)→(c))。本実施例では脊椎骨2および神経棘3を残して片半身4bを除去している。なお、血管棘・肋骨等の他の骨部分は除去してもしなくてもよい。
また、尾部は体長終端位置(尾鰭の付け根)で切断し、尾部を切断することで露出した(最後端の)脊椎骨2にマーカー5を取り付ける(図3(c)→(d))。具体的には、露出した脊椎骨2の端面にドリルで穴を形成し、この穴にマーカー5の一端を挿入配設する。
なお、本実施例においてマーカー取付作業は、片半身4bの除去後に行っているが、除去前に行ってもよい。また、本実施例では頭部および尾部を切断後、片半身4bを除去しているが、頭部を切断した後、片半身4bを除去し、その後、尾部を切断しても良い。
載置工程においては、脊椎骨2および神経棘付き3の片半身4a(検体)をマーカー5がスケール6側となるように脊椎骨2を下にして架台7に載置し、脊椎骨2の頭部側を固定ネジ9等で架台7に固定する。架台7には片半身4aの尾部側が所定長さ(例えば100mm)はみ出すように乗せる。
撮影工程、取得工程、記録工程および硬直度曲線作成工程は次のように行われる。
カメラ8は恒温室の外部に設けられており、恒温室のガラス越しに片半身4aをマーカー5およびスケール6を含むように撮影する。撮影は上述のように一定間隔(たとえば10分毎)で行い、撮影した画像からマーカー5の先端の上下方向位置に対応するスケール6の目盛りが示す値(硬直度。以下、収縮度ともいう。)を手動若しくは自動で取得し(撮影された各画像のマーカー及び目盛りから垂れ下がり度合いを取得し)、撮影時間(取得時間)とその時の目盛りが示す値を手動若しくは自動でプロット(記録)して硬直度曲線を作成する。
得られた硬直度曲線からは、後述するプラトーを確認することができ、このプラトー終了時間を過ぎると急激に硬さ感が失われることから、少なくともプラトー終了時間までは硬さ感が維持されることが確認できた。よって、処理方法が異なる魚体の硬直度曲線を夫々確認することで、プラトー終了時間を延ばすことが可能な処理方法(硬さ感の維持時間を延長できる方法)を見出すことが可能となる。すなわち、同様の条件で養殖した同種魚類に対し、出荷前に同様の延長処理を施すことで従来より硬さ保持時間が延長された鮮魚を得ることも可能となる。
なお、本実施例においてはプラトー(Plateau)とは、硬直度曲線(以下、収縮度曲線ともいう。)において、時間変化に対して硬直度の増加変化が少ない一時的な停滞期を示す。
以上の方法(各工程)を採用した理由及び上記方法による作用効果を以下に説明する。
背景技術で述べたとおり、現状は、魚体の硬さ感の消失時期が不明であることから、主に活魚輸送によって生鮮度(硬さ感)の維持が図られている。活魚輸送は船、トラック輸送が主体であるがトラック輸送の場合、海水量に対し10~15%程度の輸送密度であり、コストが鮮魚輸送と比較し極めて高くなる。なお、日本国内の養殖現場は主として関西以南に集中している為、生鮮度に特化した活魚の消費地は産地である関西以南が主体である。
また、市場(消費市場)の仲買では、搬入業者、〆後の経過時間、魚体の柔軟度(しなしな感)、張り、爪先による触診、天然か養殖か等の情報を基準として、競り人の経験で価格が設定される。また、相対取引でもその大半は経験で価格が設定される。これらの価格設定の基準には、生鮮度(〆後食感の硬さ感またはコリコリ感)の保持時間に関連すると思われる情報も含まれている。しかし、生鮮度の保持時間を直接読み取れる情報はない。なお、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)で〆後10~16hで硬さ感が消失することが経験的に知られているが、これは代謝が低い魚種であるのが大きな理由であり、ブリ(Seriolaquinqueradiata)は代謝が活発な魚種であり〆後4~8hで硬さ感が消失するとされ、活魚輸送にも不向きであることから、その大半は締め後に氷詰として鮮魚出荷されている。すなわち、硬さ感のある養殖ブリを食することができる地域は限定される。但し、同類のブリ類であるカンパチは代謝が低いことから活魚輸送も行われている。
また、市場においては天然魚と養殖魚が存在するが、関西地区では天然魚が養殖魚より高く評価される傾向が強い。理由は天然魚の方が、生鮮度(硬さ)の保持時間が長い事に起因する。養殖魚が生鮮度の保持時間が短いのは、養殖魚の種苗は養殖が盛んになり始めた頃より選抜育種が進み、短期間で商品化できる成長度を優先した結果と思われる。その結果、養殖マダイではその大半が人工種苗であり、代謝度が高く天然マダイと比較し死後収縮は早く進み、生鮮度感(硬さ感)の低下も早く進行する。すなわち、養殖マダイ(Pagrus major)では〆後4~8hで硬さ感が消失することが経験的に知られており、硬さ感のある養殖マダイを食することができる地域は限定される。
魚体は、死後(〆後)一定時間経過すると完全収縮期(完全硬直期)に到達するが、完全硬直期には硬さ感は消失している。そこで、〆後(体液循環停止時 断頭後)から時間経過とともに進む魚体(体側筋)の物性変化の詳細を知ることができる手段を確立すべく、以下の方法により得られた硬直度曲線と食感(硬度 硬さ感)の相関が得られるか否かを検討した。
具体的には、尾藤法のような検体移動による誤差をなくすこと、無接触で解硬時まで詳細に測定できることを目的とし、以下の条件で測定することとした。
条件1:ラウンドの収縮変化が脊椎骨を中心に両骨格筋(体側筋)の収縮と重力により生じ、左右骨格筋同士が互いに干渉し合うことを想定し、(半身すなわち一方の体側筋を取り除いた)脊椎骨と神経棘をつけた皮付き半身の骨格筋の収縮変化を測定する。
条件2:皮付き半身の収縮変化観察は、恒温室内の架台に一度セットした後は窓を介して解硬まで、解窓せず無接触で画像観察する。
条件3:インターバル撮影機を用いることで測定間隔時間を最短10min程度まで短縮し微小な変化を検出できる測定間隔とする。
条件4:架台から垂れ下がる(架台からはみ出す)尾部側の長さを100mmと一定とし、先端にマーカー20mmを設置し測定はマーカーに対応するよう垂直のスケールを設置して行う。多数の予備試験を行った結果、測定単位は0.5mmとし、測定間隔は10minとすることが好ましいことが確認できた。
図3に示したように、検体は、体側筋が脊椎骨や神経棘位置で中央隔膜により遮られていることを利用して、左右に存在する体側筋の半分を除去することにより、収縮性がない脊椎骨や神経棘に半身の体側筋が結合した状態とする。これにより死後の体側筋の収縮は半身だけの変化が脊椎骨の湾曲変化に変換され(マーカー及びスケールを用いて)敏感に検出される状態となる。
検体は頭部および尾部を切断後、測定する側の体側筋に脊椎骨、神経棘を残して反対側の体側筋を取り除き、尾椎(尾の1椎体)に細い穴をドリルで作製し、この穴に先端が鋭いマーカーを挿入し、マーカー長(穴からの突出長)を20mmとし、検体は長時間測定中に体表乾燥による誤差を防ぐ目的でラップで包み乾燥を防止した。架台より垂れ下がる長さ(尾部側が架台からはみ出す長さ)は、100mmに統一する。これにより、複数の測定値の相互比較が可能となる。なお、スケールは垂直や分度器タイプのいずれでも構わないが、測定結果を比較するためには統一した測定方法を用いる必要がある。図5は測定状態を示す写真であり、図5では垂直にスケールを設置し、左右に2段の架台を設置し4検体を同時測定する状態を示した。
養殖マダイおよび養殖ブリの収縮度を上記方法を用いて測定した。マダイは800~1500g程度、ブリは4~6kg程度の検体を用いた。この場合、収縮幅は最大120mm程度であり、撮影画像をディスプレイ上に拡大する事で容易に収縮度(硬直度 スケールの目盛り)を読み取る事ができる事からスケール単位である0.5mm単位で読み取れるようになる。撮影には、インターバル撮影カメラやビデオカメラ等、定点観測可能で一定の時間間隔で連続的に撮影若しくは動画を撮影可能なものを用いることができる。測定間隔は自由に設定できるが検討した結果、各変化ポイントが明瞭化する10min間隔とした。
マダイの収縮度の測定結果を図6に、ブリの収縮度の測定結果を図7に示す。なお、測定時間は任意であるが50hとした。測定精度は0.5mmである。
測定開始時(0h)における目盛りの値を基準(0mm)とすると、収縮度はマダイの場合は-40~+110mm程度、ブリの場合は-30~120mm程度であった(マイナス値は基準よりマーカーが下がり、プラス値は基準よりマーカーが上がったことを示す。)。
測定結果より、マダイ、ブリともに、収縮度曲線(硬直度曲線)は生前の取り扱いに大きく依存していることがわかった。また、測定結果より、死後収縮の過程で、物性変化がどの時点で生ずるかが容易に推測できる結果が得られ、収縮度と尾藤法による完全硬直度とを比較すると、収縮度の方が、全体の筋節の収縮の程度が実数で表示され情報量が多いことから、収縮度を指標として時間経過とともに測定値および変化ポイントをデータベース化した。
収縮度については、従来の成書、文献等の記載では獣肉、畜肉について、伸張度が一定の状態を維持する段階(delay phase per-rigor)、伸張度が急速に低下する段階(rapid phase,onset of rigor)、伸張性が消失する段階(full rigor phase)(Bate-Smith & Bendall 1947)等が示されているが、弛緩について述べた文献は見当たらない。また、水産分野ではこれらの段階について述べられた文献は不明である。
そこで、上述の測定結果を整理し、マダイおよびブリにおいて、図8に示す5つの曲線モデル(パターン1~5)に集約し、以下のように変化ポイントが明瞭に読み取れる点(A~F)に段階名をつけた。
A:初期弛緩期
測定直後より弛緩を生じ、収縮に転じた後プラトーに進む段階。初期弛緩を生じない検体もある(パターン1)。
B:プラトー到達位置(プラトー到達時)
収縮度が停滞する(収縮度の増加変化量が小さい)部分であるプラトーに到達した位置。検体により停滞中に弛緩を生ずる場合もある(パターン2~5)。
C:プラトー終了位置(プラトー終了時 急速収縮開始位置)
急速収縮が発生する(急速収縮期が始まる)部分であるが、緩やかに発生する場合もある。ポイントが読みにくい場合もあるが、測定間隔を10mim程度とすれば計測は可能である。具体的には、プラトー到達以降、停滞状態から収縮が開始されるか(パターン1)、若しくはプラトー到達以降弛緩状態になった場合には、弛緩の中途で、収縮が開始される(パターン2~5)。この収縮が開始されたポイントをプラトー終了位置(P.E(Plateau End))とした。BからCの間がプラトー期、CからDの間が急速収縮期である。
D:完全収縮到達位置(完全硬直期)
急速収縮期が終了し、収縮度が変化しなくなる段階(完全硬直期 full rigor phase)が開始する部分。
E:解硬期到達位置
収縮度が変化しない状態から、弛緩(解硬)が始まる部分(解硬期が開始する部分)。
F:測定終了時
解硬が確認されたら測定を終了する。
マダイとブリではパターンの経過時間に差はあるが、いずれも同じ傾向の収縮パターンが示された。なお、マダイおよびブリに限らず他の魚種でも同様の収縮パターンとなることが推測される。すなわち、本実施例は、マダイ、ブリ類だけでなく、他の魚種にも応用することが可能である。
つぎに、収縮度と、プランジャー試験であるテクスチュロメーターを用いて測定した硬度(加圧力(KPa))と、試食による食感(硬さ感、コリコリ感)との相関を調べるための試験を行った。硬度試験(加圧力)の測定機および測定条件は下記のとおりである。
測定機 日本計測システム株式会TEX-100Nプランジャー(20mm径×12mm円筒)
測定条件 試験速度120mm/min、圧力深さ3mm、出力単位 KPa
また、検体については、上述の収縮度測定用の検体と同様に、脊椎骨付きの片半身を収縮度測定試験検体とし、硬度については測定毎に骨無し背身(収縮度検体である脊椎骨付きの片半身から取り除いた脊椎骨なし片半身の腹身側を除いた背身)を厚さ1cmの輪切りとし、1検体につき水平隔膜(腹身と背身を分ける隔膜)に沿って3ケ所(一部重複)を測定し平均値とした。測定の変位(圧力深さ)を3mmとすることで、硬度測定試験により検体が破壊されず、硬度測定後の検体を試食による食感試験に用いることとした。
試食による食感試験は、硬さの分布が均等になるように硬度測定後の試料を水平隔膜と平行に大凡三分割した帯状の試食用試料とし測定試験者(3人)で食感度(硬さ、コリコリ感)の有無を3択評価(3:硬い、2:やや硬い、1:柔らかい)とし、硬度測定後に食感試験を行い試食者の合計点を食感度試験とした。従って、合計評点は9点~3点の範囲値となる。
図9,10は試験結果を示すものであり、図9はマダイの収縮度、硬度および食感度(食感判定度)と、これらの多項式による近似線を示したものであり、図10はブリの収縮度、硬度および食感度と、これらの多項式による近似線を示したものである。
食感としては、硬さ感とコリコリ感の二つの食感が重要と考えられる。測定した硬度は硬さ感を表現するものと考えられるが、その測定変化を辿ることで、コリコリ感(破断力)も推測できるものと考え、測定した硬度の多項式による近似式をコリコリ感の予想線とした。
測定結果はマダイでは7ヶ所の測定点は経過時間(50時間)内で33~10KPaの変化量を示し、ブリでは8ヶ所の測定点は経過時間(42時間)内で54~19KPaの変化量を示した。したがって、マダイとブリでは測定硬度では差を生ずる。
近似線は各測定点の位置により大きな変化を生ずるが、近似線として表現するとマダイ、ブリ共にP.E後(急速収縮期)に急速に硬度が低下していることが分かる。
食感度試験結果では、食感の硬さは、プラトー終了時(P.E)までは大きな変化は見られず、一致して硬さについては3点であり3者合計値は9の評価である。プラトー終了時(P.E)後(急速収縮期)では一定時間は硬さを維持するが、その後の変化は緩やかなケースと急速に変化する場合があり、この時点での食味評価はばらつきを生じた。従って、P.Eが硬さの変化の起点となることが予想された。
同試験ではこのプラトー終了後(急速収縮期)の初期から時間経過と共に軟化が進み軟化の速度はブリの方がマダイよりも早く進む。この点は硬度測定点を多項式の近似線で示した場合、マダイよりブリの方が急激に変化している事から食感に合致していると判断した。試験は完全収縮期まで観察したが解硬期以降は更に軟化は進むものと推測された。
以上から、硬度及び食感度は、マダイ、ブリともに良好に一致するものと思われる結果を得た。収縮度曲線は、図6,7に示した通り、多様なパターンが存在するが、いずれも硬度(硬さ感)の消失開始時間はプラトー終了時(P.E)(急速収縮開始時期)で示されるものと推測される。
以上の各処理の結果、収縮度曲線中のP.Eまでは食感における硬さ感は持続する。さらにP.E以降、急速収縮期の初期の一定経過範囲時間まで硬さ感はある程度維持される。収縮度の測定ではモデルとして図8に示すパターン1~5を示したが、いずれの場合も、P.Eから完全収縮期の変化はその大半がシグモイド曲線を描くことから、プラトー終了時(急速収縮期)からの軟化の進行は最初に緩やかに進行し、その後急速に進行すると推測される。そのため、プラトーの終了時までは食感(硬さ感)は良好な状態を維持するが、以降は急速収縮の変化により軟化が進行するものと推測される。
上述の方法により硬さ感の消失時間を取得することが可能となり、この方法を用いて硬さ感維持時間を延長する方法を見出すべく種々の検討を行った。硬さ感維持時間を延長することが可能になれば、活魚輸送に頼らずとも鮮魚輸送によって、硬さ感のある養殖ブリ(日本国内養殖生産量1位)および養殖マダイ(日本国内養殖生産量2位)をより広い範囲で食することが可能となり、消費者の嗜好の幅を広げることが可能となる。すなわち、国内主要養殖魚であるブリ・マダイの硬さ感を活魚輸送を行わず鮮魚輸送で従来よりも長時間維持できるようになり、産地のみならず海外も含む広範囲の地域で〆直後にしか味わえなかった独特の食感を味わうことも可能となる。
プラトー終了位置(P.E)を延長する方法を検討すべく、まずマダイおよびブリの標準モデルを作成した。
マダイは、トラック籠輸送の検体を直接断頭し、搬入直後の検体とし、その他20尾(1.8~2.2kg)を事前に試験用に準備した隔離生簀付き3.5mの海上網生簀に放ち、その後給餌を開始し餌付いてから2週間飽食給餌を行い最終給餌翌日の検体を餌止め0日とし、その後餌止め5日目及び10日目の検体計4尾を標準モデルとした。養生期間の海水温は22~23℃で移行した。検体は養生生簀に同時設置した取上槽にゆっくり1尾毎に誘導隔離し他の検体のストレスにならないようにして、タモで取り上げその場所で即断頭処理を行い、取り上げストレスを最少にするように努めた。
各検体は、取り上げ直後に断頭し(上述の準備工程と同様の)脊椎骨付きの片半身とし、尾脊柱にドリルで穴を開け、1.5mm径30mm長の針の先端20mmを露出させるように挿入し、マーカーとした。検体は、頭部側を架台に乗せ尾部側端(尾部切断部位)から100mmがはみ出すようにし、マーカーがその先20mm突き出した状態で、水平に対応する垂直スケール値を読み取った。
以上の測定方法でマダイ標準モデルを測定した結果を図11に示す。
マダイの生鮮度(硬さ感)維持時間は一般的には〆後4~8時間程度と言われているが、図11に示す通り、トラック籠輸送直後の検体は、P.Eが1.8(h),24(mm)で急速収縮期に進行しているのに対し、給餌養生後の翌朝の検体(餌止め0日目)では9.67(h),29(mm)と延長されているが、P.Eの収縮度はP.Aの収縮度とほぼ同値である。更に餌止め5日目の検体では13.17(h),13(mm)及び餌止め10日目の検体では15(h),7.5(mm)とP.Eが延長され収縮度は低下している。従って、P.Eの範囲は1.8(h)~15(h)と広い。平均値9.91(h)を真鯛モデルのP.E値とした。偏差は大きく(5.14(h))、大半の収縮曲線はプラス値で推移した。共通した特徴はプラトー到達時(P.A)とプラトー終了時(P.E)は収縮度がほぼ同値である点であるが、餌止め10日目の検体で測定開始後7~8(h)に0.5(mm)及び0.5(mm)の計1(mm)の弛緩が見られた。
ブリの標準モデルは以下のとおりである。
餌止め期間4日の5.7~6.3kg/尾を連日活魚船搬入後、養生水槽22~23℃、18時間の飽和酸素水養生を行い、試験に供した。検体測定は、搬入後18時間後に毎回1尾ずつ養生時間を経た検体をタモ網で掬い、その場で断頭処理を行い、マダイ標準モデルと同様に、検体をマーカーが挿入された脊椎骨付きの片半身とし、架台に設置して測定を行った。ブリ標準モデル群の試験結果を図12に示す。大半の収縮曲線はプラス値で推移した。また、P.Eは8.14(h)、偏差値は4.25(h)とマダイと同様に大きなばらつきを示した。
以上の結果から、モデルP.E値は、マダイは9.91±5.04(h)、ブリは8.14±4.25(h)とした。
プラトー終了時間の延長原理について以下に説明する。
ATPは蓄積されたCr-Pよりエネルギーの供給を得て、P.E到達まで恒常値を維持する。血流停止後、筋漿中のATPが恒常値より減少すると、筋小胞体のCa++ポンプが作動しにくくなり、代謝維持のため放出され続けているCa++が筋漿に蓄積進行し、その結果、筋肉収縮が急激に進行する(急速収縮期に至る)。従って、P.Eの延長に必要なことは、より長時間に渡り、ATPの恒常値を維持させることによりCa++ポンプを活性化させ続けることである。具体的には、血流停止直後のCr-Pを最大量に、且つ魚肉の代謝(興奮度)を最少とすることでP.Eの延長は図られる。
興奮度を低下させ、かつATPの生成を助長させるための手段としては、後述する酸素水養生および酸素水灌流がある。具体的には、後述する脊髄穿孔処理後は、血流により組織間液から細胞に酸素が受動輸送で供給され、電子伝達系でATPは生成され続け、余剰のATPが生成された場合、Cr(クレアチン)はリン酸化により高エネルギー物質であるCr-P(クレアチンリン酸)としてエネルギーを貯蔵する。Cr-Pのエネルギー貯蔵量はATPの恒常値の3~10倍程度と言われている。酸素水養生の目的は、酸素による興奮度(代謝準位の合計)の低下とATPの生成を助長させることにある。また、酸素水灌流については、最終処理工程で、手早く酸素水灌流を行うことで、取り上げ時に生ずる興奮によって間腎線より分泌される興奮ホルモン(コルチゾン)が組織間液に到達する前に血液と共に体外に希釈排出され更に灌流水に溶解した酸素を組織間液に供給し、〆後でも暫くは細胞に酸素を供給する手段である。この酸素水灌流の灌流水に溶解する酸素量は物理溶解量を示すもので、血液中のHbに配位結合する酸素量に匹敵する大量の酸素を組織間液に届けることが可能となる。灌流酸素水の濃度は〆後における魚体細胞内の電子伝達系によるADP+Pi→ATPを促進するが、各恒常性が維持促進される範囲の高酸素濃度が望ましい。
また、脱血処理(断頭処理)により、血液流動が停止し、比較的短時間で組織間液中の酸素が消費されやがて、電子伝達系に続きTCA回路が停止するが、解糖系では無酸素状態でグリコーゲン分解により乳酸生成が進み僅かなATPが生成され続ける。そこで、筋小胞体のCa++ポンプの作動が持続すれば、死後の筋収縮は抑制され、死後収縮の延長に繋がると考えた。従って、解糖系に支障を生じないゆっくり変化する環境(興奮させない環境)を維持する必要がある。pHの低下(蛋白質分解酵素の活性化)は避けられないと思われるが、取り上げ時にCO麻酔処理を行うことで、解糖系酵素の働きを緩やかにし、最低pHの上昇安定化を図ることが必要と考えられる。
興奮の種類とその回復について以下に詳述する。
1.エネルギーレベルの回復(数時間)
エネルギー消失の主体は取り扱い時に生ずる遠心性神経の働きによる逃避運動のために大量のATPが消費されその結果Cr-Pが低下する。比較的短時間で回復するが、魚類の場合は特に、長時間のストレスにより生ずる異常興奮により制御機能が未発達なこともありCr-Pの減少の他、解糖系で生成された乳酸が蓄積するため、乳酸値の回復に時間が長くかかると、場合により恒常性の回復困難で死亡する場合がある。
2.ホルモンレベルの回復(24時間程度で衰退する)
取り扱い時の興奮により、魚類の場合、コルチゾン・アドレナリンが血中に放出され交感神経や細胞に作用し、長時間興奮を引き起こす。従って、収縮度試験結果のバラツキの大半は、分泌されたホルモンが主体と考えられる。
3.筋肉の収縮性タンパク質の回復(16時間~48時間)
過剰な運動により筋原繊維に破損を生ずる。
4.神経系の回復(数日~10日以上)
魚類の場合、閾値以下の刺激により慣れを学習し、取扱い易い魚体となるが、閾値以上の刺激を多数与えるとセロトニンの分泌により鋭敏化が進み、更に長期の刺激により長期記憶を生ずる。鋭敏化と長期記憶は異常興奮を引き起こし易く、いずれも加工時に神経伝達物質が多量に放出されることから、同加工処理には不向きとなる。
5.魚類の場合、養生水温上昇は代謝準位の上昇要因である。
以上の点を踏まえ、プラトー終了時間(硬さ感維持時間)を延長するためには以下の処理(1.~4.)が必要であると考えられる。
1.脊髄穿孔処理
脊髄穿孔処理は、魚体の脊髄の仙骨(神経束)が通っている場所を千枚通しやアイスピック等の鋭利な器具を用いて穿孔し破壊するもので、脊髄穿孔部位以降の求心性神経、遠心性神経及び自立系の交感神経を含む神経の伝導・伝達障害を生ずるが、呼吸中枢は正常であることから、代謝は低下し、従来の活魚輸送と比較し、より高密度の活魚輸送に用いられている技術である。
2.酸素水養生処理
本実施例では、脊髄穿孔処理により代謝順位(α)の低下を図り、その後、所定時間養生処理を行うことで血中に放出された興奮ホルモンの減少を促進するために行う。また、高濃度酸素水で養生することにより、魚体内に鰓呼吸で酸素を取り込ませ生成されたATPをCr-Pとして蓄積させることができる。この高濃度酸素水養生は、少なくとも養生時間の終了前3~4時間程度、溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200~350%(例えば溶存酸素濃度20mg/L~30mg/L程度)である水中に魚体を収容することで行う。これにより、pHの恒常値上限が7.45程度となる。なお溶存酸素量が400%以上では、血漿のpHは7.45以上の呼吸性アルカローシスを呈し、Hb(ヘモグロビン)より酸素乖離が進まず酸素の利用度は低下し、細胞では酸素不足に陥るため好ましくない。
酸素水養生処理は、魚体のストレスホルモンの状態によるが養生時間は4~24時間程度に設定する必要がある。この養生時間の設定は、生物特有の性質である慣れや鋭敏化に支配される部分であり、養殖魚の場合、産地からの輸送、水温、ストレスの種類等が複雑に作用することから、経験的に、把握する方法が実用的である。また、例外的に長時間のストレスを受けた魚体では、長期記憶により取扱い時の一瞬で鋭敏に反応が起こり、Cr-Pの大量消費が進み、ATP減少時に生ずる変化が促進されることから、これらの状態に陥らない魚体の取扱いが重要となる(長時間のストレスを受けた魚体は長期記憶の状態となり、回復するために長期間(10日以上)の養生が必要となる。)。
例えば、網生簀を1.2km/h以下で曳航する網生簀曳航輸送の場合は4時間程度、船輸送・トラック輸送の場合は24時間を目安に養生する。
また、酸素水養生時間中の取り上げ前の3~4時間に低温馴致処理を併用することにより、よりP.Eの延長が促進される。低温馴致処理は魚体が常温(水温と同程度か若干高い程度。20℃~28℃)より8~9℃程度低い温度となるように2~4時間程度で冷却することで行う(寒冷ショックを起こさない速度で一度に冷却を進めることで行う。)。更に必要に応じ、その後ゆっくりと8℃程度まで冷却(例えば1時間あたり2℃程度のペースで8℃程度まで冷却)することも可能である。
低温馴致処理は、例えば養生生簀内を可動フェンス等で区切り、区切った区画ごとに異なる水温に管理して、順次養生魚を各区画に移動させて(水温が高い区画から低い区画に移動させて)所定時間収容することなどで行うことができる。
3.取上処理
養生処理後の取り上げ時に重要な点は、取り上げ時のストレスを最小にする工夫が必要である。本実施例では、養生後の魚体は、呼吸中枢は正常であると共に、嗅覚、視覚、聴覚の一部、平衡受容器等も正常と思われることから、取り上げ時は興奮の閾値以下で取り上げる必要があり、興奮により血中に放出される前葉より放出される興奮ホルモンには注意が必要である。具体的には、二酸化炭素(炭酸ガス)を所定濃度溶存させた水中に所定時間収容する麻酔処理を施した上で取り上げる。なお、麻酔処理を施さず、取り上げ即断頭処理を行うこととしてもよいが、その後の酸素水灌流処理が困難となることから、麻酔処理を施すのが好ましい。
4.酸素水灌流処理
血流遮断後の組織間液中の酸素は細胞内に取り込まれ消費される為、比較的短時間で無酸素状態に至り、電子伝達系が停止し、続いてTCA回路も停止するが、適正な高酸素濃度の硬骨魚組成リンゲル液(灌流水)であれば、酸素補給の手段として細胞呼吸の持続時間が延長できる。本実施例では、取上後、酸素濃度を高めた灌流水(海水を水道水で3倍希釈し酸素を溶解させた過飽和酸素水。溶存酸素濃度20mg/L以上)を用いて2分以上酸素水灌流処理(魚体の動脈に灌流水を圧入して血液を導出する処理。同時に脱血も行われる。)を行い、組織間液中の酸素濃度を上昇させる。これにより、体液の流動停止後も間液中の物理溶解した酸素濃度が高くなり、受動輸送により酸素は細胞中に取り込まれてATPが生成され続けCr-P濃度が高濃度で維持される。また、酸素水灌流処理により、血液や血中並びに間液中に放出された興奮ホルモンが短時間で体外に希釈排出されると同時に赤血球に存在するカテプシンL等の蛋白質分解酵素群も排出され、肉質劣化が防止される。
灌流処理後は、鼻腔からピアノ線を用いて脳、延髄、脊髄を破壊し、塩分濃度2%程度で7℃~10℃の冷海水で30分以上保管することで魚体温を冷却し出荷準備とする。また、輸送温度は5~8℃程度を維持し、寒冷硬直温度帯を回避する。但し、完全収縮に到達したならば、すみやかに0℃保管とする。
上述の各処理を施した場合のマダイ及びブリの収縮度曲線を図13(マダイ),14(ブリ)に示す。図13,14から、標準モデルである図11,12よりP.Eが延長されたことが確認できた。図13,14では収縮度モデルは図8に示したパターン4若しくは5となった。プラトー到達時(P.A)からプラトー終了時(P.E)までの間隔が大幅に拡大したことにより、収縮度曲線の測定結果は標準モデルとは全く異なる曲線となった。特徴として、プラトー到達時(P.A)より弛緩が続く事例が多く出現しているが、これらの一部は解糖系より生成されるATPよりも代謝が下回り、弛緩が発生しているものと思われる。
これらの試験結果より、従来の生鮮魚では得られなかった食感(生鮮度感 硬さ感)を、魚体搬入時より、Cr-Pの増大策と代謝を最小化にする工程を組み合わせることにより、得ることが可能となることが確認できた。マダイでは図13より収縮度は全てマイナス値を示しP.Eは平均33.77±2.59(h)が安定して得られる結果となり、図11のP.E値(12.55h)と比較し、3倍程度の時間延長が図られ、硬さ感を30時間以上維持することが可能となる。
同様にブリも、図14の収縮度は一部マイナス値を示し、P.Eは26.45±3.14(h)以上に延長され、図12の平均値P.E値8.14±4.25(h)よりも収束度も向上し、マダイ同様に3倍程度の時間延長が図られ、硬さ感を20時間以上維持することが可能となる。
なお、本実施例は、プラトー終了時間(硬さ感維持時間)を延長するために上記1.~4.の処理を行っているが、別例として例えば、上記1.(脊髄穿孔処理)に替えて魚体を二酸化炭素(炭酸ガス)を所定濃度溶存させた水中に所定時間収容する麻酔処理を行い、上記2.(酸素水養生処理)の高濃度酸素水に替えて、二酸化炭素濃度が40mg/L~80mg/Lで溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の低濃度二酸化炭素と高濃度酸素の混合水を用いた処理を行うことでも、同様にプラトー終了時間を延長可能である。この場合、上記3.(取上処理)の麻酔処理は不要である(既に麻痺状態であるため)。
具体的には、魚体を二酸化炭素濃度が500mg/L~800mg/Lの高濃度二酸化炭素海水中に45秒~1分30秒程度(好ましくは1分程度)収容し(麻酔処理)、続いて、二酸化炭素濃度が40mg/L~80mg/L(好ましくは50mg/L~70mg/L)で溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%~350%(酸素濃度15mg/L~25mg/L)の低濃度二酸化炭素と高濃度酸素の混合海水中に4時間以上24時間以下収容し(混合水養生処理)、続いて、取上処理を行い、続いて、酸素水灌流処理を行うことで、プラトー終了時間を延長できる(特記しない点は本実施例と同様)。
上記別例により処理したマダイの収縮度を図15に示す。なお、溶存炭酸ガス濃度計は測定の都度校正を行った(測定器具はDKK-TOA社製CGP-31型を使用)。図15より、この場合も本実施例と同様にマダイの硬さ感を30時間以上維持することが可能となることが確認できる(P.Eは34.14±2.06(h))。
体側筋が最も瞬間的にATPを大量消費することから、脊髄穿孔に限らず、体側筋が動かない状態で呼吸運動が続けられる処理(上記麻酔処理)を行うことで、Cr-Pが最大となりコルチゾンを含む多数の興奮ホルモンを停止することができ、硬さ感維持時間を延長することができる。
上記別例においては、本実施例に比べて麻酔処理、混合水養生処理において海水中の二酸化炭素濃度のコントロールが必要となるが、脊髄穿孔処理を行う場合と比べて大量の魚体を短時間で養生工程に送ることが可能となる(脊髄穿孔は一匹毎に行う必要があり且つ正確に行うためには熟練を要するため)。
本実施例は上述のようにするから、硬さ感維持時間が延長された鮮魚を得ることができる。
硬さ感維持時間を延長することで、コスト高となる活魚輸送方法を生鮮魚輸送(鮮魚流通)に変更することも可能となる。すなわち、活魚輸送と比較してコストが安価な鮮魚輸送により販路の拡大促進が期待でき、近年大きく叫ばれているCO排出削減にも寄与し、設定された時間内であれば国内はもちろん海外への販路拡大にも寄与することになる。
また、生鮮魚として出荷する際、硬さ感を含む魚体の変化特徴等の情報を梱包箱等に記載すれば、消費者はこれらの情報を基にして最適な賞味時期を知ることができ、より嗜好性の高い顧客への提供が可能となる。
よって、本実施例は、魚体の硬さ感の維持時間を延長することが可能な、これまでにない硬さ感維持時間の延長方法となる。

Claims (18)

  1. 魚体の硬さ感維持時間の延長方法であって、
    前記魚体の脊髄を破壊する脊髄破壊工程と、
    前記脊髄破壊工程後、前記魚体を溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の水中に4時間以上収容する酸素水養生工程と、
    前記酸素水養生工程後、前記魚体に二酸化炭素を用いた麻酔処理を行い前記水中から取り上げる取上工程と、
    前記取上工程後、前記魚体の血管に過飽和酸素水を導入する灌流処理を施す灌流処理工程と、
    を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  2. 請求項1記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を常温から6℃~9℃冷却する第一冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  3. 請求項2記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記第一冷却工程後、前記魚体を5℃~8℃まで冷却する第二冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  4. 請求項1記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  5. 請求項2記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  6. 請求項3記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  7. 請求項1~6いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記酸素水養生工程は、前記魚体を溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上350%以下の水中に収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  8. 魚体の硬さ感維持時間の延長方法であって、
    前記魚体を二酸化炭素を所定濃度溶存させた水中に所定時間収容する麻酔工程と、
    前記麻酔工程後、前記魚体を、二酸化炭素濃度が40mg/L~80mg/Lで溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上の混合水中に4時間以上収容する混合水養生工程と、
    前記混合水養生工程後、前記混合水中から取り上げる取上工程と、
    前記取上工程後、前記魚体の血管に過飽和酸素水を導入する灌流処理を施す灌流処理工程と、
    を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  9. 請求項8記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を常温から6℃~9℃冷却する第一冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  10. 請求項9記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記第一冷却工程後、前記魚体を5℃~8℃まで冷却する第二冷却工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  11. 請求項8記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  12. 請求項9記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  13. 請求項10記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を4時間以上24時間以下収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  14. 請求項8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記混合水養生工程は、前記魚体を、二酸化炭素濃度が50mg/L~70mg/Lで溶存酸素量が飽和溶存酸素量に対して200%以上350%以下の混合水中に収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  15. 請求項8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記麻酔工程は、前記魚体を、二酸化炭素濃度が500mg/L~800mg/Lの水中に30秒~1分30秒収容することを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  16. 請求項1~6、8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記灌流処理工程後、前記魚体を5℃~8℃で保持して輸送する輸送工程を含むことを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  17. 請求項1~6、8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記魚体はマダイであり、硬さ感維持時間を30時間以上とすることを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
  18. 請求項1~6、8~13いずれか1項に記載の魚体の硬さ感維持時間の延長方法において、前記魚体はブリであり、硬さ感維持時間を20時間以上とすることを特徴とする魚体の硬さ感維持時間の延長方法。
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