以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[近赤外線吸収繊維]
本実施形態に係る近赤外線吸収繊維、繊維製品について、[1]近赤外線吸収粒子、[2]近赤外線吸収粒子の製造方法、[3]近赤外線吸収粒子分散液、[4]近赤外線吸収繊維、[5]近赤外線吸収繊維の製造方法、[6]繊維製品の順に説明する。
[1]近赤外線吸収粒子
後述するように、本実施形態の近赤外線吸収繊維は、近赤外線吸収粒子を含有する。そこで、近赤外線吸収粒子について最初に説明する。
近赤外線吸収粒子は、複合タングステン酸化物であるセシウムタングステン酸塩を含有する。なお、本実施形態の近赤外線吸収粒子はセシウムタングステン酸塩から構成することもできる。ただし、この場合でも不可避不純物を含有することを排除するものではない。
(1)セシウムタングステン酸塩について
セシウムタングステン酸塩(セシウムポリタングステート)は、斜方晶、菱面体晶、および立方晶から選択された1種類以上に変調した擬六方晶の結晶構造を有することができる。係るセシウムタングステン酸塩は、具体的には六方晶アルカリタングステンブロンズ構造を一部変形した擬六方晶構造の修正した斜方晶、菱面体晶、立方晶から選択された1種類以上の結晶構造を有することができる。
従来から、近赤外線吸収粒子として用いられているセシウム添加六方晶タングステンブロンズ粒子の透過色や光吸収は、その誘電関数虚部(ε2)およびバンド構造により規定される。
可視光線のエネルギー領域(1.6eV~3.3eV)において、セシウム添加六方晶タングステンブロンズ(以下Cs-HTBとも記載する)はバンドギャップが十分に大きくなっており、可視光線領域における光の吸収は基本的に抑制される。加えてタングステンのd-d軌道間電子遷移や酸素のp-p軌道間電子遷移などがFermi黄金律により禁制となるため電子遷移の確率が小さくなる。この両者の作用により、可視光線領域の波長ではε2が小さい値を取る。ε2は電子による光子の吸収を表わすため、ε2が可視光線領域の波長で小さければ可視光透過性が生ずる。しかしながら可視光線領域で波長が最も短い青波長の近傍では、バンド端遷移による吸収が存在し、また波長が最も長い赤波長の近傍では、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)吸収とポーラロニックな電子遷移吸収が存在することが最近明らかにされた(非特許文献1)。このため、それぞれ光透過性の制約を受ける。
上述の様にCs-HTBではバンドギャップが十分大きいためにバンド端遷移が青波長の光のエネルギー以上となり、青の透過性が生ずる。逆に赤波長の側では、Cs-HTBは伝導電子が多いためLSPR吸収とポーラロニック吸収が強くなり、その吸収の裾野が赤波長に及ぶため、赤の透過性が低くなる。従ってCs-HTBナノ粒子分散膜の透過色は、両者のバランスにより青く見えるのである。
すなわちCs-HTBの青系の透過色を中性化するためには、青側の吸収を強め、赤側の透過を強めればよい。
Cs-HTBの青側の吸収を強めることは、例えばバンド端遷移の吸収位置を低エネルギー側にシフトさせることで実現できる。バンド端遷移の吸収位置を低エネルギー側にシフトさせることは、Cs-HTBのバンドギャップを狭くすることに対応する。従ってバンドギャップがやや小さい材料の選択により実現することができる。
Cs-HTBの赤側の吸収を弱めることは、表面プラズモン共鳴電子の濃度やポーラロン束縛電子の濃度を低下させることにより、実現できる。
本発明の発明者らは、以上の考察に基づき、セシウム(Cs)、およびタングステン(W)を含む酸化物であるセシウムタングステン酸化物を種々検討し、第一原理計算によるバンド構造計算を併用しながら材料改善を進めた。その結果、従来の六方晶の結晶構造が、微細構造の変化によって斜方晶、菱面体晶、あるいは立方晶へ変調した擬六方晶構造をもつときに、バンド構造が変化し、また自由電子や束縛電子の量が変化して、色の変化をもたらすことを見出した。
ここで、斜方晶、菱面体晶、および立方晶から選択された1種類以上に変調した擬六方晶構造とは、六方晶のプリズム面または底面に、Csがリッチな面が規則的またはランダムに挿入されて変調を受けた擬六方晶を意味する。なお、Csがリッチな面とは、WやOが欠損した面と同義になる。また後述のようにO、OH、OH2、OH3イオンがCsサイトに置換可能であり、これらのイオンのプリズム面や底面への導入はCsと同様に擬六方晶構造への変調を促すことができる。
斜方晶、菱面体晶、および立方晶の結晶構造は、例えば電子回折により同定することができる。例えば、c軸方向を電子線入射方向とする場合、すなわち(0001)方向から電子線を入射させて観察する場合の回折スポットの対称性に留意することにより、区別することができる。
六方晶では(10-10)、(01-10)、(1-100)の3種類のプリズム面の回折スポットは入射スポットから逆格子面内で同一距離に現れる。すなわち、六方晶では同一の結晶面間隔を持つ。なお、上記同一距離には、電子回折スポット距離測定の誤差範囲において同一距離とみなせるものを含む。このため、六方晶では六方対称な、すなわち60°回転に対して不変な電子回折パターンとなる。
斜方晶では1種類のプリズム面スポットが他の2種類のプリズム面スポットよりも入射スポットに近い位置に現れる。すなわち、斜方晶では1種類のプリズム面のみが長い結晶面間隔を持つ。
菱面体晶では3種類のプリズム面スポットがそれぞれ異なる結晶面間隔を持つ。
立方晶では六方晶と同じ六方対称なパターンとなるが、他の晶帯軸方向からの観察により容易に立方対称性を同定できる。
擬六方晶は、XRD粉末パターンにおいては、斜方晶と六方晶の混合パターンや、菱面体晶と六方晶、立方晶と六方晶の混合パターンとみなされる場合が多いが、上記の面状格子欠陥が挿入されるために、回折ピークの位置や強度は僅かに変化する。
既述の斜方晶、菱面体晶、立方晶から選択された1種類以上に変調した擬六方晶の結晶構造を得る方法の一つとして、O、OH、OH2、OH3から選択された1種類以上の添加成分を添加する方法が挙げられる。このため、本実施形態の近赤外線吸収粒子は、セシウムタングステン酸塩が、O、OH、OH2、OH3から選択された1種類以上の添加成分を含有することが好ましい。
上記O、OH、OH2、OH3から選択された1種類以上の添加成分は、セシウムタングステン酸塩の結晶の、六方晶アルカリタングステンブロンズ構造を構成するWO6八面体が6つ揃って形成される六角形のc軸方向に貫通する六方トンネルに存在する六方ウィンドウ(window)、および六方キャビティ、該WO6八面体が3つ揃って形成される三角形の三方キャビティ(cavity)から選択された1種類以上の位置に存在することが好ましい。
六方トンネルには、サイズの大きい六方キャビティと六方ウィンドウの二つの空隙があるが、六方ウィンドウは、六方晶中で六方キャビティに次いで2番目に大きく、WO6八面体を構成する酸素6個に囲まれた空隙である。六方ウィンドウのc軸方向の上下は六方キャビティに配置したCsイオンに隣接する。三方キャビティは六方ウィンドウの次に大きい空隙であり、六方晶のc軸方向に貫通する。O、OH、OH2、OH3から選択された1種類以上は、Csを代替して六方キャビティに入ることもできるが、十分な量のCsがある場合や侵入水分が多い場合には六方ウィンドウに侵入する。場合によっては、六方ウィンドウ空隙と並行して底面の三方キャビティやプリズム面のキャビティに侵入し、またCsを置換する。上記添加成分を含有することで、底面やプリズム面に欠損面を生成するが、その際、結晶構造は六方晶から斜方晶や菱面体晶、さらに立方晶へシフトし、バンドギャップの狭小化や伝導帯電子濃度の減少が起こる。このため、擬六方晶の結晶構造を有するセシウムタングステン酸塩は、Cs-HTBと比較して、青側の吸収を強め、赤側の透過を強めることができ、青系の透過色を中性化できる。
この場合の斜方晶、菱面体晶、立方晶は、タングステンブロンズ六方晶に類似する原子配列をもつが六方晶とは対称性が異なる擬六方晶とみることも可能である。厳密性を避けて大雑把に描写すれば、六方晶の3種類あるプリズム面の一つの面にWとOが欠損した面を規則的またはランダムに挿入して六方対称性を崩したものがこの場合の斜方晶である。従って斜方晶では一つのプリズム面のみ面間隔が長い。これを利用して、斜方晶への変調は、例えば(0001)電子回折パターンにより容易に同定可能である。
六方晶の底面に余剰Csを受け入れる面、すなわちWとOが欠損した面を挿入すると共に、底面のc軸方向の積層を規則的に変位させて六方対称性を崩したものがこの場合の菱面体晶である。この場合の余剰Cs面は面上の変位と共に面に垂直方向の膨張を含むため、プリズム面間隔の変化とc軸格子定数の変化を伴う。従って菱面体晶ではプリズム面3面ともが異なる面間隔を持つ。これを利用して、菱面体晶への変調は、例えば(0001)電子回折パターンにより容易に同定可能である。
さらに菱面体の3軸が90度で交わる場合には立方晶となる。なお、係る立方晶はパイロクロア構造であり、典型組成としてはCsW2O6が挙げられる。
従って、上記の六方ウィンドウや、六方キャビティ、三方キャビティに相当する空隙は、斜方晶や菱面体晶や立方晶にも引き継がれている。このため、本実施形態の近赤外線吸収粒子が含有するセシウムタングステン酸塩における六方ウィンドウや、六方キャビティ、三方キャビティとは、斜方晶や、菱面体晶、立方晶(パイロクロア相)中の対応する空隙も含めて指すものとする。
以下、O、OH、OH2、OH3の置換または侵入できるサイトまたは空隙として、主に六方ウィンドウの場合を例に本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法の構成例を説明する。
六方ウィンドウにO、OH、OH2、OH3から選択された1種類以上が存在する斜方晶、菱面体晶、立方晶を得る方法の一つとして、セシウムタングステン酸塩を合成する際の結晶化時に飽和水蒸気中で結晶化させる方法が挙げられる。一般にCs-HTB構造では、Csのイオン半径は六方キャビティよりも少しだけ大きいため、Csは移動しづらい。従って、一旦六方晶に結晶化してしまうと、その後の熱処理などで六方ウィンドウに酸素原子等を拡散挿入させることは困難となる。そこで、セシウムタングステン酸塩が結晶化する前に、雰囲気を飽和水蒸気で充満させて、セシウムタングステン酸塩が結晶化すると同時に、水分子や、水分子に由来するOやOH、OH3イオンを六方ウィンドウに挿入する方法を考案した。このため、後述するように、本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法は、セシウムタングステン酸塩の結晶化近傍の加熱温度において水蒸気を導入し、水蒸気を含む雰囲気中で結晶化させる工程を有することが好ましい。上記工程を経て合成された近赤外線吸収粒子、および必要に応じてさらに還元雰囲気中で熱処理した近赤外線吸収粒子を用いて近赤外線吸収繊維を作製すると、近赤外線吸収効果は十分に保持しながら、色調から青っぽさを減少させることができる。すなわちニュートラルな色調にすることができる。
一方、一旦六方晶のセシウムタングステン酸塩の結晶を作製した後に、該セシウムタングステン酸塩を水蒸気雰囲気中で加熱しても、あるいは高温高湿環境で保持、加熱しても、上記透過色を中性化する効果は得られない。これは、Csのようなイオン半径が大きい元素は六方トンネルを介した酸素原子等の拡散を阻害するため、一旦六方晶に結晶化してしまうと、後の熱処理では空隙の六方ウィンドウになかなか酸素原子等を拡散できないからである。従って、上記水蒸気中の加熱処理は、合成時最初の結晶化時に行う必要がある。
結晶化時に水蒸気を含む雰囲気で加熱する場合、同時に水素ガスなどの還元性気体を混在させて還元性気体の雰囲気中で結晶化させることも可能である。また、一旦水蒸気雰囲気で結晶化させた結晶であれば、これを更に500℃以上950℃以下の高温で、水素ガスなどを含む還元性気体を含む雰囲気や、不活性気体の雰囲気等で、加熱処理を行なうことも可能である。いずれの場合も、透過色が中性化しかつ大きい近赤外線吸収効果を備えた近赤外線吸収粒子を得ることができる。500℃以上とすることで欠陥を含む斜方晶構造等の平衡原子位置への配列化が十分に進行し、近赤外線吸収効果が高められる。また、950℃以下とすることで、結晶構造変化のスピードを適切に保ち、容易に適切な結晶状態と電子状態に制御することができる。なお、上記加熱温度を950℃よりも高くし、例えば還元が行き過ぎるとWメタルやWO2などの低級酸化物が生成される場合があり、係る観点からも好ましくない。
最初の水蒸気加熱による結晶化時にO、OH、OH2、OH3が取り込まれることにより、六方晶から微視的に修正された斜方晶、菱面体晶、立方晶(パイロクロア相)から選択された1種類以上の結晶が形成される。これらを種々の還元度合いの異なる雰囲気で加熱処理することにより、格子欠陥の量や分布が異なる種々の斜方晶、菱面体晶、立方晶から選択された1種類以上の結晶構造が生成されるのである。
本実施形態の近赤外線吸収粒子が含有するセシウムタングステン酸塩は、Csや、W、Oの格子欠陥を有することができる。セシウムタングステン酸塩に、Cs、W、Oの格子欠陥が導入される理由を以下に説明する。
六方晶Cs0.33WO3付近の組成においては、結晶安定性は、結晶対称性の高さに由来する構造的な安定性と、各元素間の電荷授受が全体としての電荷中性性を生む電荷バランス上の安定性とが拮抗して決定される。例えば電荷中性の2Cs2O・11WO3=Cs4W11O35は熱力学的安定相と考えられるが、還元雰囲気で加熱すると容易に結晶対称性の高い六方晶Cs0.32WO3-yへ相変化する(非特許文献2)。Cs0.32WO3-yは結晶対称性の高い準安定構造であるが、他方Cs4W11O35は電荷バランス的に安定した組成である。しかしCs4W11O35は結晶内の原子配置においては対称性が悪く、例えばSolodovnikov(非特許文献3)のモデルにおいては、六方晶タングステンブロンズと同じWO6八面体の六方配列の中に、六方晶(1,1,-2,0)面(=斜方晶(010)面)に斜方晶単位胞のb/8ピッチでWとOが欠損した面が挿入されて、全体としては斜方晶になっている。すなわちCs、W、Oの欠陥は、結晶構造と電荷バランスとの両者を局所的に満足させるために必然的に導入されたものであり、実際に最近TEMやXRDで観察されている(非特許文献4)。
本実施形態の近赤外線吸収粒子において、Oや、OH、OH2、OH3が、六方ウィンドウや、六方キャビティ、三方キャビティに取り込まれた斜方晶や菱面体晶、立方晶では、局所的な電荷バランスが乱れるため、更に結晶微細構造が修正を受ける。すなわち水分に由来する成分の導入の過程でH+やH3O+が結晶中に導入されるが、これらのイオンは結晶中でCs+やW6+と競合するため、CsやWが欠損することにより局所的電荷中性を実現しようとする。その結果、CsやWの欠損を含む格子欠陥が導入されるのである。O、OH、OH2、OH3は、六方ウィンドウだけではなく、三方キャビティに侵入しても良い。さらに、OH2、OH3は、六方キャビティのアルカリ元素(Cs)に置換しても良く、また電荷中性のOH2が置換する場合は元々存在したアルカリイオン(Cs+)が出す電子が無くなるので、結晶の伝導帯電子は減少する。
上記のような斜方晶、菱面体晶、および立方晶から選択された1種類以上に変調した擬六方晶構造をもつセシウムタングステン酸塩の中で、優れた近赤外線吸収効果と可視光透過性を満足するものは、所定の組成を有する。
ここで、図1AにCs-W-Oを3頂点とする3元組成図10を示す。図1Bは、図1Aの3元組成図10のうち、CsWO3と、W2O3と、WO4を頂点とする領域11を拡大して示したものである。この図は熱力学的平衡相を示す状態図ではなく、この系の組成の広がりを示すための便宜的な組成図であることに注意が必要である。従ってCsWO3、W2O3、WO4などは便宜的に示した組成であり、これらが実際に得られる化合物であるかどうかに言及するものではない。
本実施形態の近赤外線吸収粒子が含有するセシウムタングステン酸塩は、一般式CsxWyOzで表わされ、Cs、W、Oを各頂点とする3元組成図中で、x=0.6y、z=2.5y、y=5x、およびCs2O:WO3=m:n(m、nは整数)の4本の直線に囲まれる領域内の組成を有することが好ましい。具体的には、図1A、図1Bに示した3元組成図のうち、x=0.6yを充足する直線12と、z=2.5yを充足する直線13と、y=5xを充足する直線14と、Cs2O:WO3=m:n(m、nは整数)を充足する直線15で囲まれた領域16内の組成であることが好ましい。なお、領域16は、上記直線12~直線15上の点も含む。また、Cs2O:WO3=m:n(m、nは整数)を充足する直線15は、図1Aに示すように、3元組成図10のうち、Cs2Oと、WO3との間を結ぶ直線である。
上記3元組成図のうち、x>0.6yの場合、セシウムタングステン酸塩は正方晶が主体の結晶構造となり、近赤外線吸収効果が消失する。また、z<2.5yの場合、セシウムタングステン酸塩は、六方晶をベースとした構造の中にWの低級酸化物が混じるようになり、近赤外線吸収効果と可視光透過性が著しく損なわれる。y>5xの場合、セシウムタングステン酸塩は、WO3が六方晶の下部組織に混合されたIntergrowthと呼ばれる結晶構造になり、近赤外線吸収効果は消失する。さらにCs2O:WO3が整数比となる直線15よりも右側のO-rich側へ入ると、近赤外線吸収効果は全く得られない。従って、セシウムタングステン酸塩は、既述の範囲を充足することが好ましい。
本実施形態の近赤外線吸収粒子が含有するセシウムタングステン酸塩は、セシウム、タングステン、酸素の各元素について欠陥を有することができるが、タングステンに対するセシウムの原子比率(x/y)は0.2以上0.6以下の範囲のいずれかとすることができる。すなわち、本実施形態の近赤外線吸収粒子は、セシウムタングステン酸塩の結晶を構成するCs、Wから選択された1種類以上の元素の一部に欠損があり、一般式CsxWyOzのxとyとが、0.2≦x/y≦0.6の関係を有することが好ましい。
セシウムとタングステンは結晶に電子を供給するので、x/yを0.2以上とすることで、近赤外線吸収機能を高めることができる。またx/yを0.2以上とすることで六方晶や、該六方晶が変調した結晶構造とすることができる。Csイオンは、x/yが0.33を超えて大きくなると六方キャビティには入りきらなくなって三方キャビティも占有しはじめ、プリズム面や底面に変調が起こるため、局所的には次第に斜方晶や菱面体晶、または立方晶パイロクロアの積層構造へと変化する。さらにx/yが0.6を超えると正方晶Cs2W3O10の結晶構造へ変化して、可視光透過性が著しく損なわれて有用性が低下する。
本実施形態の近赤外線吸収粒子は、六方晶セシウムタングステンブロンズ構造Cs0.33WO3を基準として、結晶を構成するWO6八面体の少なくともWの一部に欠損を有することができる。このW欠損は主として六方晶プリズム面や底面に面状欠陥として導入されるが、欠損面を挟む両側の原子列のイオン反発により面間隔の増加を伴うので、結晶対称性は六方晶から斜方晶や菱面体晶や立方晶へと変化する。
本実施形態の近赤外線吸収粒子は、六方晶アルカリタングステンブロンズ構造CsW3O9を基準として、セシウムタングステン酸塩の結晶を構成するWO6八面体のOの少なくとも一部に欠損を有することができる。このO欠損はランダムに導入され、欠損することにより局在電子を系に供給して近赤外線吸収機能を高めることができる。既知の六方晶タングステンブロンズCs0.32WO3-yにおいてはy=0.46または八面体を構成するOの全格子点の最大15%に及ぶことが知られている(非特許文献3)。欠損量が0.5を上回ると結晶が不安定となり、異相を生成して分解する。本実施形態の近赤外線吸収粒子が含有するセシウムタングステン酸塩CsxWyOzにおいては、最大z/y=2.5に相当する量のO欠損を含むことができる。ただし六方ウィンドウなどの空隙に余剰なO、OH、OH2、OH3が導入されるときには、化学分析で得られるOの同定値はこれらの余剰分を含むことに注意が必要である。
本実施形態の近赤外線吸収粒子が含有するセシウムタングステン酸塩は、Csの一部を添加元素により置換されていても良い。この場合、添加元素がNa、Tl、In、Li、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Gaから選択された1種類以上であることが好ましい。
上記これらの添加元素は電子供与性があり、CsサイトにあってW-O八面体骨格の伝導帯への電子供与を補助する。
(2)近赤外線吸収粒子の耐湿熱特性について
本実施形態の近赤外線吸収粒子は、セシウム添加六方晶タングステンブロンズに比較して、改善された耐湿熱性を示す。この効果は、本実施形態の近赤外線吸収粒子の一部がO、OH、OH2、OH3の侵入置換によって変調された斜方晶、菱面体晶、立方晶(パイロクロア相)から選択された1種類以上を含むことを考えれば、合理的な結果である。すなわち、セシウム添加六方晶タングステンブロンズの湿度劣化や水分劣化は、本質的にCsと水分子との置換反応であるが、酸素拡散の主要拡散経路である六方トンネルのキャビティもウィンドウもCs、O、OH、OH2、OH3で埋められている場合には、この置換反応は大きく減速されることになる。従って本実施形態の近赤外線吸収粒子においては、高湿な環境における近赤外線吸収機能の喪失を抑制するだけではなく、通常湿度における高温耐熱試験においても、大気中の水分を介した劣化反応を減速させるため、耐湿熱性の改善をもたらす。
(3)近赤外線吸収粒子の平均粒径について
本実施形態の近赤外線吸収粒子の平均粒径は特に限定されないが、0.1nm以上200nm以下であることが好ましい。これは、近赤外線吸収粒子の平均粒径を200nm以下とすることで、局在表面プラズモン共鳴がより顕著に発現されるため、近赤外線吸収特性を特に高めることができる、すなわち日射透過率を特に抑制できるからである。また、近赤外線吸収粒子の平均粒径を0.1nm以上とすることで、工業的に容易に製造することができるからである。また粒子径は近赤外線吸収繊維の色と密接に関係しており、ミー散乱が支配的な粒径範囲では、粒径が小さいほど可視光線領域の短波長の散乱が減少する。従って粒径を大きくすれば青い色調を抑制する作用があるが、平均粒径が200nmを超えると表面プラズモンの発生が抑制されてLSPR吸収が小さくなる。このため、近赤外線吸収粒子の平均粒径を200nm以下とすることで、ある程度のLSPR吸収を保ちつつ、近赤外線吸収繊維の色を、特にニュートラルな色調にできる。
また、近赤外線吸収粒子の平均粒径が200nm以下であれば、近赤外線吸収繊維を製造する際の紡糸や延伸などの工程時にフィルターへの目塞がりや糸切れ等の発生を防止できる。さらに、近赤外線吸収粒子の平均粒径を200nm以下とすることで、近赤外線吸収繊維の紡糸原料中に近赤外線吸収粒子を均一に混合、分散し易くできる。
ここで、近赤外線吸収粒子の平均粒径は、透過電子顕微鏡像から測定された複数の近赤外線吸収粒子のメジアン径や、分散液の動的光散乱法に基づく粒径測定装置で測定される分散粒径から知ることができる。
なお、特に可視光線領域の透明性を重視する用途に適用する場合には、さらに近赤外線吸収粒子による散乱低減を考慮することが好ましい。当該散乱低減を重視する場合には、近赤外線吸収粒子の平均粒径は30nm以下であることが特に好ましい。
平均粒径とは粒度分布における積算値50%での粒径を意味しており、本明細書において他の部分でも平均粒径は同じ意味を有している。平均粒径を算出するための粒度分布の測定方法としては、例えば透過電子顕微鏡を用いて粒子ごとの粒径の直接測定を用いることができる。また、平均粒径は、上述のように分散液の動的光散乱法に基づく粒径測定装置により測定することもできる。
(4)近赤外線吸収粒子の任意の構成について
近赤外線吸収粒子は、表面保護や、耐久性向上、酸化防止、耐水性向上などの目的で、表面処理を施しておくこともできる。表面処理の具体的な内容は特に限定されないが、例えば、図5に示すように、本実施形態の近赤外線吸収粒子は、近赤外線吸収粒子50の表面50Aに被覆51を有する形態とすることもできる。具体的には近赤外線吸収粒子50の表面を、Si、Ti、Zr、Al、Znから選択された1種類以上の原子を含む化合物の被覆51で被覆することができる。すなわち、近赤外線吸収粒子は、上記化合物による被覆を有することができる。この際Si、Ti、Zr、Al、Znから選択された1種類以上の原子を含む化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物等から選択された1種類以上が挙げられる。
なお、図5は、近赤外線吸収粒子の形態を模式的に示したに過ぎず、係る形態に限定されない。例えば近赤外線吸収粒子50は、球形ではなく不定形等であっても良い。被覆51は、近赤外線吸収粒子50の表面50Aを完全に覆う必要は無く、一部のみを覆うように配置してもよい。また、被覆51は、近赤外線吸収粒子50の表面50Aの場所によって、厚さが異なっていても良い。
[2]近赤外線吸収粒子の製造方法
次に本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法の一構成例を説明する。本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法によれば既述の近赤外線吸収粒子を製造できるため、説明は一部省略する。
近赤外線吸収粒子の製造方法は特に限定されず、既述の特性を充足する近赤外線吸収粒子を製造できる方法であれば特に限定されず用いることができる。ここでは、近赤外線吸収粒子の製造方法の一構成例について説明する。
(1)第1熱処理工程
本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
CsおよびWを含む化合物原料を、水蒸気を含む雰囲気、または水蒸気と還元性気体を含む雰囲気中、400℃以上650℃以下で加熱する第1熱処理工程。
第1熱処理工程では、400℃以上650℃以下で加熱することで、セシウムタングステン酸塩を結晶化することができる。
ただし、セシウムタングステン酸塩を擬六方晶とするため、セシウムタングステン酸塩が結晶化する時、すなわちWO6ユニットがCsと共に六方晶結晶を形成する時に、雰囲気中に水蒸気を十分含有することが好ましい。この結晶化過程において、Csは主として六方キャビティに取り込まれ、水分子もしくはその分解物であるOH3
+、OH-およびO2-は、主として六方ウィンドウに取り込まれる。組成中にCsまたは水分子が相対的に多い場合には、Csまたは水分子等は三方キャビティにも取り込まれる。
CsおよびWを含む化合物原料としては、Csを含む化合物原料とWを含む化合物原料との混合物を用いることができる。CsおよびWを含む化合物原料としては、Csと、Wとを含む材料であれば足り、例えばCs2CO3とWO3との混合物等を用いることができる。
ただし、上記第1熱処理工程の結晶化過程においては、結晶化中に水分子や、OH、O等を結晶内に取り込むことが目的である。このため、CsおよびWを含む化合物原料としては、すでに六方晶構造を形成しているセシウムタングステン酸化物、例えばnCs2O・mWO3(n、mは整数、3.6≦m/n≦9.0)の結晶粉末などは用いないことが好ましい。CsおよびWを含む化合物原料としては、例えばゾルゲル法や錯体重合法等のその他の方法を用いたセシウムタングステン酸塩、気相合成などによって得られた非平衡セシウムタングステン酸塩、熱プラズマ法による粉体や電子ビーム溶解による粉体なども、原料として用いないことが好ましい。すでに六方晶骨格構造を形成している原料では、Csが酸素原子等の拡散を阻害するため、水分子などが結晶中に取り込まれづらくなるからである。すなわち、六方晶構造を有するセシウムタングステン酸塩は、CsおよびWを含む化合物原料としては用いないことが好ましい。
第1熱処理工程の結晶化過程における水蒸気の供給は、例えば加熱炉中に過熱水蒸気を供給することで実現することが好ましい。過熱水蒸気とは、100℃で気化した飽和水蒸気に、さらに熱を加えて100℃以上の高温にした高エンタルピーの水蒸気のことであり、キャリアガスと共に供給しても良い。キャリアガスが不活性気体の場合は無酸素に近い状態の雰囲気を形成する。過熱水蒸気は結晶化が活発になる400℃以上で供給しても良いが、結晶化前の十分低温から供給することが好ましい。過熱水蒸気と不活性気体との混合ガス、あるいは過熱水蒸気と、不活性気体と、水素などの還元性気体との混合ガスで供給しても良い。還元性気体が混合される場合は、六方晶型結晶配列の速度が増加する傾向があり、同じ斜方晶や菱面体晶、立方晶でも微視的な欠陥構造が異なるものが得られる場合がある。
第1熱処理工程では、セシウムタングステン酸塩の結晶化の前や、結晶化の後においては、水蒸気を含まない雰囲気、例えば不活性雰囲気等で加熱を行ってもよい。
本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法は、さらに任意の工程を有することもできる。
(2)第2熱処理工程
本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法は、第1熱処理工程後、還元性気体を含む雰囲気中、500℃以上950℃以下の温度で加熱する第2熱処理工程を有することもできる。
第2熱処理工程は、例えば上記第1熱処理工程を経た材料粉末を、500℃以上950℃以下の温度で加熱還元する工程である。欠陥構造をもつ斜方晶、菱面体晶、立方晶のアニール安定化と共に、高温還元によってWO6八面体の酸素を一部除去する意味がある。八面体酸素の還元除去により、隣接するW原子に束縛電子が発生し、近赤外線吸収特性を高める構造的処理がなされる。
加熱還元処理を行う場合、還元性気体の気流下で行うことが好ましい。還元性気体としては、水素等の還元性気体と、窒素、アルゴン等から選択された1種類以上の不活性気体とを含む混合気体を用いることができる。また水蒸気雰囲気や真空雰囲気での加熱その他のマイルドな加熱、還元条件を併用しても良い。
第2熱処理工程は複数工程から構成することもでき、上記還元性気体の雰囲気での加熱後、さらに不活性気体の雰囲気中での加熱を実施することもできる。
また、第2熱処理工程において、WO6八面体の酸素の一部除去まで意図しない場合には、還元性気体を含む雰囲気に変えて、不活性気体の雰囲気中、上記温度範囲で加熱することもできる。すなわち、第2熱処理工程は、還元性気体を含む雰囲気または不活性気体の雰囲気中、500℃以上950℃以下の温度で加熱できる。
既述のように、本実施形態の近赤外線吸収粒子の製造方法は特に限定されるものではない。近赤外線吸収粒子の製造方法としては、欠陥微細構造を含む所定の構造とすることが可能な種々の方法を用いることができる。
近赤外線吸収粒子の製造方法は、水分子が共存する雰囲気中で、固相法、液相法、気相法でタングステン酸塩を合成する方法等を用いてもよい。
(3)粉砕工程
既述のように、近赤外線吸収粒子は微細化され、微粒子となっていることが好ましい。このため、近赤外線吸収粒子の製造方法においては、第1熱処理工程や、第2熱処理工程により得られた粉末を粉砕する粉砕工程を有することもできる。
粉砕し、微細化する具体的な手段は特に限定されず、機械的に粉砕することができる各種手段を用いることができる。機械的な粉砕方法としては、ジェットミルなどを用いる乾式の粉砕方法を用いることができる。また、後述する近赤外線吸収粒子分散液を得る過程で、溶媒中で機械的に粉砕してもよい。
必要に応じてさらに篩かけ等を行うこともできる。
(4)被覆工程
既述のように、近赤外線吸収粒子は、その表面をSi、Ti、Zr、Al、Znから選択された1種類以上の原子を含む化合物で被覆されていても良い。そこで、近赤外線吸収粒子の製造方法は、例えば近赤外線吸収粒子を、Si、Ti、Zr、Al、Znから選択された1種類以上の原子を含む化合物で被覆する被覆工程をさらに有することもできる。
被覆工程において、近赤外線吸収粒子の表面を被覆する具体的な条件は特に限定されない。例えば、被覆する近赤外線吸収粒子に対して、上記金属群から選択された1種類以上の金属を含むアルコキシド等を添加し、近赤外線吸収粒子の表面に被膜する被覆工程を有することもできる。
[3]近赤外線吸収粒子分散液
次に、本実施形態の近赤外線吸収粒子分散液の一構成例について説明する。
本実施形態の近赤外線吸収粒子分散液は、例えば後述する近赤外線吸収繊維を製造する際に用いることもできる。
本実施形態の近赤外線吸収粒子分散液は、既述の近赤外線吸収粒子と、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状可塑剤から選択された1種類以上である液状媒体と、を含むことができる。近赤外線吸収粒子分散液は、液状媒体に、近赤外線吸収粒子が分散された構成を有することが好ましい。
液状媒体としては、既述の様に、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状可塑剤から選択された1種類以上を用いることができる。
有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、エステル系、炭化水素系、グリコール系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジメチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶媒;3-メチルーメトキシ-プロピオネ一卜、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテ一卜、プロピレングリコールエチルエーテルアセテ一卜などのグリコール誘導体;フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセ卜アミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類等から選択された1種類以上を挙げることができる。
もっとも、これらの中でも極性の低い有機溶媒が好ましく、特に、イソプロピルアルコール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテー卜、酢酸n-ブチルなどがより好ましい。これらの有機溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
油脂としては例えば、アマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、アイソパー(登録商標) E、エクソール(登録商標) Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130(以上、エクソンモービル製)等の石油系溶剤から選択された1種類以上を用いることができる。
液状樹脂としては、例えば液状アクリル樹脂、液状エポキシ樹脂、液状ポリエステル樹脂、液状ウレタン樹脂等から選択された1種類以上を用いることができる。
液状可塑剤としては、例えばプラスチック用の液状可塑剤等を用いることができる。
近赤外線吸収粒子分散液が含有する成分は、上述の近赤外線吸収粒子、および液状媒体のみに限定されない。近赤外線吸収粒子分散液は、必要に応じてさらに任意の成分を添加、含有することもできる。
例えば、近赤外線吸収粒子分散液に必要に応じて酸やアルカリを添加して、当該分散液のpHを調整してもよい。
また、上述した近赤外線吸収粒子分散液中において、近赤外線吸収粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒径の粗大化を回避するために、各種の界面活性剤、カップリング剤等を分散剤として近赤外線吸収粒子分散液に添加することもできる。
当該界面活性剤、カップリング剤等の分散剤は用途に合わせて選定可能であるが、該分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、およびエポキシ基から選択された1種類以上を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、近赤外線吸収粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、例えば近赤外線吸収粒子を用いて成膜した赤外線遮蔽膜中においても近赤外線吸収粒子を均一に分散させる効果をもつ。該分散剤は、上記官能基(官能基群)から選択された1種類以上を分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。
好適に用いることができる市販の分散剤としては、日本ルーブリゾール(株)製SOLSPERSE3000、SOLSPERSE9000、SOLSPERSE11200、SOLSPERSE13000、SOLSPERSE13240、SOLSPERSE13650、SOLSPERSE13940、SOLSPERSE16000、SOLSPERSE17000、SOLSPERSE18000、SOLSPERSE20000、SOLSPERSE21000、SOLSPERSE24000SC、SOLSPERSE24000GR、SOLSPERSE26000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE28000、SOLSPERSE31845、SOLSPERSE32000、SOLSPERSE32500、SOLSPERSE32550、SOLSPERSE32600、SOLSPERSE33000、SOLSPERSE33500、SOLSPERSE34750、SOLSPERSE35100、SOLSPERSE35200、SOLSPERSE36600、SOLSPERSE37500、SOLSPERSE38500、SOLSPERSE39000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE53095、SOLSPERSE55000、SOLSPERSE56000、SOLSPERSE76500等;
ビックケミー・ジャパン(株)製Disperbyk-101、Disperbyk-103、Disperbyk-107、Disperbyk-108、Disperbyk-109、Disperbyk-110、Disperbyk-111、Disperbyk-112、Disperbyk-116、Disperbyk-130、Disperbyk-140、Disperbyk-142、Disperbyk-145、Disperbyk-154、Disperbyk-161、Disperbyk-162、Disperbyk-163、Disperbyk-164、Disperbyk-165、Disperbyk-166、Disperbyk-167、Disperbyk-168、Disperbyk-170、Disperbyk-171、Disperbyk-174、Disperbyk-180、Disperbyk-181、Disperbyk-182、Disperbyk-183、Disperbyk-184、Disperbyk-185、Disperbyk-190、Disperbyk-2000、Disperbyk-2001、Disperbyk-2020、Disperbyk-2025、Disperbyk-2050、Disperbyk-2070、Disperbyk-2095、Disperbyk-2150、Disperbyk-2155、Anti-Terra-U、Anti-Terra-203、Anti-Terra-204、BYK-P104、BYK-P104S、BYK-220S、BYK-6919等;
BASFジャパン(株)社製 EFKA4008、EFKA4046、EFKA404
7、EFKA4015、EFKA4020、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4060、EFKA4080、EFKA4300、EFKA4330、EFKA44
00、EFKA4401、EFKA4402、EFKA4403、EFKA4500、EFKA4510、EFKA4530、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA4800、EFKA5220、EFKA6230、JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL-JDX5050等;
味の素ファインテクノ(株)製アジスパーPB-711、アジスパーPB-821、アジスパーPB-822等から選択された1種類以上が、挙げられる。
近赤外線吸収粒子の液状媒体への分散処理方法は、近赤外線吸収粒子を液状媒体中へ分散できる方法であれば、特に限定されない。この際、近赤外線吸収粒子の平均粒径が200nm以下となるように分散できることが好ましく、0.1nm以上200nm以下となるように分散できることがより好ましい。これは、平均粒径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm以上780nm以下の可視光線領域の光の散乱が低減されるからである。係る光の散乱が低減される結果、例えば本実施形態の近赤外線吸収粒子分散液を用いて得られる、近赤外線吸収粒子が樹脂等に分散した近赤外線吸収粒子分散体が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できる。すなわち、平均粒径が200nm以下になると、光散乱は上記幾何学散乱もしくはミー散乱のモードが弱くなり、レイリー散乱モードになる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒径の6乗に比例するため、分散粒径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。そして、平均粒径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。
近赤外線吸収粒子の液状媒体への分散処理方法としては、例えば、ビーズミル、ポールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた分散処理方法が挙げられる。その中でも、媒体メディア(ビーズ、ポール、オタワサンド)を用いるビーズミル、ポールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体撹拌ミルで粉砕、分散させることが所望とする平均粒径とするために要する時間を短縮する観点から好ましい。媒体撹拌ミルを用いた粉砕-分散処理によって、近赤外線吸収粒子の液状媒体中への分散と同時に、近赤外線吸収粒子同士の衝突や媒体メディアの近赤外線吸収粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、近赤外線吸収粒子をより微粒子化して分散させることができる。すなわち、粉砕-分散処理される。
ところで、本実施形態の近赤外線吸収粒子分散液を用いて得られる、近赤外線吸収粒子が樹脂等の固体媒体中に分散した近赤外線吸収粒子分散体内の近赤外線吸収粒子の分散状態は、固体媒体への分散液の公知の添加方法を行う限り該分散液の近赤外線吸収粒子の平均粒径よりも凝集することはない。
そして、近赤外線吸収粒子の平均粒径が0.1nm以上200nm以下であれば、製造される近赤外線吸収粒子分散体やその成形体(板、シートなど)が、単調に透過率の減少した灰色系のものになってしまうことを回避できる。
本実施形態の近赤外線吸収粒子分散液中の近赤外線吸収粒子の含有量は特に限定されないが、例えば0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。これは近赤外線吸収粒子の含有量を0.01質量%以上とすることで十分な日射吸収率を発揮できるからである。また、80質量%以下とすることで、近赤外線吸収粒子を分散媒内に均一に分散させることができるからである。
[4]近赤外線吸収繊維
本実施形態に係る近赤外線吸収繊維について説明する。
図6に、本実施形態の近赤外線吸収繊維の模式図を示す。図6は、近赤外線吸収繊維60が有する繊維61の中心軸CAを通る面での断面図を模式的に示している。図6に示すように、本実施形態の近赤外線吸収繊維60は、繊維61と、繊維61の表面61Aおよび内部61Bから選択された1以上の箇所に配置された近赤外線吸収粒子62と、を含有する。なお、図6は模式的に示した図であり、繊維61の表面61Aおよび内部61Bの両方に近赤外線吸収粒子62を配置した例を示しているが、係る形態に限定されない。近赤外線吸収粒子62は、繊維61の表面61Aおよび内部61Bのいずれか一方にのみ配置されていても良い。また、図6において近赤外線吸収粒子62を球状の粒子として記載しているが、近赤外線吸収粒子62の形状は係る形態に限定されるものではなく、任意の形状を有することができる。
(1)近赤外線吸収粒子
本実施形態の近赤外線吸収繊維は、既述の近赤外線吸収粒子を含有できる。近赤外線吸収粒子については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
本実施形態の近赤外線吸収繊維が含有する近赤外線吸収粒子の量は特に限定されないが、近赤外線吸収粒子の単位重量あたりの近赤外線吸収能力は非常に高いので、ITOやATOと比較して、4~10分の1程度の使用量で同等の近赤外線吸収効果を発揮する。具体的には、本実施形態の近赤外線吸収繊維は、近赤外線吸収粒子を、例えば、繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下の割合で含有することが好ましい。さらに、近赤外線吸収繊維の重量や原料コストの観点から、本実施形態の近赤外線吸収繊維は、近赤外線吸収粒子を、繊維の固形分に対して0.005質量%以上50質量%以下の割合で含有することがより好ましい。
近赤外線吸収粒子を、繊維の固形分に対して0.001質量%以上の割合で含有することで、生地が薄くても十分な近赤外線吸収効果を得ることができる。また、近赤外線吸収粒子を、繊維の固形分に対して80質量%以下の割合で含有することで、紡糸する際に、フィルターへの目塞がりや糸切れ等による可紡性の低下を回避でき、50質量%以下であれば、さらに好ましい。また、近赤外線吸収粒子を、繊維の固形分に対して80質量%以下の割合で含有することで、近赤外線吸収粒子の含有量が少なくてすむので、繊維の物性を損なうことがない。
(2)繊維
繊維は、近赤外線吸収繊維の用途等に応じて各種選択可能であり、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維からなる繊維群から選択された1種類以上を含有できる。繊維は、単一種の繊維、混紡、合糸、および混繊による混合糸のいずれかとすることができる。このため、繊維は、上記繊維群から選択されたいずれかの繊維、上記繊維群から選択された1種類以上の繊維を含む混紡、上記繊維群から選択された1種類以上の繊維を含む合糸、または上記繊維群から選択された1種類以上の繊維を含む混繊による混合糸とすることができる。
近赤外線吸収粒子を容易に繊維内に含有させることや、保温持続性を考慮すると、繊維は合成繊維を含むことが好ましく、合成繊維から構成されていることがより好ましい。
(2-1)繊維の種類
(合成繊維)
合成繊維としては、例えばポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
ポリアミド系繊維としては、例えばナイロン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン610、ナイロン612、芳香族ナイロン、アラミド等が挙げられる。
アクリル系繊維としては、例えばポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-塩化ビニル共重合体、モダクリル等が挙げられる。
ポリエステル系繊維としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
ポリオレフィン系繊維としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等が挙げられる。
ポリビニルアルコール系繊維としては、例えばビニロン等が挙げられる。
ポリ塩化ビニリデン系繊維としては、例えばビニリデン等が挙げられる。
ポリ塩化ビニル系繊維としては、例えばポリ塩化ビニル等が挙げられる。
ポリエーテルエステル系繊維としては、例えばレクセ、サクセス等が挙げられる。
(半合成繊維)
半合成繊維としては、例えばセルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴム等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
セルロース系繊維としては、例えばアセテート、トリアセテート、酸化アセテート等が挙げられる。
タンパク質系繊維としては、例えばプロミックス等が挙げられる。
(天然繊維)
天然繊維としては、例えば植物繊維、動物繊維、鉱物繊維等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
植物繊維としては、例えば綿、カポック、亜麻、大麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻、羅布麻、やし、いぐさ、麦わら等が挙げられる。
動物繊維としては、例えば羊毛、やぎ毛、モヘヤ、カシミヤ、アルパカ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ等のウール、シルク、ダウン、フェザー等が挙げられる。
鉱物繊維としては、例えば石綿、アスベスト等が挙げられる。
(再生繊維)
再生繊維としては、例えばセルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
セルロース系繊維としては、例えばレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジック、銅アンモニアレーヨン等が挙げられる。
タンパク質系繊維としては、例えばカゼイン繊維、落花生タンパク繊維、とうもろこしタンパク繊維、大豆タンパク繊維、再生絹糸等が挙げられる。
(無機繊維)
無機繊維としては、例えば金属繊維、炭素繊維、けい酸塩繊維から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
金属繊維としては、例えば金属繊維、金糸、銀糸、耐熱合金繊維等が挙げられる。
けい酸塩繊維としては、例えばガラス繊維、鉱さい繊維、岩石繊維等が挙げられる。
(2-2)繊維の形状について
繊維の断面形状は、特に限定されないが、例えば、円形、三角形、中空状、偏平状、Y型、星型、芯鞘型等から選択された1種類以上が挙げられる。繊維の表面および内部から選択された1以上の箇所への近赤外線吸収粒子の含有は、種々の形態で可能であり、例えば、芯鞘型の場合、近赤外線吸収粒子を繊維の芯部に含有しても、鞘部に含有しても構わない。また、繊維の形状は、フィラメント(長繊維)であっても、ステープル(短繊維)であっても良い。
(3)添加剤
本実施形態の近赤外線吸収繊維は、当該繊維の性能を損なわない範囲内で、目的に応じて、酸化防止剤、難燃剤、消臭剤、防虫剤、抗菌剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有することもできる。
本実施形態の近赤外線吸収繊維は、遠赤外線を放射する能力を有する遠赤外線放射物質の粒子を含有することもできる。
遠赤外線放射物質の粒子は、繊維の表面および内部から選択された1以上の箇所に配置できる。
遠赤外線放射物質としては、例えば、ZrO2、SiO2、TiO2、Al2O3、MnO2、MgO、Fe2O3、CuO等の金属酸化物、ZrC、SiC、TiC等の炭化物、ZrN、Si3N4、AlN等の窒化物等から選択された1種類以上を用いることができる。
近赤外線吸収粒子が含有するセシウムタングステン酸塩は、波長0.3μm以上3μm以下の太陽光エネルギーを吸収する性質を持っており、特に波長0.9μm以上2.2μm以下の領域付近の近赤外領域を選択的に吸収して、熱に変換、もしくは再輻射する。一方、遠赤外線放射物質の粒子は、近赤外線吸収材料であるセシウムタングステン酸塩が吸収したエネルギーを受け取り、当該エネルギーを中・遠赤外線波長の熱エネルギーに転換、放射する能力を有している。例えば、ZrO2粒子は、セシウムタングステン酸塩が吸収したエネルギーを波長2μm以上20μm以下の熱エネルギーに転換、放射する。従って、当該遠赤外線を放射する能力を有する遠赤外線放射物質の粒子と、既述の近赤外線吸収粒子とが、繊維の内部や表面で共存することにより、近赤外線吸収粒子に吸収された太陽光エネルギーが繊維内部・表面で効率良く消費され、より効果的な保温がなされる。
遠赤外線放射物質の粒子の含有量は特に限定されないが、繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下であることが好ましい。0.001質量%以上の含有量であれば生地が薄くても十分な熱エネルギー放射効果を得ることができるからである。また、遠赤外線放射物質の上記含有割合を80質量%以下とすることで、近赤外線吸収繊維について、紡糸する際にフィルターへの目塞がりや糸切れ等により可紡性の低下をより確実に回避できるからである。
[5]近赤外線吸収繊維の製造方法
次に、本実施形態の近赤外線吸収繊維の製造方法について説明する。本実施形態の近赤外線吸収繊維の製造方法によれば、既述の近赤外線吸収繊維を製造できるため、既に説明した事項については説明を省略する。
本実施形態の近赤外線吸収繊維の製造方法は特に限定されず、例えば繊維の表面および内部から選択された1以上の箇所に近赤外線吸収粒子を配置する配置工程を有することができる。上記近赤外線吸収粒子としては既述の近赤外線吸収粒子を用いることができるため、ここでは説明を省略する。
上記配置工程において、繊維の表面および内部から選択された1以上の箇所へ、近赤外線吸収粒子を配置する方法は特に限定されない。
例えば、以下の(a)~(d)の方法が挙げられる。
(a)合成繊維の原料ポリマーへ、近赤外線吸収粒子を直接混合して紡糸する方法。
(b)予め原料ポリマーの一部へ近赤外線吸収粒子を高濃度に含有せしめたマスターバッチを製造し、これを紡糸時に所定の濃度に希釈調整してから紡糸する方法。
(c)近赤外線吸収粒子を、予め原料モノマーまたはオリゴマー溶液中に均一に分散させておき、この分散液を用いて目的とする原料ポリマーを合成すると同時に、近赤外線吸収粒子を均一に原料ポリマー中に分散せしめた後、紡糸する方法。
(d)予め紡糸して得られた繊維の表面へ、近赤外線吸収粒子を、結合剤などを用いて付着させる方法。
上記(a)の方法や、(b)の方法で用いるマスターバッチの製造方法について簡単に説明する。
マスターバッチの製造方法は特に限定されない。例えば、まず近赤外線吸収粒子分散液と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、混合機や、混練機を使用して、液状媒体等の溶媒を除去しながら均一に溶融混合する。係る操作により、熱可塑性樹脂に近赤外線吸収粒子を均一に分散した混合物を調製することができる。
なお、混合機としては、リボブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等が挙げられる。混練機としては、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。
近赤外線吸収粒子と、樹脂との混合物の製造方法は上記方法に限定されない。例えば近赤外線吸収粒子分散液を調製後、当該分散液の液状媒体等の溶媒を公知の方法で除去し、得られた粉末と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤と、を均一に溶融混合し、熱可塑性樹脂に近赤外線吸収粒子を均一に分散した混合物を製造しても良い。この他、近赤外線吸収粒子の粉末を、直接、熱可塑性樹脂へ添加し、均一に溶融混合する方法を用いることもできる。
上述した方法により得られた近赤外線吸収粒子と、熱可塑性樹脂との混合物を、べント式一軸もしくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することにより、近赤外線吸収粒子含有マスターバッチを得ることができる。
ここで、配置工程に適用できる上記(a)~(d)の方法について、具体的に例を挙げて説明する。
(a)の方法:例えば、繊維としてポリエステル繊維を用いる場合を例に説明する。
熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットに近赤外線吸収粒子分散液を添加し、ブレンダーで均一に混合した後、液状媒体等の溶媒を除去する。当該溶媒を除去した混合物を二軸押出機で溶融混練し、近赤外線吸収粒子含有マスターバッチを得る。この近赤外線吸収粒子含有マスターバッチを、樹脂の溶融温度付近で溶融混合し、例えば公知の各種方法に従って紡糸できる。なお、既述のように上記方法以外の方法以外により、マスターバッチを調製することもできる。
(b)の方法:(a)の方法で記載した方法等により、近赤外線吸収粒子含有マスターバッチを作製する。そして、該マスターバッチと、近赤外線吸収粒子無添加のポリエチレンテレフタレートよりなるマスターバッチの目的量とを、所望の混合比となるように、樹脂の溶融温度付近で溶融混合し、公知の方法に従って紡糸する。
(c)の方法:例えば、繊維としてウレタン繊維を用いる場合を例に説明する。
近赤外線吸収粒子を含有した高分子ジオールと有機ジイソシアネートとを、二軸押出機内で反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを合成した後、ここへ鎖伸長剤を反応させてポリウレタン溶液(原料ポリマー)を製造する。当該ポリウレタン溶液を公知の方法に従って紡糸する。
(d)の方法:例えば、天然繊維の表面に近赤外線吸収粒子を付着させる場合を例に説明する。
まず近赤外線吸収粒子と、アクリル、エポキシ、ウレタン、ポリエステルから選択された1種類以上のバインダー樹脂と、水などの溶媒と、を混合した処理液を調製する。
次に、調製された処理液に天然繊維を浸漬させるか、調製された処理液をパディング、印刷またはスプレー等により当該天然繊維へ含浸させ、乾燥する。これにより、当該天然繊維に近赤外線吸収粒子を付着させることができる。そして(d)の方法は、上述した天然繊維の他、半合成繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの混紡、合糸、混繊等のいずれにも適用することができる。
(a)~(d)の方法を実施する際、近赤外線吸収粒子を分散媒に分散する分散方法は特に限定されず、近赤外線吸収粒子を液体、すなわち分散媒中に均一分散させることができる方法であればいかなる方法でもよい。例えば、媒体撹拌ミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法が好適に適用できる。なお、近赤外線吸収粒子を分散媒に分散させたものとして既述の近赤外線吸収粒子分散液を用いることができる。
そして近赤外線吸収粒子の分散において、シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)の(220)面のXRDピーク強度の値を1としたとき、当該近赤外線吸収粒子のXRDピークトップ強度の比の値が0.13以上を担保出来るように、分散の工程条件を設定することが好ましい。このようにすることで、本実施形態に係る近赤外線吸収繊維が特に優れた光学的特性を発揮できる。
また、近赤外線吸収粒子の分散媒は特に限定されるものではなく、混合する繊維に合わせて選択可能であり、例えば、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、芳香族化合物などの一般的な各種有機溶媒や、水から選択された1種類以上を使用可能である。
さらに、近赤外線吸収粒子を繊維やその原料となるポリマーに付着、混合させる際には、近赤外線吸収粒子の分散液を、繊維やその原料となるポリマーに直接混合してもかまわない。また必要に応じて、近赤外線吸収粒子の分散液に酸やアルカリを添加してpHを調整しても良いし、近赤外線吸収粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することもできる。
以上に説明したように、本実施形態に係る近赤外線吸収繊維によれば、繊維の内部や表面に近赤外線吸収粒子を配置することにより、太陽光などからの近赤外線を効率良く吸収し、保温性に優れた繊維を提供できる。
また、本実施形態の近赤外線吸収繊維は、耐候性が良く透明性に優れ低コストであり、近赤外線吸収粒子がニュートラルな色調を有している。このため、本実施形態の近赤外線吸収繊維を用いた繊維製品の意匠性を損なうことがなく、補色や淡色に彩ることができ、強度や伸度などの繊維の基本的な物性を損なうことも回避できる。この結果、本実施形態に係る近赤外線吸収繊維は、保温性を必要とする防寒用衣料、スポーツ用衣料、ストッキング、カーテン等の繊維製品やその他産業用繊維製品等の種々の用途に使用することができ、補色や淡色へ彩ることができる。
本実施形態の近赤外線吸収繊維において、近赤外線吸収粒子は、繊維内部や表面に均一に含有されていることが好ましい。本実施形態の近赤外線吸収繊維が、近赤外線吸収粒子を、繊維内部や表面に均一に含有することで、近赤外線吸収粒子の含有量が少量の場合でも太陽光等に含まれる近赤外線を効率良く吸収し、保温性に優れた繊維を提供できる。
また、本実施形態の近赤外線吸収繊維において、近赤外線吸収粒子と、既述の遠赤外線放射物質の粒子とが、繊維内部や表面に均一に含有されていることが好ましい。本実施形態の近赤外線吸収繊維が、近赤外線吸収粒子と、既述の遠赤外線放射物質の粒子とを、繊維内部や表面に均一に含有することで、近赤外線吸収粒子の含有量が少量の場合でも、太陽光等に含まれる近赤外線を効率良く吸収、利用し、特に保温性に優れた繊維を提供できる。
なお、均一に含有するとは、近赤外線吸収粒子等が、繊維内部や表面において、凝集して塊になっていない状態で含有されていることを意味する。
[6]繊維製品
本実施形態の繊維製品は、既述の近赤外線吸収繊維を含有できる。本実施形態の繊維製品は、具体的には、既述の近赤外線吸収繊維を加工してなり、既述の近赤外線吸収繊維を含むことができる。なお、本実施形態の繊維製品は既述の近赤外線吸収繊維からなることもできる。
本実施形態の繊維製品は、耐候性が良く透明性に優れ低コストであり、近赤外線吸収粒子がニュートラルな色調を有している既述の近赤外線吸収繊維を含む。このため、繊維製品の意匠性を損なうことがなく、補色や淡色に彩ることができ、強度や伸度などの繊維の基本的な物性を損なうことも回避できる。
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
ここでまず以下の実施例、比較例における評価方法について説明する。
(化学分析)
得られた近赤外線吸収粒子の化学分析は、Csについては原子吸光分析(AAS)により、W(タングステン)についてはICP発光分光分析(ICP-OES)により行った。OについてはLECO社の軽元素分析装置(ON-836)を用いた。
(X線回折測定)
X線回折測定はSpectris社のX'Pert-PRO/MPD装置でCu-Kα線を用いて粉末XRD測定することで実施した。
[実施例1]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
炭酸セシウム(Cs2CO3)と三酸化タングステン(WO3)をモル比でCs2CO3:WO3=1:6の比率となるように、合計20gの量を秤量、混合、混練し、得られた混練物をカーボンボートに入れ、大気中、110℃で12時間乾燥した。これにより、CsおよびWを含む化合物原料であるセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を得た。
上記セシウムタングステン酸化物前駆体粉末をアルミナボートに載せて加熱マッフル炉内に配置し、体積比で過熱水蒸気:窒素ガス=50:50の混合ガスを流しながら、550℃まで昇温し、1時間保持した。なお、上記混合ガスを表1中では50%N2-50%過熱H2Oのように表記する。次に供給する気体を100体積%の窒素ガスに変えて、窒素ガスを流しながら、550℃で0.5時間保持後昇温し、800℃で1時間保持した。その後室温まで降温して、僅かに緑がかった白色の粉末を得た(第1熱処理工程)。
この白色粉末のX線粉末回折パターンは、Cs4W11O35(ICDD 00-51-1891)と同定された。
次に、この白色粉末をカーボンボートに入れて管状炉に配置し、1体積%H2-Ar気流中(表1中、1%H2-Arのように表記する)で昇温し、550℃で1h保持して還元した。次いで、供給する気体を100体積%のArガスに変えて、Arガスを流しながら550℃で30min保持した。続いて800℃まで昇温して1h加熱した後、室温まで降温して淡い水色の粉末Aを得た(第2熱処理工程)。
ここで得られた粉末AのXRD粉末パターンは、図2に示すように、主相が六方晶Cs0.32WO3で、第2相が斜方晶Cs4W11O35となるブロードな2相混合パターンを示した。粉末Aの化学分析により、モル比でCs/W比は0.33と得られた。他の成分の組成比は表2に示す。この場合のXRD粉末パターンは、六方晶Cs0.32WO3と斜方晶Cs4W11O35の両者の回折線が混在したものであったが、Cs4W11O35の回折線は、僅かに理想的な位置や強度からのズレが観察された。ICDDデータベースには、この回折パターンと完全に符合するデータは見つけられなかった。
この粉末を透過電子顕微鏡(日立ハイテク株式会社HF-2200)観察すると図4(A)に示すような微粒子40が観察された。各微粒子の結晶は、図4(B)の制限視野電子回折図形に示すように、六方晶と斜方晶の2相分離した混合組織ではなく、単相の組織として観察された。図4(B)に示した電子回折像は六方晶の[0001]晶帯に相当する図形であり、回折スポットには六方晶と見做した時の面指数が示されている。3方向の最近接回折スポットから対応する面間隔を求めると、(01-10)面間隔のみが3.88Åと他の2方向の値、3.48Åと3.43Åよりも有意に大きくなっており、正確な六方対称性からズレていた。なお、結晶学上、負の指数は数字の上にバーをつけることになっているが、記載の都合上、本明細書では数字の前にマイナスをつけている。
一方、図4(C)は、STEM-HAADF法(走査電子モードでの高角度散乱暗視野観察)で撮影した原子像である。HAADF法では原子番号が大きいほど、また投影方向での原子存在密度が大きいほど、明るく強い原子スポットが得られるので、[0001]晶帯の投影面情報と合わせると、像上の原子種が特定される。図4(C)で最も強いスポットはW原子であるが、(01-10)面に沿って並んでおり、六方晶では等価な(1-100)面や(10-10)面に沿っては同様な配列は見られない。図4(C)の(01-10)スポット方向にストリークが見られることから、(01-10)面のみに多くの面状欠陥(W、O欠損)が挿入されたことが分かるが、そのために(01-10)面の面間隔が増加したと解釈される。本来六方晶であれば60°で交わる(01-10)面、(1-100)面、(10-10)面にはほとんど欠陥が導入されず、(01-10)面のみに多くの面状欠陥が挿入されたことにより、六方対称性を失って斜方晶へ変調していることが分かる。図4(B)中の矢印41の規則スポットにより、このW欠損面はほぼ3.88Åの倍の周期で導入されている。以上のように、この近赤外線吸収粒子は斜方晶に変調した擬六方晶の結晶構造をもつセシウムタングステン酸塩の単結晶粒子であることが分かった。
さらに得られた近赤外線吸収粒子の粉体を、X線光電子分光(アルバック・ファイ製XPS-Versa Probe II)により25WのAl-KαX線を照射して励起された光電子を観察すると、530.45eV付近のO1sピークは、高エネルギー側に肩をもつことが分かった。532.80eV付近の成分はH2Oに起因すると見做してピーク分離した結果、多くのOH2が含まれることが分かった。また熱脱離分光分析により、加熱時500℃以上700℃以下の温度領域において、結晶からOHおよびOH2が排出されることが確認できた。これらの観察結果により、OHおよびOH2が粉末Aのセシウムタングステン酸塩に含有されること、また一軸方向に伸長した擬六方晶結晶中の空隙を考慮すると、六方トンネルのウィンドウ空隙に侵入したと推測される。過熱水蒸気中で結晶化したことにより、水とその分解物が結晶内に導入されたと考えられるが、その時に生成するH+やH3O+イオンが陽性のWイオンと競合し、Wイオンの一部脱離につながったと考えられる。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
作製した粉末Aを10質量%と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(以下「分散剤a」と略称する)10質量%と、溶媒としてトルエン80質量%とを秤量した。秤量したこれらの材料を0.3mm径のシリカビーズと共にガラス容器に入れ、ペイントシェーカーを用いて、1時間、分散・粉砕し、分散液Aを得た。
分散液Aからスプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、実施例1に係る近赤外線吸収粒子分散粉を得た。得られた近赤外線吸収粒子分散粉を、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットに添加し、ブレンダーで均一に混合した後、当該混合物を二軸押出機で溶融混練して押し出し、当該押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収成分である近赤外線吸収粒子を40質量%含有するマスターバッチを得た。
上記マスターバッチを溶融紡糸し、続いて延伸を行ない、実施例1に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸を製造した。なお、得られた近赤外線吸収繊維は、近赤外線吸収粒子をマスターバッチと同様に40質量%含む。得られた近赤外線吸収繊維は、ポリエチレンテレフタレート製の繊維と、該繊維の表面および内部に近赤外線吸収粒子が配置された構造を有している。以下の他の実施例で作製したポリエステルマルチフィラメント糸も同じ構造となっていた。
近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸に含まれる近赤外線吸収粒子の平均粒径を、透過電子顕微鏡像を用いた画像処理装置によって算出したところ、30nmであった。なお、各粒子の粒径は粒子の外接円の直径とし、100個の粒子について測定した各粒子の粒径の粒度分布におけるメジアン径として上記平均粒径を算出している。
得られたポリエステルマルチフィラメント糸を切断してポリエステルステープルを作製し、これを用いて紡績糸を製造した。そして、この紡績糸を用いて保温性を有する実施例1に係る繊維製品であるニット製品を得た。なお、作製されたニット製品試料の日射反射率は8%となるように調整した。ニット製品試料における日射反射率の8%への調整は、後述する実施例および比較例の全てで行った。
作製されたニット製品の分光特性を、日立製作所製の分光光度計を用いて波長200~2100nmの光の透過率および反射率により測定し、JIS A 5759(2019)に従って日射吸収率を算出した。当該日射吸収率は、日射吸収率(%)=100%-日射透過率(%)-日射反射率(%)から算出した。算出された日射吸収率は、51.1%であった。また、反射率からニット製品の色指数を算出したところ、L*=88、a*=-2、b*=9となり、ブルー色が非常に弱くニュートラルな色調であることが確認できた。
当該結果を表3に示す。また、表3には、後述する実施例2~14および比較例1、2で得られた結果についても併せて記載する。
次に、作製されたニット製品の生地裏面の温度上昇効果を、以下のようにして測定した。20℃、60%RH環境下において、太陽光線近似スペクトルランプ(セリック(株)製ソーラーシミュレータXL-03E50改)を、当該ニット製品の生地から30cmの距離より照射し、一定時間毎(0秒、30秒、60秒、180秒、360秒、600秒)の、当該生地裏面の温度を放射温度計(ミノルタ(株)製HT-11)にて測定した。
当該結果を表4に示す。また、表4には、後述する実施例2~14および比較例1、2で得られた結果についても併せて記載する。
[実施例2]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例1で作製したセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を、アルミナボートに載せて加熱マッフル炉内に配置し、100体積%の窒素ガスを流しながら150℃まで昇温した。ここで供給する気体を、過熱水蒸気と水素ガスと窒素ガスが体積比で50:1:49のガス(表1中、1%H2-49%N2-50%過熱H2Oのように表記する)に変えて、係る混合ガスを流しながら、550℃まで昇温し、1時間保持した。これをそのまま室温まで降温して、水色の粉末Bを得た(第1熱処理工程)。
この粉末のX線粉末回折パターンは、図2に示すように、ブロードな回折線を持ち、六方晶Cs0.32WO3が主相であるが、斜方晶Cs4W11O35とパイロクロア相(Cs2O)0.44W2O6相の回折線が異相として混合したパターンを示した。このパイロクロア相の回折線はブロードであり、反射位置もややずれていた。水由来のOや、OH、OH2、OH3がパイロクロアキャビティに取り込まれたものと考えられる。立方晶パイロクロア相の(111)面は、六方晶の底面と類似な六方対称性をもつ面であり、パイロクロアキャビティは、六方晶における六方キャビティや三方キャビティの空隙に相当する。他の実施例においてもXRD粉末パターンにはしばしばパイロクロア相の反射が少量混在する場合も観察された。
そして、この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置が一つだけ短く、また弱いストリークを伴っていた。従って六方晶がプリズム面欠陥によって変調された斜方晶であることが分かった。
粉末Bの化学分析は、Cs/W=0.32を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Bを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例3]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例2で得た水色の粉末Bを、カーボンボートに敷き詰め、1体積%H2-Arの気流中、550℃で2時間保持した。次に供給する気体を100体積%の窒素ガスに変えて、窒素ガスを流しながら550℃で0.5時間保持後、昇温し、800℃で1時間保持した。室温まで降温して、水色の粉末Cを得た(第2熱処理工程)。
粉末Cの化学分析により、物質量の比でCs/W比は0.31と得られた。他の成分の組成比は表2に示す。
粉末CのX線粉末回折パターンは、図2に示すように、実施例1、2と比較するとブロードな回折線を持ち、六方晶Cs0.32WO3と斜方晶Cs4W11O35の回折線が混合したパターンを示した。ただしCs4W11O35の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置が一つだけ短く、また弱いストリークを伴っていた。従って六方晶がプリズム面欠陥によって変調された斜方晶であることが分かった。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Cを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例4]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例2で得た淡い水色の粉末Bを、カーボンボートに敷き詰め、100体積%Arの気流中で昇温し、800℃で1時間保持した。その後室温まで降温して、水色の粉末Dを得た。
粉末DのX線粉末回折パターンは、図2に示すようにブロードな回折線を持ち、六方晶Cs0.32WO3と斜方晶Cs4W11O35の回折線が混合したパターンを示した。Cs4W11O35の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置が一つだけ短く、また弱いストリークを伴っていた。従って六方晶がプリズム面欠陥によって変調された斜方晶であることが分かった。
粉末Dの化学分析は、Cs/W=0.33を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Dを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例5]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例2で得た淡い水色の粉末Bを、カーボンボートに敷き詰め、100体積%Arの気流中で800℃まで昇温した。ここで、供給する気体を1体積%H2-Arに変え、係る気体の気流中、800℃で10分間保持した。その後室温まで降温して、水色の粉末Eを得た。
粉末EのX線粉末回折パターンは、図2に示すようにブロードな回折線を持ち、六方晶Cs0.32WO3と斜方晶Cs4W11O35の回折線が混合したパターンを示した。Cs4W11O35の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置が一つだけ短く、また弱いストリークを伴っていた。従って六方晶がプリズム面欠陥によって変調された斜方晶であることが分かった。
粉末Eの化学分析は、Cs/W=0.32を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Eを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例6]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例2で得た淡い水色の粉末Bを、カーボンボートに敷き詰め、1体積%H2-Arの気流中、500℃で30分間保持した。次に、供給する気体を100体積%窒素ガスに変えて、窒素ガスを流しながら、550℃で30分間保持後、さらに昇温して800℃で1時間保持した。その後室温まで降温して、水色の粉末Fを得た。
粉末FのX線粉末回折パターンは、図2に示すようにブロードな回折線を持ち、六方晶Cs0.32WO3と斜方晶Cs4W11O35の回折線が混合したパターンを示した。Cs4W11O35の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置が一つだけ短く、また弱いストリークを伴っていた。従って六方晶がプリズム面欠陥によって変調された斜方晶であることが分かった。
粉末Fの化学分析は、Cs/W=0.31を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Fを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例7]
炭酸セシウム(Cs2CO3)と三酸化タングステン(WO3)をモル比でCs2CO3:WO3=1:10の比率となるように、合計20gの量を秤量、混合、混練し、得られた混練物をカーボンボートに入れ、大気中、110℃で12h乾燥した。これにより、CsおよびWを含む化合物原料であるセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を得た。
そして、上記セシウムタングステン酸化物前駆体粉末を用いた以外は、実施例2と同様の条件で第1熱処理工程を行なった。
第1熱処理工程で得られた粉末をカーボンボートに敷き詰め、100体積%のArの気流中で800℃まで昇温した。そして、供給する気体を1体積%H2-Ar気流に変えて、係る気体を流しながら800℃で10分間保持後、室温まで降温して、水色の粉末Gを得た。
粉末GのX線粉末回折パターンは、ブロードな回折線を持ち、六方晶Cs0.20WO3(ICDD0-083-1333)と斜方晶Cs4W11O35の回折線が混合したパターンを示した。Cs4W11O35の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置が一つだけ短く、また弱いストリークを伴っていた。従って六方晶がプリズム面欠陥によって変調された斜方晶と同定された。
粉末Gの化学分析は、Cs/W=0.20を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Gを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例8]
炭酸セシウム(Cs2CO3)と三酸化タングステン(WO3)をモル比でCs2CO3:WO3=3:10の比率となるように、合計20gの量を秤量、混合、混練し、得られた混練物をカーボンボートに入れ、大気中、110℃で12h乾燥した。これにより、CsおよびWを含む化合物原料であるセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を得た。
そして、上記セシウムタングステン酸化物前駆体粉末を用いた以外は、実施例2と同様の条件で第1熱処理工程を行なった。
第1熱処理工程で得られた粉末をカーボンボートに敷き詰め、100体積%のArの気流中で800℃まで昇温した。そして、供給する気体を1体積%H2-Arに変えて、係る気体を流しながら800℃で10分間保持後、室温まで降温して、水色の粉末Hを得た。
粉末HのX線粉末回折パターンは、ブロードな回折線を持ち、菱面体晶Cs6W11O36やCs8.5W15O48が主相であり、これに六方晶Cs0.32WO3や正方晶Cs2W3O10の回折線が少し混合したパターンを示した。但しCs6W11O36、Cs8.5W15O48の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置は3つとも実験誤差範囲を超える相違が観察された。従って六方晶が底面欠陥によって変調された菱面体晶が主体となっていることが分かった。
粉末Hの化学分析は、Cs/W=0.59を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Hを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例9]
炭酸セシウム(Cs2CO3)と三酸化タングステン(WO3)をモル比でCs2CO3:WO3=2:11の比率となるように、合計20gの量を秤量、混合、混練し、得られた混練物をカーボンボートに入れ、大気中、110℃で12h乾燥した。これにより、CsおよびWを含む化合物原料であるセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を得た。
そして、上記セシウムタングステン酸化物前駆体粉末を用いた以外は、実施例2と同様の条件で第1熱処理工程を行ない、薄緑色の粉末Iを得た。
粉末IのX線粉末回折パターンは、図3に示すようにブロードな回折線を持ち、パイロクロア相(Cs2O)0.44W2O6が主相であり、これに六方晶Cs0.32WO3や斜方晶Cs4W11O35の回折線が少し混合したパターンを示した。但し(Cs2O)0.44W2O6とCs4W11O35の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末の透過電子顕微鏡観察では、立方晶の電子回折パターンが得られた。
粉末Iの化学分析は、Cs/W=0.36を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Iを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例10]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例9で作製した粉末Iを、カーボンボートに敷き詰め、100体積%のArガスを流しながら800℃まで昇温した。そして、供給する気体を1体積%H2-Arに変えて、係る気体を流しながら800℃で10分間保持後、室温まで降温して、水色の粉末Jを得た。
この粉末のX線粉末回折パターンは、図3に示すように、六方晶Cs0.32WO3、斜方晶Cs4W11O35、菱面体晶Cs6W11O36及びCs8.5W15O48の回折線が混合したパターンを示した。但しCs4W11O35、Cs6W11O36、Cs8.5W15O48の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置は3つとも実験誤差範囲を超える相違が観察された。従って六方晶が底面欠陥によって変調された菱面体晶が主体となっていることが分かった。
粉末Jの化学分析は、Cs/W=0.36を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Jを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例11]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例9で作製した粉末Iを、カーボンボートに敷き詰め、1体積%H2-Arの気流中、500℃で30分間保持した。そして、供給する気体を100体積%窒素ガスに変えて、係る窒素ガスを流しながら800℃で1時間保持後、室温まで降温して、水色の粉末Kを得た。
この粉末のX線粉末回折パターンは、図3に示すように、六方晶Cs0.32WO3、斜方晶Cs4W11O35、菱面体晶Cs6W11O36及びCs8.5W15O48の回折線が混合したパターンを示した。但しCs4W11O35、Cs6W11O36、Cs8.5W15O48の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置は3つとも実験誤差範囲を超える相違が観察された。従って六方晶が底面欠陥によって変調された菱面体晶が主体となっていることが分かった。
粉末Kの化学分析は、Cs/W=0.35を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Kを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例12]
炭酸セシウム(Cs2CO3)と三酸化タングステン(WO3)をモル比でCs2CO3:WO3=1:5の比率となるように、合計20gの量を秤量、混合、混練し、得られた混練物をカーボンボートに入れ、大気中、110℃で12h乾燥した。これにより、CsおよびWを含む化合物原料であるセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を得た。
そして、上記前駆体粉末をアルミナボートに載せて加熱マッフル炉内に配置し、100体積%の窒素ガスを流しながら150℃まで昇温した。ここで供給する気体を、過熱水蒸気と水素ガスと窒素ガスが体積比で50:1:49のガスに変えて、係る混合ガスを流しながら、550℃まで昇温し、1時間保持した。これをそのまま室温まで降温して、水色の粉末Lを得た(第1熱処理工程)。
粉末LのX線粉末回折パターンは、図3に示すようにブロードな回折線を持ち、パイロクロア相(Cs2O)0.44W2O6が主相であり、これに六方晶Cs0.32WO3や斜方晶Cs4W11O35の回折線が少し混合したパターンを示した。但し(Cs2O)0.44W2O6とCs4W11O35の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末の透過電子顕微鏡観察では、立方晶の電子回折パターンが得られた。
粉末Lの化学分析は、Cs/W=0.40を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維の製造、評価)
粉末Lを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例13]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例12で作製した粉末Lを、カーボンボートに敷き詰め、100体積%のArガスを流しながら800℃まで昇温した。そして、供給する気体を1体積%H2-Arに変えて、係る気体を流しながら800℃で10分間保持後、室温まで降温して、水色の粉末Mを得た。
この粉末のX線粉末回折パターンは、図3に示すように、六方晶Cs0.32WO3、斜方晶Cs4W11O35、菱面体晶Cs6W11O36及びCs8.5W15O48の回折線が混合したパターンを示した。但しCs4W11O35、Cs6W11O36、Cs8.5W15O48の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置は3つとも実験誤差範囲を超える相違が観察された。従って六方晶が底面欠陥によって変調された菱面体晶が主体となっていることが分かった。
粉末Mの化学分析は、Cs/W=0.42を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Mを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[実施例14]
実施例12で作製した粉末Lを、カーボンボートに敷き詰め、1体積%H2-Arの気流中、500℃で30分間保持した。そして、供給する気体を100体積%Arに変えて、係る気体を流しながら550℃で30分間保持後、さらに昇温して800℃で1時間保持後、室温まで降温して、水色の粉末Nを得た。
この粉末のX線粉末回折パターンは、図3に示すように、六方晶Cs0.32WO3、斜方晶Cs4W11O35、菱面体晶Cs6W11O36及びCs8.5W15O48の回折線が混合したパターンを示した。但しCs4W11O35、Cs6W11O36、Cs8.5W15O48の回折線位置と強度はICDDデータと完全には一致しなかった。
この粉末のうちの1粒子を(0001)方向から透過電子顕微鏡で観察したところ、電子回折像に現れるプリズム面スポットの位置は3つとも実験誤差範囲を超える相違が観察された。従って六方晶が底面欠陥によって変調された菱面体晶が主体となっていることが分かった。
粉末Nの化学分析は、Cs/W=0.42を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維、繊維製品の製造、評価)
粉末Nを用いた点以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[比較例1]
(近赤外線吸収粒子の製造、評価)
実施例1で得たセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を、カーボンボートに入れ、大気中、管状炉で、850℃まで加熱して20時間保持し、一旦室温まで降温して擂潰機で粉砕混合した。その後再度大気中850℃に加熱して20時間保持し、室温へ降温して、ごく薄く緑がかった白色粉末iを得た。この粉末iのX線粉末回折パターンは、図2に示すように、僅かにCs6W11O36が混じったが、ほぼCs4W11O35単相(ICDD 0-51-1891)と同定された。粉末iの化学分析は、Cs/W=0.36を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維の製造、評価)
実施例1に係る粉末Aの代わりに比較例1で得た白色粉末iを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
[比較例2]
実施例1で得たセシウムタングステン酸化物前駆体粉末を、カーボンボートに入れ、N2ガスをキャリアーとした1体積%H2ガス気流下、550℃で2時間保持し、その後100体積%N2気流に変えて1時間保持後800℃に昇温して1時間保持し、室温へ徐冷して粉末iiを得た。粉末iiの色は濃青色であった。この粉末iiのX線粉末回折パターンは、図2に示すように、Cs0.32WO3単相(ICDD 0-81-1244)と同定され、六方晶のセシウムタングステン酸化物である。粉末iiの化学分析は、Cs/W=0.34を示した。他の成分の組成比は表2に示す。
(近赤外線吸収繊維の製造、評価)
実施例1に係る粉末Aの代わりに比較例2で得た粉末iiを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る近赤外線吸収粒子分散粉、マスターバッチ、ポリエステルマルチフィラメント糸、ニット製品を得て評価した。当該評価結果を表3、4に示す。
実施例1~7で作製した粉末のXRD粉末パターンは、すべて六方晶Cs
0.32WO
3と斜方晶Cs
4W
11O
35の混相パターンを示したが、回折線の強度比や位置はICDDデータからのズレが観察され、不規則にプリズム面に面状欠陥が挿入された影響によると考えられる。(0001)電子回折パターンはプリズム面スポットのひとつが面間隔の増加を伴い、斜方晶への結晶構造の変調が確認された。また実施例8~14で作製した粉末のXRD粉末パターンには、すべて六方晶Cs
0.32WO
3と菱面体晶Cs
6W
11O
36、Cs
8.5W
15O
48またはパイロクロア相(Cs
2O)
0.44W
2O
6との混在が観察されたが、菱面体晶やパイロクロア相の回折線位置や強度分布はICDDデータからのズレが見られた。(0001)電子回折パターンはプリズム面スポット3種類とも面間隔の変化を伴い、菱面体晶への結晶構造の変調が確認された。またXRDでパイロクロア相のパターンを同定した粉末では、立方晶の電子回折パターンが確認された。すなわち実施例1~14で作製した粉末が含有するセシウムタングステン酸塩は、擬六方晶の結晶構造を有することが確認できた。
そして、所定の組成を充足するセシウムタングステン酸塩を含有する近赤外線吸収粒子を含む実施例1~実施例14で作製した近赤外線吸収繊維を用いた繊維製品は、いずれも色調b*がb*≧0の関係にあり、ブルー色が非常に弱くニュートラルな色調であることを確認できた。
これに対して、比較例1、比較例2の近赤外線吸収繊維が含有する近赤外線吸収粒子は、所定の組成を充足するセシウムタングステン酸化物を含有していない。
比較例1で作製した近赤外線吸収繊維を用いた繊維製品は、ニュートラルな色調を示すものの、日射吸収率が12.4%と低くかった。また、比較例1の繊維製品は、表4に示した太陽光線近似スペクトルランプにより光を照射した際の生地裏面の温度上昇も実施例1~実施例14の場合と比較して低くなることが確認できた。これは、比較例1で用いた近赤外線吸収繊維が含有する近赤外線吸収粒子の日射吸収率が低いためと考えられる。
また、比較例2で作製した近赤外線吸収繊維を用いた繊維製品は、色調b*がb*<0であり、青味が明確に認識されることが分かる。すなわち、ニュートラルな色調にならないことを確認できた。