JP7834482B2 - ジルコニウム錯体の合成方法 - Google Patents

ジルコニウム錯体の合成方法

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Description

本発明は、89Zrなどの放射性ジルコニウムとキレート剤との錯体を合成するジルコニウム錯体の合成方法に関する。
従来、放射性ジルコニウム(89Zr)は、高解像度、かつ78時間程度の中程度の半減期を有することから、医用イメージングに有効な放射性同位元素であることが知られている。放射性ジルコニウムの製造方法としては、イットリウム(Y)ターゲットに対して陽子線を照射する方法が知られている。陽子線を用いた製造方法においては、数時間の照射により数百ミリグラム(mg)単位のイットリウム中に、数GBq(質量として数十~数百ナノグラム(ng))単位の微量の放射性ジルコニウムが生成される。
一方、金属放射性核種の標識には、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸(1,4,7,10-Tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic Acid:DOTA)や、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリ酢酸(1,4,7-triazacyclononane-1,4,7-triacetic Acid:NOTA)、またはそれらの類似化合物がキレート剤として広く用いられている。DOTAやNOTAは、放射性銅(Cu)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、ルテチウム(Lu)、およびアクチニウム(Ac)などのほとんどの金属核種と錯形成する高い汎用性を有するキレート剤である。これまで、DOTAとジルコニウム(Zr)との錯体の形成は困難と考えられてきたが、95℃程度の高温で反応させることによって、錯体を形成可能であることが明らかになった(非特許文献1参照)。
特開2018-123372号公報
Zirconium tetraazamacrocycle complexes display extraordinary stability and provide a new strategy for zirconium-89-based radiopharmaceutical development, Chem. Sci. 2017, 8, 2309-2314. Evaluation of a chloride-based 89Zr isolation strategy using a tributyl phosphate (TBP)-functionalized extraction resin, Nucl. Bio. and Med.,2018, 64, 1-7.
しかしながら、放射性ジルコニウム(89Zr)とDOTAとを、十分な放射化学的収率を確保しつつ反応させるためには、DOTAの濃度を10-4mol/Lより高くする必要がある(非特許文献2参照)。なお、放射化学的収率とは、目的とする放射性化合物の収率を意味し、目的化合物の放射能を原料の放射能で除することで計算され、単に収率という場合もある。ところが、非特許文献2の開示に従ってDOTAの濃度を10-4mol/Lより高濃度にして放射性ジルコニウムと反応させても、ほとんどの放射性ジルコニウムが沈殿、または反応容器に付着して回収することができず、放射化学的収率が10%未満の低い収率になる場合があった。
さらに、PET(Positron Emission Tomography)に用いられる薬剤(以下、PET薬剤)は、投与量をマイクログラム(μg)オーダーの極めて微量にしたマイクロドーズが行われることが多い。そのため、10-4mol/L未満の10-5mol/L程度の低濃度のDOTAを構造中に含有する薬剤にも、放射性ジルコニウムを標識する需要は十分考えられる。この場合、DOTAと放射性ジルコニウムとは90%より高い反応率で結合させることが望ましい。ところが、従来技術による反応条件に基づいて10-5mol/Lよりも高濃度の10-4mol/L程度の濃度のDOTAと放射性ジルコニウムとを反応させても、放射化学的収率が略0%になるという問題があった。上述した問題は、NOTAにおいても同様に存在する。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、低濃度のDOTAやNOTAなどのキレート剤であっても、放射性ジルコニウムと高い反応率で反応させてジルコニウム錯体を合成できるジルコニウム錯体の合成方法を提供することにある。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、水混和性を有する有機溶媒と、一般式(1)または一般式(2)によって表される構造を含むキレート剤が溶解されたキレート剤溶液と、酸性溶液に溶解されたジルコニウムと、を混合した混合溶液を、所定温度以上にすることによりジルコニウム錯体を合成することを特徴とする。
(一般式(1)において、R1,R2,R3,R4はそれぞれ、水素(-H)(この場合、R5~R12のうちでさらに接続するものは存在しないとする)、-CH-基、-(CH2nCH-基、-N(=O)(CH2nNCH-基、または-(CH2nNC(=O)N-基である。前記nは0以上の整数である。R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,R20のうちの少なくとも2つは、カルボン酸、1級アミド、ヒドロキサム酸、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸、アルコール、アミン、フェノール、アニリン、また上記に置換基を付加した、エステル、2級アミド、ヒドロキサム酸、リン酸エステルから少なくとも2つ選ばれ、残りの置換基は、水素、アルキル鎖、tert-ブチル保護カルボン酸、ニトロベンゼン、または置換基付加アルキル鎖である。前記R5~R20に含まれる官能基には、PETプローブ、またはPETプローブを結合させやすくする官能基が付加されていてもよい。前記結合させやすくする官能基とは、カルボン酸、カルボン酸スクシンイミドエステル、カルボン酸テトラフルオロフェノールエステル、アルコール、アミン、チオール、イソチオシアネート、マレイミド、フェノール、アニリン、安息香酸、フェニルイソチオシアネート、または、クリックケミストリー試薬である、アルキン、アジド、DBCO、BCN、TCO、ノルボルネン、テトラジン、もしくはメチルテトラジンである。前記R5~R20は、前記結合させやすくする官能基の構造、またはPETプローブと前記結合させやすくする官能基との縮合済みの構造があってもよい。)
(一般式(2)において、R21,R22,R23はそれぞれ、水素(-H)(この場合、R24~R29のうちでさらに接続するものは存在しないとする)、-CH-基、-(CH2nCH-基、-N(=O)(CH2nNCH-基、または-(CH2nNC(=O)N-基である。前記nは0以上の整数である。R24,R25,R26,R27,R28,R29,R30,R31,R32,R33,R34,R35のうちの少なくとも2つは、カルボン酸、1級アミド、ヒドロキサム酸、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸、アルコール、アミン、フェノール、アニリン、また上記に置換基を付加した、エステル、2級アミド、ヒドロキサム酸、リン酸エステルから少なくとも2つ選ばれ、残りの置換基は、水素、アルキル鎖、tert-ブチル保護カルボン酸、ニトロベンゼン、または置換基付加アルキル鎖である。前記R24~R35に含まれる官能基には、PETプローブ、またはPETプローブを結合させやすくする官能基が付加されていてもよい。前記結合させやすくする官能基とは下記の官能基である。カルボン酸、カルボン酸スクシンイミドエステル、カルボン酸テトラフルオロフェノールエステル、アルコール、アミン、チオール、イソチオシアネート、マレイミド、フェノール、アニリン、安息香酸、フェニルイソチオシアネート、またはクリックケミストリー試薬である、アルキン、アジド、DBCO、BCN、TCO、ノルボルネン、テトラジン、もしくはメチルテトラジンである。前記R24~R35は、前記結合させやすくする官能基の構造、またはPETプローブと前記結合させやすくする官能基との縮合済みの構造があってもよい。)
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記有機物質は、メタノールまたはエタノールであることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記有機物質の双極子モーメントが3.0D未満であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記有機物質の濃度が40体積%以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、シュウ酸濃度を10-6mol/L以上10-4mol/L以下に調整することを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記所定温度が35℃以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記有機溶媒が金属除去剤によって精製された溶媒であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記酸性溶液は、塩酸であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記酸性溶液に溶解されたジルコニウムを、前記有機溶媒と前記キレート剤溶液とを混合した溶液に、前記所定温度以上に加熱する直前または前記加熱の後に混合させることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、上記の発明において、前記一般式(1)におけるR5~R20のうちの少なくとも1つ、または前記一般式(2)におけるR24~R35のうちの少なくとも1つが、化学式(16)~(21)、および(26)の群から選ばれた少なくとも1つの構造を経由して、分子プローブまたは分子プローブにリンカーを結合させたものであることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、この構成において、前記分子プローブは、タンパク質、ペプチド、または低分子有機化合物であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、この構成において、前記タンパク質または前記ペプチドは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、または前記天然アミノ酸と前記非天然アミノ酸との両方から構成され、直鎖構造または環状構造を有することを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウム錯体の合成方法は、この構成において、前記リンカーは、ポリエチレングリコール、アルキル鎖、もしくはピペラジン、またはそれらの複合体であることを特徴とする。
本発明に係るジルコニウム錯体の合成方法によれば、低濃度のDOTAやNOTAなどのキレート剤であっても、放射性ジルコニウムと高い放射化学的収率で反応させてジルコニウム錯体を合成することが可能となる。
図1は、シュウ酸がDOTA-89Zrの放射化学的収率に及ぼす影響をシュウ酸濃度に応じて示したグラフである。 図2は、シュウ酸が89Zr-DOTA含有PETプローブの放射化学的収率に及ぼす影響をシュウ酸濃度に応じて示したグラフである。 図3は、本発明の一実施形態による、ジルコニウムとDOTAとの反応を行うための具体的な方法の一例を説明するための図である。 図4は、比較例としての従来技術による、ジルコニウムとDOTAとの反応を行うための具体的な方法を説明するための図である。 図5は、本発明の一実施形態による、ジルコニウムの放射化学的収率の有機物質濃度依存性を示すグラフである。 図6は、本発明の一実施形態によるジルコニウム錯体の生成における、沈殿物の生成率、放射化学的純度、および放射化学的収率のメタノール濃度依存性を示すグラフである。 図7は、本発明の一実施形態によるジルコニウム錯体の生成における、沈殿物の生成率、放射化学的純度、および放射化学的収率のエタノール濃度依存性を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。まず、本発明の一実施形態を説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上記課題を解決するために行った実験および鋭意検討について説明する。
最初に、本発明者の鋭意検討の対象となる放射性ジルコニウム(以下、ジルコニウム、Zr、または89Zrとも記載する)と、以下の一般式(1)で表される化合物であるDOTAとの反応に関する、従来技術の問題点について説明する。
従来、以下の一般式(1)に示すDOTAは、多種の金属の放射性同位元素(RI:Radio Isotope)と容易に結合できることから、汎用のキレート剤として広く使用されている。さらに、多くの薬剤において、DOTA誘導体の合成方法が確立され、DOTAおよびその誘導体(例えばDOTAM、DOTP)の入手も容易である。
一般式(1)において、R1,R2,R3,R4はそれぞれ、水素(-H)(この場合、R5~R12のうちでさらに接続するものは存在しないとする)、-CH-基、-(CH2nCH-基、-(=O)(CH2n H-基、または-(CH2n (=O)N-基である。nは0以上の整数である。R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,R20 はそれぞれ、一般式(4)~(26)で表される構造から選択され、R 5 ~R 12 のうちの少なくとも2つは、前記一般式(4)~(21)で表される構造から選択され、前記一般式(16)~(21)、および(26)のRは、化学式(27)~(47)で表される構造から選択される。R5~R20に含まれる官能基には、PETプローブ、またはPETプローブを結合させやすくする官能基が付加されていてもよい。結合させやすくする官能基とは、カルボン酸、カルボン酸スクシンイミドエステル、カルボン酸テトラフルオロフェノールエステル、アルコール、アミン、チオール、イソチオシアネート、マレイミド、フェノール、アニリン、安息香酸、フェニルイソチオシアネート、または、クリックケミストリー試薬である、アルキン、アジド、DBCO、BCN、TCO、ノルボルネン、テトラジン、もしくはメチルテトラジンである。R5~R20は、結合させやすくする官能基の構造、またはPETプローブと結合させやすくする官能基との縮合済みの構造があってもよい。
また、上述した官能基からエステル結合、アミド結合などを介してさらに別の化合物が結合していたり、アルキル鎖から別化合物を保持するための分岐があったりしてもよい。具体的には、スクシンイミド、イソチオシアネート、アミン、チオール、カルボン酸などの架橋形成性の官能基や、アジド、アルケン、アルキン、テトラジンなどのクリックケミストリーを志向した官能基などが挙げられる。さらに、これらの架橋形成性の官能基をして分子イメージングに用いる薬剤が結合されていてもよい。
また、R1~R4はそれぞれ、以下の一般式(3)で表される構造を採用してもよく、具体的には化学式(3-1)~(3-4)で表された構造から選択されたものを採用できる。なお、化学式(3-2)~(3-4)におけるnは、0以上の整数である。
5~R20はそれぞれ、以下の一般式(4)~(21)で表される構造から選択されたものを採用できる。なお、一般式(4)~(21)におけるnは、0以上の整数である。一般式(4)~(21)は金属の配位結合しやすい官能基である。なお、R5~R12のうちの少なくとも2つは、一般式(4)~(21)で表される構造から選択することが好ましい。R5~R20はそれぞれ、以下の一般式(22)~(26)で表される構造から選択されたものを採用できる。なお、一般式(22)~(26)で表される構造は、金属イオンと錯体を形成しないか、または形成しにくい構造である。また、一般式(1)におけるR1~R16のいずれかが、上述した化学式(16)~(26)の群から選ばれた少なくとも1つの構造を経由して、分子プローブを結合または分子プローブにリンカーを結合させたものであってもよい。
また、DOTAまたはDOTAの誘導体と、分子イメージング実験の対象となる抗体、タンパク質、ペプチド、または低分子有機化合物などの薬剤との複合体も用いることができる。タンパク質やペプチドは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、または天然アミノ酸と非天然アミノ酸との両方から構成され、直鎖構造または環状構造を有するものを採用できる。具体的に、DOTAの構造中のカルボン酸の1つをアミド化して薬剤と架橋させる方法や、DOTAの構造中の環状アルキル鎖から架橋させたものなどで得られる物質も知られている。DOTAと薬剤との間に、例えばポリエチレングリコールなどの適切なリンカーを介して結合させる場合もある。具体的には、抗体のような高分子医薬品やPSMA-617のような低分子医薬品にも利用されている。リンカーは、典型的には、ポリエチレングリコール、アルキル鎖、もしくはピペラジン、またはポリエチレングリコール、アルキル鎖、もしくはピペラジンの複合体であるが、必ずしもこれに限定されない。本発明において、結合の対象となる物質はDOTAに限定されず、その誘導体や薬剤との複合体も含む。すなわち、上述した一般式(16)~(21)、および(26)のそれぞれにおいてRは、以下の化学式(27)~(47)で表される構造から選択されたものを採用できる。Rに薬剤を結合させてからDOTA構造に89Zrを錯形成させてもよく、89Zrを錯形成させてからRに薬剤を結合させてもよい。
一方、上述したように、89Zrは、半減期の長さが適切であって、高解像度であることから、医用イメージングでの使用に極めて好適な核種である。従来、89Zrの標識に用いるキレート剤としては例えば、以下の化学式(100)に示すデフェロキサミン(DFO:deferoxamine)が使用されていた。DFOは、Zr以外とは結合力が弱く、実質的に放射性ジルコニウムの専用のキレート剤であるため、汎用性に乏しく、他核種のイメージングと兼用できないという問題があった。これにより、DFOとPETプローブとの複合体は、89Zrイメージングのためにのみに合成する必要があり、合成のコストが増加する問題が生じる。また、DFOは、Zrとの結合においても結合力が十分でなく、分子イメージングにおいて生体内で放射性ジルコニウムが薬剤から脱離するなどの問題があった。
そこで、上述したキレート剤としてのDOTAと89Zrとを用いる方法が種々検討されている。89ZrとDOTAとを結合させると、結合自体が強固であることから、PETなどの医用イメージングを行う際に人間の体内において、89Zrがキレート剤から脱離しにくくなり、画像品質を向上できるという利点がある。さらに、既存の68Gaなどの他の核種向けに開発されたDOTAを含んだ薬剤を、89Zrのキレート剤として転用できるので、89Zrを標識する薬剤の開発において低コスト化を実現できる。
ところが、上述したDOTAと89Zrとの結合は、非常に困難であるという問題があった。具体的に、非特許文献2に記載されているように、89Zrとキレート剤とを結合させる従来の方法に沿って89ZrとDOTAとを結合させるには、反応温度を90℃以上、好ましくは95℃以上、反応時間を1時間とし、DOTAの濃度を10-4mol/L以上にする必要があった。本発明者が上述した条件に従って89ZrとDOTAとを反応させた場合の放射化学的収率について検証を行ったところ、非特許文献2に記載された方法に従って実験を行っても、結果の再現性が低く、放射化学的収率が低い場合が生じることが分かった。また、89Zrを医用イメージングに使用する場合、89Zrに対して10-5mol/L程度の濃度のDOTAであっても結合可能であることが望ましい。ところが、この条件において本発明者が放射化学的収率について検証を行ったところ、放射化学的収率は略0%になるという問題もあった。本発明者が実験を行ったところ、放射化学的収率が略0%になる原因は、89Zrの大半がマイクロチューブなどの反応容器に付着することであることが確認された。本発明者は、この点について検討を行い、89Zrが水酸化ジルコニウムとして沈殿して反応容器に付着していると想定した。
以上の89ZrとDOTAとの反応に関する問題点および原因について、本発明者は種々検討を行ったところ、89ZrとDOTAの錯形成反応において高い放射化学的収率を得るためには、反応速度を増加させるか、89Zrの水酸化物の形成を抑制する必要があることを想到した。そこで本発明者は、反応速度の増加および水酸化物の形成の抑制について、種々実験を行い、鋭意検討を行った。すなわち、本発明者は、89Zr以外の不純物として例えば鉄イオン(Fe3+)、チタンイオン(Ti4+)、およびイットリウムイオン(Y3+)などの金属イオンを、10-2mol/Lの濃度のDOTAと等モル濃度になるように混合して反応させる実験を行った。その結果、表1に示すように、89Zrの結合率、すなわち放射化学的収率が10%~32%程度にまで低下することが判明した。すなわち、DOTAはZrよりも他の金属イオンと優先的に反応し、反応後は他の金属イオンとZrとが交換しないことが分かる。そのため、本反応において不純物となる金属イオンを除去することが好ましい。具体的には、89ZrとDOTAとの反応において使用される緩衝液や有機溶媒において、例えばイミノ2酢酸塩イオンを含有するスチレンジビニルベンゼン共重合体などの金属除去剤などによって、不純物となる金属を除去することが好ましい。なお、特許文献1に記載の方法を採用することによって、89Zrの精製溶液の純度を向上させてもよい。
また、本発明者が、以下の化学式(200)に示すジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して、89ZrとDOTAとを反応させたところ、反応時間が従来の1時間に対して半分の30分程度であり、放射化学的収率も95%にまで向上することが確認された。さらに、89Zrが水酸化ジルコニウムとなって反応容器に付着する現象もほとんど認められなかった。
本発明者の検討によれば、DOTAと89Zrとの混合溶液においては、まず、以下の反応式(301a),(301b)の左辺に示す反応中間錯体が生成される。続いて、この反応中間錯体が加熱されることによって、化学式(301a)の右辺に示すDOTA-89Zrに変化すると考えられる。一方、Zrイオンは、水分子や水酸化物イオンとも強力に結合することから、加熱によって反応中間錯体から89Zrが水和水とともに分裂して、化学式(301b)の右辺に示す水酸化ジルコニウムに変化することも想定される。従来の反応条件に基づいた低収率の要因は、化学式(301b)のように反応した水酸化ジルコニウムが反応容器などに付着して反応不活性になることであると考えられる。
一方、DMSOのような高極性物質を添加すると、反応中間錯体において89Zrへの配位は有機溶媒と水で競合すると考えられる。十分に高極性有機溶媒濃度が高い場合、以下の反応式(302)に示すような配位構造をとることが予想される。この場合、水が配位した場合とは異なり、このように生成された反応中間錯体は、水酸化ジルコニウムを作る反応が生じ得ないため、大部分の89ZrがDOTA-89Zrとして生成されると考えられる。
本発明者は、上述した鋭意検討に基づいてさらに検討を進めた。まず、本発明者は、有機溶媒をより効率的に除去する方法について検討を行った。すなわち、上述したDMSOなどのいわゆる高極性有機溶媒は、沸点が189℃程度と高いことから、エバポレーションによる溶媒の除去は極めて困難である。高極性有機溶媒は、一般に沸点が高いことが多く、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide)の沸点は153℃、N-メチルピロリドン(N-methylpyrrolidone)の沸点は202℃である。このような高極性有機溶媒を用いる場合には、その溶媒の除去が問題になることが多い。そこで、本発明者は、C18カラムなどを用いた固相抽出法による有機溶媒の除去についても検討を行った。ところが、高濃度の有機溶媒は、キレート剤および薬剤複合体の配位子(リガンド)と固相の疎水性相互作用を阻害してカラムへの保持を妨げるため、固相抽出法により有機溶媒を分離することは困難であった。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用いることによって、高極性有機溶媒を除去可能であるが、専用の装置が必要になるのみならず、分離にも時間を要するという問題があった。
また、本発明者は、高極性有機溶媒以外の有機溶媒について種々実験および検討を行い、89ZrとDOTAとの反応において、中程度の極性の水混和性を有する有機溶媒を用いる方法を案出した。中程度の極性を有する有機溶媒は、一般に低沸点であり、エバポレーションによって容易に除去可能である。さらに、本発明者は、実験から、有機溶媒の濃度としては40~90体積%、反応温度としては80℃以上が好ましいことを知見した。これにより、上述したDMSOと同等の反応性が得られる。また、本発明者は、中程度の極性の水混和性を有する有機溶媒としては、メタノール(CH3OH)やメタノール(C25OH)などが好ましいことを知見した。
すなわち、本発明者はまず、水中でのDOTAとジルコニウムイオンとの錯体の収率が低い要因について検討を行った。上述したように、DOTAと金属イオンとの反応においては、反応式(301a),(301b)の左辺に示す構造の中間状態錯体をとる。中間状態錯体は、環状アミンのうちの対角線上の2つがプロトン化され、4つのカルボン酸が金属に配位し、かつ金属には複数個の水分子が配位している錯体である。その上で、加熱によってアミン上のプロトンと金属イオンに配位した水とを脱離させることによって、反応式(301a)の右辺に示すように、89ZrがDOTAに結合される。しかしながら、89Zrは水酸化物を生成しやすいことから、89ZrがDOTAから脱離して、反応式(301b)に示すような反応によって水酸化ジルコニウムになりやすく、放射化学的収率が低下すると考えられる。
その上で、本発明者は、有機溶媒と水とを混合させた混合溶媒によって、Zrの収率が向上する要因を検討した。上述したように、本発明者は、中間状態錯体においてジルコニウムに配位した水分子が錯体を形成する反応を妨げると予想した。そこで、本発明者は、以下の反応式(302a)に示すように、水分子の配位を有機溶媒Lの配位に置換することにより、反応式(302b)に示す水酸化ジルコニウムの生成が抑制されて、収率を増加できると考えた。これにより、本発明者は、ジルコニウムの合成において、反応溶液に有機溶媒を混合させる方法を想到した。
(Lは、有機溶媒)
以上の検討に基づいて、本発明者は、種々の有機溶媒について検討を行った。すなわち、本発明者は、種々の有機溶媒において濃度を50体積%とし、この溶液中にDOTAおよび放射性ジルコニウムを、反応温度を100℃、反応時間を30分として反応させた場合の収率を比較した。その結果、有機溶媒の種類によって収率が大きく変化することが見出された。さらに、極性の高い有機溶媒ほど収率が高い傾向になることが確認された。そこで、本発明者は、ジルコニウムとの親和性が強い有機溶媒ほどジルコニウムの水和を妨害しやすいため、水酸化ジルコニウムの生成が抑制されると予想した。一方で、低程度の極性を有する有機溶媒の場合、高極性のものと比べるとジルコニウムとの親和性が劣るためジルコニウムの水和の妨害効果が薄く、収率も劣るとも予想された。双極子モーメントが3.0D以上のDMSOやDMF、NMPなどの高極性有機溶媒において特に良好な放射化学的収率が得られたが、双極子モーメントが3.0D未満の中程度の極性の有機物質(以下、中極性有機溶媒)、例えばメタノールやエタノールなどの水混和性を有する程度の中極性有機溶媒であっても比較的良好な放射化学的収率が得られることが見出された。
また、本発明者は、中極性有機溶媒のジルコニウムへの低親和性を濃度で補償する方法について検討した。すなわち、中極性有機溶媒を高濃度で用いる方法について検討を行った。図5は、中極性有機溶媒濃度と収率の関係を示すグラフである。図5に示すように、有機溶媒濃度を高濃度とすることによって収率が向上することが確認され、メタノール、エタノールともに60体積%で収率が最大になった。このように中極性有機溶媒の濃度を最適化することで収率を向上可能なことが示された。
さらに、本発明者は、種々実験を行って、89Zrの精製方法によってDOTA-89Zrの放射化学的収率が変化することを見出した。具体的には、非特許文献1,2に記載された精製方法によって調整した89Zr溶液を用いた場合においては収率が極めて低かった。これに対し、特許文献2に記載の方法によって精製した89Zr溶液を用いた場合においては収率が高いことを知見した。
そこで、本発明者が収率の差について鋭意検討を行ったところ、精製された89Zr溶液に含まれるシュウ酸濃度が要因であることを見出した。89Zrは、まず、ヒドロキサム酸樹脂を用いてシュウ酸溶液として粗精製され、その後に陰イオン交換樹脂を用いて塩酸溶液に置換される。非特許文献1、2に記載の方法では、89Zrを吸着させた陰イオン交換樹脂を純水で洗浄した後、濃度が1mol/Lの塩酸で89Zrを溶出している。しかしながら、発明者らが行った分析によると、特許文献1,2に記載の方法によって溶出した89Zr溶液には、10-3mol/Lオーダーのシュウ酸が溶存している。一方、特許文献2に記載の方法では、89Zrを溶出させる前に陰イオン交換樹脂を希塩酸で洗浄していることにより、シュウ酸濃度を低減でき、具体的には、溶存シュウ酸濃度を10-6mol/Lオーダーまで低減できることが確認された。
続いて、本発明者は、シュウ酸濃度が放射化学的収率に及ぼす影響について検討を行った。なお、薬剤としては、DOTAおよびDOTA含有PETプローブ(例えば商品名がPSMA-617)を用いた。精製された89Zr溶液としては、特許文献2に記載の方法を用いて調製し、さらにシュウ酸を添加することによってシュウ酸濃度を調整した。結果を図1および図2に示す。図1は、シュウ酸がDOTA-89Zrの放射化学的収率に及ぼす影響をシュウ酸濃度に応じて示したグラフであり、図2は、シュウ酸が89Zr-DOTA含有PETプローブの放射化学的収率に及ぼす影響をシュウ酸濃度に応じて示したグラフである。
図1および図2から、本発明者は、シュウ酸濃度において好ましいシュウ酸濃度が存在することを知見した。すなわち、本発明者は、薬剤や溶媒にも依存するが、シュウ酸濃度としては、典型的には、10-5mol/L以上10-4mol/L未満、好適には、10-5mol/L以上5×10-5mol/L以下が好ましいことを知見した。なお、本発明者の検討によれば、シュウ酸を添加しない条件の場合においては、89Zrが容器に固着しやすくなることから、シュウ酸濃度が低い場合には、水酸化ジルコニウムが生成されやすいと想定される。一方、シュウ酸濃度が高い場合には、89Zrの容器への付着はほとんど発生しないが、反応率が低下することも知見した。この理由は、シュウ酸と89Zrとが錯体を形成し、水酸化物の生成が抑制されるものの、DOTAなどの薬剤との錯体形成を阻害するためであると考えられる。したがって、水酸化物の生成を抑制しつつDOTAとの反応を阻害しないシュウ酸濃度が好ましく、このシュウ酸濃度の範囲が上述した10-5mol/L以上10-4mol/L未満、好適には10-5mol/L以上5×10-5mol/L以下であると考えられる。
また、DMSOやDMFなどの高極性有機物質の場合においては、放射化学的収率のシュウ酸濃度依存性は低いものの、メタノール(MeOH)やエタノール(EtOH)などの中極性の有機物質の場合には、シュウ酸濃度依存性が大きい。さらに、高極性物質に比して中極性物質においては、好ましいシュウ酸濃度は比較的高い濃度である。この理由としては、高極性物質がシュウ酸と同様に89Zrに配位し、水酸化物化を抑制しているためであると考えられる。すなわち、反応溶液中のシュウ酸濃度を制御することによっても、中極性有機溶媒を用いて放射性ジルコニウムとDOTAとを高収率で反応させることができることが確認された。
このような効果はジルコニウム結合性の有機物質(クエン酸やアスコルビン酸など)で同じく得られる可能性がある。また適切な濃度範囲は物質ごとに異なると思われる。また上述した有機溶媒濃度の依存性の実験においては、シュウ酸は10-6~10-5mol/L程度存在していたと想定される。
従来、DOTAと金属イオンとの錯体形成反応は、DOTAの環状3級アミンの脱プロトン化が律速しているとされてきた。すなわち、環状3級アミンがプロトン化した状態では、化学式(302),(302a),(302b)の左辺に示す中間錯体までは形成できても、右辺に示す最終生成物に至れない。そのため、環状3級アミンの脱プロトン反応が錯体化反応を律速している。このメカニズムを想定すると、アミンのpKaが低下することによって、放射性ジルコニウムDOTA錯体の収率が向上すると考えられる。ここで、一般に、有機溶媒は水よりも極性が低いことから、有機化合物のイオン化、すなわちアミノ基のプロトン化またはカルボン酸の脱プロトン化を抑制する効果がある。そのため、反応中間錯体のプロトン化されたアミノ基の酸解離定数pKaを低下させて、目的とする錯体に変化させる反応を促進する可能性がある。すなわち、本発明者は、89Zrが水和するとDOTAとの反応よりも水酸化ジルコニウムの生成が優先するとの仮説から、高極性の有機溶媒は水に優先してジルコニウムに配位し、水和を抑制するため収率を向上できると想定した。一方で、本発明者はさらに、中極性有機溶媒は、ジルコニウムに配位する能力は低い一方、濃度を高くすることによって、水に優先してジルコニウムに配位でき、水和を抑制するために、収率を向上できることを見出した。さらに、シュウ酸のようなジルコニウムに配位する能力の強い物質を微量添加することによって、目的錯体の収率が向上する事実も、ジルコニウムの水和阻害がDOTAと放射性ジルコニウムとの反応の促進に貢献していることを示すと考えられる。以下に説明する本発明およびその一実施形態は、本発明者による以上の鋭意検討によって案出されたものである。
また、上述したDOTAの代替として、以下の一般式(2)で示すNOTAのような3員環などを用いてもよい。すなわち、上述した本発明者による鋭意検討は、DOTAをNOTAに置き換えても同様に議論できる。
一般式(2)において、R21,R22,R23はそれぞれ、水素(-H)(この場合、R24~R29のうちでさらに接続するものは存在しないとする)、-CH-基、-(CH2nCH-基、-(=O)(CH2n H-基、または-(CH2n (=O)N-基である。nは0以上の整数である。R24,R25,R26,R27,R28,R29,R30,R31,R32,R33,R34,R35 はそれぞれ、一般式(4)~(26)で表される構造から選択され、前記一般式(16)~(21)、および(26)のRは、化学式(27)~(47)で表される構造から選択される。R24~R35に含まれる官能基には、PETプローブ、またはPETプローブを結合させやすくする官能基が付加されていてもよい。結合させやすくする官能基とは下記の官能基である。カルボン酸、カルボン酸スクシンイミドエステル、カルボン酸テトラフルオロフェノールエステル、アルコール、アミン、チオール、イソチオシアネート、マレイミド、フェノール、アニリン、安息香酸、フェニルイソチオシアネート、またはクリックケミストリー試薬である、アルキン、アジド、DBCO、BCN、TCO、ノルボルネン、テトラジン、もしくはメチルテトラジンである。R24~R35は、結合させやすくする官能基の構造、またはPETプローブと結合させやすくする官能基との縮合済みの構造があってもよい。
また、上述した官能基からエステル結合、アミド結合などを介してさらに別の化合物が結合していたり、アルキル鎖から別化合物を保持するための分岐があったりしてもよい。具体的には、スクシンイミド、イソチオシアネート、アミン、チオール、カルボン酸などの架橋形成性の官能基や、アジド、アルケン、アルキン、テトラジンなどのクリックケミストリーを志向した官能基などが挙げられる。さらに、これらの架橋形成性の官能基を介して分子イメージングに用いる薬剤が結合されていてもよい。
また、R21~R23はそれぞれ、以下の一般式(3)で表される構造を採用してもよく、具体的には化学式(3-1)~(3-4)で表された構造から選択されたものを採用できる。なお、化学式(3-2)~(3-4)におけるnは、0以上の整数である。
24からR29はそれぞれ、以下の一般式(4)~(21)で表される構造から選択されたものを採用できる。なお、一般式(4)~(21)におけるnは、0以上の整数である。R5~R20はそれぞれ、以下の一般式(22)~(26)で表される構造から選択されたものを採用できる。なお、一般式(22)~(26)で表される構造は、金属イオンと錯体を形成しないか、または形成しにくい構造である。また、一般式(2)におけるR24~R35のいずれかが、化学式(16)~(21)、および(26)の群から選ばれた少なくとも1つの構造を経由して、分子プローブを結合または分子プローブにリンカーを結合させたものであってもよい。
また、NOTAまたはNOTAの誘導体と、分子イメージング実験の対象となる抗体、タンパク質、ペプチド、または低分子有機化合物などの薬剤との複合体も用いることができる。タンパク質やペプチドは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、または天然アミノ酸と非天然アミノ酸との両方から構成され、直鎖構造または環状構造を有するものを採用できる。具体的に、NOTAの構造中のカルボン酸の1つをアミド化して薬剤と架橋させる方法や、NOTAの構造中の環状アルキル鎖から架橋させたものなどで得られる物質も知られている。NOTAと薬剤との間に、例えば、ポリエチレングリコールなどの適切なリンカーを介して結合させる場合もある。具体的には、抗体のような高分子医薬品やPSMA-617のような低分子医薬品にも利用されている。リンカーは、典型的には、ポリエチレングリコール、アルキル鎖、もしくはピペラジン、またはポリエチレングリコール、アルキル鎖、もしくはピペラジンの複合体であるが、必ずしもこれに限定されない。本発明において、結合の対象となる物質はNOTAに限定されず、その誘導体や薬剤との複合体も含む。すなわち、上述した一般式(16)~(21)、および(26)のそれぞれにおいてRは、以下の化学式(27)~(47)で表される構造から選択されたものを採用できる。Rに薬剤を結合させてからNOTA構造に89Zrを錯形成させてもよく、89Zrを錯形成させてからRに薬剤を結合させてもよい。
また、上述した一般式(1),(2)において、一般式(1)におけるR5~R20のいずれか、一般式(2)におけるR24~R35のうちいずれかが、以下の化学式(61)~(64)で表される構造の分子プローブ、または分子プローブに以下の化学式(71)~(74)で表される構造のリンカーを結合させたものとしてもよい。
一般式(1)で表されるDOTAについては、以下の反応式(1-1)~(1-13)のように反応させた構造を採用することも可能である。反応式(1-1)~(1-13)においては、左から順に、DOTA誘導体、結合させたい物質(矢印の上に記載)、縮合後の構造となっている。なお、反応式(1-11)~(1-13)については、クリックケミストリーを志向した結合方法である。
一般式(2)で表されるNOTAについては、以下の反応式(2-1)~(2-13)のように反応させた構造を採用することも可能である。反応式(2-1)~(2-13)においては、左から順に、NOTA誘導体、結合させたい物質(矢印の上に記載)、縮合後の構造となっている。なお、反応式(2-11)~(2-13)については、クリックケミストリーを志向した結合方法である。
(実施形態)
次に、本発明の一実施形態によるジルコニウム錯体の合成方法について説明する。図3は、この一実施形態によるジルコニウムとDOTAとの反応を行うための具体的な方法の一例を示す図である。
図3に示すように、まず、反応容器であるマイクロチューブに、所定濃度のキレート剤溶液としてDOTAを含む化合物が溶解されたDOTA溶液を導入する。ここで、キレート剤としてのDOTAは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸を用いた。DOTA溶液の濃度は、10-7mol/L以上10-4mol/L未満である。本実施形態においてDOTA溶液の最終濃度は例えば10-5mol/Lであり、導入量は例えば、10-2mol/Lの濃度の溶液で1μLである。次に、マイクロチューブ内に、略中性の緩衝溶液を導入する。最終緩衝溶液としては例えば、濃度が0.25mol/L程度でpHが7.0のHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)が用いられる。導入量は例えば、濃度が0.5mol/Lの溶液で449μLである。なお、本実施形態において用いられる緩衝溶液は、金属除去剤によって、89Zr以外の不純物となる金属イオンがあらかじめ除去された緩衝溶液である。これにより、最終的に混合される反応溶液中に不純物となるFe3+、Ti4+、Y3+などの金属イオンが混入する可能性を低減できる。
次に、水混和性を有する有機物質を含む有機溶媒を、マイクロチューブに導入する。具体的に、本実施形態においては、有機物質として例えばメタノールまたはエタノールを含む有機溶媒を用いる。ここで、メタノールまたはエタノールを含む有機溶媒の濃度とジルコニウム放射化学的収率との関係について説明する。図5は、ジルコニウムの放射化学的収率のメタノールおよびエタノールを含む有機溶媒の濃度依存性を示すグラフである。
図5から、有機溶媒濃度を0体積%より大きく1体積%以上にすることによって、有機溶媒を混入させていない場合に比して、放射化学的収率を向上させることができる。また、図5から、89Zrの放射化学的収率がピークになるのは、濃度が60体積%の場合であることが分かる。また、図5から、89Zrの放射化学的収率を例えば50%以上にするためには、有機溶媒をメタノールとした場合に20体積%以上、エタノールとした場合に40体積%以上にするのが好ましいことが分かる。さらに、図5に基づいて、89Zrにおける必要とする放射化学的収率に応じて、有機溶媒における有機物質の濃度を選定することができる。すなわち、有機溶媒における水混和性を有する有機物質の濃度は、放射化学的収率を向上させる効果が得られる観点から、40体積%以上が好ましく、50体積%以上がより好ましい。一方、有機物質が95体積%を超えると、反応速度が低下するため、有機物質の濃度は95体積%以下が望ましく、放射化学的収率を考慮すると、80体積%以下がより好ましく、70体積%以下がさらに好ましい。有機溶媒の導入量は例えば、最終濃度が60体積%の有機溶媒で600μLである。以上のDOTA溶液、緩衝溶液、および有機溶媒をマイクロチューブに導入する順序は、上述した順序に限定されず、種々の順序で導入することが可能である。
DOTA溶液、緩衝溶液、および有機溶媒をマイクロチューブに導入した後、マイクロチューブ内の反応溶液に、89Zrを含有した酸性溶液(89Zr含有酸性溶液)を導入することによって、マイクロチューブ内で混合溶液を生成する。ここで、本実施形態において酸性溶液は、強酸の溶液が好ましく、具体的には塩酸(HCl)が好ましい。しかしながら、酸性溶液は塩酸などの強酸溶液に必ずしも限定されない。89Zrを含有した酸性溶液の導入量は、例えば50μLである。
また、精製方法にもよるが、89Zr含有酸性溶液には微量のシュウ酸が残留している可能性がある。この場合、残留したシュウ酸の濃度を制御することによって、さらに収率を向上させることが可能である。具体的に例えば、89Zr含有酸性溶液のシュウ酸濃度に応じて、HEPES緩衝液および有機溶媒の混合溶液などの反応溶媒との混合比を調整する方法や、シュウ酸溶液を添加する方法などを挙げることができる。
図6および図7はそれぞれ、ジルコニウム錯体の生成における、沈殿物の生成率、放射化学的純度、および放射化学的収率における、メタノール濃度依存性およびエタノール濃度依存性を示すグラフである。すなわち、水混和性を有する有機物質としてメタノールを用いる場合、図6に示すグラフに基づいて、有機溶媒のメタノール濃度を選定することができる。また、水混和性を有する有機物質としてエタノールを用いる場合、図7に示すグラフに基づいて、有機溶媒のエタノール濃度を選定することができる。これらの場合、有機溶媒における有機物質濃度は、マイクロチューブなどに付着する沈殿物が所望とする生成率以下になる濃度や、放射化学的純度が所望とする放射化学的純度が得られる濃度を選択できる。
図3に戻り、マイクロチューブ内において、DOTA溶液、緩衝溶液、有機溶媒、および89Zr含有酸性溶液を混合させた後、所定温度で加熱して所定時間維持する。これによって、DOTAと89Zrとが反応する。なお、本実施形態においては、89Zr含有酸性溶液は、混合溶液の加熱の直前にマイクロチューブに導入することが好ましい。これは、89Zrは、中性条件および室温中で放置すると、水酸化物化が進行して、DOTAとの反応が不活性になるためである。なお、水酸化ジルコニウムは安定な化合物であり、後に温度を上昇させたとしても89ZrとDOTAとの反応は進行しない。そのため、89Zrを添加した後は速やかに所定温度まで加熱し、DOTAと速やかに反応させることが好ましい。なお、89ZrがDOTAと錯形成した後は、89Zrは水酸化物化することはない。
本実施形態においては、所定温度は35℃以上が好ましく、DOTAに結合している物質が高温に耐えられる物質であれば、例えば70℃以上でもよく、具体的には例えば80℃である。なお、加熱温度を80℃以上とした場合、例えばメタノールの沸点は68℃であることから、有機溶媒に含まれる有機物質の沸点を超える温度になる可能性がある。この場合、マイクロチューブとしては、スクリューキャップ付きのマイクロチューブなどの密封性の高い容器を用いることが好ましい。また、所定時間は例えば30分程度である。これにより、89ZrとDOTAとの以下の反応式(401)に従った反応が終了して、89ZrにDOTAが結合したジルコニウム錯体が得られる。
89Zrを含有した酸性溶液は強酸性であり、反応容器に加えるとpHが大きく変化する可能性がある。そのため、高濃度の緩衝液を用いて、マイクロチューブに89Zr含有酸性溶液を添加した後であっても、pHの範囲が所望の範囲に収まるように調整する必要がある。すなわち、89Zr含有酸性溶液を添加した後には、pH計やpH試験紙などを用いてpHを確認するのが好ましい。マイクロチューブに89Zr含有酸性溶液を添加した後に塩基性溶液を加えると、短時間で89Zrが水酸化物化してDOTAとの反応が不活性になる可能性があるため、塩基性溶液を用いた中和の作業は避けることが好ましい。ここで、pHの範囲としては、4以上9以下が好ましく、5以上9以下がより好ましく、6以上8以下がさらに好ましい。
また、DOTAと89Zrとの錯形成反応後、必要に応じて、事後処理が行われる。例えば、有機溶媒や緩衝液を除去して、生理食塩水やエタノール・生理食塩水混合溶液に置換したりする。この場合、有機物質としてメタノールやエタノールなどを用いていることにより、良好な反応性を示すとともに、蒸発乾固による有機溶媒の除去も容易になる。なお、イオン交換樹脂、C18カラム、またはグラファイトカーボンカラムなどを用いた固相抽出や、液体クロマトグラフィー装置を用いた分取などの方法も考えられ、薬剤ごとに適した方法が採用される。なお、固相抽出を適用する場合においては、エバポレーションによって有機溶媒を極力除去しておくことが望ましい。
(比較例)
以上の実施形態と比較するために、比較例として従来技術によるジルコニウム錯体の合成方法について説明する。図4は、従来技術によるジルコニウムとDOTAとの反応を行うための具体的な方法を示す図である。
図4に示すように、まず、反応容器であるマイクロチューブに、10-4mol/L以上の濃度のDOTA溶液を導入する。次に、マイクロチューブ内に89Zr含有酸性溶液を導入する。次に、マイクロチューブ内に、略中性の緩衝溶液として、pHが7.0のHEPESを導入する。その後、70℃以上の80℃の温度で1時間程度反応させることにより、以下の反応式(402)に従ってDOTAと89Zrとを反応させる。これにより、89ZrにDOTAが結合したジルコニウム錯体が得られる。
比較例によるジルコニウム錯体の合成方法によってジルコニウム錯体を生成した場合、溶解している89Zrの90%以上がマイクロチューブに付着していることが確認された。また、マイクロチューブに付着した89Zrを除いた反応溶液に溶解している89Zrにおいては、95%程度が反応していることが確認された。すなわち、比較例においては、当初の89Zrの量に対して、((1-0.9)×0.95×100=)9.5%程度の放射化学的収率であることが分かる。これに対し、上述した一実施形態によるジルコニウム錯体の合成方法によってジルコニウム錯体を生成した場合、マイクロチューブに付着した89Zrは、溶解している89Zrの9%程度であることが確認された。さらに、マイクロチューブに付着した89Zrを除いた反応溶液に溶解している89Zrにおいては、92%程度が反応していることが確認された。すなわち、当初の89Zrの量に対しては、((1-0.09)×0.92×100=)83.7%程度の放射化学的収率となり、比較例に比して8.8倍程度の放射化学的収率を確保できることが分かる。また、短い反応時間で、低濃度のDOTAであっても反応が進行することが分かる。
以上説明したように、本発明の一実施形態によれば、10-7~10-4mol/L程度の低濃度のDOTAであっても、89Zrと90%以上の高い反応率で反応させてジルコニウム錯体を合成することができる。
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値や材料はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値や材料を用いてもよく、本発明は、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により限定されることはない。
例えば、上述の一実施形態においては、酸性溶液として塩酸(HCl)を用いているが、その他の酸性溶液を用いることも可能である。また、上述の一実施形態においては、水混和性を有する有機物質として、メタノールやエタノールを用いているが、必ずしもメタノールやエタノールに限定されるものではなく、各種のアルコール類などの水混和性を有する種々の有機物質の水溶液を用いることが可能である。
本発明に係るジルコニウム錯体の合成方法は、医用イメージングに好適に利用できる。

Claims (7)

  1. メタノールからなる有機溶媒またはエタノールからなる有機溶媒と、
    一般式(1)によって表される構造キレート剤が溶解されたキレート剤溶液と、
    塩酸に溶解されたジルコニウムと、
    を混合した混合溶液を、35℃以上にすることによりジルコニウム錯体を合成するジルコニウム錯体の合成方法であって、
    前記有機溶媒がメタノールの場合、前記混合溶液に対する前記メタノールの濃度は20体積%以上95体積%以下であり、
    前記有機溶媒がエタノールの場合、前記混合溶液に対する前記エタノールの濃度は40体積%以上95体積%以下である
    ことを特徴とするジルコニウム錯体の合成方法。
    (一般式(1)において、R1,R2,R3,R4はそれぞれ、水素(-H)(この場合、R5~R12のうちでさらに接続するものは存在しないとする)、-CH-基、-(CH2nCH-基、-C(=O)(CH2nCH-基、または-(CH2nC(=O)N-基である。前記nは0以上の整数である。R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,R20はそれぞれ、一般式(4)~(26)で表される構造から選択され、R5~R12のうちの少なくとも2つは、前記一般式(4)~(21)で表される構造から選択され、前記一般式(16)~(21)、および(26)のRは、化学式(27)~(47)で表される構造から選択される
  2. 前記混合溶液に対する前記メタノールまたは前記エタノールの濃度は、80体積%以下である
    ことを特徴とする請求項1に記載のジルコニウム錯体の合成方法。
  3. 前記混合溶液に対する前記メタノールまたは前記エタノールの濃度は、70体積%以下である
    ことを特徴とする請求項1に記載のジルコニウム錯体の合成方法。
  4. 前記混合溶液に対する前記メタノールまたは前記エタノールの濃度は、50体積%以上である
    ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のジルコニウム錯体の合成方法。
  5. 前記混合溶液に対するシュウ酸濃度を10-6mol/L以上10-4mol/L以下に調整する
    ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のジルコニウム錯体の合成方法。
  6. 前記有機溶媒が金属除去剤によって精製された溶媒である
    ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のジルコニウム錯体の合成方法。
  7. 前記塩酸に溶解されたジルコニウムを、前記有機溶媒と前記キレート剤溶液とを混合した溶液に、前記35℃以上に加熱する直前または前記加熱の後に混合させる
    ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のジルコニウム錯体の合成方法。
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